全文

(1)

報 告

01

01

報 告

8Kスーパーハイビジョン記録のための

SSDを用いた高速映像記録技術の開発

梶山岳士  菊地幸大  宮下英一

High-throughput Video Data Transfer of

Striping with SSDs for 8K Super Hi-Vision

Takeshi KAJIYAMA,Kodai KIKUCHI and Eiichi MIYASHITA

ルスペック8Kスーパーハイビジョン映像の圧縮記録装置の実現に向けて,最大 2.4GBpsに達する高速映像データ用の記録再生技術を開発した。複数のメモリーへ のデータ転送制御に伴う付加的な処理(オーバーヘッド)を削減する映像データに特化した データ転送制御手法を考案し,シーケンシャルな書き込みや読み出しだけでなく,映像フレー ム単位のランダム読み出しにも高い性能を発揮することを明らかにした。提案した手法を実装 した8Kスーパーハイビジョン圧縮記録装置を試作し,通常の記録再生と早送りや巻き戻し,ジョ グシャトルを使った特殊再生が良好に動作することを実証した。

要 約

W

e have developed a high-throughput recording and playback method

for full-specification 8K Super Hi-vision(8K)video whose data rate is up to 2.4GBps. The method fully exploits hardware with a specific design for handling large amounts of data, sequential transfer, and frame unit random reads including fast-forward, rewind and jog-shuttle. Steady recording and playback, including frame unit random reads, were demonstrated on an 8K recorder and player.

(2)

ベルが設定可能である。その中でも,ストライピング(RAID 0)と呼ばれる手法は,N個のメモリーに対してN分割した データを記録する方式であり,冗長性は持たないが,N倍 の記録容量と,理論上はN倍の記録再生速度を達成できる。 しかし,実際にRAIDを適用する場合,シーケンシャル 転送*6の性能とランダム転送*7の性能を両立させることが 難しい。特にRAIDを搭載している一般的な製品はランダム 転送性能を重視する傾向が強く,シーケンシャル転送性能 が重視される映像データの記録に適用した場合には期待す る性能が得られない。そこで本研究では,データサイズの 大きい映像のシーケンシャル転送性能の向上にも適用可能 なストライピング技術,およびデータ転送制御手法を提案す る。本稿では,8Kの1フレーム当たりのデータサイズが圧 縮時でも最大20MBに達する点に着目し,記録時のシーケ ンシャル書き込み,再生時のシーケンシャル読み出し,さら にフレーム単位のランダム読み出しが発生する早送り・巻き 戻し・ジョグシャトルを使った特殊再生の各データアクセス パターンを考慮しながら,最大2.4GBpsに対応可能な高速 記録技術について述べる。

1.はじめに

ハイビジョンの16倍の約3,300万画素を持つ8Kスーパーハ イビジョン(以下,8K)1)~5)は,超高精細映像と22.2マル チチャンネル音響から成る高臨場感映像・音響システムであ る。特に,フレーム周波数120Hz,量子化ビット数12bit,赤・ 緑・青(RGB:Red Green Blue)すべての色について7,680 ×4,320画素を有するフルスペック8Kの非圧縮の映像転送速 度は18GBps*1(144Gbps)に達する。当所ではこれまでに, 高速な信号の記録に映像の圧縮を適用した圧縮記録装置 の開発を進めてきた6)7)。この装置は,放送局内における 編集をはじめとした番組制作業務で使用できるように,低 い圧縮率(高画質な圧縮)を採用しているため,圧縮後の 転送速度は,4:4:4フォーマット*2の圧縮映像データと音声 データ等を合わせて2.4GBps(約20Gbps,1フレーム当たり 20MB),4:2:0フォーマット*3で1.2GBps(約10Gbps,1フレー ム当たり10MB)となる。したがって,メモリーには速い記 録再生速度が求められる。 このような高速の映像データ用のメモリーとして,ハード ディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)よりも高い転送 速度を有するソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)8)が注目されている。SSDは,記録媒体として不揮発 性の固体メモリーであるNAND型フラッシュメモリー9)*4 採用しており,耐衝撃性の観点からも,着脱交換と持ち運 びを想定したメモリーに適している。しかし,一般的なSSD は,SATA(Serial ATA:シリアルエーティーエー)10)*5 呼ばれるインターフェース規格の制約から最大転送速度が 0.6GBpsにとどまり,単体では8Kの圧縮記録に対応できない。 このSSDを用いて8Kの圧縮記録を実現するためには, RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)11)と呼

