有界等質領域の正則同相群の最高ウェイトユニ
タリ表現について
嵐晃一
∗(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
概 要 有界等質領域の正則同相群のholomorphic multiplierによる線形表現のユ ニタリ化の分類問題について考察する. 正則同相群の極大実分裂可解Lie 部 分群に対する同問題についての伊師英之氏の結果をもとに,ある非対称な等質Siegel領域について,正則同相群の一般のholomorphic multiplierによる作用
がユニタリ化を持つ条件を明示的に与え,それらを分類する. これらの表現は 一般化最高ウェイトユニタリ表現というクラスに属する. 最後に一般化最高 ウェイトユニタリ表現の分類問題について,現在までに得られた例を交えなが ら説明する.
1
ユニタリ化の存在条件
1.1
Lie 群 Go が連結な複素多様体 M0 に正則に作用しているとする. 定義 1.1. 連続関数 m : G0× M0 → C× は以下の条件を満たすとき, G0 の multi-plier と呼ばれる: m(h1h2, z) = m(h1, h2z)m(h2, z) (h1, h2 ∈ G0, z ∈ M0). さらに m(h, z) が z ∈ M0 に関して正則であるとき holomorphic multiplier で あるという. Holomorphic multiplier の重要な例として, M0が複素ユークリッド空間内の領域で あるときの Jacobian のべき乗 m(g, z) = J(g, z)−c(g ∈ G0, z∈ M0, c ∈ Z) がある.複素多様体 M0 上の正則関数全体の空間O(M0) 上には, holomorphic multiplier m
から G0 の線形な表現 Tm が次のように定まる:
Tm(h)f (z) = m(h−1, z)−1f (h−1z) (h∈ G0, f ∈ O(M0)).
定義 1.2. 関数空間O(M0) のコンパクト開位相に関して包含写像が連続な Hilbert 空間H ⊂ O(M0) で, Tm がユニタリ表現を定めるようなものが存在するとき, ユ ニタリ表現 (Tm,H) を (Tm,O(M0)) のユニタリ化という. Hilbert 空間H ⊂ O(M0) が上記の意味で連続に埋め込まれているとき, H は再生 核 Hilbert 空間である. 同変正則ベクトル束に関する定理 ([8]) を我々の設定に適 用すると ([5]), 次が成り立つ. 定理 1.3. ([5], [8]) Lie 群 G0 が M0 に推移的に作用しているなら, (Tm,O(M0)) の ユニタリ化は一意的に定まる. 特にユニタリ化は既約である.
1.2
有界等質領域D ⊂ CN の正則同相群 Aut hol(D) の単位元を含む連結成分を Gとすると, G は Lie 群の構造を持つ. 我々の目標は G の holomorphic multiplier m : G× D → C× から定まる表現 (Tm,O(D)) のユニタリ化を分類することにあ
る. Lie 群 G の極大連結実分裂型可解 Lie 群 B を 1 つとる. 基準点 p ∈ D を 1 つ
固定し, Gp ={h ∈ G : hp = p} とおく. このとき Gp は G の極大コンパクト Lie
群であり, 一般岩澤分解 G = BGp が成り立つ. 可解 Lie 群 B はD に単純推移的
に作用する. Lie 群 G の holomorphic multiplier が定めるユニタリ化の存在は次の ように B への制限から分かる.
命題 1.1. Lie 群 G の holomorphic multiplier m について, (Tm,O(D)) にユニタ
リ化が存在することは, B への制限 (Tm|B,O(D)) にユニタリ化が存在することと 同値. 命題 1.1 の証明には以下の補題を利用する. 補題 1.1. ([3]) 再生核 K をもつ Hilbert 空間H ⊂ O(D) と D へ推移的に作用する G の閉部分群 G0 の holomorphic multiplier m に対して, (Tm,H) がユニタリ化で あることは K が以下を満たすことと同値: K(hz, hw) = m(h, z)K(z, w)m(h, w) (z, w ∈ D, h ∈ G0).
補題 1.2. Lie 群 G の (holomorphic とは限らない) multiplier m は m(k, p) =
1 (k∈ Gp) を満たし, D 上の関数 f が次の関係を満たすとする:
f (bz) = m(b, z)f (z) (b ∈ B, z ∈ D). このとき
f (gz) = m(g, z)f (z) (g ∈ G, z ∈ D) が成り立つ.
