1 都市化の進展と交通の効率性
20世紀後半においては,所得の上昇と自動車の普及による分散的都市化の 進展が世界の都市化に共通してみられる現象となっている.すなわち,自動 車の普及に合わせて分散的な都市化が進み,低密度な郊外をもつ都市構造へ と変化する傾向が支配的である.都市化が一層進んだ国や地域では,都市の 空間構造は,都市経済学の基礎的なモデルが想定する唯一の中心都市をもつ 単一中心構造から,既存の中心都市と郊外の複数のサブセンターを中心とし てもつ多核心型構造へと変化しつつある.さらに,このような都市空間の変 化に伴い,自動車の所有と利用が大きく増加していることも共通の特徴であ る1).
自動車の普及を背景とした分散的都市化の進展による自動車依存型の都市 空間の形成はアメリカにおいて最も顕著であるが,程度に差はあるものの,
他の国々においても認められる.その結果,鉄道に代表される公共の大量輸 送手段による交通サービスの費用上昇と利便性の低下がもたらされ,自家用 車への依存がさらに高まることになる2).
ところで,分散的な都市化の進展が都市交通に与える影響に関しては,低 密度な都市空間の形成が自動車交通への依存を高めるため,環境やエネルギー
【論 説】
都市化の進展と鉄道需要
徳 岡 一 幸
1 )ECMT(1995), Pucher and Lefevre(1996), Ingram(1998)を参照.
2)Ingram(1998)による.
消費の面から非効率な交通パターンをもたらすという主張と,人口に続く雇 用の分散化により通勤トリップの短縮と都心の混雑緩和がもたらされ,むし ろ効率的な交通パターンが実現するという主張の対立がみられた.
前者の主張は,世界の32都市を対象に自動車によるガソリン消費と都市構 造の関係を分析して人口密度とガソリン消費量の間に負の相関があることを 明らかにしたNewman and Kenworthy(1989)の研究に代表される.彼らの研 究は,自動車を基礎にした都市が環境的,社会的,そして,経済的にもコン トロールできなくなりつつあるという認識に動機付けられている3).彼らの 主張に従うなら,深刻な自動車交通問題の解決には,市場メカニズムを通し た政策が行われない限り,公共交通や徒歩・自転車の利用に適した高密度で コンパクトな都市空間を計画的に形成することが有効であり,都市計画の役 割を重視する立場が支持される.
後者の,分散化が通勤交通の効率化をもたらすという主張は,Newman and
Kenworthyの主張を厳しく批判するGordonらに代表されるであろう4).彼
らは,人口と雇用の分散は,中心都市の混雑を緩和するとともに,居住地 と職場の近接立地を実現して通勤トリップの短縮(通勤の経済性(commuting
economies))をもたらすと主張する.さらに,交通混雑が悪化するにもかかわ
らず通勤時間が変化しないか,あるいは短縮しているという 「 通勤のパラドッ クス 」 に着目して,それは混雑による費用の増大を避けるための立地調整の 結果であり,郊外化は住居や職場の変更,企業の立地変更,通勤ルートの変 更をとおして通勤の経済を実現する機会を提供するものであると評価する5).
Gordonらの主張の背景には,分散化による低密度な郊外の形成自体が住
民の選好を反映した自由な意思決定に基づくものであり,市場メカニズム
3)Newman and Kenworthy(1992)による.
4 )GordonらによるNewman and Kenworthy(1989)に対する批判については,Grodon and Richardson (1989)を参照.
5 )Gordon らの分析の具体的な内容については,Gordon, Kumar and Richardson(1989),Gordon,
Richardson and Jun(1991)を参照.
による合理的な結果であるという認識がある6).したがって,Newman and
Kenworthyが主張する計画的なコンパクトシティの形成は市場の働きを妨げ
るとして否定的である.市場の失敗をもたらす外部性の存在には,混雑料金 のような価格メカニズムをとおして対応することを重視する.
日本においても,戦後の高度経済成長の過程で3大都市を中心に都市への 人口集中と郊外化の進展がみられた.ただし,日本では大都市を中心に世界 でも例をみない私鉄のネットワークが整備されており,これらを中心とする 鉄道の輸送力に支えられて郊外化が進んだとされる7).日本の大都市圏は,
アメリカと比較すれば,とくに雇用に関して中心都市への集中度が相対的に 高く,郊外も鉄道沿線を中心に高密度な空間を形成している.その意味では,
日本は都市化の過程において,Newman and Kenworthyらが目標にする高密度 でコンパクトな都市空間に近い空間を形成してきたといえる.
しかし,高密度な鉄道ネットワークが大都市圏の郊外化を誘導する力も弱 まっている.そして,自動車の普及に伴い,鉄道が支えた郊外化自体が結果 として鉄道に対して厳しい経営環境をもたらしつつある.すなわち,郊外の 多核心化と低密度化により交通パターンが多様化して自家用車利用の増加が 続き,鉄道は旅客需要の低迷や減少による事業採算の悪化に直面しているの である.一方では,このような厳しい状況にもかかわらず,混雑緩和,高速化,
安全確保,バリア・フリー化等のサービス水準の改善が求められている.
本稿の目的は,日本における都市化の進展と鉄道の関係を踏まえて,現在 の鉄道需要と沿線の空間構造特性との間の関係について分析を行い,都市化 の進展による都市の空間構造の変化が今後の鉄道需要に与える影響について 示唆を得ることである.なお,分析対象はJRを除く旅客鉄道,いわゆる民鉄 とし,2000年度の鉄道事業者の事業実績に基づくクロスセクション分析を行 う.次節では鉄道事業の現状を,第3節では鉄道と都市化の関係について概 観する.第4節では民鉄沿線の空間特性を明らかにし,第5節で民鉄の旅客
6)Gordon and Richardson(1989),(1997)を参照.
7)斎藤(1993)による.
需要関数の推定を行い,沿線の空間構造が旅客需要に与える影響について検 証する.最後に,まとめと日本の都市交通政策上の課題を述べる.
2 鉄道輸送の現状
『鉄道輸送統計年報』(政府資料等普及調査会発行)は,日本のJR以外の鉄道 事業者を民鉄と呼び,機能別に大都市高速鉄道,地下鉄,路面電車,地方旅 客鉄道,観光鉄道,貨物鉄道に分類する8).大都市高速鉄道は 「 大都市通勤 圏において,旅客の輸送を主として行い,最混雑区間が複線以上となってい る鉄道線及びこれに接続する同一経営の地域輸送を行う観光鉄道以外の鉄道 線 」 である.ただし,大都市通勤圏は首都,京阪神,中京,札幌,北九州,
福岡の各交通圏を指し,大手私鉄15社と一部の中小私鉄等が含まれる.地方 鉄道は 「 旅客の地域輸送を主として行う鉄道線で,大都市高速鉄道及び観光 鉄道以外のもの 」 と定義される.なお,大都市通勤圏内に路線を持つ事業者 であっても,規模と規格が一定の条件を満たさない場合は地方旅客鉄道に分 類されている.
JRと民鉄を含む交通手段別の旅客輸送人員の長期動向をみると,第 1 図の ようになる.日本においても,モータリゼーションの進展に伴い自家用乗用 車の輸送人員が1960年代の後半以降大きく増加し,1980年には鉄道の輸送 人員を上回ることになった.1960年と2000年の実績を比較すると,輸送人 員合計は40年間で3.3倍になったが,自家用乗用車では90倍にもなっている.
