• 検索結果がありません。

Consideration of Traditional Management Montioring System : Background and Impact of the Recent Corporate Governance Refoms and Comparison with the U.S. Style Monitoring System

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Consideration of Traditional Management Montioring System : Background and Impact of the Recent Corporate Governance Refoms and Comparison with the U.S. Style Monitoring System"

Copied!
29
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

従来型経営監視 システムに関す る若干の考察

- 米国型監視 システム との比較法的視 点 を交 えて

-第

1

章 株式会社法の改正 と 経営監視機能 の強化

1

は じめに 日本 で は

,9

0

年代 に入 りバ ブル経 済 が崩壊 して以降,金融機 関やその他 の一般会社 におい て, さまざまな不正行為 ・不祥事 な どが多数顕 在化 し,大 きな社会問題 とな った。一例 をあげ て み て も,高 島屋 事 件 (元 専 務 ほか3名 が有 罪),野村謹 券事件 (社長 と元常務 が逮捕,他 に

2

名 起訴),第一勧 銀事件 (前 会長,前 副頭 取等11名 が逮捕), 山一讃券事件 , 日興讃券事 件,大和 讃 券 事 件,松 坂 屋 事 件,海 の家 事 件 (三菱 自動 車工業,三菱電機,東芝, 日立製作 所,三菱地所),三菱 自動車 工業 の リコール隠 し事件,雪印乳業 に よる食 中毒事件,大和銀行 ニ ュー ヨーク支店 巨額損失事件,住友商事銅不 正取 引事件 な ど,いずれ も著名 な会社 ばか りで ある。 この ような不正 や不祥事 は,企業 の社会 的 な信用 を損 ねて しま うこ とは勿論,株価 の急 激 な下落や収益環境 の大幅な悪化 に見舞 われ, 場合 に よって は,企業 自体 を崩壊 させ る とい う 重大 な結果 を招いてい る。 こ うした一連 の企業不祥事 を契機 に, 日本 で は,従来 の経営監視 システム (以下 「従来型経 営監視 システム」 とい う)が有効 に機能 してい ない のではないか とい うこ とが問題 とされ,経 営監視機能 をいか に充実強化すべ きかが盛 んに 議論 され るようにな った。 また, こ うした経営 監視 システムの機能低下 の原 因は,(∋法制度上

高 橋 理 一 郎

(本法務研究科教授) のチ ェック機 関で ある株主 (総会),取締役会, 監査役 (会) の形骸化や(参これ まで事実上 のチ ェック機能 を果 た して きた とい われてい るメイ ンバ ンク ・従業 員な どか らの影響力 の低下 にあ る と指摘 されていた1)。 さらには,企業 の不祥事 と業績 の低迷 の原 因 は株主軽視 にある として,株主重視 の経営 とい う視点か らあるい は 日本 の従来型経営 システム が非効率で ある とい う考 え方か らいずれ も米国 型経営 システムに転換す る必要 がある とい うこ とが提唱 され,他方では, 日本 の法制度 には, あ ま り問題 がな く監査役 の機能不全 だけが問題 で あるので,監査役 の権 限 を強化すれば足 りる とい った主張 がな されていた。 前者 の提唱 は主 として 「効率性」 についての 監 視 を重視 し,後 者 の主 張 は主 と して 「適 法 性」 に関す る監視 を問題 としてい る もの と理解 され るが, こ うした議論 がな され る中で,健全 で活力 のある 日本企業 の経営 を促進す る とい う 目的か ら,平成13年 と平成14年 の2度 にわた り,企業 の統治 に関す る商法 の大改正 が行 われ た。一つ は, これ まで と同様 の,監査役制度 の 権 限 を強化す る とい う方 向での改正 であ り, ち う一 つ は,米 国型 の取 締 役 会制 度 (委 員会 制 皮) を導入す る とい う方 向で の改正 で あ った。 また,平成17年 に は,会社 法制 の現代化 と その制度全体 についての大規模 な改正 が行 われ, 「会社法」 (平成17年法律第86号) として,辛 成18年5月か ら施行 されてい る。 そ こで,本稿 では,経営監視 システムに関す

(2)

るこれ まで の改正経過等 か ら日本 の従来型経営 監視 システ ムが抱 えていた問題 状況 を明 らか に し, その監視 システムの どこに どの よ うな問題 が あ り, また, そ うした問題 を克服 す るた めに どの よ うな法的改善策 が講 じられて きたのか を 概観 してみ よ うとす る もので あ り,併 せて米 国 型監視 システムについ て も若干 の考察 を試 みて い る。 そ して, こ うした これ まで の制度 の問題 状況 を理解 し,米 国型監視 システム との比較法 的視 点 を交 えた考 察 を試 み る こ とは,平成 13 年以 降 の法改正 に よって 日本企業 の経営監視 シ ステムの機能 に今後 どの程度 の効果 が期待 で き るのか を展望 す るために有用で あ る と考 える も ので あ る。

2

企業の不祥事 とコーポ レー ト・ガバナンス ところで,企業経 営 の 目的 は,業績 向上 にあ る とす るのが, これ までの一般 的 な考 え方 で あ る。 そ して業績 向上 のためには,経 営陣 に対す る監視 の問題 もあ るが,競 争適合型 の経営 シス テムを構築 す るこ とも重要 であ る。 そ して, そ うした システムを構築 す るためには非効率 的 な 規制 の緩和 と経営陣 の権 限強化 が求 め られ るこ とにな る。 従 って,効率 的 な経営 システムのあ り方 につ い て は,個別企業 の創意 ・工夫 に よる制度設計 に委 ね るべ きで あ り,法が干渉 し,一律 な規制 をす るこ とは,む しろ非効率的で あ る とい うこ とにな ろ う。 しか し他 方で は, その結果 ,経営 陣 に対 す る規律づ けが弱 ま り,企業行動 の効率 性 が失 われ あるい は適法性 がなお ざ りに され る とい う傾 向が出て くるこ とか ら,企業 の健全 な 行動 を確保 す るために法 の干渉 が要請 され るこ とにな る。 要す るに,企業組織 のあ り方や内部 の問題 に ついて は, どこまで私的 自治 の原則 に委 ね られ, どこまで法 が強行法規 として干渉 すべ きか とい う規制緩和 と規制強化 の対 象範 囲 とその均衡 が 会社法上 の一 つ の大 きな課題 で あ る。 なお,経営者 の違法 な行為 につい て は, 司法 上 の問題 で あ り, コーポ レー ト ・ガバ ナ ンスの 問題 で はない とい う見解 が あ る2)。 しか し,経 営者 の行為 で あれ,従業 員の行為 で あれ, その 違法 な行為 が企業 の行為 として観 念 で きる もの で あれば, それ は企業 をいか に統治 す るか とい うガバ ナ ンスの問題 で あ る。換言すれば, ガバ ナ ンス とは,企業 内部 の管理 ・統制 とい う内向 きの システムに限定 され る もので はな く,企業 独 自の行動全体 を統制 す る システムを も意味す る もの と捉 え るべ きで あ る3)。 それ は,法 が企 業 の社会 的活動 を容認 してい るのは, 自然人 と 同様 に 自律 的統制 システム を有 し,かつ その行 動 の責任 を とれ るシステムで あ るこ とを当然 の 前提 としてい るか らで はないか と考 えるか らで あ る4)

もっ とも, このガバ ナ ンスあ るい は コーポ レ ー ト ・ガバ ナ ンス とい う言葉 は,必ず しも明確 に定義 されて い るわけで はない し, その意味す る とこ ろにつ い て も統 一 性 が あ るわ けで は な い5)。従 って, その言葉 には注意 が必 要 で あ る。 しか し, コーポ レー ト ・ガバ ナ ンス と題 す る論 文 や文献等 で は,主 として大規模公 開会社 の運 営機構 に関す る問題 が扱 われてお り,特 に法的 側 面 か らコーポ レー ト ・ガバ ナ ンス を論 じてい る各文献 におい て は,会社 の運営 が公正 かつ効 率 的 に行 われ る仕組 みの問題 として論 じられて い る6)もの が 多い し, わ が 国 に お け る コ ーポ レー ト・ガバ ナ ンス論 で は, 冒頭 の よ うな,棉 次 ぐ企業不祥事 が強 く反 映 し,大規模公 開会社 にお け る企業不祥事 防止 のた めの経 営監視 ・監 督機構 のあ り方 が その議論 の 中心 とな ってい る。 そ うした観 点か ら言 えば,本稿 の テ ーマ もまた コーポ レー ト ・ガバ ナ ンスの領域 に関連 した問 題 とい うこ とにな る7)0 3 改正の経過等からみた監視機能の問題点 (1) 日本 の会社法 は,古来 の法 的 な伝統 の上 に形 成 され た もの で は ない

。1

8

9

9

(明

治 3

2

)

年 に成 立 した最 初 の近 代 的商 法 典 は

,1

9

世紀 ドイツが作 り出 した企業 に対 す る近代 的監視 シ

(3)

ステムを,基本的 に継受す る形 で成 立 した もの で あ った8)。 また

,1

9

5

0

年 の商法改正 もまた, 第

2

次大戦 の敗北,米 国に よる占領 の結果 とし て,体系的 に も,経営監視 システムについ て の 考 え方 もまった く異 な る米国 の法文化 を受 け入 れた もので あ った。 明治

