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(1)

イサイオス弁論集(1)

著者

?畠 純夫

著者別名

TAKABATAKE SUMIO

雑誌名

東洋大学文学部紀要. 史学科篇

43

ページ

215-291

発行年

2017

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009907/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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二一五 イサイオス弁論集(1) 凡例 一  、以下はイサイオスの第一番、第三番、第七番、第八番弁論の翻訳である。元来は授業の参考資料として作ったもの で、わかりやすくするよう代名詞を具体的名前に置き換えるなど訳文にかなり説明を盛り込み、それぞれのまとまり ごとに題を付けていた。今回訳文を見直し、わかりやすいと思われるものはある程度残し、まとまりごとの題も残し た が、 テ ク ニ カ ル・ タ ー ム な ど は 用 語 集 を つ く り そ こ で 説 明 す る こ と と し た。 用 語 集 に あ る 単 語 に つ い て は「 * 」 を 付けている。 二  、各弁論に簡単な「解題」を付け、註は必要最低限に留めた。史料として読み取れること、読み取るべきことはいろ いろあるが、それについて触れることはしていない。 三  、テ ク ス ト は 、 W.Wyse,

The Speeches of Isaeus: With Critical and Explanatory Notes,

Cambridge, 1904  ( Cambridge  Library Collection, 2013 )を底本としている。 底本から離れた場合もあるが、それも底本の apparatus criticus にある。 四  、 Wyse の 註 は ず い ぶ ん 役 に 立 っ た。 こ の 他 に 第 七 弁 論、 第 八 弁 論 に つ い て は、 B. Griffith-Williams, A Commentary

イサイオス弁論集(1)

髙畠

 

純夫

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二一六 on Selected Speeches of Isaios, Leiden & Boston, 2013 を参照した。この他にテクニカル・タームの理解のために参照 した文献は数多いが、ここでは一々挙げることをしない。 翻訳を参照したものとしてつぎの二つのみをあげておく。 E.  S. Forster, Isaeus  ( The Loeb Classical Library ), 1927; M. Edwards, Isaeus: Translated with introduction and notes,  Austin, 2007.

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二一七 イサイオス弁論集(1)   第一番弁論    『クレオニュモスの財産について』 解  題・・・クレオニュモスは死んで遺書を遺した。その遺書に従って相続は実行されたが、それに対してクレオニュモ ス の 甥 に 当 た る 話 者 が 相 続 権 を 主 張 し て 異 議 を 申 し 立 て た。 こ う し た 手 続 き は 異 議 申 立 *  ἀμφισβήτησις と 呼 ば れ る。 そ の 結 果 開 か れ た の が こ の 裁 定 裁 判 * で あ る。 話 者 側 は 遺 言 書 の 真 偽 は 問 題 と し て い な い。 ク レ オ ニ ュ モ ス が 書 い た のは確かだが、それは甥の父方の叔 父 ( 1 ) 、クレオニュモスからすれば妹の夫、つまり義弟の弟であるデイニアスと対立 し た か ら だ と 主 張 し て い る。 デ イ ニ ア ス は ま だ 未 成 年 で あ っ た 話 者 た ち の 養 育 者 * に な っ て い た。 と す れ ば、 自 分 が 死んだときには甥である話者たちに自分の財産は渡るのであるが、実際はその養育者であるデイニアスがその財産を 手にすることになる。それはかなわない、と考えたから遺言書を作り甥たちに財産が行かないようにした、というの である。その後、デイニアスは死に、クレオニュモスは話者である甥たちの面倒を見るようになり、彼らを可愛がる ようになった。従って、彼の死の直前に親しかったのは話者たちであり、そのため前に書いた遺書を取り消そうとし たのだが、その途中に死んでしまった。以上が本弁論の主張である。     遺書に指定されていた相続人が誰で、何人いたのか、この弁論だけが史料であるから、よくわからないところがあ る。 フ ェ レ ニ コ ス が 入 っ て い た こ と は 確 か で あ り( 四 五 節 )、 お そ ら く ポ セ イ デ ィ ッ ポ ス と デ ィ オ ク レ ス も そ の 中 に 入 っ て い た の で あ ろ う( 二 三 節 )。 そ の 他 に 名 前 の 出 る ケ フ ィ サ ン ド ロ ス は 彼 ら の 親 族 で あ る が 遺 書 に 指 定 は さ れ て い な か っ た も の と 思 わ れ る( 一 六 、 二 八 節 )。 ま た、 シ モ ン は 梗 概 に は 指 定 さ れ て い た 者 と し て 挙 げ ら れ て い る が、 読む限りそれを確認できない( 三一─三二 節) 。     本 弁 論 の 主 張 は、 要 す る に 遺 書 よ り も、 親 族 と し て の 近 し さ を 尊 重 す べ き で あ る、 特 に 故 人 の 情 愛 の 対 象 が 近 し

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二一八 い親族にあったことを、遺書の形よりも考慮すべきだということである。この裁定 がどのような結果になったのかわからない。弁論の年代として、ワイズは母音連続 hiatus を 避 け よ う と す る 傾 向 か ら イ サ イ オ ス の 後 期 の 作 品 の 一 つ と す る 見 解 が あ る ことを紹介しているが、母音連続を避けようとしている作品とそれにかまっていな い 作 品 と の 年 代 が 結 局 混 在 し て い る こ と を 指 摘 し、 イ サ イ オ ス は 実 務 的 人 間 と し て、それに見合うというとき、また時間があるときにだけ文体を彫琢したのではな いかとしている。エドワーズは、文の最後のリズムから前三五五年頃とする説を紹 介している。   註 ( 1)  ギリシア語の性格から父の兄か弟かわからない。 同様に姉か妹かもわからない。 本 翻 訳 で は そ う し た 例 が 多 く 現 れ、 そ の 度 ご と に ど ち ら に も 通 用 す る よ う に 訳 し た り、 両 方 を 並 記 し た り す る の は、 読 む 上 で 大 変 に 煩 雑 に な る の で、 訳 者 の 感 覚 で ど ち ら か に 一 意 的 に 決 め て し ま う こ と に し た。 し た が っ て、 兄 か 弟 か、 姉 か 妹 か、 さ ら に 伯 父 か 叔 父 か、 従 兄 か 従 弟 か、 従 姉 か 従 妹 か、 訳 に は ど ち ら か が 使 わ れ て い る が、 け っ し て 年 齢 差 に 基 づ く 事 実 と は 限 ら な い こ と を 承 知 さ れ た い。 た だ し、 訳 者 と し て も 年 の 差 を 考 え て な る べ く あ り そ う な 方 を 取 ろ う と し て い る。 ま た 二 人 の 伯 父 叔 父 が 現 れ て 違 い を 際 立 た せ る た め 別 の 字 を 取 ろ うとしたこともある(本弁論はその例である) 。   〈 梗概 ・ ・ ・ 死んだクレオニュモスの甥が親族の順序に従って遺産を要求した。フェ

