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T Chlamydia pneumoniae T Matrix metalloproteinases MMP -9 MMP-2 6 MMP-9, MMP-2, MMP-14 MMP-9 Fig. 1 Gross pathology of fusiform abdom

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はじめに

 大動脈瘤とは大動脈壁の菲薄化を伴った血管内腔の拡 張病変をいい,周辺部の大動脈径の 1.5 倍以上の限局し た拡張病変と定義されている.欧米のデータでは大動脈 瘤の破裂は 55 歳以上の死因の 10 位と,中高齢者の生命 を 脅 か す 重 篤 な 疾 患 と し て 重 要 で あ る こ と が わ か る1, 2).大動脈瘤は未破裂では症状に乏しいため,破裂 により初めて診断されるか,未破裂で診断されてもすで に破裂のリスクの高い症例が多い.現在では根治的な外 科的治療法の周術期の死亡率は非常に低く,良好な長期 予後が得られている.また大動脈瘤は約 1 割の症例で多 発し,胸部大動脈瘤を認めた症例の約 1/4 で腹部大動脈 瘤が合併していたとの報告もある.さらに,大動脈瘤の 罹患は他の動脈硬化性の血管病変の存在を示唆し,全身 の動脈疾患の詳細な検索が必要となる.

腹部大動脈瘤

1.背景・病因  腹部大動脈瘤は粥状動脈硬化が基礎病変として存在 し,形態的に紡錘型瘤を呈することが多い.65 歳以上 の男性では約 4∼9%に粥状動脈硬化性の大動脈拡張病 変が認められ,これらの病変は女性に比し男性に約 10 倍多く,危険因子として喫煙の重要性が挙げられてい る3).女性の大動脈瘤は頻度が低いものの,男性の大動 脈瘤と比較して破裂の危険性が高いことも知られてい る.また腹部大動脈瘤は家系内集積が知られており,家 族歴のある患者における大動脈瘤発症の危険率は約 6 倍 に増大し,孤立発症例と比較して若年者に多く破裂の危 険率も高い.この事実を受けて,大動脈瘤家系の遺伝子 検索が行われているが,単一の遺伝子異常は明らかにさ れておらず,複数の遺伝背景が関与している可能性が 高い.  近年,腹部大動脈瘤の患者数は増加している.これは 健康診断や人間ドックなどのスクリーニングやその他の 疾患による精査での偶発的な発見も関与しているが,大 動脈瘤の発症率自体も増加していると考えられている. 腹部大動脈瘤の発症と進展への粥状動脈硬化の関与は議 論の余地があるところである.動脈硬化が腹部大動脈瘤 の病因として直接的な関与がないとの主張は,1)動脈硬 兵庫医科大学病院病理部(Tel: 0798-45-6667) 〒 663-8501 兵庫県西宮市武庫川町 1-1 受付:2014 年 7 月 14 日 受理:2014 年 7 月 30 日 第 41 回日本血管外科学会学術総会(2013 年 5 月,大阪)教育講演 doi: 10.11401/jsvs.14-00059

大動脈瘤および大動脈解離の病理

羽尾 裕之 要  旨:大動脈瘤の破裂は中高齢者の死因の重要な位置を占めている.腹部大動脈瘤は粥状動脈硬化が 基礎病変として存在していることが多く,粥腫による中膜の著明な萎縮と弾性線維の破壊が認められる. 瘤進展の分子生物学的メカニズムでは matrix metalloproteinase の活性化が報告されている.上行大動脈瘤 は囊状中膜壊死による瘤形成が最も多く,中膜壊死・弾性線維の減少・ムコ多糖類の沈着などを伴う.大 動脈解離は囊状中膜壊死による中膜の脆弱性が病因となることが多く,高血圧・先天性 2 尖弁・Marfan 症候群などが関連している.大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術ではエンドリークに伴った瘤の再 拡張や塞栓症の合併が臨床的に問題となっている.われわれの経験したステントグラフト留置後の剖検例 から,多彩な病理学的変化を示す大動脈壁に対し確実にステントグラフトを留置するためには,術前の血 管の詳細な評価が重要と考えられた.(日血外会誌 2014;23:957–963) 索引用語:大動脈瘤,大動脈解離,病理,粥状動脈硬化,囊状中膜壊死

