新規研究開発事業
「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」
に関する
事前評価報告書
平成22年7月
産業構造審議会産業技術分科会
評
価
小
委
員
会
1 はじめに 研究開発の評価は、研究開発活動の効率化・活性化、優れた成果の獲得や社会・経済への還元等 を図るとともに、国民に対して説明責任を果たすために、極めて重要な活動であり、このため、経 済産業省では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成20年10月31日、内閣総理大臣 決定)等に沿った適切な評価を実施すべく「経済産業省技術評価指針」(平成21年3月31日改 正)を定め、これに基づいて研究開発の評価を実施している。 今回の評価は、この「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」の事前評価であり、実際の評価に 際しては、省外の有識者からなる、新規研究開発事業「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」に 関する事前評価有識者が事前評価を実施した。 今般、当該検討会における検討結果が評価報告書の原案として産業構造審議会産業技術分科会評 価小委員会(小委員長:平澤 泠 東京大学名誉教授)に付議され、内容を審議し、了承された。 本書は、これらの評価結果を取りまとめたものである。 平成22年7月産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会
2 目 次 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 新規研究開発事業「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」に関する 事前評価有識者名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 新規研究開発事業「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」に関する 事前評価審議経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 事前評価報告書概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第1章 技術に関する施策及び新規研究開発事業の概要 ・・・・・・・・・・・・・ 8 第2章 評価結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 第3章 評価小委員会委員からのコメント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
3 産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会 委員名簿 委員長 平 澤 泠 東京大学名誉教授 池 村 淑 道 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部教授 大 島 ま り 東京大学大学院情報学環教授 東京大学生産技術研究所教授 太 田 健一郎 横浜国立大学大学院工学研究院教授 菊 池 純 一 青山学院大学法学部長・大学院法学研究科長 小 林 直 人 早稲田大学研究戦略センター教授 鈴 木 潤 政策研究大学院大学教授 冨 田 房 男 北海道大学名誉教授 中小路 久美代 株式会社SRA先端技術研究所 リサーチディレクター 森 俊 介 東京理科大学理工学部経営工学科教授 吉 本 陽 子 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経済・社会政策部主任研究員 (委員敬称略、委員長除き五十音項) 事務局:経済産業省産業技術環境局技術評価室
4 新規研究開発事業「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」 に関する事前評価有識者名簿 川上 浩良 首都大学東京 都市環境学部 分子応用化学コース 都市環境科学専攻 分子応用化学域 教授 中尾 真一 工学院大学 工学部 環境エネルギー化学科 教授 永井 一清 明治大学 理工学部 応用化学科 教授 (敬称略、五十音項) 事務局:経済産業省 産業技術環境局 環境政策課 地球環境技術室
5 新規研究開発事業「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」 に関する事前評価審議経過 ○事前評価に関する説明を個々に実施(平成22年5月24日、25日) ・評価の方法等について ・技術に関する施策及び新規研究開発事業の概要並びに創設の妥当性について ・評価の進め方について ※外部有識者(評価者)を訪問するなどにより、上記3つの頄目について説明を行った 後、メールレビューにて評価報告書(案)の審議を実施。 ○第32回産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会(平成22年7月7日) ・評価報告書(案)について(包括審議)
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事前評価報告書概要