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二一九 イサイオス弁論集(1) レ ニ コ ス、 シ モ ン ( 2 ) 、 ポ セ イ デ ィ ッ ポ ス 側 の 者 た ち が 自 分 た ち に 有 利 な よ う に 提 出 し た 遺 書 は、 真 実 の も の で 役 人 の も と に 預 け ら れ た も の で あ る こ と に 同 意 し て い る が、 ク レ オ ニ ュ モ ス が 彼 ら の 養 育 者 で あ る デ イ ニ ア ス に 怒 っ た と き の も の で、 後 に 取 り 消 そ う と 市 域 監 督 官 を 呼 び に や っ た あ と、 突 然 に 死 ん だ の だ と 主 張 し て い る。 さ ら に、 彼 ら の 祖 父 で ク レ オ ニ ュ モ ス の 父 で あ る ポ リ ュ ア ル コ ス が、 も し ク レ オ ニ ュ モ ス に 何 か が あ っ た 場 合 は、 遺 産 を 彼 ら に 渡 す よ う 命 じ た と 主 張 し て い る。 争 点 は 相 続 権 主 張 に 基 づ く 二 者 間 の 決 着 で あ る。 一 方 は、 も と も と あ っ た 遺 書 に 依 拠 し、 他 方 は、 そ れ を 取 り 消 す た め に 役 人 を 呼 び に や っ た と 主 張 し、 ク レ オ ニ ュ モ ス の 最 後 の 行 動 に 依 拠 し て い る。 〉 序文     クレオニュモスの死によって私に起こった変化は、皆さん、たいへん大きなものでした。生きている間、彼は私 たちに財産を残しました。しかし、死んでからはそれを失う危険に私たちをさらしているのです。生きている間私たち は彼から健全に育てられ裁判所には行ったことさえありませんでした。しかし今や私たちは全財産をめぐって争うため にやって来ております。相手方はクレオニュモスの財産のみならず父祖伝来の財産まで要求し、私たちが彼の現金まで 保有していると主張しております。     彼らの親しい友人や親族は、クレオニュモスの残した財産のうち異議を申し 立 て て い な い も の に つ い て さ え、 彼 ら と 同 じ 分 け 前 を 私 た ち が 持 つ こ と を 認 め て お り ま す が、 相 手 方 の 厚 顔 無 恥 は 極 まっており、私たちの父祖伝来の財産を私たちから奪おうとしているのです。それは、皆さん、彼らが正義を知らない からではありません、私たちがとても孤立無援の状態にあることを知っているからなのです。     皆さん方の下にやって来ている私たち双方が、どのようなことを根拠にしているのか、どうぞ考えて下さい。相

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二二〇 手方は、伯父が書いたのですが、私たちに非を認めてではなく、私たちの親戚の一人に腹を立てて書き、死の間際には ポセイディッポスを役人の下に派遣して取り消した、そうした遺言書に頼っています。      私たちは最も近い親族 ですし、伯父にとって誰よりも愛おしい縁者であり、法も私たちに親族法によって相続権を与えておりますし、クレオ ニュモス本人も私たちとの間にあった愛情のゆえにそうしようとしておりました。さらに、クレオニュモスの父で私た ちの祖父であるポリュアルコンは、クレオニュモスが子供のないままに死んだら、私たちに彼の財産を与えるようにあ らかじめ規定しておりました。      こうした状況が私たちにはあり、相手方は親族ではありますが、何も語るべき 正義がないにもかかわらず、相続権を主張するのが恥ずかしいような、何の資格もない財産について、恥知らずにも私 たちを法廷の場に立たせるようにしたのです。   私には、私たちがお互いに対し同様な思いを持っていないように思 われます。私の方は、現今の最大の災難は、不当に危険にさらされていることではなく、親族と、つまり自分自身をそ の者のために防衛することさえよいとは思われぬ人たちと、争っていることだと思うのです。親族である彼らを私自身 を守るために傷つけることは、最初に彼らによって傷つけられることに変わらぬ災難だと思っているのです。   とこ ろが彼らの方はこうした考えを持っておらず、友人を呼び集め、弁論家を用意し、彼らの力のすべてをあげて私たちの 下にやって来たのです。親族、近親の者と争うというより、まるで敵に復讐するかのようです。   彼らの恥知らずぶ り、底知れぬ欲深さは、皆さんがすべてをお聞きになればより良く理解されることでしょう。私たちの争点について、 私は皆さんの理解が素早くなされると私の思うところからはじめて、皆さんにご説明をいたしましょう。 説明     父の弟である叔父のデイニアスが、孤児となった私たちの養育者となりました。叔父はクレオニュモスと喧嘩を

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二二一 イサイオス弁論集(1) する事態となりました。彼らのどちらがこの喧嘩の原因であるかを告発するのは私のなすべきことではありませんが、 かつて友人であった者たちが何らかの言葉の行き違いからさしたる理由もなしに互いにかくも気まぐれに敵対するよう になったことについては、両者ともに非難したいと思います。 一〇   そして、この時、怒りからクレオニュモスはこの 遺言書を作ったのです。   後に語っていたように、私たちに何らかの非を認めたからではありません。私たちがデイニ アスによって養育されているのを見、自分自身が私たちがまだ子供の時分に死んでしまって遺産を残すことになるので は な い か、 そ う す れ ば 私 た ち の 財 産 と な っ た も の は デ イ ニ ア ス の 管 理 下 に 入 っ て し ま う で は な い か、 と 恐 れ た か ら で す。 彼 は 恐 ろ し い こ と だ と 思 っ た の で す。 親 族 の う ち で も も っ と も 敵 対 し て い る 者 が 自 分 の 財 産 の 管 理 人 に な る、 ( 死 んだ)彼に対する慣例の行事を私たちが大人になるまで、自分が生きている時には仲違いしていたこの人物が行う、と いうのはです。 一一   それが正しいことであるかそうでないかはともかく、こうしたことを念頭に、彼はこの遺言書を 書いたのです。直ちにデイニアスが私たちあるいは父に何か非があるのか聞いたのですが、あらゆる市民がいる前で何 の咎もないと答え、彼の怒りがこの遺言書を作らせ、健全な思惑がそうしたのではないことの証言をなしたのです。実 際、 皆 さ ん、 彼 に 何 ら の 害 を 加 え て い な い 私 た ち に、 ど う し て つ ら い 思 い を さ せ よ う な ど と 彼 が 考 え た で し ょ う か?   一二   後々に彼のなしたことが、彼が私たちにこうした害悪をなそうとしなかったことの最大の証言者となることで しょう。実際、デイニアスの死後、事態が私たちにとって悪い方に傾いた時、私たちに足りないものがないよう何一つ 見逃しませんでしたし、私たちを自分の家に入れて育ててくれ、財産を取り上げようと画策した債権者たちから私たち を守ってくれ、私たちのものをあたかも自分自身のものであるかのように親身に面倒を見てくれたのです。   一三    こうした行動の意図から彼を判断すべきであって、遺言書から判断すべきではないのです。怒りとともになしたことを 証人にするのではなく︱︱そもそも怒りの中では誰でも間違いを犯すのですから︱︱、後の彼の意図がはっきりとして

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二二二 いる行動を証人とすべきなのです。さらに死の間際においても私たちへの思いをはっきりと示したのです。 一四   彼が 死ぬことになった病気ですでに弱っていた時、この遺言書を無効にしようと望んで、ポセイディッポスに役人を連れて 来るよう命じました。しかし、この者は連れて来るのに失敗したばかりか、戸のところまでやって来た役人の一人を追 い返したのです。クレオニュモスはこの男に怒りを発し、再び次の日に役人たちを呼んで来るよう今度はディオクレス に命じました。ですが、彼はひどく弱っていてそれどころではなかったのです。しかし、まだ希望はあったのですけれ ど、突然その夜死んでしまったのです。   一五   さてまず、皆さんに証人を提出いたしましょう。私たちに非を認めていたのではなく、デイニアスとの争いか らこの遺言書を作ったということのです。ついで、デイニアスの死後私たちの財産のすべての面倒を見てくれたこと、 彼 の 家 に 入 れ て 私 た ち を 育 て た こ と の で す。 さ ら に 加 え て ポ セ イ デ ィ ッ ポ ス を 市 域 監 督 官 * の も と に 送 っ た け れ ど、 彼 は呼んで来ることができず、戸のところまで来た役人を追い返してしまったことのです。 一六   私が真実を語っている ことを示すよう、証人を呼んで下さい。 証人   さらに相手方の友人が、ケフィサンドロスを含めて、財産を分けクレオニュモスの全財産の三分の一を私たちが受け るべきだ、と考えていたということを示すため、証人を呼んで下さい。

