ESRI Discussion Paper Series No.10
「リストラ中高年」
の行方
*by
玄田有史 学習院大学、内閣府経済社会総合研究所February 2002
Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan *第 9 回労働経済コンファレンスにおいて本報告の討論者であった大沢真知子、後藤純一、そしてコンファレンス参 加者からいただいたご意見、ご質問は本稿を作成する上できわめて有益だった。さらに本稿のベースとなった内閣 府経済社会総合研究所主催による国際フォーラム(2001 年 9 月 17 日)における筆者の報告に対して中馬宏之氏か ら頂いたコメントは、本 稿を作成する上で貴重だった。改めて感謝申し上げたい。あわせてコメントをいただいた Noel Gaston、及び Mark Rebick の両氏にも感謝する。加えて同研究所における労働市場ユニットのメンバーであり、 本稿の分析結果に意見をいただいた石原真三子、太田聰一、照山博司の各氏に感謝申し上げる。さらに「雇用動 向調査」特別集計の諸手続に尽力いただいた、内閣府の瀬沼雄二、佐々木和裕の両氏にも感謝する。又、人員合 理化を実施した企業の人事担当者を対象に行ったヒアリングは、本稿を構想する上できわめて有益だった。ご協力 いただいた方々に心よりお礼を申し上げたい。尚、本稿に含まれ得る誤りなどは、すべて筆者個人によるものである ことは、いうまでもない。
ESRI ディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研究者およ び外部研究者によって行われた研究成果の一部をとりまとめたものです。学界、研究機関等 の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図して発行しており ます。 論文の内容・意見は、執筆者個人に属するもので、内閣府や経済社会総合研究所の公式 の見解を示すものではありません。
ABSTRACT*
In this paper, based on the Employment Trend Survey in 2000 and an interview in the companies which reduced the personnel and outplacement companies, we arrange the fact about separation and change of occupation for employers’ convenience of 45 or more years old less than 60 years old workers. And it is the purpose to consider what policy is required for finding of a new job of restructuring middle-aged and older workers. The point of this paper is as follows.
1. The firm which carried out the employment adjustment by restructuring such as “collection of voluntary resignation and dismissal” was 11.7% between 1992 and 1994, on the other hand, between 1998 and 2000 it was going up to 17.7%. 2. As the reason which separation and unemployment of a lot of middle-aged and
older workers generate, some environmental changes which surround a company and a market have influenced complexly.
3. As a reason why middle-aged and older workers who resign from a company for management’s convenience increase, decline of transfer between firms (shukko) can be mentioned.
4. As a reason why the function of transfer between firms (shukko) is decline, firstly, the business conditions of small and medium sized enterprises, receiving the transferees, have been getting worsened seriously, secondly, the long-term business relationships between firms are more likely to be weakened, and, thirdly, the problem of balance with an early-retirement incentive plan and transfer between firms (shukko) can be mentioned.
5. Irrespective of the reason for separation or age, the change of an occupation and the fall of a company scale by change of occupation have influenced the wages fall significantly. And when a job-hunting period is six months or more, the treatment after change of occupation is worsened in many cases greatly. 6. For the senior involuntary separation for management’s convenience,
mediation of previous firms and the practical use of a human network through personal connection are important for early finding of a new job.
7. Finding of a new job is very difficult only at the manpower development for change of occupation by restructuring middle-aged and older workers' self-reliance.
