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共創デザインを支援する仕組み、リビングラボ

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Academic year: 2021

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(1)26. 特集:共創・当事者デザイン. 安岡美佳 Yasuoka Mika デンマーク工科大学. Technical University of Denmark. 共創デザインを支援する仕組み、 リビングラボ 北欧の事例より Design mindset and Living Lab Co-design Infrastructure for shifting mindset. 1.はじめに 1.1. 共創・当事者デザインとは. 共創とはなんだろう、当事者によるデザインとはどういうことだろう。従. 来、デザインを依頼する側とされる側がおり、デザインはデザイナの仕事と 捉えられてきた。依頼する側とされる側(デザイナ)が対に見られるこのよ うな場では、「先生のおっしゃる通りに」と依頼する側がされる側に内容や プロセスを一任する「共に」ではなく「片方の」デザイン行為が見られてき た。この片方のデザインでは、出てきたアウトプットが依頼する側のイメー ジと全く異なるというコミュニケーションの課題が発生し、ソフトウェア開 発などを始めとした多くのデザインの実践現場で長い間課題であり続けてい る。当事者が非当事者であるデザイナにデザインを依頼する理由は様々だろ うが、「自分は(デザインの)専門家ではない」という認識がどこかにあり、 当事者にもかかわらず他人事として非当事者にお任せしている状況が目に浮 かぶ。 このような状況は様々な理由から変化しつつある。一つには、社会の複雑 性が高まっているという点が挙げられる。現在の社会が抱える複雑なデザイ ン問題において、1つのアウトプットを出すためには、一人の人が処理でき る量以上の知識が必要となるため知識は分散せざるを得ず、集合知である. Social Creativity が求められる(Fischer, 99)。つまり、当事者が抱えるデザイ. ン課題をデザイナの知識のみで解決することは困難になっている。例えば複 雑化する金融の IT システムは、IT の知識や使い勝手のよい UX やインタラ クションの知識ばかりでなく、金融の仕組みがわかっている当事者の知見が 必要になるだろう。さらに、自分で満足するものは自分にしかわからないと いう理由もあるだろうし、デザインのツールが充実したことでデザインのブ ラックボックス化されていたプロセスがオープンにされるようになり注1)デ. ザインの敷居が下がり、デザインの専門家に依頼発注するまでに行かずとも 当事者によるデザイン行為が増えてきているなどの理由もある注2)だろう。. 1.2. 北欧における共創 注1) 2014年に在外研究でデンマークに滞在されていた 専修大学の上平崇仁先生と議論が元になっている. 注2) 当事者によるデザイン行為が増えてきている現状 については,富田誠氏がエッセイにまとめており, 本稿で参照した.http://tomita.me/dio1/. 筆者が研究のベースを置く北欧には、共創と類似する意味合いを持つ. CoDesign や CoCreation という言葉がある。CoDesign や CoCreation は、当事者 を巻き込むデザイン行為であり、デンマークやオランダなど欧州北部で70年. 代ごろから積極的に実施されている「参加型デザイン(Participatory Design) 」.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.26-2 No.100. (Ehn & Kyng, 1987; Ehn, 1990, Greenbaum and Kyng, 1991; Bjorgvinsson, Ehn, &. Hillgren, 2012など)に由来する。この関連各所の利害関係者を巻き込みつつ 当事者が実施するデザイン行為である参加型デザインは、北欧では70年代当 時、弱者である労働者などをデザインの決定プロセスに巻き込む、またエン パワーするという政治的な色彩が強かった。