ばれる,メモリーの並列化技術が有効である。RAIDは, 記録再生速度と記録容量,および信頼性に応じて複数のレ *1 Bpsは,1秒当たりの転送可能なデータ量をバイト数で表した単位。 *2 映像の色成分を間引かずに,すべて記録する高画質なフォーマット。 *3 映像の色成分を間引いて記録するフォーマットの1つ。赤,青では,元の 1/4の情報量となっている。 *4 不揮発性固体メモリーの一種であり,安価に大容量化することが可能で ある。書き込みと消去は高速であるが,バイト単位の書き換えは不得意と する。 *5 コンピューターとメモリーを接続するための高速シリアルインターフェース。 第2世代規格のGen2は最大0.375GBps(実効的には0.3GBps),第3 世代のGen3は最大0.75GBps(実効的には0.6GBps)の伝送が可能。 *6 データの書き込み,読み出しを連続したアドレスに対して行うデータアク セスパターン。 *7 データの書き込み,読み出しを連続していないアドレスに対して行うデー タアクセスパターン。 1図 ハードウエアストライピングの構成例 SSD ホストインターフェース

PCIe Gen2 x 8 Lane (最大4GBps)

SSDインターフェース SATA Gen3

(3)

報 告

01

2.ストライピング技術

本章では,まずストライピングの構成例を示し,その性 能評価について述べる。評価結果を踏まえて,SSDの並列 数増加に伴い発生する転送ボトルネックの原因と,転送速 度改善の基本的な考え方を説明する。 2.1 ストライピングの構成例 ストライピング制御は,ハードウエアストライピングとソフ トウエアストライピングに分類できる。 ハードウエアストライピングの構成例を1図に示す。ハード ウエアストライピングは,専用のRAIDボードで提供され,専 用のLSI(Large-Scale Integration)がRAID 0コントローラー の役割を担うため,高い転送性能が期待できるが,接続可 能なSSDの最大数は製品ごとに決められている。一般的に, ホストインターフェースとしてPCI Express(PCIe)12)*8 SSDのインターフェースとしてSATAまたはSerial Attached SCSI(SAS)*9を備える。 ソフトウエアストライピングの構成例を2図に示す。ソフト ウエアストライピングは,ホスト内部のソフトウエアとして RAID 0コントローラーが動作するため,転送性能はCPU の性能と負荷に依存するが, PCIeインターフェースを複数の SATAまたはSASインターフェースに変換する拡張ボードを 使用することにより,SSD接続数の拡張が可能である。 次節では,これら2つの異なる特徴を持つストライピング 制御について,実際にどのように転送ボトルネックが発生す るのかを調べた結果について述べる。 2.2 ストライピングの性能評価 ストライピングは,SSDの並列数Nに対して,理論上はN 倍の転送速度が期待できるが,実際にはNの増加に伴って 転送速度が飽和する傾向がある。この現象を詳細に調査す るために,1図に示すハードウエアストライピングの構成に おいて,製造メーカー,記録容量,コネクター形状の規格 が異なる3種類のSSD(SSD A, B, Cと呼ぶ)を用いて転送 速度を測定した。RAIDボードは,SSDを最大8個接続可 能な製品を用意した。ホストとなるパソコン(PC:Personal Computer)とRAIDボードの間のインターフェースである PCIeの転送帯域(=最大転送速度)は,Gen2×8レーンの 転送帯域(最大転送速度4GBps)となる。また,RAIDボー ドとSSDの間のインターフェースであるSATA の転送帯域 は,SSD1個 当たりGen3の 転 送 帯 域( 最 大 転 送 速 度 *8 コンピューターの拡張バス規格。高速シリアルインターフェースで,規格 上は伝送路(レーン)の数を最大32レーンまで拡張可能である。第2世代 規格はGen2と呼ばれ,レーン当たり5Gbps(実効的には0.5GBps)の伝 送が可能である。 *9 コンピューターとメモリーの接続で使用される高速シリアルインターフェー ス。パラレルバス接続のSCSI(Small Computer System Interface)の 後継規格。 1表 ハードウエアの仕様 ホストPC

