電磁波工学
柴田幸司
第12回 エネルギー・計測への応用
(電子レンジ・GPS
・エネルギー伝送・レーダ・電波天文)
電磁波のエネルギーとしての利用
・ 誘電加熱
・ マイクロ波加熱(電子レンジ)
・ 電磁波によるエネルギーの空間伝送
電極 電極 i 損失誘電体誘電加熱の原理
高周波 発振器 数MHz~数100MHzの電磁波を発生させ、 2枚の電極間に被加熱物を置くことにより 加熱(周波数が低いと媒質の内部にまで 電磁波が入っていける(表皮効果の逆)) 但し、物体を加熱させるためには 大きな電力が必要 一方、同軸線路に大電力の通過による加熱は主に導体損によるものである。 同軸線路 変位電流 (電界変化) t D 低い周波数だとラジエーションしなので電波 を電極間の誘電体内に閉じ込めやすいマイクロ波加熱(電子レンジ)
1. マグネトロンにより、強力(たとえば500W) な電磁波を発生 2. ある単一の電磁波(2.45GHz)のみ を閉じ込め、庫内に定在波(時間平均 した電界強度が強い部分)を発生(共振) 3. 共振器内に配置された食品の水分が 2.45GHzの振動数で振動することにより 物体を加熱共振器とは ・・・ 境界条件により内部に定在波を生じさせ電磁波
を閉じ込める構造(空洞、誘電体、電線など)
庫内(共振器) 導波管 マグネトロン http://ja.wikipedia.org/wiki マグネトロン断面 マグネトロン・・・管に永久磁石により強力な磁場を印加し、周囲の 空洞を電子流が通過する際に強力な電磁波を発 生させる真空管の一種(もともとは、第2次大戦中 にレーダ用の高出力発振器として1927年に日本、 1940年にイギリスにて開発、その後にアメリカの Raytheon社が量産技術を確立) →直流電力をマイクロ波に変換金属導体 陰極 円運動の 作用空間 陽極
マグネトロン(磁電管)
動作原理 1. 陰極と陽極に直流電流を加え て電界を発生させ 2. 単一陽極間の電界に直交す る(軸)方向に永久磁石により 磁界をかけると電子は陰極 を囲んで円運動を行い 3. 左図の横断面の様に陽極に 多数設けられた共振回路の マイクロ波電界により電子 が加速または減速を受ける。 4. この回転電子流が集群作用 により疎密(密度変調)つまり この羽の製 作精度が発 振の安定性 に大きく影響 電子の粗密により電流によ る電磁界がマイクロ波にマグネトロンの動作原理(発振前)
電子の存在する作用空間内は陽極-陰極間に印加された電圧と軸方
向の磁界により直交場となっている。
ドリフトにより電子は陰極付近を回転
金属導体 (陽極) 共振空洞 作用 空間 陰極 zB
0 e 0E
dv
B
E
電子の運動方向マグネトロンは図に示したような構造をしている。同心円状の陽極と陰極を持っており、陽 極はいくつかに分割されそれぞれに共振器が接続されているが、通常この共振器は空洞 共振器である。 陽極と陰極には高電圧が印加され、軸方向には磁界が印加されているので、陽極と陰極 の間は直交場となっている。直交場ではExBドリフトにより荷電粒子は符号によらずExBの 方向にドリフトするので、陰極から飛び出した電子は陰極付近を回転することになる。 この回転速度と作用空間内の電磁界の伝播速度を一致させることで効率よくマイクロ波を 励起することができる。 次ページの図はマグネトロンが発振状態にあり、共振器内に電磁界が存在する場合の電気 力線を示した図である。ここでは印加電圧による電界は無視している。 このとき電子は位置によって異なった動きをする。陽極片付近では電界はr方向が強いので、 電子はΘ方向にドリフトする。その結果として電子はこの部分に集まることになるが、これを 集群作用と呼ぶ。 共振空洞入り口付近では電界はΘ方向が強くなっている。そのため電子は陰極または陽極 方向にドリフトする。陽極方向にドリフトする場合には電子はポテンシャルの低い方向へ移動 するが、直交場の中ではドリフト速度は一定のため、電子はエネルギーを失う。その結果とし て印加電界から電子を介して電磁界へエネルギーが移る。 一方、陰極方向へドリフトする場合には電子はポテンシャルの高い方向へ移動するが速度 は保たれるので、電子はエネルギーを得る。そのため電磁界から電子へエネルギーが移る。
