RSMP vol.6 no.3, , Sep 2016 特集 ( 市販後適正使用に関する最近の話題 ) RMP の最近の状況 ( 産業界 ) Current Aspect of RMP(Industry) 1 大石純子 *, 大島裕之 1, 高木尚志 1, 豊田浩子 1, 渡部ゆき子

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全文

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特集(市販後適正使用に関する最近の話題)

RMP の最近の状況(産業界)

Current Aspect of RMP(Industry)

大石 純子

1 *

,大島 裕之

1

,高木 尚志

1

,豊田 浩子

1

,渡部ゆき子

1

白ケ沢智生

2

,丹羽 新平

2

,宮川  功

2

,慶徳 一浩

2

Junko OISHI, Hiroyuki OSHIMA, Naoshi TAKAGI, Hiroko TOYOTA,

Yukiko WATABE, Chihaya SHIRAGASAWA, Shimpei NIWA,

Kou MIYAKAWA and Kazuhiro KEITOKU

Abstract

 Three years have passed since the Japan Risk Management Plan(J-RMP)has been introduced. The current status and the challenges have been reviewed based on the experiences obtained through the activities of the Clinical Evaluation Committee of the Japan Pharmaceutical Manufacturers Associa-tion. Several proposals to reach the ideal situation have been made in terms of 1)the identification of the safety specifications, 2)the review process and 3)the additional pharmacovigilance plans. It was revealed that there is a considerable gap between the PMDA’s and the industries’ point of view for all of the three items. From now, the J-RMPs should be developed focusing most of stakeholder’s attention on how safety profile of the medicinal products adequately evaluated in order to maintain the preferable benefit/risk balance of the products throughout their lifecycle.

抄  録 1 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会 〒103—0023 東京都中央区日本橋本町2—3—11 日本橋ラ イフサイエンスビルディング7階 2 同 PMS 部会 連絡先著者 (受理:2016.7.27)  実装から3年が経過した J-RMP について,日本製薬工業協会 医薬品評価委員会の活動で得られた経験 を踏まえ,①安全性検討事項の特定,②審査過程,③追加の安全性監視活動の 3 点について,現状と課 題に基づく提言および今後のあるべき姿について述べた.医薬品の安全性プロファイルを踏まえて設定 された安全性検討事項,RMP の審査過程,追加の安全性監視活動のいずれにも PMDA と企業の間に考 え方の乖離や課題があることが明らかとなった.今後は,医薬品のライフサイクルを通じて良好なベネ フィット・リスクバランスを維持するために,安全性を適切に評価・検討することに主眼を置いて J-RMP を策定する必要があると考えられた.

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1.はじめに

 医薬品の安全性確保のためには,開発の段階か ら製造販売後に至るまで継続的に治験薬・医薬品 のリスクを監視し,これを適正に管理する方策を 講じることが重要である.2010年 4 月に公表され た薬害肝炎事件の検証および再発防止のための医 薬品行政のあり方検討委員会の最終提言におい て,ICH E2E ガイドライン(医薬品安全性監視の 計画)にリスク最小化計画を加えたリスク管理制 度を適切に実施すべきであるとの提言が出さ れ1),続いて厚生科学審議会医薬品等制度改正部 会で法整備についての検討が行われ,2012年 1 月 に薬事法等制度改正についての取りまとめ結果が 公表された2).これらの提言や検討を踏まえて 2012年4月に医薬品リスク管理計画書(Japan Risk Management Plan:J-RMP)を策定するための指 針および様式が通知として発出され,実装され た.J-RMP は新医薬品およびバイオ後続品につい ては2013年 4 月 1 日以降に製造販売承認申請を行 う品目から適用され,後発医薬品については, 2014年 8 月26日以降に製造販売承認を申請する品 目から適用された.  J-RMP 指針の導入により,本邦においても ICH E2E ガイドラインの本格的な実装,医薬品の特徴 に応じた包括的かつ体系的な医薬品安全性監視計 画・リスク最小化計画の策定と可視化およびこれ らの計画の適時適切な評価・見直しが可能となる ことが期待された.本稿では,実装から 3 年が経 過し,J-RMP が適用された承認品目について,こ れまでに公開されている現況を整理し,J-RMP に おける①安全性検討事項の特定,②審査過程,③ 追加の安全性監視活動の 3 点について,企業側か らみた現状と課題に基づく提言および今後のある べき姿について述べる.