つまり、トップダウンで決めら れたデザインの結果が直接の利用者である労働者たちの日常的な労働環境に 影響を与えることへの反発があり、そこから始まったのが北欧型の当事者デ ザインなのである。 近年、それら北欧で実践されてきた社会的参加型手法は、複雑性・不確実 性が高まる現代社会の社会課題の解決に有効な持続性を兼ね備えたイノベー ション・アプローチであるとして国内外から注目されるようになっている. (安岡 , 2014; Lundmark, 2017)。背景とする意味合いは異なるとはいえ、提唱 されてきた手法は、当事者を巻き込み共にデザインをすることで社会課題や デザイン課題の解決策を模索するためのツールを提供するものであった。そ れら参加型手法は、年月を経てプロセスや工夫が凝らされ、活用における最 適化が図られ、単なる社会身分を超えるエンパワーメントではなく広義のデ ザイン手法として活用が始まっている。 本稿で特に注目したいのは、数々の参加型デザインの手法の中でも、コ ミュニティにおける当事者を巻き込んだ共創と持続的発展を支える枠組みと して近年注目されている「リビングラボ」である。北欧においてリビングラ ボは、高齢者対策・ヘルスケア分野・まちづくり・地域産業の育成・移民対 策など、あらゆる社会課題に対するデザイン手法の一つとして活用されつつ ある。特徴は、参加型デザインであること、つまり当事者と共に創造してい く CoDesign、CoCreation であること、そして一過性ではない長期的なデザ. イン行為を支援することである。当事者がデザインに関わりデザイナやその 他関連各所が一緒に、より適切なサービスや製品を「共に」構築していくデ ザイン行為を進めると同時に、そのデザイン行為が一過性で終わらないよう に持続可能性を埋め込んだ仕組みづくりを志向する。 本稿では、まず共創を支援する鍵として、今まで積極的に行われてきた ツールの開発について、次に現在北欧で注目されている次の段階の支援策で あるリビングラボについて述べる。さらにリビングラボがどのように実践さ れているのか例を挙げ、最後にリビングラボ段階におけるデザイナの役割に ついて言及したい。ちなみに、参加型デザインや当事者を巻き込むデザイン は、欧州ばかりでなく北米でも盛んに利用されるアプローチであるが、その 背景や実践は大きく異なる。そのため、本稿では筆者が研究の拠点を置く欧 州を中心とした事例のみを扱う。. 2.共創を支援する鍵 当事者を巻き込むための工夫として、オランダ、イギリス、北欧では70年 代から様々な試みが実施されてきていた。デザイン行為において、参加型デ ザイン、別の言葉で言えば、デザイナのみによる非当事者デザインではな く、多様な人々と共創し当事者が主体となって課題解決に取り組むデザイン アプローチは、社会の平等と民主主義を求め続けてきた北欧のデザインシー ンでは一種の理想形とされてきた。しかしながら、今まで依頼する側・され る側の非同期の相互行為の上に成り立っていたデザイン行為を、「一緒に作 る」「当事者が作る」という同期的な相互行為の枠組みに変容させるのは、. 27.

(3) 28. 特集:共創・当事者デザイン. 参加型デザインの発祥の地北欧であっても意外に難しい。多くの場合、依頼 す る 側、 さ れ る 側 の 役 割 分 担 は 明 確 で、 そ れ ぞ れ の マ イ ン ド セ ッ ト (Andreasen, 2003, 2015; Daalhuizen, 2014など)は凝り固まっているからだ。 どう当事者を巻き込むのか、どうデザイン行為に参加するのか、させるの. か、参加者のモチベーションをいかに維持するのか、いかに持続可能性を保 持するかという視点は、参加型デザインが始まり40年経った現在でも依然と して研究課題である。. 2.1. ツールの利用. 共創を支援する解決策として模索され続けてきたのが、ツールの開発であ. る。利害関係者が集まる参加型のデザインワークショップ開催時に活用され る、デザインプロセスに積極的に介入をしデザイン行為を進展させる手法群 である。Brandt らは、非デザイナである当事者のデザイン行為を支援するた め準備された道具を用いて利害関係者間でボードゲームをプレイしてもらう. ことを通して、未来のデザインを模索する手法デザインゲーム(Brandt, 2004) を提案している。