1. 訪問の趣旨 既存の協力分野の強化に並び、我が国の航 空機産業の更なる発展に資するためには、装 備品分野においても新たに協力関係を構築す ることが重要である。そのためには、航空機 関連メーカーの今後の海外戦略の動向を知る ことも必要である。また、特にアジア地域で は、今後航空機の導入が急速に増加すること が見込まれている。 これらの背景の下、今年度の貿易会議(航 空機)では、欧米の主要航空機・装備品メー カーのアジア拠点(中国、フィリピン、マレー シア)の企業・団体を訪問し、日本企業との 協力の可能性や今後の対応・戦略について調 査を行うことを目的とされた。 写真1 エアバス天津のメインエントランスにて参加者一同
平成28年度(2016年度)
METI海外貿易会議(航空機)に参加して
経済産業省主催の貿易会議(航空機)は昭和58年度(1983年度)以来実施されてき ており、航空機産業分野における諸外国との情報交換、相互理解の促進を図る役割を果 たしてきた。今年度は29回目の開催で、2月20日から24日までの5日間、濱中康宏SJAC 国際委員長代行を団長とした22社34名で中国、フィリピン、マレーシアの企業・団体8 か所を訪問した。その概要を報告する。2. 訪問先および参加企業・団体 表1に訪問国、企業、団体の一覧を示す。 参加企業・団体は次の通りである。 ・経済産業省 ・富士重工業株式会社 ・三菱重工業株式会社 ・三菱重工航空エンジン株式会社 ・川崎重工業株式会社 ・株式会社IHI ・日本航空株式会社 ・日本飛行機株式会社 ・株式会社島津製作所 ・多摩川精機販売株式会社 ・関東航空計器株式会社 ・SPP長崎エンジニアリング株式会社 ・富士通株式会社 ・住友商事株式会社 ・MC Aviation株式会社 ・民間航空機株式会社 ・住友ベークライト株式会社 ・VAUPELL CHINA(住友ベークライト傘下) ・(公財)航空機国際共同開発促進基金 ・(一財)日本航空機エンジン協会 ・(一財)日本航空機開発協会 ・(一社)日本航空宇宙工業会 表1 訪問先企業・団体一覧
3. 訪問概要 3-1. Airbus Tianjin(天津) 天津市は、周辺区県を含む都市人口が約 1500万人で、北京との間には高速道路と新幹 線が整備されている。 3-1-1. 会社概要 Airbus 天 津 は、Airbus 社、天 津 港 保 税 区 (Tianjin Free Trade Zone : TJFTZ)及び中国航 空 工 業 集 団 公 司(The Aviation Industry Corporation of China : AVIC)のジョイントベ ンチャーとして、2008年に稼働を開始した。 その出資比率はAirbusが51%、TJFTZとAVIC が49%である。天津港保税区は天津港にある 海港保税区と天津浜海国際空港に隣接する空 港保税区で構成され、同社は空港保税区の中 にある。保税区への設備・原材料・部品等の 輸入は免税で、通関手続き等が簡略化される などの優遇措置があり、保税区への投資に対 するインセンティブとなっている。 従業員数は現地雇用者が約300人で、最終 組立・艤装・塗装、完成機の最終確認を実施 している。 3-1-2. 視察概要
East Asia Procurement Organization and StrategyのAlbert Varenie氏から会社説明を受け た。Airbus社がグローバル・ソーシング(世界 最適調達)戦略を進める上で、カントリーリス クや通貨ヘッジ、サプライチェーンマネジメン トなど5つのポイントがあるが、特に重要な要 素と考えているのは「value for cost」及び「マー ケットアクセス」であるとの考えが示された。 さらに、今後の日本との協業について、構造 関連では連続引抜成形技術や大型複合材部 品、素材関連ではチタンや新複合材料、その 他にキャビンイノベーション、バッテリー技術、 ロボティクス及びVirtual Reality/Augmented Reality(仮想現実/拡張現実)といった分野 に注目しているとの考えが示された。 Airbus Tianjin社はヨーロッパ域外初の最終 組立工場で、2008年にA320ファミリーの最 終組立を開始し、2014年には累計200機の組 立を達成した。また、2016年のA330コンプ リーション&デリバリーセンター(C&DC) 開設や、2017年から開始するアジア地域への A320neo の 納 入 な ど が 予 定 さ れ て い る。 Airbus Tianjin社の工場は、治具を含めて独国 ハンブルクの工場を「コピー・アンド・ペー スト」したものであり、製品の品質もハンブ ルクと同等だが、現在のところ全ての引き渡 し先は中国国内であり、中国向けA320の約3 分の1はこの工場から納入されているとのこ とだった。 工程順に沿って見学し、①天津港から前胴、 後胴、主翼、尾翼等を陸揚げして工場へ搬送、 ②前胴、後胴及び主翼を結合、③尾翼、エン ジンパイロン及びウィングレットの取り付 け、④エンジンのインストール、⑤塗装、⑥ 確認試験(全機機能試験、エンジンラン、飛 行試験)、⑦納入 の流になっていた。組立は ムービングライン方式ではなく、工程が完了 するごとにポジションを移動する方式で、現 在は月産4機程度のペースで製造している。 エンジン取付及び機能試験棟ではAPUなどを 含む装備品の確認も行っているとのことだっ た。現在、作業員教育は一部を除いて欧州工 場での実習は行わず、天津工場内で教育を 行っているとのことだった。また、英語−中 国語間の言葉の壁が問題であるとの認識が示 された。
