Special Issue 特集論文 Invited Peer-Reviewed Article 招待査読論文 Current Issues in Brand Research ブランド研究の現状と課題 Yukihiko Kubota *1, Satoshi Akutsu *2, Takuro Yo

全文

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ブランド研究の現状と課題

Yukihiko Kubota

 *1

, Satoshi Akutsu

 *2

, Takuro Yoda

 *3

, Yoko Sugitani

 *4

ブランド&コミュニケーション研究会 リーダー / 青山学院大学 経営学部 教授

久保田 進彦

ブランド&コミュニケーション研究会 企画運営メンバー / 一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授

阿久津 聡

ブランド&コミュニケーション研究会 企画運営メンバー / 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 教授

余田 拓郎

ブランド&コミュニケーション研究会 企画運営メンバー / 上智大学 経済学部 教授

杉谷 陽子

*1 Leader of Brand and Communication Research Workshop / School of Business, Aoyama Gakuin University, kubota@aoyamagakuin.jp

*2 Member of Brand and Communication Research Workshop / School of International Corporate Strategy, Hitotsubashi University Business School, akutsu@ics.hub.hit-u.ac.jp

*3 Member of Brand and Communication Research Workshop / Graduate School of Business Administration, Keio University, yoda@kbs.keio.ac.jp

*4 Member of Brand and Communication Research Workshop / Faculty of Economics, Sophia University, yoko.s@sophia.ac.jp

Abstract : Brand continues to be an important academic topic in marketing. In this article, four brand researchers present and discuss current issues in expanding brand research. This article has an omnibus format consisting of four short papers that are discussed in the following order: 1. Influence of corporate brand on organization (Akutsu); 2. Effect of branding in BtoB marketing (Yoda); 3. Function of brand in BtoC marketing (Sugitani); and 4. Environmental changes around brand consumption (Kubota). These papers all include the important theme of brand, and their content clarifies various aspects of modern brand research through analyses from the different perspectives of four researchers in this field.

Keyword : Brand vision, Organizational culture, Ingredient branding, Brand attachment, Brand environment

要約:ブランド研究はマーケティングにおける重要なテーマであり,現在も盛んに議論が行われている。そこで本稿では4人の ブランド研究者が,いまなお広がり続けているブランド研究の現状や課題について語っていく。本稿は4つの短い論文の組み合 わせから構成されるオムニバス形式であり,企業ブランドが組織におよぼす影響(阿久津論文),BtoBマーケティングにおける ブランディングの効果(余田論文),BtoCマーケティングにおけるブランドの機能(杉谷論文),そしてブランド消費をとりま く環境変化(久保田論文)という順序で議論が行われていく。ブランドという重要なテーマについて,4人の研究者が異なる視 点から語ることによって,現代ブランド研究の多面性があらためて示されることとなる。

キーワード:ブランド理念,組織文化,成分ブランド,ブランド愛着,ブランド環境 Information : Received 4 March 2019; Accepted 4 April 2019

ブランドは幅広く,奥深いテーマである。このことは,

1980年代後半にブランド研究が本格化して以来,数多く の研究者が,さまざまな課題について議論を続けてきた ことからも明らかである。1990年代に盛んに議論された ブランド構築,ブランド拡張,ブランド・アーキテク チャーといった基礎的課題を経て,ブランド研究はいま

なお広がり続けている。本稿ではこうした状況を踏まえ,

4人のブランド研究者が,ブランド研究の今日的課題に ついて,それぞれの観点から語っていく。

本稿は4つの短い論文から構成されているが,その順 序には意味がある。ブランドは①優れた企業組織を実現 する資源であり,②顧客と好ましい関係性をかたちづく

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る要素でもある。またそれは,③企業や顧客をとりまく 環境から影響を受けるものでもある。ブランドは企業,

顧客,環境という,異なる水準の3つの要素と深い関わ りを持っているわけである。そこで本稿ではブランドと 深い関係にあるこれら3要素について,内から外へ広が るかたちで論文を配置してある。