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二二三 イサイオス弁論集(1) 証人 証明   一七   さて、皆さん、思うのですが、財産をめぐるあらゆる争いは、私たちがやっているように、自分自身が血にお いても友情においても死者に より ` ` 近いことを証明したなら、その他の議論は回り道でしかないのです。ところが相手方 はそのどちらにおいてもそうではないにもかかわらず、おそれ多くも自分たちに資格がないことについて議論をなし、 しかも嘘を言っているのです。私は短くもこうした点についても語りたいと思います。   ありそうなこと eikos からの証明   一八   彼らは遺言書に頼り、クレオニュモスが役人を呼びにやったのはこれを無効にしようとしてではなく、修正し 自分たち自身への遺贈分を確かなものとしようとしたのだ、と主張しております。皆さんどうかお考え下さい。怒りと ともに作った遺言書を、私たちに親しみを抱いた時に、無効にしようと望んだというのと、私たちから自分のものをよ り確実に奪おうとしたというのと、どちらがありそうかをです。 一九   ほかの人たちなら、怒りにまかせて親族を害し たことを後に悔いるものです。ところが相手方の主張によれば、私たちに最大の親愛の情を抱いたまさにその時に、怒 りにまかせて作った遺言書を確実なものとすることを欲した、というのです。私たちがこれに賛成し、皆さんがこれを 信ずるとすれば、相手方は彼の完全な錯乱ぶりを告発していると考えることとなります。 二〇   いったいどんな錯乱が これ以上の事態をもたらすでしょうか。デイニアスと争っている時には、私たちに害を与えた上、デイニアスを罰する

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二二四 の で は な く 最 愛 の 者 を 傷 つ け る こ う し た 遺 言 書 を 作 り、 私 た ち と 親 し く 接 し 最 大 に 尊 重 し て く れ て い た 現 在 に お い て は、相手方が主張しているように、甥のみには自分の財産を残さないままにしておく、といった事態です。誰が健全な 心で、皆さん、自分の財産についてこうしたことを望むでしょうか。   二一   それですから、こうした議論で相手方は 自分たちの議論について皆さん方が容易に判断が下せるようにしたのです。なぜと申して、私たちが主張するように、 遺言書を無効にすることを望んで役人を呼びにやったのだとすれば、彼らには言うべき論理がありません。一方、彼が かくも錯乱しており私たち、彼にもっとも近しくもっとも愛おしむべき友人をまったく尊重しないほどになっていたと したら、こうした遺言書を皆さんは無効にすべきでしょう。 相手方の主張する行動からの証明   二二   つぎに、相手方はクレオニュモスが、自分たちの遺贈分を確かなものとするため、役人を呼びにやったと主張 しながら、いざ彼らに命令されたなら役人を導こうとせず、戸のところまでやって来た役人を追い返したということを お考え下さい。二つの相反する選択のうちどちらを望むか、つまり財産をより確実なものとするか、あるいは何もせず 彼に憎しみを引き起こすか、いずれかを選ぶかに際して、彼らは憎しみをそうした贈与より優先させて選んだというの で す。 こ の こ と 以 上 に 信 じ ら れ な い こ と が ど う し て あ り 得 ま し ょ う か。     望 ま れ た こ と を や れ ば と て も 多 く を 得ることが出来る者が、あたかも罰せられようとする者の如く、義務の遂行を差し控えたというのです。一方、クレオ ニュモスの方は彼らの利益を図ることにとても熱心で、ポセイディッポスが仕事をなおざりにした時には、彼に怒り、 再び同じことを翌日ディオクレスに望んだほどだったのです。

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二二五 イサイオス弁論集(1) 遺言書に修正の必要がないことからの証明   二四   もし、皆さん、相手方が主張しているように、書かれた遺言書において彼らに財産を与えているとすれば、私 には驚くべきことに思われるのです。いったい何を修正してより有効性を高めようと考えたのでしょうか?   他の人に は、 皆 さ ん、 遺 贈 と し て こ れ は 標 準 的 で は あ り ま せ ん か。     さ ら に 彼 が 何 か を 書 き 足 し た い と 望 ん で い た と し て、 書 類 を 役 人 の も と に 預 け ら れ な い と す れ ば、 ど う し て 別 の 書 き 付 け に 同 じ こ と を 書 い て 残 さ な か っ た の で し ょ う か?   皆さん、彼は役人のもとに預けられている文書以外を取り消すことはできなかったのですが、もし何かを望めば 別の文書に残すことは可能だったのです。そして、私たちに議論を起こさせないようにすることができたのです。   相手方の恥知らずぶり   二六   それですから、もし私たちが、彼が遺言書を訂正したいと望んでいたと認めるとしても、彼がその遺言書を正 し い も の と 考 え て は い な か っ た こ と が、 皆 さ ん 方 の 誰 に で も 明 ら か で し ょ う。 さ ら に こ こ で 相 手 方 の 恥 知 ら ず ぶ り を 考えてみて下さい。彼らはこの遺言書が有効だと主張しているのですが、この遺言書を伯父が正しいものと考えていな かったことに彼らは同意しているのです。そして、私たちに法にも正義にも死者の意図にも反した投票をせよと説いて いるのです。 二七   さらに彼らの放言が極まったのは、クレオニュモスが私たちに自分の財産を相続させることを望ん でいなかったと言い放った時です。いったい、皆さん、生きている間に自分の財産から最大の援助を与えた者以外の誰 に、 そ れ を 持 た せ た い と 思 う で し ょ う か?     何 よ り も 驚 く べ き こ と で は あ り ま せ ん か。 相 手 方 の 親 族 で あ る ケ フィサンドロスさえも、私たちそれぞれが財産の分与に与るのが当然だと考えていたのに、私たちにもっとも親しく、 私たちを自分の家に入れて世話してくれ、私たちのことをまるで自分自身のことであるかのように面倒を見てくれたク

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二二六 レオニュモスの方は、一人だけ私たちが自分の相続に与らないことを望んだというのは!   二九   皆さん方の誰が信ず るというのでしょうか?   相手方が親戚の中で誰よりも私たちに親切で温厚であるなどということを。また、私たちを よく扱う義務を負い、世話しないことを恥ずかしいと感ずべき伯父が、自分の財産の何も私たちに与えないなどという ことを。さらにそうした義務を負わず、恥ずかしさを感ずる必要もない彼らが、彼らの主張によれば私たちには権利の ない財産を私たちと共有すべきなどということを。こうしたことは、皆さん、全く信じられないことです。 クレオニュモスとデイニアスとの喧嘩について   三〇   つぎに、もしクレオニュモスが双方の側に、遺言書を書いた時と同じ感情を持ち続けて死んだのだとすれば、 皆 さ ん 方 が 彼 ら の 言 葉 を 信 ず る の も 無 理 か ら ぬ こ と か と 思 い ま す。 し か し、 ま っ た く 反 対 で あ る こ と を 見 出 さ れ る で しょう。かの時、彼は私たちの養育者であったデイニアスと仲違いしていたのですが、私たちとは未だ親しくはなく、 相手方の全員とはいい関係を結んでいたのです。しかし現在は、相手方の何人かとは仲違いし、私たちとは他の誰より も親しい関係となったのです。 三一   彼が相手方と仲違いした理由について言う必要はありませんが、その大きな証拠 を申し述べましょう。それについての証人も提出いたします。まず、ディオニュソスへ犠牲式を行う際、彼は親戚の全 員と多くの市民とを招待したのですが、フェレニコスは招かなかったのです。ついで死の直前、シモンとともにパノル モスに行き、フェレニコスに会ったのですが、彼に話しかけようともしませんでした。   三二   さらにシモンは仲違い について問い質したのですが、敵対関係について詳細に語り、いつかフェレニコスにあいつのことをどう思っているか を示してやると脅したのです。私が真実を語っていることの証人を呼んで下さい。

