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豊 原 重 軌 著 『 百 華 辨 』

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(1)

豊原重軌著『百華辨』 三一 はじめに

  本稿は、 豊原重軌『百華辨』 (写本一冊、 享保九年自序、 個人蔵)の 翻 刻 紹 介 を 目 的 と す る 。 豊 原 重 軌 は 、『荘 内 孝 子 伝』 や 『流 年 録』 の 著 者として知られている人物だが、その新出資料の紹介である。

  まず、豊原重軌について、これまで知られていることを簡単に確認 し て お き た い 。『新 編 庄 内 人 名 辞 典』 (庄 内 人 名 辞 典 刊 行 会、 昭 和

61 年   豊原 重軌(とよはらしげみち) 11 月)に、以下のようにある(原文は横書き) 。

  多助

・ 止柳子   天和1( 1681 )~寛延4( 1751 )7.

24

篤学者。祖父の佐助は本国が越前で、最上家に家臣として仕えた が、その改易後は浪人となり、寛永

勝に禄 10 1633 年( )庄内藩主酒井忠

100 石で召抱えられる。重軌は僅か3歳のとき父を失ったた 書院目付、享保 1715 め 家 禄 没 収 と な り 、 の ち に 7 人 扶 持 を 与 え ら れ た 。 正 徳5 年 ( )

11 1726 年( )年郡奉行と歴任して新知

れる。さらに享保 100 石を給さ 16 1731 年( )町奉行、同

行と進んで禄 18 1733 年( )酒田町奉 3,000 また古歌 首を暗誦したという。 性篤実で博覧強記、 「源氏物語」 、「伊勢物語」等の古典に通暁し、 200 1750 石に加増となり寛延3年( )まで在職した。

ら れ る 。 著 書 「塩 梅 問 答」 「流 年 禄」 「庄 内 孝 子 伝」 「よ し な し 草」 71 歳で没し、 鶴岡本住寺に葬   さらに、 中台元『荘内人物誌』 (写本、 十巻、 鶴岡市郷土資料館蔵) には、その人となりが記されている。

   豊原多助重 範

(ママ)

号止柳子喜唫国風諳記者不下三千首

  豊原多助、 名ハ重 範

(ママ)

、 止柳子ト号ス。人トナリ篤実ニシテ風流 ノ士也。弱冠ナリシトキ、十一代ノ歌集、源語、勢語、狭衣ノ類 ヲ翫ヒ、尤記臆強ク古歌三千余首ヲ諳記シタリ。花ニ対シ月ニ嘯 豊原重軌著『百華辨』

伊   藤   善   隆

(2)

立正大学大学院紀要   三十四号 三二 キ、古キ歌ヲ吟シテ独其意ヲ楽シム。或時友ノ許ニ来リ花ヲ賞セ シニ、 重 範

(ママ)

例ノ如くク硯引寄セ、 トミニ古歌百首ヲ書テ吟咏セラ レ シ カ、 皆 是 桜 ノ 歌 ナ リ キ。

大泉叢誌中玄斎筆記

又或日、誰カレマカリテ雑談 シ ケ ル ト キ 、 重 範

(ママ)

君 ニ ハ 源 氏 ニ 委 シ ト ナ ン 承 ル 。 何 レ ノ 巻 ソ 初 ヨ リ終迄歌ヲ吟シテ聞セ玉ヘト乞ケレハ、ヤスラカニ受テ榊ノ巻ヲ 朗吟セラル。人々巻ヲ披キテ閲スルニ、 重 範

(ママ)

ノ吟誦流ルヽカ如ク ニシテ露タカワス。唯一二首前後ノ相違有ノミナレハ、坐中其強 記ナルニ驚歎ス。又心詞ノ解シ難キ歌ヲ問フニ、答ヘスト云コト ナシ。シカハアレト、如何ナル旨意アリテヤ、自ラ歌ヨムコト稀 也。生涯ノ自詠僅一二首ニ過ス。其同姓ナリケル人、大和国郡山 ニ住ケルカ許ヘ送ラレケル、并ニ妻ニ別レシトキノ長歌等左ニ記 ス。

   大和国ナル人ニ送リ侍ル 柴ノ戸ニ月モ桜モ有ナカラ猶ユカシキハ都ナリケリ 七ソチノ坂ヲケフ越跡見レハ霞隠レニ遠キコシ方    返シ

郡山ヨリ来リシ返歌ナリ

コトシケキ都ノ空ノ月ヨリモヒナヤ心ノスミマサルラン 国ニツク杖ヲヨハヒノ麓ニテ猶モチトセノ坂ヤ越ヘナン

   妻ニワカレヌル頃ヨメル長歌 袖ノウラ   ウラ吹風モ   イト寒キ   雪ノ下道   カキワケテ   来 ニケル年ヲ   カソフレハ   ハヤ七トセニ   ハマ千鳥   鳴音ヲ夜 半 ノ 友 ト シ テ   明 シ 暮 セ ハ   サ ス カ マ タ   ナ ラ ヒ ニ ケ リ ナ   サ

(ママ)

ヒシモ   我身ノ常ト   ナリヌレハ   カクテモヨシヤ   世ノ中 ノ   人ノ心ノ   花ノ色ニ   ソメシ袂モ   ムカシニテ   ナルレハ 今ハ   アラタヘノ   布キヌ身ニモ   寒カラス   秋モイツシカ   呉羽トリ   アヤシク妹カ   オキモセス   寐モセテ空ヲ   ナカメ シカ   折カラナレヤ   初シクレ   フリミフラスミ   定メナク   過行ホトニ   オホアラキノ   森ノ下艸   冬カレテ   浅茅ニオケ ル   朝シモノ   終ニハカナク   キヘハテヌ   夢カ幻カ   シラ玉 カ   何ソト人ノ   トフマテフ   袖ノ涙ハ   雨トナリ   雲トヤナ ラン   ナラノ葉ノ   イヽアワセツヽ   ソヨ〳〵ト   イツチ散ラ ン   タ

(ママ)

マクレ   過ニシ跡ヲ   ツク〳〵ト   思ヒ出レハ   逢見シ モ   ハタトセ余リ   ナレ来ヌル   ヨルノ衣モ   サエ〳〵ト   庭 白タヘニ   シラ雪ノ   フルノ中道   中々ニ   カタミノ衣   コロ モ経ハ   オモヒ忘ルヽ   事ヤアラマシ

  玄斎云此歌ハ冗長ニシテ聊調ヲ失ストモイフヘキ歟。シカ ハアレト、古キ歌ニ委シキ人ユヘニ、ツヽケカラモ拙ナカラ ス。初ヨリ中マテハ酒田御家中ト成テ彼地ニ下ラレシコトヲ ヨミ、袖ノ浦ハ名所ナレハ起句ニ用ヒラレタリ。マタ霜月ノ 半 頃 ニ 其 妻 死 去 セ ラ レ シ ユ ヘ ニ 、 雪 ノ 下 道 ト ツ ヽ ケ シ モ ノ 也。 此止柳子ノ著書ニ、ヨシナシ草二巻アリ。古歌ノ詞ヲ俚諺ニ テ解セシモノナリ。童蒙ノ為ニハ有益ノ書ニシテ、必見ルヘ

(3)

豊原重軌著『百華辨』 三三 キ者ナリ。外ニモ著述アリヤ、未タ知リ侍ラス。

以上大泉叢誌中玄斎筆記

  玄斎又云、 此重 範

(ママ)

ハ久米景山ト同時ノ人ト見ユ。其友ノ古 歌ノ詞ヲ問ヘルニ、答ヘタルコトヲ書タル、ヨシナシ草トイ ヘル書二巻、 シカモ重 範

(ママ)

ノ自筆ナルヲ、 予蔵セリ。廉女ヨリ ハ先輩ナレハ、国学一向開ケサルトキナルニ、古辞ヲ解セル 良 説 甚 多 シ 。 併 皆 胸 臆 ヨ リ 出 タ ル モ ノ 故、 誤 解 モ 少 ナ カ ラ ス 。 白固大人見ラレテソレニ書添玉ヘルニ、己又愚カナル考ヲモ 書加ヘテ常ニ机ノ側ニ置ヌ。此外、止柳日記ト題セル書一巻 アリ。止柳ハ其号ナリ。幼年十一歳ヨリノ事ヲ書留タル冊子 ニテ、元ハ七口ノ月俸ノミニテ、一人ノ老母ニ孝養ノ心ユカ サル事ナト歎キタル章ナト、イトアワレニ見ユ。器量モアリ シカハ、追々登庸セラレ、百石余ニテ御郡奉行ヲ命セラレシ トキ、鱒淵村ナル農民与総左衛門トイヘル者、至孝ノ旨を推 挙 シ テ 御 褒 美 ヲ 賜 リ シ ハ 、 享 保 十 一 年 午 十 一 月 也。 即 日 重 範

