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原著論文

保育者の語りにみられる環境変化と 3 歳児の姿(2)

─ 保育環境としての自然に着目して ─

池田りな1)・関口はつ江2)

1)大妻女子大学家政学部児童学科, 2)東京福祉大学社会福祉学部保育児童学科

How Environmental Changes Affect the Behavior of Three-year-old Children (2)

Examining the Natural Environment as a Context of Child Care

Rina Ikeda and Hatsue Sekiguchi

Key Words : 自然環境の変化,(震災)以前の保育,保育者の自然のとらえかた,子どもの言

動,(震災)以前の子どもの言動,保護者の自然のとらえかた

要旨

本稿は第1報に続き、災害により保育環境に制限 をかけなければならない福島県内の幼稚園教諭を対 象とした調査報告である。保育現場における自然環 境の制限が、子ども・保育者・保護者に及ぼす影響 について考察した。考察からは、以前の子どもの様 子との違いに気付き、また保護者の苦労やその気持 ちの揺らぎを受け止めようと努めながら、自らも葛 藤の中で保育を続ける保育者の姿が明らかとなっ た。

1.  はじめに

11)では、20113月に発生した東日本大 震災が、福島県を中心として保育活動に大きな影響 を及ぼしていることを取り上げ、福島県内の複数の 私立幼稚園における幼稚園教諭たちの語りから震災 以前と震災後における保育環境と保育及び子ども達 の様子についてその内容を整理し、「園の環境」お よび「子どもの姿」の概要を報告した。

本稿では第2報として、第1報と同一の保育者の 語りのなかから、保育環境の一部分である「自然」

に着目し、3歳児(年少児)とそれを取り巻く保育 者そして保護者の、自然に対する捉えかたや状況の 受けとめかたに視点を変えて整理する。

2.  保育環境として自然環境の制限下による保

保育環境としての自然物には、木々や葉、季節ご とになる木の実、草花、昆虫、飛来する鳥類、風、

空、土、砂など園庭を中心にしてすべてのものが含 まれることを改めて理解される。保育における子ど も本来の園庭での姿としては、元気に走り回る、ゴ ザを敷いた上に座り草花をおままごとに取り入れな がら遊ぶ、また砂場や築山では水を流しながらダイ ナミックに遊ぶ、昆虫の動きを不思議そうに見つめ る姿、などの光景が浮かびやすい。園庭は保育環境 として重要な要素であり、子どもが遊びを通して自 らの世界観を広げていく過程において自然物は必要 不可欠なものであると考えることが一般的である。

福島を中心とした保育環境では20113月に突 然、その必要不可欠である自然環境が奪われること となった。子どもにとって身近にあり続け、親しみ 深かった草花や土そして虫は突然“触ってはいけな いもの”となり、“目には見えないなにか危ないも の・怖いもの”に変化していくこととなった。 

震災後、多くの保育現場では子どもの安全確保を 第一優先とするため、自然環境の安全対策に着手 し、まず実施されたことが屋外活動の制限である。

保育環境としての園庭利用制限は園によって異なる ものの、その期間は長期に亘っている。具体的に は、園庭活動の時間制限をかけることが多く、とく に震災直後から一定期間において、園庭活動をまっ たく行わなかった保育現場が多い。その後、1日に

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15分、30分、1時間、と園庭活動時間を徐々に延 長していくようになったが、現在においても、園庭 活動に制限をかけないで保育をおこなう保育現場ば かりではない2)。また園庭に植栽された木々や草花 は、汚染の懸念から伐採され撤去されたものも多 く、園庭の土や砂については、今も表土の除去と土 の入れ替えを定期的に実施している。

このように、人災被害で自然環境を使えなくなっ た保育環境の問題は日本において未曾有のことであ り、保育関係者の間では保育環境が以前の状況に完 全に復興することは困難であろうという見解もあ 2)

震災発生時点で満1歳児であった子どもたちが2 年後に幼稚園に入園し、年少児として園生活を送る ようになった姿を、保育者の視点から保育の自然環 境を軸に置きながら整理していきたい。