新規研究開発 事業 二酸化炭素分離膜モジュール研究開発 技術に関する 施策名 CO2 固定化・有効利用分野技術 事業推進課 産業技術環境局 環境政策課 地球環境技術室 技術に関する施策及び新規研究開発事業の概要 わが国は、温室効果ガス削減目標について、すべての主要国による公平かつ実効性 のある枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に「2020年までに1990年比25%の削 減」を掲げている。 経済成長を阻害することなく、この温室効果ガス削減目標を達成するためには、省 エネルギー技術、化石燃料転換や原子力発電、あるいは太陽エネルギー等の新エネル ギーの利用技術のみならず、二酸化炭素回収・貯留(CCS:Carbon Dioxide Capture an d Storage)技術などのCO2固定化・有効利用分野の新技術の開発、進展が不可欠である。 二酸化炭素回収・貯留(CCS)は、地球温暖化対策の重要なオプションとして国 際的・国内的に認識されているが、実用化に当たっては実施に要するコスト、特に大 部分を占める分離回収コスト(約6割)の低減が課題となっている。 本事業では、CCS実用化にあたり、低コスト化に資する二酸化炭素分離膜モジュ ールの開発を実施する。 具体的には、現在研究開発段階にある分子ゲート機能CO2分離膜素材のCO2の透過性 や選択性などの高性能化を図るとともに、膜の連続製造技術の開発や膜モジュールの 耐圧・耐久化、大型化を図るなど実用化に向けた各技術の確立を図る。これにより、 実用に耐えうる分離膜が完成する時点(2015年頃)において従来の3分の1程度 (1,500円/t-CO2)まで大幅に低減することを目標とする。 評価概要 1.事業の目的・政策的位置付け(新規研究開発事業の創設)の妥当性 地球温暖化の抑制は国際的な共通認識のもと取り組んでいる事頄であり、温室効果 ガス削減は我が国では総理自らがイニシアティブをとって行っていることから国を 挙げて取り組む必要がある課題である。政府から出された温室効果ガス 25%削減の実 現には、CCSは欠くことのできない技術であり、そのための CO2 分離回収技術開発 を国が率先して行うことは、極めて妥当である。 本事業はリスクが高く、また直接的に利益を生み出す技術でもないため民間企業が 長期に渡り取り組むにはかなり無理があり、国が先導して取り組むべき科学技術と考 える。 CCS実用化にあたり、CO2 分離回収コストを従来技術に比べて 3 分の 1 程度の 1500 円/t-CO2 に低減するなどの具体的な目標値を示して実施していることは高く評 価できる。 また、単に基本性能だけでなく、実用化に向けて克服すべき課題として耐不純物性、7 耐乾燥性、耐圧性、耐久性等の具体的な問題点を把握して取り組むことは評価できる。 学会等で報告されている研究データもあわせてみると、本事業の分子ゲート膜の基 本性能は世界トップレベルの成果が出されている。国際的に見ても日本の膜技術は世 界のトップに位置しており、この科学技術を維持することは国益に叶うと考えられ る。 膜モジュール形式としては、スパイラル型と中空糸型の2タイプを対象としている が、両者は基本的に開発コンセプトが異なるので、どちらかに絞ることなく、よい意 味の競争関係でどちらも開発を進めるべきである。 一般に膜材料開発には時間がかかるものであるため、目標値への到達スケジュール を達成するためには、十分な予算と人を集中して配置できる研究開発環境を支援する 必要があると考える。 CO2 分子ゲート機構という新しい考え方はよいが、まだ仮説の段階である。分離メ カニズムが解明できれば、高分離のための精密な膜材料設計が可能になるため、大学 等も活用した CO2 分子ゲート機構解明の研究も考えられる。 なお、コスト目標を掲げることは重要ではあるが、量産効果によりコストは変動す るものでもあるため、コストはあくまで目安程度にとどめ、あまりコスト目標に縛ら れることのないようにすべきである。 国の予算によって行われる研究であるため研究成果の公開は必要であるが、科学技 術の優位性を保ち国際競争を勝ち抜くには、公開時期を遅らせるような戦略も取る必 要がある。研究期間内の特許だけでは実用化を考えた時必ずしも権利が十分に守られ るか心配であり、技術の流出(特許侵害すれすれの模倣)を防ぐ取組も強化すべきで ある。 このような技術開発では民間企業の協力が不可欠であるが、研究開発費を負担させ ては参加企業を募ることは難しい。このような研究技術開発は、開発期間5年間くら いは最後まで 100%国の補助で行うべきである。 2.今後の新規研究開発事業の実施に向けての提言 他の分離法(吸着法、吸収法等)と比較してガスの圧力を利用した膜分離法は、将 来性が高いと考えられるが、開発にあたっては、膜材料開発、膜加工、膜モジュール 化、プロセス設計、プラント設計・製造等の専門分野の垣根を越えた人の連携が必要 であり、長期に渡る安定した国の支援とともに、多くの協力者による地道で継続的な 取り組みが必要であると考える 特に気体の膜分離回収プロセスの最適化は難しいので、技術開発当初からプロセス 開発を担当するエンジニアリング企業を加え、プロセス側からの膜性能への要求を出 しつつ開発を進めるべきである。 開発目標が CO2 の膜透過速度になっているが、スパイラルモジュールと中空糸モジ ュールとではモジュールの膜面積密度(モジュール単位体積当たりの膜面積)が大き く異なり、中空糸モジュールの方が大きい。実際のプラントでは膜モジュール総体積 が問題なので、目標はモジュール単位体積当たりの CO2 透過量とすべきである。 耐久性について、1,000 時間以上著しい機能の低下がないことという目標では、 1,000 時間もてばよいということになるため、例えばトータルで 5 年の技術開発であ れば、尐なくとも 10,000 時間、望ましくは 20,000 時間程度の耐久性が求められる。 実用化段階では 5 年程度の連続運転が求められると考えられるため、長期運用での膜 性能の安定性等の確認のためには、加速試験方法も考える必要がある。
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第1章 技術に関する施策及び新規研究開発事業の概要
1.技術に関する施策の概要 2007年5月24日に発表された地球温暖化に関する総理イニシアティブ「美しい星50(クー ルアース50)」において、「世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年までに半 減する」という長期目標が提案され、その後の主要国首脳会合やCOP等を経て、この目標は 世界的なものとして認識されつつある。また、わが国の場合、その過程である中期的な目標 として、すべての主要国による公平かつ実効性のある枠組みの構築と意欲的な目標の合意を 前提に「2020年までに1990年比25%の削減」を掲げている。 経済成長を阻害することなく、この温室効果ガス削減目標を達成するためには、省エネル ギー技術、化石燃料転換や原子力発電、あるいは太陽エネルギー等の新エネルギーの利用技 術のみならず、CO2回収・貯留(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)技術などのCO2 固定化・有効利用分野の新技術の開発、進展が不可欠である。 帯水層の顕微鏡写真 空隙部分にCO2を貯留分離・回収
