第6節 安全で活力ある漁村づくり
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第 Ⅱ 章(1)浜の活力再生プラン
漁業は漁村の産業基盤であるため、漁村の活性化のためには地域漁業の活性化が欠かせま せん。漁業が全体的にふるわない状況にある原因として燃油等資材の高騰や漁業者の高齢化 等が指摘されていますが、個々の経営体における問題点は個々の経営体や地域が置かれてい る状況によって異なることから、問題点を有効に解決するためには、画一的な方策ではなく、 それぞれが置かれている状況に即して検討する必要があります。 このため、漁村及び地域漁業の活性化のためには、何が問題となっておりその解決のため にはどうすべきかを漁村地域が自ら検討し、解決の方策を決めることが必要です。その内容 としては、例えば水産加工業や観光業等の関連産業との連携、水産物流通の工夫による魚価 の向上、新型漁船の導入による収益性の向上や省エネ機器の導入によるコストの削減等の取 組が考えられます。各浜の漁業協同組合又は漁業者団体は、平成25(2013)年度から、市町 村等と共同で地域の実情に即した「浜の活力再生プラン」を策定し、プランに掲げた取組の 実施を開始しています。(2)水産業・漁村における地域資源の活用
(地域資源を活用した漁村の活性化) 漁村は、自然にあふれた環境の下、新鮮な魚介料理や、遊漁や海水浴等レクリエーション にも事欠かず、多くの観光客を惹きつけています。また、多くの観光客の訪問は宿泊施設、 飲食施設、レジャー施設等の立地を促し、これらによる雇用の場が創出され、漁村の活性化 にも大きく貢献します。このため、各漁村がそれぞれ持つ特有の地域資源をその漁村の住民 が再発見し、活用を図ることが重要です。第6節 安全で活力ある漁村づくり
地の利と地域資源を活用して地域の活性化を図る
(千葉県 保
ほ田
た漁業協同組合)
房総半島の南西部に位置する千葉県安房郡鋸きよ南なん町は、首都圏から日帰りが出来るというアクセスの良さ から、観光客が多く訪れています。また、前浜に広がる東京湾の豊かな漁場と自然、温暖な気候により、 古くから沿岸漁業や花き栽培といった1次産業が盛んに行われてきました。 しかし、近年は不安定な所得体系や就労環境の未整備等から、若年層の1次産業への就業意欲は低く、 漁業や農業の担い手が不足する一方で、首都圏に近いことから若年層が都市部へ流失する状況にありまし た。 そこで鋸きよ南なん町では、保田地区にある保田漁業協同組合を中心に、海や水産資源といった地域資源を活用 した都市漁村交流を積極的に行い、地域の活性化に取り組むこととしました。 「魚のことを誰よりも知っている」という漁業者の強みを活かし、漁業協同組合直営の食堂「ばんや」 を平成7(1995)年にオープンしたのを皮切りに、平成11(1999)年には、伊豆半島や大島に行くプ事 例
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第 Ⅱ 章 (漁村地域における6次産業化・地産地消の取組) 国は、農山漁村の所得・雇用の増大及び地域活力の向上を図るため、1次産業としての農 林漁業、2次産業としての製造業及び3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体 的な推進を図り、新たな付加価値を生み出す6次産業化の取組を推進しています。漁村地域 においては、漁業と加工・流通業の一体化や、観光業と融合する取組が6次産業化の取組の 例として考えられます。 また、地元消費者に向けて地元の水産物を販売する取組や、地元消費者が率先して地元の 水産品を消費する、いわゆる地産地消の取組が進められています。地産地消は、消費者側か らは流通が簡素化され割安となるほか、生産現場が近いため安心感があるといった利点があ ります。また、漁業者側にも少量しか漁獲されず一般の流通に乗りにくい魚介類でも販売し やすく、流通コストがそれほどかからないといった利点があります。 6次産業化や地産地消の取組を支援することを目的とする「地域資源を活用した農林漁業 者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律*1」に基づく「総 合化事業計画」の認定件数は、平成26(2014)年3月末現在で1,815件となっており、その うち水産物に関するものは125件(7%)となっています。