36 シンポジウム 〔東女医大誌 第60巻 第3号頁254∼260平成2年3月〕
内視鏡検査の現況と展望
大腸内視鏡検査の進歩と展望
東京女子医科大学 第2外科 ササキヒロァキ カメオカ シンゴ ハマノ キヨウイチ佐々木宏晃・亀岡信悟・浜野恭一
(受付 平成2年1月11日)Present and Future of Colonoscopy
Hiroaki SASAKI, Shingo KAMEOKA and Kyoichi HAMANO
Department of Surgery II, Tokyo Women’s Medical College
In the past 30 years, the development of colonoscopy is splendid. The instrument and the technique of colonoscopy has been developed in the first decade. The diagnosis of colonic diseases has been established in the following decade. And now, colonoscopy is useful in many directions, not only
in the diagnosis of colonic diseases but also in the therapy of polyps or bleeding and in the physiological
researches and so on.
In the future, the instrument and the technique will have to be more improved, while the colonoscopic diagnosis more precise and then colonoscopy will make a great contribution to medicine.
緒 言 わが国における大腸内視鏡検査(硬性鏡を除く) は,1958年に松永らがsiglnoidocalneraを報告1) して以来30年になる.最初の10年間は,主に器械 と挿入技術の改良に取組み,1970年代に漸く臨床 に応用できるところまで発展した.今回は筆者ら がこれまで報告してきFたことを中心に,内視鏡検 査の進歩を振り返り,現在の問題点につき述べる. 炎症性疾患 1.慢性炎症性疾患 慢性炎症性疾患に関しては,70年代始めからそ の内視鏡所見の報告が相次ぎ,潰瘍性大腸炎につ いては,70年代半ぽには図1のように,厚生省調 査研究班による診断基準にも取入れられてい る2).潰瘍性大腸炎の緩解期の内視鏡像について は,その肉眼像と組織所見との間に乖離があった. これを埋めるため,拡大内視鏡を利用した色素内 視鏡検査により両所見を対比した.写真1のよう に大腸粘膜の拡大内視鏡による肉眼像は,腸腺開 潰瘍性大腸炎の診断基準 (厚生省特定疾患:潰瘍性大腸炎調査研究班 1974) ※内視鏡所見 (1)粘膜は粗ぞうまたは上階粒状を呈し,もろくて易出血 性(接触出血)を伴い,粘血膿性の分泌物を付着して いる.または, (2)多発性びらん,潰瘍あるいは偽ポリポージスを認め る. Crohn病の診断基準 (厚生省特定疾患:Crohn病調査研究班 1976) (1)非連続性区域性病変 (2)Cobblestone appearanceまたは縦走潰瘍 (3)全層性炎症性病変(腫瘤または狭窄) (4)乾酪壊死のない類上皮細胞肉芽腫 (5)裂溝または痩孔 (6)肛門部病変(難治性潰瘍,非定型的痔痩または裂肛) 図1 潰瘍性大腸炎の診断基準 口部の大小不同,配列により4型に分類でき,組 織像によく対応していた3).しかしながらこれも, 広い病変の一部の限られた範囲の所見に過ぎず, 臨床応用には至っていない.Crohn病や他の慢性
写真3 抗生物質による出血性大腸炎 写真1 緩解期ueの色素内視鏡像 表1 1CとAACの鑑別診断(内視鏡像による) 写真2 虚血性大腸炎の内視鏡像 炎症性疾患の内視鏡像についても,同時期に多数 の報告がある. 2.急性炎症性疾患 急性に発症する腹痛,下痢,血性下痢などに対 する早期,あるいは緊急内視鏡検査は,70年代後 半から施行されるようになった.これに伴い,急 性炎症性疾患(虚血性大腸炎,抗生物質による出 血性大腸炎;感染性大腸炎など)の内視鏡所見が 次々に明らかになった.写真2は虚血性大腸炎, 写真3は抗生物質による出血性大腸炎の内視鏡像 IC
AAC
