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(1)

日日本の公訴提起原則の問題点 ゴドイツにおける私人訴追手続

9 9  

稿 二私訴手続における公訴の位置づけおよび検察官の地位 日私訴手続における公訴の位置づけ 口私訴手続における検察官の地位 三私訴手続における﹁公益﹂概念の検討

↓私訴手続における﹁公益﹂概念解釈の意味 ロ﹁公益﹂概念の法的性格 口ドイツ刑訴法三七六条における﹁公益﹂概念の検討 四侮辱罪における私訴事件例

̲ 四最終判断を受けた侮辱の行為状況と量刑の根拠 日ドイツ私訴手続における﹁公益﹂概念論からの示唆

ド イ ツ 私 人 訴 追 手 続 に お け る

9 9 9 9 9 9 9 t   9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9

疇 説

i

9 9 9 9   9 9 9 9 ,  

﹁ 公 益 ﹂

上 概

0

信 太 郎

14‑2  ‑403 

(香法

' 9 4 )

(2)

進行︑隔壁破裂によって操縦不能となり墜落したとされた︒ 日本の公訴提起原則の問題点

実務の現実

本稿は︑犯罪被害者の刑事訴追への関与の問題をドイツ私人訴追手続︵以下私人訴追を単に私訴と略す︶を素材と

して考察する︒その際︑とりわけ検察官公訴と私訴とを画する概念であるドイツ刑訴法三七六条にみられる﹁公益﹂

概念について検討を加え︑そこから犯罪被害者ないし市民の意志を取り入れた刑事訴追を模索することを目的とする︒

そこで︑本稿における問題意識および目的を提示するにあって︑何よりもまず︑我が国において検察官の公訴権行

使が問題だとされ︑犯罪被害者の訴追意志が刑事手続に反映されなかった若干の事例をおさえておくこととしたい︒

︻日

航機

墜落

事件

一九

八五

年八

月︑

問題の所在

五二

0

人の犠牲者を出した日航機墜落事件に対して︑前橋・東京両地検は立証の困難などを理由

として業務上過失致死傷罪の嫌疑で送検されていた日航︑ボーイング両社の関係者二

0

名全員を不起訴処分とした︵一

九九

0

年九月︶︒墜落機は一九八六年六月︑大阪空港でしりもち事故を起こし︑圧力隔壁が変形し︑ボーイング社のス

タッフが約一カ月修理した︒しかし︑隔壁の上半分と下半分を接続したときに︑中継ぎ板の幅が狭かったため二列に

打ったリベットのうち一列分が空打ちになるという﹁お粗末きわまりない﹂修理ミスが原因で隔壁金属部分の疲労が 二

0

14‑2  ‑404 

(香法

' 9 4 )

(3)

がちりばめられた﹂︵被害者コメント︶ものであった︒ 群馬県警本部の捜査を受けて検察は︑アメリカ司法省と協議しながら︑ボーイング社およびそのスタッフに質問状を出していたが︑修理の具体的状況に関する回答が得られず︑ミスを生じた原因︑経緯などを突き止めることができ

これに対し︑被害者側︵﹁八.︱二連絡会﹂︶

結 局

四人を改めて不起訴処分とした︒

なか

った

0

九 は︑検察庁法の指揮監督権に基づいて不起訴処分の見直しを求め︑日

航︑ボーイング社の関係者計四名を業務上過失致死傷罪で起訴するよう求めた不服申立書を提出︵一九九

0

年八月三

日︶︑しかし検察は﹁申立てには理由がない﹂としてこれを退けた(‑九九

0

年八

月一

0

日 ︶

他方︑検察の不起訴処分に対して︑被害者の不服申立てを受けて審理していた前橋検察審査会は︑一九九

0

年四月

二五日﹁ボーイング社修理スタッフと日航の検査担当各二人の不起訴は不当﹂とする議決を下した︒議決の内容は︑

﹁検察が不起訴処分にした時の理由の内容をはるかに上回った﹂ものであり︑被害者の﹁それまで知らなかった事実

一九

0

年七

月︱

二日

同審査会の議決内容によれば︑まずボーイング社作業担当者は﹁最も刑事責任を問われるべき者であり︑不起訴処

分とすることは到底できない﹂とした上で︑日航整備本部

w

検査課長および

I

検査部長についても﹁社内規定に基づ

<領収検査員の指名をせず︑領収検査実施要領の設定を怠り︑修理作業に伴い派生する不具合の的確な技術管理のた

めの関連部門との協議・調整をせず︑品質管理に必要な指定立ち会い検査項目の設定を怠った﹂と指摘し︑﹁要は︑被

疑者らがやるべきことをやらなかったことに尽きるのではないか﹂と極めて厳しい判断を下したものである︒﹁前橋検

察審査会の努力に対し︑敬意を表し﹂た検察であったが︑検察幹部は議決書発表のその日に︑はやばやと不起訴の結

論は変わらないと述べたという︒検察審査会の議決を受け︑再捜査をおこなった前橋地検は︑

14‑2  ‑405 

(香法

' 9 4 )

(4)

九八

九年

三月

︶︒

一九八六年︱一月︑東京都町田市に住む共産党国際部長宅の電話回線を近くのマンションに引き込む盗聴工作が発

覚した︒東京地検特捜部は現場の指紋などから︑神奈川県警警備部公安一課の複数の警察官が関与していたことを突

き止めた︒しかし︑検察当局は︑警察庁が同県警本部長の辞任を含む﹁引責人事﹂を行った後︑﹁現場の警察官だけを

処罰の対象とするのは厳し過ぎる﹂などとして︑

聴未

遂︶

で起訴猶予処分に︑

付審判請求に関しては︑

一九

八七

年八

月︑

k巡査部長およびH巡脊を電気通信事業法違反︵盗

その他については不起訴処分とした︒このため共産党側は︑東京地裁に公務員職権濫用

罪の付審判請求をするとともに︑検察審査会に事件の審査を申し立てた︒

まず一九八八年三月東京地裁で請求が棄却され︑それに続く東京高裁での付審判請求抗告

審でも﹁電気通信事業法﹂によって処断すべき︑との判断により第一審同様︑請求は棄却された(‑九八八年八月︶︒

さらに特別抗告審でも最高裁は︑﹁被疑者は盗聴行為の全般を通じ︑終始︑だれに対しても警察官の行為でないことを

装っていたのだから︑職権の乱用があったとはいえない﹂として一︑二審を支持し︑抗告を棄却する決定を下した︵一

一方︑高裁での請求棄却決定に先駆けて行われた東京第一検察審脊会の議決は︑三警察官の不起訴処分︵電気通信

事業法違反に関して︶を不当とし東京地検に再考を迫るものであった(‑九八八年四月︶︒同審査会は事件全体につい

て︑﹁犯罪の取り締まり︑国民の権利の保護に当たるべき警察官らが︑あえて法律を破って国民の通信の秘密を侵すよ

うな犯罪を組織的に行ったという点で︑事件は重大であり︑社会に与えたショックも大きかった︒警察に対する国民

の信頼を裏切り︑これらの犯行に加わった警察官らの責任は重い﹂と述べ︑

K

巡査

部長

H巡査の起訴猶予処分およ

T

警部補の不起訴処分につき﹁不起訴不当﹂の議決を下したものである︒この議決を受けて東京地検は︑﹁改めて処

︻共産党幹部宅盗聴事件︼

二︱°

14‑2 ‑406 (香法'94)

