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福井大学附属図書館蔵「大織冠」翻刻

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Academic year: 2021

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福井大学附属図書館には幸若舞曲「大織冠」「夜討曽我」の二本があ

る。今回紹介するのは「大織冠」である。いずれも高島忠夫氏の寄贈に

なるもので、郷土資料室高島文庫に属する。高島氏は元福井大学教授故

岡田正世氏の御父君で、郷土史家として著名な方であった。高島氏の手

に入った経路は不明だが、県内で入手されたものであろう。二本とも同

一体裁で、本文系統も同じものと思われる。くわしい考察は後日を期す

るが、「大織冠」の本文系統は幸若系に属し、中でも毛利家本・内閣文庫

本に最も近い、ということだけを指摘しておく。以下簡単に書誌と翻刻

の要領を記す。

見返しは、銀砂子と銀紙とを押す鳥のマ

左上に題策があるが、虫喰いのため皿

「大織冠」は図書館による命名である。

虫喰いのため判

請求番号西国弓蛋曾麗、

表紙は紺色無地、大きさは一六・一×ここ

返しは、銀砂子と銀紙とを押す鳥の子紙。

袋綴。墨付四九丁。一面一三行。遊紙は首一丁、尾二丁。

書入等、本文の誤脱・訂正を墨で右又は左に書いてある(翻刻では〔〕

福井大学附属図書館蔵「大織冠」翻刻

読できない。 ・五センチメートルの横本。

元は金紙であろう。 に入れて示した)。本文とは別筆である。「詞」「カタッメ」等の節付も別筆(翻刻では〔〕を省略した)。ヘの記号は朱で記されており、一宇分の空白がある。

内題・蔵書印・識語等はない。

翻刻には、私に句読点を付し、丁の変り目を」で示した。漢字はおお

むね常用漢字にしたがった。

幸造

239

(3)

ベヘ夫我朝と申は、あまつこやねのみことのあまの岩戸ををしひらき、

てるひの光もろともに、春日の宮とあらはれて、国家を守り給ふ也・さ

れはにや、かすかをはるの日と書事は、夏の日はこくねつす、秋の日は

みしかし、冬の日はさむけし、春の日はのとけくし、能はんふっをしや

うしやうす。四季に殊更すぐれ、めひしっ成により〔宛〕、はるの日と書

たて易、春日」(1オ)となつけ申也。かの宮の氏子は藤原うちにておは

します。ふちはらの其内に大しょくはんと申は、かまたりのしんの御事

也。はしめはもんしやうせうにて御座有けるか、いるかのしんをたひら

け、太職冠になされさせ給ふ。そも此官と申は、上代にためしなく、籾

末代にありかたし、目出度官と成けり。是によって此君をふひとう共申。

いつもかまをもち給へは、かまたりの」(1ウ)しんとも申〔成〕。春日

の宮にさんろう有て、あまたの願をたてさせ給ふ。その中に、こうふく

しのこんとうをさいしよにこんりうあるへしとて、しやうこん七ほうを

ちりはめ、しやこんたうをたてさせ給ふに、くはほうはてんよりもあま

くたり、国のなひきしたかふ事、ふる雨の国土をうるほふし、た蛍草葉

のかせになひくことし。君たちあまたをはします。ちやく女をは光」(2

オ)明光宮とな付奉て、せうむ天王のきさきにたらせ給ふ。二女にあた

り給ふをこうはく女とな付て、三国一のひちんたり。ヘしかるに、かの

姫君のゆうにやさしき御かたち、たとへをとるにためしなし。かつらの

まゆはあおふして、遠山ににほふかすみに似、も参のこひあるまなさ

きは、せきやうのきりのまにゆみはり月の入ふせひ、ひすひのかんさし

はくるふしてなかけれ」(2ウ)は、柳の糸を春風にけつるふせひにこと ならす。くすかたは舟二さうにし、なさけは天下にならひなし。か弾るゆシしき御かたちの、いこぐまてもきこえ有、七御門のそうわうたいそうくわうていは伝へ聞しめされて、見ぬ恋にあくかれ、雲の上もかきくもり、月のともシをのつからひかりをうしなひ給ひけり。しんかけひしやう一とうにそうし〔もん〕申されけるやうは、きよくたいの御ふせひをはよの」(3オ)つれならすおかみ申て候。何をかつシませたまふへき、ちしんのうちへせんしあれ、とそうし申されたりけれは、ベ御門ゑひふんましノ、て、あらはっかしや、っ鼻むにたえぬはなのかの、もれても人のさとりけるか。今は何をかつシむへき。是より東海すせんり、日本ならの都にすむ太職冠かおとひめを、かせのへたよりにきくからに、みぬおもかけのたちそいて、わすれも」(3ウ)やらていかシせむ。

ちしんたちうけたまはり、是はめてたき御所望哉。しょせんはちよく

しをたて、りむけんにてむかひとらせ給ひ、ゑひらんあれとのせむきに

て、うむかと申つわものをちよくしにたてさせたまふ。うむかすてに太

宗のきむさっをたまはり、数千〔万〕里のかいろをすき、日本ならの都

につき、たいしよくわんのみもとにて、てうさっをさ弾く〔る〕。太職冠

は御覧して、我は是しっいき」(4オ)とて小国のわうのしんかとし、い

かにとしていこぐの大わうをさうなくむこに取へき、と一度はちよくし

をちたひある。ちよくしたちもとって、此むねをそうもむす。たいそう

いと鼻あくかれて、二度のちよくしをたてさせ給ふ。せうむくはうてい

聞しめし、なさけは上下によるへからす、小こぐのしんかの子成共、其

はシかりはあるへからす。〔丸〕へんてうをいたすとて、かたしけなくも

240

(4)

