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254 Ⅰ.はじめに 2005年以降,日本国内において「サイエンスカ フェ」と呼ばれる科学・技術に関するテーマを扱った イベントが広がってきた.日本学術会議のウェブペー ジに掲載されている「サイエンスカフェとは?」(1) よると,「科学技術の分野で従来から行われている講 演会,シンポジウムとは異なり,科学の専門家と一般 の人々が,カフェなどの比較的小規模な場所でコー ヒーを飲みながら,科学について気軽に語り合う場を つくろうという試み」である.また,「一般市民と科 学者,研究者を繁ぎ,科学の社会的な理解を深める新 しいコミュニケーションの手法」とも書かれている. ここでいう「一般の人々」や「一般市民」についても う少し詳しく考えていきたい.加納ほか(2013)に よると,日本国内には「科学・技術への低関与層」が 半数近く存在しているにもかかわらず,科学・技術を テーマとするサイエンスカフェへの参加者は,科学・ 技術に高い関心を持っている層がほとんどである.こ のような現象は,他の研究でも報告されている(加納, 2019;Goto et al., 2018).

科学イベントへの参加意向と実際の参加者層の分析

―「サイエンスカフェ」と「サイエンスとアートの融合イベント」との比較―

加 納   圭

水 町 衣 里

一方井 祐 子

† 滋賀大学教育学部 大阪大学社会技術共創 研究センター 東京大学カブリ数物連携 宇宙研究機構 † These authors contributed equally to this work.

Research on Participants and Potential Participants in Science Cafes

and Science and Art Events from the Viewpoint of their Interest in S&T

Kei KANO*

1†

, Eri MIZUMACHI*

2†

, Yuko IKKATAI*

3†

*1Faculty of Education, Shiga University

*2Research Center on Ethical, Legal and Social Issues, Osaka University

*3Kavli-IPMU, The University of Tokyo

The more interested people are in science and technology, the more likely they are to participate in science cafes. Moreover, there has been pointed out a possibility that science and art events could attract a public that is potentially interested or disinterested in science and technology. In this study, we investigated participants in science cafes and science and art events and potential participants who are willing to participate in those events from the viewpoint of interest in science and technology. Our results showed that 1) participants in science and art events consisted of more of a public that is potentially interested or disinterested in science and technology than science cafes, 2) the rate of potential participants are similar between science cafes and science and art events, 3) there is a significant difference in the rate of interested public between participants and potential participants in science cafes. These results suggest that both science and art events and science cafes could attract a public that is potentially interested or disinterested in science and technology at the stage of willing to participate in these events, but there are some barriers for the public potentially interested or disinterested in science and technology to participate in science cafes.

