Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design感 性
と
技 術
の
融 合
の
た め
の
九州
大
学
の
試
み
芸術
工
学
と
ユーザ ー感性学
The
Challenge
of
Kyushu
University
for
a
Synergy
between
Kansei
and
Technology
森
田昌 嗣
MORITA
Yoshitsugu
九州
大学
Kyushu
University
1．
芸 術
工学
の変 遷
1968
年 に 全 国で初 めて 「芸 術工 学 部 」 を 有 する大 学 とし て 開学
した 九 州 芸 術工科 大 学 は、
2003
年10
月 に 九 州 大 学 と統 合
し た。
九 州 芸 術工科
大 学 初代
学 長の小 池新
二先 生
が 「芸 術
工 学」 の理 念 とし て掲 げ た 「技 術の人 間化
」 は、
統
合 後も な お新鮮
な響
き を持
っ て踏 襲
さ れて いる。 「技術
の人 間 化」 と は、
「技術
」を そ の本 来
あ るべ き位
置に正しく 捉 え、
かっ いか に 機 能 さ せ る か と いうこ と であ り、
技 術 の 発 展 自体 を 人 間 的 基 準 に 立 脚 して進め、
技 術の発 展 を 人 類の福 祉 と 人 間 生活
の一
層
の充 実
に役
立てること と 位 置づけ ら れて い る。
開 学 当 時の
20
世 紀 中
盤 は、
未
だ 近代 合
理主義
の基
で問 題を 要素に分 解し て突き詰め、
全体像
を明ら か に し よ う とする要 素還
元論
が唯
一
の体 系
であ り
、
その担
い手 が科 学 技術
の 進 展 で あ る と信 じ られて いた時 代だっ た。
し か し、
こ の頃 か ら 公 害 問 題 や 民 族 問 題 な ど、
要 素 に 分 解 して解 を 得る ことで は解 決でき な い、
ま たこれ まで の要 素単
位の探
求 が 人類
や社 会
の体 系
に新
た な 問 題 を 発 生 さ せるな ど、
科 学 技 術の盲 信 的 な 進展 だけ で は対 応でき ない人類
へ の大 き な課
題 が投
げ かけ られ
た時代
で もあ る。一
方、
当 時の 「デザイ ン 」の一
般 的な解釈
は、
科 学 技
術の成
果に色や
かたち な どの表層 的
な処
理を行
い、
商 業 的成
果に結 びつける要素 技術
の一
つ と して捉え られて いた時 代であっ た。
しか し 開 学 後
40
年
が 経 過 する中で、
オ イ ルシ ョ ック や 公 害、
経
済 危機
、
地 球環
境の問 題 な ど、
人類
や社
会の課
題解決
の一
つ とし て 「技術
の人間化
」が 果 た す役 割
が 重視
さ れ、
ま た 「デザ イン」 に は、
表 層 的
要素 技 術
だけでなく人
間生 活
の さ まざま な 事 象を体 系づ け る 「技 術の人 間 化 」 の た め の感 性と技 術を融 合 す る役 割 が 増 大
して い る。
この こ とは、
人
と技 術
を関 係
づ け る 「技 術の人 間 化 」 の 理 念 を 掲 げ、
その理 念 を 実 践で き る 専 門 家の 不在 を ミッシ ングテクニシャ ン と 称 し、
その専 門 家こそ が 「designer
」 で あ り、
そ の 学際 的 教 育
研究領 域
を 「Design
＝
芸
術工学」 に位 置づ け た 小 池初 代学 長 の先 見性
の 鋭 さ と 洞察 力の 深さ が立 証された と い え る。 と こ ろがこれ まで の 「芸 術工 学 」 の道の り は 順 風 満 帆では な く、
ま さ に ミッシング テ クニ シャ ン で あっ た専 門 家の育
成に は、
科 学、
技 術、
芸 術な ど異な る学 体 系を融 合さ せ る た め の ト ラ イ ア ン ドエ ラー
の繰
り返 し の歩
み であっ た とい え る。
例 え ば、
開学 時4
学 科 （環 境設計、
工業 設 計、
画 像 設 計、
音 響 設 計 ）1
学部
の単 科
大学
で スター
ト し た九 州 芸
工 大は、
情 報
化 社 会の進 展 と と もに芸 術 情報
設計 学
科を加
え た5
学 科へ 再 編、