くわうていのゐんはん」(4ウ)をなされけれは、ちよくしめむほくほと

こして、いそきたちもとって返状をさシくれは、太宗おほきにゑいりょ

あり、吉日ゑらひさうノ、にむかひ舟をそこされけり。今度のむかひの

ちよくしには、たちはなの朝臣に右大臣ほうけんなり。そも本朝と申は

小国なりとは申せ共、智恵第一の国也。みれんの出立かなふましゐ、け

つかうあれ、とのせむきにて、むねとのたい」(5オ)せん三百そう、き

さきの御舟をはれうとうけきしうと名付て、しゆったんを以かた取、へ

にはあふむのかしらをまなひ、ともにくしやくの尾をたれたり。船のう

へににしきを敷、ちんたんをましへ、くわうようらんけいみかき立、玉

のはたは風になひき、こかねのかはらは日に光、くせひの舟とも云っへ

し。はっひてんくはん玉をたれ、身をかさったる女くわん侍女三百人す

くって、これは」(5ウ)船中の御かひしやくのためにとて、かさり船に

そのせられたりける。しちいきよりももろこしまて数千万里の海上の御

なくさめのために、おんかの舞あるへしとて、ちこ百人すくって身をか

さってそのせられたる。すてに弥生のすゑっかた、共っなとひてをし出

す。あまの川瀬にあられとも、っまこし船のほをあけたり。かくて波風

しっかにて、舟は本朝津の国やなむはの浦に着しかは、」(6オ)ちよく

しは奈良の京に着。太職冠は請取て、ひとつは異国の国也といひ、〔又〕

一つは本朝のいくわうのためそとおほしめされ、れ〔さ〕んかいの珍菓

を山とつみ、五千人の上下を其年の八月半より、明る卯月はしめまても

てなし給ふ。太職冠果報の程そめてたき。ベ卯月もやうノ、すへになり

ゆきけれは、吉日をゑらひて玉の御こしにめされ、なむはの浦迄御出あ り。それよりれうとう」(6ウ)けきしうにめされ、船は程なくたいたうの明州のみなとにっかせ給ふ。たひりにきこしめされて、すはゃこくものきやうけひよ、いさノー、御むかひにまいらむとて、ひたり右の大臣女くはむところ百くはんけいしやうぐはん人しちやうに至るまても、のこるところはましまさす。抑大国の国の数を申に一千四百四十国、郡の数を申に九万八千余郡、寺の数は一万二千六ヶ寺、市の数を申に一万」(7オ)二千八百、長安の市と申は在家の数は百万間、人の数を申に五十九をく拾万八千人たついち也。道の数はちやうあんちやうよりも十のみちわかてり。けんろけんなむたうとはたつみをさしてゆく道、二十六にふみわけり。おくなんたうと申はひつしさるへゆくみち、舟五にふみわけり。さいけいたうと申は西をさして行道、五十九にふみわけり。かうほくたうは北をさして行道、すゑはたシニッ。ベとうやうたうは船」(7ウ)路にて、すゑは日本にっシけり。か参るみちノ‐、よりもみつきものをそなへ、きさきをおかみ奉る。あぁめてたや、只一目拝み申ものまても、ひんくをのかれたちまちふっきの家と成。されはにや、くはうていもなれちかつかせたまへは諸病をいやし、たちまちに、べやうしやうの大いにあへるこ易ちして、御持の間世すなをに、民のかまともゆたか也。かくて過行たまひけるに、きさきの宮思」(8オ)食、我小国のものとありなから大こぐのきさきにそなはりたる其こうめひを、日本にのこしてこそとおほしめし、御ちち太しょくはん、こうふくしのこんたうおなしき釈迦のれいさう御こんりうあるへきに、彼御たうのせにうにふつくほうぐをくって、末代のかたみ共なさはや、と思食、くそろへ給ふたからに

241

(5)

