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成立から一周年を迎えた イラン核合意 概況と課題

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(1)

イラン国内外に見る

「制裁解除」の波紋

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 中東研究センター 田中 浩一郎 第41回中東協力現地会議 2016年9月25日

(2)

本報告の論点

「制裁解除」の現状

完全履行の障害となる問題点

関係国の対応ぶりと雰囲気

イラン内政に及ぼす影響

域内情勢への波及

イラン・ビジネスと核合意の今後

2

(3)

核合意:分かれる立場、分かれる評価

状況の変化を楽観 合 意 に 賛 成 合 意 に 反 対

(4)

イラン核合意に対する両極端の評価

A 賛成派の楽観的な見方 B 反対派の悲観的な見方 核合意の履行により、イランの核化が長期的に 阻まれる イランにウラン濃縮の権利が事実上認められ、 やがて核化することが確実に イランをめぐる緊張が解消に イランをめぐる緊張がますます高まる 核のない弾道ミサイル開発は脅威ではないし、 対象から外すことで合意成立も容易に 核弾道ミサイルの脅威は止まない伸によって全世界の脅威に し、射程の延 過去の兵器開発疑惑に一応の決着 兵器開発疑惑に関する検証は依然として平行線 国交のない米国とイランとの間で緊密な対話を 行う場が成立し、さまざま問題解決に協力する余 地が生まれる 戦略を持たない米国が場当たり的にイランを饗 応する一方で、サウジアラビアやイスラエルの影 響力が低下する 地域大国イランの国際社会への復帰に扉が開 かれる 地域および国際社会でシーア派イランの影響力が増す 干渉と 経済制裁解除・緩和を通じてイランの経済発展 が促される 制裁緩和によって他国に干渉・介入を行う財政 的な余裕が生じる 武力行使を伴うことなく、外交による核問題の解 決を果たした成功例 問題の根本的な解決にならず、外交は事態の先 送りでしかない 4

(5)

制裁解除・緩和をめぐるリスクの起源

核交渉から

JCPOA(包括的共同行動計画)の成立

に至るまでの問題

 長年のイランと米国の相互不信  米国の同盟国・友好国の不信感増大 

JCPOAに基づく制裁解除・緩和措置の問題

 二次制裁効果を持つ一次制裁の残存  SDNリストとイラン革命防衛隊(IRGC)の排除  OFACの本来業務との矛盾 

JCPOAの履行と維持をめぐる問題

 片務的な状況にイランは不満を募らせる  次期米政権による取扱いに不確実性

(6)

経済制裁解除の経緯

JPOA(暫定合意)に基づく暫定的な制裁停止措置

 2014年1月20日~2016年1月16日  制裁強化に対するモラトリアムが中心であり、金融取引 の正常化は対象外 ⇒ イランの貿易・投資環境の改善にはほとんど寄与せず 

JCPOA(包括的共同行動計画)下での制裁解除・

緩和措置

 履行日となった2016年1月17日から発動  国連安保理決議に基づく制裁の解除  米国は核関連の二次制裁(金融制裁を含む)の解除や適 用停止に限定 ⇒ 貿易・投資環境の劇的改善に期待が寄せられたが… 6

(7)

JCPOA履行日の到来後の様相

予想の範囲内だった

 欧州諸国による積極的外交と大型商談  国会における大統領支持会派の創設  中距離弾道ミサイル発射実験の継続  イラン側でのフラストレーションの増進 

やや予想が外れたかもしれない

 それなりの原油生産拡大の達成  イラン経済の息切れ 

完全に想定外だった

 欧州の大手金融機関の物静かさ

(8)

制裁解除・緩和を阻むもの

事前に見つけられなかった制度的な

「落とし穴」

 きわめて大きい、米国の一次制裁の存在

 特に、金融および保険・再保険での障壁が持続

“due diligence” と “over compliance” との

板挟み

にあう企業の対応

 取引に「細心の注意」を促す一方で、「過剰反応」と批判 する米国の当事者意識の欠如 

スナップ・バックに対する企業の

警戒心

 米国の制裁の場合でも、30日間の検討・紛争解決メカニ ズムが存在(米側説明)  米国は遡及しての適用を公式に否定しているが… 8

(9)

