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目次 Ⅰ. 業界概要 化学産業の沿革 市場構造... 2 Ⅱ. 業界環境 主要企業の特色 収益動向 市場動向 我が国メーカーを取り巻く環境変化... 9 (1) 基礎化学... 9 (2) 機能性化学..

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企業調査部 2016 年 11 月 【要 約】

幅広い用途で利用される化学品の需要は、概ね経済全体の動向と連動する ことから、今後も高い経済成長が期待される新興国を牽引役に、増加基調 を辿る見通し。

もっとも、我が国を取り巻く競争環境は各事業により大きく異なっており、 基礎化学・機能性化学に分けた場合の方向性は以下の通り。  価格選好の色彩が濃い基礎化学では、コスト競争力に劣る我が国メーカ ーを取り巻く環境は厳しさを増す  幅広いユーザーニーズへの対応力が求められる機能性化学では、一部製 品で価格競争が生じるも、ノウハウの蓄積、専門的な技術で勝る先進国 メーカーが引き続き高い競争力を保持

主要企業の収益動向をみると、我が国総合化学メーカーは、同じく基礎化 学・機能性化学の双方を手掛ける BASF、Dow Chemical、DuPont といった 欧米メジャーに及ばない状況が続く。

欧米メジャーの戦略は各社各様であるが、中には我が国総合化学メーカー への示唆を含むものもある。我が国総合化学メーカーの置かれた環境を踏 まえると、今後求められる戦略の方向性として下記の点が挙げられよう。  事業売却・合弁事業化を通じた非コア事業の切り離しにより、事業ポー トフォリオの強化を推進  基礎化学では、不採算事業のリストラを実施  機能性化学では、海外での共同開発拠点の設置、特定のユーザー業界へ の注力を通じてニーズ対応力を強化 取引先情報 写・配布用写以外コピー厳禁

A-1

産業レポート

化学業界の現状と展望

山田 智則 戦略調査部 企業調査室 株式会社 三菱東京 UFJ 銀行

A member of MUFG, a global financial group

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企業調査部 Ⅰ.業界概要...1 1.化学産業の沿革...1 2.市場構造...2 Ⅱ.業界環境...4 1.主要企業の特色...4 2.収益動向...6 3.市場動向...7 4.我が国メーカーを取り巻く環境変化...9 (1)基礎化学...9 (2)機能性化学...10 Ⅲ.我が国総合大手メーカーに求められる戦略...12 1.欧米化学業界の再編動向...13 2.Dow ChemicalとDuPontの再編...18 3.欧米メジャーの戦略分析...21 (1)ポートフォリオの入れ替え...21 (2)基礎化学・機能性化学における取り組み事例...24 4.我が国メーカーに対する示唆...29 (1)ポートフォリオ管理の高度化...30 (2)グローバルでのニーズ吸収・販売体制の構築...31

【 目 次 】

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1 企業調査部 (資料)フレッド・アフタリオン「国際化学産業史」、日本化学工業会資料などをもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 <主な出来事> □質量保存の法則を発見(1774年) ●産業ガスの生産開始(1902年) □化学式の確立(1828年) ●レーヨンの生産開始(1905年) ●尿素の合成に成功(1828年) ●合成プラスチックが登場(1909年) ●合成肥料の生産開始(1843年) ●アンモニアの大量合成法が確立(1913年) ●染料の合成に成功(1856年) ●石油を粗原料とする製品生産が開始(1920年) ⇒副産物のタールを利用して、様々な化学薬品の開発が進む ●炭素繊維の生産開始(1967年) ●ダイナマイトを開発(1866年) ●液晶装置の生産開始(1968年) ●アスピリン(アセチルサリチル酸)が発売(1897年) ●遺伝子組み換え技術を開発(1974年) ●バイオプラスチックの生産開始(2002年) <化学産業の広がり> 石油化学 高機能繊維 電子材料 合成繊維 肥料 ファインケミカル 医薬品 産業ガス 化学理論の確立 化学合成技術の発展 量産技術の確立 応用製品の広がり 1800年 1900年 2000年 Ⅰ. 業界概要 1. 化学産業の沿革  化学産業は、1800 年代における化学理論の確立を嚆矢とする、約 200 年の歴史を 有する産業(図表 1)。  単純な化学合成を利用した肥料、染料等の製造から始まって、技術の進歩と共に 製造品目が急速に増加。1900 年前後には医薬品、産業ガス、合成繊維等の製造が 始まり、さらに 1920 年代には、石油精製業の成長を背景に石油化学工業が勃興し たことにより、事業領域の拡大が加速。  第二次世界大戦以降は、高い機能性(耐熱性、耐薬品性等)が求められる航空機、 自動車、エレクトロニクス等の分野において、ユーザーの多様なニーズに応じて 製品開発が行われ、高機能繊維、電子材料といった石油化学・合成繊維の技術を 応用した新たな事業領域が登場した。 図表 1:化学産業の沿革

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2 企業調査部 原料 ・石油 ・天然ガス ・石炭 ・工業塩 ・鉱石 等 基礎化学 ・石油化学 ・合成繊維 ・クロール・アルカリ ・肥料 ・産業ガス 等 ユ ー ザ ー 容器・包装 住宅 自動車 家電 情報通信 化学業界の主な事業領域 (化学反応の技術による付加価値向上) 機能性化学 ・高機能プラスチックス ・農薬・種子 ・高機能繊維 ・ヘルスケア ・塗料・コーティング ・電子材料 ・ファインケミカル ・建設材料 ・製薬 ・環境化学 等 ・ ・ (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 2. 市場構造  斯かる経緯を経てきた結果、今日の化学産業は、石油・天然ガスを主たる原料と して、数百万種類もの製品を製造するまでに至っており、対象とするユーザーも 自動車、エレクトロニクスから食品容器、洗剤等の日用品に至るまで極めて広範 に及ぶ。  これらを製品の加工度(化学反応・成分調整プロセスの複雑さ)によって分類す ると、製品の加工度が低く汎用品主体の基礎化学と、加工度が高く付加価値品主 体の機能性化学とに大別される(図表 2)。 図表 2:化学メーカーが手掛ける事業概要  基礎化学では、石油、工業塩、鉱石などの天然資源に簡単な化学反応を加えるこ とにより製品を製造している。  産業ガス(窒素ガス等)、苛性ソーダ(注)の様に、製鉄、紙・パルプなど他の製造 業の製造過程で直接利用される製品もあるものの、石油化学製品を始めとして大 半は、機能性化学を経てエンドユーザーが求める機能を満たした上で製品の供給 を行っている(次頁図表 3)。 (注)苛性ソーダは、工業塩を溶かした水を電気分解することで得られるアルカリ性の液体。  一般に、製造プロセスは汎用化しているケースが大半であり容易に参入可能であ るうえ、得られる製品に関しても、物性(沸点・融点、臭い等)の違いは存在せ ず市場で売買されている。  そのため、価格選好の色彩が濃く、メーカーには、安価な原料の入手、製造設備 の大きさ・効率性の高さによりコスト競争力を高めることが求められる。