3. 目的

震災後3年の保育現場においては、保育者及びそ の関係者の努力によって以前の保育環境を徐々に取 り戻しつつあるとされている。そのような保育現場 における保育者の自然環境との向き合いかたやその 意識を明らかにすることを目的とし、とくに保育 者・子ども・保護者それぞれが自然環境をどのよう にとらえているのかについて、保育者へのインタ ビューから質的に分析し考察する。またそれらは保 育形態による差があるのかについても検討する。

4. 方法

福島県内の私立幼稚園に勤務する幼稚園教諭で 2013年度に3歳児クラスを担任している保育者複 数名を対象に、自由発話を中心としたインタビュー 調査を実施した。

・調査実施時期: 201312月に福島県内に赴き実 施した。

・対象者: 一斉活動中心園2園、自由活動中心園3 園に勤務する複数の保育者。

・実施方法: 自由活動中心園グループ、一斉活動 中心園グループを別日程にて実施した。

・インタビュー方法: 調査者1名が同席しておこ ない、1回の調査時間は約2時間であった。

・記録方法: 対象者の承諾を得て音声録音をおこ ない、文字化したものを第一資料とした。

本調査は、対象者の個人情報に十分配慮すること

を条件として、研究発表のための資料とすることに ついて、対象者の了承を得ている。

5. 結果

保育者の語りを文字化したものを第一資料とし て、一斉活動中心園グループ(A群)、自由活動中 心園(B群)それぞれを区別し整理した。語りの中 から「自然」に関連すると判断されるものを抽出 し、その語り内容を、

1)  子どもの「自然」へ関わる姿・「自然」のと らえかた

2)  保育者自身の、保育環境における「自然」に 対するとらえかた

3) 保護者の「自然」に対するとらえかた 3カテゴリーに分類し整理した。

(1)  保育者の「自然」および「自然環境」につい て、保育者・子ども・保護者の三者のとらえ方 の語りに関する抽出事例数と両群の語り内容 1に示すように、両群の保育者の語りの中から

「自然」に関連すると思われるものはAB群合計 111事例抽出された。なお、内容が同類のものと判 断される語り内容については、語り手が複数人で あっても塁算を「1」とした。

また、3カテゴリーの事例小計数に差はみられず、

合計数は56事例(A群)、55事例(B群)とほぼ 同数の事例が抽出された。ここからは、自由討議を 基本形式としたインタビュー実施時において、一斉 活動中心園に勤務する保育者と自由活動中心園に勤 務する保育者とには、保育者として保育環境の「自 然」に関する関心度には大きな違いはみられず、両 者が同じような状況や思いを抱えていることが、う かがわれた。 

しかしまた、保育者が現在の子どもの状況を鑑み ながら、子どもについて懸念を抱く内容には多少の 違いがみられた。本来「子ども自身が自由に遊びや 遊び場を選択し、 活動する」 機会が多い保育を実践 してきた自由活動中心園に勤務する保育者の語りか らは、「狭い室内での遊びはさぞ窮屈であり、 広々と した園庭へ行きたいと思うはずだが、外に行きたい と訴える子どもの少なさに違和感をもつ」という語 り内容や、「自然と触れ合う経験の少なさが、 将来の 子どもの状況に及ぼす影響への懸念」などがあがっ た。このことから、自由活動中心園の保育者には、

自然環境が子どもの発達に与える影響についての語 りが比較的多くみられたととらえることができる。

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いっぽう、一斉活動中心園に勤務する保育者から は、「子どもの自然体験の少なさが活動への取り組 みや効果に与える影響」に関する語りや、「汚れを 気にしてしまって遊び活動に集中できない」などが あがった。一斉活動中心園の保育者は、子どもの自 然に触れる体験の少なさから、(震災)以前の保育 計画のままでは教育効果が低いことなどに関する語 りが見られたととらえられる。

(2)  保育者の語りにみられる、子どもの「自然」

へ関わる姿・「自然」のとらえかた

A群、B群ともに17事例の語りが抽出され、そ の特徴的な語りと思われるものをそれぞれ表2に抜 粋した。

A群(一斉活動中心園の保育者)からは、子ども が「自然物に触って汚れたらすぐに身体を洗う」

ことを徹底されて育ってきたため、汚れることを気 にして遊び自体に集中できない状況が見られること や、『え?お外に行っていいの?』と聞き返す子 どもの姿が語られた。自然物を触って汚れることへ の恐怖にも似た子どもの心情が表されるとともに、