各論文ではそれぞれの研究者が,企業組織,BtoB顧 客,BtoC顧客,ブランド環境について自由な視点から 語っている。本稿の内容は包括的なものではないが,視 点の広がりという点において優れており,現代ブランド 研究の多面性を知るための手がかりとなるとなることが 期待される。

I.経営手法としての企業ブランディング(一橋大 学大学院経営管理研究科 教授 阿久津聡)

本稿の目的は,ブランドの研究者として筆者がブラン ドの現状をどう捉えているのか,ブランドについて現在 興味のあることや気になること等について読者の皆さん と共有することにある。さらにそれらを踏まえて,これ からのブランド研究・実務について主張や提言を行うこ とにある。

本稿の要旨を先に述べておこう。まず,現在ブランド について筆者が興味のあることは,経営手法としての企 業ブランディングの研究と実践である。そして,これか らのブランド実務・研究についての提言としては,まず

「課題先進国」日本に溢れる新たな経営課題に直面してい る経営者には,経営手法として企業ブランディングの実 践を推奨し,研究者には,それら実践事例の分析と検証 を通した経営手法としての企業ブランディングの発展・

確立を推奨したい。

筆者自身の研究を振り返ってみると,ブランド研究と 並行して戦略論を専攻した背景から,ブランド戦略につ いて考える機会に恵まれた(e.g., Aaker & Akutsu, 2002;

Akutsu, 2002a, 2003, 2014)。そして,企業戦略を考える 上で,企業ブランドは企業がマネジメントするすべての 製品/サービス・ブランドの傘となるものであり,経営課 題としてそのマネジメントの重要性が際立っていると常

に感じていた。企業ブランドの位置づけから考えれば,

企業ブランディングが当該企業の経営の在り方を方向づ けるものであり,経営を実践するための枠組みを提供す る一つの経営手法と捉えるべきものではないかと考える ようになった。

企業ブランディングを経営手法として捉える際に参考 に な る 洞 察 は ,Aaker(2014) やHatch and Schultz

(2008),Stengel(2011)など,一部の経営実務書の中か ら見出すことができる。また最近,欧州系の,それもマー ケティングというより経営組織論の学術誌を中心に散見 されるようになった企業ブランディングの研究も参考に なる(e.g., Brannan, Parsons, & Priola, 2015)。一方で,北 米を中心としたマーケティングのトップジャーナルに掲 載されるブランド研究の多くは消費者行動に焦点があり,

経営手法として企業ブランディングを捉えたようなもの を見つけるのは難しい。学術研究の蓄積はまだまだ十分 でない状態といえる。そうした中,課題先進国である日 本の企業が世界に先駆けて直面する経営課題にどう向き 合えばよいのかについては,日本の実務家と研究者が解 決策を提案していかなければならないのが実情だ。

実際,今世紀に入ってから急激に高まった日本におけ る企業ブランディングへの注目は,リーマンショックの 前後からいったん下火になったものの,この10年は再 び高まり続け,現在に至っている。近年みられる上昇の 背景には,企業収益の回復基調が続いてきたこともある だろうが,製販両面での海外進出,国内外でのM&A,

財のサービス化などが進捗したことの影響が大きい

(Akutsu & Katsumura, 2016)。また,少子高齢化等で人材 が不足する中でよりよい人材を採用する為であったり,

ブラック企業が糾弾され働き方改革や健康経営が期待さ れる社会的ニーズに応える為であったり,特に創業者か らの世代交代を控えた企業が,組織の求心力を人からブ ランドに移行する為に企業ブランディングに取り組んで いたりするケースもある。これらの内,日本が他国に先 駆けて直面している問題による課題も少なくない。

こうした経営課題に取り組むために,企業ブランディ ングという経営手法が有効なのはなぜか。まず,これら の課題に広く共通するのは,国家間や企業間,企業と消 費者,経営者と従業員といった,何らかの壁(つまり境