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3 企業調査部 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 事業 主な製造プロセス ユーザー例 石油化学 産業ガス 空気 沸点の違いを利用して分離 窒素 酸素 アルゴン ナフサ (原油) ・・・化学工場(防爆用)、食品(酸化防止) ・・・製鉄所・化学工場(燃焼促進) ・・・シリコンウエハ(他物質との反応防止) 加熱による分解 エチレン・同派生品 C4留分他 プロピレン ポリプロピレン 下記製品を手掛ける機能性化学メーカー ・コンパウンド(添加剤等を混練) ・高機能繊維(溶かした上で紡績) ・フィルム(延伸加工) 事業 主な製造プロセス ユーザー例 高機能 プラスチックス <例:ポリフェニンサルファイド(PPS)> 電子材料 <例:ハードコートフィルム> パラジクロルベンゼン (基礎化学) 硫化ソーダ (基礎化学) PPS ユーザーが求める機能に 合わせて成分調整 自動車メーカー ・エンジンルーム、電装系部品 エレクトロニクスメーカー ・コネクタ、スマートフォンの筐体 PET樹脂 (基礎化学) PETフィルム 延伸加工 コーティング加工 エレクトロニクス(タッチパネル)メーカー ・スマートフォン等のタッチパネルの 最表面を傷・衝撃から保護するフィルム 図表 3:基礎化学の製品例  一方、機能性化学では、基礎化学品を原料に、様々な化学反応、配合、コーティ ング等を行うことにより数百万種類の製品を製造している。  機能性化学品は、基礎化学品で満たせない高い機能が求められる用途・箇所に利 用されている。加えて、ユーザーの業種が多岐に亘っており、求める耐熱性、耐 薬品性等のニーズも様々であることから、製品の細かな作り分けが必要となる。  そのため、製品毎に販売先は限られており、製品当たりの市場規模は小さいもの の、多数の製品から構成されることが特徴である(図表 4)  また、製造に当たっては、専門の技術・ノウハウが必要とされるケースが大半で あるうえ、メーカーがユーザーと一体で製品開発を進めるケースも多く、後発メ ーカーが参入することは容易ではない。  以上を踏まえると、機能性化学では、専門の技術・ノウハウを活かして幅広くユ ーザーニーズに対応できることが重要となる。 図表 4:機能性化学の製品例

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4 企業調査部 (注)化学品事業の中で売上割合が 5 割を超える事業は◎、その他の参入事業は●。 (資料)各社 IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 石油化学 産業ガス その他 高機能プラスチックス 塗料 ケミカルファイン 製薬 農薬・種子 電子材料 その他 1 BASF ドイツ 787 ● ● ● ● ● ● ● ● 2 Dow Chemical 米国 582 ● ● ● ● ● ● ● 3 Sinopec 中国 579 ◎ ● 4 SABIC サウジ 433 ◎ ● ● 5 Exxon Mobil 米国 381 ◎ ● 6 Formosa 台湾 371 ◎ ● ● ● 7 LyondellBasell オランダ 348 ◎ ● 8 DuPont 米国 299 ● ● ● ● ● ● 9 Ineos Group イギリス 297 ◎ ● 10 Bayer ドイツ 281 ● ● ● ● 11 三菱ケミカル 日本 263 ● ● ● ● ● ● ● ●

12 Royal Dutch Shell オランダ 246 ◎ ● 13 LG Chem 韓国 215 ◎ ● ● ● 14 Braskem ブラジル 196 ◎ ● 15 Air Liquide フランス 192 ◎ 16 AkzoNobel オランダ 190 ● ● ◎ ● 17 Linde ドイツ 186 ◎ 18 住友化学 日本 178 ● ● ● ● ● ● 19 三井化学 日本 172 ◎ ● ● ● ● ● 20 Evonik Industries ドイツ 172 ● ● ● 売上 順位 企業 所在国 基礎化学 機能性化学 その他 2014年 化学品 売上高 (10億ドル) 事業領域(注) Ⅱ. 業界環境 1. 主要企業の特色  2014 年における化学品売上高の上位 20 社の顔ぶれは以下の通り(図表 5)。  所在国別にみると、欧米メーカーが 12 社と上位の過半を占める。一方で、我が国 メーカーに関しては、三菱ケミカル、住友化学、三井化学の 3 社がランクインす るものの、10 位以内に入る企業は存在しない。  また、新興国メーカーに関しては、新興国の経済成長を背景とした市場の拡大を 受けて売上高を増加させており、5 社が入る結果となった。  一方で、事業領域をみると、先進国メーカーについては、各社が有する技術、事 業戦略等を背景に各社各様であるが、新興国メーカーについては何れも石油化学 を主体としている。 図表 5:グローバル大手企業の概要

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5 企業調査部 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 石油化学 産業ガス その他 高機能プラ スチックス ファイン ケミカル 製薬 農薬・種子 電子材料 その他 基礎化学 機能性化学 ①総合化学メーカー ~基礎化学から機能性化学までを幅広く展開 <具体例>

・欧米総合化学メーカー : BASF、 Dow Chemical、 DuPont

・我が国総合化学メーカー : 三菱ケミカルHD、住友化学、三井化学、旭化成

③機能性化学専業メーカー ~機能性化学の得意事業を中心に展開 <具体例>

・農業化学メーカー : Syngenta、 Monsanto、 Bayer

・塗料メーカー : AkzoNobel、関西ペイント、日本ペイント ②基礎化学専業メーカー ~基礎化学に特化 <具体例> ・石油化学専業メーカー ① SABIC、Formosa等の新興国メーカー ② Ineos、LyondellBasell等の欧米メーカー ③ Exxon等のオイルメジャー ・産業ガスメーカー: Air Liquide、Linde  化学メーカーは、事業ポートフォリオに応じて、以下 3 種類に大別される(図表 6)。  総合化学メーカー :長い業暦を有し、化学産業の発展に合わせて事業領 域を拡大させてきたメーカーであり、基礎化学・機 能性化学の双方を手掛ける  基礎化学専業メーカー :基礎化学に特化しているメーカーで、石油化学主体 の SABIC、Formosa 等に加え、Air Liquide、Linde といった産業ガスメーカーが存在

 機能性化学専業メーカー:機能性化学のみを手掛けるメーカーで、得意とす る事業は各社異なる(Bayer:医農薬、AkzoNobel: 塗料)

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6 企業調査部

(注)Sinopec、Exxon Mobil、Royal Dutch Shell は石油化学部門の売上高営業利益率を利用。 (資料)Bloomberg をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 0% 5% 10% 15% 05 10 14 機能性化学専業メーカー 総合化学メーカー(欧米) 基礎化学専業メーカー 総合化学メーカー(日本) (年) ▲0.9% 区分 対象企業(注) 総合化学メーカー(欧米) BASF、Dow Chemical、DuPont 総合化学メーカー(日本) 三菱ケミカル、住友化学、三井化学

基礎化学専業メーカー Sinopec、Exxon Mobil、Formosa Chemicals & Fiber、 Lyondell Basell、Royal Dutch Shell、LG Chem、 Braskem、Air Liquide、Linde 機能性化学専業メーカー Bayer、Akzo Nobel 2. 収益動向  収益動向をみると、2005 年以降、リーマンショックを契機とした落ち込みはあっ たものの、我が国総合化学メーカーを除くグローバル大手企業の売上高営業利益 率は 10%程度で推移(図表 7)。  一方で、我が国総合化学メーカーの利益率は低位であり、同様に基礎化学・機能 性化学の双方を手掛ける欧米の総合化学メーカーと比して 5%ポイント前後の利 益率格差が存在するうえ、汎用品主体の基礎化学専業メーカーにも及ばず。 図表 7:グローバル大手の売上高営業利益率推移