好発部位 D(93.9) T(71.2) 対称性 偏側性(97,0) 対称性(90.4) 浮腫・発赤 高度(42.4) 高度(25.0) 縦走潰瘍ビラン 多(75,8) 稀(5.8) まだら模様 少(9.1) 多(34.6) 赤色調 暗(36.4) 明(48.1) 縦走発赤 (42.4) (44.2) 境界鋭利 (45.5) (63.5) ():% ’73∼’84TWMC であり,表1はその両疾患の,内視鏡所見による 鑑別診断を示す4).急性期の主病巣を,内視鏡的に 確認できれぽ,両疾患の肉眼的な鑑別診断も可能 である. 写真4はキャンピロバクターによる急性大腸炎 であり,写真5はサルモネラによるものである. この両疾患は感染性大腸炎のなかで代表的なもの であり,臨床的にはその経過や治療法が異なるた め,早期の鑑別診断が必要である.表2は両者の 内視鏡所見による鑑別診断を示す5). 急性大腸炎は,一過性に比較的速やかに治癒す るため,症状の軽快を待って検査したのでは,そ の特異的な所見を捉えることはできない.筆者ら の検討では,少なくとも発症後7日以内に内視鏡38 写真4 キャンビロパクター腸炎の内視鏡像 写真5 サルモネラ腸炎の内視鏡像 検査を施行しないと,各疾患の形態学的な鑑別診 断は困難となるり.早期あるいは緊急内視鏡検査 の症例の増加に伴い,現在では上記のような急性 炎症性疾患の診断が内視鏡的に可能となってき た. 3.癌を合併した潰瘍性大腸炎 炎症性疾患の内視鏡診断において,現在最も問 題になっているのは,潰瘍性大腸炎に対する癌合 併の診断である.従来は長期経過観察例が少な かったため,わが国での癌合併例の報告が少な かった.しかしながら最近では,10年以上の経過 観察例が増加し,癌合併例の報告も漸増している. 表2 内視鏡所見による鑑別診断 キャγピロパクター サルモネラ 病変部位 直腸∼上行結腸 直腸∼横行結腸 発 赤 比較的びまん性 散在性 浮 腫 軽 度 軽度∼高度 潰 瘍 大腸には無い しばしぽ認められる 回盲露骨の潰瘍 しばしば認められる 認められない ’85.10.12 U.C.H. 写真6 潰瘍性大腸炎に合併した直腸癌 risk factorとして,若年発症,全結腸炎型,長期 経過例が挙げられている6).写真6は30年経過観 察した52歳,女性,全結腸炎型の症例で,直腸に 癌を合併した. 潰瘍性大腸炎に合併する癌の早期診断のため,
長期経過観察例に対しては6∼12ヵ月に1回
total colonoscopyによるsurveillanceを施行す る必要がある. 大腸腫瘍性疾患 進行癌に対する内視鏡診断は,病変部に挿入で きさえすれぽ容易である.大腸早期癌の診断は, 内視鏡的ポリペクトミーにより飛躍的に進歩し ・た.本邦での大腸内視鏡的ポリペクトミーは,72 年の棟方らの報告7}が最初である.この後ポリペ クトミ一例は増加の一途をたどり,早期癌の症例 数も増加し,現在では大腸癌取扱規約にもその肉 眼型が胃の早期癌に準じて取入れられている8). これに伴い,ポリペクトミー後の経過観察や,sm 癌であった場合の取扱いについて種々論議され,表3 ポリペクトミ :Sm癌の治療 1.切除断端近傍に癌の存在 2.脈管侵襲 3.Massive invasion 4.低分化腺癌 レLo、
書聖,
i総
単純型
管状型
図2/≦ こ\
乳頭型
罪舞踊
微小隆起分類特にsm癌については,現在では表3のような
risk factorがある時には,外科的に追加切除する のが一般的となっている9}. 小坂は75年に,実体顕微鏡を用いた切除標本の 検討により,大腸の微小隆起をその表面の構造か ら,図2のように4型に分類し,上段は過形成性 ポリープ,下段は腺腫であると報告した1の.臨床的 にも,色素を用いた拡大内視鏡検査により,写真 7のように肉眼的にその組織像の判定が可能で あった11).写真8は同検査により偶々発見された 5個の腺管からなる腺腫である.70年代後半は, このように隆起性病変の微細観察が盛んに行われ たが,微小癌発見の報告は見当らない. 写真9は進行癌のすぐ口側に見つかった微小 IICで,肉眼的には矢印の部の小発赤斑として認 められる.写真10はその部の組織像で,深達度m の早期癌であった.いわゆるde novo癌であるが このような微小癌を診断するには,現在の進歩し 写真7 ポリープの拡大観察数轟
写真8 微小腺腫(図の左やや濃染している5個の腺 管) た器械や挿入技術をもってしても困難である.写 真11は79歳女性の上行結腸に認めた扁平腫瘍で, 頂にわずかな陥凹を有する.肉眼的に早期癌を疑 い,生検でも腺癌であった.陥凹を有するためsm 以上の浸潤を疑い,外科的に切除した.写真12は 切除標本の実体顕微鏡像であるが,大きさは10 mmで, IIa+IIcと診断した.組織学的には写真13 のように一部smに浸潤した早期癌であった. 最近ではこのような微小癌の報告が相次ぎ,い わゆるde novo癌と考えられる例も増え,大腸癌40
