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ろうの温度による染料の浸透性と応用作品

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(1)

ろうの温度による染料の浸透性と応用作品

著者 仲川 智代

雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

11

ページ 19‑32

発行年 1988‑03

出版者 東京家政大学生活科学研究所

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009779/

(2)

 郵恥ぜ獣

 魁..薦

藩婦 徽・

麟翻細諜

ろう結染による着物

(3)

前身ごろ,おくみの部分

欝  t一

     講       副

藪総蹉

(4)

ろうの温度による染料の浸透性と応用作品

仲川 智 代

The Permeability of Days and a Work for  Applicatioll by a Temperature of wax

Tomoyo Nakagawa

序論

 大学4年の卒業制作のさいに,ろう結染によ る着物を制作しました。その時に,ろうの種類 の多さに改めて驚きを感じました。

 ろうの種類によるその性能の差が,染めの中 にどう影響を及ぼすのかということを理解して いるのと理解していないのとでは,作品にも差 がでてくるのではないかと思う。

 そこで,実際に実験を行いろうの特性を理解 した上で,自分なりに最高の条件を作り出し,

良い作品を制作してみたいと思い,今回の研究 のテーマにしました。

1.ろう結染の歴史

 日本では,古代より工芸染色が盛んであり中 でも,こうけち(纐纈)1きょうけち(爽纈)

ろうけち(膓纈)などといった,ある部分を防 染することにより模様を染めだす手法が多くと

られていた。

 もちろんこの他にも,織り方により模様を表 しだす錦,綾,羅といった絞織物も多く残され ているが,ここではろう結染と最も関係が深い ろうけちにっいてふりかえってみることにしょ

う。

 ろうけちは,その発祥地をインドとされ,後 ペルシア,エジプトに渡りさらに中国に移入さ れ,随,唐の時代に日本に伝来したといわれて

いる。

 模様をろうで防染する方法である。

 ろう防染のこの模様染は,優麗にして雅味深 いものであり,当時非常に愛好された。その製 作も多く,用途も広範囲にわたったものと思わ れている。

 日本においては,法隆寺の幡類にも使用例が みられるが,盛行したのは8世紀の正倉院ぎれ の時代であったと考えられる。

 しかし,この技法もきょうけちと同様に,平 安初期を過ぎるころから衰えはじめ,その後は 正倉院ぎれの時代である奈良時代のような作品 は,再見されていない。途絶えてしまったので

ある。

 再び,大正時代に鶴巻鶴一氏によって,ろう 結染は復興されたが,現代のろう結染と上代の

ろうけちとを比較すると大きな差があるといえ る。それは,現代のろう結は絵画的であり,上 代のろうけちは文様的であるという点である。

 その原因として,上代のろうけちの多くが,

版型によって行われていたという点にあるだろ う。もちろん,ろうけちにも現代のような筆描 式のものがないというわけではない。

(5)

 東大寺蔵葡萄唐草文染革は,筆描式であると 思われるし,また「国家珍宝帳」記載のろうけ ち屏風の中にもその主題である動物は,筆描き のようである。

 しかし,これらはごく限られた作品で,多く の遺品から考えられることに,上代のろうけち は,版型式であったといえよう。

 版型式とは,文様を彫刻した凸版型に,溶か したろうを塗り,乾かないうちに布面に押印し て防染し,染料を引いて仕上げる方法である。

 この方法については,実際には版型は,発掘 されていないが,正倉院文書中(天平勝宝八歳 写書所解・大日本古文書四巻所収)に「押ろう けち」という言葉がみられることなどでも,主 流であったと考えられる。

 ろうけちは,一色が普通であるが,二色以上 の色を用いたろうけちもある。この場合,ろう で防染したものの一部分に色差しを行い,二色 以上にする方法と,一色を染めあげてから,さ