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7 企業調査部

(資料)米国化学工業協会「Guide to Chemical Industry」、IMF 資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 0 2,000 4,000 6,000 05 10 14 (10億ドル) (年) 新興国 先進国 06 07 08 09 10 11 12 13 14 GDP成長率 8.7% 8.4% 5.0% 0.5% 6.6% 6.1% 5.1% 4.9% 5.0% 化学品市場の伸び率 10.2% 15.3% 13.9% ▲9.2% 18.3% 19.2% 1.9% 4.0% 3.4% 3. 市場動向  化学製品の市場規模は、2014 年時点で約 5 兆 4000 億ドル(図表 8)。  直近 10 年間では、リーマンショック直後の 2009 年を除いて、一貫してプラス成 長が続いている。  地域別に見ると、経済成長が著しい中国を始めとする新興国が市場拡大を牽引し ており、市場全体に占める新興国の割合は 2005 年の 4 割から足元では 6 割まで増 加している。 図表 8:市場規模推移

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8 企業調査部 0 2,000 4,000 6,000 8,000 14 15 16 17 18 19 20 (10億ドル) (年) 新興国 先進国 (資料)米国化学工業協会、IMF 資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 0 500 1,000 1,500 2,000 0 5,000 10,000 15,000 20,000 中国 米国 インド 日本 ドイツ 化 学 品 市 場 規 模 (10億ドル) (10億ドル) 国内総生産(購買力平価換算) 本枠内には、イギリス、 フランス、イタリア、ロシア、 ベルギー、アイルランド、 オランダ、スペイン、スイス、 メキシコ、ブラジル、台湾、 シンガポールが含まれる (資料)米国化学工業協会、IMF 資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成  化学品は、幅広い用途で利用されているため、各国の化学品市場の規模は、概ね その国の経済規模に対応している(図表 9)。 図表 9:化学品市場と GDP の関係  今後も世界の化学製品市場が GDP 成長並みに伸びると想定した場合の今後の市 場見通しは、以下の通り(図表 10)。今後も、高い経済成長が期待されるインド、 中国を始めとする新興国地域が市場拡大を牽引する見通し。 図表 10:市場規模の見通し

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9 企業調査部 (資料)経済産業省「化学工業統計」などをもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 0 3,000 6,000 9,000 90 95 00 05 10 (千トン) 国内出荷 換算輸出 生産能力 (年) (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 項目 単位 日本 韓国 台湾 中国 プラント1基当たりの能力 千トン/基 500程度 900程度 700程度 600程度 平均稼動年数 年 40程度 20~30 10~20 10~20 工業用電力価格(目安) 円/kWh 15~20 10以下 10以下 10~15 (参考)2013年推定稼働率 % 85~90 95以上 95以上 80程度 4. 我が国メーカーを取り巻く環境変化  今後も成長が期待される化学業界であるが、我が国メーカーにとっては、総じて 厳しい状況下にある。 (1) 基礎化学

我が国メーカーが主力とする石油化学についてみると、最も基礎的な製品である エチレンの国内出荷は、内需縮小を背景に、2000 年代後半以降、漸減傾向で推移 (図表 11)。我が国メーカーは、一部エチレンプラントを停止して生産能力減を 進めているものの、依然として生産量の約 3 割を輸出に頼っている。 図表 11:国内エチレン生産量の推移

ただし、我が国メーカーは、海外市場で競合する東アジア各国メーカーと比較し て、エチレンプラント 1 基当たりの規模、新鋭度合い、ユーティリティコストの 何れにおいても見劣り、コスト競争力は低い(図表 12)。 図表 12:東アジアのエチレンプラント比較

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10 企業調査部 (資料)Reliance Industries 社 IR 資料などをもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 (資料)各種資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 0 200 400 600 800 サウジ (エタン) 西欧 (ナフサ) 米国 (エタン) 中国 (石炭) アジア (ナフサ) (ドル/トン)  加えて、米国、中東では、中国市場を見据えたプラント建設計画が多数存在。こ れらのプラントは、安価な天然ガスを原料とすることから、アジアのプラントは、 たとえ韓国・台湾の新鋭設備であってもコスト面では太刀打ちできない模様(図 表 13)。  今後は、米国・中東のプラントの稼動開始により、我が国を含む東アジアのプラ ントのコスト競争力は徐々に低下していく公算が大きい(図表 14)。 図表 13:地域別エチレンキャッシュコスト 図表 14:エチレン市場を取り巻く環境 (2015 年 5 月時点)  以上を踏まえると、コスト競争力を課題とする我が国メーカーを取り巻く環境は、 厳しさを増す見通し。 (2) 機能性化学  ユーザーの業種が多岐に亘るうえ、幅広いユーザー毎に求める機能(耐熱性、耐 薬品性等)が異なる機能性化学では、幅広いユーザーニーズへの対応が必要。  そのため、機能性化学では、過去よりユーザーの要望に応じて細かな製品の改良 を続けてきた先進国メーカーのプレゼンスが高い。  後発メーカーにとって、製造ノウハウの蓄積、特定用途向けの専門的な技術の取 得は容易ではない。 シェールガスの利用に より米国からの輸出増 中東からの輸出増 中国 中東

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米国 石炭を原料とする プラントの建設推進 日本、韓国 台湾

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11 企業調査部 ✔ユーザー毎の要望(一定の強度と軽量化 の両立など)に基づいて製品開発 ✔ユーザーは、製品開発したメーカーから 調達 組み合わせ型 ✔ユーザーは、自社仕様のカスタムメイド品 を調達 ✔夫々の化学品が持つ機能(耐熱性、耐薬 品性等)、主要用途に応じて製品開発 ✔ユーザーは、求める機能をリスト化し、 機能を満たした製品を価格重視で調達 ✔ユーザーは、調達した製品に合わせて 工場内の生産ラインを調整 擦り合わせ型 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

なお、機能性化学は、製品の開発手法の違いにより「擦り合わせ型」と「組み合 わせ型」製品に大別される(図表 15)。  「擦り合わせ型」製品:ニッチな用途向けであったり、ユーザー毎の細かな 要望(注)に基づき製造する“特注品” (注)例えば自動車部材の場合、自動車全般に軽量化が求められる一方、車種・使用箇 所毎に強度、耐熱性、耐薬品性の要求水準が異なっているため、製品の作り分け が求められる。  「組み合わせ型」製品:メーカーが予め最終用途及び求められる機能(耐熱 性、耐薬品性等)を想定して開発した製品  「組み合わせ型」製品の場合、個別ユーザーへの対応は不要であり、後発メーカ ーも技術力さえ向上すれば参入可能。実際、厚み、耐熱性などの機能が標準化さ れている液晶ディスプレイ向けの一部部材では、中国・韓国メーカーの参入によ り価格競争が生じている製品も存在する。  そのため、競合企業に対する優位性を維持する上では、ユーザーとの長年の信頼 関係に基づく「擦り合わせ型」製品に一層注力していくことが重要。 図表 15:「組み合わせ型」、「擦り合わせ型」の違い  以上を踏まえると、幅広いユーザーニーズへの対応力が求められる機能性化学で は、一部製品で価格競争が生じるものの、ノウハウの蓄積、専門的な技術で勝る 先進国メーカーが引き続き高い競争力を保持する見通し。