は、まつくわけんけいしゆひんせき。くわけんけいと申は、うちならし」

(8ウ)てのその蛍ちにこゑさらになりやます、と鼻めんと思ふ時には

九てうのけさをおほふ也。しゆひん石は硯。彼硯のとくゅうは、水なく

して墨をすって心のまシにっかふ也・梵ほむの法花経をたらょうにて、

あなんそんしやのあそはしたり。しちしやうるりの水かめ、しやくせん

たんのけひたい、へいるりの花たて、せんたんのけうそく、にくたんし

ゆのしゆつ、一れんくわうこのとらの」(9オ)かわ、こんしきのし易の

皮、くわその皮三まひ、か易るたからの其中に、しゃくせんたんのみそ

きにて五寸のしやかを作りたて、にくしきの御しやりを御しんに作りこ

めなから、はう八寸のすいしやうのたうの中におさめて、むけほうしゅ

となつけて是を一のてうほうにし、をくた〔上〕りふみをへっしに書、

いしのはこにおさめて送らせ給ひけるとかや。此玉は則こうふくしの本

ぞん釈迦」(9ウ)仏のみけむにゑりはめ給ふへき也、と書こそおくり給

ひけれ・ヘさてしもか弾るてうほうを、たれかわしゆこしおくるへき、

きりやうの人をゑらめとて、兵をめさる弾に、かうほく道のすへうんし

うと云国にまんこしやうぐんうむそうとて、たいかうの兵あり。おとら

ぬ程の兵を三百人相添て、ヘ都を立て大唐の明州の湊より、竺葉の船

にさほをさし、おひてのかせにほ」(皿オ)をあけて、数千万里をおくり

けり。くさる間、波のそこにすみ給ふ八大りう王のそう王、玉の日ほん

に渡る事をしんつうにてしるしめし、もる/、のりうわうたちをあつめ

ての給ひけるは、ヘ我等はすてにかひていのりうわうたりといへとも、

五すひ三ねっは隙もなく、おつかうにもあひかたきしやくせんたむのみ そきにて、五すんのしやかのれひふつの、此波の」(皿ウ)上を御通りある。いさノ、むはい取て我等しやうかくなるへし。尤しかるへしとて、八大龍王の波かせあらくたちけれは、船ひやうたうしちん〔〃〕さんし、なみろ〔〃ち〕もしっかならさりき・され共きとくふしきの仏のめしたる御船なれは、くしやうかひの天人は雲をしのき、ふっほうしゅこのやしやらせつは波風をしつめさせたまひ、舟に子細はなくして、みつはのそやをいることく、こ」(uオ)とさらおひてとそなりにけり。龍王いとシいかりをなし、なみかせにてとシめすはおさへてむはひとるへし。さあらん程に異国のものもさためてこわくふせくへし。りうわうのけむそくにしゆらはたけき兵なれはたのふてみん、との給ひて、あしゅらたちをそめされける。かのしゆら共の大しやうまけいしゅら、もるノ、のけむそくをひきぐしてこそいて」(uウ)られける。もとよりこのむとうしやうなれは、百千にやつかんのけんそく共を異形いるひに出た鴬せ、ほこたうちやうをとりもたせ、かたきは数万騎候共、いぐさは家のものなれは玉におゐてはむはひ取てまいらすへし、と申て、日本と唐土とのへ塩さかひちくらかおきにちむをとり、まんこかふれをまちにけり。これおはしらすまんこはしゆむ風にほをあけ、心にまかせふかせゆくに、日比あるへ」(岨オ)しともおほえぬ所にしま一ッうかへり。みれははたあしひるかへし、くるかねのたてのあひよりもつるきやほこのいなひかり、たうちやうのかけ共かうむかのことぐみへけれは、あれは何と云たるしたひそや、いかなる事のあるへきと、こシろもとなくおもひけれとも、さあらぬてひにて吹せゆく。彼しゆら共の大しやうまけいしゅら一

242

(6)

ちんにすすみ出、天をひシかす大音にて、唯今愛元にせきをす〔〃〕」(胆

ウ)すへたる兵をいかなる物とおもふそ。かいりうわうのけむそくにし

ゆらといへるもの也。しいしゆをいかんとおほすらん、御舟に御座有し

やくせんたんのみそきにて五寸のしやかのれいふっ、よのたからはほし

からす。そのすいせうの玉とをす事有ましきそ。すみやかにわたされ候

へ。さらすは一人もとをすましゐと申。まんこ此よしきぐよりも、船の

へいたにつったちあかり、あらことノ‐、しのい」(過オ)きおひや、さて

はおとにうけたまはるあしゆらたちにてましますよな。わか大こぐのな

らひにて、百人か大しやうを百こといひ、千人か大将をせんこといひ、

万人か大しやうをまんこと名つけ、しやうぐんと是をいふ。かひノ、敷

はなけれ共、一まん人の大将なれはまんこ将軍うんそうとはそれかしか

事にて候。尤りうくうよりの御所望にしたかって、すひしやうの玉まい

らせたくは」(週ウ)候へとも、七御門のなかよりもきりやうの人とゑら

まれ、日本のちよくしをたまはるときの日よりも、いのちをは我君のお

んのためにたてまつる。されはめひのかろき事は此議による事なれは、

いのちのあらんするかきりは玉におゐてはとらるましいそ。けにと玉か

ほしくは、ヘ万子をうってとれやとて、からノ、とそわらひける。しゆ

ら共比由をきくよりも、さらは手なみを見せんとて、」(皿オ)てつちや

うらんはのつるきをひつさけ、うむかのことくせめかかる。万子これを

見て、かなふへきやうあらされは、舟底につっと入てしやうそくをそき

たりける。万子か其日のしやうそくに、しんつうゆけのうてかね、さは

んにやかんのすねあてし、めうほうれむけのっなぬきはき、にむにくち ひのよるひをくさすりなかにきくたして、あのくたら三みやく三ほたひの五まひかふとをゐくひにき、しの」(Mウ)ひのおシそしめにける。かうまりけむの大かたな真十文字にさいたりけり。大たうれんと云っるきをあしをなかにむすむてさけ、けんみやうれんと云ほこもって、舟のへひたにつったちあかり、三百余人の兵共思ひノー、にいて立て、はし船おろしをしうかへ、すてにかけむとしたりけり。たうのいぐさのならひにて、みたむにか塗る事はなし。てうしをとってかくをうって、拍子にあはせかけ」(通オ)引、せひそろへのたいこはらむしょノ、しよってうし、かけよと打たいこはさそうノ‐、とうっ也。ひけょとうったひこはおんてうこつとうつなり。〔○しゆらとうじんのたこかいはむかしも今もためしなし。其うへしゆらかた弾かひに、くはゑんのあめをふらし、悪風をふきとはせ、はんしやくをふらす事は雪のはなの散かことし。つるきをとはせほこをなけ、とくの矢をはなす事、まなこをまくかことし。身をか」(咽ウ)くさむとおもふときけしの中へわけて入、あらわれむとおもふ時しゆみにもたけお〔〃を〕くらふへし。かかるしんっうめひょをまのまへにけんし、こぁをせんととたぁかへは、すてにはやたう人心はたけくいさめと、此いきほひにおされてのかれかたくそ見へにける。関さるあひた万子は味方をけちし申けるは、とてもかなわぬ事ならは、しゆらか大将四五人底のみくつとなしてこそ、異国の聞えはよかる」(蝿オ)へけれ。我とおもわん人々はさいこのともをしてたへと、こむかうかひのまんたらたひそうかいのまむたら、りやうかひしよそむ一千二百余尊のまむたらをほろにかけて吹そらし、舟底よりも馬とも引出す。万子か

243

(7)