米財界のやるせない雰囲気

制裁解除・緩和に対する反応

 一次制裁が残存するがゆえに、日欧企業が米企業を出 し抜くことへのやるせなさが表出  米国務省に勧められた各企業が行う商談情報に関心 

米企業が行うであろうロビー活動の方向性に注目

 一次制裁撤廃を働きかける力としては弱い  むしろ、不公平感の高まりが懸念材料  UANIなどの反イラン・ロビー団体が介入する余地 

日欧が避けたい、

1995~’96年の再現

 新たな二次制裁の誘因

イラン側の 「好ましくない政策」が状況を複雑化

(10)

完全履行を阻む環境

米議会の「妨害工作」

 ボーイング機とエアバス機の売却を阻止する「金融サー ビス・一般政府歳出法」修正法案を下院が超党派で可決  上院、下院で追加制裁法案を準備中  テロ支援、弾道ミサイル開発、人権侵害が対象  民主党上院議員15名は、IAEA報告書における情報開 示の拡大をオバマ大統領に要求する書簡を発出  延長期間を10年に変更したISA延長法案 

米財務省

OFACの「頑固な仕事ぶり」

 最近、全面禁輸措置への違反(植物種子の輸出)を摘発 

合意成立後のミサイル発射実験で強まる「逆風」

 「好ましくない行動」の代表例 10

(11)

欧州の躊躇いと戸惑い

活発な商談の裏に控える、金融機関の冷ややかな

対応

 厳しい欧州の大手金融機関の「不在」  中小の銀行ではまかないきれない多数の大型案件  ケリー米国務長官による説得には反発を顕わに 

「ウォールストリート」から届いた「メッセージ」

 対イラン金融取引の道義的責任を問う米商業銀行  「金融活動作業部会」勧告との整合性が焦点に  FAQ集(改訂版)を通じた米財務省の補足説明  欧州大手金融機関に対する効果は不透明 

“Brexit”という新たな課題と不確定要素の台頭

(12)

12

発足時のロウハーニ政権の方向性

中道・穏健

を基軸とする、「問題解決と希望の政府」

交渉による核問題の解決

 核開発の堅持  透明性の向上 

善隣友好

外交

 GCC、特にサウジアラビア 

親身な

「大きな政府」

を志向

 現金給付制度の維持  社会保障制度、医療保険制度の拡充 

実務家や

テクノクラートの登用

 ラフサンジャーニ元大統領の人脈の復活

(13)

ロウハーニ政権の3年間を総括する

核交渉と

核合意の成立

 経済制裁の解除という見返り 

景気低迷

と経済発展の停滞

 消費マインドの後退  実質的な制裁緩和の遅れ 

思い通りに

進まない関係改善

 米国との対話と対立  シリア内戦への関与拡大  イエメン内戦もあり、緊張が緩まないペルシア湾岸地域 

核合意と諸政策をめぐる

国内対立の激化

表面化する最高指導者と大統領の反目

(14)

批判を強めるハーメネイ最高指導者

交渉は支持

したが、米国の真意を疑い続ける

制裁緩和の遅れで

対米批判に勢い

 米国は、表向きに制裁解除 を言うが、裏では Irano- phobia を広め、第三国が イランと取引しないように圧 力をかけていると指摘  「革命の理念」に忠実に、 自身が打立てた「抵抗経済」の実践をいっそう奨励 

新たな「賠償問題」で

対米不信が拡大

核合意に理解を示した

軍トップを更迭

 シリア内戦への関与のあり方も俎上に 14

(15)

