• 検索結果がありません。

平成 25 年 3 月 4 日国立大学法人大阪大学独立行政法人理化学研究所 高空間分解能 かつ 高感度 な革新的 X 線顕微法を開発 ~ 生体軟組織の高分解能イメージングへの応用展開に期待 ~ 本研究成果のポイント X 線波長の 320 分の 1 程度のごく僅かな位相変化を 10nm 程度の空間分解

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "平成 25 年 3 月 4 日国立大学法人大阪大学独立行政法人理化学研究所 高空間分解能 かつ 高感度 な革新的 X 線顕微法を開発 ~ 生体軟組織の高分解能イメージングへの応用展開に期待 ~ 本研究成果のポイント X 線波長の 320 分の 1 程度のごく僅かな位相変化を 10nm 程度の空間分解"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

平成 25 年3月4日 国立大学法人 大阪大学 独立行政法人 理化学研究所 「

高空間分解能」かつ「高感度」な革新的X線顕微法を開発

~生体軟組織の高分解能イメージングへの応用展開に期待~

本研究成果のポイント ●X 線波長の 320 分の 1 程度のごく僅かな位相変化を 10nm 程度の空間分解能で可視化 ●SPring-8 および SACLA を用いた生体試料の高空間分解能観察への応用展開に期待 大阪大学大学院工学研究科の高橋幸生准教授、理化学研究所播磨研究所放射光科学総合研究 センターの石川哲也主任研究員らの研究グループは、高い感度と高い空間分解能を有するX線 顕微法の開発に成功しました。 X線が物体を通過するときの位相※1のずれ量を観測することで、吸収の小さな物体であって も可視化することが可能であり、これを位相コントラストイメージングと呼んでいます。今回、 研究グループは、大型放射光施設 SPring-8※2の理研物理科学 I ビームライン BL29XUL におい て、X線集光鏡と空間フィルター※3を組み合わせた照明光学系を搭載した「X線タイコグラフ ィー」と呼ばれる新しい位相コントラストイメージング法を開発しました。そして、このX線 タイコグラフィーにより、オングストロームオーダーのX線波長の約 320 分の 1 という小さな 位相のずれを約 10nm という高い空間分解能で可視化することに成功しました。 この顕微法は、特にX線の吸収の小さい軽元素で構成される生体軟組織の観察に有用で、今 後、SPring-8 を用いた様々なバイオイメージングへの応用展開が期待されます。また、X線自 由電子レーザー施設 SACLA※4を用いたコヒーレントX線回折イメージング実験においても同様 の光学系が採用されており、SACLA の高光子密度のX線レーザーを照射することにより究極的 な高感度・高空間分解能イメージングが実現するものと期待されます。

本研究成果は、2013 年 3 月 4 日(アメリカ東部時間)に米国科学雑誌『Applied Physics Letters』 のオンライン版に掲載されます。

(論文)

“High-resolution and high-sensitivity phase-contrast imaging by focused hard x-ray ptychography with a spatial filter”

Yukio Takahashi, Akihiro Suzuki, Shin Furutaku, Kazuto Yamauchi, Yoshiki Kohmura, Tetsuya Ishikawa Applied Physics Letters 102, 094102 (2013), published online 4 March 2013

(2)

1.