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12 企業調査部

(資料)Chemical & Engineering News をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Ⅲ. 我が国総合化学メーカーに求められる戦略  我が国総合化学メーカーの収益力は、同じく基礎化学・機能性化学の双方を手掛 ける BASF、Dow Chemical、DuPont といった欧米の総合化学メーカーに及ばない 状況。  彼らは、我が国同様に自国経済の成熟化から基礎化学で大きな成長が望み難い中、 機能性化学主体の事業ポートフォリオへの転換を成し遂げているうえ、基礎化 学・機能性化学の夫々で高い競争力を誇る。  加えて、欧米においては、かつてグローバル大手の地位にあった ICI、Hoechst 等 の総合化学メーカーが姿を消したうえ、足元では Dow Chemical・DuPont が合併 を発表するなど、ダイナミックな業界再編が進展している。  そこで、本稿では、欧米化学業界における再編の背景、欧米の総合化学メーカー (BASF、Dow Chemical、DuPont)の戦略を紐解くことにより、我が国化学メー カーに求められる戦略について考察する。

尚、本章において取り上げる欧米大手 6 社(BASF、ICI、Hoechst、DuPont、Bayer、 Dow Chemical)のグローバルでのポジションは以下の通り(図表 16)。 図表 16:化学品売上ランキング

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13 企業調査部

(注)ICI は 1926 年に英国企業 4 社の合併により設立した企業であるが、本図表では前身企業である Nobel Industries の設立年を掲載。 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 BASF ドイツ 1865 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ICI イギリス 1870(注) Hoechst ドイツ 1863 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● DuPont 米国 1802 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Bayer ドイツ 1863 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Dow Chemical 米国 1897 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● (参考)現在の我が国メーカーの事業領域 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● フ ァ イ ン ケ ミ カ ル 製 薬 基礎化学 機能性化学 石 油 化 学 合 成 繊 維 肥 料 産 業 ガ ス 三井化学 企業名 設立 そ の 他 三菱ケミカル 住友化学 農 薬 ・ 種 子 ヘ ル ス ケ ア 電 子 材 料 建 設 材 料 環 境 化 学 国 ク ロ ー ル ・ ア ル カ リ 高 機 能 プ ラ ス チ ッ ク ス 高 機 能 繊 維 塗 料 ・ コ ー テ ィ ン グ 1. 欧米化学業界の再編動向  業界再編が進む以前の 1989 年時点におけるグローバル大手 6 社の事業ポートフォ リオは、以下の通り(図表 17)。  何れの企業も、1800 年代に設立し、化学産業の発展と共に成長を遂げてきた企業 であり、基礎化学のみならず医農薬事業を含めて幅広く機能性化学を手掛けてお り、今日の我が国メーカーと比べても幅広い事業領域を有していた。 図表 17:1989 年のグローバル大手の事業ポートフォリオ

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14 企業調査部

(資料)各種資料もとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

2000年 2010年

【欧州】

⑫ Degussa ⑳ Evonik Industries

① BASF ① BASF Novartis Basell (現在はLyondellBasell) ⑬ Ciba-Geigy ⑲ Akzo ⑯ AkzoNobel ② ICI Zeneca (現在は、医薬事業がAstraZeneca、農薬がSynegenta) Rhodia ⑩ Rhone-Poulenc ③ Hoechst

Celanese(汎用化学品)、Ticona(エンプラ) Covestro

⑤ Bayer ⑩ Bayer

【米国】

⑥ Dow Chemical ② Dow Chemical

⑪ Union Carbide ④ DuPont ⑧ DuPont 1989年 (数字は売上高順位) 2014年 (数字は売上高順位) 1993年医農薬分離 1990年代後半以降、汎用化学事業を売却 2007年買収 1994年Nobelと合併 2007年改称 2006年建設化学品 2000年Shellとポリ オレフィン事業を統合 2007年買収 2001年買収 2015年 統合を発表 1997年化学品事業を 分離し、医薬専業へ Aventis (SanofiAventisを経て、現Sanofi) 1999年合併 1997年化学品事業を 分離し、医薬専業へ 2015年化学品事業を 分離し、医農薬専業へ 1996年Sandoz と医薬品事業を合併 (その他の事業は1998年中にDuPont、投資会社等に売却)  1989 年時点のグローバル大手 6 社の今日までの歩みは以下の通り(図表 18)。ICI、 Hoechst、Bayer の 3 社は医農薬メーカーに転換、BASF、DuPont、Dow Chemical は引き続き総合化学メーカーとして事業を展開している。  売上高で第二位の ICI は、1993 年に医農薬事業を Zeneca(AstraZeneca・Syngenta の前身)として分離、その後基礎化学を中心に事業売却を進めたため規模は 縮小、2007 年に AkzoNobel に買収された  同三位の Hoechst は、1997 年に医薬を除く事業の大宗を分離した後、同じく 医薬専業メーカーに転じていた Rhone-Poulenc と 1999 年に合併して Aventis (現 Sanofi)を設立  同五位の Bayer は、医農薬以外の事業を 2015 年に Covestro として分離・上場 させており、医農薬中心の企業へと変貌  一方で、BASF、DuPont、Dow Chemical は、医薬品事業を売却したものの、 引き続き総合化学メーカーとして事業を継続している 図表 18:欧米化学メーカーの再編動向(1989 年~)

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15 企業調査部 (資料)経済産業省「我が国における創薬ベンチャーの発展に向けて」などをもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 タイプ 製造方法 構造的特徴 (分子量) 開発方法 必要となる技術 低分子医薬品 (従来型医薬品) 化学的に合成 比較的簡素 <低分子> (100~1,000程度) 候補物質の薬効を 網羅的に試験 化学合成技術 (=化学メーカー も有する技術) バイオ医薬品 動物細胞、大腸菌 による培養 複雑な立体構造 <高分子> (10,000~150,000程度) 病気の発病を防ぐ 物質を特定する バイオ技術 (=異なる技術 が必要)  以上の再編は、単純に規模を追求したものでは無く、以下の通り、機能性化学の 中でも市場規模が大きい医薬品事業の業界環境の変化に対応した結果として起こ っている。  1990 年以前の医薬品業界では、新薬の開発は、化学メーカーが得意とする化学合 成技術を用いて候補物質を製造することにより行われていた(図表 19)。  しかし、1990 年頃より、従来の化学合成による医薬品(低分子医薬品)は、新た な候補物質の開発難度が上がっており、新薬開発の中心は、化学合成とは異なる 技術が求められるバイオ医薬品等へと変化した。  その結果、総合化学メーカー内において、医薬品事業と他の化学事業との開発面 におけるシナジーは望み難くなっていた。 図表 19:従来型医薬品とバイオ医薬品の違い

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16 企業調査部 (注)対象企業は、Pfizer、Merck、J&J、Eli Lilly、 Bristol-Myers Squibb、Abbott の 6 社。 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行 戦略調査部企業調査室作成 0 2,500 5,000 7,500 90 00 10 (百万ドル) (年) 10年で約4倍に (資料)薬事ハンドブックをもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 年 新会社 合併元

1995 Pharmacia & Upjohn UpjohnとPharmacia Glaxo Wellcome GlaxoとWellcome 1996 Novartis Ciba GeigyとSandoz 1999 Astra Zeneca AstraとZeneca

Sanofi-Synttelabo SanofiとSynttelabo

Aventis HoechstとRhone-Poulenc 2000 Pfizer PfizerとWarner-Lambert

Glaxo SmithKline Glaxo Wellcomeと SmithKline Beecham  また、低分子医薬品における開発難度の高まり、バイオ医薬品開発競争の激化等 を背景に、医薬品メーカーの研究開発費は年々拡大(図表 20)。  掛かる状況下、医薬品メーカー各社は、増加する研究開発資金を捻出することを 目的に、合併により規模を拡大した上で、重複する販売網、研究開発等のコスト 削減を進めることを指向。1990 年代後半から 2000 年代初頭にかけて業界再編が 進んだ(図表 21)。  総合化学メーカーの場合は、医薬品事業以外にも幅広く事業を展開していたこと から、今後も医薬品事業での生き残りに賭けて経営資源を投入し続けるか、撤退 して他事業に注力するかで判断が分かれた。 図表 20:米国大手医薬品メーカーの研究 開発費推移(1 社当たり)) 図表 21:医薬品メーカーの主な合併事例