命題 1.1 の証明. まず G の表現から B の表現への主張は明らかなので, 逆の主張 を示せばよい. 群 B の表現 Tm|B のユニタリ化を与える Hilbert 空間H ⊂ O(D) の再生核を K とする. 補題 1.1 および補題 1.2 より K(gz, gz) =|m(g, z)|2K(z, z) (z∈ D) が g ∈ B に対して成立するので, g ∈ G に対しても成立する. K の解析性から K(gz, gw) = m(g, z)K(z, w)m(g, w) (g ∈ G, z, w ∈ D). したがって再び補題 1.1 により (Tm,H) は G の表現としてのユニタリ化でもあ る. 群 B の holomorphic multiplier から定まる表現のユニタリ化については ([3]) で 分類されている. よって G の holomorphic multiplier を全て構成できれば, 命題 1.1 よりその中からユニタリ化が存在するものを選び出すことができる. 群 G の holomorphic multiplier m : G× D → C× を一つとる. 群 G の Lie 環を g とおき, g− ={Z = X + iY ∈ gC : dtdt=0etXp + i d dtt=0e tYp∈ T(0,1) p D} とおく. このとき Gp および g− の表現 νm, θm がそれぞれ次のように定まる: νm(k) := m(k, p)∈ U(1) (k ∈ Gp), θm(Z) := d dt t=0 m(etX, p) + i d dt t=0 m(etY, p) (Z = X + iY ∈ g−). さらに gp = Lie(Gp) とおくとき, これらの表現の間には次の関係がある: dνm = θm|gp. 一方 Tm のユニタリ化の再生核 K は次を満たす: dTm(Z)K(·, p) = −θm(Z)K(·, p) (Z ∈ g−). また θm(Z) = iξ(Z) (Z ∈ g−) をみたす ξ ∈ g∗ が存在し, iξ|gpは Gpの表現に持ち上がり, (1.1) ξ([g−, g−]) = 0, iξ([Z, Z])≥ 0 (Z ∈ g−). (1.2) 逆に (1.1),(1.2) を満たす ξ ∈ g∗ が与えられたとき, θ m(Z) = iξ(Z) (Z ∈ g−) を みたす holomorphic multiplier m が存在する. この m は一意的ではないが, Tm の ユニタリ化の同値類は ξ のみから定まる ([3], [16]). そこで Tξ := T m とおき, その ユニタリ化が存在するとき (Tξ,H ξ), 再生核を Kξ とおく.
2
ユニタリ化の分類
先行研究 ([2]) で B の holomorphic multiplier から定まる同値なユニタリ化の間 の intertwining operator が構成されている. 一般に G の表現として同値のとき, B の表現としても同値であることから, Schur の補題によりこれらは G の表現とし ての intertwining operator を与える. したがって B の intertwining operator が Gp
の作用を保存するか否かがユニタリ化の分類において決定的となる. 自然な線形同型写像 ι : b ∈ X 7→ X · p ∈ TpD に対して ι(jX) = √ −1ι(X) が 成り立つような j ∈ End(b) を定め, Koszul 形式 ω ∈ b∗ を ω(X) = tr b(ad(jX)−