(ママ)

カ宅ヘ与総左衛門ヲ招ネキ、自ラ配膳シテ、嫡子多助ニ給仕 ヲサセテ、饗応セシコトナトヲ記セリ。此人荘内孝子伝ヲ著 ハシ、此画ハ藤如陵カ筆也。豊原厳内カ家ニ伝ヘ持タリ。公 義官板孝義禄ナトモ、荘内孝子伝ノ分ハ多ク豊原カ孝子伝ヨ リ書出セリト見ユ。江戸ニ祗役スルトキ、定府富田新平甚不 敬ノ振舞ヲナシテ御家ヲ立退タルヲ、泰仁公深ク御憎アリテ 三都ヲ御尋アリシカトモ、 行衛知レサリシヲ、 重 範

(ママ)

鎌倉ヘ御 名代参詣ノ道ニテ行逢、忽搦捕テ召連帰リシカハ   公ノ御悦 斜ナラス。黄金若干ヲ賜ヒ称誉シ玉ヒケル。其金子ニテ甲冑 ヲ求タルコトナトヲ記セリ。此日記、豊原家ニ蔵セスト聞シ マヽ、今ノ厳内ニ、予与へたり。斯忠孝ノ事、神仏も擁護ア リケン。後々は二百石ニテ亀崎ノ市正ニ迄ナリタリ。循吏ノ 誉アリテ、今ニ其善行古老ノ古碑ニ残ル者多シ。兎に角立身 ヲスル人ハ、孝子ノ門ニ出ル者也。忠孝ノ志ナキ者ハ、何事 モ出来兼ルモノ也。是レ天心ニ背ケルカ故也。扨、彼富田新 平ハ多助カ召捕、 子供両人ハ葛西郷ニ忍ヒ居タルヲ、 搦捕リ、 父子三人庄内ヘ下サル。此時道中付添ハ、日向清衛門、上野 加兵衛也。富田父子三人、獄中ニテ病死セリト、藤力筆記ニ アリ。

大泉叢誌中弘采録抄

(巻三所収。引用にあたり、句読点を適宜補った。 )   以上には、文芸に通じていた一方で、不敬の振る舞いのあった家中 の 者 を 忽 ち 搦 め 捕 る な ど 、 ま さ に 、「篤 実 ニ シ テ 風 流」 で あ った そ の 人 柄が具体的に記されていて興味深い。

  引用文中には、著書として『よしなし草』と『荘内孝子伝』の名前 が あ げ ら れ て い る が 、『百 華 辨』 に つ い て は 触 れ ら れ て い な い 。 と す れ ば、底本はこれまで知られていなかった重軌の著作である。古歌三千 首 を 暗 唱 し て い な が ら も 、 自 ら 歌 を 詠 む こ と が な か った と す る と 、『百 華 辨』 は 、 重 軌 の 文 芸 的 な 著 作 と し て 貴 重 な も の で あ る と も い え よ う 。

(4)

立正大学大学院紀要   三十四号 三四   なお、右の引用文中の「止柳日記」だが、現在、重軌の日記として は 、『山 形 縣 史』 資 料 編 五 (昭 和

巻」で下巻は「闕本」とのこと)が知られている。   三 に「 流 年 録 豊 原 多 助 重 軌 筆 記 」 と 題 し て 収 録 さ れ る も の( 「 上 ノ 36 年5 月) 所 収 「鶏 肋 編 上」 巻 第 七 十   さて、本書の内容は、草花をテーマとした随筆である。その特徴の 一つは、本文中で典拠とした古典作品に関する頭注が付されているこ と で あ る 。 自 序 で 「標 ー 注 し ぬ る は 人 に さ と さ し め ん と に は あ ら ず 。 み つから後に迷ん事を思ひて也」と言及されているとおり、博覧強記で あった重軌であってみれば、この頭注も自ら記しており、それが本書 の趣向の一つでもあったのだろう。

  そして、 本書の特徴のもう一つは、 古典の世界の草花のイメージと、 自分が実際に目にした草花の知見とを重ね合わせながら叙述していく 点である。こうした姿勢は、文学と自然科学が現代ほど乖離していな かった当時の知識のあり方を示していると言えよう。つまり、たとえ ば延宝期の『宮城野』をはじめ、 宝暦期の『海の幸』 、 あるいは天明期 の『絵本虫撰』等々、植物や昆虫、魚介の図譜に発句や狂歌を組み合 わせて制作された絵俳書や狂歌絵本があるが、そうした作品にも通じ るような、江戸時代の人々ならではの自然に対する眼差しを感じるこ とができるだろう。文芸や自然を楽しんでいた当時の人々の姿勢を、 具体的に読み取ることができる随筆作品として価値は高い。ここに翻 刻紹介する所以である。   なお、序文を記した文虹だが、国文学研究資料館編『酒田市立光丘 文庫俳書解題』 (明治書院、 昭和

る。 「 博 学 多 芸 ノ 君 子 タ ル コ ト、 荘 内 ニ テ ハ 五 尺 ノ 童 子 モ 知 ル 所 也 」 と あ は 、「俳 諧 モ 宗 匠 ナ リ シ ト ソ 。 画 モ 為 セ シ 也。 今 ニ 持 伝 ヘ シ 人 モ ア リ」 、 め た 。 著 作 に 『荘 内 物 語』 や 『志 塵 通』 な ど が あ る 。『荘 内 人 物 誌』 に 台や松崎観海に学び、文武に優れ、兵法に委しく、藩主の近習役を務 が あ る) 。 小 寺 信 正 (天 和 二 年~宝 暦 四 年) も 庄 内 藩 士。 江 戸 で 太 宰 春 庄 内 人 名 辞 典』 に も 、「小 寺 信 正」 の 項 に 、 別 号 と し て 「文 虹」 と 記 載 額、 文 虹 ト ア リ 」 と あ る の で、 信 正 の 別 号 と し て 良 い だ ろ う( 『 新 編 「小寺三郎兵衛信正以兵法知名」に、 「信正手跡モ宜シク、酒田山王ノ 項 は さ れ る が 、 俗 名 等 は 記 さ れ て い な い 。 し か し 、『荘 内 人 物 誌』 巻 三 58 年1月)所収「俳人総覧」には、 立

〈書誌〉 書型……写本一冊。大本(縦二七.六㎝×横二〇.四㎝) 。

     袋綴じ。楮紙。 表紙……濃緑色(裏打ち補修あり) 。 題簽……左肩無辺。白紙。 序題……「百華辨」 (文虹序) 。 写式…… 無 辺 無 界。 序 を 毎 半 葉 行 七 行、 本 文 を 毎 半 葉 九 行 に 記 す 。 本文部分の欄上に頭注を記す。

(5)

豊原重軌著『百華辨』 三五 字 高……二 二. 八㎝ (序 文 初 行 「世 に ~ひ と 。」〈一 オ〉 を 計 測) 。

     一 七. 一 ㎝( 本 文 初 行「 梅 は ~ 京 極 殿 は 」〈 五 オ 〉 を 計 測) 。 丁 数……全 三 四 丁 (巻 頭 と 巻 末 の 遊 紙 二 丁 を 含 む 。 墨 付 三 二 丁) 。

〈凡例〉

  翻刻にあたり、改行は適宜改めた。

  句読点は、底本で使用されている「。 」を原本通りに翻刻した。

  濁点も、原本通りに翻刻した。

  異体字等は概ね通行の字体に改め、片仮名は一部を除き平仮名に改 めた。

  底 本 の 各 丁 半 葉 の 終 わ り に 当 た る と こ ろ に   」 を 付 し 、(   ) 内 に そ の丁数および表

・ 裏(オ

・ ウ)を示した。

  本文と頭注はそれぞれ翻刻し、項目ごとにまず本文を、続けて頭注 を 翻 刻 し た 。 本 文 翻 刻 部 分 の 冒 頭 に は 「(本 文) 」、 頭 注 翻 刻 部 分 の 冒 頭 には「 (頭注) 」と注記を加え、丁移りもそれぞれ別に通して付した。 本文のみで頭注がないものにも、 「(頭注)ナシ」と注記を加えた。

