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1.Frank Capra 監督と映画作品

Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6) (邦題:『オペラハット』)の監督、Frank Capra は1 8 7 9 年5月1 8日にイタリアのシシリー島で生まれた。彼は6歳のとき、家族と共にアメリカ西海岸 の南カリフォルニアへ移住した。そして3 9歳の時にカリフォルニア州の大学を卒業し、その後、

映画界に入り1 9 2 6年に The Strong Man(邦題:『当たりっ子ハリー』 ) で映画監督デビューを した。1 9 3 5年には It Happened One Night(邦題:『或る夜の出来事』 ) で初めてのアカデミー 監督賞を受賞し、映画監督としての地位を確立して以来、1 9 6 1年の Pocketful of Miracles(邦 題:『ポケット一杯の幸福』 ) の監督および製作を最後に、映画監督業を引退するまでに全4 7作 品を監督した。そしてアメリカ映画界の名匠として、人々に長年その作品が支持されている。

1 9 9 1年9月3日に老衰の為、9 4歳でこの世を去る。

この Capra 監督がその名声を不動のものにした1 9 3 0年代から1 9 4 0年代は、世界大恐慌から 第二次世界大戦という歴史的にも、またその時代を生きた当時の人々にとっても非常に厳しく 暗い時代であった。この暗い時代において、日常生活によくある金銭欲や出世欲といった人々 の欲望や心配事をコメディのおかしさで打ち消し、人間愛あふれる作品を数多く生み出したこ とが、人々に彼を「アメリカ映画界の良心」と呼ばせた由縁と言っても過言ではない。

本論で取り上げる Capra 監督作品の Mr. DEEDS GOES TO TOWN も人々の持つ「欲望(金

Frank Capra 監督映画に表象される ヒーローと正義

Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6)

西 善 也

英語研究室

Hero and Righteousness Symbolized in Frank Capra s Film Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6)

Yoshiya NISHI

Department of English, Asahi University

朝日大学一般教育紀要 4, 39−52, 2

3 9

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銭欲) 」 をコメディの面白さで打ち消し、そして人々が持つ非日常的なものへの「憧れ」と「好 奇心」を満たした人間愛あふれる作品である。また、この作品は正直者で誠実な「正義」の主 人公(ヒーロー)が苦難を乗り越えて人間社会に存在する「悪」を倒し、真の「愛」と「幸福」

を得るという物語である。要するに、Mr. DEEDS GOES TO TOWN は正義のヒーローが a

hero s journey を完遂しアメリカン・ドリーム(成功)を掴む物語として多くの人々に受け

入れられてきた。

だが、多くの人々がこの作品を大恐慌という暗い時代の最中に主人公がアメリカン・ドリー ムを実現する単なる人間愛あふれる物語として受け入れている一方で、Capra 監督がこの作品 で描こうとした本当の意図は別のところにあるように思える。本論では、アメリカの映像文化 研究として Mr. DEEDS GOES TO TOWN に正義の表象を追い、同映画が後の Capra 監督作 品に登場する主人公の原型(archetype)となる重要な作品であった可能性を見ていく。

2.Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6) について

Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6)は、1 9 3 6年度アカデミー賞において、Capra 監督が 人生で2度目のアカデミー監督賞を獲得した作品であり、さらに同作品はアカデミー作品賞、

脚色賞を含む主要4部門にノミネートされた。また、AFI(アメリカ映画協会)が1 9 9 8年から 始め、以後、毎年実施しているアメリカ映画総合ランキング「AFI s 1 0 0 years 1 0 0 Movies」

シリーズにおいても、2 0 0 6年度実施の AFI s 1 0 0 Years 1 0 0 Cheers において8 3位に挙げられ ている。しかし本作品は It s A Wonderful Life (1 9 4 6) [邦題:『素晴らしき哉、人生!』] (1位) 、 Mr. Smith Goes to Washington (1 9 3 9) [邦題:『スミス都へ行く』] (5位)そして Meet John Doe

