昆虫類の多様1生
保護のための
重要地域
第 1集
巣瀬 司 広 渡俊哉 大 原昌宏 編
日本昆虫学会
所在地 〒 1 6 9 - 0 0 7 3 東 京都新宿区百人町3 - 2 3 - 1 国立科学博物館分館動物研究部 1999-2000年 度 会 長 副 会 長 庶 務 幹 事 会 計 幹 事 編集委員長 編 集 幹 事 評 議 員 北海道支部 東北支部 関東支部 東海支部 信越支部 近畿支部 中国支部 四国支部 九州支部 自然保護委員会 委員長 北海道支部 東北支部 関東支部 信越支部 東海支部 近畿支部 中国支部 四国支部 九州支部 秋元 信 一, 安藤 喜 一, 青木 重 幸, 佐 々木正己, 松浦 誠 , 吉 田 利 男, 石井 実 , 前田 泰 生, 酒井 雅 博, 上官 健 吉, 石井 実 大原 昌 宏 郷右近勝夫 巣瀬 司 藤 山 静 雄 佐藤 正 孝 広渡 俊 哉 星川 和 夫 吉 田 正 隆 矢 田 脩 岩佐 光 啓 正木 進 三 立川 周 二, 渡辺 泰 明, 小野 知 洋, 佐藤 力 夫 内藤 親 彦, 中筋 房 夫 野里 和 雄 上回恭一郎, 雅章,山 根 爽 一, 誠二,倉 橋 弘 正 明徳,桜 谷 保 之, 洪,多 田内 修 大和 国 守 , 宮武 頼 夫 湯川 淳 一 青木 重 幸 紙谷 聡 志, 上 野 高 敏 多 田内 修 蔦 洪 石井 実 , 多 田内 修 , 高 木 正 見, 矢 回 脩 国 中 田 西 友 田 宮 中昆虫類の多様性保護のための
重要地域
第 1集
巣瀬 司 広 渡俊哉 大 原 昌宏 編
日本昆虫学会 自然保 護委員会 発行
「
昆虫類の多様性保護 のための重要地域 第 1集 」の刊行 にあたって
日本昆虫学会会長 (1997-98年 ) 三 枝 豊 平
生物多様性 に関わる問題が,今 日のよ うに,学 界 のみな らず一般社会で注 目をあび るよ うになった のは,か つてなか った ことである。 これ は,ヒ トの生存 にかかわ る深刻な事態が次 々 と噴出 して いる 現今の環境問題 と,将 来的な生物資源の探索 の両面 に,生 物多様性 が直接的 に関わ っているか らで あ る. 生物多様性 は これ まで分類学者 の関心事で あ り,ま た過去 にお いて も,ま た将来 にわた って も分類 学者 によ ってそ の骨組みが提示 され る性質の もので ある。生物多様性 の概念 は,人 それぞれ によって 異なるが,そ れ らはい様 々な生き物が存在す る状態"という点に集約できよう。分類学者は個々の分類 群 の多様性 に関心 を払 いなが ら生物多様性 を記録 し続 けて いる.一 方,一 つの地域 の生物群集 の多様 性 は,か つては生物地理学者 の主要な関心事 であったが,今 や分類学や生物地理学 に限 らず生態学者 を含む生物学 の諸分野の研究者が これ に関心 を示 しは じめて いる。 ある限 られた地域 の生物多様性 の 研究 は,動 物相や植物相 の リス トア ップ と並行 して,様 々な生物学分野の研究者 の協 力によ り,生 物 群集 の中で相互 に依存 しあ う生物達 の生き様 の多様性 を統一的 に理解す る方向に進展 し始 めて いる。 とはいえ,い つの時代で も生物多様性の研究 の基盤 は,ど のよ うな生物がそ こに生息 。生育 している か を分類学的 に明 らか にす る点 にあることは変わ りない. レッ ドデータブ ックが 自然の保護 ・保全 のシンボルの一つであるよ うに,こ れ に登録 されている絶 滅危惧種や危急種,希 少種等 は,生 物群集 を構成す る多様な生物種 の中で特 に注 目を浴びてきた.こ の ことは,こ のよ うな種が多 くの場合 に高山草原や原生林な ど, 日本列島では数少な くな った植物相 観 の環境 に生息 ・生育 して いるか らである.さ らに この ことは,一 つ または少数 の稀少な種 の保護 を 前面 に出 して推進す る ことによって,そ れ らの生物が含 まれ る生物群集全体 を保全す る運動 を有利 に 展開で きる ことにもなった.ゴ イ シツバ メシジミやヤ ンバルテナガ コガネが生息す る原生照葉樹林, イ リオモテヤマネ コや クマ タカが生息す る森林地帯 の保全な どはそ の顕著な例で ある.し か し,生 物 多様性 の保全 は,も とよ り少数 の希少種 を対象 に して行 うものではな い。 自然保護運動 は,今 や生物 群集,必 然的 に生態系の保全 に正面か ら取 り組む段階 にさ しかか って いる.環 境行政 にお いて も自然 環境の評価 の視点が,従 来強調 されていた特定種 の存在か ら生態系全体 にシフ トし始 めている。 生物多様性 の保全 を狭 い地域 の問題 に限 る と,保 全運動 は,よ り多 くの多様な種が存在す る生物群 集,一 般的 には原生 に近 い自然環境 を保全す る ことに力点が置かれ る。 しか し,現 在 の 日本列島は基 本的には極相林で被われ る気候条件の下 にあるが,そ こには高山車原 ,湿 原,河 川の氾濫原や海岸砂 丘,火 山荒原,山 火事や土砂崩壊 に伴 う初期遷移 な ど,自 然状態 にお ける草原的な中間遷移 の環境 も パ ッチ状 に存在 して いる。 これ らの草原や,中 間段階の相観 を示す 自然環境 には,極 相林 の生物群集 とは異なる種 を含 んだ生物たちによって,独 特 の生物群集が構成 されて いる。一方,こ れ らに類似 し た中間遷移段階の環境は,ヒ トの営為 によって さ らに複雑 に攪乱 され,ま た増加 され続 けて いる。 "杉 畑いや"唐松畑いとも言 える単一樹種 の植林地 は別 に して も,里 山のよ うな二次 自然林 ,採 草地,自 衛 隊の演習場,昔 なが らの河川の上手な どを含む 中間遷移 の生物群集 は,上 記 の 自然状態 にお ける草 原な どとともに,日 本列島の生物群集 として極相林 の生物群集 と価値 の優劣 を問えない存在である。 生物多様性 の保全 は,ま た生物群 によって もそ の対応が著 しく異な って くる。大型哺乳類や猛禽類 のよ うな動物 は,ハ ビター トとして森林や草原な どの広大な地域 を トータル に要求す るが,そ れぞれ のハ ビター トの内部で細 か に分化 しているマイ クロハ ビタ ー トに必ず しも強 く依存す る ものではな い。 しか し,昆 虫のように,小 形で生活様式が著 しく多様 に分化 し,か つその分化が しば しば発育ス テイジによって も起 こる生物群では,微 視的なハ ビター トが保全 され る ことが種 の生存 にとって必須 で ある場合が一般的で ある。 この点 を主張す るのは,現 在 の一般 認識か らす る と,い くら喧伝 して も,喧 伝 し過 ぎる ことはない.昆 虫の生物多様性の保全は,少 な くともこれ まで述べてきた諮点 に関す る考慮 を抜 きに しては,十 分な成果が期待で きないで あろう。 日本昆虫学会 は従来 か ら自然保護委員会 を設置 して 自然保護 問題 に学会 として対応 して きた。現 今,冒 頭 に述べた社会的状況の中で,自 然保護委員会 はさ らに一層の活動 を期待 されてきて いる.鱗 翅 目につ いては, 日本鱗翅学会が この昆虫群 の保全 につ いて,出 版 ,シ ンポジウムな ど様 々な活動 を 活発 に展 開 して いる.日 本昆虫学会 の活動 は もとよ り昆虫学 の様 々な分野 にわたってお り,会 員 には 生物多様性 に直接関与 しない分野 の研究者 も含 まれて いる。 しか し,多 数 の昆虫分類学者や昆虫生態 学者 を擁す る我が国唯一 の学会 として, 日本昆虫学会 は昆虫 を中心 とした生物多様性 の保全 につ いて 一定の社会的責任 を果たす ことが要請される し,ま た これ に応えることは学会の重要な活動の一つ と して位置づ け られ る.