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4.6 (E i = ε, ε + ) T Z F Z = e βε + e β(ε+ ) = e βε (1 + e β ) F = kt log Z = kt log[e βε (1 + e β )] = ε kt ln(1 + e β ) (4.18) F (T ) S = T = k = k

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4.6

カノニカル分布の応用

カノニカルアンサンブルについての理解を深めるために、この考え方やカノニカル分布を具体的 な系に適用し 、その系の熱力学的な性質を導く簡単な例題をいくつか紹介する。 もっとも簡単な例は、マイクロカノニカルアンサンブルに関する例題として取り上げた2準位系 である。ここでは、最初の例として、2つの離散的なエネルギー準位 (Ei= ε, ε + ∆) をもつ原子 1個からなる系が 、温度 T の熱浴と平衡状態にある場合の熱力学的性質を調べてみよう。分配関 数 Z 、自由エネルギー F は定義より次のように求められる。 Z = e−βε+ e−β(ε+∆)= e−βε(1 + e−β∆) F = −kT log Z = −kT log[e−βε(1 + e−β∆)] = ε − kT ln(1 + e−β∆) (4.18) を用いて、エントロピーは自由エネルギーの温度微分から次のように得られる。 S = −∂F (T ) ∂T = k ln(1 + e −β∆) + kT e−β∆ 1 + e−β∆ ∆ kT2 = k  ln(1 + e−β∆) + ∆ kT 1 1 + eβ∆  (4.20) 得られたエントロピーの温度依存性は次のようになる。まず、∆/kT の比の値の大小によって高 温、低温の領域にわけて考えることができることに注意しよう。2つの温度領域を分ける目安とな る温度は 、T0= ∆/k で与えられる。まず、低温領域では (4.20) に表れるボルツマン因子につい て次の性質が成り立つ。 e−β∆ 1, T  T 0 したがって、エントロピーの温度依存性は、温度の低下とともに次のような温度依存性にしたがっ てゼロに近づく。 S = k∆ kTe −β∆+ · · · → 0, (T /T 0→ 0) 一方、高温ではボルツマン因子について次の展開が成り立つ。 e−β∆= 1 − ∆ kT + · · · , T  T0 この場合、以下に示すように、温度の上昇とともにエントロピーはある一定の値に近づく。 S = k  ln(2 − ∆/kT + · · · ) + ∆/kT 2 + ∆/kT + · · ·  = k  ln 2 − ∆ 2kT + ∆ 2kT + O((∆/kT ) 2)  図 10 にエントロピーの温度依存性についての計算結果を示す。この図でも示されているように、 低温でエントロピーがゼロに近づく性質は一般に成り立ち、熱力学の第 3 法則として知られてい る。高温でエントロピーが ln 2 に近づくのは、kT と同じエネルギーの状態が 、すべてエントロ ピーに同様な寄与をするためである。(4.19) のエントロピーの式からもわかるこの結果もエントロ ピーのよく知られた性質である。 カノニカルカノニカルアンアンブルの取り扱いには、このようにまず分配関数を求めることが重 要である。他の例の取扱いについて紹介する前に、古典的な統計力学でも必要な量子力学的な補正 を行う必要性について説明する。

