「 そ れ 以 上 で も 、 そ れ 以 下 で もな く」 ず ば り 、 そ の も の
『リア王』 に見る比較構 文 と心象の絡 まり
橋 本 侃
繰 り返 され る 心 象 群 が 一 つ の 文 学 作 品 の 解 釈 の 決 め 手 に な る ことは 勿 論 で あ る が 、 頻 出 す る一 つ の構 文 、 例 え ば 、 比 較 構 文 に 目を 向 けることで 、 全 体 像 が より明 確 にな ると思 わ れ る。ω 確 か に 、 繰 り返 され る心 象 群 は 『リア
王 』 を壮 大 な悲 劇 に仕 立 て てい る。 「愚 か さ、 狂 い 、 自然 、 毛物 、 脱 ぎ捨 て る」などの 心 象 の 連 な りも大 切 な組 立 て要 素 で あるが 、ω あ る固 有 の 比 較 構 文 に注 目す ると、 そ の 構 文 が この 劇 の 壮 大 さを支 え る構 築 要 素 の 一 つ で あ るばか りで な く、リア が到 達 しえた 一 っ の 認 識 を探 ることが で きると思 わ れ る 言 葉 数 の 少 な い コー デ リア がせ か され て言 った 「それ 以 上 でも、 そ れ 以 下 で もなく」 と い うの がそ れ で ある。 当 初 は 、 コー デ リアの 本 意 を 会 得 しえな か ったリア は、 も の の 本 質 を見 極 めるに 至 る魂 の 叫 び をや が ては 上 げるの で ある一一一一それ も、心 の 、 精 神 の 、 思 い の 、 身 体 の あまりに も長 い 苦 しみ の 後 に。
「この 偉 大 なる愚 か 者 の 舞 台(̀thisgreatstageoffools')」(3)に この 魂 の 叫 び を響 か せ るた め に 、 シェイクスピア は 登 場 人 物 たち に種 々 様 々 の 比 較 構 文 を頻 繁 に 口 にさせ てい る。 この 大 舞 台 の あ ちこち で 、 「何 は 何 々だ 」とい う言 い 切 りの 形 でな く、 「何 は 何 々 よりも何 々 だ 」という表 現 の 方 が 、 実 に頻 りと響 きわ たる。 興 味 深 い ことに 、 「そ れ 以 上 でも」、 あ るい は 、 「そ れ 以 下 で もなく」 とい う比 較 の 形 が他 の 登 場 人 物 た ち にも出 るに は 出 るが 、「何 は 何 々 だ 」と言 い切 る 形 は 、 コー デ リア 、 ケ ン ト、 そ して 、 エ ドガー に特 徴 的 に 現 れ る。 リアとグRス ター 、 そ れ にエ ドマ ンドは 、 思 い 、 言 葉 、 行 い 、 怠 りにお い て 、 比 較 を 好 む の が 特 徴 であ る。
一 方、 心 を尽 くし、 精 神 を尽 くし、 思 いを尽 くし、 カ を尽 くす の が コー デ リア で あり、 ケ ントであ り、 エ ドガ ー な の であ る。 そ うであ るの な らば 、 言 い 切 ること
が で きな い で い る、 一 方 の リア とグ ロスター は 真 実 か ら遠 い 存 在 として 、 「この 偉 大 なる愚 か 者 の 舞 台 」に繰 り込 まれ て いる、 と仮 定 す ることが で きると思 わ れ る。
この 仮 定 か ら推 論 を押 し進 め て ゆ くと、この 比 較 構 文 こそ が 一 連 の 重 要 な 心 象 群 の反 響 を支 え ている基 底 音 で あ ると断 定 す ることが で きるの で は ない だ ろうか 。 そ こで 、この 悲 劇 の 組 立 て に効 果 的 に 寄 与 す る比 較 構 文 を引 き合 い に 出 しな が
ら、 特 に 冒 頭 の 場 面 に現 れ る心 象 と、 この 場 面 と有 機 的 に 結 び つ い てい く 「そ の 後 」 の 場 面 に現 れ る心 象 に 注 目して み た い。 そ して 、 リアが っ い に辿 り着 い た人 間 理 解 の 有 り様 を 、コー デ リアとの 再 会 の 場 面 で探 り、この 小 論 の 結 び とし た い。
『リア 王 』は 、 冒 頭 か ら比 較 構 文 を観 客 に深 く印 象 づ けな が ら、 始 まる。 加 え て 、この 劇 の 一 つ の 基 底 音 で ある視 覚 に 関 わ る心 象 が 、興 味 深 い ことに 、視 覚 を無 法 な 力 によって 奪 わ れ るグ ロスター か ら開 ロー 番 に 出 され るの で ある。『ハ ム レット』の 冒 頭 を 引 き合 い に 出 す までもな く、ω シェイクスピア 悲 劇 は 開 幕 にお い て 、 ある種 の 緊 張 と、 あ る種 の 不 可 解 さへ と観 客 をい ざな う。 ぞ くぞ くす る緊 張 感 と、 どっち つ か ず の 不 安 感 が 傑 作 悲 劇 に 不 可 分 な の で ある。
二 人 の 家 臣 の 登 場 で 『リア 王 』 は 幕 を開 ける。 一 方 が 、 王 に は 日頃 か ら 「よ り」気 に入 って いると思 わ れ る公 爵 が い ると言 う。 す ると一 方 は 、 王 が そ の公 爵 の 方 に今 まで は 確 か に 目を掛 けて いるように 見 えたが 、 王 国 分 割 の 意 思 表 明 を 公 にす る今 となって は 、どち らを 「もっともよく」評 価 す るの か 、 自分 の 目で は 見 えない 、 と応 える。 この ようにして 、 主 題 役 の リア 王 に 「どち らか をよりよく」とい う、 もの を 分 け 隔 てる思 い が あることが 、 劇 の 冒 頭 で 明 らか にされ た。 より広 く、
より豊 か な領 土 を王 は誰 に 与 えるというのか 一 一 どち らとも確 定 で きぬ ままの 不 安 定 な 状 態 で 劇 が 始 まった のあ る。⑤
ケン ト:王 は コー ンウォー ル 公 爵 よりもオ ー ル バ ニー 公 爵 の 方 を気 に入 って い ると思 って い ました。
グ ロスター:我 々 に は そ の ように い つ も見 えました。 しか し、 王 国 分 割 の 今 となって は 、どち らの 公 爵 の 方 を 、もっともよく評 価 され て お られ るの か 見 えて きませ ん。 精 密 な秤 に掛 け て量 ってみ ても、お 二 人 の 質 は どち らにも傾 か な い の で 、分 け 前 の 多 寡 を選 ぶ ことは で きませ ん。(LLl‑7)
「そ れ 以 上 で も、 そ れ 以 下 でもなく」 ず ば り、 そのもの231
CKent.:IthoughttheKinghadmoreaffectedtheDukeofAlbany thanCornwall.
Glou.:Itdidalwaysseemsotous;butnowinthedivisionofthe
kingdom,itappearsnotwhichoftheDukeshevaluesmost , forequalitiesaresoweigh'd,thatcuriosityinneithercan
makechoiceofeither'smoi'ty.)