(1 9 4 1) [邦題: 『群衆』 ] (4 9位)といった他の Capra 監督作品と比べ、AFI の映画ランキングに て低い評価を受けている。このように Mr. DEEDS GOES TO TOWN が後の Capra 監督作品 と比べ低く評価されている要因の一つとして、本作品は Capra 監督の作品が世に認められ始 めた頃の作品であり、後の彼の作品と比べ作品の成熟度そして完成度が低いと判断されている のではないかと思われる。ここで作品の主要登場人物の紹介とあらすじを見ておこう。

主人公ロングフェロー・ディーズ(Longfellow Deeds)は、Vermont 州の Mandrake Falls という田舎町で小さな油脂工場(tallow works)をジム・メイソン(Jim Mason)と共同経営 し、さらにポストカード用に詩を書いて生計を立てながら平凡な生活を営んでいた。そんなあ る日、資産家で遠縁の伯父にあたるセンプル氏(Semple)がイタリアで交通事故に遭って亡 くなり、その莫大な2千万ドル ($2 0 million) という遺産をディーズが相続することになる。 伯 父の遺産を相続するにあたり、ディーズは田舎町 Mandrake Falls から大都会 New York の邸 宅に住居を移す。大都会 New York で富豪としての新生活が始まり、彼の財産目当ての輩が

4 0 Frank Capra

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次々と出現して彼を取り巻く。しかし持ち前の common sense で彼らを次々と撃退してい く。そんなある日、敏腕記者のルイーズ・ベイブ・ベネット(Louise Babe Bennett/Mary

Dawson)が 時の人 ディーズを取材すべく彼に近づいてくる。ディーズはメリー・ドーソ

ンという偽名を使い彼と交際をするベネットに少しずつ惹かれていく。ベネットはディーズの 日常生活、さらには彼との交際の様子をスクープとして新聞記事にする。人々はベネットのス クープ記事を面白おかしく読み、ディーズは次第に 変人 として扱われるようになる。ディ ーズの私生活をスクープにしていたベネットであったが、自分に対する彼の誠実さ、純真さ、

そして深い愛情を感じ、次第にディーズに惹かれていく。彼を愛し始めていたベネットは、あ る日ディーズから結婚の申し込みを受ける。ディーズからのプロポーズを受けた後、彼の愛情 の深さを知り、良心の呵責に苛まれたベネットは、彼の私生活をスクープ記事に出来なくなり 新聞社を辞める。ベネットは新聞社を辞めたと同時に、ディーズに今まで彼の私生活をスクー プにした新聞記事を書いた記者が自分であると告白をする。真実を知ったディーズは深く傷つ き人間不信に陥ってしまう。そんな折、傷心のディーズの下にベネットのスクープ記事を読み、

彼の華やかな私生活に妬みを抱いた一人の農夫が銃を片手にディーズの邸宅へと押し入る。こ の農夫を含め、世の中の多くの人々が生活苦にあえぐ悲惨な様を目の当たりにしたディーズは、

伯父から相続した遺産を放棄し、そのすべてを費やし貧困にあえぐ農夫たちを救済することを 決める。しかし予てからディーズの財産を狙っていた故センプル氏の顧問弁護士ジョン・シー ダー(John Cedar)と故センプル氏の甥夫婦(Mr. & Mrs. Semple)がディーズの前に立ち はだかり、「ディーズが貧困にあえぐ農夫たちを救済しようとする行為は、彼が精神異常をき たしており正常な判断が出来ない状態での決断のため無効であり」 、 さらに「ディーズには伯父 から相続した莫大な財産を管理する能力が無く、また彼の計画が人々の心を惑わし社会的混乱 を招く恐れがあるため、故センプル氏の遺産のすべてを故センプル氏の甥夫婦が管理すべきで ある」と市の裁判所に訴え出る。この訴えにより、ディーズは市の精神病院に収監される。そ してディーズは失恋と人間不信による傷心のまま裁判にかけられ、裁判は悪役シーダーと故セ ンプル氏の甥夫婦の思惑通りに進行する。ディーズに不利となる事実を歪めた証拠および証言 の数々を悪役シーダーは周到に用意しており、それらの証拠および証言が法廷で展開されるに つれ、徐々にディーズは苦しい立場に追い込まれて行く。しかしディーズは半ば諦め呆れたよ うに、それらの不当な証拠および証言に対しての反論を一切行わない。そのようなディーズの 様子に耐えられなくなったベネットは、ディーズが判決を受ける直前に彼を愛していることを 告白する。彼女の愛の告白に「心」を取り戻したディーズは、シーダーが裁判所に提出した証 拠および証言を「純粋さ」と「誠実さ」を失った歪んだ社会への痛烈な風刺とユーモアで以っ て言葉巧みに一つずつ覆していき、終には彼自身が正常な状態であり、「精神異常」ではない ことを裁判長から言い渡され裁判に勝訴する。そして作品最後の場面で、裁判に勝訴した喜び