1. 「リストラ報道」の背後で 2001 年 12 月 28 日の各誌夕刊には、「失業率、過去最悪の 5.5%」という見出しが並び、そ の日午前に発表された 11 月の完全失業率が一面を大きく飾っている。記事には「大手リストラ 響く」とあり、中高年離職の増加が失業率上昇の主因とされている。たしかに「労働力調査 2001 年 11 月」をみると、45-54 歳男性の完全失業率は 4.7%と、前年同月比に比べて 1.4%も 上昇している1。 たしかに中高年失業の多くは、事業閉鎖や人員削減から発生している場合が少なくない。 「労働力調査特別調査 2001年 2月」(総務省統計局)をみると、「事業所閉鎖・会社倒産・自営 業の廃業」および「解雇・人員整理」という、いわゆるリストラに直結する失業者数は、45-54 歳 で、それぞれ 5 万人と8 万人にのぼる。一方、25-34 歳の失業者数は其々3 万人と4 万人と、 離職理由として最多である「よりよい条件を探すため」の 18 万人失業者にくらべて、限られた 人数にとどまる。 しかし失業問題でも、このリストラ失業ほど実態が正確に表現されず、イメージだけで語られ る場合は少ない。たとえばリストラによる離職失業は、「クビキリ」というマスコミで用いられ るフレ ーズが代表するように非自発的失業とみなされ ることが多い。リストラによる人員整理として報 道などで取り上げられる事例は、大部分、大企業による大規模な早期退職優遇制度の実施を 意味する。だが早期退職優遇制度に応募して離職した失業者が、統計上、すべてが非自発 的な離職による失業者とみなされる訳ではない。 むしろ総務省統計局は、労働力調査利用上の注意として「通常の退職に比べて有利な条 件を提示して企業が退職者を募集する、いわゆる早期退職優遇制度については,これに自ら 応募して退職した場合には,自発的な離職による失業者になると考えられ」ると、述べている2。 しかし、その記述では同時に、「このような制度やその運用の態様は企業によって様々であり、 最終的には、離職者本人の実態を踏まえた回答により、上記のような自発的な離職か非自発 的な離職かに区別される」と指摘している。それは、リストラ失業の実態を、労働力調査のなか の自発、非自発といった区分から把握することの難しさを、統計当局自体が示唆している。 この例が示すように「リストラに遭った中高年」は、そのイメージで議論されることも多く、特に 2000 年以降に急増した中高年の離転職の実情は、意外なほど知られていない。離転職の動 Cabinet Office) 1 90 年代の日本の雇用・失業状況に関する包括的な分析としては、樋口(2001)が有用である。 2その詳細は、http://www.stat.go.jp/data/roudou/qa.htmを参照。実際、大規模な早期退職優遇制度を実施する 企業では、そのための面接において、「解雇」や「退職勧奨」といった表現が使われることのないよう、そしてそれが あくまで労働者の自発的な意志による退職となるよう、きわめて慎重に説明方法を考えている。
向にもっとも詳しい大規模調査は、「就業構造基本調査」(総務省統計局)だが、その最新は 1997 年であり、次回調査は 2002 年まで待たなくてはならない。 そこで本稿では、2000 年の「雇用動向調査」の特別集計や人員削減を実施した企業および 再就職支援会社へのインタビューに基づきながら、会社都合で転職する45 歳以上 60 歳未満 の人々の離転職について、できるかぎりの事実整理を行うことを目的としたい。 その上で、本稿はリストラ中高年の再就職にはどのような方策が必要なのかを、実態に即し 考える。90 年代以降、雇用政策も、雇用維持から失業なき労働移動へその軸足を変えた。し かし、中高年の失業は急速に上昇するなど、中高年の再就職は、決して容易でない。では、リ ストラによって転職する中高年にとって、再就職はどのようにすれば実現可能なのだろうか。 ただし、深刻化しているのは中高年だけではなく、その水準からすれば、若年の方が深刻で もある。若年失業の上昇には、意識変化だけでなく、中高年の雇用調整コストが高いことが影 響している(太田(2001)、玄田(2001a)等)。その意味でも、中高年の円滑な移動を進めること は、中高年の社会全体での雇用確保だけでなく、若年の雇用機会の創出にもつながる。 以下、本稿で「リストラ中高年」という言い方をする場合、原則として「経営上の都合で民営企 業を離職する45-59 歳の雇用者」を指す。それは一般のイメージにあるリストラにあった中高年 の実情を、把握するためである。 2. 増加するリストラ 分析に入る前に、拡大するリストラの状況を、厚生労働省が実施している「産業労働事情調 査」から、確認しておきたい。同調査は常用労働者 30 人以上の企業が対象であり、過去 2 年 間に実施した雇用調整の内容について、最近では平成 6 年(1994 年)と平成 12 年(2000 年) で質問項目が設定されている。それによると、1992 年から 94 年までに「希望退職の募集・解 雇」といったリストラによる雇用調整を実施した企業は 11.7%だったのが、1998 年から2000 年 では 17.7%に上昇している3。 なかでも、リストラを実施する企業が急速に増えているのは、特に大企業である。従業員 1000 人以上の大企業のうち、過去 2 年間に希望退職の募集や解雇によって辞める人がいた 割合は、94 年の調査では 8.5%にすぎなかった。それが 2000 年調査では 23.8%と、およそ 4 社に 1 社にまで広がっている。ちなみに 100∼999 人企業では 11.7%が 15.6%に、30-99 人で 3 ただし、この時期に最も多い雇用調整の割合は、やはり「新規学卒者の採用削減・中止の 26.6%であり、次いで多 いのは「残業規制」の 23.6%である。新卒採用を抑制する割合は、94 年調査に比べて、およそ 6%上昇しており、主 要な雇用調整の手段が、若年の求人の削減であることに変わりはない。中高年の雇用維持の置換として若年雇用
は 11.9%から18.2%と、大企業に比べて実施割合の上昇は小幅にとどまる。2000 年になると、 中小企業よりも大企業の方が人員整理を行っている企業の割合が高く、併せて大企業一社あ たりの平均希望退職・解雇者数も191.9人と、前回の調査に比べて61.6人増加するなど、その 大規模化が進んでいる。 産業別では不良債権処理による失業増が懸念されている建設業で、早期退職や解雇を実 施する企業が増えている。1994 年に 8.4%だった希望退職・解雇の割合が、2000 年には 23.1%と約 3 倍に達する。建設以外でもリストラを実施する割合は軒並み増えているが、一社あ たりの解雇および早期退職者数では金融・保険業の増加が著しい。1 社あたりで平均 5.9 人だ ったリストラによる人員削減も70.9人まで拡大している。建設業のリストラも一社あたり10.2人が 29.5 人と3 倍近く増えている。 雇用が守られていると考えられてきた大企業や金融業、そして日本の雇用を根底から支えて きた建設業で、リストラによる雇用機会の喪失が現実のものとなって迫る。加えてこの調査は、 事業を継続している企業にたずねたものである以上、調査に答えることのできない倒産企業か らの離職は含まれない。倒産や廃業の可能性が高まっていることまで含めれば、リストラにさら される不安は、中高年を中心に、この数字以上に多くの雇用者に実感されているはずである。 止まらないリストラのなか、先の労働力調査特別調査にあるような 13 万人といったリストラ中高 年失業者が発生している。 3. 