「〜 の 方 を 」、 「どちらの … … どち らにも傾 か な い 」と、 二 人 は 比 較 構 文 を遣 って いる。 この 二 人 の 遣 り取 りで 、 さらに注 目した いの は 、 天 秤 の 心 象(̀weigh'd') が 出 てきたことで ある。 「天 秤 」とは 、 一 方 に基 準 となる分 銅 を 、 他 方 に 量 る物 を載 せ 、挺 子 が 水 平 に なるか どうか を見 て重 さを決 め る道 具 で あ るOこ の価 値 基 準 を量 る秤 の 心 象 は 、二 つ の うちか らどちらか を選 ば な け れ ば な らな い 時 に 、も の の 優 劣 ・損 得 などを 、 基 準 とな る分 銅 が 載 ってい なくても、 比 べ て 見 ることを 比 喩 的 に表 して い る。
ところが 、 この 場 合 、比 べ るもの は 二 つ に限 るの で あ る。 選 択 肢 は 「あれ か 、 これ か 」の 二 つ しか ない 。 第 三 、 第 四 の 選 択 肢 が な い ところ に 、 物 事 の 成 り行 きが決 まって しまって 、動 か しがた い 悲 劇 性 が 暗 示 され る。⑥ そ して 、そ の 動 機 づ け は ともか く、別 の 見 方 をす れ ば 、一 か 八 か の 選 択 を迫 られ てい ることに なる。 しか も、 リア 王 の 場 合 は 、 悲 劇 的 にも、 経 験 的 にも知 りえ た親 子 関 係 に 基 づ い た 愛 情 の 判 断 で は な く、 既 に どの領 地 を誰 に 与 えるか を決 め て い たの だ 。 しか も、 三 人 に 王 国 を等 分 に分 け たの で は な い。 そ れ にも関 わ らず 、発 す る言 葉 の 損 得 を子 供 たち に求 め 、その 後 に 娘 たちが発 っした言 葉 の優 劣 を恣 意 的 に 量 り、
そ の 結 果 として 、 受 ける側 の 損 得 をも量 的 に公 に しようとして いるの で ある。
また 、 天 秤 の 心 象 は 、 リア が 正 気 を失 い 、 子 供 に 還 って しまってす る 「あ てっ こ(̀handy・dandy')」 遊 び に劇 的 に繋 が って い く。 「あて っこ」は 、 どちらの 手 に コインや 小 石 を持 って いるのか を 当 て合 う子 供 の 遊 び であ る。この 「あ て っこ」
遊 び の 相 手 をリアは 目玉 を挟 り取 られ たグ ロスター に求 め るの である 「どっち が裁 判 官 で 、どっち が 泥 棒 か(̲̀handy‑dandy ,whichisthejustice,which
isthethief?'4.6.153‑54)」 と。
さらに 、この 台 詞 に あ る̀justice'は 、両 手 に天 秤 と剣 を持 ち 、 目隠 しを して い る正 義 の 女 神(Justice)を 想 起 させ る。女 神 が 目隠 しをして いるの は 公 平 を
期 す た め で ある。 目だ けで 見 る偏 見 と独 断 を意 図 的 に忌 避 す るの が 「正 義 」で ある。 ところが 、正 気 を失 った リア の遊 び の 相 手 の グロスター は 、そ の 時 、視 力 を意 図 的 に 奪 わ れ てい た。 「耳 で 見 ること(̀Harkinthineear'ibid.,152)」
と、 「鼻 を効 か せ て/ゆ く(̲̀lethimsmel1/Hisway'3.7.94・95)」 以 外 に 何 もで きぬ 当 の グロスター に 、握 り拳 に物 を隠 した子 供 の ように 、 両 方 の 拳 を 目 の 前 に 差 し出 して 「正 道 か 邪 道 か 」を判 断 させ ようというの であ る。この ように シェ イクスピア は 様 々 の 心 象 を蜘 蛛 の 巣 の ように 、 判 断 の 基 準 を表 す 比 較 構 文 を芯 に して 張 り巡 らし、 「この 偉 大 なる愚 か 者 の 舞 台 」 に響 か せ てい るの で ある。
冒 頭 の 対 話 の 続 きに 戻 ろう。 ふ とケ ントは 傍 に 「立 派 な(̀proper'1.1.18)」
男 が い るの に気 が つ く。これ まで9年 間 も手 元 に置 い て いな い 理 由 も、外 国 で何 をして いたか も言 明 され て いな い が 、私 生 児 であ るということで 世 間 体 をは ば か っ た グ ロスター が 、エ ドマ ンドを厄 介 者 として 追 い 払 った に違 い な い と想 像 され る。
もしそ うで あるのな らば 、厄 介 払 い に され て い たような男 にさえケ ントが 「立 派 な 」 男 と口に したの は 、 社 交 上 の 習 い と一 応 は 解 釈 す るとして 、 次 の 場 の 冒頭 で 、
「自然 よ、 お 前 は俺 の 女 神 だCThou,Nature,artmygoddess'12.1)」 に 始 まる独 白を聞 け ば 、この 第 一 場 で のケ ントの 褒 め 言 葉 は 、 実 は 皮 肉 で あ った ことが 思 い 起 こされ る。 「目 に 見 える有 り様 は 実 体 とは 違 う」という視 覚 と関 わ る主 題 は 、「耳 で 聞 く言 葉 とそ の 意 味 とは違 う」とい う聴 覚 との 関 わ りに繋 が って い く。
視 覚 ・聴 覚 へ の 不 信 も劇 中 に繰 り返 され る主 題 の 一 つ で あ る。
グロスター は ケン トにエ ドマ ンドを引 き合 わ せ る。 若 気 の 至 り、 とグロスター は 色 好 み の 話 の つ い で に、 他 にもう一 人 息 子 が いると言 う。 年 齢 の 比 較 とともに 、 向 ける愛 情 の 比 較 を グ ロスター は して い るが 、そ の 意 思 表 示 が 否 定 形 の 比 較 に お い て表 され て いるところ に 注 目したい 。 比 較 の対 象 は 「わ しの 息 子 」 で なく、
「夫 をベ ッドに 迎 える前 に産 まれ た母 親 の 息 子(̀asonforhercradleereshe
hadahusbandforherbed.'ibid.,15・16)」 で ある。 父 の 子 で なく、 母 親 の 私 生 児 なの で あ る。
こ れ は 庶 子 で す が 、 法 令 に 準 拠 し た 嫡 男 が い ま す 。 こ れ よ り一 年 ば か り 年 上 で 、 わ し の 見 積 り に お い て は 、 よ り可 愛 い とい うわ け で は あ りま せ ん 。
(Ibid.,19・21) (ButIhaveason,sir,byorderoflaw,someyearelderthanthis,who
yetisnodearerinmyaccount.)
「そ れ 以 上 でも、 そ れ 以 下 で もな く」 ず ば り、 そ の もの233
「わ しの 見 積 り(̀myaccount')」 とい う表 現 は、 す で に グ ロスター が 口に して い る 「こい つ を 育 て るの は わ しの 費 用 で した(̀Hisbreeding ,sir,bathbeenatmy
charge.'ibid.,9)」 という台 詞 の 「わ しの 費 用 」 と併 せ て 聞 くと、 そ れ が 金 銭 に 関 わる心 象 で あ ることもあ ってiグ ロスター の 損 得 つ くの 考 え 方 が判 る。そ の 一 方 で 、 間 もなく始 まる領 土 分 割 も、損 得 に 関 わ る比 較 の 闇 題 で あ ることの 伏 線 と な って いる。
ちなみ に 、 大 自然 が 狂 った嵐 の 場 で 、 グロスター は気 の 狂 った リア と、 気 違 い の トムに 身 をや っ したエ ドガー と、狂 い を生 業 に してい る道 化 を探 し当てる。四 種 類 の狂 いが つ どう舞 台 であ る。 そ の 時 に は 、 ゴネ リル とリー ガンは 王 を 亡 きも の に す るべ く追 手 を 差 し向 け てい た。 実 の 娘 た ち に命 を狙 わ れ てい る父 親 の 姿 を 前 に して 、 グ ロスター は 目の 前 の 従 者 が 、 姿 か た ちを変 えて いるケン トで ある とも知 らず 、 心 情 を吐 露 す る。 幕 開 け と同 じように 、 状 況 的 に は 、 同 じ二 人 が 揃 って傍 白をしな が ら、言 わ ば コー ラス とな って 、次 の 段 階 を暗 示 す るの で ある。
傍 白 と 「コー ラス」 との 連 環 に っ い ては 、 エ ドガー との 関 わ りで 後 述 す る。
娘 た ち は あ の 方 の 命 を 狙 っ て い る。 あ あ 、あ の 善 い 家 臣 の ケ ン トは 言 っ て い た な 、 こ うな る に 違 い な い と。 気 の 毒 に も 追 放 され た 人 だ 。 そ な た は 言 わ れ た な 、 王 が 狂 っ た と。 友 よ 、 わ しも 言 っ て お き た い 、 わ しも 狂 わ ん ば か りな の だ 。 息 子 が 一 人 、 い た こ と は い た 。
だ が 、 わ し の 血 筋 か ら廃 嫡 に し て し ま っ た 。 や つ は わ し の 命 を 狙 っ た 、 ほ ん の 最 近 の こ とだ 、 ご くご く最 近 に だ 。 愛 し て い た の だ 、 友 よ、
わ し 以 上 に 息 子 を 愛 す る 父 親 が な い ほ ど に 。 本 当 の こ とを 言 うと 、 そ の 苦 しみ で わ しの 気 も 狂 っ て し ま っ た 。 あ あ 、 な ん とい う夜 だ1
{3.4.163‑70) (且isdaughtersseekhisdeath.Ah,thatgoodKent!
Hesaiditwouldbethus,poorbanish'dman .
ThousayesttheKinggrowsmad,1'lltellthee ,friend, Iamalmostmadmyself.lhadason ,
Nowoutlaw'dfrommyblood;hesoughtmylife
, Butlately,verylate.Ilov'dhim,Friend ,
Nofatherhissondearer;truetotellthee , Thegriefhathcraz'dmywits.Whatanight'sthis?)
グ ロスター は廃 嫡 にして しまった 息 子 エ ドガ ー を愛 してい た、しか も 「わ し以 上 に 息 子 を愛 す る父 親 が ない ほ どに。」 この比 較 級 は 、 ほ どな くグ ロスター を 裏 切 る ことで 「嫡 子 」とな るエ ドマ ンドに 向 か って 、 父 代 わ りを 自称 す るコー ン ウォー ル の 口か らも出 され る、 「より愛 しい父 親 となるぞ(̀...thoushaltfindadearer
fatherinmylove.'3.5.24・25)」 と。 や が て 、 リア は 娘=たちに 、 グロスター は 息 子 に裏 切 られ る。 見 極 め る 目を持 たない 二 人 の 親 は 、 他 の 子 供 以 上 に親 身 に思 ってくれ る子 供 を 見 捨 てる悪 行 を犯 した 結 果 で ある。 「愚 か さ、狂 い 、自然 」 な どの 心 象 と、 「そ れ 以 上 、そ れ 以 下 」とい う比 較 構 文 とが 緊 密 に結 び つ き、序 幕 で の 伏 線 が 明 らか にされ る瞬 間 で ある。
この ように劇 の 冒 頭 か ら、そ の 後 に続 く主 要 な心 象 の 連 な りが 、比 較 構 文 との 絡 み で 頻 出 す るか らに は 、 『リア 王 』 が綿 密 に 構 築 され てい ることは 明 らか で あ る。 そ して 、 いよい よリア 王 の 登 場 で ある。 豪 華 な衣 装 に 身 を包 ん だ 王 侯 貴 族 の 登 場 であ る。
リア 王 は側 近 のグ ロスター にフランス王 とバ ー ガンデ ィ公 爵 との接 待 を命 じると、
か ね てか らの 懸 案 で あ った領 土 分 割 を正 式 に 、 重 々 しく発 令 す る。 その リア の 台 詞 の 冒頭 に 注 目す べ き比 較 級 が ある。
そ の 間 に 、 余 の さ ら に 内 密 の 意 図 を 公 表 し よ う。
(Meantimeweshallexpressourdarkerpurpose.)