そのほか、デザインアイディアのきっかけを生み出したり. デザインコンセプトを可視化するためのビデオビジュアリゼーション(Mackay, 2000; Ylirisku, 2007)や写真などのフォームでフィールド情報の可視化をする. ことでツールとして当事者のデザイン行為を支援したり(Mattelmäki, 2005;. Gaver, Dunne and Pacenti, 1999)、テンプレートの利用や質問カードセットなど 数々の手法が提案されている。デルフト工科大学は、それら非専門家を巻き. 込むデザイン行為に活用されるツール群としてまとめ(ブイエンら,2015)、 現場でのデザイン手法の活用を支援している。これらは全てデザイン行為に 不慣れな当事者がデザインをより負荷なく実践するための工夫と言える。 数々のツールを用いて当事者を巻き込んだ各プロジェクトでは、当事者にデ ザイン行為に主体的に関わらせることに成功している。 しかしながら、近年、一回もしくは複数回の単発ワークショップなどでは デザイン行為は非日常にとどまり、日常生活に戻ればデザインの知見は消え てしまうことが課題として指摘されるようになってきた。それは、研究プロ ジェクトとして数年間定期的にデザインワークショップが実践されていても 同じである(Joshi & Bratteteig, 2016)。単にワークショップを重ねるだけで. は、長期的に日常生活にデザインの実践を根付かせるまでには至らない。北 欧だけでなく、筆者が関わった日本での共創プロジェクトでも、デザイン ゲームをはじめとした様々なツールを用いた実践を試みてきたが(Yasuoka, 2014, Yasuoka, 2015)、北欧の事例同様コミュニティに根付くまでには至って. いない。. 2.2. 長期的な実践による身体化,マインドセットの構築. では、参加型デザインプロジェクトにおいて北欧から成功事例が多く報告. されている理由はどこにあるのだろうか。北欧諸国に参加型デザインが根付 いているとすればそれはなぜか。今まで北欧では、北欧の社会文化的背景に 基づくという論が主流で(Kensing F. and Blomberg, 1998)、それ以外の理由. で学術的に議論している過去研究を筆者は知らない。しかしながら、大学に おける教育者また生活者として持っている仮説がある。それは、北欧におい ては、ツールをはじめとし参加型デザインの系統立てた学習と同時に日常生 活におけるデザイン行為の身体化が行える環境作りに成功しているのではな.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.26-2 No.100. いかという仮説だ。つまり、デザインマインドセットが日常生活で構築され る環境があり、理論と体感が両輪となってデザイン行為が達成されうるので はないかという仮説だ。 少々横道にずれるが、1年ほど前の腹落ちした体験をアナロジとして紹介 したい。金唐皮紙という日本の伝統工芸である壁紙がデンマークの古いお屋 敷で見つかった時のことだ。その修復を行ったデンマークの修復士が筆者の 友人であったこともあり、通訳として筆者が関わったプロジェクトでもあ る。日本の当該分野の専門家を呼び修復結果を見てもらったところ、その専 門家である日本人が驚くほどの技術で正確に修復されていた。デンマークで は70年代に伝統工芸技術の喪失が危惧され工芸学校が設立された。現在は、 昔ながらの徒弟制度で技術を学ぶ人はほとんどいないが、その代わりに系統 立てた理論を学び、専門分野は持つもののあらゆる工芸品や装飾などを修復 できる多岐にわたる技術を備えた修復士が養成されるようになった。修復士 の技術レベルは、教育プログラム後のフィールドでの実務経験が大きく左右 するといわれるが、5年間の集中教育を修了した修復士の卵は、体系立てた 学習の成果、自分の技術を科学的に言語で説明できるようになる。日本の多 くの伝統技術の継承者が経験や感覚で学び言語化ができないと言われている 状況とは大きく異なる。この違いが習得に30年50年かかるといわれる日本の 伝統工芸技術の復刻を独自で達成する程の技術の身体化のスピードアップを 可能にしているように思える注3)。近年日本でも見られる、すし職人学校や バーテンダースクールなどと同じように型と身体化による両輪で、短期間で の専門家養成を可能にしているといえないだろうか。デンマークにおける共 創・当事者デザインの背景には、系統立てたデザイン教育と70年代に社会に そして教育に埋め込まれた毎日の生活の中で培われる経験値があり、これが 北欧の参加型デザインを形作っていると考えている。 