  参考のため、原本の一部を図版で末尾に示した。

〈翻刻〉 百華辨 世に花を愛し香をなつかしむのひと。玉の杯の底意多くは呑へしの花 吟味にして。花の趣を得る人は稀也。それにあらさるは恋の重荷のか た手間わさに。何そに花を折添て色欲の道草とす。是猶花の趣を得る も の に は あ ら さ め り」 (

一オ

) け り 。 独 江 南 の 子 止 柳 子 其 情 や 閑 ー 雅。 其 た の し ひ や 高 ー 致。 他 の い ふ へ き に あ ら す 。 朝 の に ほ ひ を と ゝめ 。 夕 の 花 ふさを惜み。百花の辨を作て。色をきそひかうはしみを戦しむ。その あらそひは君子也。あるが中に。世にもてはやす花も。今茲にもらせ るある事は。此地になきをは強く」 (

一ウ

)弁ぜさるが故とそ。辨を弁ず る事を好ます。花の趣を辨ずるの 致

ムネ

かくのことし。臙 ー 脂緑 ー 青を雇ず し て 百 蘂 と こ し な へ に 爛 ー 熳 し 。 花 ー 壇 石 ー 台 の 煩 ン

し き な く て 百 ー 芳 を の つから芬 ー 郁たり。百花の趣を得たる人は全 ン

柳子にして。其趣の絲口 を伸るものは誰そ。 」(

二オ

) 江 ー 北の俳 ー 騒文 ー 虹書 ン

  享保子のとし 」(

二ウ

) 此 書 草 ー 藁 の と き 詞 兄 小 文 ー 虹 ー 子 に 投 じ て 。 非 を 正 し 且 序 の こ と 葉 を こ ふ 。 序 な つ て 是 を 見 る に 。 甚 過 ー 当 の 語 あ つ て 予 か 心 に あ ら す と い へ と も 。 秀 ー 逸 の 句々お ほ く 捨 置 へ き も の に あ ら す 。 額 に 汗 し て是をのせ。二度みつから序して我志をのふる事左のことし 」(

三オ

) 」(

三ウ

(6)

立正大学大学院紀要   三十四号 三六 夫 代 の う つ り 行。 逆 ー 旅 は 村 ー 里 を 定 め す 。 過 ー 客 は し は ら く も 憩 は す 。 きのふみし事けふは面影はかり残り。その面かけも年月経ぬれは。お ほくは跡かたなくそ成ぬる。いでや雪 ー 月 ー 花の三は哥人の尊ふ所にし て。古しへも今もかはる事なし。あるが中に。雪は予性 寒

をいたみて 眺

ナカムル

に 懶 し。 月 は よ る の こ と に し て。 閑 ー 暇 の 日 」(

四オ

) は 後 ー 園 に 杖 を な ら し て 。 も ろ 〳〵 の 花 に そ 心 を 遊 し め ぬ る 。 そ の お ほ か る 花 の 中 に 。 勝り劣り色のよしあしを。人のいひ置る事をも。又みつから思ひ得る 事 を も 。 猥 に 書 つ け 百 花 辨 と 名 つ け ぬ 。 い さ ゝか 標 ー 注 し ぬ る は 人 に さ とさしめんとにはあらす。みつから後に迷ん事を思ひて也。于時享保 九紅葉にむかつて書 」(

四ウ

        豊止柳 (本文)

   梅 梅は単なるが先咲ておかしとて。京極殿は単梅をのみ植られたりとい へと。夫もさる事にて。重りたる紅梅の稍咲初る頃は桜にけをされぬ へ く も み え す 。 ま し て 雪 の ふ れ る あ し た な と に 。 げ に 色 も 易 ン

レ 分 く れ な ゐなるは。いやしき」 (

五オ

)宿のものとはみえす。かゝる折を人にも見 せ は や と お も ふ に 。 日 さ し あ が り て 雪 の 名 残 な く 消 ゆ く こ そ 心 惜 け れ 。 匂ぞげに白きよりはをくれたるやうなれと。あかくなる様はたぐひあ らじとそ覚ゆる。単梅はた等閑にいふへきにはあらす。そのほどうち 続き雨風あはたゝしく寒き夕暮なとに。思ひかけぬ木のふしに二三り ん咲そめぬるいとおかし 」(

五ウ

   漸 ー 薫 ン

臘 ー 雪 新 ン

タニ

ー 封 ン

スル

ー 裏 偸 ン

カニ

ー 綻 ン

春 ー 風 ン

未 ン

レ 扇 ン

先 と い ひ ぬ る も 。 か ゝ る折しものことならし。まことや梅つぼの御園には。西には白梅東に は紅梅を植られぬるとそいへる。名にたかき誓願寺の梅は紅梅なりと いへと。多くは白き単梅にぞ大木はあ ン

める。町田川といへる所に大 ー 梅 ー 樹 あ り 。 直 ン

ー 立 ン

斜 ン

ー 横 ン

て 。 そ の 形 臥 ー 龍 の 時 を 得 て 土 ー 中 よ り 出 た ら む に 似 り。 花 は 白 く 単 」(

六オ

) な る 梅 の。 匂 い と か う は し く。 美 ー 人 の 淡 ー 粧素 ー 服せる面影有て。師 ー 雄が羅 ー 浮の夢も思ひ出らる。かゝるめ て た き 花 の 。 あ や し き 賤 か 屋 の 軒 を 覆 て 。 心 も し ら ぬ 野 ー 夫 の 袖 を か ほ らしぬるそ心惜き。すべて梅は軒ちかく植たるよし。遠きはおほつか なくぞ覚ゆる。殊に匂ふかきなとは。闇もあやなく寝屋の内まてかほ り来るこそおかしけれ。又鉢なとにうつし植たるも」 (

六ウ

)愛しぬへき 木の様なり。漸纔にあかみ出て。四五日十日なんど同し様なるもいと 心 も と な く ま も り ゐ た る に 。 色 あ ひ こ と に う る は し う 咲 出 た る 。 又 半 ン

ひらきぬるを机の側に置たるに。風の来てさと薫りたるいとおかし。 いつの事なりけん。さかり過がたなるを燈のもとに置く。むつましき 友と寝なから。散行花びらを盃にうけたるがいとおかしかりし 」(

七オ

) (頭注) 梅は単なるか    つれ〳〵草にあり けに色も    兼明   有 ン

レ 色易 ン

レ 分残 ー 雪 ン

底    無 レ 情難 ン

レ 弁夕陽 ン

中」 (

五オ

) 匂そけに    源氏紅梅に

(7)

豊原重軌著『百華辨』 三七 枝の様花ふさ。色も   香もよのつねならすにほへる。紅のいろに とられて。香なん白き梅にはをとれるといふめるを。いとかしこ くとりならへてもさけるかなとて

云 々

」(

五ウ

) 漸薫    村上帝の御製也 梅つほの御園    禁秘抄にあり 」(

六オ

) 羅 浮 夢    龍 城 録 ン

  師 ー 雄 遷 イ 羅 浮 ン

ア 一 ー 日 於 イ 酒 ー 肆 ン

傍 ー 舎 ン

ア 見 ン

レ 美 ー 人 ン

淡 ー 粧素 ー 眼 ン

シテ

出 ー 迎 ン

ルヲ

ア 時昏 ー 黒 ン

ニシテ

残 ー 雪未 ン

レ 消月 ー 色微 ー 明 ン

師 ー 雄与 ン

叩 ン

イ 酒 ー 家 ン

門 ン

ア 共 ン

ー 飲 ン

酔 ー 臥 ン

久 ン

シテ

東 ー 方 已 ン

明 ン

タリ

起 ン

ー 視 ン

レハ

有 ン

イ 大 ー 梅 ー 樹 ン

下 ン

ア 闇もあやなく    古今   みつね 」(

六ウ

) 春のよの闇はあやなし梅の花色こそみえねかやはかくるゝ 」(

七オ

(本文)

    桜 桜はその品もあまたあれと。只山桜の単なるを植ならへたるが。をく れ先達たるもなく。咲つゝきぬるにはしかすとそ覚ゆる。老木もあれ 若木もあれ。花のおほく咲ぬるそよき

   木 つ き に は 搆 の な い か 桜 也   と か や 人 の い ひ し 。 誠 に さ な り け り 。 池 な と に 咲 か ゝり た る 桜 の 。 花 の 鏡 も ま だ く も ら」 (

七ウ

) て 。 濯 ー 文 之 錦 粲 ー 爛 た る は 。 ま し て い ふ は か り な く め て た し 。 又 馬 場 な と に 植 な ら べ たる桜の盛成頃は。乗人の心もときめき。外より見やりたるはねたく さへぞゆかしき也。そのかみ上野の花さかりにまかりしに。先黒門の ほ と り よ り か ほ り み ち て 。 梢 は 雪 の 降 た る や う な る が 。 内 へ 入 ぬ れ は 。 目 も あ や な る 楼 ー 閣 の。 花 の 中 に う つ も れ た る 気 色。 田 舎 び た る 目 に は」 (