そ して国際 化
や少
子高 齢 化社 会
に向
けた国立大 学 再 編で九 州 大 学 と統合
し総合
大 学の一
部 局へ組 み 込 まれ た。
特 に 統 合 後 は、
小 池初 代 学 長がこだわっ た単 科 大 学で の 「設 計 」 とい う 枠 組み に お け る 芸 術工 学の探 究 プロセスを 再 考 しな け れ ば ならない。小
池 初 代 学 長の予 想 以 上に複 雑 化し多 様 化す る現代 社会
の状況 に 対 応 す る た め に は、
単 科 大 学の枠
を 超えて総合 大 学
の知の体 系
と連携
した 「芸 術
工学
」 の新
たな役 割
と価 値
を 探 究 し 明 確 化 す る こ とが 求め ら れ て い る。
本 報 告
は、
以 上のような背
景 を 踏 ま え、
統 合 後6
年 目 を 迎 え る 九 州 大 学の芸 術工学 を 核とし た 「感 性 と技 術の融 合 」 のた め の 取 り 組 み の一
部 を 紹 介 す る も のであ る。
2 ．
九 州 大 学
・
芸 術
工学
の主 な 取 り組
み九 州 大 学
・
芸術
工学
は、
上述
のよ
うな芸 術
工学
・
デザ
インを 取り巻く状況 の変化
に対 応すべ く、
2009
年2
月 現 在、
以 下の主
な 取 り組
み を進
め て いる。2
．
1
．
大 学 院 芸術
工学 府
の再編
学
府
再編
を説 明 す る前
に、
九 州 大 学 独 自の教 育 研 究 体 制 につ い て 簡 単に紹 介 す る。
九 州 大 学 は、
「大 学 院 重 点 化 」 のた めの 柔 軟 な 教育
研 究 体 制 を 図 り2000
年 に 「学 府・
研 究 院 制 度 」 を導
入 した。
「学 府・
研 究 院制
度」は、
大 学院
の教育研 究 組 織
で ある 「研
究科
」 を、
大 学 院の教 育組 織
と し て の 「学府 （
Gradu
−
ate
SchooD
」 と、
教 員
の組 織
である 「研究 院 （
Faculty
）
」 とに分 離し
、
相
互 に 「研究 」 と い う共通 の基 盤を持ち な が ら相
互 の柔軟 な連 携
が可 能
な制 度
である。
「学部 〔
School
）
」教 育
は、
研 究 院 に 所 属 する教
員 が出 向
い て大 学 院
の基礎
と な る教 育
を担
当 す ること に な る。
この制 度の特 徴は、
教 育と研 究 組 織を分け るこ と によっ て、教員 組織
を替
える こと な く祉 会 状
況の変化
や 教 育 方 針の変 更 な どで学 部 や 大 学 院 教 育 プログラム を 再 編 する こと を 可 能 と し たことであ る。
統 合 後の芸 術工学では
、
九州芸 工 大 時代の 学部
型 体 制を 引 き 継 ぎ、
教
員組 織
の 研究 院に学部
の5
学 科と共 通 専 門 教 育に対 応 し た6
つの部
門 （環 境 計 画、
人 間 生 活シ ス テム、
視 覚 情 報、
音
響、
芸 術 情 報、
応 用 情 報 ） が 置 か れ、
学 府の芸 術工学 専 攻 に も それぞれの学 科に対 応 する5
つ の 系 （環 境 系、
工業 系、
画 像14
デ ザ イ ン 学 研究 特 集号s ρecial issueOfIapanese society forthe sclefice o 「des」gn VDI
．
16−
3 no．
63 2009Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design平
咸
18
・
耄9
隼 度
大 学 院 芸
徳
工学 麿
修
漁2
専 攻
平
成
20
年
度
以降
大 単
院芸繕
工学 府
修
±博
士4
コー
ス2
專 攻
図1
大学 院芸 術工学 府再 編の経緯 系、
音 響 系、
芸 術 情 報 系 ）で構 成 さ れていた。
（図1
）しか し
、
上 述 した よ う な社
会構
造 や 産業 構
造の変化
やデザイ ン業 界
が抱
える課題
に対 応 す
べ く芸 術
工学
におい ても、
学 府
・
研 究 院制 度
を活か し て2004
年 度
よ り学府
の再 編に取り組ん だ。第
1
期
は、
2006
年 度
に九
州 芸工大時
か ら の大学 院
の1
専 攻（
芸術
工学 専 攻 ）か ら2