西

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を最愛のベネットと分かち合い、映画が幕を迎える。

要するに、Mr. DEEDS GOES TO TOWN は田舎町で平穏な日々を過ごしていた物語の主人 公ロングフェロー・ディーズが、突然、莫大な遺産を相続するという非日常的な体験とそれに 伴う苦難を乗り越えて成長し、真実の愛と成功を手に入れるサクセス・ストーリーである。

3.アメリカン・ヒーローの原型「アメリカのアダム」と アメリカン・モラルヒーローの英雄的資質

ここでアメリカン・モラルヒーローの原型である「アメリカのアダム」について少し触れて おこう。アメリカ比較文学・比較文化研究者、 亀井俊介は 『アメリカン・ヒーローの系譜』 (1 9 9 3)

において、アメリカン・ヒーローの原型について以下のような言及をしている。

ともあれ、アメリカの民衆が待望し、夢想し、神格化してきたヒーローは、つきつ めていえばエマーソンが論じたような、彼らが本来的に持つはずの力を「代表」し て発揮する者であった。その種の人間の特質をひとことで表現すると、「アメリカ のアダム」という言葉がふさわしいのではないかと私は思う―

(亀井俊介『アメリカン・ヒーローの系譜』 2 5頁)

加えて、亀井(1 9 9 3)は「アメリカのアダム」について次のように述べる。

そしてアメリカのヒーローは、アダム的な自然人でありながら、荒野に文明をもた らすという使命をになっていた。当然、その文明を維持するために、社会的なモラ ルを厳しく守ることが要求された。もちろん、不自然な形式主義を破る活力や、あ る種の野放途な奔放さは愛されたが、ぎりぎりのところで、人間関係を前進させ、

たかめる生き方が守られなければならない。さもなければ、基盤の弱い社会なり文 明なりは、たちまち秩序を失い、崩壊するのだ。

(亀井俊介『アメリカン・ヒーローの系譜』 3 3頁)

亀井(1 9 9 3)によるとアメリカン・モラルヒーローの原型である「アメリカのアダム」は、ア メリカの広大な大自然に生きる「自然人」でありながら荒野に「文明」をもたらし、その文明 社会の中での社会的秩序を守りつつも「自然人」として「文明」の中に生きる、民衆の理想を 象徴する存在(英雄)である。つまり、ここで亀井が述べる「アメリカのアダム」は、自然(=

本来ありのままの純粋なもの)に生きる存在、即ち純粋(純真)な人間であり、そして旧約聖

4 2 Frank Capra

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書において人類最初の人間とされ、エデンの楽園に実る禁断の果実(知性の実=分別)を食べ たことにより神から地上(荒野)へと追放されたアダム(Adam) 、 言い替えれば分別(善悪の 判断=正義)を弁えた人間である。

さらにこの「アメリカのアダム」に加えて、亀井はアメリカの民衆が求めるアメリカン・ヒ ーローの条件(英雄的資質)を次のようにも述べている。

そしてアメリカのヒーローは、成功者でなければならない。厳しい開拓の事業にお いて、失敗はそのまま破滅につながるのである。アメリカ人の成功者賛美は、戦争 などに際して強くあらわれるのは当然だが、スポーツその他の娯楽などにも、はっ きりあらわれている。もちろん弱者への同情は要求されるし、死がヒロイズムをか きたてたりもする。しかし勝利者だけがヒーローとなるのだ。

(亀井俊介『アメリカン・ヒーローの系譜』 3 2頁)

また、亀井は同じくアメリカ比較文学・比較文化研究者、 鶴見俊輔との対談集 『アメリカ』 (1 9 8 0)