(5)

(8 )

9

) 

分の当否について︑新たな捜査態勢で検討﹂したが︑結局︑不起訴処分を取り消すには到らなかった︒

︻佐川急便︵五億円献金配分︶事件︼

一九

0

年一月中旬︑東京佐川急便の九

W

元社長から︑当時︑自民党副総裁であった

K

代議士に提供された五億円献

金の配分を受けたとして︑政治資金規制法の量的制限違反︵超過受領︶で告発されていた自民党

T

派︵当時︶の代議

士六

0

名︵

氏名

不詳

らに対し︑東京地検特捜部は︑六

0

名全員を一括して嫌疑不十分で不起訴処分とした

二年︱二月二二日︶︒東京地検の調べによると︑

K

代議士は九

0

年一月中旬に︑

W

から当時の

K

代議士のー第一公設秘

書を介して五億円を受領し︑自派から立候補する現職代議士および新人候補ら六十数名にそれを配分したとされてい

( 1 0 )

 

る︒この六十数名に対して東京地検へ出された告発は約三万一︑

000

件にのぼったという

この不起訴処分については︑しかし︑早くも同月二四日に弁護士グループ一

0

名が

また二四日には社会党国会議

員五二名がそれぞれ東京地検の決定を不服として︑東京第一検察審査会に審壺を申し立てた︒

これを受けて同検察審査会は︑九三年一月一三日︑

K

代議士および自民党代議士ら六十数人について政治資金規制

法違反の嫌疑について不起訴とした東京地検の処分は﹁捜査が厳正︑十分に尽くされたとはいえず︑不当﹂とする議

決を下した︒検察側は︑不起訴とした理由として︑政治団体を経由して分配された献金については政治資金規制法の

量的制限規定は適用されないことになっており︑﹁五億円はいったんk代議士の指定政治団体である

S

研究会に寄付

し︑そこから分配した﹂という

K

代議士らの供述を覆すことができないとしていた︒

しかし︑同検察審査会は︑五億円献金が行われた一九九

0

年分の

S

研究会の収支報告書には五億円に関する記述が

ない点を指摘し︑﹁五億円が指定政治団体に入った証拠がないことからすれば︑五億円は

K

代議士個人の裏金として︑

他の候補者に分配されたものと解される﹂と判断した︒その一方で︑﹁九

0

年の総選挙前︑当時の

T

派の代議士ら六十

︵一

九九

14‑2 ‑‑407 (香法'94)

(6)

いるとはいえないように思われる︒ ところで︑ここに挙げた三件の事例は︑

~

数人の立候補予定者に分配した﹂とする

K

代議士の当時の

I

秘書の供述は具体的で信用性があるとしたほか︑

T

派の

代議士らの特捜部に対する供述はみな形式的でその内容には相当問題があると判断し︑﹁捜査が厳正かつ十分に尽くさ

( 1 1 )

 

れたとはいえず︑不起訴の裁定は不当﹂だと結論づけている︒

( 1 2 )  

同検察審査会の議決を受けて︑﹁議決を尊重し︑別の検事に再捜査させ︑適切な処分をしたい﹂とした検察であった

が︑同月二九日︑最終的に特捜部は︑改めて嫌疑不十分で不起訴の裁定をした︒その理由について東京地検は︑政治

団体からの寄付は量的制限規定が適用されず︑﹁五億円は受領後︑

K

代議士の指定政治団体を経由して分配した﹂とす

K

代議士側の供述を審査会の議決を受けて行った再捜査でも覆せなかった︑としている︒また︑検察審査会は﹁

K

代議士の政治団体の収支報告書に五億円の記載がなく︑k代議士個人からの献金だった疑いがある﹂としていたが︑

これについて検察当局は﹁記載がないのは裏金として処理されたことを示すだけで︑

は言えない﹂とした︒

いずれも世間の耳目を集めた事件である︒

である︒必ずしも法律に精通しているとは限らない︒ それだけでは個人からの献金とそして︑法律のエキスパートで

ある検察が下した不起訴処分決定を不当だとした検察審査会の審査員一︱名は︑選挙人名簿からくじで選ばれた市民

むしろ刑事司法などとは縁遠い人たちであろう︒しかし︑これ

らの事例において刑事訴追を行うかどうかを吟味するのに︑どちらの判断が市民感覚に合致したものか︑自ずと答は

( 1 4 )

 

明らかである︒以上でみた諸事例に鑑みるとき︑現在の我が国の刑事司法は︑個々の被害者︑市民の声に応え︑﹁被害

者による私的な復讐を認めない代わりに国が犯人に対して刑罰を科する﹂というテーゼを必ずしもきちんと維持して

14‑2  ‑408 

(香法

' 9 4 )

(7)

問題生起の原因

1で述べたように︑犯罪被害者の訴追意志︑あるいは市民の訴追意志が刑事手続上︑反映されないのはなぜだろう

国家訴追主義の功罪 か︒この問題の検討に際しては二つの視点から考察することが可能であるように思われる︒ひとつは︑我が国で採用されている訴追原則に内在する問題︑今ひとつが検察官訴追を控制する法制度に内在する問題である︒

m

訴追原則に内在する問題

周知のように︑我が国の刑事訴追手続は︑国家訴追主義および起訴独占主義︵第二四七条︶

の両者の有する意義を理論書からひもといてみると︑﹁公益の代表者﹂︵検察庁法第四条︶

的復讐観念のみに支配されることなく︑犯罪の社会的影響︑被害者感情その他の諸事情を考慮して公訴権を運用する

こと

がで

きる

また全国的な一体組織を有する検察官が訴追機関となることによって︑起訴・不起訴の地域的不平等

が是正され︑公訴権運用の公平が図られる︑と説明されるのが一般的である︒そして︑これは後述する起訴便宜主義

と連動することによっていっそう効果を挙げることができると指摘されていか︒

しかし︑刑事訴追をもっぱら国家機関に担わせることについては︑従来から︑しばしば以下のような問題点が指摘

されてきた︒すなわち︑第一に︑国家訴追主義・起訴独占主義は︑官僚主義に伴う弊害を免れないこと︑第二に︑検

察官一体の原則の悪用によっていわゆる﹁検察ファッショ﹂の危険のあることである︒これを犯罪被害者の側面から

言い換えれば︑訴追をしないことによって被害者その他の私人に刑事訴訟の開始を保障しない危険があること︑また

逆に被害者の意志から全くかけ離れて過剰に訴追を行う危険があるともいえる︒しかもそれらの危険は︑以下で言及

する起訴便宜主義と各々逆に作用することによって倍加するという問題も抱えていが

5 0

の規制の下にある︒こ

である検察官が私人の個人

~

14‑2  ‑409 

(香法

' 9 4 )