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17 企業調査部

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

BASF ICI Hoechst DuPont Bayer Dow Chemical

決算期 2000 1992 1997 2000 2014 1994 単位 百万ドル 百万ドル 百万ドル 百万ドル 百万ドル 百万ドル 売上 33,208 20,372 31,105 29,202 56,114 20,015 内、医薬品 2,334 2,838 8,457 1,487 21,650 5,854 (割合) (7.0%) (13.9%) (27.2%) (5.1%) (38.6%) (29.2%) 営業利益 2,836 1,342 2,559 3,384 7,315 2,345 内、医薬品 224 862 1,060 133 4,757 762 (割合) (7.9%) (64.2%) (41.4%) (3.9%) (65.0%) (32.5%) 備考 事業で分類ヘルスケア 医農薬の合算値 結果 売却 医農薬 専業へ 医農薬 専業へ 売却 医農薬 専業へ 売却 社名  大手 6 社が歩んだ軌跡をみると、利益に占める医薬品事業の割合が大きいメーカ ーは、医薬品事業及び農薬事業(医薬品事業同様、研究開発による新薬の開発が 求められる)に経営資源を集中させ医農薬専業メーカーに転じる一方、その他メ ーカーは医薬品事業から撤退(図表 22)。 図表 22:化学大手の医薬事業の状況(売却乃至専業化の直前期)  この医薬品事業を切り口とした業界再編を一般化すると以下の通り。  総合化学メーカー間の合併ではなく、特定事業の強化を目的とした再編  総合化学メーカーは幅広く事業を手掛ける点が特徴ではあるが、専門的な技 術が必要になり、他事業とのシナジーが見込み難くなった事業は再編対象に なり得る  再編対象事業の収益貢献が大きい場合、特定事業での生き残りに賭けて事業 特化型メーカーに転ずることも選択肢となる

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18 企業調査部 (資料)DuPont IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 会社名 DowDuPont 統合方法 持ち株会社との株式交換 時期 2016年内 ・コスト削減効果30億ドル ・拡販による増益効果10億ドル 統合後、「農業メーカー」、「高機能商品メーカー」、「素材 メーカー」の3社に分割、その後は速やかに上場予定 統合効果 (二年以内) 備考

2. Dow Chemical と DuPont の再編

 2015 年 12 月、米国第一位の化学メーカーである Dow Chemical と同二位の DuPont の合併が発表され、米国上位二社の合併に注目が集まっている。

 両社が発表した計画によると、事業分割時の租税負担を回避するため、2016 年内 を目処に合併し、一旦世界第一位に躍り出るものの、合併後 2 年以内を目処に「農 業メーカー」、「高機能商品メーカー」、「素材メーカー」の 3 社に分割、分離・上 場する予定となっている(図表 23)。

図表 23:Dow Chemical と DuPont の統合概要

 再編の主目的は、人口増加等を背景に高い成長が期待される農薬・種子といった 農業化学でグローバルトップクラスの規模を確保し、生産・販売拠点の最適化、 重複する研究開発投資の削減を通じて高い競争力を確保すること。

 この点を踏まえると、今回の再編は、過去に見られた医薬品事業の再編同様、農 業化学の強化を目的とした再編と捉えることが可能。

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19 企業調査部

(注)Dow Chemical の Consumer Solutions は、Dow Electronic Materials が「高機能商品」、Consumer Care と Dow Automotive Systems が「素材」に分類される。

(資料)DuPont IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 0 500 1,000 1,500 05 10 (百万ドル) (年) (注)対象企業は、Syngenta、Monsanto、Bayer の 3 社。 (資料)Bloomberg 各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 53% 33% 23% 0% 50% 100% 1993 1999 2013 新薬 特許切れ製品 ジェネリック製品 (資料)住友化学 IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行 戦略調査部企業調査室作成 部門

社名 Dow Chemical DuPont Dow Chemical DuPont Dow Chemical DuPont 売上高 約70億ドル 約110億ドル 約20億ドル 約110億ドル 約450億ドル 約60億ドル 対象セグメント Agricultural Science Agriculture Consumer Solutions(注) Electronics & Communications Performance Plastics Performance Materials Nutrition & Health Performance Materials & Chemicals Industrial Biosciences Infrastructure Solutions Safety & Protection Consumer Solutions(注) 農業 高機能商品 素材  実際、発表されている分社化計画を見ても、「農業」は両社の売上高が拮抗してい る一方、「高機能商品」は DuPont 中心、「素材」は Dow Chemical 中心であり、「農 業」以外の事業はさほど重複していない(図表 24)。 図表 24:Dow DuPont の分社化計画  強化対象となった農業化学では、医薬品同様、新薬候補物質が見つかり難くなっ ていた。そのため、開発コストが上昇していたうえ、ジェネリック製品の普及拡 大により価格競争も激化しており、新薬主体の欧米メーカーを取り巻く環境は厳 しさを増しつつあった(図表 25・26)。 図表 25:大手農業化学メーカーの研究 開発費推移(1 社当たり) 図表 26:農薬の種別割合

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20 企業調査部 (資料)各社 IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 順位 社名 国 売上高 (10億ドル) 備考 1 Monsanto 米国 16 Bayerが買収を発表 2 Syngenta スイス 14 中国ChemChinaが買収を発表 3 Bayer ドイツ 12 4 DuPont 米国 11 5 Dow Chemical 米国 7 6 BASF ドイツ 7  加えて、農業化学では、Syngenta、Monsanto が専業で事業展開を行っていること からも、総合化学メーカーの他事業とのシナジーも限定的と見られていた。  掛かる状況を踏まえて、両社は農業化学分野の再編を決断、加えて、「素材」では

DuPont は一部製品で Dow Chemical から原料を受給しているうえ 、「高機能商品」 では電子材料の一部で事業が重複しており、両分野でもコスト削減効果が見込ま れたため、農業化学のみの切り出しではなく、合併に至ったのである。  以上を総括すると、今回の再編の特色は以下の通り。  総合化学メーカー間の規模の拡大を目的とした合併ではなく、特定事業の強 化を目的とした再編  他事業とのシナジーが見込み難くなった農業化学が再編対象となった  今回の再編により、統合会社の農業化学事業は、農薬・種子の夫々で強力な製品 ラインナップを持つ世界最大手(注)となる見通し(図表 27)。

(注)なお、2016 年 9 月には Bayer が Monsanto の買収を発表、合併手続終了後には Dow-DuPont の売上高を上回る見込み。

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21 企業調査部 (注)1980 年の三菱ケミカル HD は、三菱化成・三菱油化の有価証券報告書をもとに算出。 (資料)各社 IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 1980 年度 2015 年度 製薬 農薬・種子 その他

BASF 37.0% 42.0% N.A. N.A. N.A. 21.0% Dow Chemical 51.0% 49.0% 0.0% 5.0% 44.0% 0.0% DuPont 55.0% 45.0% N.A. N.A. N.A. 0.0% 三菱ケミカルHD 68.9% 12.9% N.A. N.A. N.A. 18.2% 住友化学 84.2% 15.8% 5.0% 7.2% 3.7% 0.0% 旭化成 80.8% 4.5% N.A. N.A. N.A. 14.8% 三井化学 77.4% 22.6% N.A. N.A. N.A. 0.0%