マグネトロンの動作(発振時)
• 発振状態のマグネトロン中での電子の動きは電磁界の位相によっ
て異なる。
• 集群作用を受ける電子はポテンシャルエネルギーを失うが、
ドリフトのため速度は変化しない。
ポテンシャルエネルギーが電磁界へ
-陰極 陽極-
E
s J
0
0
s J
E
電磁界→電子 電子→電磁界-
-zB
0 集群作用を受ける電子+
+
-
-B
E
この様に、電場と磁場が直交する構造のものを直交電磁界型または交差電磁界 型(M型)と呼んでいる。 この型の発振管は多数の共振回路を持ち(その数を分割数と呼ぶ)変調が加重 されるのできわめて発振能率が高いが 反面、個々の共振回路のQ値がクライストロンなとの単一空洞に比べて低い(伝 送線路との結合係数が大きい)ので、負荷の整合の影響を受けやすく注意を要 する。 また、隣同志の共振回路がπ/2の位相差となる様に1つおきの極片が図のように 円環により接続され、全体として単一の位相で動作する様になっている。 マグネトロンは発振すると、電子の一部が反転して陰極を衝撃して加熱するの で、発振時にはヒータ電圧を下げるものが多い。 これらの動作条件はそれぞれの特性表に示されている。 さらに、マグネトロンの出力は一般に先の図の様なアンテナにより取り出される ので、これを安定させるためには整合回路が重要となる。
P
W
Q
, P≒0なら、Q≒∞誘電体損失を利用した電磁波による加熱の原理
絶縁体に電界を加えると、物質を構成している正および負の電荷の位置が変化 するが、これを誘電分極と言う。 この時、電界の方向に双極子モーメントが発生する。 なお、高周波における一般的な分極現象は“双極子分極”であり、分子が電子分 極を作ることにより通常は自由に回転して各方向に向いているが、電界を加える と方向の分布が変化し全体の平均モーメントが零で無くなることによる分極である。 ここで、ある種の物質、たとえば水の場合には、外部から電界を加えなくても最初 から双極子モーメントを持っているので、これを永久双極子と呼ぶ。 1. 永久双極子を持つ物質(誘電体)に交番(交流)電界を加えると、双極子分極 も交番的に発生する。 2. 周波数が高くなるにつれて、その変位が電界の変位に対して遅れを生ずる。t j
e
E
E
0
損失媒質内ではDはEよりも位相がδ遅れるが、このδと損失量との関係について 考える。 今、加えられた交番角周波数をωとすると、電界強度Eは時間tに対して次式となる。誘電加熱
E0(電界) 損失誘電体(水) 損失電力P'
'
j
'
r r r
比誘電率 損失項 D=ε・
EE
E
e
jt 0 PとE0とεrとの関係を知る必要! そして、この電界により生じる電気変位 D[c/m2](電束密度)は電界に対する損失 による位相の遅れをδと定義して 変位電流ではない(注)) ( 0
j te
D
D
と表し、DおよびEとεとの関係について考えてみる。すなわち、誘電体の誘電率を ε、真空の誘電率をε0、誘電体の比誘電率をεrとおくと、 r
0
なる関係より
j t j j t j t j t j re
E
D
e
E
e
e
D
e
E
e
D
E
D
0 0 0 0 0 0 0
E
D
r
0 となるので、DおよびEを代入して オイラーより である。D
E
となる。よって、複素比誘電率をあらためてε’とε’’により次の様に方程式を実部 と虚部に分離できる。
cos
E