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写真9 微小IIC羅1
写真10 写真9の組織像 写真11上行結腸のIla+11c妾製
写真12 写真11の切除標本の実体顕微鏡像鰹鰻麟
写真13 写真11の組織縁 の組織発生に関して,従来から支持されてきた adenoma−carcinoma sequenceの見直しが必要な 時期にきているのではないか,と言われている12,. 現在のところまだ症例数も少なく,組織像の判定 基準が病理医によって必ずしも統一されておら ず,今後に残された重要な課題の一つである, このような微小な,平坦あるいは陥凹した病変 の診断には,大腸粘膜の血管透見像の乱れ,小さ な発赤斑,空気量の調節による大腸壁の不整など 注意深い微細な観察が必要となる13).その手段の 一つに,従来から行われている色素法がある.写 真14は左が通常内視鏡壕,右が色素内視鏡像(イ写真14 微小ポリープの色素撒布内視鏡像 左が通常内視鏡縁で右が同部位の色素内視鏡像 ンジゴカルミン使用)である.このような微小ポ リープの正確な診断には有効と考えられる.もう 一つの方法として最近開発された電子スコープが ある.これは従来のファイバースコープとは全く 異なった映像伝導システムを有する内視鏡で,対 物レンズでとらえた画像を超小型固体撮像素子で
あるCCDにて電気信号に変換し,映像コント
ローラーで処理してモニターテレビに放映するシ ステムである.従ってRGB信号を利用したコン ピューターによる画像処理,画像解析が可能とな る.写真15の左は通常の画像で,右は輪郭強調処 理をした同じ部位の画像であるが,血管の透見も より明瞭となっている.このため,血管透見像の 乱れが通常の内視鏡に比しわかり易い. 今後はこのような手技を駆使することにより, 微小癌の報告が益々増加するものと予想され,大 腸癌の組織発生についても新たな展開が期待でき る. 結 語 以上簡単にこれまでの歩みと現在の問題点につ いて述べた.今後,炎症性疾患においては,潰瘍 性大腸炎長期経過例に対する癌の合併とその早期 診断が課題であり,腫瘍性疾患においては,微小 癌の発見と,これに伴い大腸癌の組織発生の解明 が期待できる.しかしながら,最も基本的な挿入, 観察という点においてさえ,現状ではまだ不十分 で,これと並行して今後の画期的な展開が望まれ る. 文 献 1)松永藤雄:Sigmoidocameraの試作とその臨床 的応用.第5回胃カメラ研究会ロ演(1958) 2)厚生省特定疾患潰癌性大腸炎調査研究班:潰瘍性馨
悪難1鱗 舞騰i灘1
.難襲㌔ 写真15 電子スコープによる輪郭強調処理42 大腸炎の診断基準(案)について.日医事新報 2613:31, 1975 3)佐々木宏晃,河野秀親,青木 暁ほか:潰瘍性大 腸炎の拡大観察.Gastroentero1 Endosc 20: 364−368, 1978 4)佐々木宏晃:パネルディスカッション3.虚血性 腸病変の診断と治療,1)虚血性大腸炎の内視鏡診 断.第30回日本消化器内視鏡学会総会口演(1985) 5)佐々木宏晃,水谷元雄,田宮誠ほか: Campylobacter腸炎の内視鏡診断. Gastroenter− ol Endosc 29:62−67,1987
6)Lennard・Jones JE, Morson BC, Ritchie JK et al: Cancer surveillance in ulcerative colitis
−experiance over 15 years. Lancet 2:149−152,
1983 7)棟方昭博:Colono飾erscopeによる大腸ポリー プの切除.第14回日本内視鏡学会総会口演(1972) 8)大腸癌研究会編:大腸癌取扱い規約,改訂第3 版,金原出版,東京(1983) 9)武藤徹一郎:大腸sm癌:アンケート集計報告と その考察.胃と腸 18:851−855,1983 10)小坂知一郎:大腸微小隆起性病変に関する臨床病 理学的研究。大腸肛門誌 28:218−228,1975 11)佐々木宏晃:拡大大腸内視鏡検査(第/報).Prog Dig Endosc 9:73−75,1976 12)中村恭一:大腸癌の構造.医学書院,東京(1989) 13)工藤進英,林俊一,三浦宏二ほか:陥凹型早期 大腸癌の内視鏡診断と治療一微小癌の内視鏡像を 中心に一.胃と腸 24:317−329,1989