首都大学東京 機関リポジトリ
Title
象徴交換の亀裂 : ジュードとリアリズムと「古い革
袋」
Author(s)
亀澤, 美由紀
Citation
人文学報 表象文化論(446): 43‑66
Issue Date2011‑03‑30
URL
http://hdl.handle.net/10748/5343
RightsType
Departmental Bulletin Paper
Textversionpublisher
http://www.tmu.ac.jp/
象徴 交換の 亀裂 一ジ ュー ドと リア リズ ム と 晴 い革袋 」43
象 徴 交 換 の 亀 裂 一 一ジュー ドとリア リズム とr古 い革袋」
亀澤美由紀
「リア リテ ィ は 、意 味 が不 確 桝 こな る ま さ にそ の 瞬 間 に始 ま る。」 ま 一 ア ラ ン ・ロブeグ リエ
1、 象 徴 交 換 と リア リズ ム
ヴィク トリア朝文学 を象徴交換 のテ ーマで読み解 くとき、交換財 と してまず想定 され る のは女 性で ある。E.K.セ ジウィ ック著 『 男 同士の絆』が鮮やか に描 き出 してい るとお り、
男同士の間で女性 を交換す る ことによって男性 性を確 立 してい くことが近代以降の男性た ちに要求 されてい るこ とで あ り、 ヴィク トリア朝文学はそ うしたホモ ソー シャル 性の原則 に貫かれている。 トマ ス ・ バーデ ィの 脚 陰者ジュー ド』(ThomasHardy,ノudet!aeObscuz‑e, 1895)も例外では ない。た だ し、『 ジュー ド』はそ うした象微交換の あ り方 に疑問 を呈す る のであ るが。 『 ジュー ド』は少 年の 性のイニシエーシ ョン物 語 として始ま り、結婚制度 を糾 弾す る社会批判 の書 と して終 わる。女 性を客体 とす る象徴交換 システ ムに対す る閥いか け が 『 ジ ュー ド』 には一貫 して流 れてい る。 そ こにあるの は、純粋客体 であるはずの女 性が 主爾 生を発揮 した場 合、システム全 体にいかな るひずみ が発生 し、女 を交換財 として利用 すべきはずの男 性がいかなる変容 を迫 られ るか とい う問いか けで ある。
象徴交換 とい うテーマ に関 して もうひ とつ浮かび上が って くる問題 は、言語の指示性の 間題 一 す なわ ち リア リズムの問題 一 漏で ある。 リア リズムは言語の指示的機能 に可能 な 限 りの信頼 を寄 せ、ことばを繕 轄 体 とみなす文学様式 とされてきた。翻 って、『 ジュー ド』
批評において もっ とも当惑 させ られ るのは、 この小説 をバーデ ィ文学 のなかで もっとも リ ア リズ ム的で ある とみ なす 見解 と、 もっ ともモ ダニズ ム的 である とす る見 解 とが混在 して い る事実であ る。 こ とばの象徴交換 とい うテーマで この小説 を考えるこ とは、 「 リア リズム VS.モダニズム」 とい う厄介 な この間題 に光 を照射Cる こ とにつ なが るだろ う。
『 ジ ュー ド』で は女性 ・こ とば とい う二つの交換財 をめ ぐる象徴交換のテーマが深 く繕
り合わ されてい る。それ は、 リア リズムが近代ブル ジ ョワの価値観 のなか か ら生まれた様
44象 徴 交換の 亀裂 一ジ ュー ドと リア リ ズム と 罫 ㌫い 骸袋」
式 であるこ とを考 える と至極 当然 であろ う。 近代 ブルジ ョワが リア リズムに依拠 したr小 説」 とい う文学形式 を生 み出 し、その一方で男性 に よる女性の交換 とい う家父長制 が徹 底 され ていったのであ る。本論考では女/生・ことば を交換財 とす る象 徴交 換のシステ ムを 『 ジ ュー ド』 のなかに分 析す る ことに よって、『 ジ ュー ド』 と近代の関係 を考 えるこ ととす る。
議論 の方 向性 としては、ジュー ドの人物造形が多分に リア リズ ム的要素 を含む こ と、それ に もかか わ らず ジュー 一ドの物 語 その ものは リア ジズムが依拠す る近代 ブル ジ ョワのイデ オ ロギーを破壊す る方 向に働 くとい う事実に焦点 をあて る。 この一見矛盾 した現象 は、 リア リズムそ のものが実は内部 に矛盾 を抱えた概念で あることを考慮 に入れ る と理解 しやす く なる。 ジュー ドは リア リズムが内包する矛 盾に内側か ら撰 を打 ち込み、その矛盾 を起動 さ せ て しま うのである。 しか もそれは、結婚制 度一 一女 を交換す るシステ ムー に対 する疑 問 と並行 して生起す る。 したがって、ジ ュー ドがい わゆる リア リズムー こ とばを純 粋客 体 とみ なす システム を崩壊 させ てい くプaセ ス と、結婚制度一 女 性を純粋客体 とみ なす システムー を否定 してい くプ ロセス とは、同 じ車軸の両輪 なのである。そ こに関与 して くるのは、近代 ブルジ 翼ワ ・イデオ ロギーの なかで 、男性 性がいかに規定 され るか と い う問題で ある。
バ ーデ ィにお ける文学様式 と男性 性のテーマ に関 して は、す でにい くつか の研 究がな さ れ ている。ペ ニー ・ブーメ ラは 『 ジ ュー ド』 を教 養小説 のスタイル を とった ブル ジ ョワ価 値観へ の攻撃 の書 とみ る。孤児ジ ュー ドが刻苦勉励 の苦学の末 に掴む のは階 級移動 の切符 ではな くさらなる肉体労働で しかない。個人主義 にも とつ いた実力主義 とい う物語 が家族 や 家庭環境 に恵 まれた 中産階級の人間に しか あて はま らない こ と、労働 者階 級には階級移 動 の可能 性はない ことが 、教 養小説 の形態 を借 りて暴露 されてい るとブーメラは分析す る2。
またこれ 以前 にす でにブーメ ラは 『ジュー ド』の三人称客観 描写の語 りとイデオ ロギー と の関係 について も論 じてい る。『 ジュー ド』では三人称 客観描写 が決 して公平には執行 され ていない こと、スーの内面が常にジ ュー ドの視 点を通 して し力描 かれ ないこ とを指摘 した のち、ブーメラは次の よ うに述べ る。r『ジュー ド』 は文学様式 としての リア リズム とい う 強力なイデオ ロギーに裂け 目を入れて打 ち割 ろ うと脅 しをかけ、語 る とい う行為 その もの を疑 問に付 したのだaと3。 本論考 ぱ彼女の この結論に修 正を加 えるこ とにな る。
エ リザベ ス ・ラ ング ラン ドは男性 性を論ず るの に階級 と性 の問題 を同時に扱 った。 ジュ
ー ドに とっての男 慶腔とは階級 とジェンダー による構築 物 であ り、彼は中産階級のパラダ