「賠償問題」で深まるイランの対米不信

背景

 米国市民と資産に危害を加えた、イラン 「国家テロ」事案の損害賠償訴訟  在米イラン資産凍結を命じたオバマ大統領令  米議会が凍結資産を賠償資金に充てることを容認 

連邦巡回裁判所における上訴審判決で原告が勝利

 即座にイランが連邦最高裁に上告 

連邦最高裁が主張を却下し、

判決が確定

募る反発とイランの対応

 「国家財産の窃盗行為であり、追いはぎまがいの行動」  US$20億の返還を求め、国際司法裁判所(ICJ)へ提訴

(16)

表面化する政策批判

経済に疑問を呈する声

が政権

寄りの政治家に拡大

 ラフサンジャーニ元大統領  ラーリジャーニ国会議長 

景気刺激策をめぐる

経済閣僚同士の対立

 経済・財務大臣を軸に、官房長官、石油大臣 、CBI総裁 

対シリア政策に関わる

人事の断行

 ザリーフ外相が中東・アラブ担当外務次官を更迭  国家安全保障最高評議会は、シャムハーニ事務局長(安 全保障担当補佐官)を、イラン・シリア・ロシアの3カ国調 整の責任者に任命 16

(17)

シリア内戦介入でイランが払う代償

昨年

10月以降の

イラン人戦死者の急増

 従来のIRGC士官に加え、陸軍特殊部隊まで投入  「シーア派」部隊にも人的被害が広がる ⇒ 先の人事は、イラン社会での不満の拡大を反映した変 化である可能性も 

ロシア軍機への

基地提供をめぐる論争

 ロシア嫌いの国民性に加え、明らかに憲法に抵触

(18)

ロウハーニ政権に対する批判材料

2015年夏以来続く、景気の低迷

 国内消費を冷やす、核合意後の買い控え行動  油価低迷の影響も 

大統領実弟に対する不正取引疑惑

 職権乱用による不動産取得 

高級テクノクラートに対する超高給

待遇

 金融機関頭取と保険会社社長の給与待遇の暴露  平均的な公務員の数百倍の水準  ロウハーニ大統領が善処を約束し、調査を命ずる  4行の頭取が辞任、あるいは更迭に  発端はアフマディネジャード前政権時代に遡る 18

(19)

JCPOA「抵抗勢力」としてのIRGC

JCPOA成立でロウハーニ政権が支持固め

 交渉に批判的で、合意に反対してきたIRGCの面子喪失 

余勢を駆って、ラフサンジャーニ元大統領が復権中

 過去にIRGC解体を企図した敵性人物と認識 

制裁解除・緩和で「既得権」を失う立場

 外貨の優先は金の卵  密輸業者の上前を撥ねる 

新規ビジネスからの排除は不可避

 依然として続くSDNリストのにらみ

IRGCにとって、JCPOA下の制裁解除・緩和は「無

(20)

IRGCや保守強硬派の不満の表し方

ハーメネイ師による

政権および政策批判

に乗じる

 イラン暦1395年ノウルーズ以降、その状態が出現 

二重国籍保有者の

身柄拘束や投獄

 米国などに対する、さらなる交渉カードの確保が目的 

制裁解除・緩和の遅れをめぐる

関係者の責任追及

 「英国スパイ網のために 経済データを売り渡した」  国内の不満もあり、効果大 

米軍艦船に

妨害行為

 制裁解除を遅らせている 元凶としての米国に警告? 20

(21)

挑発を重ねる

IRGCの「深慮遠謀」

最近の人事で

潮目が変化

したことに自信を深める

米大統領選挙

を睨んだ動き

 JCPOAの維持と制裁解除・緩和で得るものはない  選挙の争点化を促すことで、トランプ候補の優位を演出  トランプ大統領と共和党復権によって、米国の国際的な 孤立をもたらす

直接に対峙することは双方とも望まず

フィールーズアーバーディ少将 バーゲリ少将

(22)

イランの政軍関係と指揮権

最高指導者

国家安全保障最高 評議会(SNSC) 内務省

軍統合本部

治 安 維 持 軍 正規軍 陸、海、空 イスラーム革命防衛隊(IRGC) 陸、海、空、宇宙、サイバー、Qods部隊、 バシージ抵抗部隊 大統領

(23)

