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教員養成課程で育成すべき能力と実践的指導力

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(1)

著者 青木 幸子

雑誌名 東京家政大学博物館紀要

巻 14

ページ 1‑18

発行年 2009

出版者 東京家政大学博物館

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010294/

(2)

 1.はじめに

 近年の教員養成政策において「実践的指導力」の育成が強調されている。教員免許状取得に必要 な教職科目として新たに「教職実践演習」の導入が答申されるなど養成段階での完成された4 4 4 4 4指導力 の育成が求められている。一方、さまざまな自治体でも実践力の育成を謳った「教師養成塾」等の 養成目的機関が並立し、教員養成は実践的指導力をめぐりダブル ・ スタンダードの様相を呈してい る。

 教員養成における実践的指導力の育成への傾斜、それと軌を一にする免許制度や教職大学院制度 の創設に至るには、それなりの背景がある。政策の基本軸である実践的指導力とはどのような能力 をさすのか、しかもそれはいつ ・ 誰が・どのように育成することが適切であるのか、養成 ・ 採用 ・ 研修の調整 ・ 連携はどのように図られていくのか。この課題に応えようとこれまで夥しい数の提言 や研究報告がなされてきた。筆者は、養成も研修も真に教員の職能成長を支え、促進し、子どもの 学びに還元される実践的指導力となるものでなければならないと考えている。

 本稿では、教員養成における力量形成の研究の一環として、教員の実践的指導力の育成が強調さ れるようになってきた背景要因を探り、答申に見る実践的指導力の内実を検討し、養成段階で育む べき実践的指導力の一端を明らかにしていくことを目的とする。

 2.研究方法

 教員免許更新制の実施を提言した中央教育審議会答申の内容を検討することにより、その導入の 背景要因を分析する。同時に、国民が期待する教員像と現在の教員の置かれている現状を、病んで いる教員の姿を把握しながら浮き彫りにする。また、養成段階での教職活動に関する学生の力量診 断結果の推移を踏まえながら、教員として不可欠な基本的資質 ・ 力量の概要を理解する。

 さらに、養成段階での育成が期待される実践的指導力について、行政機関、大学での取り組みを 参考にしながら、養成段階での「実践性」に照準をあて、育むべき実践的指導力を明らかにしたい。

教員養成課程で育成すべき能力と実践的指導力

青木 幸子

Competence and Practical Ability for Teacher due to Foster Requisite in Teacher Training Course

Sachiko A

OKI

教職教養科 家庭科教育研究室

(3)

 3.教員養成政策のエポック・メーキング

 第一のエポック ・ メーキングは、戦後の開放制教員養成政策である。「教員の養成は、総合大学 および単科大学においては教育学科においてこれを行う」1)ことが、教育刷新委員会第 17 回総会

(1946.12.27)において採択され、画一的 ・ 閉鎖的な教員養成制度から衣替えをした。新制度発足に 当たって、教員に必要な資質をめぐり、教育科学的教養を重んずる、一般教養 ・ 学問的教養を重ん ずる、一般教養を中心に教職的・学問的教養を重んずるという 3 つの考え方が対立した。教育刷新 委員会の基調は、一般教養 ・ 学問的教養を重んずる考え方が主流を占め、教職的教養を重視する CIE(民間情報教育局)との間で対立がみられた2)

 1954(昭和 29)年に改訂された免許法では、教科専門科目の単位数を増やし、教職専門科目の 単位数を減じた。その後も、1958 年の中央教育審議会の「教員養成制度の改善方策について」の 答申、1962 年の教育職員養成審議会の「教員養成制度の改善について」、1964 年の「教員養成のた めの教育課程の基準について」、1966 年の「教育職員免許法の改正について」等の建議、1988 年教 育公務員特例法の改正等、開放制教員養成制度の下、矢継ぎ早に改革が進められ、免許状も期限付 き仮免許状、試補免許状などさまざまな提言がなされ、免許状保有者に対する初任者研修制度(条 件付採用)の導入は教員の質の保証を担保するものであることを周知させた。同時に、戦後教員養 成制度の二大原則(大学における教員養成、開放制の教員養成)は、目的大学化(上越・兵庫・鳴 門教育大学)や教職大学院の設置によって教員養成が目的化・閉鎖化の方向に進むのではないかと 危惧されている。

 教員の資質をめぐる対立は、免許状の種類や目的大学化への政策提言と展開を繰り返しながら も、専門教養と教職教養は教員養成カリキュラムにおいて微妙なバランスをとりつつ今日に至って いる。1998 年改訂の免許法では、教科専門科目の単位数が減じられ、教職専門科目の単位数が増 やされた。学問、科学 ・ 技術の進歩、社会的諸関係の進展は、ますます教員の資質 ・ 力量の向上を 期待しており、以前にもまして専門職としての教員の教養の内実が問われているのである。

 第二のエポック ・ メーキングは、教員免許更新制の導入である。2007(平成 19)年に教育職員 免許法の改訂により、 取得した免許状の有効期限が「終身」から「10 年の期限付き」へと変更になっ た。10 年ごとに更新する目的は、「その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期 的に最新の知識技能の修得を図り、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得 る」ことにおかれている。免許更新制は現職教員の力量アップを目的とした研修と位置づけら れ、その時々に求められる資質 ・ 力量のリニューアルを主な目的としている。しかし、 「終身」

から「10 年の期限付き」へという免許制度の改革は、現職教員のみならず教員を目指す学生にも 大きな戸惑いを生じさせている。さらに、4 年生を対象に導入が予定されている「教職実践演習」も、

教育委員会や教育実習校との連携・調整を必要とする大きな課題である。「教職実践演習」は教職 課程の授業科目の履修やそれ以外のさまざまな活動を通じて、学生が身に付けた資質能力が、教員 として最小限必要な資質能力として有機的に統合され、形成されたかを最終的に確認する科目とし て位置づけられ、課程認定大学の知見を総合的に結集し、しかも学校現場の視点も取り入れて授業

(4)

を実施するよう提言されている。新科目の設置と期限付き免許状への移行は、大学の養成課程の運 営にも大きな影響を及ぼしている。

 さまざまな教員養成政策や制度改訂には、教員に必要な教養の内実として専門性と適格性が問わ れており、それは養成 ・ 採用 ・ 研修それぞれの段階で基準と内容についての判断が求められている。

専門性や適格性は、次のような場面で判断されることになる。

専門性:免許法(カリキュラム)、教員採用試験時の問題や実技試験・模擬授業、初任者研修、 

    免許更新制、現職研修、教職大学院

適格性:免許法(最低要件 + 教職実践演習)、教員採用試験時の面接、初任者研修制度

 そこで、第二のエポック・メーキングの引き金にもなった近年の教員養成をめぐる答申から、教 員養成政策における実践的指導力の捉え方、その育成方針と連携のあり方等について専門性と適格 性に照準を当てながらその内容を検討しよう。