イムを 自らの男 らしさの準拠枠 と して設定す る。そ して 大人 にな りた くない少年 ジュー ド
は、男 らしさが要求 して くる束縛か ら逃れ よ うとして、スー 一 彼の文化 が禁 止する もの
一 一のなかに代替物 を見出 し、それを通 して自己実現を達成しようとしたのだ、とラング
象微交換 の亀 裂 一ジ ュー ドとリア リズム と 「右 い 革袋」45
ラン ドは述べ る4。
だが何 よりも男 瞳性の変容 と語 りの形式 を包括的 に論 じたのは、ティム ・ドリンだろ う。
ドリンはブーメ ラの教養 小説 に関す る分析 の上に さらに議論を重ね る。 ドリンいわ く 「リ ア リス トの物語において、男性 性は唯一 あるいは専 ら、登場人物の属性のみ に見 出され る わけではなかろ う。そ うで はな くて、語 りの形式 その もののなかに も見出 され るはずで あ る」5。 ジュー ドはブルジ ョワ倫理が定める男 掛 生の獲得 を 目指 したが、それ とは別 な男 にな るよ うに とのスーの要望 に応 えるべ く、男 腔性を模 索 して町か ら町 を彷程す るこ とに なる。 それに呼応 して、彼の人 生を語 る語 りの形 式 も、ひ とつの語 りか ら別 な語 りへ と一 一例 えば 、精神の遍歴 物語か ら、個 の職 業 ・ 教 育の物 語へ、その次 には結婚 のプロ ッ トへ と さま よい続 けるので ある。教 養小説 のよ うな従 来の十九世紀的小説が もって いた一 貫 性 ・連続 性が、 ジュー ドには拒否 され る とい う、一種 の 「 語 りのホー ム レス化J現 象が ある と、 ドリンは指摘す る。
このよ うに、男性 性と語 りの形式 を論 じた研 究は これ までに もな されてい るのだが、技 法 としての リア リズ ムにさ らに焦点 を絞 る とどうだろ う。 ドリンは上記の引用 中 紗 ア リ ス ト」 とい うこ とばを使 うのだが、『 ジュー ド』がそれの書かれた社 会を写 し出 していると い う程 度の意味で しか彼 は使 って いない。以 下、まず は 『 ジュー ド』が どの よ うに リア リ ズム(あ るいはモ ダニ ズム)と 結び つけ られ てきたかを当時か ら現代に至 る 『ジュー ド』
批 評に辿 ろ う。そのの ち、『 ジュー ド』 が実際 に どのよ うに リア リズム的であるのか、ある いは 『 ジュー ド』には どの よ うに近代 ブル ジ 召ワのイデ オ ロギーが浸透 してい るのか を探 る。 そ うするなかか ら(先走 りして言 って しま うと)、その リア リズムが内側か ら崩壊 して い く様 子も同時に浮 かび上 がって くるので ある。
2.『 ジ ュー ド』 批 評 に お け るrJア リズ ムvs.モ ダ ニ ズ ム 」
多数 の雑 誌 が 『ジ ュー ド』 を酷 評す る な か 、 『ウェ ス トミンス ター ・レヴ ュー 』 の 鉱E ハ ニ ガ ン は これ に好 意 的 な評 価 を与 えた 数 少 な い 批 評 家 の うち の ひ と りだ っ た。 「 人 生 の あ
り とあ らゆ る事 実 を 恐 れ る こ とな く扱 うこ とjsが 小 説 家 に とっ て の 権 利 で あ り、 『ジ ュー
ド』 で バ ー デ ィは そ れ を実 行 した と してハ ニ ガ ン は これ を評 価 す る。 た だ しそ の 評 価 理 由
の な か に 、 リア リズ ム あ る い はナ チ ュ ラ リズ ム7の 要 素 は な い。r彼 の 共 感 は 明 らか に フ ラ
ン ス の ナ チ ュ ラ リス トら と と も に あ る。 た だ し私 と して は 、彼 は ゾ ラ氏 や 故 ギ ・ド ・モ ー
46象 徴 交換 の亀裂 一ジ ュー ドと リア リズ ム とr古 い革 袋」
パ ッサン と同 じよ うな種類の作家 とは思えないのだが。 〈 中略〉彼の描 くmイ ンは現実生 活か ら引っ張って きた肖像画 とい うよ りは、理想 あるい は少 な くとも理 想化 され たタイ プ であ る。 したがって この程度 において、バーデ ィ氏 は世 間で い う下品 な意味 でのく リア リ ス ト〉ではない」8。も うひ とっ、数少 ない好意的見解 を発表 した 『 サ タデ イ ・レヴュー』
も、その評価理由はいわゆ る/ア リズム とは別 の ところにあ る。 「 誰 も敢 えて リア リテ ィの ことを ささや こ うとも しない」時代 にrこ れ以上 の親密 さはあ りえない とい うくらいの男 女の関係を、これ ほ ど扇情的 にならずに描いた小説 はほかにはおそ らくなか った」9とい う のが評 価理由であって 、この論 者に とって も 『 ジュー ド』が リア リズ ム的で あるとすれば、
それはせ いぜ い現 実を描 いて いるとい う程度 の意味にす ぎない。
それに対 して 『ジュー ド』 に批 判的 な書評 となる と、酵気に これ を リア リズムや ナチ ュ ラ リズム と結 びつけて攻撃す る気配 が強ま る。なかでも 『 フォー トナイ トリー ・レヴュー』
は、窮 女の[親密 な]闘 系をこれ ほど扇情的にな らずに描 いた小説 はほか にはおそ らくなか った」 とい う 『 サ タデ イ ・レヴュー』 の評者 に対す るあて こす りの ように、『ジュー ド』が そ うな ら同 じことばをゾラにも献 上で きよ う、 と辛辣な ことこの上 ない10。『 ナ シ ョナル ・
Vヴ ュー』の んJ.バ トラー も、『 ジュー ド』を 騙 った リア リズム」 と呼 んで非難す る。「 人 冊 性に関す るバーデ ィ氏 の知識 は明 らかに不完全 であるか、あ るいは、真 実のひ とつの側 面全体 を削除 して しま うとい うく リア リスティ ック 〉なイ 稼 には断 じて許 しがたい ことを して しまってい る」11。 多 くの人々が眉 をひそめた豚 の屠 殺描写に関 しては、不快な場面 を ユーモア に仕立 てよ うとのつ も りでフ ロベ ール やゾラを真似 た とすれ ばそれ は大間違いで あ り、それはユーモアで も何 でもない、 と非常 に手厳 しい。
ところが二十轡 己になる と、バーデ ィ文学 をモ ダニズム文学のひ とっ とみ る肪 が広ま る。 これはバーデ ィ自身の発 言の影響 がもちろん大きいだろ う。
芸 術 とは 、 単 に 写 生 した り 目録 風 に 報 告 した りした だ け で は 、 気 づ い て も らえ る こ とが あ っ た と して もお そ ら くは 見 過 ご され て しま うこ との ほ うが 多 い 、 リア リ テ ィの な か の 大事 な 特 質 を もっ とは っ き り見 せ るた め に 、 リア リテ ィ を変 形 させ る こ と一 つ ま り、歪 め た り、つ り合 い を崩 した りす る こ と一 で あ る。ゆ え に 「リ ア リズ ムJは 芸 術 で は ない 。iz
