高エネルギ-陽子入射反応における中性子生成二重微 分断面積の測定
中本, 建志
九州大学工学エネルギー量子応用原子核
https://doi.org/10.11501/3110910
出版情報:Kyushu University, 1995, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
ウム、 鉄、 インジウム及び鉛ターゲットに入射したときの中性子生成二重微分 断面積が得られた。 本研究で使用したターゲットの内、 炭素、 アルミニウム、
鉄及び鉛は、 過去 にLANLでAmi anらが入射陽子エ不ルギーが0.8GeVで行っ た実験(2 5)におい ても用いられた。 また、 Sta mer らも同様にLANLにおいて、
0.8GeV陽子 を鉛ターゲットに入射したときの中性子生成二重微分断面積 を測 定した(26)。 これらの実験結果と本研究での結果の比較を行 うことで、 本研究 の中性子測定方法の信頼性の様子を知ることができる。
本研究で得られた中性子生成二重微分断面積と他の実験結果との比較を図5・
1 --- 5 -4に 示す。 入射陽子エネルギーは全て 0.8GeVであり、 図5-1---5-4と順 番に炭素、 アルミニウム、 欽及び鉛ターゲットを用いた場合の比較を示してい る。 図中、 Am i a nら及びStamerらの実験結果は、 それぞ、れ実線及び破線で示 している。 図5-2---5---1のアルミニウム、 欽及び鉛ターゲットでの比較を見る と、 中性子エネルギーが3l'vI e V以下の領域を除いて、 本研究とAm ia nらの実験 結果は非常に良く一致している。 しかし、 3l'vl e V以下の領域では、 本研究での 実験結果がAmi anらよりも小さい値となっている。 本研究及びAmianらの実 験のいずれの場合もデータ補正を行っているが、 最も補正が大きいのは両者共
に3l'vl e V以下の低エネルギー領域である。 本研究において は、 ターゲット内で
の多重散乱中性子の補正が最も大きく、 実験値に乗じる補正係数は0.5程度で あった。 また、 Amianらの場合では、 数十mの飛行距離による空気中での中性 子の減衰及びy線除去用 に中性子検出器前に設置したウラン板中での中性子の 減衰の補正が最も大きく、 実験値に乗じる補正係数は合わせて約5であった。
したがっ て、 Am i a nらの場合は、 本研究の場合と比較して実験値の補正の程 度は2.5倍大きいことに なる。 このように3l'vI e V以下の低エネルギー領域では 補正係数が大きいため、 補正の不定性がわずかでも存在することで両者の実験 結果に差が生じてしまったと考えられる。
判5-4では、 Stamerらの実験結果も併せて比較している。 100 l'vI e V以上の高 エネルギー領域において は、 Stamerらの実験結果は本研究及びAm i a nらの結 果と良く一致している。 しかし、 後方の角度での100 l'vl e V以下では、 本研究と Am i a nらの結果が良く一致しているのと対照的に 、 Stamerらの結果との不 致が目立つ。 StamerらはAmianらと同じLANLで実験を行い、 しかも共同研
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図5-4 O.8GeV陽子入射によるPbターゲットからの中性子生成二重微分断面積 実線及び破線は、 それぞれAmianら及びStamerらの実μ挽結果を示す。
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している。 先に述べた ように、 炭素以外で は全般に両者の実験結果は良く一致 していた 。 このため、 炭素での不一致には特別の理由がある と考えられる。 タ ーゲット が炭素の場合、 他の重い原子筏と比較して中性子収量が かなり少ない。
この ため、 測定で得られる 中性子TOFスペクトル中に、 ターゲットホルダー や他の構造材からのバックグラウンド 中性子や、 時間に依存しないバックグラ ウンド中性子が占める割合が大きくなる。 したが って、 測定環境の違いや、 デ ータ解析時の バックグラウンド中 性子の除去方法の違いにより、 得られた中性 子生成二重微分断面積 にも若干の違いが生じると予想、される。 ただし、 本研究 とA mia nらの実験結果の内、 いずれが真の値に近いかどうかは不明である。