2.公開されている J-RMP の現況

 2016年 3 月 7 日時点で独立行政法人医薬品医療 機器総合機構(PMDA)Website で公開されてい る J-RMP は,一般名別161成分,製品名別175製品 である.一般名別161成分に関して,J-RMP の安 全性検討事項,医薬品安全性監視計画,リスク最 小化計画の設定の有無を表 1 に示す.  安全性検討事項は, 1 成分を除いた他のすべて の成分で設定されており,「重要な特定されたリ スク」,「重要な潜在的リスク」,「重要な不足情報」 が設定されている成分は,それぞれ147成分,142 成分,77成分であった.  医薬品安全性監視計画のうち,通常の医薬品安 全性監視活動は全成分で設定されており,追加の 医薬品安全性監視活動は 1 成分を除いた他のすべ ての成分で設定されていた.追加の医薬品安全性 監視活動の内訳として,市販直後調査・使用成績 調査・製造販売後臨床試験・全例調査を含むもの は,それぞれ131成分・160成分・54成分・17成分 であった.市販直後調査のみを追加の医薬品安全 性監視活動とする成分は認められなかった.市販 直後調査は販売開始後 6 カ月間の期間で実施さ れ,これを経過すると J-RMP から削除されること から,市販直後調査の集計では初版 J-RMP の情報 を用いた.  リスク最小化計画のうち,通常のリスク最小化 活動は全成分で,また追加のリスク最小化活動は 152成分で設定されていた.追加のリスク最小化 活動の内訳として,市販直後調査による情報提 供・医療従事者への情報提供・患者への情報提 供・医薬品の使用条件の設定を含むものは,それ ぞれ131成分・95成分・77成分・ 9 成分であった. 市販直後調査による情報提供のみを追加のリスク 最小化活動とするものは40成分であった.  さらに,「重要な特定されたリスク」の事象数と 追加の医薬品安全性監視活動および追加のリスク 最小化活動の種類の違いについて検討した.  「重要な特定されたリスク」とは,2012年 4 月に 発行された医薬品リスク管理計画指針において, 「医薬品との関連性が十分な根拠に基づいて示さ れている有害な事象のうち重要なもの」として定 義されている3).今回の調査対象となった J-RMP

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のうち,「重要な特定されたリスク」として設定さ れた事象の数は成分によって異なり,最も多いも のでは20件の事象を有するものが 2 成分あった が,事象数が 1 件のみである成分は23成分と最も 多かった.  「重要な特定されたリスク」に設定された事象数 の多い成分を一概に,安全上リスクの高い成分と 仮定することには議論があると思われるが,事象 数が 1 件の成分と20件の成分では,J-RMP におけ る医薬品安全性監視活動やリスク最小化活動の内 容は異なるのではないかと考えた.  そこで,調査対象の J-RMP を「重要な特定され たリスク」に設定されている事象数を基に 4 つの グループに分け,グループ間の追加の医薬品安全 性監視活動および追加のリスク最小化活動の内容 の違いを確認した. 4 つのグループは,各グルー プにおける母数が均等になるよう,事象数 1 ~ 2 件の成分をグループ 1 ,事象数 3 ~ 4 件の成分を グループ 2 ,事象数 5 ~ 8 件の成分をグループ 3 ,事象数 9 ~20件の成分をグループ 4 とした. 追加の医薬品安全性監視活動および追加のリスク 最小化活動の内容は表 1 で示した分類を用いた.  結果を表 2 に示す.追加の医薬品安全性監視活 動のうち,全例調査および製造販売後臨床試験は 事象数の多いグループにおいて多く設定されてい る傾向が認められた.追加のリスク最小化活動の うち,医療従事者への情報提供は事象数の多いグ ループにおいて多く設定されている傾向が認めら れた.それ以外の追加の医薬品安全性監視活動お よび追加のリスク最小化活動は,グループ間によ 表 1  公開された J-RMP の各項目の情報の有無(成分名別 N=161) RMP の項目 あり なし 安全性検討事項 160 99% 1 1%  重要な特定されたリスク 147 91% 14 9%  重要な潜在的リスク 142 88% 19 12%  重要な不足情報 77 48% 84 52% 通常の医薬品安全性監視活動 161 100% 0 0% 追加の医薬品安全性監視活動 160 99% 1 1%