生 物多様性 の問題で は,イ ンベ ン トリー に関わ る種 の 目録,検 索 システム,分 類学的総説, リフ ァレンス ・コ レクションの作成のよ うな,生 物多様性研究 の基盤 を構築す る活動が まず学会 には要望 され る。本学会 は,す で に分類学的総説な い し検索 システム を志向 した 「日本 の昆 虫」の出版計画 を順調 に進 めている し,昆 虫 目録の作成 について も検討段階にはいっている。 日本昆虫学会 は このよ うな生物多様性研究 の基盤 とな る活動 とともに,日 本列島の昆虫類の多様性 の保全 にかかわ る具体的取 り組み も行 って きている.歴 代 の 自然保護委員長 を中心 に自然保護委員会 が,「 昆虫類 の多様性保護 のための重要地域」 の出版 にむ けて,永 年 に亘 って努 力 してきた。今 回そ の成果 として第 1集が出版 され る ことにな った のを会員各位 とともに喜びた い.本 書 は,歴 代 の 自然 保護委員長で ある森本 桂 ,内 藤親彦,石 井 実 ,巣 瀬 司 の各会員 とそれぞれの 自然保護委員,編 集作業 に従事 された広渡俊哉,大 原 昌宏 の各会員,な らび に各地の執筆 を担 当された会員各位 の尽力 をは じめ,資 料な ど提供 いただいた多 くの方々の ご協 力の成果である。 本書 は昆虫類全体 を対 象 に した生物多様性 の保全 に関す る我が国初めての出版で ある.本 書 の内容 は,そ れぞれ選定 された地域 につ いて,地 域 の概要,選 定理 由,保 護 のあ りかたな ど,選 定地域 の現 在 の取 り扱 い,文 献 の5項 目に亘 って記述 されている.「 重要な地域」 の選定 は,各 地 の執筆者 に基 本的には一任 された ものであ り,そ の選定 の基準 は個 々の地域 につ いて述べ られているが,昆 虫の種 数の多 い地域,原 生環境が残 されて いる地域 ,湿 原 ・池塘な どの特殊な環境 を含 む地域,遷 移 の中間 段階の ものや,平 地の里 山林な どさまざまな環境 を含 む地域が取 り上 げ られている.こ のシ リーズは 第2集 ,第 3集 と続 けて出版 し,第 1集では収録で きなか った 「重要地域」 の提言 を今後 も続 けて い く 企画である。 昆虫 につ いて生物多様性 の上で重要な地域 は,と りもなお さず生物全体 にとって も重要な地域であ る.本 シ リーズが生物多様性 の保全 の今後 の施策 ・運動 の上で,ま た生物相解 明の上で大 きな指針 に なる ことを願 って いる.な お,昆 虫 の場合 には本書 のよ うに多様性 が豊かな地域 を紹介す る ことに よって,採 集者がそ こに殺到 し,そ の結果採集圧 によって種 の個体数 の激減な どが懸念 され る場合が ないとは言 えない。実際,個 体数及び産卵数が少な く,成 虫の発生期が限定 され,且 つ採集が容易な 種 の場合 には,昆 虫 といえ ども強 い採集圧で個体数が激減す る。本書 の出版 は,生 息環境 の保全 を志 向 した もので あるが,ま た前述 のよ うな リス クを伴 う側面 もある.本 書が このよ うな 目的 に利用 され ないように,昆 虫研究者 ・同好者 の 自重 を望む ものである。 1999年2月
序 にか えて
自然保護委員会委員長 (1997-98年
) 巣 瀬 司
本書は,採 集禁止地域 を設定す るため に出版 したわ けではな い.昆 虫の場合,特 別な場合 を除き, 採集 の禁止 は決 して 「昆虫 の保護」 にはな らな い.昆 虫 の増殖 力は大 き く,ほ とん どの昆虫 に とっ て,採 集 によるダメー ジは全 く無視できる。大事なのは 「そ の生息環境 の保護」で ある。 一般の人たちにとって 「昆虫類の多様性保護」は取るに足 らないことに思えるだろう。 しか し,考 えてほ しい。多様な昆虫が生息できる環境 は,人 にとって も 「良い環境」である ことを。そ して,き れ いな花 と鳥だけでは,自 然は成 り立たない ことを.多 様な昆虫が いな けれ ば,日 本在来 のほ とん ど の頭花植物 は花粉媒介が成 されず,種 子 がで きな い.ま た,莫 大な量の,し か も多様な種類 の昆虫が 存在 しなけれ ば,小 鳥類 は子育てができな い。 一 般的 に,絶 滅 寸前の種 を守 る ことが 自然保護で あ る と思われているが,生 態系の中で特定 の種 だけを守る ことはできない.ま た,特 定 の種 だ けを守 ろ うとす る と 「天敵 を排除 し,そ の種 の採集 ・採取 を禁止す るだけで良い」 とい う,最 悪の方法 に行 き 着 いて しま う.種 の存続 にとって必要なのは食物だけで はな い.天 敵 もまた必要で ある.ま た,生 物 は常 に増殖す るものなのだか ら,そ の種 を採集 ・採取す る ことは,長 期的 に見て,そ の種 の個体数 を 減 らしていることにはな らない.た だ し,増 殖率 を越えた過剰な採集 ・採取 は,当 然の ことなが ら, 慎 まねばな らない。 「地球環境保全 に関す る関係 閣僚会 議」 による 「生物多様性 国家戦略 (1995年 10月31発 行)」の 個 々の内容 には異論 はあろうが,そ の根本的な考 え方 は間違 っていない と思 う。それ は生物 に対す る 「持続可能な利用」 とい う考 え方である.も っとも,こ の 「生物多様性 国家戦略」 を作成す る上で, 元 になった1992年 6月 の国連環境 開発会議 (地球サ ミ ッ ト)で は 「持続可能 な開発」 とい う言葉が 使われている.私 個人 としては 「持続可能な開発」な どあ りえないと思 うのだが ・・・. 基本的 に,生 物 の,特 に昆虫類 の多様性 の保護 は 「採 る,採 らない」 とい う問題で はない.生 息環 境の保護が第一であ り,生 息環境 さえ保護 されれ ば,採 ろ うと,採 るまい と,そ の地 の生物 は保護 さ れる。ただ し,保 護 の方法が問題で ある。手付かず の自然で ある原生林 (極相林)等 の保護 は,手 法 的 には簡単である。手付かず のまま残せ ば良いのだか ら。 しか し,身 近な 自然で ある里 山,野 焼 きや 草刈 りによって維持 されてきた草原,土 手の斜面や河川敷 といった二次的 自然の保護 は難 しい。従来 通 りの維持 ・管理,つ ま り1960頃 まで の維持 ・管理 を復活す る ことが,そ の地 の生物 の多様性 を守 るためには必要なのだが,誰 が,ど のよ うに してそ の作業 を行 うのだろ うか ? 最 近,ボ ランテ ィア 活動等 によ り,明 るい兆 しは少 しは見 えるが ・・・. 日本昆虫学会 は 「自然保護 団体」ではない.あ くまで も 「昆虫 に関す る専門家 の集 ま り」で ある。 ただ,そ の研究対象である昆虫が,日 本 国内で衰亡 しつつ ある現状 を,放 置す る ことはで きな い。少 な くとも,日 本昆虫学会 自然保護委員会 は 「できるだけの こと」 は したいと思 って いる。 この 「昆虫類の多様性保護 のための重要地域」の出版 によって,急 に何かが変わ る とは思 っていな い。 しか し,個 々の執筆者 の,そ れぞれ の場所の保護 の しかた に関す る提言等 は,近 い将来生かされ てほ しいとと思 う. 1999年2月執 筆 者 一 覧 ( 五十音順)