輸送
圧入
海上施設 より圧入 パイプラ イン輸送 分離・回収 大規模排出源 パイプラ イン輸送 地上施設 より圧入 不透水層 (キャップロック) 不透水層 (キャップロック) CO2 CO2陸域帯水層
(地下深部塩水層)海域帯水層
(地下深部塩水層)CO
2Capture & Storage (CCS)概念図
2050年における世界のCO2排出量半減を想定したIEAによる技術構成の試算では、CCS(地中 貯留)技術が発電分野で10%、産業及び転換分野で9%と合計19%寄与することが示されている。 また、植物による炭素固定も CO2 の大規模削減に寄与し得る技術であり、2009 年 12 月の 国連気候変動枠組み条約第 15 回締約国会議(COP15)では、各国の排出削減目標に関する議論 が困難を極める一方で、森林減尐・劣化からの温室効果ガス排出削減(REDD)の資金拠出が決 定されている。 2.新規研究開発事業の概要 2-1 全体概要 二酸化炭素回収・貯留(CCS)は地球温暖化対策の重要なオプションとして国際的・国
9 内的に認識されているが、実用化に当たっては実施に要するコスト、特に全体の6割以上を 占める分離回収コストの低減が課題となっている。 本事業では、CCSの実用化にあたり、従来技術である化学吸収法や物理吸収法に比べて 3分の1程度の1500円/t―CO2にCO2回収コストを低減することを目的に、二酸化炭素分離膜モ ジュール研究開発の開発を実施する。 具体的には、「分子ゲート機能CO2分離膜の技術研究開発」(H18~H22年度)で開発中の 膜素材や試作モジュールを基礎として、膜素材のCO2の透過性や選択性などの高性能化を図 るとともに、膜の連続製造技術の開発や膜モジュールの耐圧・耐久化、大型化を図るなど実 用化に向けた各技術の確立を図る。 また、分離膜の用途を広げるため、石炭ガス化発電で発生する圧力を有するガスからのCO 2分離用以外にも天然ガスからのCO2分離回収等への適用も検討する。 圧力ガスからのCO2分離例 2-2 現時点の技術開発の状況 「分子ゲート機能CO2分離膜の技術研究開発」では、従来技術の3分の1程度の1500円/t―C O2にCO2回収コストを低減することを目的に、「革新的ゼロ・エミッション石炭火力発電」 等の圧力ガスから効率良くCO2を分離する分離膜モジュールの開発と膜分離システムの実用 化の可能性を確認することを目標として実施している。 具体的には、平成22年度末までに、以下の達成を目標としている。 ①単膜レベルの段階で分離性能CO2/H2選択性が30(α=30)であり、CO2透過速度が7.5 x10-10 m3 m-2 s-1 Pa-1の耐圧型複合膜を作製して、単膜の基本性能を確認する。 ②実機サイズのモジュールを試作し、モジュール構造としての特性評価を実施して、膜モ ジュールの基本構造を完成する。 ③膜モジュールの評価手法を開発する。 2~4 MPa 石炭 200 ~ 400 oC O2 蒸気 CO + H2O ⇔ H2+ CO2 熱交換器 水性ガスシフト反応生成物 組成: CO240 vol%/ H2/ 微量成分 温度: 50~150 C 圧力: 2~4 MPa
H
2CO
2 ガス化炉 水性ガスシフト反応炉 水性ガスシフト反応10 ・優れたCO2選択性 PAMAM系デンドリマー CO2分子ゲート機能:膜中のCO2分子が H2の透過を阻止 CO2は通過可能
CO
2分子ゲート機構によるCO
2分離
CO2 N2、H2etc. 供給側 透過側 圧 力 高 低 CO2 HCO3 CO2 H2, N2 CO2 R N C O O N R H H H H R N C O O N R H H H H R N C O O N R H H H H R NH2 H2N R CO2実機膜モジュールの概念図
中空糸膜モジュール
スパイラル型モジュール(平膜)
集ガス管 非透過ガス 透過 ガス 原ガス 原ガス スペーサー 原ガス 透過ガス スペーサー分子ゲート
平膜
原ガス 非透過 ガス 透過 ガス 透過ガス分子ゲート
中空糸膜
2 - 3 新規研究開発事業の具体的実施内容 「二酸化炭素分離膜モジュール研究開発」では、圧力を有するガス源であるIGCC、天然ガ ス等から、従来技術の3分の1程度の1500円/t-CO2以下でCO2を分離・回収する技術の確立を 目指す。合わせて、1,000円/t-CO2以下でCO2を分離・回収する技術を確認する。具体的には 以下を目標とする。11 2-3-1 分離膜技術の確立 目標:第1ステップである「単膜の基本性能の確認」(実施中)を受けて、分子ゲート機 能CO2分離膜の実用化に向けて実システムで要求される耐不純物性、耐乾燥性、耐 圧性、耐久性等の「プロセス適合性」を確立する。合わせて、1,000円/t-CO2以下 でCO2を分離・回収する技術を確認する。 H22FY末までに、単膜の基本性能の確認を行い、当初の目的を達成する見込みである。こ れは分離膜の実用化への第1ステップであり、実システムに適用できる分離膜にするために は、実システムで要求される耐不純物性、耐乾燥性、耐圧性、耐久性等のプロセス適合性を 確立することが必要である。基本性能とプロセス適合性の技術を確立することにより、初め て実用に供することが可能な分子ゲート機能CO2分離膜となる。 1) 耐不純物性 IGCCの場合は、イオウ成分、煤塵が分離膜性能に悪影響を与えることが懸念される。 また、天然ガスでは、軽質炭化水素が分離膜に悪影響を及ぼすことが懸念される。さ らに、実際に用いる実ガスの種類(例えば、天然ガス田の種類)でも不純物組成が異 なることが知られている。本プロジェクトでは、IGCCと天然ガスの代表的な不純物組 成に対する不純物耐性を付与する。