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〈 判 例 研 究 〉

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〈 判 例 研 究 〉

ソキア株 相場i操縦 に関す る損害賠償事件

(株価 操作 が行わ れて いた株式 の購入者 に対 し、 当該株 価操 作 を 行 った者 お よびその者の意 を受 けて購入 を勧誘 した者 の不法行為 が肯定 された事例)平 成19年10月5日 東京地裁判決、認容(控 訴)

加 賀 譲 治

目 次 1事 案 の 概要 2原 告 の主 張 3被 告 乙山 の 主 張 4被 告 丙 川 の 主 張

5判 旨

6批 評

(1)不 法 行為 の共 謀 (2)因 果 関 係 (3)過 失 相 殺

1事 案 の概 要

本 件 は、 被 告 乙 山(以 下 「 被 告 乙 山」 とい う。)が 東 京 証 券 取 引所 に上 場 され て い る株 式 会 社 ソキ ア の株 式(以 下 「 ソ キ ア株 」 とい う。)を 対 象 とす る相 場 操 縦 的 行 為 に よ る株 価 操 作 を行 い、 被 告 丙 川(以 下 「 被 告 丙 川 」 とい う。)が 被 告 乙 山 に よ る ソ キ ア株 の 株 価 操 作 を知 りな が ら、 被 告 乙山 の意 を 受 け て 、 原 告 に 対 しソ キ ア株 の買 付 を勧 め た こ とに よ り、 ソ キ ア株 を購 入 した 原 告 に お い て 、 7148万0688円 の 損害 を受 けた と して 、 原 告 が 被 告 らに対 し、共 同 不 法 行 為 に塞 づ き、 連 帯 して7148万0688円 及 び これ に対 す る原 告 が 所 有 して いた ソ キ ア株 を 最 後 に売 却 した 日の 翌 日で あ る平 成14年7月30日 か ら支 払 済 み まで 民 法 所 定 の

U

年5分 の 割 合 に よ る遅 延 損 害 金 の支 払 を求 め た 事 案 で あ る。

前 提 事 実 は 、次 の よ うな 内 容 で あ る。

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被 告 乙 山 は 、 証 券 会 社 に長 年 勤 務 して い た が 、 平 成7年 こ ろ に は 、 投 資 顧 問 会 社 を 設 立 して 代 表 取 締 役 に就 任 し、 企 業 の 再 生 に 向 け た フ ァイ ナ ンス を 引 き 受 け る外 国 投 資 信 託 の組 成 ・販 売 等 を主 に行 って い た 。 そ の後 、ITM株 式 会 社 の代 表 取 締 役 丁 原 と知 り合 い 、平 成12年 ころ 、同社 の子 会社 で あ るITMホ ー ル デ ィ ン グ の取 締 役 に な る と と もに 、 そ の 関連 会 社 の 役 員 に も名 前 を連 ね る よ

うに な った 。

そ の後 、 被 告 乙 山 は、 東 京 証 券 取 引 所 に上 場 され て い る ソ キ ア株 に つ い て 、 株 価 の高 値 形 成 を 図 る こ とを企 て 、平 成14年4月16日 か ら同年5月10E1ま で の 間 、 連 続 した成 行 注 文 等 に よ り、 高値 を買 い 上 げ た り、大 量 の下 値 買 い を 入 れ て 下 値 を 支 え るな どの 方 法 で 、 同株 式 を405円 か ら530円 ま で 高 騰 させ た ほ か 、 多 数 の仮 装 売 買 を 行 った とい う相 場 操 縦 の 罪 で 、 平 成18年7月19日 、 大 阪 地 方 裁 判所 に よ って執 行猶 予 付 き有 罪判 決(以 下 「 本 件 有 罪 判 決 」 とい う。)を 受 け 、 同 年8月3日 、 そ の 刑 が 確 定 した 。

被 告 丙 川 は、 長 年 、 野 村 謹 券 に勤 め て いた 経 歴 が あ り、 その 関 係 か ら証 券 業 界 に通 じて い る者 で あ る。被 告 乙 山 と被 告 丙 川 とは 、平 成13年 の 冬 こ ろ に知 り 合 った 。 被 告 乙 山 は 、 被 告 丙 川 を前 記 丁 原 社 長 の 配 下 の 者 と して認 識 して い た。

原 告 甲 野 は、 ホ テ ル 戊 田 を 経 営 して い た が 、 被 告 丙 川 とは 、 知 人 の 紹 介 で 、 平成12年2月 こ ろに 知 り合 っ た。 そ の後 、 同 年ll月 ころ 、 突 然 、 被 告 丙 川 が原 告 甲 野 を訪 れ 、 以 後 、 頻 繁 に 来 訪 して くる よ うに な り、 株 の 話 を して は、 原 告 甲野 に対 し、 「 近 い うち に必 ず 株 で 儲 け させ て や るか ら」と言 う よ う にな って い っ た 。

2原 告 の 主張

原 告 甲野 は 、 以 下 の よ うに主 張 した。

「 被 告 乙 山 は、平成13年6月 こ ろか ら7月 こ ろ にか けて 、 ソ キ ア株 の 発 行 済 株

式 の 過 半 数 を 買 い 占 め て 、 そ の経 営 権 を獲 得 す る か 、3分 の1を 買 い集 め て特

別 決 議 の キ ャス チ ン グボ ー トを握 る な ど して 、 海 外 フ ァ ン ド等 に高 値 で 売 却 す

る こ と を考 え 、 知 人 の 乙 野 春 夫 や 丙 山 夏 夫 の 協 力 を得 て 、 同株 の 買 付 を 行 うよ

うに な っ た。

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判例研究 97 しか し、 被 告 乙 山 に よ る ソ キ ア株 の 購 入 は 、 当 初 か ら大 半 が信 用 取 引 に よ る 購 入 で 、 現 引 きす る資 金 の 目途 が あ った 訳 で もな く、 信 用 買 付 の た め の担 保 余 力 に さ え事 欠 く状 況 で あ る な ど した た め 、 高 値 買 い が 困 難 に な り、 平 成14年2 月 か ら3月 の 時 点 に お い て も、 被 告 乙山 が 集 め た ソ キ ア株 は、 乙 野 や 丙 山 が保 有 す る もの を含 め て も、 ソ キ ア の発 行 済 み株 式 総 数 の2割 強 に しか な ら な か っ た 。