 EPPV による情報収集を含む 131 82%  NA  NA

 使用成績調査を含む 160 100%  NA  NA

 製造販売後臨床試験を含む 54 34%  NA  NA

 全例調査を含む 17 11%  NA  NA

 EPPV のみ 0 0%  NA  NA

 EPPV および製造販売後等調査 131 82%  NA  NA

 製造販売後調査等のみ(EPPV 含まない) 29 18%  NA  NA

通常のリスク最小化活動 161 100% 0 0%

追加のリスク最小化活動 152 94% 9 6%

 EPPV による情報提供を含む 131 86%  NA  NA

 医療従事者への情報提供含む 95 63%  NA  NA

 患者への情報提供を含む 77 51%  NA  NA

 医薬品の使用条件の設定を含む 9 6%  NA  NA

 EPPV のみ 40 26%  NA  NA

 EPPV および他のリスク最小化活動 91 60%  NA  NA  他のリスク最小化活動のみ(EPPV 含まない) 21 14%  NA  NA

有効性に関する検討事項 156 97% 5 3%

有効性に関する調査・試験の計画の概要 156 97% 5 3%

RMP:医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan),EPPV:市販直後調査 (Early Post—marketing Phase Vigilance)

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る違いは認められなかった.  また,「重要な特定されたリスク」が設定されて いない14成分における追加の医薬品安全性監視活 動および追加のリスク最小化活動の状況も表 2 の 参考情報として合わせて掲載する.「重要な特定 されたリスク」が設定されていない製品において も,追加の医薬品安全性監視活動やリスク最小化 活動が設定されていることが確認された.

3.J-RMP における

安全性検討事項の特定

(1)開発段階の安全性評価から J-RMP 案の作成  J-RMP の導入に伴い,申請者は当該申請品目の 安全性プロファイルを明確にし,市販後にどのよ うなリスク監視・最小化策が必要であるかを体系 的に文書化することが必要となった.しかしなが ら医薬品の安全性プロファイルの検討作業は J-RMP の導入によって初めて開始されたもので はない.各社とも臨床開発の初期の段階から継続 的に当該品目の非臨床データ,臨床データ,類薬 等の情報を収集し,また,目的とする対象疾患や 対象患者群等の特性を考慮して治験薬の安全性プ ロファイルを検討し,開発計画にこれを反映して いる.治験中に得られた安全性情報は定期的な集 積評価に加え,各臨床試験の終了時の安全性評価 および臨床試験の相移行時や主要な試験(Pivotal Study)の実施前等の臨床開発計画の主要なマイ ルストーンにおいて詳細に検討される.新たな重 要な安全性リスクが認められた場合は,速やかに 治験薬概要書や被験者への同意説明文書に反映さ れ,治験責任医師や治験審査委員会(IRB),被験 者に情報共有される.また,これに基づき新たな 治験中の安全確保措置や調査が必要となった場合 は,治験実施計画書が改訂され,場合によっては 表 2  ‌‌重要な特定されたリスクの事象数別グループ*に対する追加の医薬品安全監視活動および追加のリスク最小化活 動の違い グループ1 (n=34) グループ2 (n=34) グループ3 (n=44) グループ4 (n=35) 合計 (N=147) 参考 特定リスク設定 無し(n=14) 重要な特定されたリスクの事象数,mean ±SD 1.3±0.5 3.5±0.5 6.3±1.2 12.7±3.0 6.0±4.5 0 追加の医薬品安全性監視活動,n(%)  市販直後調査による情報収集 27 (79%) 31 (91%) 33 (75%) 28 (80%) 119 (81%) 12 (86%)  使用成績調査 34 (100%) 34 (100%) 43 (98%) 35 (100%) 146 (99%) 14 (100%)  製造販売後臨床試験 8 (24%) 11 (32%) 14 (32%) 18 (51%) 51 (35%) 3 (21%)  全例調査 0 (0%) 3 (9%) 5 (11%) 8 (23%) 16 (11%) 1 (7%) 追加のリスク最小化活動,n(%)  市販直後調査による情報提供 27 (79%) 31 (91%) 33 (75%) 28 (80%) 119 (81%) 12 (86%)  医療従事者への情報提供 14 (41%) 19 (56%) 31 (70%) 27 (77%) 91 (62%) 4 (29%)  患者への情報提供 16 (47%) 17 (50%) 24 (55%) 18 (51%) 75 (51%) 2 (14%)  医薬品の使用条件の設定 0 (0%) 3 (9%) 3 (7%) 3 (9%) 9 (6%) 0 (0%) *4 つのグループは,各グループにおける母数が均等になるよう,事象数 1 ~ 2 件の成分をグループ 1 ,事象数 3 ~ 4 件の成分 をグループ 2 ,事象数 5 ~ 8 件の成分をグループ 3 ,事象数 9 ~20件の成分をグループ 4 とした.

