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(1)

営業秘密保護と退職後の競業規制 (二) : アメリカ における不可避的開示論の形成と展開を踏まえて 

著者 石田 信平

雑誌名 同志社法學

巻 58

号 6

ページ 37‑95

発行年 2007‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011070

(2)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 三七同志社法学五八

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶

アメリカにおける不可避的開示論の形成と展開を踏まえて

石 田 信 平

問題所在第一章 営業秘密経済的性質営業秘密使用開示差止競業差止第二章 日本における退職後競業差止問題状況 第一節 競業差止法的根拠東京リーガルマインド事件決定 第二節 不正競争防止法による営業秘密保護 第三節 契約による秘密保持義務設定 第四節 契約による競業避止義務設定 第五節 小括第三章 アメリカの営業秘密保護 第一節 営業秘密法以上三一七号

︵二二二七︶

(3)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 三八同志社法学五八︵二二二八︶

第二節 秘密保持特約 第三節競業避止特約第四章 不可避的開示論 第一節 競業避止特約正当化としての不可避的開示論以上本号 第二節 競業避止特約がない場合不可避的開示論 第三節各州における不可避的開示論第五章 日本型不可避的開示論可能性 第一節 秘密保持特約要件 第二節 競業避止特約位置づけ 第三節 不正競争防止法上不可避的開示論結語

第二節  秘密保持特約   前節では統一営業秘密法をはじめとした営業秘密に関する不法行為法上の保護を概観した

ただ

統一営業秘密法の

要件を充足しない財産的情報の濫用であっても

信頼義務の違反

不正競争を訴訟原因として

不法行為法上の保護を認める州がある

しかし

このように営業秘密ではない情報についても保護が図られるのであれば

どのようなところ

に統一営業秘密法等の意義が存在するのか

という疑問が浮上しよう

  この点については

一方で

以上のように営業秘密でない情報の不法行為法上の保護を認める州でも

差止請求に関 しては

営業秘密の要件を充たす財産的情報のほうが認められ易くなっていることが指摘できる

また他方で

そもそ 1︶

(4)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 三九同志社法学五八︵二二二九︶ も統一営業秘密法の要件を充足しない財産的情報については