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958 日血外会誌 23 巻 7 号 化が広い範囲の血管に起こるがその大部分で瘤形成にい たらないこと,2)先進国では動脈硬化を有する患者群は 非常に多く認められるにもかかわらず,これらの患者群 のごく一部でしか腹部大動脈瘤の患者群は認められない こと,3)動脈硬化に対する作用を有する薬物の腹部大動 脈の進展への効果が不確実であることなどが挙げられて いる4).また,古典的にいわれてきた粥状動脈硬化性腹 部大動脈瘤という病名は病態に則していない誤った名称 であるとの主張もある.しかし病理医として多くの腹部 大動脈瘤壁を検鏡していると,動脈硬化性変化は大動脈 壁の脆弱性に関与する一つの重要な因子であることは否 定しがたい.つまり動脈硬化に伴った高度の炎症性変化 による血管壁構造の破壊と再構築は,拡張病変の形成に 重要な役割を果たしていると考えざるを得ない.そうで なければわれわれが動脈硬化と認識しているものが,形 態学からは区別がつかない別の病態の表現型であると考 えるしかないであろう.また少なくともこれまでの私の 経験からは粥状動脈硬化性の変化を伴ってない腹部大動 脈の拡張病変や瘤壁を見たことはない.もし動脈硬化が 直接原因ではなく,拡張に引き続き起こった変化である と断定するのであれば,少なくとも一部の症例で動脈硬 化のない大動脈の拡張病変が認識されるべきであろう. これらのことを考えると,腹部大動脈の病因は,粥状動 脈硬化に加えて遺伝的要因・環境要因・免疫学的要因・ 血流の変化などの多因子が複合的に関与しているのでは ないか5)  組織学的に瘤壁には中膜および外膜へのマクロファー ジと T リンパ球を主体とした炎症細胞浸潤がみられ る.これらの炎症細胞浸潤が細胞外基質の変性と密接に 関与していることは明白である.しかし大動脈瘤におけ る炎症細胞浸潤の標的因子は解明されていない.そのな かでウィルスや Chlamydia pneumoniae 等の細菌感染が瘤 形成の一因とするデータも示されている.マクロファー ジや T リンパ球は,血管壁の弾性や強度を獲得してい るエラスチンやコラーゲンを分解する酵素を産生してい る.最近の報告では Matrix metalloproteinases(MMP)-9 と MMP-2 の瘤形成における重要な役割が示された6) MMP-9, MMP-2, MMP-14は正常の大動脈壁と比較して 大動脈瘤壁で有意に多く発現しており,またこれらの発 現は瘤径の増大と相関することも報告されている.また 血中の MMP-9 の濃度は腹部大動脈瘤の患者の約半数で 高値を示し,腹部大動脈瘤置換術後や血管内治療後に低 下することが知られている.  これらの炎症細胞は蛋白分解酵素の抑制因子である

tissue inhibitors of metalloproteinases(TIMP)も産生してお り,両者のバランスによって血管壁の弾性や強度が調節 されていると考えられている.瘤壁における TIMP の発 現減少も知られており,MMP の発現増強とともに両者 が血管壁の拡張や脆弱性に重要な役割を果たしている. MMPの ほ か に は plasminogen activator や elastase, cathepsin7)の瘤形成への関与も知られている.とくに cathepsin Sと cathepsin K は強力なエラスチン分解酵素 であり,ヒト粥状動脈硬化巣での強い発現が知られて いる. 2.病理 1)肉眼像  大動脈瘤は形態から紡錘型(fusiform)と囊状(saccular) に分類される.紡錘型瘤は大動脈が全周性,対称性に拡 張する病変であるのに対し,囊状瘤は大動脈壁の一部が 突出する病変である.紡錘型瘤は拡張を認めない正常径 の大動脈壁からなだらかに立ち上がり,病変部では全 周性に壁の菲薄化と拡張がみられる(Fig. 1A).前述し たように腹部大動脈瘤は紡錐型瘤が多く,その大部分 は腎動脈分岐部よりも末梢側で認められる infrarenal aneurysmで,横隔膜下から腎動脈分岐部までに生じる suprarenal aneurysmは頻度が少ない.ときに拡張病変が 片側もしくは両側の総腸骨動脈を巻き込む場合や,胸・ 腹部大動脈にまたがって瘤が形成される場合もある.囊

Fig. 1 Gross pathology of fusiform abdominal

aortic aneurysm (A) and saccular thoracic aortic aneurysm (B).