そ の 結 果 、 ソキ ア株 を 外 国 フ ァ ン ド等 に売 却 交 渉 す る こ とが で きず 、 被 告 乙 山 は 、 買 い集 め た ソ キ ア株 を売 っ て 手 放 す ほ か は な い と判 断 し、 仕 手 筋 で は解 体 屋 と して 知 られ る丁 川 秋 夫 ら に ま と ま っ た量 の ソ キ ア株 を 買 い取 っ て くれ る 先 の紹 介 を求 め て い た 。

平 成14年2月 下 旬(た だ し、 同 月27日 以 前)、ITM香 港 ホ ー ル デ ィ ン グ の 東 京 事 務 所 に お い て 、 被 告 丙 川 は 、被 告 乙 山 か ら、 『ソキ ア株 を買 い集 め て い た が 、 資 金 が も た な い の で 手 放 す しか な くな っ た。 ソ キ ア株 を 買 い取 っ て くれ る 人 を紹 介 して くれ な いか 。 何 株 で もい い、 紹 介 して くれ た ら手 数 料200万1:1]を支 払 う。』 旨 の依 頼 を受 け た 。

被 告 丙 川 は、 直 ち に、 原 告 に対 し、 『 今 ソ キ ア株 を買 っ て お けば 、 値 上 が り し て 儲 か り ます よ。 あ る人 が ソキ ア株 を売 り出 して くれ る の で 、 それ を 買 っ た ら ど うで す か 。 絶 対 、 人 に は言 わ な い で下 さ い。 あ る人 がMAを 仕 掛 け て い る。

1200円 ま で も って い くが 、 甲野 さん に は 、800円 で 売 っ て も らい ます 。』 と同株 の 買 付 を勧 誘 した。

な お 、 被 告 丙 川 は 、 原 告 に対 し、 ソ キ ア株 を買 い集 め て い た被 告 乙 山 が 保 有 株 を 解 体 す るた め に 売 却 す る こ と、 そ の た め 株 価 は 急 落 す る恐 れ が あ る こ と、

被 告 乙 山 もで き る だ け 高 く売 り逃 げ す る た め 、 そ の後 も一 時 的 に 株 価 を上 げ る こ とが あ る が 、 そ こで す か さず 売 ら な け れ ば な ら な い こ と等 に つ い て は 、意図 的 に秘 匿 した。

原 告 は、 ホ テ ル 戊 田 を 経 営 して い た が 、 前 記 事 情 を 知 らず 、 値 上 が りす る株

と誤 信 して 、 被 告 丙 川 の 勧 誘 に応 じ る こ と と した 。 そ こで 、 被 告 丙 川 は、 被 告

乙 山 に連 絡 し、1い 注 文 の 株 数 、 指 値 、 時 間 等 の 指 定 を 受 け、 そ れ を原 告 に 伝

え た。 原 告 は、 被 告 丙 川 の 指 示 どお りに 証 券 会 社 に買 い 注 文 を 出 し、 また 、被

告 乙 山 は 、 それ に 対 応 した 売 りを注 文 した 。

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原 告 は 、 別 紙 ソ キ ア取 引 表 の とお り原 告 名 義 で 丸 三 証 券 を通 じ、 戊 原 名 義 で 豊 証 券 を通 じ、平 成14年2月28日 か ら同 年3月5日 ま で3回 に わ た り、 合 計25 万 株 を購 入 し、 その 後 の 売 却 で合 計7148万0688円 の 損 害 を被 っ た 。 他 方 、 被 告 丙 川 は 、 紹 介 料 と して被 告 乙 山 か ら200万 円 を 受 け取 っ た 。

な お 、 信 義 則 上 、 被 告 丙 川 は 、 自 らの ソキ ア株 の推 奨 が 客 観 的 な相 場 観 測 や 当該 会 社 の調 査 分 析 に基 づ く もの で は な い こ と、 す な わ ち 、被 告 乙 山 と い う仕 手相 場 操 縦 師 か ら依 頼 を 受 け た推 奨 で あ る こ と、 紹 介 料 と して200万 円 を 受 け 取 っ て い る こ とを、 原 告 に対 し明 らか に す べ きで あ っ た 。

被 告 乙 山 と同 丙 川 は 、 前 記 の とお り、 証 券 取 引 上 、 重 要 な 事 実 を告 げ ず に 、 原 告 に ソキ ア株 を購 入 させ た もの で あ り、 詐 欺 の 共 同正 犯(民 法719条 の共 同不 法 行 為)と して 不 法 行 為 責 任 を 負 う もの で あ る。

被 告 乙 山 は、 ソキ ア株 の株 価 を操 縦 して お り、 その 過 程 に お い て高 値 で 売 却 す る必 要 が あ っ た が 、 そ の受 け 皿 とな る買 い手 を 必 要 と して いた 。 買 い手 が 注 文 した とこ ろ で売 れ ば 、 値 を下 げ ず に売 る こ とが で き る訳 で あ る。被 告 丙 川 は 、

その よ うな 趣 旨 を 知 りな が ら、 そ の こ と を原 告 に 告 げ ず に 買 付 を勧 誘 した もの で あ り、被 告 乙 山 は、 同丙 川 が そ の よ う な勧 誘 を す る こ と を認 識 し、 認 容 して

 ラ

い た の で あ る か ら、 個 々 に 暗 黙 の共 謀 が 成 立 した とい うべ きで あ る。」

3被 告 乙 山の 主 張

原 告 の 主 張 に 対 して 、 被 告 乙 山 は 、 次 の よ う に主 張 した 。

「 被 告 乙 山 が 丁 川 秋 夫 ら に ソ キ ア株 を 買 い 取 って くれ る先 の紹 介 を求 めた こ と は認 め るが 、 これ は 、 建 玉 を減 少 させ る た め の 一 時 的 避 難 措 置 で あ り、 被 告 乙 山 ら は、 体 勢 を取 り直 した うえ 、 い っ た ん 売 り渡 した ソ キ ア 株 を買 い 戻 そ う と 考 えて い た 。

