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溶存メタンを指標に用いた富山湾海底湧水地下水の地球化学的研究

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1.は じ め に

地下水が海へ直接流入する海底地下水湧出(Sub- marine Groundwater Discharge)という現象は存在 こそ古くから知られていたものの,一部地域における 特異な現象であると考えられ,河川に比べその存在意 義は小さいと考えられてきた。しかし,近年の研究

溶存メタンを指標に用いた

富山湾海底湧出地下水の地球化学的研究

亀 山 宗 彦

*,

・角 皆 潤

・蒲 生 俊 敬

*,**

・張 勁

***

鈴 木 麻 衣

***

・小 山 裕 樹

***

(2004年9月6日受付,2005年2月21日受理)

Geochemical studies on submarine groundwater discharges in Toyama Bay using methane as a tracer

Sohiko K

AMEYAMA*,

, Urumu T

SUNOGAI

, Toshitaka G

AMO*,**

, Jing Z

HANG***

, Mai S

UZUKI***

and Yuki K

OYAMA***

Division of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Hokkaido University, Nishi 8, Kita 10, Kita-ku, Sapporo 060-0810, Japan

** Present address: Department of Chemical Oceanography, Ocean Research Institute, The University of Tokyo 1-15-1 Minamidai, Nakano-ku, Tokyo 164-8639, Japan

*** Department of Environmental Biology and Chemistry, Faculty of Science, Toyama University, 3190 Gofuku, Toyama 930-8555, Japan

Corresponding author ([email protected])

We present here a geochemical study on the SGD in the Toyama Bay using CH4and its car- bon isotope ratio as tracers. We found that all SGD fluids and many of land groundwaters con- tain less methane than natural water in equilibrium with atmospheric CH4. Theδ13C values of CH4in the SGD fluids range from -50 to -20‰VPDB, almost comparable or slightly higher than that of atmospheric CH4. The results suggest that most of methane in the SGD fluids had been derived from the atmosphere and a part of the CH4is oxidized in the course of groundwater flow through the aquifer, with no CH4production that is usual in highly anoxic groundwater.This is probably due to little organic matter content in the aquifer and/or a short residence time from recharge to discharge on seafloor. The low concentration and high carbon isotopic ratio of CH4

are similar to those in some of the land groundwaters. The SGD fluid in Uozu should be flowing underground along the Katagai River.

Key words: methane, carbon isotope, submarine groundwater discharge, Toyama Bay

北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻

〒060―0810 札幌市北区北10条西8丁目

** 東京大学海洋研究所

〒164―8639 中野区南台1―15―1

*** 富山大学理学部生物環境科学科

〒930―8555 富山市五福3190

連絡先([email protected]

Chikyukagaku(Geochemistry)39,131―140(2005)

(2)

(Liet al., 1999;谷口,2001; Burnettet al., 2001な ど)によって,海底湧出水の湧出量などが明らかにな ると,水収支を考える上で,また栄養塩などの化学物 質や人為起源の汚染物質を海に放出する経路として重 要であると考えられるようになりつつある。

海底湧出 水 に つ い て は,カ リ フ ォ ル ニ ア(Muir, 1986; Oberdorfer et al., 1990),マサチューセッツ

(Charette and Sholkovitz, 2002),メキシコ・ユカ タン半島(Moore, 1996),韓国(Kim and Hwang, 2002),ハワイ(Garrison et al., 2003),フランス

(Martyet al., 2001)など世界各国でその存在が報告 されている。海底湧出水が沿岸の環境に与える影響を 評価するために,国際的にも様々なプロジェクトがな されており,特に米国フロリダ沖の海底湧出水につい ては,地球化学,地球物理学,水文学など,多方面か ら先駆的研究がなされている(Back and Hanshaw, 1970; Brookset al., 1993; Bugnaet al., 1996; Cableet al., 1997; Caoet al., 1999)