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一方で,アートや茶会と融合させた科学イベントや 親子を対象とした科学ワークショップにおいては,科 学・技術の関心層以外の層をも惹きつけることができ る可能性が示唆されてきた(加納,2019;加納ほか, 2013;奥本ほか,2018).理科離れ防止といった観点 からみても,科学イベントにおいて,科学・技術の関 心層以外へのアプローチは重要であろう.理科離れし ていると考えられる科学・技術への潜在的関心層や低 関心層に出会うことなくして理科離れ防止のための活 動は成立しないからである.もちろん,科学・技術へ の潜在的関心層や低関心層に出会うことが自動的に理 科離れ防止となるわけではなく,科学イベントのコン テンツが科学・技術への潜在的関心層や低関心層の科 学的リテラシー醸成に寄与できるものになっているこ とも重要であろう(加納,2019).また,PISA が定義 する「思慮深い市民として科学的な考えを持って,科 学に関する諸問題に関与する能力」が科学的リテラ シー(OECD, 2016)であると捉えれば,科学・技術へ の潜在的関心層や低関心層が科学的な知識を手に入 れるための場づくりも必要となってくる(Kano et al., 2019). このように科学・技術への潜在的関心層や低関心層 を対象とした科学的リテラシー向上の場の必要性につ いては広く理解されているものの,実際には科学イベ ントにおいて科学・技術への潜在的関心層や低関心層 に出会うことすらままならないという現実があること は本節冒頭で述べた通りである.そこで本研究では, 科学イベントにおいて科学・技術への潜在的関心層や 低関心層が参加するかに特に注目する. 科学イベントの参加に至るまでには,まず参加意向 を持ち,その後に実際に参加するという行動を取るこ とが考えられるため,参加意向の段階と実際に参加す る段階の2つの段階に分けて調査分析を行うこととし た.企業のマーケティング分野では,態度変容プロセ スが,「認知」(認知と理解の段階),「情動」(好意, 選考,確信の段階),「行動」(購買の段階)の3つに 分類されることが知られている(野沢,2003).企業 のマーケティング分野におけるプロダクトの購買を科 学イベントへの参加と捉えなおすと,本研究における 参加意向の段階は「情動」に,実際に参加する段階は 「行動」に相当し,それらの間にギャップが存在する と考えられる.これらマーケティング分野の考え方を 科学コミュニケーション分野に援用し,実際の参加者 に加えて,参加意向者についても調査する点に新規性 がある.その際,先述の通り先行研究において科学・ 技術への潜在的関心層や低関心層の参加がより多くな ることが示唆されていた「サイエンスとアートの融合 イベント」と,科学・技術への潜在的関心層や低関心 層があまり参加しないことがすでに明らかにされてい た「サイエンスカフェ」を比較することとした. これらを踏まえ,本研究において『「サイエンスと アートの融合イベント」及び「サイエンスカフェ」に おいて,参加意向の段階と実際に参加する段階との間 で,科学・技術への関心層以外の人々の割合にどの程 度のギャップがあるのか』というリサーチクエスチョ ンを設定した. Ⅱ.研究の方法 1.参加者調査 本研究において,参加者調査の場として取り上げた 「サイエンスカフェ」と「サイエンスとアートの融合 イベント」について,その概要を表1に記した.いず れのイベントにおいても,筆者らが企画・実施を行った. まず,サイエンスカフェからその詳細を説明する. 2012年から2016年の5年間に開催されたサイエンス カフェ計10回を対象とした(表2).いずれも京都大 学物質―細胞統合システム拠点(iCeMS =アイセム ス)が主催したもので,京都大学 iCeMS 所属の研究 グループがゲストとして登場した.各回のテーマは表 2に示した.会場は京都大学 iCeMS 本館2階にある 交流ラウンジで,各回90分程度のイベントだった.イ ベントの告知情報は京都大学のウェブサイト等で公開 された.京都大学 iCeMS が過去に開催したイベント の参加者へメール告知も行った.これらの情報をみて 事前に申し込みをした人が,当日の参加者である.年 齢や職業などで対象者は限定しなかった.参加費は 500円(お茶・お菓子の実費分のみ)とした. もう1種類の調査対象であるサイエンスとアートの 融合イベントは,2016年6月24日から2016年7月7 日の平日に開催されたものである.サイエンス×アー ト展「imagination 2.0」という名称で開催された.サ イエンスカフェと同様に主催は京都大学 iCeMS で, 同じく京都大学 iCeMS 本館を会場とした.この展示は, 1階の正面玄関の廊下で行われたもので(図1),建 物の玄関を入らずとも,誰でも事前の申込なく参加 (鑑賞)をすることができ(ただし,土日祝日を除く