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0.0 1.0 2.0 kT/∆ 0.0 0.5 1.0 S(T) 図 10: 2準位系のエントロピーの温度依存性 4.6.1 量子補正 量子力学を用いない、純粋に古典的な取り扱いをした場合、巨視的な世界における我々の経験と は矛盾する結論が導かれる場合がある。そこで、これまで説明してきた古典的な取り扱いに、量子 力学的な補正を取りり入れる方法について説明する。もちろん、量子力学に基づく統計力学では必 要のないものである。これらの補正は近似的なものであり、補正によって矛盾が完全に取り除かれ るわけではない。ただ、どのような補正が必要かについて知っておくことは、量子力学の理解にも 役に立つものと考える。 性格の異なる 2 つの量子力学的な効果に対する補正が必要であるが 、以下にその理由と対処の しかたについて簡単に述べる。 1. ハイゼンベルグの不確定性原理による補正 古典力学では、物質粒子の座標と運動量の値がいくらでも正確に確定できると仮定している。 量子力学では、物質粒子も波動性を示すことから、不確定性原理が成り立ち、座標の値 q と その共役な運動量 p の値は、次のように与えられる、ある誤差の範囲内で指定で決定できる にすぎない。 ∆q∆p ≥ ¯h/2 この不確定性は、位相空間内の各座標が互いに異なる系の状態であると見なすことが不可能 であることを意味する。例えば 、あるひとつの自由度に関する位相空間内の部分空間 q − p 平面を考えてみよう。もし 、上の最小誤差の範囲でしか系の状態を区別できないとすると 、 この平面上の ∆q∆p = h の微小な面積当たり、1 個の量子力学的に互いに独立な状態が定義 できるにすぎない。N 粒子を含む 3 次元系に対しては h3N の位相空間の微少体積当たり独 立な 1 個の状態が定義できることになる。ある領域内に含まれる独立な状態数は次のように 求められる。 状態数 = 1 h3N Z ΠidriΠjdpj 位相空間の体積要素 dqdp は、作用 (Action) と呼ばれる 単位( 次元)をもつ。プランク定

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数 h も同じ単位である。この補正によって、上の右辺の値は単位をもたない(無次元の)値 となり、これを状態数と考え上でも都合がよい。 2. 粒子の同等性に関係する補正 – 第 2 量子化の効果 量子効果として、上に述べた効果以外に、同じ種類の粒子がお互いに本質的違いがなく、区 別がつかないという粒子の同等性が知られている。理想気体の場合を例にとってこの効果に ついて以下に説明する。分配関数を計算しようとする場合、位相空間の空間積分に関し 、例 えば 2 粒子系の場合、次のような積分が現れる。 Z d3r 1 Z d3r 2= V2 簡単のために長さ L の辺をもつ立方体に気体が含まれているとし 、粒子の x だけを考える と、積分領域は図 11 に示すようになる。図中の小さな丸がそれぞれの粒子を表すものとす る。2個の粒子の座標に関して独立に積分を行うと、積分の値は面積に等しく L2となる。 ただし 、もし粒子が互いに区別できないとすると、この値は次のような意味で状態を余分に 数えすぎたことになる。図 11 の2つの粒子の配置は、粒子の位置を互いに入れ換えて得ら れるものである。上の積分値は、これらが互いに区別できると考えたとき得られる値であり、 区別できないとすると一つの配置と考えなくてはならない。粒子が互いに区別できない効果   1 2 0 x1 x2 L L    2 1 0 x1 x2 L L 図 11: 2つの粒子の同等な配置 から、上の空間座標に関する積分値を 2 で割る必要があることが導かれる。同様な議論を区 別できない N 粒子の場合に拡張すると、同様に分配関数の値を N ! の値で割ってやる必要 があることがわかる。 4.6.2 単原子の理想気体についての例 すでに説明した方法にしたがって、温度 T の熱浴と平衡状態にある理想気体が 、カノニカル分 布にしたがうと考えてそのの系の熱力学的性質を導いてみよう。量子補正も考慮に入れることにす る。理想気体に関しては、これまでに何度も取り上げたが 、最も簡単な系として再度取り上げる。 N 個の粒子を含むこの系のハミルトニアンは、次のように与えられる。 H =X i 1 2mp 2 i