経営上の都合による離職と出向 中高年のうち経営上の都合で会社を辞める人々が増えた一つの背景は「出向」の頭打ち傾 向である。会社が、経営上の都合によって雇用調整を実施するとき、いくつかの方法がある。 定年退職前の雇用者にとって最も厳しい雇用調整の方法はもちろん解雇であるが、他にも早 期退職優遇による離職、会社による転職先の斡旋・紹介、転籍を伴う出向、転籍を伴わない出 向等、様々である。そのなかで、特に出向の増加傾向にかげりがみられる4。 「雇用動向調査」をみると、90 年代半ば、45-59 歳の経営上都合による離職に占める出向の 割合は 20%以上の水準を占めた。それが最大となった 1997 年には 29.3%に達したが、1998 が削減されている状況については、玄田(2001a)を参照されたい。 4 「雇用動向調査」からそれらの雇用調整の動向を把握するには、「経営上の都合」による離職者数に注目すること になる。そこでは、経営上の都合を「事業の縮小、合理化等事業経営上の理由で解雇されたもの。又、企業からの 要請により希望退職に応じた場合も含める」と定義している。「雇用動向調査」を毎年、集計報告している「数字でみ る雇用の動き」では、経営上の都合による離職者数のなかに、出向、出向元への復帰、定年退職なども含んだ数字 が示されている。尚、同調査の出向には、転籍と在籍の両方の出向が含まれている。
年、1999 年には、一転して 16.9%、15.3%と、ほぼ半減している5。 出向割合が減少した直接的理由は、中小企業における経営上都合による離職急増がある。 同じく「雇用動向調査」によれば、従業員 5 人以上 100 人未満の中小企業のうち、経営上の都 合による離職人数は、1996 年に 20.4 万人だったのが、1999 年には 40.5 万人に倍増している (ちなみに 1000 人以上の企業は、同期間、7.6 万人から9.1 万人に増加)。しかし、中小企業 からの会社都合による離職の場合、大企業と異なり、そもそも出向によって再就職先を確保さ れるケースが少ない。そのため中小企業の雇用環境悪化が、出向ではない中高年の会社都 合による離職者の増加を招いている。 ただし一方で、大企業ですら、出向による雇用調整そのものに飽和傾向がみられる。90 年代 前半に趨勢的に増加した 45-59 歳の大企業からの毎年出向数は、90 年代後半になって頭打 ちとなった。95 年に 2.9 万人であった出向者数は 99 年にも2.4 万人と、やや減少する傾向す らみられる。そのなか、大企業からの早期退職などによる雇用調整の増加が、結果的に出向 の対象とならない「リストラ中高年」の増加を招いている6。 大企業からの出向の飽和を詳しくみるため、図 1 には大企業での 45-59 歳正社員男性が会 社主導によって離職する際、出向によって転職する割合を職種・学歴別に示した(会社主導 による離職からは定年退職および出向元への復帰に該当するものは除かれる)。金融不況が 本格化する以前の1996 年、専門・技術職、事務職、販売職の約 9 割が出向により再就職先を 確保している。ここでは 45-59 歳で会社主導による雇用調整が限定的なもの だったことや、こ れらの職業に従事している人数が少ないこと等があった。 しかしその割合は、98 年、2000 年と大幅に減少、販売職の出向対象は 3 割を切っている。 独占的な技能を持つと考えられる専門・技術職についても、出向の割合が大きく減少している。 そのことは、90 年代後半の技術革新が大企業において従来から蓄積されてきた専門技能を 急速に陳腐化させ、出向によって技能の利用先を確保する誘因を弱めているのかもしれない (中馬(2001))。 学歴別の状況をみても、大学卒では 96 年には 85%が出向だったのが、2000 年には 65%と 大きく減少している。高校卒や生産・技能職と同様、大学卒や専門・技術職でも、出向によっ 5 出向による労働移動は、労働者の流出入全体でみれば、採用、離職に比べると、決して多くはない。たとえば雇 用機会が減少している雇用喪失事業所では、年初の常用労働者数に対する離職率が 7.9%に及ぶのに対し、そこ での出向による雇用流出は 0.1%に過ぎない。マクロ経済における雇用調整機能として、出向の機能を過度評価し てはならない(Brunello (1988)等)。 6 大企業における出向の飽和傾向は別の統計からも確認できる。先にみた「産業労働事情調査」をみても、1994 年 の時点で「他社への出向」が雇用調整の手段として含まれていたのは、全体では 8.3%にすぎなかった。一方、1000 人以上の大企業の37.9%は、出向を調整手段と位置付けていた。しかし、その大企業における出向を利用する割合
て中高年の再就職先が確保されることは、98 年以降一般的なものでなくなっている。 4. 出向飽和の背景 多くの大企業で人員合理化が発表される一方、出向によって新しい就業先を確保することが 課題になっている。離職者のうち、自身で転職先を見つけなくてはならない割合は高まる。 今後、出向による雇用調整機能が低下していくか否かは、現在データだけから判断できない。 しかし、現在の経済情勢および経済システムの変化からは、その機能が弱まることはあっても、 強まることはないと予測させる要因を、3 つは挙げられる。 第一は、受け入れ先となる中小企業の業績が大きく悪化していることだ。中小企業全体の雇 用は 90 年代半ばまで多少の浮き沈みはあっても、趨勢的には安定して増加を続けてきた。 「労働力調査年報」(総務省統計局)をみても、従業員 100 人未満企業の年平均雇用者数は、 バブル崩壊後 93 年の 2506 万人から、97年の 2627 万人まで 120 万人以上増加していた。そ の中小企業の雇用に 98 年以後はじめて強いブレーキがかかり、2000 年は前年と同水準の 2585 万人にとどまる。中高年の出向を受け入れる余力が中小企業になくなってきたこと。それ が出向による調整機能を低下させている。 出向の吸収力が低下した第二の理由は、グループ企業や系列企業にあった長期的な取引 関係が弱まっていることもある9。国際競争の進展のなか、系列関係にこだわらない部品調達を 親企業の多くは進めつつある。必然、下請企業にも親企業から社員を出向で受け入れるプレ ッシャーも弱まる。連結重視に向けた会計制度の変更もグループ企業全体の利益を重視させ、 出向によって余剰雇用をグループとして維持することは 企業にとって是とされなくなっている。 製造業の場合、下請企業との長期的・固定的な取引・契約関係から柔軟な契約によって生産 調整が可能な請負労働の活用に大きくシフトが進んでいる(電機総研(2001 年)等)。このこと も、出向によって下請・系列関係を維持するインセンティブを弱めることにつながっている。 第三に、早期退職優遇制度と出向とのバランスの問題がある。大規模な人員合理化を実施 したあるメーカーをヒアリングしたところ、その企業では早期退職を募る一方で、出向によって 雇用調整することを原則、停止していた。早期退職は、あくまで雇用者の自主的判断によって 自らの就業機会の選択を促すものである。特定の個人に対して公然と転籍出向によって就業 が 2000 年の調査では 27.2%と10%以上、低下しているのである。 7 「数字で見る雇用の動き(平成 12 年版)」中の「主要な用語説明」16 ページ等を参照。 8 厳密には、出向元への復帰も会社主導による離職に含まれるものであるが、ここでは除かれている。尚、「雇用動 向調査」での出向には、在籍、転籍の両方が含まれている。 9 長期的取引関係と雇用システムの関係についての経済学的アプローチとして Aoki(1988),Brunello(1988)等。