それに対して,民鉄は1.8倍,JRは1.7倍にとどまり,輸送人員全体の伸び にも及ばない.もう一つの代表的な公共交通手段である営業用バスの輸送人 員は1970年を境に漸減を続け,2000年には60年の8割の水準にまで低下し ている.民鉄も1990年代は漸減か横ばいの状態で推移しており,自家用乗用 車の増加傾向と対照的である.このように,民鉄を含む公共交通は自家用車 との競争のなかで,輸送実績でみるかぎりは厳しい状況にあるといえる.
8)地下鉄は大都市高速鉄道の内分類である.
以上のような鉄道旅客輸送の長期的動向を踏まえ,民鉄輸送の現状をみて おこう.2000年度の『鉄道輸送統計年報』により民鉄事業者を経営する路線 の機能別に分類すると,第 1 表にあるように,地下鉄以外の大都市高速鉄道 が36,地下鉄が10,路面電車が18,地方旅客鉄道が90で,延べ154事業者 になる9).これらの鉄道事業者全体の営業路線キロや輸送実績をJR旅客6社
事業者数 年度末営業 キロ(km)
輸送人員 計(百万人)
輸送人キロ 計(百万人 キロ)
旅客運輸 収入計
(百万円)
大都市高速鉄道 36 3215.6 8,234 107,314 1,329,217
地下鉄 10 650.1 4,656 32,467 686,181
路面電車 18 231.5 201 634 24,463
地方旅客鉄道 90 3234.1 332 3,138 75,949
合計 154 7331.3 13,423 143,553 2,115,810
JR旅客 6 20051.1 8,654 240,659 3,715,365
資料出所:『平成12年度鉄道統計年報』(政府資料等普及調査会,2002年)による.
第 1 表 民鉄とJRの旅客輸送実績(2000年度)
資料出所:『交通経済統計要覧平成16年版』(運輸政策研究機構,2005年)による.
第 1 図 輸送手段別の国内旅客輸送人員の推移
年
の合計と比較すると,営業路線キロはJRグループの3分の1程度であるが,
年間の輸送人員は1.5倍になり,民鉄が鉄道旅客輸送において大きな役割を 担っていることがわかる.
輸送人員と旅客運輸収入の旅客種類別の割合を比較すると,第 2 図と第 3 図のようになる.大都市高速鉄道は通勤定期旅客が44%余りで,通学定期旅 客と合わせると60%以上を定期旅客が占める.このような構成はJRグルー プとほぼ同じである.地下鉄も同様の構成を示すが,通学定期旅客の割合が 小さい.地方旅客鉄道は,大都市高速鉄道やJRと比較すると,通学定期旅客 の割合が最大になる一方で,通勤定期旅客の割合は大都市高速鉄道の約半分 程度である.そして,定期と定期外が半数ずつという構成になる.路面電車
9 )同一事業者が機能の異なる路線を経営する場合は路線機能ごとに事業者数を計上している.た だし,ここでは西武鉄道は観光鉄道である山口線を含む全線を,南海電気鉄道は地方旅客鉄道線 の貴志川線を含む普通鉄道線全線を大都市高速鉄道に計上した.なお,路面電車には2000年11 月に筑豊電気鉄道に営業譲渡された西日本鉄道の北九州市内軌道線は含まれない.また,南部縦 貫鉄道,黒部峡谷鉄道,名古屋ガイドハイウェイバス,嵯峨野観光鉄道は地方旅客鉄道であるが 本稿では対象外とした.さらに,第3種鉄道事業のみを営む事業者も除外されている.
資料出所:『平成12年度鉄道統計年報』(政府資料等普及調査会,2002年)による.
第 2 図 輸送人員の旅客種類別構成
は定期外旅客が約4分の3を占めており,他の鉄道とは旅客構成において大 きく異なる.地下鉄を含む大都市高速鉄道とJRが通勤交通の主要な担い手と して,地方旅客鉄道が通学交通の主要な担い手として機能していることを窺 わせる.
旅客運輸収入の構成をみると,いずれの事業者も定期外旅客収入の割合が
50%を超えて最も大きくなっている.JRグループと路面電車では,この割合
が80%に達する.いずれの鉄道も通学定期収入の割合が最も小さいが,地方
鉄道では14.7%になり,他の事業者と比べると3倍前後の割合を占めている
ことが注目される.大都市高速鉄道やJRは,輸送人員では定期旅客のウエイ トが大きいものの,収入面では定期外旅客の動向に大きく依存していること になる.路面電車や地方旅客鉄道ではこの傾向がさらに大きくなる.交通目 的の上では自由目的が多いと考えられる定期外旅客の獲得をめぐっては,自 家用車との競争がより激しいといえる.自家用車利用者が増加するなかで鉄 道旅客が伸び悩んでいることの一因が定期外旅客の自家用車への転換にある
資料出所:『平成12年度鉄道統計年報』(政府資料等普及調査会,2002年)による.
第 3 図 旅客運輸収入の旅客種類別構成
とするなら,上述のような運輸収入の構成上の特性からみて,自家用車利用 者の増加は輸送人員の減少に現われる以上の影響を鉄道事業の採算に対して 与えていることが示唆される.
第 2 表は鉄道事業者の輸送特性をみたものである.ここで,輸送密度は1 日1キロ当輸送人員(輸送人キロ/延日キロ),1人当平均輸送距離は輸送人キ ロ/輸送人員である.また,1人キロ当平均収入は旅客運輸収入/輸送人キロ で,1人キロ当りの平均運賃とみなすことができる.営業収支率は(鉄道営業 費用/鉄道営業収益)×100である10).営業収支率をみると,減価償却費を除 いた場合は路面電車以外が,それを含めた場合は路面電車と地方旅客鉄道以 外が全体としては鉄道事業において営業黒字を確保していることになる.
輸送密度を比較すると,大都市高速鉄道と地下鉄が極めて高密度な輸送を 行っていることがわかる.鉄道事業は規模の経済という費用特性を有し,運 賃水準は総括原価に基づいて決められている.このような特性のもとで,大 都市高速鉄道は輸送密度で表されるような大量輸送に支えられ,低運賃と営 業黒字を実現している.一方,地方旅客鉄道は輸送密度が極めて低く,高運
10 )ここでの鉄道営業費用は営業費用合計(人件費+経費)と減価償却費のみを対象にしている.また,
鉄道営業収益は,第1表の旅客運輸収入に貨物収入,鉄道線路収入,運輸雑収を加えたものである.
輸送密度
(人)
1人当平均輸送距離(km) 1人キロ当 平均収入
(円/人キロ)
営業収支率(%)
通勤定期 通学定期 定期外 合計 減価償却 費を除く
減価償却 費を含む 大都市高速鉄道 91,595 13.35 14.28 12.12 13.03 12.39 60.8 78.8
地下鉄 141,605 7.95 7.85 5.82 6.97 21.13 63.6 95.1
路面電車 7,502 3.46 4.13 2.95 3.15 38.59 101.9 116.4
地方旅客鉄道 2,659 8.10 9.99 9.79 9.45 24.20 87.2 101.0
合計 53,859 11.28 12.59 9.43 10.69 14.74 63.2 85.5
JR旅客 32,948 19.94 19.92 40.92 27.81 15.44 67.4 82.4
資料出所:『平成12年度鉄道統計年報』(政府資料等普及調査会,2002年)による.