以上の結果をま とめると、 軽い炭素ターゲットの場合を除いては、 本研究の 入射陽子エネルギーが0.8GeVでの実験結果は他の実験結果を良く再現してお り、 本研究 での測定方法及びデータ解析が適切であったと考えられる。 したが って、 入射陽子エネルギーが1.5及び3.0Ge V における実験においても、 信頼
性の 高い断面積データが得られたと予測される。
5. 2 計算結果との比較及び考察
5. 2. 1 実験結果
前節で の議論により、 本研究 で行った中性子TOF測定及びデータ解析が適 切であり、 得られた測定値の信頼性は高いことが分かった。 そこで今節では、
実験で得られた中性子生成二重微分断市積とINC E模型による計算結果との比 較を行 う。 ま ず 、 典型的な実験データの中性子放出角度分布の一例を図5-5に 示す。 凶は、 1.5GeY陽子を鉄ターゲットに入射したときの、 中性子エネルギ ーが1、 10及び100MeVの中性子生成二重微分断面積についての角度分布を表 している。 横軸及び縦軸は、それぞれ中性子二重微分断面積(mb sr-1 Nley-1) を100倍して自然、対数にとったものに放出角度の余弦及び正弦をかけた値を不 している。 つまり、 原点から各角度のエネルギ一点までの長さが 断面積の大き さを示している。 なお、 見やすくするため に横軸に対称な点にも実験データを 表示 している。 図5-5から、 1IvIe Vの低エネルギー中性子が ほぼ等方に放 出 さ
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鉄、 インジウム及び鉛ターゲットでの比較を示す。 また、 各図のa、 b及び、cは、
それぞれ入射陽子エ不ルギーが0.8、 1.5及び3.0GeVでの実験値と計算値の比 較を示している。 実験値 の誤差には、 前章で述べたデータ補正や検出効率での 不定性の他に統計誤差も含まれている。 図中の実線及び破線は、 それぞ、れ I N C E模型に基づい たモンテカルロ核内粒子輸送計算コードHE TC及び NUCLEUSの計算結果を示している。 ただし、 HETCによる計算では通常の 核 子一核子弾性散乱断面積を用いていたのに対して、 NUCLEUSでは、 前章で説 明したように核内の媒質効果を考慮した核子-核子弾性散乱断面積(54),(55)�用 いて計算(5 6)を行った。 しかし、 基本的にHETC とNUCLEUSでは同じサブルー
チンを使用している。
本研究は、 当初放出中性子エネルギー1 --- 1 OO!vI e V程度の領域で断面積を得 ることを目的 としたために、 TOFの飛行距離は最大 1.5mと短い。 このため、
数百MeV以上のエネルギー領域の断 面積を議論することは、 本来あ まり適当 ではないO しかしなが ら、 全体を見ると15 0 方向の入射エネルギー付近に小 さなピークがあり、 実験と計算の不一致が大きい。 これは、 以下に述べるよう に多重散乱中性子に関する補正によって現れた。
前章でも述べたよう に、 データ補正量のほとんど を ターゲット内での多重散 乱中性子についての補正が占めている。 本研究での多重散乱中性子の補正は、
厚いターゲットからの中性子収量を計算するN!vI T C / J A E R 1 -9 4 + rvI C N P -4 Aの カップリング計算結果と、 原子核内での粒子輸送のみを取り扱うNUCLEUSの 計算結果の比を用いて行った。 ただし、 ここでは100ìv[eV以上の高エネルギー 領域 につい て議論 を 行 う ため 、 核内及び核外粒子輸送計算 につい ては N !v[ T C / J A E R 1 -9 4のみを考えることとする。 今、 図4-14に示す1.5GeV陽子 を鉄タ ーゲットに入射したとき の N!v[ T C / J A E R 1 - 9 4 + !vI C N P - 4 A及び NUCLEUSの計算結果に再び注目してみる。 鉄原子 核と入射陽子との一次反応
から前方へ放出される数百ìv[e V以上の高エネルギー中性子は、 低エネルギー 中性子と比べて平均自由行 程が長くなっている。 このため直径4.9 cm、 厚さ
2 c m程度の鉄ターゲット では、 一次反応からの高エネルギー中性子による多重 散乱は起こりにくく、 そのほとんどはターゲット中をそのまま通過していく、
と当初は考え られた。 しかし、 前方の15。 及び3 0。 方向の100 ìvI e Vから