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開発計画そのものが見直しされることもある.す なわち,医薬品のリスクマネジメントはその開発 段階から開始され,申請時の J-RMP につながって いくのである.なお,治験の安全性監視の一環と して,本邦では2012年から PMDA および治験実 施施設への年次報告が義務づけられた4).PMDA に提出する年次報告に含まれる Development Safety Update Report(DSUR)には,治験依頼 者が治験薬の安全性プロファイルの変化を適切に 監視および評価していることを PMDA が確認で きる情報を簡潔に提示することが求められてお り,年次報告の義務化は治験依頼者における治験 段階の安全性集積評価体制の整備とプロアクティ ブな安全対策の検討の重要性を治験関係者に改め て周知することとなった.  開発段階における安全性プロファイルの検討を 適切に行うためには,開発計画を推進する立場の メンバーのみでは不十分であり,医学的な視点を 含む機能横断的な評価体制が必要である.すなわ ち,医学専門家を含む開発機能および安全性機能 のメンバーが治験薬に関するデータ・情報を安全 性の観点から適時適切に評価し,安全性監視活動 やリスク最小化策が検討されるべきである.  開発段階では一般的に治験薬概要書が安全性プ ロファイルを示す文書に当たる.治験薬概要書に は類薬情報,非臨床試験等に基づくリスクも含 め,治験責任医師に注意喚起が必要な当該治験薬 に関する想定されるリスクが掲載されるが,この 中でも当該治験薬の臨床データに基づき治験薬と 関連があると判断した,エビデンスの確立した安 全性プロファイルをまとめた開発中核安全性情報 (Development Core Safety Information:DCSI)

の作成と提示が提唱されている5).グローバルに 臨床開発を展開する治験薬の場合,世界で共通の 治験薬概要書を用いることが一般的であり,この 一部としてグローバル臨床開発データに基づく DCSI を作成し治験責任医師等と共有し,これを 承認後の企業中核安全性情報(Company Core Safety Information:CCSI)に発展させ,市販す る各国の製品情報に反映させていく仕組みをもっ た企業も多い.  医薬品の製造承認申請が視野に入った時点で, 申請企業は,開発段階で検討された安全性プロ ファイルに加え,治験では十分な情報が得られな いこと,治験段階で採られた安全対策および想定 される市販後における当該品目の使用状況を勘案 し,J-RMP における安全性検討事項,安全性監視 活動およびリスク最小化活動を検討する.グロー バルに臨床開発を展開している企業においては, DCSI 等に基づき,当該製品について中核となる CCSI や Core Risk Management Plan(Core- RMP)を作成することが一般的である.Core-RMP はその時点で得られたすべての情報に基づ き検討された当該薬剤にかかわる重要な特定され たまたは潜在的な安全性リスクを示し,当該薬剤 が使用される全世界の国・地域での製品情報等へ のリスク表示,実施すべき安全性監視計画および リスク最小化策を示す基礎的文書となる.Core-RMP が存在する医薬品については,企業はこれ を基に J-RMP 案を作成しており,安全性検討事項 についても,有害事象の発現傾向に人種差がみら れず,日本の医療環境などの影響を受けない場合 は,日本人患者の情報だけではなく,全世界の情 報を集積したデータを基に作成された Core-RMP と同じ安全性検討事項を J-RMP 案で設定してい る. (2)企業が考える安全性検討事項と J-RMP との 乖離  企業が承認申請時に J-RMP 案に示した安全性 検討事項は,PMDA の新薬承認審査過程を通し て見直されていくが,この修正指示の結果, J-RMP の安全性検討事項が,企業が開発段階から 検討してきた安全性プロファイルから乖離する状 況が発生している.  一つ目の事例は安全性検討事項と使用上の注意 の副作用の表記に関連する問題である.  例えば,企業提案にかかわらず,安全性検討事