D
'
r 0 0 0
sin
E
D
'
'
r 0 0 0
,'
'
j
'
r r r
,
cos
j
sin
E
D
0 0 損失内での位相遅れ ここで
r
r'
j
r'
'
ここで、複素比誘電率における実部のεr’は誘電体の比誘電率、虚部のεr’’ は誘電体損失を表す。また、これらの関係式より実部と虚部をそれぞれε0=・・・ の形に変形してε0=ε0なる関係より方程式を組み立てると
E
sin
D
'
'
cos
E
D
'
r r 0 0 0 01
1
となり、εr‘’、εr’、δとの関係で表すと
'
tan
cos
sin
'
'
'
r r r
と表せば、δは損失角、tanδは誘電正接と 呼ばれ誘電体損失の特性表示に用いられる。)
cos(
0
D
t
D
)
sin(
)
sin(
)
cos(
)
cos(
0 0t
D
t
D
次に誘電体内における損失電力を計算するために、実際に内部での伝搬に寄与す るEおよびDの実数部のみについて考えると、まずEは)
cos(
0t
E
E
となる。一方、電束密度D
は
A B
cosAcosB sinAsinBcos
t
j
sin
t
cos
e
jt
なる関係を用いれば
t
sin
j
t
cos
D
e
D
D
0 j t 0 だが、実部だけを考えるととなる。したがって、定義した電流変位(電束密度)Dを時間で偏微分すれば、こ れがまさに変位電流であり次式を得る。
)
cos(
)
sin(
)
sin(
)
cos(
0 0t
D
t
D
t
D
Eと同位相の電流成分が熱損失となるから、誘電体の加熱に費やされる電力Pは
sin
E
D
E
sin
D
E
P
0 0 2 0 0 0
こっちの 成分 ここ となる。そこで、この誘電体の加熱電力Pの表現式にε’’を導入する。すなわち
f
E
'
tan
f
E
tan
P
2
02
0
r
2
02
となり、誘電体内での電力損失は周波数f、電界Eの2乗、および損失係数ε’’に 比例することが分かる。'
'
sin
E
D
r
0
0 0 であるからこれを 代入すればP
E
0
r"
2 0 より となる。さらに
r'
'
r'
tan
であるからt
E
P
0D
と定義すれば ω実際にマイクロ波などにより加熱を行う場合には、容器の壁などによる熱放射損失、 負荷の不整合による反射損失などにより加えられた電力と比加熱物の消費熱量の 間に差を生ずる。 そのため、加熱効率 η を考える必要がある。 まず、エネルギーの表現単位としてカロリー[cal]、ワット時[Wh]、ジュールの間には 次の換算式がある。
]
[
2
.
4
]
[
10
16
.
1
]
[
1
cal
3Wh
J
よって、M[kg]の物体をt[sec]加熱して温度をΔT[℃]上昇させるのに必要な電力 P‘[W]は、物体の比熱をc[cal/(kg・℃)]、加熱効率をηとすれば]
[
1
2
.
4
'
W
t
T
c
M
P
となる。一般に加熱効率をη=0.7~0.8とすれば概略の必要電力を見積もる場合に は問題が無い。 電子レンジによる加熱時間の算出 1. 物体による消費電力の計算 2. 上記式により上昇時間の計算 4.2J=1calここで、水の比熱はc=1・103[cal/(kg・℃)]=4.186[J/kg・℃] であるから 1kgの水を1秒間加熱して1℃上昇させるのに必要な電力は、η=0.8とすれば
8
.
0
1
10
2
.
4
1
8
.
0
1
1
10
1
0
.
1
2
.
4
'
3
3
P
310
25
.
5
[W] となる。 逆に、500Wの電子レンジを使用して1kgの水を1℃上昇させるのに必要な時間は4
.
8
500
1
10
1
0
.
1
2
.
4
'
2
.
4
3
P
T
c
M
t
より10
.
5
[sec]
8
.
0
4
.