3

2

年商 法 で は,株 主総 会 は,会社 の実 質 的 な所有者 で あ る株主 の集合体 として会社 の 最 高 ・万能 の機 関 とされ,株主総会 中心主義 が 採 られてい た。 そ して,取締役 は株主 の互選 に よって選任 され,各 自執行権 ・代表権 を持 つ こ とが原 則 とされてい た9)。 また,監査役 は株 主 の代 表 者 的立場10)で,取締 役 の業 務 執 行 を監 督す る業務監査 を主 た る任務 とし,併 せて会計 監査 の権 限 を有 していた。要 す るに,当初 は, 株主総会 が経 営 の意思決定権 限等 を有 し,株主 の代表 的立場 にあ る監査役 が,取締役 の業務執 行 を監査す る とい う関係 にあ った。 しか し,監 査 役 に は,身 分 上 の独 立 性 が な く11),か つ 業 務 関係 の外 におかれてい たので業務監査 の効果 が期待 で きず に,有名無実 の存在 で あ った。

(

2

)

昭和

2

5

年 の改 正 で は,株 主 中心主 義 か ら,新 た に取締役会制度 を設 け,取締役会 中心 主義 を採用 してい る。 要す るに取役会 に業務執行権 限 を集 中 させ, その権 限 の強化 を図 り,業務監査権 を監査役 か ら取締役会 の権 限 とし,新 た に設 けた業務執行 機 関で あ る代表取締役 の監督 を取締役会 に行 わ せ るこ とに した もので あ る。 しか し,実態 は,取締役社長 を頂 点 とし,ど ラ ミッ ド型 を形成 してい た従前 の取締役 (業務 執行者) を, その ままに した状態で,上席取締 役 に代表 とい う名称 を付 し, その下 に新 た に代 表権 のない平取締役 を加 えて取締役会 としただ けで あ った。 この よ うに法律上で は,株主総会 の下 に取締役会 を置 き, その下 に代表取締 役 を 位 置付 けて その監督 をさせ る こ ととしたが,実 態 は,従前 の取締役 の トップが代表取締役 とな って しま った12)た め に,業 務執 行 者 で あ る代 表取締役 が, あたか もその監督役 で あるはず の 取締役会 の代表者 で あ るか の よ うな認識 を与 え る原 因 とな って しまった 4)ので あ る13)。 また, この改正 で は,取締役 の各 自代表権 を 廃止 した こ とか ら, その後 日本独特 の労働慣行 と相 まって名前 だ けの取締役 (従業 員取締役) を多量 に生 じさせ る要 因 を作 り出 してい る。 さ らに,機能 してい なか った とはい え,経 営監視 機 関 としての監査役 の権 限 を会計監査 に限定 し, 会計検査機 関 として しまったた めに,上席取締 役 に対す る監視機 関が まった くない制度 とな っ て しまった。 この よ うに, 昭和

2

5

年改 正 で は,米 国型 に 範 をおい た改 革 を行 ってい るが,い か に も中途 半端 な導入 に とどめて しまったた めに,監視機 能 の強化 とい う観 点か らは, なん らみ るべ きも ののない改正 とな って しまってい る

(

3

)

昭和

4

9

年 改 正 の立法 経 過 等 をみ る と, 昭和

2

5

年 の改 正 とは異 な り,経 営監視 機 関 と して の比重 は,取締役会 か ら監査役 に比重 が置 きか え られ,監査役 の監視機能 に再度期待 した 改正 とな ってい る。 そ して, そ の後 の昭和56年 の改 正,平 成5 年 の改正 のいず れ も,取締役 会制度 で はな く監 査役制度 の権 限強化 の流 れ に沿 った改正 とな っ てい る。 しか し,実態 として 巨大 な経営管理権 を有す る社長 をは じめ とす る代表取締役 の業務 執行 を監視 す るには,監査役 が取締役 か ら独立 した存在 で あ るこ とと経 営 を監視 す るた めに必 要 な各種権 限の充実 が必要 で あ った。 昭和

4

9

年改 正 は ま さに この方 向- の改 正 を 目指 した もので あ ったが,監 査役 の権 限強化 , 独 立性 の点で不十分 な ままに終 わ ってい る。 当 初検 討 されてい た取締役解任 請求権 が採用 され てい ない し,事後監査 の強力 な手段 で あ る取締 役 に違法行為 が あ った場合 の株主総会招集権 と 取締役会招集権 が盛 り込 まれ なか った。 その他, 監査役 の報酬 の決定方法,監査費用 の改善 ,監 査役 の選任提案権 を監査役 (会) に属 させ るこ とは もち ろん,解任 に際 して の意見表 明 の機会 の保 障 も認 め られてい ない。

(4)

それ は,監査役 が あ ま りに権 限 を持 ちす ぎ地 位 が強化 されす ぎる と,会社 内での紛議 の手段 とされ るおそれが あ る との危供 が表 明 され, そ の危供 に配慮 して採用 され なか った とい うこ と で ある14)0 要す るに,取締役会 に異質 な メ ンバ ーを加 え るこ とは,いたず らに対立 を強 め, あ るい は不 協和音 を恒常化 させ るこ とにな り,経営 の効率 を著 し く阻 害 す る こ とに な る とい うの で あ る15)。 しか し, そ う した懸 念 が全 くない とは 言い切 れないか も しれ ない が,真 に監査 ・監督 の実 をあげ よ うとす るので あれ ば,取締役 ある い は監 査役 の相互 の間 にお ける健全 な緊張 関係 とい うものは本来 欠い てほな らない はずで ある。

(

4

)

また,昭和

4

9

年 の改 正 で,監 査 役 に再 度業務監査権 が与 え られた。 しか し, その内容 は,昭和25年以 前 の会社 業務 全 般 につい て の 監査権 ではな く,業務監査 の うち適法性監査 に 限 られ,妥 当性監査 は依然 として取締役会 の権 限 として残 された。 この よ うに,取締役 会 に妥 当性監査 を残 す の で あれば,取締役 会 につい て も抜本 的 な改正 が な され なければな らなか ったはずで あ る。 とこ ろが,取締役会 につい ては何 らの手 当 もな され てい ない。 取締役会 の 自主 的監視機能 の強化 をめ ざ した はず の昭和

5

6

年 の改 正 におい て も,監視 機 能 強化 のための実質 的 な改正 はほ とん どな されて い ない。 また,改正 が な され ない以上解釈上監査役 に 妥 当性 を含 めた業務監査権 を認 め る よ うに解釈 すべ きで なか ったか と思 われ る。現 に, その境 界 の判 断が難 しい ために,監査 の実務 を消極 的 に して い る とい う指 摘 が な され て い た16)。 ま た,「この よ うな棲 み分 け の論理 の裏 は,監 査 役 は経 営 に介入 して ほな らない とい う暗黙 の了 解 が伏在 してい る」17)とい われてい たが, この よ うな考 え方が通用 してい る限 り,監査役制度 を もって,真 に監査 の実 をあげ させ るこ とに期 待 す るこ とは, そ もそ も困難で あ った とい うこ とにな る。 第

2

章 株式 会社制度 の特徴 と課題 1 法的特徴 とその実態 (1)会社法上株 式会社 は,対外的 な活動 に よ って利益 を獲得 し, その得 た利益 を株主 に分配 す るこ とを目的 とす る営利社 団法人 (会社法3 条)18)で あ る。 ここで の社 団 とは,特定 の共 同 目的達成 のた め に人 的 に結 合 した団体 をい い19),法 人 とは, 自然人以外 で権利義務 の主体 とな り得 る法的地 位 (権利能力) を有す る ものの こ とで あ る20)0 株 式 会 社 で は, この社 団 を構 成 す る構 成 員 (社 員) は株 主 で あ る。 そ して歴 史 的 に は, こ うした株式会社 は,株主 のた めに組織 され,か つ株主 に よって運 営 され, そ してすべ て の利 益 は株 主 に分 配 され て きた21)こ とか ら,近 代 的 な株 式会社法制 におい で は,資本主義社会 の私 的所有制度 との整合性 を図 り,会社 は, 出資者 で あ る株主 に よって所有 され る とい う論理構成 が とられてい る。 その結果 この社 団 を構成 す る 出資者 で あ る株主 が, その会社 の実質 的 な所有 者 で あ る とす るのが,伝統 的 な会社法 の考 え方 で あ る22)。 (2)株式会社 の所有者 は株主 で あ る とい う考 え方 か ら,会社法 において は,株 主 が経営 の担 い手 で あ る取締役等 を コ ン トロールす る仕組 み にな ってい る。具体 的 には株 式会社 の最高機 関 で あ る株主総 会 におい て,株主 は取締役 あるい は監査役 を選任 あ るい は解任 し, また は会社運 営 にお け る重要 な意思決定 をす る法律上 の権利 を有 して い る23)。 そ して, この制 度 で は, 出 資者 がい か に 巨額 な出資者 で あ って も,少額 な 出資者 で あ った として も,すべ て の出資者 が, それ ぞれ与 え られてい る議 決権 (会社法