 4.中教審答申「今後の教員養成 ・ 免許制度の在り方について」にみる教員養成の方針  2006(平成 18)年7月 11 日の答申の概要からその要点をまとめると次のとおりである3)。 

(1)これからの社会と教員に求められる資質能力

1.これからの社会と国民の求める学校像

  知識基盤社会に必要な人材―既存知の継承だけでなく、未来知の創造へ

  育成すべき能力;一生を幸福に有意義に送るため、自分で考え、行動していくことのできる自       立した個人として、心豊かに、たくましく生き抜いていく基礎力

  学校への要望;知 ・ 徳・体にわたるバランスの取れた成長を目指す高い資質能力を備えた教員          による地域 ・ 保護者 ・ 子どもの声に応える信頼される学校づくり

2.教員に求められる資質能力

  教員への信頼の確立―資質能力のレベルアップ

 < H 9年の教育職員養成審議会第一次答申で例示した資質能力>

 ① いつの時代にも求められる資質能力―教育者としての使命感、人間の成長・発達についての    深い理解、教育的愛情、教科等の専門的知識、広く豊かな教養、これを基盤とした実践的指    導力等

 ② 今後特に求められる資質能力

 ・ 地球的視野に立って行動するための資質能力―地球、国家、人間等の適切な理解、豊かな人    間性、国際社会で必要とされる基本的資質能力

 ・ 変化の時代を生きる社会人に求められる資質能力―課題探求能力、人間関係、社会の変化に    適応する知識 ・ 技術

  ・ 教員の職務から必然的に求められる資質能力―教育の在り方、教職への愛着、誇り、一体感、

(5)

   教科指導 ・ 生徒指導のための知識 ・ 技能 ・ 態度  ③ 得意分野を持つ個性豊かな教員

   全教員に共通に求められる基礎的 ・ 基本的な資質能力と各人の得意分野づくりと個性の伸長  < H17 年の中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」>

 ① 教職に対する強い情熱―教職に対する使命感、誇り、子どもへの愛情、責任感

 ② 教育の専門家としての確かな力量―子ども理解力、指導力、集団指導・学級作りの力、

   学習指導・授業づくりの力、教材解釈の力

 ③ 総合的な人間力―豊かな人間性 ・ 社会性、常識と教養、礼儀作法 ・ 対人関係能力、コミュ    ニケーション能力などの人格的資質、教職員との協力

 教職は子どもの可能性を拓く創造的な職業であり、教員には不断の研究と修養に努め、専  門性の向上を図ることが求められる。「学びの精神」がこれまで以上に強く求められる。 

(2)教員をめぐる現状

教員をめぐる状況の変化

1.社会構造の急激な変化への対応―これまでにない大規模で急激な変動に対処するために、

  教員の資質能力の向上を適時に刷新し、高度な専門化を図ることの必要性

2.学校や教員に対する期待の高まり―家庭、地域の教育力の低下から学校教育への過度の   期待と教育成果の要請要求、保護者 ・ 地域住民の参画促進と意向を踏まえた活動の活性化 3.学校教育の課題の複雑 ・ 多様化と新たな研究の進展

 ① 子どもの学ぶ意欲、学力、気力、体力の低下、実体験の減少、社会性 ・ コミュニケーショ    ン能力の不足

 ② いじめ、不登校、校内暴力、仮想現実 ・ インターネット世界への浸潤による新しい荒れ  ③ LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥 / 多動性障害)、高機能自閉症等への支援と新たな知見  ④ 保護者 ・ 地域住民の学校運営への参画、開かれた学校に向けた説明責任と信頼関係の構築 4.教員に対する信頼の揺らぎ

  子ども理解不足、情熱 ・ 使命感の低下、指導力不足教員の増加傾向、教員の不祥事 5.教員の多忙化と同僚性の希薄化

  社会の変化・保護者からの期待に応えるための多忙感とストレス、教員同士の学び合いや   支え合い、協働する力が機能せず組織体としての認識が希薄―学校の小規模化、主任等の   教員の指導力低下などから学びの共同体としての学校の機能(同僚性)が発揮されない 6.退職者の増加に伴う量及び質の確保

  教員年齢構成の不均衡―40 歳以下の中堅層世代が少ない、40 歳から 50 歳代前半の大量   採用世代の退職期以降の量と質の確保の課題  

(6)

(3)養成 ・ 免許制度の現状 ・ 課題と改革の方向

上述の答申内容について、現状と課題、改革の方向について概要をまとめたのが表 1 である。

 5.教員の現状―その苦悩と期待

(1)教員への批判

 教員養成や免許制度の現状や課題、改革の方向性について理解してきた。改革案の背景にはその 必要性を求めるさまざまな課題や要請がある。現状理解に基づかない改革案は絵に描いた餅であり、

改革の成功は望むべくもない。ここでは改革案を裏付ける基礎資料として答申に添付された資料に 基づいて現状理解に努めながら、論を展開していくことにする。

 まず、それに先立ち、教員に対する批判内容を吟味することから逆に教員に期待される資質の具 体的な内容を照射しようと試みている梶田叡一の論を理解しよう4)。梶田は、教員への批判として、

「『外れ』教師の問題」「教師一般に見られがちな(職業病的)問題」「一部の教師に対して過去にあっ た強い批判」の 3 つに分類している。

 まず、「外れ教師」として、①依怙贔屓が激しい、②子どもに対する態度が感情的、③教えるの が下手、④人間としてどこか変、の 4 つを挙げている。このような批判に対して、国は 2001(平 成 13)年に地方教育行政の組織及び運営に関する法律を、2007(平成 19)年に教育公務員特例法 を改め、不適格教員の一年間の研修を義務付け、場合によっては分限処分も可能とする仕組みが作 られた。

 第二に、職業病的問題として、①世間知らず、②自尊心過剰、③精神的にひ弱、④小役人的、

⑤教養的深みに乏しい、の 5 つを挙げている。

 第三は、地域と時期が限定されるとしながらも、社会における「基本的な教師不振の根っこ」と もなる批判である。①倨傲、居丈高、②イデオロギー的に偏向、の 2 つを挙げている。

 以上のような個人的特性に由来するものから教員全体にみられる共通の傾向に対する批判の中か ら、梶田は、職務が子ども相手であること、教員の持つ基本的な美質(子どもへの愛情、正義感、

     

現 状 と 課 題 改 革 の 方 向

教員養成の二大原則(大学における教員養成、開放制教員養成) 教員養成の二大原則の尊重、開放制教員養成の再確認  ―養成場面の安易な拡充と容易な取得の認識の是正

 <養成課程>  <養成課程>

・各大学における教員養成の明確な理念の脆弱さ

・専門職業人の養成という共通認識の欠如

 (シラバスの不備、科目内容の整合性・系統性への配慮)