愛知県 名古 屋市 琉球大学農学部昆虫学教室 長崎県立長崎北 陽台高校 大 阪府立大学農学部昆虫学研究室 青森県津軽地域病害虫防除所 (故人) 宮崎市総合博物館 自然史科 環境科学株 式会社 横須賀市博物館 医療法人光智会西大館病院 山形県上山市 岡山県総社市 宮崎県 日向市 青森県 りん ご試験場 青森県北津軽郡坂柳町 東北学 院大学 工学部生物学研 究室 (株)採極実用技術研究所 九州大学大学院比較社会文化研究科 愛媛大学農学部昆虫学研究室 福井大学教育学部生物学教室 青森県青森市 名古屋女子大学大学院生活学研究科 宮 山県魚津市 青森県弘前市 シラサギ記念 自然史博物館 神奈川県立生命 の星 ・地球博物館 宮城県仙台市 阿江 茂 東 清 二 池崎 善 博 石井 実 市 田 忠 夫 今村 功 岩崎 郁 雄 宇都宮泰博 大場 信 義 尾崎 俊 寛 小野 精 美 兼久 勝 夫 木野 田 毅 櫛 田 俊 明 工藤 忠 郷右近勝夫 郷原 匡 史 三枝 豊 平 酒井 雅 博 佐 々治寛之 佐藤 博 佐藤 正 孝 常楽 武 男 鈴樹 亨 純 巣瀬 司 高桑 正 敏 高橋 雄 一 高橋 真 弓 立川 周 二 塚 本 珪 一 鶴 崎 展 巨 永井 厖 中村 慎 吾 奈 良岡弘治 西 島 浩 浜 栄 一 濱崎詔二郎 広 渡 俊 哉 福 田 晴 夫 船越進太郎 星川 和 夫 穂積 俊 文 牧林 功 松 良 俊 明 的場 績 三宅 武 宮武 頼 夫 森 本 桂 八木 剛 山田 雅 輝 吉 田 正 隆 吉安 裕 渡邊 通 人 静岡県静岡市 東京農業大学昆虫学研究室 京都府京都市 鳥取大学教育学部生物学教室 宮崎県小林市 広 島県庄原市 青森県弘前市 北海道昆虫 自然史研究所 長野県松本市 山 田大学農学部生物資源科学科 大阪府立大学農学部昆虫学研究室 鹿児 島県鹿児島市 岐阜県本巣郡穂積町 島根大学 生物資源科学部環境生物学講座 愛知県小牧市 シラサギ記念 自然史博物館 京都教育大学生物学教室 和歌 山県立 自然博物館 大分県大分郡狭間町 大阪青山短期大学 福 岡県福 岡市 兵庫県立人 と自然の博物館系統分類研究部 青森県弘前市 徳島県農業大学校 京都府立大学農学部昆虫学研究室 山梨県南都留郡鳴沢村 , N次
目
表紙 (小堀文彦 :オ オム ラサキ作画) 「昆虫類の多様性保護のための重要地域 第 1集 Jの 刊行 にあたって (三枝豊平)・ , 序 にかえて (巣瀬 司 )・ ・ 執筆者一覧 昆虫類の種 と多様性 の永続的保護のために (石井 実 )・ ・ 昆虫類 の多様性保護 のための重要地域 一覧 ・ ・ 北海道 サ ロベツ原野 ・ 。 小清水原生花園 ・ Ⅲ 美々川源流 ・ウ トナイ湖湿原 ・ ・ 太平山 ・狩場山 ・ ・ 大千軒岳 ・岩部 ・ ・ 渡島大島 。 ・ 。 1 皿 ・ lV 1 7 8 9 10 11 12 13 ヨ電 J と 尾駿 ・鷹架沼な らび に周辺湿地 (青森県)・ ・ 14 岩木 山 (青森県)・ ・ 16 荒沢県 自然環境保全地域候補地 (宮城県)・ ・ 18 二 日渓谷 ・奥新川地域 (宮城県)・ 。 20 沼 ノ台地区 (山形県)・ ・ 22 関 東 渡良瀬遊水地 (茨城 ・栃木 ・埼玉 ・群馬県)・ ・ 24 天覧 山 ・多峯主山 (埼玉県)・ ・ 26 狭山丘陵 (埼玉県)・ ・ 28 通称 「弁天山池」 (神奈川県)。 ・ 30 野比地区 (神奈川県)・ ・ 32 小網代地区 (神奈川県)' ・ 34 櫛形山地域 (山梨県)・ ・ 36 東 海 朝霧高原 (静岡県)・ ・ 38 大井川 中流域 (静岡県)。 ・40 面 ノ木峠周辺 (愛知県)・ ・42 表浜海岸 (愛知県)・ ・・ 。44 前沢湿地 ・須衛湿地 (岐阜県)・ ・ 46 鈴鹿 山脈一帯 (三重県)・ ・48 信 越 氷見市宮 田地区ため池群 (富山県)・ ・ 50 秋 山郷雑魚川 ・魚野川源流域 (長野県)・ ・ 52 平川 と深空西部カ シワ林 (長野県)・ ・ 54 開田高原 (長野県)・ 。 56 遠 山川沿線 (長野県)・ ・ 58近 畿 中池見湿地 (福井県)・ 660 池の河内 (福井県)・ ・ 62 八丁平 (京都府)。 ・ 64 久美浜湾北の小天橋 ・箱石海岸 (京都府)・ ・ 66 北摂 I一 三草 山 (大阪府 ・兵庫県) 68 北摂 II― 深山 ・剣尾 山 ・山辺 ・森上 (大阪府 ・京都府)・ ・ 70 北摂III一 妙見 山 ・鴻応 山 ・歌垣 山 ・高大寺 山 ・天台山 ・青貝 山 (大阪府)・ 。 72 砥峰高原 (兵庫県)' ・ 74 沼池 (和歌山県)・ ・ 76 中 国 久松 山 (鳥取県)。 ・ 出雲砂丘 (神戸川河 口周辺)(島 根県)・ ・ 奥津 ・上斉原地 区 (岡山県)。 ・ 東入幡原 ・西入幡原 (広島県)・ ・ 長門峡 (山口県)。 ・ 四 国 吉野川 ・勝浦川河 日地 区 (徳島県)・ ・ 剣山 (徳島県)・ ・ 皿 ヶ峰 (愛媛県)。 ・ 鬼ヶ城 山系 (愛媛県)・ ・ 九 州 英彦 山 (福岡県)。 ・ 94 黒岳 (大分県)。 ・ 96 対馬 (長崎県)。 ・ 98 大崩 山山塊 (宮崎県)・ ・loo 奄美大島の中部 山岳地帯 (住用川流域)(鹿 児島県)・ 。102 沖縄 島北部 中央森林地帯 (沖縄県)・ ・104 あとがき (巣瀬 司 )・ ・106 8 0 2 3 4 7 8 8 8 8 6 8 0 2 8 8 9 9
昆虫類 の種 と多様性の永続的保護 のために
石井 実 昆虫類の保護 について考えるには,ま ず現状の把握 をす る必要がある。ここでは環境庁 (1991) のレッ ドデータブック掲載種 とその危機要因に注 目することによ り,日 本の昆虫の置かれている状況 について考える。そのうえで,今 後,昆 虫類の保護のために何をなすべきかについて述べたい. 1.日 本の昆虫の現状 昆虫類の現存種数については,世 界 レベルでは言 うまでもな く, 日本産のものについても,い まな お定かではない。平鳴 (1989)は ,日 本産既知種 として28,973種をリス トア ップしたが,種 の解明 率は30∼40%と してお り, 日本産の昆虫類は全体 として10万種前後 にのぼるもの と考 え られてい る。もし,分 類学的調査 ・研究が現在のペースで行われるな ら,21世 紀中に日本産昆虫の全貌が明 ら かになることはないだろう。 しか し,日 本産昆虫の表退は着実 に進行 している.日 本で最初 に行われた昆虫類の生息状況調査 は,お そ らく環境庁による1973年と1978∼1979年の自然環境保全基礎調査 (いわゆる 「緑の国勢調 査」)で あるが,そ の一環 として,日 本昆虫学会な どの協力のもとに 「動物分布調査 (昆虫類)」 が 実施された。この調査では,都 道府県 ごとに選ばれた絶滅のおそれがある,あ るいは学術上重要 と思 われる23目260科1,753種の 「特定昆虫類」が対象 とな り,成 果 として公表された 「日本の重要な昆 虫類の分布」 (環境庁,1982)に よって,開 発行為によ り環境の悪化が進行 し,す でに一部の種で 衰退が著 しいことが明 らかになった。 環境庁は,さ らに1986年 か ら 「野生生物保護対策検討会」 による調査 ・検討 を重ね,1991年 に 「日本の絶滅のおそれのある野生生物 ―レッ ドデータブック」 (以下RDB)を 刊行 した。これは, 1948年 に設立された国際 自然保護連合 (IUCN)が 1982年 か ら刊行 を始めた 「レッ ドデータプッ ク」の 日本版 というべ きものであ り,昆 虫類では 「絶滅種(EX)」2種 ,「 絶滅危惧種(E)」23種 , 「危急種(V)」15種,「 希少極(R)」106種,`「地域個体群(LP)」1種,合 計11目207種が リス トアッ プされた (表1). 平鳴 (1989)の 28,973種を日本産昆虫種 とすると,RDB掲 載種は0.7%で しかない。 しか し,こ れは日本では絶減の危機に瀕 した種が少ないというのではな く,む しろ生息状況が十分に把握 された 種が少ないためと解釈すべきである,実 際,愛 好家 。研究者が多 く,情 報が豊富なチ ョウ類 (ガ類を 除 くチ ョウロ)や トンボ ロでは,既 知種の20%が RDB掲 載種 となっている。 