において、アメリカン・ヒーローの条件について以下のように言及する。

アメリカのポピュラー・ヒーローには、そういうふうに新しい社会を作った人を尊 敬する、一種の健全さがどこかにある。

(鶴見俊輔・亀井俊介『アメリカ』 1 4 8頁)

ここで亀井と鶴見が述べている「新しい社会を作った人」とは社会の建設者、つまりアメリカ 建国の父たちであり、そしてその偉大な功績と理念、所謂、「アメリカン・ドリーム」を建国 の父たちから受け継ぎ、それを追求し実現させるアメリカ合衆国大統領(たち)である。アメ リカ合衆国大統領は、アメリカ建国の理念に基づき、アメリカ社会を常に新しく形成し続ける

「アメリカン・ドリーム」の追求者であり実現者である為、アメリカ国民はアメリカ合衆国大 統領を単なる政治家としてではなく、彼らの英雄として尊敬し、崇拝するのである。

我々はここまでアメリカン・モラルヒーローおよびその原型について見てきたが、ではアメ リカの民衆が求める理想のアメリカン・モラルヒーローたる条件(英雄的資質)とは何であろ うか。亀井の言葉を借りて集約すると、「純粋さ」 、 「善悪の分別(=正義) 」 、 「アメリカン・

ドリームの実現(成功) 」 の大きく分けて三つの英雄的資質(heroic character types)が挙げ られる。つまりアメリカン・モラルヒーローは、「純粋な心」を持ち、「善悪の分別」を弁え、

さらには「アメリカン・ドリーム」を実現させた存在(成功者)となる。このアメリカン・モ ラルヒーローの原型「アメリカのアダム」に表象される英雄的資質とアメリカン・ドリームを

西

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追求し、それを実現する力を兼ね備えた人物像が、アメリカン・モラルヒーローとして、数々 のアメリカ映画の作品中において主人公として登場し、「アメリカの 正義 」 の表象として描 かれ、多くの民衆の支持を得ている。

4.Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6) に表象されるアメリカの 正義

我々は「アメリカのアダム」を中心にアメリカン・モラルヒーローの原型とその英雄的資質 について見てきたが、これらの英雄的資質の特徴は Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ロ ングフェロー・ディーズのキャラクター設定にも顕著に表れている。ここで本作品の主人公デ ィーズのアメリカン・モラルヒーローとしての英雄的資質について見ておこう。映画を通し、

幾つかの場面において、ディーズが「アメリカのアダム」的で純粋無垢な自然人であり、アメ リカン・ドリームを追求するキャラクターとして描かれている。 ディーズは ロングフェロー

(Longfellow)という彼のファーストネームがアメリカの詩人 H. W. Longfellow を示唆する ように、故郷の田舎町 Mandrake Falls で詩人らしく自然に親しみ、森の中を理想の imaginary girl(想像上の少女)とよく散策した経験を述べるディーズの台詞に、彼の「自然人」的な純 粋さが描かれている。

Deeds : All my life I ve wanted somebody to talk to. Back in Mandrake Falls, I used to always talk to a girl.−Only an imaginary one. I used to hike a lot through the woods, and I d always take this girl with me so I could talk to her. I d show her my pet trees and things. It sounds kind of silly, but we had a lot of fun doing it. She was beautiful. I haven t married, cause I ve been kind of waiting.

You know, my mother and father were a great couple. I thought I might have the same kind of luck. I ve always hoped that someday that imaginary girl would turn out to be real.[DVD 1 : 0 3 : 1 3]

また、ディーズが伯父から相続した莫大な財産をすべて費やし、日々の生活苦に喘ぐ多くの農 夫たちを救済するシーンにおいて、「各家庭それぞれに1 0エーカーの土地、馬を一頭、牛を一 頭、そして何種類かの種」を平等に分配するという彼の計画は、アメリカ建国の理念の一つで ある人々の「平等」を実現し、このことは彼なりの「アメリカン・ドリーム」の追求と実現が 表象されていると言えよう。

4 4 Frank Capra

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Deeds : Now, my plan was very simple. I was gonna give each family 1 0 acres, a horse, a cow and some seed and if they worked the farm for three years, it s theirs.[DVD 1 : 5 1 : 5 6]

加えて、この生活苦に喘ぐ農夫たちを救済する理由を裁判長に説明する場面でのディーズの台 詞から、英雄的資質の一つである「弱者に対する慈悲」が描かれており、ディーズのモラルヒ ーローとしての資質と本質的な彼のキャラクター形成を克明に表象している。

Deeds : Suppose you were living in a small town and getting along fine and suddenly somebody dropped $2 0 million in your lap. Supposing you discover all that money was messing up your life was bringing vul- tures around your neck and marking you lose faith in everybody.