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界線)で仕切られた複数の対象者間の問題であることだ。

そして,壁を隔ててこちら側とあちら側にいる人々の間 で,少なからず異なる認識を揃えたり統合したりする必 要がある,コミュニケーションの問題だということ。さ らに,そこでいう少なからず異なる認識というのは,例 えば価値観に関わるものであったりして,変容させるこ とが簡単ではないものだということである。

こうした類の複雑な問題には,ブランドのような「象 徴」を使ったマネジメントが有効である。そのことをど れだけ意識してのことかはとにかく,企業ブランディン グへの注目は高まり,それに伴ってコーポレートブラン ド部など特に企業ブランドのマネジメントや全社的なブ ランド・マネジメントを担当する部署を設置する企業の 数が再び増えている(Akutsu & Katsumura, 2016)。

筆者は以前から,企業の持つ「象徴資源」であるブラ ンドの,境界線を隔てた組織と市場のギャップをダイナ ミックに統合していく推進力に着目し,それに基づいた 戦略立案や経営手法について議論してきた(e.g., Aaker

& Akutsu, 2002; Akutsu, 2002a, 2003, 2014)。さらに,コ ンテクストという概念を使って,組織と市場との認識の ギャップをブランド・コミュニケーションで統合してい くブランディングの方法論について提唱してきた(Akutsu, 2002b; Akutsu & Ishida, 2002)。象徴(=シンボル)の特 性は意味を持つことあり,ブランディングの本質は意味 のマネジメントにある。意味のマネジメントとは,自ら の目的を達成するために意味を創造し,異なる認識を持っ た他者とダイナミックに共有していくことである。

企業ブランディングの基本も,組織と市場の統合にあ ることに変わりはない。ただ,製品を象徴する製品ブラ ンドに比べて,会社組織自体を象徴する企業ブランドは,

意味のマネジメントをする際に意識すべきステークホル ダーが幅広い。特に会社組織を構成する社員は,顧客と 同等もしくはそれ以上に意識すべきステークホルダーと なる。なぜなら,企業ブランドは組織としての企業を象 徴するものであるため,組織の構成員である社員にとっ ては自らのアイデンティティを象徴するものとなり,彼 らが生きる組織文化を反映した腹落ちするアイデンティ ティかどうかが,ブランドの信憑性(=authenticity)に とって極めて重要になるからである。

一方で,収益の源泉である顧客が持つ企業のイメージ が重要なのは,それが収益と直接関連するからだけでは ない。顧客をはじめとする外部ステークホルダーが持つ イメージが重要なのは,それが組織アイデンティティの 形成に大きな影響を与えるからでもある。組織のアイデ ンティティが外部の持つイメージとかけ離れていても関 知しないほど社内が独り善がりであることは問題だし,

外部が持つイメージに過剰に反応して自分たちを見失う ことも問題である。経営者の役割とは,社内の組織アイ デンティティと外部ステークホルダーが持つ企業イメー ジの二つを上手く統合し,未来志向で発展させるための メッセージを発信し,それを実現することにある。

そのために経営者そして企業自体が活用すべき象徴資 源が,企業ブランドなのである。そして,その拠り所で ある理念を定め,社内外に浸透させ具現化させていくプ ロセスが,経営手法としての企業ブランディングの概要 となる。図1は,社内のアイデンティティと社外のイ メージを統合する企業ブランドの役割を図式化したもの である。企業が課題に直面している時,組織文化を反映 したアイデンティティと外部ステークホルダーによる企 業評価を左右する企業イメージの間に少なからぬ隔たり があり,そう簡単には統合できないのが常である。経営 者は両者の声に耳を傾けながら,社員を巻き込み,さら には社員とともに外部ステークホルダーを巻き込んで,