また、農林漁業者と中小企業者 が連携し、それぞれの経営資源を有効に活用して新商品開発や販路開拓等を行う「農商工等 連携」の取組を支援することを目的とする「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活 動の促進に関する法律*2」に基づく「農商工等連携事業計画」の認定件数は、平成26(2014) 年2月末現在で612件となっており、そのうち水産物に関するものは91件(15%)となって います。 さらに、平成25(2013)年2月には「株式会社農林漁業成長産業化支援機構法*3」に基づ き、官民共同出資の株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が営業を開始しており、 地域ファンド等による6次産業化事業体への出資等を通じて6次産業化の取組を強化・拡大 することとしています。ファンドからの出資支援は平成26(2014)年3月末現在で8件が決 定されており、そのうち水産業に関するものは3件となっています。 平成18(2006)年には「海の駅」に登録され、観光遊覧船等家族で安心して遊べる施設づくりや、観 光バスの受け入れ施設の整備、観光拠点への無料循環バスの運行といった地域活性化の取組を行い、先進 地として多くの視察を受け入れ、地域間での意見交換を積極的に行っています。 今後は、首都圏からの日帰り客が主体である現状を踏まえ、どうすれば滞在者を増やせるかという課題 に取り組んでいく方針です。 *1 平成22(2010)年法律第67号 *2 平成20(2008)年法律第38号 *3 平成24(2012)年法律第83号第6節 安全で活力ある漁村づくり
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第 Ⅱ 章(3)水産業・漁村が発揮する多面的機能
漁村は、漁業者を始めとする住民の生活の場であるとともに、そこで水産業が営まれるこ とにより魚介類や海藻等を生産し、加工を行う場ともなっています。その一方で、水産業・ 漁村には、このような水産物の安定供給という本来的機能のほかに、①自然環境を保全する 機能、②海難救助や国境監視活動等の国民の生命財産を保全する機能、③居住や交流の「場」 を提供する機能、④地域社会を形成し維持する機能等の多面的な機能を備えています(図Ⅱ −6−1)。また、その評価額は、定量評価が可能なものだけに限定しても年間総額9兆 2,052億円に達するものと試算されています*1。 こうした水産業・漁村の多面的機能は、誰もが享受できる公益性を有しており、私たちの 生活に様々な恵みをもたらしています。しかしながら、このような機能は漁村に人々が生活 し、水産業が継続して営まれることではじめて発揮されるものであるため、今後とも漁村人 口の減少・高齢化が進行し漁村の活力が更に衰退すれば、水産業・漁村の活力によって支え られている多面的機能の発揮にも支障を来すことが懸念されます。水産業・漁村の多面的機 能を維持、強化していくことは、国土を海に囲まれ海からの恵みを十分に享受することが国 民の福祉における大きな要素となっている我が国にとって重要な課題であり、政府が一体と なった取組を行っていくこととしています。 平成25(2013)年度からは、国民の生命財産の保全、地球環境保全、漁村文化の継承とい った水産業・漁村の多面的機能の発揮に資する地域の漁業者等の活動について国が支援する 制度が実施されています。A-FIVEによる「クルマエビの周年販売」への支援
(沖縄県 沖縄栽培水産(株))