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9:00∼17:00),参加費は無料だった.対象者も特に限 定しなかった. 本サイエンスとアートの融合イベントでは,京都大 学 iCeMS の研究者から提供された画像や動画を用い た服飾や立体造形物など作品14点が展示されていた. これらの作品は,当時 iCeMS 科学コミュニケーショ ングループ研究支援員・デザイナーの馬場美恵子氏が 制作したものである(図2).京都大学 iCeMS が,物 質科学と細胞科学の融合拠点であることも踏まえ,展 示作品群の基となるサイエンスの領域は物質科学と細 胞科学の両者にまたがるものとした.また,本イベン トの一環として展示制作者による15分程度のミニ トークイベントが6回開催された. 本参加者調査では,サイエンスカフェ及びサイエン スとアートの融合イベントの参加者に対して質問紙調 査を行った.質問紙には,オーストラリア・ヴィクト リア州政府が開発した参加者の科学・技術への関心 の度合いを判定できる質問3問(Victorian Department of Innovation, Industry and Regional Development, 2011; 後藤ほか,2014)を含めた. 具体的には,「Q1.科学・技術に関心があります か?」,「Q2.科学・技術に関する情報を積極的に調 べることはありますか?」,「Q3.過去,科学・技術 に関する情報を調べた際に,探している情報を見つけ ることができましたか?」の3つの質問である.これ 図1 会場全体の様子(左)及び作品展示の様子(右) サイエンスカフェ サイエンスとアートの融合イベント イベントタイトル iCeMS カフェ サイエンス×アート展「imagination 2.0」 主催 京都大学 iCeMS 京都大学 iCeMS 会場 京都大学 iCeMS 京都大学 iCeMS 会場の詳細 本館 2 階交流ラウンジ*建物内に入らないと参加ができない 本館 1 階(正面玄関の廊下)*建物の外からでも鑑賞が可能 実施期間 2012 年 2 月から 2016 年 10 月までの間に,計 10 回 2016 年 6 月 24 日から 7 月 7 日の 14 日間*ただし,土日祝日を除く 9:00-17:00 参加費 500 円(お茶・お菓子の実費分のみ) 無料 事前申込 必須(ウェブフォーム,もしくは,メールを通じて,名前,メールアドレスなどの連絡が必要) 不要 対象 特に制限を設けず 特に制限を設けず 定員 各回定員を設けた(12 名から 24 名程度) 特に定員は設けず 告知方法 ・京都大学iCeMSのウェブサイトに情報を掲載 ・京都大学のウェブサイトに情報を掲載 ・過去のイベント参加者へのメール配信 ・京大記者クラブへのプレスリリース文投げ込み ・回によってはイベント告知記事の新聞掲載 など ・京都大学iCeMSのウェブサイトに情報を掲載 ・京都大学のウェブサイトに情報を掲載 ・過去のイベント参加者へのメール配信 ・京大記者クラブへのプレスリリース文投げ込み ・イベント実施期間中に新聞掲載 など 所要時間 各回 14:00-15:30(90 分) 特になし*期間中 6 回開催したミニトークイベントに関して は,各回 15 分程度 実施内容 主任研究者による話題提供(15 分程度)の後,テーブルに分かれて歓談するという催しだった.各テー ブルは,参加者 3-4 名+若手研究者 1 名. 展示されている服飾や立体造形物など作品 14 点が鑑 賞できるようになっていた.期間中に,展示制作者 によるミニトークイベントが 6 回開催された. 表1 調査対象とした2種類の科学イベント No. 開催年月日 サイエンスカフェタイトル 1 2012年2月18日 究める:幹細胞をつかってしらべる, 病のしくみ 2 2012年2月19日 究める:イメジング技術をつかって しらべる,細胞のなかみ 3 2012年12月8日 iPS 細胞と「研究」とわたし 4 2012年12月9日 iPS 細胞と「倫理と社会」とわたし 5 2013年8月11日 リズムにのる細胞 6 2014年1月11日 生命サイクルを紡ぐ仕掛けを探る 7 2015年8月23日 「記憶」の仕掛けをのぞく 8 2016年1月9日 炭素と水の物語- CO2 再資源化の すゝめ- 9 2016年6月25日 体の中の合図-元気の秘密を観察し, 操る- 10 2016年10月23日 無限の可能性を保つ-暴れん坊細胞 を躾ける- 表2 開催したサイエンスカフェのリスト