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状瘤は通常は最大瘤径よりも小さな入口部で大動脈の内 腔と交通しており,胸部および腹部のどちらにも形成さ れる(Fig. 1B).この病変は粥状動脈硬化の潰瘍形成と 密接に関連している.つまり penetrating atherosclerotic ulcerと定義される,高度の粥状動脈硬化病変により内 膜構造が破壊され,深掘れ潰瘍のような形態をとる病変 が囊状瘤の前駆病変であることが多い.瘤の大きさや形 状にもよるが,拡張病変での血流の乱れにより瘤壁内で 壁在血栓が堆積していく.堆積した血栓は“lines of Zahn”といわれる特徴的な層状構造を示す.内膜の潰瘍 形成による粥腫内の壊死産物やコレステリン結晶ととも に,これらの壁在血栓は末梢への塞栓源となりうる. 2)病理組織像  動脈硬化性の瘤壁もしくは近傍の大動脈壁は著明な粥 状動脈硬化を示す.瘤壁は粥腫が内膜のみならず中膜内 もしくは中膜を超えて存在し,中膜の弾性線維が高度に 破壊されている(Fig. 2A).同部を弾性線維染色である エラスチカワンギーソン染色で観察すると,正常では中 膜に豊富に存在している弾性線維が消失し中膜が高度に 萎縮し(Fig. 2B, 矢印),中膜を構成している平滑筋細胞 は脱落している.粥状動脈硬化の強い症例では,脂質の 沈着が外膜にまで及ぶこともある.中膜は周囲の非拡張 病変から次第に瘤壁に向かって萎縮していくが,拡張が 高度な部位では中膜が完全に消失している場合もある. 拡張部位の外膜には炎症細胞浸潤を伴っていることが多 いが,炎症性大動脈瘤を除けばその程度は軽度から中等 度である.大動脈瘤の壁在血栓は前述したように層状を 呈するが,表層部であるほど血小板やフィブリン,好中 球,赤血球などを含む新鮮な血栓像を示し,深部では細 胞成分が減少し硝子化した陳旧化像を呈する.深層の血 栓内には石灰化やコレステリン結晶が認められることも ある. 3.合併症 1)瘤の破裂  腹部大動脈瘤の破裂はしばしば致死的で,最も重要な 合併症である(Fig. 3, 矢印).急激な出血性ショックをき たす場合は腹腔内への大量出血が認められる.破裂点と A  B

Fig. 2 Histology of atherosclerotic abdominal aortic aneurysm.

A: Hematoxylin-eosin.

B: Elastica van Gieson, Arrows indicate disruption and atrophy of media.

Fig. 3 Rupture of thoracic aortic aneurysm.

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960 日血外会誌 23 巻 7 号 して頻度が高いのは腎動脈分岐部から 2∼5 cm 末梢側で 大動脈の左側面に多い.約 80%は左後腹膜への破裂で あり,この場合は後腹膜への血腫を形成する.約 20% は腹腔内へ短時間に大量の出血を起こし急速な循環不全 を生じる.超音波検査を用いた動脈硬化性の腹部大動脈 瘤の進展に関する研究では,瘤壁の直径の拡張率の平均 は 1 年間で 0.21 cm であったと報告されている.また径 5 cm以下の瘤の 5 年間の破裂の危険率は 0%であるのに 対して,5 cm 以上の瘤の 5 年間の破裂の危険率は 25% であり,5 cm 以上の瘤壁は破裂の危険性が急激に上が る8).稀ではあるが,大動脈瘤消化管瘻や大動脈瘤静脈 瘻を形成して消化管や下大静脈,左腎静脈への破裂を 起こすことがあり,これらの場合も致死的な合併症と なる. 2)感染  潰瘍形成を認める瘤壁は病原微生物の感染母地となり うるため,瘤壁における 2 次的な細菌感染が認められる こともある.病原微生物としてはサルモネラやブドウ球 菌などが挙げられ,組織学的には瘤壁および壁在血栓に 壊死を伴った急性の炎症所見を認める.他の臓器での明 らかな感染巣がみられることもあるが,そのような病変 が同定されないことが多い.