ピー ター ・ウ ィ ドウ ソ ンは これ をr彼 が モ ダ ニ ス トで あ る こ と を も っ と も予 告 的 に示 す 発
言 」13の 例 と して 挙 げ る。 あ る い はバ ー デ ィ には 次 の よ うな発 言 も あ る。
象徴 交換 の亀裂 一 ジュー ドとリア リズ ム と 沽 い革 袋」47
風景画 、つ ま り風景 を描 いたきれいな絵 一 一 など見たい とは思わ ない。 なぜ な ら リア リテ ィそのまま一一つ ま り、視覚 に映 じたその まま一 とい うの を私 は見た い と思わ ないか らである。私 は美 しい ものの根底に横たわ るもっ と深い ところの リア リテ ィを、抽象的想像物 とい うふ うに時々呼ばれ るものの表現 を、見たい と 思 うの蔦19
「 視 覚 に映 じた そ の ま まJで は な い 「もっ と深 い と ころ の リア リテ ィ」 とか 、あ る い は度 々 引用 され る と こ ろのr続 く頁 に書 か れ た感 情 は 、 ま さに 、 瞬澗 の 単 な る印 象 と して 述 べ ら れ た にす ぎ な い 」15とい っ た言 葉 を読 む と、バ ー デ ィ をモ ダニ ズ ム 文 学 に結 び 付 け る こ とは 当然 と思 え る し、そ れ はた しか に 正 しい 。
リア リズ ム は 近 代 ブ ル ジ ョワ と とも に発 達 して き た様 式 で あ るか ら、 二 十 世 紀 以 降 の 批 評 家 た ち に して み れ ば 、 バ ー デ ィ文 学 を ブル ジ ョ ワ家 父 長 制 に 対 す る積 極 的 批 判 と して 読 む に あ た っ て 上 記 の よ うな 発 言 は 大 変 に都 合 の よ い もの で もあ る。 た と えば ロー ズマ リ ・ サ ムナ ー の研 究ARoutetohfodernisrrl:伽 吻Lawrence,%o∬///は そ の タイ トル か ら して 、旗職 を魚糊 に して い る。 サ ムナ ー は 、 バ ー デ ィが リア リズ ム の 直 線 的 プ ロ ッ ト や 調 和 的 結 末 を 否 定 し、 無 意 識 や未 知 の も の に 関 心 を 寄せ た こ とを 重 視 す る。 そ して 特 に
『ジ ュー ド』 と 聴 の 劃 は カ オ ス の状 態 を カ オ ス の ま ま 含 み こむ こ との で き る物 語形 式 を生 み 出す こ とに 成 功 した 作 品 で あ り、そ れ はRレ ン スや ウル フに 通 ず るモ ダ ニ ズ ム の 表 われ なの だ と主 張 す る16。
しか し、バ ー デ ィを モ ダ ニ ズ ム に 結 び っ け た とこ ろ で 、 バ ー デ ィ文 学 か ら リア リズ ム 的
要 素 が減 ず る わ け で は な い。 豚 の 屠 殺 場面 の リアル さが減 る わ け で は な い し、 ス ー が 無 口
に な るわ けで も ない(リ ア リズ ム の特 徴 のひ とっ は会 話 体 の採 用に あ る)。ま た 時 と場 所 を
正 確 に限 定 す る こ とに よ る 『ジ ュー ド』 の 世 界 の は っ き り と した 現 実 味 が 、 薄 れ るわ け で
も な い。 そ して 何 よ りも困 った こ と に、 ブル ジ ョ ワ家 父 長 制 を もっ と も厳 し く攻 撃 す るの
は 『ジ ュ ー ド』 だ が 、 に の 小 説 ほ ど リア リズ ム に徹 した 作 品 は バ ーデ ィ の全 作 品 の 中に も
見 当た らな い」17。 とな る と 、我 々が や らね ば な らな い の は 、 『ジ ュ ー ド』 の リア リズ ム 的
な側 面 を リア リズ ム と して認 め た うえで 、 そ の手 法 で書 かれ た この 小説 が ブル ジ ョ ワ価 値
観 に反 旗 を翻 す こ とに な るそ の プ ロセ ス を解 き 明 かす こ とで あ ろ う。 そ の た め に は リア リ
ズム をそ の 原 点 に戻 って 吟 味 す る こ と も必要 とな ろ う。
48象 微交換 の亀裂 一 ジュー ドとリア リズ ム と 「 古い革 袋」
3.『 ジ ュ ー ド』 の リア リズ ム 的要 素
a)ジ ュー ドの言語観
『 ジュー ド』は どの よ うに リア リズ ム的、近代 ブル ジ ョワ的なのだろ う。 まず は少 年ジ ュー ドの言語観 を見てみ よ う。 ギ リシャ、 ラテ ン語の学習 に瞳れ るジュー ドが想像 す る言 語の あ り方 とは、 ことば と事物の厳密 な照応性 に支 え られ た、 ことばが純 粋客体 と して機 能す る状態で ある。ジ ュー ドは 「 ひ とつの言語の表現 を他 の言 語の表現 に置 き換 え る際に 必要 とな るプ ロセス」 を次 のよ うに想像する。
必要 とされてい る言語の 文法書は、概 ね、法則、規定、 あるいは秘密の暗号 を解 くカギ とい った類の手がか りを載せてお り、一度それ を知って しま えば、それ を あてはめ るだけで 自分の喋ってい る言葉を何 もか も思い通 りに、外国語の言葉に 変換で きると、彼 は考えた。 〈 中略〉必要 とされ る言 語の単語は、それ らを探 り当 て るワザ をもった者の手 にかかれば所与の言語の単語の どこか に隠れてい るのが 必ず見っか るのだ と彼 は想像 した。18
暗 号のよ うに解読 キー さえ知 っていれ ば、ラテン語 を じっと見っ めることに よってその単 語 に相 当す る英単語 がそ こか ら浮 かび上がって くるはず一 「外見上はま った く見 慣れぬ言 語 であって も、普 遍的 ・ 絶 対的な言 語規 則 ・意味が背後 に隠れてお り、解読 キー をあて は めれ ばそれ が表 に出て くるはず一 とジュー ドは考 えたので ある。そ してそれ を解読す る 際の準拠枠 としてジュー ドが想定 したのは、当然なが ら英語で ある。 ソシュール以降 の現 代 の我 々に とって はナイー ヴこの うえない言語観 である。
だが近代初 期、人々が ことさら 「 近代的で あるこ と」 にこだわった時期の言語 観はま さ
にこ うだった。十七世紀1中 葉 、 ド 科学者のあいだで、実験 を正確 に報告 した り伝 えた りす る