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この系の分配関数 Z は次のような多重積分として与えられる。 Z = 1 h3NN ! Z ΠNi=1d3rid3piexp " −βX i p2i/2m # = V N h3NN !  2πm β 3N/2 (4.21) 空間座標に関する積分から V N が得られ、運動量に関する積分については公式、(3.11) を利用し て得られる結果である。すでに説明した方法にしたがって、自由エネルギー F 、エントロピー S 、 比熱 C の温度、体積依存性は、この結果を利用して次のように求められる。 F = −1 βln Z = − N β  3 2ln  2πm β  + ln(V /h3) − ln N + 1  S = −∂F ∂T = N k  3 2ln  2πm β  + ln  V N h3  + 1  + 3N k/2 = N k ln "  2πm β 3/2V e5/2 N h3 # (4.22) C = T∂S ∂T = 3N k/2 上のエントロピーの表式は Sackur-Tetrode の式と呼ばれることもある。 ところで 、もし 量子効果による N ! の因子を考慮に入れないで計算したとしてみよう。その場 合、自由エネルギーやエントロピーには次のような不都合が生ずる。自由エネルギーやエントロ ピーは、系のサイズに比例する量である。例えば 、系の粒子密度を変えずに体積と粒子数をそれぞ れ 2 倍にすると、これらも2倍になるはずである。このような性質を持つ変数のことを示量変数 (Extensive Variable) と呼ぶ。密度や圧力などは、示強変数 (Intensive Variable) と呼ぶ。(4.22) に 得られた結果は、この性質に矛盾しない。しかし 、N ! の因子を無視して計算すると、自由エネル ギーやエントロピーの表式には ln(V /N ) ではなくて、単に ln V に比例する項が現れ、示量変数の 性質と矛盾する。例えば 体積を 2 倍にすると N ln 2 に比例するような余分な項が現れてしまう。 このように、量子補正の効果を無視すると、巨視的な性質にも矛盾が現れることがある。 エントロピーの温度依存性についても考えてみよう。ド ・ブロイによれば 、物質波の波長 λ と 運動量 p の間には、p = h/λ の関係がある( h はプランク定数)。とくに等分配則による熱エネル ギー kT /2 の運動エネルギーをもつ粒子の波長 λT のことを、熱ド ・ブロイ波長と呼び 、次のよう に与えられる。 h2 2mλ2 T = 1 2kT この熱ド ・ブロイ波長を用いて、エントロピーは次のように書き換えることができる。 S = N k ln  (2π)3/2e5/2 v λ3 T  = 3 2N k ln  2πe5/3T T0  , h 2 2mv2/3 = 1 2kT0 v = V /N は原子1個当たりの体積である。v1/3は、ほぼ原子間の平均距離と考えられるので、上 の結果は熱ド ・ブロイ波長が原子間の平均距離にほぼ等し くなるような温度になると 、エントロ ピーに表れる対数の引数の値が1程度の値となることがわかる。これ以下に温度が下がるとエント ロピーは負になってしまう。熱力学の法則に矛盾するこのような結果が導かれる理由は、古典的な 取り扱いの適用範囲が 、この程度の温度までに限られてしまうためである。S/N k についての数値 計算の結果を図 4.21 に示す。

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0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 T/T0 −3.0 −2.0 −1.0 0.0 1.0 2.0 S(t)/Nk 図 12: Sackur-Tetrode のエントロピー 4.6.3 調和振動子の集合についての例 調和振動子が数多く集まった系がカノニカル分布にしたがうと考えて、その熱力学的な性質を調 べてみよう。調和振動子の系は、固体の格子振動による熱的な性質にも関係する。周波数 ωiで振 動する N 個の調和振動子のハミルトニアンは次のように与えられる。 H(q, p) =X i  1 2mp 2 i + mω2 i 2 q 2 i  分配関数は次のように計算することができる。 Z = 1 hN Z Πidqidpiexp [−βH(q, p)] = Πi 1 h Z dqidpiexp  − β 2mp 2 i − βmω2 i 2 q 2 i  = Πi " 1 h  2πm β 1/2 βmω2 i 1/2# = Πi  1 β¯hωi  (4.23) 理想気体の場合に必要とした N ! の因子は、調和振動子の場合の場合には必要としないことに注意 が必要である。(4.23) の分配関数を用い、すでに説明した方法にしたがって自由エネルギーやエン トロピーを求めることができる。熱力学の関係から、比熱もエントロピーの温度微分によって求め られる。 F = −1 β ln Z = kT X i ln (β¯hωi) S = −∂F ∂T = −k X i ln (β¯hωi) + N k C = T∂S ∂T = N k 調和振動子の場合の分配関数を計算で N ! の因子を無視したが、得られた自由エネルギーやエン トロピーの式は 、これらが Extensive な量であることと矛盾しない。もしこの因子を入れて計算 したとすると、逆に不都合が生ずることになる。

