新まちづくり 3 法で中心市街地は活性化するのか
[要 旨]
1. 日本では、中心市街地の衰退に歯止めがかからない。これまで中心市街地は「まちの 顔」として住民の生活や地域経済に重要な役割を担ってきたが、居住者や就業者の減 少、商店街における空き店舗の急増、老舗デパートの撤退などにより、賑わいが失わ れている。これに対し、政府は1998年にいわゆるまちづくり3法を制定したが、効果 はほとんど表われなかった。そこで政府は2006年にこれまでのまちづくり3法(以下、
旧まちづくり 3 法と記す)の改正案を国会に提出した。本稿ではこれまでの国による 中心市街地活性化策の経過や国内外の事例分析を通じて、まちづくり3法の改正案(以 下、新まちづくり3法と記す)の実効性を考察した。
2. 中心市街地活性化のためには中心市街地において業務機能、居住機能など様々な都市 機能の活性化が必要であるが、一般的に最も重要であるのは商業機能の活性化である。
それ以外の都市機能は、現段階では商業機能活性化を補完するものである。
3. 新まちづくり3法は旧まちづくり 3法をより強化する形となっており、基本的にはこ れまでどおり、中心市街地の商業機能を活性化させるための施策と考えられる。ただ し新まちづくり 3 法で注目される大規模小売店の郊外出店規制はいわば「諸刃の剣」
である。中心市街地の商業機能が活性化しないまま、大規模小売店の郊外出店を長く 規制し続けると、地域住民の消費における利便性が損なわれ、地域全体の活力が奪わ れる。そのため、中心市街地の商業機能活性化は短期間に進めなければならない。
4. 中心市街地の商業機能活性化とは、英国の事例でみられるように、中心市街地全体を 一つのショッピングセンターのように捉え、全体として郊外の大規模小売店よりも魅 力的なものとすることである。そのためには、消費者の支持を失った中心市街地の既 存の商店街をそのまま保護していては、商業機能の活性化はおぼつかない。
5. 中心市街地の商業機能活性化において、商店街の個々の店主や地権者の意欲の希薄さ が大きな障害になりうる。日本で最も先進的とみられる事例でさえ、合意形成に長期 間を要したからだ。したがって新まちづくり 3 法では、中心市街地の商業機能活性化 の効果は限定的なものにとどまると思われる。より効率的に中心市街地活性化を進め るためには、米国のBID(Business Improvement District)のような、関係者の私権 をある程度制限して、合意形成を促す仕組みを導入することも一考であろう。
政策調査部 主任研究員 岡田 豊 Tel:03-3201-0579 E-Mail:[email protected]
[目 次]
1. はじめに··· 3
2. 旧まちづくり3法の概要 ··· 4
(1) 施策の目的··· 4
(2) TMOによる中心市街地活性化··· 5
3. 旧まちづくり3法後の中心市街地の現状··· 7
4. 新まちづくり3法の概要 ··· 10
(1) 「コンパクトシティ」の必要性を強調···10
(2) 大規模小売店の郊外出店を規制··· 11
(3) 商業以外の都市機能の中心市街地への誘導···12
(4) 国による「選択と集中」の強化···12
(5) 多様な民間主体の参画···13
5. 国内外の事例にみる中心市街地活性化の課題··· 14
(1) 英国の事例···14
a. 消費者の支持を得た巨大ショッピングセンター···14
b. 環境配慮のための大規模小売店の郊外出店規制···16
c. ビジネス感覚重視の「タウンセンターマネジメント」···17
d. 中心市街地で目立つ全国チェーン店···18
e. 国の補助金の「選択と集中」···19
f. 英国式中心市街地活性化事例から得られる示唆···20
(2) 米国の事例···22
a. 郊外の居住環境保護から始まった成長管理政策···22
b. 利害関係者から徴収する税を財源とするBID制度···23
c. 自己完結型の郊外都市「エッジシティ」の登場···24
d. 米国の中心市街地活性化事例から得られる示唆···25
(3) 日本の事例···26
a. 行政コスト削減のためにコンパクトシティを実践する青森市···26
b. インナーの狙いは「ウォーカブルタウン」と「まちなか居住」···27
c. 自動車よりも歩行者優先で···28
d. 大規模複合施設「アウガ」の登場···28
e. 日本の中心市街地活性化事例から得られる示唆···29
6. 新まちづくり3法は機能するのか··· 31
(1) モータリゼーション進展への対応の難しさ···31
(2) 中心市街地での居住推進施策の限界···33
(3) 中心市街地の都市機能で最も重要なのは商業機能···35
(4) 大規模小売店の郊外出店規制は中心市街地の商業活性化につながるのか?···36
(5) ハード面での対策先行とソフト面での施策の遅れ···38
(6) 商店主、地権者の改革意欲の希薄さ···40
(7) 新まちづくり3法の限界と中心市街地活性化策のあり方···46
1. はじめに
中心市街地とは、商店街、オフィス街、ターミナル駅、行政機関などを中心に形成される、
居住機能、商業機能、業務機能などのいわゆる都市機能が集積した地域を指す。そしてそ れは今まで「まちの顔」として住民の生活や地域経済に重要な役割を担ってきた。
しかし日本では、中心市街地の衰退が進んでいる。中心市街地では、居住者や就業者の減 少、商店街の空き店舗の増加、老舗デパートの撤退などにより、賑わいが失われている。
中心市街地衰退の背景には、住民の郊外移転、大規模小売店1の郊外進出などがある。中 心市街地にはこれまで膨大な社会資本が形成されており、また中心市街地は地域経済の活 力を担っていたことから、その衰退に危機感を抱いた国は、地方自治体の判断で土地の用 途規制を可能にする改正都市計画法(1998年施行)、市街地の整備と商業活性化を一体で 行なう中心市街地活性化法(98年施行)2、店周辺の環境を保全する大規模小売店舗立地法
(2000年施行、以下、大店立地法と記す)の3つの施策、通称「まちづくり3法」(以下、
「旧まちづくり 3 法」と記す)を制定した。これらによって、規制緩和、国から地方自治 体への権限委譲、巨額の財政支出を行なうことで中心市街地の活性化が進められてきた。
また中心市街地の商店街を保護するために策定されていた大規模小売店舗法3(以下、大店 法と記す)と違い、旧まちづくり3法は中心市街地における大規模小売店の出店も認めた。
さらに地方自治体、商店街、NPO/NGO など、まちづくりに関わる様々なプレーヤーも、
旧まちづくり3法が目指す中心市街地活性化のために膨大な時間と労力を投入してきた。
しかし、地価の安い郊外での大規模小売店の開発が増え続け、中心市街地の衰退傾向にほ とんど歯止めがかからないことから、旧まちづくり 3 法の効果に疑問がもたれるようにな った。国からも旧まちづくり3法の効果を疑問視する2つの報告書が相次いで発表され、