必要 性が次第 に意識 され るよ うになっていた。 〈 中略〉言謡 ま規則的で明確で厳密 で何 よ り
も曖昧であってはな らない、 とい う科学 者の要請 があった。 」十七世紀 の王立協会 は 「 不規
則 性、矛 盾、例外、非論理 陶 だ らけの言語 にか わるもの、す なわち 「 普遍言語」 を新 た
につ くり、近代 にふ さわ しい表象関係 を確 立 しようとしたのである19。「 普遍言語J計 画は
あま りに非現 実的で、結局頓挫す る。だがそ の言 語観 は小説 とい う新 たな文 学形 式に受け
継がれてい く。『 小説 の勃興』を著 したイ アン ・ワッ トはそのあた りのこ とを次の よ うに説
いてい る。 ギ 十七世紀後半の明晰で平易な散 文を唱導す る運動 が、 リア リスチ ックな小説の
文体 にあつ らえ向きの表現様式 を生み 出すのに、かってな く貢献 した」2。 。時代 が要求 した
象 徴交換 の亀裂 一 ジ.Lド とリア リズ ム と 四 露い 革袋一49
の は 鴎 物につ いての知識 の伝達}21に 役立っ言語だ った。その結果r小 説にあっては、ほ かの どの文芸形式 よ り、言語の機能はは るかに指示的 性格を」麗もっ よ うになった。 これが
リア リズム とノ 援艇 生の背景である。
少年 ジュー ドの言語観 もま さに、 この リア リズム的言語観 、言 語の指示 的機能 に絶 対の 信頼 を置 くものである。何 も知 らない少年 ジュー ドは、 ことば と事物 は普遍 的に照応 し、
したが って ラテ ン語 のシステムは英語のシ ステ ム とr!対1」 対応 であって決 してずれ る ことは ない と思 い込む。 そ うでな ければ 解 読 キー」 は機能 しない。 そ こにジュー ドの将 来の蹟 き(と 新 たなる 自己の探求の始ま り)が 潜在 している。結 論めいたこ とを先 走って 言 うな らば、言語 の性質を見誤 っていた ジュー一ドが 自分 の過 ちに気づき、英語の システム を特権化す るこ とな く、ラテ ン語の言語体系 を白紙 の状態 か ら学習 してい くプロセ スは、
の ちに、 「 女」 「 結婚 」の意 味が固定化 し うるもの ではないこ とに気づ き、 自らの価値観 を 改 めてい くプロセ ス と同 じものであ る。 もちろん 、後者 のほ うがはるかに破壊 的かつ創造 的力 を持っので あるが。r女 」r性戸 ジ ェンダー戸 結婚」 といったこ とばが家父長制 と共 謀 して長年擁 してきた規律 性 ・ 厳 密 陸 ・ 排 他的表象 性を疑 うこ とは、必 定、こ とば と事物 の照応性を重視す るブルジ ョワ ・リア リズムに真 っ向か ら反 対す ることにな るの蔦
b)禁 欲 主 義 的 リア リズ ム
『ジ ュー ド』は どの よ うに リア リズ ム的 な の か 、二 点 目に移 ろ う。女 性の 濡 れ た 身 体 と、
女1生が 脱 い だ 衣 服 とい うエ ロテ ィシ ズ ム の 可 能 性 を高 度 に秘 め た対 象 をバ ー デ ィ は ど う描 くか 。実 の とこ ろ 、『ジ ュー ド』 に お い て は リア リズ ム と禁 欲主 義 とが一 体 化 して い る様 子 が伺 え るの 蔦 こ こで は 『ジ ュー ド』 に 失 望 の 意 を露 わ に した 『フ ォ ー トナイ トリー ・レ
ヴュ ー 』 の評 者K積 テ ィ レル に倣 っ て 、類 似 す る二 つ の場 面 を比 較 して み よ う。 テ ィ レル は 『ジ ュー ド』 を断 罪す る の に 、 も う一 つ 別 な 小 説 を持 ち 出 して くる。 そ れ は 『 青 い瞳1 か らの 揚 面Sル フ リー ドが 脱 い だ 下 着 で ロー プ を作 り、断 崖 に しがみ つ くヘ ン リー ・ ナ イ トを死 の 淵 か ら救 い 出す 場 面 一 で あ る。 テ ィ レル い わ く、以 前 のバ ー デ ィは 「[フラ
ンス 文 学 に 与 しな い 人 々 の]良 心 を 目覚 め させ る こ とな く フ ラ ン ス の淫 乱 に で き る限 り近 づ くの に 、卓 越 した 才能 を示 した 」%。 フ ラ ン ス 文 学の 真 似 を しよ うとす る作 家 に は 断 固反 対 だ が 、 バ ー デ ィ は少 な く と もそ れ を気 づ か れ ず にや る才 能 を も っ て いた とい う、半 ば皮 肉 ま じ りの 賞 賛 で あ る。
危 機 を脱 した 興 奮 に我 を 忘 れ て 互 い を抱 擁 した の ち 、エ ル フ リー ドの 姿 に今 は じめ てナ
イ トは 目 をや る。 ナ イ トの 前 に 立 つ エ ル フ リー ドの 姿 を語 り手 は次 の よ うに伝 え る。
50象 徴 交 換 の 亀 裂 一 ジs一 ドと リ ア リズ ム とrr:iい 革 袋 涯
彼 は しぶ しぶ 彼 女 を離 す とそ れ か ら、彼 女 の頭 の先 か らっ ま 先 ま で 、 ず っ と 目を や った。 彼 女 は 幼 い こ ど もの よ うにや せ て 見 え た。 彼 女 が ど こか らmプ を手 に 入 れ た の か 、彼 は 理解 した の だ 、
〈中 略 〉
この 風 雨 の な か で 、樋 毒の 、 上 に 羽 織 る ロー ブ も しく は 「 服 」 を の ぞ い て 、 エ ル フ リー ドは ま っ た く何 も身 に ま とっ て い な か った 。 女 の 機 転 で 扉 が 作 られ 、 そ し て 出 口を 見 出 した の だ っ た。 ナ イ トが 目の く らむ よ うな 斜 面 に よ りか か っ て死 を 待 つ 問 、 土 手 の影 で 彼女 は 着 て い る もの を す べ て 脱 ぎ、 上 に 着 る ボデ ィ ス とス カ ー トだ け を着 け た の 芯 あ との残 りは 一 糸残 らず す べ て 、 毛 と綿 のmプ とな っ て地 面 に横 た わ って い た。
〈 中賂 〉
そ して 彼 女 は激 し く打 ちつ け る雨 の な か を 、 野 兎 の よ うに 、彼 の も とか ら走 り去 っ てい っ た。 あ る い は、 尾 を垂 れ て遡 掴 りな が ら、飛 び 立 つ 気 が あ るの に 飛 ば な い維 の よ うに。 エ ル フ リー ドは す ぐに 見 え な くな っ た。
〈 中略 〉
彼 は 結 ん で 繕 られ た 、亜麻 布 、 レー ス 、束繍 飾 りの彼 女 の 羽 衣[p!umage]を 拾 っ て 腕 にか けた。24
テ ィ レル は この場 面 の あ らす じを述 べ るに と どま り、細 か な分 析 は 一 切 行 わ な い が 、 何 憐.
