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The two types of flowers were formed on the  plant, i.e. female flowers and hermaphrodite  ones.  The female flowers tended to be small- er in size than the hermaphrodite flowers.  

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(1)

Abstract

One plant of the large pink,  Dianthus super- bus  var . longicalycinus  (Maxim.)Williams,  germinated from a seed collected on the bank  of Sara-ike(34 ° 40 ′ 47 ″ N,134° 55′ 46″ E)at  Eigashima, Okubo-cho, Akashi City, Hyogo  Prefecture was cultivated.  From 24th July to  9th August in 2017, the sexual change was ob- served in 68 flowers bloomed on the plant,  and for 41 of them each sex was recorded dai- ly from flowering until closing.

D. s.  var.  longicalycinus  was reported that its  flowers were sexually heterophytic and gy- nodioecy by Yahara(1988), Maki(2002),  Uematu & Kuramoto(2006)and the same  phenomenon was reported another variety of  the  same  species,  D. s .  var.  superbus   by  Sugawara  et al .(1994).  However, the plant  studied in this research was gynomonoecy.  

The two types of flowers were formed on the  plant, i.e. female flowers and hermaphrodite  ones.  The female flowers tended to be small- er in size than the hermaphrodite flowers.  

Concerning the flowering period, the former  was shorter than the latter because of the lack  of male stage period.  Hermaphrodite flowers 

showed protandry.  On the flowering day, the  stamens were already elongated and had an- thers, but the styles were not visible.  On the  second or the third day, the styles were elon- gated.

Based on the difference in flower size be- tween hermaphrodite flowers and female  flowers, I presented a schematic mechanism  for controlling the development of the two  flower types.  I pointed out that a further  study of flower ecology of  D. s.  var.  longicaly- cinus   of  many  local  populations  around  Akashi might elucidate both the intermediate  stage of evolution from bisexual flowers to  unisexual flowers, and the relationship be- tween gynodioecy and gynomonoecy.  I men- tioned that the paddy field ponds and their  banks were worth reconsidering from the  viewpoint of the island biology.  From the  viewpoint of conservation biology, it was also  mentioned that a different conservation ap- proach could be applied to local populations  composed of gynomonoecy than to local pop- ulations of gynodioecy.  It was also discussed  the necessity of certain rules for horticultural  sales of  D. s.  var.  longicalycinus .  Without 

兵庫県明石市の皿池の堤に由来する

カワラナデシコ  (ナデシコ科,ナデシコ目) は 雌性両全同株であった

Gynomonoecy of the Large Pink,  Dianthus superbus  var.  longicalycinus  (Maxim.) Williams

(Caryophyllaceae, Caryophyllales), Collected from the Bank of Sara-Ike Pond at Akashi, Hyogo, Japan.

成城大学社会イノベーション学部教授

櫻井一彦 SAKURAI, Kazuhiko

(2)

them, its genetic diversity having been re- served in local populations would be invaded  and confused by commercial plants derived  from remote regions.

Key words

Dianthus  superbus   var.  longicalycinus 

(Maxim.) Williams, gynomonoecy, flower  ecology, protandry, bank of paddy field pond,  Akashi, Hyogo, Japan.

カワラナデシコ,雌性両全同株,花生態,雄性 先熟,溜池の堤,兵庫県明石市.

はじめに

ナデシコ科ナデシコ属の Dianthus superbus   L.(エゾカワラナデシコ,カワラナデシコを包括 する)はユーラシアに広く生息する多年生草本で ある(大橋他 2017)。そのうち基準変種エゾカワ ラナデシコ D. s . var.  superbus は,日本では北海 道と中部以北の本州に自生し,ヨーロッパにも分 布するヨーロッパで馴染みのある花の 1 つであ り,スイスなどでは絶滅危惧種である(Erhardt  1991)。そして別の変種カワラナデシコ D. s.  var. 

longicalycinus  (Maxim.) Williams は, 本 州 か らら九州,さらに朝鮮,台湾,中国に分布し(大 橋他 2017),生息場所はその名前が示す河原・河 川敷だけではなく海岸域をも含む野山の草地にも およぶ(新井他 2015)。古事記や万葉集にも現れ、