CPU: Core i7 (Intel)

Mother Board:P8Z68 (ASUS) OS:Windows7 (Microsoft) RAIDボード ARC-1882i (areca)

拡張ボード SAS 9201-16i (AVAGO Technologies) SSD A SSD 840 PRO (Samsung),256GB,SATAコネクター SSD B PX-256M2P (Plextor) ,256GB,SATAコネクター SSD C PX-128M5M (Plextor) ,128GB,mSATAコネクター※1 ※1 SATAインターフェース用の通常のSATAコネクターと 比較して小型のコネクター。 2図 ソフトウエアストライピングの構成例 ホスト (PC) 拡張ボード SSD SSD SSD ソフトウエア RAID 0 コントローラー …… ホストインターフェース

(4)

因も考えられる。 同様に,2図に示す構成のソフトウエアストライピングに ついても転送性能を測定した。拡張ボードは,SSDを最大 16個接続可能な製品を用意した。ホストPCと拡張ボードの 間のインターフェースの転送帯域は,ハードウエアストライピ ングと同じくPCIe Gen2×8レーンの転送帯域(バス幅4 GBps)となる。拡張ボードとSSDの間のインターフェースは SATA Gen3(バス幅0.6GBps)であり,SSDを16個接続し た場合の転送帯域は最大9.6GBpsとなる。ソフトウエアスト ライピング時におけるSSD並列数Nと,シーケンシャル書き 込み速度およびシーケンシャル読み出し速度との関係を, それぞれ5図と6図に示す。図中の実線は測定結果,破線 はSSD単体の転送速度をN倍した理論値を示す。5図に示 す書き込み速度の測定結果によると,N=8の条件で理論 値を大幅に下回り,N=16の条件でほぼ飽和している。書 き込みの最大速度はSSD BがN=16の条件で2.2GBps程度 であるが,SSD A,SSD Cは2GBpsを下回っており,いず れもPCIeの転送帯域の上限である4GBpsの半分程度と 0.6GBps)であり,SSDを8個接続した場合の転送帯域は 最大4.8GBpsとなる。測定に使用した各ハードウエアの仕様 を1表に示す。 ハードウエアストライピング時におけるSSD並列数Nと, シーケンシャル書き込み速度およびシーケンシャル読み出し 速度との関係を,それぞれ3図と4図に示す。図中の実線 は測定結果,破線はSSD単体の転送速度をN倍した理論値 を示す。3図の測定結果によると,3種類すべてのSSDに ついて,N=4の条件まで転送速度は増加を続けるが,N= 8の条件でほぼ飽和して理論値を大幅に下回っていること が分かる。同様に4図に示す読み出し速度についても,N =8の条件で飽和している。書き込み速度,読み出し速度 ともに最大転送速度は2GBpsを下回っており,これはPCIe の転送帯域の上限である4GBps(8×0.5GBps)の半分以 下となっている。また,SSD Bに関しては,書き込み,読 み出しともにN=8の転送速度がN=4の転送速度を下回っ ているため,転送ボトルネックとしては,RAIDボードのハー ドウエアの性能限界だけではなく,並列数Nに関連する要 3図  ハードウエアストライピングにおける SSD並列数Nとシーケンシャル書き込み速度 5図  ソフトウエアストライピングにおける SSD並列数Nとシーケンシャル書き込み速度 4図  ハードウエアストライピングにおける SSD並列数Nとシーケンシャル読み出し速度 6図  ソフトウエアストライピングにおける SSD並列数Nとシーケンシャル読み出し速度 SSD並列数N シーケンシャル書き込み速度(GBps) 1 0 0 4 8 SSD C(理論値) SSD並列数N シーケンシャル読み出し速度(GBps) 1 0 0 4 8 SSD C(理論値) SSD並列数N シーケンシャル書き込み速度(GBps) 4 3 2 1 0 0 4 8 12 16 SSD A SSD A(理論値) SSD B SSD B(理論値) SSD C SSD C(理論値) SSD並列数N シーケンシャル読み出し速度(GBps) 4 3 2 1 0 0 4 8 12 16 SSD A SSD A(理論値) SSD B SSD B(理論値) SSD C SSD C(理論値)