先を確保することは、社員を公平に処遇する人 事施策に矛盾すると考える。実際、在籍出向 によって手取り収入が維持される場合、転職によって収入が下がることの多い人々からみれば、 出向者および人事に対する不公平感は相当なものだろう。ヒアリングをした別の人員合理化企 業では、今後、転籍出向を徐々に増やしながら、在籍出向については明確に抑制を視野に入 れる。人員合理化計画との整合性からも、個々の企業は調整機能としての出向の考え方を変 えようとしている。 こう考えると、中高年の雇用を確保する上で一定の役割を果たしてきた出向機能に、今後、 大幅な回復を期待することはむずかしい。限界に達しているのは、出向だけでなく、企業内の 配置転換も同じだろう。とすれば、リストラ中高年に待つのは、自身による転職活動しかない。 5. リストラ中高年の転職動向 では、出向の対象とならず、転職を余儀なくされた、もしくは転職をみずから選んだリストラ中 高年は、どのように再就職しているのか。 同じく「雇用動向調査」より、2000 年の入職者票から、その実態に迫りたい。入職者票は、過 去一年以内に従業員 5 人以上の企業に採用された人々の就職前後の状況を調べている。こ こでは、かつて直近の民営企業で正社員として就業していた経験を持つ 45-59 歳の男性雇用 者のうち、その会社を「定年、会社都合、契約期間の満了」のいずれかの理由によって転職し た人々に注目する10 。以下、そのような人々を便宜上、「リストラ中高年」と呼ぶ。 尚、リストラ中高年の転職状況を考察する上で、このデータの最大の問題は一年以上の長期 失業者を含んでいない点である。「労働力調査特別調査(2001年 2月)」によれば、45-54歳の 完全失業者のうち、一年以上失業を継続している人々は 13 万人にのぼる。 以上のような留意点を認識した上で、リストラ中高年に関して転職前後の産業属性の変化を 調べた。その結果が表 1(上段)にある。 リストラに遭った中高年男性について、転職前後の業種変更の状況をみると、建設業と金 融・保険業を除けば、転職によって業種を変えている場合が意外に多い。製造業をリストラさ れ、一年以内に再就職をした人々で、同じ産業に転職した割合は 38.3%にとどまる。運輸・通 信業や卸売・小売、飲食業でも、転職者の半分以上が別産業へ転職。建設業と金融・保険業 を除けば、リストラによる産業構造の転換はゆるやかではあるが進みつつあるといえる。 10 60 歳未満に限定していることから、実際には定年は含まず、さらに正社員男性に着目することから契約期間の満 了も少ないだろう。そこで、以下でみる「リストラ中高年」は大部分が会社都合によって離職した中高年正社員経験 者の男性から構成されると考えられる。
ただし、リストラ中高年の構成比が27.0%と最も高い建設業では、87.9%が同じ建設業に転職 している。建設業をリストラされた後、一年以内に再就職できるとすれば、それは同じく建設業 に就業する場合に限られる。他産業でリストラを通じた産業構造の転換が進んでいるのに比べ、 建設業からのリストラは 1998 年の時点で産業転換を伴っていない。 建設業からの転職は、生産工程・労務職が多いが、同職業からの転換の困難さは 職種別の 推移状況から明らかになる。実際、表 1(下段)はリストラ中高年の転職前後における職業の変 化の結果を示している。 同表から、生産工程・技能職からの中高年転職のうち、87.1%は同じ職種に就職している。 建設業に従事する生産工程・技能職をブルーカラー労働者と呼ぶことが許されるとすれば、ブ ルーカラー 中高年の転職は、ほとんど進んでいない。 このような状況のなか、職業構造を大きく変えつつあるのが、運輸・通信職である。リストラ中 高年のうち、運輸・通信職の占める割合は転職前に 6.4%だったが、転職後 13.7%と倍増して いる。詳細な統計はないが、増えた運輸・通信職はタクシーやトラックなどの運転業務だろう。 リストラ中高年にとっての本当のセーフティネットとは、おそらく「ドライバー募集」でみつけた運 転手なのだろう。 さらに専門・技術職についても職種転換が進みつつある。専門的職業からの転職のうち、同 じ職業に就いているのは 28.2%にすぎない。先にみたとおり、専門・技能職では、出向によっ て再就職先が確保されるケースも減りつつある。これらから、技術革新の進展が、それまで専 門職として蓄積してきたスキルを急速に陳腐化させ、出向ニーズを弱め、同時に転職によって スキルを活かすことも、急速に困難化したと、示唆されるのである。 6. 転職による賃金下落 転職によって職業や産業を転換することは、処遇に影響を与える可能性がある。そこで、転 職にともなう賃金の変動状況に注目してみる。「雇用動向調査」(2000 年)入職者票を再集計 すると、リストラ中高年のおよそ 2 割は、転職によって 3 割以上の賃金下落を経験している11。 では、このような賃金の大幅な下落を規定しているのは、主にどのような要因なのだろうか。 そこで、以下のような単純な賃金決定モデルを考える。個人に支払われる賃金は、まずは個 人の性別、年齢、勤続年数、学歴などの目にみえる属性や、職種、産業、企業規模といった 就業環境によって規定されるとしよう。さらに、賃金は、統計的には観察できない個人の特有 11 「雇用動向調査」入職者票では、前のつとめ先と比べ賃金がどう変わったかを尋ねており、3 割、1 割、および不 変といった境界を設けて賃金の増減を記入することになっている。
な能力(問題解決能力や調整能力など)によっても左右されるとしよう。そのうち、本人の性別 や学歴などの観察可能な属性は、転職しても変化がない。さらに個人に特有な能力も、転職 の前後で変化しないと考えれば、賃金の変化を規定するのは、職種、産業、そして企業規模 の変化によってもたらされることになる。 加えて、転職による賃金の変化には、求職期間の長さが影響を与えているとも考えられる。 第一に、求職期間が長くなれば、それだけ多くの求人情報にアクセスでき、そこから自分に適 したより処遇のよい高賃金の仕事に遭遇する可能性が高まる。ただし、その反面、離職後の求 職期間が長いことは、求人側にとって「就職の決まらない個人」とみなされ、保有する能力につ いての負のシグナルとなる場合もあるだろう。そのときには、求職期間が長くなり過ぎると、提示 される処遇条件は低下し、結果的に賃金が下落する確率を高めるかもしれない。 そこで「賃金が 3 割以上下落する」か否かを、雇用動向調査入職者票から、「転職前後で産 業もしくは職業が同一である」、「転職前後で企業規模が大きくなった(小さくなった)」、そして 「前の勤め先から現在の所に入職するまでの期間」を説明変数にプロビットモデルによる分析 を試みた12。その結果が表 2 である13。 さらに表2では、リストラ中高年の処遇変化の特徴を浮き彫りにするため、会社都合以外の自 己都合で転職した 45-59歳正社員男性、そして会社都合もしくは自己都合で転職した 45歳未 満の正社員男性についても同じプロビット分析を行った結果が示されている。 離職理由や年齢にかかわらず、転職による賃金下落に有意に影響しているのは、転職によ る職業の変更と企業規模の下降である。