・授業内容と学校現場の課題との乖離

 (指導方法の偏り、教職経験者が少ない、実践的指導力の育成  不十分)

・教職課程の質的水準の向上

 学部段階;教員として最小限必要な資質能力の確実な習得  ―養成理念と組織的な指導体制の整備に向けて 5 つの方策  (教職実践演習の新設 ・ 必修化、教育実習の改善 ・ 充実、教  職指導の充実、教員養成カリキュラム委員会の機能の充実 ・  強化、教職課程に係る事後評価機能や認定審査の充実)

・教職大学院制度の創設;高度な専門職業人の養成、学部課程  のモデルの提示

 <免許制度>  <免許制度>

・教員の最小限度必要な資質能力を保証していると評価されていない

・免許状が保証する資質能力と学校現場・社会が求める資質能力  との乖離

・免許更新制の導入;最小限必要な資質能力を保証する免許状  ―授与から教職生活全体 

 (習得資質能力の明示的確認、就職後の定期的リニューアル)

表1 教員養成 ・ 免許制度の現状・課題と改革の方向

(7)

使命感など)が、「ややもすると視野の狭さと短絡的な独善さとを生み」、成人としてのバランスを 欠いた姿となって表出してしまうことを基本的要因として指摘している。そのため、教員には一般 社会の多様な考え方に触れ、複眼思考ができるよう養成と研修での工夫が課題であると論じている。

(2)指導力不足教員

 教員に対するこのような批判は教員自らの理想や使命に燃える教育活動との間に齟齬を生むこと になる。先の教員批判のうち、いわゆる不適格教員と認定された者について先の基礎資料からその 現状を表2に、そのうちの退職者等の推移を表 3 に示す5)

 表2によれば、平成 16 年度の指導力不足教員の認定者総数は 566 名であり、(参考1)で年次推 移をみると平成 12 年度以降、毎年認定者は確実に増加している。平成 16 年度の新規認定者が 282 名(49.8%)を数え、認定者総数に占める研修受講者は 543 名(96.0%)である。また、(参考2)

より年代別内訳をみると、40 代(50%)、50 代(34%)が 84%を占め、中堅 ・ ベテランと呼ばれ る年齢層が多い。したがって、在職年数も 20 年以上(61%)と 10 〜 20 年未満(35%)を合わせ て 96%と高い。男女別では、男性(72%)の方が、学校種別では、小学校(49%)、中学校(28%)

認定者総数 ① 16 年度に研修を受けた者 ②その他

(研修を受講する ことなく別の措 置等がなされた 者)

分限免職4 懲戒免職1 依願退職6 死亡退職1 分限休職 10 病気休職1

③ 17 年度  から研修

(① + ②+③) うち、16 年度新 規認定者数

現場 復帰

依願 退職

分限 免職

分限 休職

転任 研修 継続

その他 定年退職 1 死亡退職 1 病気休暇 5

566 282 377 127 93 11 131 23 166

(参考 1) 認定者数の推移(H12) 65 名(H13) 149 名(H14) 289 名(H15) 481 名

(参考 2) 指導力不足教員認定者(566 名)の状況

  ・年代………40 代(50%)、50 代(34%)、30 代(15%)、20 代(1%)

  ・在職年数…20 年以上(61%)、10 〜 20 年未満(35%)、6 〜 10 年未満(3%)、5 年以下(1%)

  ・性別………男性(72%)、女性(28%)

  ・学校種……小学校(49%)、中学校(28%)、高等学校(15%)、特殊教育諸学校(8%)

(中教審答申「今後の教員養成 ・ 免許制度の在り方」 p.151 より)

表2 指導力不足教員の認定者数

(単位:人)

H12 H13 H14 H15 H16

認定前退職 11 30 56 78

依願退職 22 38 56 88 99

転  任

分限免職 5 11

懲戒免職

合  計 23 49 89 152 190

      (中教審答申「今後の教員養成 ・ 免許制度の在り方」 p.151 より)

表3 指導力不足教員の退職者等の推移

(8)

で高い。

 表 2(参考1)の指導力不足教員の認定者数に対して表 3 の退職者等の人数を比較すると、教職 からの離脱者は、概ね三分の一近くの割合で推移している。平成 16 年度に研修を受けた者を対象 に教職離脱者の割合を算定すると、377 名中「現場復帰 ・ 研修継続・その他」の 265 名を除く 112 名(29.7%)が該当し、その割合は符号する。現場復帰は 127 名(33.7%)である。つまり、指導 力不足教員は教員としての適格性について審判を下されたと判断できる。ちなみに、平成 17 年度 の指導力不足教員の認定者数は 506(新規 246)名、平成 18 年度は 450(新規 212)名と減少傾向 にある。

 指導力不足とは一体、どのような状態をさすのであろうか。その基準はすべての教育委員会で定 められているが、文部科学省は 2007(平成 19)年 6 月の教育公務員特例法改正に基づく制度の適 切な運用に向けて人事管理システムのガイドラインを明らかにした。それによれば、典型的な指導 力不足教員の例として、①教える内容に誤りが多かったり、児童の質問に正確に答えられなかった りする、②授業中、ほとんど板書するだけで児童の質問を受けつけない、③児童とコミュニケーショ ンを取ろうとしない、の 3 例を挙げている。また、指導力不足の認定には精神科医など専門家のほ か、保護者や本人からの意見聴取が必要であること、指導研修は最長で 2 年間とし、その後学校現 場への復帰や分限免職などの措置が決まるとされている6)

(3)休職

 教員の苦悩は指導力不足と判定されるだけではない。悩みの軽重、内容の広狭を問わず、課題を 抱えていない教員は皆無ではなかろうか。指導研修の対象となる指導力不足教員も、自分自身が認 識するまでの間、悩み、相談したり、自力や他力による努力を重ね改善を図ろうとするプロセスが 存在するはずである。そうしたプロセスを経ながら改善が見込まれない結果として、指導力不足を 自身で認識したり、他者から判定されたりする。教員の悩みは判定される前も後も跡を絶たないの が実情ではないだろうか。

 多くの教員はこのプロセスにおいて悩み精神的に落ち込んでしまう。その具体的行動の一端が休 職である。では、表 4 より休職者の推移を見てみよう7)

 休職者の内訳の特徴は、病気休職のうち精神疾患が増加しており、平成 18 年度は 61.1%を占め、

教員の苦悩の跡を裏づけている。また、処分による降任者数は少ないが、降任希望者は増えつつあ

区分 降任 免職

休      職

降給 合計

病気休職

起訴休職 その他 うち精神疾

平成 15 年度 10 19 6,017 (3,194) 15 243 6,304 平成 16 年度 25 6,308 (3,559) 12 204 6,553 平成 17 年度 17 7,017 (4,178) 14 208 7,259 平成 18 年度 16 7,655 (4,675) 16 212 7,901    (中教審答申(2006)p.152、平成 19 年度文部科学省白書(2008)p.96 より)