(8)

ある

︒ い 検 察 官 の 論 理 と そ の 危 険 性

起訴便宜主義の功罪

検察官の訴追裁量を容認した現行法第二四八条は︑すでに︑旧刑訴法がその第二八〇条で﹁犯人の性格︑年齢及境

遇並犯罪の情状及犯罪後の情況に因り訴追を必要とせざるときは公訴を提起せざることを得﹂と明文化していたのを

引き継いだものである︒この起訴便宜主義

(O

pp

or

tu

ni

t a

  t s

p r

i n

z i

  p )

は︑ドイツなどで採用されている起訴法定主義

( L

e g

a l

i  

t a  

t

s p

r i

n z

i   p )

の対概念であって︑その利点としては一般に以下の諸点に求められている︒第一に︑起訴法定主義

の強行は具体的正義に反し︑短期自由刑の弊害を現出するなど刑事政策上得策でないこと︑第二に︑犯人に対して犯

罪者の烙印を押すことなく改善•更正の機会を与えることなどである。

しかし︑こうした起訴便宜主義の利点は︑

ある

その運用が適正な基準に基づいて行われているときのみ妥当することで

そうでなければ︑①で述べたのと同じ弊害が生じることになる︒検察官自身が公平︑適正な訴追判断を下し︑

またそれに対して市民がチェックを行う︑その連係がうまく機能している場合にのみ起訴便宜主義も肯認されるので

上に述べた印︑⑯で指摘した問題とは裏腹に︑検察官自身は自ら行う公訴権の行使に対して︑絶大の自信を誇って

いるといえよう︒通常︑検察官が起訴独占主義ないし起訴便宜主義を擁護する場合︑低い無罪率︵高有罪率︶をその

根拠とするのが一般である︒すなわち︑我が国の一%にも満たない極めて低い無罪率をもって︑検察官が公訴権を独

占すること︑および訴追裁量権を有することの根拠とする︒たとえば︑現状における低い無罪率は︑﹁犯罪検挙率の高

さとともに我が国の捜査機関の高水準︑国民性・社会的文化的伝統に沿った検察権の運用の合理性を示すもの﹂だと

( 1 8 )

 

され︑﹁起訴の是非は︑⁝⁝明文化された起訴基準を設けることは不可能に近いが︑起訴不起訴を決する検察官の﹃勘﹄ 二︱四

14~2 410 (香法'94)

(9)

とさ

れる

が︑

ここでは︑こうした検察官の論理に対して︑ 脚してきたということもできる︒ 承認されている︒

( 1 9 )

 

は︑検察全体の歴史の中で蓄積された経験に基づく客観的なものである﹂と評価される︒

官が独占すること︑

二︱五 また︑公訴権の運用そのも

のについては︑﹁我が国の検察官は︑起訴・不起訴の権限を独占的にもち︑厳格な基準でこれを運用しており︑⁝⁝起

訴する場合にも︑罰金・科料に当たっても論告・求刑を通じて裁判所の量刑に大きな影響を与え︑さらに︑その時々

の犯罪の動向を的確に把握し︑必要に応じて全国的又は地域的に起訴方針や求刑基準を定め︑犯罪に適切に対処して

おり︑正に刑事司法の中核的役割を演じている﹂とされ︑その運用があくまで厳格かつ適正に行われていること︑そ

( 2 0 )

 

してそれは日本の刑事司法において中核的役割を担っていることが強調される︒こうして刑事訴追権をもっぱら検察

また広範な訴追裁量をそれとあわせて持つことは︑当然のことながら検察サイドからは全面的に

したがって︑我が国では︑これまで検察官の公訴権行使に際して︑種々の問題点︑危険性がつとに指摘されてきた

にもかかわらず︑徹底した国家訴追︑起訴独占︑起訴便宜の各主義が採用され︑維持されてきたといえる︒しかし︑

先に述べた実務の現状および訴追原則に内在する問題点とこうした検察官自身の公訴権運用に対する評価を重ね合わ

せて考察するとき︑我が刑訴法は︑検察官の公訴権行使について︑ほとんど愚匝といってよいほどの楽観的立場に立

一応︑次の危険性を指摘しておくことが可能だろう︒すなわち︑﹁刑事

司法の死命を制する﹂といわれる刑事訴追権の行使が検察官の﹁勘﹂に委ねられているという危険性と︑﹁厳格﹂だと

いわれる起訴基準が市民によって精在されていないという危険性である︒

まず︑前者については︑検察官のこの﹁勘﹂は︑﹁検察全体の歴史の中で蓄積された経験に基づく客観的なもの﹂だ

一組織体の主観確信に過ぎない﹁勘﹂がなぜ客観的だといえるのか︑その論証は何もなされていないと

14‑2‑411 

(香法

' 9 4 )

(10)

いうことである︒検察官の公訴権の行使・不行使の決定は︑被疑者の側からみるとまさに死活問題であり︑それは﹁刑 事手続への引っ張り込み﹂という危険の側面を持つ︒しかし︑また︑これを被害者の側からみると︑自己の被った犯 罪の真相究明の手立てがそこで遮断され︑刑事手続から排除されてしまうという危険性を持つ︒したがって︑起訴.