不法行為法上の訴訟原因を排除する州も存在している

されてたす付与が保護な十分より

に財産的情報充を定義の統一営業秘密等

については保護の不法行為法上こうして

2︶

いるということができる

  もちろん使用者は

秘密保持特約を締結することによって

営業秘密の定義を充たさない財産的情報の契約法上の保

護を獲得することができる

さらに

秘密保持特約の履行請求としての差止請求についても

不法行為法で見られたような違いは存在しない

使用者は秘密保持特約を労働者と締結することによって

包括的に財産的情報を保護すること

ができるのである

明示的な特約がない場合であっても

使用者は暗黙の契約

︵ Implied Contract ︶

によって営業秘密でない財産的情報を保護することが可能である

  しかしながら

このような秘密保持特約を無制限に認めれば

自由競争の重要な柱である情報の流通を阻害することに加えて

情報の利用を制限する結果

労働者の新たな雇用を妨げる結果を生み出す

秘密保持特約が対象とする財産 的情報が広範囲であれば

競業避止特約と区別することが困難となり

実質的に就労自体を制限することにもなろう

のする②当該情報

であって場合しようとしている保護を機密情報関連に①事業

が秘密保持特約

は裁判例そのため

3︶

保護に必要な合理的範囲であるときに

効力が認められるという基準を形成してきたのである

4︶

  ここでいう①事業に関連する機密情報には

営業秘密以外の情報も含まれるが

労働者の人的資本とみなされる一般的な知識

情報は対象とならない

既に公開されている情報から得られる情報も

ここでの機密情報に包含されない

5︶

さらに

裁判例の多くは

機密情報であるための条件として

労働者に使用

開示が禁止される情報を事前に通知する趣旨から

秘密保持特約において機密情報を正確に定義することを求めている

6︶

  機密情報であるためには以上に加えて

退職後の労働者による当該情報の使用

開示が

当該企業に対して競争上の

(5)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四〇同志社法学五八

不利益を生じさせる場合でなければならない

することに競争会社利用に積極的を当該情報が

は不利益の競争上この

7

よって生じる損害を指すものであり

たとえば

企業製品の欠陥を退職労働者が告発したことによってもたらされる損害は

ここにいう競争上の不利益には該当しない

したがって

退職労働者による企業製品の欠陥情報の漏洩を防止す 8

るための秘密保持特約は合理性を欠くことになる

  一方

後述するように競業避止特約における合理性において重要な位置を占める期間や地域的限定は

秘密保持特約 については緩やかに判断されるケースもある

をあるある地域においては秘密保持義務があり

地域でにおいては義務がないという取扱いに意味

中している迅速化

このように期間や地域的限定が緩判断やかにされるのは

情報の流通が 9︶

見出すことができず

また

情報をどの程度の期間

機密にするのかを事前に決定することが困難であるという事情が存在するためである

点とはするものではないという制限を就労自体なり異競業避止特約

は秘密保持特約

さらには

10

も考慮されなければならない

  ただし

期間と地域的限定については

地域的限定は必ずしも必要でないが

期間の限定は必要であるとする例

11

財産的情報を

営業秘密の要件と充たす情報とそうでない情報に二分して

前者の場合には期間や地域的限定は不要であるとしつつ

後者の場合は必要であるとする例

留いにに点られる見が差異取扱によってその裁判所や州

などがあり 12

意が必要である

第三節  競業避止特約   以上のように

秘密保持特約は情報の使用

開示を制限することによって財産的情報を契約的に保護する機能を果た

すが

これと対比的に

競業避止特約は労働者の競業を規制することによって

いっそう包括的に財産的情報の保護を ︵二二三〇︶

(6)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四一同志社法学五八 可能とするものである

つまり

秘密保持特約は

一定の財産的情報を漏洩したという事実の証明に基づいて

契約違反としての救済を使用者に付与するが

これに対して競業避止特約は

そうした事実の証明ではなく

単に競業を行っ たという事実を根拠として

競業差止

や損賠賠償請求という救済を与えるのである

このような競業行為の立証は

財産的情報の漏洩のそれよりも遥かに容易であり

そのために

競業避止特約

の活用が

︑ IT

産業やハイテク産業の興 13

隆によって知的財産価値が向上し

知識の生産を担う人的資本が高い経済的価値を占めることに伴い

人材を留めおく手段として

あるいは当該知的財産を保護する手段として拡大する傾向にある

14

  しかし他方で

退職後の競業避止特約は

こうした営業秘密等の財産的情報を保護する機能を発揮すると同時に

次のような三つの副作用を生み出す

すなわち

競業避止特約は

第一に

情報の自由な流通を阻害することによって経

済の発展に悪影響を及ぼし

第二に

雇用における労働者の移動の自由を制限し

第三に

働くことを禁止される労働者に著しい不利益を課すという三つの側面を併有している

このため

競業避止特約については

各州に応じた一定の

規制が加えられてきているのである

によってということを意味し

統一営業秘密法統一されてきている上述の営業秘密法と対照をなしている ごとにである多様各州規制

規制内容その

まさに

とは

がじた応に各州

この 15

  もっとも

内容的には多様である競業避止特約に関する規制も

規制手法という観点からみた場合には

立法

とコモ 16

ンローによるものに類別することが可能である

以下では

さしあたり以上の二つの類型に分けて

特約規制の内容を概観したい

ここでの目的は

不可避的開示論の検討に必要な範囲で

アメリカにおける競業避止特約の基礎的概念を

確認するところにあり

各州に特徴的な規制内容については必要に応じて言及するに留める

17

︵二二三一︶

(7)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四二同志社法学五八

一 コモンローによる規制

  上記のとおり