アイデンティティとイメージの持続的統合発展を指揮し なければならない。企業を成長・維持させていく上で,

高い目的意識(=higher purpose)をブランド理念として 持つことの重要性が最近の研究でも指摘されている

(Aaker, 2014; Aaker & Akutsu, 2016; Stengel, 2011)。経営 者には,社員にやりがいと自尊心を与え,社外ステーク ホルダーが大切にしている価値観に訴えかけるような理 念(=mission, vision, values)を提示することが求められ ている。

本物かつ未来志向で自尊心を高めるアイデンティティ の共有を実現するブランディングを実践するためには,

経営者に加えて組織にも相応の能力が必要になる。筆者 らはそれらの能力を一般化し,ブランディング・ケイパ ビリティと呼んだ(Akutsu & Nonaka, 2001, 2004)。ブラ ンディング・ケイパビリティは一般化された概念である

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が,企業ブランディングのプロセスは,国の文化や制度 など企業を取り巻く環境と企業が直面する課題に強く影 響を受けるものであり,そうした意味で課題先進国であ る日本の企業から新しい知見や洞察が生まれてくること が期待されるのである。

例えば,企業ブランディングによって実現すべき課題 として筆者が特に注目し,研究と実践の支援を心がけて いるのが健康経営の実践である。紙幅の関係で詳細は他 の機会に譲ることにするが,健康経営とはRosen(1991)

が提唱した「ヘルシーカンパニー」という企業のあり方 を目指した経営で,社会的な要請に後押しされて日本で 発展しつつある。従業員の健康の向上に積極的に関わる ことで企業の持続的な成長を達成しようとする経営を広 く指しており,特定の経営手法として確立したものでは ない。一方で,企業ブランディングは健康経営を実現す る一つの経営手法であると筆者は考えている。筆者らの 調査によれば,どうやら企業ブランドが象徴する高い目 的意識は社員に働きがいを感じさせ,より高い価値を顧 客に提供することを助けるだけでなく,それによって生 じる誇りや充実感が従業員自身の健康にもよい影響をも たらしているようなのである(Kitayama, Akutsu, Uchida,

& Cole, 2016)。

II.BtoB ブランド研究の課題と展望(慶應義塾大 学大学院経営管理研究科 教授 余田拓郎)

1.BtoB 領域のブランド研究

BtoB領域のブランド研究は,消費財と比べて長い歴史 があるわけではない。研究を遡っていくと,組織購買行 動論の先駆的概念モデル(e.g., Webster & Wind, 1972;

Sheth, 1973)の影響を受けた探索的研究に初期の接点を 求めることができる。これらの研究は,意思決定が合理 的であるという前提をもって行われてきた購買行動研究 に,主観的評価の影響を加えたところに特徴がある。た とえば,サプライヤー企業のイメージやレピュテーショ ン,あるいは製品の知覚された信頼性などの主観的要因 がサプライヤー選択に影響しうることが指摘されている

(e.g., Lehmann & O’Shaugnessy, 1974)。また,この時期 の研究では,広告やコミュニケーションとの関連の中で 議論されることも多い。購買に際して当該企業を知って いることによって,当該企業の製品への関心が高まるこ とや売り手企業からのコミュニケーション・営業活動を 進んで受け入れることなどが明らかにされている(e.g., Takashima, Takemura, & Ohtsu, 1996)。

企業ブランディングの枠組み

(筆者作成)

図 1  

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一方,BtoB領域においてブランドを直接の対象とする ようになったのは80年代後半以降の研究である。そこ では,BtoB取引であっても,ブランドに関わる戦略やマ ネジメントが重要であることが企業活動の実態に基づい て指摘されている(e.g., Sinclair & Seward, 1988)。この 時期には,BtoB領域においてブランドに直接フォーカス した研究が散見され始めるのだが,マネジリアルな視点 で具体的示唆を得ようとする研究は限定的であり,多く がブランドの重要性を指摘するにとどまっている。

90年代半ばになると,こういった活動実態に関する研 究が,より広範な企業活動を意識し一般化を志向する研 究へと進展する。その一つの潮流が,ブランド・エクイ ティ論のBtoBセクターへの展開を試みる研究群である。