らにろうを塗り,地染を行い二色以上にする方 法がある。後者の方法は,非常に手数と時間を 要するが,遺品の中にも多くみられる。大変貴 重なものであったといえよう。

2.現代のろう結染

チャンチンと呼ばれる道具を使って描かれたス カーフなど多くの民芸品がある。

写真1 線描きによるクッション

◆ 、

写真2 中国製型染  現在,日本におけるろう結染は,盛んに行わ

れ,着物のような布地の他,インテリア等多く の工芸品に使用され愛されている。

 その技も

① ろう散らし

② かぶり

③きれっ(クラック)

④ひっかき(エッチング)

⑤ その他

など,多くが生みだされ,その図案にふさわし い方法や,個性的な方法があみだされ,多くの 作品ができている。

 この他に,外国でも中国のように昔ながらの 型による防染法を使った布地や,東南アジアの

ご適緯︑講諜

写真3 東南アジアのチャンチンによるスカーフ

(6)

東京家政大学生活科学研究所研究報告 第11集

3.ろう結染の一般的工程

を図にトレース  布に張手・伸子を張る 一  う置き(白い箇所のみ)一→下豆汁引

国一匿爵→囲

。地色が明るい時

圏→圏一唾}→圃

。地色が暗い時(中明度),濃く暗い時

EE]一一ろうふせ 團

一匿露→アイロン脱ろう一→医魎≡

麺]一ベンジン洗い圏一匪國

一國一→アイロン仕上げ 医國

技や個人の作風の差によって若干の違いはあ るが,以上がろう結染の一般的工程である。

4.ろうの種類

 現在,使用されているろうにはさまざまな種 類があり,それぞれ性質が違っている。主に使 用されているものの特性を簡単に述べておく。

 パラフィンろう

。石油精製中にとれる鉱物性油脂で,125°F,

 130°F,135°F,140°F,145°Fの5種類ある。

。融点(熱で溶ける温度)の違いで区別されて  いる。

。粘度があまりないので,粘度のないろうは,

 筆についてくるろう分が,早く布に吸収され  やすいため多くの場合,他のろうと混合して  使用する。

。防染力は強いが,割れやすいという性質をもっ  ている。

。融点が低いもの程,描きやすいとされている  が,気温が高いと柔軟になりきれつが入りに  くくなる。また,夏季の27℃を越すときは,

布の他の部分を汚すことがあるので,融点の  高いろう(145°F)を使用するとよい。

。はぜの実より採取した植物生の油脂で,融点  は125°Fである。融点が低いので描きやすく,

布の裏へも浸透しやすい反面,にじみやすい  という点もある。

。防染力が弱いので,染料がかぶりやすいろう  であるといえる。

。植物性なので,酸化しやすい。また,不純物 が含有されているので,ろうが焦げて色がっ  きやすい。

。木ろうを日光にさらして,精製したもので,

性質はほとんど木ろうと変わりないが,粘度 は木ろうより大きく,木ろうより少し硬く,

柔軟性が少ない。

 マイクロワックス

。石油精製の途中にできる鉱物性油脂で,防染 力の強いろうである。柔軟性があり,割れに  くいのが特徴で,融点は品質によって違うが,

一般的には160〜180°Fのものが使用される。

。他のろうよりも少し高い温度で溶かさないと 筆で描きにくい。

。他のろうに混合して防染性,柔軟性,接着性 を高めるという利点がある。

ホワイトワックス

。柔軟性,防染性,接着性に秀れた白色ワック スで,熱に安定で長期間使用しても変色が少 なく,ろうの跡が残らない。

。融点が高いので他のろうと比べ少し高めの温 度で溶かして使用する。

。粘度があるので,単独で使用してチャンチン などによる線描きに適している。

 COワックス

。白ろうに似たろうで融点が白ろうより少し高 い。白ろうの代用として使用されることが多  いo

ステアリン酸

。非常にもういろうで,単独で使用した場合,

厚く塗ると布からはがれてくることがある。

イボタろう

。割れやすいろうで,厚く塗ると冷えると縮ん で自然にきれっができる。

。ホワイトワックス等を加えて,きれっを調節

(7)