旧まちづくり3法改正の機運がいよいよ高まったのである。その結果、06年2月にまちづ くり3法の改正案(以下、新まちづくり3法と記す)が作成され、国会に提出された。「新 まちづくり3法」は、中心市街地に様々な都市機能を集中させる「コンパクトシティ構想」
を掲げ、中心市街地を活性化することを目的としている。
本稿では旧まちづくり3法と新まちづくり3法を概観するとともに、中心市街地の現状や 諸外国・日本国内での先進事例から、中心市街地衰退の原因と効果的な中心市街地活性化 策を探ることにより、新まちづくり3法の有効性を検証したい。
1 本稿では大規模小売店に、キーテナントである大規模小売店とその他のテナントで構成されるショッピ ングセンターを含む。なお日本ショッピングセンター協会では、ショッピングセンターが以下を満たす 施設と定義されている。
・ 開発業者が一つの単位として計画、開発、管理している一連の商業サービス施設
・ 小売業の店舗面積が1,500㎡以上で、キーテナントを除き、小売店舗が10店舗以上含まれること
・ キーテナントの面積がショッピングセンター面積の80%程度を超えないこと(但し、その他テナン トのうち小売業の店舗面積が1,500㎡以上である場合には、この限りではない)
・ テナント会(商店会)があり、広告宣伝、共同催事等の共同活動を行なっていること
2 正式名称は「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」。
3 正式名称は「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律」。
2. 旧まちづくり3法の概要 (1) 施策の目的
旧まちづくり3法が成立する以前、中心市街地に関する施策は大規模小売店の出店規制に 焦点があたっていた。74 年に大店法が施行されて、500 ㎡以上の店舗については商工会な どの意見を聞く「商業活動調整協議会」が作られることになったため、大規模小売店に消 費者を奪われるとの懸念を強く抱く既存商店街の反対に阻まれて、中心市街地では大規模 小売店の出店はほとんど不可能であった。
この大店法は、日米構造協議などを経て、何度か規制が緩和され4、最終的に旧まちづく り3法の一つである大店立地法の登場により、その役割を終えた。
一方、旧まちづくり3法は、大店法に代わって、中心市街地のまちづくりを担ってきた。
中心市街地が地域経済やコミュニティに果たす役割の重要性を認めて、中心市街地の衰退 の流れを食い止め、居住機能、商業機能、業務機能の集積とそれによる経済活性化を図る 必要がある中心市街地5について措置を講ずることを目的として、旧まちづくり3法が制定 された(次頁、図表1)。
旧まちづくり3法には三つの特徴がある。第一は、地域の意向がより反映されるように、
地方自治体の役割が重視されていることである。旧まちづくり 3 法はいずれも、国から地 方自治体へ、権限が委譲されていることが特徴である。
第二は、ハード面とソフト面の施策を一体的に推進することである。区画整理や道路整備、
施設建設などの、中心市街地の整備や改善を目的とするハード面の施策と、空き店舗の担 い手の発掘や消費者ニーズにあったテナントの誘致といった、商業などの活性化を目的と するソフト面の施策の両方が盛り込まれている。
第三は、大規模小売店が出店する際に生じる渋滞問題、騒音問題などが解決されることを 条件に、郊外だけでなく中心市街地でも大規模小売店の出店を認めたことである。この背 景にはバブル崩壊以降、中心市街地でデパート、スーパーなどの大規模小売店の撤退が相 次ぎ、中心市街地の空洞化に拍車がかかったことがあげられる。大規模小売店は中心市街 地にとって迷惑な存在ではなく、なくてはならない存在になっていったといえる。
4 大店法制定以後の規制緩和の大まかな経緯は以下のとおり。
91年 商業活動調整協議会を廃止
94年 1,000㎡未満の店の出店原則自由化
5 旧まちづくり3法における中心市街地活性化法では、中心市街地は以下のように定義されている。
「この法律による措置は、都市の中心の市街地であって、次に掲げる要件に該当するもの(以下「中心 市街地」という)について講じられるものとする。
1.当該市街地に、相当数の小売商業者が集積し、及び都市機能が相当程度集積しており、その存在して いる市町村の中心としての役割を果たしている市街地であること。
2.当該市街地の土地利用及び商業活動の状況等からみて、機能的な都市活動の確保又は経済活力の維持 に支障を生じ、又は生ずるおそれがあると認められる市街地であること。
3.当該市街地において市街地の整備改善及び商業等の活性化を一体的に推進することが、当該市街地の 存在する市町村及びその周辺の地域の発展にとって有効かつ適切であると認められること。」
図表 1:旧まちづくり3法の概要
法律名 改正都市計画法 大店立地法 中心市街地活性化法 目的 全 国 画 一 だ っ た
土地用途規制を、
地 方 自 治 体 の 都 市 計 画 に あ わ せ て 規 制 を 変 更 す る
・ 大規模小売店出店に伴う地域への 様々な悪影響を緩和する
・ 個別ケースごとに、地域の実情に 応じた運用を行なえるようにする
空洞化の進行している中 心市街地の活性化を図る
概要 従 来 か ら の 全 国 画 一 の 土 地 用 途 規制に「上塗り」
する形で、地方自 治 体 が 特 別 目 的 の た め に 用 途 制 限を強化したり、
緩 和 し た り す る ことができる
・ 調整対象は店舗面積 1,000 ㎡超の 大規模小売店
・ 大規模小売店出店に伴う交通渋 滞、駐車、騒音、廃棄物などの店 舗周辺の生活環境への悪影響に対 し、地方自治体は店舗に配慮を求 めることができる
・ 出店に伴う悪影響に配慮すれば、
大規模小売店舗は中心市街地でも 出店できる
・ 「市街地の整備改善」
「商業などの活性化」
を柱とする総合的・一 体的な対策を行なう
・ 地方自治体が「基本計 画」を作成する
・ 「基本計画」に沿って TMOなどが実施する 事業を、国や地方自治 体が財政支援する 権限 市町村 都道府県と政令指定都市 市町村
(資料)大阪商工会議所のHPにより作成
(2) TMOによる中心市街地活性化
旧まちづくり3法で中心的な役割を果たしたのは中心市街地活性化法である。同法では、
地方自治体が一定の条件を満たす区域を一つだけ「中心市街地」として定め、活性化のた めの方針や目標、実施する事業などを定めた「基本計画書」を作成し、それに基づいて事 業を実施することとなった。05年3月15日現在、全国で610自治体から687地区の計画 書が提出されている6。また、基本計画の作成や関連事業の推進を支援するため、多額の国 費が投入されてきている。
この中心市街地活性化法は、TMO(Town Management Organization)と呼ばれる民間 組織に大きな役割を期待している。TMO は中心市街地活性化のソフト面を専門的に担い、
国や地方自治体がTMOを財政的に支援するとされている。
欧米では、後述するように中心市街地の商業集積を一つのショッピングセンターと捉え、