具体的には、用いるデンドリマー化学構造の最適 化、デンドリマーの化学固定、デンドリマーを保持するマトリックスの種類と架橋密 度の最適化を図った分離膜を開発する。 2) 耐乾燥性 分離膜に適用するガス源、前処理プロセスにより供給ガスの湿度が異なることから、 より広い湿度範囲で安定した分離性能を得るための分離膜特性である。特に、分離膜 でCO2を回収する過程でH2O濃度が下がることから、低湿度で安定した性能を得る分離 膜の開発が重要と考える。具体的には、上述の耐不純物性と同じく、用いるデンドリ マー化学構造の最適化、デンドリマーの化学固定、デンドリマーを保持するマトリッ クスの種類と架橋密度の最適化であるが、特に、膜中への水分子の保持と拡散抑制の 観点から、湿度40%~80%RHの間で著しい機能の低下の無い分離膜を開発する。 3) 耐圧性 圧力差がガス透過の駆動力である分離膜において、ガス源の元圧をそのまま使用す ることが必要膜面積の低減となり、これは膜設備の小型化、CO2分離コストの低減にも 繋がる。現行のIGCCのガス圧は2.5MPaであるが、将来的には発電効率向上のために4MP aとなることが予想されるので、IGCCの高圧化に対応した耐圧性を有する分離膜を開発 する。また、天然ガスは10MPaを超える圧力を有することから、天然ガスの元圧でも使 用可能な分離膜と膜モジュールの開発を目指す。具体的には、目的の耐圧性を有する 透過性に優れる支持膜上に耐圧性を有する分離機能層を有する複合膜を開発する。分 離機能層に関しては、高CO2圧でも膨潤を抑制する目的で、架橋密度の最適化を検討す る。 4) 耐久性 ・分離膜の耐用年限は、CO2分離コストに影響することから、耐用年数が長い分離膜の 開発が必要となる。そのために、材料開発の視点から分離膜の耐久性の向上を図り、1, 000時間以上の連続運転で著しい機能の低下の無い分離膜を開発する。 ・膜性能が低下した分離膜を再生する技術は、分離膜の耐用年数を長くする上で重要 である。本プロジェクトでは、性能が低下した膜モジュールを、膜モジュールの状態 で補修する技術を開発する。具体的には、膜性能が低下した膜モジュールに分離機能
12 層の補修成分を含む処理液を流通して、膜の分離機能層を補修する技術を開発する。 ・ガス組成の違いに起因するプロセス適合性を付与して、多くのガス源に適用が可能 な分離膜を開発する。 5) その他のプロセス適合性能 高温での使用が分離膜の性能を生かすために有効であることから、耐熱性の向上を 目指す。また、実システムに必要なその他の特性を調べ、必要となる特性、耐久性を 付与する。 6) 1,000円/t-CO2以下を可能とする分離膜(CO2/H2選択性が100)の開発 分離膜のCO2/H2選択性が100以上である分離膜の膜素材、支持膜材料を開発する。具 体的には、CO2が分離膜を透過する際の化学種である炭酸水素イオン(HCO3-)の生成を 促進する新規物質の探索、改良を行い、引続き、この新規物質の分離膜素材に安定固 定する方法、更には分離膜素材を構成するマトリックス材料の開発等を実施する。ま た高CO2/H2選択性を得るには支持膜の透過性の向上が重要であることから、ガス透過 性が大きく、微多孔性であり、優れた耐久性を有する支持膜の開発も行う。 CO2/H2選択性が100の分離膜を開発することで、CO2分離回収コストが1,000円/t-CO 2以下となる。 2-3-2 実機膜モジュールの開発 目標:連続安定製膜に必要な要素技術を確立して、実機膜モジュールに供する分離膜の安 定製造を可能とする。 1) 連続安定製膜 「分離膜技術の確立」によりラボレベルで開発した膜素材、製膜技術を用いて、実 機膜モジュールに供する分離膜を連続に安定的に製造することが必要である。膜性能 にバラツキがあると、膜モジュール性能が著しく低下する。例えば、分離膜(単糸) を1万本含む膜モジュールで数本程度の分離膜(単糸)に膜欠陥(即ち、数100ppm程度) があると、分離膜に固有の分離性能を得ることができない。 そのため、分離性能に影響の無い分離膜を連続安定製造するために必要となる要素 技術の抽出とその要素技術の確立が必要となる。 要素技術としては、溶媒乾燥等がある。ラボでは十分に時間を掛けて膜に含まれる 溶媒を乾燥することが可能であるが、連続ラインでは所定の時間内に溶媒を乾燥しな ければならない時間的な制約がある。そのため、短時間で溶媒を乾燥するためのライ ン構成を検討することに加えて、溶媒の種類の変更が必要になることも想定される。 溶媒種を変更する際には、膜原料の組成の再検討を必要とする。 2) 膜モジュールの大型化 現在実施中のプロジェクトの目標である「膜モジュール構造の完成」では、膜長が1 メートル、直径が10センチメートルの膜モジュールを製造する。 分離膜のコスト削減は、単位体積当りの膜面積を大きくすることで達成されるので、 そのために、膜モジュールの大型化が重要となる。そこで、「膜モジュール構造の完 成」の成果を発展させて、膜モジュールの大型化を検討する。 膜モジュールの大型化で想定される技術課題は、単糸の固定(ポッティング)等が ある。ポッティングとは単糸を束ねて固定することであり、モジュールの直径が大き くなるとポッティング材料の機械強度の向上が必要となる。機械強度を向上させる方
13 法は、構造体の厚みを大きくすることであるが、厚みが余りに大きくなると分離膜の 有効膜面積が減尐することから、新規なポッティング材料(エポキシ樹脂等)の選定 が必要となる。 また、膜モジュールが大きくなると膜モジュール内のガス流れに偏流が生じる可能 性が高くなることから、より精密な膜モジュール構造の設計が必要となる。その他、 膜モジュールの大型化に伴い膜モジュール部材(例えば、スパイラル膜モジュールの スペーサー等)の改良も行う必要がある。 分離膜の性能を引き出すために、使用温度を上げることが有効であることから、膜 モジュールの耐熱温度の向上を合わせて検討する。 3) 実機型膜モジュール 実機型膜モジュールを製作して、実システムあるいは近似した状態での試験を行い、 実機型膜モジュールの技術を確立する。 2-3-3 膜分離システムの開発 目標:膜分離システムの適用調査、プロセス検討データの取得により、開発した分離膜モ ジュールに最適なシステム設計を行う。 