する。

カルナバ

。非常に硬く割れやすいろうで,防染力も強い ので独特の細い線状のきれつが入る。

。単独では融点が高すぎ,使いにくいので他の 融点の低いろうと混合して使用する。

。防染力の強いろうで,割れにくく細い線描き に適する。

。きれっ用ではなく白色防染に使用する。

        ろうのかぶり具合の差

 この他にも多くの種類のろうがあるが,以上 が一般的に使用されているろうである。

5.ろうの温度と種類による染料の浸透度   の実験

① 目的

 ろうの温度と種類によってどれほどの差があ るか,実際に計測し,数値的に表すことができ るだろうかという疑問を,解明するために実験 を行った。

②材料

 綿布一ブロードK555

 ろう一白ろう,パラフィン,マイクロワッ      クス,ホワイトワックス

 染料一シリアスブルー6B

③実験装置

 電気ヒーター,温度計,筆,SMカラーコン ピューター

④方法

 筆によって,各種のろうを一度塗り,二度塗 りしたもにに染料を塗布し,ろう結染の一般的 工程をほどこす。それをSMカラーコンピュー ターのCILAB方式の色差式により計算したd Eによって差を表した。数値は,試験布を1.2 cmの直径をもつ円の中で,3回資料を測定した

ものの平均値である。

⑤結果

 温度によるdE(色差による汚染度)すなわ

dE

40

30

20

10

図1

dE

/へ

○一 ,,−r

『一 度塗り

一輔引齠x塗り

0 −一〒一一一一〒一一「−

   90   120   170     (°C)

        ろうの温度   白ろうの汚染度(かぶり具合)

40

30

20

10

0

図2

x塗り

一一゜ ° 度塗り

 90   120   170    (。C)

      ろうの温度 パラフィンの汚染度(かぶり具合)

(8)

∠fE

40

30

20

10

0

,et

図3

 ∠1E 40

30一

20一

10

 130   150   180

       ろうの温度

マイクロワックスの汚染度(かぶり具合)

  東京家政大学生活科学研究所研究報告 第11集

      ろうは煙はでていない。

       120℃一一ろうがすっとのびる。

      ろうは絶えず煙がでている状態。

      線が描きやすい。

      思ったところでろうがとまる。

       170℃一もうもうと煙がでている状態。

      筆にとった時,粘度がなくぽたぽ       たと流れる。

      線を描く時,すぐに筆からろうが       きれてしまう。

,4◎      すぐに広がり,形がとりにくい。

      重ねてもあまり厚くならない。

       パラフィン

ー一x塗り       90℃一粘度がほとんどない。

   二度塗り

      描きやすい。

       120℃一ろうが布をとおりこして下まで浸   (℃)       透する。

       170℃一すっとろうが筆からおち切れやす       いo

      形がきまらず広がりやすい。

一一x塗り

  二度塗り

  0

     130   150   180   (°C)

      ろうの温度

 図4 ホワイトワックスの汚染度(かぶり具合)

実際にろうを布においた時の感想とろうの様子  白ろう

  90℃一筆がすぐきれる。

     ろうはもくもくと煙がでている状     態。

マイクロワックス

130℃一ろうは煙はでていない。

    裏までとおりにくい。

150℃一ろうは常にかすかな煙がでている     状態。

    二度塗りしやすい。

170℃一もくもくと煙がでている状態。

     150℃の時よりも線が引きやすい。

ホワイトワックス

130℃一一裏までろうがとおらない。

    粘度があるのであまり広がらな      い。 150℃一低い温度より描      きやすくなったがあいかわらずべ      たっく。

170℃一描きやすい。

    形がき一まりやすい。

     ろうはもくもくと煙がでている状     態。

(9)