しかしながら,海底湧出水の直接採取が困難なこと から,海底湧出水が輸送する様々な化学物質の量やそ の海洋への影響を定量に見積もる研究は,まだあまり 進んでいない。特に,湧出量の見積もりは,観測域の わずかな違いや観測に用いられる手法の違いによって 大きく異なるのが現状である(Liet al., 1999;谷口,

2001; Burnettet al., 2001)。また,陸上の地下水と比 較し海底湧出水の地下流路を検討する研究例は非常に 少なく,不明瞭な点が数多く残されている。

本研究では,藤井・那須(1988)などによって淡水 性地下水の湧出の存在が報告されている富山県黒部 川・片貝川両扇状地を研究対象として,海底地下水湧 出が起きている沿岸海洋域および沿岸陸上地下水中の メタンの分布を明らかにした。これは地下水中の酸 化・還元状態に対して非常に鋭敏に反応するという特 徴をもつ溶存メタンを地球科学的とレーサーとして活 用することを意図したもので,メタンの濃度・炭素同 位体組成から海底湧出地下水の地下の湧出経路を見積 もることに成功した。

2.メタン及びその炭素同位体の地球化学 ヘリウム,酸素,二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素 などの溶存気体成分は,主要陽イオンのように岩石圏 とのイオン交換平衡の影響を受けずに,地下水に溶存 したまま移動するため,トレーサーとして有用である

(Lupton and Craig, 1981; Brocker and Peng, 1982;

Tsunogaiet al., 1998など)。中でもメタンは雨水中に は微量(大気平衡値である3nmol/kg程度)しか含ま れていないが,有機物が多く強い還元環境にある水中

(たとえば,湿地,水田,河川の河口部における泥質 堆積物中など)ではメタン生成菌の作用で高濃度にな る事がある。フロリダや韓国などの沿岸域では,海底 湧出水は有機物が多く強い還元環境下にある堆積物中 を通過してくるために溶存メタンの濃度が高く,メタ ン濃度の高い海底湧出水によって起きる周辺海水中の メタン濃度異常の度合いから湧出量を求める研究もな されている(Bugna et al., 1996; Kim and Hwang, 2002)。

地下水中のメタンの濃度変化の要因として,微生物 活動による以下の4つの反応が考えられる。

A.酸素または硫酸イオンを使ったメタンの酸化反応

・CH+2O→CO+2HO

・CH+SO2−→HCO+HS+HO

B.強い還元環境下におけるメタンの生成反応

・CHCOOH→CH+CO

・CO+4H→CH+2HO

炭素の安定同位体にはCとCがある。上記にあげ た不可逆反応において,軽い同位体(C)を含んだ 化合物の反応速度は重い同位体(C)のそれに比べ てわずかに反応速度が速い。この同位体の性質を利用 することで地下水中のメタン濃度の大小に関してその 成因を特定することができる。炭素同位体比を表す δCCHは以下の式で定義される。

δCCH(‰) ={((C/C)x/(C/C)STD)−1}×1000 こ こ でXは 未 知 試 料 を,ま たSTDは 標 準 物 質

(VPDB)を意味する。

上述のAで示されたメタンの酸化反応が進むにつ れ,左辺に残ったメタンの炭素同位体比(δCCH)は 次第に大きくなる。一方上述のBで示したメタン生 成反応でも同様であり,この場合は生成するメタンの δC値が小さくなる。言いかえると,水中に溶存酸 素または硫酸イオンが共有する酸化的な環境下では選 択的に軽いメタンから酸化されるため,溶存メタンの 濃度が低くなると,その炭素同位体比は一般に重くな る傾向になる。一方,溶存酸素も硫酸イオンも欠乏す るような強い還元環境下では,メタンの生成反応が進 行するため,溶存メタンの濃度が高くなるにつれて,

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その炭素同位体比は軽くなる傾向にあることが多い。

3.黒部川・片貝川扇状地における地下水 富山県黒部川・片貝川両扇状地は,日本でも有数の 水深(約1,250m)を持つ富山湾の東側に位置してお り(Fig.1),その背後には3,000m級の立山連峰が あるため降水量が多く,勾配が急な扇状地が直接富山 湾に入り込む地形をなしている。特に片貝川扇状地で は,海岸線から扇頂までの勾配が平均2.2°と急で,降 水量が扇頂で4,000mm/yrと非常に多い。