1) 膜分離システムの検討 分離膜モジュールの性能を最大限に引き出すには、分離膜システムの最適化が不可 欠である。そのため、実システムでの運用形態を調査し、開発した分離膜でのプロセ ス検討実験等から分離膜システムの最適化を行う。この最適システムには、分離膜に 導入するガスの前処理システム等も含む。 2) 膜分離プラントの概念設計 得られたエンジニアリングデータを元に、膜分離プラントの試設計を行い、CO2分離 回収コスト、エネルギーの両面から、膜分離システムの有効性を確認する。 3.事業の目的・政策的位置付け(新規研究開発事業の創設)の妥当性 【事業の目的】 CCS技術は、二酸化炭素貯留のポテンシャルが大きく、我が国においても主要なエネル ギー起源二酸化炭素排出抑制対策の一つと考えられる。CCS実用化にあたっての課題は、 コストの高さであり、全コストの6割以上を占めるのはCO2分離・回収コストである。本事 業で開発する分子ゲート機能CO2分離膜モジュールは、圧力を有するガスからのCO2の分離・ 回収コストを、実用に耐えうる分離膜モジュールで従来の3分の1程度(1,500円/t-CO2)まで大幅に低減することを目的としている。 【政策的位置付け】 本プロジェクトは、経済産業省の定める「温暖化対策の推進」施策の中の革新的技術開発 の一部として位置付けられる(次図参照)。
14 また、経済産業省では、技術開発を推進するにあたり「技術戦略マップ」を策定している。 技術戦略マップは、新産業の創造やリーディングインダストリーの国際競争力を強化してい くために必要な重要技術を絞り込むとともに、それらの技術目標を示し、かつ研究開発以外 の関連施策等を一体として進めるプランを総合的な技術戦略としてとりまとめたもので、い わば、産学官の研究開発投資の戦略的実施のナビゲーターともいうべき俯瞰的ロードマップ となっている。 本プロジェクトは、次ページに示すように技術戦略マップの中の「CO2固定化・有効利用 分野」に位置付けられる。
15 分 離 ・ 回 収 地 中 貯 留 ・ 海 洋 隔 離 大 規 模 植 林 に よ る 地 上 隔 離 石炭ガス複合発電(IGCC) 先進的超々臨界圧発電(A-USC) CO2地中貯留本格適用 地中貯留実証試験 大規模実証試験 ・地下深部塩水層貯留、廃油・ガス田貯留、炭層固定 ・輸送技術 ・溶解希釈、深海底貯留隔離など 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC) 実適用先の拡大 コストダウン 海洋隔離技術の 実適用 統合プロセスの 実証 地下深部 塩水層貯留 廃油・ガス田 貯留 炭層固定 モデル海域での実証 CO2の海洋拡散・生物影響の科学的理解 拡散シミュレーション実験によるマッチング 生物影響モデルと実験によるマッチング 影響評価・安全性評価手法開発 ▼技術 確立 地中貯留 海洋隔離 分離・貯留トータルコスト※2 7,300円/tCO2(新設石炭火力) 《分離・回収~地中貯留統合》 2010 2020 2030 2040 2050 CO2分離・回収本格適用 1,000円 台/tCO2 さらに分離膜の高圧ガ ス適用で1,500円台に ・分離膜の大型化・連続製造 更なるコストダウン 更なる適用範囲の拡大 分離 プロセス の実現 高選択性 膜開発 コストダウン ・低再生エネルギー 吸収液開発 ・未利用排熱利用 ・システム開発 化学吸収 膜分離 物理吸収 吸着 深冷分離 更なるコストダウン 更なる適用範囲の拡大 更なるコストダウン 更なる適用範囲の拡大 ▼ 分離コスト※1 4,200円/tCO 2 2,000円台/tCO2 技術 確立 持続可能な森林の管理技術 品種改良・土壌改良技術 の開発とフィールド実証 形質転換体の開発 モデル樹木→実用樹木 フィールド実証 実適用検証 実適用検証 集水・灌漑・品種改良・ 土壌改良とフィールド実証 環境耐性向上植物の創製 700→500→300mm適応 フィールド実証 実適用検証 実適用検証 植物の有用物質生産能向上 油脂、ワックス、ゴム、食料 フィールド実証・実適用検討 植物の生育が 可能な土地にお いての単位面積 あたりのCO2固 定量増大 乾燥地等不良 環境地への植 生拡大技術 産業利用の拡 大による植生 拡大 単位面積当たりの固定量 現行の1.5倍 単位面積当たりの固定量 現行の2倍 適応降水量 ~500mm 適応降水量 ~300mm 油脂等の 生産性2倍 森林管理 吸収量のモニタリングと標準化 CO2固定量の適 切な評価方法 バイオマスの革 新的利用によ る植生拡大 実適用検討とシステム構築 革新的有用物質生産 技術開発 実用化検討 セルロース、リグ ニンの革新的変 換の開発 実適用の拡大とコストダウン 実適用の拡大とコストダウン セルロース系のエタノール化 BTL(Biomass to Liquid) 競争可能なコストでの 有用物質実用化(水素、ポリマー、化成品) 100円/L(稲わら・林地残材等から) 40円/L(資源作物等から) 海外植林による固定化コスト※3 1,800円~3,600円/tCO2
CO
2固定化・有効利用分野の技術ロードマップ
※1 分離回収:新設石炭火力(830MW)、回収量:100万t-CO2/年、7MPaまでの昇圧含む、蒸気は発電所の蒸気システムから抽気 [コストベース:2001年] ※2 地中貯留:上記分離回収コスト+パイプライン輸送20km+圧入(昇圧15MPa、10万t-CO2/年・井戸) [コストベース:2001年] ※3 植林:植林周期7年伐採+萌芽再植林、バイオマス生産量20m3/ha・年、植林管理費17-31%、用地リース費:50$/ha・年) CO2地中挙動の理解と予測 地中貯留システムの効率化とコスト低減 貯留CO2の管理技術 影響評価・安全性評価 手法の開発 貯留層賦存量調査と利用拡大 新方式基礎研究/適用検討 コストダウン 大規模化 実証技術の 適用・評価 出所:技術戦略マップ2010「CO2固定化・有効利用分野の導入シナリオ」16 【国が関与する必要性】 CO2固定化・有効利用分野の技術は、民間企業の利益に直結しないものであることから技 術開発への投資リスクが高く、民間単独で取り組むことが困難なものが多い。 また、その成果が開花するまでに一般的に相当規模の投資と相当程度の研究期間を要する ものであることから、放置したままでは資金的制約等から民間に研究開発を行うインセンテ ィブが働かず実施され難いものである。そのため、資金的な開発支援や技術成果の普及を促 すための環境整備などを通じて国が積極的に関与することが必要であり、これが呼び水とな り民間企業等における地球温暖化対策に資する技術開発への更なる投資促進が期待できる。 4.新規研究開発事業を位置付けた技術施策体系図 次ページ参照。