山上憶良の歌以来秋の七草のひとつとなっている ことが物語るように,採草草原のような場所での 野生の個体や栽培されたものが古くから日本で親 しまれてきた(清水 1995;服部他 2010;七海他 2011)。けれども,その生物的な性質については 明かでないところが残っており,また明治以降の 日本では草原が大きく減少した(小椋 2010)こ となどで生育地の縮小が起き,地域によっては絶 滅危惧種のリストにあがっている(楠本他 2017;

NPO法人野生生物調査協会他2019)。その一方で,

草地の緑化(鈴木他 1990)や,カーネーション の品種改良(小野崎他 2011)等で新たに利用さ

れている。

花に関連した生態は,個々の植物種の生活史の 重要な一面であり,その種を理解する上で不可欠 であり,さらに被子植物が示す動物よりも多様で複 雑な性的多型の進化を考えるうえでの不可欠な情 報 で あ る( 菊 沢 1995; Geber  et al . 1999;  工 藤 2000; 石井 2010; 福原 2011)。研究対象種の広がり に加え,それぞれの種についての調査が深まるこ とによって,個々の種の示す花の性発現の多型に 既知のものとは別の型が存在する場合が見つかる など,花の性発現で多様性と可塑性のより高い場 合が知られるようになってきている(岡崎 2010)。

また,絶滅のおそれのある植物においては,花 の生態はその保護・保全を進める上で不可欠な情 報である。例えば,保全の観点を含めてスイスで エゾカワラナデシコを研究した Erhardt(1991)

は,夜行性の蛾が訪花昆虫であることを明らかに している。

日本でもカワラナデシコの花の生態の研究が行 われてきた。具体的な調査資料を示してはいない が,矢原(1988)は性的異型を示す雌性両全異株 だと述べている。カワラナデシコの保全とくに個 体群の存続可能性の観点から,鬼怒川,荒川,多 摩川,千曲川の 4 カ所で各地点 50 個体以上を対 象に種子生産量と遺伝的多様性を調査した牧

(2002)は,全 4 地域集団で 2 つの性的型(雌株 と両生株)を識別し雌性両全異株だと述べ,種子 の発芽特性を調べた植松・倉本(2006)も多摩川 河川敷の集団が雌性両全異株だと述べている。ま た,基準変種のエゾカワラナデシコを青森県の 2 地点で調べた Sugawara  et al .(1994)も性的二 型を示す雌性両全異株だとしている。

ところが,今回著者が栽培し観察した兵庫県明 石市大久保町の皿池の堤に由来する 1 個体は,こ れまでのこうした知見とは異なる花生態を示し た。1 個体の中に 2 つの型の花(雌花と両性花)

が形成される雌性両全同株であった。そこで,雌

花と両性花の大きさと両性花での性変化過程など

の調査結果を報告し,あわせて雌性両全同株が進

化した背景や,雌性両全異株と雌性両全同株の関

係などについても考察した。

(3)

対象と方法

2016 年 11 月に,兵庫県明石市大久保町江井ヶ 島の皿池(北緯 34 度 40 分 47 秒,東経 134 度 55 分 46 秒)の堤に自生していたカワラナデシコか ら種子を採取した。その種子から発芽した 1 個体 を東京都八王子市南大沢の集合住宅 2 階ベランダ の実験場においた植木鉢で栽培した。花がまだ蕾 の時に,番号を記入したビニールテープの帯を一 部の茎の花茎に張り付け,個々の花を識別した。

2017 年 7 月 中 旬 に 開 花 が 始 ま っ た。 そ こ で,

2017 年 7 月 24 日から 8 月 9 日まで間,咲いた花 の調査を実施した。

観察は,午前 6 時から 10 時までの間に行った。

測定・記録したのは,花の大きさと花の性である。

花の大きさは開花した初日にノギスで直接測定 し,花の性(雌蕊と雄蕊の状態)はそれぞれの花 が閉じるまで毎日記録した。花の大きさの指標と して,「近似直径」を測定した。本種の花は,5 枚の花弁が放射相称的に並んでいるため,厳密な 直径の測定はできない。そこで,1 枚の花びらの 先端から対角方向にある 2 枚の花弁の先端までの 距離を測った。これは厳密には直径ではないが,