このように,勾配が急であること,地下水が豊富で あることから,被圧地下水が海岸線に近いところで多 数自噴している。この地域における湧水の分布と扇状 地の地形との比較や,扇状地の地質に関する研究は多 くなされている(榧根・山本,1971など)。海底湧出 水についても,藤井・那須(1988),徳永ほか(2001), Zhang and Satake(2003),徳 永 ほ か(2003), Suzuki and Zhang(2003)など数多く報告されてお り,黒部川・片貝川両扇状地の海底湧出水が豊富に湧 出している数点の場所が正確にわかっている。また,

伊東・藤井(1993)では水収支バランスから海底湧出 水の湧出量が河川水の3割弱に達すると見積もってい る。さらにSuzuki and Zhang(2003)はこの地域の 海底湧出水中の高い栄養塩濃度から,富山湾の沿岸生 態系に影響する栄養塩供給量は海底湧出水が河川水の 1.6〜2.0倍と見積もっている。

しかしこれらの地下水や海底湧出水中の,溶存気体 成分の研究例はまだ報告されていない。本研究では酸 化・還元状態を鋭敏に反映するメタンを高精度で測定

することによって,海底湧出水と陸上地下水の両方の 酸化還元状態を特徴づけ,海底湧出地下水の起源とな る地下水を特定し,地下水の流動過程の考察を試み た。

4.採水と分析方法

4.1 採水

水試料が大気と接触すると大気メタンの混入や試料 中のメタンの大気への散逸がおこる。また試料を滅菌 しないと採取後に試料容器内の微生物活動によってメ タンの濃度および同位体比が変化する可能性がある。

このため本研究では内容量120mlの褐色ガラスバイ アル瓶に採水チューブを用いて,採取した水を100ml 程度オーバーフローさせて満たした後,飽和HgCl溶 液(沸騰させて溶液中のガス成分を排出済)を滅菌の ために500μ 添加した上で,凍結乾燥用ブチルゴム 栓とアルミシールを用いて気泡が入らないように密封 し冷蔵保存した。

本研究で分析した黒部川・片貝川扇状地沿岸域の試 料は2002年4月から2003年4月にかけて採取されたも のである。海底湧出水は約1ヶ月半おきに数回採水し た。富山湾沿岸海域の表層下の海水は船から降下させ たニスキン採水器を用い,また表面水はプラスチック 製のバケツで船上から採水した。海底湧出水は,徳永 ほか(2001)の手法を用いて,黒部では17mと33m の2地点,魚津では8mと22mの2地点,計4地 点 でダイバーが採水した。徳永ほか(2001)では,地下 水を海底面下から採取する新しい手法を適用し,黒部 川扇状地沖合い31mの地点で電気伝導 度 が175μS/

cm(海水は約40mS/cm)の淡水性地下水の採取に成

功している。そこで採水後毎回,採取した水試料の電 気伝導度を簡易電気伝導度計で測定し,採水の際に周 辺海水の混入がないかどうか確認した。また海底湧出 水の採水地点では,ダイバーがニスキン採水器を使い 海底直上約100cmの海水も採水した。陸上地下水は 自噴またはくみ上げの井戸から片貝川扇状地で16地 点,黒部川扇状地で26地点,また河川水は片貝川の表 層の水を河口から上流へと4地点でそれぞれプラス チック製のバケツで採水した(Fig.2)。

4.2 分析

褐色のバイアル瓶に保存して持ち帰った試料は,

Tsunogai et al.(2000)に示された手法によりメタン ガスを抽出し,COに変換した後,同位体比質量分析 計(Finnigan MAT 252)を用いてメタン濃度および Fig.1 Location of the studied sites.