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項に記載する「重要な特定されたリスク」または 「重要な潜在的リスク」には添付文書における「重 大な副作用」を記載し,「その他の副作用」に記載 される副作用にかかる安全性検討事項は削除する ような指示がそのひとつである.また,企業が設 定する「重要な潜在的リスク」が添付文書案に記 載がないという理由で J-RMP 案の安全性検討事 項から削除を指示されたという事例もあった.  J-RMP に関する Q & A6)においても,「Q4:安 全性検討事項のすべてを添付文書の使用上の注意 に含める必要はないという理解で良いか.」という 問いに対し「A4:重要な潜在的リスク等,必ずし も安全性検討事項をすべて使用上の注意に記載す る必要はないので,個別に判断すること.」と回答 されているが,実際の承認審査では安全性検討事 項と使用上の注意を一致させるよう指導されてい るのが実情である.企業が Core-RMP に設定する 安全性検討事項には,添付文書により注意喚起さ れる副作用だけでなく,当該医薬品との関連性が 疑われる要因はあるが,臨床データ等からのエビ デンスが十分に得られていない事象も含まれてお り,企業内では臨床試験または市販後の自発報告 等から集積される情報に対してこれらの事象につ いても注目して監視している.また,添付文書上 では「重大な副作用」とならなくとも,高頻度に 発現するなどの理由から,当該医薬品のベネ フィット・リスクバランスに影響を及ぼし得る, または保健衛生上の危害の発生若しくは拡大のお それなどに該当する事象が重要なリスクとして安 全性検討事項に設定される場合もある.企業が Core-RMP で提案し,全世界共通で実施すべき安 全性監視対象の安全性検討事項のいくつかの項目 が,日本の承認審査過程で当局指示のもとに J-RMP の安全性検討事項から削除された場合,最 終的に当局と企業が合意した J-RMP が公的な市 販後安全性監視計画になるが,企業は Core-RMP の安全性監視対象についても合わせて医療現場に 依頼する必要があり,この差は医療現場の混乱を 招く懸念がある.  二つ目の事例は「重要な不足情報」の取り扱い である.  臨床試験の対象から除外されていた患者集団 (小児,妊産婦等)であっても,添付文書で禁忌と されていなければ,医療現場において当該医薬品 が使用される可能性がある.欧州の RMP では, 適応外使用であっても臨床的意義があると考える 患者集団を「重要な不足情報」として設定してお り,そのような患者集団に関して市販後の使用経 験を収集・検討することによって,新たなリスク 最小化計画を策定することは重要であると考えら れている.同様の考え方に基づき,Core-RMP に おいてこれらの患者集団が「重要な不足情報」と して設定され,国内承認申請時の J-RMP 案にもこ れが反映される場合があるが,審査時に削除を指 示される事例がみられている.削除指示の主な理 由としては,日本においては,当該患者集団が「承 認事項の範囲外である」というものや,「再審査期 間終了時までに十分な調査結果が得られない可能 性がある」といったものが考えられる.後者につ いては,「懸念する事項で積極的に情報を収集し て再審査期間終了時までに十分なデータが揃うも の」が「重要な不足情報」の対象となる傾向があ るため,リスクを評価・特定できる目標症例数を 算定し,使用成績調査等の製造販売後調査を計画 することができなければ,J-RMP 案から削除が指 示されるというのが現状である.実際,表 1 に示 す通り,調査対象となった J-RMP で「重要な不足 情報」が設定されている成分は48%と約半数であ る.  最近では情報収集の手法として,患者カルテや レセプトデータ等のリアルワールドデータを用い た検討や自発報告も用いられ,安全性検討事項の 評価根拠になり得ることから,必ずしも再審査ま でに報告書として評価可能なリスクに限定して J-RMP に記載するといった縛りは必要ない.企業 が臨床開発を通じて当該医薬品について医学的に 注目すべきと考えたリスク,国内の医療現場で使 用された場合に患者に発生し得るリスクであれば

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積極的に J-RMP に記載されるべきと考える.  ICH E2E ガイドラインに基づき,少なくとも日 米欧の3極で調和された医薬品リスク管理の考え 方で企業の Core-RMP は提案されている.J-RMP の安全性検討事項の内容が,人種差または各国に おける医療環境等の影響を受けないにもかかわら ず,審査過程の修正指示によって当初の案から乖 離すると,同一企業でも国によって社外(医療現 場,患者および規制当局)に対して発信する見解 に違いがあるようにとらえられる懸念がある.添 付文書に記載されていなくても,企業が市販後に 監視すべき安全性検討事項と考えている事象や不 足情報であれば,これを J-RMP に掲載し,公表す ることによって医療従事者および患者の認識を高 める効果が期待でき,またグローバルの安全性監 視活動に日本のデータが取り込まれることで,企 業としての有意義な検討および日本の医療現場, 患者への速やかなフィードバックに繋げることが 可能になると考える.  当該医薬品が販売されている限り,自社医薬品 の安全性監視およびリスク最小化活動を継続的に 実施することは製薬企業の責務である.また, RMP は市販後に収集した安全性情報を評価・検 討することにより得た知見に基づいて,必要に応 じて逐次更新されるリビングドキュメントであ る.すなわち,J-RMP に記載する安全性検討事項 は日本独自の再審査制度の枠組みにとらわれず, 国内外で使用される当該医薬品の開発段階から製 造販売後のすべてのライフサイクルを通じて適切 なベネフィット・リスクバランスを維持するため に設定される必要があると考える.