j ◦ ad(X)) (X ∈ b) と定めると, (b, j, ω) は normal j-algebra となり, b の内積が (X, Y ) = ω([jX, Y ]) (X, Y ∈ b) と定義され, a := [b, b]⊥ は b の Cartan 部分代 数になる. 定理 2.1. ([14]) Lie 代数 b のルート空間分解は a∗ の適当な基底{α1,· · · , αr} に 対して b = b(0)⊕ b(1/2) ⊕ b(1), b(0) = a⊕ Σ⊕1≤k<l≤rbαl−αk 2 , b(1/2) = Σ⊕1≤k≤rbαk 2 , b(1) = Σ⊕1≤k≤rbαk⊕ Σ ⊕ 1≤k<l≤rbαl+αk 2 となる. また [b(k), b(l)]⊂ b(k + l) (k, l = 0, 1/2, 1) が成立する. ただし k + l > 1 のとき, b(k + l) = 0 とする. 部分群 B(0) = exp(b(0)) ⊂ B は Adjoint 作用により b(1) に作用する. 各 k = 1, . . . , r に対して [jEk, Ek] = Ek となる Ek∈ gαk をとり, E = E1+ E2+· · · + Er に対して Ω = B(0)E ⊂ b(1) とおく. 双線形写像 Q : b(1/2) × b(1/2) → b(1)C を
Q(u, u′) = 14([ju, u′] + i[u, u′]) と定めるとき, D ⋍ D(Ω, Q) := {(z, u) ∈ b(1)C⊕ b(12) : ℑz − Q(u, u) ∈ Ω}(第 2 種 Siegel 領域) と実現される. この節では簡単のた め, b(1 2) = 0, D ⋍ b(1) + iΩ (Tube 型) を仮定する. 条件 (1.1), (1.2) を満たす ξ, ξ′ ∈ g∗ をとる. 一方 b− := g−∩ bC とおき, 線形写像 τ : b → b− を次のように定 める. τ (X + T ) = T + ijT (X ∈ b(1), T ∈ b(0)). このとき
χξ(exp Y ) = eiξ◦τ(Y ) (Y ∈ b)
は B の一次元表現を定める ([3]). 凸錐 Ω 上の関数 ∆ξ, ∆ξ,ξ′ を
∆ξ(t.E) = χξ(t) (t∈ B(0)),
と定義する. このとき ∆ξ, ∆ξ,ξ′ は iD = Ω + ib(1) 上の正則関数へ解析接続する ([1]). 点 p∈ iΩ を固定し, Kξ p(z) = Kξ(z, p) (z ∈ D) とおく. さて, Tξ| B と Tξ ′ |B のユニタリ化が B の表現として同値であるとする. Inter-twining operator を Ψξ,ξ′ :Hξ → Hξ′ とおくとき, 命題 2.1. ある定数 C ̸= 0 が存在して Ψξ,ξ′(Kpξ)(z) = CK ξ′ p (z)∆ξ,ξ′ ( z− p i ) (z ∈ D). さらに ξ と ξ′ が G の表現として同値なユニタリ化を定めるとき, Z ∈ g+:= g− に 対して dTξ′(Z)Ψξ,ξ′(Kpξ) = iξ(Z)Ψξ,ξ′(Kpξ). (2.1) 逆に後に述べる定理 4.3 より, この関係式が成り立つとき ξ と ξ′ は G の表現とし て同値なユニタリ化を定める. これを解析することで次が成り立つ. 補題 2.1. 線形形式 ξ と ξ′ が G の表現として同値なユニタリ化を定めるのは, 次 が成り立つとき, かつそのときに限る: d dt t=0 ∆ξ,ξ′ ( e−tZz− p i ) =−i(ξ′− ξ)(Z)∆ξ,ξ′ ( z− p i ) (z ∈ D, Z ∈ gp). 証明. 命題 2.1 より Z ∈ g+ に対して 1 CdT ξ′ (Z)Ψξ,ξ′(Kpξ)(z) = d dt t=0 m(e−tZ, z)−1Kpξ′(e−tZz)∆ξ,ξ′ ( e−tZz− p i ) = (dTξ′(Z)Kpξ′)(z)∆ξ,ξ′ ( z− p i ) + Kpξ′(z) d dt t=0 ∆ξ,ξ′ ( e−tZz− p i ) = iξ′(Z)Kpξ′(z)∆ξ,ξ′ ( z− p i ) + Kpξ′(z) d dt t=0 ∆ξ,ξ′ ( e−tZz− p i ) より式 (2.1) は d dt t=0 ∆ξ,ξ′ ( e−tZz− p i ) =−i(ξ′− ξ)(Z)∆ξ,ξ′ ( z− p i ) (Z ∈ g+, z ∈ D) と同値. この式は b+ に対して常に成り立つので, gp に対して成り立つことと同 値. 特に z = p とおくと次を得る. 定理 2.2. 線形形式 ξ, ξ′ が G の表現として同値なユニタリ化を定めるとき, ξ| gp = ξ′|gp.