3-2. MTU Maintenance Zhuhai社訪問 珠海市は中国広東省南部に位置し、マカオ 特別行政区に隣接する経済特区である。人口 は約160万人で、比較的小規模の新興工業都 市である。MTU Zhuhaiは珠海港から車で30 分程の所にある自由貿易地区内にある。
3-2-1. 会社概要
ドイツのMTU Aero Enginesと中国最大の航 空会社である中国南方航空を所有するChina Southern Air Holding Company が 共 同 出 資 (50%:50%)して設立し、次の3つの事業を 柱としている。 a. 民間エンジンOEM事業(54%) b. 防衛エンジンOEM事業(11%) c. 民間エンジンMRO事業(35%) 今回訪問したMTU ZhuhaiはMRO部門の中 でドイツ本国のMTU Hannoverに次ぐ第2位の 規模でMTUの最重要アジア拠点である。 事業開始時には床面積156,000㎡、オーバー ホール能力は年間200台の規模であったが、 2012年に床面積400,000㎡、受け入れ能力を 年間300台にまで拡張した。2003年の操業開 始以来、2017年2月現在までに2,000台を超え るエンジンオーバーホールの実績がある。 親会社の中国南方航空をはじめとして欧 州、米国、中南米、アフリカ、中東も含む世 界中から仕事を請けており、JCABを含む世 界約20ヶ国の認証を取得している。日本の運 航会社ではANA、ソラシドエア等と取引が ある。 ・ 設立:2001年設立、2003年操業開始 ・ 従業員数: 730 名(MTU 全 体:9,000 人、 MTU MRO部門:4,000人) ・ 2015年の売上/利益(120円/ユーロで換算) MTU OEM部門: 28億9,700万ユーロ/2億8,500万ユーロ (3,476億円/342億円) MTU MRO部門: 15億8,000万ユーロ/1億5,500万ユーロ (1,896億円/186億円) ・ 事業: エンジン整備・修理・改修、エンジ ン部品の修理、修理チームの派遣、 AOG対応(補用品出荷含む) ・ 対象エンジン:V2500-A5、CFM56-3/-5/-7 ・ 顧客数:65社以上 3-2-2. 視察概要 CEOのBodenhage氏による会社案内の中で、 次のことが説明された。 写真2 MTU-Zhuhaiにおける濱中団長の挨拶の様子
現在は毎年約200台のエンジン整備を行っ ているが、受入れ能力は年間300台規模であ る。主要顧客は中国南方航空で、整備受け入 れエンジンの46%は同社向けとなっている。 また、「中国南方航空向け整備は重要なベー スロードだが、他の航空会社向けが過半数の 54%(その他中国航空会社:22%、アジア: 14%、他:18%)あり、独立系MROとしての 競争力を有している」ことが強調されてい た。部品の修理能力拡大について力を入れて おり、エンジン構成部品の約80%、約2,000点 の部品修理を行えることがアドバンテージと して説明された。 工場視察では、整備中に顧客の要望変更が あった場合に迅速に変更を利かせるべく、組 立ラインと解体ラインが隣り合う並行配置と なっていると説明された。許容推力15万ポン ドのテストセルを保有し、今後新型エンジン (PW1100G-JM、CFM Leap等)の整備拡大を 目論んでいるとの話があり、受入れ台数に余 力のある様子が伺えた。 同じく中国(天津)に進出しているエアバ ス社と工場のシステムについて情報交換を 行っているとの話があり、工場運営について 積極的にアイデアを取り入れ改善を図ってい るようである。また珠海市を選定した理由と して次の説明があった。 ・ 経済的利便性: 国際空港の近さ。自由貿易 地区による物流手続きの簡 素化。 ・ 政治的利便性: 比較的小規模都市であり、 官庁に対する企業としての プレゼンスが高めやすい。 ・ 生活的利便性: 人口が多くなく、大気汚染 も少なく従業員の生活環境 が良い。 欧州からの赴任者やその家族の生活満足 度向上の為に、工場所在地の生活環境を重 要視していること、現地の人材採用にも力 を入れており、「待ちの姿勢ではなくMTU側 から大学へ出向き技術者を確保している」 と積極的に採用活動を行っているとの説明 があった。英語教育の場を確保しドイツや カナダの拠点にて技術研修を行う等、現地 採用人員の育成や満足度向上に努めている ことが伺えた。 3-3. HAECO社訪問(香港空港地区) 香港地区に散在しているグループ会社の拠 点である、香港空港内の機体 Maintenance施 設(ハンガー&エプロン内整備エリア)を総 勢33名で訪問した。 