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して二次中性子を多数生成していると考えられる。 データ解析では多重散乱補 正のため、 他のターゲット又は入射エネルギーに ついてもN ìvI T C / J A E R 1 -9 -1 及びNUCLEUSの計算を行った。 しかし、 こ の傾向は鉄ターゲットのみならず 炭素を含む他のターゲット についても同様であり、 入射陽子エ不ルギーに も依 存しなかった。 以上から、 中性子エネルギーが入射陽子エネルギー近傍の領域 では、 多重散乱補正でのNMTC/JAERI-9-lの過小評価 が直接影響して、 1 5。
方向の高エネルギー中性子 のピークが生じてしまうこと が分かった。
また30。 及ぴ60。 方向の数百ìvIe Vを超える領域では、 実験イ直が 計算値より もかなり大きくなっている場合がある。 こ のエネル ギー領域 の中性子 は、 カス ケード過程において入射陽子と1回散乱しただけで核外前方に放出されたと考 えられる。 カスケード計算に用いられる核子一核子散乱断面積はある程度の正 確さが予測される ため、 INCE模型による計算結果も信頼性がおけると考えら れる。 一方、 実験結果については、 数百NI e V を超える領域ではタイムウ オー
ク補正による影響が顕著となると考えられる。 タイムウオー ク補正では即発γ 線の二次元分布を用いて補正を行った。 数百NIeV 中性子 の 信号電荷に相当す るγ線は非常に少ないため、 高波高領域でのタイムウオーク補正には不定性が 残っ て し ま う。 例えば中性子 が1 mの距離を飛行した 場 合 、 5 0 0 NI巴Vと 700 ìvI e Vでの時間差はわずか0.33nsである。 このため数百NIe Vを超える領域 では、 タイムウオーク補正に関する わずかな不定性でも実験値に悪影響を及ば す。 また 、 測定系のエネルギ一分解能自身も数十%を超えてしまうことから、
前方方向の数百ìvIe Vを超える領域では、 実験イ直に表示されてい る以上の不定 性が存在すると考えられる。
次にターゲット毎での 実験値と計算値 の比較の結果について述べる。 図5-6
での炭素ターゲットでの結果を見ると、 全般的に数十MeV以上のカスケード 領域においてINCE模型計算が実験を良く再現している こと が分かる。 しかし 、 10MeV以下の低エネルギー領域では統計量が十分でなかったため 、 断面積デ ータ聞に凹凸が見られる場合もある。 図5-6-a、 b及びcの いずれの入射エネル ギーについても、 1 5。 方向jの数百ìvIe Vでのピークにおいては実験と計算の不 致が非常に大きい。 こ れは、 先に 述べた多重散乱中性子 に関する補正の影響 である。 その他には、 90。 万向の200 NI e V付近での実験値と計算値の不一致
- 123 -
ミニウム ターゲットの実験結果を見る。 炭素タ ーゲットの場合と同様に、 12)
方向の入射陽子エネルギー近傍での多電散乱補正によるピークが見られ、 計 算との不一致が目立っている。 しかし、 1 5 0 方向以外での100NleV以上のカ
スケード領域 では、 実験とINCE模型計算との一致は非常に良好である。 特に 0.8GeV陽子入射の場合は 全エネルギ一範囲に渡って両者は良く一致してい る。 入射エネルギーが高くなると、 5MeVから30NI e Vまでの範囲で、 INCE模 型計算の過大評価が目立ってくる。 炭素の場合と比べて中性子収量は増加した が、 データにはまだ若干のふらつきが見られる。 図5-8の鉄ターゲットの実験 結果を見る。 こ れまでと同様に、 15。 方向の入射陽子エネルギー近傍での多
重散乱補正によるピークが見られる。 統計量も十分であり、 断面積データも滑 らかである。 INCE模型計算は実験を良く再現しているが 、 3.0Ge V陽子入射 での5ìvI e Vから30 NI e V までの範囲においては 計算の過大評価がはっきりと現 れている。 図5-9のインジウムターゲットの実験結果を見 ると、0.8GeV及び 1 .5GeV陽子入射では 、 INCE模型計算が実験を非常に良く再現していること が分か る。 しかし、 3.0GeV陽子入射では中間エネルギー領域での実験と計算 との不一致が目立っている。 また、 軽いターゲットでは見られな かった、 後方 の120。 及び150。 方向、 中性子エネルギーが1 00 1vI e V付近でのINCE模型計 算の 過小評価が現 れ始めて いる。 図5・10の鉛ターゲットの実験結果から、