第 2 表 民鉄とJRの輸送特性と営業収支(2000年度)
賃と厳しい事業採算に直面していることがわかる.
正司(2001)は,都市鉄道の分野において独立採算制のもとで民有民営の会 社が鉄道事業を運営できているのは日本のみであるとするが,その背景とし て大量高密輸送市場という,鉄道にとって恵まれた環境の存在を指摘してい る.同時に,地方旅客鉄道を担う中小私鉄は,このような環境には恵まれな いものの,輸送密度が4000人未満であっても経営努力により営業黒字を確保 している事業者が存在することにも注目する.地方旅客鉄道が,市場条件が 不利であるにもかかわらず,全体としては独立採算原則のもとで償却前の営 業収支で黒字を確保しているという実態は日本の民鉄経営の特徴を端的に表 しており,効率的な交通システムのあり方を考える上でも着目されるべきで あろう.
さらに,第2表の平均輸送距離から,民鉄はJRに比べて相対的に短距離の 輸送を主として担っていることがわかる.斎藤(1991)は,日常生活圏の範囲 内で行われる交通や輸送について成立する市場を地域交通市場と定義し,そ の基本特性として①平均輸送距離が短い,②規則性が高い,③私的交通手段 への依存度が高い,という3点をあげる.第2表の平均輸送距離,第2図の 規則性をもつ定期旅客割合の大きさからみて,民鉄が地域交通市場における 交通サービスの供給者であることは明らかである.
平均輸送距離を旅客種類別にみると,JRの定期外旅客の平均輸送距離は,
その全国的な路線ネットワークのもとで長距離輸送を併せて担っていること を反映して,定期旅客に比べて2倍以上になる.しかし,地方旅客鉄道以外 の民鉄では,定期外旅客の平均輸送距離は定期旅客よりも短い.民鉄の中には,
とくに大手の事業者のなかに広域的な路線網を有する事業者も存在するもの の11),長距離輸送のウエイトは極めて小さいといえる.また,定期旅客の平 均輸送距離が定期外旅客を上回ることは,都市化の進展による郊外の形成が 広範囲に及び,長距離の通勤通学を強いられる住民が多いことを反映してい
11 )斎藤(1993)は大手民鉄を,広域鉄道網を営む事業者,大都市輸送特化型事業者,中間型事業 者に区分し,広域鉄道網を営む事業者は大都市輸送に加えて都市間輸送も行うとしている.
るといえるであろう.
そのなかで,地下鉄とJR以外の鉄道では通学定期旅客の平均輸送距離が通 勤定期旅客よりも長いことが注目される.鉄道利用の通学者の多くは高校・
大学生と考えられるが,彼らの通学先が居住地から遠く離れていることは,
通学者が利用交通手段の選択において制約を受ける移動制約者であることを 考慮するなら,留意すべき問題点であるといえる.
いずれにせよ,地域交通市場が日常生活圏の範囲で定義されることは,地 域交通市場の空間的範囲が都市圏という単位で把握されることを意味する.
したがって,民鉄は都市圏内の交通サービスの供給を担い,JRは都市圏内お よび都市圏間の長距離交通サービスの供給を担っていることになる.以下で は,日常生活圏を都市圏として捉え,鉄道と都市化の進展の関係について概 観する.
3 鉄道と都市化の進展
日本では,都市圏に関してアメリカの 「Metropolitan Area」 に対応するよう な公式の定義は存在しないが,いくつかの都市圏の設定基準が提案されてい る.その一つに,2001年に東京大学の金本良嗣教授によって提案された 「 都 市雇用圏(Urban Employment Area (UEA))」 がある.
UEAは都市と呼ぶにふさわしい人口集積を有する空間を中心都市とする 圏域として定義される.UEAを設定する基本単位は市町村であり,中心都 市として必要な人口集積はそのDID人口によって決められ,郊外は中心都 市への流出就業者比率(通勤率)によって決められる.そして,中心都市の DID人口の規模が5万人以上のUEAは大都市雇用圏(Metropolitan Employment Area(MEA)),1万 人 以 上5万 人 未 満 のUEAは 小 都 市 雇 用 圏(Micropolitan
Employment Area (McEA))と呼ばれる.UEAの特徴は,分散的都市化の進展に
ともない人口や企業が分散して多核的な都市空間の形成が進み,それによっ て通勤流動のパターンも多様化している状況を反映できるように,複数の中
心都市の存在を認めるとともに,郊外については中心都市と直接結び付けら れる1次郊外と,1次郊外の市町村を介して中心都市と間接的に結び付けら れる2次以下の郊外を設定することで,重層的な構造の都市圏を定義でき ることにある12).2000年の国勢調査結果に基づくと,113のMEAと156の McEAが定義され,2次以下の郊外は最大で3次までとなっている13). 近年,産業集積や労働市場に関する研究においてUEAを地域単位として用 いたものが発表されるようになってきた.さらに,行政分野でも経済産業省 が地域経済産業政策の企画・立案の前提として行う地域経済構造分析の手法 を提案しているが,そのなかでUEAを地域単位として用いている14).このよ うな利用状況を踏まえ,本稿においてもUEAを都市圏の単位として用いるこ とにした.ただし,MEAとMcEAでは空間特性において違いがあることを考 慮して,MEAのみを都市圏とみなして分析を行う15).
113のMEAの郊外に属する市町村を2000年5月1日現在における鉄道旅 客駅の有無で区分し,それぞれの人口増加率の推移を比較すると,第 4 図の ようになる16).ここでは,郊外を1次郊外と2・3次郊外に区分したうえで,
それぞれをさらに鉄道駅の有無で区分した.この図から郊外化という分散的
12)UEAの設定基準の詳細については,金本・徳岡(2002)を参照.
13 )UEAを実際に定義する作業は,東京大学の金本良嗣教授によって行われた.本稿の分析では,
金本教授が定義されたUEAを利用させていただいている.ただし,本稿におけるUEAの人口や 就業者数等のデータは筆者が独自に集計したものである.なお,2000年で定義されたUEAの構 成市町村は金本教授のホームページ(http://www.e.u-tokyo.ac.jp/˜kanemoto/MEA/uea_frame.htm)
において公開されている.
14 )経済産業省地域経済産業グループ『平成16年度版 地域経済構造分析の手引き』(2005年1月,
http://www.jilc.or.jp/bunseki/index.htm)による.
15)MEAとMcEAの空間特性の違いについては徳岡(2003)を参照.
16 )ここで,鉄道旅客駅は新幹線以外のJRの旅客駅と,貨物鉄道と観光鉄道を除くすべての民鉄の 旅客駅を指すが,観光鉄道である西武鉄道山口線の駅を含む.さらに,貨物鉄道の水島臨海鉄道 水島本線(倉敷市―三菱自工前)を含めた.脚注9で示されている対象外とした事業者の鉄道駅 は除かれているが,第3種事業者の駅は,当該路線で営業を行う第2種事業者の駅として含まれる.
駅数とその所在地は国土地理院発行の『数値地図25000(地名・公共施設)全国平成12年版』(2001 年3月)による.これに記録されているデータは,2000年5月1日現在で運行中の鉄道の情報か ら取得されたものである.ただし,北総開発には2000年7月22日に開業した印西牧の原―印旛 日本医大間の駅を,筑豊電気鉄道には2000年11月に西日本鉄道から引き継いだ熊西―黒埼駅前 間の駅を加えた.