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4.6.4 電気双極子や磁気双極子モーメント の系 電気双極子モーメントや磁気双極子モーメントが集まってできた系について、一様な電場や磁場 を印加すると双極子モーメントは電場や磁場のの方向にそろう傾向をもつ。電場や磁場とモーメン トの間に次のような相互作用が働くためである。 −µi· E, または − µi· B ここで、µi はモーメントを表すベクトルである。モーメントの大きさが一定であると考え、また モーメント間の相互作用についても無視することにする。その場合、この系のエネルギーは、外場 とモーメントの成す角度だけに依存する。つまり回転の自由度だけが問題となる。この系をカノニ カルアンサンブルと考え、その熱的な性質を調べてみよう。 E 6 ⊕ 図 13: 電気双極子や磁気モーメントの系 外場の方向を z 軸にとり、直交座標の代りに極座標を用いるとモーメント 1 個当たりのハミル トニアンは次のように与えられる (外場が電場の場合)。 h = −µ0E cos θ, (µ0= |µi|) θ は、z 軸とモーメントの成す角度である。エネルギーは、z 軸についての回転角 φ には依存しな い。分配関数についてまず考えてみよう。状態和( 積分)は、立体角に関する積分によって求めら れる。上のエネルギーには角度に関する運動エネルギーが含まれていないことからわかるように、 一部の自由度に関するエネルギーだけ取り出したものと考えることができる。このような事情も考 慮し 、ここでは量子補正についてはあまり気にしないことにする。 回転の自由度 (θ, φ) に関する積分を実行することにより、モーメント 1 個当たりの分配関数は 次のように求めることができる。 zrot = Z

dφ sin θdθ exp[βµ0E cos θ] = 2π

Z 1 −1 dveβµ0Ev , (v = cos θ) = 4π βµ0E sinh (βµ0E) モーメント間の相互作用が無視できるとしたので、モーメントは互いに独立であると見なせる。系 全体の分配関数 Z は 1 個当たりの分配関数の N 乗、つまり zN rot で与えられる。この結果を利用 し 、自由エネルギーを次のように求めることができる。 Frot= − N β ln zrot = −N kT ln 4π sinh(βµ0E) βµ0E (4.24)

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この系の熱力学的性質として、エントロピーの温度依存性を求めてみよう。これは自由エネル ギーの温度微分より次のように計算できる。 S = −∂F ∂T = N k ln 4π sinh(βµ0E) βµ0E + N kT  −µ0E kT2coth(βµ0E) + 1 T  = N k  ln4π sinh(βµ0E) βµ0E − βµ0E coth(βµ0E) + 1  = N ks(t) s(t) = ln[4πt sinh(1/t)] − 1 t coth(1/t) + 1 エントロピーは、温度に関係する単一のパラメータ t = kT /µ0E の関数として表される。関数 s(t) は、高温、低温の極限でそれぞれ 、次のような温度依存性を示す。計算結果は図 14(黒の実線)に 示す。 s(t) ' ( ln(4π) + 1 − 5/6t2, t  1 のとき ln(4πt) − 1/t, t  1 のとき 熱力学の第 3 法則によれば 、エントロピーは低温の極限でゼロの値に近づく必要がある。上の結 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 t −1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 s(t) 図 14: 双極子モーメントの系のエントロピーの温度依存性 果はこの経験則と矛盾するが 、その理由は古典的な取り扱いをしたことによる。低温ではモーメン トの方向についての古典的な連続的な分布が成り立たず量子力学的な取り扱いが必要である。 次に、z-軸方向に向いた双極子モーメントの平均値を求めてみよう。外場をかけたことにより、 外場の向きに揃った方がエネルギーが低くなる。したがって、モーメントの向きの角度方向に関す る平均値に、外場に比例する成分が有限に残る。モーメントの平均を求めるには、方向に依存する 確率をモーメントの方向にかけ、立体角 Ω について積分すればよい。1 個のモーメントについて の平均は次のように得られる。 hµzii = µ0 zrot Z

dΩ cos θeβµ0E cos θ

系全体の平均値は、自由エネルギー (4.24) を用いて次のようにこの値を求めることができる。 X i hµz ii = N β ∂ ln zr ∂E = − ∂F ∂E = N µ0L(y), (y = βµ0E)