0.8 Ge V及び1 . 5 Ge V陽子入射では、 インジウムの場合と同様にINCE模型計算 が実験を良く再現していることが分かる。 しかし、 後方の1200 及び150。 方 向における中性子エネルギーが数十MeV以上の領域では、 INCE模型計算の過 小評価が顕著である。 ところが、 3.0GeV陽子入射では後方の不一致の傾向は 再び無くなりつつあるように見える。
以上の結果をまとめると次のようにな る。 0.8GeV 陽子人射では、 全ターゲ ットを通じてINCE模型計算が実験を良く再現した。 しかし、 入射エネルギー が1GeVを超え ると、 中性子エネルギーが51vI e Vから30 lvI e Vの領域 において INC E模型計算の過大評価が現れ、 特に3.0Ge V陽子入射の場合に顕著であっ た。 重いターゲットのインジウムや鉛ターゲットでは、 後方の数十1vI e V以上
において実験と計算の不一致が目立っている。
121・
比較的良く再現していることが分かる。
NUCLEUS計算に用い たCugnonの核内の媒質効果を考慮した綾子-核子弾 性散乱断面積を示す図十1 2に注目する。 陽子一陽子及び陽子-中性子弾性散 乱断面積のどちらの場合 も、 2GeVを超えると滑らかにHETCのオリジナルの 断面積と繋がるように設定され ていることが分かる。 そして、 80 o:rvr e Vよりも 低い エネルギー 領域では、 オリジナルの断面積よりもCugnonの断面積の方が 小さな値となっている点が特徴的である。 本研究での入射エ不ルギーは0.8--
3.0 GeVであ った が、 このエネルギー領域ではオリジナルとCugnonの断面積 の違いはあ ま り大きくないO このため、 通常のHETCと校内の媒質効果を考慮
した NUCLEUSによる計算とでは、 入射陽子と核内核子の最初の衝突頻度はほ とんど変わらないはずである。 しかし、 l回目の衝突後の散乱核子のエネルギ ーは、 入射陽子エネルギーよりも低くなる。 このため2回目以降の衝突頻度に 違い が表れるはずであ る。 つまり、 筏内の媒質効果を考慮したNUCLEUSの計 算では、 80 0IvreV以下のエネルギー領域におい てオリジナルよりもCugnonの 断面積が小さいために核子同士の衝突が起こりにくくなり、 散乱核子はエネル ギーを原子核に与えないまま核外に放出されることになる。 このため核内の媒 質効果を考慮したNUCLEUSでは、 カスケード過程終了後 の残留核の励起エネ
ルギーが低くなり、 蒸発過程からの粒子放出が抑えられることになる。 図5・6 -- 1 0を見ると、 入射陽子エネルギーが0.8GeVの場合、 中性子エネルギーが5 -- 3 0 Ivr e V の範囲で は通常のH E TC よ り も 核 内 の媒質効果を考慮 し た NUCLEUSの方が実験値を良く再現している。 以上のこと から、 Cugnonの核 内の媒質効果を考慮した衝突断面積を用いることによって 、 5 -- 30Iv[eVにおけ る計算の過大評価を改善できることが分かった。 しかし、 入射陽子エネルギー
が高くなると、 5 ---- 3 0 Iv[ e Vの範囲の過大評価が顕著になる。 特に、 3.0 Ge V陽 子をアルミニウム 、 鉄及びインジウムターゲットに入射した 場合に、 実験と計 算との不一致が目立っている。 このINCE模型計算の過大評価の原因のーっと して、 フラグメンテーシ ョ ン反応(58)の寄与が考え られる。 フラグメンテーシ
ョン反応とは、 原子核に陽子やイオン等の高エネルギー粒子を入射させた場合、
ナトリウムやマグネシウム等の中間質量核(フラグメント)が放出される反応 のことを指す。 陽子の場合、 入射エネルギーが1GeVを超えるとフラグメンテ
ー 125・
核からの中性子放出が抑えられることになる。 しかし、 INCE模型で考 慮して いる放出可能な粒子はαまでであり、 フラグメントの放出については全く考慮 していない。 したがって 、 INCE模型計算では残留核の励起エネルギーが実際 よりも高 くなっており、 中性子が放出されやすくなっていると考えられる。 特 に入射陽子エネルギーが3GeVの場合はフラグメンテーシ ョン反応の起こる頻 度が多くなっている ため、 5 ---- 3 0 Ì\t[ e Vの領域ではINCE模型計算が実験を大き く過大評価してしまうと予測される。