転職前後で職業が同一である場合には、賃金が下 落する確率を有意に引き下げる一方、企業規模が縮小した場合、下落確率が有意に引上げ られている。 表では、それぞれの平均的な転職者について、該当するダミー変数の項目が 0 から1 に変 更されたときの下落確率の変化を「限界効果」と呼んでいる。この限界効果から、その影響の 大きさを判断すれば、職業が変わることや規模が小さくなることによって賃金が下がる確率は、 45 歳未満よりも45 歳以上の方が大きく、さらに自己都合よりも会社都合の方が大きくなってい る。同じ職業変更や規模下落でも、それが賃金を下げる傾向はリストラ中高年にとって、特に 顕著になっているのである。 12 前節の冒頭で説明したとおり、入職者票の調査対象は、離職後、一年以内に従業員 5 人以上の再就職した雇 用者に限られる。調査されている入職までに要する期間は、最短で「15 日未満」、それ以降は「15 日∼1 ヵ月未満」、 「1 ヵ月∼3 ヵ月未満」、「3 ヵ月∼6 ヵ月未満」、「6 ヵ月∼1 年未満」から選ばれる。 13 賃金が 1 割以上下落する確率の規定要因についても同様な推計ができる。しかし、その主な結果は表 2 と同様 であるため、ここでは省略する。
一方、転職によって産業が同一であることが賃金下落を回避するのは、45 歳未満とそれ以 上の両方とも会社都合で離職した場合のみである。転職によって企業規模が拡大したとしても 賃金下落が回避される傾向は、いずれの場合もみられない。 加えて、就職までの期間の長さが賃金の下落に与える影響も、転職者の属性によって違い がみられる。自己都合による転職の場合、1 ヶ月未満で転職したときにくらべて、求職期間が 長引くほど、限界効果からみ て賃金の下落確率は大きくなっている。長期化に伴う限界効果の 増大は、同じ自己都合でも 45 歳以上の場合、より一層顕著になる。自己都合の場合、できる だけ早く再就職先を決定する、もしくは離職前の十分な仕事探し(on-the-job search)が、長期 失業の負のシグナルを避け、転職を有利に運べることになる(on-the-job search について、同 様な結論は中村(2001))。 それに対して、経営上の都合によって離職した場合には、できるだけ早期の再就職が賃金 の下落を回避するとは限らない。45 歳未満の会社都合離職の場合、6 ヶ月以上の求職期間の みが有意に負になっており、半年以内の就職活動であれば、求職期間の長さが賃金面で不 利になる傾向はみられない。45 歳以上の会社都合であるリストラ中高年の場合、1 ヶ月以上 3 ヶ月未満、そして 3 ヶ月以上 6 ヶ月未満の期間について有意にマイナスとなっている。すなわ ち、1 ヶ月以内の早急な再就職では十分な求人情報が得られず、かえって賃金下落を招きか ねない。ただし、一方で、やはり6 ヶ月以上再就職にかかった場合、1 ヶ月から6 ヶ月に比べて 賃金を下げることになるのは、他の場合と同様である。 以上の求職期間についての結果は、離職理由によって失業給付期間に違いを設ける制度 変更を正当化するだろう。自己都合の場合には、できるだけ早期の再就職を促すように給付 期間をできるだけ短縮することが、転職後のよりよい処遇のためには有効である。それに対し て会社都合離職の場合では、再就職までの情報収集の期間を確保することができるよう、失 業給付制度を設計することが望ましくなる(大日(2001)、小原(2001)等)。ただし、離職理由や 年齢に関わらず、求職期間が 6 ヶ月以上の場合には、転職後の処遇を大きく悪化させてしまう ことが多い。その意味で、リストラ中高年についても、6 ヶ月を超えない範囲で求職者本人が再 就職を決定することを誘導するような制度設計もしくはキャリア・コンサルティングが重要にな る。 7. 入職経路の重要性 リストラ中高年が再就職を有利に進めて行くためには、転職を通じて以前と同一の職業に、 半年以内に就くのが望ましいということになる。しかしそうはいっても、実際には転職によって職
種転換を迫られるケースも多く、求職期間が半年を越える場合も少なくない(「雇用動向調査・ 入職者票」(2000 年)からは、リストラ中高年の26.4%が再就職に半年以上を要している)。
では、転職によって同一の職業に就く確率を高め、そして半年以内に再就職が可能となる 確率を向上させるのは、どのような要因なのだろうか。そこでリストラ中高年について、これらの 確率を規定する要因を推計したのが、表 3 である。ここでは bivariate probit modelによるロバス ト推計とよばれる、両確率を規定する要因を同時に分析する方法を用いている。というのは、 職業能力の高く、転職前の仕事内容が高く評価される人ほど、転職期間が短くなり、かつ同一 の職業に就きやすく、両者は同時決定の関係にあるからである。 表 3 の推計結果のなかで特に注目したいのは、その入職経路である。「雇用動向調査」入職 者票のなかには、入職したときの経路(あっせん機関など)が毎年、調査されている。その質問 項目は、「安定所(パートバンク、人材銀行含む)」、「民間職業紹介所」、「学校(専修学校等 含む)」、「前の会社」、「出向」、「出向先からの復帰」、「縁故(友人・知人等含む)」、「広告(求 人情報誌を含む)」、「その他」から構成されている14。このうち、出向および出向先からの復帰 を除くと、リストラ中高年の再就職には、どのような転職経路が最も活用されているのだろうか。 その答えはきわめて明瞭である。リストラ中高年が再就職する場合、前の会社による斡旋もし くは紹介があったとき、広告を通じて転職したときに比べて、同一の職業に半年以内に転職す る確率が有意に高くなっている。広告やハローワークなどを通じて、転職者が個人の力だけで 求職活動をする場合に比べて、前の会社が本人の再就職に積極的に関与することが再就職 をスムーズにすすめる上できわめて効果的なのである。 企業が転職者の再就職に関与することが効果を持つのは、送出し企業が独自に保有する転 職者の能力についての情報提供が可能になることが大きいだろう。その他、転職者の独力だ けでは得られない就職先の情報を、受入れ企業と取引関係などを持つ送出し企業が持ってい る場合、それを活用した転職者と就業先の最適なマッチングを可能にするからである。 ただし、出向による再就職先の確保が飽和傾向にあるのと同様に、送出し企業がその取引 先との関係を利用して再就職の斡旋、紹介を拡大するのにも限界はあるだろう。実際、リストラ 中高年のうち、前の会社の紹介・斡旋によって入職する割合は、1999 年と2000 年ともに 3 割 弱にとどまっている。その一方で、大きく増えつつあるのが、ハローワークを経由した転職であ る。98 年にはリストラ中高年入職者のうち 15.1%にすぎなかったハローワーク経由が、2000 年 には 39.5%と大きく増えている。表 3 からわかるようにハローワークを通じた転職は、以前と同 14 「民間職業紹介所」が入職経路の質問項目に加わったのは、2000 年の調査が初めてである。