4.J-RMP の審査過程

  医 薬 品 の 承 認 申 請 時 に は 申 請 資 料 と し て J-RMP 案を提出している.PMDA 新薬審査部門 の各審査チームには,PMDA 安全二部からリス クマネージャーが通常1名割り当てられ,リスク マネージャーは審査チームの一員として J-RMP 案,添付文書案を審査している.理想的には承認 後の安全対策に重要な影響を及ぼす添付文書およ び J-RMP は審査過程の早い段階から検討され, PMDA および申請者間で十分な意見交換を経た 後に合意されることが期待されるが,実際にはこ れらに関する主な照会事項は審査過程の後半に集 中している.このことから,申請資料として提出 された品質・非臨床・臨床の有効性・安全性を含 むすべてのデータをもとに医薬品としての承認可 否を審査し,これを踏まえて承認後の安全対策と して J-RMP を審査するという順番になっている と推察される.現状では,新医薬品の通常審査で あれば,総審査期間12カ月のうち,J-RMP に関す る主な照会は承認まで 3 カ月あるいは 2 カ月を 切った最終段階にあたる専門協議の時期に申請者 へ示され,専門協議から医薬品部会審議までの 1 カ月足らずの間に審査チームから集中的な修正 提案が照会事項として示される(図 1 参照).  申請時の J-RMP 案の安全性検討事項は,新医薬 品の安全性プロファイルを示す重要な項目であ り,「重要な特定されたリスク」,「重要な潜在的リ スク」,「重要な不足情報」は申請資料全体に提示 された新医薬品の特性に基づいて設定されてい る.特に安全性検討事項が当該医薬品のグローバ ルデータベース(当該医薬品で発生した有害事象 等のデータを臨床開発開始時から市販後を通じて 世界共通に蓄積管理する安全性データベース)に 基づいて検討されている場合,申請者としては欧 米等で同様に示される安全性プロファイルと J-RMP が科学的に整合が取れたものであること を重要視している.また,申請時の J-RMP 案で申 請者が提案する市販後の安全性監視計画やリスク 最小化計画についても,臨床開発を通じて申請時 までに得られたエビデンスとその不確実性やリス ク発生時のインパクトを十分に考慮して検討し立 案している.一方,PMDA の視点からは企業の提 案根拠が不明,不十分と考えられる点,類薬等で の指導に照らし重要な追加,修正が必要と考える 点が生じることもあり得る.これらを勘案する と,審査過程の最終段階における承認予定時期が

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迫った状況で,J-RMP 案の重大な変更につながる 照会事項に対して,極めて限られた期間(数日以 内等)で回答を求められ,企業内関係者および PMDA と十分な検討ができないまま J-RMP の内 容が確定されている状況は,製造販売後の適切な リスク管理に少なからず影響を与えていると考え る.  部会審議以降も,J-RMP として確定するまでに は継続してリスク最小化策や安全性監視計画につ いて PMDA から修正を指示され,承認時以降で も修正対応が必要な場合もあるが,これらの指示 の多くが口頭伝達のみで行われている実態があ る.このような場合,PMDA からの修正指示内容 は申請者側の聞き取り記録でまとめざるを得ず, PMDA の意図が申請者に十分に伝わらないこと も懸念され,J-RMP に対する PMDA の審査とし てのかかわり方が曖昧となっている.  一方,承認後,新医薬品の J-RMP が PMDA Website に公開されるのは承認から 2 ~ 3 カ月 後,場合によっては薬価収載後,市場導入が開始 された後に Website に掲載されることもある. J-RMP は製造販売後の安全性を確保することを 目的にしており,承認から公開までのタイムラグ の解消が必要と考える.そのためにも,承認時に 申請資料として提出している Common Technical Document Module 1.11(CTD M1.11)に対する審 査は,承認時までに完了することが原則ではない かと考える.  こうした現状を踏まえ,J-RMP を添付文書と同 様に部会審議で確定し,承認後速やかに PMDA Website で公開されることを具体的な目標とし, 審査の早い段階から J-RMP 案に関する PMDA と 申請者のディスカッションを開始するための方策 を以下に提案したい. 図 1 ‌‌新医薬品における承認審査の標準的プロセスにおけるタイムライン(2012年 3 月30日付  厚生労働省医薬食品局審査管理課 事務連絡より)