に書 か れ た場 面 とい う彼 の 言 葉 か らは バ ー デ ィへの あ る一 定 の賞 賛 が読 み 取 れ る。
た しか に これ は バ ー デ ィ特 有 の シ ンボ リズ ム が織 り込 まれ た 、 の ち の 『テ ス 』 を彷 彿 と させ る部 分 で あ る。 恥 ず か しげ に 走 り去 るエ ル フ リー ドは維 に た とえ られ 、mプ 状 に撚 られ た彼 女 の 下着 はp!umage'嶋 の羽 毛)と 形 容 され る。鳥 が羽 毛 を全 部脱 ぎ捨 て 、 あ とに̀演 膿age"を 残 して 走 り去 る。 しか もそ の̀plumageは 女 の 手 で 結 び 目が 作 られ 、 繕 られ て人 間 界 の 品 物 に な っ て い る。 飛 び た い の に飛 べ な い の は、̀plumage"を あ とに残 して き て しま っ た か ら。 ま る で 世 界各 国 に 散 らば る羽 衣 伝 説 の天 女 を想 起 させ る。 そ して 天 女 の よ うに、羽 衣("plumage")を ナイ トの腕 に残 して しま った エ ル フ リー ドは これ 以 降 ナ イ トに捕 らえ られ て しま うの で あ る。 裸 の 女 体 を 描 く こ と な く 、エ ロテ ィ シ ズ ム をや わ らか く醸 し出す 。 女 性 の柔 らか さ と、 か よわ さ と、 は か な さま で を も描 き き っ た 文 章 と言 え よ う。
テ ィ レル が この 場 面 を 引 き合 い に 出 した の は 、『ジ ュー ド』 が い か に そ れ ま で の バ ー デ ィ
象 徴交換 の亀 裂一 ジュー ドとリア リズム と 「 古い 革袋」51
の作品 と違 うかを示すためである。だが、『 ジュー ド』 をゾラに結 びつ けて攻撃す る彼の理 論 はここで ほころび を見せ始 める。 下宿 の場 面一 学校を飛び出 して きたスーがジ ュー ド の下宿 に逃げて くる場 面一 を紹介 しなが ら、彼 は次 のよ うに認 めざるを得ない。「 読 者は、
『 青い劇 の非常 にそそ られ る、非常 に鮮や かな絵 を我 々の前に描 き出 したあの巧妙な筆 遣い を、『ジュー ド』 に見つ けることはないだ ろ う戸 。 下宿の場面になん ら狸 褻 さを見出 せずに、テ ィレル は 『 ジュー ド』 を攻撃す るた めの材料 を、 「 ガ リア気質」肪と彼が呼ぶ と ころの慎み のな さに求 める。そ して、そ の具体例 として豚 の 陸器 を投 げつけるア ラベ ラの 挑発行為やスーの男た ち との同棲生活 の事実 を挙 げるのである。 ここで注 目したいのは、
下宿の場面にテ ィレル が何 らr淫 らな」要素 を見 出さなか った点である。 「 フランスのイ 稼 だった らきっと、 この場面 を思わせぶ りなものに しよ うとしただろ うが、バー デ ィ氏はそ れを しなかった とい うこ とは認め よ う」貿 。テ ィレルやそのほかの批評家た ちの通常の論 理 に従 うな らば、 ゾラの流儀 に従って ここぞ とばか りに 「 淫 らな」描 写を したはず だが、そ
うはなっていない。
た しかに同 じモテ ィー フー 女の濡れた身体 と、女 の脱 いだ衣服一 を扱 っているにも かかわ らず、下宿の この場面には批評家た ちが こぞ って非難 する類 の 「 淫 らさJは 一片 も ない。 それ どころカ\ 禁欲的な雰囲気 さえ漂 う。 しかもそれ が、 リア リズム的 な要素 のも とに生み出 されるのであ る。 語 り手は三人称客観 描写 に徹 し、 自らの存在 を消 し去 る。 ス ー が階段 を上がって くる前か ら 、すべては ジュー ドの視 薫を通 して語 られて いた 「 簡 単 に入 れるの を知 っていたので、ジュー ドは待 ったJ「彼女が 自分の ところに逃 げてきた と い う思 いに胸 が高鳴った」 「 何 と似 た者 同士なのだ ろ う!」 「 彼は部屋の ドアの掛 け金 をは ず した」(137,III‑iii)と い う具合 に、視 点の一貫 性が保たれ る。すべてはジ ュー ドの意 識 を中心 に して起 こり、ジュー ドの意識 を通 じて見 られ る。そ して続 くのが以下の件で あ る。
彼 ば 近寄 り彼 女 の 手 を と った 。 そ して 彼 女 が海 の 女 神 の よ うに 冷 た く じっ と りと して 、 服 はパ ル テ ノ ンの フ リー ズ 像 の ま と って い る ロー ブ の よ うに 、 彼 女 の 身 体 に ぴ っ た りと くっ っ い て い る の に彼 は気 づ い た(!37‑!38,III‑iii)
脈 打っ温か な肌 のエル フ リー ドとは好対照 をな し、冷 たい大理石でできた身 体 としてスー は立っ。女の濡れた身体 が、ここでは硬質の冷たい無機的な ことばで綴 られ る。
女が服 を脱 ぐとい う危険 な行為 も、『 青 囎 劃 と違って読者の想像 に委ね られ ることはな
い一一す なわ ち無限 にエ ロテ ィ ックになるこ とはない。 なぜな らば、スーが服 を脱 ぐとい
52象 徴 交換 の亀 裂一 ジコー ドとリア リズム と 「占い革袋」
う事実 は二人 の会話 を通 して伝 え られ るため、読者は窃視症的 な孤独 な楽 しみ の機会 を完 全 に奪われ るか らであ る。
「 着 て い る もの を全 部 脱 が な けれ ば!」 〈 中略 〉 撲 の服 を着 な けれ ば な らな い よ。 構 わ な い か いJ fええ 、 も ち ろん 」
「 僕 のQ曜 日の 洋 服 だ 、 ほ ら。す ぐこ こに あ る」。 事実 、 ジ ュー ドの 一 間 の 下宿 で はす べ て が近 くに あ っ た 、そ うす る よ りほ か に余 裕 が な か っ た の で。 彼 は 引 き 出 しを 開 け 、一番 上 等 の 黒 い スー ツ を取 り出 し、サ ッ とふ る い な が ら言 った 。「さて 、 どれ ぐ らい かか るか い 」
「 十 分 でい い わ」(!38,III‑iii)
続 く場 面 で彼 が 部屋 に 戻 る とす で に 、ス ー は ジ ュー ドの服 に着 替 え て い る。 上記 の 会話 が 交 わ され る間 、語 り手 は 偲 わせ ぶ りな 艦 写 を加 え る どこ ろ か 、無 味 乾 燥 な 事 実描 写 に徹 す る σ事 実 、 ジ ュー ドの 一 間 の 」 以 下 の ふ た つ の 地 の 文)。 あ た か も、想 像 力 が 勝 手 に働 く こ とを 阻止 す る かの よ うに、 こ とば の 指 示 的 機 能 だ け が発 揮 され る。
脱 ぎ捨 て られ た 女 の 衣 服 は そ こ に ない 女 性 の裸 の 身 体 を想 起 させ るが ゆ えに 、 高 度 に エ ロテ ィ ッ クな モ テ ィー フ とな り うる はず で あ る。 とこ ろ が 、 ス ー の濡 れ た 衣 服 は 、 ス ー の こ とば どお り ヂ た だの 女 性の 洋 服 、性 の な い布 切 れ 」(!38,III‑iii)に す ぎ な い。 ジ ュー ド で す らも心 惑 わ され る どこ ろ か 、妙 に科 学 的 な解 釈 を加 え る一 一rそ れ らは ま だ ま だ 乾 い て い なか った 。 厚 い 毛 の ガ ウ ン とい うの は大 量 の水 を含 む もの で あ る とい うこ と を、 ジ ュ ー ドは知 った 。 そ こで 彼 は再 びそ れ らを か け て 、火 を もっ と大 き く燃 や し、 服 か ら立 ち上 る蒸 気 が煙 突 に上 が って い くの を じっ とな が め た 」(140,III‑iv)。 か つ て 、 「 男 に と って 服 は外 側 、 け れ ど女 に とっ て彼 女 の 服 は 身 体 の一 部 〈 中 略 〉 女 の服 に は 感 覚 が か よ う」 墾