「外遊びはしてはいけない遊び」と認識している子 どもの姿が浮き彫りにされている。

また、自然物に触れる実体験が乏しいためか

実際の自然物に対して心が響かない子どもの様

子」も語られている。一斉活動中心園においては、

自然物に触れる体験活動に関して、保育者が活動を 設定しながら導入から保育を進めていくことが一般 的である。しかし、子どもに自然体験が乏しい場合 には、実体験の記憶から派生する(これからの活動 への)期待感が湧きにくく、また同時に活動の達成 感も弱いことを意味しており、この語りの背景とし ては、自然物に触れる実体験と保育計画の成果との 関係性が語られたものであることが理解される。

B群(自由活動中心園の保育者)では、保育者の

お外は放射能があるから」という言葉に無条件に 納得する姿や、子どもから「あそこの水溜りのと ころはダメなんだよね」という姿が語られ、「ほう しゃのう」というものをよくは理解できなくても、

子どもなりに「怖いもの」ということがわかってお り、その感覚が身に染みている様子が語られた。

また、「(震災)以前は雨が降っていても強行に

「外にいきたい」という子どもがいたが、今はその ように主張をする子どもが少ない」ことを語ってい る。保育者はその語りの背景として、(震災)以前 の子どもは、幼稚園登園後に室内室外問わずに好き な場所で遊んでよかったことを例に挙げ、「今は室 内遊びだけになっているため狭い。しかし、外に行 きたい、という子どもは『意外に少ない』という状 表 1 : 保育者の語りにみられる「自然および自然環境に対する三者のとらえかた」に関する内容(事例数)

保育者の語り内容/カテゴリー 一斉活動中心園(A群) 自由活動中心園(B群)

1) 子どもの自然への関わる姿・とらえかた 17 17

2) 保育者自身の保育環境・自然に対するとらえかた 27 29

3) 保護者の自然に対するとらえかた 12 9

合計数 56 55

表 2 : 保育者の語りにみられる「子どもの自然に関わる姿・自然のとらえかた」に関する内容 A群  保育者の語り(抜粋) B群   保育者の語り(抜粋)

①  保護者に「汚れたら洗う」ことをすごく言われてい て、とくに入園当初は「本当に大丈夫だよ」と保育 者がいうくらい気にしてしまって遊びに集中できな い子どももいた。

②  入園当初は「え?お外にいってもいいの?お外で遊 んでいいんだ」という。でもどうやって遊んでいい かわからないというようなところもあった。

③  子どものせいではないが、自然物に対して心に響か ない様子が見られる。((震災)以前のように、現物 に触れることを活動の導入にすることができないた め)

①  以前は、登園後に室内や屋外、好きなところで遊ん でもよいとしていたが、現在は室内遊びだけになっ ているため場所が狭い。しかし「外に行きたい」と いう子どもは意外に少なく、1,2人くらいしかい ない。(震災)以前は雨が降ってもなにがなんでも 外に行きたいと言い張る子どもがいたが今はいな

②  い。保育者が「お外は“ほうしゃのう”があるからね」

と伝えると、もうそれだけで子どもはすんなり納得 をする。「“ほうしゃのう”だからお外にいけない」

③  と。子どものほうから「あそこの水たまりのところはダ メなんだよね」と言う。

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況を語っており、園庭遊びの楽しさの体験不足が子 どもの遊び場選びの主体性にも影響する可能性につ いて言及している。

このカテゴリーでは、A群では自然物に触れる実 体験と保育計画の成果との関係性についての語りが あり、(震災)以前の子どもの保育への取り組む姿 と現在の子どもの姿の違いについて語っている点を とらえることができる。B群では自然物を感覚的に