動揺が続く域内への波及

「アラブの春」後にアラブ諸国に広がる

不安と不安定

米国の関与低下

(アジア・シフト、リバランシング)

イラン核交渉~合意~

制裁解除と国際社会復帰

「親米」アラブ諸国の懸念の拡大と、

独自の積極外

交・安全保障政策

の展開

アラブ側の「オバマ・ドクトリン」への不信が、サウジ

アラビアとイランの対立に拍車をかける

(24)

1979 イラン・イスラーム革命成就 2003 AQによるリヤード自爆攻撃 1980 イラン・イラク戦争勃発 2006 第二次レバノン紛争 1987 メッカ衝突事件を経て断交 2008 「蛇の頭を切断する必要」 1991 湾岸戦争を経て国交回復 2010 「アラブの春」勃発 1996 ホバル・タワー爆破事件 2011 バハレーン騒擾とシリア内戦 1997 OIC臨時サミット開催 2011 駐米サウジ大使暗殺未遂 1997 OICテヘラン・サミット開催 2015 サウジのイエメン軍事介入 2001 9.11同時多発テロ発生 2015 メッカ巡礼者轢殺事件 2003 イラク戦争 2016 ニムル師処刑と襲撃、断交

サウジアラビアとイランの関係小史

23

(25)

止む気配のない相互批判

政治的批判から人種差別発言まで

 「轢殺事件を生じた不信心者サウード 家」の聖地管理能力を疑問視するハーメネイ師  彼ら(イラン指導部)は「マギの子孫」と蔑視するアール・ アッシェイフ師  「イランは諸悪の根源」と公言するジュベイル外相  「世界はワッハーブ主義の根絶を」と説くザリーフ外相 

イランは、サウジアラビアとイスラエルの便宜上の

連携を警戒

 利害関係の一致に基づく、分業体制の確立か  証左として考えられる、米国製兵器の対サウジ売却に関

(26)

サウジアラビアとイランの対立点と相違

イラン 対立項目 サウジアラビア シーア派 宗派 スンナ派 ペルシア 言語族 アラブ アサド政権を支援 シリア 反アサド派を支援 ホウシー派へ武器供給 イエメン ハーディ移行政権を軍事支援 ヒズボラを支援 レバノン 反ヒズボラ勢力を支援 シーア派政権に接近 イラク シーア派政権と距離 米国などと交渉 イラン核合意 米欧に不信感 AQおよびISIS/ISIL 最大のテロ脅威 ヒズボラ シリア内戦での勝利 戦略的優先事項 イエメン内戦での勝利 米国 安全保障上の脅威 イラン 25

(27)

最重要変数:次期米政権

オバマ大統領の「総仕上げ」と「置き土産」

 一歩踏み出した金融制裁の緩和はあるか?  4度目の失効を迎えるイラン制裁法(ISA)の延長は必至 

白熱する米大統領選挙

 対イラン強硬策での競い合い 

次期大統領による

JCPOA対応

 トランプ候補は破棄に言及  レジメに列記するヒラリー候補は維持 

2017年に控えるイラン大統領選挙

 GWBの「悪の枢軸」発言がもたらした苦い教訓 (IRGC出身の)強硬派大統領が選出されるリスク

(28)

終わりに:イラン・ビジネスのリスク精査

体制の安定性

に関するリスク

(制裁)

コンプライアンス

・リスク

財政

リスク

 対外支払能力、 金融機関の不良債権、為替変動など 

国内

制度・規制

リスク

 市場・産業保護、ローカルコンテンツ、官僚主義など 

地政学

リスク

 米国、イスラエル、サウジアラビアとの対立など 

不透明性

に因るリスク

 恣意的な法制運用、管轄権の混線、資金洗浄疑惑など 

レピュテーション

・リスク

27

(29)

ご静聴いただき

参照

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