表4 分限処分の状況

(単位:人)

(9)

り、平成 16 年度 81 名の希望者のうち「健康上の問題」は 55%、「職務上の問題」は 33%を占めて おり、休職に至る前の一つの対処とも理解される8)

 教員の休職の具体的理由について、文部科学白書の中に詳細を見つけることができなかった。し かし、教科指導、生徒指導、保護者・地域との関係、職場の人間関係など複合的理由によるもので あることは推測される。さらに、教員の授業時数や勤務時間数を OECD 加盟 19 カ国の 2005(平 成 17)年度の平均値と比較すると、我が国は年間の授業週数、授業時間数は下回っているが、法 定勤務時間数は 300 時間以上多くなっている9)

(4)懲戒処分

 教員への信頼を失墜させる理由により懲戒処分となり離職にいたる場合もある。懲戒処分の処分 事由で多いのが、交通事故、その他の服務違反、体罰、(平成 18 年度は未履修問題)であるが、免 職の処分事由のトップは「わいせつ行為等」である。免職の実に 6 割に該当する。人権意識の高ま りとともに、教員自身のモラルや使命感の低下を裏づけるものとも解釈される。教員は、教員であ ると同時に社会人である。社会人として見過ごすことのできない事由による処分の多い実態が、教 員批判となり、信頼を弱めていく要因になっていると思われる。

(5)免許状の規制緩和

 教員免許状は、教員に「なる」有資格者の必要条件として認知されているが、決して十分条件で はない。だからこそ絶えず、教員としてその言動に配慮し、専門性を高める努力が期待されている。

 しかし、必要条件としての免許状がなくても教壇に立てるようになった。「特別」免許状の発行 である。1988(昭和 63)年に教育職員免許法の一部改正により、優れた社会経験を有する者に特 別免許状を授与できることになり、教育界への社会人活用の一歩を踏み出した。教員養成課程には ない多様な社会経験や得意分野を持つ人材の登用が始まった。この流れは 2000(平成 12)年度に は校長職に、2006(平成 18)年度からは教頭職に民間人を登用できるよう拡大している。2007(平 成 19)年度の登用者は、全国で校長 102 名、教頭 20 名にのぼる10)

 1989(平成元)年度から 2005(平成 17)年度までの特別免許状の授与件数は累計 163 件(公立 87 件、私立 76 件)である。職歴も技術者 ・ 研究者、税務 ・ 銀行・法務従事者、住職 ・ 牧師、調理 師、航海士、医師・看護師・薬剤師等の医療系、建築 ・ 不動産・ビジネス系、情報系、柔道 ・ 野球・

陸上 ・ ソフトボール等のスポーツ系、語学系、芸術系と多様である11)。また、教科や領域の一部 を指導する特別非常勤講師は、1998(平成 10)年 7 月から許可制から届出制に変わったこともあり、

一気にその数は増えていき、2005(平成 17)年度は国公私立の小 ・ 中 ・ 高校 ・ 特別支援学校を含 めて 24,325 件に上り、そのジャンルも食、語学、看護、福祉 ・ 医学、芸術、伝統芸能、情報、スポー ツ、人権、宗教など他領域にわたり、人材もさらに多様である12)

(6)ダブルスタンダード

 特別免許状の授与は、教員養成は大学において開放制の下に行うという基盤が崩れ、教員になれ る基準が増えたことを意味する。資格基準のダブルスタンダードである。一方で、大学における教 員養成はその資質能力の育成においてより厳格化が図られようとしている。授業内容はもちろん成

(10)

績管理や「教職実践演習」の導入など、教員養成課程の養成基準の厳守と適格性を判断した上での 免許状の授与の奨励など、資質能力に優れた教員養成政策が打ち出されている。それだけ教員養成 は責任を伴うものであり、行政も大学も学生も自覚を新たに取り組み、教員への信頼を高め、免許 状のもつ威厳を高めようとの覚悟も見てとれる。

 他方、特別免許状制度による採用枠の拡大は、異分野の豊富な経験を有する人材を採用すること で複眼思考による教育界の活性化・弾力化を図りたいという願望が伺える。教育界の閉塞感を打破 したいということでもあろう。しかし、いわゆる特別免許状の授与要件は教育委員会で異なり、き わめて曖昧である。2006(平成 18)年度に授与を前提とした採用選考を実施した都道府県教育委 員会は 13 県(27.7%)、採用予定者は 45 名であり、そのうち免許状授与件数は 38 件で、そのほと んどが看護師であった。今後の実施予定も「分からない」が 23 県(69.7%)、「予定はない」が 6 県

(18.2%)で、文部科学省の方針とは乖離がある。また、採用の公正性を確保するための対策(教育 委員会が求める教員像を明確に公表、学力試験問題を公表、幅広い公正な立場からの面接官の確保、

利害関係者の接触等排除)を講じているのは 9 割以上であるが、採用選考方法や基準の公表は 7 県

(14.9%)と少ない13)

 一方で養成課程において免許基準を厳格化しながら、他方でその曖昧化が進められるのであれば、

養成課程に多様な経験や感性に溢れた優れた人材を集めることや、教員への信頼と免許状の威厳を 高めることに逆行することになりはしないだろうか。教員としての専門性と適格性を担保する明確 な基準が必要ではないだろうか。豊かな人材の育成は、柔軟なしかも公正な制度の下で行われるこ とを願うものである。

(7)免許更新制

 教員になるにしても、現職教員として力量向上を図るにしても、免許制度や研修制度は教員とし ての資質能力の向上を保証していくために設けられた基準である。教員養成においては、専門性の 向上と適格性を重視し、大学の責任において免許状の取得ハードルを高くすることが求められてい る。今般、新たに現職教員を対象として実施される免許更新制は、適格性の条項は除き、専門性の 向上に努め、教員としての苦悩を減じ、生き生きと教育活動に邁進することができる教員像を描い て制度化された。まさに、さび付いた知識・技能をリニューアルし、自身の教育活動に対する情熱 や目的を確認し、リセットすることが期待されている。このような更新制が研修の新たなダブルス タンダードにならないことを願う。

 教員養成課程の厳格化政策が、教員に対する信頼を勝ち得るための実効性のある政策たりうるか どうか、私たちは真摯に丁寧に養成課程のカリキュラムの見直しと実行に努めるとともに、採用や 研修のあり方など一貫した取り組みと連繋の強化を確認しなければならない。

(8)教員への期待

 資源の少ない我が国において人材は宝である。その人材を育んでいくのが教員である。いじめや 不登校、規範意識や自立心の低下など子どもを取り巻く課題は山積している。同時に、教員も子ど もと向き合う時間が持てないことに焦りと苛立ちを感じ、苦悩しているのである。先の OECD 調