胸部大動脈瘤

1.背景・病因  胸部大動脈瘤は腹部大動脈瘤よりも頻度は少なく,か つては上行大動脈瘤の原因として梅毒性大動脈炎による ものが多く認められた.現在では梅毒の予防および治療 の発達に伴いその数は劇的に減少した.最近のデータで は胸部大動脈瘤は上行大動脈に約 60%と最も多く,次 いで下行大動脈に認められ大動脈弓部における頻度は少 ない.上行大動脈の大動脈瘤は囊状中膜壊死によること が最も多く,この変化は加齢に伴い正常径の血管壁でも 認められるが,高血圧によって程度が増強されることが 知られている9).また囊状中膜壊死は Marfan 症候群や Ehlers-Danlos症候群でみられる典型的な組織学的所見で ある.Marfan 症候群は fibrillin-1 の遺伝子変異が原因で あり,動脈壁の弾性線維の量が劇的に減少する.Ehlers-Danlos症候群は type III procollagen の遺伝子変異が知ら れている10).また胸部大動脈瘤の形成に transforming

growth factor β receptor の遺伝子変異も同定されてい る11)  動脈硬化性の胸部大動脈瘤は左鎖骨下動脈分岐直後の 下行大動脈にみられることが多く,紡錘型および囊状の どちらの形態もとりうる.肉眼的および組織学的には動 脈硬化性の腹部大動脈瘤と同様の所見がみられる.動脈 硬化性の胸部大動脈瘤も腹部大動脈瘤と同様に臨床症状 を呈することは少なく,胸部レントゲン写真や他の疾患 の全身検索で偶発的に見つかることが多い.また粥状動 脈硬化性による限局した潰瘍形成や解離の結果,内膜も しくは内膜と中膜の一部が欠損し囊状の局所的な拡張病 変を呈することがある.これは“penetrating atherosclerotic ulcer”といわれている病態で,胸部大動脈の囊状瘤とし て同定されることがある.  巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)の頭蓋外血管病変として 胸部大動脈瘤を認めることがあり,50 歳以上の女性に 多い.巨細胞性動脈炎は頭痛などで発症することが多 く,視力障害や失明をきたす症例もあり,約半数でリウ マチ性多発筋痛症を合併する.巨細胞性動脈炎の患者群 では同年代のコントロール群と比較して高率に胸部大動 脈瘤を認める.このほか外傷や真菌感染も胸部大動脈瘤 の原因となることがあるが稀である. 2.病理  囊状中膜壊死の組織像は弾性線維の減少や断裂と中膜 内の酸性ムコ多糖類の沈着,平滑筋細胞の減少を伴った 中膜壊死である.エラスチカワンギーソン染色では中膜 に存在している弾性線維が断裂・離開し(Fig. 4A, 矢 印),アルシアンブルー染色で酸性ムコ多糖類が青色陽 性に染色される(Fig. 4B, 矢印).これらの変化によって 大動脈壁の弾性や強度が失われて拡張病変を形成する. この変化が上行大動脈起始部に及ぶと大動脈弁輪の拡張 により大動脈弁閉鎖不全の原因となる.  巨細胞性動脈炎の病理組織学的所見としては,vasa vasorumを経由したマクロファージやリンパ球などの単 核球の浸潤とともに巨細胞浸潤が外膜に認められ,これ らの炎症所見が中膜へと拡がっていく.中型の血管では 内膜の肥厚を伴い狭窄や閉塞を認める.血管病変では proinflammatory cytokinesである IL-1,IL-6,TNF,IFN-γ などの発現が増強しており,病変が進行すると platelet-derived growth factorや fibroblast growth factor の発現も増 強し,これらのサイトカインは内膜の増殖病変に関与し ている12)