8
t
となる。よって、1kgの水を10℃上昇させるためには105秒を必要とすることになる。 0.5×103 また、業務用の1500Wの電子レンジを使えば加熱時間は1/3となることも分かる。 M:質量 C:比熱 ⊿t:温度変化 η:加熱効率 t:加熱時間 500Wなら 100g電磁波の浸透の深さ
誘電体に照射された電磁波は、誘電体損失により吸収されて熱エネルギーに変 換される。内部に入るにつれて電界強度が小さくなり、損失係数の大きな物質ほど 内部の加熱がしにくくなる。得に、マイクロ波加熱においてこの現象は著しい。 誘電率ε、透磁率μ、導電率σの媒質中の電界の波動方程式より伝搬定数γは
j
j
j
で表される。そこでポインティングベクトルについて
太陽光を考えれば容易に推測がつく様に、電磁波自体もエネルギーであり、ある 単位面積を通過する電磁界(電界と磁界)よりH
E
S
[W/m
2]
をポインティングベクトルと呼ぶ。さらに、面積S
を通過する電力はds
SS
n
P
[W]
ベクトル積 により計算される。
2 1 22
1
tan
1
2
r r となり、電界の強さEx=E0e-αxが1/eとなるxを求めて、これを浸透の深さdとす る。誘電体内ではμr=1とするとdは
2 1 21
tan
1
2
2
1
r rd
[cm] となる。この式で分かるように、浸透の深さdは、周波数と√ε・tanδに反比例す るから、ε、tanδの大きい物体を深く加熱するには周波数を低くとらなければなら ない。 山下著、“応用電磁波工学,”pp.193-198, 近代科学社 [Np/cm] とおいて、伝搬定数の実数部分としてα(減衰定数)を求めると r r
0 0 ,
f
v
0 01
tan
,電磁波加熱の特徴
誘電体加熱は誘電体損失による内部過熱だから、従来の外部からの加熱方式 に比べ幾つかの長所を持っている。ただし、金属が混入している場合は、電界の 集中により放電を起こしやすいので、誘電加熱は適さない。電磁波加熱の長所
1.加熱に要する時間が短い 一般に誘電体は熱伝導が悪いので、外部加熱方式では内部温度を上げ るのに相当な時間を要する。しかし誘電体自体の発熱による加熱では、電 力密度を大きくとることにより、急速な加熱を行うことが出来る。 2.均一加熱が出来る 外部加熱方式では、被加熱物体の外部と内部の温度差を生じやすいが、 誘電加熱では、電界が均一になるように工夫すれば、温度を均一に上げ ることが可能であり、表面部分が局所的に焦げることが無い。 山下著、“応用電磁波工学,”pp.198-199, 近代科学社3. 熱効率が高い 電磁波エネルギーは他の熱源に比べると高価ではあるが、被加熱物のみに エネルギーが吸収され短時間に加熱できるので、外部に逃げる熱が少なくて すみ、高い熱効率が得られる。 4. 選択加熱ができる 材料の損失係数の差を利用して、選択的に加熱することが出来る。例えば木 材の接着部分を重点的に加熱し、接着剤の硬化を促進することが出来る。 5. 温度制御が容易 誘電加熱の電源の制御により簡単に温度調整でき、また起動時間も短くて済 む
アンペアの右ネジの法則
・電気が流れると、その周囲に磁界が発生
・電流が右ネジの方向に流れると、磁界はネジの回る方向に発生
・電流が右ネジを回す方向に環状に流れると、磁界は右ネジの
進む方向に発生
磁界H 電流 I 磁界H 電流 I電流 → 磁界
ファラデーの法則
N巻の導線回路に鎖交する磁束Φが時間的に変化すると、
回路には電圧eが誘起される。
t
N
dt
d
N
e
磁束の時間変化 電圧磁束Φ
誘導電流I
磁界 → 電流
電流と磁気を利用した加熱
・電磁調理器(IHクッキングヒータ)
コイル 磁力線 磁力線 鍋(鉄) うず電流 ・コイルに電流を流すと磁力線が発生 ・鍋の金属中にうず電流が発生 ・金属の抵抗成分により熱が発生 鉄損(透磁率の虚部の)大きい 磁性体2m離れて60Wの電力伝送、インテルがIDFでデモ
~磁界の共振現象(LC共振)を利用~