1

0

5

条 1項3号) を, 自 ら自覚 的 に行使 す るはずで あ る として, そ うした 自立 した株主像 とい うもの を理念 的 に想定 した制度 とな ってい る24)0 しか し他 方 で は,法律上株 式会社 の意思決定

(5)

は資本 多数決 に よって行 われ る仕 組 みにな って い る (会社法309条 1項, 同308条 1項) こ と か ら,実際 には,資本的 多数 を支配 す る者 は株 主総会 で取締役 (経営者) を選任 す るこ とがで きるが,少数株主 の場合 は,経営へ の参加 が事 実上 困難 とな ってい る。従 って,特 に取締役 の 過半数 を選 出す るだ けの力 を有す る株主 (支配 株主) は 自 ら取締役 とな るか 自己の代理人 を取 締役 に選 出 して会社 の経営 に参加 し,会社 を支 配 す るこ とが可能 とな る (所有 と経営 ・支配 の 一 致)。 その典型 的 な例 として敵対 的 な企 業 買 収 をあげ るこ とがで きる。 この よ うに,株 式会 社 で は,株主 は権利 の濫用 とな らない 限 り議決 権 を自 らの私 的 な利益追求 のために 自由に行使 し25),会 社 経 営 に参 画 す る こ とが で きる こ と にな ってい るが,実際上 は, 資本 的多数 を形成 で きる株主 で ない限 り困難 で ある とい うこ とに な る。 (3)また,企業 が大規模化 す るに従 い 出資 と 経 営 の分離 がお こ り,経営陣 の権 限が強化 され る とともに,株主 の地位 は相対的 に低下 して き てい る とい うのが 日本 に限 らず先進 資本主義経 済諸 国の共通 した歴史 的経過 で あ る。特 に,秩 式公 開制度 の下で大 資本化 した現代企業 にあ っ て は, その傾 向は著 し く,今 や大 多数 の株 主 は, その意識 において も実態 において も単 な る分散 化 した資本提供者 とな り,純粋 かつ単純 な投 資 家 にす ぎな くな ってい る。 この よ うに,株式 が細分化 されかつ分散所有 が一般化 す るに従 い,経 営者支配 が問題 とな り, この経営者 を監視 す る企業統治 の改善策 が先進 資本主義諸 国での共通 の課題 とな り論議 されて い る。 なお, この株式会社 におけ る経営者支配 の実 態 に関 し, 日本 の場合 には,他 国 と異 な った(∋ 株式 の持合,② メイ ンバ ンク制,③年功序列 ・ 終 身雇用 を前提 とす る従業 員 に よ り組織化 され た企業 内労働 組合, あるい は内部昇進型経営者 の存 在, な ど とい った特 徴 が見 られ た26)。 こ こで は,紙幅 の関係 か らご く簡単 に触 れ るに止 め るが, こ うした 日本 的特徴 は,他 国の よ うな 資本市場 に よる規律 づ け とは異 な り, ともす る と一般型 のル ール よ りも相対型 のル ール を尊重 しあ るい は優先 させ る傾 向 を持 ってい た こ とが 認 め られ る。 そのた め, 日本 にお け る経 営者 に 対 す る監視 ・監督 は,公正 で透 明 な資本市場 と は異 な る 日本特有 の相対型 あ るい は閉鎖 的 なル ール の 中 で 行 わ れ て きた とい うこ とが い え る27)0 こ うした 日本 にお け る株式会社 の実態 は,一 方 で は,高度成長期 におけ る長期 ・安定 的 な 日 本 的経営 を支 えるた めの規律付 けの役割 を果 た して きた と評価 で きるが,他 方 で は,株 主 につ い て は経営者 や従業 員の次 に くる もの として あ ま り重視 して こなか った とい う問題 を抱 えてい た28)こ とが認 め られ る。

2

株式会社の経営支配 と責任をめ ぐる問題 (1)人 が,経済 的 な活動 をす るた めに どの よ うな組織 を作 るか は,私 的 自治 の問題 で あ り基 本的 には 自由で あ る。 それ は, 出資者 が無 限連 帯責任 を負 うこ とが前提 にな ってい るか らで あ る。従 って, そ うした組織 を作 るにあた って は, 出資者 は,誰 と出資 し, どの よ うに して組織 を コ ン トロール してゆ くか について極 めて重大 な 関心 を払 うこ とにな る。 そのた め, 自ず と人的 色彩 が強 くな り,資本 の規模 も制約 され るこ と にな る。 ところが,株 式会社制度 で は, 出資者 で あ る株主 の責任 は,会社 に払い込 ん だ出資金 に限定 され (払い込 んだ後 は責任 とい うよ りも リス ク), それ以 外 に は何 らの責任 を負 うこ と が ない (会社 法104条)29)。従 って,株 式 会 社 制度 で は,不特定 かつ 多数 の出資者 に よる組織 化 が容 易 とな り,資 本 の大 規 模 化 が可 能 とな る30)。他 面,株 式 会 社 で は,株 式 が 分 散 ・小 株主化 し,かつ株主 が無貴化 して ゆ くに従 い, 出資 と経営 の分離 がお こ り,企業 の経営 は,秩 主 の手 か ら専 門的経営者 に委 ね られ るこ とにな る。 伝統 的 な経済学 の考 え方 か らは, こ うした関

(6)

係 につい て,剰余請求者 で あ る と同時 に出資金 に限定 された責任 とはい え債務 に対す る責任 を 負 ってい る株主 が,会社 を代表 して雇用契約, 販売契約等 の契約 を結 ぶ仕事 を経 営者 に委託 し てい る とい う説 明 が な され て い る31)。 これ は 一種 の プ リンシパ ル ・エ ージェ ン ト関係 で あ り, ここで はエ ージ ェン トで あ る経営者 は株主 の利 益 に反 す る契約 を結 び, あ るい は行動 に出 る可 能 性 (モ ラル ・ノ、ザ ー ド) が あ る32)。 そ こで, こ うした事態 を防止 し,所有者 で あ る株主 が経 営者 を コ ン トロールす るた めには どの よ うな権 限,義務 の体系 を法律 的 に配置す れば よいか と い うこ とを考 察 す る こ とに な る33)。 これ が, 伝統 的 な法的パ ラダイムを基 に した株主 のた め の経営監視 システ ムの問題 とい うこ とにな る。 (2)前述 の とお り,伝統的な企業観では,秩 主 が会社 の所 有者 で あ る34)と し,株 主 のみが その会社 の経営者 を選任 ・解任 す る固有 の権 限 を有 し,かつ経営者 を コ ン トロールす る権利 と 義務 を負 ってい るこ とにな る。 従 って,理 論 的 に は,経 営者35)また は取締 役及 び監査役 (以下 「経営者等」 とい う) が株 主 に対 し法的義務 を果 た さなか った り,株主 が 経営者等 のモ ラル ・- ザ ー ドな どのた めに企業 が効率 的 に運営 されてい ない と考 えるな らば, 取締役 会 を通 じて経営 陣の入 れ替 えを行 った り, 取締役 や監査役 を解任 しあ るい は再任 しない こ とが可能 で あ り, こ うした法的権 限 を通 して株 主 は,経営者等 をコ ン トロール してい る とい う こ とがい える。 そ して,前述 の とお り株主 が企 業経営 をコ ン トロールす るためには,取締役会 の多数派 を選任 で きる力 を持つ こ とが必要 で あ る36)。 しか し,企 業 が 巨大 化 す るに従 い 株 式 が分散 して きた結果,特定 の株主 が資本 多数決 を制 し,取締役 あ るい は監査役 を意 の ままに選 任 ・解任 し, あ るい は取締役会 の多数派 を選任 す る とい うこ とは現実的 には不可能 とな り, 倭 とん どの株 主 が法 の理想 とはか け離 れたサ イ レ ン トでかつ無 関心 な株 主 とな ってい る。 また, ここで の詳論 は避 けるが,株式会社相 互 間 で の株 式 の持 合 とい う現 象37)が,持 ち合 う相互 の株式会社 の経営者等 の地位 を安定的 な もの とし,結局 は選任 され るべ き取締役 がその 多数派 を選任 で きる現実的 な力 を持 つ こ とで, 企業 を支配 す るに至 ってい る38)0 従 って,伝統 的 な法 的パ ラダイムで は, こ う した経 営者 等 をい か に所 有 者 で あ る株 主 が監 視 ・監督 す るこ とがで きるか, その為 には どん な法 的制度 が効果 的で あ り, どの よ うな法改正 が必要か とい うこ とが問題 とな る。 (3)以上 は株 主 と経営者 との関係 か らみた監 視 システムの問題 で あ る。 しか し,近時株主以 外 の利 害 関係 者 (ステ ー クホル ダ ー), あ るい は社会的 な視 点か ら,株 式会社 に対す る監視 シ ステムが問題 とされ る よ うにな ってい る。株 主 の場合 は,株式 の発行時 に株式 の代金 を会社 に 払い込 んだ時点ですべ て の義務 を果 た した こ と に な り (経 営 に関 与 す る権 利 は あ って も責任 (義務) は全 くない),投 資 に よって被 る損害 は, 株式 を購入 した代金 に限 られ る。 また,公 開会 社 で は,株 式 が 自由に譲 渡 で きるこ とか ら,会 社 か らの退 出は容易 で あ り, その損失 もカバ ー しやすい。 しか し,株 式会社 と取 引 をす る債権者 の場合 には,現実 には株主 よ りも退 出が容易 で ない場 合 が多い し,株主 が限定 された責任 しか負 わな い た めに,経 営者 の行動 に よって は, その利益 が害 され るおそれが大 きい。従 って, その利害 を調 整 す る必 要 が あ り39), そ う した観 点 か ら の監視 システ ム も問題 とされ る よ うにな って き てい る。従業 員 ・顧 客 とい った他 の利害 関係者 において も同様 で あ る40)0 (4) また,伝統 的 には,経済学 な どで は利益 極 大 化 が企 業 の 目的 で あ る とされ て きた41)。 しか し,株式会社 は, 巨大化 ・複雑化 す るに伴 い,上記 の よ うな多数 の利害 関係者 に対 してば か りで はな く, もっ と広範 囲 にわた る他 の社会 構成 員に対 して も大 きな影響力 を持 つ よ うにな った。 そ うした こ とか ら,会社存続 の 目的 は利 益極 大化 だ けで は不 十分 で あ る として,「社会