一の職業に就くことには効果を持つが、半年以内に再就職を決めることには強い効果を持っ ていない。 では、会社の紹介・斡旋以外に、転職を有利に進める上で効果的なのは何か。それは表 3 の入職経路のうち、「縁故(友人・知人を含む)」に示された、転職者本人の持つ人的ネットワ ークである。その係数は、「その他」を除けば、「前の会社」に次いで大きく、かつ有意になって いる。 転職における人的ネットワークの重要性については、Granovetter(1995)、もしくは渡辺 (2001)等がその解釈を与えている。社会学者グラノヴェターは、転職の際には、強い紐帯(い つも会う人)よりも、弱い紐帯(まれにしか会わない)人からこそ役に立つ就職情報が得られるこ と、人脈の活用が転職時に発生するノイズを除去し、信頼できる良い情報を安価で収集する 最も効率的な手段になると主張している。日本でも大学卒について、転職の満足度、納得度 などの規定要因を調べると、転職の際に有益な助言を与えてくれた、職場以外の友人・知人 の存在が大きい(玄田(2001b))。その意味では、日本でもこのような弱い紐帯仮説が妥当で ある可能性は否定できない15。 無論、前の会社の関与や人的ネットワークの形成に効果的なのは、リストラ中高年だけでは ない。表 3 の推計と同一の手法を用いて、表 2 でみたリストラ中高年以外についても、職種転 換と求職期間の決定を推計した。それらの推計結果を用いて、離職後 6 ヶ月以内に以前と同 一の職業に再就職する確率の予測値を計算したのが、図 2 である16。 これをみると、前の会社の斡旋・紹介による入職は、いずれの年齢階層・離職理由について もその約 8 割で同一職種への 6 ヵ月以内転職を可能にして いる。その割合はすべての経路の なかで最も高い。人的ネットワークについても、自己都合による 45 歳未満の転職者を除けば、 約 6 割が半年以内の同じ職業への転職を実現させていることが、ここからわかる。 前の会社や人的ネットワークの効果に比べると、ハローワークや広告による早期の同一職種 への転換は厳しいものになっている。なかでも、45 歳以上の転職では、会社都合でも自己都 15 人的ネットワークの転職における重要性は、再就職支援会社(アウトプレースメント会社、以下、OP 会社と記す) に対するヒアリングからもうかがい知ることができる。OP 会社の特徴としては、「求人開拓部隊によるローラー作戦」 によって職安にはのぼってこない求人案件を掘り起こす努力をしている会社が少なくない他、再就職者のキャリア・ カウンセリングに力を入れている場合が多い。キャリア・カウンセリングを通じて、転職者本人の自己を見つめなおし、 就職尼チャレンジする訳であるが、結果的に「個人の持つ人的ネットワーク」を掘り起こすことによって再就職を実現 するケースが多い。筆者等の調査した会社では、およそ 2 割から4 割が人的ネットワークによって再就職をするとい うことであった。再就職支援会社の内容については、中馬(2001)、チャレンジャー(1999)等。
16 bivariate probit model の場合、限界効果の計算は一様でなく、きわめて複雑なものになる。加えて、ここでみたダ ミー変数のような 2 値変数の場合、厳密な限界効果は計算できない(Greene(2000, 翻訳版 1084 ページ))。そこで、 ここでは、代替的な手段として、図 2 のような確率の予測値に注目することにした。
合でも、職安や広告を通じた転職では、職業の変更を余儀なくされる、もしくは半年以上を要 する場合が、過半数となっている。 その他の経路として注目されるのは、「民間職業紹介所」だろう。45 歳未満の自己都合転職 者の場合、この経路を通じて、7 割以上が同一職種への半年以内転職を実現可能と考えられ る。その意味では、労働市場における民間職業紹介機能の充実は、特に若年層の転職環境 を整備する上で効果的となる。しかしながら、その一方で、45 歳以上の転職の場合、自己都合 の離職者にとっては職安や広告よりも転職に効果を持っている反面、会社都合離職者にとっ てはさほど際立った効果を持っていないのが 2000 年時点の現状である17 。 最後に「学校(専修学校を含む)」と「その他」の効果についても一言述べておこう。「学校」を 通じた転職は、そもそもサンプルがきわめて少なく、その評価が困難であるが、比較的サンプ ルの豊富な 45 歳未満の自己都合離職者については、図 2 をみるかぎり、職安や広告よりもあ る程度、効果を持っているようである。また「その他」は、45 歳以上の会社都合離職者にとって、 有利な転職を可能にしているようである。この「その他」に該当するものとしては、ヘッドハンテ ィング、ダイレクト・メールなどによる転職者個人による会社への直接的アプローチ、派遣・請負 会社への個人による登録、そして再就職支援会社の活用などが考えられるだろう。このうち、ど のような経路が実際に有効なのか、今後、詳細な検討が必要になるだろう。 8. むすびにかえて 本稿では、経営上の都合で離職する中高年(45-59 歳)の雇用者に注目し、その転職状況に ついて分析した。「リストラ」という言葉が日常用語となる一方で、リストラの結果としてどのような 中高年の離転職が発生しているのか、その全体像の理解が大量人員整理の報道が相次ぐ 2001 年でも必ずしも共有されていない。ここでの分析の結果として把握された、いわゆるリスト ラ中高年の実情は、総じて三つの点に集約されるだろう。 第一に、大量の人員整理の直接的な背景に、不良債権問題や IT 不況などによる企業業績 の悪化があることは疑いない一方で、大量の中高年の離職や失業が発生するのには、企業と 市場をとりまく、いくつかの環境変化が複合的に影響しているという点である。 従来、中高年雇用者が会社主導によって離職を求められたとき、出向によって再就職先が 17 ただし、男性民間正社員のサンプル中、民間職業紹介所を経由した入職は、2000 年には 421 サンプルにとどま る。職業紹介機関の効果のより正確な評価は、おそらくその利用が拡大していくであろう将来時点のデータによる 計測を待つべきだろう。
確保されることが、大企業を中心に少なくなかった。だが、出向による雇用確保に1998 年以降、 急速に飽和傾向がみられる。雇用者が出向の対象から排除される傾向は、高校卒や生産・技 能職だけでなく、専門・技術職や大学卒にも波及しつつある。このような出向の飽和傾向には、 長期的な企業間関係の変化がある。下請系列関係の弱まりや連結会計制度の導入などにより、 長期的・固定的な取引関係を維持するインセンティブが弱まり、それが出向停滞にもつながっ ている。 さらに、中高年の専門・技術職にとっては、出向による雇用確保が困難化しただけでなく、自 ら転職活動を行う際、職業転換を迫られるケースが増えている。90 年代以降の急速な技術革 新によって、それまで専門職として蓄積してきた能力に急速な陳腐化が進んでいる。その結果、 企業グループから構成する内部労働市場だけでなく、外部労働市場のなかでも、従来の専門 的能力の価値を低下させつつあると、予想される。急速な技術革新の進展により、専門的技 能の意味や価値が大きく転換するなかで、専門職中高年の雇用確保が困難化しているので ある。 また別の市場環境として、労働市場関連ビジネスの未成熟な状況も指摘しておかなければ ならないかもしれない。2000 年時点の調査では未だサンプルが少なく、明確な評価は困難で あるもものの、民間職業紹介における情報提供や学校による再教育などはリストラされた中高 年の転職難を和らげる状態に至っているとは、今のところ、考えにくい。 ただし、その一方で、民間の再就職支援ビジネスへの注目は急速に高まりつつあるのも事実 だろう。