この論文中では,この測定部位を花の「近似直径」

あるいは単に「直径」と呼ぶ。また,花の性は,

次のように判定した。雄蕊が出ているものを雄,

雌蕊が出ているものを雌とした。詳しくは,結果 の「花の 2 型」と「両性花における性の変化」の 項目の中に記述している。

結 果

<調査個体数>

期間中に 68 輪の花の開花を観察した。そのう ち 39 輪については漏れなく,開花初日に花の大 きさ測定を実施し,あわせて花の性を花が閉じる まで記録した。以下の詳細な分析ではこれら 39 輪の結果について述べる。花の性の変化は表 1 に 示した。

< 1.花の 2 型>

花には,性の発現に関連して 2 つの型,すなわ ち両性花と雌花が認められた(図 1)。

両性花では,開花時には雄蕊が既に花の基部の 筒状部分より上に出ており,時に伸び出ていたが,

雌蕊はまだ見えず,雌蕊が伸び出てくるのは開花 の翌日以降であった(表 1,参照)。一方雌花では,

雄蘂は形成されることなく,開花時既に雌蕊が花 弁の筒状部分よりも突き出ていた(図 1a)。

< 2.両性花の中での性の変化>

両性花において花の性は,次のように変化した。

開花時には,雄蕊はすでに見える位置にあり時に は長くて直立していたが,雌蕊はまだ伸び出てい ない(図 1b)。雄蕊は 1 から 2 日間ほど直立して いたが,やがて傾き萎れていった(図 1c)。開花 の翌日あるいは翌々日に雌蕊が伸び出てきた(図

1d)。雌蕊先端は,最初緩やかな曲がりで,後に

螺旋状になった。雌蕊が直立した時にはすでに雄 蕊は傾きかけており,雌蕊と雄蕊が共に直立して いることはなかった。そこで,雄蕊が直立してお り,しかも雌蕊がまだ伸び出ていない状態を雄と 判定した。雌蕊は先端が螺旋状になった後も数日 直立していたがやがて傾いた状態が続き,その後 花を閉じた。雌蕊が伸び出てから花を閉じるまで を雌と見なした。なおこの定義では,雌蕊が傾い た時期も雌の期間に含んでいることから,機能的 な雌の期間は過大評価され,一方,雄蘂の傾いた 期間を雌の期間に含めてことから,機能的な雄の 期間は過小評価されている可能性がある(表 1)。

< 3.2 つの花型で雌,雄の期間>

雌の期間は,両性花と雌花がそれぞれ 5.4 ± 1.8 日(mean ± SD; N = 25)と 5.4 ± 1.3 日(同;

N = 14)で両者に有意な差はなかった(t 検定,

p = 0.98)。そして,全開花期間は雄の期間(両 性花で 2.5 ± 1.8 日)の有無の影響を受け,両性 花と雌花がそれぞれ7.2±1.7日と5.4±1.3日で,

両性花の全開花期間は有意に長かった(t- 検定,

p < 0.01)。

(4)

表1 明石市皿池産のカワラナデシコ1個体における花の大きさと開花中の性の変化

Table1. The flower size and sex change during the booming period of the large pink,

Dianthus superbus

var.

longicalycinus

, germinated from a seed collected at the bank of Sarai-ike pond, Akashi.

Flowe Type

ID No.

of the Flower

Flower Diam- eter

(mm)

Date of the Flower

Opening

(in 2017)

Sex of the Flower Male Period (days)

Female Period (days)

Total Period (days) Day(s) Form the Flower Opening

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

Female

6 13.0 25Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 6 6

3 16.3 31Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ 0 4 4

9 22.1 27Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ 0 4 4

41 22.7 27Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 6 6

45 23.1 31Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 7 7

42 23.3 25Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ 0 4 4

39 24.9 2Aug. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 6 6

19-3 25.0 6Aug. ♀ ♀ ♀ 0 3 3

26-2 25.6 3Aug. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 6 6

44 25.9 30Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 8 8

29-3 26.9 5Aug. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 5 5

29-2 27.2 4Aug. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 6 6

33 28.0 27Jul. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 6 6

4-2 29.9 3Aug. ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 0 5 5

Herma-

phrodite

5 18.5 27Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 5 6

7 21.2 26Jul. ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 3 6 9

35 22.6 25Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 5 7

19-2 24.8 3Aug. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 4 5

46 25.5 28Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 9 10

31 26.4 28Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 7 8

21 27.2 27Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ 2 3 5

38 27.3 27Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 6 8

20 27.6 25Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 7 9

50 28.3 27Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 6 7

30-2 28.5 31Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ 2 3 5

49 31.1 29Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 8 9

14 31.3 29Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 6 7

40 31.8 29Jul. ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 3 6 9

8 31.9 31Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 6 8

47 31.9 28Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 5 7

18 32.1 26Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 6 8

48 32.6 25Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ 2 2 4

15 33.1 26Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 7 9

10 34.2 26Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 6 8

11 34.3 26Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 5 7

21-3 34.6 4Aug. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ 2 3 5

17 34.9 30Jul. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 2 7 9

4 35.1 25Jul. ♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ 1 7 8

25-2 37.5 1Aug. ♂ ♂ ♀ ♀ ♀ 2 3 5

: 開花日の近似直径。

(5)