(7)

の要求」 とい う会社 に とって の外部 的条件 や地 域社会 にお け る 「公共的 な必要」 につい ての条 件 を満 たす こ とも,会社 に とって は必要 な条件 で あ り, それ ゆ え,会社 は社 会 の-構成要素 で あ る とか,会社 は社会 の一 員で あ る とい うよ う な考 え方42)が強調 され る よ うにな って きて い る。 そ こで は会社 内部 とは異 な った視 点で の監 視 システムが問題 とな り,社会か らのチ ェック 機能 をい か に会社 内部 に ビル ト ・イ ンすべ きか とい うこ とにな る もの と考 えるが, こ うした会 社 の社会 的責任 の会社法 内在 的 な確保 の要請 が 今 日緊 要 な立 法 政 策 の 課 題 と され て きて い る43)。 この よ うに,伝 統 的 な株 主 所 有 者 企 業 観 か ら離 れ,近代法 的監視 システムのパ ラダイ ムその もの を,現代 的 に見直 しをす るこ とも問 題 とされ る よ うにな って きてい る44)。 (5)株 式会社行動 の社会的 コン トロール あ る い はその責任 が問題 とされ る よ うにな ったのは, 会社 に も, 自然人 と同様 に法 的 な主体 としての 人格 が与 え られてい るこ とにあ る。 この人格 を 与 え られた会社 は,人 と物 よ りな る一個独 立 の 組織体 として,企業意思 を持 ち,価値量 の増加 (利潤) を 目的 とした経 済活 動 を行 ってい る。 こ うした経済活動 は,一般論 で言 えば,個人 が 行 うときは,人格的 な規律づ けが機能 す るので, そ こには限度 と節度 が 自ず と認 め られ る。 しか し,会社 の場合 は,価値量 を増大化 させ るた め に不断 に組織 が増殖 してゆ くこ とか らその限度 が な く, その非人格性 もあ って節度 もな くな り が ちで あ る。 ところが,法人 であ る会社 の社 会 的行動 が問題 とされ, その責任 が問 われ る とき, 法人 はあ くまで法 が擬制 した フ ィクシ ョンに過 ぎない た め, その法人 に法的責任 を負 わせ,直 接法人 を社会 的 に規律づ け る とい うこ とは困難 で あ る。従 って, その責任 は組織 の一 員 として 当該行為 を行 った個 々人 に まず帰せ しめ られ る こ とにな り,法人 の トップが その為 に直接罰 せ られ る とい うこ とが ない。 ま してや当該法人 の 所有者 と観念 され る株主 には, その責任 を求 め るこ とがで きない とす るのが近代法 の原則 で あ る。 この よ うに法人 においで は,当該法人 の行 為 に関与 した法人組織 の構成 員が個 々人 として その責任 を負 うだけで あ るこ とか ら,結果 的 に はい わゆ る トカゲの尻尾 き りに終 わ り法人 とし ての責任 が見逃 されて しま うか暖味 な もの とさ れ て しま う とこ ろに問題 の所 在 が あ る45)。従 って, こ うした法人 の責任 について は,誰 に ど の よ うに して果 た させ るこ とが法人 に対す る規 律づ け として最 も効果的で あ るのか とい うこ と ち,現代 の株式会社法制度 にお け る大 きな課題 で あ る とい える。 第

3

章 従来型取締役会制度 と監視機能 1 従来型取締役会の監視機能 とその実態 法律上 で は,取締役会 が代表取締役及 びその 他 の取締役 の行 う業務一般 の監督 を行 うこ とが 明定 され (旧商 法

2

6

0

条 1項,会社 法

3

6

2

2

2

号),判 例 もそ う した法 的地位 に あ る以上 監 視 ・監 督 が で きる もの と して,例 えば,「株 式会社 の取締役 会 は会社 の業務執行一般 につ き 監査す る地位 にあ るか ら,取締役会 を構成 す る 取締役 は,会社 に対 し,取締役会 に上程 された 事柄 につい てだ け監視 す るに とどまらず,代表 取締役 の業務執行一般 につ き, これ を監視 し, 必要 が あれば,取締役会 を自 ら招集 し, あ るい は招集す るこ とを求 め,取締 役会 を通 じて業務 執 行 が適 正 に行 われ る よ うにす る職 務 を有 す る」46)と し, また,「我 が 国 の株 式 会 社 , と く に大会社 で は,代表取締役等 の業務執行者 を除 くい わゆ る平取締役 ない し監査役 は, その大半 が社 内取締役 ない し監査役 で あ り, これ を従業 員の年功功労報償 的 な地位 にお く運用 が な され てい る。 それ は,厚遇 を受 けなが ら取 り締 まら ない取締役 ,監査 しない監査役 として業務執行 者 の追認機構 と化 してい るので あ る。 --・も と よ り, この よ うな現状 を我 々 も知 らぬで はない。 知 らない で は ない が, そ うだ か ら とい って, ・--報酬 のみ を得 て取締役 ,監査役 として の職 務 を しない名誉 的 な取締役,監査役 に,法 は席

(8)

を与 えるこ とがで きない。」47)と述べ るな ど, 取締役 の責任 を厳 しく解 してい る。 しか し,実際 に も,取締役個人 そ して取締役 会 とい う合議体 ともにその機能 を十分 に果た し 得 てい ない こ とが問題 で あ り, その原 因 として 以下 の ような事情 が従前指摘 されていた。 (1)前述 した とお り,昭和25年 の改 正 に よ って, それ まで取締役社長 を頂点 とした経営体 がその まま法律上取締役会 と呼称 され る よ うに な った こ とか ら,取締役会 は経営体 である とい う間違 った企業文化 を醸成 して きた。 そ して, その結果 として法律上 は,従来 の代 表取締役 の上位 に取締役会 を明確 に位置づ け, 対外的 な業務執行機関で あ る代表取締役 を, そ の上位機関である取締役会 に よって監視 ・監督 す る こ とを予定 した48)に もかか わ らず,実 態 は取締役 の長が代表取締役 とな り,代表取締役 が取締役会 を主宰 し,運営す る とい う法 とは逆 の関係 の慣行 を生んで きた49)0 (2)取締役 の人事権 と報酬決定権 が社長 に委 ぬ られ,代表取締役 で ある社長 の経営権力が取 締役会 よりもは るか に強大であるこ とが挙 げ ら れ る50)。現 実 の企 業社 会 で は,い ず れ の会 社 において も社長 が取締役候補者 の腹案 を予 め考 えてお き,取締役会で これ を提案す る。 この よ うに,専 ら社長 の意 向に よって取締役候補者 が 決 ま り,株主総会 に提案 され るこ とにな る51)。 また,社長 を選ぶ のは本来取締役会で あ るは ずで あるが,その取締役会 の構成 員で ある取締 役 候 補 者 を選 ぶ の は前 記 の とお り社 長 で あ る52)。従 って,実 質 的 に 自分 が選 ん だ取締 役 に よって構成 され る取締役会 に よって 自分 を選 ばせ る とい うこ とになるこ とか ら, そ うした取 締役会 が社長 を解任 で きるはずがない とい うこ とにな る53)0 (3)取締役会が,代表取締役以外 の取締役 に 対す る監視 ・監督 について も十分 に機能 してい ない原 因 として,取締役 の多 くが使用人兼務取 締 役 で あ る とい うこ とが挙 げ られ てい る54)0 日本 では,取締役 の大多数 は,大学 その他 の学 校 を卒業 してか らの生涯 のほ とん どをその会社 内部 で過 ご した内部昇進者 に よって 占め られ, 執行組織 の 「偉い人」 -取締役 とい う社 内慣行 が成 り立 ってい た55)。 こ うした長期 雇用 関係 の下 での昇進 レースは,伝統 的な経済理論 で強 調 され る外部労働市場 におけ る競争 よ りも激 し い か も しれ ない56)とい う利 点 が指摘 され る一 方で, こ うした慣行 が,取締役総務部長 ・取締 役経理部長 とい った従業 員 を兼 ね る取締役 の存 在 を常態化 して きた。 こ うした使用人兼務取締 役 の場合 は,担 当部門の利益代表的 な性格 を持 ってい るこ とか ら,他 の取締役 の業務執行 につ いてあ ま り関心が高 くない こ とと,意見 を述べ る とそれが 自分 にはねか え って来 るこ とでの遠 慮 が ある。 また,総務部長 ・経理部長 は法的に は商業使用人 (旧商法43条,会社法 14条) に す ぎないか ら,商業使用人 として本来代表取締 役 の指揮 ・命令 を受 ける立場 にある。従 って, こ うした 日本 の取締役会 はそ もそ も法 が予定 し た合議機 関にふ さわ しい人事構成 にな ってい な い こ とが指摘で きる。 こ うした従業 員兼務取締役 については, そ も そ も違法で ある とい う見解 も一部 にあ ったが, そ の兼 務 を肯 定 す る の が判 例 ・通 説 で あ っ た 57)