ひさうの名馬にしんっうあしけとなつけて、七き八ふむあけ六さひ、尾

かみあくまてあつうして、おつさまむかふよこはたはり、尾くちそう

とうっまねのくさり、し勢あひほれ」(蝿ウ)なみよめのふしは作り付た

ることくなり。らんてんのくらひ〔〃〕をおき、しよつかうのにしきの

うわ敷に、こむ、I、ぬったるるりのあふみ、りきしゅの力皮をはしやう

ノ、のちにてそめたりけり。おなしきおもかひをかけさせ、こかねのく

つわかむしとかませ、にしきの手綱よってかけ、万子ゆらりとうち乗て、

なみにしつまぬうきくつを四つの足にかけたれは、なみのうへをはしる

事はへいろを伝ふ」(Ⅳオ)ことく也。三百余人の兵共、何れも馬にのっ

たれと、みな#、うきくつかけたれは、くもゐにかりのとふやうに一む

らかりにさっとちらし、しゆらかちんへ切て入。しゆらともこれをみて、

一疋二疋のみならす三百疋の馬共か、いつれもなみをはしる事はふしき

なり、ときもをけし、かほとにいさむしゆらとももにけまなこにそ成た

りける。大将のあしゆらすシみ出て云けるは、あふ髪」(Ⅳウ)さうそ、

かねてより申せし事のちかはい。なふめ〔上〕たれかほのすくやかし、

おもてかほくせめにすみたて、いらむあらそひあらかふ儀には似ましき

事にて候そや〔上〕。手をくたかてはいかにとしてかうみやうふかくか見

えはこそ。一合戦せん、とて出立たりし有さまは、あくこうしむいのよ

るひをき、むみやうけむこのかふとのおほ〔〃を〕しめ、とうしやうむ

さんのほこつゐて、しむいくちのはたさふせ、百せん」(肥オ)にやつか

んのけむそく共をあいしたかへ、しきりにときをつくれは、へきてんや

ふれはしやうにおち、かひていをうこかしなみをあけ、こくうさなから 道や〔〃〃とうや〕うして、月のひかりもうつもれて、ひとへにちやう“夜と成たりけり。此程音にうけたまはるまんこしやうぐむうむそうに見参をせん、と云ままに、万子を中へとりこむる。まんこか兵事のこと鴬もせさりける、髪をせんと」(肥ウ)と切たりけり。らこあしゅら三百人、からこむらあしゆら五百人、手をくたひてそきったりける。万子はめひよのむまのり、うみのうへにてのる手綱、さうかひふとりやうはひ、のりうかへたる馬のあし、ゆむての者をつくときは、あふきやうのたつなきっとひく。めての者をつくとき、ひきやうのむちをてうとうっ。にくるものをおふ時は、せんきやうあをりのあふみのむちをきよくしんた

(ママ)ひにのりたりけり。西か」(過オ)らひかしへ切てとをり時には三百余

人かあとにつき、愛〔上〕をせんと易きりたりけり〔上〕。入かひ〔〃へ〕

ノー、た舅かえは、しゆらかいぐさはこたれか易ってかなふへし共見えさ

りけり。そう大しやうのまけいしゆら、八めんはつひを振たてシ、八し

たのほこをうちふり、討死こ鼻也と、おめきさけんてはしりけり。まん

こ是を見て、叶へきやうあらされは、うしほをむすひ手水とし、しょて

んにふかくきせひする。しかる」(過ウ)へくはくはんせおん、ひ願たか

へ給ふな。ふひくんしんちう、ねひくはんおんりきしゅおんしったいさ

ん。ちかひいまならては、しゆらかおそるシけまんのはたをたシさしか

けよ、やあさしかけよ、と下知すれは、けまんらむはうたまのはたまつ

さきにさシせ、われおとらしとせめか夢る。万子かつわものかつに乗て、

はやおつふせおつふせきりたりけり。しんりきもつきはて、つうりきひ

きやうも」(別オ)かなはすし、底のみくつと成にけり。いきのこるしゅ

(8)

らともは、すみかノ‐、にかくれたり。まんこかちとき作りかけ、もとの

船にとりのり、しゆらたうしんのた夢かひにかちぬやI、、といさみを

なし、たうとかうらひはしり過、日本ちかふそ成にける。胸さるあひたり

うわう達、是をはさていかぁはせん、とそせむきせられける。其中にな

むたりうわうののたまひけるは、人間の心をたはからんにはみ」(別ウ)

めよき女にしくはなし。りう女を以たはかって玉をとるへき也。されは

にや、りうくうのおとひめにこいさい女となつけ、ならひなかりし美人

たりしを、みめいくっしくかさりて、うつほ舟に作りこめ、なみの上に

をしあくる。これをはしらす万子は、しゆん風にほをあけ、心にまかせ

ふかせゆく。うみまんノー、としては又はしやうちシむたり。へきてんを

おきぬく風かう/、としては又いつ」(皿オ)れのほくそうにかこゑやと

(ママ)さむ・かしらなし、おほかいら、きとのしま、ヘもろみの嶋、もめい

鴫、ヘさつまの国に鬼海嶋、へいきのもとおり、っしまのない、ことゆ

へなくはしりすき、九国の地をは弓手にみて、さぬきの国にきこえたる

ふさ崎のおきをとをりけり。ヘか参りける所に、なかれ木一本うかんた

り。すひしゆかん取あやしめをなし、髪にきたい成木こそ候へ。此間の

大風に」(幻ウ)ちんかうはし吹れてなかる騨哉らん、と人々あやしめた

りけれは、万子きひて、なむのあやしめ事そ、たぁとりあけよ、と下知

をする。御詫にしたかひ、はしふれおろしとり見るに、ちんかうにては

なし。あやしやわってみよ、とて、是をわってみるに、なにとことはに

のへかたきひちん壷人おはします。すいしゆかんとりこれをみて、をの

まさかりをなけすてシ、あつとはかり申。まんこ是を見て、」(犯オ)い かさまにも御身はてんまはしゆんのけらんにて、しやうけをなさんそのためな、あやしやいかに、といひけれは、何とものおはいはすしてたシなみたくみたる斗也。まむこかさねて申けるは、ひやなにとたくませ給ふ共、せひにつけておほつかなし、たぁ海底にしっめみくつになせ、といかりをなせは、あらけなき兵か御手にすかり海にいれんとする。ヘ龍女はいとシあくかれて、あらうらめしの」(犯ウ)人のことはや。野にふし山を家とするこらうやかむのたくひさへ、なさけはあると(こそ〕きけ。みつからと申は、けいたんこぐの大王のいっきの姫にてさふらふなるか、有后のさむにより、うつほねに作りこめ、さうは万里へなかさるン。たま/、きとくふしきのしんりんにあひたれは、さり共とこそおもひしに、何の罪のむくいにうきかいていにしっむへき、うらめしさよ、とかきくとき、」(羽オ)みたれかみをつたひて、ヘなみたの露のこほる蛍は、つらぬく玉のことく也。しもをほひたるをみなへし、下葉しほるシふせひし、せひしかやさうにすてられて、ひしきものにはそてしぬれ、ほす日のなしとわひけるも、今こそおもひしられたれ。かつらをかきしまゆすみ、はちすをふくむ口ひる、もシのこひますあひきやう、なみと涙にうちぬれ、ものおもふ人のふせひかや。う」(認ウ)ちむつけたる御あり様、よそのみるめもいたはしし。ぺさしもにかしこきまんことは申せとも、やかてたるまかされ、けに/\さそおはすらん。それノ、とうせむ申せ、とてやかて舟にのする。龍人のわさなれはむかふさまにかせ吹、ふさらきのおきに十日斗とうりうす。さなきたにりよはくはことに