被 告 乙山 が相 場 操 縦 の 罪 で 起 訴 さ れ た の は 、 平成14年4月16日 か ら同年5月

10日 ま で の 取 引 に つ い て の み で あ り、 そ れ まで の 取 引 が 相 場 操 縦 と認 定 さ れ た

もの で は な い。 被 告 乙 山 は 、 ソ キ ア株 に つ い て 、M&Aを 目指 して 同 株 を 買 い

集 め て い た ので あ り、 元 か ら株 価 操 作 を して高 値 で 売 り抜 け よ う と して い た 訳

で は な い。 平 成14年2月 末 に は 、被 告 乙 山 らの ソ キ ア株 保 有 割 合 は 、2割 を超

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判例研究 99 え て いた の で あ っ て、 この こ とか ら も被 告 乙 山 らがM&Aの 目 的 で ソ キ ア株 を 買 い 集 め て い た こ とは 明 ら か で あ る。

これ 以 上 買 い集 め る こ とが 当 面 難 し くな っ て 、 ま とめ て 買 っ て くれ る先 が あ れ ば 、 買 い集 め た ソキ ア株 を処 分 しよ う と思 う に至 っ た の は 、本 件 有 罪 判 決 に よれ ば、 平 成14年3月 上 旬 の こ とで あ り、 それ 以 前 の こ とで は な い。

原 告 は、 被 告 乙 山 と同丙 川 との 共 謀 は、 平 成14年2月 下 旬 に され た と主 張 す る。 しか し、 原 告 は、 要 す る に 、被 告 乙 山 が 同 丙 川 に 対 し、 『 丙 川 さん の 方 で 、 どな た か ソ キ ア株 を買 い取 っ て くれ る人 を紹 介 して くれ ませ ん か 。 』 と述 べ た 行 為 を 共 謀 と して い る の で あ るが 、 この よ うな 買 主 を特 定 しな い 、 単 な る依 頼 行 為 が 詐 欺 行 為 の 共 謀 で あ る はず が な い。 被 告 乙 山 は 、 同 丙 川 に対 して 、 他 人 を 騙 して 、 株 を 買 う人 を紹 介 して くれ な ど と頼 ん で い た訳 で は な く、 単 に ソキ ア

株 の 買 い 入 れ 先 の 紹 介 を頼 ん で い た に 過 ぎ な い 。 」

4被 告 丙 川 の 主 張

ま た 、 被 告 丙 川 は、 次 の よ うに主 張 した 。

「 被 告 丙 川 と原 告 は、平成ll年 ころ、被 告丙川が ア ドバ イス していたM&Aビ ジ ネ ス を 通 じて 知 り合 っ た 。

原 告 の 主 張 に よれ ば 、被 告 丙 川 は 、 同 乙 山 か ら、 ソ キ ア株 を買 い 取 っ て くれ る人 を紹 介 して くれ れ ば 、200万 円 の 手 数 料 を支 払 う と言 わ れ 、 そ の手 数 料 を 得 る た め に 原 告 を騙 して 損 害 を与 えた との こ とで あ るが 、 事 実 に反 す る。 平 成14 年 こ ろ、 被 告 丙 川 は、10億 円以 上 の 借 金 を抱 えて お り、 た か だ か200万 円程 度 の 手 数 料 を受 け とっ て も何 の 解 決 に もな らな い 状 況 に あ った 。 被 告丙 川 と して は、

原 告 に 良 い 投 資 情 報 を教 え て 儲 け させ 、 原 告 と強 固 な関 係 を 築 き 、M&Aビ ジ ネ ス を う ま くや っ て い く方 が 重 要 で あ っ た 。

した が って 、 被 告 丙 川 に は 、 原 告 を欺 く動 機 は な か っ た。

被 告 丙 川 は 、 平 成14年2月 の 時 点 で は 、 被 告 乙 山 に お いて 、心 底 、 ソ キ ア株

は まだ まだ 行 け る と確 信 して い る も の と見 て い た。 そ こで 、 被 告 丙 川 と して は 、

被 告 乙 山 が 意 図 的 に ソ キ ア株 を 買 い集 め て い る の で あ れ ば、 そ の 値 上 が りは確

実 だ ろ う と考 え、 従 前 か ら良 い 情 報 を求 め て い た原 告 に 対 し、 ソ キ ア株 の 購 入

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を勧 め た の で あ る。

被 告 丙 川 は、 原 告 に被 告 乙 山 を紹 介 した 当 時 に お い て は 、 同被 告 の意 図 を全 く知 らな か っ た もの で あ り、 した が っ て 、 原 告 に 対 す る故 意 ま た は過 失 に よ る 加 害 行 為 は存 在 しな いか ら、 不 法 行 為 は成 立 しな い。

ま た 、 原 告 は 、 被 告 丙 川 か らの 情 報 を受 け て 、 ソ キ ア株 を購 入 して い る が 、 被 告 丙 川 は、 ソ キ ア株 に つ い て 自 身 が 知 る と こ ろ は、 総 て 伝 え て あ り、 情 報 を 操 作 した り秘 匿 した 事 実 は な い。

他 方 、 原 告 は 、 大 手 証 券 会 社 で 現 物 取 引 を す る とい う素 人 の 手 法 で は な く、

ハ イ リス ク、 ハ イ リタ ー ンの 信 用 取 引 を選 択 して いた 。 また 、 原 告 は、 被 告 乙 山 との ク ロ ス取 引 の ほか に も、 ソ キ ア 株5万 株 を 買 い 付 け て い た の で あ り、 し た が っ て 、 自 らの 投 資 判 断 に よ り、 ソ キ ア株 を 買 い付 け て い た もの とい うべ き で あ る。 原 告 の被 告 丙 川 に 対 す る損 害 賠 償 請 求 は 、 自 身 の 投 資 判 断 に よ る買 付

を、 被 告 丙 川 に 責 任 転 嫁 す る もの で あ る。

加 え て 、 ソ キ ア 株 は、 被 告 乙 山 が 推 奨 した後 、 さ らに2ヵ 月 間値 上 が り を続 け た か ら、 原 告 に は、 ソキ ア株 を売 り抜 け る機 会 は十 分 に あ っ た と い うべ きで あ る 。

以 上 、被 告 丙 川 が ソ キ ア株 を薦 め た行 為 と原 告 の7148万0688円 の 損 害 との 間 に は 、 相 当因 果 関 係 は存 在 しな い 。

な お 、 仮 に 、被 告 丙 川 の 行 為 に 不 法 行 為 が成 立 す る と して も、 原 告 は 、 被 告 丙 川 の 情 報 や 取 引 方 法 等 か ら、 被 告 乙 山 の 意 図 を知 り得 た に もか か わ らず 、 ソ キ ァ株 を売 買 して い た こ と、 他 の 情報 源 か ら ソ キ ア株 に つ い て の 確 認 を して い な い こ と、 信 用 取 引 を して い る こ と、 被 告 乙 山 と通 じて 短 期 間 に大 量 の 売 買 を 行 っ た こ と、 及 び 、 特 段 の 措 置 を と らな い ま ま外 国 に 赴 き、 ソ キ ア株 を 売 却 す る好 機 を見 送 っ た こ と等 の 点 に お いて 、 過 失 が あ るか ら、 過 失 相 殺 が され るべ

4)

き で あ る 。」

5判 旨

まず 、 認 定 され た事 実 は、 次 の 通 りで あ る。 な お 、 以 下 の判 旨 に お い て 一 部

分 に 引 い た下 線 は筆 者 に よ る もの で あ る 。

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判例研究 /O!