研究の背景

X線イメージング技術はX線が高い透過力を有することから、物体の内部構造を非破壊で 観察する方法として広く用いられています。医療診断、空港の手荷物検査におけるX線写真 はその代表的な例です。通常、X線写真は、物体によってX線がどれくらい吸収されたかに よってコントラストを得ます(X線吸収コントラストイメージング)。X線吸収コントラスト イメージングでは、X線吸収の大きい厚い試料や重元素を含む試料に対して有効ですが、薄 い試料や軽元素で構成される試料に対しては十分な像コントラストが得られません。X線位 相コントラストイメージングは、このような希薄な試料であっても、高い像コントラストを 得る手法として、近年、放射光施設を中心に盛んに研究されています。X線位相コントラス トイメージングでは、試料によるX線波面のゆがみを回折・干渉・屈折などの現象を使って 試料像を得ます。 X線タイコグラフィーは、X線回折を利用した位相コントラストイメージングの一手法で す。従来のフレネルゾーンプレートなどのレンズとしての機能を持つ光学素子を用いて試料 像を結像する一般的なX線顕微鏡とは異なり、回折パターンに位相回復計算を実行して試料 像を再構成するレンズレスイメージング技術です。X線タイコグラフィーは、レンズ性能に よって制限されてきたX線顕微法の空間分解能を飛躍的に向上させる技術であり、原理的に X線波長程度の空間分解能を達成可能です。これまで、本研究グループは、大型放射光施設 SPring-8*2の理研物理科学 I ビームライン BL29XUL においてX線集光鏡を駆使した高分解能 X線タイコグラフィー装置を開発し、試料中の 10μm 以上の領域の電子密度や特定元素の分 布を 10nm より優れた空間分解能で可視化できることを実証してきました(2011 年 9 月学術雑 誌「Applied Physics Letters」(出版社:American Institute of Physics)において発表済、 2011 年 9 月 28 日プレスリリース www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2011/110928 )。 X線タイコグラフィーに期待されている一つの応用研究が生体試料のイメージングです。 しかしながら、X線タイコグラフィーをバイオイメージング研究に応用していくにはどうし ても克服しなければならない一つの問題がありました。それが感度です。X線タイコグラフ ィーでは、試料の前に、ピンホールや集光鏡などの光学素子を設置して、X線照射領域をマ イクロメートル以下に制限する必要があります。この時、試料からの散乱X線強度とこれら 光学素子からの散乱X線の強度分布とが重なって観測されてしまうため、試料が希薄な場合、 試料からの散乱X線強度分布が光学素子からの散乱X線強度分布に埋もれてしまいます。こ のことが、X線タイコグラフィーの感度を下げている一つの要因となっていました。今回、 研究グループは、X線集光鏡と空間フィルターを組み合わせた照明光学系を開発し、上で述 べた問題を克服する高分解能かつ高感度なX線タイコグラフィーを実証しました。

2.

研究成果の内容

(3)

0.5mm 上流側に配置し、照明光学系を構築しました(図 1(a))。そして、この照明光学系のテ スト実験を大型放射光施設 SPring-8 のビームライン BL29XUL にて行いました。X線エネルギ ーを 8keV に合わせて、X線集光鏡により 100nm のスポットに集光し、下流に配置した CCD 上 での強度分布を空間フィルターの有り無しで比較すると、その差は歴然としており、空間フ ィルターを配置することで、X線集光鏡由来の余分な散乱X線強度が劇的に減少しました(図 1(b))。 高分解能・高感度X線タイコグラフィーの実証実験の試料には、NTT アドバンステクノロ ジ株式会社製のテストチャート(特注品)を用いました。このテストチャートは、厚さ約 12nm のタンタル薄膜に微細加工が施されており、17nm の最小構造を有します(図 2(a))。厚さ 12nm のタンタルの 8keV のX線に対する位相シフト量は 0.02 ラジアン以下とごく僅かです。この テストチャートについても、空間フィルターの有り無しで CCD 上での強度分布を比較すると、 空間フィルターを設置することで、試料からの散乱X線強度分布を高い信号対雑音比で測定 できているのが分かりました(図 2(b))。また、図 2(a)の丸で示した位置の集光X線を照射し、 得られた回折パターンに位相回復計算を実行すると、試料像を再構成することができました (図 3)。17nm の最小構造を分解できており、空間分解能は約 10nm と見積もられます。また、 再構成像から求められる位相シフト量は 0.018 ラジアンであり、計算から見積もられる値と 良く一致します。このことから、本手法が高分解能かつ高感度なX線位相コントラストイメ ージング法であることに加えて、位相シフト量を精度良く決定できる定量的なイメージング 法であると言えます。

3.

今後の展開

今後、僅かな位相変化を高い空間分解能で可視化できる本顕微法を用いた様々な試料観察 への応用が期待されます。特に、X線吸収の小さい軽元素で構成される生体軟組織の高分解 能観察に本顕微法は有用であると言えます。現状では、コヒーレントX線の強度が十分でな いため、回折パターンを取得するのに 10 時間以上要し、観察領域も約 2×2μm2とあまり大き くはありません。しかしながら、現在検討されている SPring-8 の次期計画で実現する高性能 放射光源を用いることで、測定時間の短縮ならびに広視野化を期待できます。ただ、SPring-8 での測定では、観察の空間分解能は最終的には、試料損傷によって制限されてしまいます。 一方、X線自由電子レーザー施設 SACLA を用いたシングルショットイメージングにより、試 料が壊れる前の測定が可能になり、試料損傷による限界を大きく凌駕する分解能が得られる と期待されています。本顕微法と同様な照明光学系が SACLA のコヒーレントX線回折イメー ジング装置にもすでに導入されており、これを用いることで、究極的な高感度・高空間分解 能イメージングが実現するものと期待されます。