日本のTMOに相当する組織が、関係者間の利害調整のうえ、テナントミックス事業(商店 街の理想的な店舗構成を考え、不足する業態の店舗を優遇して誘致する事業)などを実施 することにより、郊外の大規模小売店に対抗することに成功している。
中心市街地活性化法のTMOはこのような欧米の商業活性化の手法を参考にしたものとい える。行政はソフト面でのノウハウに乏しいため、中心市街地活性化法では、実際に事業
6 中心市街地活性化推進室調べ(中心市街地活性化推進室HP より)。なお静岡市が旧静岡市と旧清水市 で二つの中心市街地を認定しているように、計画提出後に合併した地方自治体があるため、「1市町村1 中心市街地」という原則にも関わらず、中心市街地計画地区数が自治体数を上回っている。
を担っていて、ソフト面のノウハウを有していると思われる民間に期待し、商工会・商工 会議所やいわゆる第三セクター方式の特定会社、公益法人が設立するTMOを、そのソフト 面の事業主体にできるとした。
TMOの仕組みは図表2に示したとおりである。TMOは商業活性化に関する構想(以下、
TMO構想と記す)を作成する。各市町村によりこれがTMO構想として認定されると、TMO が各種事業を行なうこととなる。
以上から大店法と旧まちづくり3法の違いを一言でいえば、前者が商業の需給調整でまち づくりを行なおうとしたのに対し、後者はまちづくりの観点から商業を位置づけ、需給調 整以外の様々なツール、具体的には、中心市街地につながる道路や中心市街地の商業施設 の整備やTMOによるイベント実施などに対する支援などを通じて、中心市街地の商業を取 り巻く環境改善を手助けする形で、中心市街地の商業機能の活性化を図ろうとしたものと いえる。したがって、都市機能という言葉で、法律の文面上は中心市街地における商業機 能以外にも言及した形となっているが、施策の実態としては中心市街地の商業活性化を最 重要課題としたものであったといえる。
図表 2:TMO構想の仕組み
基 本 計 画
商業の活性化等の ための事業
市街地の整備改善 の事業等
TMO、TMOと商店街 組合等が行う事業
事業実施
市町村 作成・決定
TMO 構想 (中小
小売 商業 高度化 事業 構想)
TMO 構想 事業 TMO 計画 事業
TMO 計画
(中小小 売商業 高度化 事業計画)
事業実施
事業実施
認定
TMO(認定構想推進事業者)
認定構想推進事業者、いわゆるタウンマネージ メント機関(TMO)の組織については、市町村、
商店街関係者その他の関係事業者、商工会・
商工会議所等の経済団体、住民等幅広い関係者 の代表が運営・事業推進の基本的方針の決定等 に当たるとともに、具体的な事業の企画、運営等 については、高度の専門性を有する者を事務局と して招へいし、又は内部に育成して、作業に当たら せることが望ましい(基本方針)
作成 作成
経済産業大臣
認定
都道府県
通知
基 本 計 画
商業の活性化等の ための事業
市街地の整備改善 の事業等
TMO、TMOと商店街 組合等が行う事業
事業実施
市町村 作成・決定
TMO 構想 (中小
小売 商業 高度化 事業 構想)
TMO 構想 事業 TMO 計画 事業
TMO 計画
(中小小 売商業 高度化 事業計画)
事業実施
事業実施
認定
TMO(認定構想推進事業者)
認定構想推進事業者、いわゆるタウンマネージ メント機関(TMO)の組織については、市町村、
商店街関係者その他の関係事業者、商工会・
商工会議所等の経済団体、住民等幅広い関係者 の代表が運営・事業推進の基本的方針の決定等 に当たるとともに、具体的な事業の企画、運営等 については、高度の専門性を有する者を事務局と して招へいし、又は内部に育成して、作業に当たら せることが望ましい(基本方針)
作成 作成
経済産業大臣
認定
都道府県
通知
(出所)総務省『中心市街地の活性化に関する行政評価・監視結果報告書』2004年100頁
3. 旧まちづくり3法後の中心市街地の現状
しかしこの旧まちづくり3法については近年、その効果を疑う国の報告書が総務省と会計 検査院から相次いで出された。
このうち総務省(2004)は、中心市街地活性化法の効果を測定するため、同法施行前(98 年以前)と施行後(98 年以後)の人口や商店数、商業販売額、事業所従業員数といった都 市機能の各種指標の変化を考察した。それによると、中心市街地の状況はどの項目でもほ とんど改善していない(図表 3、次頁図表 4、5)。特に、施策の重点が置かれた商業機能 が著しく悪化しており、例えば商業販売額はほとんどの中心市街地で 2 割以上減少してい る。
またこれらの指標において、市町に対する中心市街地のウェイトが低下しているところが 少なくない。つまり、むしろ郊外よりも中心市街地の方が悪化しているところが多いとい える(次々頁、図表6)。さらに上記3項目全てにおいて郊外より悪化している中心市街地
が61%にものぼっており、旧まちづくり3法によって中心市街地を活性化させるという当
初の目的を現段階では果たせていない地域が多いことは明らかである。
図表3:中心市街地活性化法前後における商業販売額の推移別にみた中心市街地の割合
74.2
8.3 5.8 4.2 1.7 1.7 0.8 0.8 0.0 2.5 0
10 20 30 40 50 60 70 80
80未満 80以上
85未満 85以上
90未満 90以上
95未満
95以上100未満100以上105未満105以上110未満110以上1 15未満
115以上120未満
120以上
(%)
(注)1.調査対象は01年度末までに中心市街地活性化基本計画を作成した市町村から抽出された市町。
2.横軸は、中心市街地活性化法施行前の商業販売額を100とした場合の、施行後の数値。
(資料)総務省『中心市街地の活性化に関する行政評価・監視結果報告書』2004年
図表4:中心市街地活性化法前後における人口の推移別にみた中心市街地の割合
0.0 1.7
16.5 30.6
23.1 16.5
4.1
1.7 1.7 4.1 0
5 10 15 20 25 30 35
80未満 80以上
85未満 85以上
90未満 90以上
95未満
95以上100未満100以上105未満105以上110未満110以上1 15未満
115以上120未満
120以上
(%)
(注)1.調査対象は図表3注1参照。
2.横軸は、中心市街地活性化法施行前の人口を100とした場合の、施行後の数値。
(資料)総務省『中心市街地の活性化に関する行政評価・監視結果報告書』2004年
図表5:中心市街地活性化法前後における従業員数の推移別にみた中心市街地の割合
8.3
11.7 27.5
15.8
20.0
7.5
3.3 1.7 2.5 1.7 0
5 10 15 20 25 30
80未満
80以上85未満85以上90未満90以上95未満95以上100未満100以 上105未満
105以 上110未満
110以 上115未満
115以
上120未満 120以 上
(%)
(注)1.調査対象は図表3注1参照。
2.横軸は、中心市街地活性化法施行前の従業員数を100とした場合の、施行後の数値。
(資料)総務省『中心市街地の活性化に関する行政評価・監視結果報告書』2004年