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二二七 イサイオス弁論集(1) 証人   三三   皆さん、私ども双方に対する彼の態度はこのようだったのですが、もっとも親しいと感じていた私たちに、彼 らの言うように一言の言葉も残さないようにした、一方喧嘩をしていた彼らには財産が皆に確実に行くよう配慮してい た、そうしたことが皆さんには考えられますか?   敵対関係があったにもかかわらず、彼らを尊重し、近しさ愛情がか く ほ ど も あ っ た に も か か わ ら ず 私 た ち に は む し ろ 非 道 い 目 に 遭 わ せ よ う と 試 み た、 そ ん な こ と が 考 え ら れ ま す か?   三四   私としては、彼らが遺言書なり死者なりを非難したいと望んでいた場合、これ以上皆さん方に何を言えたのかわ かりません。彼らは、遺言書は正しいものでも遺言した者に気に入るものでもなかったと言い、彼がひどい錯乱状態に あったと非難して、そのため自らと仲違い状態にあった者たちを近しく感じていた者たちより尊重するようになり、生 きている間は語ることもしなかった者に全財産を残し、もっとも親しいと感じていた者はほんの小さな財産にも当たら ないと考えた、と主張しているのです。 三五   それですから、皆さん方の一体誰がこの遺言書が有効であると投票する のでしょうか?   この遺言書は遺言した者が正しいと考えず拒絶したものであり、相手方も私たちと同じ取り分を取る ことを望んで実際に無効にしようとしているものです。さらに加えて、私たちはそれが法にも正義にもそして死者の意 志にも反していることを皆さん方に示しているものです。 近しさと愛情について   三六   皆さん方は私たちについての正義を、相手方自身からもっとも良く知ることができると、私は思います。もし

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二二八 人が彼らに、なぜクレオニュモスの財産の相続人となると考えるのか、と問うたら、つぎのように言うしかなかろうと 思います。血においても自分たちは関係があるのだ、そして彼はある時には自分たちに親切だったのだ、とです。こう 語るとすれば、それは彼ら自身のためより私たち自身のためになるのではないでしょうか?   三七   なぜなら、もし血 の近さによって相続者になるのだとすれば、私たちはもっと近い関係を持っているのですし、もし存在する愛情によっ て決まるのだとすれば、彼が私たちにより多くの愛情を抱いていたことを誰もが知っております。かくて、正義は私た ちからではなく、相手方自身から学ばねばならないのです。 三八   まったく恐ろしいことではありませんか、自分自身 が血においても死者に対する愛情においても他者より抜きんでていることを示したとき、皆さん方はほかの場合であれ ばその者たちに投票するのに、どちらの点においてもそうであることが万人によって認められている私たちだけは、彼 の財産の相続人に相応しくないと皆さん方がするとすればです。 血の近しさ     ク レ オ ニ ュ モ ス の 父、 つ ま り 私 た ち の 祖 父 で あ る ポ リ ュ ア ル コ ス が 生 き て い た と き、 必 要 な も の が 不 足 し た り、クレオニュモスが娘を残して死んだりした場合に、血の近さのゆえに祖父の面倒を見たり、クレオニュモスの娘を 自分たち自身が娶ったり、嫁資を与えて他の男に嫁すようにしたりするよう強制されるのは、私たちだったのです。親 族としての結びつきからも、法からも、皆さんに対する恥ずかしさからも、私たちはそうすることを強制され、さもな ければ最大の罰やひどい非難が降りかかってきたのです。 四〇   ところが今、財産が残されているのですが、これが私 たちではなく別の者の相続分だとすることが正しいことだと皆さんは思われるのでしょうか。不幸は最近親の者に共有 するよう強制し、遺産が残ったらそうした者たち以外の誰でもが権利があるとするなら、そうした投票は正義でも皆さ

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二二九 イサイオス弁論集(1) ん方自身の利益でも法にかなったことでもないのです。 血の近しさと遺言書との比較   四一   皆さん、親族としての近しさ、事の真実にしたがって、皆さんが今までなさってきたように、ご投票下さい。 そして遺言書に基づいて論議を巻き起こしている者よりも親族としての扱いを求めている者にご投票なさるべきです。 皆さん方全員が親族としての近しさをご存じなのですし、皆さん方を欺すことはできないからです。それに対し遺言書 の方は、すでに多くの者が偽物を作り、ある者はそれをまったく偽物でないものにしてしまったのですが、中には悪し き意図を持って作った者もいたのです。 四二   今回の場合、皆さん方は私たちがこの争いにおいて基づいている、私た ちの親族としての近しさも愛情もすべてご存じです。相手方が告訴常習者よろしく私たちに対峙する源となっている遺 言書については、皆さん方の誰も有効なものだとはわからないのです。さらに、私たちの近しさについては、相手方自 身によっても認められていることを見出されるでしょう。一方、遺言書の方は私たちによって争われています。彼らは 伯父のそれを無効にしようという希望を妨げたのですから。   四三     それですから、皆さん、私たち双方が認めてい る親近性によって投票する方が、正当ではない遺言書に基づいてそうするよりもはるかに立派なことなのです。かてて 加えて、クレオニュモスは良く思慮をめぐらした時には取り消そうとしたのであり、怒り正当な判断ができない時にそ れを作成したということをお考え下さい。熟慮より怒りが有効であると皆さん方が判断するとすれば、それはとても恐 ろしいことでありましょう。

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二三〇 クレオニュモスが生きていたとしたら   四四   皆さん方は、もし生きていれば皆さん方ご自身から相続を受けることになる人間から相続するのが当然である と考え、もし相続しなかったとしたら怒りを発することと思います。では、クレオニュモスが生きているとして、私た ちの家なり相手方の家なりが相続人のいないままに残された場合、彼が相続人となるのはどちらの家かお考え下さい。 彼が相続する権利のある者たちが、彼の財産を相続するのが正しいことだからです。   四五   さて、フェレニコスとそ の兄弟たちの誰かが死んだなら、彼らの子供が残されたものについて権利があり、クレオニュモスに権利があるわけで はありません。ところが、そうした運命が私たちを襲ったとすれば、クレオニュモスがすべての財産の相続人となるで しょう。私たちに子どもはいませんし、その他の親族もいません。彼が血においてももっとも近親の者ですし、関係に おいても誰よりも親しい者なのですから。   四六   それですから、この故に法も彼に相続を認めているのですし、私た ちもほかの誰かにこうした相続を許そうとは思いません。生きている時に彼に財産を託し、私たちの財産についての権 限が私たちよりも彼にあるようにはしませんが、死に臨んでは誰よりも愛おしく思う者を押しのけてほかの者を相続者 にするようなことはないでしょう。   四七   それですから、皆さん、双方の中で私たちが遺贈する上でも受け取る上で も近しい者であることがおわかりでしょう。相手方は恥ずかしげもなく、親しさも親族としての近しさもあると主張し ております。何かが遺されていれば取ろうというのです。しかし、遺贈する時になれば、 よ 4 り 4 近く親しいたくさんの者 たちを彼よりも優先することでしょう。 結論   四八   話してきたことを要約します。どうぞ皆さん注意して耳を傾けて下さい。相手方が主張し、皆さんを説得しよ

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二三一 イサイオス弁論集(1) うとしたのは、かの者がこの遺言書を書いたとということですが、後に彼が後悔したことは語らず、今もなお私たちが 彼の財産の何も獲得しないよう望んでおり、彼ら自身には相続を確かなものにしようとしたのだ、としております。   四九   こうしたことを語りながら、彼らは未だ示していないのです。血においてクレオニュモスに より 4 4 近いということ も、親愛の情において彼らの方が私たちより より 4 4 愛情を持っているということも。クレオニュモスを非難しながら、そ れが正しいということも皆さん方に示していないことを思い出して下さい。 五〇   それですから、皆さん方が彼らの言 うことを信ずるのだとすれば、彼らを彼の相続人にするのではなく、クレオニュモスの錯乱を非難すべきなのです。私 たちの言うことを信ずるのだとすれば、彼が遺言書を無効にしようと望んだ時に正常な望みを持っていたと認識し、私 たちは告訴常習者ではなく、このことについて正当な訴えをしていると考えるべきです。   五一   最後に皆さん、皆さ ん方は彼らの発言にしたがってこの問題を判断することはできないということをご銘記下さい。なぜなら、世にも恐ろ しいことになるからです。相手方は私たちが財産の一部を取ることは正当だと認めているのですが、皆さん方が彼らが 全部を取るべきだと投票するならば、です。また彼らが自分たち自身が認めている以上に取るようにお考えになるとす れば、また私たちに相手方が認めているほども認めないとすれば、です。   註 ( 2)  読む限りシモンは遺書に指定されていなかったものと思われる(解題参照) 。