都市化の進展と鉄道の関係を読み取ることができる.
人口増加率の比較から,郊外化は鉄道沿線の1次郊外から始まり,1960年 代から70年代にかけて特に著しかったことがわかる.さらに,1970年代前 半になると郊外化は鉄道沿線以外の1次郊外,鉄道沿線の2・3次郊外へと及 んでいった.そして,1970年代後半になると鉄道沿線以外の2・3次郊外へ と波及することになった.このように,日本の郊外化は鉄道沿線を中心に展 開し,70年代後半以降に鉄道沿線以外へ拡大したことが示唆されるのである.
第1節で,日本では大都市を中心に世界でも例をみない私鉄のネットワーク が整備されており,これらを中心とする鉄道の輸送力に支えられて郊外化が 進んだとされることを指摘したが,第4図はこのような鉄道の役割を裏付け るものである.
ただし,1980年代以降になると,鉄道沿線の郊外は成長力が低下して鉄道 沿線以外の郊外の増加率との差がなくなり,いずれの郊外もほぼ同じ率で推
注:2000年の市町村域に組み替えた国勢調査人口に基づく.
資料出所: 人口は㈶統計情報開発センター『国勢調査時系列表(大正9年〜平成12年)』(2002年12月)
による.
第 4 図 MEA郊外の人口増加率の推移
年
%
移している.したがって,鉄道の存在は,初期の段階では郊外化の進展に重 要な役割を果たしてきたものの,郊外化による沿線の成長とともに空間制約 により成長余力が失われつつあり,都市圏の成長と空間構造を規定する要因 としての影響力も小さくなってきていると考えられる.
同時に,1980年代の2・3次郊外の成長にみられるように郊外の多核心化 が進展するとともに,低密度な郊外の拡大という現象がみられる.郊外の多 核心化と低密度化は,鉄道のような大量高密輸送市場を前提とする交通手段 には不利な,そして自家用車には有利な空間構造の変化である.
事実,中心都市,郊外ともに高密度な空間を形成しているMEAは鉄道へ の依存度の高い通勤通学交通で特徴づけられるが,低密度な郊外をもつMEA は自家用車に依存した通勤通学である.また,2・3次郊外からの通勤先とな る1次郊外の市町村(郊外中心)をもつ多核心型の郊外を形成するMEAでは,
中心都市への通勤通学は鉄道の利用割合が自家用車を上回るが,郊外への通 勤通学では自家用車の利用割合が最も大きくなる.とくに,郊外中心は,郊 外のなかでは鉄道への近接性が高いにもかかわらず,その他の1次郊外より も自家用車のウエイトが大きいという傾向がみられる17).
高密度な郊外をもつ大規模な都市圏で,郊外から中心都市への通勤通学パ ターンが支配的であるときは,鉄道のような同質的で大量の交通需要に対応 することのできる交通手段が有利であるが,多核心化が進むにしたがい郊外 から中心都市への移動のウエイトが低下し,中心都市から郊外への,あるいは,
郊外から郊外への移動など,多くの発地と着地の組み合わせをもつ多様な交 通流動パターンへと変化する.このような都市圏の空間構造の変化は,日常 交通における利用交通手段の鉄道等の公共交通から自家用車への転換を促す 要因になる.現在の日本の都市圏は,アメリカと比較すれば高密度で雇用の 中心都市への集中度も高い,鉄道にとって望ましい空間構造を有している.
今後,アメリカのように雇用の分散が進み多核心型の構造への変化が進むな
17)徳岡(2004)を参照.
ら,都市圏内交通における鉄道の分担率の低下が不可避であることが懸念さ れる.
4 鉄道沿線の空間特性
以上のように,日本においても分散的都市化の進展により都市圏の空間構 造が鉄道にとっては不利な環境をもたらす方向に変化してきたことが示唆さ れるが,現在の鉄道沿線はどのような空間構造を有しているのであろうか.
ここでは,鉄道の種類別に集計されたデータに基づいて平均的な構造を概観 する.なお,沿線データは,鉄道事業者ごとに旅客駅が立地する市区町村を その沿線とみなして集計を行った18).すなわち,ある市区町村内に当該鉄道 の旅客駅が1つでもあれば,その立地点にかかわらず当該市区町村の全域が 沿線とみなされる.したがって,ここでの沿線は本来のサービス・エリア,
あるいは駅勢圏とは必ずしも一致しないことに留意する必要がある.
沿線の人口密度,MEA人口割合,就業・通学者の従業・通学地―常住地比 をみると,第 3 表のようになる19).地下鉄は東京都特別区部や政令指定都市 を中心都市とする大都市圏の中心都市内の交通サービスを主として担ってい ることから最も高密度な沿線を有し,従業・通学地−常住就業・通学者比も 大きな値である.路面電車も都市圏の中心都市内における交通サービスの担 い手であり,地下鉄と同じ沿線特性を有するものの,人口密度は地下鉄の半 分以下である.地下鉄をもつ都市と路面電車をもつ都市の間の規模の違いが 反映されているといえる.
これらに対して,大都市高速鉄道と地方旅客鉄道は都市圏の中心都市と郊 外を結ぶ鉄道としての機能を有しており,沿線全体としては,地下鉄や路面 電車に比べて人口密度が低く,従業・通学地−常住就業・通学者比は1に近
18 )事業者ごとの沿線データの集計にあたって対象にした鉄道線の範囲については,脚注9と16を 参照のこと.ただし,貨物鉄道の水島臨海鉄道水島本線(倉敷市―三菱自工前)は含まれない.
19 )MEAは市町村を単位に定義されているため,東京都特別区と政令指定市の区については,当該 市が中心都市(郊外)の場合はすべての区が中心都市(郊外)であるとみなして人口割合を計算した.
なお,MEAの定義にあたっては,東京都特別区部は全体で1市とみなされている.
い値である.ただし,大都市高速鉄道の沿線は人口割合でみて約99%が都市 圏域に含まれ,人口密度が4000人を超える高密度な空間である.それに対し て,地方旅客鉄道の沿線は都市圏域の割合が81%にとどまり,他の鉄道と比 較すると非都市圏域を多く持ち,人口密度が1212人という相対的に低密度な 空間になっている.
注: 人口密度は可住地面積当たりの人口である.就業者と通学者に関する比は15歳以上の就業者数,
通学者数による.
資料出所: 人口,就業者数,通学者数は『平成12年国勢調査報告』第1巻と第6巻による.可住地 面積は『統計でみる市区町村のすがた2002(改訂版)』(日本統計協会,2002年)による.
第 3 表 鉄道沿線の空間特性(2000年)
沿線人口密度
(人/km2)
MEA人口割合
(%) 従業/常住就業者比 通学/常住通学者比 大都市高速鉄道 4,449 98.8 1.09 1.10
地下鉄 8,150 100.0 1.56 1.43
路面電車 3,616 99.2 1.21 1.37
地方旅客鉄道 1,212 81.0 1.00 1.08
このような沿線の空間構造の違いは産業構造にも現れている.第 4 表にあ るように,地下鉄や路面電車の沿線は第3次産業への特化が進んでいる.大 都市高速鉄道の沿線もこれらと類似した産業構造を有するが,都市圏の郊外 を沿線に抱えているため,製造業の割合がやや大きい.地方旅客鉄道の沿線は,
第1次産業が4.9%,製造業が22.1%を占めることに表れているように,他の
鉄道沿線とは異なった産業構造である.