図表6:中心市街地活性化法前後における、
中心市街地の人口、商業、事業所関連統計の推移
中心市街地の数値が減少した市町の割合
人口数
69%商業販売額
94%事業所従業員数
83%当該市町に占める中心市街地の割合が低下した市町の割合
人口
72%商業販売額
88%事業所従業員数
73%人口、商店販売額、事業所従業員数の 3 項目で 当該市町に占める中心市街地の割合が低下した市町の割合
3 項目全てで低下
61%どれか 1 項目で上昇
27%どれか 2 項目で上昇
10%3 項目全てで上昇
2%(注)1.調査対象は、図表3注1参照。
2.人口は97年と03年を比較、商業関連は97年と02年を比較、事業所関連は96年と01年を比較。
(資料)総務省『中心市街地の活性化に関する行政評価・監視結果報告書』2004年
4. 新まちづくり3法の概要
新まちづくり3法7の特徴を端的にいえば、中心市街地活性化という目的を果たすために、
これまでの旧まちづくり 3 法をより強化する方向で改正されたものといえる。具体的には 以下のようにまとめることができる。
・ 中心市街地は、商業の中心地というだけでなく、様々な都市機能が集積し、地域の発展 に重要な役割を果たしている「まちの顔」8であるとし、中心市街地の都市機能の増進 および経済活力の向上のために、商業機能だけでなくその他の都市機能を中心市街地に 集中させる、いわゆるコンパクトシティ構想が前面に出ている。そのために、郊外開発 規制が徹底される。
・ 国が各中心市街地活性化計画を選別し、意義ある計画のみ支援する。
・ 幅広いまちづくり関係者が参加する中心市街地活性化協議会でまちづくりを議論する。
以下ではこれらについて詳細に記していく。
(1) 「コンパクトシティ」の必要性を強調
中心市街地に様々な都市機能を集中させた都市はヨーロッパを中心とする海外で「コンパ クトシティ」と呼ばれる。旧まちづくり 3 法においてもこの「コンパクトシティ」を目指 す考えは盛り込まれていたと思われる。しかし、新まちづくり 3 法の法案審議過程では、
コンパクトシティ構想を明確に打ち出している青森市や福島県の関係者へヒアリングが行 なわれるなど、新まちづくり3法は旧まちづくり3 法よりも、よりコンパクトシティ構想 が強調されることになっているのは間違いない。
その背景には、少子高齢化の急速な進展と人口減少社会の本格的な到来、環境問題に対す る関心の高まりなどがあげられよう。少子化が一向にとどまる気配をみせないなか、団塊 世代の大量引退が 07 年に迫り、これまで高齢化が進展してきた三大都市圏外だけでなく、
三大都市圏内でも急速な高齢化の進展が予想されている。また05年は日本の総人口が戦後 初めて減少したが、それまで過疎化が進んだ周辺都市からの人口を吸収する形で繁栄を享 受していた各都道府県の県庁所在地でさえも、多くの都市で今後の人口減少が避けられな い状況になっている。
このような状況下でこれまでのようにモータリゼーションの進展などを背景として、都市 機能の郊外への拡散を認め続ける場合、様々な困難な事態が予想される。例えば、自動車 の運転が不自由になる高齢者が増える可能性を考えると、公共交通網をより拡充すること
7 旧まちづくり3法のうち、大店立地法は改正せず、残りの改正都市計画法、中心市街地活性化法が改正 される。なお旧まちづくり3法において中心市街地活性化法の正式名称は「中心市街地における市街地 の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」であったが、今回の改正で中心市街地活性 化という政策目標をより明確化するという観点から「中心市街地の活性化に関する法律」に変更された。
なお新まちづくり3法は、06年2月6日に閣議決定され、通常国会で成立の見込みである。
8 法案では「地域における社会的、経済的および文化的活動の拠点となるにふさわしい魅力ある中心市街 地を形成する」となっている。
が必要であるが、これには巨額の公共投資が必要となる。
また05年の「クールビズ」ブームなどにみられるように、近年、環境に対する関心がま すます高まっているが、車社会を前提にした都市は、車の利用が減らないばかりでなく、
郊外の自然を開発で破壊するなど、環境にやさしいとはいえない。地域での環境負荷を少 なくするには、都市機能を中心市街地に集中させる方が望ましいといえる。
(2) 大規模小売店の郊外出店を規制
旧まちづくり3法では郊外開発規制が欠如していたために、郊外の開発に歯止めがかから なかった。そもそも都市計画において郊外も中心市街地も開発する地方自治体が少なくな かった。
また商業機能においても、中心市街地の商店街に多い中小小売店を保護するために、行政 が大規模小売店の中心市街地への出店を強く規制することで、結果的に規制の少ない郊外 へ大規模小売店が進出することになった9。
そこで新まちづくり3法では、中心市街地の活性化のために郊外における大規模小売店10 の出店を規制している。具体的に都市計画については市町村でなく都道府県の許可を求め るものに改正される。これまでも市町村の判断で郊外への大規模小売店の出店を規制でき たが、市町村単位での規制であったため、近隣自治体が反対しても当該自治体が税収や雇 用の増加への期待から郊外の大規模小売店の出店を許可する例が少なくなかった。新まち づくり 3 法では、大規模小売店の立地の調整を都道府県が担うこととなり、近隣自治体で 利害が対立することも少なくなかった大規模小売店の出店は広域的な視野から調整される。
また大規模小売店の出店可能な土地が以前と比べるとかなり少なくなる。都市計画法の適 用区域内に占める面積でみると、新まちづくり 3 法により大規模小売店が出店できる地域 は、旧まちづくり3法の約9割から5%以下に激減する11。
このように、この大規模小売店の出店規制については、出店そのものを不許可にするもの ではなく、大規模小売店が将来のまちづくりに必要かどうかを関係者がよく調整するとい うことになっている。ただし、出店可能な面積が急減しているため、関係者間の意見の集
9 大店法は中心市街地の個店を保護するために大規模小売店の出店を厳しく規制した。しかし、中心市街 地活性化のために中心市街地の核となる大規模小売店の存在が見直されるようになり、旧まちづくり 3 法の大店立地法では、交通渋滞、駐車場不足といった、店舗周辺の生活環境の悪化に配慮できるなら、
大規模小売店が中心市街地でも出店できるものとなった。
しかし、店舗周辺の生活環境への対応の難易度を考えれば、中心市街地よりも郊外の方が出店しやす い。しかも旧まちづくり3法の改正都市計画法では、都市計画の裁量は地方自治体に委ねられており、
郊外の地方自治体は税収や雇用の増加期待から大規模小売店の郊外出店を歓迎した。このような背景か ら、大規模小売店の郊外出店は進んでいった。
10 正式には「特定大規模建築物」。これまでは大規模「小売店」が規制の対象であったが、新まちづくり 3法では大規模小売店だけでなく、大規模アミューズメント施設なども規制対象に含まれる。