You d be worried, wouldn t you? You d feel that you had a hot po- tato in your hand, and you d want to drop it. I guess Dr. Von Hallor here would say you were riding on those bottom waves because you wanted to drop something that was burning your fingers.−Person- ally, I don t know what Mr. Cedar is raving about. From what I can see, no matter what system of government we have there ll be lead- ers and always be followers. It s like the road out in front of my house. It s on a steep hill. Every day, I watch the cars climbing up.

Some go lickety split up that hill on high ; some have to shift into second. Some sputter and shake and slip back to the bottom again.

Same cars, same gasoline, yet some make it and some don t. I say the fellows who can make the hill should stop and help those who can t. That s all I m trying to do : help fellows who can t make the hill on high. What does Mr. Cedar expect me to do with it? Give it to him and a lot of other people who don t need it?−They need it.

Mr. Cedar and Mr. Semple don t need anything. They ve got plenty.

[DVD 1 : 4 9 : 5 9]

本作品の主人公ディーズのような Capra 監督作品に登場するモラルヒーローが民衆に受け入 れられた背景には、ディーズの作品中の台詞から、

西

4 5

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Deeds : What puzzles me is why people seem to get so much pleasure out of hurting each other. Why don t they try liking each other once in a while?[DVD 0 0 : 4 9 : 0 3]

また、さらにはディーズを騙して彼の私生活を新聞のスクープ記事にし、彼を人々の笑いもの

(慰みもの)にしたベネットの法廷での証言にあるように、

Bennet : He s been hurt by everybody he s met since he came here, princi- pally by me. He s been the victim of every conniving crook in town.

The newspapers pounced on him, made him a target for their feeble humor. I was smarter than the rest of them. I got closer so I could laugh louder. Why shouldn t he keep quiet? Every time he said any- thing it was twisted around to sound imbecilic. He can thank me for it. I handled the gang a grand laugh. It s a fitting climax to my sense of humor.−Certainly I wrote those articles. I was going to get a raise, a month s vacation. But I stopped writing them when I found out what he was all about when I realized how real he was.

He could never fit in with our distorted viewpoint because he s hon- est and sincere and good. If that man s crazy, the rest of us belong in straightjackets![DVD 1 : 4 1 : 2 6]

大都会での忙しい生活に追われる人々、ならびに日々の生活苦に追われる民衆の心には他者に 対する余裕がなくなっていた。その為、Capra 監督が自身の自伝 The Name Above the Title : An Autobiography(1 9 7 1) において以下のように記したように、

How powerful is the quality of honesty! Honest men, of any color or tongue, are trusted and loved. They attract others like magnets attract iron filings.

An honest man carries with him own aura, crown, army, wealth, happiness, and social standing. He carries them all in the noblest of all titles : an honest man.(Capra, Frank. 1 9 7 1. The Name Above the Title, pp 1 8 2)

「誠実さ」そして「誠実な人間」 (honest man)は、このような純粋さを失った人々の心に多 大な影響力を持ち、「アメリカのアダム」的自然人であり、Capra 監督の言葉を借りて言い替

4 6 Frank Capra

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えれば、「誠実な人間」である主人公ディーズのモラルヒーローとしての英雄的資質に表象さ れたアメリカの 正義 を想起させるのである。

5.Frank Capra 映画の主人公の原型 Mr. DEEDS GOES TO TOWN (1 9 3 6)

ここまで我々はアメリカン・モラルヒーローの原型と Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人 公ディーズが表象する アメリカの正義 について見てきた。この Mr. DEEDS GOES TO TOWN