「怖いもの」と認識する子どもの状況への懸念と、

その背景にあることのひとつとして、保育者自身が 子どもの行動を制限してきた保育行動への省察の語 りが見られる。また(震災)以前の子どもと現在の 子どもの様子の言動の違いを語る点をとらえること ができる。

(3)  保育者の語りにみられる、保育者自身の、保 育環境における「自然」のとらえかた A群では27事例、B群では29事例と、3カテゴ リーのなかで最も抽出数が多いテーマとなってい る。その背景としては、保育者自身が現在の保育状 況のなかで考え続け、苦慮している部分として語り に吐露されたことが推察される。本カテゴリーに関 する語りの抜粋を表3に示した。

A群(一斉活動中心園の保育者)からは、「保育 者として、3歳児には触っていい砂・いけない砂の 判別がまだつかないことはわかっているのだが、悪 気のないまま、何気なく制限のかかった砂を掴んで いる子どもの姿が切ないし、その行動を止めて制限 をしている自分自身も切ない」と語られている。

保育者が途方もない規模の自然環境制限の中で、

子どもの安全を守ろうとする気持ちと、園庭の砂く らいは制限なく自由に触らせてあげたいという本音 が交錯する心情が理解される。それは「本来なら ば、 遊んで良いもの であるはずなのに制限をしな ければいけない辛さや、「自分自身が制限すること で子どもの経験や育ちが違ってしまう」ことの懸念 も表わされている。

また、「触ってはダメ」と言わなければならな いことや、「一回だけ(ならいいよ)ね」と対応す るようにしてはいても、心情的な辛さからは免れな いことを吐露している。そして、「この幼児期に身 体の五感全体を使って体験しなければいけない経験 を止めているのは自分達なんだ、と思うと『保育者 とは何の仕事なのだろう』とマイナス思考になって しまう」との語りには、環境制限下が長期化する保 育環境のなかで保育を続けることのやり場のなさを 表す語りであることがうかがわれる。

保育者には、震災直後から「自然物を保育環境に 取り入れられないことはやむを得ない」との気持ち があった。しかし現在は「いつまでこのように立ち 止まっている必要があるのか」という焦燥感が加わ り、その心情がより複雑でやるせなさを帯びている ことが推察される。

B群(自由活動中心園の保育者)では、まず当 初、保育者自身が自然物に対して神経質になってお り、その姿が子どもから見ると怖かったのではない かと反省を含めて語っている。砂場にはバリケード

表 3 : 保育者の語りにみられる「保育者自身の自然のとらえ方」に関する内容 A群   保育者の語り(抜粋) B群   保育者の語り (抜粋)

①  触っていい砂と触ってはいけない砂の区別は、3 児にはつかないため、制限のかかった砂をつかんで しまうことがある。その行動を制限している自分が すごくせつない。

②  本来ならば「遊んでもよい物」であるはずなのに制 限をしなければならない。そのことで子どもの経験 や育ちがちがってくるのかな、という心配はある。

③  「(触っちゃ)ダメ」と言わなければならないことは つらい。「一回だけね」と対応するようにしている が、それもつらい。

④  この幼児期に五感で体験しなければいけない経験を 止めているのは自分たちなんだ、と思うと「保育者 とはなんの仕事なんだろう」とマイナス思考になっ てしまう」

①  保育者側は自然物に対してピリピリと神経質になっ ていた。その姿は子どもも怖かったのではないだろ うか。砂場に近寄らないように、保育者もバリケー ドのように保護をしていたし、いつも「砂には触ら ない!」と言っていた。子どもだからどうしても砂 に触りたい、でもそれを保育者が見つけるとすぐに 手を洗わせていた。保育者が「砂は怖いもの」と子 どもに植え付けていたのかもしれない。

②  保育者と幼稚園側からやっていかないといけないと 痛感している。意図的にでも広いところへ行って走 ら せ る な ど。 危 機 感 と い う か( こ の ま ま で は ) ちょっと怖いな、と感じている。

③  保育室に置いている飼育ケースのダンゴムシを子ど も達は触りたくて仕方ない様子をする。保育者とし ては「ああどうしよう」と葛藤しながら、ケースか ら出して「触らないで見てください」とは言うが切 ない。子ども達ももう触ってしまうけど、「まあ、