11 床面積1万㎡を超える大規模小売店が出店可能な用途地域は、現行の6用途地域から3用途地域 (近 隣商業地域、商業地域、準工業地域)に制限される。ただし新たに出店不可となった3用途地域(第 2 種住居地域、準住居地域、工業地域)でも、用地地域の変更や用途制限を緩和すれば、出店できる。
約如何に関わらず、従来よりも大規模小売店の出店が難しくなったといえるだろう。
(3) 商業以外の都市機能の中心市街地への誘導
旧まちづくり3法では、公共公益機能、業務機能といった、商業以外の様々な都市機能の 集積促進策や、居住人口の増加推進策が十分でなかった。確かに、これまで行政は、地域 内の均等な発展を目指し、図書館や公民館といったコミュニティ活動の場である公共施設 や、多くの就業者を抱える工場については、郊外立地を積極的に進めてきた(図表7)。
新まちづくり3法では商業以外の都市機能を充実させる施策を追加している。具体的には これまで開発許可が不要だった病院、福祉施設、学校、庁舎などの公共公益施設について も郊外立地が制限され、事実上中心市街地への立地を誘導する一方、居住人口増加を促進 するため中心市街地共同住宅供給事業の創設なども行なわれる。
図表7:郊外における公共施設の新規立地状況
32
14 10
5
18 22
8 17 25
13
16
10
0 10 20 30 40 50 60 70 80
1970年代 80年代 90年代
(箇所)
高校・大学
病院
文化施設
市役所
(注)政令市を除く666市のうち、回答のあった551市の調査結果。
(資料)国土交通省『平成15年度人口移動等社会経済動向と土地利用に関する調査』2004年
(4) 国による「選択と集中」の強化
旧まちづくり3法では全国で 600を超える地方自治体から中心市街地活性化計画が提出 されてきたが、前述のようにほとんど成果が出なかった。その背景には地方自治体の作成 した計画が不十分で、計画段階で施策の効果が疑われるようなものもあったと思われる。
例えば、中心市街地といいながらその広さは非常にばらばらであり、あまりに大きな範囲 を中心市街地に認定している地方自治体がある。また、計画当初はTMO構想がありながら、
実現している地方自治体が少ない。つまり計画の実効性に乏しい地方自治体が少なくなか ったのが実情である。
そこで計画の実効性を高めるため、新まちづくり3法は地方自治体が作成する基本計画を 内閣総理大臣が認定する制度を創設し12、中心市街地活性化に意欲的に取り組む地方自治体 を重点的に支援する。各自治体はこれまでの中心市街地活性化計画を全面的に見直したう えで、国の審査を受ける。つまり、やる気のある中心市街地のみを国が重点的に支援する こととなる。
(5) 多様な民間主体の参画
旧まちづくり 3 法では中心市街地に大きな影響を与える大規模小売店出店について直接 利害関係のある地権者や商店街関係者による合意形成が基本とされてきたが、新まちづく り 3 法では直接的な利害関係者だけでなく、周辺住民や地方自治体などが地域の開発に対 して合意形成を行なうとされている。そのため新まちづくり 3 法では、それまでまちづく りの中心的な役割を担うとされていたTMOは発展的に解消され、それに代わる新たな組織 として「中心市街地活性化協議会」が設けられる。その中心市街地活性化協議会には地方 自治体や事業者、一般的なNPO法人13が参加することができるなど、多様な関係者の参画 による取り組みの実現が図られることになる。
また、計画当初に比べて外部環境が変化しているにも関わらず、都市計画や中心市街地活 性化計画などまちづくりに関する計画が硬直化している現状を反省し、新まちづくり 3 法 で中心市街地活性化協議会の議論の結果を柔軟にまちづくりに反映できるよう、新たに「都 市計画提案制度」を設けている。これにより、多様な参加者からのまちづくりにおける自 主的な取り組みが促進されることが期待されている。
12 旧まちづくり3法では国の施策が縦割りであったことも問題といえる。特に道路などを整備する国土交 通省関連施策と商店街を振興する経済産業省の施策の連携は完全だったとはいえない。その反省を踏ま えて新まちづくり3法では内閣総理大臣をトップとする「中心市街地活性化本部」を設け、関連官庁は そこで各種施策の連携を図るとされている。
13 旧まちづくり3法でも05年よりNPO法人がTMOになることができるようになったが、地方公共団体 がNPO法人の構成員であることが求められ、商工会・商工会議所と共同でTMO構想の申請を行なう法 人に限定されていた。
5. 国内外の事例にみる中心市街地活性化の課題
このように新まちづくり3法は大規模小売店の郊外立地規制などにみられるように、旧ま ちづくり 3 法の重点施策であった中心市街地における商業機能活性化を引き続き重視しな がら、商業機能以外の様々な都市機能も集約したコンパクトシティを実現しようとするも のである。
しかし中心市街地の衰退の背景にある、モータリゼーションの発展などに伴う住民や大規 模小売店の郊外進出には一定の経済合理性がみられ、住民も郊外の生活に適応している。
そのため旧まちづくり 3 法はうまく機能しなかった。このような状況下で、郊外開発規制 を柱とするコンパクトシティ構想は関係者のコンセンサスを得て、期待される効果を発揮 できるのだろうか。またコンパクトシティを実現するため、具体的な施策の担い手、すす め方などは、新まちづくり3法の内容で十分なのだろうか。
これらの疑問については、海外や日本国内の先進事例から多くの示唆が得られる。そこで 内外の事例を通じて、中心市街地の商業機能活性化やコンパクトシティ構想のあり方など を検証する。
(1) 英国の事例
a. 消費者の支持を得た巨大ショッピングセンター
一般にヨーロッパでは過去一貫して大規模小売店の郊外出店を規制してきたといわれる が、少なくとも英国ではそれは当てはまらない。英国では80年代の保守党時代の規制緩和 の結果、90 年代に入り、郊外で巨大ショッピ ングセンターが続々誕生した。メドウホール
(ノッチンガム、Nottingham郊外)、トラフ ォードショッピングセンター(マンチェスタ
ー、Manchester郊外)、レイクサイドショッ
ピングセンター、ブルーウォーターショッピ ングセンター(共にロンドン、London郊外)
などが著名な事例で、店舗面積は10万㎡以上 におよび14、1万台以上の車が収容可能な駐車 場を備えている。これらの多くは産業構造転 換の結果で遊休地となっていた工場や炭鉱の 広大な跡地が開発されたものである。例えば 中心市街地活性化の成功事例として名高い、
イングランド中部のノッチンガムから車で
14 日本で店舗面積10万㎡以上の郊外型ショッピングセンターは「TOKYO BAYららぽーと」(約12万
㎡、駐車可能台数8,000台)のみといえる。
Gravesend
<イングランドの地図>
(注)本文中で言及した都市を四角形で囲んでいる。
1時間ほどにあるメドウホールは巨大な製鉄所跡地にあり、下記の左画像にみられるように その記念として製鉄作業のモニュメントが店舗内にある。また欧州最大級とされるブルー ウォーターは99年にロンドン郊外の巨大な石灰岩の採掘跡地を再開発したものである。