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二三二   第三番弁論      『ピュッロスの財産について』 解  題・・・ ニ コ デ モ ス な る 者 を 偽 証 罪 で 訴 え て い る 裁 判 の 原 告 側 弁 論 で あ る。 裁 判 は ピ ュ ッ ロ ス の 財 産 に 関 わ っ て い る。ピュッロスは彼の妹の息子であるエンディオスを、遺書によって養子にした。彼の財産は養子となったエンディ オ ス に 受 け 継 が れ、 二 〇 年 以 上 を 経 過 し た。 エ ン デ ィ オ ス が 子 供 を 遺 さ ず 死 ぬ と す ぐ に 相 続 権 主 張 * の 申 立 て が 行 わ れた。クセノクレスが妻フィレーのために、妻に相続権があると申立てたのである。これに対してはエンディオスの 弟 ︱︱ そ れ は つ ま り こ の 弁 論 の 話 者 で あ り、 以 後 話 者 と 言 う こ と と し よ う ︱︱ か ら 反 論 が な さ れ、 彼 は 自 分 の 母 が ピ ュ ッ ロ ス の 妹 で あ り、 相 続 権 を 持 つ と 対 抗 し て 主 張 し た。 こ の ま ま で は 裁 定 裁 判 * に 進 む は ず で あ っ た が、 ク セ ノ ク レ ス は こ れ に 対 し、 自 分 の 妻 が 正 式 に ピ ュ ッ ロ ス と 結 婚 し た 妻 か ら の 子 で あ る と す る 宣 誓 証 言 * を 提 出 し た。 こ れ に よ り 裁 定 裁 判 へ の 進 行 は 一 時 頓 挫 す る。 こ の た め 話 者 は ク セ ノ ク レ ス に 対 し 偽 証 罪 訴 訟 * を 起 こ し、 勝 利 し た。 こ れにより裁定裁判は話者側有利に進むはずであったが、今度はこれに対し、クセノクレスはピュッロスの遺書の証人 を提訴すると宣言した。再び相続をめぐる争いは中断し、のみならず今度はエンディオスの正当性をめぐる議論へと 発展していく可能性が生じた。エンディオスの正当性が否定されれば、話者の側への相続の可能性は低くなろう。話 者はそれを妨げるためにクセノクレスの最初の申立ての際の主要な証人であるニコデモスを偽証罪で訴えた。これに 勝利すればクセノクレスの申立てが成り立たないことが明らかになって、彼の相続権主張はもはや進めることは出来 ないだろう、少なくともクセノクレスの側に相続権を主張して裁定裁判を求める理由はなくなる。おそらく、こうし たことが話者側の狙いであったと思われる。その偽証罪訴訟での原告側弁論が本弁論である。     こ れ は 私 訴 * で あ っ て 裁 定 裁 判 で は な い か ら、 原 告 被 告 が あ り、 勝 敗 が あ る。 こ れ ま で に 一 連 の 経 緯 が あ り、 前 に

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二三三 イサイオス弁論集(1) も同じ争点で偽証罪訴訟を争い勝利しているから、議論や証拠はその時の 繰 り 返 し と な っ て い る よ う で あ る。 要 す る に 話 者 の 言 い た い の は、 フ ィ レーは遊女とピュッロスとの間に出来た庶子であり、エンディオスの受け 継いだピュッロスの財産の相続権はないということである。しかし、彼に はそれを証明する決定的証拠がない。そのため彼がとるのは、ありそうな ことの推論である。三タラントンもの財産を持つ家に妹を嫁がせるのに証 人を一人しか用意せず、嫁資についての取り決めも何もしないなどとは考 えられない、これは彼女が遊女であったためとしか考えられない、といっ た推論を多用することとなる。ここからアテナイ人の結婚に対する考えや 嫡子庶子の見方を、いろいろな形で推測することが可能であろう。     弁論の年代はわからない。二二節に言及される人物が前三四〇年代後半 に最後に現れることが知られるが、そこからその人物の生年を知ることも できない。エドワーズは前三八九年頃とするウィーヴァーの推測を紹介し ている。   〈  梗 概・・・ ピ ュ ッ ロ ス は 妹 の 息 子 の 一 人 エ ン デ ィ オ ス を 養 子 に し た。 エ ン デ ィ オ ス は 二 〇 年 以 上 そ の 財 産 を 保 持 し た 後 に 死 ん だ。 ク セ ノ ク レ ス が 自 分 の 妻 フ ィ レ ー の た め に そ の 財 産 を 求 め て 訴 え を 起 こ し た。 彼 は 宣

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二三四 誓 証 言 * を 提 出 し て、 彼 女 が ピ ュ ッ ロ ス の 嫡 出 の 娘 で あ る と し て、 エ ン デ ィ オ ス の 母 の 財 産 に 対 し て 異 議 を 申 し 立 て た * 。 し か し ク セ ノ ク レ ス は 偽 証 罪 で 有 罪 と さ れ た。 そ の 時 ニ コ デ モ ス も 法 に 則 り 妹 を ピ ュ ッ ロ ス に 嫁 が せ、 そ こ か ら フ ィ レ ー が 生 ま れ た と 証 言 し た。 エ ン デ ィ オ ス の 弟 は、 彼 女 は ピ ュ ッ ロ ス が 遊 女 か ら 得 た 庶 子 で あ る と 主 張 し、 そ の よ う な 者 と し て エ ン デ ィ オ ス に よ っ て ク セ ノ ク レ ス に 与 え ら れ た と 主 張 し た。 議 論 は 状 況 証 拠 に 基 づ き、 訴えはニコデモスに対する偽証罪である。 〉 序文     裁判員の皆さん、私の母の兄ピュッロスは嫡子を持たなかったため、私の兄エンディオスを自分の子供としまし た。エンディオスは彼の遺産を相続し、二〇年以上を経過しました。その間彼の財産を保持しておりましたが、誰もこ れ に 文 句 を 言 い ま せ ん で し た し、 彼 の 相 続 権 に 異 議 を 申 し 立 て る * 者 も お り ま せ ん で し た。   兄 は 去 年 死 ん だ の で す が、 死 者 の 相 続 を 無 視 し、 自 分 が 私 た ち の 伯 父 の 正 当 な 娘 で あ る と 主 張 し て フ ィ レ ー と そ の 後 見 人 * コ プ ロ ス 区 の ク セ ノクレスがやって来、死んで二〇年以上にもなるピュッロスの財産を三タラントンに上ると記載した上、それを得る権 利があると申立書を提出したのです。   私たちの母が︱︱つまりピュッロスの妹ですが︱︱異議を申し立てると、相 続 権 を 主 張 し て い る 女 性 の 後 見 人 は 宣 誓 証 言 * を 提 出 し て、 私 た ち の 母 に は 相 続 権 は な い、 ピ ュ ッ ロ ス に は 嫡 出 の 娘 が 存在するのだから、もともと財産はその娘のものなのだ、などと恐ろしくも主張したのです。私たちは皆さん方のもと でこの宣誓証言を提出した者を非難すべきだと考え、   その者が偽証していることを完膚なきまでに明らかにしよう と、 皆 さ ん 方 の も と に 偽 証 罪 訴 訟 * を 提 出 し 勝 利 し た の で す。 そ し て、 そ こ な る ニ コ デ モ ス を そ の 裁 判 の そ の 場 で、 証 言においてもっとも恥ずべき者であることを示したのです。何せこの者は、私たちの伯父に自分の妹を法に則って嫁が