資料出所:従業就業者数は『平成12年国勢調査報告』第6巻による.
第 4 表 鉄道沿線の産業構造(2000年)
(従業就業者数の産業別構成比) (%)
第1次産業 製造業 卸小売業 金融保険業 サービス業 大都市高速鉄道 1.1 17.5 25.1 3.4 29.9 地下鉄 0.3 14.6 26.3 4.8 31.4 路面電車 1.4 12.8 27.2 4.0 31.4 地方旅客鉄道 4.9 22.1 22.8 2.7 26.0
さらに,沿線の交通条件にも違いがみられる.第 5 表は沿線の旅客鉄道駅 の密度(可住地面積当たりの駅数)をみたものである.沿線の空間の低密度化が 進むほど駅密度も低下する傾向がみられる.駅密度は鉄道サービスへの近接 性を表す指標とみなすことができるが,地方旅客鉄道の沿線は他の鉄道と比 べると近接性が低いことがわかる.
注:密度は可住地面積当たりの駅数.
資料出所: 鉄道駅は『数値地図25000(地名・公共施設)全国平成12年版』(国土地理院、2001年)
による.可住地面積は第3表と同じ.
第 5 表 沿線の鉄道駅密度(駅/㎢)(2000年)
当該鉄道駅 JR駅 全鉄道駅
大都市高速鉄道 0.11 0.05 0.28
地下鉄 0.16 0.09 0.53
路面電車 0.21 0.06 0.37
地方旅客鉄道 0.08 0.03 0.14
一方,鉄道と競合する交通手段である自動車の利用可能性は,第 6 表に示 されているように,鉄道と反対に低密度な沿線ほど大きくなっている20).道 路密度(可住地面積当たりの道路実延長)は地下鉄沿線が最も高く,地方旅客鉄 道の沿線が最も低い.しかし,地方旅客鉄道の沿線は人口千人当たりの道路 実延長が最大であり,さらに,道路1㎞当たりの自動車保有台数は最小,1 世帯当たりの乗用車保有台数は最大になる.
世界の50カ国と35都市地域を対象にしてモータリゼーション,道路供給,
道路交通サービスについて実態分析を行ったIngram and Liu(1997)は,道路 密度を地点間の接続性の指標,人口当たりの道路距離を道路ネットワークの 許容量の指標と解釈している.彼らの解釈に従うなら,地方旅客鉄道の沿線は,
道路密度で示される道路ネットワークの接続性では劣るものの,人口や自動
20 )道路実延長のデータは,第6表の資料出所にあるとおり,『統計でみる市区町村のすがた』から 採録したが,政令指定市の中で札幌,仙台,千葉,大阪,神戸,広島の6市については区別のデー タが掲載されていない.そのため,これら6市の区別の道路実延長は当該市全体の道路実延長を 各区の総面積シェアで配分した値を用いた.
車保有台数からみた道路容量の上では余裕がある,すなわち道路混雑の程度 が低いといえる.それに対して,他の鉄道沿線は道路ネットワークの接続性 は高いものの,道路容量の余裕は少なく混雑度が高いことが示唆される.
第 7 表は,鉄道沿線に常住する通勤通学者の利用交通手段の割合をみたも のである21).高密度な空間構造をもつ大都市高速鉄道や地下鉄の沿線は,鉄 道への近接性の高さと道路混雑の程度の高さゆえに,沿線に常住する通勤通 学者はその手段として鉄道を選択する割合が大きい.乗合バスを含めると,
半数以上が公共交通を利用していることになる.一方,地方旅客鉄道沿線では,
低密度で鉄道への近接性が低く道路混雑の程度も低いため,通勤通学者の半 数以上が自家用車を利用している.低密度な空間ほど公共交通への依存度が 低下し,自家用車への依存が高まるのである.
徒歩のみの割合と2輪車の利用割合は,高密度な中心都市に沿線をもつ地
注: 道路密度は可住地面積当たりの道路実延長,道路1キロ当たりの自動車台数は(乗用車+貨物 自動車+軽自動車)/道路実延長、1世帯当たり乗用車保有台数は(乗用車+軽乗用車)/総世帯数,
である.ただし,道路実延長は1999年4月1日現在の値である.
資料出所: 可住地面積と道路実延長は『統計でみる市区町村のすがた2002(改訂版)』(日本統計協会,
2002年)による.自動車の保有台数は『地域経済総覧2002』(東洋経済新報社,2001年),
人口と総世帯数は『平成12年国勢調査報告』による.
第 6 表 鉄道沿線の道路条件と乗用車保有台数(2000年)
道路密度
(㎞/㎢)
人口千人当 道路実延長
(㎞/千人)
道路1キロ当 自動車台数
(台/㎞)
1世帯当乗用車 保有台数
(台/世帯)
大都市高速鉄道 14.76 3.32 128.08 0.82
地下鉄 15.99 1.96 192.16 0.65
路面電車 13.61 3.76 125.69 0.85
地方旅客鉄道 10.90 8.99 69.28 1.29
21 )常住通勤通学者は自宅以外で従業・通学する15歳以上の常住者で,利用交通手段別の割合は国 勢調査の結果による.国勢調査では,通勤通学に利用するすべての交通手段を複数回答で尋ねて,
利用手段ごとに集計している.本稿では,交通手段を徒歩だけ,鉄道・電車,乗合バス,勤め先・
学校のバス,自家用車,ハイヤー・タクシー,オートバイ,自転車,その他,の9種類に区分し て集計した結果を用いた.したがって,ここでの利用交通手段別割合は,単にそれぞれの交通手 段を利用する者の割合であり,必ずしも代表交通手段を意味するものではないことに留意する必 要がある.
下鉄や路面電車の沿線でやや大きいが,鉄道沿線間の差は小さい.ただし,
路面電車の沿線はこれらの割合が相対的に大きく,利用交通手段のバランス からみる限りは,比較的コンパクトな市街地が形成されているといえるので はないだろうか.
注:2輪車はオートバイと自転車の利用者を合わせた割合である.
資料出所:『平成12年国勢調査結果』第6巻による.
第 7 表 常住通勤通学者の利用交通手段別割合(2000年) (%)
徒歩のみ 鉄道 乗合バス 自家用車 2輪車 大都市高速鉄道 7.4 44.2 11.5 27.1 25.0 地下鉄 9.0 47.1 12.6 18.9 25.4 路面電車 8.6 25.2 9.9 36.2 27.0 地方旅客鉄道 7.3 13.9 6.4 57.4 21.3
5 民鉄の需要特性
それでは,前節で明らかにされた鉄道沿線の空間特性は,鉄道需要にどの ような影響を与えているのだろうか.この点を検証するために,以下では沿 線の空間特性を説明変数として含む民鉄の需要関数の推定を試みる.ただし,
対象とする鉄道事業者は地下鉄以外の大都市高速鉄道と地方旅客鉄道である.
交通需要に関する研究では価格弾力性が最も重要な概念とみなされ,欧米 では早くから多くの実証研究が重ねられてきたが,日本での実証研究はほと んど行われていないとされている22).その中で,本稿の分析の参考になると 思われる集計データに基づく日本の研究事例として,関西の大手私鉄の需要 関数を推定した山田・綿貫(1996)と中規模都市の乗合バスと路面電車の需要 関数の推定を行った新納(1988)を紹介する.
