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イネの根の成長と地上部・地下部関係

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Academic year: 2021

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はじめに

 根の成長と機能は地上部から供給される光合成同化産物 に大きく依存している.いっぽう根が吸収した養水分は地 上部に送られ,葉の成長と光合成機能を支えている.地上 部・地下部間を移動する物質は多様であるが,水を除くと Cと N が量的に最も多い.C は主として光合成同化産物と して維管束の篩部を,N は無機または有機態窒素として木 部を移動する.C と N は植物体内において常に不足しが ちな資源であり,成長にともなう植物体全体の物質経済の バランスのもとで制御され配分されている.以下はイネ体 内における C・N の物質経済からみた地上部∼地下部関係 について,1980 年代の研究を中心に紹介した.C・N の物 質経済に関する定量的な研究はマメ科作物において大きく 進展したが,イネに関しては残念ながらここで触れた研究 以降ほとんど手つかずのままであり,近年に至っても未解 明の部分が多々残されている.貴重な本誌の紙面を頂戴し てご紹介する次第である.

イネ節根成長におけるN栄養

 イネは単子葉植物で,その体構造は一枚の葉と節間,そ こから生じる不定根(以下,節根),分げつ芽を一つの植 物単位(phytomer,あるいは shoot unit)とし,それが順次積 み重なって構築されているとみることができる(Hoshikawa 1989).イネの葉と根の間には成長の相互規則性のあるこ 第 n 葉の抽出が終了すると第(n+1)葉が抽出をはじめ, 第(n−2)節から新たな節根が出現する.これとともに第(n −3)節根ではタンパク質の増量が終了し,乾物重と根長 の成長が卓越する壁物質増量型成長(第 2 成長相)へ移行 する(巽・河野 1980).この関係を模式的に示したのが第 3図である.第 2 成長相では側根が盛んに成長して節根の 成熟期に達する(第 1 表).  第 1 成長相の節根では自身の成長のために必要な N を 地上部から受け取っていることが示された.第 2 図の実験 ではあらかじめ15N標識されたイネを用いているが,根に おける15N量の変化をみると実験開始後に成長した第 6 節

イネの根の成長と地上部・地下部関係

巽 二郎

Eco植物研究所(京都市右京区嵯峨柳田町 35 − 57 − 201) 要旨:イネ節根の成長初期はタンパク質の増加が盛んであり,地上部から窒素(N)が活発に転流する.地 上部から根に転流する N は一度葉のタンパク質に取込まれ,その後の代謝回転にともない分解して放出さ れる N ならびに葉の細維管束において木部から篩部に移行した N から構成されている.このような再転流 Nは葉維管束の篩部を経由して光合成同化産物とともに根に転流する.下位根が受取る転流産物の CN 比は 上位根と比較して N リッチである.古根に転流した C は活発に呼吸消費されるが,古根の N 要求度は低い ため転流した過剰 N は根中において篩部から木部へ移動し,再び地上部へ循環すると推察される.根の成 長は地上部・地下部間の N 循環と密接に関連している. キーワード:イネ,根,窒素,転流

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第 3 図 イネ節根の成長関係の模式図(巽 1982 を一部改変). 第 1 表 イネ節根における 2 つの成長相の特徴

第 2 図 15N を含む培地で培養したイネを非標識培地へ移し,

その後の変化を調べた.5NR, 6NR, 7NR はそれぞれ 第 5,6,7 節根(Tatsumi and Kono 1980 を一部改変).

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根では全Nの増加とともに根の15N量も増加し,全 N 量の 増加終了とともに15N量の増加も停止している.このよう な N の動態は培地にNが存在し,根が N を吸収利用可能 な場合でも同様であり,新根に取り込まれたNの約 50% が茎葉から転流したNであると見積られている(第 4 図, Tatsumi and Kono1981).また地上部から供給される15N の増加停止は,一つ上の節根の成長開始にともなう15N の増加とシンクロしている(第 2 図).この現象はあたか も新たに出現したNシンクである新根に向かって地上部か ら供給される N の流れがスイッチされたようにみえる. 根の成長のために利用可能な茎葉中の有機 N プールサイ ズは限られており,生育とともに次々と新たな節根を発生 させる体制(発根習性)をもつイネにとって,有限な体内 N資源を成長部位へ効率よく配分するための合理的な仕組 みだと考えられる.