「 平 成13年3月 こ ろ、被告 乙山は、 甲川株式会社が資金調逮 のために会社 が保 有 して い る ソ キ ア 株 の 売 却 を検 討 して い る こ との 情 報 を 得 て 、 ソキ ア株 の株 価 が 上 が った と こ ろで 市 場 で 売 れ ば 利 益 が 出 る と考 え、 信 用 取 引 の 方 法 を使 うな ど して、 ソキ ア株llO万 株 を買 い付 けた 。同 年6月 か ら7月 に か け、 被 告 乙 山 は 、 ソキ ア株 を高 値 で 売 り抜 け よ う と考 え、 知 人 の 証 券 ア ナ リス トに 依 頼 して 、 ソ キ ア 株 の 推 奨 記 事 を証 券 雑 誌 に 掲 載 して も らい 、 株 価 を 上 昇 させ た うえ 、 ソ キ ァ株32万9000株 を売 った も の の 、株 価 が 下 落 に転 じた た め、 そ れ 以 上 の 売 却 を 断 念 した 。

被 告 乙 山 は 、 そ の こ ろか ら、 発 行 済 株 式 の 過 半 数 を買 い集 め て ソ キ ア の 経 営 権 を 獲 得 す る こ とや 、3分 の1を 買 い集 め て 、 特 別 決 議 の キ ャス チ ン グボ ー ト

を握 るな ど し、 海 外 フ ァ ン ドな どに高 値 で売 却 す る こ とな ど を考 え始 め て い た 。 そ こで 、 被 告 乙 山 は 、 知 人 の協 力 を得 る こ と と し、 また 、資 金 不 足 で あ っ た た め 、 ソキ ア株 を適 度 に値 上 げ して 、 保 証 枠 を拡 大 した り、益 出 しク ロス 取 引 に よ る売 買 益 を手 に 入 れ る な ど して 、 徐 々 に ソ キ ア株 を買 い集 め て い っ た 。

と ころ が 、平 成13年12月 こ ろ、 被 告 乙 山 は 、保 証 枠 を設 定 して くれ て い たl TM証 券 の 丁 原 社 長 らか ら、 ソ キ ア株 の 信 用 建 玉 の 減 少 を 強 く求 め られ る よ う に な っ た 。 また 、 平 成14年1月 下 旬 か ら2月 上 旬 にか け て 、E1経 信 用 株 式 会 社 の担 当 者 か ら トス トネ ッ ト取 引 に よ る ソ キ ア株 の ク ロ ス 取 引 を これ 以 上 は しな い との連 絡 を 受 けた 。 被 告 乙 山 は 、 ソ キ ア株 の ク ロ ス取 引 をや め る と、 ソキ ア 株 の 買 付 が で きな くな り、 株 価 を 買 い 支 え 、 引 き上 げ る こ とが で きな くな る こ

5)

とか ら、 売 買 取 引 等 を 立 会 内 でせ ざ る を得 な くな っ た。」

「 この よ うな状 況 の 中で 、 ソキア株 の株価 は下落傾 向にあ り、同年4月15Glに は、 同年2月 以来 の最 安 値 で あ る431円(終 値)に な っ た。 そ して 、 同年4月16

日か ら同 年5月10日 ま で の 間 、 被 告 乙 山 に よ り、 本 件 有 罪 判 決 が認 定 した 相 場 操 縦 の 罪 に該 当 す る犯 罪 行 為 が 実 行 され た 。 そ の後 、 ソ キ ア株 は 、 同 月 下 旬 か ら翌 月 上 旬 に か けて500円 程 度 に 回 復 す る こ とは あ った が 、 そ の後 は 、 株 価 は 、

G)

回復 す る こ とな く、 同 年6月28日 に は 、 終 値 で380円 とい う価 格 に な っ た 。」

「 平 成14年2月 下 旬 こ ろ、被告 乙山 らは、早急 に信用建玉 を減 らす こ と、 すな

わ ち 、 ソ キ ア株 の保 有 を減 少 させ る必 要 に 迫 られ て い た た め 、 これ を 直 ち に売

却 す る必 要 が あ っ た 。 そ こで 、被 告 乙 山 は 、 同丙 川 に 相 談 し、 買 い 手 を 見 つ け

(8)

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た 場 合 に は、200万 円 の 報 酬 を支 払 う こ とを 約 束 した 。

この 点 、 被 告 丙 川 は、10億 円 以上 の借 金 が あ っ た か ら、200万 円程 度 の 手 数 料 を受 け取 って も何 の解 決 に もな らな い とす るが 、10億 円 の借 金 が あ るか ら こそ 、 200万 円 と い う報 酬 で あ って も、 原 告 を欺 い て ソ キ ア株 を買 い取 らせ る こ とを 引

き受 け た と解 す るの が 相 当 で あ る。 そ して 、 被 告 丙 川 自身 も、 検 察 官 に対 す る 供述 で 、200万 円 の紹 介 手数 料 に は魅 力 が あ った 旨 を供 述 して い る と ころで あ る。

な お、 被 告 乙 山 は 、 被 告 丙 川 に対 して は 、 単 に ソ キ ア株 の 購 入 を勧 誘 した に 過 ぎ な い と も主 張 す るが 、 被 告 乙 山 との 関 係 に お い て 、 被 告 丙 川 が ソ キ ア株 の 購 入 者 希 望 者 を見 つ けて 勧 誘 す る役 割 で あ っ た こ とは 、 被 告 乙 山 が 被 告 丙 川 に 紹 介 手 数 料200万 円 を 支 払 っ て い る こ とか ら も明 白 で あ る。