山田・綿貫(1996)は,関西の大手私鉄を対象に,年次の時系列データを用 いた定期旅客と定期外旅客の需要関数の推定を路線別に行った.目的変数は 輸送人キロで,説明変数は自社運賃,競合路線(国鉄・JR)運賃,沿線人口,
22)山田・綿貫(1996)による.
乗用車保有率である.所得水準も説明変数として考慮されたが,乗用車保有 率との多重共線性が問題になるとしている.
新納(1988)は19都市,11年間のプーリング・データを用いて乗合バスと 路面電車を合わせた人口当たりの年間利用回数を推定している.説明変数は,
運賃,走行距離,人口当たり乗用車保有率,都市別ダミーである.走行距離 は路線密度と運行間隔を規定する要因であるため,アクセス・イグレス時間 と待ち時間,すなわち乗車時間以外の時間費用を間接的に表す変数としての 意味をもつ.ただし,密度を決めるサービス区域の広がりは,都市別ダミー 変数によって推定されている.
クロスセクション・データを用いた集計データによる鉄道需要関数の推定 事例としては,ヨーロッパの14カ国を対象にしたFitzRoy and Smith(1995)
がある.彼らは基本モデルを,
鉄道需要=f(所得水準,単位距離当一般化費用,代替サービス価格)
と設定した.そして,目的変数を人口当たりの輸送人キロとし,説明変数に は,所得水準として人口当たりGNPを,代替サービスの価格としてはガソリ ン価格を用いた.単位距離当たりの一般化費用は運賃と時間費用で表される が,時間費用については,アクセス時間をルート密度(1㎢当たりの鉄道路線距 離)と平均駅間距離で,待ち時間を頻度(列車走行キロ/路線距離)で代理させた.
乗車時間については利用可能なデータがないとしている.さらに,これらの 時間費用の影響は平均移動距離が短いほど大きくなることを考慮して,平均 移動距離の代理変数として人口密度を説明変数に加えている.
これらの研究において用いられた沿線の空間構造の特性を表す変数は,沿 線人口や人口密度である.都市構造と交通の相互関係についての議論の中で は,とくに人口密度(居住者密度)や雇用密度が交通に与える影響が問題とさ れてきた.都市構造と交通の相互関係についての北アメリカにおける実証研
究のサーベイを行ったBadoe and Miller(2000)は,都市構造が交通行動に与 えるインパクトについて以下のように要約している.
第1に居住者密度が与える影響については,多くの研究で交通に有意な影 響を与えることが指摘され論争の焦点になってきた要因であるが,居住者密 度以外の要因が併せて取り上げられると有意性が低下し,それの果たす役割 についての証拠は明確ではなくなるとする.第2に雇用者密度について取り 上げ,これと交通手段のサービス水準との間に直接的な関係が存在し,交通 行動や交通サービスの選択肢を決める上で,居住者密度よりも強力な要因と なる可能性が示唆されるとしている.
第3に立地の近接性については,雇用と住居のバランス(job-housing balance)
の影響という問題設定が多くみられるが,議論は近接性の相対的重要性に関 するものが一般的で,立地と交通行動を関連づけるモデルが必要であるとす る.第4に近隣住区デザインを取り上げ,これに関して得られた知見は多様 であるが,問題は活動空間が近隣住区の範囲を越えて広がっていることにあ ると指摘している.
第5に自動車所有の影響については,高密度な居住地に住む家計ほど自動 車の所有台数が少なくなる傾向があり,所有台数の少ない家計ほど公共交通 の利用が多くなる一方で,自動車1台当たりの走行距離が短くなる傾向があ るという,一致した知見が得られているとする.第6に所得,年齢,性別,
職業等の社会経済的要因は,交通行動に大きなインパクトを与えているが,
集計モデルにおいてはこれらと都市構造の間の相互関係に留意する必要があ ると指摘する.
最後に公共交通の供給を取り上げ,この変数が含まれる分析では,それが 手段選択や自動車1台当たりの走行距離を有意に説明するが,密度の説明力 を低下させることがしばしば見出されるとする.その理由として,居住者密 度と公共交通の供給レベルの間には,サービス水準が高いほど利用は増加す る一方で,潜在的需要が多いほど効率的に供給できるサービスの水準は上昇
するという,需要と供給の関係が存在することを指摘した.
以上のような既存研究を踏まえ,本稿ではFitzRoy and Smith(1995)のモデ ルを参考にして,以下のようなモデルを設定する.すなわち,
鉄道需要=f(一般化費用,代替サービスの費用,沿線空間構造)
である.目的変数の鉄道需要は旅客輸送人員とした.人口による基準化は行 わず,実数をそのまま用いる.なお,需要量を輸送人キロとすることも考え られるが,対象としている鉄道需要は地域内交通市場における需要であり,
その特性は短距離で規則性が高いことである.したがって,輸送人キロより も輸送人員の方が望ましいと考える.
一般化費用は運賃と時間費用であるが,前者は1人キロ当りの平均収入を 平均運賃として用いる.後者については,鉄道サービスの質を表す変数であ る営業路線キロと列車頻度で代理させることにした.アクセス・イグレス時 間と待ち時間を規定する要因である.営業路線距離の増加と列車頻度の増加 は,いずれもアクセス・イグレス時間や待ち時間の減少につながるため,こ れらの係数の符号はプラスになることが期待される.
代替サービスはJRと自家用車とみなす.いずれも金銭的費用に関するデー タを持たないので,当該サービスの利用可能性を表す変数で代理させる.JR については,駅密度をJR利用のアクセス・イグレス時間の指標とした.自家 用車については,利用可能性を1世帯当たりの乗用車保有台数で,走行時間 に影響を与える道路混雑度を人口千人当たりの道路実延長で表すことにした.
沿線内のJR駅密度の上昇(JR駅の増加)は競合するJR路線の利用可能性を高 めるため,その係数の符号はマイナスになるであろう.1世帯当たりの乗用 車保有台数の増加は自家用車の利用可能性を高めるので係数はマイナスに,
人口千人当たりの道路実延長の増加は,混雑を緩和して自家用車利用の時間 費用を低下させるため,係数はやはりマイナスになることが期待される.
沿線の空間構造については,前節までの分析を踏まえ,沿線がどの程度ま で都市圏の郊外に組み込まれているのかと,種々の活動の集積度に着目する.
そして,前者はMEA郊外人口の割合で,後者は昼間時の人口密度で表す.
鉄道は,中心都市の周辺に広がる郊外から中心都市へ大量の旅客を運ぶよう な輸送パターンに適した手段である.このことは,交通フローの着地が特定 の地点に集中しているほど鉄道利用が多くなることを意味する.昼間時の人 口密度は着地の集中度を表す指標とみなされる.また,密度は前述のように 鉄道利用の時間費用を規定する要因でもある.MEA郊外人口の割合の上昇と 人口密度の上昇はともに鉄道に有利な空間構造の変化であり,係数の符号は いずれもプラスになることが期待される.
需要関数の推定において所得水準は重要な変数であるが,地域の分析にお いてはそれ自体が空間構造と密接な関係を有している.すなわち,人口は所 得水準が高い地域へ移動し,結果として高密度な空間が形成される.そのこ とが集積の経済性を発揮させて生産性を高め,より高い所得水準を実現して さらに多くの人口を吸収する.このような循環的な因果関係が働くこと,さ らには,政令指定市の区別の適当な所得データが得られないこと,ここでの 分析の目的が沿線の空間構造の影響にあることを考慮して,所得水準は説明 変数から除外することにした.