ものうきに、まんこあまりにたへかねて、かせのたよりにかよひきて、

245

(9)

いねか」(型オ)りそめのうたシねは、何と成このおとたかく、世にもす湯

めのすみうきに、おとるかさむかいたはしさに、へあふきのかせをいさ

めっシ、月てうさんにかくれぬれは扇おあけてこれをたとへ、かせたひ

きよにやみぬれは木をうこかして是をおしゆ。ベあひみる人をこうるに

は文かよはねともこうるならひ、きみかこ参ろをとりにくる。なふいか

にノ、、とおとろかす。龍」(別ウ)女はもとよりねもいらす。さりなか

らうた塗ね入たる風情にて、たそや、夢みるおりからにうっ蛍ともなき

ことの葉は。夢のうきよのあたなれは人のことはも頼まれす。よのま

にかわるあすか川、みつほのあはのかりそめに、風にきえぬることのは

の、すゑもとをらぬものゆへ、あたなたちては何かせむ。ふしへ中ノ、人

にははしめよりとわれぬはうらみあらはこそ。詞べそのうへ我は」(弱オ)

生れてより此かたかひもんをあやまたす、むしよりいまに至るまておほ

くの生をうけし事、あるひは六よく四生に生れ、五すい八くのくを請、

あるひは三つしやくにおち、したひもつのひにあえり。かシるさいこう

をふり、いま人間と生る易事もかいりきによって、第一にせつしやうか

いをたもつてこシろ〔〃〃〃心〕のさうと成、ちうたうかいをたもって

かんのさうと成、しやいんかいをたもつ」(妬ウ)てひのさうと成、まう

こかひをたもってはいのさうとなる、おんしゆかひをたもってしんのさ

うとこれなる。是に五音しっせいあり。いはゆる、きうしやうかくちう、

そうわうひやうはんいちこつ、これ又みめうの御のりとし、こちのおん

せい是なり。これに五つのたましゐ有、こむしはくいしんなりき。此五

つのかたちをくそくし給ふをほとけと申。ヘ五つのかたちかけぬれは、 くちあんへいのちくるゐ」(妬オ)たり。いかにも仏をねかはん人は五か妬いをよくたもつへし。ひとつもかいをやふりなは、むそくたそくのものと成てなかく仏になるましゐ。おほせはをもくさふらへ共、第三のかいもむをいかにとしてやふらん、となみたくみたるはかりにて、おもひ入てそおはしける。まんこもたいとうそたち、仏法るふの国なれは、あらノ、かたり申。あらしゆせうや、さては後生の御ためにきむかいをたもたせ給」(妬ウ)ふか。そのかいもんのなかに六はらみつのきやうあり。その中にとっても、にんにくはらみつとは人の心をやふらす。いかに五かいをたもっても、人の心をやふりなは仏には成難し。されはにや、仏には三明六つうおはします。是はひとへに、くはこにしてしょはらみつをきやうせしそのとく、今にあらはれて仏と成給へり。へたとひ一度は瀧の水、ふしべにこりてすまぬ物成と、終にはすみてきよからん。」(”ォ)恋には人のしないか、さてもむなしくこひしなは、一念五百せうけむれんむりやうこう、生々世々の間につきせぬうらみのふかふして、ともにしやしんとなるならは、仏にはならすしてしやたうになかくおっへし。カタッメヘかいの品あまたあり。五かいをよくたもっては人間と生れて五躰をうくる也。十かいをたもっては天人と生れて五すいをうくる也。二百五十かいは又しやうもんと生て仏には成」(”ウ)難し。五百かいをたもってはゑむかくとこれなり、是も仏にゑならす。ほさっさんしゅ一しんかい、此かひをたもってはやかてほさっとなりっ参、仏とさらになり難し。大せうゑんとんかい、このかいをたもってはやかてほとけになる也。大せうのかいきやうは二念をつかぬかいなり。しんたひはむさうにてわ

(10)