この値が調査の進んだ 脊椎動物のそれに近いことか ら,昆 虫類全体でもこの程度の割合で危機的な種が存在する可能性があ る.現 在,日 本昆虫学会な どの協力のもとにRDBの 見直 し作業が進められてお り,1999年 度内に刊 行される予定の新RDBで は,IUCNが 1994年に採択 した新カテゴ リー基準が使われることになって いる。 2 . 衰 亡の原因 1 9 9 1 年度版R D B ( 環 境庁 , 1 9 9 1 ) で は, 掲 載昆虫種 の5 4 % に 当たる1 1 2 種が 日本 固有種, 2 5 % の 5 1 種が 日本固有亜種で あった。分布 につ いては, 約 4 害J に相 当す る8 1 種が島嶼部 のみ に分布す る種で あ り, 内 訳は南西諸 島が6 0 種 , 小 笠原諸島1 3 種, 対 馬5 種 , 屋 久島3 種 となって いる. ま た, 本 土 に 分布す る残 り1 2 6 種につ いて も, 高 山性 の ものが5 種, 既 知の産地が l ヵ所 のもの ものが1 9 種, 数 力所 の ものが1 3 種で, 約 3 割が狭域分布種であった。 このよ うに, R D B 掲 載種 は, そ の大部分が 日本的な 種 または亜種であ り, 加 えて, 島 嶼や限 られた地域 に分布す る種な ど生存基盤が脆弱な ものが多 い こ とがわか る. R D B 掲 載種 を生息場所 のタイプによ り分類す ると, 現 在, 日本 にお いて昆虫類 の脅威 になって いる 要 因が浮かび上が って くる ( 表1 ) . 昆 虫類が さまざまな 自然環境 の生物指標 として注 目を集 めて い ることを考 えると, 昆 虫類の危機要因は, 日 本の生物多様性 あるいは 日本の 自然その ものを脅か して 混虫類 の多様隊 語 のた めの重要地 域 第 ヱ集表1.環 境庁の 日本版 レッ ドデータプック (RDB)掲 載種の生息場所別内訳. ランク 目 名 洞 窟 森 林 草 原 池 沼 地下水 渓 流 中 流 河 口 海 浜 高 山 島 嶼 合 計 絶滅種 (Ex) コウチュウロ 絶滅危惧種 (E) トンポロ 1 ガロアムシロ 1 カメムシロ 1 コウチュウロ 4 1 1 ハ エ ロ 1 チ ョウロ 1 危急 種 付 ) トンポロ 1 1 カメムシロ 1 1 コウチ ュウロ 1 5 ハチロ 1 1 ハエ ロ 1 チ ョウロ 1 1 希 少種 (R) トンボロ バ ッタロ カメムシロ 1 アミメカゲロウロ 1 コウチュウ ロ 4 1 ハチ ロ シリアゲムシロ 1 ハエ ロ 1 1 トビケラロ チ ョウ ロ 42 地域個体群 (Lp) カ メム シロ 1 昆虫合計 41 5 絶滅種 ( E x ) : わ が国ではすでに絶滅 したと考 え られ る種 または亜種. 絶滅危惧種 ( E ) : 絶 滅 の危機 に瀕 している種 または亜種で, も しも現在 の状態 をもた らした圧迫要因が 引き続 き作用す るな らばその存続が 困難な もの. 危急種 ( V ) : 絶 滅の危険が増大 して いる種 または亜種で, も しも現在の状態 をもた らした圧迫要因が 引き続 き作用す るな らば近 い将来 「絶 滅危倶種」の ランクに移行する ことが確実 と考 え られ る もの. 希少種 ( R ) : 存 続基盤が施 弱な種 または亜種で, 現 在の ところ 「絶滅危倶種」にも 「危急種」 にも該 当 しないが, 生 息条件の変化 によって 容易 に上位 の ランクに移行す るよ うな要素 ( 脆弱性) を 有す るもの. いる要因 と共通の もの といえるか もしれない。 1 9 9 1 年度版で絶滅種 とされ た2 種 のメクラチ ビゴミム シお よび絶滅危惧種 に指定 された5 種 の甲虫 類は洞窟性で ある。 これ らの種 は, 産 地が1 ∼2 ヶ所 の洞窟 に限定 されてお り, 石 灰岩 の採掘, 洞 窟の 水没, 生 息地丘陵の開発な どで絶滅 あるいはその危機 に瀕 している。また, こ れ らの甲虫 と同様, 石 灰岩地 に自生す るキバナ コウ リンカ ( E ) などの植物, 石 灰岩な どの洞窟 に生息す る リュウオ ビヤスデ ( E ) やドウクツヌマエ ビ付 ) , カ ザ アナギセル ( E ) などの無脊椎動物が絶減 の危機 に瀕 している こと も明 らか にされている。 絶滅種 は確認 されなか った ものの, 掲 載種 の割合が もっとも大 きか ったのは森林性 の種で, 本 土 に 分布す る1 2 6 種の うちの5 1 種 , 約 4 害J を占めた。島嶼性 の掲載種 に も, 沖 縄本島北部 の原生林 に生息 す るヤ ンバルテナガコガネ ( E ) のような森林性の ものが多 く含 まれている。掲載種 の昆虫 には, 原 生 林 ( 極相林) に 生息す るものばか りでな く, 里 山 と呼 ばれ るかつての薪炭林 に依存 している種が多 く 含 まれ る ことが注 目され る. ま た, 絶 滅危惧種 に指定 された北海道 のシマ フクロウや沖縄本島の ノグ チゲ ラな どの鳥類 をは じめ, 昆 虫以外の多 くの森林性の動植物 もR D B 掲 載種 になっている. 国 土の3 昆虫類 の多榊 藩 のた めの重要地 域 第 ヱ集
分の2が 森林 といわれ るわが国にお いて,絶 減 の危機 に瀕 して いる野生生物 の多 くが森林性で ある こ との意 味は重 い。原生林 について は伐採や人工林化 ,里 山につ いては開発や放置 による遷移 の進行が 昆虫類 の重要な危機要因 となっている。 森林性 の種 に次 いで多か ったのは,池 や沼な どの止水や池沼の水生植物 に依存 している 「池沼性」 の種で,本 土 に生息す る掲載種 の約4分 の1(31種 )を 占めた.こ の中にはベ ッコウ トンボ(E)やタガ メ(Rlなどの 「稲作水系」の種や カ ラカネイ トトンボ(Юのよ うな 「北方湿原」 に生息す る種が含 まれ る.後 述す る湿性草原 を含 めた 「湿地 (ウエ ッ トラン ド)」 は,わ が国で は森林 と並 んで とくに危機 的な環境で,サ ギ ソウ(V)やミク リ(V),オ ニバス(V)な どの植物, トキ(E)やコウ ノ トリ(E)のような 鳥類が激減 している。湿地の埋 め立てや 開発 ばか りでな く,た め池や水路 の改修,圃 場基盤整備,農 薬や生活排水な どによる水質の汚染 ・汚濁,遷 移 の進行が野生生物 の大きな脅威 となって いる。 草原性 の種 は,本 土 に生息す る掲載種 の約 1割 (12種)を 占め,オ オウ ラギ ンヒョウモ ン(E)やケ マダ ラカ ミキ リ(Dな どのシバ草原 の種 ,ヒ ョウモ ンモ ドキ付 )やフサ ヒゲル リカ ミキ リ(回な どの湿 性草原 の種が含 まれている。 この背景 には,農 業 による土地利用が変化 し,牛 馬の放牧 ・火入れ,茅 葺 き屋根や牛馬飼養 のための採草な どによ り維持 されて きた草地が,遷 移 の進行,植 林や 開発,埋 め 立てな どによ り,減 少 ・変質 した ことが ある. そ の他,高 山帯 ・亜高山帯のチ ョウ類 (14種),海 浜 ・河 日の ヨシ原や湿地,砂 浜な どに生息す る 種 (13種)が それぞれ本土 に生息す る掲載種 の約 1割 を占めたほか,河 川上流域 の水生昆虫や 中流域 河川敷 の草地 ・湿地の種な どが,RDB掲 載種 に含 まれて いる。島嶼 に生息す る掲載種 の半数 を トンボ 類が 占めるが (41種),そ の多 くは深 い森林 に覆われた山間部 の渓流 を生息場所 としてお り,樹 洞 に できた水溜 ま りで発生す る西表島のキイ ロハ ラビロ トンボ(Юのよ うな種 も含 まれ るな ど,そ れ らも 森林 の要素 ということができる。 