これらの巨大ショッピングセンターは消費者の大きな支持があったこともあり、相次いで 建設された。前述のブルーウォーターを筆者が訪れたのは平日の日中であったが、駐車場 はほぼ埋まり、大変な賑わいであった。巨大ショッピングセンターが消費者に支持された のはその巨大さだけではない。このショッピングセンターは下記の右画像にみられるよう に、端に有名スーパーなど 3 つの基幹店を配し、その間を中小様々な店舗の並んだ広い通 りで結ぶという、消費者の回遊性に配慮した店舗配置となっている。また広い通りに並ぶ 中小の店舗は総じて間口が狭く、奥行きのある、やや細長い作りとなっている。各店の間 口が狭いため、消費者が通りをあまり歩かなくても数多くの店を効率的に回ることができ る。筆者は実際にショッピングセンター内を歩いてみたが、巨大ショッピングセンターに もかかわらず、それほど苦にならず全てを歩いて回ることができた。このように巨大ショ ッピングセンターでは消費者の支持を得るため、消費者が歩きながらショッピングを楽し めるよう、様々な工夫がなされている。
<メドウホールの製鉄作業のモニュメント> <ブルーウォーターの店舗配置マップ>
(注)本稿の画像は全て筆者撮影のもの。
また巨大ショッピングセンターは開店時間でも消費者の支持を得ている。例えばイギリス では「テスコ」などの大規模スーパー、コンビニ、ドラッグストア形式の店を除けば、商 店は18時頃にはほぼ閉店してしまい、商店街といえどもかなり寂しい雰囲気が漂う。その ため中心市街地の商店街でも治安が悪いところが少なくない。しかし郊外の巨大ショッピ ングセンターはショッピングセンター内の治安の良さを背景に21〜22時程度まで営業時間 を延ばし、収益を上げている。中心市街地の治安を良くして、営業時間を延長して収益を あげる手法を、英国では「イブニングエコノミー」と呼んでいるが、そのモデルは郊外の 巨大ショッピングセンターにある。次頁の左画像は平日20時すぎのメドウホール内の様子 だが、閉店まで大変な賑わいであった。
さらに巨大ショッピングセンターは、消費者が買い物だけでなく、映画や食事などを買い物 と一緒に行なうことに配慮して、映画館や飲食店を充実させている。下右の画像はトラフォ ードショッピングセンター内のファーストフードの飲食スペースで、巨大液晶画面で映像を 見ながら、一度に数百人が飲食できる。回りには多くのファーストフード店が並んでいるが、
もちろんファーストフード以外の専門飲食店も違うフロアに多数出店している。
<夜のメドウホールの賑わい> <トラフォードの飲食スペース>
b. 環境配慮のための大規模小売店の郊外出店規制
しかし、98 年に政策は大きく変更された。元来、英国の土地利用規制では、大規模小売 店の出店は全ての地域で許可が必要になっており、その許可の基準となる指針は、中心市 街地での開発を促進する中央政府の方針「PPG6(Planning Policy Guidance 6)」である。
PPG6は88年に制定されて、その後、段階的に強化され、 96年の改正で事実上、大規模 小売店の郊外出店は不可能になった。その方針では、大規模小売店が出店する場合、まず は中心市街地およびその周辺に出店が可能かどうかを検討すべきとされ、やむをえず郊外 に出店する場合には、大規模小売店へのアクセスのための公共交通手段の充実が求められ るようになったからである。公共交通手段の充実には地方自治体による莫大な財政支出が 必要だが、たった一つのショッピングセンターのためにその財政支出を行なうことに対し、
住民の同意を得るのは容易ではない。
さらに重要な点はこのPPG6の目的が、環境保全を第一とするもので15、中心市街地の既 存の商店街を保護するためのものでないことである。郊外のショッピングセンターの繁栄 よりも、中心市街地の商業機能活性化の方が結果的に地域全体での自動車の利用が減少し、
環境にやさしい。さらに自動車の利用を減らすために、中心市街地での交通規制の強化や
15 環境保護の観点は細部までかなり徹底されており、例えば中心市街地における既存の施設の改築・再利 用促進を図るとされ、これは結果的に趣ある古い町並みをできるだけ残すことにもつながっている。ま た中心市街地で新設される施設についても同様であり、例えばノリッジの中心市街地に進出したショッ ピングセンターは、エスカレーターを極力減らし、階段で代用させたうえ、夏でも冷房が不要なように、
窓を大胆に確保するなど、通風性に配慮した施設になっている。
公共交通の充実などが並行して行なわれている。05 年春に現地で取材した限りでは、英国 でもモータリゼーションが進み、自動車の利用による快適な郊外ライフは多くの住民の志 向であり16、そのような快適さを損なうことに対して住民の不満は少なくないものの、環境 保護という観点からはいたしかたないと考えているようだ。
例えば、前出の著名巨大ショッピングセンターのうち、レイクサイド、ブルーウォーター のどちらにも近い、ロンドン郊外のグレイブスエンド17では、中心市街地活性化のため、車 の中心市街地への乗り入れを禁止している。下の左画像は中心市街地の目抜き通りである が、このように中心市街地は完全に歩行者天国になってしまった。
またメドウホールに対抗するため、イングランド中部にあるノッチンガム市は中心市街地 を歩行者天国にする一方、中心市街地までのトラムと呼ばれる路面電車(下、右画像)な どの公共交通を整備した。
<グレイブスエンドの歩行者天国> <ノッチンガムのトラム>
c. ビジネス感覚重視の「タウンセンターマネジメント」
英国の中心市街地の活性化で大きな役割を担っているのは「タウンセンターマネジメント
(Town Centre Management、以下TCMと略す)」と呼ばれる組織である。TCMは、中心 市街地の商業活性化に郊外のショッピングセンターの成功モデルを導入し、中心市街地全体 をショッピングセンターのように一体的に活性化することを目指している。これは日本の TMOとほぼ同じといえよう。英国では全国で数百にのぼるTCMがあるとみられている。
しかし日本のTMOとの重要な相違点は、TCMがビジネス感覚を重視し、中心市街地活 性化のために大手小売業を営む民間企業と積極的に連携していることであろう18。この傾向
16 欧米諸国では日本と違い、中心市街地の衰退とそれに伴う治安悪化を背景に、富裕層においても郊外志 向が非常に根強いことに留意する必要がある。例えば英国では、ロンドン中心部のメイフェアーなどの 一部の例外を除いて、自然豊かな郊外ほど富裕層に人気であり、中心市街地にはどちらかといえば公共 住宅が充実し、所得の低い階層が住むというイメージが残存している。したがって、中心市街地の居住 促進は行なうものの、郊外の住民が中心市街地に来る際の利便性を図るためにも、PPG6 では中心市街 地での共同駐車場の整備を推奨している。
17 グレイブスエンド(Gravesend)は人口10万人程度のグレイブスハム市の中心市街地である。
18 企業が中心市街地活性化に積極的に関与する背景には企業の社会的責任ということもあるが、中心市街