八オ

)驚く迄そ覚えし。花をおもはゝ桜の根をふむ事なかれと。家 持 卿 は の 給 ひ し か ど 。 人 ず く な な る 木 か け に 物 敷 な ら へ て 。 一 日 の 余 ー 閑をたのしみしに。芳 ー 菲は只枕 ー 上に爛 ー 熳として。殆蝶 ー 使も驚くべ き様なるに。空さへ長閑にて。終日なかめ暮せしが。ことかたも又ゆ かしけれは。夕つかた御山の中を吟きあるきしに。入相のかねに花も 人も散あへるに。匂ぞ」 (

八ウ

)猶一 ー 山 ー 中かほりみちて白妙なる

   銀河低し夜明の山桜   といへるけしきも思ひ出られ。かへりぬへ きほともわすれたりし。大江佐国が老年の吟に    六 十 余 ー 回 看 ン

レトモ

不 レ 足   他 ー 生 定 ン

作 ン

イ 愛 ン

スル

レ 花 ン

人 ン

ア   と い ひ し が 。 没 ー 後蝶になりしといへるそあさましき (頭注) 花のかたみも    古今   伊勢 としをへて花の鏡となる水は散かゝるをや」 (

七ウ

)曇るといふらん

   此哥は梅を見てとあれと桜にとり用ひ侍り 濯文之錦    花光水上浮 ン

と云題にて   順 欲 ン

レハ

レ 渭 ン

ント

イ 之 ン

水 ン

ア 則 漢 ー 女 ン

施 レ 色 鏡 清 ー 営 ン

タリ

  欲 ン

レハ

レ 渭 ン

ント

イ 之 ン

花 ン

ア 又 蜀 ー 人 ン

濯 ン

レ 文錦粲 ー 爛 ン

タリ

」(

八オ

) 花を思はゝ    本朝通記にあり

(8)

立正大学大学院紀要   三十四号 三八 殆蝶使も    花の詩に 美 ー 人 寂 ー 寞 ン

トシテ

傍 ン

イ 瑤 ー 台 ン

ア   欲 レ 嫁 ン

ント

イ 東 ー 風 ン

ア 事 未 ン

レ 諧

トヽノハ

  怕 ン

クハ

展 ン

イ 濃 粧 ン

ア 驚 ン

サンコトヲ

イ 蝶 ー 使 ン

ア   却 ン

含 ン

イ 羞 ー 態 ン

ア 見 ン

イ 蜂 ー 媒 ア ことかたも又 」(

八ウ

) ことかたも又ゆかしさに山桜此このもとをしつかにもみす 大江の佐国か老年の吟    本朝通記 ン

委 ン

」(

九オ

(本文)

   桃 桃 は 緋 ー 桃 物 ふ か き 園 の 中 に 。 き の ふ」 (

九オ

) け ふ 咲 初 ぬ る が 。 中 垣 な と をうち越て。梢はかりみゆるこそゆかしけれ。又足軽同心なといへる も の ゝ屋 か け に 。 只 曝 ン

セル

イ 紅 ー 錦 ン

之 幅

ハタハリ

ア や う な る を 、 案 内 し て 見 る に 。 思ふ様なる枝つきこそなけれ。いかなれは盛みしかく。十とせはかり も過ぬれは。枝に白みつきてかたえづゝかれ行。後には杖つきのゝ字 の 杖 を と ら れ た る 形 に 成 行 こ そ 心 惜 け れ 。 も ろ こ し に 崔 ー 護 と い へ る も の。ある門の」 (

九ウ

)うちに。桃花の盛なるを見ゐたりしに。紅の袴き たる女二人来りて。よもすからもろともに酒のみうたうたひてなかめ あかし。又の春も爰にてあはむと契り置。明るとし其所へ行しに。女 はみえす桃花のみさかりに咲たりけれは。かたはらなる扉に書付ける 去年今夜此門 ー 中      人 ー 面桃 ー 花相 ー 映 ン

シテ

紅 ン

人 ー 面不 レ 知何 ー 処 ー 去 ン

     桃 ー 花仍 ン

レ 旧 ン

笑 ン

イ 春 ー 風 ン

ア 」(

一〇オ

) あやしき事なれと。その気色のおかしけれは書つけ侍ぬ。源平桃又め てたし。風もなく長閑なる夕暮なとに。木のもとへよりて枝引撓みる に。一りんの花形は似るものなくそめてたけれ。白 ー 桃は愛 ー 敬をくれ たれど。花も大かた散過たるに。もちもつこくの中より。きゆる迄白 う咲出たるいとおかし。単桃は品をとりて。 桜

木の台なとに成たるい と口おし 」(

一〇ウ

) (頭注) 紅錦之幅    紀斉名 山 ー 桃又野 ー 桃日   ー ン

イ ーーーー ン

ア 」(

九ウ

(本文)

   梨 梨は枕草紙に。なしの花はよにすさましくあやしきものにて。目に近 くはかなき文つけなとだにせす。あいぎやうをくれたる人の顔なとみ ては。たとひにいふも。げにその色よりしてあいなくみゆるを。ある やうあらむとてせめてみれは。花びらのはしにおかしき匂こそ心もと な く つ き た め れ。 楊 貴 妃 御 門 の 御 使 」(

一一オ

) に 逢 て な き け る 顔 に 似 せ て。梨花一枝春雨をおびたりなといひたるは。おぼろけならじと思ふ に。猶いみじきことはたくひあらしと覚たり

云 云

(頭注ナシ)

(9)

豊原重軌著『百華辨』 三九 (本文)    李 李 も も ろ こ し に は あ ま ね く 愛 せ ら れ て 。 詩 な と に も 多 く 作 ら れ た れ と 。 我 国 に は む か し よ り 愛 す る 人 も 見 え す 。 世々の 撰 集 に も も ら さ れ た り 。 げに花の様いやしく。 」(

一一ウ

)なつかしき所こしなけれ。さはいへど。 月のあかき夜園の中なとを吟ありくに。盛なる李の只雪を円めたるや うなるが。月 ー 影上 イ 花 ー 梢 ン

ア て光あひたるいとおかし。匂なとも桜にお さ〳〵をとらずかほりみちぬ    争 ン

挽 ン

イ 長 ー 條 ン

ア 落 ン

イ 香 ー 雪 ン

ア   と い ひ ぬ る 夜 の 様 も 。 か ゝる 折 そ 思 ひ 出 ら る 。 又 花 の 比 里 ば な れ な る 処 へ ま か り て み る に 。 遠 き」 (

一二オ

) 村〳〵 の花盛は。多くは此木そ咲つゝきぬる。されどいつかは李の花みんと て出ぬる人やはある。只桜の下つかたとそ成ぬる (頭注)

     万葉に 我 や と の す も ゝの 花 か さ は に 散 る は た れ」 (

一一ウ

) の い ま た 残 り た る かも

  これらの哥のみにて外にはみず 争挽長條    古文前集月夜与 レ 客飲 イ 酒 ン

杏 ー 花 ン

下 ン

ア ト云短 ー 篇 ン

中ノ句ナ ルヲ李ニトリ用タリ其詩 杏 ー 花 飛 ン

レ 簾 散 ン

イ 余 ン

春 ン

ア   明 ー 月 入 ン

レ 戸 ン

尋 イ 」(

一二オ

) 幽 人 ア   褰 ン

レ 衣 ン

歩 ン

シテ

レ 月 ン

踏 ン

イ 花 ー 影 ン

ア   烱 ン

トシテ

如 ウ 流 ー 水 ン

涵 イ 青 ー 蘋 ン

ア   花 ー 間 置 ー 酒 清 ー 香 發 ン

  ー ン

ー イ ーー ン

ア ー ン

イ ーー ン

(本文)

   棣棠 山吹は岸の額に咲こほれぬるこそおかしけれと人のいひぬる。さも有 へき事にそ。柴の上の春の御園にも。山ふきをは池の汀に植られ。そ の 外 古 き 哥 に も。 お ほ く は 水 の 辺 に そ 読 置 ぬ る。 さ れ と 我 住 か た 」 (