仕方ないかな」と感じている。「虫に触った人は後 で手を洗おうね」と言って。保育者にしてみたら

「触らないで見てて」という対応はせつない。

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のように保護を施し、子どもが砂場に近づかないよ うにし、少しでも近づこうものなら「砂には触ら ない!」と、子どもに再三言葉をかけ制止してい た。「砂が怖いもの」だという概念を子どもに植え 付けたのは、保育者自身なのかもしれない、と省察 している。

それと同時に、子どもの外遊び体験が少ないこと に配慮して、室内飼育やプランター栽培を取り入れ ようとする保育者の工夫もみられる。それらに対す る子どもの関心も高く、保育者が制限をかけても、

つい自然物に触ってしまう子どもの姿に遭遇する が、保育者としては「触らないで見るだけだよ」と 言うことを辛く感じる様子が容易に想像できる語り である。保育者は一瞬「ああどうしよう」と自身 の中で葛藤し、「1回だけね」「あとで手をよく洗お うね」という対応をしてしまい、その後「これでよ かったのか」と思い悩むことになる、と語り、被爆 の危険性と子どもに体験をさせたいという意図の間 で自問自答しながら保育にあたっている様子が浮か びあがる。

このカテゴリーでは、AB群ともに、外遊びは 実施していても、それは本来の外遊びではないとい う認識を保育者が持っているとともに、「自然物に触 れてはいけない」と子どもの行動に制限をかけてい る自分自身の保育行動に辛さを感じており、それに 伴う大きな葛藤がみられるという共通性がみられた。

(4)  保育者の語りにみられる、保護者の「自然」

に対するとらえかた

A群では12事例、B群は9事例と、3カテゴリー

のうち抽出数がもっとも少ないが、その中から特徴 的な語りと判断された内容を表4に抜粋した。

A群(一斉活動中心園の保育者)からは、保護者 が、「子どもがちゃんと外遊びができるのか、遊 具や道具の使い方ができるのかを心配する姿や、

幼稚園で外遊びをしてもらえて嬉しい」、という 感想をもっていることが語られた。その背景には

幼稚園以外の場所は「危ない」と保護者がとら えていること、幼稚園・保育者への信頼感を抱いて いることが伺われる。

B群(自由活動中心園の保育者)では、「アン ケートには必ず、外遊びはさせてほしくない、とい う意見はあり、保護者全員の意見を整理して保育行 事を実施するには困難な活動もある」ことが現状で あると語られている。保護者自身の気持ちにも揺ら ぎが大きく、クラスの多くの子どもが園庭で遊ぶ姿 をみれば、自分の子どもも外で遊びたくなるため、

じゃあいいです。外遊びをさせていいです」と、

保護者が折れる形にもなる状況が語られている。ま た、「子どもを幼稚園に入園させた保護者は、こ の地で子育てをしていく覚悟を持っている人たちで あり、子どもの気づかないところで、食材などに注 意を払う」姿をとらえており、保育者が、そのよう な保護者の努力と苦労をよく認識していることが理 解された。

このカテゴリーについては、AB群ともに、

当初と比較して、保護者の放射能を警戒する気持ち に変化があることを保育者はとらえている。そして 幼稚園側の保護者対応としては、保護者へのアン

表 4 : 保育者の語りにみられる「保護者の自然に対するとらえかた」に関する内容 A群 保育者の語り(抜粋) B群 保育者の語り(抜粋)

①  外遊びがまったくできない状態で、幼稚園に入園し てきた子どもが多く、それに対して保護者は「ちゃ んと外遊びができるでしょうか、遊具の使い方とか そういうこともできるでしょうか」と心配そうに保 育者に聞いてくる。

②  子ども自身はそれほど変わらないが、逆に保護者の 中に「外遊びをしてほしい」「(外遊びを)してもら えて本当に嬉しい」という人がすごく増えている。

③  保護者には、(幼稚園の園庭以外の)他の場所はま だ「危ない」という意識がある。(幼稚園は除染作 業など整備が整っているという安心感がある様子 で)降園後に園庭で遊ばせてから帰る姿もある。