3.永 続的な保護のために わが国にお ける昆虫類の保護 は,長 い問,国 や地方 自治体 の法令や条例 にもとづ く採集や 開発等 の 規制が主流であった.そ れ には大 き く分 けて,文 化庁が担 当す る文化財保護法お よびその関連 の条例 による天然記念物指定 によるもの と,環 境庁 ・林野庁が主 に担 当す る自然公園法な どとそ の関連の条 例 によ る特別地域指定 による ものが あった。 しか し,そ れ らによる昆虫類 の種 とそ の生息場所 の保 護 ・保全 は,ど ち らか とい うと採集や環境破壊行為 の禁止 といった現状 を維持す るための消極的な手 段で あった。また,地 域 を定 めない種指定 の規制は開発行為 に対 して制限が弱い とい う面 も否めな い (畢予本寸, 1991). 一方,1993年 にレッ ドデータブ ックの刊行 を受けて制定 された 「絶滅のおそれのある野生動植物 の種の保存 に関す る法律 ( 種の保存法) 」 は, 種 と生息地 の保護, 保 護増殖事業 とい う積極的な部分 が含 まれてお り, 今 後 の適切な運用が期待 され る ところで ある, こ の法律 に基づ く 「国内希少野生動 植物種 ( 国内希少種) 」 として, 昆 虫類では1 9 9 4 年 にベ ッコウ トンボが, 1 9 9 6 年 にはヤ ンバルテナ ガコガネ, ヤ シャゲ ンゴロウ, ゴ イ シツバ メシジミが指定 された。 「国内希少種」 について は, 種 と 生息地 の保護な らびに保護増殖事業が検討 され る ことにな っている. しか し, 本 当にまも りた いのは 日本 の昆虫類 の生物多様性全体 で あつて, R D B 掲 載種や貴重種 と いった 「肩書 き付き」の昆虫だけではな い。仮 に, 「 肩書 き付き」 の種が 「生態的指標種」 ( 同様 の 生息場所や環境条件要求性 をもって種群 を代表す る種) や 「象徴種」 ( その美 しさや魅力によって世 間 に特定 の生息場所の保護 をア ピールす る ことに役立つ種) ( 驚 谷 ・矢原, 1 9 9 6 参 照) と して優れ た ものであって も, 法 律や条例 の制定 によるそれ らの種 とそ の生息場所の保護 ・保全だけで 日本の昆 虫類の生物多様性 を永続的 にまもれ るわ けで もない。大切なのは, 「 肩書 き付き」の種 に こだわ らず に, 昆 虫類 の多様性 の高い地域や , 種 数 は多 くな くて も昆 虫類 に とって重要 な生息場所 を含 む地域 を, で きるだけ多数, で きるだけ大 きな規模で, 生 態的ネ ッ トワー クを意識 しなが ら確保 し, 未 来 に 引き継 ぐことであろう. 本 集 は, そ のよ うな観点か ら企画 され, 社 会 に対 してその保護 ・保全 をア ピ ール しようとするものといえる。 昆虫類 の多様佐保護 のための重要地域 第 王集
とはいえ,昆 虫類の保護 にとって重要な地域 を選定すれ ばよい とい うもので もない。当然,そ れ ら の地域 を開発な どか らまもるしくみ と努 力が必要で あ り,さ らにそ の地域 に含 まれ る里 山や草原,湿 地,た め池,水 路,河 川敷な ど人為の影響 を受 けやす く,遷 移 の進行がはや い生息場所 につ いては, 適切な管理が必要 となる.生 息場所が変質,縮 小,分 断化 している地域では,そ の修復 も考 えなけれ ばな らない し,ま た,谷 戸 の放棄 口を利用 して造成 された中村市 の 「トンボ 自然公園」のよ うな,生 息場所 の 「復元」 も検討すべき時期 にきている. しか し,そ の際 には,保 全生物学 あるいは保全生態学的な考 え方 を十分理解す る必要が あ り,そ う でなけれ ばかえって対象種 (群)の 表退 をまね くばか りでな く,そ の場所の生物多様性 を減少 させ る 結果 とな って しまうで あろう。多 くの場合,昆 虫類 の種 とそ の生息場所保全の取 り組みは市民ボ ラン テ ィアや地方 自治体 によ り行 われ て いるが (浜,1989;矢 田 ・上 回,1993;田 中 ・有 田,1996; Ac et al.,1996;杉 山,1992;石 井 ほか,1993;大 場,1996;石 井,1998な ど),鷲 谷 (1997) は少な くとも事業の計画 ・モニタ リング段階で保全生態学研究者の関与が望 ま しいとして いる。 4.保 全生物学の視点か ら 日本 の昆虫類の多様性 は 日本人の活動な どによ り急激 に失われつつ ある。 いまは,そ の流れ を逆転 すべき時で ある.昆 虫類の多様性保護への取 り組みは時機 を逸 して はな らないが,一 方で 自然科学的 な根拠 と社会 ・経済学的な基盤 の もとに地域 の生物多様性全体 を長期的に保全す るという視点が求 め られて いる.こ のよ うな,生 物多様性 の危機 に呼応 して発達 した学際的 ・応用学的な科学が保全生物 学 あ る いは保 全 生態 学 で あ る。 この新 興 の学 問 分 野 は急 激 に発 展 し,海 外 で はSoule(1985)の 「Conservation Biology」 をは じめ,す で に多数の教科書や論文が公表 されてお り,昆 虫類 に関す るもので も,Pyle et al。(1981),Couins and側 ■Omas(1991),New(1991),Pollard and Yates(1993),Pullin(1994),Samways(1994),New et al.(1995)な どがある.わ が国 で も野生生物保護学会や保全生態学研究会が発足 し,す でに鷲谷 ・矢原 (1996),樋 口 (1996), プ リマ ック ・小堀 (1997)な どの教科書 も出版 された。詳 しくは,そ れ らを参考 に して いただ くこ とにす るが,以 下 に昆虫類の多様性の保護 を考えるうえで重要 と思われ る概念 を簡単 に紹介す る。 昆虫類の多様性 を永続的 に保護す るにあたって大 きな問題 とな るのは,す で に一部の種で進行 して いる生息場所の分断 ・孤立化な どによる個体群の縮小で ある。個体群が縮小す ると,性 比や産卵数, 生存率な どの人 口学的要素の偶然のゆ らぎ,遺 伝的変異の減少や近交弱勢 ,遺 伝的浮動な どの遺伝学 的要因,あ るいは環境変動 な どによ り,絶 滅 の危 機が高 まる といわれて いる。そ こで保全生態学で は,い かなる危機 にも耐 えて,あ る種 の個体群が,例 えば100o年 間99%と いった確率で生存す るの に最小限必要な個体数 (最小生存可能個体数, ヽ肝 P)や ヽ肝 Pを 支 える最小必要面積(MDAj,個 体群 存続可能分析 (PVA)な どの概念が提唱 されて いるが,昆 虫類 の野外個体群 につ いては,こ れ までの ところ,そ れ らに関す る実証的な研究例 はほとん どない。 昆虫類 の個体 群 レベル の保護 にお いて,最 近 とくに注 目されて いるのは,メ タ個体群 の概念 で あ る。メタ個体群 は,個 体 の移動 によって相互 に関連す る局所個体群 の集 ま りの ことで,そ の空間構造 として は,繁 殖率 と生存率が高 く供給源 とな りうる 「大陸」 と,そ れ らの低 い 「島」か らなる 「大陸 一島」型 と 「島」型 とがあるという。ある昆虫の個体群がメタ個体群構造 をしているか どうかはマー ク法な どで根気 よ く調査 を行 う必要が あるが,も しメタ個体群構造が明 らかであれ ば,時 には消滅す るもの を含 め,互 いに個体 の交流 を行 う可能性が ある局所個体群全体 の保全 を考 えな けれ ば,そ の昆 虫の長期的な保護 はむずか しいだ ろう.自 然保護 の現場では,ひ とつの大保護 区か複数の小保護 区か という保護区の配置のSLOSS問 題(Single ttrge or Several Sma上)があるが,メ タ個体群の概念 はそ れ につ いて有益な指針 を与えるはずである (樋日,1996). 昆虫類を長期的に保護するには, 生 息場所の生物群集, さ らには生態系や景観の保全が不可欠であ る。というよ り, 昆 虫類の保護は地域の生物多様性全体の保全を最終 日標 とするものでなければな ら ない。生物多様性は, そ のもの自体が善であり( S o u l e , 1 9 8 5 ) , 。それは個体や地域個体群などの変異 にみ られる種内の多様性 ( 遺伝子 レベル) , 種 などの分類群の数で表現される各地域の種の多様性 昆虫類 の多榊 護 のた めの重要地 域 第 I集