混合ろうのdE(色差による汚染度)すなわち かぶり具合の差

  dE

       150℃

  40

30

20

10       一度塗り

        一一゜・二度塗り

0

   9:1  7:3  5:5   3:7  1:9

      白ろう パラフィン

図5 パラフィン+白ろうの汚染度

∠1E

dE

40一

30一

20

10

 0

    9:1  7:3  5:5  3:7  1:9

 ホワイト         パラフィン  ワックス

図7 ホワイトワックス+パラフィンの汚染度  dE

      150℃

40. 40

30一

20

ユ0 一一一x塗り

度塗り

   9:1  7:3   5:5  3:7  1:9

ホワイト       白ろう ワックス

図6 ホワイトワックス+白ろうの汚染度

30

    2・ _イ/

        ←一一一 ・・層… .!

   10

      一度塗り        一一 一一一一一二度塗り

    0

       9:1  7:3  5:5  3:7  1:9     ホワイト      マイクロ     ワックス         ワックス    図8 ホワイトワックス+マイクロ        ワックスの汚染度

(10)

東京家政大学生活科学研究所研究報告 第11集

AE

40

30

20

ユ0

 0

   9:1  7:31 5:5  3:7  1:9 白ろう        マイクロワックス 図9 白ろう+マイクロワックスの汚染度

dE

40

30

20

10

  一一..s度塗り

軸゜ 度塗り

   9:1   7:3  5:5  3:7  1:9

 パラフィン     マイクロワックス 図10 パラフィン十マイクロ

      ワックスの汚染度 実際にろうを布においた時の感想とろうの様

パラフィン+白ろう

 9:1−一一パラフィンのみより粘度がある。

 7:3一粘度がますます増してくる。

 5:5−130℃くらいで煙がでてくる。

      思ったところでろうがとまる。

      重ね塗りしやすい。

 3:7一白ろうの描きあじである。

 1:9一白ろうとほとんど変わりない。

ホワイトワックス+白ろう

 9:1一粘性があるので筆からおちな       いo

      細い線引きに適している。

 7:3一粘度がある。

 5:5一さらっとした感じがでてきた。

      筆にまとわりっかなくなる。

 3:7一白ろうの描きあじである。

 1:9一白ろうとはほとんど変わりない       が少々粘度を感じる。

パラフィン十ホワイトワックス

 9:1−一布地をとおし下に浸透する。

      さらっとしている。

 7:3−一浸透していく。

 5:5一粘性がでてくる。

 3:7一筆に含ませる量を調節しなけれ       ばならない。

 1:9一筆からろうがおちないので,た       っぷりと含ませなければならな       いo

ホワイトワックス十マイクロワックス  9:1一ホワイトワックスのみよりもの       びがよい。

 7:3−一ホワイトワックスのべたつきが       なくなってきた。

 5:5−一扱いやすくなる。

 3:7一描きやすい。

 1:9一マイクロワックスのみとほとん       ど変わりないが少々粘性があ       る。

白ろう十マイクロワックス  9:1−一のびがよすぎる。

      ろうが広がり形がとりにくい。

 7:3−一一のびすぎなくなってきた。

(11)