(1.1.36}
コー デ リアの 求 婚 者 で あ るフランス王 とバ ー ガ ンデ ィ公 爵 の 二 人 が 来 るまで の 問 に 、 リア 王 は 娘 た ち三 人 に 分 配 す る領 土 を公 にす ると言 う。 劇 冒頭 の ケ ン トとグ ロスター との 対 話 で 明 らか なように 、 領 土 分 割 の 意 図 を二 人 の 忠 臣 は 知 っ てい た。この 二 人 には 非 公 式 に 洩 らして いた と思 わ れ るし、宮 廷 内 でも既 に 噂 に なっ て いた とも思 われ るが 、正 規 の 発 表 が 王 の 口か ら公 に され るの は 今 が 初 め てで あ る。
そ れ に しても、 「さらに内 密 の(̀darker')意 図 」とい う比 較 級 の 意 味 内 容 が 誘 しい 。̀dark'に 「邪 悪 な 」 とい う意 味 が 支 配 的 にあるか らだ 。(7)こ の 心 象 が 人 間 の 心 に潜 む 邪 悪 さを想 起 させ るとなると、 ある 「暗 い 意 図 」 が 王 の 心 に潜 む ことが 予 想 され る。 な るほ ど、 それ に続 く王 の言 葉 は 文 字 どお りの 暗 愚 さを証 明 して いる 行 為 でな く、 言 葉 で 愛 情 を表 現 させ 、そ れ を秤 に掛 け、 「より」広
「それ 以 上 で も、 そ れ 以 下 でもな く」 ず ば り、 そのもの235
い 、 「より」 豊 か な領 地 を分 け 与 えると言 うの だ 。 しかも 、 誰 にどの 土 地 を 与 え るか は 既 に 決 め てあ るとい う。 思 い を行 い に 決 める時 に 、 この ような 「より黒 い 」 欠 点 が 人 間 界 の秩 序 の 頂 点 にある王 に顕 在 す る事 実 は 、 極 く僅 か の 汚 点 が 大 宇 宙 の 乱 れ に波 及 し、拡 大 す る危 惧 を抱 か せ る。 この ように晴 天 の 空 に 不 意 に 現 れ た一 片 の 黒 雲 は 見 る間 に 全 天 に広 が り、大 自然 を覆 い 隠 し、大 嵐 を 引 き起 こす のも時 間 の 問 題 なの だ 。
この 拡 散 現 象 は 一一人 を 除 いた 娘 た ち に 見 る間 に伝 染 してゆ く。一 番 年 上 に産 まれ た(̀Uureldestborn'ibid.,54)」 ゴネ リル は 比 較 級 を 多 用 して 王 へ の 愛 を 並 べ 立 てる。
陛 下 、 わ た し の 愛 の 本 質 を 言 葉 で 表 す よ り 以 上 に 愛 し て お りま す 、 視 力 よ りもw目 に 見 え る 世 界 の す べ て の 広 が りよ りも 、
そ れ を 喜 ぶ 自 由 よ りも 愛 し く 、
価 値 を 付 け うる こ と の で き る も の を 越 え て 、 豊 か で 、 あ る い は 、 す ば ら し く 貴 重 で 、
命 に 比 し て も 劣 ら な い … … 。(lbid.,55‑58) (Sir,Iloveyoumorethanwordscanwieldthematter,
Dearerthaneyesight,space,andliberty, Beyondwhatcanbevalued,richorrare,
Nolessthanlife...)
満 足 した リア は 次 女 に 対 して 、興 味 深 い ことに 、最 上 級 形 を用 い て 、しか も 「コー ンウォー ル 公 爵 夫 人 」 と呼 び 掛 ける。
余 の 二 番 目 の 娘 は な ん と 言 うか な 、
最 愛 の リー一ガ ン よ 、コ ー ン ウ ォ ー ル 公 爵 夫 人 は?口 に せ よ 。(lbid.,67・68) (Whatsaysourseconddaughter,
(]urdearestRegan,wifeofCornwall?Speak.)
「最 愛 の リー ガ ン 」 を 文 字 ど お りに 解 釈 す る と、 コ ー デ リア の 廃 嫡 を 宣 言 した 後 で 、 ま た 、 ケ ン トの 追 放 を 宣 告 す る 直 前 に 言 っ た 「コ ー デ リア を 一 番 愛 し く思 っ て い た(̀Ilovedhermost'ibid.,23)」 とい う表 現 と齪 酷 を き た す こ とに な る 。 「よ
りよい 」 返 事 を期 待 す るあ まりの 失 言 と取 ると、 リア の 喜 び が 過 ぎてい ることに な る。 また 、 ケ ントとグ ロスター が 事 前 に噂 して いた とは 違 って 、 オ ー ル バ ニ ー 公
爵 よりもコー ンウォー ル 公 爵 の 方 を 「より」気 に 入 って いることにもなる。ともあれ 、 リア の価 値 判 断 の天 秤 は 損 得 勘 定 の せ い で 揺 れ 動 い て いることだ け は確 か で あ ろう。
次 女 の リー ガン は 、 予 想 どお り長 女 と張 り合 うつ もりで 、 直 喩 と、 最 上 級 形 と、
限 定 用 法 を 口にす る。
わ た し の 質 も 姉 と ま っ た く 同 じ も の で で き て い ま す … …
… わ た し の 愛 の 行 為 そ の も の で す
。 た だ 、 あ ま り に 舌 足 ら ず な の は … わ た し 自 身 は … 他 の 喜 び の 全 部 を …
… も っ と も 貴 重 な も の と … た だ 、わ た くし だ け が … 。 (Iammadeofthatselfmettleasmysister....
...myverydeedoflove=
Only...tooshort...
Myself..,allotherjoys ...themostprecious...
Iamalone...}
(lbid.,69‑75)
リー ガン に応 えて 、 リアの 口か らは 、 較 す る表 現 が 発 っせ られ る。
当 然 な が ら、 長 女 ゴ ネ リル の それ に 比
広 さ も 、 値 打 ち も 、 喜 び に お い て も 劣 ら な い の だ 、 ゴ ネ リル に 授 与 し た も の に 比 べ て も 。
(Nolessinspace,validityandpleasure ThanthatconferredonGoneril.)
(lbid.,81‑81}
さ て 、 い よ い よ コ ー デ リア の 番 で あ る 。 注 目 し た い の は 、 傍 白 の コ ー デ リア の 台 詞 に も 比 較 級 が 表 れ る こ とで あ る 。 し か も 、 そ こ に は 天 秤 の 心 象 で あ る̀pon・
derous'が 表 れ る。 「わ た し の 舌 よ り以 上 に 重 み の あ る … …(̀Moreponderous
「そ れ 以 上 でも、 そ れ 以 下 でもなく」 ず ば り、 そのもの237
thanmytongue.'ibid.,78)」 とい うの が そ れ で あ る。 リア は 比 較 級 を 遣 っ て 呼 び 掛 け る 、 「余 の 喜 び よ 、/も っ とも 末 で 、 … 番 小 さくは あ る が … …(̀ourjoy,/
Althoughourlastandleast̲'ibid .,82・83)」 と。 リア は 、 姉 た ち の も の よ り も 、 も っ と広 い 、 も っ と豊 か な 三 分 の 一 の 領 地(̀Athirdmoreopulentthan
yoursisters'ibid,,86)」 を コ ー デ リア に 与 え るか ら 、 父 へ の 愛 情 を 口 に せ よ と せ か したr)三 等 分 し た 「三 分 の 一一」 で は な い ところ が 興 味 深 い 。 も とも と等 分 に 分 け て は い な か っ た の だ 。 とも あ れ 、 待 ち に 待 っ た 三 番 目 の 愛 のF=7葉 で あ る 。
ところ が 、 せ か され て 重 い 口 を 開 い た コ ー デ リア が 口 に す る の は 人 間 存 在 と して は 「無 」とな っ た エ ドガ ー との 関 わ りに お い て 後 述 す る が 期 待 を 裏 切 る 素 っ 気 な い も の で あ っ た 。 一 言 だ け 、 「何 も(̀Nothing'ibid .,87)」 と応 え る の み で あ っ た 。この 言 い 切 りの 形 に 凝 縮 され た 真 実 を 父 王 は 聞 き 取 れ な か っ た 。
せ か され た コ ー デ リア が 口 に した 言 葉 の 意 味 が リア に 最 初 に 判 る の は 、ゴ ネ リル に 「す べ て を 認 可 され た 道 化(̀alllicensedfool'1.4.201)」 ば か りか 、 精 鋭 の 従 者 た ち ま で も 悪 し 様 に こ き 下 ろ され た 時 で あ る 。
リア=小 さ な 過 ち な の に
コ ー デ リア の な か に あ る と、 な ん と醜 く 見 え た の だ ろ う!(Ibid.,266‑67) (Lear.Omostsmallfault,
HowuglydidstthouinCordeliashow!)