3 節で具体例に対して表現を分類する. その際に使うユニタリ同値性の十分条件に ついて述べる. まず, 次が成り立つ. 補題 2.2. ∆ξ ( bz− bw i ) = χξ(b)∆ξ ( z− w i ) (z, w ∈ D, b ∈ B). ユニタリ同値性の十分条件が次で与えられる. 命題 2.2. 条件 ξ|gp = ξ′|gp が成り立ち, さらに b の表現 dχ ξ− dχξ′ が g p 上で 0 で あるような g の 1 次元表現に拡張するとき, ξ と ξ′ は G の同値なユニタリ化を定 める. 証明. proj : eG→ G を普遍被覆写像とする. 補題 1.2 が G を eG へ, Gp, B をそれ ぞれ proj−1(Gp), (proj−1(B))o(単位元を含む連結成分) に置き換えて成立すること に注意する. 補題 2.2 において z = w とおき, 補題 1.2 を適用することで ∆ξ,ξ′ ( kz− kz i ) = ∆ξ,ξ′ ( z− z i ) (z∈ D, k ∈ Gp) を得る. ∆ξ,ξ′ の解析性により ∆ξ,ξ′ ( kz− kw i ) = ∆ξ,ξ′ ( z− w i ) (z, w ∈ D, k ∈ Gp) が成り立ち, 特に w = p として ∆ξ,ξ′ ( kz− p i ) = ∆ξ,ξ′ ( z− p i ) (z ∈ D, k ∈ Gp). したがって補題 2.1 より, 主張が従う.
3
Tube
型領域
ここでは tube 型領域 D = {Z ∈ Sym(3, C) : ℑZ ∈ Sym+ (3,R), z21 = 0} を扱う. x11X11+ x22X22 +x33X33+ x31X31+ x32X32 +y11Y11+ y22Y22 +y33Y33+ y31Y31+ y32Y32 +w1W1+ w2W2 = 1 2y11 0 0 x11− w1 0 x31 0 1 2y22 0 0 x22− w2 x32 y31 y32 12y33 x31 x32 x33 w1 0 0 −12y11 0 −y31 0 w2 0 0 −12y22 −y32 0 0 0 0 0 −1 2y33 全体が成す Lie 代数を g ⊂ sp(3, R), G := exp g ⊂ Sp(3, R) とするとき, G ⋍ Autohol(D) (ただし 1 次分数変換による作用を考える ([6])). 極大実分裂型可解部分 代数を b =⟨Xjk⟩(j,k)⊕ ⟨Yjk⟩(j,k) ととる. 点 p = iI3 に対して gp =⟨W1, W2⟩, Gp ⋍ T2. 命題 3.1. 線形形式 ξ ∈ g∗ が (1.1), (1.2) を満たすとき, ξ = ξ33X33∗ + η33Y33∗ + n1 2 (2W ∗ 1 − X11∗ ) + n2 2 (2W ∗ 2 − X22∗ ) (ξ33≤ 0, n1, n2 ∈ Z≥0). 証明. 条件 (1.2) から ξ = ξ33X33∗ + η33Y33∗ +n21(2W1∗− X11∗ ) +n22(2W2∗− X22∗ ) と書 けることがわかる. 条件 (1.1) から n1, n2 ∈ Z. 正値性 iξ[Z, Z]≥ 0 (Z ∈ g−) から, ξ33 ≤ 0, n1, n2 ∈ Z≥0 となる. 定理 3.1. 線形形式 ξ = ξ33X33∗ + η33Y33∗ + n1 2 (2W1∗− X11∗ ) + n2 2 (2W2∗− X22∗ ) (ξ33≤ 0, n1, n2 ∈ Z≥0) に対応する G の multiplier 表現は全てユニタリ化を持つ. これら は (ξ33, n1, n2) の符号によって B の表現として以下の 5 つに分類される. (ξ33, n1, n2) = (−, +.+), (0, 0, 0), (0, 0, +), (0, +, 0), (0, +, +). 証明. ξ|b = ξ33X33∗ + η33Y33∗ − n21X11∗ − n22X22∗ であり, B の multiplier 表現の分類 ([3]) を用いる. 命題 1.1 により G の表現としてのユニタリ化の存在が分かる. 注意 3.1. ξ33 = 0 のとき, Levi 分解 g⋍ (sl(2, R) ⊕ sl(2, R)) ⋉ (R ⋉ h5) における Heisenberg 群 h5 の作用が消える為, 得られる表現は SL(2,R) × SL(2, R) × R>0 の 表現に他ならない. この表現は, sl(2,R) のそれぞれ最高ウェイト n1, n2 をもつ正 則離散系列表現 (の極限) と, R の 1 次元表現 iη33 ∈ iR の外部テンソル積である. ただし最高ウェイト 0 は自明な表現を表すとする. 今 ξ′ = ξ′33X33∗ +η′33Y33∗+n′1 2 (2W1∗−X11∗ )+ n′2 2 (2W2∗−X22∗ ) (ξ33′ ≤ 0, n′1, n′2 ∈ Z≥0) とおく. 定理 3.2. 線形形式 ξ, ξ′ が同値なユニタリ化を定めるための必要十分条件は, n 1 = n′1, n2 = n′2 となることである. 証明. 定理 2.2 よりユニタリ同値のとき n1 = n′1, n2 = n′2. 逆にこのとき, [g, g] =⟨X11, X22, X33, X31, X32, Y11, Y22, Y31, Y32, W1, W2⟩ に注意すると dχξ− dχξ′ の g = b⊕ g p による g∗ への 0 拡張は g の表現を定める ことが分かる. したがって, 命題 2.2 よりユニタリ同値性が従う.