(5)

報 告

01

なっている。この結果に加えて,飽和する転送速度がそれ ぞれ異なることから,転送ボトルネックの要因は単純なハー ドウエアの性能限界だけではないと考えられる。6図の読 み出し速度についても,N=8で大幅に理論値を下回り,さ らにN=16で飽和しており,最大速度はSSD A,B,Cのい ずれも2GBpsを下回った。 2.3 転送ボトルネックに影響を与える要因 前節で述べた転送速度飽和の原因となる転送のボトル ネックとして,次の2つの要因が考えられる。 1つ目の要因はハードウエア的な動作速度の限界であり, ハードウエアストライピングの場合はRAIDボードの動作速 度,ソフトウエアストライピングの場合は拡張ボードの動作 速度およびホストPCのCPUの動作速度に相当する。この要 因はハードウエアの動作周波数やバス幅などに依存するた め,期待する性能を達成するためには,ハードウエアの設 計段階においてボトルネックを作らないことが必須となる。 2つ目の要因は,ホストインターフェース(PCIe)とSSDイ ンターフェース(SATA)の転送オーバーヘッド*10であり,こ れはハードウエアストライピングとソフトウエアストライピン グに共通する要因となる。この要因に対しては,オーバーヘッ ドが存在しても転送可能となるように,ハードウエアの性能 を1.5倍~2倍にすることが考えられるが,8Kのような高速 な映像データの処理では動作周波数などの点で現実的では ない。そのため,転送オーバーヘッドの削減によってインター フェースのボトルネックを作らないことが重要である。

3.映像データ転送特性の解析と

転送速度の改善

本章では,ハードウエアストライピングとソフトウエアスト ライピングの転送速度低下の共通要因と考えられる,PCIe とSATAインターフェースにおけるボトルネックの解消を目的 とし,データサイズの大きい映像データを想定して転送デー タサイズと転送速度の関係を解析した結果を示す。そして, この解析結果に基づいて,転送オーバーヘッド削減と,転 送速度を改善するデータ転送制御手法について説明する。 転送データサイズと転送速度の関係を調査するために, 7図に示すテストボードを用意した。解析にあたり,ホスト PCのCPU動作速度によるボトルネックを排除するために, テストボードはハードウエアストライピングを採用した。テス トボードの内部には3つのFPGA(Field-Programmable Gate Array)を 備え, 内 部 バスのLVDS(Low Voltage Differential Signaling)は,合計4GBpsの帯域幅を確保し ている。ホストインターフェースは,1図,2図と同様の PCIe Gen2×8レーンを備える。SSDインターフェースは, 最大帯域幅0.3GBpsのSATA Gen2を最大16系統接続可能 である。SATAコネクターの形状は,通常のSATAコネクター と比較して小型のmSATAを採用しており,以降の解析に はmSATAコネクターを備えるSSD Cを用いた。 *10 コンピューターなどでデータ転送処理を行う際に,転送するデータ以外で 必要となる処理や手続き。 7図 テストボード ホスト (PCまたは記録装置) FPGA1 テストボード FPGA2 FPGA3 SSD SSD SSD … SSD SSD SSD … ホストインターフェース PCIe Gen2 x 8 Lane