米インテルのジャスティン・ラトナーCTO(最高技術責任 者)は8月21日、サンフランシスコで開催中のイベント「2008 Intel Developer Forum」(IDF)の基調講演で、同社が取り 組んでいるワイヤレス充電技術「Wireless Resonant Energy Link」(WREL)に関するデモンストレーションや、用途によっ て形状を変えるデバイス、ロボット技術など、現在同社が 開発中の技術や未来の技術について語った。 インテルのブログサイトにアップロードされたワイヤレス電力 伝送のデモンストレーション映像。電球が付いているコイル には、電源やコードが何も付いていない。 WRELは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のマリン・ソウル ヤチーチ(Marin Soljacic)教授が2006年に発表し、2007年に 電球を灯すデモンストレーションで実用への可能性を示した 研究を元にしているという。 従来、ワイヤレスで電力を送る方法としては、電磁誘導によ る方式と、周波数の高い電磁波を使う方式が知られていた。 電磁誘導方式は、変圧器や電動歯ブラシの充電器など水回りで使う家電で実用化されている。2つの コイルを近接させて電力を送るため、この方式では距離を広げることができない。一方、電磁波を使う 方式は信号伝送には向いていても、全方向に照射されるためエネルギーの伝送効率が悪い。逆に指 向性を高めると、場所が固定されたデバイス以外で利用しづらいという課題があった。また、高出力で は人体への影響が大きく、汎用技術としては使えない。
これに対してソウルヤチーチ教授が考えたのは電磁波を使わず、数MHzオーダーで 振動する磁界の共振現象を用いるというアイデア。2007年6月付けのMITの発表文 によれば、ちょうどブランコと同じ周期で足を振ることによって、乗り手がブランコに対 して効率的にエネルギーを伝えられるのと同様の原理という。特定の周波数に対し て敏感に反応する物体を用いることで、周囲のほかの物体に影響したり、影響され たりすることなく、効率的にエネルギーを伝えられるという。 ソウルヤチーチ教授のこの方式を使えば、携帯電話やノートPCなど、部屋の中のどこにいても充電 できるデバイスを実現できる可能性があるという。エネルギーを受け取るデバイスがない状態では、 電力ロスがほとんどないのも特徴。 古くから知られている物理現象であるのに、な ぜ今まで誰も磁界の共振を電力送信に用いる ことを思い付かなかったのかという問いに対し て、共同研究者の1人、ジョン・ジョアノポロス (John Joannopoulos)教授はMITの発表文の中 で、「過去には、こうしたシステムに対する強い 需要がなかったので、誰も関心を払うほど強い 動機がなかったのだ」と指摘。ノートPCや携帯 電話やiPod、家庭用ロボットが広まったおかげ で、それらの充電問題が注目されるようになっ たのだろうとしている。 http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080823 _intel_wireless_power_system/ より
ソニーが磁界共鳴型による高効率な「ワイヤレス給電システム」を開発
ソニー株式会社(以下、ソニー)は、電源コードを接続することなく、テレビなどの電子機器へ、離れた場所から高効 率で電力を供給できる「ワイヤレス給電システム」を開発しました。このシステムにより、60Wの電力を50cm離れた 電子機器に高効率(送電・受電デバイス間約80%、整流回路含み約60%)で給電することが可能となりました。 今回開発した「ワイヤレス給電システム」には、磁界共鳴型の非接触給電技術を採用しています。磁界共鳴型と は、送電デバイスから供給された電力エネルギーが空間を介し同じ周波数で共鳴している受電デバイスのみに伝 播する方式であり、デバイス相互の位置関係がずれていても高効率の給電が可能となります。また、送電・受電デ バイス間に金属があっても、その金属が熱くならないという特長があります。 ソニーが新開発した「ワイヤレス給電システム」では本方式をもとに、当社が通信・放送分野の商品開発で長年培っ てきた高周波伝送技術を応用して開発した、高速・高効率整流回路を搭載し、整流を含めても約60%という高い給 電効率を実現しました。加えて、送電・受電デバイスと同じ周波数で共鳴するレピータデバイスを開発し、これを送 電・受電デバイス間に配置することでその給電効率を維持したまま、給電距離を50cmから80cm*まで伸ばすことに も成功しました(*デバイスのみの基礎実験において)。 近年、電子機器がネットワーク化され、そのために接続するコードの数も増加する傾向にあります。