こ の よ うに リア は 一 応 は 反 省 を す る 。 とこ ろ が 、 そ の す ぐ 後 に 、 ゴ ネ リル か ら 罵 署 雑 言 を 浴 び せ られ た ば か りか 、 王 権 の 象 徴 で あ る 精 鋭 百 人 隊 を 半 分 に 減 ら され た の で あ る 。 現 実 を 目 の 前 に 突 き つ け ら れ る 瞬 間 で あ る 。 そ の 時 の リア は 「支 配 権 、 王 国 所 有 権 、 行 政 管 理 権(̀bothofrule,/Interestofterritory,cares
ofstate'1.1.49.50)」 とい う実 権 を 譲 り渡 し て し ま っ て い た の に 、 そ の 実 質 的 な 結 果 の 有 り様 を 想 像 だ に で きな か っ た の で あ る 。 な に せ 、 「す べ て の 心 配 事 と、
す る べ き 事(̀allcaresandbusiness'ibid.,39)」 か ら解 放 さ れ 、 「王 とし て の 名 目 と、す べ て の 肩 書 だ け(̀Thename,andallth'additiontoaking'ibid.,
136)」 を 留 保 して お くぐ ら い しか 、 愚 か に も 考 え つ か な か っ た の だ か ら。
こ うし て 、 実 権 の 「半 分 」 を 譲 り渡 され た ゴ ネ リル の 「返 礼 」 は 、 王 の 実 権 を 象 徴 す る 騎 士 団 の 数 を 半 分 に 減 らす こ とか ら始 ま っ た 。 そ の 数 が 半 分 ど ころ か 、
零 に な っ て し ま うの も 時 間 の 問 題 で あ る 。 コ ー デ リア の 応 え に 目 を 戻 そ う。
コ ー デ リア の 真 意 は 届 か な か っ た 。 そ れ は 、 口 数 が 少 な い ば か りか 、 端 的 に も の を 言 う性 格 の た め か 、 「あ れ の 声 は い つ も 優 し く、/お とな し く、 し とや か で あ っ た 。 女 に は こ とに ふ さわ しくあ っ た(̀Hervoicewaseversoft,!Gentleand
low,anexcellentthinginwoman.'5.3273・74)」 た め で あ る。 心 を 決 め て コ ー デ リア は や っ と真 事 を 言 っ た 。
不 幸 せ なことに 、 うめ くような 声 で も 口に す ることが で きませ ん 、 わ た しの 心 を 唇 に登 らせ るに は。 陛 下 をお 慕 い 申 し上 げ てい ます 、
わ た し の 絆 に 従 っ て 、 そ れ 以 上 で も 、 そ れ 以 上 で も な く。
(UnhappythatIam,Icannotheave
Myheartintomymouth.Iloveyourmajesty Accordingtomybond,nomorenorless.)
(1.1.91‑93)
この 「うめ くような 声 で 口 にす る(̀heave')」 はシXイ クスピア 以 前 に用 法 が ないも の なの で 、(8)この 心 象 が 効 果 的 に 再 び 、 ことにコー デ リア の 口か ら洩 れ ることを 考 えると、 劇 作 家 としての 固 有 の 意 図 が感 じられ る。 コー デ リア に は 、 姉 た ちと は違 って 、競 い合 って リア の 耳 に快 く響 く言 葉 な ど吐 け ない の だ 。胸 を突 い て這 い 上 が る本 当の 気 持 ちを 口に 出 せ な い 苛 立 ちの 表 現 でもあ るのだ 。しか し、コー デ リア は 「わ たしの 絆 に 従 っ て 、 そ れ 以 上 でも、 そ れ 以 上 でもなく」と言 い切 っ た の だ。 この 「胸 の 底 か ら突 き上 が ってくるもの 」の 心 象 は 形 を変 え て 、 苦 しみ の リア の 台 詞 に再 び 表 れ る。 「お お 、わ しの 胸 、この 突 き上 げ る胸 よ!下 が れ!
(̀0,me,myheart!myrisingheart!Butdown!2.4.121)」 とい う悲 痛 なリア の 叫 び とな って 、 後 に共 鳴 す る。
また 、 コー デ リアの 「うめくような声 で 口に す る」 心 象 は 紳 士 か らケン トに語 ら れ るコー デ リア の 苦 しみ の 描 写 で 再 現 され る。
本 当 の ところ 、 一 度 か 二 度 、 「父 上 」 とい う名 を うめ くような 声 で 口 に され た 。
喘 ぎな が ら、 まるで 胸 苦 しくな ったように。(略)
… そ れ か ら、 振 るい 落 とされ た の で す 、 あ の 聖 水 を 、天 の ような 両 目か ら。(4.3.25‑32)
「そ れ 以 上 で も、 そ れ 以 下 で もな く」 ず ば り、 そ のもの239
(Faith,onceortwicesheheav'dthenameof"father"
Panti皿glyforth,asifitpress'dherheart.̲
....heresheshook Theholywaterfromherheavenlyeyes...)
「あの 聖 水 を 、天 の ような 両 目か ら」という比 喩 は 宗 教 的 な意 味 合 い が 強 い の で 、 キリス トの 苦 しみ に重 ね て いる評 者 もいる。⑨
ともあ れ 、リア は 期 待 す る言 葉 をうめ き声 で も 口に 出 せ なか ったコー デ リア を勘 当 してしまった。その 廃 嫡 を宣 言 す る時 の リアの 誓 い の 言 葉 を振 り返 ってみ よう。
旧秩 序 に 関 わる誓 言 で あ る。
天 体 の す べ て の 動 き に か け て 誓 う
そ れ に よ っ て 我 ら 人 間 の 存 在 が 関 わ る 、 生 きる も 死 ぬ も 今 こ こ に 、 わ しの 親 として の 心 遣 い の す べ て と縁 を 切 る 、 血 縁 の 親 密 な つ な が りの 多 寡 も。
そ し て 、 わ し の 身 か ら も 心 か らも 、
お 前 を こ の 胸 か ら 引 き 離 し 、 永 遠 に 赤 の 他 人 と見 な す 。 (Byalbtheoperationoftheorbs
Fromwhomwedoexistandceasetobe, HereIdisclaimallmypaternalcare, Propinquityandpropertyofblood, Andasastrangertomyheartandme 且oddtheefromthisforever.)
(1.1.111・16)
「天 体 の す べ ての 動 き」 が 人 間 界 に影 響 を及 ぼ す とい う考 え は 、 古 い 価 値 観 を 持 っ リアや グ ロスター には 卑 近 なもの で ある。㈹ リアの 「そ れ に よって我 ら人 間 の 存 在 が 関 わ る、 生 きるも死 ぬ も」 とい う台 詞 に 注 目した い 。 人 間 に は 自 由 意 思 が 与 えられ て いな い ことが 示 唆 され てい る。 「生 きるも死 ぬ も」自然 の運 行 によ る、というの だ 。 この 考 え 方 が グ ロスター にも当 ては まることが 次 の 場 で 明 らか に なる。 自然 の 女 神 を 味 方 につ けた エ ドマ ンドは 迷 信 深 い グ ロスター を まん まと騙 して しまう。 グ ロスター は 吹 き込 まれ るままに 、 エ ドガ ー の 亡 恩 を信 じ込 ん で しま う。
最 近 の 日 食 と 月 食 は 我 ら に 善 くな い 徴 候 を 表 し て い る(中 略)親 子 の 絆 は 子 と 父 と の 間 で 裂 け た 。 わ し の 悪 党 は 予 言 に 当 た っ て い る 。 父 親 に 背 く 息 子 、 王 は 自 然 の 偏 りで 落 ち 、 父 親 は 子 の 背 く。
(1.2.103・12) {Theselateeclipsesinthesunandmoonportendnogoodtous
....thebondcrack'd̀twixtsonandfather.Thisvillainofmine comesundertheprediction;there'ssonagainstfathertheKing fallsfrombiasofnature;there'sfatheragainstchild.)
王 は 正 に 「自然 の 偏 り」で愛 娘 の 答 えを 不 服 とし、 「わ たくしの 絆 に 従 って 、 それ 以 上で も、 そ れ 以 下 で もな い 」 と血 を吐 くように 言 い 切 った コー デ リア を 、 「親 子 の 絆 」とい う掟 に 背 くと断 定 し、 義 絶 してしまうのだ 。 王 が 口に す る言 葉 は 掟 で ある。 王 を諌 め ようとす るケ ントの 出 ば なを挫 き、 そ の ケン トす らも追 放 して しまうの だ が 、図 らず もリア は 本 音 をケ ン トに 向 か って 口に す る。
一 人 称 代 名 詞 が 印 象 的 で ある。
あ れ を も っ とも愛 して い た 。 だ か ら わ し の 手 持 ち の 札 を あ れ の 優 し い 養 育 に 賭 け る つ も りだ っ た 。
(110vedhermost,andthoughttosetmyrest 4nherkindnursery.)