(最大4GBps) LVDS (最大合計4GBps) SSDインターフェース SATA Gen2 (SSD1個当たり最大0.3GBps) 最大 16並列

(6)

はシーケンシャル転送で測定したPCIe転送速度を示す。9 図より,DMA転送のデータサイズが2MBの条件では転送 速度は3GBpsに達しないのに対し,データサイズの拡大と ともに転送速度は向上し,20MBのときに3.4GBps以上の 転送速度が得られることが分かった。この結果から, DMA転送のデータサイズが大きいほど転送速度を改善でき ることが分かった。 3.2 SATA転送特性の解析 PCIeの転送特性と同様に,SATAインターフェースについ ても転送サイズの拡大による転送速度の改善を検討した。 SSDは512Byteのセクター*13と呼ばれる単位で内部データ 3.1 PCIe転送特性の解析 PCIeのデータ転送には,映像データのような大容量デー タを効率よく転送する方式としてDMA(Direct Memory Access)が用意されている。8図はDMA転送において, 1フレームの映像データを転送する時間を説明する図であ る。図中のRは1フレームの映像データを転送するのに必要 なDMA転送の繰り返し回数,TstartはDMA転送を開始する までのレイテンシー*11時間,Thdはパケットヘッダーの転送 時間,Tdataはパケットデータの転送時間を示す。8図より, Tstartの時間を減らすことができれば全体の転送速度改善 が期待できるが,TstartはPCIeをコントロールするホストおよ びボードの各ハードウエア性能に依存するため短縮が難し い。そこで,1回のDMA転送のデータサイズを拡大すること で,RとTstartの発生回数を減らし,転送速度の改善を図った。 この効果を調べるために,DMA転送のデータサイズと PCIe転送速度の関係をテストボードで測定した結果を9図に 示す。本測定は,テストボードとホストPCのメインメモリー*12 との間で行った。横軸はDMA転送のデータサイズ,縦軸 8図 DMA転送による映像フレームの転送時間 9図 DMA転送のデータサイズとPCIe転送速度 10図 SATAにおける転送セクター数と転送速度 *11 データ転送を要求してからその結果が返ってくるまでに要する遅延時間。 *12 主記憶装置。HDDやSSDと比較して非常に高速である反面,記憶容量 が少ない揮発性のメモリー。 *13 記録媒体における記録の最小単位。主に円盤状の記録媒体で使われるが, HDDとのインターフェース互換性を持つSSDでも同様に使用されている。 DMA転送のデータサイズ(MB) 転送速度(GBps) 3.6 3.4 3.2 3.0 2.8 0 4 8 12 16 20 DMA読み出し DMA書き込み 転送セクター数 転送速度(GBps) 0.27 0.25 0.23 0.21 0.19 512 1,024 1,536 2,048 2,560 3,072 読み出し 書き込み …… パケット R Tstart Thd Tdata :1フレームの映像データを転送するのに必要なDMA転送の繰り返し回数 :DMA転送を開始するまでのレイテンシー時間 :パケットヘッダーの転送時間 :パケットデータの転送時間 Thd Tstart Tdata

(7)