< 4.花の大きさと花の型>

両性花と雌花の花の大きさの測定結果は,図 2 に示した。両性花の直径は,最小 18.5mm 最大 37.5mm(29.8 ± 4.8; N = 24)で,一方雌花の 直径は,最小 13.0mm 最大 29.9mm(23.9 ± 4.8; 

N = 14)で,両性花は雌花よりも有意に大きかっ た(t 検定,p < 0.01)(図 2)。

考 察

<1.花の 2 型ならびに両性花の中での性の変化>

これまでの報告ではカワラナデシコ(矢原 1988; 牧 2002; 植松・倉本 2006)もエゾカワラナ デシコ(Sugawara  et al . 1994)も,1 個体には 雌花か両性花の一方だけが形成される雌性両全異

株だとされてきた。今回観察した個体は,雌性両 全同株で,1 個体の中に雌花と両性花の両方が形 成されたと言う点では,これまでの報告と異なる。

しかしながら,形成させる花の型が雌花と両性花 の 2 型であるという点と,両性花が雄性先塾性を 示すという点ではこれまでの報告と共通してい た。

< 2.2 つの花型で雌雄の期間ならびに花の大 きさ>

カワラナデシコについては,2 つの型の花の大 きさについても,2 つの型の花での雌雄の期間に ついても,統計的に扱った先行研究を見つけるこ とはできなかった。エゾカワラナデシコについて は,Sugawara  et al .(1994)の研究があり,そ

図 1 明石市皿池産のカワラナデシコ 1 個体における 2 型の花

Fig.1. Two type flowers on the large pink,

Dianthus superbus

var.

longicalycinus

, germinated from a seed collected at the bank of Sarai-ike pond, Akashi.

a

c

b

d

a)雌花:雌蘂は伸び先端は螺旋状.b)開花直後の両性花:雄蘂は見えるが,雌蘂はない.c)2 日目の両性花:

雄蘂は長く伸び直立している,雌蘂はない.d)3 日目両性花:長く伸びた雄蘂は傾いている,雌蘂が伸び出 てきている.

a)a female flower: the styles elongated with spiral curves. b)a hermaphrodite flower on the first bloomed

day:the stamens visible but no styles, c)a hermaphrodite flower on the 2nd day: the elongated stamens

still erect. d)a hermaphrodite flower on the 3rd day: stamens were leaning and the styles appeared.

(6)

の結果は本研究での結果と,2 型の花での大きさ の差異については基本的に同じ傾向であった。け れども,開花期間と雌の期間については,違う傾 向が認められた。すなわち,本研究のカワラナデ シコ個体では,両性花と雌花で雌の期間は等しく,

雄の期間の有無の違いによって,両性花の方が雄 の期間分だけ開花期間が長くなっていた。けれど も,Sugawara  et al .(1994)のエゾカワラナデ シコでは 2 つ型の花の期間は等しい(両性花で 7.3 日,雌花で 7.1 日)が,雄の期間を含む分だけ両 性花の雌としての期間は雌花よりも短く(4.2 日)

なっていた。

両者での花の期間の違いが,なぜ進化したのか,

またその違いが結実率などにどう影響しているの かなどは,興味深い事柄である。この観点からも,

雌性両全異株性を示すカワラナデシコ集団で,花 の期間がどうなっているのかを明らかにすること は必要である。

< 3.雌性両全同株であることについて>

カワラナデシコは,これまでの研究では雌性両 全異株だと言われてきた(矢原 1988; 牧 2002; 植

松・倉本 2006)。ところが,本研究は調査対象が ただ 1 個体であるとはいえ雌性両全同株で,これ までの研究結果と異なった。これまで知られてい なかった雌性両全同株が,カワラナデシコの繁殖 様式・花戦略の一つとして存在することは確かな 事実である。これは,カワラナデシコが,これま で知られていた以上にその花の生態に高い変異と 可塑性を備えていることを示すものである。