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(1)J-RMP 確定時期の見直し  現行の通知では,J-RMP 確定版の提出時期は 「販売開始予定時期の 1 カ月前まで」とされている (「医薬品リスク管理計画の策定について」2012年 4 月26日付薬食審査0426第 3 号/薬食安発0426第 2 号).審査過程での J-RMP の審査に対する透明 性を確保するためには,通知上の J-RMP 確定版の 提出時期を再考することも必要であろう.このた めには,次に述べる( 2 )および( 3 )の改善が 前提となる.承認取得までにJ-RMPの内容が確定 されるのであれば,承認後できるだけ早い時期に J-RMP 確定版を PMDA に提出すれば,それだけ PMDA Websiteへの掲載時期も早まるので,企業 側の業務迅速化も必要である. (2)J-RMP に関する照会事項のあり方の見直し  新医薬品の承認審査の標準的プロセスに示され ている「重要事項照会」に J-RMP に関する重要な 照会事項,特に申請者が提案する安全性検討事項 案への追加・削除にかかわる照会事項を含める. また,重要照会事項以降の継続検討における J-RMP および添付文書に関する照会事項はすべ て文書で PMDA から発出し,申請者と共有し, 医薬品部会審議までに終結するものとする. (3)リスクマネージャーを中心とした J-RMP 審 査体制の強化  審査の早い段階から,審査チームによる審査と 並行してリスクマネージャーが J-RMP 案と添付 文書案の観点から CTD の関連箇所を評価し,想 定される市販後のリスクに対する安全対策につい て早期から企業と協議を行う体制を構築する.ま た,審査の最終段階では外部委員による専門協議 があるが,リスクマネージャーが専門協議までの J-RMP の審査の方向性を適切に専門協議委員と 共有する仕組みの構築,およびこれに必要なリス クマネージャーのリソース確保も期待したい.

5.追加の安全性監視計画の検討と実施

 表 1 に示すように,新規承認・一部変更承認の 区分は不明ながら,82%の医薬品において市販直 後調査が実施されている.医療現場と製薬企業に 大きな負担をかけることからも,その実施範囲や 調査手法については選択肢を増やすことを検討す るべきと考える.特に,既承認医薬品の適応拡大 や既承認有効成分同士の配合剤について,新有効 成分を含有する新規医薬品と同様の市販直後調査 を実施する必要性については検討が必要と考え る.また,全例調査と市販直後調査の重複実施に ついても,それぞれの調査の目的や期待される効 果を考慮し,整理する必要がある.  医薬品リスク管理計画に関する研究班の調査7) によると,過去に実施された使用成績調査や特定 使用成績調査のほとんどは比較対照群をもたない 単群の観察調査であり,これらの調査で得られた 情報が新たな副作用を発見することに貢献した例 は少ないことが報告されている.使用成績調査か ら得られる症例情報は数千例ほどであり,含まれ る副作用情報は限られているので,発現頻度が低 いまれな副作用を把握することは難しいことが理 由として考えられる.また,対照群との比較でし か因果関係が特定できないタイプ C の副作用(例 えば,抗インフルエンザ薬における異常行動)8) 検出することもできない.さらに,研究班の調査 では,医薬品リスク管理計画における「重要な不 足情報」にあたる小児や妊婦,肝・腎機能障害患 者を対象とした調査は少なく,治験では得られに くい情報を収集して,医療関係者と共有する機能 が十分に発揮できていないことも示されている.  日米で承認されている同じ医薬品に関する市販 後安全性研究を比較した調査9)でも,米国ではリ スクの特性に応じたデザインにより調査・研究が 行われているが,日本では使用成績調査や全例調 査といった定型的なパターンのみを採用している ことが指摘されている.ICH E2E(医薬品安全性 監視の計画)10)の「3.2医薬品安全性監視の方法」に

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示されているように,「安全性の課題に対処する ための方法を選択する際には,企業は最も適切な デザインを使用すべきである」に基づいて,製品 ごとのリスクに応じた調査デザインを採用してい く必要がある.  製品ごとのリスクに応じた製造販売後調査の実 施にむけ,現在の画一的なデザインからの脱却の 方法として期待されているのが,医療情報データ ベース(以下 DB)の活用である.得られるデー タに制限はあるものの,自動的に得られる大規模 症例データから比較対照群の設定も容易である医 療情報 DB を用いた製造販売後調査に関する検討 がすでに始まっており,今後の議論の広がりと制 度整備に期待したい.