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二三五 イサイオス弁論集(1) せたなどと証言したのですから。   そして先の裁判においても彼の証言が嘘であると考えられることが、この時有罪 となったクセノクレスが最も明瞭に証明しております。と言うのは、もし被告ニコデモスがその時偽証をしていると認 められなかったとしたら、このクセノクレスも宣誓証言についての罪を免れて去ったことでしょうし、伯父の財産の相 続人は、正規の娘であると宣誓証言されているフィレーとなり、私たちの母とはならなかっただろうからです。   し かし実際は、クセノクレスは有罪とされ、財産はピュッロスの正規の娘であると申立てた者からは引き離されたのです から、理の必然として彼の証言は同様に偽証で有罪となるのです。まさに同じことについて宣誓証言し、偽証罪の裁判 を争ったのですから。伯父の財産の相続権を主張した女性は正妻から生まれた娘か遊女からの娘かを争ったのです。皆 さ ん 方 も、 私 た ち の 対 抗 宣 誓 * 、 被 告 の 証 言 書、 偽 証 と さ れ た 宣 誓 証 言 を お 聞 き に な れ ば お わ か り に な る で し ょ う。     どうぞそれらを取り皆さんに読んで下さい。 対抗宣誓、証言書、宣誓証言   その場で直ちにニコデモスが嘘の証言をしていると決せられたことが示されました。同じことについて投票をなそう としている皆さん方の前でも彼の証言について証明されるのが相応しいかと思います。   彼女についての疑問     しかし、まず、三タラントンの家を獲得すべく証言している者がその時いくらを与えて妹を嫁がせると言ってい たのか、知りたいものです。ついで、この正妻は夫が生きているうちに去ったのか、夫が死んでから家を出たのか知り

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二三六 た い で す し、 妹 を 嫁 が せ た と 彼 が 証 言 し て い る そ の 男 が 死 ん だ 際、 誰 か ら 妹 の 嫁 資 * を 取 り 戻 し た の か、      あ る い は 取 り 戻 し て い な い と す れ ば、 扶 養 料 訴 訟 * か 嫁 資 返 還 訴 訟 * か 二 十 年 の 間 に、 ど ち ら の 裁 判 を 財 産 を 持 っ て い た 男 にもたらすのが良いと考えたのか知りたいものです。これらについて、被告の証言によれば、正妻である女性のために 何もなさなかった理由を、何とか教えていただきたいものです。 一〇   さらに加えて、もし誰かこの者の妹が正妻であ ると考える人間がいるのか、伯父が彼女を知る前に親しかった者とか、伯父が知り合っている間につき合った者とか、 あるいは伯父が死んだ後につき合った者とか、そうした者がいるのか知りたいものです。兄である被告が妹とつき合っ た者には誰に対しても同じ条件で彼女を与えたのは確かですから。   彼女が正妻ではあり得ないこと   一一   こうした者を一人一人挙げて行かなければならないとすれば、それは小さからぬ仕事となるでしょう。もし皆 さんがそれを命ずるとすれば、私は何人かに言及しましょうが、皆さんの中にそれを聞くのを不快だと思われる方がい るとすれば︱︱ちょうど私自身も、彼らについて何かを語ることにそうした思いを持つのですが︱︱、私は皆さん方に 先の裁判で証言された同じ証言書を提出しましょう。そのどれについても被告たちが非難しようとはしなかったもので す。しかし、望めば誰のものにもなったと彼らが認めている女性を、どうして正妻であると考えることができるでしょ うか?   一二   同じことについての証言書を彼らは非難しようとしなかったのですから、それに同意したのです。皆さ ん方も同じ証言を聞けば、彼が明らかに嘘の証言をしていること、担当した裁判員が訴えを正しく法にしたがって判決 し、正当ならざる女性に相続権を渡さぬようにしたことを、ご了解になるでしょう。それを読んで下さい。そちらは水 を止めてください。

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二三七 イサイオス弁論集(1) 証言書   一三   被告が伯父に嫁がせたと証言している女性は、誰でも望む者のものとなる遊女であり私たちの伯父の妻ではな い こ と は、 そ の 他 の 親 族 や 伯 父 の 近 隣 の 者 た ち が 皆 さ ん 方 に 証 言 し て お り ま す。 被 告 の 妹 が 伯 父 の も と に い た 時 に 起 こった、多くの喧嘩やどんちゃん騒ぎや暴行沙汰が彼女をめぐって証言されております。   一四   しかし、結婚してい る女性をめぐってどんちゃん騒ぎを起こそうなど誰も考えないでしょう。結婚している女性が夫とともに宴会に行こう などしないでしょう。別の男性と食事をしようなどと望まないでしょうし、たまたま会った男であればなおさらでしょ う。しかし、被告たちはこうした証言の何一つに対しても非難しようなどと思わなかったのです。もう一度、証言書を 皆さんのために読んでください。   証言書   一五   彼女と近付きのあった者たちの証言についても読んでください。彼女が望む者に対する遊女であり、誰か一人 から子供を持つような女性ではないことが明らかになるでしょう。どうぞ皆さんに読んでください。

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二三八 証言書   一六   さて、被告が私の伯父に嫁がせたと証言している女性が、誰でも望む者のものとなる女性だったことを、皆さ ん方に証言している者すべてによって証言されていることをご記憶ください。そして、彼女が誰にも嫁いでおらず、誰 とも一緒に暮らしていないことが明らかなことも、ご記憶ください。 こうした話が生まれた原因   では、私たちの伯父にまでこうしたことが生じたのだとしたら、どのような状況でこうした女性との結婚が生じたと 思われたのか、考えてみましょう。   一七   すでに若者のある者たちはこうした女に恋い焦がれ、愚かしさに駆り立て られて自らをこのような破滅へと導いたのです。それですからこのことについて先の裁判で被告たちに対してなされた 証言と、この事実そのものについてありそうなことを考えること以上に確かなことをどのようにして知ることができる でしょうか?   一八   彼らの言うことの無軌道ぶりをどうぞお考えください。彼の言うところによれば、三タラントン の財産を持つ家に妹を嫁がせようという男が、こうしたことをしようとする際に自分のためにたった一人のピュレティ デスという証人を立ち会わせただけで事を運んだというのです。その証言書は先の裁判で被告たちが提出しましたが、 ピ ュ レ テ ィ デ ス は そ れ を 本 物 と は 認 め ず、 証 言 し た こ と に も 同 意 せ ず、 そ れ が 真 実 か ど う か も 知 ら な い と 言 っ た の で す。 一九   被告たちがこれを偽の証言として提出したことを明らかにする大きな証拠です。と言うのも皆さん方は誰も ご存じでありましょう。証人の前でなすべきとあらかじめわかっている仕事に向かう時にはいつでも、もっとも近しい

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二三九 イサイオス弁論集(1) 親族や親しい友人といった人たちをそうした仕事に伴うのが通例です。あらかじめわかっておらず突然に生じた仕事で は、われわれ各人はたまたま居合わせた者を証人にするのです。   二〇   証人そのものに関しては、どのような人物で あれ、その場にいた者を証人として用いることをわれわれは余儀なくされます。しかし、病気だとか外国に行っている とかいう者から証言書を取る場合には、市民の中でももっとも立派な者、われわれによく知られている者に誰でも頼ろ うとするものです。 二一   しかも一人や二人ではなく、出来る限り多数の者からの証言書を作ろうと誰でもがするもの です。後になって証言書について作られたことを否定することを許さぬようにです。皆さん方は多くの紳士に同じこと を証言させて信頼性を高めようとするものです。     二二   そのためクセノクレスはベサ区の私たちの工房に仕事でやって来た時、たまたまそこに居合わせた者を退去の 証人として使うべきではないと考え、そこへ自分と共にスフェットス区のディオファンテス︱︱この者は先の裁判で彼 の た め に 証 言 を し た 人 物 で す が ︱︱ を 引 き 連 れ て 行 き、 さ ら に エ レ ウ シ ス 区 の ド ロ テ オ ス と 自 分 の 兄 弟 の フ ィ ロ カ レ ス、そしてその他大勢の証人を、ここからそこまで約三百スタディオ ン ( 1 ) を来るよう呼んだのです。 二三   しかし、町で 行われた自分自身の子供たちの祖母の婚約については、彼の言うところによれば、自分の親族の誰かを呼んで証人にす ることはせず、エルキア区のディオニュシオスとアイタリダイ区のアリストロコスを証人としたのです。これら二人の 前で町で証言書を作ったと被告たちは言っているのです。これほど重要な契約書を、何についてであれその他の誰もが 信用しようとしないであろう人物の前でです。 二四   たぶん、ピュレティデスを証人に証言書を作ったと被告たちが主 張している事柄は、神に誓って些細な取るに足らないことだったのでしょう。それだから事を軽視していることは驚く