(種レベル),生 態 系や景観 の多様性 (生態 系 レベル)の 3つ の レベルで保全 され るべ きである (樋 日,1996な ど).し たが って,原 生的 自然や多様性 の高 い 自然だ けで はな く,里 山や 人里草原 のよ うな二次的な 自然や各遷移 系列 の 自然 にも等 しく価値 を認 めな けれ ばな らな い。平川 ・樋 日(1997) は,生 物多様性 の保全 とは生物進化および生物 と人間 との関わ りの歴史 を尊重す る ことで あ り,そ う した歴史の結果 として固有性 をもって各地 に存在す る種 ,生 物相お よびそ の内部 の相互作用 を保全す る ことであるとしている。 群集や生態 系,景 観 レベルで の生物多様性保全 にあた って は,UNESCO(国 際連合教育科学文 化機 関)の 「生物 圏保存地域」 の コアエ リア,緩 衝地帯,移 行地帯 といった ゾーエ ングが理想的 とい える。 コアエ リアでは人為の影響 を排除 し,自 然状態 の生態 系が保全 され る.そ の周囲には観光,教 育,レ ク リエー シ ョンな どの活 動が許 され る緩衝地帯が配置 され,さ らにその外側 に伝統的土地利用 が可能な移行地帯が置かれ る (樋日,1996)。 わが国を構成す る主な島の中央 には比較的 自然 の保 存 された山脈や 山塊が あ り,国 立公 園や 国定公 園な どの 自然公 園や 自然保護 区が設置 されて いるの で,こ れ らをコアエ リア とし,中 腹 の森林 を緩衝地帯,山 裾 の里 山な どの農環境 を移行地帯 とす るな どの全国土的なゾーエ ング計画が提案 されて いる (古林,1994). 最後 に,日 本全土 あるいは各地域 の昆虫相 の現状 を常 に把握 してお くことは,昆 虫類の多様性保全 の基本で ある.各 地域 の生物相 の 目録づ く りを行 い,そ こに含 まれ る各種 の現状 を把握す る作業 は 「イ ンベ ン トリー (In、アentOry)」 調査 と呼 ばれ る.昆 虫類 のよ うに極端 に種数が多 い生物群 にあっ ては,イ ンベ ン トリー調査のためには分類学 の発展 と図鑑類やチ ェック リス トづ く りが不可欠で あろ う.近 年,地 球温 暖化や侵入 ・導入外来 生物が在来昆虫 に影響 を及 ぼす 恐れ な ども指摘 されてお り (桐谷,1991;森 本,1998;鷲 谷 ,1998;生 方 ,1998な ど),生 態 系や昆虫類 の多様性 の保護 に つ いての施策 を検 討す るためには,イ ンベ ン トリー調査 は単発的な 目録づ くりに終わ るのではな く, 継続的な調査 (モニタ リング調査)と す る ことが望 ましい。例 えばチ ョウ類 につ いては,イ ギ リスで は陸上生態系研究施設が,ま たカナダ とメキ シコを含むアメ リカにお いて,資Kerces協会が,そ れぞれ 中心 とな り,そ れぞ れ ボ ラ ンテ ィアの協 力 の もとに1960年 代 か ら全 国規模 のモニ タ リング調査 を 行 って いる (石井 ,1998な ど).わ が 国 にお いて も,日 本 の昆虫類 の現状 を継続 的 に監視す る体制 づ くりが望 まれ る ところである. 引用 ・参考文献
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昆虫類の多様性保護 のための重要地域第 1集 掲 載地域
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小清水原生花園 サ ロベツ原 野ダク
大平山 ・狩場山 大千軒岳 ・岩部 渡島大島 ● 沼ノ台地区 秋山郷雑魚川 ・魚野川源流域 平川 ・深空西部カシワ林 氷 見市 宮 田地 区ため' 前沢湿地 ・須衛湿地 中池見湿地 ・池 ノ河 内 久美浜湾北の小天橋 ・箱石海岸 久松 山山系 奥津 ・上斎原地区 東八幡原 ・西八幡原 長 門峡 美々川源流 ・ウ トナイ湖湿原 尾駿 ・鷹架沼な らびに周辺湿地 荒沢県 自然環境保全地域候補地 二 日渓谷 ・奥新川地域 渡良瀬遊水地 天覧山 ・多峰主山 狭 山丘陵 櫛形山地域 野比地区 小網代地区馬
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英彦山 一主 皿 ケ嶺と
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a 曳 美大島の中部山岳地帯 鬼ケ城山系 吉野川 ・勝浦川河 口 大崩山山塊 ハ 沖縄島北部 中央森林地帝 大井川中流域 遠 山川沿線翻襲華
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襲難サ ロベ ツ原野
所在 :北 海道稚 内市 ,豊 富 町,幌 延 町
1.地 域 の概要 サ ロベツ原野は海岸 に沿 って発達 した砂丘帯 と日本最北 の高層湿原 よ りな る。湿原 にはカプ ト沼, パ ンケ沼があ り地塘 も少な くない。高層湿原 を取 り囲んでヌマガヤな どの中層湿原,さ らにその外側 にはヨシ群落やハ ンノキ林 よ りな る低層湿原がみ られ る。海岸砂丘 にはカ シワ林や針広混 こう林があ る。 2.選 定理 由 日本では この地域 で しか見 られな いチ ャバネエ ンマコガネやカ ラフ トマルガタゲ ンゴロウの産地で ある。稚咲内ではイイ ジマル リボ シヤ ンマが記録 されてお り,多 くの地塘や小沼 には学名未決定のゲ ンゴロウも生息 して いる。 これ らの他,湿 原や海岸砂丘 には北方系の昆虫類が少な くない。 3.保 護 のあ りかたな ど サ ロベ ツ原野 は無制限な干拓 ・草地化 による湿原 の減少 と放牧 による水質汚染 によって,ゲ ンゴロ ウな どの水生昆虫が激減 しつつある。なん らかの保護対策が必要である。 4 . 選 定地域の現在の取 り扱 い 利尻 ・礼文 ・サ ロベツ国立公園 稚咲内海岸砂丘林 ( 昭和4 6 年, 5 . 文 献 サ ロベツ総合調査報告書, 1 9 7 2 . ( 西島 浩 ) ( 昭和4 9 年指定) 道指定天然記念物) 生物部門. 昆虫: 4 5 - 6 0 . サ ロ ベ ツ 川曲
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朱鞠内湖 上川 昆虫類 の多様佐傑薄のための重要地域 第 王集北海道
所在 :北 海道網走市,小 清水町