二酸化炭素削減技術実証試験 (H21-25) プログラム方式二酸化炭素固定 化・有効利用技術開発(H11-21) 地球環境国際研究推進事業 (H14-23)【制度】 分子ゲート機能CO2分離膜の 技術研究開発(H18-22) 二酸化炭素貯留隔離技術研究 開発(H12-24) 低品位廃熱を利用する二酸化炭 素分離回収技術開発(H16-20) 二酸化炭素の海洋隔離に伴う環 境影響予測技術開発(H14-20) 京都議定書目標達成産業技術開 発促進補助金(H15-19)【制度】 バイオ技術活用型二酸化炭素大 規模固定化技術開発(H20-23) 二酸化炭素大規模固定化技 術開発(H15-19) 大 規 模 排 出 源 か ら の 二 酸 化 炭 素 排 出 削 減 技 術 大 気 中 の 二 酸 化 炭 素 濃 度 低 減 技 術 CO2分離・ 回収技術 地中貯留 海洋隔離 排 出 後 の C O 2 に 対 す る 固 定 化 ・ 有 効 利 用 技 術 の 開 発 マップ 化学吸収法 物理吸収法 膜分離 その他 帯水層貯留 炭層固定 枯渇油・ガス層貯留 その他 溶解希釈(固定式) 溶解希釈(移動式) 深海底貯留隔離 CO2隔離 変換・ 有効利用 生物による 吸収固定 Cへの分解 化学品へ の変換 プラズマ分解 マグネタイト法 その他 高分子合成法 直接水素化 電気化学還元 その他 大規模植林 による 地上隔離 海洋植物 による 吸収 動物による 吸収 マップ マップ 森林管理 単位固定量増大 乾燥地帯への植林 その他 植物プランクトンの増殖・沈殿 珊瑚礁の造成 大型海藻の育成・利用 植物プランクトン・海藻などの 培養設備生産 バイオマスの革新的 利用による植生拡大 乾燥地帯のような過酷環境下でも生育する樹木の開発 バイオエタノール化に適した樹木への環境耐性付与を遺伝 子技術により実施し、原料樹木の不良環境下での効率的な 植林技術を開発 周辺海域における海洋環境や生物影響等の評価予測手法 の開発 貯留層やシール層の地質構造、地質データの調査・解析 二酸化炭素貯留隔離の基盤技術の開発、ポテンシャル調査、 安全性評価・社会的信頼醸成 膜素材の開発、分離膜・モジュールの開発、分離システムの 検討・分離回収コストの低減 製鉄プラント等の排ガスの低熱量・再生可能な新吸収液、低 エネルギー科学吸収システム、未利用低品位廃熱回収シス テムの開発 ・・・実施中プロジェクト ・・・19~21年度終了 プロジェクト ・・・技術戦略マップ技術体系 凡例 民間企業が独自に取り組む二酸化炭素固定化・有効利用の 技術開発へ補助 諸外国と連携した革新的は温暖化防止技術の研究開発、発 展途上国への技術移転 CO2固定化・貯留分野で技術革新に結びつくシーズの基盤技 術研究 ・・・プロジェクトの目的 開発段階:基礎研究(メタン利用研究開発のみ実証試験段階) 有効性:自然エネルギーとの組み合わせで意義がある。 今後直接利用との比較検討が必要である。 開発段階:基礎研究(電気化学的還元のみ研究中期) 有効性 :化学品の製造方法としては有効な方法であるが、 炭酸塩の固定を除き、需要から考えても、二酸化炭素 の削減量はそれほど大きくない。 開発段階:いずれも基礎研究段階 開発段階:基礎研究段階 ・・・未実施技術の考察 (戦略マップより) コスト 実試験 耐久性 寿命 モデル化 信頼性あるデータ整備 CO2固定化・有効利用分野技術の概要 ・・・・・・・・実施中 ・・・・・・・・H19終了 ・・・・・・・・実施中 ・・・・・・・・実施中 ・・・・・・・・H20終了 ・・・・・・・・H19終了 ・・・・・・・・実施中 ・・・・・・・・H21終了 ・・・・・・・・H20終了 二酸化炭素分離膜モジュール 研究開発(仮称) (H23~) 今回の新規プロジェクト 長期挙動予測・影響予測評価手 法の開発(H22-26) ・・・・・・・・実施中 低コストなモニタリング技術及び断層 モデリング手法の開発 (H22-26) ・・・・・・・・実施中 二酸化炭素回収技術高度化事業 (H22-26) 高効率でのCO2回収が可能な新規な固体吸収剤の開発 コスト ・・・・・・・・実施中
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第2章 評価結果
1.事業の目的・政策的位置付け(新規研究開発事業の創設)の妥当性 地球温暖化の抑制は国際的な共通認識のもと取り組んでいる事頄であり、温室効果ガス 削減は我が国では総理自らがイニシアティブをとって行っていることから国を挙げて取 り組む必要がある課題である。政府から出された温室効果ガス 25%削減の実現には、CC Sは欠くことのできない技術であり、そのための CO2 分離回収技術開発を国が率先して行 うことは、極めて妥当である。 本事業はリスクが高く、また直接的に利益を生み出す技術でもないため民間企業が長期 に渡り取り組むにはかなり無理があり、国が先導して取り組むべき科学技術と考える。 CCS実用化にあたり、CO2 分離回収コストを従来技術に比べて 3 分の 1 程度の 1500 円/t-CO2 に低減するなどの具体的な目標値を示して実施していることは高く評価できる。 また、単に基本性能だけでなく、実用化に向けて克服すべき課題として耐不純物性、耐 乾燥性、耐圧性、耐久性等の具体的な問題点を把握して取り組むことは評価できる。 学会等で報告されている研究データもあわせてみると、本事業の分子ゲート膜の基本性 能は世界トップレベルの成果が出されている。国際的に見ても日本の膜技術は世界のトッ プに位置しており、この科学技術を維持することは国益に叶うと考えられる。 