3-3-1. 会社概要 英国に本社を置くSwire Group(中華圏で は 太 古=Taikooと呼称)がアジアで始めた MROと地元企業が1950年に合併して創立さ れた。Aviation専門のグループ企業で、17の グループ企業があり、主要事業であるMRO の他に、内装品や部品製造の事業も行って いる。 エ ン ジ ン の オ ー バ ー ホ ー ル は、RR系 を Hong Kong Aero Engine Service Ltd. (HAESL)、 GE系をTaikoo Engine Service (Xiamen) Ltd. (TEXL)、PW系をHAECO America (USA)に
て実施している。HAECO Americaは合弁では なく、全てHAECOの出資である。 製造では、シートをはじめとする内装品の 設 計・製 造・Certification 取 得 を HAECO Americaにて、また、PMAを含む小部品の製 造をHAECO Xiamen (廈門)にて行っている。 空港地区を含む香港にある全facilityでは、 主に次の事業が行われている。 ・ 2015年末の従業員数: HAECO全体で約16,700人(香港地区:約 6,800、Xiamen・HAESL他中国本土:約7,200、 America:約2,600、シンガポール:約20)
・ 2015年の売上/利益: 全体− 約 121 億 香 港 ド ル(1,815 億 円)/ 約4.6億香港ドル(69億円) 香港地区− 約36億香港ドル(540億円)/ 約1.7億香港ドル(26億円) ・ 売上内訳:
Airframe Service 39%、Engine Service 31%、 Line Service 16%、Cabin & Private Jet Service + Component Service他14% ・ 事業: MRO− ラインメンテナンス・QEC、機体整 備・管理サービス、キャビン整備・ 換装、装備品・アビオニクスのオー バーホール、技術トレーニング、エ ンジンオーバーホール、AOG部品 サポート 製造−キャビン内装、シート、機体部品 ・ 顧客数:110社以上 3-3-2. 視察概要
Executive General ManagerであるPatric Wong 氏から会社説明を受けた。 HAECOはアジアでは香港地区と中国本土 に13拠点、シンガポールに1拠点あり、その 中で香港空港とXiamen(厦門)が主力拠点 である。現在の香港空港Facilityは1998年に新 空港ができた際に大ハンガーを設けて設立さ れた。また、2014年に米国でTIMCO Aviation Serviceを買収し、North CarolinaのGreensboro を主力拠点として機体整備、ライン整備、キャ ビン整備、部品・装備品修理を行っている。 米国にはGreensboroを含めて8拠点がある。 キャビン整備には、シート・ギャレーやラ バトリーをはじめとする内装品・クルーの休 憩モジュール・Life Laftの収納ユニットなど が含まれ、顧客の意向で様々な装備を提供し ており、開発用の試験設備も所有している。
米国のGreensboroにはB/E Aerospaceがあり、 内装品やシートの事業展開を行っているが、 それと競合しないような独自サービスを提供 しているとしており、この分野では競争相手 の関係にある。 装備品の中でエンジンメンテナンスが一番 高額だが、次いでキャビンメンテナンスに費 用がかかるとのことで、このメンテナンスや レトロフィットが将来の米国事業の柱になる との展望を述べていた。キャビンマネージメ ントが大切で、Proactiveなメンテナンスを 行っており、0.3 defect/flight 以下、90%以上 のDepartureがDefect Freeであることを指標と していると聞いた。Labor Costの割合は、大 雑把に言って機体70%、エンジン30%とのこ とだが、キャビンにかかるlaborは顧客の仕様 に大きく左右されるため、メンテナンスに よって大きく差があるとのことだった。 Landing Gearは中国本土にある専門のグ ル ー プ 整 備 会 社 で 行 っ て い る。C a r g o Conversionに際しては、グループ企業で部品 製 造 を 行 っ て 供 給 し て い る と の こ と で、 PMAの認証を得た製造部品があることから、 それを指しているものと思われる。また、エ アラインに対してメンテナンスに関するト レーニング業務も行っている。 プレゼンテーションに関する質疑応答の中 で、装備品のSoftwareはメンテナンス時に OEMと密に協力して取り扱っていること、 OEMと共にFlight中に取得したBig Dataを利 用したサービスへの取り組みを始めているこ と、LCCに対しては非LCCとコスメティック なレベルは異なるものの安全に関するレベル は全く同じであること、Supply Chainはキャ セイ航空と協同しており、Procurementの専従 者は20名ほどでありことなどが説明された。 