イタリアのサルデーニャ島に生育する同属の別 種 D. morisianus  Vals. では,殆どの花は両性花 であるが低頻度で雌花が生じる雌性両全同株であ ることが知られており(Nebot  et al . 2016),雌 性両全同株はナデシコ属内にある程度広がった花 生態様式であるのかもしれない。また,アカテツ 科のアカテツで,ほとんどの個体は両性個体か雌 個体(雌性両全異株)だが,まれに両性花と雌花 を付ける雌性両全同株個体がいる(加藤他 2016)

ことは,今回のカワラナデシコの雌性両全同株個 体の存在と共通した現象のように見える。

本研究では 1 個体しか観察していないので,こ の個体の由来地の集団が,全て雌性両全同株の個 体で構成された花の性生態に関して単一の集団な

図 2 明石市皿池産のカワラナデシコ 1 個体における花の大きさと性の関係

Fig.2. The relationship between flower size and sexual type, on the large pink,

Dianthus superbus

var.

longicalycinus

, germinated from a seed collected at the bank of Sarai-ike pond, Akashi.

Female Flower Hermaphrodite Flower

Number flowers of

��-��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� -��.� (mm)

開花日の花の近似直径

Proximate flower diamerer on the bloomed day.

(7)

のか,それともこれまでの研究で示されてきた雌 性両全異株の個体も混じった多様な集団のかはま だ分からない。皿池の集団での今後の調査が待た れる。

鬼怒川・栃木県今市市,荒川・栃木県熊谷市,

多摩川・東京都日野市,千曲川・長野県川上村の 4 カ所で各地点 50 個体以上を調査した牧(2002)

には雌性両全同株が報告されておらず,カワラナ デシコという変種に限っても地域集団の間で,繁 殖様式・花戦略に違いがあることは興味深い。ど のような地域集団で,雌性両全同株の個体が生育 しているのかを調べることにより,雌性両全同株 の成立の背景,あるいは進化の要因が明らかにで きるかもしれない。

本研究の調査個体の由来生息地は,皿池という 溜め池の堤であった。皿池が位置する明石市西部,

東播地方は,瀬戸内海に面し,日本国内でも溜め 池の多い地域である(兵庫県農林水産部 2000)。

それぞれの溜め池には固有の歴史があり,中には 1400 年以上の前に造成されたものもある(兵庫 県 1984)。多くの溜め池は互いに孤立している。

そのため,この地域でのカワラナデシコの生息環 境である溜め池の堤は,連続する陸上にあるけれ ども広がりのある水田地帯の中に点々と配置され ており,その分布状態は海洋上の島と類似した状 況だと言える。というのは,本研究の調査個体の 親個体が生育していた地域では,溜め池の堤の草 地は水田周りの畦などの草地に比べ,1 つの草地 の広がりは大きく,草刈りの頻度や踏みつけのな どの人為的干渉はより弱い程度で継続されてい る。一方水田の周りの畦は,面積がより狭く,草 刈りや畦塗りや近年では除草剤散布などによる人 為的な干渉がより強く,さらに稲の栽培期間中,

平坦な田の畦では土壌水分含量がカワラナデシコ には不適切なほど高い。そして,少なくとも皿池 の周辺では,カワラナデシコは田の畦には生えお らず,池の堤にだけ生えていた。

種子植物においては,海洋島では大陸に比べて 雌雄異株の性表現をする種の割合が高くなる傾向 がある(加藤他 2016)と言われているが,今回 の事例はその傾向と矛盾しているようにみえる。

雌性両全異株(エゾナデシコとこれまでの研究 で知られていたカワラナデシコ:両性花株と雌花 株の 2 型)と雌性両全同株(本論文で示したもの:

一株内に両性花と雌花の 2 型)は,違いが大きく 関連性が複雑であるように見える。けれども,両 者は次のような発生制御機構の単純な違いがあっ た場合の結果としても起こりうると考えられる。

すなわち,雌性両全異株の場合,各個体は形成す る花の性(雌か両性か)が個体発生の開始・初期 の段階で決定・方向付けられ,例えば,雄蘂形成 の抑制の有無が個体として制御される。そして,