節根中におけるNの再利用

 第 2 成長相の節根軸では側根発生帯の節根軸において皮 層崩壊が発達する.そして側根の発育がその発生部位の根 軸における皮層崩壊の進行と平行的であることが知られて いる.皮層崩壊にともなう組織タンパク質の分解によりN が放出されるが,イネ種子根では側根の生育に利用される Nの 50 ∼ 60%が根軸から供給されることが示されており いる.タンパク分解産物のアミノ酸などは,同じ葉で再利 用されることは少なく,大部分が葉の光合成同化産物とと もに篩部をへて再転流Nとして転流し,新葉など新器官の タンパク合成に利用される(Yoneyama and Sano1978).地 上部から根に転流する N の一部も新根の組織形成に利用 されると考えられる.無 N 培地で成育したルーピン茎基 部から採取した篩部汁液には木部汁液と比較して多様なア ミノ酸類が含まれており,これらのアミノ酸が葉タンパク 質分解物由来 N であると考えられる(Pate et al. 1979).イ ネの根は吸収したアンモニアを根中でグルタミン酸やグル タミンに同化して自身のタンパク合成に利用することがで きるが,新組織のタンパク合成には多種類のアミノ酸が必 要であり,素材としての多様なアミノ酸が再転流Nにより 供給されることは根のタンパク合成に有利である.  いっぽうイネ葉中には結合脈などの細維管束が高密度で 分布している.イネ第 2 葉における小維管束と結合脈の葉 面積 1mm2あたりの維管束長は 7.4mm に達する(Kono et al. 1982).葉維管束の木部を上昇したアミノ酸などの多く が葉タンパクの合成に利用されるが,一部は葉タンパクに 取込まれることなく可溶態のまま細維管束の木部から篩部 へ移行し,葉のタンパク分解物由来のNとともに再転流N として葉外に転流すると考えられている.(第 5 図,米山 1991).また硝酸吸収作物では吸収された硝酸の一部が根 で還元されるが残りの大部分が成熟葉に運ばれて還元され る.葉で還元された N の一部は葉のタンパク質に取り込 まれることなく篩部を通じて再転流する.このように葉維 管束の木部∼篩部間において有機態Nの移行が活発に生 じ,葉タンパク質分解物由来の N とともに再転流すると 考えられている(第 5 図).  再転流 N は篩部を経由して葉外に移動する.このため 第 4 図 培地に N を含む水耕イネの第 8 葉に15N 標識尿素 を 供 与 し, 標 識 N の 各 部 位 へ の 移 行 を 調 べ た (Tatsumi and Kono 1981 を一部改変).

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葉の光合成同化産物とともに根に転流する.マメ科植物で は葉柄や茎の篩部汁液が比較的容易に採取できる.篩部汁 液の分析によりマメ科植物葉の再転流 N と光合成同化 C の 動態が詳細に調べられている(Pate et al. 1979).しかしイ ネでは篩部汁液の採取が困難なことから篩管中を転流する CNの動態について不明な部分が多い.筆者ら(巽ら 1983) は栄養成長期のイネ地上部に標識CとNを与えてその後の 葉から根への移動を調べた.その結果茎葉から新根に転流 した標識 CN 比は新根(上位節根)では高く(C リッチ) 古根では低い(N リッチ)ことが明らかとなった(第 2 表). また生殖成長期のイネ節根においても同様の傾向が認めら れた(Okano et al. 1983).ルーピン葉柄における篩管液の CN比は下位葉ほど低い(N リッチ)ことが報告されてい る(Layzell et al. 1981).上述の栄養成長期の標識イネの場合, 上位葉と下位葉における標識後 1 日以内における標識 CN の減少量を調べた結果,上位葉では期間内に減少した CN 比が下位葉と比べて高いことが示された(第 3 表).つまり 上位葉からの転流物質の CN 比が下位葉よりも C リッチで あると考えられる.またイネの葉と根の維管束連絡が,上 位葉と上位節根,下位葉と下位節根との間でそれぞれ相対 的に密接であることが知られている(猪ノ坂 1962).これ らのことから上位根(新根)が主として上位葉からCN比 の高い同化産物を受取り,下位根(古根)では下位葉から CN比の低い転流物を取り込む,その結果新根では C リッチ, 古根では N リッチの傾向を示したと考えられる.いっぽう 各節根の組織における CN 比は標識 CN 比とは逆に新根で 低く古根で高い(第 2 表).これは組織に取り込まれた N が活発に代謝回転するのに対し,C の場合は細胞壁などに 蓄積するために再転流が非常に不活発である.そのため根 エイジの進行とともにCが蓄積し,CN 比が増加する.