報 告

01

11図 ランダム読み出しデータサイズと転送速度 フレーム単位でのランダム転送が発生する。一方,SSDは 一般的にシーケンシャル転送と比較してランダム転送の性能 が低いことが知られている。そこで,SSDのランダム読み出 し性能について検証した。 11図は,SSD Cのランダム読み出し性能を測定した結果 である。横軸はランダム読み出しを行うデータサイズ,縦軸 は転送速度を示す。ランダム読み出し速度は,データサイズ の増加とともに1,024kB付近まで急激に増加し,1,024kB以 降は緩やかに上昇を続ける。この結果から,データサイズ を1,024kBを下回らない値とすることにより,良好なランダム 読み出し性能を得ることが可能と考えられる。 3.4 転送速度を改善する映像データの転送制御 前節までの結果を踏まえて,転送速度を改善するための 映像データの転送制御手法について説明する。 前述のように,PCIeとSATAインターフェースは一度に転 送するデータサイズが大きいほど転送速度が改善するが, 一方で映像データでは,早送りや巻き戻し,ジョグシャトル を使った特殊再生時の映像フレーム単位でのランダム読み 出しも考慮しなければならない。そのため,映像データは 最大でも映像フレームサイズ以下で管理される必要がある。 そこで,映像フレーム単位で映像データの転送制御を行う 手法を提案する。 PCIeの転送速度を最大化するために,ホストとテストボー ド間で転送するデータのサイズを映像フレームサイズとし, これをDFとする。さらにSATAの転送速度を最大化するた めに,テストボードと各SSDの間で転送するデータサイズは DFをSSD並列数Nで割った値とし,これをDS=DF/ Nとす る。DSに相当するセクター数をSとすると,S=DS/512となり, これはSATAインターフェースの1回のコマンドで転送可能 な最大セクター数に相当する。 これらの各パラメーターと転送速度の評価結果を整理し の管理を行っており,SATAインターフェースは1回の転送コ マンドで転送するセクター数を選択可能である。そこで, 1回の転送コマンドで転送するセクター数とシーケンシャル 書き込みおよび読み出し速度との関係を測定した。その結 果を10図に示す。本測定は,テストボードと2.2節で使用 したSSD Cとの間で行った。横軸は転送するセクター数, 縦軸はSSD単体の転送速度を示す。10図より,転送速度は 書き込み,読み出しともにセクター数1,024までセクター数の 増加に伴って増大し,その後は緩やかに増大を続ける。こ の実験での最大転送速度は,3,072セクターのときに書き込 みで0.215GBps,読み出しで0.262GBpsとなった。これら の結果から,一度の転送コマンドで転送するセクター数を 1,024以上に設定することで,良好な転送性能を得られるこ とが分かった。 3.3 ランダム読み出し速度の検証 本節では,ランダム読み出しのデータサイズと転送速度 の関係について検証する。映像データの記録では,書き込 みは専らシーケンシャル転送であるのに対して,読み出しは 2表 転送制御パラメーターと転送速度 映像フレームサイズDFと PCIeのDMA転送速度 SSD並列数N D SとSATAの ランダム読み出し転送速度 SATAコマンド1回当たりの転送セクター数と転送速度 DF (MB) 転送速度 DS(kB) 転送速度 S(セクター数) 転送速度 20 ○ 16 1,280 ○ 2,560 ○ 8 2,560 ○ 5,120 ○ 10 ○ 16 640 △ 1,280 ○ 8 1,280 ○ 2,560 ○ ランダム読み出しデータサイズ(kB) 転送速度(GBps) 0.28 0.24 0.20 0.16 0.12 0 1,024 2,048 3,072 4,096

(8)

送速度をN倍した理論値であり,実線は測定結果を示す。 書き込み転送速度はNにほぼ比例して増加し,N=16のとき に3.211GBpsに到達した。13図は,同様の条件で読み出し 転送速度を測定した結果である。読み出し転送速度もNと ともに増大し,N=16のときに3.118GBpsとなった。 これらの測定結果から,提案手法の適用により転送オー バーヘッドを削減することで,書き込み転送速度はN=16ま でほぼNに比例した転送速度を達成した。同様に,読み出 し転送速度については理論値をある程度下回るものの,N =16まで増加しつづけることを確認し,書き込み転送速度 と同等の性能を実現した。 13図で読み出し転送速度が理論値を下回る要因の1つと しては,以下が考えられる。一般的にストライピングの転送 速度はN個のSSDのうち最も転送速度が低いSSDのN倍が 上限となるため,Nの増加に伴って転送速度の上限が低下 する確率が高まる。特にSSDは,書き込みについては転送 速度を安定させるための十分なキャッシュメモリーを備えて いるが,読み出しにはキャッシュメモリーを使用しない製品 が多いため,この傾向が顕著に現れる可能性がある。 また,測定にはテストボードのコネクター形状の制約から SSD Cを用いたが,SSDの単体性能が同等またはそれ以上 であるSSD A,Bについても同様の効果が期待できる。