( 2 2 )  

不起訴決定に関する検察官の﹁勘﹂の論理に対しては︑﹁可視性に乏しく﹃感﹄に頼るという現状は︑なお改善を要する﹂

という指摘がまさに妥当する︒

さらに後者については︑検察内部の起訴基準の存在は︑直接的には合理性を意味しないということである︒すなわ

ち︑この起訴基準についての厳格性︑適正性評価はあくまで検察内部で通用する論理でしかないということである︒

仮にこの基準の厳格性︑適正性を担保しようとするならば︑少なくとも︑

て精査されなければならないはずである︒それゆえ︑﹁基準の存在はその基準が合理的であるかという問題とは本来別

( 2 3 )

 

個のもの﹂であって︑合理性の欠如した起訴基準を尺度にした公訴権の運用が﹁刑事司法の中核を演じ﹂︑﹁裁判の量

刑にも大きな影響を与えている﹂とする認識に対しては︑﹁検察の傲慢とも思える実務認識﹂だとする手厳しい批判を

ところで︑検察官による不当な公訴権行使には︑具体的に︑不当な起訴と不当な不起訴とに分けられて分析されて

きた︒前者は従来から公訴権濫用論として華々しく展開されてきた問題であった︒他方︑不当な不起訴については︑

るという保障はない︑という①で述べた問題はあっても︑

② 公 訴 を 控 制 す る 制 度 に 内 在 す る 問 題

招来させることになる︒ それが市民によって議論され︑市民によっ

周知のように検察審査会と付審判請求手続のふたつがそれに対する控制制度として予定されている︒

被害者の意志からかけ離れて刑事訴追が行われる危険がある︑すなわち︑被害者の訴追意志が刑事手続に反映され

それを控制するための法制度がきちんと完備されており︑ 二︱六

14‑2 ‑412 (香法'94)

(11)

でそれぞれの法制度について簡単に問題点を指摘しておきたい︒

検察審査会

落事

件で

も︑

二︱七

それが控制の役割を十分に担っていれば︑格別問題はないということになる︒この役割を担うものとして存在するふ

たつの制度には︑しかし︑以下にみるように制度本体に内在する欠陥があり︑また機能を十分に果たしていないとい

う問題もあり︑検察官公訴を控制するためのシステムとして有効に機能しているとは到底言い難い状況にある︒そこ

検察審査会はよく知られているように︑﹁公訴権の実行に関し民意を反映しその適正を図るため﹂︵検察審査会法第

一条︶一九四八年に設置された制度である︒これは︑英米の起訴︵大︶陪審を参考にしたといわれ︑現行憲法の主権

在民主義に則って︑刑事司法のひとつの分野に市民の参加を容認した画期的な制度である︑と評価されている︒しか

しながらこの制度には︑起訴権限のない点で決定的に起訴陪審とは異なっている︒したがって︑すでにみた日航機墜

また共産党幹部宅電話盗聴事件でも検察審査会の議決は﹁国民の声を代弁﹂したものであったにもかか

( 2 6 )  

わらず︑検察官の公訴権の行使に何らの影響を与えるものとはならなかったのである︒

しかもこの制度の運用状況をみてみると活発に機能しているとは言い難い状況にある︒例えば︑一九八七年には検

察審査会への年間の申立受理件数は二︑

00

0

件を越えていたが︑翌年には急激に減少し︑現在では一︑二

00

件の

間で推移し︵表1参照︶︑また審査会の議決を受けて起訴された人員も二

0

%前後で推移するにとどまっている︵表2

参 熙

︶ ︒

したがって︑この制度が刑事司法に対する唯一の市民参加制度であるという点は高く評価されても︑問題はまさに

検察審査会が犯罪被害者に対して何を行い得るのか︑訴追意志をどう汲み取っていけるのか︑そしてそれによって検

察の不起訴処分をどのように控制していくのかを問うことであって︑こと被害者の立場からこれを考察すると本制度

14‑2  ‑413 

(香法

' 9 4 )

(12)

のだとされるが︑

一般的には裁判所の 行行為が適正であることを証明するも 察側からは︑我が国の公務員の職務遂 ものとなっている︒ ま

って

おり

その認容率は極めて低い

0

年までの五年間でわずか二件にとど の

あっ

たの

は︑

こう

であ

る︒

それによれば︑審判開始決定

一九八六年から一九九

この理由として検

付審判請求に対する消極的な姿勢にあ

ると分析されてい左︒

3

は近時の付審判請求手続の運用状況 も運用の貧困さに求められてきた︒表 この制度の持つ問題点は何より る付審判請求手続について言及してお

さら

に︑

(b) 

付審判請求手続

もうひとつの控制制度であ

は 決 し て 効 果 的

な制度であるとはいえ

(28) 

な い よ う に 思 わ れ る

年 次 新 規 受 理

処 理

総 数

1986  1,248  2,364  44  2,037  283  569  1987  2,020  2,033  95  1,796  142  556  1988  1,126  1,065  52  842  171  617  1989  1,216  1,184  58  909  217  649  1990  1,276  1,226  37  871  318  699 

表 1 検察審査会事件受理・処理人員

*犯罪白書1992年 版 か ら 作 成

Aは総数

Bは起訴相当・不起訴不当

Cは不起訴相当

D

はその他

年 次 措 置 済 総 人 員

計 起 訴 不起訴維持 赴謡斥乎翌6

1986  51  14  37  27.5  1987  38  6  32  15.8  1988  110  5  105  4.5  1989  49  8  41  16.3  1990  58  12  46  20.7 

二︱八

2

起 訴 相 当 ・ 不 起 訴 相 当 議 決 後 の 事 後 措 置

*犯罪白書1992年 版 か ら 作 成

14‑2 ‑414 (香法'94)

(13)

さらにこの手続の審理方式に関していえば︑現状では請求人を審理か

ら排除した形態で行っており︑したがって被害者の関与は認められてお

らず︑この点も問題だとされている︒審理をうける当事者の納得できる

裁判を目ざすことが﹁﹃人の尊厳の擁護﹄というかけがえのない基本原理﹂

o )   ゞ ︑ だとし︑当事者関与は当然であるという見解もある力現在の運用はこ

( 3 1 )

 

のような問題意識からはほど遠い状況にある︒

③検察官の﹁公益﹂代表者性に対する疑問

検察官は︑以上でみたように我が国の訴追原則︵国家訴追主義︶

の採

用を全面的に承認しかつまた公訴権の運用に絶大の自信を示し︑﹁国家刑

罰権の適正な実現の第一歩は︑

げるけれども︑

まさに検察官の手中に専属しているので

まさにここにこそ公訴権の運用が﹁勘﹂に頼らざるを得ないという理由がある︒しかし︑

一 九

あって︑この意味において︑公訴権こそは︑検察官に与えられた権限の

( 3 2 )

 