一二ウ

) に は さ る 色 な る 波 も み え す 。 い づ く に も あ れ 花 の 様 な ま め か し う 愛敬ありて。玉かつらの内侍にもたとへぬへき様したるが。あやしう むつかしき生垣の中へまつはれ入て。異木に結そへられ横さまに咲ぬ るそわろき。山吹はかりを結たてぬる垣ねの咲みたれたるは。又いふ はかりなくめてたし。春雨の降ともしらぬ夕暮なとに。いつしかぬれ わ た り て 。 露 を」 (

一三オ

) 重 け に く ね り ゐ た る よ 。 遠 目 に は 八 重 な る も 一 重なるも大やう同し様にみゆるが。近うよりてみれは。単なるは愛敬 を く れ 品 を と り て そ 覚 ゆ る 。 か の 井 手 の 山 吹 の 小 土 器 程 に 咲 た ら ん も 。 単なりといはゞさしてゆかしからじ。山吹は只愛敬ありてうるはしき 花とみるを。兼好のきよけにとかきけん心きかまほし (頭注) 春の御園    源氏こてふに 池の水にかけをうつしたる山吹。岸よりこぼれていみじきさかり 也。 水 鳥 と も の」 (

一二ウ

) つ が ひ を は な れ ず 遊 ひ つ ゝ。 細 き 枝 と も を

(10)

立正大学大学院紀要   三十四号 四〇 くひてとひちがふ。をしのなみのあやにもんをまじへたるなと。 物のゑやうにも書とらまほしきに。誠にをのゝえもくたいつへう 思ひつゝ日をくらす   風吹は浪の花さへ色みえてこやなにたてる山吹の崎 玉かつらの内侍にも    源氏野分に 」(

一三オ

) みるにゑまるゝ様はたちもならひぬへくみゆ。やへ山吹の咲みた れたる盛に。露かゝれる夕ばへ。ふと思ひ出らるゝ

云 云

   又玉かつらの巻に たゝいとわかやかに。おほとかにて。やは〳〵とぞたはやぎ給へ り

云 云

井手の山吹    無名抄   長明作也 かの井手の大臣の堂は。一とせやけ侍り ぬ

。」 (

一三ウ

)その前におひ たゝしく。大きなる山ふきむら〳〵みえ侍りき。その花のりんは 小土器のおほきさにて。いくへともなく重りてなん侍し。又かの 井手川のみきはにつきて隙もなく侍しかは。花の盛にはこかねの つゝみなとをつきわたしたらんやうにて。他所にはすぐれてなん 侍し

云 々

きよけにと書けん」 (

一四オ

)   つれ〳〵に 山ふきのきよげに。ふちのおぼつかなき様したる

云 々

(本文)    椿 」(

一三ウ

) 椿はいつの比よりにや、その品多くなりて。心々に咲出ぬるほとに。 あまねく人にも愛せられぬる。げに八重にも単にも色々に盛なるを。 水なとにうかめてつく〳〵と見るに。色あい花の様つくろふへき処も なく。かきりなううつくしき花もぞおほかり。しかはあれど。葉の様 よりはしめ。花の気色にほはしき処なく。絵にかける女のあてなる様 し て、 今 少 し た を 」(

一四オ

) や か な る か た を そ へ ば や と う ち も ま も ら れ ぬ。さばかりの顔して心のまゝにもひらかで。少しうつふきたらんは 猶 ゆ か し か り ぬ へ き 事 を 。 夫 は あ し き と 人 も さ た め 。 我 も さ お も は る ゝ こそあやしけれ。又散ぬるほとになれど。猶思ひきらで枝なからしほ れ。葉なとにさへくされつきたるいとわろし    鶯 の 笠 落 し た る 椿 か な   と い ひ け ん や う に 。 心 清 く 散 ぬ る そ よ き 。 山 椿 は 花 の」 (

一四ウ

) 様 は と ゝの は ね ど 。 是 も 人 の 園 の う ち に 。 梅 桜 に 咲 ましりたるはゆかしきもの也。又山がへりの土産なとに。大なる桜の 枝に椿の色よきを多く折もたせたるは。主人さへゆかしく。たよりよ くは引もうはひつへし (頭注ナシ) (本文)    躑躅 つ ゝし は 盛 な る 比 山 路 へ 分 入 た る に 。 そ の 程 は 空 の 気 し き も い と う ら ゝ

(11)

豊原重軌著『百華辨』 四一 かなるに。 」(

一五オ

)左さ右さに思ひみたるゝ迄咲つゝきたるこそおかし けれ。土産なとに我も手折人にもおらせぬるに。蕀なとに衣の裾とら へられて思ふ処へもゆかれぬを。里のわらべなとは案内よくしりて。 遠き処迄分入。色よきを多く折もてるいとうらやまし。かゝる所都か たにはなきにや。此けしき読たる哥もおさ〳〵なし。もろこしには五 渡 渓 と い へ る 所 そ か ゝる け し き に や と 思 ひ」 (

一五ウ

) や ら る れ 。 も じ に も ほとゝきすの花と書    杜 ー 鵑 鳴 ー 時 花 横 ー 々 ン

タリ

  な と い へ と 。 こ な た に は 。 ま だ 此 ほ と は か きたえて音もせす。きりしまは色あい猶めてたく花の様かどあるを。 築山なとに。こと木をましへで多く植たるいとおかし。又白きつゝし をおほく植こみて。雪の降たるやうなるを。夕暮かたに見ゐたるいと お か し 。 松 し ま 小 波 な と い へ る 。 わ れ は と お も ひ 顔 に 。 色々」 (

一六オ

) に う つ く し う 咲 い つ る も お ほ か れ と 。 猶 あ か き に は し か す と そ お ほ ゆ る 。 (頭注) おさ〳〵なし    我見及し哥の中には のかれこしやけのゝきゝす峯にまた驚く迄に咲つゝしかな」 (

一五ウ

) 五渡溪    張籍 五 ー 渡 溪 ー 頭 躑 ー 躅 紅 ン

  嵩 ー 陽 ー 寺 ン

裡 講 ー 時 ン

鐘   春 ー 山 処 ー 々 行 ン

応 ン

レ 好 ン

カル

  一 ー 月看 ン

レ 花到 ン

イ 幾 ー 峯 ン

ニカ

ア 」(

一六オ

(本文)    菫 すみれは紫の色こきを野辺よりおほく取来て。爰かしこへ植ぬるに。 日にそひて枯行も口惜うおほえしに。又の春思ひかけぬ岩のはなに。 心地よく二三りん咲出ぬるいとおかし。かれはかたちもいとちいさく 物 げ な き を 。 い つ の 比 よ り に や 見 出 さ れ て 折々哥 に も」 (

一六ウ

) よ み 置 れ ぬる。げに色あい花の様。野草の 内

には愛しぬへき花にそ有ける。さ れど是は濃紫をいへる也。薄紫白きは。はるかに品劣りてあらぬ草と そ覚ゆる。かの二しほ三しほ染けんも紫の色濃なるへし (頭注) 二しほ三しほ はこね山ゆふ越くれはつほすみれ二しほ三しほたれかそめけん 」(

一七オ

) (本文)    藤 ふちは心たかく雲井迄もと這のほりぬるこそおかしけれ。花の様いと あてにけたかきが。高所よりおほく咲みたれたる。下 ン

」(

一七オ

)如 ン

イ 蛇 ン

屈 ー 盤 ン

セルカ

ア 更にすさましからずいとめてたし。まして水の上に影をうつ したる藤の。高き低きあまたの梢ともを這あるきて咲たるは。田子の 浦の面影さへ有ていとおかし。棚なとにははせ。又傘をひらきたらん 様に作なしたるは。花も一しほながら。物にもさはらで心のまゝにう ちなびきぬれど。何とやらむ造り花めきてうるはしからず。されど小

(12)

立正大学大学院紀要   三十四号 四二 き 庭 な と の た よ り と し ぬ へ き 物 も」 (

一七ウ

) な く は い か ゝは せ ん 。 い つ の ほとよりにや。白きふちもよにおほくなりて。爰かしこにみえぬる。 いときよげなれと猶紫にはしかすとそ覚る。うらゝかなる昼つかた虻 蜂の多くしたひ来て。懴法よみたるいとおかしといへる人もあれと。 我はたゞくもりたる日。又夕暮かたのおほつかなき程にみたる。猶け し き も ま さ り て そ 覚 ゆ る 。 夜 一 夜 人 の 許 に か た り あ か し て 。 帰 り ぬ る」 (