(4)

炭素同位体比を測定した。メタン濃度とメタンのδC の分析精度はそれぞれ±6.5%,±0.3‰以内であっ た。また,溶存酸素濃度はウインクラー法で測定し た。

5.結果と考察

5.1 海底湧出水と周辺海水

魚津沖と黒部沖で採取した海水試料分析結果をそれ

ぞれTable1とTable2に示す。また海底湧出水およ

びその直上海水の分析結果をTable3にそれぞれ示 す。黒部沖と魚津沖の海底湧出水,周辺海水および直 上海水のメタン濃度の鉛直分布をFig.3,メタンの

炭素同位体比(δC)の鉛直分布をFig.4にそれぞ れ示す。メタンの海底湧出水と直上海水は2002年4,

5,6,7月 と2003年3月 の デ ー タ を,周 辺 海 水 は 2002年4月のデータを示している。

海底湧出水中のメタン濃度はすべて大気平衡の値

(約3nmol/kg)よりも有意に低かった。またその季 節変化は測定精度の範囲内であった。これに対し周辺 海水中のメタン濃度はすべて大気平衡の値よりも高 Table1 Analytical results of seawater samples in

Uozu.

Table2 Analytical results of seawater samples in Kurobe.

Fig.2 Sampling stations of submarine groundwa- ter discharge (SGD) (●) together with am- bient seawater (◇), groundwater (×), and riverwater (△) in and around (a) Uozu and (b) Kurobe.

(5)

い。海底湧出水中のメタンの炭素同位体比は,測定精 度を有意に超えてばらつきがみられるが,ほとんどの 試料中の値が直上海水や周辺海水より重い値を示して いる。このばらつきが,試料採取時の海水のコンタミ ネーションが原因であれば,試料の電気伝導度とメタ ンの濃度や同位体比に相関がみられるはずである。し かしそのような相関は認められず,Table3に示した ように海底湧出水試料の電気伝導度は非常に低く,多 く見積もっても5%程度の海水の混合があるに過ぎな い。このことから,同位体比の変動の原因は海水の混 入ではなく,海底湧出水自体の変動を示していると考 えられる。

周辺海水中のメタン分布の特徴として,表層の濃度 が大気平衡の値よりも高く(最大約100nmol/kg),同 位体比が軽い(約−60‰VPDB)ことがあげられる。

2002年4月に採取した黒部沖の海水中の塩分の鉛直分 布(Fig.5)は,表層0mの海水中の塩分が顕著に 低くなっており,河川水が表層に流入していることが わかる。またMarty et al.(2001)は河口域ではメタ

ンが生成され極大として海洋の表層に広がることを報 告している。実際に,本研究での測定結果から,上流 域に比べて河口は(採取地点はFig.2参照)河川水 中のメタン濃度は高くなる一方,炭素同位体比は軽く なるという明瞭な傾向が認められた(Fig.6)。この ことから,富山湾表層のメタン濃度の増大および炭素 同位体比の減少は河川水の流入によるものと推定され る。

また黒部沖40m以深海水中のメタン濃度は最大約 20nmol/kgと高く,メタンの炭素同位体比は−65〜

−70‰と軽い。これは,生物の死骸や糞などの懸濁粒 子が多い亜表層(水深100m付近)に特徴的なもので あり,粒子内での微小な還元環境においてメタンが生 成しできる極大層と考えられる(Oremland, 1979;

Marty, 1993)。一方,湧水直上海水を含めて海水試料

には海底湧出水に起因するようなメタン濃度異常は一 切みられなかった。

5.2 陸上地下水

片貝川扇状地と黒部川扇状地で採取した陸上地下水 Table3 Analytical results of SGD samples, together with those taken just above the

SGD.

(6)

Fig.3 Vertical profiles of methane concentrations in submarine groundwater discharge (SGD) (●), seawater (◇), and those of seawater taken just above SGD (▲) in Uozu (upper) and Kurobe (bottom).