空港に面して巨大ハンガーが3つ連なり、 エプロン側を含む整備Bayに在場する機体を 含め5−6機の航空機が整備中であった。その 中にはNCA(日本貨物航空)のボーイング 747−400 Fraighterがあり、エンジンを取り降 ろした整備が執り行われていた。 作業者の教育にも力を入れているというこ とで、場内に設けられている教育場所(機体 や装備品整備の作業トレーニング施設)も見 学した。工具や治具類の出し入れにはバー コードを用いた専用の管理システムが取り入 れられており、ハンガー内には人員配置や計 画が示されたボードが置かれ、QCDの指標 や改善指標を含めた作業員への情報共有化が 行われていた。整備場内では人や物の往来が 多く活況を呈しており、多くの仕事が入って いることが伺えた。
3-4. Lufthansa Technik Philippines社訪問 マニラ・ニノイ・アキノ国際空港に隣接す るMacroasia経済特区に位置している。 3-4-1. 会社概要 同社はドイツの世界最大規模の民間航空機 整備会社の Lufthansa Technik 社とフィリピン の航空サービス会社MacroAsia Corporationが 51:49で2000年に設立した合弁会社である。 MacroAsia Corporationは傘下に同国最大の航 空会社であるフィリピン航空を有する。 エアバスA320シリーズ、A330、A340 の基 本整備に特化すると共に、その他の航空機の 整備を行っている。基本整備には、客室の仕 様変更、新規入れ替えや、リース機返却時の 整備点検も含まれる。床面積は 200,000㎡で、 8機分のハンガーと9機分の駐機場があり、 A330、A340、 A380、777 など多種類の機体に 対応したドックシステムを有する。近年ハン ガーを拡張してA380を2機同時に整備できる ようになった。認証はフィリピン、EASAと FAAをはじめとする世界各国の航空局から受 けている。
・ 従業員数: 2,500名(Lufthansa Technik全体 で20,661名) ・ 2015年の売上/利益(1ユーロ120円で換算) Lufthansa Technik全体 5,099Mユーロ/448Mユーロ (6,119億円/537億円) ・ 事業: >機体基本整備(軽整備から重整備まで) 対象機体: A320、A330、A340、A380、 777 >ライン整備(Aチェックまで) 対象機体: A320、A330、A340、A380、 737、777 >エンジン整備 機上整備、エンジン取降ろし(CFM56、 GE90-115B、V2500、Trent700)、QEC交換・ 搭載(CFM56、V2500) > 機材整備(航空電子機器、バッテリー、 シリンダー、バルブなど) >整備員の派遣サービス > 顧客数: 73 社(フ ィ リ ピ ン 航 空、JAL、 ANA、ルフトハンザ 等) 3-4-2. 視察概要 営業部長のBasangan氏より会社概要の説明 を受けた。世界70社を超える航空会社の機体 整備を請け負っており、エアバス機を専門と して立ち上がったものの近年ではボーイング 737、777の整備能力を取得している。 現在は年間約200機の整備を行っているが、 機体構造物の素材がアルミからより摩耗や腐 食の起きにくい炭素繊維複合材へ変化してお り、将来的には機体構造物の整備需要は縮小 傾向にあるとの見立てから、内装品の整備事 業の強化を目指しているとの事である。 会社説明に続き整備場を見学した。ハン ガーではカンタス航空のA380整備に立ち会 うことができた。2階建ての超大型機A380の 整備スペースを持つ整備場は未だ少なく、同 写真3 各整備Bayの作業計画・進捗・航空機の位置を示す、管理室の大画面 (写真はLufthansa Technik Philippines社提供)
機を同時に2機収容できるハンガー設備を持 つ貴重な整備工場として、フィリピン航空や 大韓航空等のA380オペレーターに重宝され ているとの事である。 ハンガーは重整備(Base Maintenance)エ リアと軽整備(Line Maintenance)エリアの 二つに分かれている。重整備とは一般的に最 低7日以上を要する詳細整備、軽整備は24時 間以内の整備を指すが、現状重整備について はフィリピン航空が主体との説明があった。 その他部品の取り外しを伴わない簡易点検作 業は屋外の駐機場で行われていた。 非常に様々な内装品整備が行われており、 座席はもちろんの事、コーヒーメーカー、機 内食加熱器、バッテリー、ランディングギア、 タイヤ、緊急脱出用スライド、トイレ等多く の整備を見学する事ができた。座席、モニタ、 トイレ等、内装品の多くが快適性に直接作用 し、顧客満足度へ直結する設備である事か ら、両者ともに内装品に対する交換、整備需 要は高いとの説明があった。