以降の Capra 監督映画に登場する代表的な主人公のキャラクター設定が、前述の「アメリカ

のアダム」的な純粋無垢な自然人であり、さらにアメリカン・ドリームの追求とその実現を可 能にする「成功者」を兼ね備えた人物(存在)であることが多く見られる。具体的には、前述 の AFI s 1 0 0 years 1 0 0 Movies で本作品 Mr. DEEDS GOES TO TOWN よりも高い評価を受 けた Mr. Smith Goes to Washington (1 9 3 9)の主人公ジェファーソン・スミス(Jefferson Smith) 、 Meet John Doe(1 9 4 1)の主人公ジョン・ドゥー(John Doe[名無しの権兵衛]ことジョン・

ウィルビー(John Willoughby) ) 、 そして It s A Wonderful Life(1 9 4 6)の主人公ジョージ・ベ イリー(George Bailey)などが挙げられる。

ここで本作品 Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ロングフェロー・ディーズと Capra 監督の社会派ドラマの次回作 Mr. Smith Goes to Washington の主人公ジェファーソン・スミス の二人の主人公を比較して見る。ここで Mr. Smith Goes to Washington(1 9 3 9)のあらすじを 見ておこう。

主人公ジェファーソン・スミス(Jefferson Smith)は、田舎町でボーイスカウトのリーダー をする傍ら、子供向けの新聞を発行し、母親と二人で平穏な生活を送っていた。この愛国心が 強く、誠実で誰からも愛される純粋無垢な青年に、ある日突然、人生の転機が訪れる。彼が住 む州の上院議員が急死した為、地元有力者たち(Jim Taylor 他)の不正な思惑により新しい上 院議員に選出される。筋金入りの愛国者で真っ直ぐに生きているスミスは、誠実な熱意で以っ て政治活動を始める。そしてスミスが上院議員に選出されてから、彼が初めて上院議会に提出 する為の法案を、彼の政策秘書であるクラリッサ・サンダース女史(Clarissa Saunders)の 手助けのもと作成する。この法案というのが、「アメリカに住むすべての少年たちが、大自然 の中でアメリカの建国当時の理念を学ぶ為の National Boy s Camp を設立し、その為の資 金を国庫から全国の少年たちに貸す」というものであった。しかし、スミスがアメリカの少年 たちの為に設立しようと考えている National Boy s Camp の建設予定地が、スミスをダム 建設の利権に係わる汚職の為に利用しようと考えて上院議員に仕立てた、地元出身の大物でメ ディア王でもあるジム・テイラー(Jim Taylor)と同郷出身のジョセフ・ペイン上院議員(Sen.

Joseph Harrison Paine)を中心とする悪役グループが、莫大な利益を得る為に長年ダムを建

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設しようと考えていた建設予定地であった。その為、悪役グループは不正の発覚と自分たちの 利権を守る為に上院議会でスミスの法案を潰すべく、彼の法案は「子供たちを利用し国庫から 不正に資金を得るための法案」であるとして、彼を議会に告発し罠にはめようと試みた。この 悪巧みにより、一時はアメリカの政治と社会の現状に不信感と絶望を持ったスミスであったが、

クラリッサをはじめ、彼の出身州に住む少年たちの熱い思いに後押しされ、自身の潔白とテイ ラーたちの不正を正す為に上院議会に舞い戻り、ペイン上院議員と議会にて最後の対決をする。

この時、上院議会の規定に「一度、発言権を与えられた上院議員は、彼が発言を終えて着席す るまで、その発言権が時間無制限に与えられる」 (Rule 5 of the Standing Rules of the Sen- ate, Section 3)というものがあり、スミスはこの規定を活用して、彼の National Boy s Camp 法案の必要性ならびにテイラーとペイン上院議員の不正を暴く為、「アメリカ的な愛 国心」と「正義を貫く強い信念」を拠りどころに孤軍奮闘して、他の上院議員たちに訴え続け る。しかし議員たちが彼の説得に聞く耳を持たず、スミスの説得の手立てが尽きたかと思えた 際、彼は「アメリカ建国の理念に基づいて彼が法案を提議している」という名目で2 4時間議員 席に立ち続けて合衆国憲法を全文読み上げる。このスミスの根性・熱意・純粋さが、上院議員 たち、さらには地元の多くの州民たちの心を動かし、スミスを支持する声が高まる。そして物 語の最後の場面で、彼が力尽きて気を失い地面に倒れた際、ついには悪役ペイン上院議員の良 心をも動かし、ペイン上院議員自らが議会に自分たちの不正を正直に訴えて出て、映画が幕を 迎える。