④  震災直後の頃に比べると、保護者の(放射能を警戒 する)思いは強くなくなっている。「もう、お任せ します」「園がやってくださるのなら」という傾向 が強くなった。

①  保護者アンケートには「うちの子どもには外遊びを させてほしくない」と訴える内容も少ないが必ずあ る。自然に関与する保育活動を決める際には保護者 の意見と承諾を得てから実施することを決めている ため、(反対意見があれば)実施できない活動もあ るのが現状。

②  保護者の意向で外遊びができない子どもが、外遊び をしている子ども達のことが気になって、自分の室 内遊びに集中できない。その状況を保護者に伝える と、「じゃあいいです、うちの子どもも外で遊ばせ ていいです」という返事だった。

③  いま、子どもを幼稚園に入れる保護者は、覚悟して この地に残ることを決めた人達。子どもにできる限 り(自然環境を取り入れた)経験をたくさんさせて ほしい、と願う保護者は多い。子どもには「いい よ」と言いながら、その代り、子どもの見えない水 面下で食材などには細心の注意を払っている。子ど もには感じさせないようにしているが、本当のとこ ろ苦労が多い。

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ケートなどを実施し、保護者の意向を踏まえながら 環境改善を進めている姿がみられる。

このことから、園の保育方法として、園側だけの 判断で自然環境の取入れを決定していくことは困難 であり、保護者の意向を尊重しつつ保育環境の改善 にあたっている園の苦労する状況が明らかとなっ た。また、震災直後に比べると、保護者の(放射能 を警戒する)心情は落ち着いてきており、「もうお 任せします」「園がやってくださるのなら」という 気持ちの揺らぎを理解している。自然環境制限下の 地域で生活し子育てをする保護者の苦労についても 深く理解をしており、保育者は、子どもの育ちを担 う大人として共感し、保護者の気持ちに寄り添い受 け止めようと努めている姿がそこにある。

6. 考察

対象とした一斉活動中心園2園および自由活動中 心園3園の保育者間においては、語り内容から大き な違いは認められず、むしろ保育形態の違いはあっ ても放射能による自然環境制限下における保育環境 と子どもや保護者、また保育者自身の戸惑いと苦慮 には次のような共通傾向を見出すことができる。

(1)  保育者は「子どもが自然をどのようにとらえ、

関わっている」と考えているのか

保育者は、子どもが自然物による汚れに敏感に反 応する姿に触れ、(震災)以前の同年齢の子ども達 の様子との違いを強く感じ、本調査実施現在の3 児の様子を心配している。しかし、子どもにそのよ うな感覚を育てているのは生活環境であり、保育者 自身を含めた周囲の大人であることも自覚してい る。子どもが自然物による汚れに敏感に反応する姿 に対して切なさを感じているのは、そういった自責 の念を含むものであろう。

しかしまた、子ども達にとって外遊びが制限され た中での保育が日常そのものであり、大人が指示し た場所で遊ぶことに何の疑いも不満も抱かず「当た り前」であると認識していることについて、保育者 は「仕方がないこと」としながら保育をしている状 況がある。それは、狭い室内で遊ぶことに慣れてし まい、子どものほうから外遊びを求めることが少な い姿を、保育者が複雑な思いを抱きながら受け止め ていることにも表れている。このような点において は、とくに長く自由活動中心園に勤務する保育者か ら、(震災)以前の3歳児と比較しての違和感を訴 える語りとして表れている。このような子どもの姿

の違いを感受する感覚は、現在の3歳児が外遊びの 楽しさを体験することに関して明らかに不足してい る現状や、(震災)以前の3歳児は、子ども自身が 遊びを選択し場所を決めて活動することが日常的に 行われていた、という自身の保育体験からもたらさ れたものであることは言うまでもない。

そして、現在の3歳児のなかに、その意味自体は わからないまでも「目にはみえないけれど放射能は 怖いもの」という認識がすでに根付いていることに ついて言及している。保育は安全第一であるために 結果として仕方のないことであると理解しながらも、