型の学習と毎日の生活に根付いた長期的な実践が重要であるのであれば、 生活の中にデザインの実践が埋め込まれていない場では、凝り固まったマイ ンドセットを転換するのは不可能なのだろうか。筆者は、その身体化を可能 にする環境を人工的に構築しているのが、近年注目されるリビングラボであ ると考えている。リビングラボとは、生活に根づいた場所(リビング)での 実証実験の空間(ラボ)であり、北欧では、一般的に参加型デザイン、共創 デザイン(Co-Design)のアプローチの一環と捉えられている.短・長期的. なサービス・施設・機器のテストベッドとして IT に関わるイノベーション. を支援する組織やその施設でのアプローチとして用いられることもあれば. (Leminen, 2013)、地域の社会課題の解決法として地方自治体や NPO によっ. て実施されるケースもある(Bergvall-Kåreborn et al., 2009)。バーグヴァル・. ケアボーンらは「リビングラボはユーザ中心のイノベーション環境であり、 日常生活に組み込まれるものである。当事者をオープンで分散的なイノベー ションプロセスに巻き込むことを支援し、持続可能な価値を構築することを 目的とする」(Bergvall-Kåreborn et al., 2009)と定義している。また、赤坂ら. は、リビングラボとは当事者をサービス開発の初期段階から巻き込みサービ スを共に創る(共創する)ための方法論である(赤坂,2018)とする。筆者 は、リビングラボとは当事者を含めた多様な関係者が集い社会問題の解決に. 注3) デンマークの修復士たちは,長期的に一つのこと しかしながらにかかわり続ける日本の伝統工芸家 のスキルに達することは自分たちには不可能であ ると認識していることも付け加えておく.. 取り組む場と考えている。最先端の知見やノウハウ・技術を参加者から導入 するオープンイノベーションが見られ、一過性の解決策ではない長期的視点 で地域経済・社会の活性化を推進していくための有機的な仕組み(エコシス. 29.

(5) 30. 特集:共創・当事者デザイン. テム)である。 主体的に当事者が関わることによって当事者意識(自分ごと化)が発生 し、体験学習から行動変容が起こり、コミュニティ全体では学習が強化され る(Lave & Wenger, 1991)。そこで生まれるデザインは、当事者・企業・研 究者・公共機関などの参加者それぞれが描いていた未来ではなく、第3の未 来かもしれない。リビングラボは、単なる共創の場ではなく「共創の仕組 み」である。. 3.リビングラボのツールと実践 筆者らは長期的当事者デザイン支援の試みの一つとして、リビングラボ・ ハンドブックの作成(赤坂,2018; Akasaka, 2018)、および REACH(Schäpers, 2017)プロジェクトといった研究プロジェクトでリビングラボの実践を行っ ている。これらは、両輪からの仕組みづくりとして、デザイン行為を長期的 に支援するためのツール作り、また理論につながる知見集積であり、デザイ ン行為を一回きりのワークショップ体験で終わらせず当事者の毎日の活動に 根付かせ身体化させるためのデザイン実践である。. 図1 30個のリビングラボ実践の鍵を集めた「リビングラボの手引き」. 例えば、リビングラボ・ハンドブックは、カードタイプにもなる冊子型の リビングラボ実践者支援ツールである。当事者を巻き込み、自分ごととして 捉え、当事者意識を育て、認識しやすいように抽象的な知見を可視化し、日 常生活の一部として体感させることで腹落ちさせ身体化させることを目的と して作成した。作成にあたり、リビングラボ実践ノウハウを抽出するため、 参加者としてリビングラボの実践者や研究者を招き、日本と北欧でワーク ショップを設計した。ワークショップの発表やディスカッションの分析を通 してノウハウの抽出を行い、30個のリビングラボ実践の鍵としてキーワー ド、イラスト、エピソードなどで記述した(図1)。詳細は本稿では割愛す るが、ぜひ拙稿(赤坂,2018; Akasaka, 2018)をご覧いただきたい。. REACH プロジェクトは、社会課題の解決を目的としリビングラボを用い. た当事者参加型の共創プロジェクトであり、Responsive Engagement of the elderly.