(11)

査結果にみられたように授業週数や授業時間数は少ないにもかかわらず、子どもと向き合う時間が 持てないとはどういうことであろうか。2006(平成 18)年度関東地区私立大学教職課程連絡協議 会主催のシンポジウムにおいて、現職教員のパネリストが、職場の人間関係や親との関係に疲れる、

子どもとうまくいかないことから定年を待たずに離職する人が増えていることを訴えていた14)。 2006(平成 18)年 7 月の中教審答申においてもこのような実態を踏まえて、「教員の多忙化と同僚 性の希薄化」が指摘されている。学校内での学び合いや協働力の崩壊は、免許状や研修の一律的制 度化へと移行していく遠因になっているとも推測される。

 それは教員の専門性を高め、適格性を保証し、地域や保護者から学校に対する信頼を取り戻そう とするための政策でもある。それが養成 ・ 研修において一貫した取り組みとして今動き出そうとし ているのである。2000(平成 12)年 12 月の「教育改革国民会議」の 17 の提案で再燃した免許更 新制は、2002(平成 14)年 2 月の中教審答申「今後の教員免許制度の在り方について」において、

免許更新制については「なお、慎重にならざるを得ない」15)との結論に至った。その際、教員の 適格性の確保、専門性の向上、信頼される学校づくりの 3 つの視点から「トータルとして、《更新 制の導入にまさる実効性ある『教員の資質向上に向けての提言』》」を行った16)。その 3 視点から の資質向上策の一環として、翌年度から教職 10 年経験者の研修が制度化された。その後、2006(平 成 18)年 7 月の中教審答申では、教員の適格性の視点は、任用制度、人事管理システムや分限制 度等の厳格な運用によって対応することとし、専門性の視点は、個々の能力、適性、経験等に応じ た多様な研修によって専門性のいっそうの向上を期待することを明文化し、教員としての基盤的な 資質能力をリニューアルすることを目的に更新制が導入されることになった17)

 このように更新制は、教員として必要な最低限度の資質能力のリニューアルにより専門性の向上 を担保し、自信と誇りを持って子どもの前に立ち、さまざまな課題解決への意欲と戦略を練ろうと する同僚性を刺激し、保護者の学校教育に対する信頼を取り戻すことのステップになることが期待 されている。そのためには、もちろん更新講習の内容が問われることは言うまでもない。

 6.教員養成において育成すべき能力―学生の資質能力の認識と力量評価の変化 

 筆者が本学に奉職して後、「教育実習に関する調査研究」と題する研究論文を研究紀要に 3 編(1982 年、1990 年、1997 年)投稿した18)。これらの論文はその時々の課題を捉えながら、本学学生の教 職へのさまざまな意識と実態を把握し、その結果を授業改善に役立ててきた。そこで本稿では、学 生の意識と実態を把握するための調査項目の中から教育実習を終えた学生の力量診断の項目をピッ クアップし、調査年次による変化を比較・分析することにより養成課程で育成すべき資質能力につ いての知見を得たいと思う。

(1)調査年次と教育政策 

 教員養成の歴史を紐解くまでもなく、教員養成において理論と実践の統合は重要な課題である。

1970 年代には大量のペーパーティーチャーの養成が問題となり、とりわけ一般大学における免許 状取得者と就職者の割合が約 5.2%という低率であることが、教員の安易な粗製乱造として問題視

(12)

された19)。その後、教員の再教育を目的とする教育大学の創設や専修免許状の創設と免許基準の 引き上げ、国立の全教員養成大学への修士課程の整備、連合大学院方式による博士課程の設置、教 職に関する科目の習得単位数の引き上げ、大学と教育委員会の連携強化、免許更新制の導入、教職 大学院の創設など、教員養成と研修の充実をめぐりさまざまな政策が施されてきた。このような政 策変更の中で、本学の教員養成の課題の把握とその解決と充実をめざして調査研究は行われたもの である。

 調査実施年次と教員養成政策との関連を見ると、1981(昭和 56)年は教員の再教育を目的とす る目的大学院構想が現実のものとなり、1978 年には上越教育大学と兵庫教育大学、1981 年には鳴 門教育大学が相次いで設置された時期である。また、1989(平成元)年は、前年に「教育職員免許法」

が改正され、免許状の種類の変更による専修免許状の創設とともに教育実習単位の増加など免許基 準が引き上げられ、各大学では学部の改組が推進された時期である。本学の事情からいえば、文学 部第一期生のはじめての教育実習年度である。1996(平成 8)年は 2 年後の「教育職員免許法」の 改正による教職科目の修得単位数の増加を見込んだ政策変更を射程に入れた調査であった。

 最後の調査から 10 年余が経過しており、本学学生の現時点での力量認識の把握はできないが、

教員養成政策の動きと連動しながら行った調査結果を一概に蔑ろにする必要もない。現時点での実 態把握は今後の課題とし、改めて過去の結果との比較分析を行い、力量形成の実相を理解したいと 考える。

(2)教職活動の力量診断

 教育実習を終えた家政学部学生が、教職活動に関する修得力量を自己評価した結果の一覧をまと めたのが表 5 である20)。初任者研修が制度化されていなかった時期の 25 歳教師の力量診断の結果 も合わせて示した。新卒教員の悩みや不安要因、修得すべき資質能力の判断資料となる。

 年次変化をみて先ず気づくことは、すべての項目で自己評価が低下していることである。25 歳 教師と比較すれば未だ自己評価が高い項目もある。これは教育現場に直接身を置き、具体的な課題 を抱えながら責任ある立場で答える教員と、教育実習という短い期間の、しかも限定された体験活 動の中での回答であることを考慮すれば、当然の結果であろう。しかし、それだけではない要因が 隠されているように思われる。一つには少子化の進展による教員採用合格者数の激減、男女雇用機 会均等法後の就業職種の拡大、免許基準の引き上げによる教職課程履修者の減少と相談しあう仲間 の減少、教育実習生引き受け校の変化という外的要因であり、二つには学内オリエンテーション、

カリキュラム・授業内容などの内的要因が考えられる。

 この数値が示すように大学での教員養成において修得する資質能力の低下が確実に進んでいると するならば、先に提言されている教員養成政策や免許制度の変更は「待ったなし」の状態だといわ なければならない。「デマンド・サイド」からの要請が強く叫ばれる背景は、このデータからも納 得させられる。

 そこで、教員に求められる資質能力の内容をグルーピングし、21 世紀の社会の変化を見越して 提言された教育職員養成審議会第一次答申「教員養成課程カリキュラムの改善」に謳われた内容を

(13)

盛り込み、さらに具体的内容を参照しながら力量診断の項目との対照関係を表したのが表6である。

従来から採り上げられていた教員に要請される資質能力に新たに児童・生徒指導力と校務運営を加 えた。これは子どもを取り巻く状況の変化と同僚性の希薄化をカバーするための能力として位置づ