被 告 丙 川 は 、原 告 との従 前 か らの 交 際 に よ り、 原 告 が 資産 家 で あ る こ とを知 っ て い た 。 そ こで 、 被 告 丙 川 は、 原 告 な らソ キ ア株 を 買 っ て くれ る だ ろ う と考 え、

原 告 に対 し、 『 今 、 ソ キ ア株 を買 っ て お け ば値 上 が り して儲 か ります よ。 あ る人 が ソキ ア株 を売 りに出 して い るの で 、そ れ を買 われ た ら ど うで す か 。 』な ど と言 っ

て 、 ソ キ ア株 の 買 付 を 推 奨 した。」

この よ うな 事 実 認 定 に 基 づ き、 裁 判 所 は 、 まず 被 告 らの 共 謀 につ い て 、 次 の よ う に判 示 した 。

「 以 上 に よれ ば 、被 告丙川 は、本件 有罪判 決の対象 となった被 告乙山の行為 だ け に と どま らず 、 同被 告 が ソ キ ア 株 を仕 手 株 と して運 用 して い た こ とを 全 般 的 に認 識 してお り、 そ のた め、原 告 が 前 記25万 株 の ソ キ ア株 を購 入 した こ とに よっ て、 原 告 に 多 額 の 損 害 が 発 生 す る危 険 が あ る こ とを予 め 予 想 す る こ とが で き 、 現 実 に も多 額 の 損 害 が 発 生 した事 実 を知 っ て い た こ とが 認 め られ る。 また 、 被 告 丙 川 は、 被 告 乙 山 か らの 依 頼 に よ り、 原 告 が 損 を す る可 能 性 が 高 い状 況 に誘 導 した も の で あ り、 報 酬 の 授 受 に 象 徴 され る よ うに両 者 間 に は 、 明 らか に共 謀

8)

が あ った こ とが 認 め られ る。」

「 また 、被告 乙山は、原 告の主張 について、要す るに、原告 は、被 告乙山が被

告 丙 川 に 対 し、 『 丙川 さん の 方 で 、 どな た か ソ キ ア株 を買 い取 っ て くれ る人 を紹

介 して くれ ませ ん か 。』 と述 べ た 行 為 を もっ て 、被 告 丙 川 との共 謀 で あ る と論 じ

て い るが 、 この よ うな 買 主 を特 定 して い な い 、 単 な る依 頼 行 為 が 詐 欺 行 為 の 共

謀 で あ る はず が な い と反 論 す る。

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判例研究 103 しか し、 被 告 らが 取 り扱 って い た ソ キ ア株 は 、 い わ ゆ る仕 手 株 で あ り、 急 激 な価 格 変 動 が 起 き る可 能 性 を帯 び て い る も の で あ る。 した が っ て 、 証 券 取 引 に 不 慣 れ で 、 証 券 取 引 の実 情 に通 じて い な い者 が 、 投 資 の 対 象 と して 容 易 に取 り 扱 え る種 類 の もの で は な い 。 そ れ に もか か わ らず 、 被 告 丙 川 は 、 原 告 に 対 し、

仕 手 株 の 実 情 を説 明 した り、 ソキ ア株 が 相 当 に危 険 性 を 帯 び た株 式 で あ る こ と を 告 げて い な い。 ち な み に、 後 に な っ て 、被 告 丙 川 自身 、 原 告 に 対 し、 早 期 に 売 り抜 け る こ とを ア ドバ イ ス す べ きで あ っ た 旨 の供 述 を して い る程 で あ る(甲

2)。 ま た 、株 取 引 の プ ロで あ る被 告丙 川 が この よ うに供 述 す る くらい で あ る か ら、 同 じ く株 取 引 に携 わ っ て きた 被 告 乙 山 が ソ キ ア 株 の 危 険 性 を知 らな い訳 は な い。 要 す る に、 被 告 ら は 、 それ ぞ れ の 利 益 を確 保 す る た め に 、 株 取 引 に不 慣 れ な者 に 蔀 情 を説 明 す る こ とな く、 危 険 な ソ キ ア株 を 引取 らせ よ う と して い た の で あ る。 な お 、 買 い 主 は、 株 取 引 の専 門家 で な けれ ば、 む しろ好 都 合 で あ り、

しか も、 自分 達 の 知 らな い 人 間 に売 っ て しま っ た 方 が 、 被 告 ら双 方 に とっ て 、 さ らに得 策 で あ っ た は ず で あ る。 この よ うな事 情 に鑑 み れ ば 、 買 い 主 を特 定 し て い な い か ら、 共 謀 が 成 り立 た な い とす る被 告 乙 山 の主 張 は、 到 底 、 採 用 す る

こ とは で き な い 。」

そ の 上 で 、 原 告 の被 っ た 損 害 に つ い て 、 この よ うに判 示 した。

「 以 上 に よれ ば 、原 告 は、株取 引の専 門家 であ る被告 らの都合 に より、仕手株 を値 上 が りが 期 待 で き る優 良 な株 式 で あ る と誤 信 させ られ 、 ソキ ア株 を大 量 に 買 付 させ られ た も の で あ り、 そ の 結 果 、 多 額 の 損 害 を 受 け る に 至 っ た こ とが 認 め られ る。

そ こで 、被 告 らの共 同 不 法 行 為 に よ り、 原 告 が受 け た 損 害 に つ い て検 討 す る が 、 《 証 拠 略 》 に よれ ば 、 そ の 損 害 額 は 、 原 告 主 張 の とお り7148万0688円 で あ

ia)

る こ とが 認 め られ る。 」

ま た、 原 告 の損 害 と被 告 丙 川 の 勧 誘 との 因 果 関係 に つ い て 、 こ の よ う に述 べ た 。

「 な お 、 被 告 丙 川 は、 被 告 乙 山 が 推 奨 した 後 、 ソ キ ア株 が さ ら に2ヵ 月間 、 値

上 が りを 続 け た こ と を も っ て 、 原 告 に は 高 値 で 売 り抜 け る機 会 が あ っ た に もか

か わ らず 、 特 段 の 措 置 を と らず に外 国 へ 行 くな ど して 、 そ の機 会 を 逃 した の だ

か ら、 被 告 丙 川 が ソ キ ア株 を 勧 め た こ と と、 原 告 の 損 害 との 問 に は 、 因 果 関 係

(10)

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が な い と 主 張 す る 。 Aを か け て お り、