次に、 15----900 方向における入射陽子エネルギー近傍の高エネルギー領域 を見ると、 媒質効果を考意したNUCLEUSの 計算結果が通常のHETCよりも 大 きくなり、 実験値と良く一致している。 この傾向は、 特に入射陽子エネルギー が3GeVのときに顕著であり、 最大でー桁程度の差となっている。 このエ不ル ギー領域の放出中性子は、 最初の入射陽子と核内中 性子の二体衝突により放出 されると考えられる。 上でも述べたように、 陽子エネルギーが3GeV付近にお いて は、 オリジナ ルのHETCで用いられている衝突断面積とNUCLEUS計算に
用いたCugnonの衝突断面積はほとんど等しいため、 両者のカスケード過程計 算に不一致の原因があると考えられる。 こ のため、 オリジナ ルのHETC及び NUCLEUSの比較を行った。 図5・1 1に3.0Ge V陽子を鉛ターゲットに入射した ときの 実験及び計算結果を示す。 図5 - 1 1から、 図5 - 1 0 - cと同じように15 ---- 90。 方向の高エネルギー領域において、 オリジナルのNUCLE US計算がHETC の計算を過大評価する結果となっている。 図5-1 0-aの0.8GeV入射の場合では、 HETCとNUCLE USの計算結果にほ とんど違いが見られ ない。 しかし、 図5 -
10- bの1 .5 Ge V陽子入射になるとNUCLEUS計算の過大評価が表れ始めている ことから、 lGeVを超える領域でのカスケード過程の取り 扱いになんらかの違 いがあると考えられるo NUCLEUSとHETCのカスケード計算においては、 核 子同士の弾性散乱に関しては全く等しい計算結果となるが、 非弾性散乱である π中間子生成反応の取り扱いが異なる。 つまりNUCLEUSではHETCに比べて 核子-核子のπ中間子生成反応(非弾性散乱)断面積を大きく見積もっており、
多量に生成されたπ中間子又は散乱陽子による二次散乱から高エネルギー中性 子が過剰に核外に放出されると考えられる。 特に、 陽子の入射エネルギーが 3GeVの場合は、 核子一核子衝突からの2π中間子生成反応が起こりやすくな
- 126 -
1 0
3101
10四1
(で>ω芝FE」
ω ハギε)
COLυωω
• 1 50 X 100 300 X 10 ... 600 X ,
・ 900 X 0.' 十 1200 X 0.01 ム '500 X 0.001
一一一-
HETC一一 -
NUCLEUS1 0-
3ωωO」υ
1 03 1 0
210' 1 0-
51 0
0Neutron Energy (MeV)
図5-11 3.0GeV陽子をPbターゲツトに入射したときの中性子生成二重微分断面積 実線及び破線は、 それぞれHETC及び、NUCLEUSの計算結果を示す。
l27 -
散乱断面積を、 校内の 核子密度に依存する形で表現した。 Cugnonの衝突断面 積には核子密度に対する依存性までは考慮されていないため、 Li -IvI a c h 1 e i d t の衝突断面積が核内での粒子衝突をより正徳に表現できると予怨された。 この ため、 図5- 1 2に示す 様に、 INCE模型計算に Li - IvI a c h 1 e i d t及びCug no nの 衝突 断面積を組み込んで計算を行い、 両者の結果を比較した。 入射陽子エネルギー は3. OGe V、 ターゲットは鉛である。 Li -IvI a c h 1 e i d tの媒質効果を考慮した衝突 断面積を用いたINCE模型計算結果には、 執行(6 1)が行ったHETCの 計算結果を 用いた。 また、 Cugnonの断面積はこれまで通りNUCLEUSに組み込んで計算 を行った。 図5.12を見ると、 300IvI e V以下のエ不ルギー領域で両者の計算結
呆はほとんど一致 している。 上で議論したCugnonの衝突断面積を用いること で計算結果を大きく改善した5 --- 30 Ivf e Vの範囲でも、 Li-Machleidtの衝突断 面積を用いたHETC計算 に違いは見られ ない 。 なお、 前方の数百lvIe V以上での 大き な不一致は、 Li - lvI a c h 1 e i d tとCugno nの衝突断面積の違いではなく、 先で も述べたHETCとNUCLEUSでのカスケード計算の違いに起因する。 以上の結 果から、 INCE模型計算に核 子密度依存を詳細に取り扱うLi-Ivfachleidtの衝突