3-5. B/E Aerospace社 Philippine Branch訪問 B/E Aerospace社のフィリピン工場は、マ ニラから南へ約50kmのバタンガス州タナク アン市に位置するFirst Philippine Industrial Park(FPIP)内にある。 3-5-1. 会社概要 B/E Aerospace社は、米国フロリダ州ウェ リントンに本社を置く大手航空機内装品メー カーであり、従業員は約10,000人。主に民間 航空機用シート、ギャレー及びギャレーシス テム、酸素供給システム、ラバトリー、ビジ ネスジェット及びジェネラルアビエーション 用内装品の開発・製造を行っている。また 2017年にはRockwell Collins社によって買収さ れ る こ と が 発 表 さ れ て い る。Philippines Branchでは、ギャレー、ギャレーシステム及 びラバトリー等の航空機内装品の組立を行っ ている。 ・ 設立:2012年 ・ 従業員数: 約2,300人 (内、エンジニアは約800人) ・ 業種:民間航空機用内装品組立 写真4 B/E Aerospace メインエントランス前にて訪問者一同
3-5-2. 視察概要 B/E Aerospace社は、コマーシャルエアク ラフトとビジネスジェットのセグメントに分 かれていて、ビジネスジェット・セグメント はファーストクラスの内装品開発にも携わっ ており、そこで得た知見を積極的にコマー シャルエアクラフトの内装品開発にフィード バックしているとのことだった。 バックログは、シートが約3割、内装シス テ ム が 約 1 割、SFE(Supplier Furnished Equipment)が約6割で、地域別には、アジア・ 中東が約45%、欧州が約15%、北米が約40% とのことである。シートは既に300万席が納 入・運用されている。 Philippine Branchでは、ギャレー(A350向 け)、ラ バ ト リ ー(737、737MAX向 け)、さ らにオーブン、ビバレッジメーカー、冷蔵シ ステム等のギャレーインサート(787、A350 等向け)の組立を行っており、シートは取り 扱っていない。この先5年のシート技術につ いて、小型・軽量・快適はもちろん、外部と の通信によるコネクティビティが重要であ り、高付加価値かつ低価格であることが求め られるだろうとのことであった。 A350向けギャレー(A350には1機あたり8 ∼16台搭載されている)は、約10億USドル 規模の事業であり、日産約5台のレートで生 産し、既に43のエアライン向けに約810台を 納入している。また、737及び737MAX向け のラバトリー(737及び737MAXには1機あた り3台程度が搭載されている)は、約9.5億US ドル規模の事業であり、既に約1,600台を納 入済とのことである。 その後、工場の視察を実施した。62,000㎡ の敷地に、オフィスビル1棟と工場3棟があり、 建床面積約12,000㎡の第1棟では、ギャレー やギャレーインサートの組立を行い、建床面 積約11,000㎡の第2棟では、ラバトリーや冷 蔵システムの組立を行っており、3シフト制 とのことだった。 ギャレーシステムは顧客ごとに仕様が異な るため、あえてオートメーションを採用せ ず、多品種生産に対応しているとのことで あった。また、ラバトリーについては、壁材 のハニカムパネルの組立工程で、垂直多関節 ロボットが使用されていた。操業を開始して 4年の間に急速に拡大しつつ、管理の見える 化や改善活動が積極的に行われている様子で あった。 なお、確保している人材は英語スキルや基 礎教育のレベルが高いとのことであった。 3-6. マレーシアMITI訪問
MITI(Ministry of International Trading and Industry:マレーシア国際貿易産業省)の一 部 門 で あ る NAICO(National Aerospace Industry Coordination Office)の取り計らいに より、クアラルンプル中心部にあるMITI本 省 を 訪 問 し た。今 回 マ レ ー シ ア 訪 問 は、 NAICOの全体取りまとめによるアジェンダ によって進行した。報告を簡略にするため、 一部の順序を実際のものと入れ替えて報告す る。 3-6-1. MITI挨拶
MITI Secretary General (次官)のDatuk Seri J. Jayasiri氏からの挨拶が行われ、マレーシア は、「Malaysia Aerospace Blueprint 2030」とい うロードマップの下、2030年に年間売上高 550億リンギッド規模(1兆4,300億円、124億 USドル*)の産業を目指して各種施策を行っ ていると紹介があった。また、1981年に日本 とのビジネスポリシーが作られ、2005年末に 日本−マレーシア間で経済連携協定(EPA: Economic Partnership Agreement)の署名を行っ たこと、日本企業のマレーシア航空機産業へ の投資を期待している旨が話され、その一例