膜モジュール形式としては、スパイラル型と中空糸型の2タイプを対象としているが、 両者は基本的に開発コンセプトが異なるので、どちらかに絞ることなく、よい意味の競争 関係でどちらも開発を進めるべきである。 一般に膜材料開発には時間がかかるものであるため、目標値への到達スケジュールを達 成するためには、十分な予算と人を集中して配置できる研究開発環境を支援する必要があ ると考える。 CO2 分子ゲート機構という新しい考え方はよいが、まだ仮説の段階である。分離メカニ ズムが解明できれば、高分離のための精密な膜材料設計が可能になるため、大学等も活用 した CO2 分子ゲート機構解明の研究も考えられる。 なお、コスト目標を掲げることは重要ではあるが、量産効果によりコストは変動するも のでもあるため、コストはあくまで目安程度にとどめ、あまりコスト目標に縛られること のないようにすべきである。 国の予算によって行われる研究であるため研究成果の公開は必要であるが、科学技術の 優位性を保ち国際競争を勝ち抜くには、公開時期を遅らせるような戦略も取る必要があ る。研究期間内の特許だけでは実用化を考えた時必ずしも権利が十分に守られるか心配で あり、技術の流出(特許侵害すれすれの模倣)を防ぐ取組も強化すべきである。 このような技術開発では民間企業の協力が不可欠であるが、研究開発費を負担させては 参加企業を募ることは難しい。このような研究技術開発は、開発期間5年間くらいは最後 まで 100%国の補助で行うべきである。19 【肯定的意見】 ○先の政府から出された温室効果ガス 25%削減の実現には、CCS は欠くことのできない技術であり、 その方法論としても省エネルギー、装置の小型化、メンテナンスフリーといった装置工学上の利点 を有する膜分離法による CCS の実現は極めて重要である。 ○地球温暖化の抑制は国際的に共通認識を持たれている内容であり、かつ温室効果ガス削減は我が 国では総理自らがイニシアティブをとって行っていることから国を挙げて取り組む必要がある課 題である。 ○地球温暖化防止技術として、CCS は極めて効果の大きな実用的な技術であり、そのための CO2 分 離回収技術開発を国が率先して行うことは、極めて妥当である。 ○環境問題で日本が世界的なイニシアチブを取るには技術の裏付けが必要であるが、国際的に見て も日本の膜技術は世界のトップに位置しており、この科学技術を維持することは国益に叶うと考え られる。 ○本事業の二酸化炭素回収・貯留(CCS)事業は国際的にも有効性が認められ、オーストラリア 等の他国でも国を挙げて対応がなされていることから実施する意義が高い。 ○今回の目標にあげる低コストで膜分離法を用い CCS 技術を実用化するのはリスクが高く、民間企 業が長期に渡り取り組むにはかなり無理がある。国が先導して取り組むべき科学技術と考える。 ○CO2 分離回収技術は直接的に利益を生み出す技術ではなく、民間では取り組みにくい。国の事業 として行うべき技術開発である。 ○CCS実用化にあたり、従来技術である化学吸収法や物理吸収法によるコスト試算では分離回収 コストが全体の 6 割以上を占めていることを明らかにし、それらに比べて 3 分の 1 程度の 1500 円 /t-CO2 に低減すると経営的に採算が取れるという具体的な数値目標を挙げて取り組んでいること は適切である。そして、CO2/H2 選択性 30、CO2 透過速度 7.5x10-10 m3 m-2 s-1 Pa-1 という膜性能 の具体的な目標値を示して実施していることは高く評価できる。 ○本事業を達成するために単に基本性能だけでなく、実用化に向けて克服すべき課題として耐不純 物性、耐乾燥性、耐圧性、耐久性等の具体的な問題点を把握して取り組んでいることは評価できる。 ○学会等で報告されている研究データもあわせてみると、本事業の分子ゲート膜の基本性能は世界 トップレベルの成果が出されている。分子ゲート機能の発現という膜材料設計のコンセプトが興味 深い。 ○膜技術の開発では、ともすると膜ピースの高性能化で終わってしまうことが多いが、本技術開発 では、量産技術としての膜モジュール開発を目的に掲げており、実用化技術開発という点から高く 評価できる。 ○膜モジュール形式としては、スパイラル型と中空糸型の2タイプを対象としているが、両者は基 本的に開発コンセプトが異なるので、どちらかに絞ることなく、よい意味で競争関係でどちらも開 発を進めるべきである。 【問題点・改善すべき点】
●必要であれば All Japan を組織し(iPS 細胞で見られるような)取り組むべき課題と考える。 ●実用的な膜モジュールやそれを利用した膜分離システムの構築には、民間企業の協力が必要であ る。昨今の景気状況はまだ続くことが見込まれることから、民間企業が協力しやすいように、資金
20 面等での国の積極的な支援が必要であると考える。 ●中間評価後、更に継続が認められた場合でも、このような技術開発では企業に研究開発費を負担 させては、参加企業を募ることは難しい。このような研究技術開発は、開発期間5年間くらいは最 後まで 100%国の補助で行うべきである。 ●CCS 単独ではその需要を喚起することは難しく、石炭火力発電ビズネスとのコラボレーションが 必要である。さらに、電力会社の運転ノウハウの提供も不可欠と考えられ、これらの取りまとめと 支援を国が積極的に行い、政府主導で海外に売り込みを行う等のビジョンも示す必要がある。 ●税金で行われた研究であるため研究成果の公開は必要であるが、科学技術の優位性を保ち国際競 争を勝ち抜くには、公開時期を遅らせるような戦略を取る必要があるかと思われる。研究期間内の 特許だけでは実用化を考えた時必ずしも権利が十分に守られるか心配であり、技術の流出(特許侵 害すれすれの模倣)を防ぐ取り組みも強化すべきである。外部評価委員により適切な評価が行われ るのであれば、その公開を遅らせることは問題がないと思われる。