再就職支援会社の効果について、意見はさまざまであるが、ヒアリング調査からはその 積極的な評価の声も少なくない。今後は、聞き取り調査などを積み重ねると同時に、再就職支 援会社の利用上状況を調査する統計データの整備も課題になる(現状ではその公的な統計 調査は存在していない)。その上で、有効に機能しているとすれば、それはメンタルケアや求 人開拓などのうち、具体的にどのような支援か。支援委託の費用を企業が負担できないとき、 どのような財源による、どの程度の助成であるべきか。このような点が、今後、詳細に議論され るべきだろう。 リストラ中高年の実情に関して確認された第ニの重要な点とは、経営上の都合で離職した 中高年の再就職にとって、前の会社による再就職の積極的な関与がきわめて重要な役割を 持っていることだろう。出向によって再就職が確保されなかったときでも、前の会社による斡旋 があると、以前と同一の職種に就きやすく、再就職期間も短縮され 、賃金の下落も回避されや すい。その傾向は、リストラ中高年について特に強くみられる。今後、出向と同時に、会社の斡
旋の機会も抑制された場合、リストラ中高年の就業確保はますます困難化すると予想される。 このような状況をどの程度意識してかは定かでないものの、企業の再就職への関与を促すよ う、2001年に雇用対策法の改正が行われた。その結果、1ヵ月に30人以上の離職が発生する 事業所に対し、再就職援助計画の作成し、職安所長の認定を義務付けられることになった。 今後、蓄積されるだろう再就職支援計画についてのデータを整備し、企業によるどのような再 就職支援が有効であるかを把握することが必要になる。具体的には、離職者の雇用保険被保 険者番号を手がかりに、送出し企業による再就職支援の内容と再就職までの期間の関係を調 べること等が、雇用政策上も課題になるだろう。 第三に確認されたリストラ中高年の転職実情とは、本人の自助努力による職種転換のための 能力開発だけでは、再就職はきわめて困難という点である。不良債権処理によって大量の離 職者の発生が予想される建設業からの転職者は、そのほとんどが建設業に再就職している。 職種別に見ても、生産工程・技能職は、転職後も 9 割近くが同じ職業に就かざるを得ない。こ の結果は、リストラ中高年、なかでも生産技能系の中高年については、能力開発のための給 付をすることで職業転換を促そうとしても、それが円滑な転職には効果を持たない可能性が大 きいことを示唆している。むしろそのような困難な状況のなかで、スムーズな転職に重要な役割 を果たしているのは、「縁故」に象徴される人的ネットワークである。個人的な幅広いネットワー クの形成こそが、特にリストラ中高年の転職にとって効果的なことが、統計的にも確認できるの である。 90 年代以降の雇用対策は、企業による雇用維持のための助成・給付から、失業なき労働 移動を実現するための労働者本人に対するものへと変わりつつある。その最も象徴的な制度 は、なんといっても、教育訓練給付金制度である。しかし、はたして、この制度の利用が、再就 職の支援策としてどの程度、効果的だったのかを評価する報告や研究を筆者は知らない。こ こでの発見からは、個人がどんなに能力開発に努力したとしても、適切な人的ネットワークを持 たない限り、再就職にはさほど効果を持たないことが予想される。はたして、その予想が妥当 であるかどうかは、今後の政策評価を待たなくてはならない。 併せて、今後も、失業した場合の影響が特に深刻であると考えられているリストラ中高年の 実情について、分析の蓄積が望まれる。なかでも本稿の課題の一つは、2001年 2月時点で少 なくとも13 万人にのぼる45∼54 歳の一年以上失業者の状況が把握できなかったことである。 この点を「労働力調査特別調査」等によって綿密にその実態を明らかにすることが必要になる。 さらに再就職支援の効果などをより厳密に検証するためには、人員合理化を実施した企業、
およびその実行に関与した再就職支援会社などへのヒアリング調査の実施が、有用な情報を 提供するだろう。
参考文献
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図1.大企業男性45-59歳正社員について
会社主導による離職に占める出向の割合
(パーセント)
93.1 73.1 90.9 90.6 81.0 85.2 71.7 82.4 77.5 72.9 45.9 61.5 66.0 77.2 73.1 66.9 63.0 28.7 62.8 65.2 59.0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 専門・技術職 管理職 事務職 販売職 生産・労務職 高校卒 大学卒 1996年 1998年 2000年図2.離職後6ヶ月以内に転職前と同一の職業に就業する確率についての予測値
0.41 0.38 0.57 0.85 0.57 0.32 0.80 0.46 0.58 0.51 0.83 0.60 0.45 0.72 0.56 0.59 0.59 0.86 0.60 0.56 0.69 0.49 0.73 0.66 0.54 0.53 0.67 0.79 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 安定所 民間職業紹介所 学校 前の会社の斡旋 縁故(友人・知人等を含む) 広告 その他 45-59歳(会社都合) 45-59歳(自己都合) 45歳未満(会社都合) 45歳未満(自己都合)表1.会社都合により離職した 45-59 歳男性正社員に関する転職前後の産業属性 転職後の産業 転職前の産業 構成比 鉱業 建設業 製造業 運輸・通信業 卸売・飲食店 小売業 金融・保険業 不動産業 サービス業 農林漁業 0.3 0.0 16.2 20.9 0.0 0.0 0.0 0.0 62.9 鉱業 1.4 7.9 2.7 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 89.3 建設業 27.0 0.4 87.9 2.7 0.8 3.9 0.0 0.1 4.2 製造業 35.0 0.0 8.5 38.3 16.2 12.8 0.7 0.1 23.5 運輸・通信業 10.4 0.5 3.1 9.6 43.5 5.5 0.0 0.6 37.3 卸売・小売業、飲食店 8.5 0.1 0.0 26.5 13.6 45.6 2.7 1.2 10.4 金融・保険業 1.3 0.0 4.1 7.3 9.9 5.2 64.2 1.2 8.2 不動産業 0.3 0.0 0.0 3.7 95.8 0.0 0.0 0.0 0.5 サービス業 10.3 0.0 0.1 3.3 30.2 23.2 2.1 6.5 34.7 その他の産業 5.6 0.1 3.6 10.6 15.1 8.0 2.7 0.5 59.5 産業計 100.0 0.3 27.4 18.5 15.9 12.9 1.7 0.9 22.6 出所:厚生労働省「雇用動向調査 2000 年」入職者票を特別集計。 注意:対象は、民営企業で「一般労働者」として働いていた男性のうち、その会社を過去一年以内に「定年、会社都合、契約期間の満了」のいず れかによって退職し、現在の会社に 45-59 歳で再就職した雇用者。