か身もとよりしくう也。生死にもつなかれす、ねはんに更にちうせす。

しやしやうすなはち」(邪オ)情けれはす蛍くへきあかもなし、いとふへ

きほんなうなし。ねかひてきたる仏なし。みる一けんを法とし、きく事

をみのりとす。髪をしらぬをまよひとす。いんよ〔〃や〕うニッ和合の

みち、いもせ夫婦のなからへ、これ仏法のみなもと、おるかにをもふへ

からす。御なひきあれやとそおもふ。いかにj、、と申ける。詞べりうに

よ聞しめされて、それは法心のみのりとし、仏法におひてもひさうのと

ころなれ共、ねかふこ」(羽ウ)となくしては仏に成難し。上代はきも上

こんにして知恵も大ちゑなるへし。末世の今は下こんにて知恵ある人も

すぐなし。ヘ昔上代の大知恵の人たにもいへを出て妻子をすて、法のた

めになんきやうす。しちた大子はかうゐなる万乗のくらゐをふりすて、

わりなくちきりふか弾りしやしゆたら女をよそに見、十九にて出家をと

け、たんとくせんのほうれゐあらら仙人を師と」(羽オ)頼、わしの小山

のれいほうに薪をこり身をこかし、せんこぐにむすふあかの水、こほり

のひまをくむたひに、なんたは袖のっららとなる。よるは又よもすから

仙人の床の上にし、座せんのとこのふとんとなり、かシるしんくのこう

をつみ、まさしく釈迦になりたまひ、三かいのとく尊ししやうのゑこと

ましノ、て、一大しやうけうをときひろめ給ふ也。こシをもってあむす

るに、やあほんの」(羽ウ)ふそくほたひしん生死そくねはんとて、さい

しをたひしさふらひて仏とやすく成ならは、なとやたいししやくそんは、

わうのくらいをふりすてシ后をゐとひ給ひけむ。其外しようくはのらか

んたち、いつれかさひしをたいしてほとけとなりし人やある。さても仏 の御をと豊なむた太子と申せしは、しうきほんなうっきすして女人をたいし給ひしを、かくては仏にならしとて、仏はうへんめくらし」(釦オ)て、浄土地獄の有さまをそくしんにみせたてまつり、終に出家をとけさせて、なむたひくとそなし給ふ。ヘゐとシこのむしやきやうをよしとをしへ給ふは、まうもくにあしき道をしゆる風情成へし。かやうに申せはとて、もとより我は仏にてあるなり。こくういちしやうとう一たひ、かしらはやくし、みシはなはあみた、むれはみろく、腹はしやか、こしは大日如来也。其外十方の諸仏達、諸のほさっと」(鋤ウ)し、わかたいにくそくし、十方のこくうにほうによとしておはします。来もせすさりもせす、いつもたえせすましますを法心仏と申、形を作りあらはし、浄土を立て住家とし給ふをほうしん仏と申也。八相成道したまひて法をとき、すなはち衆生をりやくし給ふを応身仏と申也。三身おとりわき、一しむのしんするをさとりのまへのほとけ也。三身一そくとくはんしつう、いつれを」(鉦オ)もしんするをさとりの前と申、仏とならん其ためなんきやうくきやうせんもの、いかてせむ悪みたるへき・身は徒になさるシとかなふまし、とそおほせける。さるあひたまんこは殊外に腹をたて、いかにや/、きこしめせ。仏をねかふ人はみな、たうとちゑとしひしん、一つかけては成難し。たうといつはきやうたい、知恵といつはさとりのしむ、ちひといつは一さいのしゆせうをふかくあはれみて、人の心に」

(証ウ)したかへり。第一しひのかけては仏とさらに成かたし。あふし

よせむものを申せはこそことはもおほくつくれ、今はものをは申ましゐ。

かくてひれふしおもひしにとなって、此世のちきりこそあさくとも、ち

247

(11)

こくかきちくしせうしゆらにんてんに生れかわり死かわり、六道四生の

其中をくるり/、とおひめくりて、うさもつらさものちの世におもひし

らせ申さん、とて其後ものを申さす。りう女」(犯オ)は本よりかやうに

めされむため、たはかりすまさせたまひ、玉をのへたる御手にてまんこ

かたもとをひかへさせ給ひ、なふいたふなうらみ給ひそ。けに心さしの

ましまさはみつからか所望をかなえてたへ。草のまくらのうた鴬ねの、

露のなさけは夢はかりちきりなむ。万子余りのうれしさに、かつはとお

(ママ)きていたき、まことにて御座候か。ニッとなきいのちをもまいらせむ、

と申。龍女きこしめされて、い」(犯ウ)やそれまてもさふらはす。けに

やらむ、しやくせんたむのみそきにて五寸の釈迦のれい仏のましますよ

しを、此舟内にてきシまいらせてさふらへは、其玉を一夜みつからにあ

っけさせ給へ。ともかくもおほせにしたかふへし。万子きいて、あらし

やうたいなや、自余の所望かとこそおもひてあるに、其すいしやうの玉

におゐては中/、おもひもよらぬ事也、とふつっとおもひきりけるか、

ヘ何程の事のあるへ」(鍋オ)きと思ひなをし、さても御身は何して御存

候ひたるそ。やさしくも御しよもう候ものかな。さらはそっとおかませ

申さん、とて、鉄しやうをさし印判を以てふうしたる、ヘ石のからうと

の中よりすいしやうの玉を取出し、龍女の方へ渡す。けいせいと書ては

みやこかたふくとよまれしも今こそおもひしられたれ。かくてしうあひ

れんほのわりなきちきりと見えつるか、三日も過さるにかき」(羽ウ)け

すやうに失い。玉はと人にみせけれは、とりてうせぬと申。ヘ只はうせ

むとあきれはて、こくうに手をこそたんたくすれ。ぺあらくちおしや、 りう宮のみやこよりたはかりけるをしらすして、とかふ申にをよはす、とのこるたからを先として、いそき都へ上り、さまノ、のほうふつことノ、く取出し、たいしよくはんにまいらせあくる。たいしよくはんは御らんして、おくり文の其中に第一のたからもの、すいしやうの玉の見えぬ」(狐オ)はいかに、とたつねとひたまふ。つぁむへきにあらす、ありのまシに申上る。かまたり聞し召れて、余りおもへは無念成に、せめて我をくそくして其浦の有様をみせよ、とおほせけれは、うけたまはる、と申て、もとりの舟にのせ申、房崎のおきへおし出し、差成と申。只はうノ、としたりし波の上を御覧して、むなしくもとり給ふ。ベ道すから思しめす、さもあれ無念成ものかな。三国一のてうほうを」(弧ウ)我朝の宝にはなさすして、徒に龍宮のたからとなしけん口おしさよ・能々物をあんつるに、龍宮かいは六道におゐてもちくしやうたうの内、人間のちゑにははるかにおとるへきもの、かあらん時は何としてたはかられけるふしきさよ・ベ我又せんけうほうへんし、いかにもあんをめくらし、ヘ此玉においてはとらふすもの、とおほしめし、宮こにかへり給ひて朝夕あんをめくらし、玉をとるへきはかり」(弱オ)事、くふうまし/、けれとも、さすか海中へた易って、たしうゑんたうならされは舟のかよひ路あらはこそ。しかりとは申せとも、しんそくにおゐておや。たいせ太子はかたしけなく、によいの玉をとらんとて、ゑひしのかひをもってきょかいをはかりつくしっシ、終にはうしゆ得たまへり。大くわんとしては又つゐにむなしき事あらし。われもちかいてれかはくは、しやう/、せ塾の間に此玉〔に〕をいてはとるふす」(弱ウ)物とおほしめし、

248

(12)