競業避止特約に関する規制は各州に応じて多様であるものの

コモンローによって規制する州の多くは

大枠として

︑ ⒜

当該競業避止特約が他の点では有効である契約に付随するものであること

あるいは適切な約因が

存在すること

︑ ⒝

保護すべき正当な使用者利益が存在すること

︑ ⒞

当該競業避止特約による制限が使用者利益を保護するために必要な

合理的

範囲であること

︑ ⒟

労働者の受ける不利益が重大でないこと

という契約法リステイトメン

第二版

の基準を一部修正しつつ採用している

そこで次に

各州の差異に留意しつつ

一応の目安となっている

から

にそくして

特約規制の具体的内容を俯瞰しておくこととしよう

18

  他の有効な契約に付随するものであること   契約法リステイトメント

第二版

一八七条は

︑﹁

競争しない旨の約束が

他の有効である取引または関係にとって付随的でない制限を課す場合

その約束は不当な取引の制限にあたる

旨を規定する

このような規定が設けられてい るのは競争の制限を唯一の目的とする契約を排除することに加えて

ため

競業避止特約に関する当事者間の交渉を保証する 19

︑ ︒

として成立要件の契約においては契約法アメリカ

つまりとなる問題が関係の約因と付随性ここでは

であるが 20

当該取引と交換された対価

すなわち

約因

有効約因

というためには

関係を支えるがな同時に競業避止特約をも支えていなければならない取引 有効

付随に関係

取引なしているが競業避止特約

められるところ求が 21

この意味にお 22

いて

付随性と約因の関係が問われるのである

  ただし

雇用契約の締結時に競業避止の特約がなされた場合には

競業避止という条件を含めて当該雇用契約が締結

されたと評価することができるために

当該競業避止特約は雇用契約に付随しているということができる

このような ︵二二三二︶

(8)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四三同志社法学五八 場合には

当該雇用契約を支える約因

すなわち賃金等の労働条件が競業避止特約の約因を構成する

また

雇用契約の締結と競業避止特約が厳密な意味で一致しなくても

雇用契約締結時に特約の締結が予測できたときは

当該競業避 止特約は雇用契約に付随していると評価することができよう

交渉場合当該特約にわれていたの契約前

もは取扱

当該特約は雇用契約に付随するとする例が んだときで結を競業避止特約に一年経過後

では裁判例

23

がある

24

  以上に対して

雇用契約締結時に当事者が予測しない競業避止特約が

雇用契約締結後に取り交わされた場合については

当初の雇用契約を支える約因とは別個の約因に支えられた取引

関係が存在しなければならない

そうでなけれ 25

当該競業避止特約が有効な取引

関係に付随しているとはいえないからである

となるのでに問題に特が点という

がどのようなものか

約因

とされる必要場合この

なり異とは競業避止特約の時 雇用契約締結の上述

そのために

26

ある

そこで以下では

雇用契約締結時以後の競業避止特約に焦点を絞って

約因に関するアメリカの裁判例を展望することとする

27

  約因としての雇用継続   雇用契約締結後の競業避止特約の約因についてまず問題となるのは

雇用の継続自体が約因を構成するのか否かであ

アメリカでは随意的雇用の原則が採用されているために

雇用の存続自体が約因となりうるのである

  まず

五年間の期間雇用と二年の競業避止特約を締結する場合のように

競業避止特約の締結とともに雇用期間の定

めをしたときについては

当該

期間の定め

が約因になるとされる

これに対して

期間の定めのない雇用における雇用継続はどうであろうか

期間の定めのない雇用では

解雇の自由が使用者に担保されているという

いわゆる随意

的雇用の原則が働くために

単なる雇用継続が約因となるのかが問題となる

この点については

一方で

採用された

︵二二三三︶

(9)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四四同志社法学五八

数日後に締結した競業避止特約の事案について

随意的雇用のもとにおいては

毎日が使用者と労働者にとって新たな

雇用になるのであるから

その意味において雇用契約締結時の競業避止特約と異なるものではなく

特約締結の日を超えた雇用の継続は約因になるとする裁判例

コペコ事件

がある

しかしながら他方で

随意的雇用の下での雇用継続 28

何時でも

どのような理由によっても切断されるのであるから

雇用継続を約因とする約束は擬似約束

︵ illusory

promise

であるとの批判 29

い因競業避止特約の約とてしての合理的ある

受り

裁判例にはこがのような批判をあ 30

は実質的な期間の雇用継続を求めるものが多い

  たとえば

イリノイ州法を適用したカーティス一

〇〇〇

事件

では

随意的雇用のもとで採用され

二十四年間勤続し 31

てきた労働者に対して

採用後二週間後に締結した二年間の競業避止特約を強制した事案について

身分保障のあるような雇用契約を締結した後の競業避止特約と異なり

本件は随意的雇用の下での競業避止特約であるから

実質的な期

間にわたって雇用を継続してきたことは約因になるとされる

また

ニューヨーク州のゼルナー事件

す強制区分を請負関係と雇用関係においては本件事案

において事案したを競業避止特約して対に被告にある地位ての とし請負人

では 32

る実質的な理由はないとした上で

随意的雇用において使用者はどのような理由によっても労働者を解雇することが可能なところ

特約を締結した後ですぐに解雇権を行使せずに

解雇権の行使を控えて実質的な期間にわたって雇用を継

続することは

擬似的ではなく

約因になると説示される

  雇用継続以外の約因   一方

実質的期間の雇用継続であっても

随意的雇用の例外が認識され

理由のない解雇が制限されつつあること

33

あるいは

雇用継続を約因と認めることは

雇用関係における交渉力格差を看過してしまうとの観点から

雇用継続以 ︵二二三四︶

(10)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四五同志社法学五八 上の義務を約因とすべきとする裁判例も形成されている