表1(続き).会社都合により離職した 45-59 歳男性正社員に関する転職前後の職業属性 転職後の仕事内容 転職前の仕事内容 構成比 専門職 技術職 管理職 事務職 販売職 サービス職 運輸職 通信職 生産工程 労務職 その他 専門的・技術的職業 11.9 28.2 0.2 2.8 10.6 34.1 10.1 2.9 11.2 管理的職業 15.8 4.4 68.4 13.6 2.7 0.3 3.0 4.2 3.4 事務職 7.4 3.9 4.1 46.4 9.1 19.7 12.1 2.8 2.0 販売職 7.2 7.3 4.1 0.1 27.4 4.8 47.7 5.8 3.0 サービス職 6.5 1.3 0.0 0.1 16.2 45.7 24.1 11.6 1.1 運輸・通信職 6.4 0.0 0.0 4.7 0.0 6.0 68.7 8.9 11.9 生産工程・労務職 40.8 0.6 0.1 0.1 0.1 7.6 1.8 87.1 2.6 その他の職業 4.0 4.0 0.0 0.0 8.2 16.5 25.3 12.9 33.2 職業計 100.0 5.3 11.4 6.2 5.8 13.0 13.7 39.0 5.5 100.0 出所:厚生労働省「雇用動向調査 2000 年」入職者票を特別集計。 注意:対象は、民営企業で「一般労働者」として働いていた男性のうち、その会社を過去一年以内に「定年、会社都合、契約期間の満 了」のいずれかによって退職し、現在の会社に 45-59 歳で再就職した雇用者。
表2.転職によって賃金が3割以上下落する確率(男性正社員の転職について) 年齢 45∼59 歳 45 歳未満 離職理由 経営上の都合による離職 自己都合による離職 経営上の都合による離職 自己都合による離職 係数 限界効果 係数 限界効果 係数 限界効果 係数 限界効果 (標準誤差) (標準誤差) (標準誤差) (標準誤差) 15 日∼1ヵ月未満 -0.2644 -0.0751 0.0841 0.0145 0.2919 0.0408 -0.0915 -0.0070 (0.1644) (0.1363) (0.2090) (0.0803) 1ヵ月∼3ヵ月未満 -0.3634 -0.1029 0.3387 0.0640 -0.0894 -0.0102 0.1534 0.0134 (0.1190)*** (0.1062)*** (0.1802) (0.0621)** 3ヵ月∼6ヵ月未満 -0.2431 -0.0709 0.4861 0.0996 0.1031 0.0127 0.2064 0.0192 (0.1158)** (0.1101)*** (0.1837) (0.0703)*** 6 ヵ月∼1 年未満 0.0711 0.0223 0.5893 0.1249 0.3621 0.0509 0.4338 0.0467 (0.1052) (0.1046)*** (0.1744)** (0.0649)*** 転職前後で同一職種 -0.4793 -0.1590 -0.4133 -0.0758 -0.2830 -0.0372 -0.3639 -0.0327 (0.0903)*** (0.0786)*** (0.1363)** (0.0484)*** 転職前後で同一産業 -0.3680 -0.1151 -0.0607 -0.0101 -0.4017 -0.0518 -0.0351 -0.0028 (0.0831)*** (0.0774) (0.1304)*** (0.0494) 転職で規模上昇 -0.1517 -0.0459 -0.1513 -0.0251 -0.1665 -0.0193 -0.0127 -0.0010 (0.1015) (0.0884)* (0.1408) (0.0569) 転職で規模下降 0.4296 0.1405 0.4852 0.0972 0.4174 0.0601 0.5070 0.0558 (0.0912)*** (0.0960)*** (0.1487)*** (0.0626) *** 定数項 -0.1239 -1.2941 -1.1874 -1.7315 (0.1069) (0.1076)*** (0.1887)*** (0.0675)*** サンプル数 1,360 2,360 1,171 10,586 LR カイ二乗値(8) 144.27 133.12 53.45 261.06 擬似決定係数 0.0928 0.0815 0.0870 0.0663
表3.同一の職業に就職する確率と、半年以内に転職する確率のバイプロビットモデルによる同 時ロバスト推計結果 (会社都合で離職した 45-59 歳男性) 同一職業への就職確率 半年以内の就職確率 変数グループ 説明変数 係数 漸近的 t値 係数 漸近的 t値 年齢 50-54 歳 -0.2349 -1.98 * -0.0165 -0.13 (45-49 歳) 55-59 歳 -0.3488 -3.04 *** -0.2545 -2.17 ** 最終学歴 高校卒 -0.1304 -1.07 0.1083 0.92 (中学卒) 専修学校(専門過程)卒 -0.3552 -1.44 -0.3040 -1.23 高専・短大卒 -0.2753 -0.94 0.0918 0.23 大学・大学院(文系)卒 -0.1179 -0.67 0.2539 1.30 大学・大学院(理系)卒 -0.0668 -0.35 0.2468 1.18 前の会社の従業員規模 1,000 人以上 0.0731 0.57 0.1728 1.31 (100-299 人) 300-999 人 0.0540 0.34 -0.2142 -1.35 30-99 人 0.0964 0.70 0.2315 1.75 * 5-29 人 -0.0554 -0.38 0.3280 2.23 ** 1-4 人 -0.4041 -1.10 0.5334 1.55 前の会社での職業 専門・技術職 0.1036 0.51 -0.0822 -0.37 (サービス職) 管理職 -0.2865 -1.51 -0.0231 -0.11 事務職 -0.4817 -2.09 ** -0.3930 -1.50 販売職 -0.8883 -3.84 *** -0.5437 -2.32 ** 運輸・通信職 -0.3441 -1.60 -0.2706 -1.14 生産工程・労務職 0.7691 4.30 *** -0.2464 -1.35 その他の職業 -0.2450 -1.04 -0.0250 -0.09 入職経路 安定所 0.3307 2.35 ** 0.0101 0.08 (広告(求人情報誌を含む)) 民間職業紹介所 0.5893 1.65 * -0.2991 -0.85 学校 0.8888 1.11 0.5087 0.63 前の会社の斡旋 1.2808 8.09 *** 1.9515 9.65 *** 縁故(友人・知人等を含む) 0.7103 4.36 *** 0.4257 2.77 *** その他 1.4557 7.24 *** 1.0486 5.70 *** 定数項 0.1562 0.60 0.3583 1.40 相関係数 rho (標準誤差) 0.1919 (0.0600) サンプル数 1,357 Wald カイ二乗値 (39) 457.80 Log Likelihood -1155.29
Wald Test of rho=0: chi2(1)=9.732, Prob> chi2 =0.0018 出所:厚生労働省「雇用動向調査 2000 年」入職者票を特 別集計。