として、複数の日本企業の存在について触れ られた。そして前述のBlueprint 2030の遂行の ために2015年にNAICOを設立し、2016年には MAIAを設立してマレーシア航空機産業の拡 大を目指している旨の紹介があった。 (*1リンギッド=26円、1リンギッド0.225US ドルで換算) 3-6-2. NAICOプレゼンテーション NAICOはマレーシア政府が航空宇宙産業 を発展させるための施策を実施するに当たっ て各社との窓口になるとともに、大学等の教 育機関との連携を図ることを目的として2015 年に設けられた。後述するMAIA (Malaysia Aerospace Industry Association、マレーシア航 空宇宙工業会)ができるまでは、国の航空宇 宙産業の対外的な代表機関でもあった。
Head of NAICOのShamsul Kamar Abu Samah 氏からプレゼンテーションが行われ、2015年 時点におけるマレーシアの航空機産業は200 社余りの企業で構成されており、従業員数は
20,000人超、年間売上は28.8億USドル、輸出 が10.4億USドル、輸入が30.3億USドル規模と のことである。Malaysia Aerospace Blueprint 2030では、マレーシアが2030年に東南アジア でNo.1の航空宇宙産業国になることを目指し ており、①MRO、②Aero Manufacturing、③ Systems Integration、④ Engineering Design Services、⑤Education & Trainingを5本の柱と して据えている。そして④や⑤への取り組み や中小企業の誘致・育成に力を入れているこ とが紹介された。
3-6-3. MAIAプレゼンテーション
MAIA(Malaysia Aerospace Industry Association、マ レ ー シ ア 航 空 宇 宙 工 業 会) PresidentのNaguib Mohd Nor氏からMAIAの紹 介が行われた。
MAIAは2016年11月に設立され、それまで はNAICOが航空宇宙産業の代表を務めてい た。Malaysia Aerospace Blueprint 2030に沿っ て民間、防衛、宇宙の分野を取り纏め、傘下
に中小企業、MRO、そして教育・トレーニ ングを業務とする企業を含んでいる。また、 マレーシアに進出している日本企業も加わっ ているとのことであった。 3-6-4. 経産省、SJACプレゼンテーション 経産省から航空機武器宇宙産業課・畑田課 長が、次いでSJACから国際部・川平がプレ ゼンテーションを行った。経産省からは日本 の航空宇宙産業の規模や構成の変遷、国際プ ログラムの取り組みや主要航空産業クラス ターの紹介、今後のサプライチェーン拡大に 向けたマレーシアとの関係への期待等の説明 が行われた。SJACからは、産業規模の説明 に加えて、会員企業の紹介や民間・防衛・装 備品における今後の課題等の説明を行った。 3-6-5. CTRM社紹介
Head of Business Strategy & Developmentの Shahrulnizam Ahmad氏から会社説明が行われ た。 CTRMはクアラルンプルから南東へ140km ほど離れたマラッカ(Maleka)を拠点として いる。1990年にマレーシア財務省が大部分を 出資し、マレーシアにおける航空機用複合材 の開発の拠点となるべく設立された。2013年 にマレーシアで有数のコングロマリットであ るDRB−HICOMグループに売却されて民営 化され、次の5つの企業が傘下にあり、主翼、 尾翼、ナセルの構成部品を製造している。 ① CTRM Aero Composites(複合材に関する 加工・研究開発拠点)
② Unmanned Systems Technology(ASEANと 中東向けUASの製造/開発/販売) ③ CTRM Systems Integration(マレーシア政
府・軍向けの装備品システム開発) ④ CTRM Testing Lab.(IrelandのCTL Tastail
Teo社と合弁。試験専門のLab.) ⑤ CTRM Aviation(小型機のメンテナンス) エアバスとの結びつきが深く、A320をは じめA350、A380、A400Mの部品を製造して いる。2015年にA350のエンジンFan Cowlの Supplierになったことをはじめ、A320におい てSingle Sourceとして製造している部品が複 数あるとのことだった。ボーイング向けでは 737、767、777、787の部品を製造している。 また、MRJのエンジンファンカウルも製作し ており、全部で21プログラム、飛行機11モデ ル、ヘリコプター1モデルに関わっていると のことだった。大型オートクレーブを12台有 しているなど、複合材成形に必要なあらゆる 設備を有している。 ・ 従業員数:約2,800人 ・ 2016年推定売上: 約9.3億リンギッド (約242億円、1リンギッド=26円で換算) ・ 主要顧客:
Airbus、Airbus D&S、Spirit AeroSystems、 GKN Aerospace、SONACA、Korean Air、 UTC Aerospace Systems(UTAS)
3-6-6.AMIC社紹介
AMIC(Aerospace Malaysia Innovation Center) CEO の Razman Shah Rajab 氏 か ら、 AMICの紹介が行われた。 AMICは、政府(国際貿易産業省、教育省、 投資開発庁、貿易開発公社等)の強力なバッ クアップの下、CTRMの他に次の企業の出資 によって2011年に作られた組織で、Private Companyの形をとっている。 ・ AIRBUS GROUP ・ Rolls Royce
・ MiGHT( Malaysian Industry-Government Group for High Technology) ・ MARA(Majlis Amanah Rakyat、教育機関) ・ UPM(University Putra Malaysia)
取り組んでいるテーマには、エアバスの研 究テーマ、技術開発テーマと重なるものが多 く見られ、エアバスの影響力が強いことが感
じられた。設計、装備品、素材メーカーが参 画しており、産官学が協力して技術開発や教 育を行っている。また、中小企業の育成サポー トも行っている。 Bio Fuel、Bio-resinを使用した内装パネル、 新材料・工具、新規加工方法、Virtual Reality (VR)を用いた工具や工程の検証・改善やト
レーニング、Factory 4.0 (IoT、3D Printing、 センサー、次世代ロボット等の先端技術を用 いた製造)の実現に向けた研究など、先進技 術を研究・トレーニングする共同体の役割を 果たしている。
AMICの本部は市の中心から南へ約15kmの MiGHT (Malaysian Industry-Government Group for High Technology: 産官合同の研究組織) 内にあり、CTRM、Putra大学、Taman大学に オ フ ィ ス が あ る。Putra 大 学 に は German Malaysia Institute (GMI)と称する組織があり、
Industrial Labと呼ぶ産学の研究・実証・教育 施設のような場所を設けている。 マレーシアが2030年に東南アジアでNo.1の 航空宇宙産業国になることを目指し、エアバ スやRolls Royceの支援を受けて産官学の研究 開発を具体化していることが紹介された。 3-6-7. SME Aerospace社紹介 CEOのDavid Davies氏により会社紹介が行 われた。 同社は金属加工部品、金属板金部品の成型・ 加工、熱処理・表面処理、NDIを行う金属加 工メーカーである。エアバス部品では機械加 工品と板金部品のSub Assyも行っており、治 工具の作成も行っている。1992年に設立され、 マレーシアで最初にAS9100の認証を得たと のことで、現在の従業員数は約600名、年間 売上は480億USドルとのことである。なお、 民 間 用 部 品 の み を 扱 っ て お り、工 場 で 図3 AMICへの出資企業、パートナー企業・団体
Defense品を扱っている場合に生じる各種制 約は無いとのことであった。
3-7. Spirit AeroSystems Malaysia社訪問 Spirit AeroSystems Malaysia社はクアラルン プ ル か ら 西 へ 約 15km の ス バ ン 県、Sultan Abdul Aziz Shah空港に隣接する。
3-7-1. 会社概要 2007年に法人化され、2009年に本格稼働を 開始し、主にA320や787等の主翼コンポーネ ントのサブ組立を行っている。 ・ 従業員数: 約620人 ・ 業種: 民間航空機用構造部品組立 ・ 主な納品先: Airbus、Boeing 3-7-2. 視察概要
Operation Director の Datuk Zulkarnain Mohamed氏より会社概要の説明が行われた。 2014年には累計2,500セットの納入を達成 し、また2012年にはA350の主翼前縁付け根 フェアリング及び787の前縁固定部コンポー ネントの製造を開始したとのことであった。 工 場 は 約 180,000 ㎡ の 敷 地 に、床 面 積 約 30,000㎡の建屋を有する。主に資材倉庫と組 立及び塗装工場の2棟で、組立及び塗装工場 の建床面積は約23,000㎡で、新規に約29,000 ㎡の建屋を計画中とのことであった。 787の前縁固定部コンポーネントの組立ラ イ ン に お い て、前 縁 固 定 部 は inboard、 midspan、outboardの3つで構成されており、 それぞれについて複合材外板と金属製リブと のファスニングをムービングライン方式にて 実施していた。現在は月産12セットのレート で製造しているとのことであった。この工場 では複合材部品と金属部品の異素材アッセン ブリーを中心に実施しているため、重機械等 は必要ないとのことである。