5.8K記録システムへの実装と検証

提案手法を実装した8K記録装置を試作し,記録再生性 能を検証した。フルスペック8K映像を転送速度1.2GBps, 映像フレームサイズ10MBとなる4 : 2 : 0フォーマットで圧縮 した。この映像データを記録再生するために,8個のSSD (SSD C)をテストボードによって並列化し,記録装置に適 用した。適用前にあらかじめホストPCで性能を測定した結 果,2表に示すDF=10MB,N=8,DS=1,280kByte,S= た例を2表に示す。2表の○印は,良好な転送速度を実現 可能なパラメーターを示す。 PCIeとSATAインターフェースのボトルネックに関しては, 2表に示すパラメーターに従って転送制御することで改善 が可能となる。すなわち,9図の測定結果が示すとおり, PCIeのDMA転送サイズが大きいほどボトルネックを解消す る高速な転送が実現でき,DMA転送サイズをフレームデー タサイズDFと等しくすることで,DF=20MBの条件において 3.4GBps以上,DF=10MBの条件においても3GBps以上を 達成し,ボトルネックを解消できる。また,10図の測定結 果が示すように,SATAのコマンド当たりの転送セクター数 を1,024以上とすることで,ボトルネックの発生を回避可能で ある。このとき転送セクター数Sの値は並列数Nの値に反比 例する点に注意する必要があるが,2表に示す条件でデー タサイズを制御することで転送セクター数Sは1,024以上を達 成でき,ボトルネックを解消可能となる。 ランダム読み出しに関しても,DSの値が1,024kBを下回ら ない条件で並列数Nを設定することにより,良好な転送速 度を達成できる。2表に示すパラメーターでは,DF=20MB かつ並列数N=16または8,およびDF=10MBかつN=8の 条件でDSが1,024以上となり良好な性能が達成できるが,DF =10MBかつN=16の条件ではランダム読み出しの性能低下 に注意する必要がある。

4.提案手法を適用した

ストライピングの転送速度評価

提案手法を7図に示すテストボードに適用し,最大16個 のSSD Cを用いて,ホストPCとストライピングしたSSDの間 の転送性能を評価した。12図は,ストライピングの並列数N と書き込み転送速度の関係を映 像フレームサイズDF= 20MBの条件で測定した結果である。破線はSSD単体の転 12図 提案手法によるSSD並列数と書き込み転送速度 13図 提案手法によるSSD並列数と読み出し転送速度 転送速度(GBps) SSD並列数N 1 0 0 4 8 12 16 転送速度(GBps) SSD並列数N 1 0 0 4 8 12 16

(9)

報 告

01

性能がほぼ飽和するのに対して,試作したテストボードと提 案手法を用いた実験では,SSDの並列数=16の構成まで転 送速度が増加することを確認できた。16並列における最大 転送速度は,フルスペック8Kの圧縮記録に要求される 2.4GBpsを上回る3GBps以上を達成した。今回はテストボー ドによるハードウエアストライピング制御で評価したが,提 案手法は,ソフトウエアストライピングに適用した場合も有 効であると考えられる。 また,8Kの記録装置を用いて,1.2GBpsの圧縮映像デー タを8並列のSSDによって記録,通常再生,特殊再生でき ることを実証し,提案手法の有用性を確認できた。

本稿は,ITE Transactions on Media Technology and Applicationsに掲載された以下の論文を元に加筆・修正し たものである。