ステントグラフト内挿術後血管の病理

 腹部および胸部大動脈瘤に対してステントグラフト内 挿術による血管内治療が広く行われるようになり,ステ ントグラフト留置後に瘤壁とステントグラフトとの間隙 への血流のリークから瘤壁の破裂や再拡張を引き起こし

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た剖検症例も経験されるようになってきた.瘤壁とグラ フト間は血流速度が遅く,また乱流も認められるため, 通常壁在血栓を伴っている.われわれは胸部大動脈瘤に 対するステントグラフト内挿術後に瘤壁の破裂から死亡 に至った剖検例を経験した.下行大動脈における囊状瘤 の壁の一部が高度に菲薄化し,その一部で破裂を認め た.ステントグラフト周囲および native の大動脈壁には 壁在血栓の付着が認められた(Fig. 5A, 矢印).また中枢 側では左総頸動脈入口部にステントグラフト固定用のス プリングがかかっており(Fig. 5B, 矢印),周囲には壁在 血栓の付着が認められた(Fig. 5B, 矢頭).ステントグラ フトのランディングゾーンについては,本例のように固 定用スプリングの位置も含めて,血管の分岐や病理的変 化について術前の詳細な検討が必要であると考える.と

Fig. 4 Histology of cystic medial necrosis of aorta.

A: Elastica van Gieson, Arrows indicate fragmentation and separation of elas-tic fibers.

B: Alcian-blue, Arrows indicate deposition of mucopolysaccharide.

A  B

Fig. 5 Gross pathology of stent-graft deployment for thoracic aortic aneurysm.

Mural thrombi formation at the surface of prosthetic conduit and native aortic wall (A, arrows). Proximal edge of stent-graft (B, arrow indicates ostium of left common carotid artery. Arrowheads indicate mural thrombi formation).

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962 日血外会誌 23 巻 7 号 くに総頸動脈の分岐部でのステントグラフト留置による 壁在血栓の付着は,ときとして重篤な合併症である脳血 栓塞栓症を引き起こす可能性があるため,慎重なグラフ ト留置手技が望まれる.

大動脈解離

 大動脈中膜の亀裂により血流が偽腔内に流入する大動 脈解離は発症すると救命率は極めて低く,発症頻度は女 性の約 2∼3 倍男性に多い.Marfan 症候群による大動脈 解離を除くと本疾患は 60 歳以上で高率に起こり,高血 圧歴と密接に関連している.大動脈の脆弱性は中膜の囊 状中膜壊死により惹起され,稀に大動脈炎が関与するこ ともある.通常,大動脈解離の症例では軽度から中等度 の動脈硬化が認められることが多く,高度の粥状動脈硬 化は稀である. 1.背景・病因

 高血圧歴は DeBakey Type III つまり解離のエントリー が下行大動脈に存在している症例の 80%に,DeBakey Type Iおよび II では約半数に認められるとされている. しかしながらもちろん高血圧の患者すべてに解離が起こ るわけでなく,解離を起こした症例に認められる中膜の 変性像が起こるメカニズムは解明されていない.高血圧 を背景とした大動脈解離の発症ピークは約 70∼80 歳代 であり,高齢の男性に多い.  先天性 2 尖弁は大動脈解離の症例の 10%に認めら れ,これらの症例は亀裂が上行大動脈に認められる DeBakey Type Iおよび II である.正常人と比較して先天 性 2 尖弁および先天性 1 尖弁ではそれぞれ解離のリスク が 9 倍,18 倍になることが報告されている13).先天性 2 尖弁で解離が起こった症例は高度大動脈弁狭窄の頻度が 多いわけではなく,これらの症例における解離のメカニ ズムは大動脈弁狭窄に伴った血行力学的な変化はあまり 関与していないと考えられている. 2.病理 1)肉眼像  大動脈解離は大部分の症例で肉眼的に解離のエント リーが観察可能である.DeBakey Type I および II では通 常血流に対して垂直方向に亀裂が入り,右冠尖および無 冠尖の末梢 1∼3 cm で起こることが多い.亀裂の長さは 通常大動脈全周の半分以下である.エントリーの形成に より中膜に血腫形成,瘤状の血管径の拡張,偽腔が形成 される(Fig. 6).リエントリーが形成されると解離腔も 血流が保持され真腔と偽腔の二重の管腔が開存した状態 となる.DeBakey Type III では半数以上の症例が無症候

性で,自然経過で偽腔内の血栓が器質化し閉塞している 症例もみられる.