とま で書 いた バ ー デ ィ の筆 を考 え る と、 エ ロテ ィシ ズ ム の 発 現 をわ ざ と抑 えた よ うな、 禁
欲 的文 章 で あ る。 言 え る の は 次 の こ とで あ る。 す な わ ち、 この 場 面 をバ ー デ ィ の ほ かの 小
説 と並置 した場 合、 この場 面 の リア リズ ム 的 要 素 と不 自然 なま で の 禁 欲 的 な雰 囲気 が際 立
つ。 それ は 、エ ロス の 可能 性 を 許 さな い とい う意 味 で 禁 欲的 で あ り、バ ー デ ィ の 自由 な筆
の 運 び を許 さな い とい う意 味 で 禁 欲 的 な の で あ る。 ブ ル ジ ョワ の禁 欲 主 義 と文 学形 式 を額
面 どお りに遂 行 した の が 、 この 場 面 で あ る。
象徴交換 の 亀裂 一ジ ュー ドと リア リズム と 「古 い革袋 」53
c)男 性 ホモ ソーシャル 性
三っ 目の リア リズム的要 素は、 この小説世界 を支配す る男性ホモ ソー シャル 性の原則 で あ る。男性 ホモ ソー シャル 性の原則 は、直接的には リア リズム とのつ なが りは薄 いよ うに 見 えるか も しれ ないが 、両者 は ともに近代ブルジ ョワ的価値観 に依拠 してお り、これか ら 見 るとお り表裏の関係 にある。『ジュー ド』には二つ の レベル において男性ホモ ソーシャル 性 の原則 が見 られる。ひ とつは語 りの構造 にお いてで あ り、そ こではジ ュー ドの近代的 「 働
の成立 にこの原則が力 を貸す 。 もうひ とつは物語の レベルにおいてで あ り、ジュー ドの男 性 性確立の物 語が教養小説 のかたちを借 りて変奏 され る。
イギ リス ・リア リズムの一つの糊 致として 「 共感 による一体化」29が挙げ られるが、『ジ ュー ド』で はそれが特 に効果 的に成 立 ・ 解 消 されてお り、それがジ ュー ドの孤独な個 を確 立 させ るのに一役 買っている。
ほんの一瞬 、ジュー ドに真 の啓蒙が もた らされた一 一 この石切場 こそ、 もっとも 高貴 なる大学で学 問的探求 とい う名 に よって権威づ けられてい るもの と同 じくら い に、尊い努力 の営みの中心なのだ。だが以前か らの考 えに押 されて彼はそれ を 見失 って しまった。前 の雇 い主の推薦 を もとに もらえる仕事だ った ら何で も請 け よ う一 た だ し当座 の間に合わせ として。 これが、落 ち着 きのな さとい う現代の 悪習 と して彼 が とったかた ちだっ蔦(79,II‑ii)
語 り手 の 声 が熱 に うか され た か の よ うな ジ ュー ドの 声(「 も らえ る仕 事 だ っ た ら何 で も請 け よ う一 た だ し当座 の 問 に合 わせ と してJ)と 重 な る の が 聞か れ る。 と ころ が最 後 の 一 文 に お い て 、 そ の 一 体 化 が 突 然 崩 れ る。 語 り手 は ジ ュ ー ドを 離れ 、 ジ ュー ドの 審 判 とな る一
「 これ が 、落 ち着 きの な さ とい う現 代 の悪 習 と して 彼 が とっ た か た ち だ った 」(""Thiswas hisformofthe搬odernviceofunrest.")。 生 れ 落 ち た環 魔 に満 足 せ ず 、 外 の 世 界 へ
の脱 出 を試 み る若 者 た ち は 数 多 くい た の で あ り、語 り手 は そ うした 若者 の 態 度 を 槻 代 の 悪 習 」 と呼 び 、 そ の な か の 一 人 と して ジ ュー ドを数 え る。 そ の意 図 が ジ ュ ー ドの ナ イ ー ヴ さを批 判 す る こ とで あ ろ う と、 あ る い は 中産 階級 読 者 に お もね る こ とで あ ろ うと、 い ず れ にせ よ語 り手 の突 然 の 離反 は 、 ジ ュー ドの 疎 外 され た 立 場 を 強 調 す る。
だ が 、 そ うした 語 り手 の 突 然 の離 反 を も無 効 に して しま え る よ うな 、 強 い 絆 が 、 ジ ュ ー
ドと語 り手 の 聞 に は 存 在 す る。 それ は 、 スー を犠 牲 にす る こ とに よっ て 可 能 とな る絆 で あ
る。 語 り手 は 「 共 感 に よ る一 体 化」 を ス ー に対 して 実 行 す る こ とは 一 度 た りと もな い 。 語
り手 が ス ー の 内 面 を語 る こ と は一 切 な く、そ れ が ス ー を エ ニ グ マ の ま ま に 残 す 。 語 られ る
54象 徴交換 の亀 裂一 ジュー ドとリア リズム と 「 古 い革袋 」
の は エ ニ グマ テ ィ ッ ク なス ー に 当惑 す る ジ ュー ドの 内 面 の み で あ る。 ブ ー メ ラの こ とば を 借 りる と、 「 あ る意 味 、彼 女 に 関す る読 者 の知 識 は、 ジ ュー ドの知 覚 的 意 識 を通 して の み 存 在 す るj30。 結 果 と して、 読 者 は ス ー に 対 す る疎 外感 を ジ ュー ドと共 有 す る こ と とな る。 こ の こ とは別 の 肪 をす る な らば 、 ジ ュ ー ドの 融 納 面 世 界 は 、 ス ー 備 麹 上 に成 り立 つ とい うこ とに な ろ う。 スー の声 を 奪 い 、 ス ー を 犠 牲 に す る こ とに よ って 、 ジ ュー ドの 疎 外 感 は読 者 に とって 一 層 理 解 可能 な もの とな る。 女性 を 客 体 化 す る こ と に よ り、 ジ ュー ド
と読 者(ブ ル ジ ョワ社 会 の読 者)の 間 に 共 謀 関係 が あ らた めて 成 立 す る ので あ る。 ジ ュー ドの孤 独 な個 そ の も の が 、女1生を 媒 介 と した 男 同 士 の ホ モ ソー シ ャル な 関係 の なか か ら創 造 され て い くの で あ る。
一 方 、物 語の レベ ル に お い て 男 性 ホ モ ソー シ ャル 陛の 原 則 は 、教 養 ノ 矯 卜 一 リア リズ ム 文 学 の一 形 態 一 と して 表 れ る。 「 大 人(㎜)に な りた くな い 」(12,hi)と 願 う少 年 ジ ュー ドが それ で もな お 人生 と折 り合 い をっ けね ば な らな い とき 、彼 は学 校 教 師 フ ィ ロ ッ トソン との絆 に しがみ つ く。 フ ィ ロ ッ トソン に 績 マ ンテ ィ ッ クな親 密 さ」(41‑i)を 感 じ る こ と の な い 昼 間 の 生徒 た ち と違 っ て 、 ジ ュー ドは大 学 町 に去 っ て い っ た師 を懐 か しみ 、 吹 く風 に こ う語 りか け る一 「きみ は 一 時 間か 二 時 間前 に は ク ライ ス トミン ス タ ー に い た ん 蔦 通 りを 吹 き抜 け 、風 見 鶏 を 回 し、フ ィ ロ ッ トソ ン先 生 の顔 に触 れ 、先 生 の息 に吸 い込 ま れ 、 そ して 今 きみ は ここ に いて 、僕 の 慰に 吸 い 込 ま れ る。きみ 、ま さに 同 じき み が」(17,1‑iii)。