●CO2 分離回収の対象が IGCC に限られている点は、IGCC の開発進捗状況から考えると、膜技術開 発としては不安が残る。天然ガスからの CO2 分離回収も検討するようであるが、どの程度力を注ぐ のか不明である。 ●コスト目標を掲げることは重要ではあるが、コスト評価の方法が難しい。量産効果によりコスト は大きく変動するからである。コストはあくまで目安程度にとどめ、あまりコスト目標に縛られる ことのないようにすべきである。 ●確かに本事業の分子ゲート膜は、基本性能においては世界トップレベルであるが、実用化のため には理想的な条件(きれいなガス、安定した恒温恒湿条件等)の実験だけでは限界がある。本事業 実施者自身でも理解しておりすでに今後の検討課題として挙げられているが、実際の条件(不純物 の影響、長期耐久性等)での評価が必要である。一般に膜材料開発には時間がかかるものであるた め、目標値への到達スケジュールを達成するためには、十分な予算と人を集中して配置できる研究 開発環境を支援する必要があると考える。 ●膜材料設計における CO2 分子ゲート機構という新しい考え方はよいが、まだ仮説の段階である。 分離メカニズムが解明できれば、高分離のための精密な膜材料設計が可能になると考えられる。大 学等も活用した CO2 分子ゲート機構の解明のための研究も必要ではないか。
21 2.今後の新規研究開発事業の実施に向けての提言 他の分離法(吸着法、吸収法等)と比較してガスの圧力を利用した膜分離法は、将来性 が高いと考えられるが、開発にあたっては、膜材料開発、膜加工、膜モジュール化、プロ セス設計、プラント設計・製造等の専門分野の垣根を越えた人の連携が必要であり、長期 に渡る安定した国の支援とともに、多くの協力者による地道で継続的な取り組みが必要で あると考える 特に気体の膜分離回収プロセスの最適化は難しいので、技術開発当初からプロセス開発 を担当するエンジニアリング企業を加え、プロセス側からの膜性能への要求を出しつつ開 発を進めるべきである。 開発目標が CO2 の膜透過速度になっているが、スパイラルモジュールと中空糸モジュー ルとではモジュールの膜面積密度(モジュール単位体積当たりの膜面積)が大きく異なり、 中空糸モジュールの方が大きい。実際のプラントでは膜モジュール総体積が問題なので、 目標はモジュール単位体積当たりの CO2 透過量とすべきである。 耐久性について、1,000 時間以上著しい機能の低下がないことという目標では、1,000 時間もてばよいということになるため、例えばトータルで 5 年の技術開発であれば、尐な くとも 10,000 時間、望ましくは 20,000 時間程度の耐久性が求められる。実用化段階では 5 年程度の連続運転が求められると考えられるため、長期運用での膜性能の安定性等の確 認のためには、加速試験方法も考える必要がある。 【各委員の提言】 ○計画はよく考えられており、必要なステップを踏んで事業が進められるような提案書となってい る。事業全体の進め方には概ね賛同する。 ○他の分離法(吸着法、吸収法等)と比較してガスの圧力を利用した膜分離法は、将来性が高いと 考えられる。本事業の分子ゲート膜の基本特性は世界トップレベルに位置している。RITE を核とし て産官学の連携が必要ではないであろうか。民間企業も個々の利害にこだわらず国益を考えるオー ルジャパン体制で協力する必要がある。膜材料開発、膜加工、膜モジュール化、プロセス設計、プ ラント設計・製造等の専門分野の垣根を越えた人の連携が必要である。そのため、長期に渡る安定 した国の支援とともに、多くの協力者による地道で継続的な取り組みが必要であると考える。そし て将来は、我が国で確立されたCCS技術を海外で広く活用してもらうことも考えていく必要もあ ろう。本技術が、国際標準化競争にも乗り遅れないように注意してもらいたい。 ○技術開発には開発当初から膜モジュール製造技術開発を担当する企業を加え、連続製膜、モジュ ール化の実用化可能性を常に検討しながら、膜素材、構造等の開発を進めるべきである。 ○膜プロセス、特に気体の膜分離回収プロセスの最適化は難しいので、技術開発当初からプロセス 開発を担当するエンジニアリング企業を加え、プロセス側からの膜性能への要求を出しつつ開発を 進めるべきである。 ○開発目標が CO2 の膜透過速度になっているが、スパイラルモジュールと中空糸モジュールとでは モジュールの膜面積密度(モジュール単位体積当たりの膜面積)が大きく異なり、中空糸モジュール の方が大きい。実際のプラントでは膜モジュール総体積が問題なので、中空糸モジュールでは膜透
22 過速度は小さくても面積でカバーできる。そもそも中空糸膜開発の基本コンセプトはここにある。 従って、目標はモジュール単位体積当たりの CO2 透過量とすべきである。 ○耐圧性を持たせるため複合膜を検討することが計画されているが(おそらく中空糸多孔質膜を想 定していると思われるが)、その場合には有効膜面積の低下は避けられない。その結果、ガス透過 量は低下するため、その対策を事前に検討しておく必要があるかと思われる。 ○デンドリマーの安定性は今回の事業を実現する上での重要なポイントである。不純物等とデンド リマーとの相互作用、膜の膨潤、デンドリマーの溶出、高温でのデンドリマーの変性等、安定性に 関する詳細な検討が必要である。今回は 1,000 時間での評価を予定しているが、おそらく最終的に は尐なくとも 5 年程度の連続運転が求められると考えられる。本期間内で長期間の実験を行うこと は難しいため、膜安定性等の加速度試験を確立する必要があるかもしれない。 ○耐久性の目標を何時間までとするかは難しいところであるが、1,000 時間以上著しい機能の低下 がないことという目標では、1,000 時間もてばよいということになる。H23 スタートで H25 初めの 中間評価までの目標ということであれば、1000 時間でよいよ考えるが、更にその後開発が進むとす ると、耐久性の目標は書き換えるべきである。例えばトータルで 5 年の技術開発であれば、尐なく とも 10,000 時間、望ましくは 20,000 時間くらい必要と考える。 ○耐久性は分離温度、圧力、湿度に依存すると考えられる。耐久性の目標時間を規定する際には、 これらの条件を実用条件に設定し、明記すべきである。 ○本事業の膜の透過機序に従えば、低湿度下で如何に求められる性能を発現させるかといった新し いアイデアが将来的には必要かと思われる。
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