この Mr. DEEDS GOES TO TOWNMr. Smith Goes to Washington の主人公の共通点とし て挙げられるのは、前述にあるようにディーズは伯父の莫大な遺産を相続して大都会 New York にやって来ることになり、一方スミスは出身州の上院議員が急死したため、突然、代わ りの上院議員として任命され同じく大都会 New York にやって来ることになる。両作品の主人 公二人とも田舎での平穏な生活から大都会での慌しい生活を余儀なくされ、新天地での生活環 境とそこで出会う人々とに翻弄される。これらはこの両作品の共通点のほんの一部に過ぎず、

Capra 監督のこの二つの社会派ドラマには作品の状況設定の点において数多くの共通点が見ら

れる。

しかし、ここで特に比較すべき点は Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ディーズと Mr.

Smith Goes to Washington の主人公スミスのアメリカン・モラルヒーローとしての英雄的資質 である。両主人公のアメリカン・モラルヒーローとしての資質を比較する際、「アメリカのア ダム」的な純粋な自然人であることと、アメリカン・ドリームを追求し、そしてそれを実現す る成功者であるかの二点を比較する必要がある。

まず Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ディーズが「アメリカのアダム」的な純粋な自 然人であることは前述の通りである。Mr. Smith Goes to Washington の主人公スミスが「アメ

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リカのアダム」的な純粋な自然人であることは、スミスが田舎町で純真な少年相手にボーイス カウトのリーダーをして自然人として平穏な生活を送っていたというキャラクター設定からス ミスが「アメリカのアダム」的な純粋な自然人であることが分かる。

次に Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ディーズがアメリカン・ドリームを追求し、そ してそれを実現する成功者であることも前述の通りであるが、Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ディーズが映画の初期の時点で、Capra 監督がアメリカの理念の象徴として、そして ディーズのアメリカに対する愛国心の表れとして、アメリカ南北戦争時の北軍の将軍で、後に アメリカ合衆国大統領となったグラント将軍の墓(Grant s tomb)を訪れるシーンからも分か る。

Dawson : Well there you are. Grant s tomb. I hope you re not disappointed.

Deeds : It s wonderful.

Dawson : To most people it s an awful letdown.

Deeds : Huh?

Dawson : I say, to most people it s a washout.

Deeds : That depends on what they see.

Dawson : And what do you see?

Deeds : Me? Oh, I see a small Ohio farm boy becoming a great soldier. I see thousands of marching men. I see General Lee, with a broken heart, surrendering. I can see the beginning of a new nation, like Abraham Lincoln said. And I can see that Ohio boy being inaugu- rated as president. Things like that can only happen in a country like America. Excuse me.

[DVD 0 0 : 4 6 : 3 3 ‐ 0 0 : 4 7 : 2 9]

一方、Mr. Smith Goes to Washington の主人公スミスがアメリカン・ドリームを追求し、そし てそれを実現する成功者であることは、作品の冒頭での、スミスが New York に到着して直ぐ に観光バスに乗り国会議事堂をはじめ、リンカーン大統領のモニュメントを訪れるシーンから 分かるが、Capra 監督がアメリカの理念の象徴として、この作品中にスミスのアメリカに対す る愛国心を克明に描いているシーンは数多く存在するが、中でもこの映画の最も有名なシーン として知られる「スミスが合衆国憲法を2 4時間休まずに全文読み上げる」場面にある。

Smith : Just get up off the ground, that s all I ask. Get up there with that

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lady that s up on top of this Capitol dome, that lady that stands for liberty. Take a look at this country through her eyes if you really want to see something. And you won t just see scenery ; you ll see the whole parade of what Man s carved out for himself, after centu- ries of fighting. Fighting for something better than just jungle law, fighting so he can stand on his own two feet, free and decent, like he was created, no matter what his race, color, or creed. That s what you d see. There s no place out there for graft, or greed, or lies, or compromise with human liberties. And, uh, if that s what the grownups have done with this world that was given to them, then we'd better get those boys camps started fast and see what the kids can do. And it s not too late, because this country is bigger than the Taylors, or you, or me, or anything else. Great principles don t get lost once they come to light. They re right here ; you just have to see them again!