(1.1.123‑24)
リア が 賭 け る は ず だ っ た 「手 持 ち の 札(̀rest')」 の 心 象 の 意 味 構 造 は 多 重 で あ る 。 こ の 心 象 に 「余 生 」 を 託 す 「休 息 の 場 所 」 とい う意 味 が 加 わ る。 コ ー デ リア に こ そ 世 話 に な りた い 、 とい うの で あ る 。 賭 博 の 心 象 か ら 連 想 さ れ る の は 、 冒 頭 に 愛 の 証 言 を 求 め た リア の 「父 と子 の 自 然 の 間 柄 と、 子 が 親 に 抱 く愛 情 が 当 然 の 如 く要 求 す る(̀Wherenaturedothwithmeritchallenge...'ibid.,53)」 の 中 の 「要 求 す る(̀challenge')」 で あ る 。 こ の 単 語 の 中 に 「戦 い を 挑 む 」 とい う 語 釈 が 支 配 的 で あ る の で 、(mそ の 語 感 か ら判 断 す る と、リア に 一 か 八 か の 賭 け る 気 持 ち が あ っ た こ とは 否 め な い 。 長 女 の ゴ ネ リル と次 女 の リー ガ ン の 愛 の 証 言 を 確 認 し て か ら 、 「そ ち の 姉 た ち よ りも 、も っ とも 広 く豊 か な(̀moreopulentthan
yoursisters"ibid.,86)」 領 地 を 代 償 に 、 コ ー デ リア が 口 に 出 す で あ ろ う言 葉 に 「そ の 後 」 の 人 生 を 賭 け て み る つ も りだ っ た こ とが 明 らか で あ る 。
「そ れ 以 上 でも、 そ れ 以 下 で もな く」 ず ば り、 そのもの241
しか し 、 コ ー デ リア は 「何 も ご ざ い ま せ ん(̀nothing')」 と い うた っ た 一 語 で リ ア の 思 惑 を 文 字 ど お り無 に し て し ま っ た 。 こ の̀nothing'と い う心 象 は 劇 中 に 響 き わ た る 。 こ の 寸 鉄 人 を 刺 す 言 葉 は 姉 た ち の 過 剰 な 愛 の 証 言 の す ぐ 後 に 、 リア が 口 に す る 「要 求 」 と い う愚 か に も 情 け 無 い 発 想 に 「戦 い を 挑 む 」 べ く発 っ せ ら れ た も の な の で あ る 。
確 か に 、 コ ー デ リア の 言 葉 は あ ま りに も 素 っ 気 な く、 不 機 嫌 で 、 親 の 気 持 ち も 理 解 し な い 印 象 を 与 え る 。 これ に 対 抗 し て リア は 「無 か ら は 何 も 出 て こ な い (̀Nothingwillcomeofnothing'ibid.,90)」 と応 え る 。 こ の コ ー デ リア の 言 葉 に キ リス ト教 的 発 想 を 読 み 込 む と 、{12)神 の 愛 は 無 か らこ の 世 界 を 造 っ た の だ か ら 、 無 か ら有 を 生 じ る 可 能 性 が あ る こ とを 示 唆 し て い る の で あ る 。
し か し 、コ0デ リア は 神 の 愛 を か ち 取 る こ とが で きる か も 知 れ な い が 、父 王 の 愛 は 得 られ な か っ た 。 「余 の 恵 み 、 余 の 愛 、 余 の 祝 福 を 得 られ ぬ ま ま(̀Without ourgrace,ourlove,ourbenison'ibid.,265)」 、コ ー デ リア は 正 気 の リア 王 の
目 の 前 か ら 姿 を 消 す 。
コ ー デ リア は 、 「さらに 善 い 所(̀abetterwhere'ibid.,261)」 へ い ざ な うフ ラ ン ス 王 に 促 さ れ 、 姉 た ち に 別 れ を 口 に す る。
わ た したち の 父 の 宝 石 で あ るお 二 人 の 元 を 、 涙 な が らに
コー デ リア は 去 ります 。 あ な た方 が どうい う方 か 判 ってお ります が 、 妹 に ふ さわ しく、 どうしても 口に す ることを厭 い ます 、
お 二 人 の ア ラ を あ り の ま ま に は 。 (Thejewelsofourfather,withwashedeyes
Cordelialeavesyou.Iknowyouwhatyouare, Andlikeasisterammostloathtocall Yourfaultsastheyarenamed.)
(lbid.,268‑71)
̀withwashedeyes'は
、 文 脈 上 は 「涙 な が らに 」 で は あるが 、 次 に 続 く 「ど うい う方 か 判 って お ります 」とい う言 い 切 りの価 値 判 断 と並 べ ると、 「洗 わ れ た 目」
と文 字 どお りに読 め る。 視 覚 に 関 わ る心 象 で ある。 コー デ リア の 目に は 「アラ」
どころか 、過 失 どころか 、 二 人 が 罪 をお か す ことさえ 明 瞭 に写 って い るの だ。 幼 い 頃 か ら見 聞 きした姉 た ちの 言 動 か ら判 断 した 、父 親 に は 判 らな い 歴 然 とした事 実 を 、 そ の もの ず ば り見 抜 い てい た の だ 。
こ の よ うな 澄 ん だ 目 を 持 っ コ ー デ リア は 、 ケ ン トと 同 様 に リア の 目 障 りとされ 、 リ ア の 目 の 前 か ら 、 皮 肉 な こ とに 、 実 体 の な い 王 権 に よ っ て 消 され て し ま うの で あ る 。 コ ー デ リア は 勿 論 の こ と、 ケ ン トも リア が 目 を 向 け な くて は な らな い 「真 実 の 標 的 の 芯(̀Th、etrueblankofthineeye')」 だ っ た 。 リア は 真 実 に 耳 を 貸 す ど ころ か 、 真 実 に 目 も 向 け な い の だ 。
リ ア1 ケ ン ト:
{Lear.
Kent.
よ りよ く 見 な さ い 、 リア よ 、 真 の 標 的 の 芯 に さ せ る の で す 。
Outofsight!
Seebetter,Lear,andletmestillremain Thetruebankofthineeye.}
目の 前 か ら失 せ ろ!
わ たくしめ をい つ も傍 に お い て
(rbid,,157‑58)
ケン トのそ れ まで の 呼 び 掛 け は 尊 敬 を表 す 二 人 称 複 数 の 代 名 詞(̀yOU')で あ っ た。そ れ を 単 数 の 代 名 詞(̀thine')に 言 い 換 えた ところが 効 果 的 で ある。しかも、
好 ましい 存 在 で ある昔 か らの 親 友 を呼 ぶ ように 「リア 」 と呼 び掛 けて いる。 確 か に、 ケ ントは リア を 「王 として敬 い 、 父 として 慕 い 、 主 君 として(̲̀asmyking,/
Lovedasmyfather,asmymaster'ibid.,140・41)」 従 って きたの で ある。 リ アが 愚 挙 に 及 ぶ の な ら、 臣 下 として 、子 として 、従 者 として の 勤 め もそ の 時 点 で 終 わ りな の だ。そ れ まで と違 って無 礼 な 言 動 がケ ン トに あった の は 、相 手 が気 の 狂 った判 断 しか で きな い老 人 な らば 仕 方 がな い 。
しか し、 そ ん な筈 はな い。 ケ ントは 仮 想 法 を用 い て リアを諌 め にか か る。
矢 を 射 る な ら射 て くだ さい 。 二 股 の や じ りが こ の 胸 を 射 抜 い て も 構 い ま せ ん 。 ケ ン トが 礼 を 欠 くの は
リア が 気 が 狂 っ た 時 で す 。 な に を す る つ も りな の か 、 老 人 よ?
{lbid.,145‑46) (Letitfallrather,thoughtheforkinvade
beKentunmannerly
WhenLearismad.Whatwouldestthoudo,oldman?)
リア が 正 気 で ない な ら不 遜 な態 度 は しな い 、気 が違 った の だ か ら、とい うケン トの
「そ れ 以 上 で も、 そ れ 以 下 でもなく」 ず ば り、 そ の もの243
含 み だ が 、皮 肉 にも、怒 り心 頭 に 発 っ したリア には ケ ントが 内 包 した真 意 を汲 み 取 るだ けの 器 量 も、 聞 く耳 もな い 。
同 じように 、 この ケ ントの 台 詞 で 注 目す べ きところは 、 ケン トが 心 を打 ち明 けた 二 人 称 単 数 の 呼 び掛 け に加 え て 、 リアを 「老 人 」 と呼 び 掛 け てい ることで ある。
これ は 他 の 登 場 人 物 の 誰 よりも早 く心 象 として 現 れ る呼 び 掛 け で あ り、仮 想 法 の
̀invade
.̲wouldst'と 共 に遣 わ れ た心 象 であ る。 この 「老 人 」 という心 象 は 、 リアが 憤 然 として席 をた って 間 もな く、コー デ リアが 正 体 を 知 ってい るか らこそ 「ア ラ」が あると言 い 切 った 二 人 の 姉 たち によって 、直 ぐに吐 き出 され る心 象 ともな る
の であ る。
確 か に 、 ケン トの 台 詞 は 王 に 対 して 臣 下 として 口 にす べ き言 葉 で は な い 。 そ れ にも関 わ らず 忠 臣 ケ ン トが 口に した 心 意 気 は 、 そ の もの ず ば りで あ ったの で 、 皮 肉 にも、 リア に 通 じなか った。 経 験 に 裏 付 け され た知 恵 を豊 か に 持 つ は ず の
「老 人 」 に 賢 さが 見 受 け られ な か った という事 実 は 、 「愚 か さ」 と 「狂 い」 とい う 心 象 と結 び つ き、 直 ぐに 現 実 とな ってあ らわ にされ るので ある。 叙 想 法 に 混 じっ て使 われ た̀L,earismad'と い う叙 述 法 が 特 徴 あ る言 い 切 りであるだ け に 、余 計
に 印 象 的 で ある。 か くして 運 命 の 輪 は 回 り始 め た の であ る。
「運 命 の 輪 」と 「叙 述 法 」と言 え ば 、 自然 の 女 神 を味 方 に つ けた エ ドマ ンドの 叙 述 法 で 表 現 され た 台 詞 が 想 起 され る。 「運 命 の 輪 は 丁 度 一 巡 りして 、 俺 は こ こに このように してある(̀Thewheeliscomefullcircle,Iamhere.'5.3.175)」
と、 死 に際 の エ ドマ ンドは 輪 の 一 番 下 に 突 き落 とされ た 自分 を叙 述 法 で 言 い 切 る。 己の 才 覚 で 社 会 の底 辺 か ら這 い 上 がった 庶 子 の 末 路 で あ る。 この エ ドマ ン ドの 陰 謀 は コンウォー ル 公 爵 がグ ロスタ0伯 爵 の 居 城 を訪 れ るという報 を 耳 に した 時 点 で 軌 道 に 乗 った 、 そ の 朗 報 を耳 に したエ ドマ ンドが 口に す る比 較 級 が 印 象 深 い 。そ の 時 こそ 、運 命 の 秤 は エ ドマ ン ドに傾 いた の だ。社 会 の価 値 基 準 は 庶
子 としてそ れ まで は虐 げ られ て きた 自分 に傾 き出 した の で ある。
公 爵 が 今 夜 ここ に 見 え る?そ れ だ け 余 計 に い い 一 も っ とも い い 機 会 だ!