たとえば

ミネソタ州のデイヴィス事件 34

っ強力格差に起因して締結が制交されるケースがあるのであ渉の業間後に取り交わした競避止特約については

労使 では雇用契約締結

35

そのような場合には使用者は自らの投資を保護するためではなく

単に労働者が転職することを防止するために競業避止特約が用いられる危険性があるとされる

そして

競業避止特約の約因については

事実関係にそくして多様な

側面を考慮する必要があるが

単なる雇用継続が約因と主張される場合は

強制による合意と判断されるだろう

と説示されるのである

また

同州のサンボーン事件

では

使用者と労働者との間には交渉力格差があるために

競業避止 36

特約が雇用契約に付随するものでないときには

﹂︑ ﹁

当該特約に独立の約因

が要求されるところ

それは雇用継続だけでは不十分であって

︑﹁

既に締結した雇用契約において労働者が獲得した利益を超える実質的な職業上

経済的利益

が必要であると判示される

37

  ここでいう

実質的な職業上

経済的利益

は多様なものを包含するが

たとえばノースカロライナ州のマーティン

ツ事件

な教育訓練機会の付与ど供が

約因の例として示る提れ

では

①地位の変更賃の金の上昇

②機密情報さ 38

賃金のドルの

〇〇〇

年間二

については上昇の賃金

変更地位の①

げると挙を裁判例いくつかの

それぞれについて

39

の上昇と期間の定めのない契約から期間雇用への変更を二年間にわたる競業避止特約の約因と認めたインサレイション

事件

歩合給ンランドリー

臨時社員からフルタイム社員への変更および事件の増加を約因としたモダ 40

昇進当該昇進事件としたヒートロン約因締結したことによって事業部門のリーダーにをしたと認定し

競業避止特約を

41

がある他

昇進 42

とそれに伴う年間四二

〇〇

ドルの賃金上昇

昇進と二年間の期間雇用契約 43

めな想定

最初の雇用契約の段階でされた付与範囲内であるとして

それらを約因と認はのと上昇の賃金う管理者責任

︑ ︒

とした例がある昇進逆になどをに伴約因 44

かった例

競業避止特提供するかわりに開示を機密情報や営業秘密

についてはの機密情報の②

また

けられる見受も 45

︵二二三五︶

(11)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四六同志社法学五八

約の締結を求めたカーティス事件

において

当該営業秘密および機密情報の開示が約因として認められている 46

もっと 47

①や②については一つの約因として示されるというよりは

むしろ賃金の上昇

地位の変更とともに

総合的に考慮されるケースが多い

教育訓練

〇 ︑

開示の機密情報

雇用継続わたるに年間一

では事件デイヴィス前掲

ばたとえ

48

の付与などが総合的に考慮されている

49

  保護すべき正当な使用者利益があること   かくして

契約法リステイトメント

第二版

一八七条が定める付随的ルールは

競争制限を唯一の目的とする特約

を排除し

当事者の交渉を促すという特約の正当性判断の第一の基準を形成するところ

雇用契約締結後の競業避止特約については

労使間の交渉力格差の観点から独立の約因を求めるものである

もっとも

以上はあくまで第一の基準

である

同リステイトメントは続く一八八条において

競業避止特約が使用者の正当な利益を保護するために

必要な範囲内の制限を課すものでなければならないという第二の基準を構成する

これは

競業避止特約が交渉力格差を背景

に締結されるだけでなく

労働者の雇用の自由を奪うことによって雇用の流動性を阻害し

経済の発展を妨げるという側面を有するゆえに他ならない

ここで同リステイトメントがいう正当な使用者利益がどのようなものかについては

各州によって異なるが

顧客確保

財産的情報の保護などによって構成されるケースが多い

50

  顧客の確保   使用者が築く顧客関係は

一方で法的に保護されるべき重要な財産に位置付けられるが

他方で

現代の企業組織に

あっては労働者の労務提供を通じて形成されるがゆえに

当該労働者が転職することによって

その顧客関係が使用者 ︵二二三六︶

(12)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四七同志社法学五八 から切断される可能性がある

とりわけ

当該企業の製品自体に特別な独自性がない場合には

労働者との関係を重要とする顧客が増加し

結果として使用者が顧客関係から切断される危険性が高くなる

使用者はこのような危険を回避 51

するために

労働者との間で顧客勧誘禁止特約を締結することができるものの

そのような顧客勧誘禁止特約においては

第一に違反の場合の損害の把握が容易でないことに加えて

第二に履行を強制することに大きな困難が伴う

もと

より顧客のほうから元の労働者に取引を持ちかけた場合には

使用者は顧客勧誘禁止特約によって当該労働者に取引の差止を求めることができない

しが提案を取引どちらが

あるほどばであれ頻繁取引との労働者と顧客の在職時

また

52

たのかを把捉することは難しいのである

53

  ここに

使用者が競業避止特約を利用して

労働者の競業自体を制限する正当性を見出すことができる

もちろん

競業避止特約には労働者に著しい不利益を課すとともに

競争および雇用の流動性を阻害する側面があることは既に述べたとおりであり

これを広く認めることは著しく妥当性を欠く結果を生み出す

かくして

どのような顧客関係を保

護すべきか

という点に関して一定の基準が構築されるところとなっている

  たとえばカンザス州では

いわゆるカスタマーコンタクトベイシス

︵ ” Customer Contact Basis ” ︶

アプローチが採用

されている

このカスタマーコンタクトベイシスとは

ブレイクによって打ち出された基準 54

であり

①労働者が顧客と 55

接する頻度

②顧客と接する場所

③労働者が顧客に提供するサービスの質によって

顧客が奪われる実質的な危険性が使用者にある場合に

競業避止特約の合理性を認めようとするものである

たとえばイースタン事件

では

アルコー 56

ル飲料の卸売業者に対するルート営業を行う販売員に対する競業差止の事案について

顧客関係は保護されるべき重要な使用者利益であるとされた上で

以上の三つの基準から特約の合理性が肯定されている

  ここで

まず①については

労働者が特定の顧客と接する機会が少ない場合や

たとえば不動産等のリピートが少な

︵二二三七︶

(13)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四八同志社法学五八

い商品を販売するときは

使用者が労働者の転職によって顧客を奪われる危険性は低いとするものである

この顧客と

の接触の頻度は

競業避止特約が正当化される期間に影響を及ぼす

つまり

頻度が少ないほど

競業禁止が求められる期間が長くなり

逆に頻度が多ければ多いほど

必要とされる禁止期間が短くなるという関係に立つ

次に

②につ

いては

使用者の事業場ではなくて

顧客を訪問して販売するときほど

顧客と労働者の関係が親密になるという観点から要求されるものであって

競業禁止の期間に影響を及ぼす①に対して②は競業禁止の地域と関わる

これは

顧客

への訪問によって関係が構築されている場合は

当該訪問地域のみでの競業を禁止すれば足りる

という意味である

最後に最も重要なファクターとして

③の労働者が提供するサービスの質

労働者に与えられた権限と責任等が考慮さ

れる

たとえば

広告会社の営業部長と日用品の販売員とでは

前者が長期にわたって顧客と密接に仕事を行う必要があるという意味において

顧客関係の形成において著しい違いが現れるのである

  一方

ミズーリ州ではカスタマーストック

︵ ” Customer Stock ” ︶

という用語を用いて

保護利益とそうでない利益との限界が画されている

特うあるいは事業の特定

つまり

顧客行を取引と使用者に定期的

カスタマーストックとは

57

定の販売員と取引を繰り返し行う者を指す

ミズーリ州では

このような者との関係を保護する目的においてのみ競業避止特約の合理性が認められるのである

たとえば

災害復旧事業を営む原告会社が競業差止を請求したスティーマテ

ィック事件

︒ ︑

客がリピートする可能性は低いとして特約の合理性が否定されている 関係当該顧

にありな災害後ではで意味けるという受のサービスを一度に一回的

は顧客と当該原告会社

58

  また

イリノイ州では

ニアーパーマネント

︵ ” Near -Permanent ” ︶

アプローチという

より詳細な判断基準が示されるに至っている

このニアーパーマネントアプローチは

アグリメリカ事件 59

で示されたものであり

次の二つの基準か 60

らなる

第一の基準は

①顧客の開発に要した年数

②顧客を獲得するために費やした費用

③顧客を獲得する難しさ

︵二二三八︶

(14)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 四九同志社法学五八 ④労働者による顧客に対する接触の程度