なかでも極めて重要なもの﹂と位置づける︒しかし︑刑事司法の中核を

占め︑極めて重要だとされるこの公訴権運用の内実は︑先にみたように﹁勘﹂に頼った極めて曖昧なものであること

も事実である︒この極めて重要な公訴権の運用が勘に頼らざるを得ない原因はどこにあるのだろうか︒

それは︑結局︑我が国の刑訴法が検察官の訴追裁量に対して明確な指針を提示していないことに集約される︒これ

に関する刑訴法二四八条は︑犯人の性格︑年齢︑境遇︑犯罪の軽重︑情状そして犯罪後の状況というファクターを挙

それらは﹁いずれもが基準化︑定量化の困難なもの﹂であることが検察官の側から指摘されていか︒

そ う だ と

すると、裁判所と

年次 新規受理人員

処 理 人 員

総 数

1986  1,182  1,258  1,258  1987  228  489  489 

1988  252  191  190  1  1989  239  197  197 

1990  260  283  282  1 

表 3 付審判請求手続の処理状況

*犯罪白書1992年版から作成

A

は総数

B

は棄却決定等

Cは付審判決定

14‑2 ‑‑415 (香法'94)

(14)

類似するほどに﹁中立性︑客観性が要和﹂されると検察官自身が述べる検察職務の中でも最も重要な公訴権の運用が︑

その主観的判断でしかない﹁勘﹂に依拠して行われているということになり︑まことにおかしな論理に陥ることにな

る︒そこで︑こうした皮肉なパラドックスを埋め合わせるための道具概念が必要になる︒

つま

ると

ころ

二二〇

その概念こそが検察官の﹁公益﹂代表者性であったように思われる︒何らの論証もなく︑公訴権の

運用を支える﹁勘﹂が﹁検察全体の歴史の中で蓄積された経験に基づく客観的なもの﹂であり︑厳格な訴追基準の下

で適切にそれが行われているとする論拠は︑たとえば以下のような文言から看取される︒﹁わが刑訴は︑公訴を提起す

る権限について︑国家機関である検察官にこれを行わせる国家訴追主義をとり︑被害者などの一般私人が直接刑事裁

判所に出訴するという︑いわゆる私人訴追制度を認めていない︒また︑いわゆる検察官による起訴独占主義をとり︑

警察など検察官以外の機関による起訴を認めないこととしている︒公訴の提起が公正になされることは︑公正な裁判

︑︑

︑︑

︑︑

が行われるための基本的な前提となるものだが︑独立の官庁である検察官に公益を代表して公訴を提起させることが︑

( 3 5 )

 

公訴提起の公正を保つうえでより適切であるという考えに基づくものである︵傍点筆者︶﹂︒この思考は︑公益の代表

者である検察官が下した起訴決定・不起訴決定こそが公正・適切なものであり︑ひいては公益に適うということを示

し︑﹁国家の刑罰権の実現をはかるための刑事訴訟は︑私益を基盤とする民事訴訟と異なり︑正義の実現を第一義とし︑

公平妥当を旨としなければならないから︑報復感情や利害関係に左右されない公正な国家機関が訴追権をもつことが

( 3 6 )

 

最も適切である﹂とする国家訴追主義を支持する論理ともつながることになる︒

しかし︑ここで﹁公益とは何か﹂をきちんと問うことなく︑公益の代表者である検察官が下した判断が公益に適う

のだという主張は一種の循環であり︑当該事案を起訴すること︑あるいは不起訴にすることがなぜ公益を充足するの

か︑あるいは公益に適うとはどういうことか︑そしてそもそも公益とは何かを問うことなく︑検察官の﹁公益﹂代表

14‑2  ‑416 

(香法

' 9 4 )

(15)

こと

にな

る︒

者性をア・プリオリなものとして受容することはできない︒したがって︑

( 3 7 )

 

うていく必要が出てくる︒

以上のことを前提とすると︑我が国においては︑犯罪の被害を被った被害者は︑刑事手続に主体的に関与すること

は最初から考慮されておらず︑また︑その訴追意志を反映させるためのシステムである検察審査会あるいは付審判請

求手続も有効に機能しているとはいえないために︑刑事手続に参加することはなかなか難しい状況にあることがわか

る︒﹁公益の代表者﹂である検察官の公訴権行使が被害者の意志を最大限に尊重し適正に行使されているか︑また当事

者の納得のいく形で問題の解決を図るためにはどのような刑事手続が考えられるのか︑あるいはその刑事手続を開始

させる第一段階である訴追形態︑訴追基準はどうあるべきなのか︑という課題は近時の犯罪被害者の刑事手続関与論

を踏まえた場合︑常に意識しておかなければならない問題である︒

私訴手続の特色 そこに刑事訴追に関する﹁公益﹂概念を問

前節で述べたように︑我が国においては︑刑事訴追原則は検察による鉄壁といってよいほどの固い訴追原則︵国家

訴追主義︑起訴独占主義︑起訴便宜主義︶を採用していることになり︑したがって︑﹁生き生きとした﹂被害者の訴追

意志を訴追段階で反映することができるかどうかという課題は︑基本的には検察官の胸ひとつにかかっているという

他方︑考察の対象を起訴法定主義を採用したドイツに合わせるならば︑彼の地では犯罪被害者の訴追意志を直接に

反映させる法制度として︑私人訴追手続のあることに気づく︒この私訴手続は︑公訴に基づく手続と同様に︑被疑者 ー

n

ドイツにおける私人訴追手続

14‑2  ‑417 

(香法

' 9 4 )

(16)

しかしながら︑

与も認めている︒後に改めてみるように︑

私人が刑事手続にどのような場合にアクセスすることができるのか︑ 限って︑被害者に代わって検察庁が公訴を提起する旨を明らかにしている︒これは︑私訴といっても一定の条件のあるときは︑刑事訴追権の行使を﹁官﹂たる検察官に引き渡さなければならないことを意味する︒したがって︑私訴手続における三七六条に使用されている﹁公益﹂概念は︑﹁公﹂の刑事手続と﹁私﹂たる犯罪被害者との関係を明瞭化し︑

という命題に解答を与える里要なキーワードと

なっていることがわかる︒そこで︑被害者の刑事手続関与の視点を押し進めた場合︑この概念が持つ法的性格︑概念

内容を明らかにする必要が生じてくる︒すなわち︑被害者︵私人︶

よって検察官の私訴手続への関与︑引受を認めることの意味︑

う問題解明の必要である︒ 2  に対して刑事訴追を行い︑刑の執行や前科者名簿への登録といった刑事罰の賦科を目的とする法制度で︑住居侵入罪︑侮辱罪︑傷害罪などあらかじめ法定された犯罪群の訴追について︑被害者自らが国家訴追機関︑裁判機関の手を借りずに刑事手続を開始し︑進行させ︑また場合によっては手続を終了させることができるというものである︒したがっ