雌性両全同株個体の場合には,形成する花の性は,

個体発生の開始・初期の段階で決定・方向つけら れることなく,個体上につける個々の花の形成段 階で決定・方向付けられ,例えば,雄蘂形成の抑 制の有無が花毎に制御されている。

< 5.花の性発現の閾値,可塑性制御の規則に 関して>

雌花の直径の最小値(13.0mm)は両性花の最 小値(18.5mm)よりも小さく,雌花の最大値

(29.9mm)よりも大きい花は全て両性花であっ た。この結果は,次の 2 つのことを示唆している。

1 つは,小さい花を雌花に大きな花を両性花にと いう基本的な規則の元に,花の性発現の可塑性(雄 蕊形成の可塑性)が制御されていることである。

もう 1 つは,雌花への発生が,直径 30mm あた りを超えると抑制されることである。つまり,花 の直径 30mm 以上では,雄蕊形成は抑制される ことなく必ず発現される。この結果は,次のよう に見ることもできる。すなわち,花形成の決定と 同時にあるいは組として雌蕊形成は決定されるけ れども,雄蕊形成はこれに加えて新たな条件(あ る一定値以上のより大きな資源投資が可能)が満 たされた場合にのみ進行すると。

1 つの株に 1 つだけの花茎を付け,しかも液果 の果実を成熟させるマムシグサの仲間では,小型 個体が雄花を付け,より成長すると両性花を付け,

更に成長し大きくなると雌花を付ける(Kinoshita  1986; 櫻井 2003 など)。この場合の雄性先熟は,

魚類などでの性転換現象を説明する size advan-

(8)

tage theory に 合 致 し て い る(Freeman  et al .  1980; Charnov 1984)。ところがカワラナデシコ は一つの株に多数の花を連続的に付け,果実は痩 果であるため,マムシグサ類とは全く異なる状況 にあり,かつかなり複雑である。とはいえ,個々 花の性決定とは別に,株内での両性花と雌花の配 分が,どのような要因によって決まり,またどの 様な制御規則に則っているのかということは興味 深いことがらである(石井 2010)。また,その規 則が雌性両全異株の場合における集団内での両性 株と雌株の比率制御の規則とどのような関係に なっているのかも興味深い。

< 6.測定部位に関して>

今回は,花の大きさを「近似直径」で評価し,

測定を開花初日の朝とした。初日に加えて 2 日目 に測定した 8 中 7 例では,2 日目の方が近似直径 は大きくなっていた。これは開花後も花弁が成長 をしていること示している。なおエゾカワラナデ シコでは,開花後も成長し 4 日間で終了する(小 倉 1978)。したがって,今後の調査においては,

測定時刻の再検討し厳密化することと,開花後の 成長が少ない形質の選び出しが必要である。

また,花の大きさの指標として今回は「近似直 径花」を測定部位としたが,この測定部位には測 定誤差が入り易い。性決定に関わる大きさ因子を 今後詳しく分析する際には,測定誤差の余地が少 なく,より確実に規定でき,しかも野外の生きた 花で簡単に測れる部位をSugawaraet  et al .(1994)

などを参考にしながら見つけることが不可欠であ る。

< 7.地域個体群の遺伝的多様性保全に関して>

兵庫県明石市大久保町江井ヶ島にある皿池の堤 の個体群に,個体間で性発現様式が異なる性的異 型の雌性両全異株の植物体が生育しているのかど うかは,今後調査してみる必要がある。また,性 発現を様々な地域集団で詳しく調べ,雌性両全同 株がどの地域の,またどのような地域集団で生育 しているのかを明らかにすることは,本変種なら びに本種での花生態の進化を解明する上で興味深

いことがらである。

雌性両全同株を示す個体の存在は,カワラナデ シコの種の保全の観点からも注目すべきことであ る。雌性両全異株の地域集団であれば,植松・倉 本(2006)も指摘しているように,種子を撒いた り圃場で育てた苗を野外に移植したりする際,そ こに含まれる個体が少なくとも雌性個体・雌株だ けとはならないように,種子や苗の選抜に配慮す る必要がある。けれども,本研究の対象となった 個体のように雌性両全同株であれば,そうした配 慮は必要ない。