  5:5−一重ね塗りしやすい。

  3:7一適度な粘度があり,より線が引        ける。

  1:9一マイクロワックスのみより筆の        すべりがよい。

       のびは,マイクロワックスと変        わらない。

 パラフィン十マイクロワックス

  9:1一パラフィンのみよりのびが少し        悪い。

  7:3−一描きやすい。

  5:5−一一筆がぱさっかない。

  3:7一重ね塗りしやすい。

       マイクロワックスはこのくらい        の割合で何か別のろうを混ぜる        と描きやすいように思う。

  1:9一浸透しやすい。

⑥考察

 。ろうは,一般的に150℃前後が描きやすく   効果があるとされているが,実際の結果を   みると必ずしも一致していない。

 。実際にろうを布地に置いた時に,多少手加   減があったように思う。

 。描きやすいろうは手早く置いてしまい,ろ   うの厚みが薄くなってしまったのではない   か。

 。粘度のあるろうは,描きにくいためゆっく   りろうを置いてしまったのではないか。

 。ろうの特性といわれる点一マイクロワッ   クスは防染度が高い,白ろうは低い一等   といったことが,潜在意識にあり,マイク   ロワックスは手早くろうを置いてしまった   り,白ろうは丁寧に置いてしまったのでは   ないか。

⑦ろうについての総括

 。ろうの防染力により染着効果が異なる。

 。ろうは,温度が高くなる程その粘度は小さ   くなる。

 。ろう温度によって,布に布着するろうの厚   さは異なる。

。布に置かれたろうの厚さは,ろう温度が高 い場合は薄くなり,温度が低い場合は厚く なる。

。融点の異なった2種類以上のろうを混合す ると,その混合したろうの融点はそれらの ろうの平均値より低くなる。そのためろう は,混合したほうが混合しないろうより融 点が低くなるので描きやすくなる。

。手加減により防染力をコントロールするこ とができる。

。手工芸といわれるものは,計算することの できない人間の熟練度,その時の心身状態 その他によって大きく左右されるため,数 値で表すことには無理がある。

。ろうの特性と,ろう置きの熟練度をっむこ とによってさまざまな効果をあげることが できる。

以上の他にも,一般的に次のようなことがあ げられている。

 。筆の穂の腰の長短や強弱など,筆の種類に   より描きあじが違う。

 。筆の使い方によって効果が異なる。

 。染色時の摩擦により,ろうの効果が異なる。

 。布地の組織の相違により,ろうの効果が異   なる。

 。ろうの温度は,冬は少々高めにするなどと   部屋の温度によって異なる。

 。ブルー,バイオレットなどの染料は浸透し   やすいというように染料の粘度により染め   の効果が異なる。

 。染料の濃度により浸透度が異なる。

    薄い染料く濃い染料

  淡色の場合,描くろう温度を高くするなど   と,濃色よりろうを薄くする。

 。ろうは,常に加熱していると,他の脂肪と   同じように酸化する。酸化しすぎたろうは   粘度が増してしまう。

(12)

東京家政大学生活科学研究所研究報告 第11集

6.応用作品の制作

 これまでの研究を踏まえた上で,応用作品の 制作を行う。

 大きな作品のまえに,綿布と絹布によるサン プルの制作をする。

①つけたてろう

 。かぶりを利用する方法で,白く防染される   ところを厚く,影になる部分を薄くする。

 ・遠いところから描いていくとよい。

 。実際の作品には,ろうがのびすぎたり,き   れっがはいるのを防ぐために。

   白ろう+マイクロワックス=7:3の割    合で混合したろうを使用した。

﨟@ド膝諸

写真4 つけたてろうサンプル

離.

。感想として,かぶり具合はまあまあである が,防染される部分とかぶる部分との差が 難しく大きくとらえるほうがよいのではな

いかと思われる。

。ろうの種類をさらにいろいろ変えて,部分 ごとに違うものを使用するとなおいっそう 面白い作品になるのではないだろうか。

。マイクロワックスの散らしを最初に置き,

っけたてろうの方法でろうを置いた作品も 参考としてあげておく。

灘躍覇験

 . 樋

t・s@蟹f  t 』       h

1望

  写真5

② きれつ

 。きれっのはいりやすいパラフィンのみを使   用したものと,パラフィンと白ろうを混合   した二種類を製作した。

 。裏まわりを防ぐためにマイクロワックスに   よってふちを最初にとった。

 。きれっのいれ方として布にろうを塗ってか   ら,アトランダムにきれっがはいるように   布をぎゅっと手で握りしめた。

       鱗  綴繧 灘・、搬

        灘事醗

ジ       ー .