断面積を用いても、 Cugnonの衝突断面積を用いる場合と計算結果は変わらな いことが分かった。
5. 2. 3 QIvI D手法による計算との比較
核反応、を微視的に取り扱う計算 手法と してQIvI D手法が挙げられる。 QIvI D計 算では、 紋子一校子 の相互作用や平均場ポテンシヤルを考慮して核子一つ一つ の運動の時間進行を計算していく 。 このため計算 には多くの時間が必要となる が、 反応機構の仮定によ らずに様々な現象を取り扱う ことができ、 フラグメン トの生成も自然に記述できる特長がある。 これまでの結果から、 INCE模型計 算は入射陽子がlGeV以下では実験を良く再現するこ とが分かった。 しかし 、 入射陽子 エネルギーが高くなるにしたがい、 5-._ 3 0 IvI e Vの範囲では実験と計算
結果の不一致が大きくなる。 そこで、 QlvI DとINCE模型の両計算結果 と本研究 で得られた実験結果との比較を行い、 QMD計算の特徴について調べた。 図5・
1 3に、 入射陽子エネルギーは3.OG e V、 ターゲットは鉛の場合の結果を示す。
. 128・
•
1 50
X100 /く 300
X10 企 600
X1
・ 900
X0.1 十 1200
X0.01 ム 1500
X0.001
一一一-
HETC : Li-Machleidt一一 -
NUCLEUS : Cugnon101
1 0 -
11 0 - 3
1 03
〆-、、
FE
> ω 芝 ? 」 ω ハギ ε )
C05υ
ω ω ωωO 」 υ
1 03 101 1 02
Neutron Energy (MeV)
1 0- 5
1 OV
川5-12 3.0GeV陽子をPbターゲットに入射したときの中性子生成二重微分断面積 実線及び破線は、 それぞれ媒質効果を考慮したHETC及びNUCLEUSの計算結果を示す。
ただし、 HETCにはLi-Machleidt、 NUCLEUSにはCugnonの衝突断面積を用いたO
ー 129 -
図5-13 3.0GeV陽子をPbターゲットに入射したときの中性子生成二重微分断面積 実線はNiitaらのQivIDによる計算結果を示す。 また、 破線は媒質効果を考慮した NUCLEUSの計算結果を示す。
- 130・
めNi i t aらの計算(6 2)では、 伎が熱平衡に達した段階でQivI D計算から統計崩壊計 算に移行する手法を採っている。 一方、 INCE模型計算には、 図5-10- c及び図 5 - 1 2にも示している媒質効果を考慮した NUCLEUSの計算結果を用いた。 な お、 QNID計算を行ったのは15から90。 までの4方向のみであるため、 120。
及び150。 方向の結果は記載していない。 図5-13を見ると、 全方向の10 ivI e V 以上の領域において QivI D計算はNUCLEUS 計算を過小評価しており、 実験値 と良く一致している。 特にNUCLEU Sが過大評価していた5 --- 30 Nle Vの範囲で は、 QNID計算は実験をきれいに再現している。 QivI D計算では高エネルギー領 域における紋子の衝突や核外への放出を正確に取り扱うため、 INCE模型計算 よりも残留核の励起エネルギーを低く算出することができる。 結果として 、 予 測し たようにQNID計算は1 NC E模型計算よりも実験値と良く一致することが確 認できた。 し かし 、 ターゲットが鉛などの重い原子核の場合や、 数GeVの高エ ネルギー粒子 入射の場合、 QivI D計算には膨大なCPU時間が必要であり、 工学
的応用に際しては適切ではないと考えられる。
ー131 -
15 0。 までの6方向に設置した。 適切なデータ解析を行うことによ って、 当初 の目的であ った1 -- 1 0 0 ìvI e V の範囲で良好な中性子生成二重微分断面積が得ら れた。 実験 結果は、 INC E模型による計算結果と比較を行い、 計算模型につい
て議論を行った。
以下に、 第2章から第5章で得られた成果に ついてまとめる。
第2章では、 KEK12GeV-PSπ2ビームラインにおける中性子TOF測定の問 題点を調べる ために 行った予備実験 の結果に つい て示し た 。 結果として 、