(4)

<補足説明>

※1 位相

周期的に変動する波がある時、1 つの波形における波の位置を位相、また、同じ波の位置 を連ねた面を波面と呼ぶ。波は、その高さとこの位相によって表現される。光の波が物体 を透過することにより波の高さが減衰し、位相がずれる。そのため、波の高さの減衰が吸 収コントラストに関連し、位相のずれが位相コントラストに関連する。

※2 大型放射光施設

SPring-8 理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み 出す共用施設。SPring-8 の名前は Super Photon ring-8 GeV に由来する。放射光(シン クロトロン放射光)とは、荷電粒子が磁場の中で曲がる際に放射される光の一種。SPring-8 では、周回する電子群のサイズが小さいことや高い安定性のため、干渉性の優れたX線が 得られる。

※3 空間フィルター

一定の空間周波数を強調したり、高周波ノイズを低減する目的で光学系内のスペクトル面 に挿入するピンホール。

※4 X線自由電子レーザー施設 SACLA

完全な干渉性をもつ次世代のX線発生装置。日本では、理研が財団法人高輝度光科学研究 センターと協力して、SPring-8 キャンパス内に建設され、2011 年 3 月に施設を完成、愛 称は「SACLA」と名付けられた。2011 年 6 月にX線レーザーの初発振に成功、2012 年 3 月 より共用運転が開始され、利用実験が始まっている。

(5)

<参考資料>

図 1 (a)高分解能X線タイコグラフィーの光学系の模式図。(b)CCD で測定した強度分布。 全反射集光鏡によって 8keV の放射光X線を 100nm のスポットに集光する。集光点の近傍に空 間フィルタイーとして開口サイズ約 100μm の矩形開口スリットを配置することで、全反射集 光鏡からの余分なX線散乱強度を効果的に除去することができる。

(6)

図 2 (a)テストチャートの走査型電子顕微鏡像。丸い点はX線照射位置を示している。(b)(a) の黄色い丸で示した位置にX線を照射した際に観測された回折パターン。 試料には、NTT アドバンステクノロジ株式会社製のテストチャート(特注品)を用いた。この テストチャートは、厚さ約 12nm のタンタル薄膜に微細加工が施されており、17nm の最小構 造を有する。このテストチャートにX線を照射し、空間フィルターの有り無しで CCD 上での 強度分布を比較すると、空間フィルターを設置することで、試料からの散乱X線強度分布を 高い信号対雑音比で測定できる。

(7)

図 3 空間フィルターを搭載した集光X線タイコグラフィーによって可視化されたテストチ ャートの位相シフト像。

約 0.02 ラジアンの位相シフトが可視化されている。17nm の最小構造が分解されており、空 間分解能は約 10nm と見積もられる。

図 1 (a)高分解能X線タイコグラフィーの光学系の模式図。(b)CCD で測定した強度分布。
図 2  (a)テストチャートの走査型電子顕微鏡像。 丸い点はX線照射位置を示している。 (b)(a) の黄色い丸で示した位置にX線を照射した際に観測された回折パターン。  試料には、NTT アドバンステクノロジ株式会社製のテストチャート(特注品)を用いた。この テストチャートは、厚さ約 12nm のタンタル薄膜に微細加工が施されており、17nm の最小構 造を有する。このテストチャートにX線を照射し、空間フィルターの有り無しで CCD 上での 強度分布を比較すると、空間フィルターを設置することで、試料から
図 3  空間フィルターを搭載した集光X線タイコグラフィーによって可視化されたテストチ ャートの位相シフト像。

参照

関連したドキュメント

2020年 2月 3日 国立大学法人長岡技術科学大学と、 防災・減災に関する共同研究プロジェクトの 設立に向けた包括連携協定を締結. 2020年

(参考)埋立処分場の見学実績・見学風景 見学人数 平成18年度 55,833人 平成19年度 62,172人 平成20年度

本研究科は、本学の基本理念のもとに高度な言語コミュニケーション能力を備え、建学

本研究科は、本学の基本理念のもとに高度な言語コミュニケーション能力を備え、建学

本研究科は、本学の基本理念のもとに高度な言語コミュニケーション能力を備え、建学

高村 ゆかり 名古屋大学大学院環境学研究科 教授 寺島 紘士 笹川平和財団 海洋政策研究所長 西本 健太郎 東北大学大学院法学研究科 准教授 三浦 大介 神奈川大学 法学部長.

[r]

間的な報告としてモノグラフを出版する。化石の分野は,ロシア・沿海州のア