(       ・繋嚇

__〜一.。._蜘潮_隔一綱撫礁講  散らし+つけたてろうサンプル

 写真6 パラフィン+臼ろうのきれつサンプル  。きれっによる作品は,偶然に左右されるこ   とが大きいというところが,味わい深いと   ころであると同時に,同じ模様を作りだす   のにかなりの熟練を要するという点がある。

③チャンチンによる線描き

 。東南アジアでよく使用されているチャンチ   ンと呼ばれる道具を使用した作品をっくる。

 ・防染力の強いホワイトワックスのみでは,

(13)

粘度がありすぎて描きにくいので。

 ホワイトワックス+白ろう==9:1 の割合にしてろうを置いていく。

   写真7 チャンチンサンプル

・チャンチンを使用したことがあまりないた め,模様にあわせて線を引くことはかなり 難しかった。

。ろうのでかたはよいのだが,布目の方向に よりかなり左右される。

 次に実際に大きな作品にとり組んだその経過 についてあげておく。

①題材設定

 。題材として,卒業制作の際に挑戦した日本   の伝統的文化である着物に再び挑戦するこ   とにした。

 。着物は装うものであるため,かなり制限さ   れる部分も多い。しかしその制約の中から   新しい何かが生みだされるのではないだろ   うか。

②図案

 。着物を決定する一番大切な作業である。

 。イメージとして線と面による動きというこ   とがあった。

 。そこで線描きを重ね染料を重ねることによっ   てでてくる模様によって構成された図案を   考えた。

 。図案を生かせることのできるサンプルを制   作してみる。

鱗糠

写真8 線によって構成される模様のサンプル

。目標であった動きという点に欠けるという ことが判明したため,図案を再び考慮しな おすことになる。

。動きという点と共に,時の流れの表現がで きないだろうかという点も,図案の中に含 めることになり,次のような図案が最終的 に決定した。

ノ硲

鱒! 頃〆 // /一!t鳶

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襲/

図11図案

③サンプル制作

 。モティーフは貝である。

 。サンプル1は,貝の模様をどのような手法   により表現すればよいか思索した結果,最   初に貝の形にそって筆描きしたものである。

(14)

東京家政大学生活科学研究所研究報告 第11集

。ろうの割合は,私にとって筆の運びやすい  白ろう+マイクロワックス=7:3

にした。

。次に地染を行う。

。ろうでくくった貝のまわりを「せきだしろ う」の手法でろうを置く。

  む   ハ 

。せきだしろうの注意

 。ろうを置いていく場合,布地からろうを  含んだ穂先を離さないようにする。これ   は穂先が外気に触れて,温度が下がらな   いようにするためである。

 。筆はなるべく布地に逆らわない順の方向  で行い,描き終った時筆をはねない。は  ねるとろうが布地の裏まで完全に浸みこ  まず染料が入ってしまう。

 。先に描いたろうの部分の後から描くろう  の接するところを,筆のろうでよく溶か   してっぎの部分にろうを置いていく。

 。厚いせきだしにする時は,一回目のろう  が冷却しているので,低い温度では薄い  空気層ができてしまう。一回目のろうよ   り少し高い温度で,ろうの表面を溶かし  融合させながら二回目のろうを置いてい   く。ろうの温度が高すぎると一回目のろ   うを溶かしてしまい厚くならない。