都の内を忍ひ出、かたちをやつし給ひ、又ふさ崎へくたらるぁ。ヘかの

うらにっかせ給ひ、浦のていを見給ふに、海士共おほくおりひたり、か

つきする事おひた塾しおひたシし。かのあまの中に、年のよはひ廿斗に

見え、みめ形しんしやうなるか、ろすいにもつれてあそふ事へいろを伝

ふことし。かまたり見こめ給ひ、かの海士のとまやにやとをかり、むな

しく日かすをおくらせ給ふに、あまにもいまたつまもな」(錨オ)し。ヘ

かまたりたひのひとりね、とこもさひしき事なれは、こぅにて日をや重

けん、いねかたけれともひめまつの、はやうら風にうちなひく、なには

もつらきうらなから、そよよしあしと云語りて、二人あれはそなくさみ

ぬ。うきねのとこのかち枕、波のよるにも成行は、とも皇なきさのさょ

千鳥、吹しほりたる浦風に、こゑをくらふるなみのをと、すさきのまつ

にさきあれは、木すゑを波のこゆるに」(妬ウ)似て、塩やのけふり一む

すひ、すゑはかすみにきえにほひ、夢路に似たるうたかたの、なみのこ

し舟かすかにて、からろの音のとをけれは、花になくねのかりかねか、

われも都の恋しさに、こゑをくらへてなくはかり、うき身なからもまき

のとを、あけぬ暮ぬと過行は、みとせに成は程もなし。ヘかくて男女の

なからへ、わりなき中の御ちきり、わか君出来給ふ。今はたかひに何事

をもうちとけたりしふせ」(訂オ)ひなり。かまたり仰けるやうは、今は

何をかつシむへき。我こそその名かくれなき太職冠とは我事也。心にふ

かき望のありてこの程これにありつるそ。しかるへくはしょもうをかな

へてたひてんによや。ぺあま人うけたまはり、なふこはまことにて御座

さふらふか。あらはっかしや、四かいに御なかくれもなきか傷る貴人に したしみ申ける事よ・ひとつはみやうかつきへし、一シははくちよ下賎にて、はた」(師ウ)ゑはなみの荒磯、たちゐは磯のなかれ木、こゑはあらいそにくたくるうつせ波の音、ヘかみはやしほにひきみたし、っくものことくなる身にて、都の雲の上人におきふしひとつ床にして、見與えぬるこそはっかしけれ。しかし只身をなけてしなん、とこそくときけれ。ベかまたり聞召れて、やさしくも申ものかな、とてもしなむすいのちを我ためにあたえ、りうくうかいへわけいり、」(犯オ)たつぬる玉のありところをみてかへれ、との御読也。あまひと承り、りうくうかいとゃらんはありとはきいていまたみす。行てかへらん事かたし。たとひいかなるおほせなり共何かわそむき申へき、とかまたりにおいとまを申、一葉の舟にさほをさし、奥をさしてこきいて、なみまをわけてつっと入、一日にもあからす二日にもあからす、三日四日もはや過て、七日にこそ也にけれ。ベかたまりおほせ」(羽ウ)けるやうは、あらむさんや、今ははや底のうほのゑちきにも成ぬるか。あやしやいかにおほつかなし、と御心をっくさせ給ふ処に、よみかゑりしたる風情にてもとの舟にそあかりける。いかにととはせ給へは、しはしは物を申さす、や蚤あって申けるは、此地よりも龍宮かいへ行道は事もななめの事ならす。ひとつのかしらをさきとして、くらき所を守てちいるの底へわけいるに、うしほのろすひつきぬれは、くれなゐの色の水」(調オ)有。なをし底へ分入に、こかねのはまにおちつく。五色のれんけをひふし、あをきくちなうおほぐしてれんけのこしをまとへり。なをし先を見渡に、れい川きよくなかれ出る。みつの色は五色にて、さうかんたかくそはたてり。川に一つの

249

(13)

橋有。七ほうをちりはめ、玉のはたほこ立ならへ、風にまかせてへうよ

うす。ヘかのはしをわたるに、あしすさましくきもきへ、ゆめうつ勤

共わきまへす。なをし先を見渡す」(調ウ)に、ろうもん雲にさしはさ

み、玉のまぐさはかすみのうち、こかねのかわらは日にひかり、さうて

んまてもか易やけり。三重のくわゐらうに四しゆのもんをたてたる一つ

の大里おはします。龍宮ちやう是成けり。へいるりのはしらをたて、め

のうのゆきけたにはりのかへを入にけり。四しゆのまんしゆのやうらく、

たまのすたれをかけならへ、ちやうにはあやをかけつ勘、とこににしき

のしとねをすき、ちんたんを」(㈹オ)ましへ、なをらんけいをみかきた

(ママ)て、か塾る目出度きうたくに、しやかつたりうわうはしめとし、わしゆ

きつりうに至るまて、ほうさをかさり座せらる鼻。もろ』、の小龍とく

りう、こかねのよるひ甲をきて四つの門をまほれり。さてもたつぬる玉

をは別にてんを作て、たからのはたをたてならへ、かうをもり花をつみ、

二六時中にはんのもり、いねうかつかう中ノ、に申に及はさりけり。八

人の龍王時々刻々に」(蛆ウ)しゆこすれは、此玉をとらむ事今生にては

かなふまし。まして未来に取難し。おほしめしきり給へ、わかきみ、と

こそ申けれ。かまたり聞しめされて、さては玉の有所をは慥に見つるも

のかな。有とたにもおもひなは取ゑん事はけつちやう也。龍王共も其あ

ひたはかりことをめくらし、たはかつてとりたれは、我もたくみをめく

らし、たはかつてとるへき也。ヘそれりうわうは五すひ三ねつひまもな

く、くる」(虹オ)しみおほき物そかし。此くるしみをまぬかる事はしら

へのおとにょもしかし。こぁを以あんするに、りうわうをは舞とくわん けむにてたはかるへし。此うみのおもてに極楽浄土をまなふへし。玉のはたほこたてならへ、さて又かくやをかさらせ、ひたり右のかくやにけむくはんをしらへすまし、そのみきりにみめよきちこをそろへ、おんかくをそうするほとならはたシ天人に似たるへし。さあらんほとに大僧正からり」(虹ウ)むをうちならし、上天下かいのりうちんをくはんちやうする物ならは、す蔓めによって神仏ののそみらいりんましますは、龍宮の都より八大りう王さきとして、もるノ、のけんそく共を引くしてこそ出らるへし。そのあひたは龍宮かいにはりう一人もあるましきそ。留守の間をうかシってそろりと入てぬすみとって、やあたへかし、とこそおほせられ、ヘあま人承り、あらゆ豊しの君の御たくみやさふらふ。」(蛇オ)か弾るせんけうなくしてはいかてたやすくとりゑなむ。た勘し留守の間なり共玉のけいこはあるへし。たとひむなしく成共、玉においてはしさいなくとりあけ、君に参らするへきか、もしもむなしくなるならは、又たらちねのみとり子のちふさをはなる聖事もなし。きみならては後の世をあはれむ人のあるへきか、とてなくより外の事はなし。かまたり聞しめされて、心やすくおもへ、」(蛇ウ)もしもむなしく成ならは、けうやうのためにならの都に大からむをこんりうすへし。此若においてはいまたようち成共、都へくしてのほり、天下の御めにかけ、ふさ湧きの大臣とかうし、藤原のとうりやうたるへきよし、御物語有けれは、あま人うけたまはり、悦事はかきりなし。やかて都へ使者をたて、舞いしをめしくたし、あたりのうらの舟をよせ、しゆたんをもっていろとれるふ