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ただし 、L(y) は Langevin 関数と呼ばれ 、次のように定義される。 L(y) = coth y −1 y Langevin 関数は、その引数 y の値の大小により次のようなふるまいを示す。 L(y) ' ( y/3 y  1 のとき 1 1  y のとき したがって、温度 kT と電場が存在する場合の双極子の配向エネルギー µ0E との大小関係により、 低温と高温の極限においてモーメントの平均値は次のように与えられる。 1 N X i hµzii ' ( µ0 T  µ0E/k のとき µ2 0E/3kT T  µ0E/k のとき 高温におけるこの最後の式は Debye の式として知られている。1個当たりのモーメントの平均値 hµz ii /µ0の t = kT /µ0E 依存性を図 15 に示す。 0 1 2 3 4 5 t 0.0 0.5 1.0 図 15: 外場によって誘起された双極子モーメントの温度依存性 参考: 量子力学的な取扱い 量子力学的に今の双極子モーメントの問題を取り扱うと 、最も簡単な場合にはこの系をエネル ギー差が 、∆ = µ0E で与えられる2準位の系とみなせる。その場合の分配関数は次のように与え られる。 zrot= X i=1,2 e−βεi = eβµ0E + e−βµ0E = 2 cosh(βµ0E) 自由エネルギーやエントロピーについても、古典的な場合と同様に次のように求めることができる。 F = −N β ln[2 cosh(βµ0E)] S = −∂F ∂T = N k ln[2 cosh(βµ0E)] − N k µ0E kT tanh(βµ0E) = N ks(t) s(t) = ln[2 cosh(1/t)] − 1 t tanh(1/t)

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この結果からわかるように、エントロピーは古典的な場合と同様、t = kT /µ0E の関数として与え られるが 、低温の極限でゼロとなり、熱力学と矛盾しない。s(t) の温度依存性も、図 14( 赤の実 線)に示されている。 断熱消磁 磁気モーメントの集合からなる系に対し 、断熱的に磁場を加えたり、取り去ったりすることに よってその系の温度を上げたり下げたりが可能である。この原理を図を用いて簡単に説明しよう。 図 16 には2つの磁場の値に対する磁気モーメントの系のエントロピーの温度依存性を古典的に計 算した結果が示されている。赤の実線は、ある磁場 H をかけた状態でのエントロピーの温度依存 性を示したものである。横軸の t は、kT /µ0H を表す。一方、青の実線は磁場の強さが半分になっ た場合を表したものである。磁場が半分の大きさの場合は kT /µ0(H/2) = 2t が成り立つので、エ ントロピーの温度依存性は s(2t) で与えられる。 いま、磁場 H をかけたときの温度が T であったとする。このときのエントロピーの値が図で は A の記号で示されている。ここで、周囲との熱的な接触を絶ち、エネルギーのやりとりがない 状況で磁場の値を半分にすることを考える。十分ゆっくりと操作を行えば 、このプロセスによって モーメントの配向についての平均値はほとんど 変化せず、いろいろな向きにモーメントを見い出す 確率も変化しないと考えられる。エントロピーは、この配向の確率に関係するのでエントロピーも ほとんど 変化しない。このようにエントロピーを一定に保ちながら系を変化させるプロセスを断熱 過程と呼ぶ。エントロピーが一定で磁場が半分になることは、図中の A の状態が 、磁場が半分の 場合の温度曲線上の B に移ることを意味する。図の横軸が温度を表すので、系の温度が低下する ことになる。磁場が弱くなったにも関わらず、依然として磁場の方向にモーメントがよく揃った状 態は温度が低くなったことに対応する。 逆に、図の C の状態から断熱的に磁場の大きさを2倍に増加すると、今度は系の温度が上昇す る。このようにして温度を上げたり下げたりした系を、他の系に接触させることによりその系を冷 却したり加熱することができる。冷却の方は磁気冷凍を呼ばれ 、極低温でものをさらに冷却する場 合に利用されている。 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 t 0.0 1.0 2.0 3.0 s A B C D 図 16: 断熱消磁