ブランド・エクイティの成果との関連では,ブランド 名が知覚品質に影響を及ぼすことやブランド認知がブラ ンド選好に結びつくこと(Yoon & Kijewski, 1995; Hutton, 1997; Thompson, Knox, & Mitchell, 1998; Taylor, Celuch,

& Goodwin, 2004; Anderson & Narus, 2004),BtoB購買に おいても消費財と同様にブランド力の違いによって,買 い手が支払う価格プレミアムの水準に相違があること

(Hutton, 1997; Bendixen, Bukasa, & Abratt, 2004;

Alexander, Bick, Abratt, & Bendixen, 2008)など興味深い 研究成果が報告されている。また,ブランド・エクイティ

の規定因に関する議論も活発に行われている(Kim, Reid, Plank, & Dahlstrom, 1998; van Riel, de Mortanges, &

Streuken, 2005など)。知覚品質,イメージ,マーケッ

ト・リーダーシップ,満足度などがブランド・エクイティ の水準に影響を及ぼすことが明らかにされている。ブラ ンド・エクイティを概念モデルの中心に置く研究群は図 2のようにまとめることができる。

2.BtoB 購買における態度

BtoB領域におけるブランド研究を概観してみると,ブ ランドの重要性やブランド・エクイティとその成果や規 定因に関する研究が蓄積されてきた結果,実務に対して 一定の貢献があったといえるだろう。しかし,BtoB企業 の多くがブランドの重要性を認識しつつも,ブランド力 強化に向けた投資に躊躇しているのも事実である。

その理由のひとつとして,他の要因との関連の中で,

ブランドが選択行動にどのような,あるいはどの程度の 影響を及ぼすのかについての議論が充分に行われてこな かった点をあげることができるだろう。BtoB取引におけ る選択問題は,QCD(Quality, Cost, Delivery)を中心に 議論されてきた(e.g., Shibuya, 2011)。その一方,QCD との相対的な関連の中で,BtoB企業のブランド・エクイ ティがどの程度成果と結びつきうるのかという点は必ず BtoB 領域のブランド研究

(Kim et al.(1998); Choi(2008)に基づき筆者作成)

図 2  

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しも明確ではない。この点を明らかにするためには,

QCDをはじめとする多様な属性の水準がブランド選択に 及ぼす直接効果を考慮した上で,ブランドが購買に及ぼ す(相対的な)影響の大きさを検討するべきだろう。こ の点を明らかにしなければ,BtoB企業のブランド投資が もつ相対的な重要性が不明のままである。

BtoB領域のブランド研究についての二つ目の課題は,

ブランド力と成果との因果関係が必ずしも明確になって いない点である。つまり,企業ブランドや製品ブランド の存在(水準)によって,BtoBの購買がどのように変化 するのかについての論理がブラックボックスのままとなっ ている。この課題に対処するために注目すべきは,態度

(attitude)概念である。態度とは,対象に対する一貫し た好意的あるいは非好意的な感情的反応や判断的評価を さすものである(e.g., Lutz, 1991)。態度は,消費者行動 の文脈ではもっとも中心的な概念のひとつとして扱われ てきた。態度という概念を用い消費者行動を理解するこ とによって,その法則性やメカニズムをより明らかにで きると考えられたためである。一方,BtoB領域における ブランド研究では,購買担当者の態度と行動意図との関 連が十分に議論されてない。

たとえば,Lynch and de Chernatony(2004)は,BtoB の購買行動では経済合理性の他に,ブランドに対する感 情が加わって,意思決定が行われることを指摘している。

Lynchらは,購買組織では価格,製品仕様,納入,品質,

サプライヤーの信頼性,カスタマーサービスなどの客観 的な要素と情緒的なブランド価値の両方から影響を受け,

そして売り手企業の企業ブランドが,買い手企業との情 緒的な関係を形成するための重要な役割を果たすと主張 している。ブランド価値がある条件下で購買意図に結び つきうるとしても,両者の関係に関する途中の因果は明 確でなく,ブラックボックス化されてきたところにBtoB ブランド研究の課題がある。この課題に対処するために は,ブランドへの態度を研究対象とすることによって購 買意向との因果を特定することが欠かせないだろう。