( 3 8 )

 

て︑この制度は︑刑事手続のうち被害者関与の最も徹底した形態だといわれ︑これまでのように被害者に対する﹁補

償﹂とか︑あるいは刑事手続への間接的な関与︵たとえば付帯私訴︶とかではなしに︑より薗接的に刑事手続への被

害者関与を容認したものであり︑注目すべき法制度であるといいうる︒また︑

を擁し︑国家訴追主義を採用しているドイツにおいて採用された法制度であるという点でも興味深いものがある︒

私訴手続の限界

ドイツ私訴手続には︑被害者の手続への積極的関与を容認する一方で︑検察官による私訴事件の関

ドイツ刑事訴訟法第三七六条は︑私訴犯罪については公益が存するときに

による刑事手続関与を認めながら︑公益の存在に

また

~

それは︑我が国と同様に︑検察官制度

どのような場合にそれが容認されるのか︑4とし

14~2 ‑418 (香法'94)

(17)

もっとも︑後述するように︑﹁刑事訴追における公益とは何か?﹂という問題は︑極めて哲学的で解析困難な問題で か

らで

ある

本稿の目的

以上の諸点を踏まえて︑本稿では︑以下の諸点を明らかにすることを目的として論述する︒

まず︑﹁公益﹂概念の検討の前提として︑本稿二において︑私訴手続における公訴の位置づけと検察官の地位を確認

することとする︒﹁公益﹂概念の果たす役割は︑私訴と公訴との関係および検察官の法的地位にそのまま反映してくる︒

そこで︑私訴手続と公訴はどのような関係にあるのか︑そして公益があると判断された私訴事案に対しては︑規定上︑

どのような措置がとられることになるのかについて考察することにしたい︒その際︑ドイツ刑訴法三七六条の規定内

次に︑本稿三では︑私訴と公訴を画する概念としての﹁公益﹂概念の法的性格を分析することにしたい︒刑事手続

における﹁公益﹂概念は︑犯罪被害者の刑事手続関与を容認する機能を持つばかりでなく︑国家刑罰権の限界設定の

ための重要なファクターとなるものであると考える︒そこで︑本稿では︑﹁公益﹂概念検討の最初の段階として︑まず

私訴手続に対象を絞って︑本手続における﹁公益﹂概念の内容について認識することにしたい︒

本稿四では︑私訴手続が現実に果たしている機能・運用を明らかすることを目的とし︑私訴犯罪のうちでもとりわ

け侮辱罪がどのような状況の下で発生したか︑それに対する処理はどのようになっているか︑侮辱罪で科された刑罰

の内容等について解明し︑私訴が提起された事例︑すなわち︑当該侮辱事案について﹁公益﹂がないと判断された事

案について考察しておくことにする︒それによって︑私訴手続における﹁公益﹂内容の半面が見えてくると思料する 容を確認しておくことが必要であると思われる︒

1 4 ‑ ‑2  ‑ ‑ 4 1 9  

(香法

' 9 4 )

(18)

あ り

ま た

ニ ニ 四

これを解明するのに私訴手続のみを分析対象としてもそれは未だ不十分である︒この問題を検討しよう

とすれば刑事訴訟法領域のみならず︑行政法領域にまで分析の視点を拡大しなければならないであろう︒したがって︑

本稿では︑今後の﹁公益﹂概念研究取り組みの取りかかりの段階と位置づけておきたい︒

最後に︑この私訴手続における﹁公益﹂概念の研究は︑本稿五総括の部分で述べるように︑我が国における検察官

に容認された訴追裁量を見直し︑訴追基準を可視化するための一定の方策を示すためのひとつのヒントとなりうるも

のと

思料

する

( l

)

航空評論家鍛冶壮一氏コメント︑朝日新聞一九八九年九月一四日︒

( 2

)

同連絡会が独自に行ったアンケート調査によれば︑当然のことながら︑回答者全員が﹁日航︑運輸省︑ボーイング社を起訴してほ

しい﹂というものであり︑特にボーイング社の事情聴取については︑﹁刑事免責をしても直接事情聴取し︑事実を究明してほしい﹂

と多くが検察捜査に期待した︒朝日新聞一九八九年八月八日︒

海渡雄一担当弁護士コメント︑朝日新聞一九九0年四月二六日︒

検察審査会の議決要旨︑毎日新聞一九九0

年四月二六日︒

上野勝前橋地検次席検事コメント︑読売新聞一九九0

年四月二六日︒

梓沢和幸弁護士「検察は何をしたかー~日航機事故ー|J法と民主主義第二四八号(一九九0)四二頁。

検察審査会の議決要旨︑朝日新聞一九八八年四月二八日︒

山口悠介東京地検次席検事コメント︑朝日新聞一九八八年四月二八日︒

この事件を素材にした付審判請求手続の問題点について椎橋隆幸﹁付審判請求手続﹂法学セミナー第四0

(

朝日新聞一九九二年︱二月二三日︒

朝日新聞一九九三年一月一四日︒

高橋武生東京地検次席検事コメント︑朝日新聞一九九三年一月一四日︒

朝日新聞一九九三年一月三0

日 ︒

( 3

)  

( 4

)  

( 5

)  

( 6

)  

( 7 )  

( 8

)  

( 9

)  

( 1 0 )   ( 1 1 )   ( 1 2 )   ( 1 3 )  

14‑2  ‑420 

(香法

' 9 4 )

(19)

( 1 4 )

日航機墜落事件では︑関係者の起訴を求める署名が計ニニ万人以上を数えるに到っている︒朝日新聞一九八九年九月二七日︒

( 1 5 )

藤木英雄その他著﹁新版刑事訴訟法入門﹂︵有斐閣双書一九八七)[土本武司]︱二頁以下︑松尾浩也﹁条解刑事訴訟法﹂︵弘文堂

一九八六︶四0

( 1 6 )

光藤景咬﹁口述刑事訴訟法上﹂︵成文堂一九八七︶一七九頁︒

( 1 7 )

田宮裕編著﹁刑事訴訟法ー﹂︵有斐閣一九七五)[田宮裕]四五五頁︒

( 1 8 ) 渡辺咲子﹁公訴濫用論││'検察の立場からー﹂三井誠他編﹁刑事手続上j(筑摩書房一九八八︶所収三九二頁︒(19)渡辺•前掲論文三九四頁。この「勘」論理はこの他にも横井大三「起訴便宜主義」「公判法大系I公訴」(日本評論社一九七六)所

収八七頁︑亀山継夫﹁検察の機能﹂﹁現代刑罰法大系5﹂︵日本評論社一九八三︶所収四五頁にもみられ︑事実上︑検察サイドがとる

論理だといってよい︒

( 2 0 )