6次産業化事業体への出資を行うA-FIVEは、平成25(2013)年9月2日に、機構による出資支援の第 一号となる3つの6次産業化事業体への出資を決定しました。この中には、クルマエビの養殖・加工品製 造を行う(株)拓水と養殖用飼料・資材の販売 を行う(株)オザキが共同出資した、沖縄栽培 水産(株)への出資が含まれています。 今回の出資を受け、沖縄栽培水産(株)は、 地元の漁業協同組合と協力し、気候が温暖な沖 縄県与那国島の地の利を活かした高品質なクル マエビの周年生産を新たに開始するとともに、 最新の技術を用いたクルマエビの冷凍加工と自 社販売を行い、高品質なクルマエビの安定供給 を実現することを計画しています。将来的には、 与那国島のみならず沖縄県内で広く国産のクル マエビの生産に取り組み、クルマエビの国内周 年供給の拡大が期待されています。 NCB九州6次化支援ファンドによる支援の概要 (株)農林漁業成長産業化支援機構と西日本シティ銀行が半々の出資で サブファンド(NCB九州6次化応援ファンド)を設立。 NCB九州6次化応援ファンドから沖縄栽培水産株式会社に対して出資 を行う。 国 沖縄栽培水産株式会社 株式会社拓水 株式会社オザ キ 株式会社 農林漁業成長産業支援機構 NCBリサーチ& コンサルティング 西日本 シティ銀行 民間 金融機関 食品企業等 (産業投資) 《投資先》 出資 出資 出資 運営 出資 経営支援 農林水産物 等 技術、販路、 ノウハウ 出資 出資 出資 貸付 NCB 九州6次化 応援ファンド 機構の3大業務 ①出資 ②融資 ③マッチング *1 平成15(2003)年3月「多面的機能評価等にかかる調査報告書」(水産庁)事 例
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第 Ⅱ 章 資料:日本学術会議答申を踏まえて農林水産省で作成(水産業・漁村関係のみ抜粋)世界遺産「知床」における漁業の役割
北海道の知床は、平成17(2005)年に世界遺産一覧表 に記載されました。知床周辺海域では生物生産の豊かさに 支えられて、昔から漁業活動が活発に行われており、漁業 を基幹産業として地域が発展してきました。 特にサケ・マス類は地域の主要な水産資源として重要な 存在です。サケ・マス類は海で成長し、産卵のために河川 を遡そじょう上する際にヒグマ等陸上動物の重要な食料となるほ か、その死骸は分解され森への栄養となり、知床の豊かな 生態系を支えています。漁業者はふ化放流事業の実施等に よる資源管理を積極的に行い、サケ・マス類資源の維持・ 増大に努めています。また、トド等の海獣類の餌になるス ケトウダラについても、漁業者は網目の拡大、禁漁期・禁 漁区の設定、減船等の自主的規制措置を導入しています。 知床の生態系の概念図 資料:北海道庁ホームページ資料に基づき水産庁で作成 シマフクロウ ヒグマ 植物 オオワシ・ オジロワシ プランクトン サケ・マス 海の魚 流氷 エゾシカ トド・ アザラシコラム
第6節 安全で活力ある漁村づくり
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第 Ⅱ 章(4)水産業の振興における漁港の役割
漁港は、漁船の係留、燃油や食料等の補給、修理、水揚地として漁業にとって欠かせない 存在です。我が国沿岸には2,909の漁港が立地しており、利用範囲により第一種漁港から第 四種漁港に分類されています。沿岸漁業が発達している我が国漁業の実情を反映し、漁港の 約4分の3は主に地元漁業者が利用する第一種漁港となっています(表Ⅱ−6−1)。 水揚地である漁港には水産物の流通・加工施設等多くの施設が集積しますが、地域の水産 業の特徴に応じて漁獲物に特色があることから、流通・加工施設もその特色に応じた施設が 立地する傾向にあります。この特色を町おこしの中心コンセプトとして利用している地域も みられます。 漁港は水揚地として水産物流通における出発点であり、漁港での水産物の取扱いは当該水 産物の品質や評価を決定づけるものとして重要です。このため、漁港においても適切な衛生 管理を行うことが求められています。国では、水産物の流通拠点となる漁港について、衛生 管理対策による競争力強化のため、衛生的な漁港の整備等の取組に対し支援をしています。(5)漁村地域における防災機能の強化と減災対策の推進