1 . 地 域 の概要 浜小清水 のオホー ツク海岸 に位 置 し, 代 表 的海岸草原群落 を形成 して いる低木種 のエ ゾ ノコ リン ゴ, ハ マナス,草 本種ハマ フウロ,ア カバナエゾノコギ リソウ,エ ゾキスゲ,エ ゾスカシユ リ,ハ マ エ ンエ クな どが 目立ち,植 物種数 は170余 にのぼる。涛沸湖 は周 囲27kmの 海跡湖で,原 生花園よ り 内陸側 に広が っている. 2.選 定理 由 小清水原生花園は,わ が国唯一 のカ ラフ トキ リギ リスの産地で あ り, 沸湖や原生花園にはアカ メイ トトンボ (レッ ドデー タブ ックの希少種) 相 も植物相 に応 じて多様性 に富んで いる。 3.保 護のあ りかたな ど 原生花園の維持 と活性化 のため早春 に部分的野焼 きが行われている。 訪れているので,今 後の推移 につ いて注意が必要である. 4.選 定地域 の現在 の取 り扱 い 網走国定公園 (昭和33年 ,指 定) 個体数 も少な くな い. ま た涛 が生息 して いる。草原の昆虫 また夏季 には多数 の観光客が 5,文 献 山田訓二,1984.日 本で初のカ ラフ トキ リギ リスを小清水原生花園で発見.昆 虫 と自然,19(14): 14-15, 西島 浩 , 1 9 8 9 . 北 海道 の直翅 目. 北海道の 自然 と生物, 1 : 3 4 - 4 3 . ( 西島 浩 ) 浜小清水 J ヽ清水町 1 1 ム.―・― 'コ 昆虫類の多様佐傑譜のための重要地域 第 ヱ集襲難難聾
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華美 々川源 流 ・ウ トナイ湖 湿原
所在 :北 海道千歳市,苫 小牧市
1.地 域の概要 ウ トナイ湖 は面積510haの 海跡湖で ある.こ の付近 は約6,000年前 には縄文海進 と呼 ばれ る海が内陸 まで入 り込 んでいた地域で,ウ トナイ湖南東部 には当時 の名残 をとどめる砂丘地帯が ある。美々川 と ウ トナイ湖周辺 は低湿原地帯で ヨシの大群落 にッルスゲ群落,ヤ チヤナギ群落,カ シワ林,ミ ズナ ラ ーコナラ林があ り,水 生植物種 も豊富である。 2.選 定理 由 北海道石狩低地帯 に残 された唯一の湿原地域で,セ ス ジアカガネオサム シ,ク マガイ クロアオゴ ミ ム シな ど湿原性 のコウチ ュウと湿原性カ メム シロ,イ イ ジマル リボ シヤ ンマ,カ オジロ トンボ地域個 体群,カ ワラハ ンミョウ,ハ ナダカバチな どの砂丘性昆 虫,森 林性昆虫な ど現在 まで に3,000種 を超 える昆虫が確認 されて いる。 3.保 護のあ りかたな ど ウ トナイ湖周辺 は大型開発 プロジェク トが 目白押 しのため,現 状のままで は消滅 の可能性が あるの で,早 急な保護地域指定が必要である。 当該地域の大部分は,河 川,湖 沼 と湿原で あるが,特 に湿原生態 系の もつ さまざまな機能 につ いて の重要性 につ いて,強 くア ピール してい く必要がある。 4.選 定地域の現在の取 り扱 い ラムサール条約登録湿地 (平成3年登録) ウ トナイ湖 は 日本野鳥の会がサ ンクチ ュア リ第一号 に決定 (昭和54年) 5.文 献 西島 浩 ,1985,ウ トナイ沼 自然環境調査報告書.昆虫類:61-88.日 本野鳥の会,東京. 西島 浩 ,1990.ウ トナイ沼周辺の昆虫.日本の生物,4(12):27-33. 西島 浩 ,1993.ウ トナイ湖 とその周辺の昆虫類.ウ トナイ湖 ラムサール条約湿地登録記念誌 :31-33,苫 小牧市. (西島 浩 )鑓堆
ベ ンケナイ川 バンケナイ川 オタルマップ川 トギザギラプ,l 々《/ 早 来町品
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10 昆虫類 の多様佐傑諸のための重要地域 第 ヱ集北海道
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:襲大平 山 ・狩 場 山
所在 :北 海道島牧村,瀬 棚町
1.地 域 の概要 大平 山 (1,190m)の 標 高700m以 上 に見 られ る石灰岩植物群落 には,イ シ ョウシダ,オ オ ヒラウ スユキ ソウな どの石灰岩植 生 とともにチ ョウセ ンシダ,ヤ マ ドリ トラノオ,タ カネ グンバイな どの稀 産高山植物群落が ある。 狩場山の標高800m付 近か らダケカ ンバ ーチ シマザサ群落 ,山 頂部南斜面で はハイマツ ーチ シマザ サ群落 とともにアオ ノツガザ クラ,チ シマエ ンジン,キ バナ シャクナゲな どが優 占す る高 山植物群落 がある。 2.選 定理 由 大平 山のカ ドバ リヒメマイマイが多産す る草原地帯 にはオオ ビラル リオサム シ,狩 場山にはオ シマ ル リオサムシの青紫色個体群 とカ リバキ ンオサム シが分布す る。 これ らはいずれ もこの地域だけに見 られる。また この地域 はブナ帯 の北限に近 いため,道 南西部 に見 られ る昆虫 も豊富で,豊 かな多様性 が維持 されている。 3.保 護 のあ りかたな ど 大平 山は特別地 区に,狩 場 ・茂津多道立公園 も特別地域 になって いるところは全体 的 によい自然状 態が維持 されているので,こ の状態 を守 りたい。 狩場山 と大平山のオサム シ類 については何 らかの規制が望 ましい。 4.選 定地域 の現在の取 り扱 い 狩場,茂 津多道立公園 (昭和47年指定) 大平 山 自然環境保全地域 (昭和52年指定) 5.文 献 大原昌宏 ・工藤慎一 ・神 田正五,1989.狩 場茂津多道立 自然公園総合調査報告書.昆 虫類:147-174. 西島 浩 ・佐々木均 ・楠井善久,1987.大 平山自然環境地域調査報告書.大 平山自然環境保全地域及 びその周辺地域 の昆虫類:263-291. (西島 浩 ) オコツナイ川 昆虫類 の多様佐保護のための重要地域 第 ヱ集翻難:難
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華大千軒岳 ・岩部
所在 :北 海道福 島町,松 前町 ,上 ノ国町
1.地 域の概要 大千軒岳 (1,071m)は 福 島 ・松前 。上 ノ国町境 にある松前半島一の高山で,知 内川 の源流域 で も ある。標高800m付 近 まではプナ ーテ シマザサ群落,そ れ よ り上 は高山植物 に富 む高山性風衝草原が 特 に山頂部 に発達 して いる。岩部海岸か ら岩部岳 (794m)ま では針広混 こう林 にスギ ・ヒノキな ど の人工林が混在 している。 2.選 定理 由 大千軒岳周辺の高山性風衝草原 はオシマル リオサムシの原型,そ の周辺 のチ シマザサ群落はオ シマ キ ンオサム シの,そ れぞれ唯一 の産地で あ り,昆 虫相 も多様性 に富 む.岩 部岳 よ り岩部海岸 に到 る一 帯 はヤスマツ トビナナ フシ,シ ロヘ リカ メム シな どが生息 し,ミ ンミンゼ ミ,ヒ グラシの多産地が あ るな ど,北 海道の中で もっとも本州的色彩の強 い昆虫相が維持 されて いる。 3.保 護のあ りかたな ど 国または道の特別保護地域指定が必要である。 大千軒岳 の山頂周辺 の草原 に生息す る貴重なオサムシ類は,現 状 のままでは激減す る可能性が ある ので何 らかの規制が必要で ある. 44選 定地域の現在の取 り扱 い 岩部海岸周辺は松前 ・矢越道立公園の範囲内にある. 5 。文献 ` 井村有希, 1 9 9 1 . オ サム シ亜族の地理的変異 と個体変異 ( 2 ) 。図説 ・世界の重要昆虫: 1 - 3 2 . 西島 浩 , 1 9 9 4 . 北 海道産カ メム シ類3 種 の記録. R o s t r i a , 4 3 : 5 3 . ( 西島 浩 ) / ヽ / 12 昆虫類 の多様佐傑済のための重要地域 第 ヱ集北海道
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襲渡島大島
所在 :北 海道松前町 (西方約50kmの 日本海上)