また、787プロ グラムで日本との協業実績はあるものの、数 少ないアイテムにおいて部品単位でのサプラ イチェーンの関係に留まっているようであ る。今後の協業の可能性について尋ねると、 全てウィチタのSpirit AeroSystems本社を通す 必要があり、協業に関して独自に決定するこ とはできないとの回答だった。 A350主翼前縁付け根フェアリングの組立 ライン及びA320主翼コンポーネントの組立 ラインではA350部品を月産6セット、A320部 品は月産約50セットのレートで製造してい る。また、787とA350の製造エリアは非常に 近接しており、2∼3メートル程度の通路で隔 てられるのみゆえ異材が混入する等のリスク があると考えられるが、作業員からは、床に 描かれたラインで区別され問題は無いとの回 答だった。
各所にRFID(Radio Frequency Identifier)の 読み取り器が設置されており、作業ごとにタ グ付きの作業指示書を読み取り器にかざすこ とによって工程管理を行っていた。
3-8. M-AeroTech社 & Strand Aerospace社訪 問
両社は同一ビル内のエンジニアリングサー ビス会社である。M-AeroTech社からCOOの Zairul Amri Adam 氏 に よ り、ま た、Strand Aerospace社からCEOのNaguib Mohd Norm氏 によって会社紹介が行われた。
M-AeroTech 社 は MARA Aerospace & Technologies 社 の 略 で、MARA(Majlis Amanha Rakyat、マレーシア政府の教育組織 の一部)と関連がある。M-AeroTech社には 教育・トレーニングを行う部門、コンサルティ ングを行う部門、エンジニアリングサービス を 行 う 部 門 が あ り、Strand Aerospace 社 と M-AeroTechは 連 携 し て 次 の よ う な 業 務 を 行っている。 ・ CAD/CAM Service ・ Project/Program Management
・ Software Design and Development ・ Technical Illustration and Manauals ・ Testing and Inspection Services ・ Certification Service
・ Contract Engineering Personnel ・ Contract R&D Strand Aerospace社にはマレーシア内で約 460人のエンジニアがおり、英国にも事務所 があると説明があった。Airbus社や日本の航 空機メーカーからの外注業務も請けている。 試験設備は持たないが、そのデータ解析を はじめ、Big Dataの解析業務も請けており、 解析業務にアドバンテージを持っているこ とが強調され、ソフトウエアを含むコンセ プ ト デ ザ イ ン の 部 分 も 携 わ っ て い る と の だった。 最後に、同ビル内のオフィス内を廻って実 際 の 業 務 状 況 を 見 学 さ せ て も ら っ た。3D CADを用いた建築意匠設計や部品設計、解 析ソフトを用いた構造解析、データ解析の ワークステーション等、各種PCを用いた作 業を行っている様子を見ることができた。 4. 所感 今回の貿易会議では、普段は訪れる機会が 少ない国の企業・団体を訪問する貴重な機会 を得られた。 (1) エアバス天津の訪問では、エアバスが中 国拠点においている目的と展望を明確に 知ることができた。今後のアジアにおけ るエアバスの事業展開について情報収集 を続けて行きたい。 (2) MTU-Zhuhai、HAECO、Lufthansa Technik Philippinesはそれぞれ異なる生立ちと展 望を持つMROだが、所在地の税制上の利 点を活かし、独自に人員確保に積極的に 努めていることが分かった。機体MROで は、機体構造の複合材化と通信環境の進 化によって今後は内装品の整備・換装に 注力していく姿勢を共通してもってお り、この分野でのビジネスチャンスが拡 大していることを実感した。 (3) マレーシアでは、国の強力なバックアッ プの下で産官学協力して航空宇宙産業の 拡大に努めていることを知ることができ た。設計・解析やシミュレーション等の エンジニアリング業務の発展にも力を入 れており、産業全体で発展のポテンシャ ルが高いことから、欧米に取り込まれず 独自に発展すること、我が国との協力の 糸口ができることを期待したい。 なお、共同で事務局を務めた下記2名の報 告原稿を、御本人の許可を得て編集し掲載さ せて頂いた部分があります。お二人にはこの 場を借りて御礼申し上げます。 ・ Airbus 天 津、B / E Aerospace、Spirit AeroSystems−(一財)日本航空機開発協会 河野 充 様
・ MTU-Zhuhai、Lufthansa Technik Philippines −(一財)日本航空機エンジン協会 馬把 亮佑 様