1GeVを超える高エネルギー中性子が多数発生する環境では、 中性子検出器用 シールド設置がむしろ実験に悪影響を及ぼすことが分かった。 また、 飛行距離 が1m程度と短いためにコリメータが使えない場合で も、 床からのパックグラ ウ ンド中性子による影響は無視でき る ことが分かった。 1----数百ìv[ e V までの広 いエネルギ一範囲に渡って中性子とγ 線の波形弁別を行う際には、 ゲート積分 法が適していることを実験で確認した。 これまでに行われた高エネルギー中性 子測定方法に関する研究例が非常に少ないことから、 予備実験で得られた成果 は、 本実験のみな らず今後の中性子測定に対しでも非常に有用であると考えら れる。
第3章では、 本実験である中性子生成二重微分断面積測定 方法について説明
を行った。 第2主主で述べた予備実験の成果を踏まえて 、 適切な測定装置及び方 法を用いて実験を行った。 測定を行ったKEK12GeV-PS π2ビームラインでは 同じ運動量の陽子とπ+中間子が混入しているが 、 ピームライン上でTOF法に よる粒子識別を行うことで陽子入射のときのみ測定を行うことが できた。 ま た、
入射陽子ピームが非常に弱く、 しかもパルス化されていないにも関 わ らず、 陽 子が一個一個人射する毎に中性千検出器と同時計測を行うこと で、 良好な中性 子TOF測定を行 うことが できた。 測定効率の ために比較的厚いターゲットを 使用せざるを得な かったが、 第4章で行ったデータ補正によ り実験結果は修正
された。
第4章では、 データ解析方法について説明を行った。 まず、 入射ビームモニ
ター での偶発的同時 計測や、 検出荷電粒子、 γ線及びバックグラウンド中性 の除去を行った。 特に 、 ゲート積分法を用いた波形弁別により1 00 ìvI e V以上の
- 132・
タ補正では、 ター ゲット中の多重散乱中性子による影響、 ベト検出器での減衰 効果、 ディスクリレベル付近での検出効率 に関する影響及 びCFD でのタイム
ウオークの揺らぎに つ い て補正 を行った。 その中でも、 多重散乱中性子に関す る実験値の 補正が大きかった。 またタイムウオーク補正に よりTOF測定の時 間分解能が改善されたことにより 、 本研究で測定対象とした 中性子エネルギー が1 --- 1 00 tvI e Vの範囲に おいて、 エネルギ一分解能は20%以下となった。
第5章では、 本研究で得られた実験結果を他の実験グループの結果と比較し、
本研究の実験及びデータ解析方法が信頼性の高い ものであること を示した。 た だし 、 炭素に関しては実験同士の不一致が大きく、 どちらか の実験方法に問題 が あ ると考えられたが 、 その原ltlまでは言及できなかった。 次に、 実験結果を HETC及び核内の媒質効果を考慮し たNUCLEUS の2種類の INCE模型 計算と 比較した。 その結果、 実効的にカスケ ード粒子が放出されやすいために残留核 の励起エネルギーが低く抑えられる 、 媒質効果 を考慮した NUCLEUSの 計算結 果が実験 を良く再 現することが分かった。 しかし 、 入射陽 子エネ ルギーが 3.0GeVの場合、 全てのターゲットの5 ---30 tvI e Vのエネルギー領域において両
計算コードが過大評価していた。 この原因としては、 INCE模型ではフラグメ ンテーシ ョ ン反応を考慮してい ないため 、 残留核の励起エネルギーが高 いまま カスケード過 程から蒸発過程に移行している と考えられる。 フラグメント放出 を考慮しているQNID計算が 5 ---30 tvI e Vの領域で実験を き れいに 再現したこと から も、 INCE計算模型の 問題点が明らかになった。 同様に 、 入射陽子エネル ギーが3 . 0 G eV の 場合 、 同じカ スケー ド計 算を 行う はずのH ET C及び NUCLEU Sでは、 π中間子生成反応の取り扱い の違いから、 前方方向での数百
tvl e V以上の 中 性子エネルギー領域において両者の不一致が起 き ることが分か った。 以上の成果から、 特に3.0GeV陽子人射の場合はINCE模型計算コード に問 題点が あり、 今後も計算模型の改良が必要で あることが分かった。
以上述べて きた ように 、 実際の工学的又は医学的応用に 必要と なる入射陽子 エネルギーがlGeV を超える領域では、 放出中性子に関する実験値と計算値の 比較や計算模型に関する議論がこれ まで全く行われていなかった。 本研究では、
高エネルギー中性子測定万法について実験的 検討を行い、 ビーム強度が低い場
- 133 -