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4.6.5 分子の回転と振動 これまでは簡単のために単原子の気体の場合だけ考えてきた。しかし 、これらは He, Ne, Ar な どの希ガスの場合に限られてしまう。一般に気体には、2 原子分子か、それ以上の原子からなる分 子が含まれていることが多い。その場合には、分子の空間的な並進運動の自由度だけではなく気体 分子のもつ内部自由度も熱力学的な性質に影響をおよぼす。このような多原子分子からなる気体の 取扱いの例として、2 原子分子の気体の場合を例にとって、その統計的なふるまいについて考えて 見よう。特にここでは気体の比熱の値に着目する。 2原子分子を形成する個々の原子は 、空間座標に関しそれぞれ 3 個の自由度をもつ。したがっ て、分子全体としては 6 個の自由度がある。この空間座標に関する 6 個の自由度は、以下に示す ように分子全体の並進運動の自由度と、分子に含まれる原子間の相対座標に関する内部自由度とに 分けて考えることができる (表 3)。   運動の様式 自由度の数 重心の並進運動 3 重心の周りの分子軸の回転 2 分子軸方向の相対距離の変化 (振動) 1  合   計   6 表 3: 2 原子分子の自由度 この系のハミルトニアンを求めるために、1個の分子の系の Lagrangian をまず計算してみよう。 分子に質量 m1, m2の原子 1, 原子 2 が含まれるとする。空間座標 R の分子の重心 G からのそれ ぞれの原子の位置ベクトルを r1, r2とすると、これらの間には次の関係がある( 図 17 を参照)。 m1r1+ m2r2= 0, r1− r2= r (4.25) したがって、これらは相対座標 r を用いて表すことができる。 r1= m2 Mr, r2= − m1 Mr, (M = m1+ m2)  m2 m1 G r1 r2 R 図 17: 2原子分子の重心座標と相対座標 (4.25) の関係が成り立つことを利用し 、運動エネルギー T は重心座標と相対座標を用いて次の ように表すことができる。 T = m1 2 ( ˙R+ ˙r1) 2+m2 2 ( ˙R+ ˙r2) 2= M 2 R˙ 2+m1 2 r˙1 2+m2 2 r˙2 2 = M 2 R˙ 2+µ 2˙r 2, 1 µ = 1 m1 + 1 m2 (4.26)

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µ は換算質量 (reduced mass) と呼ばれている。相対座標に関しては、分子間距離の変化が小さい と考えられるのでさらに極座標 (r, θ, φ) を導入するのが便利である。自由度の分離にも役に立つ。 変数の間の関係が次のように与えられるものとする。

r= (r cos φ sin θ, r sin φ sin θ, r cos θ) 極座標表示では相対座標の速度と運動エネルギーが次のように表される。

˙x = ˙r cos φ sin θ − r sin φ ˙φ sin θ + r cos φ cos θ ˙θ ˙y = ˙r sin φ sin θ + r cos φ ˙φ sin θ + r sin φ cos θ ˙θ ˙z = ˙r cos θ − r sin θ ˙θ µ 2˙r 2 = µ 2 h ˙r2+ r2( ˙θ2+ sin2θ ˙φ2)i これを (4.26) に代入し 、原子間のポテンシャルエネルギーが相対距離 r の関数 V (r) で与えられ ると考えるとラグランジアンは次のように求まる。 L = T − V (r) = M 2 R˙ 2+µ 2˙r 2+1 2I( ˙θ 2+ sin2θ ˙φ2) − V (r), (I = µr2) ここで I は、分子の慣性モーメントを表す。 次に、ハミルトニアンを求めるために重心座標、相対距離 r, 角度 θ, φ のそれぞれに共役な運動 量 pr, pθ, pφを求めよう。これらはそれぞれ定義より次のように表される。 P= ∂L ∂ ˙R = M ˙R, pr= ∂L ∂ ˙r = µ ˙r, pθ= ∂L ∂ ˙θ = I ˙θ, pφ= ∂L ∂ ˙φ = I sin 2θ ˙φ 共役なこれらの運動量を用いて、ラグランジアンの速度変数を消去することにより、分子1個当た りのハミルトニアンは次のように求められる。 h = P · ˙R+ pr˙r + pθ˙θ + pφφ − L =˙ P2 2M + 1 2µp 2 r+ V (r) + 1 2I  p2θ+ 1 sin2θp 2 φ  この第1項は重心座標の並進運動についての運動エネルギー、第2項と3項は分子の長さ方向の振 動のエネルギー、残りの項は回転運動に関するエネルギーを表すと考えられる。 分子の理想気体を考えると、個々の分子の運動は互いに独立であると考えられる。まず、重心運 動の自由度に関しては、質量が M の単原子分子理想気体の分配関数と同じ取扱いによって求めら れる。これを Ztと置くことにする。気体全体の分配関数 Z は、重心運動に関する分配関数と、内 部エネルギーに関する分子 1 個当たりの分配関数 z の N 乗の積で与えられる。回転の自由度を 考える場合、I は実際には原子間距離 r の関数として変化すると考えられる。しかし 、ここでは r が分子間の平均距離 r0で近似されるとして、一定の値であると考える。すると回転と振動の自由 度は互いに独立であると見なせる。このように考えると分配関数は次のように表すことができる。 Z = ZtzN, z = zrotzvib zrot, zvibはそれぞれ 、回転と振動の自由度による分配関数を表す。 回転の自由度について