フ ィ ロ ッ トソン に 対す る尊 敬 と思 慕の 情 は 、彼 が 代 表 す る(と 少 年 ジ ュー ドに は 思 え る)「さ ら に も っ と思慮 深 く精 神的 に光 り輝 い て い る人 々 」(16,1‑iii)一 一 す な わ ち学 問 の府 とい
う男 性 権 力 中枢部 一 に 対 す る憧 れ で あ る。
興 味深 い こ とに少 年 ジ ュー ドは 、 フ ィ ロ ッ トソ ンへ の 思 慕 の 情 をr女 陶 に 迂 回 させ る こ とに よ っ て 、 フ ィ ロ ッ トソン との 男 同 士 の 絆 を 「 女1を 介 した 三 角 形 へ と変 形 させ て い く。 「 そ の人 の もっ 知 識 と 目的 ゆ え に彼 が 多 大 な尊 敬 の念 を払 って い る男性 が そ こに住 ん で い る とい うた っ た ひ とっ の事 実 に よっ て 、 そ の 町 は この 手 で 触 れ られ る もの 、 永 遠 、彼 の 人 生 を 支配 す る もの 」(16,1‑iii)と な り、 ク ライ ス トミンス ター は 少 年 の 想 像 の世 界 にお い て ひ とつ の人 格 女 性 と して の 人 格 を も ち は じめ る。 それ は恋 人 で あ る か も しれ な い し
σ彼 は ク ラ イ ス トミ ンス ター に対 して 大 層 ロマ ンテ ィ ッ ク な愛 着 を抱 く よ うにな って い
た た め 、 ま るで 自分 の 恋 人 の 名 を 口 にす る若 い愛 人 の よ うに 、 そ の名 前 を再 度 言 うの に恥
ず か しさを感 じた」(18,1‑iii))、 あ るい は 母 で あ るか も しれ な い(「 僕 は彼 女 の 愛 す べ き
息 子 に な ろ う」(32,1‑vi))。 少 年 ジ ュー ドに とっ て ク ラ イ ス トミ ンス ター は ほ とん ど実 体
を もた ない(「 べ 一 ル の よ うに霞 に包 まれ 」(16,1‑iii)、 「 幽 か な 光 輪 、 小 さ くお ぼ ろ げ な
譲 の よ うな もの 」(68,1‑xi))が 、 フ ィ ロ ッ トソン との 絆 を確 認 す る媒 介 と して は それ で十
象微 交換の 亀裂 一ジ ュー ドと リア リズム とr叢 い革袋 」55
分 な の 瀧 夜 の 闇 に浮 かぶ そ の 「 女 幽(ク ラ イ ス トミン ス ター)の 灯 を 一 目見 る た め な ら ば 、 ギ 巨人 や 狩人 ハ ー ンや 悪 魔 ア ポ リュオ ン」(16,1‑iii)等 々 に 追 い か け られ る子 ど もっ ぽ い 恐 怖心 を お さえ て 、 欄 違 い な く、気 持 ち に ち ょっ とば か りの 男 ら し さを加 え る こ とが で きた 」(17,更づiDの で あ る。 誰 に教 わ る で もな く、 少 年 ジ ュ ー ドは 近 代 に 生 き る男 性 の と るべ き道一 女 性 を介 した男 同士 の絆 を結 ぶ こ とに よっ て 男 腔 性 を確 立す る道 一 を歩 み 始 め て お り、 盤 小 説4代 に生 き る彼 の 姓 輔 くの に 翻 の ス タイ ル を灘 七 た とい
うわ け だ』
そ ん な ジ ュ ー ドが ク ラ イ ス トミン ス ター を 目指 して知 識 を貯 え るの は 、 「 ホモ ーエ コ ノミ クス 」た る ロ ビ ン ソ ン ・クル ー ソー が モ ノ を貯 え るの に似 る。近 代 人 クノレー ソー の哲 学 は 、 孤 島 に あ っ て も変 わ りは しな い。
だ が 、 何 に も ま して 彼[ク ノ レー ソー]が 深 い満 足 感 を覚 え る の は 、貯 えた 品 物 を眺 め る と きな の 蔦 「 何 で あれ す ぐ手 近 の とこ ろ に用 意 した 」 そ う彼 は 言 う、rす べ て の 物 が こん な に き ちん と整 理 して置 いて あ り、 と くにす べ て の必 需 品 の貯 え が 沢 山 あ るの を 目に す るの は 、格 別 の 喜 び だ っ たJ31。
同 じよ うに、 我 々 は 、 ジ ュー ドが これ ま で に 読 ん だ 本 を夢 中 に な って リス トア ップ す る の を闘 く。 破 を本 当 に夢 中 に させ るひ とつ の こ とは 、 これ ま で の 自分 の進 歩 を頭 の な か で見 積 も り して み る こ とだ っ た」(31,1‑vi)。 「 で もや っ ぱ り、 言 語 は た った ひ とつ な らい い の に」(311‑vi)と つ ぶ や くジ ュー ドの 臼 をつ い て 出 るの は 、古 典 に 対 す る情熱 や 批評 で は な く、 将 来 獲碍 す る だ ろ う幸晒 田金 額 の細 か な 数 字で あ る。 カ ネ の ない ジ ュー ドに とっ て知 識 こそ が 資 本 で あ り、そ の 資本 を蓄 積 す る こ とが 立 身 出 世 の 手 段 で あ る。 とな る と、 読 み 終 えた 本 の 文 献 目録 は彼 の財 産 目録 で あ り、想 像 上 の 報 酬 金 額 は 収 益 見 込 み な の で あ る。 ま るで ロ ビ ン ソ ン ・クル ー ソー が 南 イ ング ラ ン ドを歩 い て い るか の よ うな、 ブ ル ジ ョワ感 覚 に彩 られ て い る。 しか も一連 の これ らの 思 考 を、 語 り手 はモ ノmグ とい うも っ とも直 接 的 で リア リズ ム に徹 した 手 法 で伝 え るの で あ る。 た だ しジ ュー ドに と っ て不 幸 な こ とに 、 ジ ュー ドの 「 辞 書 」はr努 力 」 の 意 昧 を 「 立 身 出 世 」 との み 記 して あ っ て 、そ こ に は 「 申産 階 級 で あれ ば」 とい う肝 心 の 但 し書 きが 抜 け落 ちて い た 。 こ の先 の ジ ュー ドの人 生 は 「 努 九 が 位 身 出 地 を意 味 しな い こ とを 学ぶ た め に費 や され るの で あ る。
とこ ろ が交 換 財 と して の 「 女ICJが 生 身 の 身 体 を伴 っ て表 れ る と、 ジ ュー ドの男 性牲 は
脅 威 に さ ら され る。 た ちま ち の うち にジ ュー ドは 、生 活 の糧 を求 め て男 を漁 る ア ラ ベ ラ に
捕 ま っ て しま う。 た だ し、 ア ラベ ラが ジ ュー ドに与 えた 怯 勢 」 の影 響 は 限 定的 にす ぎ な
56象 徴交 換の 亀裂 〜ジ ュー ドと リア リズ ム と 「 古 い革 袋」