Fig.4 Vertical profiles ofδ13CH4 in submarine groundwater discharge (SGD) (●), seawa- ter (◇), and those of seawater taken just above SGD (▲) in Uozu (upper) and Kurobe (bottom).

Fig.6 Methane concentration vs.δ13CCH4 plot for the of riverwater samples.

Fig.5 Vertical profiles of salinity at station 1 in the Kurobe estuary (Apr., 2002).

(7)

の分析結果をTable4とTable5にそれぞれ示す。陸 上地下水と海底湧出水中のメタン濃度に対する炭素同 位体比の関係(Fig.7)から陸上地下水の一部は,

メタン濃度が大気平衡値よりも低く,炭素同位体比が 大気平衡値よりも重いという海底湧出水と同様の特徴 を持っている。地下にしみ込む前には降水と同じメタ ン濃度と炭素同位体比,すなわち大気と平衡の値を もっていたが,地下水のその後の酸化還元状態を反映 して濃度と同位体比が変化したと考えられる。地下水 中に溶存酸素があるとき,地下水中のメタンは大気平 衡の値からレイリー分別蒸留の式に従って酸化される と考えられる。レイリーの式は以下のように示され る。

(δCCHt=1000(1/r−1)ln(Mt/M)+(δCCH

こ こ で(δCCHt,(δCCH,Mt,そ し てMは そ れ ぞれある時間t経過したときと反応前(t=0)のメ タン炭素同位体比とメタン濃度であり,rは同位体分 別係数(r=k/k)である。

海底湧出水と上述した一部の陸上地下水は特に片貝 川の試料においてこの酸化の曲線上によく乗ることが わかる(Fig.7)。これらの陸上地下水が海底湧出水 の直接的な起源であると推測される。また黒部川扇状 地で採取した海底湧出水のうちいくつかの試料につい ては濃度が低いながらもこの曲線上から同位体比が軽 いほうにはずれているものがある。これは少量ながら 同位体比の軽いメタンが生成したためであると考えら れる。

一方,その他の陸上地下水は還元環境下でメタンが 生成され,それとともに炭素同位体比が軽くなってお り,特に溶存酸素が欠乏している片貝川扇状地の25と Table4 Analytical results of groundwater samples

in Uozu.

Table5 Analytical results of groundwater samples in Kurobe.

(8)

いう地点では9.5×10nmol/kgという高濃度が検出さ れた(Table4)。本研究地域における海底湧出水は,

このような還元的な環境下でメタンが生成されている 地下水の影響を受けておらず,メタンの酸化がおこる ような酸化的な帯水層を通過してきたものだと考えら れる。

このことから,海底湧出水は比較的有機物が少ない 堆積物中を通過してきているか,もしくは地下に潜り 込んだ後の滞留時間が短かったと推測される。ちなみ に中口ほか(2003)は,黒部川・片貝川扇状地の海底 湧出水中の溶存有機物(DOC)を測定し,海底湧出 水 中 に はDOCが1.5〜6.5μmol/kgと ご く 微 量 し か 含まれていないことを報告しており,本研究の結果は これとよく整合している。

また,非常に同位体比が重い地下水(例えば片貝川 扇状地の地点23の試料など)がいくつかある。これは 大気と平衡にあったメタンが酸化され,その後生成す るという過程では説明できない。この地下水はおそら

く同位体比の軽いメタンが生成され,酸化的な水と混 ざり合ったり大気と触れ合ったりして酸化され,その 結果濃度が低く同位体比が非常に重くなったと考えら れる。

5.3 海底湧出水の流動経路

地下水の水平方向の流動経路を考察するために,片 貝川扇状地と黒部川扇状地の地下水を,メタンがまだ 生成されていない(大気平衡値よりもメタン濃度が低 い)「酸化的なステージ」と,メタンが生成されてい る(大気平衡値よりも濃度が高い)「還元的なステー ジ」に分類した(Fig.8)。

Fig.7 CH concentration vs.δ13CCH4 plot for the sample of SGD (●), groundwater (◆), and riverwater (△).