専 攻へ の再 編を行い、
デザイン ス ト ラ テ ジー
専 攻
修 士 課程
を 設 置 し た。
（
図D
デ ザ イン ス トラテ ジ
ー
専 攻 修 士課 程
は、
デザ イン の各 領
域 を 結 びつけ制 作の中 核 を な すデザイ ン ディ レク ター
人材
の育 成に 加 え、
今後
の デザイ ン業 界
の飛 躍 的発 展
のため に、
事 物
の デ ザイ ン コ ン セプトを 決 める構
想 力を持
ち な がら、
それを実 際
に 企画
し、
生 産、
知財 化
、
流 通、
販売 す
るまで の デザ
イン ビ ジ ネ ス 過程
を推
進す る能
力を もつ新
しい型 の高度
専 門 職 業 人である 「デザ インプロ デ ュー
サー、
デザ
インスト
ラ テ ジス ト（
総 称
して デザイ ン ス ト ラ テジー
人材）
」 の育
成を目 指して新たな 専 攻と し て設置
されたもの で あ る。
そのた め、
デザ イン ス トラ テジー
専 攻 担当
の専任
教 員 は、
研 究 院 の6
部
門 すべてか ら選出
さ れ た。 ま た デ ザイン ス トラ テジー
専 攻では、
大 学 等 高 等 教 育 機 関 や 企 業 等 内 部で早 期のデ ザ イン ス トラ テ ジー
教育研 究
が 担 える人
材 育 成も急 務とさ れて い ること を 受 け、
自ら 「デザイ ンプロ デュー
サー、
デ ザ イン ス ト ラテ ジス ト」 であ り な がら、
こ の分
野でデ ザ イン ス トラ テジー
に閧
する教 育研 究 能 力
をも ち、
大 学 や 企業 等
におい て人 材
の育 成
を も 担 うこ と の できる極め て高 度 なデザイ ンス ト ラ テジー
能 力 「独 自の実 践型 デザ イン ス トラ テ ジー
方 法 論 を 構 築 し教 育 研 究 を担
える能
力」 を有
す る人 材 育
成 の た め の博士後 期 課 程の2008
年 度設置
を 進め た。（
図2
）
第
2
期は、
デザイ ン ス ト ラ テ ジー
専 攻 設 置 や 後 述 する21
世
紀
COE
プログ
ラ ム の関 連
で、
これ
までの 芸 術工学 専 攻
の 再 編 が同 時に必 要となっ た。
芸 術工 学 専 攻 を4
つ のコー
スに 再 編 す る もので あ る。
芸 術工学 の 基 礎 研 究 領 域 を 受 け 持つ 「デ ザ イン 人 間 科 学」 と社 会の要 請によ る3
つ の テー
マ別 専 門 研 究 領 域 に 分 け た 「コミ ュ ニ ケー
ションデ ザ イン科 学」、
「環 境・
遺 産デザ イン」 そ して 「コ ンテンツク リエイ テ ィブデザ イン」で構成
す る。
デザ イン ス トラ テ ジー
専 攻 は、
これら芸術
工学 専攻
の4
コー
ス と連動
し て デザ インビ ジ ネス に結
びつ ける役 割
を担
う。 芸 術工学 専 攻
の4
コー
ス に よ る再編
も2QO8
年4
月に開 設 し た。各
コー
ス の概
要は、
図2
を参
照。鞄
鑿
鍵 孅 轢膊
髄 攤 鱗撫
鑰階
鑼 鑼 ゆ 曝・
唾 肇 多 鯲 融門
学 鄰 ｝ 撃一
マ壷蓋に鞭 力孅 鯨槨
饕
毅擧
穩 鑑 鎌 鍛 糾 攣 顯 像 毅難
亨”
巳
膏 響 毅鏨
糠 1
舞講
趨
藩
1
瀦
1灘
1
鋳
綉 媾 鰻馨
篝
醐
簿 紬 鰍 臓 灘 鰍 舞 遍瑚
締 図2 大学 院芸 術工学府再 編の経 緯2
．
2 ，
九州
大 学・
芸 術工学21
世 紀COE
プログラ 厶九 州
芸工大 最 終 年 度（
2003
）
、
文 科 省
の21
世 紀
COE
プ
ログ ラ ム（
学 際
、
複 合、
新 領 域 分野）
に申請
し た 「感覚 特
性に基 づ く人工 環 境デザ イン研 究 拠点
」 が採 択
され、
昨 年 度の2007
年
が5
力年と な る最 終 年 度 を 迎 え た 研 究 プロジェ ク ト で あ る。
「技
術の人 間化
」 の た め の基 礎 的 研 究であ り、
人間
の感覚 特性
をいかに総 合 的・
定量的に指
標 化 する かなど、
実 験 室の基 礎 研 究 をいか に 生 活の場 に 適 用 する か を研 究
の留意
点 に 定 め、
環 境 生理 学 部 門、
知 覚 心 理 学 部 門、
感 性デザイ ン部 門の3