ヤケクズレ岬 1.地 域の概要 この島は東西約4km,南 北約3.5km,周 囲16km,面 積893haの 火 山島で寛保岳 (648m),江 良 岳 (737m),清 部岳 (727m)よ りな る.10数 本 のイ タヤ カエデ林 を除 く大部分 が草原 で,ス ス キ,シ ヨタ ンスゲ,キ リンソウ,ツ リガネエ ンジン,ヤ マブキ シ ョウマ,マ イズル ソウ,マ ルバ ヒレ アザ ミ,ア マニュウ,コ ウライテ ンナ ンシ ョウな どの群落,ノ ブ ドウ,ガ ガィモ,ツ ルウメモ ノキな どのつ る植物,エ ゾエ ワ トコ低木群落 も見 られ る。国指定天然記念物 としてオオ ミズナギ ドリ繁殖地 があ り,イ エウサギ と ドブネズ ミも繁殖 している。 2.選 定理 由 この島は,寛 保元年夏 (1741年)の 大噴火 ・降灰か ら258年 しか経過 していな い無人島で ある,し たがって,島 しょう昆虫相 の形成 に関す る現時点での分析,そ の後 の推移お よび移動 ・漂流昆虫の侵 入 ・定着な どに関す る検討 な ど生物分布地理学 上のか けが えのな い観察 が可能 な島 として重要 で あ る.1995年 までにキアシヒバ リモ ドキな ど454種 の昆虫が確認 されて いる. 3.保 護のあ りかたな ど 国指定天然記念物 のオオ ミズナギ ドリ繁殖地であるので,許 可がな けれ ば上陸できないが,将 来 に わたってその姿勢 を貫 くこと。現在 トリカ ラスの浜 に避難漁港 を建設 中なので,建 設現場だ けに人間 が立ち入 っている。上陸 にあた って足の消毒 と現場海岸以外への立ち入 りを禁止 して いるが,こ れ を 厳守す ること, 4.選 定地域 の現在の取 り扱 い オオミズナギ ドリ海鳥繁殖地 (昭和3年 国指定) 松前 ・矢越道立 自然公園 (昭和43年道指定) 5.文 献 大島漁港生態調査報告書,1990-1993. 西島 浩 ・早川博文,1997.昆 虫類総合調査:111-135,201-210.大 島漁港建設 に伴 う環境調査報 告書. (西島 浩 ) 昆虫類 の多様佐保護のための重要地域 第 ユ集 13翻聾
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襲尾駁 ・鷹架沼な らび に周辺湿地
所在 :青 森県上北郡六ヶ所村
1.地 域の概要 青森県下北半島基部の太平洋沿岸に南北に連なる大小の湖沼は,む つ小川原湖沼群 と呼称される. 尾駁沼 (おぶちぬま),鷹 架沼 (たかほこぬま)は これ ら湖沼群の最北部に位置する.こ の地域は, 夏期オホーツク海に発達する,冷 たい高気圧か ら吹き降ろす低温多湿な北東風,す なわちヤマセの影 響を強 く受ける。このため農耕にはあまり好適ではないが,古 来馬産地 としてその名を知 られ,尾 験 の地名もそ うした改事に由来する。両沼の周辺,特 に尾駁沼の南東岸には,こ うした牧野の名残と考 え られる広大な草原が広がる。 この車原は汽水湖である尾駁沼か らの距離によって,水 位の違いに対 応 して異なる草種の優占する草原が同心円状に現われる。草原内には太平洋への開田部付近のツル ヒ キノカサーウミミ ドリ群落をはじめとして貴重な植物が分布する.遠 浅の汽水湖にはカキ とヤマ トシ ジミが混棲 し,エ シンが回遊 して くることでも著名であった。また,オ オハクチ ョウ,オ オセ ッカ, オオジュリン,コ ジュリン,カ ワウなど鳥類の楽園でもある.付 近一体は昭和46年に新全国総合開発 計画が閣議了解 され,重 化学工業地帯 として開発される計画であったが,社 会情勢の変化によ り大幅 な変更 を余儀なくされた.周 辺地域はむつ小川原開発公社によ り買収されたが,工 業用地 としての売 却は進まず,国 家石油備蓄基地,核 燃料サイクル施設などが立地 したに過ぎない。 2.選 定理由 尾駁 ・鷹架沼には固有の昆虫 こそ知 られていないが,冷 涼な気候下,汽 水性の湿原 とそれに続 く草 原が残 された特殊な環境 となってお り,十 分な調査研究は進んでいないものの,本 州や青森県ではこ こでしか棲息が確認されていない種など多数の貴重な昆虫が分布 している.湖 水か らはモー トンイ ト トンボ,オ オキ トンボ,タ イ リクアカネ,キ タセスジガムシが発生 し,湖 岸の水面にはババアメン ボ,ヘ リグロミズカメムシが疾走す る。続 く湿原にはフタスジオオウンカ,ア シマダラウンカ,オ オ ナガマキバサシガメ,ハ イイロナガマキバサシガメ,タ イワンナガマキバサシガメ,フ タボシツチカ メムシ,ズ グロシラホシカメムシ,ヒ ウラカメムシ,ム ナグロチャイ ロテ ン トウ,ハ イイロカミキ リ モ ドキ,ワ タラセミズギワホソア リモ ドキ,オ オル リハムシ,ハ イイロホシミバエ,ノ コギ リソウケ ブカミバエ Tephガがs angu立わennfs,ゴマシジミ,ベ エモンマダラ,キ ハダカノコ,タ テスジケン モン,ガ マヨ トウ,ガ マキ ンウワバ,シ ロスジキンウワバ,ク ロコサ ビイ ロコヤガが棲息する。湿原 外周のハ ンノキの低木にはハ コネマルツノゼ ミ,カ バイロアシナガコガネ,ハ ンノヒメコガネ,ミ ド渋詭 1
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青 森 14 昆虫類 の多様佐保護のための重要地域 第 ユ集東 北 リシジミが発生す る。そ の外側のやや乾燥 した草原 には ヒシウンカモ ドキ,ア リヅカウンカ,ム ネア カ クロ トビメクラガメ,ク ロマキバサ シガメ,チ ャイ ロカメム シ,オ オクテ ブ トカ メムシ,コ バネ ヒ メカゲ ロウPsecFra αp危勉,シ ロスジフデアシハナバチ,ギ ンイチモ ンジセセ リ,ヒ メシロチ ョウが 棲息す る。草原 を囲むヤ シャブシやアカマツ ・クロマツの林か らはブチ ヒラタナガカ メム シ,ハ ネ ビ ロアカコメツキな どが確認 されている。 3.保 護のあ りかたな ど 冷涼な気候 と汽水湖 の存在 によ り,遷 移 の進行が緩やか に抑 え られて いるもの と考 え られ る。 した が って,こ うした条件が大 き く変わ らな い限 りにお いて は,現 況 が保持 され る と期待で きる。そ こ で,保 護対策 と して は次 のよ うな行為が行 われた りしな いよ うに関係機 関 に要請 して い く必要が あ る。 (1)汽水性 を維持 し,湖 へ の堆積 を少な くす るため にも,河 日堰 の設置 な どによる淡水化 は行 わな い こと.(鷹 架沼は昭和37年 か らの県営発茶沢パイ ロッ ト事業 によ り河 日堰が建設 された) (2)尾較沼 の北 一西岸では核燃料サイ クル施設,尾 験 レー クタウ ンの建設 によ り,大 規模な埋 め立 て造成がな されているので,こ れ以上の埋め立て等 は行わない こと. (3)自然環境 に対す るモニ ター を多様化す るためにも,現 在地域住民 に認 め られて いる漁業権 は今 後 とも維持す る こと. (4)同様 に調査研究 の不十分な段階 にあるため,そ れ を妨 げるよ うな入域や採集 に対す る規制 は行 わない こと. 4.選 定地域の現在 の取 り扱 い 付近一体 は,む つ小川原開発公社 の社有地 とな ってお り,国 家石油備蓄基地や核燃料サイクル施設 が立地 した以外 は,土 地 の売却が進 まず 開発公社 は莫大な負債 を抱 えて いる。公社 の負債 の償還 のた めに付 け焼 き刃的な開発が行われ る恐れがある. 5.文 献 青森県教育委員会,1972.む つ小川原開発地域天然記念物調査報告書.61pp. 市 田忠夫,1991.青 森県のカメムシ (III).Celastrina,26:44-54. 市 田忠夫,1996.青 森県 のウンカ科。青森農試研報,35:13-52. (市田忠夫 ・山田雅輝 ・尾崎俊寛 ・鈴樹亨純 ・佐藤 博 ・工藤 忠 ) 昆 貴類 の分 佐保産 のための宣要地域 第 I集 15