(6) デザイン学研究特集号  Vol.26-2 No.100. promoting Activity and Customized Health care の頭文字をとって REACH と呼. 称されている。REACH プロジェクト(http://www.reach2020.eu/)は、EU のホ ライズン2020プロジェクトとして採択された5カ年プロジェクトで、2016年 から2020年の5ヵ年、デンマーク、スイス、オランダ、ドイツの4カ国の研 究機関・医療機関・ヘルスケア団体・ヘルスケア IT 機器やサービス開発を. 行う企業・地方自治体・保険会社などのコンソーシアムによって運営されて. いる。REACH プロジェクトにおいては、リビングラボとして物理的に固定. した場所があるわけではなく、ケアセンターや個人の家といった当事者(シ. ニア)の日常的な生活環境の場が使われる。そこには、利害関係者が集い、 長期的なインタラクションを通して、課題の発見や解決策の模索を進める共 創の仕組みが構築されている。. 4.デザイナの役割. 図2 デザインの変遷。モノのデザイン、コトのデザイン、場所のデザイン. デザイナが当事者のデザイン行為を支援するというと必ず議論になるの が、デザイナ自身の役割である。当事者がデザインをするのであればデザイ ナは何をするのかという議論である。デンマークでは、社会全体がデザイン に参加する場において優秀なデザイナのニーズはおそらく以前にもまして増 え、多くのデザイン企業が林立するようになっている。そこで求められてい るのは、モノをデザインすると同時に、プロセスをデザインし、サービスを デザインするデザイン力であり、デザインの場を形作るデザインのスキルで ある。図にあらわすと図2のようになる。デザイナの役割は形を変え、今ま での形のデザインを超えて場のデザインをするといったようにデザイナの役 割はより大きくなっている。リビングラボなどの持続可能な場づくりは、デ ザインプロセスを理解し様々なツールを利活用できるデザイナだからこそで きることであり、デザインのプロとして当事者にデザイン語をかみ砕いて説 明する通訳者としての役割、適切な人を適切な場に配置する能力などが重要 なスキルになっていく。 現在、注目されている AI が仕事を奪うかという議論を例にするとわかり. やすいかもしれない。今後データアナリシスにおけるビックデータや AI は より大量のデータを用いた分析を簡便にするだろうし、多くの分析プロセス. 31.

(7) 32. 特集:共創・当事者デザイン. は自動化されていくだろう。しかし、より斬新な分析の切り口を見つけ出せ るかどうかは高品質のアウトプットには依然として不可欠であることは AI 研究者にとっては自明のことだ。スキルのある分析者は機械にとって代わら れることはなく、分析の主導者であり続けるだろう。同様に、デザイナは今 後も場所を変えてデザイン行為をし続けるのだろう。. 5.さいごに 当事者デザインを支援する枠組みとしてリビングラボを紹介した。リビン グラボは、当事者デザインに不可欠な「当事者のマインドセットの転換」を 促す場であり、ひいては新しいデザイナの役割を提示する場でもある。本稿 では、筆者が研究を行なっている北欧の事例を中心に参加型デザインやリビ ングラボを共創・当事者デザインという文脈で紹介した。北欧は参加型デザ インの長い歴史を持ち実践事例にも事欠かず、社会文化的背景は異なるもの の、日本の当事者デザインにも参考になる点は多いのではないかと考えてい る。 同時に近年日本での当事者を巻き込んだデザインの実践も非常に興味深い ものが多く、北欧が学べる視点や手法も多々あると思っている。残念なこと に、日本の共創・当事者デザインの取り組みは、欧州ではほとんど知られて いない。日本で数年前に見聞きしたようなプロジェクトが欧州で始められる こともあるが、参考として日本の事例を共有することは言語の壁もあり困難 だ。著名な日本発の先達の影響もあり、日本のデザインの取り組みは海外で も注目されていることも多く、共創・当事者デザインの日本からの発信が待 たれている。 【参考文献】 赤坂文弥,安岡美佳,木村篤信,井原雅行,リビングラボの実践を成功に導くためのノウハウの 抽出と記述,情報処理学会研究報告,2018-ASD12,4,1-8,2018.. ブイエン,A. F.,ダールハウゼン,J.,ザイルストラ,J.,スコール,R.F.,デザイン思考の教科 書:欧州トップスクールが教えるイノベーションの技術,日経BP社,2015.. 安岡美佳,一橋ビジネスレビュー ─ 特集 ─ 小さくても強い国のイノベーション力 ─ 一橋大学イ ノベーション研究センター,─ 2014年 WIN ─ 62(3),48-63,2014.. Akasaka, F., Kimura, A., Ihara, M. and Yasuoka, M., How to make successful Living Labs? : Extraction and description of key know-hows for Living Lab projects, ICSSI2018/ICServ2018, 2018.. Andreasen, M. M., Improving design methods usability by a mindset approach. In Human behaviour in design(pp. 209-218). Springer Berlin Heidelberg, 2003.. Andreasen, M. M., Hansen, C. T., and Cash, P., Conceptual Design: Interpretations, Mindset and Models. Springer, 2015.. Bergvall-Kåreborn, B. and Ståhlbrust, A. Living Lab; An Open and Citizen-Centric approach for Innovation, International Journal of Innovation and Regional Development, 1(4), 35-370, 2009.. Bjorgvinsson, E., Ehn, P., and Hillgren, P. A., Design things and design thinking: Contemporary participatory design challenges. Design Issues, 28(3), 101-116, 2012.. Brandt E. and Messeter, J., Facilitating collaboration through design games. Proceedings of the eighth conference on Participatory design Artful integration: interweaving media, materials and practices - PDC 04, 121. 