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まず、分子 1 個当たりの回転の自由度による分配関数は、回転の自由度に関する位相空間の積 分として次のように求められる。 zrot = 1 h2 Z dθdpθdφdpφexp [−βh] = 1 h2 Z dθdpθdφdpφexp  −β 2I(p 2 θ+ 1 sin2θp 2 φ)  = 2πI βh2 Z dφdθ sin θ = 8πI βh2 この式の自然対数の β に関する微分から内部エネルギーを求めることができる。回転の自由度に よる内部エネルギーの寄与 Erot は次のように与えられる。 Erot = −N∂ ln zrot ∂β = −N ∂ ln(8πI/βh2) ∂β = N kT また、比熱の値も次のように求められる。 Crot=dErot dT = N k 振動の自由度について 2 原子分子の分子振動の自由度の寄与について、原子間のポテンシャル V (r) が分子間距離の平 衡位置 r = r0 の周りで次のように展開できる場合を考えてみよう。 V (r) = V (r0) +1 2V 00(r 0)δr2+ · · · , δr = r − r0 その場合、分子間距離 r とその共役運動量の関数としてハミルトニアンは次のように表される。 hv= V (r0) + 1 2µp 2 r+ 1 2µω 2 vδr2+ · · · , ωv= s V00(r0) µ これは角周波数 ωv の調和振動子のハミルトニアンと同じと見なすことができる。したがって調和 振動子の場合の取り扱いがそのまま適用できる。分子1個当たり1個の振動の自由度があることか ら、内部エネルギー、比熱はそれぞれ次のように与えられる。 Ev= N kT, Cv = dEv dT = N k 2 原子分子気体のすべての自由度に対する比熱への寄与についての結果をまとめると表 4 のよ うになる。比熱は、重心の並進運動による寄与、重心の周りの回転運動による寄与、分子軸方向の 原子間距離の伸び縮みに対応する振動による寄与の和からなる。分子1個当たりについて、すべて 自由度 比熱の値 (k) 並進運動 3/2 回転運動 1 振動 1 表 4: 2 原子分子の分子 1 個当たりの比熱 の自由度の寄与をすべて合わせた比熱の値は 7N k/2 になるはずである。ただし 、実際によく観測