一八オ

) 朝 朗 な と に 。 思 ひ よ ら ぬ 梢 な と に 咲 み た れ た る は 。 わ す れ か た く そ覚ゆる。白か詩にも

   紫 ー 藤花 ー 下 ン

漸黄 ー 昏   と云。又右のおほとのゝ藤のえんし給へる も。暮るほとにまたれてわたり給ふとそ書置ぬる (頭注) 下如    白 ー ン

ー ン

イ ー ン

ー ー ー ン

セルカ

ア   上 ン

若 ン

イ 縄 ン

縈 ー 紆 ン

スルカ

ア 田子の浦の    越中也   拾遺集   人丸 田子の浦底さへ匂ふ藤なみをかさしてゆかんみぬ人のため」 (

一七ウ

) 夕暮かたの    ふちのうら葉 四月朔日比のおまへのふちの花。いとおもしろう咲みたれて。 よ の つ ね の 色 な ら す 。 た ゝに 見 す く さ ん 事 お し き 盛」 (

一八オ

) な る に。遊ひなとし給ひて暮ゆくほとのいとゝ色まされるに。中将 して御せうそこあり わか宿の藤の色こきたそかれにたつねやはこん春のなこりを    芭蕉翁の庚午紀行に くたひれて宿かる比やふちの花 紫藤の花の下    三月尽   白 」(

一八ウ

) 惆 ー 悵 ン

春 ー 帰 ン

留 ン

ルコトヲ

不 レ 得   ーー ン

ー ー ー ン

ー ン

ー ー ー ン

タリ

右のおほとの    花のえん 御よそひなと引つくろひ給ひていたう暮るほとにまたれてわたり 給ふ

云 々

」(

一九オ

(本文)

   海棠 かいたうは色あいよりはしめ。花の様うるはしく。まして雨にぬれた る な と は 。 美 人 の 眠 れ る 顔 に も か よ ひ ぬ れ と 。 葉 の 様 い や し く 。 虫 の」 (

一八ウ

) お ほ く 付 ぬ る も う た て な と 。 い ひ く た さ れ ぬ る そ わ ひ し け れ 。 虫 の付たらんなとは花のしるへき事にもあらす。愛する人だにあらは払 ひものけつべし。梅桜の跡に咲ぬればそかゝることもいひたてられぬ る。二とせばかり先にや高寺といへる所へまかりしに。海棠とおほし き花の家ことに咲ぬる。ちかう寄て見れはりんごの木の花なりとそい ひし。かいたうに似て色ぞすこし」 (

一九オ

)薄かりし (頭注ナシ)

(本文)

(13)

豊原重軌著『百華辨』 四三    卯花 卯 の 花 は 夜 ン

見 た る こ そ お か し け れ 。 月 の 夜 は 更 也。 雨 の 少 し 降 た る に も。垣ねに布引はへたるやうなるを。夜なかばかりに起出てみたるい とおかし。もろともに出ぬる人の見すてゝ入ぬるなとは。にくゝさへ ぞ覚ゆる也。昼のほとは何ばかりもなき花の。夜になれはゆかしくも な つ か し く も お ほ」 (

一九ウ

) ゆ る は 。 我 ば か り か く 思 ふ に や 。 か の か も の かへるさに。車に多くさしたらんはいと興有事ならし。それもよりみ たらむは猶おかしかりぬへし    雨夜にもさはらぬ影とみし月の日数にくもる庭のうの花   とよみ 給ひけん。心のうちこそきかまほしけれ (頭注) みすてゝ入ぬる    古今   みつね かくはかりおしと思ふよをいたつらにねてあかすらん人さへそう き 」(

一九ウ

) かのかものかへるさに    枕双紙口惜き物といふ所に 卯の花いみしく咲たるを折つゝ。車のすたれそばなとになかき枝 をふきさしたれは。只うの花かさねを腰にかけたるやうにそみえ ける。供なるをのこともいみじうわらひつゝ。あじろをさへつき うがちつゝ。爰まだし〳〵とさしあつむ

云 々

雨夜にも 」(

二〇オ

) 松平対州公の御哥也誰人の集しにや新百人一首といへるにあり (本文)    牡丹 ほ た ん は 白 き も 紅 成 も 。 花 ひ ら の お ほ く」 (

二〇オ

) か さ な り た る い と め て たし。けふ咲そめぬるあしたなとに。ちかうよりゐてつく〳〵とみる に 。 も と よ り 花 王 と い は れ ぬ る 花 な れ は 。 等 閑 に い ふ へ き に も あ ら す 。 花の様おほとかにて。紅なるはよく紅に。白きはよく白し。又笑ふが 如くかたるがことく。誠に国を傾なん様ぞしたる。沈 ー 香 ー 亭の四本の 花 に 。 李 白 か 頭 を か た ふ け ゝむ こ そ お も だ ゝし け れ 。 只 ー 恨 ン

ラクハ

尽 ン

在 ン

ルコトヲ

イ 公 ー 侯冨 ー 貴 ン

家 ン

ア 」(

二〇ウ

) (頭注) 紅 な る は よ く 紅 に    古 文 前 集 二 月 見 レ 梅 と い へ る 所 に 桃 花 は 能 紅 に 李 は能白しといへる句をとれり 沈香亭    開元遺事 明 ー 皇 得 ン

イ 牡 ー 丹 四 本 ン

ア 植 ン

イ ー ー ー ン

ア 朝 ン

ニハ

」(

二〇ウ

) 則 深 ー 碧 暮 ン

ニハ

深 ー 黄 昼 ー 夜之間香 ー 艶各 ー 異 ン

(ママ)

也明 ー 皇命 ン

シテ

イ 李 ー 白 ア 作 ン

シム

イ 詩三 ー 章 ア

云 云

(本文)

   芍薬 しやくやくはもろこしにもほたんにつぐといはれ。花の様なつかしけ れど。少しほこれる様にて ち

か を

と りやせましとぞおもはるゝ。花も

(14)

立正大学大学院紀要   三十四号 四四 か ゝる 事 を 思 へ は に や 。 風 土 の 正 し き を も と め て 。 ひ と り 広 ー 陵 に は 咲 ぬらん。八重にも単にもいろ〳〵に咲たるを。花桶におほく活て椽の かたはらに置たれは。その辺かほりみちたる中に。 」(

二一オ

)昼ねしたる こそおかしけれ。又久しう音つれぬ友の方より。色よきを二三本童な とにもたせて。此花けう咲そめぬるを。先とて参らするなといひ送り たるいとうれし。又きさらきの比雪も漸きえ行て。花檀の塵うち払ふ 中に。只赤き角をさし出たる様にもえ出ぬるいとおかし (頭注) ほたんにつく 独殿 ン

レテ

イ 残 ー 春 ン

ア 厭 ン

イ 衆 ー 芳 ン

ア   佳 ー 名長 ー 是 ン

亞 ン

イ 花 ー 王 ン

ア 風土のたゝしき    本草 謂 ン

此花独産 ン

スルコトハ

イ 広 ー 陵 ン

ア 者為 ン

ナリ

レ 得 ン

ンカ

イ 風 ー 土 ン

之正 ン

シキヲ

云 云

」(

二一オ

(本文)

   杜若 か き つ は た は こ く も 薄 く も 紫 な る が 。 大 き」 (

二一ウ

) な る 泉 水 な と に 爰 か しこに咲みたれたるいとおかし。その中に白き花の所々咲ましりたる は猶けしきも勝てそおほゆる。五月雨の比人気遠き所へ分入に。思ひ かけぬ沢水なとに立るは殊に色もうるはしう。能き女のそうぞきゐた る様ぞしぬる。八橋の杜若も。かゝるけしきにて中将にはめでられけ ん 。 い つ く に も あ れ 。 水 な き 所 に 咲 ぬ る は は る か に け し き を と り て そ」 (

二二オ

) 見 ゆ る 。 か き つ は た は 水 の た め に う へ 。 水 は か き つ は た の 為 に ま うけぬへき物にぞ。少し花の様ことやうにて清女にはにくまれけん。 されと色は猶めてたしとそあめる (頭注) 清女にはにくまれけん    枕双紙めてたき物といふ所に すべて紫なるは何も〳〵めてたし。花も糸も紙も。紫の花の中に はかきつはたそ少しにくき。色はめてたし

云 云

(本文)

   瞿麦 とこなつは花のかたちもきよらに。咲そこなひつとみゆるもなく。う つ く し き 物 の 内

に は 先 こ そ 書 出 ぬ へ け れ 。 西 の 台 の」 (

二二ウ

) 御 園 に 植 ら れけん様こそゆかしけれ。いと凉しき夕暮なとに。ませにはみな露の 置わたして。げに玉もてゆへる様成に。いろ〳〵に長う咲ならびたる いとおかし。あつさぞまさるとこなつの花といひ置ぬれと猶此花のも とは立さりかたくそ覚ゆるいつの比なりけん川舟に逍遥せしに。川岸 なるやしきの内に。赤きはかりを長う植わたし。黒きませにゆひたて ぬるが。 」(