会社名 基礎化学 機能性化学 その他 製薬 農薬・種子 その他 BASF 18.4% 62.4% 0.0% 8.6% 53.8% 19.2% Dow Chemical 40.8% 59.2% 0.0% 13.2% 46.0% 0.0% DuPont 6.8% 93.2% 0.0% 45.2% 48.0% 0.0% 三菱ケミカルHD 60.1% 34.8% 11.9% 0.0% 22.9% 5.1% 住友化学 41.3% 58.7% 21.3% 10.2% 27.2% 0.0% 旭化成 34.3% 35.5% 7.5% 0.0% 28.0% 30.2% 三井化学 56.9% 43.1% 0.0% 2.7% 40.4% 0.0% 会社名 基礎化学 機能性化学 その他 3. 欧米メジャー3 社の戦略分析  欧米化学業界の再編動向に続いて、BASF、Dow Chemical、DuPont の 3 社(以下、 欧米メジャー)の戦略をみると、事業の選択と集中によるポートフォリオの入れ 替え、基礎化学・機能性化学の事業強化に向けた取り組みに特徴がみられる。 (1) ポートフォリオの入れ替え  近年、機能性化学を強化してきた我が国総合化学メーカーであるが、直近期売上 高の事業領域別の割合は、依然として基礎化学が約半分を占める(図表 28)。一 方、欧米メジャーは、原料立地で大規模に汎用品を製造している Dow Chemical ですら基礎化学の割合は半分以下。  もっとも、機能性化学が中心の欧米メジャーに関しても、1980 年時点では基礎化 学の割合が 5 割を超えており、機能性化学への注力を経営方針に掲げてポートフ ォリオの入れ替えを進めた結果、機能性化学中心の事業ポートフォリオへ転換し ている(次頁図表 29)。 図表 28:事業領域別の売上高割合(1980 年度・2015 年度)

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22 企業調査部 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 買収 買収 買収 石油事業(1997年) 医薬品事業(2001年) 高機能化学品(2015年) 石油事業(1981年) 売却・撤退 繊維事業(2004年) 高機能塗料(2013年) 【その他】 【機能性化学】 ビニルアセテート事業(2013年) フォトマスク事業(1986年) ポリアミド事業(1997年) 売却・撤退 売却・撤退 【その他】 種子事業(1999年) 【基礎化学】 【機能性化学】 【機能性化学】 【機能性化学】 【機能性化学】 【機能性化学】 ヘルスケア事業(1981年) 栄養食品(1997年) エラストマー事業(2005年) 産業用酵素事業(2011年) 電力事業(1997年) 触媒事業(2001年) 買収 買収 買収 医薬品事業(1995年) ポリスチレン事業(2010年) 電解事業(予定) 【その他】 【機能性化学】 【機能性化学】 売却・撤退 【基礎化学】 石油採掘部材(1993年) 【基礎化学】 ポリプロピレン事業(2011年) 農薬事業(1989年) 種子事業(2000年) 【機能性化学】 売却・撤退 ファインケミカルメーカー(2008年) 売却・撤退 【機能性化学】 【機能性化学】 【基礎化学】 製薬事業(1980、1989年) 農薬事業(1997年) 汎用石化事業(2001年) 【機能性化学】 医薬品事業(2001年) 買収 買収 買収 【機能性化学】 【基礎化学】 磁気テープ事業(1997年) ポリオレフィン事業(2006年) 磁気テープ事業(1990年) 【基礎化学】 触媒事業(2006年) 【基礎化学】 ウレタン事業(1990年) 磁気テープ事業(1997年) 売却・撤退 スチレン事業(2011年) ビタミン事業(1982年) 農薬事業(2000年) 農薬事業(2002、2004年) 塗料事業(1985年) 売却・撤退 建設化学品事業(2005年) 売却・撤退 買収 買収 買収 【機能性化学】 【機能性化学】 【機能性化学】 ・機能性化学と 基礎化学の割合を 半々にする ・機能性化学の割合 を全体の2/3まで 増やす ・基礎化学は規模の 拡大を志向 ・農業化学への注力 ・機能性化学へ注力 ・基礎化学は安価な 原料を活かした展開 1980年頃 1990年頃 2000年頃 現在 ・原料(石油)の確保 ・機能性化学へ注力 ・機能性化学へ注力 ・市場・需要家重視 の開発体制へ転換 ・バイオ事業の拡大 ・持続可能な社会に 資する製品に注力 ・食糧、安全、脱化石 燃料をキーワードに ポートフォリオを変革 1980年頃 1990年頃 2000年頃 現在 ・機能性化学へ注力 ・石化の再投資に よる競争力維持 ・機能性化学へ注力 ・石油化学の再構築 を推進 ・農業化学へ注力 ・事業ポートフォリオ の継続的な見直し ・資源と環境、食品と 栄養、生活の質に 資する事業へ注力 1980年頃 1990年頃 2000年頃 現在 B A S F D o w C h e m i c a l D u P o n t 図表 29:欧米メジャーの経営方針、M&A 動向

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23 企業調査部 ・特殊化学品(EUR 2.6 billion) ・農業化学(USD 1.2 billion) ・酵素(USD 0.1 billion) など計15件 買収(売上規模) BASF 合計 約4.5 Billion Euro ・建設向け塗料(EUR 0.1 billion) ・建設資材(EUR ~1 billion) ・肥料(EUR ~5 billion)など計17件 合計 約7 Billion Euro 売却(売上規模) (資料)IR 資料、新聞記事などをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成  欧米メジャーは、事業ポートフォリオの入れ替えを進める上で、M&A を有効に 活用していることが特徴。  加えて、事業ポートフォリオの管理に際しては、各社の開示状況は異なるものの 厳格な採算基準を設けている様子。BASF においては、各事業は下記 2 点を満た すことが必要であるとアニュアルレポート上で明記されており、近年の M&A 動 向を見ても厳格に運用されていることが窺われる(図表 30)。  ROI(投資収益率)を 8%以上確保すること(カントリーリスクが存在する場 合、カントリーリスクに応じて目標を上乗せ)  遅くても 3 年以内に EPS(1 株当たり利益)の向上に資すること 図表 30:BASF の M&A 動向(2010~2014 年)  ただし、方針の変化により買収から短期間で売却に至ったり、財務体力以上の買 収を行ったため他事業の売却を余儀なくされたケースも存在。  BASF は、1990 年に買収した磁気テープ事業を 1997 年に売却

 Dow Chemical は、Rohm & Hass の買収に際して資金調達が難航し、Rohm & Hass の一部事業を売却

 DuPont は、1981 年に買収した石油事業を 1997 年に売却

 以上を踏まえると、欧米メジャーの場合、売却も含めて絶えず事業ポートフォリ オの入れ替えを行うことにより、強固な事業ポートフォリオを構築していると言 える。

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24 企業調査部 (資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 機能性化学 基礎化学 化学メーカーに 求められること 対応の方向性 製品の安さ ユーザーニーズへの対応力 効率的なオペレーション 安価な原料の利用 グローバルに展開し、幅広いニーズへ対応 特定ユーザーへ高い対応力を持つ 1. Verbundによるオペレーション(BASF) 2. 原料立地での大量生産(Dow Chemical) 3. グローバルでの研究開発(各社共通) 4. 大胆な注力事業の絞り込み(DuPont) 具体的な対応 事例 (2) 基礎化学・機能性化学における取り組み事例  化学メーカーに求められるポイントは、基礎化学・機能性化学で異なっており、 化学メーカーはそれぞれの特徴を把握した上で戦略を立案することが必要(図表 31)。  具体的には、基礎化学はコスト競争力が最も重要となることから、①効率的なオ ペレーションの実現、②安価な原料の利用が求められる。  ユーザーニーズへの対応力が求められる機能性化学では、③地域毎に異なるニー ズを吸収するためにグローバルで製品開発体制を構築、④特定のユーザー業界に 注力することによりユーザーニーズへの高い対応力を実現することが考えられる。  もっとも、欧米メジャーが採っている戦略は一様ではない。そこで本稿では、そ れぞれの対応の方向性に関して特徴的な事例を取り上げた。 図表 31:事業競争力の確保