0

この よ うに,各取締役 は,終身雇用制 をベ ー スに従業 員の中か ら選 ばれ,社長 を頂 点 とす る 業務執行機 関の一 員 とな ってい るために,社長 に対す る実効的 な監視 ・監督 を取締役会 に期待 す るのはそ もそ も困難で あ った58)。

(

4

)

前項で述べた こ とは,い わゆ る役付取締 役59)につい て も同 じよ うに あて は まる。常務 取締役,専務取締役 とい った役職 は,法的には 会社 の内部職 階制 に基づ く任意 の役職 で あ り, 会社 内部秩序 として同 じく内部職階制 の役職で ある社長 の指揮 ・命令 に服す るこ とにな る。 この ように 日本企業 の取締役会 は, その構成 員で ある取締役 が階層化 し,上か ら社長,専務, 常務,平取締役 と縦一線 に並べ られてい る60)0 (5) また,取締役会 とは別 に,常務取締役会

(9)

あ るい は経 営会議 が設 け られ, その メ ンバ ーで あ る少 人 数 の取 締 役 に よ って意 思決 定 が な さ れ61),他 の取 締 役 は そ う した意 思 決 定 に は参 画で きない た め, そのメ ンバ ー と他 の取締役 と の間に地位 の分化 が起 こ り,実質 的 には取締役 会 は,事後承認機 関 あるい は形式的 な決済機 関 として しか機能 してい ない ので はないか とい わ れてい た62)0

(

6

)

また,取締役 の選任 は,本来株主 の権利 で あるが,上記 の よ うな実態 か ら,い きおい社 内人事 として の性格 が強 く現 れ ざるを得 な くな る。 そのた めに一部 メ ンバ ーの固定化 を招 くお それが あ り,「一部 の固定 メ ンバ ー と政権 を担 う トップは,反対分子 を徐 々 に切 り捨 て イエ ス マ ンのみ を構成 メ ンバ ー として選 び, その結果 権力 が集 中 し,暴走 して しま うケ ースが少 な く ない」63)とい う弊害 も指摘 されてい た。 (7)取締役会 の構成 員の増加 も取締役会 の形 骸 化 の一 因 とな ってい た。取締役 の数 が30名 を越 え る企 業 も珍 し くなか った64)が,最 近 は 取締役 の数 を減少 させ る傾 向が 目立 って きてい る65)。 こ れ は, コ ー ポ レ ー ト ・ガ バ ナ ン ス (企 業 統 治) の観 点 か ら取締 役 会 を活 性化 し, 相互 チ ェ ック機能 を高 め よ うとす る現 れで あ る と理解 で きる。 この よ うに,大所帯化 した取締役会 に機動力 あ る監視機能 を求 め るこ とは難 しい。 また,前 記 の とお り,経営 の基本 にかかわ る事項 も,常 務以上 で構成 され る常務 会や, さらに上席役 員 だ けに絞 った経営会議 で決定 し,取締役会 はた だそれ を追認 す る機 関 とな って しま ってい るの ち, こ うした大所 帯化 した取締役 会で意思決定 す る こ とが事 実上 困難 とな ってい た か らで あ る66)

(8)法律上 は,取締役 は執行機 関で あ る取締 役会 の構成 員 として その意思決定 の プ ロセ スに 参画す るこ とに よって監督す るこ とが期待 され てい る。 しか し,実際 は経営 の重要 な部分 が, 取締役会 で はな くこ うした別 の機 関でかつ密室 で審議 され るた め,本来 の取締役 会 にそのチ ェ ックを求 めて もで きるはずが な く,法 と実態 と の間 には大 きな隔た りが認 め られた。 2 従来型取締役会制度の課題 この よ うに 日本 の取締役会 は,法 の建前 とは 異 な り,実際 は社長 を頂 点 とす る指揮監督 の も とで,他 の取締役 が階層化 し, かつ一体 とな っ ての効率 的 な経 営体 を組織 してい るた め, その 指揮監督下 にあ る役付取締役 あ るい は従業 員兼 務取締役 が, その上部 の取締役 を監督す る とい うこ とはほぼ不可能 に等 しい構造 にあ った こ と が認 め られ る67)

また,法律 で定 め る重要 な事項 につい て は, 取締役 会 は 自 ら決定 を しなければな らず (旧商 法260条2項,会 社 法362条4項),代 表 取 締 役 には委譲 で きない こ とにな ってい るが,会社 の規模 が大 き くな り,取締役 の人数 が多 くな る に従 い, この よ うな事項 を取締役会 で実質 的 に 決定 す るこ とが困難 とな り,取締役会 の決定機 能 は,法 に合致 させ るた めの形 式的 な ものにな らざるを得 ず,実質 的 には意思決定機 関 とい う よ りも経 営者 の議案 に対す る承認 ない し同意 の 意味 を有す る同意機 関 とい うべ き状 態 にあ った。 この よ うに, 日本 の取締役会 の実態 は,使用人 兼務取締役 や役付取締役 が普及 し,執行機 関 と して は有効 に機能 してい るが,監督機 関 として の機能 は損 なわれ,監督者 が被 監督者 の指揮命 令 を受 け る とい う国際的 には理解 し難 い制度 と な ってい た。 以上 の よ うな,取締役会 の実態 か ら,商法学 者 の間で は,以下 の点 を改革すべ きで あ る とい う指摘 が な されてい た68)。 (∋意思決定 と執行 の分離 (∋意思決定 と監督 の分離 (釘社外取締役 の構成比率 の ア ップ また,従来 の使用人兼務取締役 は,「取締役」 とはい って も,現実 には意思決定 に も監督 に も 実質 的 には関与 してい なか った し, それ を期待 す るこ ともで きない とい う実情 にあ った。 そ こ で, こ うした取締役 か らは 「取締役」 の肩書 き

(10)

を とり,意思決定 と監督 の職務 を解いてや るこ とが実態 にあ った制度 である として,執行役 員 制 が提案 されていた。 因みに,執行役 員制 を導入 した会社 に対す る ア ンケー ト調査では,以下 の ようなメ リッ ト, デメ リッ トが指摘 されてい るが,概 ね肯定的で ある69)

(メ リッ ト) ①取締役会 の意思決定が迅速 にな った。 ②取締役会 の討論 が活性化 した。 (彰部門責任者 が担当業務 に専念で きるよ うに な った。 ④使用人 のイ ンセ ンテ ィブにな った。 (デメ リッ ト) ①取締役非兼務 の執行役 員 との問で会社情報 が共有 されに くくな った。 ②機構改革だけが形 に留 ま り,本質論 での改 革議論 を埋没 させて しまった。 (歪取締役 の大半が執行役 員 を兼務 してい るが, それぞれの職分 を分離 して機能 させ るこ と は困難。 第

4

章 従来型監査役制度 と監視機能 1 監査役の役割 監 査役70)は,法律 上取締役 と同様 に株 主総 会 の決議 に よって選任 され (旧商法280条,同 254条 1項,会 社 法329条 1項),取 締 役 の職 務 の執行 を監査す る (旧商法274条1項,会社 法381条) こ とにな ってい る71)0 監査役 は取締役 と異 な り,それぞれが独立 し て会計監査 と業務監査 を行 う72)が, 旧法上 の 大会社 の場合 は,監査役 の権限 を強化す るため, 監査役全 員で監査役会 を組織 し, その監査役会 に一 定 の権 限が与 え られてい た (旧商 特法18 条 の2,会 社 法390条)。 な お,会 社 法 で は, 公 開会社で ない大会社では必ず しも監査役会 を 置 く必要がな くな った (会社法328条1項) が, 他面公開大会社以外で も監査役会 を組織 で きる こ ととな った (2条10項)。 監査役 の職務 は,取締役 が 日常作成す る会計 帳簿,毎決算期 に作成す る計算書類及 び附属 明 細書 について会計監査 を行 うこ とと,取締役 の 業務 一 般 につい て の業務 監 査 を行 うこ とで あ る73)。業 務 監 査 とは,具 体 的 に は取 締 役 会, 代表取締役,業務執行 (担 当)取締役 が行 う職 務執行 に不正等が ないか を第三者 の立場 で監督 し,必要 に応 じて その是正措置 を とるこ とで あ る。 こ うした監査役 の具体的 な監査行為 の内容 を 整理す る と,次 の三つ に大別す るこ とがで きる。 ①取締役 が不正行為 を行 う前 に これ を防止す るこ と (事前行為)74) (参取締役 が何 か不正 な行為 を行 った場合 にそ の行為 を阻止す るこ と (事後行為)75) ③取締役 の行 った不正 な行為 を指摘 し報告す る こ とで 阻止 す る こ と (監 査 報 告 書 の作 成)76) そのほか監査役 は会計監査人 との連携 を保つ ために,必要 がある ときは,会計監査人 に対 し 随時 その監査 に関す る報告 を求 めるこ とがで き る (旧商 特 法13条3項,会 社 法397条2項) こ とに な ってい る77)。 また, 日本 監 査役 協 会 の 「監 査 役 監 査 基 準」 (平成16年2月12日改 正) に よれば,監査役 は,会計監査人 と緊密 な 連係 を保 ち,積極的 に意見及 び情報 の交換 を行 い,効率的 な監査 を実施す るよ うに努 めなけれ ばな らない (同監 査基準42条 1項) とされて い る78)