校子弾性散乱 断面積を組み込んだIN C E模型計算コードでは、 オリジナルの INCE模型計算コードよりも 中性子エネルギーが2 0 l'vI e V以下の領域にお いて実 験をより良く再現することが明ら かになった。 このため、 これまで重イオン入 射反応の計算 に多く用いられてきたCugnonの媒質効果を考慮した核子-核子 弾性散乱断面積が、 陽子入射反応 につ いても有用であることが分かった。 しか
し、 入射陽子エネ ルギーが1.5及び3.0GeVの場合、 核内媒質効果を考慮した INCE模型計算でも、 中性子エネルギーが5 ----3 0 l'vI e Vの範囲において、 実験値 を過大評価してしまうことが分かった。 したがって 、 入射陽子エネルギーが
1GeV以上に領域では、 フラグメンテーシ ョ ン反応を導入する等、 蒸発計算開 始時の残留核の励起エネルギーを低く抑える方向で計算コードの改良を進めて いく必要ーがある。
これからの研究課題としては、 以下の事柄が考えられる。
入射エネルギーが 1GeVを超えると 核子一核子 非弾性散乱 が頻繁に起こり始 め、 π中間 子が多数生成される。 このため、 lGeV以上の高エネルギー粒子人 射における INCE模型計算について議論する際は、 原子核内でのπ中間子 の生 成及び散乱を正確に把握しておくことが重要となる。 しかし、 これまでπ中間 子 生成に関する工学的立場からの系統的な実験はほとんど行われてこなかった ため、 今後陽子入射からの放出π中間 子を精度良 く測定することで、 原子核内 での核子-核子非弾性散乱に関する情報が 得られる可能性がある。 ま た、 同様 にこれまでπ中間子一 核子の二体衝突について詳細に調べられていないため、
π中間子入射 による中性子又は陽子生成二重微分断面積を測定し、 実験結果を 計算結果と比較することにより、 新たなINCE模型計算コード改良の知見が得 られると 考えられる。
実際の核破砕反応では、 励起した原子核から巾性子や陽子 のみならずγ線も 放出されるが、 数多いINCE模型に基づいた計算コードの中でもγ線 放出を考 慮している ものはひと つしか存在しない。 本研究でも指摘した ように、 今後の 計算コードの改良ではカスケード計算終了時の残留核の励起エネルギーを低く 抑えて、 蒸発過程からの放出中性子エネルギーを低く計算する必要がある。 今 後、 核破砕反応からの放出y線データを実験的に求め、 放出中性子及びγ線の
- 13 -f -
ー 135 -
学工学部 的場 優教授並びに永山邦仁教J受に深く感謝致します。
日頃の研究を進める上で多大な御助言及び御助力を戴きました九州大学工学 部 前畑京介助手並びに有馬秀彦助手に深く感謝致します。
共同研究を行うにあたり、 様々な御助言、 御協力を戴きました日本原子力研 究所 千葉 敏博士、 高田 弘氏及び明午伸一郎氏に深く感謝 致します。 特に 計算コードの使用に際しては、 高田 弘氏より多大なる御指導を戴きました。
ここに厚く御礼申し上げます。
本研究を行つにあたり、 御指導を戴きました九州帝京短期大学 松本 譲教 授、 東北大学 中村尚司教授及び九州 大学総合理工学研究科 渡辺幸信助教授 に深く感謝致します。
本研究を行うにあたり、 御支援を戴きました高エネルギ一物理学研究所 中 井浩二名誉教授、 渡辺 昇名誉教授、 核融合科学研究所 平林洋美教授及び神
戸大学 新井正敏助教授に深く感謝致します。
実験を行うにあたり、 御協力を戴きました高エネルギ一物理学研究所 吉村 暑男教授、 沼尻正晴助手並びに児玉英世氏に深く感謝致します。
実験装置の製作において御協力戴きました高エネルギ一物理学研究所工作セ ンタ ーの皆様に厚く御礼申し上げます。 また実験企画調整室、 ビームチャンネ ル、 回路室及び低温センターの方々には、 実験期間中多大な御支援を戴きまし た。 ここに深く感謝の意を表します。
本研究を行うにあたり、 多大なる御協力を戴きました三菱総合研究所 義浮 宣明氏、 放射線医学総合研究所 松藤成弘氏、 また執行信寛氏、 伊賀公紀氏を はじめとする九州大学工学部応用原子絞工学科第2講座の方々に心から感謝致 します。
最後に、 九州大学 和久田 義久名誉教授には、 本研究を始める契機を与えら れ、 御指導を戴きました。 ここに深く感謝の意を表します。
ー 13 () -
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