なお,地方旅客鉄道のなかで,旧国鉄から引き継がれて第3セクターによ り経営されているいわゆる転換線(新線を含む)は,JRの長距離列車の乗入れ のウエイトが大きいなど,他の鉄道事業者の路線と比べて機能的に異質な部 分を含むと考えられる.このため,地方鉄道転換線ダミーを説明変数に加え ることにした23).
また,性別,年齢,職業などの需要者の属性も本来なら重要な需要のシフ ト要因である.ここでは沿線単位の集計データを用いていること,とくに通 学旅客や定期外旅客について適当な属性データを持たないことから,説明変
23 )地方旅客鉄道の中で転換線を経営する事業者については香川(2000)の表2-1(22-23ページ)によっ ている.
数には加えられていない.ただし,以下に述べるように需要関数は旅客の種 類別に推定されるため,需要者属性に関してある程度の同質化が行われてい るといえる.
需要関数の推定は,通勤定期旅客,通学定期旅客,定期外旅客のそれぞれ について,地下鉄以外の大都市高速鉄道を営む36事業者と地方旅客鉄道を営 む92事業者の計128事業者のクロスセクション・データを用いて行った24). 128事業者の内訳は付表のとおりである.また,第 8 表には推定に用いられ た変数の説明とデータの出所が示されている.
推定される回帰モデルは以下のように設定した.
ln(輸送人員)=Ϸ+β1ln(平均運賃)+β2ln(年度末営業キロ)
+β3ln(列車頻度)+β(4 JR駅密度)+β(地方鉄道転換線ダミー)5
+β(人口千人当道路実延長)+β6 (世帯当乗用車保有台数)7
+β(8 MEA郊外人口割合)+β9ln(昼間時の人口密度)+ε
ここで,Ϸとβiは係数,εは誤差項を表す.通勤定期旅客輸送人員,通学定 期旅客輸送人員,定期外旅客輸送人員のそれぞれを目的変数として需要関数 を個別に推定した.説明変数については,運賃はそれぞれの旅客ごとに計算 された平均運賃を用い,昼間時の人口密度は,通勤定期旅客の場合は従業就 業者密度,通学定期旅客では通学地通学者密度,そして定期外旅客では昼間 人口密度とする.その他の説明変数は共通である.通常の最小2乗法による 推定結果は第 9 表のようになった25).
24 )南海電気鉄道は大都市高速鉄道線と地方旅客鉄道線(貴志川線)を区別し,それぞれの沿線ご とにデータを作成した.また,伊豆箱根鉄道は大雄山線と駿豆線をそれぞれ別の事業者とみなし てデータを作成した.これらのことから,対象事業者数の合計が128になる.なお、脚注16にあ るように,北総開発の沿線には印西牧の原―印旛日本医大間が,筑豊電気鉄道の沿線には熊西―
黒埼駅前間が含まれる.
25 )推定にあたっては,SPSS13.0Jを用いた.なお,通勤定期旅客輸送人員の対象事業者数のみが 127になっているが,これは『鉄道統計年報』において通勤定期旅客輸送人員が「−」と記載さ れている有田鉄道を除いて推定を行ったためである.
第 8 表 推定に用いられた変数
変 数 単 位 説 明 資 料 出 所 目的変数
通勤定期旅客輸送人員 千人 『平成12年度鉄道統計年報』
通学定期旅客輸送人員 千人 『平成12年度鉄道統計年報』
定期外旅客輸送人員 千人 『平成12年度鉄道統計年報』
説明変数
通勤定期平均運賃 円/人キロ 通勤定期旅客運輸収入/通
勤定期旅客輸送人キロ 『平成12年度鉄道統計年報』
通学定期平均運賃 円/人キロ 通学定期旅客運輸収入/通
学定期旅客輸送人キロ 『平成12年度鉄道統計年報』
定期外旅客平均運賃 円/人キロ 定期外旅客運輸収入/定期
外旅客輸送人キロ 『平成12年度鉄道統計年報』
年度末営業キロ ㎞ 『平成12年度鉄道統計年報』
列車頻度 本/日 旅客列車走行キロ/旅客延
日キロ 『平成12年度鉄道統計年報』
JR駅密度 駅/㎢ JR旅客駅数/可住地面積
JR駅は『数値地図25000(地 名・公共施設)全国 平成 12年版』可住地面積は『統 計でみる市区町村のすがた 2002(改訂版)』
地方鉄道転換線ダミー 旧国鉄からの転換線・新線
=1、その他=0
人口千人当道路実延長 ㎞/千人(道路実延長/人口総数)×
1000
道路実延長は『統計でみる 市区町村のすがた2002(改 訂版)』人口は『平成12年 国勢調査報告』
世帯当乗用車保有台数 台/世帯(乗用車台数+軽乗用車台 数)/総世帯数
乗用車保有台数は『地域経
済総覧2002』総世帯数は『平
成12年国勢調査報告』
MEA郊外人口割合 % (沿線のMEA郊外人口/沿
線人口合計)×100 MEA郊外人口は筆者集計 従業就業者密度 人/㎢ 従業就業者数/可住地面積 従業就業者数は『平成12年
国勢調査報告』
通学地通学者密度 人/㎢ 通学地通学者数/可住地面積 通学地通学者数は『平成12 年国勢調査報告』
昼間人口密度 人/㎢ 昼間人口/可住地面積 昼間人口は『平成12年国勢 調査報告』
注)***は1%,**は5%,*は10%の水準で有意であることを示す.
第 9 表 鉄道旅客需要関数の推定結果 通勤定期旅客輸送人員
(対数)
通学定期旅客輸送人員
(対数)
定期外旅客輸送人員
(対数)
係数 t−値 VIF 係数 t−値 VIF 係数 t−値 VIF 通勤定期旅客平均運賃(対数) −0.5443 −2.52** 2.17
通学定期旅客平均運賃(対数) −0.7096 −3.24*** 2.93
定期外旅客平均運賃(対数) −0.5346 −3.16*** 2.36 年度末営業キロ(対数) 0.9428 9.66*** 2.04 1.0245 8.99*** 2.48 0.8274 15.08*** 2.09 列車頻度(対数) 1.8227 10.09*** 5.69 1.1120 6.01*** 5.46 1.5262 15.48*** 5.65 JR駅密度 −6.8265 −2.48** 1.70 −9.5388 −3.31*** 1.63 −3.0380 −1.97* 1.69 地方鉄道転換線ダミー −0.8553 −3.64*** 2.27 −0.4047 −1.66 2.15 −0.5315 −3.98*** 2.34 人口千人当道路実延長 −0.0496 −2.59** 4.22 −0.0174 −0.86 4.11 0.0011 0.10 4.81 世帯当乗用車保有台数 0.0735 0.20 2.72 0.3920 0.99 2.74 −0.6415 −3.02*** 2.90 MEA郊外人口割合 0.0103 4.61*** 1.14 0.0049 2.07** 1.13 0.0026 2.07** 1.13 従業就業者密度(対数) 0.4837 2.47** 8.69
通学地通学者密度(対数) 0.1585 0.89 7.50
昼間人口密度(対数) 0.2397 1.91* 11.19 定数項 −5.7120 −3.03*** −0.2856 −0.18 −0.8827 −0.66 自由度調整済決定係数 0.9302 0.8406 0.9592
対象事業者数 127 128 128
いずれの需要関数も決定係数の値が大きく,統計的に有意な係数はすべて 合理的な符号になっており,全体として良好な推定結果であるといえる.なお,
山田・綿貫(1996)は沿線人口を説明変数に加えているが,これも人口密度と の間に相関があり,本稿の分析では採用しなかった.本稿では,需要量の人 口による基準化を行っていないが,結果的には,採用された他の変数が沿線 規模を反映しているといえる26).