こ の 機 会 は 俺 の や る べ き 仕 事 に 必 然 的 に 仕 組 ま れ る 。(2.1.3.4‑15) (TheDukebeheretonight?Thebetter‐best!
Thisweavesitselfperforceintomybusiness.)
̀weaves'に は 織 物 に 関 わ る 心 象 が 第
J¥だ が 、 「蜘 蛛 が 巣 を 張 る 」意 味 もあ る の で 、 毒 蜘 蛛 が 張 る 巣 へ の 連 想 が 及 ぶ の も 容 易 で あ る。 エ ドマ ン ドが 遠 謀 深 慮
の 計 画 を仕 組 ん で 張 り巡 らした 毒 蜘 蛛 の 巣 に 、 い とも簡 単 に掛 か った の が エ ド ガー で ある。
そ のエ ドガ.̲̲̲.に父 親 が差 し向 け た追 手 が迫 って いた。 そこで 、 エ ドガ ー は 気 の狂 った 乞 食 姿 に 身 をや っ し、 最 低 の 人 間 存 在 よりもさらに 下 等 に位 置 す る毛 物 同 様 に 生 き、 生 き延 び る決 意 をす る。
逃 げ られ るうち は 必 ず 生 き延 び てや る。 思 い つ い たぞ 、
もっとも卑 しい 、 もっとも貧 しく惨 めな 姿 か たち になるの だ 、 貧 窮 が 人 間 を侮 蔑 して 、
毛 物 に 近 づ け た 身 の 形 に 。
(WhileImayscape, Iwillpreservemyself,andambethought
Totakethebasestandmostpoorestshape Thateverpenury,incontemptofman, Broughtneartobeast.)
(2.3.5‑9)
エ ドガ ー が 口 にす る比 較 級 は 勿 論 で あるが 「貧 窮 」と 「毛 物 」とい う心 象 は 、身 に まとう衣 服 を 「脱 ぎ捨 てる」 心 象 に結 び 付 く。 これ に リア の 「愚 か さ」 と 「狂 い 」の 心 象 が 有 機 的 に絡 まってゆ く。 この 時 点 で 、 エ ドガ ー は 比 較 の 世 界 に 存 在 す ることを拒 否 した の だ 。人 間 の作 った秤 で は 量 りきれ な い 存 在 の 重 み を言 い 切 り、 独 白を締 め 括 る。
哀 れ に も 気 の 狂 っ た 乞 食 の トム で さ え 、 何 か ま だ あ る 。 だ が 、 エ ド ガ ー と し て は 、 何 も な い 。(Ibid.,20・21)
(...poorTom, That'ssomethingyet;EdgarInothingam.)
エ ドガ ー が 叙 述 法 で 言 い切 る 「あ る」 「な い 」 の 価 値 判 断 は 、 さらに は 、 劇 冒 頭 で リア とコー デ リア とが 交 わ した禅 問 答 のように含 蓄 が 大 で 、しか も短 い 遣 り取 りを想 起 させ る。
「それ 以 上 で も、 そ れ 以 下で もな く」 ず ば り、 そ のもの245
リア1口 に し な さ い 。
コ ー テ リア:何 も あ りま せ ん 、 陛 下 。
リア=何 も?
コ ー デ リア1何 も 。
リア:何 も な い ところ か ら 何 も 出 て こな い も の だ 。 口 に し な さ い 、も う一 度 。
(Lear.Speak.
Cor.
Lear.
Cor.
Leap・.
Nothing,mylord.
Nothing?
Nothing.
Nothingwillcomeofnothing,speakagain .)
(1.1.ss90>
無 理 強 い して吐 か せ た 言 葉 が た った の 一 語 であるとは 、リア に は 想 像 だ に で きな か った であ ろう。 長 女 と次 女 と同 じように 父 王 を讃 える言 葉 が 、 「い つ も優 しく、
お とな しく、 しとや か な 」 声 で 聞 こえ てくるは ず だ った。 「何 もな い 」 と言 い 切 っ たコー デ リア の 真 意 に は 、皮 肉な ことに 、姉 た ち に比 べ られ る賞 賛 の 言 葉 な ど何 もな い の だ 。 比 較 の 問 題 であ るか ぎ り、 真 実 は 量 れ な い。 「そ れ 以 上 で も、 そ れ 以 下 でも」な い 、 ず ば り、 そ の もの こそ が 真 実 な の だ 、 本 当の 愛 の 現 れ な の だ。 もの の 表 現 で は な く、ことの 行 動 なの だ 。 しか し、リア が このような認 識 に 至 るの は まだ まだ 先 のことで あ る。 「わ しは 一人 の 真 事 に愚 か な 、 毫 線 した 年 寄 り だ(̀lamaveryfoolishfondoldman'4.7.59)」 という認 識 に 至 るの は 、 勘 当 して 、二 度 と逢 えな い と思 って い た筈 の コー デ リア の愛 の 行 動 が あ って初 め て の ことで ある。
しか し、 愛 の 言 葉 に意 味 が な いことを悟 る機 会 は 、そ れ 以 前 に既 に訪 れ てい たことは 確 か だ。王 の威 光 を表 す 精 鋭 騎 士 団 の数 をゴネ リル に 減 らされ た 時 であ る。そ の 時 は 、王 が 差 し向 けた 臣 下 が 足 枷 を は め られ 、憤 然 としてゴ ネリル の 前 に 立 った 時 でもあ る。扮 装 した ケン トが 足 枷 を は め られ た原 因 は 、王 の 権 威 を蔑 ろ に す る下 賎 な コー ン ウォ ー ル の 家 来 に 義 憤 を 感 じて 起 こした 言 動 に よる。ここに も、もの の 表 現 で なく、ことの行 動 が 本 物 の愛 であ ることが 明 らか にされ てい る。
ところが 、 「50人 とい うか ら25の 倍 だ/お 前 の 孝 行 は 二 倍 だ(̀Thy丘ftyyet dothdoublediveandtwenty,/Andthouarttwiceherlove .'2.4.259 ̄60)」
と、 愛 を秤 で 量 れ ると思 って数 量 化 したリアだ が 、 打 算 を識 る計 算 高 い ゴネ リル
の相 手 で は な い。 つ い に は 「一 人 だ って 必 要 で な い 」 と断 言 され て しまう。 愚 か に も狂 った 勝 算 が あ った にも関 わ らず 、 あ るい は む しろ 、 狂 った計 算 の せ い で 、人 間 に とって何 が 最 低 限 度 の 必 要 なの か 、貧 窮 と毛 物 の 心 象 を響 か せ 、復 讐 の反 対 概 念 であ る忍 耐 の 必 要 を叫 ぶ 。(13)
リー ガ ン:一 一人 で も 必 要 で す か?
リア:お 一 、 理 由 を 示 して 必 要 を 正 当 化 す る な!
た とえ 劣 位 に あ る 乞 食 で も 、
生 存 に 必 要 な 、 動 物 と区 別 で き る 最 低 限 の 物 を 贅 沢 に 持 っ て お る。
も しも お 前 が 自 然 が 必 要 とし て い る 以 上 の 自 然 を 許 し て くれ な い の な ら 、
人 間 の 命 は 毛 物 と 同 様 に 安 っ ぽ い も の だ 。(Ibid.,263・67) (Reg.Whatneedone?
Lear.0,reasonnottheneed!ourbasestbeggars Areinthepoorestthingsuperfluous.
Allownotnaturemorethannatureneeds, Man'slifeischeapasbeast's.)
リア は 王 としての 威 信 を傷 つ けられ た ことに 初 めて 気 が っ い た。 さらに は 、 数 量 化 す る必 要 が あるうちは 、 愛 が な い 明 か しだ ということに気 が つ いた とも言 える。
雨 風 を しの ぐ最 低 限 の 着 物 を は ぎ取 られ た ら、 人 間 は 毛 物 と区別 が つ か な くな る。 最 上 級 形 と比 較 級 、そ れ に直 喩 が 用 い られ た 文 体 が印 象 的 で あ る。 また 、 繰 り返 され る 「自然 」とい う心 象 に は 、 親 が 子 に 、 子 が 親 に抱 く人 間 本 来 の 愛 情 を 表 す の は 勿 論 だ が 、 間 もな くリア が さらされ る大 自然 の 脅 威 の 内 包 があ る。
リア は リー ガ ンを相 手 に 自分 の考 え を訴 えてい るうちに 、激 情 をぶ つ ける相 手 は 急 転 し 、 大 自 然 に 呼 び 掛 け 始 め る 。 大 自 然 が 擬 人 化 さ れ る 頓 呼 法
(apostrophe)で ある。
お前 は貴 婦 人だ
体 を暖 めるのさえ贅 沢 ならば 、
さあ、 お前 がいま贅 沢 に付 けている薄 物など 自然 は必 要 としていない,
「そ れ 以 上 で も、 そ れ 以 下 でもな く」 ず ば り、 そのもの24?
大 し て 暖 か くも な い 物 だ か ら 。 だ が 、 本 当 に 必 要 と い うの は な
天 よ 、 あ の 忍 耐 を 与 え て く れ 、 忍 耐 が わ し に は 必 要 だ!(lbid .,267・71) (Thouartalady;
Ifonlytogowarmweregorgeous,
Why,natureneedsnotwhatthougorgeouswear'st,
Whichscarcelykeepstheewarm.Butfbrtrueneed‑
Youheavens,givemethatpatience,patienceIneed?)
贅 沢 の 意 味 を 探 り当 て た か に 見 え た リア は 、 「本 当 に 必 要 と」さ れ る も の が 忍 耐 で あ る こ と に 気 が つ く。 そ し て 、 天 に 呼 び 掛 け る 。 これ が 二 度 目 の 呼 び 掛 け で あ る 。 リア が 最 初 に した の は 、 「お お 、 わ し を 気 違 い に さ せ な い で くれ!