そして,態度概念を取り込む際に重要なことは,これ までに蓄積されてきた組織購買行動論の研究成果を十分 に反映させることである。購買への関わり方によってブ ランドの影響は異なる(Bendixen et al., 2004),あるいは

意思決定者とユーザーはブランドの影響を受けやすい一 方,インフルエンサーでは,耐久性や価格に(相対的に)

重きを置く(Alexander et al., 2008)などの研究成果も報 告されているが,こういった組織購買行動論の枠組の中 でブランドを扱おうとする研究は意外にも限定的である。

BtoBマーケティング研究で蓄積されてきた組織購買行動 論に態度概念を組み込んでブランドの効果を議論するこ とは,今後のBtoBブランド研究に欠かせない視点だろう。

3.新たな可能性としての成分ブランド

BtoB領域のブランドは,マーケティング研究において 長らく蚊帳の外に置かれてきたのだが,ウエブスターと ケラーが,BtoBブランドの成功のためのガイドラインを 整理し(Webster & Keller, 2004),また,コトラーらが B2B Brand Management(Kotler & Pfoertsch, 2006)を上 梓するなど,体系化の動きの中で徐々に盛り上がりをみ せている。一方,体系化の動きと平行して,新たな可能 性に目を向ける研究も増えつつある。その一つとして近 年注目されているのが,成分ブランドに関するものであ り,今後のBtoB領域のブランド研究の重要なテーマと 位置づけられる。

成分ブランドとは,Desai and Keller(2002)によれば,

「特定ブランドにおけるキー属性が,別のブランドに成分

(ingredient)として組み込まれたもの」(p. 73)と定義さ れる。平たくいえば,最終製品を構成する一部の機能,

部品,要素技術,サービスをブランド化したものである。

成分ブランドはビジネスでの実践が先行しており,こ れまでも多くの事例が報告されてきた(e.g., Kotler &

Pfoertsch, 2010)。一方,理論研究としては,成分ブラン ドが最終製品に付与されることによって,その最終製品 への消費者の反応がいかに変化するかについて検討され たものが中心となる。一般消費者を対象とした実験デー タを用いた実証研究が多く,コ・ブランディングや消費 者を介してのプル効果といった枠組で展開されている。

これまでの成分ブランド研究に共通するのは,消費者 の反応に基づく成分ブランドの効果に関するものである が,今後注目すべきは,成分ブランドに関するより直接 的な顧客企業に向けた効果やBtoB企業の組織内部に向 けた効果だろう(Yoda, 2016)。

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たとえば,成分ブランドを通して技術や素材の存在を 広く知らしめることで,技術開発者が当初想定していな かった新たな需要(用途)を顧客企業側からのアプロー チで発見することが期待できる。テフロンやゴアテック スといった利用可能性に拡がりのあるような新素材では,

それを提供する企業にとっても思いもかけない用途が存 在する。提供者側の視点では,発見することが容易では ない場合が多い。こういった多様な用途が想定される要 素技術では,技術や素材がブランド化することによって 広く一般に知れわたり,想定していない顧客企業から引 き合いを得て,新たな需要を開拓することが期待できる だろう。

また,BtoB取引においては,製品説明や取引条件の交 渉ややりとりが必要となる。対面営業に加えて,カタロ グや見本市,DM,テレマーケティング,WEBなどを通 じて購買担当者は情報を探索したり,あるいは情報を受 け取ったりすることになる。その際,成分ブランドが関 与することによって,これが大きくかわる可能性がある。

たとえば,成分ブランドは組織購買意思決定に必要な技 術・市場情報を提供しうるものであり,追加的に必要と される情報が節約されるとともに,売り手のマーケティ ング活動が効率的になることも想定される。