 (%)

番号  項  目       力量あり 1982 1990 1997 1979 学部生 学部生 学部生 (25 歳教師)

1 教材を分析し組み立てる力量 67.0 66.3 56.9 36.8

2 子どもに対する話し方 82.4 86.0 70.3 55.2

3 授業全般を組み立て展開する力量 58.6 59.1 49.2 36.4

4 板書のしかた 63.9 60.1 50.3 28.7

5 発問―反応喚起の技術 50.7 44.6 40.0

6 しかり方、ほめ方 59.0 55.4 34.4

7 子どもの発言・反応のとりあげ方 64.3 58.5 46.2

8 思考の深めさせ方 39.6 38.3 26.7

9 教科書の教材をさまざまな角度から取り上げ、関連する教材を指示 ・ 指導する力量 51.1 49.2 48.7 32.1

10 教育機器の使い方 62.1 58.0 39.0 48.0

11 指導計画 ・ 指導案を作成する力量 66.1 64.2 39.5 48.2

12 自分の研究 ・ 研修を進めていく方法 67.0 61.1 55.4 27.7

13 研究授業など他の教師の授業を見て、優れているところ、 70.1 74.1 69.2 49.9 まずいところを指摘し、その原因を掴み取る力量

14 父母会などで説明したり意見を聞いたりして会を運営する力量 29.1 21.8 16.9 41.9 15 学年会、教科部会、委員会などを運営し、まとめる力量 30.0 29.0 14.4 20.7

16 いわゆる問題児を指導する力量 41.8 43.5 30.8 22.9

17 子どもの学力、悩み、要求、生活状況等を適切に把握する力量 63.9 65.8 50.8 46.7

18 父母との連絡を密接にしようとする意欲 65.6 63.7 43.1 59.8

19 子どもの集団を把握する力量 74.0 76.7 69.2 58.4

20 学年、教科部会の一員として先輩・同僚と協力していく姿勢 87.7 95.3 68.7 90.9 21 学校運営全体の中で自己を位置づけ、その立場から考える力量 67.9 74.6 48.7 48.3

22 先輩 ・ 同僚との人間関係を保っていく力量 95.2 96.4 81.0 85.5

23 子どもの学力、生活態度等を評価する力量 77.1 76.2 55.9 55.6

24 教室の環境を整備する力量 89.9 90.7 77.9 60.2

25 教育法規に関する理解 45.8 44.6 21.0 23.6

26 指導要録、健康診断記録の記入や会計処理などの諸事務を処理していく力量 74.5 67.9 49.7 66.6

27 学級経営の力量 63.4 57.5 39.5

28 教材研究 74.0 76.2 70.3

29 子どもと一緒に考え行動しようとする情熱 96.0 95.9 92.8 91.0

30 教職活動全般にわたる意欲 ・ 情熱 86.3 86.0 84.6 89.2

* サンプル数:1982 年 n =227、1990 年 n=193、1997 年 n=195 表5 教職活動の力量診断

表6 教員の資質能力に対する社会的要請

項    目 具   体   的   内   容 力量診断番号

社会の一員 ア 人間性 イ 教養

豊かな人間性(人間・人権尊重、男女平等、思いやり、ボランティア)、課題解決力、自己教育力 地球的視野に立った地球・国家・人間に関する適切な理解と行動力(多様な価値観の尊重、

社会貢献、歴史と文化の尊重)、規範意識

課題解決能力(自己表現力、メディア・リテラシー、コンピュータ活用力 ・ ネットワーキング力)

教員 ウ 教職意識 教職への情熱・使命感、誇り、人権意識、研修・研究への精励 12、13、25、30、

エ 子どもへの愛情 子どもに対する関心・責任感 ・ 愛情 29、

授業設計 オ 授業構成力 目的と価値、カリキュラム編成、授業のデザイン 1、3、11、

9、28、

2、4、5、6、7、8、10、23、

・ 実践 カ 教材研究力 教材に関する知識・技術、教材開発力

キ 授業展開力 指導方法の理解と組織、発問・話法・展開力、カリキュラム調整力、評価

子ども ク 発達理解力 成長発達の一般的・個別的理解 19、

の理解 ケ 実態理解力 学習状況 ・ 悩み ・ 生活状況の把握、地域 ・ 保護者のニーズの把握 17、

コ 児童・生徒指導力 課題解決のスキル、カウンセリング・マインド 16、

学級経営 サ 学級経営力 学級経営 ・ 運営、環境整備 14、24、26、27、

・校務運営 シ 人間関係調整 子ども・保護者・地域との関係構築 18、

ス 校務運営 校務分掌、同僚との関係 15、20、21、22、

(14)

けた。学校を挙げて一丸となって取り組んでいくための資質能力がますます求められるからである。

個人の力はもとよりチームとして、集団としての教師力の向上は学校の信頼を勝ち取るために必要 不可欠な能力である。

(3)初任者研修の内容

 教壇に立つことを許可された者は、一年間さまざまな研修を受ける。これが初任者研修である。

文科省の 95 都道府県市(47 都道府県、14 政令指定都市、34 中核市)の 2005(平成 17)年度初任 者研修(小 ・ 中 ・ 高 ・ 特殊教育諸学校、対象者 19,817 名)研修内容21)の調査によれば、各学校段 階での研修実施率 100%の内容は「教科指導」であり、90%台は「公務員倫理」「生徒指導・教育相談」、

さらに「道徳教育」(高 ・ 特殊除く)、「学級経営(HR 経営)」(特殊除く)が加わる。80%台は「学 校保健 ・ 安全指導」「「情報教育」「人権教育」「特別活動」(高・特殊除く)と「学級経営(HR 経営)」

(特殊のみ)と「教育課程の編成」(特殊のみ)である。

 各学校段階とも概して実施率の低い内容は、「食育(給食指導を含む)」(40 〜 10%台)、「環境教育」

(55 〜 50%)である。「教育課程の編成」は、小 ・ 中 ・ 高等学校が 60%台、特殊教育諸学校は 80%

である。ちなみに研修の年間平均時間や日数は、校内研修 303 時間、校外研修 25 日(宿泊研修実 施日数 3 〜 4.2 日含む)である。

 初任者研修での内容項目を参考に養成段階での修得内容を探っていくことも必要である。

 7.実践的指導力の解釈  (1)東京教師養成塾 

 東京教師養成塾は、2004(平成 16)年 4 月に設置され、4 年が経過した。その間、388 名の入塾 者に対して 367 名が東京都公立小学校に採用されており、退塾者を除く 100%が採用されている。