2004.. Daalhuizen, J., Person, O., and Gattol, V., A personal matter? An investigation of students’ design process experiences when using a heuristic or a systematic method. Design Studies, 35(2), 133-159, 2014.. Ehn, P., Work-Oriented Design of Computer Artifact. Lawrence Erlbaum Assoc Inc, 1990.. Ehn, P., and Kyng, M., The collective resource approach to systems design. In G. Bjerknes, P. Ehn, and M. Kyng(Eds.), Computers and democracy: A Scandinavian challenge. Brookfield USA: Gower, 1987.. Fischer, G., Symmetry of Ignorance, Social Creativity, and Meta Design, Creativity and Cognition, 1999.. Gaver, B., Dunne, T., and Pacenti, E., Design: Cultural probes. interactions 6, 1(January 1999), 21-29, 1999.. Greenbaum, J. and Kyng, M.(Eds.)Design at Work: Cooperative Design of Computer Systems. Lawrence.

(8) デザイン学研究特集号  Vol.26-2 No.100. Erlbaum Associates, 1991.. Joshi, S. G. and Bratteteig, T., Designing for prolonged mastery. On involving old people in participatory design. Scandinavian Journal of Information Systems. ISSN 0905-0167. 28(1), s 3-36, 2016.. Kensing F. and Blomberg, J., Participatory Design: Issues and Concerns. Computer Supported Cooperative Work 7, 3-4, 167-185. 1998.. Lave, J., and Wenger, E., Situated learning: Legitimate peripheral participation. Cambridge: Cambridge University Press, 1991.. Leminen, S., Coordination and Participation in Living Lab Networks. Technology Innovation Management Review, 3(11): 5-14, 2013.. Lundmark, S., Design project failures: Outcomes and gains of participation in design, Design Studies, 2017.. Mackay, W. E., Ratzer, A. V. and Janecek., P., Video artifacts for design: bridging the Gap between abstrac-. tion and detail. In Proceedings of the 3rd conference on Designing interactive systems: processes, prac-. tices, methods, and techniques(DIS ’00), ACM, New York, NY, USA, 72-82, 2000.. Mattelmäki, T., Applying probes – from inspirational notes to collaborative insights, CoDesign, 1:2, 83-102, 2005, DOI: 10.1080/15719880500135821.. Schäpers, B., Yasuoka, M., Becker, D., Heller, S., Kaiser, M., and Koenig, E., Determining Design Requirement s for Active Ageing: Use Cases, Personas, and Stakeholders. Journal of Gerontechnology - Special. Issue - REACH: Responsive Engagement of the Elderly promoting Activity and Customized Health( 3), 139-150, 2017. care, 16. Topgaard, R., Nilsson, E. M. and Ehn, P.(eds.)., Making Futures: Marginal Notes on Innovation, Design, and Democracy, 2014.. Yasuoka M. and Ohno T., Impact of Constraints and Rules of User Involvement Methods for IS Concept Creation and Specification, LNBIP 223, 220-236. Springer, Heidelberg, 2015.. Yasuoka, M., Kadoya K. and Niwa,T., Introducing a Game Approach towards IS Requirements Specification, Proc. the Forty-Seventh Annual Hawaii International Conference on System Sciences(HICSS), IEEE Computer Society, pp. 3687-3696, 2014.. Ylirisku, S. P. and Jacob, B., Designing with Video- Focusing the user-centred design process, London, Springer-Verlag, 2007.. 33.

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