データ伝送に おいては、Wi-Fiをはじめワイヤレス化が進んでいますが、電力供給に関してもワイヤレス化のニーズは年々高まっ ています。 ソニーは、数cm以下から数十cm以上までの広い範囲、かつ小電力から大電力まで、電力供給のワイヤレス化の 様々なニーズに対応すべく、今後も、本ワイヤレス給電技術の電子機器全般への応用の可能性について、更なる 研究開発を継続してまいります。 開発品の主な特長 整流回路含め高効率な給電を実現 1 . http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200910/09-119/ より ソニーが長年培ってきた高周波伝送技術を応用し、新たに最適な素子を用いて高速・高効率な整流回路を開発しまし た。これにより送電デバイスから受電デバイスに伝送された高周波電力を電力ロスが少ない高い効率で整流すること ができ、テレビやノートパソコン等の電子機器を動作させることができます。 ~60Wの電力を伝送し、50cm離れた電子機器を駆動~<「ワイヤレス給電システム」の原理ブロック図 > 送電・受電デバイスと同じ周波数で共鳴するレピータデバイスを開発し、これを送電・受電デバイス間に配置するこ とで、その給電効率を維持したまま、給電距離を伸ばすことが可能です。デバイスのみの基礎実験では、50cmか ら80cmまで給電距離を伸ばすことに成功しました。この結果、サイズの小さいデバイスを用いた場合にもサイズの 大きいデバイス使用時と同様の給電距離と給電効率を維持することも可能となります。 独自開発のレピータデバイスによる給電距離の伸張と給電効率の向上を実現 2 .
電磁波によるエネルギーの空間伝送
1100km
送電系(スペーステナ) 一辺が135mの正方形・送信アンテナ (効率62.5%以上) 出力 : 16MW 周波数 : 2.45GHz 直径2000mの 受信アンテナ 受電系(レクテナ) 検波により 直流電圧に変換 太陽電池 による発電 体に悪くないのか? →単位面積あたりの照射 電界強度は少ないの で大丈夫 太陽発電衛星(Solar Power Satellite) →1970年代・米国による
SPS2000プロジェクト →日本国・宇宙科学研 究所による
GPSの仕組み
カーナビなどのGPS受信機は複数のGPS衛星からの信号を受信しその情報に基き計 算によって現在位置をある誤差の範囲で求めています。
余談ですが、GPS衛星からの情報はCDMA(code division multiple access)という変 調方式が採用されていますが、これは大変利便性の良い変調方式のため、私達が現 在使用している携帯電話(3G:第三世代)もこの方式を取っています。 地上のGPS受信機が複数のGPS衛星の情報を捉えて現在位置を正確に導く原理を 難解な数式はいっさい用いずに説明を試みたいと思います。 GPS衛星にはとても正確な時刻を刻む(したがってとても高価な)原子時計が搭載さ れています。 GPS衛星は地上に向けて正確な現在時刻と衛星の現在の軌道情報を送信し続けて います。 地上約20000kmの高度のGPS衛星からの信号を地上のカーナビなどの受信機が受 信するまでには、いかに電波が光速(秒速約29.97万km)で飛んでくるとは言えコンマ 何秒かの遅れが生じます。 つまり衛星の正確な発信時刻と受信機側の正確な受信時刻の時間の遅れが正確 にわかれば、その遅れの時間に光速を掛けることによってその衛星までの距離がわ かります。
数学的な話が続いて恐縮ですがもうしばらくお付き合いください、一個の衛星からの 距離が分かっても地上の現在位置を特定することはできません。 一般に空間上のある点から、距離R離れた点の集合は、半径Rの球面を構成しま す。 そこで受信機は別の2個目の衛星からの情報も受信し、その衛星との距離も計算 します。 こうすることで2つの球面の交わり部分(一般的には円になります)の線上に自分が いることを絞り込むことができます。 さらに、3個目の衛星からの情報も受信し、その衛星との距離も計算します。 最初の2個の情報で得た円と3個目の球面を交わらせると、ついに空間上の2つの 点のどちらかが自分の座標であることが導かれます。 2つの点のうちGPS受信機は地上を指し示す点(もう一点ははるかかなたの宇宙空 間を指しています)を自分の現在位置と認識するわけです。 数学的原理では、このように三点測量と同じ原理で3個の衛星から受信できれば現 在位置を導くことが可能なのです。