 ① 目的

  養成塾の目的は、実践的指導力や社会性を備え、即戦力として活躍できる高い志を持った教員  を学生段階から養成することにある。

 ② 特徴

  第一は教員を養成している大学と連繋した取り組みであること、第二は講座の内容であり、第  三は教員採用試験での特別選考が実施されていることである。

  目的に掲げられた実践的指導力と社会性を備えるためにどのような内容について学ぶのであろ  うか。特徴の第二、講座内容について詳細に検討しよう。

 ③ 講座内容

  「講座のしくみ」の中央に「特別教育実習」が位置づき、教師養成指定校(43 区市 93 校を指定)

 で年間 40 日程度実施する。この「特別教育実習」に向けて三方から矢印が伸び、自己を高める「講  義」、授業に生かす「ゼミナール」、そして社会人としての自覚を高める「体験活動」で構成され  ている。

(15)

  各講座の位置づけと具体的なねらい、内容、方法は図 1 のとおりである22)

 養成塾が定義するところの実践指導力とは、課題に対して柔軟に解決することができる即戦力を さしている。特に、ゼミナールでの学びが実際の教育現場における課題解決に生かされるよう特別 教育実習との強固な連携が理解される。養成塾の担当者は、塾の効果として次のような例を紹介し ながら概括していた23)

 講座内容を修了した第一期生の新卒教員に「もっと身につけておくべきだったと考えられる力」

について尋ねたら、圧倒的多数で第一位が「各教科の指導方法や指導技術に関すること」で、第二 位が「学級経営や子ども理解に関すること」であり、「やっぱり授業力を身につけるための実践的 な勉強がもっと必要だった」という回答を強調していた。また、第二期生への聞き取り調査では、

養成塾での力量アップの要因として、「指導教員と塾教授、そして本人との間に効果的なメンタリ ングの機能があった」ことが挙げられた。さらに、塾生個々の課題が本人や学校、指導者によって 共有され、次の一手が打たれたことを指摘していた。個々の課題(実習の目的)と実習スタイルと の効果的な組み合わせは実践的な課題解決への力となっている。

 つまり、新卒であろうが、採用されたら一人前の教員として子どもの前に立つ。そのとき、大学 では具体的な問題場面を想定した授業がなされておらず、学生は教科指導や学級経営 ・ 子どもの理 解についての具体的課題に遭遇せず、免疫がない。大学ではもっと予想される子どもの現実場面と その指導法を具体的に指導してほしい。これが養成課程に求められている内容だと理解できる。そ

⇧ ⇧

図1 東京教師養成塾講座内容 体験活動

<ねらい>

教師としての使命感や志を育て、社会人として の責任ある態度を養う

<内容>

7〜9月にかけて連続5日間、企業等で体験 活動を実施

10 月に体験活動成果の発表

<方法>

就業体験

講   義

<ねらい>

学校教育をめぐる様々な課題や広く教養を 高めるための講義を通して、視野を広げ社 会性を養う

<内容>

1 動物の子育てに学ぶ 2 ことばを大切にする 3 挑戦すること

4 世界における日本文明とは 5 脳の世界を探る 6 自己を磨く

7 これからの国際社会に生きる君たちへ 8 人権について考える

9 かけがえのない子供たちを育てる 10 若き教師に期待する

<方法>

講義、班別協議・ディスカッション ゼミナール

<ねらい>

学習指導計画の作成や教材研究等を行い、

各教科等の専門性や指導技術の向上を図る

<内容>

土曜日午後、年間 14 回(3 時間1コマ)実施 1 学校の教育活動と一年間の実習の見通し 2 よりよい学習指導案を作る(公開)

3 学習指導方法を学ぶ① 4 児童理解と学級経営 5 指導と評価の一体化 6 学級担任の役割と実務 7 野外活動の意義と実践

8 体育学習における安全指導 9 特別教育実習の充実 10 学習指導方法を学ぶ② 11 学習指導方法を学ぶ③(公開)

12 安全に配慮した学習指導

13 子供と保護者 ・ 地域の期待にこたえるために 14 授業力向上のポイント(公開)

<方法>

講義、班別協議 ・ 演習 ・ 実習等

特別教育実習

<ねらい>

東京都公立小学校での年間を通した教育実習 や異校種の授業観察を通して実践的指導力や 柔軟な対応力を培う

<内容>

教師養成指定校での実習;

 週1回の実習及び年間3回の 5 日間連続実習  実習実施日数;40 日程度

   授業実施時数;40 時間程度 教師養成指定校以外での実習;

 異校種の授業参観    モデルとなる授業参観

<方法>

観察、実習

*教師養成塾資料より著者作成

(16)

の現場の要請に応えているのが養成塾であるという自負が伺える。

(2)教員養成機関の挑戦―玉川大学の場合

 玉川大学は文学部教育学科として 50 年余の教員養成の歴史をもつ大学であるが、「教育の玉川」

の特徴を明確に打ち出すために、2002(平成 14)年教育学部への改組を機に、教員養成カリキュ ラムの見直しを図った24)。その精神は、ゲーテの「理論と実践は呼吸のごとし」に倣い、教育の 理論と実践を車の両輪として位置づけたところにある。その構図は図 2 のとおりである25)

 根底に位置するのは全学に開講された「基礎科目群」(コア科目群と称す)(全人教育科目や教養 教育科目)と教育学部に固有の基礎資格(英検・数検・漢検の準 2 級)の他、大学行事 ・ 研修等が ある。その上に調和を保ちつつ配置されているのが「専門的知識」と「実践的指導力」の科目群で ある。

 「専門的知識」の科目群には大学の担当者の他、教職経験者や現職教員が参加していることが特 徴である。また「実践的指導力」の科目群には 4 年間にわたり教育現場とコンタクトを持つカリキュ ラムが準備されている。1 年次秋には「教育プラクティクム」という「教育参観実習」を一日実施する。

2 〜 3 年次には「教育インターンシップ」が組まれ、一学期間に空き時間を利用して教育現場に出 かけ、大学が定める 50 時間の実習が証明されると 1 単位認定され、2 年間で最大 3 単位まで取得 できる。そして 4 年次の「教育実習」では最初から授業や学級運営に積極的に関わり、充実した実 習を実現していく、というカリキュラム構成になっている。

図2 玉川大学教育学部における教員養成の構図

(関東地区私立大学教職課程研究連絡協議会 会報第 60 号、2006、p.47 より)

(17)

 「教育インターンシップ」の長所は、「教育実習」前に単に教育現場に慣れているだけでなく、教 員としての適格性を学生自身に見極めさせ、進路の方向転換をスムーズにさせることにも認めら れるという。「教育インターンシップ」にのめりこみ、学業が疎かにならないよう GPA(Grade Point Average)を利用した指導も行われている。さらに、「玉川アドベンチャー ・ プログラム」が 2 年次に組まれ、子ども、保護者、同僚などとの人間関係調整力を鍛える訓練が採り入れられている。