監査役 が, この よ うな 日常的 な監査 を効果的 に遂行 させ るために,法 は監査役 に対 し各種 の 調査権 限 を与 えてい る。 そ して, こ うした調査 活動 に よって,取締役 が,会社 の 目的 の範 囲内 にない行為, その他法令 もしくは定款 に反す る 行為 をな し, またはなすお それが あるこ とを見 出 した ときは,監査役 は まず その旨 を取締役会 に報告す る義務 が あ る (旧商法260条 ノ3第2 項,会社 法382条)。 この報 告 義務 を履行 す る ために,監査役 には,取締役会 の招集 を要求 し, または自 ら取締役会 を招集す る権 限が与 えられ

(11)

てい る (旧商 法260条 ノ3第3項 ・4項,会社 法383条2項 ・3項)。監 査 役 は, この よ うに して取締役会 に情報 を提供 した後 は,今度 は取 締役会 に よる監督是正権 の行使 の状況 を監査 す る立場 に回 るこ とにな る。取締役会 が その監督 是正権 を適切 に行使 しない場合 には,監査役 は 自 らの監督是正権 (275条 ノ2,会社法385条) を行使 し, その是正 を図 るこ とが求 め られてい る。監査役 が 自己の監督是正権 を先 に行使 す る こ とも考 え られ る。 しか し, その影響力 の大 き さを考慮す るな らば,実際 には まず取締役 会 の 監督権 限の行使 を促 す のが通常で あ ろ う。 それ は,監査役 が裁判 に よって取締役 の行為 の差 し 止 め を求 め る とい うこ とにな る と, その こ との みで会社 の社会的信頼 が大 き く損 なわれ るこ と にな り,会社 の利益擁護 あるい は適法性 の要請 に応 えるた めの行動 が,一方 で は,会社 内部 に 混乱 を もた ら し,場合 に よって は損害 を与 えか ね ない こ とにな るおそれが多分 にあ るか らで あ る79)。従 って,監 査 役 は,必然 的 に抑 えの き い た行動 を とらざるを得 な くなるで あ ろ うし, 他方 で は, その 自制 が強す ぎる と今度 は監査役 として の機能 が果 たせ な くな るお それ も出て く るこ とか ら,場合 に よって は,勇気 のい る難 し い判 断 を迫 られ るこ とに もな る。 また,監査役 は取締役会 に対 し,法律上 の報 告義務 を負 ってい るが, この報告義務 は,取締 役 のあ る程度重大 な違法 ない し不 当 な行為 に対 してで あ る と解 されてい る。 しか し,監査役 が 監査手続 を実施す るこ とで知 り得 た会社経営上 の問題 点 を,取締役 会 あるい は個 々 の取締役 に 個別 に情報提供す るこ とは まで もが否定 され る もので はない。 これ は,前述 した とお り取締役 が不正行為 を行 う前 に これ を防止 す るのが監査 役 の職務 で あ るこ とか ら,今後 問題 にな りそ う で あ る と思 われ る場合 には, その事項 を予 め取 締役会等 に情報 として提供 し,取締役会 が,逮 法 あ るい は不 当 な行為 に発展 す る前 に抑止 で き る よ うに してお く必要 が あ るか らで あ る80)。 2 監査役業務の現状と課題 (1)監査役 が,経営陣 の業務執行 につい て違 法 で ない か を監査す るこ とは前述 の とお り権 限 として認 め られてい る。 ところが,社会常識 や 倫理 に反す る業務執 行 をチ ェックす る妥 当性監 査 について は, これ を認 めてい るのか否 か法文 上 か らは明確 で ない81)。取 締 役 会 の監 督 権 限 は,業務執行 の適法性 だけで はな く, その妥 当 性 に も及ぶ とされてい るのに対 し,監査役 の業 務監査権 限 は, もっぱ ら適法性監査 に限 られ, 取締役 の職務執行 が 「著 し く不 当」 な場合 だけ は,妥 当性 の監査 に も及ぶ と狭 く解 されてい るo なお, その理 由 として, あ る有力学説 は 「妥 当 性 をめ ぐる意見 の対立 は,最終 的 には人事 で決 着 つ け ざ る を得 ない が,業 務 執 行 担 当者 の選 任 ・解任権 は取締役会 にあ り,監査役会 にない か らで あ る」 と説 明 し,「著 し く不 当」 な場合 につい て も, その監査 は限定 された事項 の指摘 に止 ま る とす る82)。 しか し,前 述 した よ うな 監査役 の実際 の監査行為 か らす れば,妥 当性監 査 について も柔軟 に認 め, その監査結果 が取締 役 会 に報告 され るだ けで あ った として も事前監 査機能 として十分 に意味 あ るこ との よ うに思 わ れ る83)。 も っ と も,何 が妥 当 性 の監 査 で,何 が適法性 の監査 で あ るか を実務上適確 に判 断す る こ とは 困難 で あ る84)。 そ して, 困難 で あ る がた めに こ うした監査役 の権 限 の解釈上 の不 明 確 さが,現実 の監査行為 を消極 的 な もの として い る とい う指摘 が あ る85)0 (2)前 述 した とお り昭和25年 の改 正 で は, 監査役制度 は会計監査 のみ を行 う 「監督機 関 と しての監査役」 として ス ター トした。 しか し, 会計監査 と業務監査 とは本来 あ くまで も分 か ち がたい 関係 にあ り,会計監査抜 きの業務監査 は あ りえない し,業務監査 と無縁 な会計監査 もあ り得 ない86)とい うこ とか らす れ ば,監 査 役 の 監視機 関 として の機能 には, ス ター ト当初 か ら 無理 が あ った し, そ もそ も監視機 関 として軽視 されて きた ので はない か と思 われ る。 しか も, 監査役 は,会計監査 の専 門機 関 とされてい た に

(12)

もかかわ らず,監査役 の資格 に会計 の専門性 が 求 め られてい なか った。 この よ うに法制度上 も さほ ど期待 されて こなか った とい う監査役制度 の歴史的 な経過が社会的意識 として色濃 く影 を 落 とし,監査役 の権 限が格段 に強化 された今 日 においで も監査役 の実際上 の機能 に少 なか らぬ 影響 を与 えてい るもの と推測 され る87)0 (3)監査役 には,法律 に よって各種 の調査権 限 が与 え られ てい る (旧商 法274条 2項 ・同 274条 ノ 3,会 社 法 381条 2項 ・3項) が,実 際 に は監 査 役 固有 の ス タ ッ フが 不 足 して い る88)た めに,組織 的 に情報活動 を行い十分 な 情報収集がな しえない こ とか ら,有効 な監査が で きない とい うこ とが従来か ら指摘 されてい る。 しか し,会社 の活動 について 日常的 に報告 を受 けるこ とに よって,会社 の営業 内容 や会社 の管 理体制 の現状 を把握す るこ とは可能 であ り, そ れで十分で あるか どうかは別 に して, そ うした 活動 に よって情報収集 に努 めて きてい るのが こ れ までの実務 である. もっとも,常勤監査役以 外 の社外監査役 の場合 は, その性質上,常勤監 査役や その他 の会社関係者か らの定期的 な報告 等 に頼 らざるを得 ない とい うのが実情で ある。 しか し, こ うした監査役 については, 日常的 な 調査活動 よ りも,他 の監査役か ら提供 された情 報 を基 に,い ざ とい うときには,経営陣か らの 強い独立性 を背景 に して,他 の監査役 の後 ろ盾 とな って適切 な監視機能 を発揮す るこ とが期待 されてい る とい うこ とにな る。 従 って, こ うした常勤監査役 と非常勤監査役 との役割分担 とその連携 のあ り方が監査役 の監 視機能 の実効性 に とって重要 とい うこ とにな る。

(

4

)