しかし実際には4個目の衛星からの情報も必要なのです。 カーナビなどの地上の一般的なGPS受信機には高価な原子時計など使うわけ にはいきませんから、受信時刻のほうは実際には無視できない誤差が必ず発生 しているからです。 したがって空間座標(x,y,z)の3変数だけでなく誤差δ(デルタと読みます)の4 変数を解くためには、式を4つ連立させなければ解けないために、4個目の衛星か らの情報も受信して、誤差を含めてすべての変数を求めることになるのです。 つまりGPS受信機が現在位置を計算するためには最低4個のGPS衛星の信号 を拾う必要があるので、最初に説明したように31個のGPS衛星の軌道は、地球上 の主だったどの地点でも常時最低4個以上のGPS衛星の信号が受信可能なよう に計算されているわけです。
レーダとは
ミリ波レーダ・ヘッド
http://www.mitsubishielectric.co.jp/automotive/advanced_technology/pdf/0009111.pdf アンテナから電波を照射し、物体
レーダの用途
地中・雪中探査
車両間距離
の測定
雨雲などの観測
(気象レーダ)
レーダの基本回路(パルスレーダ)
パルス 駆動回路 パルス 発生回路 信号 処理回路 送信アンテナ ミリ波発振器 (FETタイプ) LOGアンプ IFフィルタ ミクサ RF-LNA ターゲット送信回路
ミリ波発振器 (ガンタイプ)受信回路
送信波 反射波 受信アンテナ IF-LNA LNA・・・ローノイズアンプ (増幅器)FM-CWレーダの場合
C
f
Rf
f
f
f
d
t
r
4
m
送信周波数:ft 反射波とのビート周波数:fr 差分周波数:fd 変調周波数:fm=1/T 周波数変化幅:Δf 電磁波の速さ:c 距離:R・オシレータより三角波を発生
・FM変調器でFM変調させ方向性結合器に入力
・観測目標に向けて放射
・受信波をミクサに入力し、出力を得る
FM-CWレーダ実験回路
FM-CW回路図
実験風景
方向性
結合器
のこぎり波 発生器 マイクロ波 発生器 遅延回路 ミクサ2009年2月12日 株式会社富士通研究所 世界初!CMOS技術を適用した77GHz車載レーダー用RF送受信ICを開発 株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、90ナノメートル(以下、nm)世代のCMOS技 術(注2)を適用した、77ギガヘルツ(以下、GHz)の高周波信号を処理する車載レーダー用のRF送受 信IC(注3)を世界で初めて開発しました。 このRF送受信ICは、今回新たに開発した磁界を利用した信号分配回路やインダクタ素子(注4)を活 用した回路設計などの小型化技術を適用し、送受信機能の1チップ化を実現したものです。チップサ イズも1.2mm X 2.4mmと、従来、学会などで報告されているCMOS技術を適用したミリ波帯(30 GHz ~300 GHz)用途のRF送信ICやRF受信ICのなかでも、世界最小サイズを実現しています。 この技術により、RF送受信ICやベースバンドIC(注5)などの複数のチップで構成されている車載レー ダーの信号処理回路を、1チップのICに集積し小型化することが可能となり、車載レーダーの大幅な 低価格化と普及が期待できます。 本技術の詳細は、米国 サンフランシスコで2月8日から開催されている国際固体素子回路会議 ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)にて発表しました。(発表番号18.3)