。せきだしろうでくくった影の貝が地染の色 とあわないようである。

。サンプル2は,地染の方法に重点を置き制

作する。

写真10サンプル2

。地染に淡色を用い,せきだしをしてぼかし 染をいれていく。

。しまとなる部分に,いちどにろうでせきだ ししてしまったために,はっきりとした筋 ができてしまった。

。実際の作品には,地染の後,ろうでせきだ しを一ケ所した後水張けを行い,濃色をぼ かし,乾燥を繰り返す行為をし,しまとな る部分を染めていくことにする。

    襲薄

ボ)鱒 鑑

蜘羅  糞

撚究

響醗轟灘e

  融 鱒灘     難 蝉        漁 錨

写冥11 モティーフの貝

④実際の作品の工程

 a白生地の選択一模様を生かすために地模   様のない,縮みの少ない生地を選択する。

 b湯通し一布地についているでんぷん質な   どで,むらができないように業者にだして   湯通ししてもらう。

 c仮え羽一模様の位置が正しい場所にくる   ように業者に着物の形に縫ってもらう。

(15)

d下絵うつし一水によって消える青花ペン でライトテーブルに置いた下絵を仮え羽し た着物にうっす。

eろう描き一溶けたろうを筆につけ,下絵 にそって描く。

ろうは防染剤として用いるものであるから,

必ず布の裏までとおるようにする。もしと おらない場合は,もう一度裏から線描きに そって描く。線のっなぎ目は,色がにじみ でるおそれがあるのできちんとっないでお

 く。

f豆汁引き一・30〜50粒の大豆を水にっけて ふやかし,ミキサーですりっぶし,布でこ

し,澄んだ部分を刷毛で布に引く。

効用は以下の通り。

〈防水作用〉

 。布地に引いたカゼイン(たんぱく質)が  空気中の炭酸ガスと化学作用をおこすと  不溶解カゼインになる。

 豆が澗(か)れるという。

 布地に引かれて乾き,澗れた豆は長く空  気中におかれた場合,ますます澗れ,水  を弾くようになる。

。布地が染料によって,いちどに染まると  むらになるが,豆汁を引いて布地に弱い  防水性をもたせてから染料を含んだ刷毛  で引くと,刷毛の摩擦によって染料が布  地にはいるが,急に染まらないように豆  汁が調節してくれるので染めやすくなる。

〈染料を固着させる作用〉

。染色をした時,不溶解カゼインの接着作  用によって染料が布地に接着する。

。濃い染料を染める場合には,豆汁を濃く  淡く薄い染料を染める場合には,豆汁を  薄くする。

〈光線の乱反射作用〉

。不溶解のカゼインで染まった染料を,顕  微鏡でみてみると,表面はちょうど顔料  で描いた布地のようになり,染料のみで  染めあげたものに比べると凸凹が多くな

  り光線が乱反射してコクのある色調にみ   える。

 。渋めの地色の場合には,いくぶん豆汁を   濃くし,布地に光沢のある風合いをだし   たい時には,豆汁を薄くする。

以上が豆汁の効用であるが,注意する点に 豆汁が濃すぎるときは,布地が固くなり擦  れがでやすくなる。また豆汁が薄すぎると  きは染めた時に,染料の刷毛足がでやすく  なるということがあげられる。

9地染一

  シバランイエローFGL   シバランイエロー2BRL

  アシッドスパイラルイエロ・一   シバランブラウンVRL   シバランレッドブラウンRL   シバランレッド2GL

以上を混色したものを,淡色と濃色の2種 類をぼかして染めた。

hせきだしろう一しまとなる部分が美しく なるようにきわの不必要な部分を,ろうで 防染しておく。

iせきだしのぼかし一

  シバランレッドブラウンRL   シバランスカーレッドGL   シバランレッド2GL   シバランブラウンBL   シバランブラウン2GL   シバランブラウンVRL   シバランイエロー2BRL   シバラロイエローFGL   アシッドスパイラルイエロー

以上を混色したものを使用した。

。ぼかしがきれいになるように,最初に水を 引き,ろうでせきだしした部分にそって染 料を刷毛で丁寧に引き,ぼかし刷けでぼか  していく。

。hのせきだしろうとiのせきだしのぼかし の手順を繰り返す。

j脱ろう(アイロンによる)