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ら質問への回答の組み合わせで,人々を「科学・技術 への関心層」,「科学・技術への潜在的関心層」,「科 学・技術への低関心層」に分けることができる(加納, 2019;加納,2016).16歳以上を対象に,2013年12月 に実施された世論調査の結果から,関心層,潜在的関 心層,低関心層はそれぞれ16.1%,61.4%,22.6%で あることが明らかにされている(加納,2016).質問 紙は日本語と英語を用意した. 2.参加意向調査 2017年3月27日から2017年3月28日にかけて,日 本の人口動態に合わせて割り付けた999名(表3)を 対象に,インターネット質問紙調査を行った. 質問として,回答者を科学・技術への関心層,潜在 的関心層,低関心層に分けるための3つの質問を用い た.また,サイエンスカフェへの参加意向及びサイエ ンスとアートの融合イベントへの参加意向を5件法で 尋ねた.その際,サイエンスとアートの融合イベント に関しては以下のような補足を行った. 『次の文章は過去に開催された,ある科学のイベン トについての情報です.まずは下記情報をお読みくだ さい. 「京都大学 物質−細胞統合システム拠点(iCeMS = アイセムス)は,2016年6月24日(金)から2016年 7月7日(木)までの2週間,サイエンス×アート展 「imagination 2.0」を開催しています.iCeMS で日々行 われている科学研究の現場で生まれた画像(細胞の顕 微鏡写真など)を用いたドレスや造形物などのアート 作品を,iCeMS 本館の正面玄関横にある大きな窓(幅 10 m)をショーウィンドウに見立て,展示するとい うものです.iCeMS 本館前には,京都市バス「京大正 門前」のバス停があります.バスを待つ方々にも, ゆっくり展示を楽しんでいただけるように,展示期間 中は,iCeMS 本館の玄関ピロティ(約50 m2)に,テー ブルやイスをご用意してみなさまをお待ちします.ま た,展示制作者によるミニトークも開催しています. 科学研究が生まれる現場,デザインやアート作品が生 まれる現場,そのどちらにも「想像力」が関わってい ます.新たな「想像」が生まれるきっかけになること を願って,この展示会を企画しました.ぜひ足をお運 びください.」 あなたは,上記と同様のイベントが,あなたの住んで いる地域にある国立大学で開催されるとしたら行って みたいと思いますか? ※住んでいる地域に国立大学がない場合も,あるとし たら行ってみたいと思うかお答えください.』 Ⅲ.結果 1.参加者調査結果 サイエンスカフェへの参加者は,10回分の総計で 168名であった(2).質問紙調査を実施し,156名から回 図2 作品例 上図左:分子結晶の画像を用いた靴 上図右:RNA の画像を用いたバッグ 下図左:神経細胞の画像を用いたドレス 下図右:ハエの翅の画像からイメージしたドレス 属性 男性 女性 年齢(歳) 平均SD 48.1 17.1 48.8 16.8 居住地方(人) 北海道 25 27 東北 37 40 関東 158 162 中部 87 90 近畿 75 82 中国 30 33 四国 19 21 九州 52 61 表3 回答者の属性

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答を得た(回収率92.9%).なお,23名は質問紙への 回答に欠損があり,どの科学・技術への関心層かを特 定できなかった.各回参加者の科学・技術への関心層, 科学・技術への潜在的関心層,科学・技術への低関心 層の割合を図3に示した.各回参加者と科学・技術へ の関心の程度の間に有意な差があるかを明らかにする ためにフィッシャーの直接確率検定を行った.その結 果,10回のサイエンスカフェ群間において,5%水 準で有意差がみられなかった. 図3 サイエンスカフェ各回の科学・技術への関心層・潜在 的関心層・低関心層の割合 また,サイエンスカフェ参加者全体では科学・技術 への関心層:112名(84.2%),科学・技術への潜在的 関心層:21名(15.8%),科学・技術への低関心層: 0名であった(図4). 次に,サイエンスとアートの融合イベント『サイエ ンス×アート展「imagination 2.0」』の来場者数は729 名であった(3).来場者へ対面式で質問紙調査を実施 し(4),308名から回答を得た(回収率42.2%).回収数 は6月30日(木)の94枚がもっとも多かった(平均 ± SD =30.8±27.2,表4). なお,5名は質問紙への回答に欠損があり,どの科 学・技術への関心層かを特定できなかった.参加者の 科学・技術への関心については,科学・技術への関心 層:156名(51.5%),科学・技術への潜在的関心層: 131 名(43.2 %), 科 学・ 技 術 へ の 低 関 心 層:16 名 (5.3%)であった(図4). サイエンスとアートの融合イベントとサイエンスカ フェの参加者の2群の間で,科学・技術への関心の程 度に有意な差があるかを明らかにするために,フィッ シャーの直接確率検定を行った.その結果,サイエン スとアートの融合イベントとサイエンスカフェの2群 間での差は1%水準で有意だった. 2.参加意向調査結果 サイエンスカフェへの参加意向者(とても参加して みたい,参加してみたいと回答した人の合算)は333 名(33.3%),参加意向をもたない者(参加してみた くない,全く参加してみたくないと回答した人の合 算)は307名(30.7%),参加してみたいとも参加して みたくないとも言えないと回答した者が359名(35.9%) であった.また,サイエンスとアートの融合イベント への参加意向者は322名(32.2%),参加意向をもたな い者(参加してみたくない,全く参加してみたくない と回答した人の合算)は320名(32.0%),参加してみ たいとも参加してみたくないとも言えないと回答した 者が357名(35.7%)であった. 参加意向者の科学・技術への関心層,潜在的関心層, 低関心層の内訳は,図5の通りである.サイエンスと 図4 サイエンスとアートの融合イベント,サイエンスカ フェへの参加者層 日時 曜日 枚数 6月24日 (金) 4 6月27日 (月) 11 6月28日 (火) 6 6月29日 (水) 19 6月30日 (木) 94 7月1日 (金) 44 7月4日 (月) 37 7月5日 (火) 16 7月6日 (水) 27 7月7日 (木) 50 表4 質問紙の回収数