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25 企業調査部 (資料)BASF 社 IR 資料などをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 (資料)BASF 社 IR 資料などをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 拠点名 所在国 設立 プラント数 主要生産品目 備考 Ludwigshafen ドイツ 1865 160 エチレン、エチレンオキサイド、可塑剤 Antwerp ベルギー 1964 50 エチレン、エチレンオキサイド、アクリル酸 Geismar アメリカ 1958 22 エチレンオキサイド、ギ酸 Freeport アメリカ 1958 24 オキソアルコール、アクリル酸、アンモニア Kuantan マレーシア 1997 13 オキソアルコール、アクリル酸 Petronasとの合弁(出資比率:60%) 南京 中国 2005 16 エチレン、エチレンオキサイド、アクリル酸 Sinopecとの合弁(出資比率:50%) (参考)鹿島 日本 1971 10 エチレン、エチレンオキサイド、塩ビモノマー プラント数は三菱化学の公表ベース ① 基礎化学:BASF の大規模生産拠点(Verbund)  Verbund とは、BASF が展開する大規模生産拠点(コンビナート)を指す言葉であ り、欧州 2 拠点、米国 2 拠点、アジア 2 拠点の計 6 ヶ所に存在している(図表 32)。 図表 32:Verbund の展開状況  Verbund では、基礎製品(エチレン、塩素等)から中間体(エチレンオキサイド、 塩ビモノマー等)、樹脂(ポリエチレン、塩ビ樹脂等)に至るまで、石化コンビナ ートで手掛ける製品を自社で一貫生産している。  一般的な石化コンビナートは、10 基を超える製品プラントから構成される。これ は、基礎製品・中間体の製造過程では主製品の他に連産品が発生するが、主製品 にコスト競争力を持たせるには、主要な連産品はコンビナート内で他製品の原料 として利用することが必要であるため。  ただし、多数の製品プラントを運営するには、多額の投資負担に加え、多岐にわ たる製品の製造技術・販売ルートを有することが必要であるため、複数企業で石 化コンビナートを構成することが一般的(図表 33)。1 社が単独でコンビナートを 形成する Verbund は、BASF が世界最大の事業規模、多数の製品製造プロセスを 有していたが故に成し得た戦略である。 図表 33:Verbund の特色

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26 企業調査部 0 200 400 600 800 サウジ (エタン) 西欧 (ナフサ) 米国 (エタン) 中国 (石炭) アジア (ナフサ) (ドル/トン) (資料)ICIS などをもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部 企業調査室作成 (資料)Reliance Industries 社資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部 企業調査室作成  Verbund では単独でコンビナートを運営することにより、コンビナートの製品構 成を自社の戦略、各製品の収益環境に応じて入れ替えられるうえ、製造工程にお ける副原料・副産物の融通、ユーティリティの効率的な活用が可能。  BASF によれば、Verbund においては、以下の 3 つの要因により年間 10 億ユーロ もの製造コスト削減を実現している。これは、基礎化学セグメントの売上高の 6% に相当し、収益性の向上に大きく貢献している様子が窺われる。  輸送効率の改善(6 億ユーロ): 上下流をパイプラインで繋ぐことにより、効率的・安全な輸送を実現  エネルギー効率の改善(3 億ユーロ): Verbund 内の熱管理を一元的に行なうことにより、無駄な熱ロス発生を防ぐ  インフラコストの削減(1 億ユーロ): Verbund 内のユーティリティ(港湾設備、電力、水道等)、警備などを一元管 理することによりインフラコストを削減 ② 基礎化学:Dow Chemical の安価な原料を活かした大規模生産  Dow Chemical は、世界第二位のエチレン生産能力を有しており、基礎化学事業を 大規模に展開している(図表 34)。  価格勝負の色彩が濃い基礎化学であるが、Dow Chemical は安価な原料確保が可能 な北米・中東での大規模生産を行うことにより高い競争力を誇っている(図表 35)。  この戦略の背景には、安価なエタンの調達が可能な米国に本拠地を有し、中東企 業とも早い時期より合弁事業を進めていた点が挙げられる。 図表 34:Dow Chemical のエチレン製造拠点 図表 35:エチレンのキャッシュコスト (2015 年 5 月時点) 地域 生産能力 (単位:千トン) 割合 アジア 295 2.7% 欧州 3,000 27.5% 中東 1,248 11.4% 北米 5,655 51.9% 南米 700 6.4% 合計 10,897 100% (参考) 我が国の総能力 6,758

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27 企業調査部 (資料)IR 資料などをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 ③ 機能性化学:グローバルでの研究開発体制  機能性化学では、製品に求める機能の軸(耐熱性、密度、耐薬品性、薄さ等)が 多数存在するうえ、ユーザーが求める機能も業界、地域等によって異なる。  従って、化学メーカーは、ユーザー毎に製品の作り分けを行っており、海外ユー ザーへの拡販を進める上では、ユーザーとニーズを擦り合わせながら製品開発を 行う拠点を設置することが効果的である模様。  その点、欧米メジャーは、ユーザーに対する技術的なサポート、共同開発等を行 う研究開発拠点をグローバルに展開しており、世界中のユーザーが抱えるニーズ に対応可能(図表 36)。 図表 36:BASF、DuPont の研究開発体制 中央研究所 主要拠点 その他の研究開発拠点 BASFイ ノベーショ ンキャンパス • 先端素材(中国)、プ ロ セス (ドイ ツ )、バイオテクノロ ジー (米国)の3拠点 • 各分野の中核拠点である と 共にアカ デミアとの連携も推進 • 世界各地に約90の拠点 • 特定事業の研究、共同開発 など を 行う • 米国2拠点、ドイ ツ 、スイ ス、 日本、中国の6拠点 • 当社が既存事業部では取り 扱っていない事業を 担当 • 欧州9拠点、米国6拠点、南米 2拠点、アジア4拠点、日本1 拠点を 重要な研究開発拠点に • 日本では、電池素材の基礎 研究から製品開発を 担う

基盤R&Dセン ター 地域R&Dセン ター イ ノベーショ ンセンター ビ ジネスR&Dセン ター

• 米国3拠点 • 先端素材開発を 始めとして グループ の研究開発の中核と なる 施設 • 米国2拠点、中国、日本、韓国、 台湾、タイ、インド、メキシコ、ブラジ ル、スイス、ロシアの13拠点 • 各拠点では、ユーザーとの共同 開発など を 行う • 世界各地に130超の拠点 • 特定事業の研究、共同開発な ど を 行う • 中国、ブ ラ ジル、イ ンド、 スイ ス、デン マークの5拠点 • 各地域の中核拠点として、基礎 研究~ユーザーとの共同開発 まで幅広い研究活動を 行う BASF DuPont ・3 つの核となる技術の中央研究所を中国、ドイツ、米国に設けるなど基礎研究からグローバルで行う ・有力電池メーカーが存在する日本では、電池素材を基礎研究から顧客との共同開発まで手掛けている ・基盤 R&D センターは米国のみであり、核となる技術の研究は米国に集約 ・各地域の様々な業界の顧客と共同開発を行う拠点としてイノベーションセンターを世界 13 ヶ所に設置している