二三オ

)風に吹なひかされてこなたへより来るやうなる。黒き ほねに赤き紙をはりたる扇を。あまたして招きたらむ面影有ていとお かしかりし (頭注)

(15)

豊原重軌著『百華辨』 四五 先こそ書出ぬへけれ    清女うつく し

(ママ)

物 の中に末に書たり 」(

二一ウ

) 雨の台    玉かつらの内侍の住給へる台也源氏とこなつに みだれがはしき前栽なとも植給はす。なてしこの色をとゝのへた る。からの大和のませいとなつかしく結なして。咲みたれたる夕 ばへいみじうみゆ

云 云

けに玉もて    髙倉院御製に 白露の玉もてゆへるませの内に光さへそふ」 (

二三オ

)とこなつの花 あつさそまさる    貫之 すゝしやと草むらことに立よれはー ― ― ― ― ― ― とこなつの花

(本文)

   瓠瓜 夕かほは玉楼金殿の物とはみえずと云置ぬる。誠に賤か屋のあやうげ なるなとに這のほりて。心のまゝにひろごり咲た るは 。夏月の雪とも い は ま ほ し く 白 妙 な る い と お か」 (

二三ウ

) し 。 つ る の 様 も ふ つ ゞか に あ ら 〳〵しう。花もいやしく肥ふとりたる人をみる心地すれど。いにしへ より哥にも多くよまれぬれは。いひおとしぬへき花にはあらす。げに 早 ー 雲飛 ン

シテ

レ 火 ン

燎 ン

イ 長 ー 空 ン

ア 夕暮なとに

   夕かほや宿は蚊やりに追出され。いさゝかなる石にこし打懸てな かめぬるに。只白きかたひらなとを引かけたるやうなるが。やゝ闇う おほろ〳〵しきに。月東 ー 山にのほりて」 (

二四オ

)かたへはいとあかう。 白 ー 羽の 白

に白雪の 白

をまじへたらむやうなるいとおかし。古 ン

哥に

   たのしみは夕かほ棚の下すゝみ男はててれめはふたのして   とか やありけん。古しへも今も同しけしきにそ (頭注ナシ)

(本文)

   蓮 はちすは愛蓮 ン

説に事つきて。又いひぬへきことの葉そなき。晋 ー 子か しのはずか池にて 」(

二四ウ

)    寝てかとへ蓮に誘ふ朝あらし   といひぬる。朝ぼらけのけしきこ そ思ひやらるれ。寝巻の袷なから池の辺りに彳たらん。又何事をかお も は ん 。 昼 の ほ と は 花 も 炎 ー 蒸 に 色 を 失 ひ 。 葉 も ち り が ち に う ち か た ふ き た る が 。 夕 つ か た 凉 風 に 催 さ れ て 。 西 ー 施 嬋 ー 娟 と し て 立 る に 。 緑 ー 蓋 もあらたにはり粧ひたり。池にかけたるそり橋のもとなとに。毛氈う ち 敷 て つ く 〳〵 と」 (

二五オ

) 見 れ は 。 げ に 十 里 薫 し と 云 ぬ る 香 の そ こ ら に

かほりみちたるに。ふと風のわたり来て。玉とあさむく露のはら〳〵 と落たるこそおかしけれ

   池 ー 面 ン

風 ー 来 ン

波 艶 ー 々 波 ー 間 ン

露 ー 下 ン

葉 田 ー 々   と い へ る も か ゝる 折 そいひぬらむ。日暮はてゝ。蛙のあまた啼出しぬるそかしかましけれ (頭注) 愛蓮説    周茂叔

(16)

立正大学大学院紀要   三十四号 四六 愛 ク 蓮 ン

之出 ン

イ 淤 ー 泥 ン

ヨリ

ア 而不 レ 染濯 ン

イ 青 ー 漣 ン

ア 不 レ 妖 ン

中 ー 通 ン

外 ー 直 ン

」(

二四ウ

) 不 レ 蔓 不 レ 枝 香 ー 遠 ン

益 ー 清 ン

亭 ー 々 ン

トシテ

浄 ン

ー 植 ン

可 ン

シテ

イ 遠 ー 観 ン

ア 而 不 ン

ルコトヲ

ニ 可 イ 褻 ン

ー 翫 ア 焉

云 云

」(

二五オ

) 玉とあさむく露の    遍昭 はちす葉のにこりにしまぬ心もて何かは露を玉とあさむく」 (

二五ウ

(本文)

   紫薇花 」(

二五ウ

) 百日紅は。その比旱つゝきて大かた花も稀なるに。木立の中より高う 咲こぼれたるいとおかし。手折てなとは何ばかりもなき花の。遠目に は似物なくめてたきは花めつらしきなるへし (頭注ナシ)

(本文)

   女郎花 を み な へ し は 。 初 秋 の 比 広 き 野 辺 に 。 所 せ く 咲 み た れ た る い と お か し 。 庭 な と へ う つ し 植 た る を つ く 〳〵 と み れ は 。 色」 (

二六オ

) あ い も あ ざ や か な ら す 。 に ほ は し き 所 も な し 。 い ひ た つ れ は わ ろ き に よ れ る か た ち を 。 いといたうもてつけてくねりあひぬ。さるあだめきたる様して。あれ たるやとにひとりたてんぞ。後め だ

(ママ)

しとも人はいひ置ぬる。うしとみ つゝとよみ置ぬる。男やまのをみなへしはいかなるけしきやらん。我 住かたにはうは野といへる所ぞ。思ひやりもかよひて覚ゆれ。初秋の 凉 し き あ し」 (

二六ウ

) た な と に 。 わ ら は の あ ま た つ れ だ ち て 。 き ゝや う を みなへしのさかりなるを多くもて来て。門ごとに入つゝうるめる。せ をへる花はかたちをおほひて。そのあたいいくばくならず。草にかけ たる露のいのちとも。しらずがほなるこそいと哀なり (頭注) 色あいもあさやかならす    うつせみに 目をしつとつけ給へはをのつからそばめにみゆ。目少しはれたる 心」 (

二六オ

) 地 し て 。 鼻 な と も あ さ や か な る 所 な う ね び れ て 。 に ほ は しき所もみえす。いひたつれはわろきによれるかたちを。いとい たうもてつけて。此よされる人よりは目とゝめつへき様したり

云 々

あれたる宿に    古今   兼覧王 をみなへしうしろめたくもみゆる哉あれたる宿にひとりたてれは 」(

二六ウ

) うしと見つゝ    同集   ふるのいまみち をみなへしうしとみつゝそ行すくる男山にしたてれりと思へは 草にかけたる    著聞集に 草うりの来りけるに。その草かし置よといひけれは草うりのよ めり あさましやかりとはいかに朝ことの草にかけたる露のいのちを 」(

二七オ

(17)

豊原重軌著『百華辨』 四七 (本文)    蕣 あさかほは寝屋の側なる垣ねに。しげからすまとはせたるを。何ごと に も あ れ 。 夜 ふ か う」 (

二七オ

) 起 出 て ま も り ゐ た る に 。 横 雲 の 引 は な る ゝ 比。糸なとのきれたるやうに。はといひて開ぬる目覚る心地そする。 あしたのほと心よけに咲ならひたる折は。いつしほれぬへきともみえ ぬに。日さしあかりぬれは只しほれにしほれて。目の前に虫のからな とのやうにそなりぬる。此花いかなれは。色あいもうるはしからす花 の様もよからぬを。いにしへより名のみこと〳〵しう。草の中には菊 あ さ か ほ と 。 詩」 (

二七ウ

) 哥 の む し ろ に も 先 取 出 ら れ ぬ る は 。 あ る や う あ らんと哥なとに心をつけてみるに。多くははかなきためしのみにそよ み置ぬる    起てみんとおもひし程にかれにけり   なと。等閑には愛するふし も あ れ ど 。 夫 も 咲 頃 の お か し き な る へ し 。 昼 か ほ の 花 も 同 し 様 な れ ど 。 いつかは哥にもよまれぬる。たま〳〵はいかいにそ    昼かほのまとふわらちも哀也   なと」 (