背景 ミリ波と呼ばれる高周波電波は、波長が短く2点間の距離の高精度な測定が可能となるため、高精度 レーダーシステムなどに利用されています。中でも、民生用に割り当てられている77 GHzの周波数を 利用した車載レーダーは、車両の衝突緩和レーダーとしてすでに実用化されており、さらなる普及を 目指して、小型化・低価格化に向けた開発が進められています。 この車載レーダーにおいて、77GHzの高周波信号を直接処理するRF送受信ICには、現在、高周波 特性に優れた化合物半導体(注6)が適用されています。その一方で、低周波に変換した信号を演算 するベースバンドICには、高集積・低消費電力性能に優れ低価格なCMOS回路が用いられています。 化合物半導体素子を適用したRF送受信ICとCMOS技術を適用したベースバンドICは、適用技術が 異なり1チップに集積することができないため、複数のチップを用いて車載レーダーを構成する必要が あり、小型化が難しく、チップ単価、実装・試験コストが増大していました。 一方、CMOS回路は、近年の微細加工技術の進展により動作速度および動作周波数が化合物半導 体並みに向上してきています。そのため、RF送受信ICを化合物半導体から低価格なCMOS回路に置 き換えるための研究が加速しています。77GHz車載レーダーのRF送受信ICもベースバンドICとの1チッ プ化による小型化・低価格化が期待され、その研究が進められています。富士通研究所は昨年、ミリ 波帯用途向けにCMOS回路技術を開発し、77 GHzで動作するRF送受信IC用の高出力増幅回路を 実現していますが、さらに低価格な車載レーダーを実現するためには、機能の集積化とチップの小型 化技術などが必要となります。
課題 CMOS技術による、77GHz 動作の小型なRF送受信ICの実現には、それぞれの回路において、以下 のような課題がありました。 信号分配回路と変換回路: RF送受信ICでは送信回路部と受信回路部のそれぞれに77GHzの基準信号を供給します。そのため、 2系統に基準信号を分配するための信号分配回路が必要になります。さらに、雑音を低減するため に、それぞれの基準信号を差動(2本の信号線を用い逆位相で対となる信号で伝送する)信号に変換 する変換回路が必要です(図 1(a))。これらの回路はサイズが大きく、レイアウト配置の最適化や回路 全体の小型化が困難でした。 整合回路: 従来、77 GHzもの高周波信号を効率よく伝達するための整合回路には、設計精度を確保しやすい伝 送線路(注7)素子が用いられています。伝送線路素子は、信号線とグラウンドを対としたレイアウト構 造が必要なため、素子サイズが大きくなり、チップの面積が大きくなっていました。 技術の概要 今回、RF送受信ICを小型化する以下の2つの新しい設計技術を確立することにより、90nm世代の CMOS技術を適用した77GHzで動作可能なRF送受信ICを、世界で初めて実現しました。 磁界を利用した信号分配回路: 磁界の変化で電流を生成する電磁誘導の原理を用いたトランスフォーマー(変圧器)を用いることに より基準信号を2系統の差動信号に分配する回路を開発しました (図1(b)) 。これにより縦横80マイ クロメートル(以下、µm)と、従来の分配回路に比べ、100分の1以下の面積を実現しました。 設計精度と小型化を両立する整合回路の設計技術: 設計精度よりも面積低減が重要な回路部位にはCMOS技術の特徴である多層配線構造を利用し た小面積のインダクタ素子を伝送線路素子の替わりに適用し、設計精度が必要な回路部位には伝 送線路素子を適用する設計技術を確立し、77GHzでの正確な動作と回路面積の小型化の両立に 成功しました。
効果 上記の2つの技術の組み合わせにより、世界で初めて、CMOS技術による77GHz 動作が可能なRF 送受信ICを実現しました(図2)。チップサイズも1.2mm X 2.4mmと、従来、学会などで報告されてい るCMOS技術を適用したミリ波帯用途のRF送信ICやRF受信ICのなかでも、世界最小サイズを実現 しています(図3)。 本技術は、77 GHzの高周波信号を処理するRF送受信ICを、低周波演算処理を行うベースバンド ICと同じCMOS技術で実現するもので、制御回路を含めた車載レーダーの信号処理回路を1チップ 化し、小型化することが可能になります。1チップ化が実現すれば、従来、化合物半導体を適用して いたためRF送受信ICに内蔵できなかった試験機能や環境温度による特性変動の自己調整機能な ども、チップ内に搭載できるため、ICチップの実装・試験コストを大幅に削減し、車載レーダーの大 幅な低価格化と普及が期待できます。 図2 RF送受信IC回路ブロック図
図3 77GHz動作 RF送受信ICチップ ( 1.2 mm X 2.4 mm )
今後
今回開発したRF送受信ICに、環境温度による特性変動を自己調整する機能やベースバンド回路を 内蔵する技術の開発を進め、より高機能・高性能な車載レーダー用ICチップを実現していきます。