⑤使用者の顧客に対する知識

⑥顧客との関係が継続した期間

から判断される継続性

︵ Near -Permanent ︶

を当該顧客関係に要求するものであり

第二の基準は

労働者が

それらの顧客情報 を一般的に利用しうる情報から取得することができないものでなければならないことを求めるものである

第一の基準は

当該顧客関係が永続的なものであることや

継続性が個々の顧客について成立していることまで要請しないが

61

とえ使用者が一二年にわたって顧客関係の一部について継続していた場合であっても

イエローページなどで顧客の名前を知ることができ

競争的な市場のために顧客の一部が離れていくことがあった場合には

第二の基準が充たされず

当該顧客関係は保護利益とはならない

にのもある裁判例める認を継続性業柔軟から性質等 限事

らずされるとは必

から要素つの七の上記ずしも判断は基準の第一

また 62

63

  他方

以上と異なりユタ州では

労働者の労務提供が独特で特別な場合に

顧客関係を保護するという基準が採用されている

したが強制を競業避止特約して対に元労働者であった販売員

原告会社う行を販売事業の補聴器

ばたとえ

64

ロビンス事件

さ独自

当該労働者の労務提供が特別かつであるとはいえないことを理由に

原告会社の請求が否定はないのであって なるところ異きなと当該労働者は原告会社の営業について大責任ではを負うものではなく

他の販売員

65

れる

しかし

これとは逆に同州のシステムズコンセプト事件

では

有線テレビの器具製造を業とする原告会社が

66

際営業の管理職であった元労働者に対して二年間の競業差止を求めた事案について

国際営業の管理職たる当該労働者が

原告会社の顧客

製品

販売方法に通じており

国際営業管理職としての当該労働者の名前

役割と原告会社の製

品が密接に関わっていることにかんがみれば

当該労働者の労務提供は他の労働者と比して特別かつ独特

︵ special and

unique ︶

であるとされ

競業差止の請求が容認されている

︵二二三九︶

(15)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五〇同志社法学五八

  財産的情報の保護   このように各州によって判断枠組みの差異が見受けられるものの

顧客関係を保護すべき使用者利益に含めることは

一部を除く州

保のを財産的情報

い伴に情報化経済社会

で一方しかし

められるところとなっている認において 67

護するための手段としての競業避止特約が次第に重要な位置を占めてきている

他方で

顧客関係についても

顧客情報という財産的情報の保護を通じて争われるケースが多いとされ

顧客情報の保護が営業秘密訴訟における最も典型的

な形態であるといわれる

かくして

どのような財産的情報が競業避止特約によって保護されるべき使用者利益となるのか

という課題に取り組むことが強く要請されているのである

  さて

ここでも顧客関係の場合と同じように

どのような基準で正当利益を判断するのかが問題となるが

これをいっそう具体的に敷衍すると

財産的情報を保護するために競業避止特約を設定する際には

第一に

財産的情報を保護

するためには秘密保持特約を締結すれば足りることがあるところ

どのような場合に統一営業秘密法あるいは秘密保持特約では不十分で競業避止特約が必要となるのかという点がまず問題となる

そして

さらに第二に

ある財産的情報

を①統一営業秘密法上の営業秘密②当該産業において広く知られている一般的知識と見られる情報③いずれにも該当しない機密情報の三つの概念に分類した場合に

①から③の情報保護が全て使用者利益となるのか

あるいは①から③の

うち保護されないものはあるのか

という点が問題となるのである

  秘密保持特約との限界   財産的情報を保護するために競業避止特約の効力について検討する際にまず問われるべきは

秘密保持特約あるいは

統一営業秘密法によって財産的情報を保護することが可能な場合は競業避止特約が正当化されないのではないか

とい ︵二二四〇︶

(16)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五一同志社法学五八 うものであろう

これは

たとえば

コンピューターソフトウェアを開発する原告会社が退職後の労働者に対して

二年間にわたる地域的に広範囲な競業避止特約の履行強制を請求したジョージア州のソフトウェア事件

において

︑﹁

上告 68

人は確かにコンピューターソフトウェアを開発する上で活用される営業秘密を保護する利益を有しているが

その利益は別に締結されている秘密保持特約によって守られるべきである

から

当該競業避止特約には合理性がないと判示さ

れる

さらに

営業秘密についてはミズーリ州法を適用し

競業避止特約についてはイリノイ州法を適用したモリス事件

うして対に労働者した転職に競争会社

が原告会社行を研究事業

開発の設備する使用において微生物実験

では 69

営業秘密の使用

開示の差止と競業避止特約に基づく競業差止を求めた事案につき

営業秘密の使用

開示の差止を是認する一方で

当該労働者は営業秘密の使用

開示を伴うことなく競業会社で働くことができるのであるから

︑﹁

当該

営業秘密の使用

開示差止をして十分な救済が付与されている

のであって

営業秘密の保護を目的とする競業避止特約の合理性を容認することはできない