気 違 い に は 、 優 し い 天 よ!(̀01et'wnotbemad,not.r,sweet
heaven!'1.5.46)」 とい う呼 び 掛 け で あ っ た 。 大 自 然 は リア を い つ ま で も優 し く扱 うわ け で は な い とい う伏 線 が ここ に あ る。㈲ リア は 慈 し み 溢 れ る 神 々 に 祈 る 。
神 々よ、 ご 覧 くだ さい 、 ここに 一 人 の哀 れ な年 寄 りが い ます 、 齢 と同 じに苦 しみ に溢 れ 、 そ の どちらにお い ても、 惨 め で い ます 。 もしもこの 娘 た ちの 心 をか き乱 し、
父 親 に歯 向 か わせ るの が あな たた ちな ら、 愚 弄 しな い で くだ さい 、
ふ が い な い 服 従 に 耐 え さ せ る よ うな 真 似 ま で さ せ て 。 (Youseemehere,yougods,apooroldman,
Asfullofgriefasage,wretchedinboth.
Ifitbeyvuthatstirsthesedaughters'hearts Againsttheirfather,foolmenotsomuch Tobearittamely...)
(2.4.2?2‑7fi)
「真 似 ま で さ せ て 」 愚 弄 さ れ た の は 、 「愛 し い 娘 よ 、 告 白 します 、 わ しは 年 寄 り だ 。/老 人 は 無 用 の 長 物 だ 。 膝 を つ い て 懇 願 し ま す/着 る 物 、 寝 る 床 、 食 べ る 物 を お 与 え くだ さい(̀Deardaughter
,IconfessghatIamold;1Ageis
unnecessary.UnmykneesIbeg/Thatyou'llvouchsafemerainment , bed,andfbod.'ibid.,X54‑55)」 とリー ガ ン の 前 に 膝 を つ い て 「懇 願 ご っ こ 」 を
した時 で ある。 膝 をつ い て まで 不 孝 者 に 懇 願 な どす るつ もりな ど毛 頭 な い の だ 。 しか し、 神 々 に 祈 る頓 呼 法 で 注 目す べ きところ は 、 リア が 自らを初 め て 「惨 め (̀wretched')」 と認 め たことで ある、 た とえ 、 「愚 弄 す るな 」 とい う自尊 心 が 未 だ にあるとしても。 や が て 心 か ら 「娘 」 に値 す る末 娘 の 前 で 「どうか 笑 い物 に して くだ さるな(̀Praynotmockme.'4,7.58)」 と心 か ら言 い なが ら膝 をつ くので ある。
リア は 「自然 に 背 い た」 娘 たちの 前 で 続 け る。
… 高 貴 な 怒 りを わ し に 授 け
、 女 性 の 武 器 で あ る 水 滴 な ど で
男 の わ し の 頬 を 汚 さ せ な い で くだ さ い!
あ い や 、 お 前 ら 自 然 に 背 い た 魔 女 め 、 お 前 た ち ふ た り共 々 復 讐 し て や る 、
世 界 の す べ て が し て や る つ も りだ
そ れ が 何 な の か 今 は わ か ら ぬ が 、 し て や る つ も りだ 、 大 地 の 脅 威 とな る も の を 。
(...touchmewithnobleanger, Andletnotwomen'sweapons,waterdrops,
Stainmyman'scheeks!No,youunnaturalhags, Iwillhavesuchrevengesonyouboth
Thatalltheworldshall‐Iwilldosuchthings‐
WhattheyareyetIknownot,buttheyshallbe Theterrorsoftheearth!)
(2.4.276 ̄$2}
ここに 「忍 耐 」と 「復 讐 」の 心 象 が確 か に結 び つ く。 そ して 、 「男 の わ しの 頬 を 汚 」す ことのな い 「女 性 の武 器 で ある水 滴 」の 意 味 を識 るの は 、や が て来 るコー デ リアとの 再 会 の 時 で あ る。 そ の 時 、 「涙 を 流 す 理 由 」 が あるとい う 「理 由 」 さ えもな い ことを認 識 す ることにな るの だ。 そ の 時 こそ 、 「本 当の 涙 を流 す 」ことに な るの だ。
こうして 、 二 人 の 「魔 女 」の 前 か ら、 最 後 まで す が りつ い て 自分 か ら離 れ よう としな い 道 化 に 声 を掛 け 、 迫 り来 る狂 気 の 時 に脅 えつ つ 、 リア はか ろうじて毅 然 とした威 厳 を保 ち つ つ 、 嵐 の 中 へ 飛 び 出 して ゆ く、もの 言 わ ぬ 道 化 を身 近 に 感 じな が ら。
「そ れ 以 上 でも、 それ 以下でもなく」ず ば り、 そのもの249
わ し が 涙 を 流 す と 思 うだ ろ うが 、 い や 、 涙 な ど 流 さ ぬ わ 。
わ し に は 涙 を 流 す 理 由 が た くさ ん あ る が 、 こ の 心 臓 が 〔大 嵐 の 音 〕 百 の 千 倍 も ば ら ば ら に な る ま で は
涙 を 流 し は し な い 。 お お 、 道 化 よ 、 気 が 違 い そ うだ!(lbid.,282・86) (YDuthinkI'llweep:
No,1'llnotweep.
Ihavefullcauseofweeping,butthisheartStormandtempest . Shadbreakintoahundredthousandflaws
OrereI'llweep.OFool,Ishallgomad!)
これが正 気 のリアを舞 台 に見る最 後 である。大嵐 の前 兆 はリアの欝 積 した感 情 が内攻 し始 める兆 候 でもある。 燃 え上 がる激 情 の先 駆 けである。 大 自然 の嵐 はリアの心 の嵐 である。森 羅 万 象 がことごとくに狂 い に狂 う。その狂 いの 中でリアは印 象 的な比較 級 を遣 う。
わ し は 罪 な ど 犯 し て い な い 、 む しろ 罪 を 犯 さ れ た 方 だ 。
(lamaman Moresinn'dagainstthansinning.)
(3.2.so‑sl)
「未 だ 暴 露 され てい ない 罪 を/司 直 か らの 正 義 の 答 を受 け ず に いる(̀undivulged crimes!Unwhiptofjustice'ibid.,51・52)」 連 中 の 厚 顔 さに触 れ た 直 後 の 台 詞 で ある。 犯 した罪 が な い と自認 して い れ ば こそ の 発 言 で あ る。 しか も、 この 台 詞 に 宗 教 的 な罪 を読 み 込 み 、 「身 に 受 け た」とい う受 動 態 に 注 意 を 向 け ると1そ の 表 す 意 味 は 「苦 しみ を受 け た 」 とい う内 包 に な る。 リア が た ぎらせ る 「激 情 (passion)」 は 語 源 的 にも 「苦 しみ を受 け た」 という意 味 で ある。 な らば 、 リア は 思 い 、 言 葉 、 行 い 、 怠 りに お い て罪 を犯 してい な か ったの か 一 一 もの を分 け 隔 てる思 い が 、 行 い よりも言 葉 に 価 値 を期 待 す る言 葉 が 、 廃 嫡 に及 ん だ 行 い が 、 加 えて 、 そ れ にもまして 、 真 実 を見 極 め る怠 りが なか ったか 。 しか し、 リア の 考 え は 王 権 を笠 に着 て犯 した 自分 の 罪 状 の 数 々 に未 だ 及 ん で い な い 。
ところ が 、狂 い に狂 った嵐 の 中 で 、リア は 自分 とは 比 較 にな らな い 生 き物 に 遭 遇 す る 気 違 い の トムで あ る。 そ の 時 、 リア の 人 間 理 解 は 転 機 を迎 える。
人 間 は こ れ 以 上 の も の で は な い の か?(中 略)お 前 は そ の も の ず ば りの も の だ 。 必 要 な も の を 与 え ら れ て い な い 人 間 は 、 お 前 の よ う に 惨 め で 、 膚 を 晒 し た 、 二 本 足 の 毛 物 に し か す ぎ な い 。 脱 が せ て くれ 、 人 間 に 不 必 要 な 借 り 物 は!さ あ 、こ こ の ボ タ ン を 外 し て くれ 。(3.4.102・9)
{Ismannomorethanthis?....Thouartthethingitself:
unaccomodatedmanisnomorebutsuchapoor,bare,fork'd a皿imalasthouart.Of£off,youlendings!Come,unbutton here.)
先 ず 、発 想 にお い て 、比 較 級 か ら断 定 表 現 へ の 移 行 が 窺 えて興 味 深 い。 加 え て 、 コー デ リアが 言 い 切 った 「それ 以 上 で も、 そ れ 以 下 で もない 」とい う言 葉 の 反 響 を聞 き取 ることが で きる。 暴 露 され た 「そ の もの ず ば り」の 真 実 を 目の前 に して 、 リアの 心 は 共 鳴 す る。 そ れ まで の 贅 沢 の 暖 衣 とは 比 較 にな らな い 今 の 薄 物 さえ必 要 ない の だ 。 自分 の 身 か ら 「不 必 要 な借 り物 」を脱 ぎ 捨 てようと躍 起 に な るリア 。
この 反 射 行 動 は リア の最 期 の 場 面 に繰 り返 され る。 コー デ リア は 死 ん で 目の 前 に横 たわ る。 人 間 以 下 の 生 き物 で ある犬 や 馬 、 鼠 な どにも命 が あ った の だ 。 死 が 命 あるもの に訪 れ る事 実 を認 識 す る瞬 間 であ る。 ず ば り、 死 そ の もの なの だ 。 しか し、 そ の認 識 に 至 るまで 、 リアは さらに長 い 苦 しみ を経 験 しな くては な らな い 。
この ように 「そ のものず ば り」と言 い切 れ る人 生 へ の 達 観 は 、比 較 の 問 題 で な く、 事 実 の認 識 に お い てこそ得 られ るの で ある。 そこで 、 比 較 級 か ら断 定 表 現 の移 行 に 注 意 を向 けな が ら、この に の 偉 大 なる愚 か 者 の 舞 台 」をさらに考 えて み た い 。 次 の 引 用 は 気 違 い トムの 傍 白で ある。 傍 白 は 古 代 ギ リシャ悲 劇 に使 わ れ たコー ラスを想 起 す る効 果 的 な演 出 方 法 の 一 つ で あ る。 エ ドガ ー は す べ て の 贅 沢 を脱 ぎ捨 て 、裸 同 然 で ある。暖 衣 飽 食 の 王 侯 貴 族 とは 比 較 に ならな い外 観 をして いた。
「そ れ 以 上 でも、 そ れ 以 下 でもな く」 ず ば り、 そ のもの251
(OldMan.