3歳児に根付いたその認識が、更に今後自然への関 わりを極端に少なくする可能性などを予想して、子 どもの将来への影響について強い懸念を抱いている。

幼児期の発達段階を熟知し、その専門性を基本に置 いて実践する保育者として、子どもの現状に対する 不安を吐露している部分であると考えられよう。

(2)  保育者自身は、保育環境として「自然」をど のように考え実践しているのか

保育者は、幼児期における自然体験の重要性を認 識しているだけに、深い葛藤を抱えながら保育を継 続しつづけていることがわかる。そのような葛藤の 中で、自然環境を含めて自分が考える本来の保育を 実践することができない現状から「子ども達の経験 を止めているのは保育者である自分達なのだ」とい う罪悪感さえも抱いている。保育者自身の責任感か ら生じる保育者の絶望感や職業に対する自尊心やや りがいなどの喪失については、保育者に向けたカウ ンセリングなどのケアについてさらなる拡充が求め られるところである。

(3)  保育者は「保護者が自然をどのようにとらえ ている」と考えているのか

保育者は、保護者が入園前までの生活のなかで子 どもの自然体験の少なさを心配し、そのことを気が かりに感じていることに気づいている。また、その ような育ちの経緯があるために、保護者が、幼稚園 入園後には子どもにできる限り自然と触れさせたい と願い、幼稚園に期待している気持ちのあることも 理解している。そこには、保護者が幼稚園の保育環 境が他の場所と比較して安全であり安心して遊ばせ ることができると認識しており、幼稚園の放射能対 策が保護者から一定の評価を受けていることを保育 者自身が認識し、と同時に、幼稚園側が子どもを第 一に考える活動の場として日々努力していることに ついても、保護者が信頼感を寄せていることも理解 している姿がある。

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しかし反面、保護者の自然環境への警戒は日を追 うごとに低くなりつつあっても、警戒心を払拭でき ない保護者も少数ではあるが存在することも現実と して受けとめている。そのように保護者の気持ちは 時間の経過や状況によって変動するが、保護者の気 持ちに揺らぎには極力寄り添おうとしている保育者 の姿がそこにある。(図1)

7. 総合考察

(1)  保育者の「子ども」と「保護者」へのまなざ

保育者は、子ども達が発達途上にあることに鑑 み、幼児期における自然環境と関わる経験やその機 会の不足について非常に懸念をいだき、子どもの今 後について「どうなってしまうのだろう」という不 安を抱きつつ日々保育にあたっていることが明らか となった。

また調査対象者の勤務する幼稚園では、震災以 降、運動会・園外保育などの園行事を中止にしてい たが保護者へのアンケートを実施した結果、それら の園行事活動の再開について保護者からも承認さ れ、徐々に保育環境の復元を進めているという状況

もある。保護者も幼稚園は安全な場であるという認 識をいだいており、子どもに外遊びなどの体験をさ せてほしいと願っていることを保育者自身も実感し ている。そのいっぽうで、それら園行事の再開を難 しくさせている背景には保護者の気持ちの揺らぎと 意見のばらつきがあることも理解している。物理的 に線量の数値が下がっても、保護者の自然への警戒 心は簡単には解消されないという状況のなかで、保 育者は保護者の揺らぎに寄り添い、受け止め歩み寄 りながら、保護者とともに子どもの育ちを支える努 力を続けている姿がある。

(2) 保育者自身の心情

保育者は、震災発生以降の非常時のなかで、当初 はまず子どもの安全を第一にしながら保育を進めて きた。しかし事態が長期化するなかで、子どもの自 然物に対する漠然とした恐怖感や自然に十分触れら れない姿を心配するようになっている。幼児期にお ける自然体験の重要性を再認識せざるを得ない状況 となり、幼児期の発達を助長する幼稚園という教育 現場にあって、自然体験に制限をつけながら保育し 続ける自身の保育行動に、保育者の深い葛藤がある こともまた事実である。その心情は、保護者と同様 に揺らぎながらも前を向き、活路を見出そうとする