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28 企業調査部 化成品事業 繊維 Agriculture Nutrition & Health Industrial Biosciences Electronics &

Communications PerformanceChemicals ProtectionSafety & PerformanceMaterials Agriculture

& Nutrition CommunicationsElectronics & PerformanceMaterials

Coatings &

Color Technologies ProtectionSafety & Textiles &Interiors

石油 ポリマー事業 多角化事業 1998年売却 2004年売却 2015年売却 現在の中核事業 1990年 2000年 2014年 (資料)IR 資料などをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 ④ 機能性化学:DuPont の注力産業の絞り込み  機能性化学のニーズは、ユーザー業界によって大きく異なることから、特定のユ ーザーに特化することにより高い課題解決力を有し、特色ある事業ポートフォリ オを構築する方向性も考えられる。  欧米メジャーのうち、事業の絞り込みが進んでいるメーカーとして DuPont が挙 げられるが、DuPont の場合、世界人口の増加により生じる諸問題を解決する事業 に注力するとしており、具体的に以下 3 点挙げている。  充分な食糧の供給 ・・・ 農薬、種子など  化石燃料からの脱却 ・・・ バイオ製品など  人・環境の保護 ・・・ 栄養食品、高機能繊維など  実際、事業セグメントの変遷をみても、1990 年以降に 3 度も事業セグメントごと 売却するという大胆な事業の切り離しを行った結果、注力する 3 分野を中心とす る体制へと大きく変化している(図表 37)。 図表 37:事業セグメントの変遷(DuPont)

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29 企業調査部 (注)網掛け箇所は、基礎化学を中心に手掛ける事業セグメント。 (資料)Bloomberg をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成 4. 我が国メーカーに対する示唆  欧米における企業単位での再編事例をみると、医薬品、農薬・種子を主体とする 農業化学等、特定事業の強化を目的としている。我が国総合化学メーカーにおい ても、このように事業ポートフォリオを絶えず見直すことにより、高い競争力を 備えた事業を数多く構築することが求められる(図表 38)。  また、非資源国であり、内需は縮小に向かうとみられる我が国における事業環境 に鑑みると、北米・中東といった原料立地において汎用品の大規模生産(Dow Chemical)、垂直統合型のコンビナートの新設(BASF の Verbund)することは容 易では無く、基礎化学で高い競争力を得ることは難しい。  従って、今後も機能性化学を中心に強化を行っていく方向性は不変であるが、欧 米メジャーの事業ポートフォリオの入れ替え動向、取り組み事例を踏まえると、 総合化学メーカーは次頁以降で述べるような対応が求められよう。 図表 38:総合化学メーカーの事業セグメント別収益状況(2015 年) 社名 セグメント名 (割合) (割合) 三菱ケミカル 38,231 100% 2,800 100% ケミカルズ 13,211 35% 573 20% ポリマーズ 7,737 20% 433 15% デザインド・マテリアルズ 8,526 22% 757 27% ヘルスケア 5,541 14% 1,034 37% エレクトロニクス・アプリケーションズ 1,156 3% ▲ 10 ▲0% その他 2,060 5% 73 3% コーポレート 0 0% ▲ 60 ▲2% 住友化学 21,018 100% 1,644 100% 石油化学 6,571 31% 288 17% 医薬品 4,355 21% 427 26% 情報電子化学 4,091 19% 247 15% 健康・農業関連事業 3,590 17% 775 47% エネルギー・機能材料 1,845 9% ▲ 20 ▲1% その他 566 3% 78 5% 会社費用等 0 0% ▲ 150 ▲9% 三井化学 13,439 100% 709 100% 石化 4,913 37% 393 55% 基礎化学品 2,512 19% ▲ 37 ▲5% 機能樹脂 1,675 12% 262 37% ヘルスケア 1,513 11% 107 15% フード&パッケージング 1,319 10% 139 20% ウレタン 1,122 8% ▲ 85 ▲12% その他 386 3% ▲ 70 ▲10% 売上高 (億円) 営業利益 (億円)

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30 企業調査部 (1) ポートフォリオ管理の高度化  事業ポートフォリオを強化していく上では、事業の買収のみならず非コア事業の 売却を行うことが求められる。  事業の売却が求められる背景は、事業ポートフォリオの転換を迅速に進める上で 有効であることは勿論のこと、非コア事業は競合メーカーと比して充分な投資が 行えず、中長期的に競争力を失う公算が大きいため。  非コア事業の設定を行う上では、ROI(資本収益率)等の具体的な数値基準を設 けることが有効とみられる。ただし、事業の売却を殆んど手掛けてこなかった総 合化学メーカーには、他事業との関係が薄い事業も依然多く、こうした事業は優 先的に売却を検討していくことが求められよう。  もっとも、その様な事業の中には安定的にキャッシュフローを生み出している事 業も含まれる。そのため、他事業との関係が薄い事業に関しては、より厳しい数 値基準を設けることなどを通じて保有すべき事業か否かを確りと吟味する必要が あろう。  また、基礎化学の場合、内需が縮小に向かっているうえ、収益性も低いことから “買い手”が見つからないケースも存在する模様。売却が難しい事業に関しては、 同じ事業を抱える競合メーカーとの合弁事業とすることにより、当該事業を切り 出すことも選択肢であろう。  基礎化学、機能性化学毎には以下の通り。 ① 基礎化学 ~ リストラの継続  高い競争力を獲得することが容易でない基礎化学では、不採算な事業を中心 にリストラを検討する必要がある。  ただし、製造過程で連産品が発生する基礎化学品の場合、ある製品プラント の停止は、他製品の原料調達元の切り替え、ユーティリティコストの負担増 等を伴うことから他製品の競争力にも影響を与える。  そのため、総合化学メーカーは、集中的にリストラを進める拠点を明確にし、 事業のリストラが他製品に与える影響を低減することが求められよう。

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31 企業調査部 ② 機能性化学 ~ 注力するユーザー業界を明確化  ユーザー業界毎にニーズが大きく異なる機能性化学では、注力するユーザー 業界の絞り込みも一つの選択肢。これは、幅広いニーズへ木目細やかに対応 していく上では、多額の研究開発・設備投資負担を求められるため。  注力するユーザー業界を設定して優先的に資源配分を行うことにより、特定 ユーザーに対して高いニーズへの対応力の獲得を目指すことも有効な戦略と 考えられる。 (2) グローバルでのニーズ吸収・販売体制の構築  欧米メジャーは、世界各地に研究開発拠点を有することにより、ニーズへの対応 が求められる機能性化学において、ユーザーニーズの把握、共同開発が可能とな っている。  我が国総合化学メーカーが今後、海外で拡販していく上では、現地ユーザーのニ ーズを踏まえた製品開発は必須であり、主要な用途(自動車、エレクトロニクス 等)のユーザー立地及び海外ユーザーが多い地域では、ユーザーとの共同開発拠 点を設けることが求められよう。 以 上

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32 企業調査部 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関し ては、すべてお客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情報に 基づいて作成されていますが、当部はその正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに変更することがあり ますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作権法により保護されております。全文または一部を転 載する場合は出所を明記してください。

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