二八オ

)そいひ置れぬる (頭注) 起てみんと ー ― ― ― ― ― ― ― ― ― 露よりけなるあさかほの花

  新勅撰   よみ人しらす おほつかなたれとかしらん秋きりのたえまにみゆるあさかほの花 」(

二八オ

) (本文)    尾花 おはなは高き所より見わたしたるに。目のかぎり咲つゝきたるが。秋 風になひきあひて。げに浪のうちよするやうなるこそおかしけれ。あ だにもなびくといはれぬれど。かたちのかよはきに。花のいとふさや か な れ ば い か ゝは せ ん 。 ま し て ま す ほ の 薄 な と は う ち も こ ろ び ぬ べ し 。 ま す を の す ゝき と い へ る は 今 い ふ 糸」 (

二八ウ

) す ゝき 成 へ し 。 夕 暮 の 程 山 のそはなとに一二本たてるか白き手して招くやうなるいとおかし (頭注) けふ浪の    俊成 うつりなくまのゝ入江の浜風にをはな浪よする秋の夕くれ あさにもなひく    新古今   八條院六条 」(

二八ウ

) のへことに音つれにたる秋風にあたにもなひく花すゝきかな ますほのすゝき    無名抄に ますほの薄といふは。ほなかくて一尺はかり有をいふ。かのます かゝみをは万葉に十寸の鏡と書るにて心うへし。まそをの薄とい ふは真麻の心也。糸なとのみたれたるやうなる也。ますうの薄は まことにすわう也と云心なり。 」(

二九オ

)ますわうの薄といふへきを こと葉を略したる也

云 々

(18)

立正大学大学院紀要   三十四号 四八 (本文)

   萩 はきは翁の   白露もこほさぬ萩のうねりかな   といへる一句に。風情は大かたつ き た り 。 げ に き の ふ も け ふ も 雨 の 降 暮 し て 。 し め や か な る 夕 暮 な と に 。 う ち か た ふ き て 咲 み」 (

二九オ

) た れ た る は 。 哀 に や ん ご と な き も の と そ 覚 ゆ れ

。垣ね抔にしたてたる萩の盛なるに。白露の置わたしたる朝けし きこそ又おかしけれ。かゝる折をみせ参らせなは。秋はゆふへと誰か いひけんとは。萩にそ先よみ給ひなん。垣ねにしたる花の中には、山 吹ぞ似る物なうめてたしと見しが。萩がきは思ひなしけ高う。猶まさ り 様 ゛ に そ 覚 ゆ る 。 さ れ ど む か し よ り 哥 に も 多 く は 野 辺 に そ よ み」 (

二九ウ

) 置ぬる。橘為仲の。長持十二合して土産にし給ふといへは。さばかり 多く咲るのべも有にこそ。ましてさほしかのかへりすかたを見つくる 朝ほらけもあらんとおもふにいとゆかしけれと。我住かたの野辺には 稀也。たま〳〵二三本薮かけなとにたてるは。それともみえす。この ころみやぎのとて世にもてはやさる。竹なと の

立たるやうに高う立あ か り 四 方 へ み た れ 咲 た り 。 人 の 国 に あ ら ん 抔 を」 (

三〇オ

) 聞 伝 た ら ん は 。 いとゆかしかりぬべき花の。うちみれは。柳なとのたをやかなる所は なくて。只ふつゞかに高うひろごりてうちたれたり。大やう草は高う 茂りたるはあしく。只さゝやかにしけからぬぞよき。高うはびこりて おかしきははせをのみ (頭注) 秋はゆふへと    新古今   清輔 うす霧のまかきの花の朝しめり秋は夕とたれかいひけん」 (

二九ウ

) 長持十二合して    無名抄 此為仲任はてゝ登りける時。みやきのゝ萩を掘て。長持十二合に 入て持てのほりけれは。人あまねく聞て。京に入ける日は二条大 路にこれをみものにして。人おほく集て車なともあまたたてたり ける

云 々

さをしかの    後撰   つらゆき 」(

三〇オ

) 行かへり折てかさゝん朝な〳〵鹿たちならすのへの秋萩 」(

三〇ウ

(本文)

   菊 きくは白きくの重りたる。又白き花ひらの先のかた薄うけしきはかり 紫 な る は 。 け た」 (

三〇ウ

) か き 様 さ へ そ ひ て い と め て た し 。 黄 菊 は 隠 逸 な る 方 は 遠 く 。 な ま め き た る 様 そ し た る 。 濃 ン

ー 紫 紅 な る は 猶 め て た か る へ き色の。花の様におもはぬにや。はるかに品をとりてぞ覚ゆる。色々 に咲出たるを。秋の空のあはれなるに。まがきの辺を吟きあるきてみ たるこそおかしけれ。此頃世にあまねく愛せられて。心々に作り出ぬ る ほ と に 。 そ の 品 も 多 く 成 行。 こ と や う」 (

三一オ

) に 大 き な る 花 も ぞ 出 き ぬる。されどそれはみなきくを愛するにはあらす。菊の人に誉られん

(19)

豊原重軌著『百華辨』 四九 事を愛するなれは。をのづからひが〳〵鋪事もおほくて。花もくるし く。心もあらでそ咲ぬらむ。淵 ー 明が菊を愛する様は。きくを東 ー 籬の 下に採てといへる句にて。大やうけしきもをしはかられぬる。その外 和 漢 と も に 。 古 し へ よ り 菊 を 愛 す る 人 多 く 。 此 花 開 尽 て 更」 (

三一ウ

) に 花 なしともいひ。匂ふかぎりはかざしてんなと。とり〳〵にいひ置たれ と。今やうのきくを愛するけしきはみえす。是のみにはあらねど。無 下に口惜くそなり来りぬる。そのかみ田中の何某といへる老人。江都 に久しう居をしめ。多年菊を愛しぬ。常にいふ事をきけは。近年世に きくを愛するを見るに。みな人の為にそ心をわつらはしぬる。誠に菊 を 愛 す る と な ら は 。 世 に 稀 な る」 (

三二オ

) 稀 な ら ぬ を は い は じ 。 有 ふ れ た りとも花の様ゆたかに。色あいうるはしからんをもとめ植ぬへき事に ぞ 。 そ れ さ へ 得 か た き を 強 て も と め ん と せ は 。 害 あ る 事 お ほ か る へ し 。 大かたにしてやむへしとて。菊を十もとはかり植てたのしみしそ。身 にしみて覚えしか 」(

三二ウ

(頭注)

  嵐雪 黄きく白きくその外の名はなくも哉 」(

三一オ

) 菊採東籬下    古文前集雑詩 結

カマ

ヘテ

レ 廬 ン

在 イ 人 ー 境 ア   而 ン

無 ン

イ 車 ー 馬 ン

喧 ン

キコト

ア   問 レ 君 何 ン

能 爾

  心 ー 遠 ン

シテ

地 ー 自 ン

偏   ー ン

ー ン

イ ーー ン

ー ン

ア   悠 ー 然 ン

トシテ

見 ン

イ 南 ー 山 ン

ア   山 ー 」(

三一ウ

)  気 日 ー 夕 佳

  飛 ー 鳥 相 ー 与 ン

還 ン

  此 ー 間 ン

有 ン

イ 真 ー 意 ア   欲 ン

シテ

レ 辨 ン

ント

已 ン

忘 レ 言 ン

此花開尽    十日菊花   元慎 不 イ 是 ン

花 ン

ー 中 ン

偏 ン

ヘニ

愛 ン

スルニ

ナ 菊 ン

  ー ー ーー ン

ー ー ン

ー ン

ー ン

レ ー にほふかきりは    古今   よのはかなき事を思ひける折。きくの花をみて」 (

三二オ

)  貫之 秋のきく匂ふかきりはかさしてん花より先としらぬ我身を 」(

三二ウ

・ 終

〈付記〉

豊 原 重 軌 関 連 資 料 の 調 査 に あ た り 、 鶴 岡 市 郷 土 資 料 館 の 皆 様 に は 大 変 御 世 話 になりました。記して感謝申し上げます。 本稿は

JSPS

科研費

16K02415

の助成を受けたものです。

(20)

立正大学大学院紀要   三十四号 五〇

4.享保九年自序冒頭(三ウ

・ 四オ)

5.享保九年自序末尾

・ 本文巻頭(四ウ

・ 五オ)

〈参考図版〉 1.表紙

2.文虹序冒頭(一オ) 3.文虹序末尾

・ 自序冒頭(二ウ

・ 三オ)

(21)

豊原重軌著『百華辨』 五一 4.享保九年自序冒頭(三ウ

・ 四オ)

5.享保九年自序末尾

・ 本文巻頭(四ウ

・ 五オ)

(22)

立正大学大学院紀要   三十四号 五二 6.巻末(三二ウ)

7.裏表紙見返し

参照

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