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アートの融合イベントとサイエンスカフェの参加者の 2群と参加意向の程度の間に有意な差があるかを明ら かにするために,フィッシャーの直接確率検定を実施 した.その結果,サイエンスとアートの融合イベント とサイエンスカフェの2群間において,5%水準で有 意差がみられなかった. 図5 サイエンスとアートの融合イベント,サイエンスカ フェの参加意向者層 サイエンスとアートの融合イベントとサイエンスカ フェのそれぞれにおいて,実際の参加者群と参加意向 者群の2群と科学・技術への関心の程度(関心層・潜 在的関心層・低関心層)の割合との間に有意な差があ るかを明らかにするために,フィッシャーの直接確率 検定を行った.その結果,サイエンスカフェの場合, 科学・技術への関心層・潜在的関心層・低関心層の割 合において,実際の参加者群と参加意向者群の間に1% 水準で有意な差がみられた.一方で,サイエンスとアー トとの融合イベントの場合,科学・技術への関心層・潜 在的関心層・低関心層の割合において2群間で有意な 差がみられないことが分かった.以上のことから,サ イエンスとアートの融合イベントにおいて参加意向と 実際の参加との間にギャップがみられず,サイエンス カフェにはギャップがみられることが明らかにされた. Ⅳ.考察 本研究におけるリサーチクエスチョンは,『「サイエ ンスとアートの融合イベント」及び「サイエンスカ フェ」において,参加意向の段階と実際に参加する段 階との間で,科学・技術への関心層以外の人々の割合 にどの程度のギャップがあるのか』であった.本節で は,参加者の科学・技術への関心層別割合,参加意向 者の科学・技術への関心層別割合について考察を行っ た後に,本リサーチクエスチョンに関して考察を行っ ていく. 1.参加者の科学・技術への関心層別割合 本研究では,同じ主催者が同じ場所で行ったサイエ ンスカフェとサイエンスとアートの融合イベントにお ける参加者層を,参加者の科学・技術への関心に注目 して調査した.まず,サイエンスカフェへの参加者は, テーマによらず科学・技術への関心層の割合が高いこ とが明らかになった(図3).このことは先行研究結 果(加納ほか,2013)と矛盾しない.次に,サイエ ンスとアートの融合イベントへの参加者は,サイエン スカフェへの参加者に比べて科学・技術への関心層の 割合が低いことが明らかとなった(図4).このこと は,サイエンスとアートの融合イベントにサイエンス カフェよりも科学・技術への関心層以外が参加する可 能性を意味している.このことは先行研究結果とも矛 盾しない(加納ほか,2013;奥本ほか,2018).また, サイエンスとアートの融合イベントへの参加者に,サ イエンスカフェへの参加者にはみられなかった科学・ 技術への低関心層が含まれていることも明らかになっ た.しかしながら,サイエンスとアートの融合イベン トとサイエンスカフェの結果を既存の世論調査結果と 比べると,いずれにおいても世論調査結果と比べて科 学・技術への関心層へ参加者が偏っているとみること もできるだろう.以上のことから,サイエンスとアー トの融合イベントは,世論調査における割合には至ら ないものの,科学・技術への潜在的関心層,低関心層 により高い参加意向を持たせる可能性があることがあ らためて明らかとなった. 2.参加意向者の科学・技術への関心層別割合 それでは,サイエンスカフェやサイエンスとアート の融合イベントへの参加意向はどうであろうか.「Ⅰ. はじめに」でも述べたように,参加という行動の段階 の前に,参加意向という情動の段階がある.そこで, サイエンスカフェおよびサイエンスとアートの融合イ ベントへの参加意向を調べてみると,いずれにおいて も科学・技術への関心層の参加意向が最も高く,科 学・技術への潜在的関心層,低関心層が続くことが明 らかになった(図5).また,サイエンスカフェとサ イエンスとアートの融合イベントの参加意向者群には 有意差が見られないことも明らかになった.このこと は,参加意向の段階ではサイエンスカフェもサイエン スとアートの融合イベントも同程度の参加意向が示さ れていることを示唆している.