しか し、 原 告 は 、 被 告 丙 川 か ら、 あ る人 が ソ キ ア株 にM&

1株1200円 ま で も っ て い くが 、800円 で 売 り抜 け て 下 さ い と言 われ て お り、 原 告 と して は、 その 被 告 丙 川 言 葉 に従 っ て 、株 価 が800円 に な る ま で待 っ て い た の で あ るか ら、 原 告 が 被 告 丙 川 主 張 の 期 間 内 に売 り抜 けを しな か っ

n)

た こ と を も っ て 、 原 告 の 責 任 を 問 う こ と は で き な い 。」

最 後 に 、被 告 丙 川 が 主 張 す る過 失 相 殺 に つ い て 、 次 の よ うに 判 示 した 。

「 さ らに、被告丙川 は、仮に、被 告丙川 の行為 に不法行為が成立す る として も、

原 告 は、 被 告 丙 川 の情 報 や 取 引 方 法 等 か ら、 被 告 乙 山 の 意 図 を 知 り得 た に もか か わ らず 、 ソ キ ア株 を 売 買 して い る こ と、 他 の 情 報 源 か ら ソ キ ア株 に つ い て の 確 認 を して い な い こ と、信 用 取 引 を して い る こ と、 被 告 乙 山 と通 じて 短 期 間 に 大 量 の 売 買 を行 っ た こ と、 及 び、 特 段 の 措 置 を と らな い ま ま外 国 に 赴 き 、 ソ キ ァ株 を 売 却 す る好 機 を見 送 っ た こ と等 の 点 に お いて 、 過 失 が あ るか ら、 過 失 相 殺 が され るべ きで あ る と主 張 す る。

しか し、被 告丙 川 は、 証 券 会 社 に 勤務 し、 証 券 取 引 の専 門家 で あ るの に対 し、

原 告 は、 証 券 取 引 に つ い て は 、 専 門 家 で は な い 。 また 、 原 告 が 被 告 乙 山 の意 図 を知 り得 た こ とを 認 め る に足 りる証 拠 もな い。 した が っ て 、 被 告 丙 川 の 過 失 相

iz)

殺 の 主 張 は 、 認 め ら れ な い 。」

6批 評

株 式 市 場 に は、 い わ ゆ る 「 仕 手 株 」 とい わ れ る株 式 が 存 在 す る。 とい うよ り も、 「 仕 手筋 」また は 「 相 場 師 」とい わ れ る、い わ ば クロ ウ トの 投 機 家(speculator) が 狙 い をつ け て 時 価 相 場 を動 か す 対 象 とな っ て し ま う株 式 が 存 在 す るの で あ っ

て 、 そ れ が 「 仕 手 株 」 で あ る。 大 量 の 株 の売 買 を して 時 価 を 高 騰 させ た り、 下 落 させ た りす る こ とに よ り、 売 買 差 益 で 儲 け よ う とい うの で あ るか ら、 金 融 商 品 取 引 法 で 禁 止 され て い る相 場 操 縦 罪 と い う犯 罪 を行 っ て い る者 とい っ て よい 。 た だ、 犯 罪 の 立 証 の 困 難 性 が摘 発 を 見逃 す 結 果 とな っ て い るだ けで あ る。 「 仕 手 株 」 に は、 「 資 本 金 が 小 さ い の に浮 動 株 が 多 く市場 性 の 高 い銘 柄 、 業 績 の 好 不 調

13)

の 波 が 大 き くて強 弱 感 が 対 立 しや す い 銘 柄 が 対 象 とな りや す い。」 とい わ れ る。

だ か ら こ そ、 会 社 経 営 者 と して は、 発 行 株 式 が 仕 手 株 と して 狙 わ れ な い よ う に

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判例研究 ios

す る た め に、 業 績 を安 定 させ 、 か つ増 資 を して資 本 金 を増 加 す る努 力 が 必 要 で あ る こ と に な る。21世 紀 の証 券 市 場 に この よ うな取 引 が 存 在 す る こ と自体 、一 種 奇 妙 な 現 象 の 感 も す るが 、 一 般 株 主 や 経 営 者 ・従 業 員 た ちの 預 か り知 らな い と ころ で 「 仕 手 株Jに な って しま っ て い る株 式 が 存 在 す るの も現 実 で あ り、証 券 市 場 に はつ き もの とい う しか な い 。本 件 で取 引 の対 象 とな った の は、 この 「 仕 手 株 」 と位 置 づ け られ た ソ キ ア株 で あ っ た。 もち ろ ん 、 発 行 会 社 で あ る株 式 会 社 ソキ ア ・ トプ コ ン 自体 は、 本 件 損 害 賠 償 事 件 や 相 場 操 縦 事 件 とは ま っ た く関 連 が な い。 た だ 、 不 幸 に も ソ キ ア 株 が 、 仕 手 筋 で あ る本 件 被 告 に よ り相 場 操 縦 さ れ て しま っ た 。 そ して 、 ソ キ ア 株 が こ の よ うな 「 仕 手 株 」 で あ った こ と は、

後 述 す る よ うに 、 本 件 に 対 す る裁 判 所 の 判 断 に大 き く影 響 した の で あ る。

相 場 操 縦 禁 止 規 定 に 違 反 した者 に 対 す る損 害 賠 償 事 件 につ い て は、 金 融 商 品 取 引 法(旧 証 券 取 引 法 、 以 下 「 金 商 法 」 とい う)第160条 に規 定 が あ る。 同 規 定 は 、 第159条 に お い て 禁 止 す る相場 操 縦 を行 った 者(相 場 操 縦 者)は 、 相 場 操 縦 行為 に よ り損 害 を受 けた 投 資 家 に対 して 損 害 賠 償 責 任 を負 う と して い る。 同規 定 の 損 害 賠 償 責 任 の趣 旨つ い て は、 民 法 の 不 法 行 為 に よ る損 害 賠 償 責 任 と同趣 旨 の も の で あ る とす る説 と市 場 機 能 が 阻 害 され た証 券 市 場 に よ る誤 っ た 資 源 配