監査役 は, その職務 の性格 か ら,取締役 や使用人 (従業 員) を兼務す るこ とが法律上禁 止 され (旧商 法276条,会 社 法 335条 2項), 独立性 が求 め られてい る。 ところが,現状での監査役 は,取締役 の推薦 に よって選任 されていた こ ともあ って前述 した とお り歴史的 には取締役 の下部組織 の ように位 置づ け られて きた。 また,社内出身者 が多 く, 従業 員への恩恵的再就職先 の ようにな り,社長 の指揮監督下 にある部下 で あるかの よ うに認識 されて きた。 そのた め,実質的には経営者 か ら 独立 した監査機構 にな ってい ない とい う問題 が あ った。 そ こで,平成

5(

1

9

9

3

)

年 の改正 で は, 旧商 特法上 の大会社 の監査役 につい て は,「監査役 は3人以上で, その うち 1人以上 は, その就任 前

5

年間会社又 はその子会社 の取締役又 は支配 人 その他 の使用人で なか った者でなければな ら ない」 (旧商特法18条 1項) とい わゆ る 「社外 監査役」制度 を導入 し,監査役 の独立性 の強化 を図 った。 しか し,改正 された内容 で は,「そ の就任前

5

年 間」 とあるこ とか ら, なおその独 立性 の要件 として不十分で あ る として批判 され ていた89)。 (5)法律上で は,株主総会 が監査役 を選任す るこ とにな ってい る。 しか し, とりわけ常勤監 査役 の場合 には,実際 の人選 にあた って社長 ・ 会長 とい った トップの意 向が反映 され るこ とが 少 な くない と言 わ れ てい る90)。従 って,社 内 の先輩や上 司に対 しては,単刀直入 に意見 を述 べ るのが難 しい 日本 の風潮 の中で, ま してや監 査役へ の推薦 を受 けた長年 の上司で ある取締役 あ るい は トップに対 して その監査 を実効 的 に果 たせ るか とい うこ とにな る とそれがなかなか容 易で ない もの と想像 で きる。 そ して,常勤監査 役 の場合 は, その収入 の大部分 を監査役報酬 に 頼 ってい るのが通常で ある。従 って, こ うした 人選 に対す る トップの関与 と報酬へ の依存 は, 経営陣か らの監査役 の独立性 に大 きな影響 を与 え,監査制度 の監視機能 を少 なか らず制約 して いた もの と推測 され る。

(

6

)

また,監査役 には,取締役会へ の出席 が 権利 として保 障 されてい る。 しか し,前述 した とお り取締役会 が事実上意思決定 の場で はな く な ってい る とい う問題 が あ った。現実 には,敬 締役会構成 員の一部 だけが参加す る会議 (経営 会議,常務会等)で,業務執行 の重要事項 が実 質的 に決定 され,取締役会 は これ を形式的 に承

(13)

認 す るだけ とい う傾 向が強 ま ってい たため,監 査役 が取締役会 に出席 す るだけで は,適切 な情 報 を入手 す るこ とがで きず監査機 能 が十分 に果 せ な くな ってい る とい う問題 で あ る。 この よ う に,監視機 関 として の監査役 は,や は り前述 し た監視機 関で あ る取締役会 と同根 の問題 を抱 え てい るこ とになる。い くら監査権 限 を強化 し, 制度 的 な監視機能 を改善 しよ うと試 みた ところ で,事実上機能 で きない仕組 みが作 られてい る とす れば, それ は全 く無意味 で あ る。法 が監査 役 に求 めてい る趣 旨か らすれば,常務会 -取締 役会 と置 き換 え,実際上 も常務会等 へ の監査役 の出席 を常態 とすべ きで あ る とい う解釈論 が こ れ まで も求 め られ てい た。従 って,平成

1

3

年 の改正 に よ り監査役 の取締役会へ の出席 が義務 づ け られた こ とか ら,常務会 が実質 的 に取締役 会 的 な役割 を果 た してい る とすれば,監査役 が 常務会- 出席 す るこ とも義務 と解釈 され るこ と にな る もの と考 える91)。 (7)企業 を対象 として行 われ る監査 には,上 記監査役監査 と会計人監査以外 に, 内部監査 が 行 われてい る。 この内部監査 は,本来取締役会 の業務 の監視 を支援 す るための システ ム として 構築 されてい る。 ところが実際 は, 内部統制 の 一部 として各部 門が経 営者 の指揮命令 に沿 って 業務 を適切 に遂行 してい るか否 か を企業 内の監 査部 門 (通常 は監査室) が監査す る とい う形 に な ってい る。 その よ うな こ ともあ り,運用面 で も社長直属 とな ってい るこ とや, その監査報告書 4)社長宛 で あ る場 合 が 多い とい われ てい る92)。監 査 役 は,専任 の ス タ ッフがい ない こ とか ら,前述 の とお り実際 の調査活動 は, こ うした内部監査 に 依存せ ざるを得 ない と思 われ る。従 って,監査 役 は こ うした内部監査部 門 と緊密 な連携 を保 ち, あ るい は内部監査機構 の監査 を活用 す るこ とに よ り, 自 らの監査 を効果 的 な ものにす る工夫 を す る こ とが重 要 で あ る93)し, そ うした適 切 な 内部監査 システムを経営者 が構築 してい るか を 点検 し,効果 的 な構築 を経営者 に うながす こ と も監査役 の重要 な職務 で あ る と解 す る94)。 第

5

章 米 国型経 営監視 システム につ いて 1 米国型監視システムと問題点 かつ て,米 国 の多 くの会社 法 で は,「会社 の 業務 は取締役会 に よって執行 されなければな ら ない」 と定 めてい る例 が多 く,伝統 的 には取締 役 会 が業 務 執 行 機 関 とされ95),積 極 的 な意 思 決 定 機 能 が求 め られ てい た96)。 それ は意 思 決 定 を合議体 で行 うこ とで権力 の集 中 を排 除 し, また,複数 の構成 員が有 す る経験 ・意見 ・専 門 知識 を利用 した議論 が な され るこ とで問題 の本 質 が把握 で きる と期待 されてい たか らで あ る。 ところが,実際 の取締役会 につい て は,以下 の よ うな問題 点 が指摘 されてい た。 (1)現実 には,取締役会 の職務 の大半 が上級 執行役 員

(

Se

n

i

o

rExe

c

u

t

i

v

eOf

f

i

c

e

r

)

に よって 遂行 され る よ うにな って きてい る97)。 (2)意思決定機能 が取締役 に求 め られてい る が, その前提 とな る情報 が監視 の対象者 で あ る 最 高業務執行役 員 自身 に よって コ ン トローノレさ れてい る98)0 (3)社外取締役 は会社業務 におけ る重要 な項 目を実際 に理解 す るのに十分 な関心 も時間 も持 ち合 わせてい ない99)0

(

4

)

取締役 は最高業務執行役 員の 目を通 して しか問題 を理解 し得 ない た め,取締役 は,最高 業務執行役 員に よる状況説 明 ・その判 断 ・議論 の リー ドとい った こ とに よって事 実上支配 され てい る100)。 (5)最 高業務執行役 員 に依存 す る傾 向が一般 的で あ るた め,最高業務執行役 員の示 した解釈 ない し判 断 が積極 的 に容認 され, それが取締役 会 におけ る最高業務執行役 員の支配力 の源 とな ってい る101)。 (6)重要 な意思決定 が しば しば取締役会 の検 討 や承認 な しに,事 実上上級執行役 員 ら経 営陣 に よって決定 されてい る102)。 (7)取締役 が取締役会 の場 で最 高業務執行役

(14)

貝 を尊重 し困惑 させ ない とい う規範 が一般 的 に 受 け入 れ られてお り,最高業務執行役 員 と意見 を異 にす る ときは,非公式 に最高業務執行役 員 との間で意見 を交換 し調整 す るこ とが歓迎 され, また取締役 会 の場 で質 問す る ときも,反対意見 は遠 回 しに示唆す るこ とにな り,現実 の取締役 会 にお け る審議 は期待 か ら遠 く離 れた もの とな ってい る103)。 (8)上級執行役 員が伝統 的に取締役会 の権 限 で あ った機 能 を引継 ぎ,機能的 には取締役化 し た とい う こ とが,形 骸 化 の原 因 とな って い る104)

(

9

)

最高業務執行役 員は 自分 の地位 を永続化 す るた め, 自分 と関係 のあ る社外者 を取締役 に 選任 す るのが一般化 してい る105)0 以上 の よ うな問題 点 の解決 のた めに,米 国で は,二 つ の改革 の方 向が示 されて きた。一 つ は, 意思決定 の権 限 を大幅 に上級執行役 員 に委譲 し, 取締役会 はその同意機 関 と位置付 け る とともに 取締役会 の執行役 員に対す る監督機能 を強化す る とい う方 向で あ る106)。 も う- つ は,取 締 役 会 が経 営者 に対 し適切 な監視 ・監督機能 を果 た す た めには, その前提 として取締役会 が上級執 行役 員の支配力 か ら独立的で あるこ とが必要で あ る として, その独立性 を強化す る とい う方 向 で あ る。 その中で,特 に有力 に主張 された のが, 経営者 の影響 か ら真 に独立 した取締役 が取締役 会 の少 な くとも過半数 を占め る社外 (独立)敬 締役制度 を導入 し, さらに, その取締役会 内の 各委 員会 におい て も, その構成 員の過半数 を社 外 (独立)取締役 とす るこ とで,監視 ・監督機 能 が実効 的 に果 た され る制度的基盤 を構築 しよ うとい うこ とで あ った107)。