は特に大都市部で顕著であり、「マークス&スペンサー」、「ブーツ」19などの企業が積極 的にまちづくりに関与している。これらの企業はTCMへの資金援助はもちろん、中心市街 地へ大規模小売店を出店させることで、活性化において決定的な役割を果たしている。日 本のTMOの事業の多くが、国や地方自治体の補助金に全面的に依存しているのと対照的で ある。
一般的なTCMの形態は、地方自治体、住民で構成されるNPO/NGO、商店関係者、スポ ンサーである企業など、様々な関係者で構成される理事会20が、中心市街地の将来像とその 実現のための事業方針を立てる。事業方針を具体的に実現可能な企画に練り上げるのが理 事会に任命されたタウンセンターマネージャーである。2、3年程度の中期計画と1年程度 の短期計画が財源、事業主体とともに明示される。
またTCMは日本のTMOのようにいわゆる無償ボランティアを中心に構成されているわ けではない。例えばTCMで重要な役割を担うタウンセンターマネージャーは専従職で、一 般的な会社員や公務員と見劣りしない報酬が支払われる。タウンセンターマネージャーは 任期が数年で、新聞紙上などで公募される。タウンセンターマネージャーの前職は様々で あるが、民間企業出身者も少なくないようで、例えば訪問先のイングランド東部のノリッ ジ(Norwich)のタウンセンターマネージャーも企業の広報部門担当経験者であった。
d. 中心市街地で目立つ全国チェーン店
ここで重要なのは、英国の中心市街地の商業機能については消費者の利便性向上のために 競争的環境が保たれるよう、中心市街地活性化策が厳格に運用されていることである21。そ のため英国で活性化している中心市街地のほとんどにショッピングセンターが存在してい る。
例えば英国で最も成功した事例とされるノッチンガムには、単体ではメドウホールより見 劣りするものの、店舗面積が数万㎡にものぼるショッピングセンターが二つ存在している。
そのうちの一つである「ブロードマーシュセンター」は入口こそ周りの景観に配慮してい る(次頁、上左画像)が、中身の基本的な特徴は施設、構成店舗とも郊外の巨大ショッピ ングセンターとあまり変わりない(次頁、上右画像)。2階程度のフロアで構成され、吹き 抜けを作って開放感をかもしだし、ブーツのような「ナショナルブランド」ともいわれる
地が活性化すれば中心市街地に出店している企業にとっても利益になるということがある。
19 「MARKS & SPENCER」:やや高級なスーパー。「Boots」:ドラッグストア。この二つは活性化し ているとされる中心市街地の二大ブランドといえる存在である。
20 横森(2001)によると、理事会の構成バランスは様々であり、官民半々が多いものの、地方自治体が全 面的に運営あるいは主導するところも少なくなく、また民間主導で行なわれるところもある。例えば、
05 年春に訪問したノリッジでは、TCM は地方自治体がイニシアチブを担っており、任命されたタウン センターマネージャーも地方自治体職員の形態をとっていた。
21 例えば、05年春に訪れたイングランド東部のノリッジのタウンセンターマネージャーは、中心市街地の 商業機能を誰が担うのかは住民の「choice」に委ねられるべきとし、既存の中小小売店が激しい競争にさ らされるのは当然のこととしている。
<ノリッジの複合施設>
全国チェーンの小売店が多数出店している。ノッチンガムではこのようなショッピングセ ンターを複数配置して来場者の回遊性を確保しており、市内が一つの巨大ショッピングセ ンター化しているのがわかる。さらにイングランド北部にあるリーズは古い町並みを生か した中心市街地活性化で日本でも著名であるが、そこにはほどよい感覚で並ぶショッピン グセンターが四つもあり、それらから生まれる回遊性が中心市街地に最も大きな意義をも たらしていると考えられる。
これらの都市においてショッピングセンター以外に出店している小売店では、いわゆる青果 や魚などを販売する「市場」、ショッピングセンターにないブランドショップ、いわゆるマ ニア向けの専門店が目立つ程度である。英国では中心市街地において既存の中小小売店を保 護せず、郊外はもちろん、中心市街地においてもショッピングセンターが出店している以上、
それらとの差別化ができる中小小売店だけが生き残ることができるのも当然であろう。
<ノッチンガムの中心市街地のショッピングセンター>
e. 国の補助金の「選択と集中」
英国では中心市街地活性化のための国の補助金についてコンペ方式が導入されている。例 えば、ロンドンから列車で2時間、イングランド東部にあるノリッジ(Norwich)市ではコ ンペ方式により、職業紹介所、職業訓練所、図 書館、観光案内所、英国国営放送BBCノリッ ジ支局、高級飲食店、駐車場、集会広場を合 わせた複合施設を中心市街地の旧図書館跡地 に建設した(左画像)。ノリッジのタウンセ ンターマネージャーによると、ノリッジは中 心市街地活性化の取り組み開始を世間にアピ ールし、中心市街地に投資を呼び込む効果を 狙ってこの複合施設を建設したそうだ。斬新 なデザインで建築関係の賞を獲得したこの施 設は、複合施設のシナジー効果もあって予想 以上の賑わい効果があったうえ、駐車場収入が着実にあがり、既に単年度黒字となってい
る。またブルーウォーターと同じ運営会社が経営するショッピングセンターがノリッジの 中心市街地に出店し、中心市街地への民間の投資を呼び込むことに成功した。
補助金のコンペ化は、従来の、基準さえ満たしていれば給付される「バラマキ型」の補助金 と違い、より素晴らしいアイデアを生む可能性が高い。今回の事例のように、行政の補助金 が民間投資のきっかけ作りに使われるという、「前向きな」提案が増えてくると思われる。
f. 英国式中心市街地活性化事例から得られる示唆
このように英国のコンパクトシティ構想は環境保護という明確な政策目的で住民の支持 を得ている。この点で日本のコンパクトシティ構想が英国の環境保護のように多くの住民 に納得できるような明確な政策目的をもっているかどうか、現段階では疑問の残るところ であろう22。新まちづくり3法の目的をみても、少子高齢化・人口減少への対応と環境の保 護とが併記されており、政策の目的そのものがやや曖昧であるように思われる。関係者間 の議論が錯綜して、政策への合意形成を難しくしてしまう可能性が高く、実施される施策 は英国ほど徹底されたものにはならないであろう。
次に日本の新まちづくり3法でも「選択と集中」がうたわれているが、英国のコンペ方式 の長所がうまく生かされるように運用されることが期待される。
さらに英国では中心市街地活性化において、郊外のショッピングセンターのノウハウを活 用し、中心市街地全体をショッピングセンターにするというTCMが一定の成果をあげてい る。専従の専門家がタウンセンターマネージャーとしてTCMを指揮しており、後述する日 本のTMOの現状からみると、英国は日本に比べてまちづくりを担う組織がかなり充実して いる。