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二四〇 にあたらないのです。しかし、どうしてそうなるのでしょうか?   まさにこのことについて偽証の裁判が生じ、クセノ クレスが被告となりました。自分の妻は遊女からの子か、正妻からの子かが問題となったのです。いったい、この証言 書がもし真実なら、自分の親族の全員を呼ぶべきだと彼は考えなかったのでしょうか?   二五   神に誓って絶対そうし たはずです。そう私は考えます。もしそれが真実ならばです。しかし、クセノクレスがそうしなかったのは明らかで、 彼はたまたま居合わせた二人を証言書の証人にしたのです。 本事件についての推論   そこなるニコデモスは、三タラントンの家に妹を嫁がせるのにたった一人の証人を呼んで連れて行っただけだと主張 しています。   二六   被告はピュレティデスのみが彼の前にいて事をなしたのだそうですが、ピュレティデスはそれを 否定しています。こうした女性を嫁がせようとする際に、リュシメネスとその兄弟、カイロンとピュラデスは婚約式に 呼ばれ立ち会ったと主張しています。彼らは花婿の叔父にすぎないのです。 二七   それですから、事が信じられるかど うかを皆さん方は考えなければなりません。と言うのは、私自身はありそうなことから考えて、ピュッロスは親族全員 か ら 事 を 隠 し た い と 願 っ て い た と 思 う の で す。 自 分 の 叔 父 を こ う し た 過 ち の 証 人 と し て 呼 ぶ 以 外 に、 何 か に 合 意 し た り、自分の家族には何の価値もないことをなしたりしようとしていたのだとしたらです。 別の可能性について   二八   さらに私は驚かざるを得ません。嫁がせる方も受けいれる方もこの女性のための嫁資について何の取り決めも なされていないとすればです。もし彼がいくらかを払ったのだとすれば、居合わせたと主張している者たちによる証言

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二四一 イサイオス弁論集(1) 書に与えられた金額についても記載されているのがありそうなことでしょう。しかしまたもし伯父が愛情に駆り立てら れてこうした女性と婚儀をなしたのだとすれば、嫁がせた者がこの女性のために伯父が持つことを認めた金額について 明 ら か に す る の が あ り そ う な こ と で す。 伯 父 が 欲 し た 時 に こ の 女 性 を 容 易 に 離 縁 す る こ と が 出 来 な い よ う に で す。   二九   また、嫁がせようとする者がこうした女性を受け入れる者よりもはるかに多くの証人を呼ぶことの方がありそう です。そもそも、こうした結びつきが永続することが少ないことを皆さん方で知らない方はいないでしょう。嫁がせた と主張している者は、たった一人の証人のもとで嫁資についての合意もなく三タラントンの家に妹を嫁がせたと言って おります。そして叔父たちは嫁資なしにこうした女性を娶った甥のためにそばにいたと証言しております。 三人の叔父について   三〇   この叔父たちはまた、娘の十日 式 ( 2 ) で娘であることが宣言される際にも、甥に呼ばれて出席していたと証言して います。 しかし、私は怒りを禁じ得ません。 自分の妻のために義父からの相続を主張している男がその女性の名前をフィ レーと書いているのに、ピュッロスの叔父たちは十日式で祖母の名前を取ってクレイタレテと父親が名づけたと証言し ているのですか ら ( 3 ) 。   三一   この男は八年以上の間自分の妻の名前を知らなかったというのですから、驚きです。自分 の証人たちからもっと前に教えてもらえなかったというのでしょうか?   妻の母親が娘の名前をこれほど長い間に話さ なかったというのでしょうか?   あるいは伯父であるニコデモスその人は話さなかったのでしょうか?   三二   いや、 祖母の名前の代わりに、もし父親が名前を付けたことが知られているとすれば、この男が彼女の名前をフィレーと登録 したのは、まさに父親の財産を彼女のために主張した時でした。何故でしょうか?   父親がつけた祖母の名前さえこの 男は自分の妻からなくしてしまおうとしたのでしょうか?   三三    しかし、皆さん、明らかではないでしょうか?  

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二四二 彼らが昔起こったと証言していることは、はるか後 に ( 4 ) 財産要求のために作られたということではないでしょうか?    ピュッロスの娘、つまり被告の姪ということになりますが、そのための十日式に呼ばれたと主張している者たちが、そ れ が い つ で あ れ、 か く も 遠 い 日 の こ と を 正 確 に 十 日 目 に 父 親 が ク レ イ タ レ テ と 名 づ け た と 記 憶 し て 裁 判 所 に 来 る 一 方 で、 三四   誰よりも近しい親戚たち、つまり父親や伯父や母親ですが、その者たちが、ピュッロスの娘であると主張し ている者の名を知らないということはあり得ないことでしょう。彼らは、主張していることが真実だとすれば、絶対に 知っているはずです。しかし、彼らについては、また後ほど語ることとしましょう。 ニコデモスがなしたはずのこと   三五   ニコデモスの証言については、彼が明らかに偽証していることを判定するのは難しいことではありません。も し法に従いながら、ある人が計算もできないほどの金を与えたとして、妻が夫を離婚する場合あるいは夫が妻を追い出 す場合、彼が嫁資として勘定せずに与えた金を取り立てようとすることは許されないのです。もし誰であれ嫁資につい て の 同 意 な し に 妹 を 嫁 が せ た と 言 う と す れ ば、 そ れ は 自 分 が 恥 知 ら ず な 者 で あ る こ と を 明 瞭 に 証 明 し て い る の で す。 三六   婚姻から彼はどんな利益を得るというのでしょうか?   もし、娶った者がいつでも望む時に妻を追い出すことが 出来るとすればです。そして、皆さん、如何なる嫁資の合意も彼女についてなされていなかったとしたら、伯父にそれ が可能であることは明らかでした。こうした条件でニコデモスは私たちの伯父に妹を嫁がせたというのでしょうか?   彼女にずっと子供がなかったことを知っており、彼女が子供を持つ前に何かがあったとしたら、合意された嫁資は法に したがって彼のものになるというのにです。 三七   一体皆さん方には信じられるでしょうか?   ニコデモスがこれほど 金のことに淡泊で、こうした大金について気にもかけなかったなどということが。私には到底信じられません。さらに

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二四三 イサイオス弁論集(1) 私たちの伯父がこんな男から妹を娶ろうなどと考えたでしょうか?   自分が属していると言っているフラトリアの一人 か ら 市 民 詐 称 の 訴 訟 * を 受 け、 四 票 差 で 市 民 に と ど ま っ た よ う な 男 か ら で す。 私 が 真 実 を 語 っ て い る こ と を 示 す た め、 証言書を読んでください。 証言書   三八   かくて被告は私たちの伯父に嫁資なしで自分の妹を嫁がせたことを証言しました。しかし、妹が子供を産む前 に何事かが彼女に生じたとしたら嫁資は彼のものとなるのです。さあ、この法律を取って皆さん方に読んでください。 法律   三九   ニコデモスが金のことに非常に淡泊で、彼の言うとおりなら、自分の利益について気にかけもしなかったとい うことが、皆さん方に信じられましょうか?   いや、私には気にかけたとしか思えません。自分の所の女性を愛人とし て与える者でさえあらかじめ愛人に与えられるものについて定めておくものです。しかし、自分の妹を嫁がせようとし たニコデモスは、彼の主張のとおり、法にしたがっただけの結 婚 ( 5 ) をさせようとしたというのでしょうか?   わずかな金 のために皆さん方に証言しようと望む、不誠実この上ない男が?