共感

不安・心配

自責

 保護者について

幼稚園が子どもの安全を一番に考 えて自然環境を整備していること を認識し信頼感を抱いている

自然環境に対する保護者の気持ち は揺らいでおり、警戒心を払拭で きずにいる

環境制限下での子育てに苦労して いる

 子どもについて

自然環境に触れる経験が少ないこ とに懸念を抱いている

自然環境制限下の保育環境が、子 どもの育ちに様々な面に影響を及 ぼしているのかも知れないと、考 え始めている

子どもの今後について不安を抱い ている

保育者自身は・・

自然環境に触れる体験と子どもの安全と、その狭間 で保育者自身揺らぎながら保育をしている

「いつまでこのような保育が続くのか」焦燥感を抱 いている

「子どもの育ちを止めているのは保育者」と自責の 念を抱いている

図 1 保育者のとらえる自然環境制限下の「子ども・保育者自身・保護者」の姿

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懸命な姿である。

8. おわりに

1報に引き続き、同一のインタビュー調査で得 られた資料を基に、整理分析方法を「自然」に関す る語りに焦点をあて考察をおこなった。結果として 放射能災害下における保育環境の厳しさがより明確 となり、未曽有の保育環境のなかで保育実践し続け る保育者の心情が浮き彫りにされるところとなっ た。

本研究は2013年時点における調査資料からの分 析であるが、対象とした3歳児のその後の様子につ いては、4歳、5歳時点での継続調査を実施してい る。それらの資料に関しても同様に分析考察し、時 系列的視点から追跡調査結果を整理することによ り、発達途上にある幼児期の子どもとその周囲の保 育者、保護者に及ぼすことが予想される自然環境の 影響について考察を進めたいと考える。

*本稿は、日本発達心理学会第27回大会(2016 4月)において発表した内容を加筆修正した。

*本研究調査は、文部科学省科学研究費(基礎

C)課題番号80348325の助成を受けて行われた。

【引用文献】

1) 池田りな、関口はつ江「保育者の語りにみられ る環境変化と3歳児の姿」大妻女子大学家政系 紀要 第52号,2016

2) 池田りな「自然環境に関する意識の変化」,第1

部 保育現場の実態 第5章子どもの姿と保育 者の意識 2.保育者の取り組みと意識の変化

(2),関口はつ江編「放射能災害下の保育」ミネ ルヴァ書房,(印刷中)

3) 池田りな,関口はつ江,長田瑞恵,田中三保子

「保育環境の変化と保育者の意識―保育者の語り にみられる「自然」のとらえかた―」日本発達 心理学会第27回大会,発表要旨集,2016

【参考文献】

1) 日本保育学会企画シンポジウムI 災害時におけ

る保育問題検討委員会「災害を生きる子どもと 保育─災害下の保育施設のあり方を問う─」日 本保育学会第65回大会 発表要旨集、2012 2) 関口はつ江,加藤孝士,澤井洋子,澤田良子

「災害後の保育所保育の変化と課題II─保育所 の取り組みと保護者の意識─」日本保育学会第 65回大会,発表要旨集,2012

3) 日本保育学会企画シンポジウムII 災害時にお

ける保育問題検討委員会「放射能災害下におけ る保育のこれまでとこれから─保育の原点を問 い直す─」日本保育学会第66回大会 発表要旨 集,2013

4) 災害時における保育問題検討委員会企画シンポ ジウム報告「放射能災害下における保育のこれ までとこれから─保育の原点を問い直す─」保 育学研究,第513号,2013

 5) 自主シンポジウム「保育環境の変化と保育の危 機〜放射能災害後の子ども,保育者,保護者に おける危機を考える〜」日本保育学会第67回大 会 発表要旨集,2014

Abstract

 This report follows up the first by surveying kindergarten teachers in Japan’s Fukushima Prefecture, where the child care environment has been subjected to restrictions imposed by the effects of a disaster. The kindergarten teachers (child care providers) were interviewed to examine the ways that children, child care providers, and parents/guardians are affected by nat- ural environment restrictions placed on the child care setting. The interviews provided a clear picture of how child care pro- viders, while dealing with the chaotic circumstances of their jobs, have identified post-disaster changes in child behavior and have endeavored to understand the struggles and emotional turmoil experienced by parents/guardians.

参照

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