たひをこそいりたて」(網オ)けれ。十丈のはたほこ百なかれたてなら

250

(14)

へ、風にまかせてひるかへせは、惣海はやかて浄土と成。ひたり右のか

くやにかさりたてたる大たいこ、まむまくをひかせ、しゆれんに玉のす

たれをかけ、ぺほう座をさうにかさらせて、ヘうけむちとくの大僧正、

ベからりんをうちならし、へ上てん下かいのりうちんをおとるかししや

(ママ)うすれは、大りうわうしゆらいしてせむきまちノ‐、也けり。なむせんふ

し」(“オ)うふさシきの浦にして、ほうさをかさりちうしやうあり、い

さやらいりんやうかう有てちやうもんせん、とせむきして、そこはくの

けむそく共を引くしてこそ出られ、すてにりうしん出給へは、国中のち

こ達身をかさりまうけ、髪をせんと夢まひ給ふ、たシ天人のことく也。

さるほとに龍神、五すい三ねったちまちまぬかれ給ひけるあひた、何事

もうち忘れ、舞にみとれ給ひてふさ崎に日をそをくら」垣ウ)るぅ。ヘ

あはやひまこそよけれ、とてあまも出たちをかまへける。五しきのあや

を身にまとひ、夜光の玉をひたいにあて、かねよき刀脇はさみ、ぬのっ

なのはしを腰に付、なみまをわけてつっと入。たとひ男子の身成共、一

人海へいる事はとくのうほれうかめ大しやのおそれもあるへきに、申さ

んや女の身として一人うみへいる事は、ためしすぐなき次第也。数千里

のかいろを過、龍宮の都」(媚オ)につきにけり。見をきたりし事なれは

まよふへきにてさふらはす、龍宮のほうてんにあかめをくすいしゃうの

玉、おもいのまうにぬすみ取て、こしに付たるやくそくのぬの綱をうこ

かせは、せんちうの人々、あはややくそくこシなり、とてんてにっなを

引にけり。あまもいさみてかつけはうへよりいととひきあくる・今はか

うと思ふ処に、玉を守る小龍王跡をもとめてをふ事は、みつはのそ」(妬 ウ)やをいることく、すてにはや此っな残りすぐなく見えし時、舟中の人々、あはやほのかにみゆるは、あふとりあけよ、とけちするに、あまのあとにっゐてひとつの大しやをふてくる。たけは十てう斗にて、ひれにっるきをはさみたて、まなこは只夕日のみつにうつるふことく也。くれなゐのことくなるしたのさきをふりたて、すきまなくおつかくる。あまかなはしとおもひける間、刀をぬいてふせきけり。せん」(妬オ)中の人々此由を御らんし、手をあかき身をいたき、おっつふひつころんっ、あはや/、とおほせけり。かまたり御覧し、きよけむをぬき、ょうちのとききつねのあたえたひたる一つのかまにとりそへ、とんていらんとし給ふを、船中の人々ゆんてめてにすかって、こはいかにとてと易めけり。すてにはや此っなのこりすぐなく見えし時、大しやはしりか塗って、なさけなくもかのあまの二つのあしをけち」(妬ウ)きれは、みつのあはとそきゑにける。ヘむなしきしかいを取上、一度にわつとさけふ。かまたり御覧して、玉はとりえぬ物故に、二世のきゑんはつきはてぬ。むねの間に疵有、大しやのさけるのみならす、あやしめ御らん有けれは、此疵の中よりもすいしやうの玉出させたまふ。大しやのおっかけしとき刀をふると見えしは、ふせかんためになくし、玉をかくさんそのために、わか身をかいしける」(頓オ)かとよ・せめて此疵をわか身少おひたらは、かほとにものはおもふましきを、女ははかなきありさまかな、おつとのめひをちかゑしとていのちをすつるはかなさよ・ともしひにきゆるよるのむしはつまゆへ其身をこかすなり。笛に寄秋の鹿ははかなきちきりにいのちをうしなふ。それは皆ノ、しうあひれんほのわりなきちきりと

251

(15)

はいひなから、かぁるあはれはまれ成へし。我には二世の」(灯ウ)きゑ

んなれは又こん世にもあひみなむ。なむちは今こそかきりなれ。わかれ

のすかたをよくみよ、とて、いとけなきわか君をしかひにをしそへたり

けれは、し参たるおやとしらぬ子の、此程母にはなれっ蚤、たまにあふ

たるうれしさに、むなしきちふさをふくみつ弾はシのむねをた弾くをみ

て、上下はんみんをしなへて皆なみたをそなかしける。ヘあまはむなし

く成たれとかしこきせんけう方」(岨オ)便によって、龍宮かいへむはわ

れしむけほうしゆをことゆへなくむはい返したまふ事、有難しともなか

,r、に申にをよはさりけり。此玉をすなはちおくりふみにまかせ、こう

ふくしの本尊釈迦仏のみけむにゑりはめ給ひけるとかや。しやうしんの

れいさう、しやくせむたんのみそきにて五寸の釈迦を作り、にくしきの

御しやりを御しんに作りこめなから、方八寸のすひしやうのたうの」(蛆

ウ)なかに納て、むけほうしゆとなつけて、三国一のてうほう、りうわ

うのおしみ給しことわりとこそきこえけれ。」(鯛オ)

252

参照

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