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二四四 ニコデモスがエンディオスの相続に異議を申し立てなかったこと   四〇   この男の不誠実ぶりについては、私が何も語らないとしても、皆さん方の多くがご存じでありましょう。私が 彼について何かを語ろうとするなら、証言者に困らないほどです。しかし、私は最初につぎのようなやり方でこの男の 証言における恥知らずぶりを証明しましょう。さあ、ニコデモスよ、お前がピュッロスに妹を嫁がせたとして、そして 妹 か ら 嫡 出 の 娘 を 彼 に 残 し た と し て、     ど う し て 私 た ち の 兄 に 対 し て 嫡 出 の 娘 無 視 の 相 続 で あ る と し て 申 立 を 行 わ な か っ た の か?   私 た ち の 伯 父 に よ っ て 遺 さ れ た 娘、 と い う の が お 前 の 主 張 で あ ろ う が。 相 続 請 求 * の 中 で、 お 前 の姪が庶子とされることを知らなかったのか?   相続の請求がなされた時には、娘は遺産を遺した者の庶子とされたろ う。   四二   さらにその前にピュッロスは私の兄を自分の息子にしていたのです。死に際して嫡出の娘を遺していたな ら、誰であれ自分の財産を、その娘を無視して遺言で何者かに託したり与えたりすることはできないのです。このこと はこれから読まれる法を聞けば了解されましょう。この法を皆さんに読んでください。 法律     妹 を 嫁 が せ た と 証 言 し て い る 人 物 が、 こ う し た こ と の 何 か が 起 こ る の を 許 し て い た と 皆 さ ん 方 に は 思 わ れ ま すか?   エンディオスが財産の相続請求を出した際、自分の姪のために異議申立て * を行うべきではなかったでしょう か?   ま た 彼 女 の 父 の 財 産 が エ ン デ ィ オ ス の も の と な る の は 正 義 に 悖 る と 宣 誓 証 言 を 提 出 す べ き * で は な か っ た で し ょ うか?   しかし、私たちの兄が相続請求をした時には誰も彼に異議を申し立てなかったのです。証言書を読んでくださ

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二四五 イサイオス弁論集(1) い。 証言書   四四   それですから、この相続請求が出された時にニコデモスはこの相続に異議を申し立てようとはしなかったので すし、自分の姪がピュッロスの遺した嫡出の娘であると宣誓証言の提出もしなかったのです。 エンディオスが嫁がせたことに対して     さ て、 申 立 て に 関 し て は 誰 か が 皆 さ ん 方 に 嘘 の 言 い 訳 を し た か も 知 れ ま せ ん。 被 告 は 自 分 た ち が 知 ら な い こ と を 装 っ た の か も 知 れ ま せ ん し、 私 た ち が 嘘 を 言 っ た と 非 難 さ え し た か も 知 れ ま せ ん。 で す か ら こ う し た こ と は 脇 へ 置いておきましょう。クセノクレスにエンディオスがお前の姪を嫁がせたとき、ニコデモスよ、正妻がピュッロスのた め に 産 ん だ 娘 を 遊 女 が 彼 の た め に 産 ん だ 娘 か の よ う に 嫁 が せ る の を 許 し た の か?     女 相 続 人 * が 養 子 に よ っ て か く も 虐 待 さ れ、 父 か ら 彼 女 に 与 え ら れ た 財 産 を も 奪 わ れ 非 道 い 目 に 遭 っ て い る と 役 人 に 対 し 弾 劾 訴 訟 * も な さ な か っ た の か?   唯 一 こ れ が 訴 追 者 に 危 険 が な い 裁 判 で あ り、 望 む 者 が 女 相 続 人 を 助 け る こ と が 出 来 る 裁 判 だ と い う の に か?   四七   役人のもとへの弾劾には罰金は課されません。たとえ弾劾を起こした者が一票の投票も得られないとしてもで す。 さ ら に 裁 判 供 託 金 * も 訴 訟 手 数 料 * も 弾 劾 の 場 合 に は 一 銭 も 出 す 必 要 が な い の で す。 弾 劾 訴 訟 を 起 こ す 者 に は 何 の 危険もないのに、弾劾訴訟で有罪とされた者には莫大な金額が課されるのです。   四八   されば、被告の姪が正式の結 婚から私たちの伯父に産まれた娘だとした場合、いったいニコデモスは彼女を遊女からの娘であるかのように嫁がせる

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二四六 のを許したでしょうか?   こうしたことが起こったとして、いったい被告は、このように姪を嫁がせたエンディオスは 姪を虐待しているとして役人に弾劾訴訟を提起しなかったのでしょうか?   そして、今お前が不敵にも証言したことが 真実なら、すぐその場で犯罪者を罰したのではないのか?   それともお前は何も知らないふりを装ったのか?   四九   彼女に与えられた嫁資から気づかなかったのか?   このことだけからでも怒ってお前はエンディオスを弾劾訴訟すべき だった。三タラントンの財産の家でありながら、嫡出の娘に千ドラクマの嫁資をつけて誰かに与えるだけで良いと彼が 考えたとすればだ。こうしたことに怒って、被告はエンディオスを弾劾しようとしなかったのでしょうか?   神にかけ て、彼の言うことが真実であるなら、彼はそうしたに違いないのです。 五〇   そもそもエンディオスであれ誰であれ、 養子である者が既存の法を軽視するほど愚かで、遺産を残した者に嫡出の娘があった場合自分の代わりに他人にその娘 を 与 え る と は 私 に は 思 え ま せ ん。 嫡 出 の 娘 か ら の 子 供 が 祖 父 の 全 財 産 の 相 続 権 を 持 つ こ と を よ く 知 っ て い る は ず だ か らです。このことを知ったうえで、誰が自分のものを他人に渡したりするでしょうか?   しかもその財産は被告たちが 異論を申し立てるほどのものだというのにです。 五一   養子の誰がいったいこれほど厚顔無恥になれると、皆さんには 思われますか?   父の遺産の十分の一の財産も与えずに嫡出の娘を嫁がせるほどにです。こうしたことが起こったとし て、自分が母親を嫁がせたと主張している伯父たる被告が、それを許すと皆さんには思われますか?   私にはそうは思 われません。彼は相続について異議を申し立て、宣誓証言に訴え、役人へ弾劾訴訟を提起し、そしてそれ以外により強 力な手段があれば、何であれなしただろうと思うのです。 五二   エンディオスの方は遊女からの子のように、ニコデモ スが自分の姪だと主張している女性を嫁がせたのです。被告の方は、エンディオスに対してピュッロスの財産について 異議を申し立てようとは考えもせず、遊女の娘であるかのように嫁がせた彼を役人に弾劾訴訟を提起することもせず、 彼女に与えられた嫁資に怒りもしなかったのです。何であれ起こるままにしたのです。しかし、法はこれらすべてのこ

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二四七 イサイオス弁論集(1) とについて規定をしているのです。 五三   さて、まず相続請求に関する証言書をもう一度読んでもらい、ついで女性の 結婚に関する法を読んでもらいましょう。 証言書   法もまた読んでください。 法   被告の証言書も取り上げてください。 証言書   五四   原告たる者、被告その人の行動と皆さん方のあらゆる法に頼る以外に、被告の偽証をより明瞭に証明できるど んな方法があるというのでしょうか? クセノクレスの行動について   さて、被告については、ほとんど言うべきことを言いました。被告の姪を妻に持つ男について、この者の行動もまた

参照

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