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分 を原 状 復 帰 させ る こ とを 目的 とす る説 とに分 か れ る。 前 者 は 、 本 条 が 民 法 第 709条 の 特 則 で あ る との理 解 に基 づ くもの で あ り、 現 在 の 通 説 で あ る。 これ に対 して 、 後 者 は、 本 条 が 証 券 市 場 に お い て 不 当 に資 金 が 配 分 され た 場 合 に 、 耶 後 的 に資 金 を 一 度 供 給 者 の 手 に 戻 す 制 度 を 設 け る こ と に よ り、再 び 証 券 市 場 に 当 該 資 金 が供 給 さ れ 、 最 終 的 に は 証 券 市 場 の 適 正 な 資 源 配 分 機 能 が 維 持 され る こ とを 目的 と して い る と考 え る。 この点 につ いて は、 金 商 法 第160条 を ど う と らえ るか とい う よ り も、 金 商 法全 体 を どの よ うに と ら え る か に か か っ て い る とい え よ う。 筆 者 の見 解 で は、 金 商 法 は 「 証 券 市 場 の公 正 性 ・健 全 性 を確 保 す る こ と

15)

を 目的 とす る法 律 」 で あ る と考 え て い るの で、 第160条 に つ い て は 、後 者 の 「 証 券 市 場 の 適 正 な 資 源 配 分 機 能 を維 持 す る規 定 」 との 見 解 を 支 持 す る。

な お 、金 商 法 第160条 に基 づ き損 害 賠 償 を請 求 す る者 は 、相 場 操 縦 が 行 わ れ た

こ と、 その 行 為 が 相 場 価 格 に影 響 を 与 え た こ と、 な らび に 当 該 相 場 操 縦 に よ り

請 求者 が 損 害 を 被 っ た こ と立 証 しな けれ ば な らな い。 一 般 に投 資 家 が この よ う

な立 証 を行 う こ と は、 現 実 的 に は至 難 の 業 で あ る。 現 に 、 相 場 操 縦 に関 す る損

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害 賠 償 請 求 事 件 は、 きわ め て 少 な い。 過 去 一 つ だ け 判 例 が 存 在 して お り、 そ れ が 三 菱 地 所 事 件 で あ る。 しか し、 こ の事 件 に して も、 相 場 操 縦 者 自身 に対 す る

ir)

民 事 責 任 を追 及 す る事 案 で は な か っ た。 同 事 件 の 素 描 だ け は して お こ う。

一 般 投 資 家 で あ る原 告 は 、 昭 和48年1月 に時 価 発 行 増 資 を行 っ た 三 菱 地 所 の 株 式 を そ の 前 年 よ り継 続 して証 券 取 引所 を 通 じ て 買 い 付 け、1年 余 後 に こ れ を 売 却 した と ころ 、 同 社 株 式 価 格 の 値 下 が りに よ り240万 円余 りの 損 失 を被 っ た 。 原 告 は、 この 損 失 が 三 菱 地 所 の 幹 事 証 券 二 社 が 相 場 操 縦 を行 い 、 同社 株 価 を 吊

り上 げ て い た た め に発 生 した もの で あ る と して 、 東 証 と大 証 が 相 場 操 縦 につ き 監 視 義 務 が あ る と ころ これ を解 怠 した こ とを 理 由 に 、 両 証 券 取 引 所 に 対 して不 法 行 為 に よ る損 害 賠 償 を請 求 した とい う事 案 で あ る 。 つ ま り、証 券 取 引所 の管 理 監 督 責 任 の迫 及 で あ る。 本 件 に お け る原 告 の 請 求 は 認 め られ て い な い 。 三 菱 地 所 に よ る相 場 操 縦 の事 実 、 当該 相 場 操 縦 と原 告 の被 っ た 損 害 との 因 果 関 係 の 立 証 が で き な か った た め で あ る。

元 来 、相 場 操 縦 の立 証 は検 察 と して も なか な か 困 難 で あ る とされ て い るの に 、 一 般 投 資 家 が 民 事 責 任 を 問 うの に 立 証 が どれ ほ ど難 しい こ とで あ るの か 。 この 点 を鑑 み る と き、金 商 法 第160条 に つ い て は 、 立証 責 任 の 転換 な どの 何 らか の立 法 的 な 措 置 を と ら な い 限 り、 そ の適 用 され る事 案 は今 後 も出 て こな い で あ ろ う

とは い え 、 ソ キ ア株 に 関 す る本 件 は、 相 場 操 縦 に 関 す る損 害 賠 償 事 件 で は あ る もの の 、 相 場 操 縦 禁 止 規 定 に違 反 した 者 に 対 す る損 害 賠 償 事 件 で は な い 。 正 確 に言 う と、 相 場 操 縦 が 行 わ れ た銘 柄 の 株 式 取 引 に 関 す る損 害 賠 償 請 求7件 で

あ る。 以 下 、 判 旨 につ い て 、 分 説 す る。

(1)不 法 行 為 の 共 謀

本 件 に お け る被 告 ら の原 告 に対 す る不 法 行 為 の 共 謀 と は、 詐 欺 の 不 法 行 為 、 っ ま り被 告 らは原 告 に損 害 が 発 生 す る危 険 が あ る こ とを 予 測 して い た に もか か わ らず 、 原 告 が 同 株 で 儲 か るか の よ う に欺 岡 す る意 図 を も っ て 、 ソ キ ア株 を買 うよ うに 仕 向 け た こ とを そ の 内 容 とす る。 被 告 ら は、 そ の よ うな 意 図 は な く、

い わ ゆ る原 告 は そ の 自 己責 任 に基 づ い て ソ キ ア株 を購 入 した もの で あ る と主 張

した が 、 被 告 乙 山か ら被 告 丙 川 へ の200万 円 の手 数 料 の授 受 が あ っ た こ と、 な ら

び に ソ キ ア株 が 仕 手 株 で あ る こ と も相 当 に危 険性 を帯 び た 株 式 で あ る こ と も告

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判例研究 ion げ て い な い こ とで 、 被 告 らの 詐 欺 の 不 法 行 為 の 共 謀 が あ っ た と認 定 され て い る。

な お 、 本 件 と相 場 操 縦 との 関係 性 につ い て 検 討 す る。 被 告 乙 山 は、 東 京 証 券 取 引所 に 上 場 され て い る ソキ ア株 につ いて 、 株 価 の高 値 形成 を図 る こ とを企 て 、 平 成14年4月16日 か ら同年5月10日 まで の 間 、連 続 した 成 行 注 文 等 に よ り、 高