ただし、TCMが機能するためには、民間企業の協力が重要である。逆にそのような民間 企業の協力が得られにくい、つまり経済的なポテンシャルが低い中小都市では、中心市街 地活性化のツールが治安対策、清掃などに限られるのが現状である。例えば、05 年の英国 滞在中、TCMの全国組織であるATCM(Association of Town Centre Management)のイ ングランド中部のカンファレンスがノッチンガム郊外のブーツ本社で開催された。そこで 中小都市のタウンセンターマネージャーがブーツの TCM 担当者に支援を訴える場面があ ったが、ブーツ担当者からは色よい返事がもらえず、少々がっかりしていた。大規模小売 店という民間企業の投資を呼べないような都市ではなかなか展望が開けない。この点では、
日本の中小都市における中心市街地活性化の限界を感じさせるものであった。
また経済的ポテンシャルのある大都市でも、ショッピングセンターの出店には障害が少な くない。その最たるものが地権者23である。英国では中心市街地近くに産業革命期からの工
22 その他でも中心市街地の範囲において日英に相違がある。英国では中心市街地は昔から明確に存在し、
住民の間でどこが中心市街地であるのか、共通の認識がある。地図上も「Town centre」と明記されてい る。一方,中心市街地の範囲でやや曖昧さが残る日本では、その範囲制定においても合意が容易ではな いであろう。
23 英国では土地の最終的な所有権は王室にある。ただし土地に関して個人の権利は存在する。フリーホー
場が少なからず残っており、それらは土壌汚染などの問題から地価が安い。地方自治体が 安価で引き取って環境対策を施して、まとまった遊休地としてショッピングセンターに転 用できる。しかし、そのような大規模遊休地がないところでは、ショッピングセンター誘 致が地権者の反対で進まない事例も少なくないようだ。例えば中部イングランドの大都市 マンチェスターでは、中心市街地におけるショッピングセンター出店のためのスペース確 保が地権者の反対で進まなかった。転機になったのは IRA(アイルランド共和軍)のバス ターミナル爆破事件で、その結果、バスターミナル傍にあった「市場」の改装が必要とな り、それらを一体としたショッピングセンターが誕生した(下の 2 画像、左はフロア案内 図、右は地下に入っている「市場」)。
<マンチェスター中心市街地のショッピングセンター>
このように中心市街地活性化のようなまちづくり分野では、現在の市場原理のなかで完全 に消化しきれない「外部不経済」が存在する。例えば空き店舗はそのオーナー自身にとっ ては合理的行動であっても、空き店舗の生む、寂しげな雰囲気が周りの店に悪影響を与え ているので、周りの店からすれば空き店舗のオーナーに補償してもらうか、あるいは空き 店舗を埋める努力をしてもらいたいということになる。また逆に繁盛店で人通りが増える と周りの店には良い影響があるが、繁盛店が来店者を増やすために投資した額を周りの店 が分担するわけではないので「フリーライド(ただ乗り)」の問題が発生する。自分が努 力するよりも周りの努力に「フリーライド」した方が楽だからである。
この点はTCMにおける財源問題にも表われている。TCMの財源は国、地方自治体、EU からの各種補助金やスポンサーからの寄付であるが、安定的な財源とはいえない。事業に 対応した安定財源を確保するためには、事業から利益を得る関係者から資金を得ることが 最も理にかなっているが、反対する者から強制的に徴収することができない。ここでも「フ リーライド」の問題が発生している。
前出のATCMは現状の制度の枠組内での中心市街地活性化における合意形成の難しさを
ルドとリースホールドとよばれるもので、前者は日本の所有権に、後者は賃借権にほぼ該当する。
認識しており、従来より、中心市街地活性化の意思決定ツールとして米国のBID制度(「米 国の事例」で詳述)の導入を強く望んでいる。BID 制度とは端的にいえば、都市開発事業 で利益を得る関係者から利益に応じて強制的に開発資金を徴収できる制度である。しかし 現在は、地権者を除く形での主に事業者を対象にしたBID制度がようやく04年から施行さ れたにとどまっている。ATCM はTCM の実効性を高めるため、引き続き地権者を含めた BID 制度の創設を政府に強く働きかけている。このようにまちづくりにおける外部不経済 の問題は、英国でも大きな問題であり、中心市街地の商業機能活性化における根本的な課 題といえるものである。
(2) 米国の事例
ここでは米国の中心市街地24の活性化策を通して、抜本的な成長管理政策である「スマー トグロース」政策と、外部不経済の解消に一定の回答を与えてくれるBID制度を紹介する。
a. 郊外の居住環境保護から始まった成長管理政策
アメリカでは、州によって法律が異なるが、一般的に、郡や市町村といった地方自治体レ ベル25で、土地利用や公共施設整備などを規制する「ゾーニング制度」が採用されている。
郊外開発規制もこのゾーニングをもとに行なわれ、規制されている施設を建設するために は周辺住民の賛同を得るなどの、厳しい諸条件を満たさなければならない26。しかし開発に 関する厳しい条件によって、郊外での開発がより進んだ面もあるとされる。開発に反対が 少なくない、地域の地理的中心部(ダウンタウンと呼ばれる)よりも、反対が少ない郊外 の方が容易に開発できるためである27。また郊外の近隣自治体が税収や雇用の増加を期待し て開発に賛成すれば、当該自治体が郊外開発に厳しい条件を課してもあまり意味がない。
ダウンタウンが衰退していることや、郊外に居住志向をもつ住民が少なくないこともあい まって、郊外の開発については、これを全面的に禁止するのではなく、州の都市計画や周 辺のいくつかの都市共通の都市計画に連動する形で、これを期限を区切って受け入れるこ とができるという郊外開発の「総量」を定める制度が現われた。具体的な規制には様々な レベルがあるが、基本的に関係する地方自治体28はこの規制に沿って開発を進めることが望
24 日本の中心市街地との対比のために、ここでは地域の地理的中心であるダウンタウンを指す。米国では 賑わいをストリート単位でとらえることから、人通りの多いストリート(メインストリート)周辺が中 心市街地と考えられており、地理的にみれば郊外に位置していてもメインストリートは存在する。
25 米国は連邦国家で、連邦を構成する州は通常、地方自治体には含まれない。
26 郊外の開発規制では、郊外に住む高所得層による、低所得層の排他性が問題とされる。例えば、宅地面 積の下限を高めに設定することで、低所得層の郊外での住宅購入の機会が排除されているのではないか、
という疑問が残る。これについては西浦(2001)が詳しい。
27 米国のゾーニングと郊外開発の関係については原田(2006)が詳しい。
28 開発規制は一種の私権制限であるので訴訟リスクが存在する。例えば地方自治体が州の定めた計画に連 動する形で開発規制を設けた場合、開発の根拠が明確になり、地方自治体の訴訟リスクを減じることが できる。これについては西浦(2001)が詳しい。もちろん州は現在も訴訟リスクを抱えており、裁判で 敗れ、補償を求められたり、規制緩和が必要になったりする事例が出ている。