魚類などでは,生息地の地理的広がりに関連し た種内の遺伝的変異の多様性が重要だと認識され ることで,国内外来種が問題とされるようになっ て き て い る( 日 本 魚 類 学 会 自 然 保 護 委 員 会  2013)。カワラナデシコは園芸植物として 2019 年にも東京などでは販売されているし,緑化植物 として利用されることもある(鈴木他 1990)。地 域個体群の間で花生態に変異のあることが本研究 で明らかになったことを考えれば,販売・利用に 際しては原産地と販売地との距離などに配慮する ことが求められる。そうしなければ,これまで歴 史的に形成されてきたカワラナデシコの地理的な 変異は乱されてしまうだろう。

要 約

兵庫県明石市大久保町江井ヶ島にある皿池の堤

(北緯 34 度 40 分 47 秒,東経 134 度 55 分 46 秒)

で採取したカワラナデシコ D. s.  var.  longicalyci- nus の種子から発芽した 1 個体を栽培した。2017 年 7 月 24 日から 8 月 9 日まで間,この個体が咲 かせた花の一部の 68 輪で性の変化を観察し,そ のうち 39 輪については,花の直径を開花日に測 定し,開花から閉花までの性の変化を毎日記録し た。

カワラナデシコについては矢原(1988),牧

(2002),植松・倉本(2006)が,また同種で別

の変種のエゾカワラナデシコ D. s . var.  superbus

については Sugawara  et al .(1994)が,いずれ

もその花の性発現様式に性的異型を認め雌性両全

(9)

異株だと報告している。ところが今回の調査個体 は,これらの報告とは異なり,雌性両全同株で,

1 個体の中に 2 つの型の花(雌花と両性花)が形 成された。雌花は,両性花よりも花の大きさが小 さい傾向にあり,雄の期間のない分だけ開花日数 が短かった。なお両性花は雄性先熟的な性転換に よる異熟性を示した。すなわち雄蘂は開花時に伸 び出ていて葯があったが,雌蘂は開花時にまだ見 えず 2 日目か 3 日目に伸び出てきた。雌花と両性 花の間での花の大きさの差異に基づいて,2 つの 花型の発現制御の仕組みを考えた。

カワラナデシコを皿池周辺の多くの地域個体群 で研究することが,両性花から雌雄異花のへ進化 の中間段階や雌性両全異株と雌性両全同株の関係 性の解明につながる可能性があることを指摘し た。調査個体の自生地である瀬戸内の東播地方の 溜池の堤を,島の生物学の観点から見ることの意 味についてふれた。あわせて保全生物学の観点か ら,雌性両全同株の個体のいる地域個体群では,

雌性両全異株で構成される地域個体群とは異なる 保全の取り組みができることと,国内外来種的問 題が生じないように地域個体群に配慮した園芸販 売への規制の必要性についても言及した。

おわりに

兵庫県明石市大久保町の皿池の土手にカワラナ デシコが生えているのは,糯米栽培の合間の散策 で,数年前から気づいていた。2017 年度は幾つ か要因でオトシブミ類の野外調査が困難であっ た。土着の生物たちの住み場所を拡大する営みを コスタリカの各地で多様な組織・団体が実施して いるのを,1999 年以来見てきた。成城大学社会 イノベーション学部の教養演習「コンサーベー ション・バイオロジー(多様な生物と共存する持 続可能な社会をめざして)」では,生物多様性の 保全に関連する生物学的自然現象とその事象に関 わる人々の動きを学生諸君と学んできた。鈴木邦 雄博士には里山と昆虫への扉を開いてもらった。

故河野昭一博士とその研究室の人達が野外の植物 の動きをじっくり調査している様子を学部生時代

に眺めてきた。比較行動学の研究に行動生態学の 視点が広がってゆくのに立ち会い,性転換という 現象の解明に向けてもこの視点が魚類から植物に 至るまで援用されるのも目にしてきた。小さな一 つ一つの現象の中に隠れている物語を紡ぎ出すこ とにおもしろさがあることを故日高敏隆博士と第 一講座のメンバーに教えてもらった。山田直巳博 士には,日本の百姓の営みを共有しながら,文化 的眼差しの奥深さを知らされた。社会イノベー ション学部のスタッフは暖かく見守ってくれた。

こうしたことが,郷里のカワラナデシコの種を 撒き,咲いた花を一輪ずつ識別し,観察・記録す ることに誘ってくれたのだと感じている。検定の 一部には伊藤慎也作成の「エクセル統計. ver13」

を利用した。草稿を読んでくれた大塚公雄博士と 小川みふゆ博士をはじめ,支えてくださった方々 に感謝する。

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参照

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