土屋真一﹁最も安全な国の刑事司法﹂﹁刑事政策ってこんなものです﹂︵法務省法務総合研究所監修︶所収三八頁︒

( 2 1 )

この検察官の主観的確信と公訴権の運用の問題に関する近時の論文として阪村幸男﹁公訴権理論の再構成││'検察官の主観的確

信との関連においてー﹂﹁刑事訴訟の現代的展開﹂︵三省堂一九九一︶所収六九頁以下参照︒

( 2 2 )

光藤・前掲書一八二頁︒

( 2 3 )

三井誠﹁検察官の起訴猶予裁量

H

﹂法学協会雑誌第八七巻第八・九合併号(‑九七

0 )

( 2 4 )

福田雅章﹁わが国の社会文化構造と犯罪対応策﹂﹁刑事法学の総合的検討︵下︶

(有斐閣一九九三︶所収七九五頁︒

( 2 5 )

篠倉満﹁検察審査会発足︵一九四八︶﹂法学教室第︱ニ︱号(‑九九

O )

( 2 6 )

もっとも審査会の議決に拘束力を付与することは必要でないとする見解が検察側からは提起されている︒米田泰邦﹁付審判手続・

検察審査会﹂三井誠他編﹁刑事手続上j(筑摩書房一九八八︶に対する増井清彦検事のコメント同書四三0頁︒一方で︑この制度の

存在価値の高いことを踏まえて︑裁判官側の見解として審査員の任期を現在の六カ月から少なくとも一年に延長し︑かつ議決に拘束

力を付与することなど積極的な提言を行うものもみられる︒石丸俊彦他共著﹁刑事訴訟の実務︵上︶﹂︵新日本法規出版一九九

O )

( 2 7 )

こうした結果を踏まえて︑篠倉・前掲論文はこのままでいくとかつて提起された審査会制度無用論が再び生じてくるとも限らな

い︑と懸念する︒篠倉・前掲論文一八頁︒

ニ ニ 五

14‑2  ‑421 

(香法

' 9 4 )

(20)

( 2 8 )  

横川敏雄﹃刑事訴訟﹄︵成文堂一九八四︶一五四頁は︑﹁この種の制度は存在すること自体に意味がある﹂とする︒しかし︑制度は

その制度本来の機能を果たしてこそ意味があるはずである︒

( 2 9 )

米田・前掲論文四一九頁︒

( 3 0 )

米田・前掲論文四二0

頁 ︒

(31)石丸•前掲書もこの審理が決定手続であることを理由として決定を公開する必要はないとしている。石丸•前掲書五四二頁。

( 3 2 )

伊藤栄樹﹃新版検察庁法逐条解説﹄︵良書普及会一九八六︶三五頁︒

( 3 3 )

亀山・前掲論文四五頁︒

( 3 4 )

亀山・前掲論文三七頁︒

( 3 5 )

伊藤栄樹・大堀誠一﹃新訂刑事訴訟法﹂︵立花書房一九八三︶一五四頁︒また︑伊藤・前掲書三四頁は︑端的に︑裁判の執行監督

のほか︑公訴についても検察庁法四条にいう﹁公益の代表者﹂である検察官がこれを行うことを確認する︒また︑亀山・前掲論文は︑

この﹁公益の代表者﹂という場合の﹁公益﹂とは︑具体的な種々の政策的公益に先行して法の正当な適用が確保されることだとし︑

検察官はこの意味での﹁公益﹂が実現されるよう必要かつ適切な行動をとることを職務とする行政官であると位置づける︒亀山・前

掲論文三五頁︒(36)藤木その他•前掲書〔土本武司]―二五頁。

( 3 7 )

検察官の刑事訴訟利用の限界という側面から︑この問題を詳細に論じたものとして︑能勢弘之﹁公訴の利益日︑口﹂北大法学論集

第一九巻第一号(‑九六八︶ニ︱頁以下︑同第二号︵一九六八︶三0九頁以下参照︒またイギリスの紹介資料として︑指宿信﹁刑事

訴追における﹃公益﹄要素﹂北大法学論集第三九巻(‑九八八︶七四三頁以下参照︒

( 3 8 )

その結果︑被害者は自ら積極的に刑事裁判において積極的にその役割を果たすことによって︑行為者の処罰を求め︑﹁自分の権利

を手中に収める﹂ことができる︑と評価されている︒なお︑ドイツ私人訴追手続に関する特徴︑理論的基礎および評価などについて

は︑拙稿﹁ドイツ私人訴追手続に関する一考察﹂一橋論叢第一〇八巻第一号︵一九九二︶八三頁以下参照︒ 二二六

14  2 ‑422 (香法'94)

(21)

れ ︑ ドイツでは刑事訴追原則として︑国家訴追主義(‑五二条一項︶

︱二

ドイツ刑訴法三七六条の﹁公益﹂概念が果たす機能は︑私訴手続における公訴の位置づけと検察官の地位と直接に

関連する︒以下では︑﹁公益﹂概念そのものの検討に入る前に︑この点について考察しておくこととしたい︒

および起訴法定主義(‑五二条二項︶が採用され

ている︒まず︑私訴と国家訴追主義との関連でいうならば︑私訴は国家訴追主義の例外と把握されており︑私訴犯罪

も住居侵入罪︑侮辱罪︑身体傷害罪などの刑法犯︑不正競争防止法違反などの特別法犯など︑特定の犯罪に限定され

て認められているに過ぎない︵三七四条︶︒したがって︑私人による刑事訴追を容認したといっても︑それは国家訴追

主義に背反するものではないと指摘されている︒

次に︑起訴法定主義との関連でいえば︑私訴は修正された起訴法定主義

( m o d i f i z i e r t e s L e g a l i t a t s p r i n z i p )

ともいわ

起訴法定主義の弛緩の一環として把握されている︒すなわち︑捜査機関が犯罪事実を認知した以上︑必ず訴追す

べきだとする起訴法定主義は︑必ずしも徹底されているわけではない︒むしろ︑起訴便宜主義的な思考がすでに入り

込んでおり︑この思考は︑とりわけ︑軽微な罪種に限定されている私訴犯罪領域によりよく合致するといわれる︒し

たがって︑私訴手続を国家訴追主義および起訴法定主義との関連で考察するならば︑あくまでそれは原則ー例外型の

法制

度で

あり

一応︑訴追原則と整合性を保ちながら容認されてきた制度だといいうる︒

I

私訴手続における公訴の位置づけ

私訴手続における公訴の位置づけおよぴ検察官の地位

1 4 ‑ ‑2  ‑423 

(香法

' 9 4 )