値 を買 い 上 げ た り、 大 量 の下 値 買 い を 入 れ て 下 値 を 支 え る な どの 方 法 で 、 同株 式 を405円 か ら530円 ま で高 騰 させ た ほか 、 多 数 の仮 装 売 買 を行 っ た とい う相 場 操 縦 の 罪 で 、 平 成18年7月19日 、大 阪 地 方 裁 判 所 に よっ て執 行 猶 予 付 き有 罪 判 決 を受 け 、 同 年8月3日 、 そ の刑 が 確 定 して い るが 、 筆 者 の 見 解 で は 、 平 成13 年3月 以 降 、 す で に 断 続 的 に 相 場 操 縦 が 行 わ れ て い た と見 るべ きで は な い か と 思 料 す る。 とい うの も、 同 時 期 以 降 、被 告 乙 山 は 、 大 量 買 付 け、 推 奨 記 事 の掲 載 、 高 値 売 却 の た め の 知 人 に よ る買 付 け 協 力 依 頼 な どの行 為 を行 っ て い る か ら で あ る。 大 阪 地 裁 の刑 衷 事 件 審 理 で は、 平 成14年4月161aか ら 同年5月10日 の 間 の 明 らか な相 場 操 縦 が 立証 され た だ けで あ り、 その 違 法 行 為 は 、 す で に ほ ぼ 1年 前 か ら始 ま って いた 、 あ るい は そ の 準 備 が 始 ま っ て い た とい うべ きで あ る。

原 告 が 「 被 告 乙 山 は、 ソ キ ア株 の株 価 を操 縦 して お り、 そ の 過 程 に お い て高 値 で売 却 す る必 要 が あ っ た が 、 そ の 受 け皿 とな る買 い手 を 必 要 と して い た。 買 い 手 が 注 文 した と こ ろ で売 れ ば、 値 を 下 げず に 売 る こ とが で き る訳 で あ る」 と推 測 して い る こ と は故 な き こ とで は な い。 被 告 丙 川 は、 そ の よ うな趣 旨 を知 りな が ら、 その こ と を原 告 に 告 げ ず に 買 付 を勧 誘 した もの で あ る と考 え られ る。

(2)因 果 関 係

被 告 らは 、 原 告 の 損 害 と被 告 らの 推 奨 行 為 との 間 に 因 果 関係 が な い と主 張 し た が 、 この 点 につ い て は、 被 告 丙 川 が 原 告 に 「 あ る人 が ソ キ ア 株 にM&Aを か け て お り、1株120円 まで も っ て い くが 、800円 で 売 り抜 けて 下 さ い 」 と述 べ て い た こ とが 事 実 認 定 され て、 損 害 との 因 果 関 係 が 認 め られ て い る。

(3)過 失 相 殺

また 、被 告 らは 、 仮 に不 法 行 為 が あ っ た と して も、 原 告 が被 告 丙 川 の 情 報 や

取 引 方 法 等 か ら、被 告 乙 山 の 意 図 を知 り得 た に もか か わ らず 、 ソ キ ア株 を売 買

して い る こ と、 他 の 情 報 源 か ら ソ キ ア株 につ い て の 確 認 を して い な い こ と、 信

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用 取 引 を して い る こ と、被 告 乙 山 と通 じて 短 期 間 に 大 量 の売 買 を行 っ た こ と、

及 び、 特 段 の 措 置 を とら ない ま ま外 国 に赴 き、 ソキ ア株 を売 却 す る好 機 を見 送 っ た こ と等 の 点 に お いて 、 原 告 に も過 失 が あ っ た と主 張 し、 過 失 相 殺 を主 張 した 。

この 点 につ い て 、 判 決 は 「 被 告 丙 川 は、 証 券 会 社 に勤 務 し、 証 券 取 引 の専 門 家 で あ るの に対 し、 原 告 は 、 証 券 取 引 につ い て は 、 専 門家 で は な い 。 ま た 、 原 告 が 被 告 乙 山 の意 図 を知 り得 た こ とを 認 め る に 足 りる証 拠 も な い。 した が っ て 、

17)

被 告 丙 川 の 過 失相 殺 の主 張 は、認 め られ な い 。 」 と した。判 決 が原 告 に つ い て 「 証 券 取 引 にっ い て は 、 専 門家 で は な い 」 とみ る点 につ い て は 、 は た して ど うで あ ろ うか 。被 告 丙 川 が そ の主 張 で 「 原 告 は 、 大 手証 券 会 社 で 現 物 取 引 を す る と い う素 人 の手 法 で は な く、 ハ イ リス ク 、 ハ イ リ ター ンの 信 用 取 引 を選 択 して い た。

また 、 原 告 は、 被 告 乙 山 との ク ロ ス取 引 の ほ か に も、 ソ キ ア株5万 株 を買 い 付

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けて い た」 とい う点 に つ い て 、 判 旨 は特 に何 の認 定 もせ ず に 、 原 告 が 「 証 券 取 引 につ い て は、 専 門 家 で は な い 」 と言 うの は 、 い く ら被 告 ら と相 対 的 に み て専 門 家 で は な い との趣 旨だ と して も、 少 し呑 気 な見 方 で は あ る ま い か。 筆 者 は 、 原 告 に も過 失 が あ っ た と考 え て お り、過 失 相 殺 が 認 め られ るべ き事 案 で あ っ た

と思 料 す る。

1)判 例 時 報1995号99頁 。 2)判 時1995号100頁 以 下 。 3)判 時1995号 且01頁 。 4)判 時1995号101頁 以 下 。 5)判 時1995号102頁 。 6)判 時1995102頁 。 7)判 時1995号102頁 以 下 。 8)判 時1995号103頁 。 9)判 時1995号io3頁 。 io)判 時1995号103頁 。 lD判 時1995号103頁 以 下 。 12)斗 矧ほ 寺 且995号104頁 。

13)蝋lLl昌 一 監 修 ・資 本 市 場 研 究 会 編 『 証 券 用 語 辞 典(第4版)』 東 洋 経 済 新 報 社 ・1995年 140頁 。

14)神 田 秀 樹 監 修 ・野 村 謹 券 株 式 会 社 法 務 部 川 村 和 夫 編 『 注 解 証 券 取 引 法 』 有 斐 閣 ・1997年

n61頁 以 下 。

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判例研究 109

15)加 賀 譲 治 『 証 券 相 場 操 縦 規 制 論 』 成 文 堂 ・2002年3頁 。 16)加 賀 ・前 掲 欝232頁 以 下 。

17)判 時1995号104頁 。 18)判 時1995号102頁 。

(本学 法 学部 教授)

参照