Fig.8 Distribution of groundwater in (a) Uozu and (b) Kurobe, together with their oxidation-reduction stages (○: Oxidation stage,×: Reduction stage).

(9)

片貝川扇状地では「還元的なステージ」の地点が扇 状地の南西に,「酸化的なステージ」の地点が扇状地 の北東の片貝川沿いに系統的に分布している(Fig.8 )。ここで,片貝川の旧河川は同様に扇状地の北東 に分布しており,「酸化的なステージ」に分類される 地下水の分布とよく相関する。また,片貝川扇状地の 海底湧出水は常に「酸化的なステージ」にあることか ら,海底湧出水は片貝川の旧河川を通ってきているこ とが強く示唆される。

黒部川扇状地では旧河川の分布と地下水の分類に明 瞭な相関は見られない(Fig.8)。これは片貝川扇 状地に比べ黒部川扇状地の旧河川が非常に広く分布し ており,旧河川の帯水層を通る地下水とそれ以外で地 域的な差がでないためであると考えられる。黒部川扇 状地では「酸化的なステージ」にある地下水が海岸近 くに広く分布しており,本研究で分析をおこなった海 底湧出水の場所以外にも,湧出域が広く存在する可能 性がある。

6.ま

メタン及びその炭素同位体比をトレーサーとする本 研究の結果,黒部川・片貝川扇状地における海底湧出 水,陸上地下水,沿岸海水について以下の点が明らか になった。

・本研究域で採取された海底湧出水は海水に比べてメ タン濃度は低く,メタンの炭素同位体比(δC)は 重い。

・富山湾の表層海水中のメタン濃度が高いのは,上記 の河川の河口域で生成されたメタンの流入によるも のと推定される。

・海底湧出水の起源となる地下水は有機物が少ない帯 水層を通過してきている,または帯水層内で滞留時 間が短いと考えられる。

・片貝川扇状地沖の海底湧出水の供給源は,メタンが 生成するほど強い還元環境を経ていない片貝川扇状 地北東に分布する旧河川の帯水層を流れる地下水と 考えられる。

・黒部川扇状地では海岸近くまで酸化的な地下水が広 く分布しており,本研究で海底湧出水を採取した湧 出域以外にも,広く湧出域が存在する可能性があ る。

近畿大学総合理工学研究科の中口譲先生には海底湧

出水中のDOCの濃度データを提供していただきまし た。富山大学理学部生物圏環境科学科の八田真理子 氏,西谷啓伸氏,萩原崇史氏,北海道大学大学院地球 環境科学研究科の成田尚史先生,近畿大学総合理工学 研究科の山口善敬氏,有井康博氏,阿比子政光氏,山 田浩章氏には試料採取時にご尽力いただきました。富 山大学理学部生物圏環境科学科の佐竹洋先生,熊本大 学理学部の嶋田純先生,総合地球環境学研究所の谷口 真人先生,東京大学工学部の徳永朋祥先生には富山湾 沖の海底湧出水に関して有益なご意見をいただきまし た。また,信州大学理学部の福島和夫先生と北海道大 学地球環境科学研究科の豊田和弘先生には,初稿を査 読していただき,論文を改訂する上で有用なコメント を多数いただきました。本研究の一部は文部科学省21 世紀COEプログラム(北海道大学新・自然史科学系 創成:自然界における多様性の起源と進化)の助成に よるものです。

(2003年9月,Goldschmidt 2003で講演)

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Fig. 2 Sampling stations of submarine groundwa- groundwa-ter discharge (SGD) (●) together with  am-bient seawater (◇), groundwater (×), and riverwater (△) in and around (a) Uozu and (b) Kurobe.
Fig. 3 Vertical profiles of methane concentrations in submarine groundwater discharge (SGD) (●), seawater (◇), and those of seawater taken just above SGD (▲) in Uozu (upper) and Kurobe (bottom).
Fig. 7 CH 4 concentration vs. δ 13 C CH4 plot for the sample of SGD (●), groundwater (◆), and riverwater (△).

参照

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