体内におけるNの循環

 マメ科作物では地上部から根に下降した N の一部が根の 成長に利用されるが,一部は根に利用されることなく再び 道管中を上昇することが知られている(Pate et al. 1979). 栄養成長期のコムギでは地上部から篩部を通じて根に下降 した N の大部分が根に取り込まれることなく道管を経由し て再び地上部に転流し,作物体が吸収した N のうち 79%か ら 100%が根と地上部間を循環していると報告されている (Simpson et al. 1982).各種植物の茎基部の道管液を調べる と N 固定植物以外の硝酸栄養イネ科植物においても,硝酸 以外にアミノ酸などの有機 N 化合物がかなり含まれており (Kirkman and Miflin 1979),その一部は地上部から下降して 根中をふたたび循環する N であると考えられている.イネ 体内においてもこれと同様な有機 N の流れが推察される. イネ古根への転流物質がNリッチであるが,C が古根にお いて活発に呼吸消費されるのに対してタンパク合成のため の N 要求度が低い.このため古根における CN 要求のアン バランスの結果,過剰 N が生じる.このことから古根では 過剰 N が代謝されることなく篩部から木部へ移行し,地上 部への N 循環が生じると考えられるが,この点については まだ十分検証されていない.第 6 図はイネにおける N 循環 の定性的な模式図である.作物体内における栄養循環シス テムの解明は環境ストレスに対する作物耐性の向上や低施 肥栽培・有機栽培における生産性改善に寄与すると考えら れる.今後のイネにおける地上部∼地下部間の CN 経済と 成長関係の定量的な解析が期待される. 第 6 図 イネにおける N 循環の定性的な模式図.

引用文献

Hoshikawa, K. 1989. The growing rice plant, Nobunkyo, pp305. 猪ノ坂正之 1962.稲の維管束の分化発達及び維管束による 各器官の相互連絡と成育との関係についての研究.宮崎 大学農学部研究時報 7:15 − 116. 第 3 表 標識イネの成熟葉における13C と N 量の変動 (巽ら 1983 を一部改変) 第 2 表 栄養成長期のイネ茎葉に供与した 13C と 15N の 各節根への転流(巽ら 1983 を一部改変) 13 CO2と15N 尿素を供与後 1 日目の測定,各値は量 比で示す.

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Kirkman, M. A. and Miflin, B. J. 1979. The nitrate content and amino acid composition of the xylem fluid of spring wheat throughout the growing season. J. Sci. Food Agric. 30 : 653− 660.

河野恭廣・山田記正 1972.水稲根における皮層崩壊現象と 側根発育について.日作紀 41:256 − 266.

Kono, Y. et al. 1982. Observation of cross veins of the second foliage leaf blade in the rice plant by use of a revised method for clearing leaves. Japan. J. Crop. Sci. 51 (3) : 445− 454. Layzell, D. B. et al. 1981. Partitioning of carbon and nitrogen and

the nutrition of root and shoot apex in a nodulated legume. Plant Physiol. 67 : 30− 36.

Okano, K. et al.1983. Investigation on the carbon and nitrogen transfer from a terminal leaf to the root system of rice plant by a double tracer method with 13C and 15N. Japan. J. Crop Sci. 52

(3) : 331− 341.

Pate, J. S. et al. 1979. Economy of carbon and nitrogen in nodulated and nonnodulated (NO3-grown) legume. Plant

Physiol. 64 : 1083− 1088.

Simpson, R. J. et al. 1982. Translocation of nitrogen in a vegetative wheat plant (Triticum aestivum). Physiol. Plant. 56 : 11− 17.

巽 二郎・河野恭廣 1980.地上部からの窒素供給と水稲根 の生長.日作紀 49(2):112 − 119.

Tatsumi, J. and Kono, Y. 1981. Translocation of foliar-applied nitrogen to rice roots. Japan. J. Crop Sci. 50 (2) : 302− 310.

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米山忠克 1991.作物の養分代謝・転流と生産性.近畿作育 研究 36:107 − 113.

Role of the Nitrogen in Root Growth with Special Reference to Shoot-root Relationship

of Rice Plants

Jiro Tatsumi

Eco-Plants Laboratory(35 − 57 − 201 Sagayanagida-cho, Ukyo-ku, Kyoto)

Summary: The growth of adventitous roots (nodal root) of rice plants is closely related to the leaf development. The new root began to emerge from the node synchronously with the development of new leaf of the three upper nodes. The newly developing nodal root receives a large amount of nitrogen (N) from the shoot during its growth stage of protein accumulation. Around 50% of N accumulated in young nodal root derives from the shoot even when the root absorbs medium N. A large part of the shoot N translocated to young root involves amino-N compounds exported from mature leaves produced by protein degradation. The shoot N exported from leaves may contain considerable reduced N originating from xylem to phloem N transfer in leaf minor veins. The N exported from mature leaves move in the phloem together with photo-assimilated carbon (C) in the leaf. The C:N ratio of translocates delivered to the root determined with double isotope labeling technique indicates that the old nodal root receives assimilates rich in N than C as compared with the new one, although the N requirement of the old root due to protein synthesis is low. This suggests that excess N moving down to the old root in the phloem would be transferred to the xylem then circulating upward to the shoot. This N circulation system may play a significant role in root growth of rice plants in terms of continuous supply of organic N from shoots to the developing root.

参照

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