2

米国型システムの特徴 以上 の とお り米 国型 システムは,基本 的 には 取締役会 の権 限が強大 で, その監督 と責任 の下 に会社業務 が遂行 され る仕 組 み にな ってい る。 そ して, こ うした業務執行機 関で ある と同時 に 監督機 関で もあ る米 国型 システムは,通常 「-層 システム」 と呼 ばれ,監視 ・監督機 関 と,莱 務執行機 関 とを法制度上 明確 に別個独 立 した機 関 と してい る 「二 層 シス テ ム」108)とは異 別 な もの として論 じられて きた。 しか し,前述 した とお り,取締役会 の構成 員 で ある取締役 と具体 的 な業務執行 を担 当す る執 行役 員 とが分化 し,実際 の大規模公 開会社 で は, 具体 的 な業務執行権 限は,執行役 員に委譲 され, 基本的 な経営政策 の策定 と選任及 び報酬 の決定 を通 じて行 われ る役 員の業務執行 に対 す る監督 が取締役会 の主 た る機能 とな って きてい る。 そ の結果,米 国型 で も,業務執行 は執行役 員が担 い,取締役会 はその執行役 員の上位 に位置 し, 執行役 員の業務執行 を監督す る とい うよ うにな って きてい るので,い わゆ る二層 システム同様 に上位 に位置す る機 関が下位 に位 置す る機 関の 業務執行 を監視 す る とい う垂直構造 にな ってい る。 そ して,い ずれ もその監督 を実効 あ ら しめ るた め の権 限 と して,業 務 執 行 者 に対 す る選 任 ・解任権 が与 え られてい るこ とか ら,機 関に つい て の呼称 が異 な るこ とは別 に して,米 国型 の一層 システム とい わゆ る二層 システ ム とは, 実質 的 にはほ とん ど変 わ りが な くな って きてい る とい える109)。 もっとも,二層 システムで は,監督機 関 と業 務執行機 関 の構成 員 とは,人 的 には明確 に分離 す るこ とを特徴 としてい るが,米 国型 システム で は,取締役会 の構成 員で あ る取締役 が執行役 員 を兼務す るこ とは可能 で あ る し,兼務 しな く ともよい とい うよ うに人 的 な構成 におい て柔構 造 を とってい る点が大 き く異 な ってい る。 そ し て,米 国型 が こ うした一層 システムを採 ってい るこ との メ リッ トとして以下 の二点 が指摘 され てい る110)。 ①業務執行機 関 と監督機 関が一元化 され るこ とで,監督 に必要 な情報 が二層 システムの 場合 よ りは, よ りスム ーズに監督機 関 に流 入す るこ とにな る。 (∋業務執行機 関 と監督機 関が単一機 関 の中に 集 中 してい るこ とに よ り双方 の密接 な相互

(15)

協力 関係 が形成 され,集 中化 した監督 が行 われ易 い し,特 に会社 の経営戦 略や長期計 画 の策定 の策定段 階 におけ るチ ェックが行 われ易い。 逆 にデ メ リッ トとして以下 の点 が指摘 されて い る 111)0 (∋業務執行 の決定 とそれに対す る監督 が同一 機 関で行 われ るこ とか ら, 自分 が 自分 を監 督 す るこ とか ら くる実効性 に対 す る疑 問 と 監督機 関 としての独 立性 の弱体化 が生 じや すい。 ②権 限 と責任 の所在 が不 明確 とな り,外部 か らは見 えない特定 の取締役会構成 員に よる 事実上 の影響力 が行使 され る危 険性 が あ る。 この一層 システムの メ リッ トは,二層 システ ムのデ メ リッ トで あ り,一層 システムのデ メ リ ッ トは,二層 システムの メ リッ トで ある とい う 関係 にあ るが,一層 システム を採 る米 国型 で は, 前述 した とお りこのデメ リッ トを克服す る方 向 で の改 革 が実行 されて きてい る。 例 えば,上記 デ メ リッ ト① につい ては, これ まで取締役会 が行 って きた業務執行 の決定 を実 質 的 には執行役 員に委譲 し,取締役会 はその決 定 に対 す る同意機 関 として関与す るこ とで,監 督機 関 として の実効性 を高 め る工夫 がな されて い る。 また, デメ リッ ト② につい て も,取締役 会 の過半数 を社外取締役 が 占め るこ とで,執行 役 員 を兼 ね る社 内取締役 の人数 を次第 に制約 し, 加 えて独立性 を有す る取締役 か らな る監査委 員 会等 を設 け るこ とで,執行機 関か らの監督機 関 としての独立性 を確保 し,業務執行者 に対 す る 監督機能 を高 め るた めの方策 を講 じてい る。 この よ うな改革 を行 うこ とで一層 システムを 採 る米 国型 は,二層 システム と近似 して きて は い るが,監督機 関 と業務執行機 関 とが人 的 に も 機能的 に も明確 に分離 されてい るこ とを特徴 と す る二層 システム とは異 な り,業務執行機構 の 構築 について は,広範 な会社 の 自治 を認 め, そ して監督機能 につい て も制度 上 は分離 せず に, あ くまで執 行機構 と一体化 した関係 の中で,敬 締 役会 の独 立性 を保 障す る工夫 をす るこ とで監 督 の実 をあげて ゆ こ うとい う柔構造 を とってい る ところにその大 きな特徴 が あ る。 要す るに,米 国型 システムで は,一元 的 な取 締役会 の中に委 員会制度 とい う独立性 のあ る機 関 を設 け,かつ その機 関 を構成 す るメ ンバ ーに ついて も業務執行役 員の影響 を受 けない人物 を 配置す るこ とで,委 員会 を構成 す る取締役 につ い て二重 の独 立性 を確保 しよ うとしてい る とこ ろに特色 が あ る。 しか し, この米 国型 の システムが,実際 にそ の理念 どお りに機能 してい るか とい うこ とにな る と評価 が分 かれ明確 で はない。 CEOをは じめ経 営者 の報 酬 が社 会 的 非難 を 浴 び るほ どに高騰 してい るの が そ の一 例 で あ る112)。 そ の原 因 は,取 締 役 の報 酬 がCEOに よって左右 され るこ とにあ る とい われてい る。 要す るに,報酬 につい て は,取締役,経 営陣 と もに利害 が一致 してい るた め, その監視 が期待 で きず に抑制 が効 か な くな ってい る とい うこ と で あ る。CEOの報 酬 は,い くらが適 正 で あ る か は難 しい 問題 で あ るが, そ うした事 実 が問題 とな る背景 には,株主主権 とい うよ りも経営者 主権 としての色彩 を見 て取 るこ とがで きる し, 報酬委 員会制度 が必ず しも機能 してい ない こ と を窺 わせ る もので あ る113)0 また,社外取締役 について も同様 に高額報酬 が問題 とな ってい る。米国大手

2

0

0

社 の社外取 締役 は平均

6

8

,

3

0

0

ドル の年 間報酬 を得 てい る とい われ てい る114)。 この金額 が経 営 陣 と比 較 して高いか安い か は さておい て,社外取締役 の場合 は,複 数企業 の取締役 を兼務す るな ど し て本来 の役割 を果 た してい ない ところに問題 が あ る とされてい る。例 えば,特殊化 学品大手 の W ・R・グ レースや複 合企業 の モ リス ン ・ヌ ー ドセ ンでの不祥事件 で,いずれ も トップの経費 流用疑惑 な どで経営 が揺 れ,業績 や株価 に影響 が出てい るに もかか わ らず,社外取締役 が傍観 を続 けてい た115)し,最 近 の エ ンロ ン事件 にお い て も一流著名人 が社 外取締役 として就任 して

参照

関連したドキュメント

The objective of this study is to address the aforementioned concerns of the urban multimodal network equilibrium issue, including 1 assigning traffic based on both user

We obtained the condition for ergodicity of the system, steady state system size probabilities, expected length of the busy period of the system, expected inventory level,

Keywords: Convex order ; Fréchet distribution ; Median ; Mittag-Leffler distribution ; Mittag- Leffler function ; Stable distribution ; Stochastic order.. AMS MSC 2010: Primary 60E05

The reader is referred to [4, 5, 10, 24, 30] for the study on the spatial spreading speeds and traveling wave solutions for KPP-type one species lattice equations in homogeneous

To obtain existence of solution of the semilinear Mindlin-Timoshenko problem (1.1) − (1.3) , we found difficulties to show that the solution verifies the boundary conditions (1.2)

Inside this class, we identify a new subclass of Liouvillian integrable systems, under suitable conditions such Liouvillian integrable systems can have at most one limit cycle, and

In order to achieve the minimum of the lowest eigenvalue under a total mass constraint, the Stieltjes extension of the problem is necessary.. Section 3 gives two discrete examples

For further analysis of the effects of seasonality, three chaotic attractors as well as a Poincar´e section the Poincar´e section is a classical technique for analyzing dynamic