 1年次の一日「教育実習参観」と2年次の「玉川アドベンチャー・プログラム」研修合宿、4年次 の「教育実習」が必修であり、2〜3年次の「教育ボランティア」と「教育インターンシップ」は選 択であるが、1単位は必修にしたい意向であるという。石橋哲成教育学部長は、大学における高い 実践的指導力の育成に対する教育現場からの期待に顧慮しながらも、このカリキュラムで養成でき る実践的指導力が「ある意味限界かな」と語っている。理論と実践のバランスを図りながら養成機 関における実践的指導力の育成を図ろうとしている玉川大学の取り組みは、教員養成GPに採択さ れた。

(3)教員養成課程で育む実践的指導力

 東京教師養成塾と玉川大学で育もうとしている実践的指導力は、おのずから異なる。また、社会 の変化により教師に求められる能力にも違いが出てくることは否めない。前述した中央教育審議会 答申に謳われた教員に求められる資質能力は 21 世紀の社会に必要とされる能力であろう。

 その能力を養成段階、採用段階、現職研修段階において磨いていくことで力量の向上を図ってい くことが重要であることは誰もが認めるところであろう。問題は、その能力を、どの段階で、どの 水準まで、育成し、向上するのかということである。教員が職能成長を図っていくプロセスにおけ る一般的特徴と教員の個別的特長を検証しながらプログラムを組み立てていくことが求められる。

教員養成は大学だけで完結するものではない。むしろ教育現場で子どもや保護者と相対することか ら育成される能力もある。教員には生涯にわたり研究と修養が求められるのである。このことを了 解した環境づくりへのコモンセンスが必要である。

 筆者は、家庭科教育法の指導を通して、学生に 「家庭科観」 の確立をねらいとしている26)。なぜ なら、自ら取得する免許教科である家庭科に対する確たる考えをもたなければ、何を拠り所に授業 設計をするのか、ねらいや対象が絞りにくく、単なる内容の羅列に終始しかねない。何のために、

何を、どのような教授・学習過程を辿り、ねらいとする力を育てていくのか、これは自らの教科観 の確立なくして成しえるものではないと考えるからである。教科観の確立のプロセスで、学生は自 らの能力を省察し、研究と修養の方向性を知り、教養の広さ、専門的知識のレベルや子どもの理 解、教員としての情熱や使命感、教育の在り方全体に対する視野の広さなど総合的な力量向上の重 要性に気づいていく。「観」は教員としての成長とともに見直されていく。

 玉川大学のカリキュラムのように、在学中にできるだけ教育現場に触れさせることは意味のある ことである。同時に、大学の授業の中で、学生のさまざまな「観」を育む場や方法を意図的に設定 することも必要である。その中から学生が何かを感じ取り、考えていくきっかけを掴み、課題や疑 問をもって「専門的知識」との知的相互交流を活発に図り、主体的に学びを深めていくような養成

(18)

課程の授業づくりが求められる。学問への探究心やその方法、批判的精神を身に付けた教員は、主 体性をもって課題解決に向けた戦略をデザインできるのではないだろうか。教員養成は大学で行う ことの意味を再確認し、将来にわたる職能成長を保証する素地としての基本的能力を培っていくこ とが養成課程に課せられた実践的能力への対応ではないかと考える。

1)海後宗臣編. 教員養成 . 東京 , 東京大学出版会 , 1976, p.160.

2)同上 . p.161-172.

3)文部科学省. 今後の教員養成 ・ 免許制度の在り方について(答申). 2006

4) 梶田叡一 . 教師批判から教師力の具体を考える. 現代教育科学 No.620, 東京, 明治図書, 2008,  p.111-115.

5)3) p.151. 

文部科学省. 平成 19 年度 文部科学白書. 2008, p.35.

6)YOMIURI ONLINE(読売新聞). 2008 年 2 月 29 日 7)3) p.152. 

文部科学省. 平成 19 年度 文部科学白書. 2008, p96.

8)文部科学省ホームページ. 指導力不足教員の人事管理に関する取組等について. p.3.

9)経済協力開発機構(OECD).  図表でみる教育 OECD インディケータ(2007 年版). 東京, 明石書店,

2007, p.415.

10)文部科学省. 平成 19 年度 文部科学白書 . 2008, P.97.

11)3) p.138.

12)10)p.97. 3) p.139.

13)内閣府 . 教育委員会 ・ 学校法人アンケート調査結果 . 2006 年 11 月 27 日 , p.5.

14)関東地区私立大学教職課程研究連絡協議会 . 会報第 60 号 . 2006, p.54-55.

本号には、2006 年 7 月 16 日のシンポジウム「教師の『実践的指導力』を問う」の内容が再録され ている。

15)高倉翔. 教員免許更新制への期待. 教職キャリアデザイン vol.4, 東京,ジアース教育新社,2008,  p.7.

藤田英典. 新時代の教育をどう構想するか―教育改革国民会議の残した課題. 岩波ブックレット No.533, 東京, 岩波書店, 2002

16) 15)高倉翔 . p.7-8.

17)文科省. 「平成 14 年の答申において指摘した課題との関係」(別添 3). 今後の教員養成 ・ 免許制 度の在り方について(答申). 2006

18)青木幸子 . 教育実習に関する調査研究 . 東京家政大学研究紀要 第 22 集(1)人文科学 , 東京 , 東京家政大学 , 1982, p.1-16.

  青木幸子 . 教育実習に関する調査研究(Ⅱ). 東京家政大学研究紀要 第 30 集(1)人文社会科 学 , 東京 , 東京家政大学 , 1990, p.23-40.

  青木幸子. 教育実習に関する調査研究(Ⅲ). 東京家政大学研究紀要 第 37 集(1)人文社会科 学 , 東京 , 東京家政大学 , 1997, p.69-75.  

19)青木幸子. 教育実習に関する調査研究 . 東京家政大学研究紀要 第 22 集(1)人文科学 , 東京 , 東京家政大学 , 1982, p.1.

20)筆者は「教育実習オリエンテーション」「教育実習の研究」において、家政学部と短期大学部を担 当したが、本稿では家政学部生の結果を対象とした。 

参考文献

(19)

21)3) p.147.

22)東京都教職員研修センターホームページ . 平成 20 年度東京都教師養成塾事業案内 23)14)p.40-43.

24)14)p.45-54.

25)14)p.47.

26)青木幸子. 家庭科教員養成における探究学習と力量形成 . 東京家政大学研究紀要 第 49 集(1)

人文 ・ 社会科学 , 東京, 東京家政大学, 2009

* 全国私立大学教職課程研究連絡協議会教員免許事務検討委員会. 教職課程担当者のための手引き「教 職本(改訂版)」. 2007

参照

関連したドキュメント

・ 研究室における指導をカリキュラムの核とする。特別実験及び演習 12