い。 む しろ ジ ュ ー ド自身 は彼 女 との 経 験 を男 性 陸獲 得 のた めの ステ ップ と して 肯 定 的 に受 け入 れ て い る節 もあ る。 ア ラベ ラ が オー ス トラ リア へ 去 っ た あ と、 ジ ュー ドは こ うつ ぶ や く。 僕 は男 だ 妻 が い る。 そ の うえ 、彼 女 と意 見 を違 え て 、嫌 い に な り、 取 っ組 み 合 い を や っ て 、彼 女 と別 れ る とい う もっ と大 人 の段 階 に まで 来 た ん だ 」(67,1‑xi)。 嬰 っ た妻 を 不 要 の もの とす る こ とに よ って 男 性 性は さ らに増 す のだ とい う、女 性 を完 全 に客 体 化 す る 男 性 中 心的 思 考 に 、 ジ ュー ド自身 も慰 め を 得 て い る こ とが伺 え る ので あ る。
ス ー に 対 して も最 初 ジ ュー ドは 、彼 女 が男 性 権 力 に通 ず る導 管 とな っ て くれ る こ とを期 待 す る。 始 め て ス ー の 姿 をみ た と き 、 ジ ュ ー ドは 「 彼 女 の 身 体 の 回 りに興 味深 く素 晴 ら し い 白昼 夢 を 織 り」(83,II‑ii)、 彼 女 に よ っ て 自分 は よ り高 次 の世 界 門 男性 権 力 の 中枢 一
→ こ誘 わ れ る の だ と想 像 す る。 た と えば 、r彼 に とっ て彼 女 は優 しい 星 、 自分 を高 めて くれ るカ 、 国教 会信 仰 の友 、優 しき友 人 に な って くれ るは ず」(84,II‑ii)、 「 社 会 的 ・精 神 的 可 能 性の 両 方 を 与 え る こ とを約 束 して くれ る投 錨 場所 」(86,II‑iii)と い うふ うに。 だが 、ス ー の女 性姓 は ジ ュー ドに よ っ て 客 体化 され る こ と を拒 否 す る。 後 に述 べ る とお り、 そ れ が ジ ュー ドの男 性 性 を揺 る が し、 さ らに は この 小 説 世 界 の ジ ェ ン ダー ・シス テ ム を揺 さぶ る こ とに な るの で あ る。
4.革 命 的 力 と して の リア リズ ム
リア リズ ム 的 要 素 を ほ か の どの 小 説 よ りも多 く含 ん だ 『ジ ュー ド』 が 、 ほ か の どの小 説 よ りも激 し くブル ジ ョ ワ ・イ デ オ ロ ギー を攻 撃す る。 こ の一 見 矛盾 した現 象 の説 明 は 、 リ ア リズ ム の概 念 そ の もの の な か に 求 め られ る。 す な わ ち リア リズ ム とは元 来 相 反 す る特 徴 を内 包 した 概 念 なの で あ る。 ジ ュー ドは リア リズ ム に 内在 す る矛 盾 を 、起 動 させ た にす ぎ ない 。 この こ と をい った ん リア リズ ム とい う概 念 を そ の発 生 時 に遡 っ て確 認す る こ とに よ って 考 え て み た い。
ま ず 、 先 に あ げた バ ー デ ィ の 「 〈 リア リズ ム 〉は 芸 術 で は な いjと い う発 言 を考 えて み よ う。 「 芸 術 とは 〈 中略 〉 リア リテ ィ の な か の 大 事 な 特 質 を もっ とは っき り見せ るた め に 、
リア リテ ィ を変 形 させ る こ と一 つ ま り、 歪 め た り、 つ り合 い を崩 した りす る こ と」 とい
う考 え方 は 、 ウ ィ ドウ ソン も指 摘す る とお り 詑、フ ォル マ リズ ム に通 ず る もの で あ る。 ヴィ
ク トル ・シ ク ロフ ス キ ー は トル ス トイ を 引用 しなが ら 俳 β常化 」 「 非 親 和 化 」 の概 念 を次
の よ うに説 明 す る。
象徴 交襖 の 亀裂 一ジ ュー ドとリア リズム と 沽 い 嬉袋 」57
「 部屋 のなか を拭 き、それ か ら周 囲を歩 きまわって ソフ ァのそばに近づ くと、わ た しは も う、 ソファを拭 いたのだ ったか拭 か なか った のか も思い出せ なかった。
〈 中略〉 わた しが拭いて、その こ とを忘れ て しまったのな ら、っま り無意識の う ちに行動 したので あった と した ら、それ はなに もしなかったの と同 じことに ちが いない。 〈 中略>」(レフ ・トル ス トイ の1897年2月29日 の 目記のメモ)
か くして生活 はなん らなすすべ もな く消失 して ゆく。 伸 略〉
それだか らこそ、生の感覚 を回復 し、事物 を意識 せんがために、石を石 らしくす るために、芸術 と名づ け られ るものが存在 す るのだ。 知 ることとしてではな しに 見 ることとして事物 に感覚 を与 える ことが芸術 の 鼠的であ り、 置常的 に見慣れた 事物を奇 異な もの と して表現す る〈非 欝常化 〉の方法が芸術の方法であ り、そ し て知覚過程 が芸術その もの の 濤的であるか らには、その過程 をで きるか ぎ り長び かせねばな らぬが ゆえに、知覚 の困難 さと、時聞的な長 さとを増大す る難解な形 式の方法が芸術の方法で あ り、芸 術は事物 の行 動を体験 ナる仕方であ って、芸術 のなかにつ くりだ され たものが重 要なのではない とい うこ とにな るのであ る。お
バーデ ィの言 う 「 リア リテ ィを変形 させ る こと」 とは、シク ロフスキーの言 う 舶 常的 に 見隈れ た事物 を奇異 なもの として表現す る」 ことに相 当す ると言えよ う。
ただ しここで注意 してお きたい のは 、ギ 非 艮常化」を説 明す るにあた って、シクロフスキ ーが トル ス トイを引用 してい るこ とである。人間の創造的行為を志向するフォルマ リズム と、外界 の事物を描写す るテ クニ ソク としてのみ考え られがちな リア リズ ム との、見 えな いつなが りが、 ここにみて とれ る。 そのこ とを直戴な表現でま とめて くれ てい る文章 が柄 谷行 人の 『 定本 日本近代文学 の起渕 にある。柄 谷は近代 置本人の 内面確 立のプ ロセ ス を 「 非 日常化 」の概 念 に依拠 して説 明 し、その際 トルス トイを 「 リア リズ ム」 とい うカテ ゴ リーに置き換 える 鈎 。それ によって柄谷は、リア リズムが近代人の内面確 立に果 た した役 割を胡 助 ・ っ一層 わか りや すいかた ちで示 すので ある。
ロシ ア ・フォ ルマ リズム の 理 論 家 シ ク ロフ ス キ ー は 、 リア リズ ム の本 質 は非 親 和
化 に あ る とい って い る。 つ ま り、 見 なれ て い る た め に 実 は 見 て い な い も の を 見 さ
せ る こ とで あ る。 した が って 、 リア リズ ム に 一 定 の方 法 は な い。 それ は 、親 和 的
な もの をつ ね に非 親 和 化 しつ づ け る た え ま な い 過程 に ほ か な らな い。 この 意 味 で
は、 い わ ゆ る反 リア リズ ム 、 た とえ ば カ フ カ の 作 品 も リア リズ ム に 属 す る。 リア
リズ ム と は、 た ん に風 景 を描 くの で は な く、 っ ね に風 景 を創 出 しな け れ ば な らな
58象 徴 交 換 の 亀 裂 一 ジ ー̀1'と リ ア リ ズ ム と 「㌫ い 革 袋 」
い。それまで事実 としてあったに もかかわ らず、だれ もみていなか った風景 を存
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