と説示されているのである

70

  では

どのような場合であれば

競業避止特約によって財産的情報を保護することができるのであろうか

この問題については

フィットネス産業で用いられる機械の製造販売を業とする原告会社が

競争会社に転職した被告に対して 競業避止特約に基づく差止を請求したニューヨーク州のルメックス事件

で次のように判示される

すなわち

①原告会 71

社と労働者の転職先はフィットネス産業という複製産業において競争関係にあるために

②両社の競争関係にあっては新製品の発表の時期が重要な要素を占め

③さらに被告である当該労働者は原告会社において実質的にあらゆる部門と

交流があったことに加え

広範囲の義務を負っており

④そのために

被告が得た原告会社の機密情報を使用

開示して

競争会社の製品を改良し

転職先会社の業績を向上させることが可能であることから

⑤被告である労働者が転職

先会社で原告会社の機密情報を開示することは不可避である

︵二二四一︶

(17)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五二同志社法学五八

  以上の裁判例は

財産的情報が不可避に開示されるときに

競業避止特約の合理性を認めるという枠組みを適用した

ものであって

本稿の主たる検討課題である不可避的開示論が適用される一つの局面である

もっとも

このような枠組みが財産的情報を保護する全ての競業避止特約に適用されているわけではないし

その適用には統一営業秘密法の不

可避的開示論との整合性をも考慮に入れる必要がある

そこで

この競業避止特約における不可避的開示論については

章を代えて詳しく考察することとしたい

保護すべき財産的情報の範囲

  次にわれわれが問うのは

どのような範囲の財産的情報が競業避止特約によって保護されるべきか

という問題である

これについては上述のように

ある財産的情報を①統一営業秘密法上の営業秘密②当該産業において広く知られて

いる一般的知識と見られる情報③いずれにも該当しない機密情報の三つの概念に分類して検討することが有益である

ただし

ここでまず指摘しなければならないのは

②の一般的知識の利用を規制することは

使用者の情報生産のイン

センティブを確保するという観点から正当化されず

逆に雇用の流動性を阻害し

不当な競争制限となるものであって

法的保護の対象とならないという点である

72

  かくして

ここで問題となるのは

第一に営業秘密の要件を充足しない③の財産的情報が

保護されるべき正当な利益といえるのか否か

第二に

保護されるべきであるとすれば②一般的知識と③機密情報をどのように区別するのか

というものである

そして

これについては

使用者利益を①のみに限定する裁判例がある一方で

③をも正当な保護利益に含める裁判例も存在しており

対照的な現象が見受けられるのである

73

  たとえば

ニューヨーク州のアースウェブ事件

は判示は

営業秘密に該当しない機密情報し保護利益に含まれないと 74 ︵二二四二︶

(18)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五三同志社法学五八 ている

同事件は

競業避止特約における使用者利益として経営計画

ライセンス契約

将来的な買収に関する情報

広告

技術的な情報について

不法行為法リステイトメント

第一版

上の営業秘密に当たるのか否かが問題となった

ところ

裁判所は

当該財産的情報は不法行為法リステイトメント

第一版

の営業秘密ではないとして

競業避止特約の合理性を否定する判断を下した

  これと対比的に

ソフトウェアアーティザンス事件

のコンピュータープ営

コンピューター関連の事業をむ同事件原告会社が

被告による同社保有は

示あることをした についてもはが場合される保護機密情報しない該当に営業秘密

75

ログラムの使用について統一営業秘密法を採択するヴァージニア州法における営業秘密の濫用に該当すること

および被告に対する当該営業秘密を保護するための一二ヶ月間の競業避止特約の効力が争われた事案である

裁判所は

原告

会社が保有するコンピュータープログラムは

非公知性から発生する独立の経済的価値が存在しないことから

ヴァージニア州法が規定する営業秘密には当たらないが

他方で

競業避止特約については

被告が当該コンピュータープロ

グラムを含めた機密情報等に通じていることを理由として

合理性を容認するのである

  では

なぜこのように営業秘密に該当しない機密情報が保護利益として把握されるのか

上記のソフトウェアアーテ ィザンス事件は特にその理由を示していないが

たとえばミネソタ州のモダンコントロール事件

︑﹁

競業避止特約の 76

強制に営業秘密が存在することの証明を要求することは

当該特約の存在意義を希薄化させてしまう

ためであると

説示している

また

マサチューセッツ州のバード事件

ともてっあでのもいなきではこう言と密秘業営はに密厳

77

原告会社が時間と費用を掛けて創出した機密情報は保護に値すると判示している

これに加えて学説では

①使用者が統一営業秘密法の営業秘密の要件を充たすためには訴訟において全ての営業秘密を開示することが要求されるところ

そのような開示を行わなくとも一定の秘密性があれば保護する必要があること

②営業秘密の定義には統一営業秘密法 78

︵二二四三︶