部 門の研蕪
靴
蹄
劃
］
盈
Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design究チ
ー
ム に よ り推進 し た。
ま た研 究 者は、
芸 術工学 研 究 院の全部 門
お よ び 医学
研究 院
、
人
間 環境 学
研 究 院によ る複
合 領 域で構成
さ れ た。
研
究 成
果の例としては、
生
活 環境
の用 途 を考慮
し た 人工 照 明 環 境 デ ザ イン指 針、
健 康 障 害の防 止 とエンター
テイメ ント性
の 両 立のた めの映 像環
境デザ イン指 針、
病 院・
地 下 鉄・
教 室 な ど の公 共 空 間 に お ける音 響
コミュ ニ ケー
ション デザ イン指 針
な ど があ る。
拠 点 終了後の 展 望と し て次の3
点を掲 げ、
すで に大 学院
の コー
ス の設 置
に結
びつける こと がで き た。
1
．
高度 情 報化
と高 齢 化
が 同時 進 行
す る社 会
に おけ る健康
的 で 快 適な人工環境
デ ザ イン指
針の 提案
2
．
人 間の生 理・
心 理特 性
を 深 く 理解
し、
かつデ ザ イン展 開 が 可 能 な 人 材 を 育 成 する世 界 水 準の大 学 院の確 立→ 大 学 院 芸 術工 学府
芸 術工学 専 攻 デ ザ イン人 間科
学コー
ス の設 置
3
．
人
工環 境
デザイ ン にお ける世 界
の オ ピニオン リー
ダー
とな り、
学 界や産業
界を 通 じ て社会
へ の成 果還元3 ．
芸 術
工学
とユー
ザ
ー
感 性 学
3 ．
1．
九 州
大学
ユー
ザー
サ イエン ス機 構
の 活動
九 州 芸工大と九 大 との統 合 を 期 に
、
2004
年 度 文 部 科 学省
科 学 振 興 調 整 費・
戦 略 的 拠 点 育 成 プログラム （通 称・
スー
パー
GOE
）
「ユー
ザー
を 基 盤 と し た 技 術・
感性 融
合機 構
一
九州
大学
ユー
ザー
サ イエ ン ス機
構（
以下USI
と呼ぶ）」 が 採 択さ れ、
2008
年 度
ま で の5
力年
のプログラ ム で推 進
した。戦 略 的 拠 点
育 成プログ ラ ム は、
優 れた成
果の創 出・
活 用の た め の科 学 技 術 シス テムの改 革
、
将来 性
を見 込まれ る 分 野・
領域
へ の戦 略的 対
応 等、
そして科 学 技 術 活 動の国 際 化の推 進 を 目 的に し た委 託 事 業であ る。
US
［の目 的 は、
人 々の真の幸 福 を 生 む た めのユー
ザー
（生 活者
、
社
会 な ど）
の視
点か ら感 性 と 技 術の融 合 を 推 進 し、
知の創造
と利
用 を 図る従 来
にない研 究 開 発
シ ス テム と、
そ れ を 支 える 人 材を育
成 して い く教 育シ ス テ ム を確
立 し、
世界初の教 膏・
研 究 開 発 拠 点 を 構築
す るこ と と位
置 づ けて いる。
研 究 着 手の初 期 段 階 （
2004 −20Q5
年 度 ）
は、
九州 大 学
の各
専 門 領 域 を 横 断 する感 性と技 術の融 合のた め の パ イ ロ ッ トプ ロ ジェ ク ト を推
進 し、2006
年 度 か ら2007
年 度 に か けては、
US1
が 独 自に開 発した 研 究 開 発シス テ ム の骨 幹を成す 「感性
テー
ブ ル」 の基 本 概 念 を 設 定し、
パ イ ロッ ト プ ロジェ ク トによる感性
テー
ブル の検 証を 進 め た。
そ し て本 事 業の 最終 年 度 （2008
年度 ）
は、
感性
テー
ブル の運 用シ ス テム に 基づく 研 究 開 発システ ム を完 成 させ、
ユー
ザー
サ イエ ン ス教 育 研 究の母 体と な る統 合 新 領 域 学 府ユー
ザー
感 性学 専攻
を九 州 大学
に設 置
し、
2009
年
度 以 降の学 内 外で の普 及 展開 の拠 点を 形成す る 予定である。
USI
に お け る感性
と は、
感性
を 知の利
用 と 活 用 を 基 調 に 考 え、
16
デ ザ イ ン 学 研 究特 簾号speGトal Issue Qflapa
［
e5e seOretyfortheSCIenceo 「des」
gnvei