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3.参加段階と参加意向段階とのギャップ サイエンスとアートの融合イベントにおいて参加意 向と実際の参加との間にギャップがみられず,サイエ ンスカフェにはギャップがみられることが明らかに なった(図4,図5).サイエンスとアートの融合イ ベントにおいては,参加意向の段階から科学・技術へ の関心層以外が興味を示し,参加段階にもつながって いることが示唆された.一方,サイエンスカフェにお いては,参加意向の段階では科学・技術への関心層以 外が興味を示すものの,参加段階にはつながっていな いことが示唆された.すなわち,サイエンスカフェに おいては情動(参加意向)と行動(参加)の間に何か しらの障壁があることが示唆された.障壁としては, サイエンスとアートの融合イベントに比べてサイエン スカフェがより言語を用いるイベントである,サイエ ンスとアートの融合イベントがアートを通して間接的 に研究に触れられるのに対してサイエンスカフェでは 研究者との直接対話を通して研究に触れるといった内 容面の要因が考えられる.また,本研究の限界として, 申し込む必要があること,お茶・お菓子の実費とはい え参加費がかかること,一度始まると離席しにくいこ となどの形式的な要因がサイエンスカフェとサイエン スとアートの融合イベントで揃っていないため,こう いった形式的な要因が障壁となった可能性は排除でき ない.こういった要因を明らかにするには,サイエン スカフェやサイエンスとアートの融合イベントの参加 意向者や参加者へのグループインタビューなどの質的 調査や質問紙調査などで何が参加の障壁となっている かを明らかにすることが必要であろう. 注 (1) サイエンスカフェについては,下記を参照されたい. http://www.scj.go.jp/ja/event/cafe.html(最終閲覧日2020年 7月26日) (2) のべ人数である.そのため,サイエンスカフェに複数 回参加した者も含まれる. (3) 会期中は,京都大学 iCeMS オリジナルのクリアファ イルに質問紙と展示作品の目録を挟んだものを1,000部 用意し,参加者が自由に持っていけるようにした.また, 会場にいたスタッフも参加者に手渡しでクリアファイル を配布した.最終日に展示が終了した時点で,クリア ファイルがなくなった部数をもって,来場者数とみなした. (4) 質問紙調査は匿名で実施された.サイエンスとアート の融合イベントに複数回参加した者や回答した者,サイ エンスカフェとサイエンスとアートの融合イベントの両 方に参加した者を特定することはできなかった.展示の みを鑑賞した者も,ミニトークイベントに参加した者も 含まれたが,その内訳は取得しなかった. 謝辞 本イベントの実施にあたり,城綾実博士,馬場美恵 子氏,その他京都大学 iCeMS 所属の教職員の皆様か らの多大なるサポートを得た.感謝申し上げる. 文献

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