Edg.
Iamworsethane'erIwas.
flldMan.'TispoormadTom.
Edg.[Aside.]AndworseImaybeyettheworstisnot Solongaswecansay,"Thisistheworst.")
老 人:や や 、 誰 だ 、 そ こ に い る の は?
エ ドガ ー:[傍 白]おS 、 神 々 よ!「 今 が 最 悪 」 と誰 が 言 え よ う?
今 ま で よ り以 上 に 悪 くな っ た 。
老 人:惨 め な 気 違 い トム だ 。
エ ドガ ー:[傍 白]し か も 、 わ た し は も っ と悪 くな る か も しれ な い 。 最 悪 は 未 だ し だ 、
「こ れ が 最 悪 だ 」と言 え る うち は 。(4.1.25‑28) Hownow?who'sthere?
[酌 ゴda]Ogods!Whois'tcansay,"Iamattheworst"?
確 か に 、 「『これ が 最 悪 だ 』 と言 え るうちは 」最 悪 で な い の だ。 比 較 が できるうち は 本 物 で ない の だ。 最 悪 の 状 態 に い ることが 明 白な エ ドガ ー の 心 情 で あ るだ け に 、そ の 表 す 意 味 は 重 い。この トム に遭 遇 しても、狂 ったリア が 未 だ に比 較 の 問 題 か ら抜 け きらな い で い ることは 、視 力 を奪 わ れ た グロスター との 関 わ りで 、この 小 論 の 冒 頭 で 述 べ たように 、 子 供 遊 び の 「あ てっこ」をす るリアの 姿 に明 らか で あ る。
リア:耳 で 見 る こ と だ 一 一 奴 ら の 場 所 を 変 え ろ 、 ど っ ち の 手 に 持 っ て る か 当 て な 、 ど っ ち が 裁 判 官 で 、 ど っ ち が 泥 棒 か?(4.6.152・54)
(Lear.Harkinthineearchangeplacesandhandydandy,which isthejustice,whichisthethief?}
この 「耳 で 見 ることだ 」は 視 覚 に 関 わ る心 象 を想 起 させ ることは 既 述 した。 また 、 比 較 の 主 題 を意 識 させ る 「あ てっこ」は 、 さらに 、もう一 つ の選 択 の 余 地 を考 え させ る一 一 どちらの 拳 の 中 にも 当 てるもの が握 られ て い ない 場 合 の ことで あ る。ど ちらか の 拳 に握 られ てい るか ぎ り、選 択 は で きる。どちらか を言 い 当 てることが で きる。 どち らか が 正 解 な の だ 。 だ が 、 相 手 は 子 供 だ。 どこか に 石 を隠 して、 両 方 に 無 いこともありうる。 どち らを 当て ても正 解 な ら、当 てな くても正 解 な の だ 。こ
の 皮 肉 を想 定 しな い で 価 値 判 断 の 手 段 とす る二 分 法 に は 疑 問 の 余 地 が あ る。
「あれ か 、 これ か 」 の 二 つ が あ っても選 べ な い 時 こそ 、 選 択 肢 が 三 つ 以 上 あ っ ても、そ の もの ず ば りしか 選 べ な い 瞬 間 こそ 、人 生 の 真 実 があ るの だ が 、この 小 論 の 主 題 か ら外 れ るの で 、 ここで は 比 較 構 文 をさらに 追 うことにしよう。
で は 、 コー デ リア と同 じように 、 言 い 切 りを特 徴 とす るケ ントが フランス軍 陣 営 にい るコー デ リア を訪 ね る場 面 に 、 本 題 の 比 較 構 文 を見 てみ よう。 ケン トは リア の 苦 しむ 様 をあ りの ままに報 告 す る。
わたくしめを覚 えて頂 きまして 、 婦 人よ、 過 分 に過 ぎるお 支払 いです 、 わ たしめの報 告 はどんな に控 え 目に 申し上 げても事 実 に添 ったもの 、
そ れ 以 上 で も 、 そ れ 以 下 で も な く、 そ の も の ず ば りで ご ざ い ます 。 (Tobeacknowledged,madam,iso'erpaid,
Ailmyreportsgowiththemodesttruth, Normorenorclipt,butso.}
(4.7.4‑6)
コー デ リアとの 再 会 を契 機 に 、 ケ ン トの 口か ら劇 冒 頭 の コー デ リアの 「そ れ 以 上 でも、 そ れ 以 下 で もなく、 そ の もの ず ば り」とい う表 現 が 再 現 され た。 心 象 の 共 鳴 であ る。 ところが 、 興 味 深 い ことに 、 応 えるコー デ リア が 比 較 級 を遣 うの で あ る、 「よりよく身 に着 け てくだ さい 、/そ の 衣 服 は より悪 い 時 の 思 い 出 のよす が で す(̀Bebettersuited,/Theseweedsarememoriesofthoseworserhours;'
ibid.,6・7)」と。 しか も、 ケン トの 扮 装 を見 破 る 目を持 って いた 事 実 と、 繰 り返 さ れ る 「脱 ぎ捨 てる」とい う心 象 の 方 に 、この 台 詞 が 重 きを置 い てい る点 にお い て 、 そ れ こそ 「より」 印 象 的 な表 現 で ある。
しか し、 「もっ とも」 印 象 的 な の は 、 リアが コー デ リア と再 会 す る場 面 であ る。
長 い 苦 しみ を受 けた 後 に正 気 を取 り戻 す の で ある。 この 場 面 を最 後 に 、 一 連 の 重 要 な 心 象 群 の反 響 を支 えて い る基 底 音 で ある比 較 構 文 の検 討 を終 わ りた い。
そ して 、 リア が つ い に 辿 り着 いた 人 間 理 解 の 有 り様 をさらに探 って み た い。
リア は 夢 か うつ つ か 判 然 としな い 状 態 の まま、フランス軍 の 天 幕 で 目を覚 ます 。 次 第 に は っきりして ゆ く視 覚 は 、や が て愛 す るコー一デ リア の 姿 を捉 える。 和 解 の 時 でもあ る。
コ ー デ リア1い け ま せ ん 、 陛 下 、 膝 を っ い て は い け ま せ ん 。
「それ 以 上 で も、 それ 以 下でもなく」ず ばり、 そのもの253
リア:ど うか 笑 いもの に してくだ さるな。
わ しは とても愚 か な 毫 砥 した年 寄 りだ 、
八 十 と幾 つ か だ 、 一 時 間 で もそれ 以 上 でもそ れ 以 下 でもな い。
そ して率 直 な ところ 、
どこか 未 だ に狂 って い るらしい。(lbid .,58・62)
(Cor.No,sir,youmustnotkneel.
Lear.Praydonotmockme .
Iamaveryfoolishfondoldman,
Fourscoreandupward,notanhourmorenorless;
Andtodealplainly,
IfearIamnotinmyperfectmind .)
つ い にリアは 「それ 以 上 でもそ れ 以 下 で もない 」とい う認 識 に 至 ることが で きた。 しか も、不 安 定 な精 神 状 態 を 「どこか 未 だ に 狂 って いるらしい 」と叙 述 法 で 言 い 切 ってい る、 極 め て率 直 に。 か つ ては リー ガ ンの 前 で ほ ん の 遊 び か ら膝 を屈 し たこともあ った。 既 述 した ように 、 皮 肉 を込 め て 「懇 願 ご っこ」をした 時 で あ る。 しか し、今 は 心 の 命 ず るままに 真 面 目にコー デ リア の 前 に膝 を突 き、「とても愚 か な 毫 礫 した 年 寄 りだ」 と言 い 切 った。
リア:あ な た も こ ち らの 人 も 見 知 っ て て しか る べ き と思 うが 、 ど うも そ れ も 疑 わ し い 。 な ぜ な ら 、 ま っ た く知 ら な い の だ 、 こ こ が ど こ だ か 。 そ れ に 持 て る す べ て の 知 識 を ひ ね っ て み て も こ うし て 着 て い る 物 に 記 憶 が な い の だ 。 お ま け に 、 知 らな い の だ 、 ゆ うべ は ど こ に 宿 を 取 っ た の か 。 笑 っ て くだ さ る な 、
そ れ とい うの も わ し が ここ に 一 人 の 人 間 と して あ る の は 明 らか だ か ら 、
こ の 婦 人 は 、 わ し に 子 の コ ー デ リア だ と思 うか ら だ 。
コ ー デ リア;そ の と お りで す
。 わ た し で す 。 (lbid.,63・69) (Lear.MethinksIshouldknowyou,andknowthisman,
YetIamdoubtfulforIammainlyignorant Whatplacethisis,andalltheskillIhave