2)組織像

 大動脈解離の組織像として重要なのが胸部大動脈同様 に囊状中膜壊死(cystic medial necrosis) の所見である.中 膜の弾性線維の断裂・破壊を認め,同部位にプロテオグ リカンの囊状の沈着が起こり,平滑筋細胞の変性・壊死 を伴う.これらの病理像は軽度のものは加齢や高血圧の 合併により大動脈に認められる変化であるが,Marfan 症候群に代表される結合組織病では中膜における弾性線 維が虫食い状に断裂・消失している.弾性線維染色法で あるエラスチカワンギーソン染色で弾性線維が比較的保 たれていても,解離が起こっている症例を詳細に検討す ると,弾性線維の間隙が離開し同部位にプロテオグリカ ンの沈着が認められる.またこれらの変化は部位によっ てその程度がさまざまで病変の分布は均一ではないた め,病理組織像を検討する際は動脈壁のサンプルの数を 多めにとることも重要である.一般的に解離のエント リーが生じた部位の近傍では組織学的な変化が強い場合 が多い.

おわりに

 胸腹部大動脈瘤および大動脈解離の病因および病理学 的所見を中心に述べた.大動脈瘤は近年増加傾向であ り,また瘤壁の破裂は致死的な合併症で中高年者の重要 な死因の一つである.またこれらの大動脈疾患は臨床症

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状を呈さないことが多いため,発見が遅れがちであるこ とも問題点の一つである.拡張した瘤壁に対する根治的 治療が外科的治療およびステントグラフト内挿術しかな いことから,今後は大動脈瘤の早期診断法および薬物療 法などの非侵襲的な治療法の開発が待たれる.大動脈解 離は発症すると致死率が非常に高く,治療が 1 時間遅れ ると死亡率が 1%ずつ上昇すると考えられている.また 大動脈解離は高齢者での発症が多いことから早期の外科 的治療によっても手術のリスクの高い症例が多く,今後 のさらなる病態の解明が望まれる.

利益相反

 羽尾裕之は利益相反はない. 文  献

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Pathology of Aortic Aneurysm and Aortic Dissection

Hiroyuki Hao

Department of Surgical Pathology, Hyogo College of Medicine

Key words: aortic aneurysm, aortic dissection, atherosclerosis, cystic medial necrosis

Abdominal aortic aneurysms are very common in elder population and their rupture is the important cause of death in the western countries. Atherosclerotic abdominal aneurysms result from a weakening of the aortic wall by the extension of the disease into the media. Destruction of elastic fibers and medial atrophy are prominent in the affected aortic wall. Recent studies demonstrated that molecular pathogenesis of aortic aneurysm was explained by the activation of matrix metalloproteinase. In contrast, cystic medial necrosis with fragmentation of elastic fibers is the most important histological feature for ascending aortic aneurysm. Atherosclerosis is important for the etiology of descending aortic aneurysm and its histological features are similar to that of abdominal aortic aneurysm. Cystic medial necrosis is also important for the etiology of aortic dissection. Close relationship between aortic dissection and diseases such as hypertension, Marfan syndrome and congenital bicuspid aortic valves are well known. Re-expansion of aneurysm due to the endoleak after stent-graft deployment is critical problems. Our autopsy case of stent-graft deployment for aortic aneurysm revealed mural thrombi formation at the surface of native aortic wall.

Fig. 3  Rupture of thoracic aortic aneurysm.
Fig. 5  Gross pathology of stent-graft deployment for thoracic aortic aneurysm.  Mural thrombi formation at the surface of prosthetic conduit and native  aortic wall (A, arrows)

参照

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