(19)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五四同志社法学五八

と不法行為法リステイトメント

第一版

があるだけでなく

その解釈

運用が州に委ねられていることから

営業秘

密の判断が不確実であること

が指摘されている

79

  ただし

営業秘密に該当しない③を保護利益に包含する場合

第二の問題として

保護されるべき機密情報と

保護

されるべきではない一般的情報をどのように区別するのかが問われることになろう

営業秘密が統一営業秘密法あるいは不法行為法リステイトメント

第一版

によって明確に定義されているのに対して

③の機密情報は厳密には定義さ

れていないために

②の労働者の一般的知識との限界が問題となるのである

ーク件事スクッメルの州 ニューヨ

ばたとえ

については点この

80

機さ情報との基準が示れいている

さらに

︑ ﹂

な競い

︑﹁

機密情報とは争で会社に知られては 81

密情報とは統一営業秘密法の基準が緩やかに適用された情報である

との見解

機密ノウハウをが当該訓練自体

ではなく一般的が当該訓練

については場合したような教育訓練

機密情報して対に 労働者が使用者

また

けられる見受も 82

情報を構成するような特別なものに限って保護されるとの枠組みが示されている

に示

のように事件ウェアアーティザンスすことなく競業避止特約をの合理性を導く傾向にある基準 ソフト前掲

くは多の裁判例

ただ

83

84

  使用者利益を保護するために必要な

合理的

範囲であること   以上において

競業避止特約によって保護されるべき二つの使用者利益の内容を概観した

その一つは顧客関係であって

一定の継続的な関係が形成されている顧客

あるいは労働者の独特な労務提供によって構築された顧客について

は保護される場合があることが示唆された

もう一つは財産的情報であり

当該財産的情報が競業によって不可避に開示される場合には

競業避止特約による保護が必要不可欠であることを見た

さらに

財産的情報の保護範囲について

の裁判例の状況を見たところ

その判断基準に関して不確実性が生じていることを確認した

︵二二四四︶

(20)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五五同志社法学五八   次に

問題となるのは

このような使用者利益を保護するためにはいかなる範囲の競業規制が必要か

というものである

契約法リステイトメント

第二版

によれば

正当な利益を保護するために必要な範囲を超える競業避止特約は

合理性を欠くとしてその効力が否定されるのであって

その範囲は

競業規制に関する期間

地域という二つの側面から判断されるのである

85

  もちろんこの問いは

問題となっている使用者利益の性質との相関関係によって判断されるべきであり

その結果

当該競業避止特約が顧客関係と財産的情報のどちらを保護するのかに応じて結論に差異が生まれる

たとえば

顧客関

係を保護するためには地域的な限定が大きな意味を持つが

財産的情報の場合には

特に重要な意味を持たない可能性がある

さらには

仮に地域的限定が意味を持つとしても

それは禁止期間との関係においても相関的に判断されなけ

ればならない

また

合理的な期間や地域的範囲を判断するには

労働者の仕事の性質

使用者の事業の性質なども考慮される必要があろう

このように

競業規制の合理的な範囲については

事実関係にそくして多様な要素を勘案せざ

るを得ないのであって

一様な判断基準を示すことには困難が伴うのである

そこで以下では

上に述べたことを前提に

差し当たり

顧客関係と財産的情報の保護に区分して

期間の限定

地域の限定に関する裁判例の状況を簡単に敷

衍することとする

  期間の限定   競業禁止期間に関して一定の基準を示す裁判例を挙げれば

顧客関係については

︑﹁

顧客から使用者と労働者の関係を消去するために必要とされる期間

﹂︑ ﹁

仕事を学ばせて労働者を置き換えるために必要とされる期間

と判示するもの

86

が見受けられる

また

財産的情報の保護の場合には

︑﹁

労働者が当該財産的情報を独立に開発するために必要な期間

87

︵二二四五︶

(21)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五六同志社法学五八

とする裁判例がある

後者の財産的情報に関する基準については

統一営業秘密法における差止期間の判断基準である

ヘッドスタートルールと平仄を合わせるものであろう

ただし

秘密保持特約によって財産的情報を保護する場合には

期間の限定が求められない場合があることに留意が必要である

88

  実際に裁判例で認められた期間については

たとえばカンザス州では

一年未満である場合は合理性ありとされるケースが多いとされる

どの程度の期間であれば合理性が認められるのかはケースバイケースである 89

仮に競業禁止の 90

期間が一年であっても

︑﹁ I T

産業では環境変化が急速であるから

合理性は認められない

する

︒ ﹂

と説示する裁判例も存在 91

  地域の限定   次に

顧客関係を保護する競業避止特約の地域的な範囲については

当該労働者が雇用期間中に顧客と接点を有していたところに限定される場合に合理性が認められる

この点については

アレン事件

において

︑﹁

使用者の顧客関係が 92

影響を受けるのは