[DVD 0 2 : 0 1 : 2 7]

このシーンでスミスは、上院議員たちに皆が忘れかけているアメリカ合衆国の崇高な「建国の 理念」を思い出すように訴えている。

以上のことから、Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ロングフェロー・ディーズと Mr.

Smith Goes to Washington の主人公ジェファーソン・スミスを比較した結果、両主人公とも 「ア メリカのアダム」的な純粋無垢な自然人であり、アメリカン・ドリームの追求とその実現をす る成功者を兼ね備えた人物(存在)であることが分かった。

結 論

本論において、我々はアメリカン・モラルヒーローの原型と Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ディーズが表象する アメリカの正義 について見てきた。そしてさらに、この Mr.

DEEDS GOES TO TOWN を含め、それ以後の Capra 監督映画に登場する代表的な映画作品の 主人公のキャラクター設定が、「アメリカのアダム」的な純粋無垢な自然人であり、アメリカ ン・ドリームの追求とその実現をする成功者を兼ね備えた人物(存在)であることを見るため、

本作品 Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ロングフェロー・ディーズと Capra 監督の社 会派ドラマの次回作 Mr. Smith Goes to Washington の主人公ジェファーソン・スミスの二人の

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監督映画に表象される ヒーローと正義

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主人公を比較した。そしてディーズとスミスの両主人公が、「アメリカのアダム」的な純粋無 垢な自然人であり、 アメリカン・ドリームの追求とその実現をする成功者を兼ね備えた人物 (存 在) であることが分かった。つまり、Mr. DEEDS GOES TO TOWN の主人公ディーズが Capra 映画の主人公の原型であると言え、ディーズのキャラクター設定が後の Capra 監督の代表作 It s A Wonderful Life の主人公ジョージ・ベイリーに至るまで成長していったのだと言える。

この Mr. DEEDS GOES TO TOWN が制作され、Capra 監督映画が全盛期に入っていこうと していた1 9 3 0年代半ばは、世界的な大恐慌の爪痕が未だ完全には癒えず、日々の生活苦に追わ れる民衆の心には、西部劇に登場する保安官のようなアクションヒーローではなく、ディーズ のような「アメリカのアダム」的な純粋無垢で、再びアメリカ建国の理念とアメリカン・ドリ ームの追求と実現を民衆に想起させるモラルヒーローが必要な時であった。主人公ロングフェ ロー・ディーズを原型とする後の Capra 監督作品が民衆の支持を受けることから、 Mr. DEEDS GOES TO TOWN が重要な作品であったと言える。

(本論は、第4 4回片平会夏期研究会 〔アランベールホテル京都〕において発表した原稿に 大幅加筆修正したものである。 )

1 亀井俊介『アメリカン・ヒーローの系譜』 pp. 3 8 ‐ 4 2

2 西 善也「映画の中におけるアメリカの 正義 :Frank Capra 監督の Mr. Smith Goes To Washington」 英語英文学論叢『片平』 pp. 5 2 ‐ 5 3

西

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Selected Bibliography

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西 善也(2 0 0 7)「映画の中におけるアメリカの 正義 :Frank Capra 監督の Mr. Smith Goes To Washington 」 英語英文学論叢『片平』 pp. 5 1 ‐ 6 0, 片平会

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鶴見俊輔、亀井俊介(共著) (1 9 8 0) 『アメリカ』 東京:文藝春秋 内田樹(2 0 0 5) 『街場のアメリカ論』 東京:NTT 出版

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(http : //www.imdb.com/)

Filmography

Mr. DEEDS GOES TO TOWN. Dir. Frank Capra. Columbia Production, 1 9 3 6 . 1 1 4 min.

Mr. Smith Goes to Washington. Dir. Frank Capra. Columbia Production, 1 9 3 9 . 1 2 9 min.

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参照

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