(22)

これらのことを前提として︑さらに︑私訴権者には起訴強制手続規定は適用されず︑私訴犯罪について検察官に公

訴の提起を強制できないとされている︵第一七二条第二項第三文︶︒なぜならば︑被害者の利益は︑私人訴追の方法で

保護されているからである︒これに対して︑検察庁は︑三七六条で明らかなように︑当該私訴事件に公益があると判

断したときは︑私訴権者に代わって公訴を提起しなければならない︒公益の存在が認められる以上︑起訴法定主義を

前提とすると︑公訴の提起は検察官の当然の義務であり︑また︑公益の破壊は︑単に加害者と被害者のみの関係にと

どまらず︑法共同体全体の利益に関わるものだからである︒もっとも︑公判開始までは通常の事件と同様にいったん

提起した公訴を取り下げることも可能である︵第一五六条︶︒この公訴の取下げは︑被害者に私訴方法を指示して行う

ことができる︒被害者が検察庁に告訴している私訴事件の場合︵私訴犯罪が同時に親告罪であったとき︶︑検察庁は最

初から私訴方法で手続を行うよう指示することもできる︒

公訴に基づく手続で審理される犯罪︑すなわち公の犯罪

(O

ff

iz

ia

ld

el

ik

te

)と私訴犯罪とが競合しているときは常に

前者が優先する︒私訴犯罪について訴訟条件が具備されているときは︑競合している私訴犯罪も判決到達の対象とな

る︒この両者が観念的競合にあるときに分離的判断が可能かどうか見解は分かれている︒分離的判断が可能であると

すれば︑事件の審理は以下のようになる︒たとえば︑花瓶を盗む際に傷をつけてしまったような場合︑すなわち窃盗

罪︵公の犯罪︶

と器物損壊罪︵私訴犯罪︶とが観念的に競合している場合︑軽微性を理由として審理が打ち切られた

としても︵第一五三条ないし第一五三条

a )

︑器物損壊罪については私訴手続での解決が可能である︒これは︑私訴に

(8

) 

は認められていない起訴強制手続の代替となるものである︒

したがって︑私訴は国家訴追主義と一見︑背反するようにみえるが︑それはあくまで例外として把握され︑また︑

現在弛緩している起訴法定主義の一環であり︑特定の犯罪領域に限って被害者に容認された法制度であるといえる︒

ニ ニ 八

14‑2  ‑424 

(香法

' 9 4 )

(23)

そこでは︑公益の存在を条件として︑検察官公訴の可能性を常に秘め︑公益の存在が認められれば︑私訴は直ちに通

常事件の場合と同様︑公訴へと転化することになる︒ドイツの私訴手続は︑検察官公訴を排除するものではないので

関与権の行使

私訴手続が公訴を排除するものではないということは︑具体的に私訴手続における検察官の地位からも看取される︒

私訴手続における私人訴追者は︑公訴官である検察官になり代わってその地位につくことになるが︑検察官は私訴

手続から排除されているわけではないので︑それに対する関与権

( M

i t

w i

r k

u n

g s

r e

c h

t )

を有しており︑当該私訴事件が

確定するまでは︑いつでも私訴手続に関わることが可能である︒もっとも︑関与が義務づけられているわけではない︒

裁判所は第三七七条第一項によって検察官の引受

( U

b e

r n

a h

m e

が必要であると判断するか︑あるいは第三八九条第)

一項規定の﹁本章に定める手続が適用されるべきでない犯罪﹂︑すなわち公の犯罪であると認めたときには検察庁に当

( 1 0 )

 

該私訴事件の記録を送付する︒検察庁はたいていの場合︑この記録送付によって私訴を認識するに過ぎない︒もっと

も︑裁判所は上訴の場合を除き︑検察官を召喚する義務も記録を送付する義務もないので︵これらは裁判所の権限で

あるから︶︑打切り判決で私訴を終結させることもできる︒

また︑検察官は︑裁判所からの記録の送付がなくても︑いつでも書類閲覧を裁判所に要請し︑また︑審理中の事件

について通知するよう申立てをすることができる︒このような参加権

( T

e i

l n

a h

m e

r e

c h

t )

の行使は︑必ずしも訴追の引

受に直結するものではないが︑検察庁が私人訴追者を支援しうることを意味している︒ ー

口私訴手続における検察官の地位 あ

る︒

ニ ニ 九

14‑2  ‑425 

(香法

' 9 4 )

(24)

2  引受権の行使 開始と終了

二三〇

検察官の私訴手続への関与権の内容は︑具体的にいうと私訴を引き受けることができるというに他ならない︒この 検察官による私訴の引受は︑私訴が裁判所へ係属した以降であれば︑手続のどの段階でも可能である

︵第三七七条第

二項︶︒しかしあらかじめ引受を行うことはできない︒この場合は第三七六条による公訴提起によって引受が行われる︒

引受権は︑私人訴追者の申立てがなくても︑さらに︑ときには私人訴追者の明示の意志に反しても行使することがで きる︒この引受の根拠は︑まさに第三七六条に規定された公益の存在に求められることになる また︑引受権は確定力の発生をもって消滅する︒従って︑私訴手続の再審の場合は引受は容認されない︒

態2 

引受の表明は︑記録を裁判所に提示して行われる︒これは︑明示の意志が必要であって︑﹁事情によっては引き受け

る﹂というような仮定的なものは認められない︒

新たなあるいは爾後の開始決定は認められない︒上訴︵抗告︶手続において引受を行うときは︑検察庁は私人訴追者

( 1 3 )

 

に対して経過している期間を遵守しなければならない︒

追者が訴訟参加人の地位を獲得するか否かは︑ いったん︑公判開始を不決定とした場合は︑その者の意志に任せられるのである︒ その後引受があっても︑

③ 効 検察官の引受表明によって︑私訴手続はその段階で公訴に基づく手続に転じる︒訴追引受により私人訴追者は︑

つては第三七七条第三項により︑自動的に訴訟参加人の地位に移行したが︑現在では一九八六年のいわゆる被害者保

護法

(O

pf

e r s c h u t z g e s e t z

) によって︑常に参加表明が必要とされるようになった︵第三九六条︶︒換言すれば︑私人訴

14 

2  ‑426 

(香法

' 9 4 )

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lines. Notice that Theorem 4 can be reformulated so as to give the mean harmonic stability of the configuration rather than that of the separate foliations. To this end it is

S., Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English, Oxford University Press, Oxford

At the end of the section, we will be in the position to present the main result of this work: a representation of the inverse of T under certain conditions on the H¨older

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