T. Kajiyama, K. Kikuchi and E. Miyashita:“High-throughput Video Data Access Control of Striping with SSDs for 8K Super Hi-Vision,” ITE Transactions on Media Technology and Applications,Vol.4,No.4, pp.286-291(2016) 2,560の条件で,最大書き込み速度が1.547GBps,最大読 み出し速度が1.622GBpsであることを確認した。 メモリーの安定性を検証するために,記録動作(シーケ ンシャル書き込み),通常再生(シーケンシャル読み出し), 早送り,巻き戻し,ジョグシャトルを使った特殊再生(ラン ダム読み出し)を行った結果,いずれについても安定で良好 な動作を確認できた。

6.むすび

8Kの高速な映像ストレージ技術を実現するために,SSD のハードウエアストライピングにおける映像データの高速転 送制御手法を提案した。提案した手法は,ストライピング を行うハードウエアのインターフェースであるPCIeとSATA の転送オーバーヘッドを削減し,高い転送速度を達成した。 本手法は,転送の基本単位を映像フレームデータのサイズ とすることで,記録再生の基本となるシーケンシャル書き込 みとシーケンシャル読み出しだけでなく,フレーム単位のラ ンダム読み出しにおいても高い転送速度を実現した。 従来のRAID 0コントローラーがSSDの並列数=8で転送 1) M. Sugawara, M. Kanazawa, K. Mitani, H. Yamashita and F. Okano : “Ultrahigh-Definition Video System with 4000 Scanning Lines,” SMPTE Mot. Imag. J.,Vol.112,No.10&11, pp.339-346 (2003) 2) T. Yamashita, K. Masaoka, K. Ohmura, M. Emoto, Y. Nishida and M. Sugawara:“Super Hi-Vision:Video Parameters for Next-Generation Television,” SMPTE Mot. Imag. J., Vol.121,No.4,pp.63-68 (2012) 3) SMPTE ST 2036-2,“Ultra High Definition Television – Audio Characteristics and Audio Channel Mapping for Program Production” (2008) 4) SMPTE ST 2036-1,“Ultra-High Definition Television – Image Parameter Values for Program Production” (2013) 5) ITU-R Recommendation BT.2020,“Parameter Values for Ultra-High Definition Television Systems for Production and International Program Exchange” (2012) 6) 梶山,菊地,宮下:“8Kスーパーハイビジョン圧縮記録装置,” 映情学技報,Vol.39,No.7,HI2015-7, ME2015-7,AIT2015-7,MMS2015-9,CE2015-9,pp.31-34 (2015)

参考文献

(10)

8) R. Micheloni, A. Marelli and K. Eshghi:Inside Solid State Drives(SSDs),Springer Science & Business Media (2012) 9) R. Micheloni, L. Crippa and A. Marelli:Inside NAND Flash Memories,Springer Science & Business Media (2010) 10) Serial ATA International Organization,“Serial ATA Revision 3.0” (2009) 11) D. A. Patterson, G. Gibson and R. H. Katz:“A Case for Redundant Arrays of Inexpensive Disks(RAID),” Proceedings of the 1988 ACM SIGMOD International Conference on Management of Data,pp.109-116 (1988) 12) PCI-SIG,“PCI Express Base Specification Revision 3.1a” (2015)

か じ

や ま

た け

し 2003年入局。札幌放送局を経て,2008年か ら放送技術研究所において,薄型光ディスク, 8Kスーパーハイビジョン用記録装置の研究に従 事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に 所属。

み や

し た

え い

い ち 1987年入局。宮崎放送局を経て,1990年から 放送技術研究所において,垂直磁気記録,8K スーパーハイビジョン用記録装置の研究に従事。 現在,放送技術研究所テレビ方式研究部上級 研究員。博士(工学)。

き く

こ う

だ い 2011年入局。新潟放送局を経て,2013年から 放送技術研究所において,8Kスーパーハイビジョ ン用記録装置の研究に従事。現在,放送技術 研究所テレビ方式研究部に所属。

Updating...

参照

Updating...

関連した話題 :

Scan and read on 1LIB APP