一定の地域における当該労働者による顧客との接触であるために

地域的範囲は当該労働者が顧客と接点を持っていた場所に限定されなければならない

と説示される

逆に言えば

広範囲に及ぶ地域について顧客と

の接点があれば

地域的範囲が広い競業避止特約の合理性が認められるのである

たとえば

オーケストラ指揮者や音楽教師を対象とした雑誌を販売する原告会社が元労働者に対して二年間の競業避止特約の強制を請求したバンド事件

93

当該労働者がアメリカ全土において四

から五

社の広告会社について独占的な接触を持っていたことを理由に

特約が有効とされた

  以上に対して

財産的情報を保護するための競業避止特約については

もとより広範囲な競業禁止が容認されよう

︵二二四六︶

(22)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五七同志社法学五八 このような広範囲の競業禁止が求められるのは

財産的情報の利用は顧客関係と異なり

時間的コストを伴うことなく移動させることができるゆえに他ならない

特約の強制を求める企業が国際的あるいは国内における広範囲な地域で事 業を行っている場合には

場所的制約なしに当該情報が利用されるのである

たとえば

キンスレー事件

ヨーロして

ダカナ

するためにアメリカ保護を機密情報や営業秘密の原告対に技術者する従事に製造

製品開発の社 原告会

では 94

ッパ

日本という広範囲にわたる競業避止特約の履行を求めたところ

原告会社はそれらの地域において受け入れられる製品開発を行っているのであるから

不合理とはいえない旨の判断が示されている

  労働者に不当な不利益を課さないこと

賃金補償条項

  以上のような

利益保護に必要な範囲

という観点に加えて

労働者に不当な不利益を課すものではないかという

いわば労働者側の観点からも

競業避止特約の合理的範囲に対する審査は行われる

ゴールデンシールド事件

では

95

レビ

冷蔵庫等の家庭用品を販売する原告会社が

経理

販売担当の管理職であった被告に対して退職後一年間の競業避止特約に基づく請求を行った事案について

被告が有する能力は

その職を奪われれば

生活できないような狭い領

域の職人や専門家のものではなく

他の領域でも有用であるとされて

当該特約の合理性が是認される

逆に

ブレイ

カー事件

職つ働労該当

︑﹁

きにの案事ため求を行者キのらるれらみと当相かャ等景背の等アリ履約二すを年間禁止る競業避止特 を原告会社む営

事業ガス

石油元管理職があらゆるガスであった労働者に対してでは

石油会社での競業

96

業へ就くことを禁止することは

彼自身とその家族に対して大きな打撃を与える

のであって

むしろ営業秘密等の保護が問題となっている本件においては

︑﹁

当該営業秘密の使用

開示を差し止める

ことが妥当であると説示される

このように新たな仕事を模索することが極めて困難な状況に陥る場合は

当該特約の合理性が否定されるのである

︵二二四七︶

(23)

営業秘密保護と退職後の競業規制︵二︶ 五八同志社法学五八

  ところで

この労働者に対する不利益性の審査については

競業禁止期間の賃金を支払うことを条件に

競業避止特 約の合理性を認めるという潮流が近年の裁判例に見受けられるところとなっている

たとえば

コネチカット州のミネソタマイニング事件

は生活当該特約

ばえることができないものであるなら支をが家族とその労働者が当該特約

では 97

合理性を欠くという一般論を前提に

︑﹁

当該労働者が単に競業避止特約を締結していることを理由に

その教育と能力に見合った仕事に就くことがでないときに

原告会社が二年間の競業禁止期間に応じた賃金を支払う

という条項が重

視されて

当該特約の合理性が認められている

さらに

ニューヨーク州のモルトヴィー事件

事件

それに続くルメックス 98

ら業ことを条件として

競避け止特約の合理性が認める続いけ

︑﹁

競業禁止期間につてで当該労働者が賃金を受は 99

れる

と判示される

以上を受けて

同州のパリベロ事件

なら労働者かどうかを判断するには

使用者の正当な利益保護との生計の維持を脅かす可能性を比較しなければ合理的 が約止特

三ヶ月間の競業避特で約について

︑﹁

競業避止は 100

ない

と説示され

退職後三ヶ月間の賃金を補償する当該特約は

労働者の生計を脅かすものではないと結論付けられるのである

  他方で

このような賃金補償は

当事者の交渉の保証という観点から求められている約因の一形態であると把握することもできよう

かかる視点から賃金補償条項を捉えた裁判例であるニュージャージー州のキャンベルスープ事件

101

同州においては随意的雇用における雇用継続が約因として認められるところ

当該労働者はストックオプションのほかに

︑﹁

競業が禁止されている間についての賃金を補償するというセーフティーネット条項

が存在するのであるか

十分な約因が存在するとされる

このように

賃金補償条項の存在をもって十分な約因が存在すると理解することができるが

ここでは

競業避止特約において求められる約因と賃金補償条項は

別個の根拠に基づくものと解したい

なぜなら

賃金補償条項は当事者交渉の保証に軸足を置く約因から離陸して

労働者の生活保障に重点を移すものであ ︵二二四八︶

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