4
一般化最高ウェイトユニタリ表現
定義 4.1. ([5],[7],[13]) Lie 群 G に対して, 複素部分代数 p⊂ gC が p + p = gC をみ たすとき, 一般化放物型部分代数 という. 群 G のユニタリ表現 (π,H) が p に関す る一般化最高ウェイトユニタリ表現であるとは, H∞ の稠密な g 部分加群 V およ び v0 ∈ V で, dπ(Z)v0 =Cv0 (Z ∈ p), dπ(U (gC))v0 = V をみたすものが存在することである. また dπ(Z)v0 = λ0(Z)v0 (Z ∈ p) をみたす λ0 ∈ p∗ を一般化最高ウェイト, v0 を λ0 に対応する一般化最高ウェイトベクトル という. (Tm,O(M0)) のユニタリ化は一般化最高ウェイトユニタリ表現である ([5]).さて, D を 3 節の tube 型領域, G を Authol(D) の単位元を含む連結成分とする.
このとき次が成り立つ. 定理 4.2. 核が離散的であるような G の一般化最高ウェイトユニタリ表現は Tξ の ユニタリ化の形で得られる. 定理の証明には以下の命題を使う. 定理 4.3. ([5]) 同じ一般化放物型部分代数に関する 2 つの一般化最高ウェイトユ ニタリ表現が共通の一般化最高ウェイトをもつとき, ユニタリ同値. 定理 4.4. ([12]) (M, j,⟨, ⟩) を可解 Lie 群が正則かつ推移的に作用する連結, 単連結 K¨ahler 多様体とする. G を M の正則同相群とする. M の K¨ahler 構造 (˜j,⟨⟨, ⟩⟩) に対して G が再び正則同相写像として働くとき, (M, j,⟨, ⟩) と (M, ˜j, ⟨⟨, ⟩⟩) は正則 写像で移りあう.
定理 4.2 の証明. 一般化最高ウェイトユニタリ表現 π は K¨ahler coadjoint orbit か
ら, (L2条件を無視した)複素解析的誘導表現のユニタリ化として実現される ([5]).
射影表現を ˜π とおくとき, G/ ker(˜π) がこの K¨ahler coadjoint orbit に効果的に作 用する ([9]). Lie 群 G の coadjoint orbit を観察することにより, K¨ahler coadjoint
orbit (⋍ G/H) で, h に含まれる g の最大イデアルの次元が 1 以下であるものは, G/H ⋍ G/U (Lie(U) = gp = ⟨W1, W2⟩) となる. 定理 4.3 より, G/H ⋍ D と仮 定しても, さらに定理 4.4 よりD の K¨ahler 構造をどのようにとっても同じユニタ リ化が定まる. よってユニタリ化はD 上の正則関数の空間に実現され, G の表現 はある holomorphic multiplier のユニタリ化として得られる. 式 (2.1) は Ψξ,ξ′(Kpξ) が (Tξ ′ ,Hξ′) の一般化最高ウェイトベクトルであることを 意味する. 最後に一般化最高ウェイトユニタリ表現における一般化最高ウェイトが coadjoint orbit の K¨ahler 構造に関係していることを説明する. まず, (π,H) を Lie
群 G の一般化最高ウェイトユニタリ表現とする. Moment map J : P(H∞) → g∗ を J ([v])(X) = (dπ(X)v, v) i(v, v) (v ∈ H ∞, X ∈ g) と定めるとき, 全ての一般化最高ウェイトベクトル v0 ∈ H∞ に対して, J(G[v0]) は
特定のひとつの coadjoint orbit であると Liciecki は予想している ([11]). この予想 を認めるとき, 次の命題が成り立つ.