表中のVIFは分散拡大要因(variance inflation factor)である.説明変数間の多 重共線性の影響で係数の推定分散が大きくなり,推定値の信頼度が低下する 問題を考慮するべきかどうかの大体の目安は,VIFの値が10以上とされてい る27).この目安に従うなら,定期外旅客輸送人員の推定において昼間人口密
26 )人口密度に替えて人口規模を説明変数にした推定も行ったが,全体の推定結果は密度を用いた 方が良好であった.
27)蓑谷(1997)による.
度を説明変数に含めたことが多重共線性の問題をもたらしている可能性があ る.しかし,ここでは全体として良好な結果が得られているので,見直しは 行わなかった.
平均運賃はすべての推定結果において5%以下の水準で有意である.この 係数の値は鉄道需要の運賃弾力性を表すが,いずれも絶対値で1未満であり,
都市交通の需要が運賃に対して非弾力的であるという一般に指摘されている とおりの結果になっている.ただし,ここで推定された弾力性は,クロスセ クション・データに基づく分析であるため,長期の弾力性とみなすことがで きる.
鉄道サービスの水準を表し,時間費用を規定する要因である営業キロと列 車頻度は,すべての推定結果において1%の水準で有意であり,これらの弾 力性の絶対値は平均運賃よりも大きい.旅客の移動時間に関わるサービス水 準が需要を決める重要な要因であることを改めて確認する結果である.
競合するJRを利用するための時間費用の代理変数であるJR駅密度も,定 期外旅客は10%の水準で,他は5%以下で有意になる.沿線の旅客の獲得を めぐるJRとの競争が無視できないことを示唆する.地方鉄道転換線ダミー は,すべての推定結果でマイナスの符号である.このことは,転換線が他の 鉄道と比べて,推定に用いられた他の説明変数では説明できない不利な沿線 条件をもつという格差が存在することを示唆する.ただし,通学定期旅客で は10%でも有意にならず,通学定期旅客のみはその格差が小さいといえる.
代替的な交通手段とみなされる自家用車の影響についてみると,通勤定期 旅客の推定結果においては,人口千人当たりの道路実延長の係数はマイナス になり,5%の水準で有意であるが,世帯当たりの乗用車保有台数は有意にな らない.自家用車の有無ではなく道路混雑が通勤交通における鉄道利用に対 して影響を与えるという結果である.松澤(1996)は,東京,大阪,名古屋,
ロンドン,ニューヨークの5大都市の都心と市域全体への通勤交通手段につ いて20年間の時系列変化を比較して,鉄道と乗用車の利用者がほとんど変
化していないことを明らかにし,「道路容量が拡張しにくい大都市の中心部へ の通勤では,自動車利用は自ずと一定に制限され,条件に変化が生じない限 り状況は変わらない」と指摘する.上記のような通勤定期旅客の推定結果は,
松澤の指摘を鉄道沿線の道路容量が鉄道利用に与える影響として一般化でき ることを示唆している.
通学定期旅客の推定では,人口千人当たりの道路実延長と世帯当たりの乗 用車保有台数はともに有意にならない.通学者という需要者の特性を考えれ ば,自家用車の利用可能性や道路混雑が鉄道需要に影響を与えないという結 果は当然であろう.定期外旅客においては,人口千人当たりの道路実延長が 有意ではなく,世帯当たりの乗用車保有台数がマイナスになり,1%の水準で 有意になる.自由目的の交通が多くを占める定期外旅客の鉄道選択にあたっ ては,道路混雑ではなく自家用車の有無が決定要因になるという,通勤とは 反対の結果である.通勤においては定時性が重要な条件であるのに対して,
自由目的の交通では荷物や子供の同伴,複数の目的地を巡る周遊性などの特 性が大きくなり,機動的な交通手段である自家用車への選好が強くなること を反映した結果であるといえる.
ところで,自家用車の利用可能性と最初に触れた運賃弾力性を合わせて比 較すると,興味深い特徴がみられる.すなわち,乗用車保有台数が有意にな る定期外旅客の運賃弾力性が,乗用車保有台数が有意にならない通勤・通学 旅客に比べてもっとも小さいという点である.一般には,通勤・通学需要は それらを派生させる本源的目的の性質から拘束的な需要という性格が強く,
自由目的の交通需要よりも非弾力的であるとみなされている.しかし,今回 の推定結果は,地域交通市場においては,通勤・通学以外の鉄道需要の方が 拘束性は強く,運賃に対してより非弾力的であることを示唆する.同時に,
推定結果は定期外旅客輸送人員が自家用車の保有台数の多い沿線ほど少なく なることを示している.したがって,定期外旅客としての鉄道利用者には,
自家用車の利用を制限され,鉄道等の公共交通を利用せざるをえない人々が
多いといえる.また,彼らの鉄道による平均移動距離は,第2節でみたように,
通勤・通学者よりも短い.すなわち,日常の生活交通において,交通手段の 選択を制限された移動制約者が鉄道を利用しているということが定期外旅客 需要の拘束性を高め,運賃に対して非弾力的にしていると解釈することがで きる.
沿線の空間構造と鉄道需要の関係については,MEA郊外人口割合はすべて の推定において係数はプラスで,5%以下の水準で有意になる.日本では,鉄 道沿線に沿って郊外化が進展したという歴史的経緯を反映した結果である.
同時に,このことは鉄道が都市圏の中心都市と郊外を結び付けるという機能 を果たしていることを意味する.したがって,人口や経済活動の分散化が進み,
中心都市と郊外の結びつきが弱まれば,鉄道にとっては厳しい市場環境がも たらされることになる.
昼間時の人口密度の影響についてみると,通勤定期旅客では従業就業者 密度は5%の水準で有意な説明変数になり,定期外旅客でも昼間人口密度が 10%の水準ではあるが有意になる.しかし,通学定期旅客では通学地通学者 密度は有意な説明変数にはならない.種々の経済活動の高密度な集積は交通 フローの着地を集中させるとともに,アクセス・イグレス時間の短縮という 時間費用の節約をもたらすため,鉄道需要を増加させる効果をもつことが示 されたといえる.ただし,通学交通に関しては,学校の立地自体が他の経済 活動とは異なったメカニズムのもとで決定され,密度は鉄道需要の決定要因 にはなりにくいと考えられる.
以上のような結果から,沿線の空間構造と鉄道需要の関係について以下の ようにまとめることができるであろう.沿線が中心都市と郊外の密接な関係 によって形成された高密度な都市圏であるとき,鉄道はそれらの間を結ぶ交 通手段として多くの需要を獲得することができる.ここで,中心都市と郊外 の密接な関係とは,通勤で代表される補完関係である.すなわち,郊外は居 住の場として,中心都市は雇用の場として,都市圏という生活圏のなかでそ