(漁村の現状) 我が国の海岸線の総延長は約35,306㎞に及びます。一方、漁業集落数は6,298あり、平均し て海岸線5.6㎞ごとに漁業集落が立地しています。漁業集落が海岸にくまなく立地すること により、我が国の国土の保全とその均衡ある発展に寄与しています。 このように、知床では海洋生態系の保全と持続的な水産資源の利用による安定的な漁業の営みの両立が 図られています。この知床の管理方式は、東南アジアやアフリカ沿岸国等のように膨大な数の漁業者が多 様な魚種を様々な漁法で採捕する国・地域において今後の生態系保全に大きく貢献する可能性も指摘され ており、新しい管理手法のモデル(知床方式)として世界的にも高く評価されています。 表Ⅱ−6−1 第一種∼第四種漁港の漁港数と利用範囲 漁 港 数 2,927 2,921 2,914 2,912 2,909 第 一 種 その利用範囲が地元の漁業を主とするもの。 2,217 2,210 2,205 2,200 2,179 第 二 種 495 496 496 499 517 第 三 種 その利用範囲が全国的なもの。 101 101 101 101 101 特定第三種 13 13 13 13 13 第 四 種 101 101 99 99 99 平成15年 (2003) (2008)20 (2011)23 (2012)24 (2013)25 (単位:港) 資料:水産庁調べ 注:漁港数にあっては、平成15(2003)年は当年12月31日現在の港数。平成20(2008)年及び23(2011)年∼25(2013)年は当年4月 1日現在の港数。 その利用範囲が第一種漁港よりも広く、第三種 漁港に属しないもの。 第三種漁港のうち水産業の振興上特に重要な漁 港で政令で定めるもの。 離島その他辺地にあって漁場の開発又は漁船の 避難上特に必要なもの。第
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第 Ⅱ 章 るため、山がちで平地に乏しかったり、病院等が充実している都市部へのアクセスに難があ る場合や、湾の奥に位置して自然災害の影響を受けやすいなど、漁業以外の産業の振興や生 活面において不利な条件を抱えています(表Ⅱ−6−2)。漁業集落の家屋の立地状況をみ ると、9割の漁業集落が集居集落・密居集落となっています。これは、漁村内での連帯感を 強める効果がある一方で、新たな施設や家屋の建築が困難であるなど、転入者が漁村に定着 しにくい原因ともなっています。 (災害に強い漁業地域づくり) 背後に山が迫る 狭きょう隘あいな土地に位置する漁村では、漁業関係施設や家屋が狭い土地や崖下 に密集しています。このため、多くの漁村が地震や津波等の災害に対して脆ぜいじゃく弱となってい ます。さらに、高齢者が多く居住している一方で、釣り客や観光客が漁村外から来訪するこ とから、災害発生時の地域の救助体制等に特有の課題を抱えています。 このような中、漁港は災害により陸路が寸断された際に人間の移動や物資の搬出入等で重 要な役割を果たしています。東日本大震災においても、耐震強化岸壁を有していたため地震 や津波による被害が無かった漁港は、被災直後から復旧・復興に大きく貢献しました。また、 完全に倒壊しなかった防波堤や岸壁は、津波等に対して防護壁としての機能をある程度維持 し、背後にある集落の被害軽減等に寄与しました。これを踏まえ、国では平成25(2013)年 8月30日に「平成23年度東日本大震災を踏まえた漁港施設の地震・津波対策の基本的考え 方」をとりまとめ、防波堤や防潮堤による多重防御の活用や、防波堤・岸壁を津波に対して 壊れにくく粘り強い構造にすることで漁港を壊れにくくし、背後の漁村集落の被害を少なく することとしています(図Ⅱ−6−2)。 我が国は島国であり、海からの災害についても万全な対策をとることが国土を 強きょう靱じん化かす る上で重要であり、漁村・漁港はまさに海と陸の接点に位置することから、その防災・減災 については、国土の 強きょう靱じん化かの一環として、政府として取り組むことが必要です。 表Ⅱ−6−2 漁港背後集落が立地する地域の指定状況 資料:水産庁調べ(平成25(2013)年3月末現在) 注:岩手県、宮城県、福島県を除く結果 4,190 1,435 765 2,731 1,459 100.0% 34.2% 18.3% 65.2% 34.8% 65歳以上の高齢者が50% 638 233 247 526 112 以上を占める集落数 15.2% 36.5% 38.7% 19.3% 7.4% 合 計 過疎地域 非過疎地域 うち離島地域 うち半島地域 漁港背後集落数第6節 安全で活力ある漁村づくり