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される値は 5N k/2 の値でしかない。この理由は、分子振動に関係するエネルギーが熱エネルギー に比べ大きな値をもつことが普通であり、このために通常の温度領域ではこの自由度が量子効果に よって凍結されているためである。振動の自由度の取り扱いには量子力学に基づく統計力学を用い なければならない。 4.6.6 混合理想気体のエント ロピーと Gibbs のパラド ックス 図 18 に示されているように、仕切りで隔てられた左と右のそれぞれの部分に異なる気体が入っ た容器を考えてみよう。容器の仕切りを取り除くと異なる気体粒子は互いに混じり合うことになる が 、そのとき全体のエントロピーがどのように変化するかについて考えてみよう。この問題のよう に混合によって変化するエントロピーのことを、混合のエント ロピーと呼ぶ。ここでは簡単のため に理想気体の場合について考えることにする。             VA VB 図 18: 2種類の気体の入った容器 容器の全体の体積を V とし 、仕切られたそのうちの体積 VA, VB の部分に A, B 2 種類の気体 が入ったいたとする。それぞれの気体は、NA, NB 個の気体原子( 単原子気体)を含み、圧力 p は 同一であるとする。また、それぞれの気体原子の質量は mA, mB である。理想気体の状態方程式 より次の式が成り立つ。 pVA= NAkT, pVB= NBkT これより、p(VA+ VB) = (NA+ NB)kT が成り立つので、粒子数の濃度について以下の関係があ ることもわかる。 NA/VA= NB/VB = (NA+ NB)/(VA+ VB) まず、体積 V に N 個の粒子を含む理想気体のエントロピーについて、次の Sackur-Tetrode の 公式が得られたことについて思い出しておこう。 S = kN ( ln "  2πm β 3/2 e5/2 h3 # + ln V N ) (4.27) またそのとき得られた分配関数についての結果を利用すれば 、2 つの気体を混合する前の分配関数 は次のように与えられる。 Z = VA NA NA!h3NA  2πmA β 3NA/2 VBNB NB!h3NB  2πmB β 3NB/2 (4.28)

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仕切が存在するために、容器の2つの部分は互いに独立であると考えられ 、分配関数はそれぞれの 分配関数の積となる。一方、エントロピーは、体積 VAと VB の容器の中に A, B 2 種類の原子が それぞれ NA, NB 個存在する場合の (4.27) 式によるエントロピーの和で与えられる。 次に 、仕切が取り外して両方の気体がよく混じり合った後のエントロピーについて考えてみよ う。その場合の分配関数は次のように表される。 Z = V NA NA!h3NA  2πmA β 3NA/2 VNB NB!h3NB  2πmB β 3NB/2 (4.29) (4.28) と (4.29) との違いは、 仕切を取り去った後のそれぞれの粒子が存在できる空間の体積が全 体の V に代ったことである。この違いを反映して仕切りを取り去る前後のエントロピーの値に違 いが生ずる。この変化に関わるエントロピー変化だけを取り出すと次のように表される。 ∆S = NAln(V /NA) + NBln(V /NB) − NAln(VA/NA) − NBln(VB/NB) = NAln(V /VA) + NBln(V /VB) (4.30) = NAln(N/NA) + NBln(N/NB) したがって、例えば NA= NB の場合を考えると混合によりエントロピーが N ln 2 だけ増加する ことがわかる。一般に、異なる種類の気体を混合させることによるエントロピーは増加する。上の 混合のエントロピーの式を用いたのでは、エントロピーがこの場合にも増加するようにも思える。 同種の気体を混合した場合の、この一見矛盾するように見えるふるまいは Gibbs のパラド ックス として知られている。これは以下のように考えることによって解消される。 同種粒子を混合させた場合、仕切をとった後の分配関数は (4.29) のように与えられるのではな く、次のように計算しなくてはならない。 Z = V NA+NB (NA+ NB)!h3(NA+NB)  2πmA β 3NA/2  2πmB β 3NB/2 (4.31) (4.29) と (4.31) との違いは、粒子の同等性に対する量子補正に関係し、NA!NB! の因子が (NA+NB)! に置き換わっている点である。混合の前後で粒子数濃度に変化がないことを考慮すると、(4.31) か ら得られるエントロピーは混合前と同じ 値となり、合理的な結果が得られる。ただ 、このような 結果を得るためには粒子の同等性に関する量子補正を分配関数の計算に取り入れることが前提で ある。この因子を考慮せずにエントロピーを計算するとこのような合理的な結論は得られず実際 Gibbs が指摘したように実際と矛盾するような結果が得られる。量子効果などあまり関係なさそう に見える巨視的な現象にも量子効果が潜んでいて、それをを取り入れないと合理的な説明に破綻を 来たす場合があるという例である。

参照

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