命題 4.1. ([11]) C∞級ベクトル v0 ∈ H∞に対して pv0 ={Z ∈ gC : dπ(Z)v0 =Cv0}
とおく. 一般化最高ウェイトベクトルの射影空間における軌道 G[v0] を coadjoint
orbit の K¨ahler 構造 (J ([v0]) での polarization を pv0 とする) に対応させる写像は
G 同変かつ単射. 一般の有界等質領域D および G = Auto hol(D) に問題を拡張する際に以下のよう な課題がある. (1) 領域D 上の multiplier 表現について, 定理 2.2 が十分条件でないようなもの を見つけること.
(2) Quasi-symmetric Siegel 領域上の multiplier 表現を分類すること. (3) Lie 群 G の K¨ahler coadjoint orbit を分類すること.
(4) Lie 群 G の一般化最高ウェイトユニタリ表現を分類すること. (5) その一般化最高ウェイトベクトルを決定すること.
(6) Lisiecki による moment map に関する予想.
参考文献
[1] H. Ishi, Representations of the solvable group acting on a homogeneous Siegel domain. Proc. Japan Acad. Ser. A Math. Sci. 75 (1999), no. 7, 118–121.
[2] H. Ishi, Determinant type differential operators on homogeneous Siegel do-mains. J. Funct. Anal. 183 (2001), no. 2, 526–546.
[3] H. Ishi, Unitary holomorphic multiplier representations over a homogeneous bounded domain. Adv. Pure Appl. Math. 2 (2011), no. 3-4, 405–419.
[4] H. Ishi, The unitary representations parametrized by the Wallach set for a homogeneous bounded domain. Adv. Pure Appl. Math. 4 (2013), no. 1, 93–102.
[5] H. Ishi, 一般化最高ウェイトユニタリ表現と等質ケーラー多様体, 表現論シン ポジウム講演集 (2012).
[6] H. Ishi and K. Koufany, The compression semigroup of the dual Vinberg cone, preprint.
[7] H. P. Jakobsen and V. G. Kac, A new class of unitarizable highest weight rep-resentations of infinite-dimensional Lie algebras. Nonlinear equations in classical and quantum field theory (Meudon/Paris, 1983/1984), 1–20, Lecture Notes in Phys., 226, Springer, Berlin, 1985.
[8] S. Kobayashi, Irreducibility of certain unitary representations. J. Math. Soc. Japan 20 (1968), 638–642.
[9] W. Lisiecki, Kaehler coherent state orbits for representations of semisimple Lie groups. Ann. Inst. H. Poincar´e Phys. Th´eor. 53 (1990), no. 2, 245–258.
[10] W. Lisiecki, A classification of coherent state representations of unimodular Lie groups. Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 25 (1991), no. 1, 37–43.
[11] W. Lisiecki, Coherent state representations. A survey. Mathematics as lan-guage and art (Bia lowie˙za, 1993). Rep. Math. Phys. 35 (1995), no. 2–3, 327–358. [12] I. Dotti Miatello, Rigidity of invariant complex structures. Trans. Amer.
Math. Soc. 338 (1993), no. 1, 159–172.
[13] K. -H. Neeb, Holomorphy and convexity in Lie theory. De Gruyter Expositions in Mathematics, 28. Walter de Gruyter Co., Berlin, 2000.
[14] I. I. Pyateskii-Shapiro, Automorphic functions and the geometry of classical domains. Translated from the Russian. Mathematics and Its Applications, Vol. 8 Gordon and Breach Science Publishers, New York-London-Paris 1969.
[15] I. Satake, Algebraic structures of symmetric domains. Kanˆo Memorial Lec-tures, 4. Iwanami Shoten, Tokyo; Princeton University Press, Princeton, N.J., 1980.
[16] J. A. Tirao and J. A. Wolf, Homogeneous holomorphic vector bundles. Indiana Univ. Math. J. 20 (1970/1971), 15–31.