(16)

k蒸し

1ベンジン洗い m水洗い

東京家政大学生活科学研究所研究報告 第11集

       のせきだしとぼかし,影の貝の色差しを行っ        た。

       三度目となる脱ろう,蒸し,ベンジン洗い

。ここで一度,蒸しにだし地染の染料を布地 に定着させ,影の貝のせきだしをするため にろうを落としてもらう作業をする。

。アイロンによる脱ろう以外,業者にお願い

 した。

nろう描き一再び貝の模様の部分にろうを 置いていく。

o色差し一

  シバランイエロー2BRL   シバランイエローFGL,

  シバランレッドブラウンRL   シバランレッド2GL   シバランスカーレッド2GL

貝の模様に色を差していく。

Pせきだしろう一影となる貝のせきだしを

する。

q色差し一

  シバランレッドブラウンRL   シバランレッド2GL   シバランブラウンBL   シバランイエロー2BRL

影となる貝の模様(せきだしされた部分)

 に色を差していく。

r脱ろう(アイロンによる)

s蒸し

tベンジン洗い u水洗い v湯のし w仕立

 アイロンによる脱ろう以外,業者に仕立ま  でお願いする。

 ここで完成となる予定であったが,着物の 最も重用である上前のおくみの部分の貝の  模様がいまひとっ納得のいかないものであっ  た。

 そのため,仕立てあがっている着物の上前  のおくみの部分をほどき,再びしまの部分

  水洗い,湯のしの作業を行う。

  今回は,上前おくみの部分だけであるので   自分で行う。

  仕立は業者に再びお願いした。

⑤作品の感想

 。せきだしのしまの部分が上前身ごろと下前   みごろの部分等が,っながらなかった。

 。着物の染はやはりつなぎ目が難しい。

 。貝の模様の色が薄い。

 。色差しの時にもっと思いきった色を差した   ほうがよかった。

 。色のある貝の模様の薄さに反し,影の貝の   色が強すぎる。

 。地染が淡色と濃色にぼかしてあったが,あ   まりはっきりしなかった。もう少しはっき   りとしたほうがよかったのでは。

 。思いきって貝の模様もない作品でも,面白   い作品になっていたかもしれない。このせ   きだしによるぼかしの方法は今後ももっと   研究の余地があるのではないかと思われる。

 。今回の作品は,今後の作品の制作,研究の   ための大きなステップになったというのが   私にとって最大の感想である。

写真12作品部分

(17)

写真13 実験に使用した試験布の一例

 なにかものを染めるということが,私自身本 当に好きで,また,手仕事である染めを科学的 な根拠により裏づけできたなら,さらに新しい 視点からものごとを考えることができるのでは ないかと思い,わずかに一年間ではありました が研究に没頭することができました。

 結局,やはり計算できない なにか によっ て構成されている染めに,再び改めて深い感慨 をうけるとともに,それでもろうにっいて少し でも知識が増えることが,今後の作品に大きな 影響を与えてくれたのではないかと思います。

 私にとっては本当に貴重な一年間でした。

 今回の研究にあたり,ご指導いただきました 石尾清子先生,ト部澄子先生をはじめ諸先生方,

生活科学研究所のスタッフの方々に,心からの 感謝を申し上げます。

参考文献

1 松本包夫著

  「正倉院ぎれ」

    学生社

2 染織の美 1980,Nα7   特集:正倉院裂と上代の染織     京都書院(1980)

3.宮田善次郎 著

  「ろう結染の理論と実際」

    理工学社(1980)

4.矢部章彦 林雅子 共著   「染色概説」

    光生館(1968)

5.月刊染色α 1987Nα78   特集:ぼかし染の手法    染織と生活社(1987)

6.染織便利百科

  染料,材料の基礎知識    染織と生活社(1983)

7.浅見博三・石川延男・ト部澄子・山本晃久  共著 近ee−一夫 監修

  「染色の科学」

   建吊社(1977)

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