6.おわりに

 J-RMP 実装より 3 年が経過し,各企業での経験 を持ち寄ってみたところ,安全性検討事項の特 定,審査過程および追加の安全性監視活動に課題 が認められた.今回の検討ではその中でも審査過 程における J-RMP 検討・確定の時期,および J-RMP に記載すべき内容の定義の再検討が必要 であると考えられた.  一部例外はあるものの,多くの事例で審査過程 において J-RMP 案について本格的な議論をする 時期が遅く,製造販売承認取得後にも変更・修正 を重ねるため J-RMP が確定する時期も遅くなり, さらに公表時期も発売直前となっている.これは J-RMP を安全対策のための新たな Scientific Doc-ument として期待をしている医療機関にとって も,J-RMP によって適正にリスクを管理される新 薬を待っている患者にとってもよい状況とはいえ ない.  医薬品の承認審査時に,PMDA より J-RMP に 記載するリスクと添付文書の副作用の内容を記載 の要否から文言まで一致させることや,再審査期 間内に結果が確認できるリスクのみを J-RMP に 記載するよう求められたという事例は少なくな い.その結果として,内資・外資を問わず,日本 以外の国にも展開している企業においては,全世 界共通の Core-RMP と公表された J-RMP で根幹 的な部分に齟齬が生じ,企業は Core-RMP に基づ く安全監視を企業独自で行う事態になっている. これは薬害肝炎検証・検討委員会の最終提言で目 指した,J-RMP を介して当局と企業と医療機関で 情報を共有するという方針とは,乖離が生じてい るように思われる.  一方で,企業側にも課題がある.市販後安全対 策に携わる関係者が開発早期から開発チームに参 画し,承認審査に耐えうる科学的な J-RMP の策定 のために十分な役割を果たす必要がある.日本製 薬工業協会医薬品評価委員会では,RMP 策定の 手引き,関係者の理解・協力を促進するための啓 発資料,手順書モデルなどを公表して,企業担当 者の育成に努めている.また,シンポジウムを開 催して医療関係者などステークホルダーとの意見 交換を行い,企業担当者の意識向上に努めてお り,今後も科学的な J-RMP 策定・実装に向けた活 動を継続していく.  当該医薬品が販売されている限り,自社医薬品 の安全性監視およびリスク最小化活動を継続的に 実施することは製薬企業の責務である.RMP は 市販後に収集した安全性情報を評価・検討するこ とにより得た知見に基づいて,必要に応じて逐次 更新される文書であることを考慮すると,J-RMP に記載する安全性検討事項は,日本の再審査制度 の枠組みを基本として設定されるのではなく,当 該医薬品のライフサイクルを通じて良好なベネ フィット・リスクバランスを維持するために,安 全性を適切に評価・検討することに主眼を置いて 設定される必要があると考える.さらに,製品ご とのリスクに応じたメリハリのある安全性監視活 動(製造販売後調査等)から得られた結果を医療 現場に提供し,良質な適正使用情報を提供してい くことこそが,医薬品の恩恵を受ける国民の利益 になり,守ることになると信じるところである.

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文   献 1) 薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しに ついて(最終提言).(平成22年 4 月28日:薬害肝 炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政 のあり方検討委員会). 2) 薬事法等制度改正についてのとりまとめ(平成24 年 1 月24日:厚生科学審議会医薬品等制度改正 検討部会). 3) 医薬品リスク管理計画指針について(平成24年 4 月11日付薬食安発0411第1号,薬食審査発0411第 2 号厚生労働省医薬食品局審査管理課長・安全 対策課長連名通知). 4) 薬事法施行規則等の一部を改正する省令の施行 に関する留意事項について(平成24年12月28日付 薬食審査発1228第11号).

5) Current Challenges in Pharmacovigilance: Pragmatic Approaches-Report of CIOMS Work-ing Group 5(2013年). 6) 「医薬品リスク管理計画に関する質疑応答集 (Q & A)その 2 について」(平成25年 3 月 6 日付 事務連絡). 7) 成川衛.医薬品リスク管理計画制度の着実かつ 効果的な実施のための基盤的研究,平成24年度 総括・分担研究報告書. http://mhlw—grants.niph.go.jp/niph/search/ NIDD00. do?resrchNum=201235046A

8) Meyboom RHB. et al. Principles of Signal Detec-tion in Pharmacovigilance. Drug Saf 1997;16 (6):355—365. 9) 古 閑 晃  他. 米 国 に お け る Postmarketing Requirements と日本における市販後の研究に関 する比較と提言.薬剤疫学2012;17(1):55—65. 10) 医薬品安全性監視の計画について(平成17年9月 16日付薬食審査発第0916001号,薬食安発第0916001 号).

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参照

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