成分ブランドによる効果は,以上のような対外的なも のに限らず組織内部に向けての効果も存在しうる。製品 開発局面においては,成分ブランドが採用されることに より,製品開発の成果を高めたり製品開発のプロセスを 促進させたりする可能性かある。ブランド連想は,属性,

ベネフィット,態度にそって生じうる。技術が成分ブラ ンド化することにより,その技術の属性レベルの連想だ けでなく,それが消費者に対して何を提供するのか,つ まりベネフィットに関する連想などをも包摂する可能性 がある。これにより,単なる技術情報が具体的な市場情 報と一体化することになり,成分ブランドがもつこの性 質は,製品開発局面において,組織成員に対する市場志 向の浸透や部門間のコミュニケーションの促進など,さ まざまな効果をもたらすと考えられる。

BtoB取引の現場では,近年インサイド・セールスやデ ジタル・マーケティングといった新たなマーケティング 手法が拡大している。そこにブランドを加えることによっ

て,より効果的なマーケティング活動が期待できそうで ある。

III.これからの BtoC ブランド戦略:ブランド構 築における消費者の感情の重要性(上智大学 経済学部 教授 杉谷陽子)

1.ブランドの現在

ICT(Information and Communication Technology)の発 展と普及によって,マーケティングは大きく変わった。

例えば,従来の宣伝活動はマスコミ媒体の活用が主であっ たが,現在では口コミ等のCGM(Consumer Generated Media)の影響力が無視できない規模となっている。こ のような市場の変化の中で,ブランドの役割はどう変化 したか,そして,今後どう変化していくのだろうか。

ブランドの3つの機能 Tanaka(2017)は,ブランドの 機能について,①素早い判断を可能にするための手がか りを提供する機能(認知的機能),②使用して心地よい

(あるいは不快)という感情を喚起する機能(感情的機 能),③ブランドのストーリーや意味を作り出す機能(想 像的機能)の3つに整理している。

認知的機能とは,ブランドが品質をシグナリングし,

購買意思決定を簡便化するヒューリスティックを提供し ているということを意味する。つまり,無数の選択肢の 中から一つの製品を選び出す際に,ブランド名が「これ にしておけば品質は間違いないよ」という手がかりを与 えてくれることで,我々の判断を楽にしてくれるという ことだ。同程度の価格ならば少しでも品質が良い製品を 買いたいと考えるのが一般的な消費者心理だ。しかし,

もしブランドという手がかりなくそれを実現しようとす れば,100個の選択肢があれば,その100個の製品の属 性情報を丹念に調べ,比較し,最も品質の優れた製品を 選び出す労力を払わねばならない。ブランド名は,これ までに多くの消費者がその製品を購入して満足してきた という歴史と定評を表すサインとなり,もし不具合があ れば責任を取ってくれる問い合わせ先が明確に存在する という安心感を提供することで,品質保証を行う機能を

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担っている。

もうひとつのブランドの機能は,ブランドが消費者の 快感情あるいは不快感情を喚起するという感情的機能

(Tanaka, 2017)である。たとえば,世界的な知名度を持 つラグジュアリーブランドは,その使用者を自信に満ち た誇らしい気持ちにさせ,幼いころからのなじみ深いブ ランドは,温かい安心感をもたらすだろう。倫理的不祥 事を起こした企業のブランドは,恥ずかしさや軽蔑など の不快感情を引き起こすかもしれない。第三のブランド の機能として挙げられた想像的機能は,消費者がブラン ドに独自の世界観(ストーリー)や象徴的意味を見出す 場合があることを指摘したものだが,これらのストーリー や象徴的意味は,ブランドが消費者にもたらす快感情や 不快感情の源泉の一つである,すなわち,ブランドの感 情的機能と関連が深い機能と言えるだろう。

情報化とブランド機能 さて,上記3つのブランドの機 能は,今後の市場においても維持され続けるであろうか。

筆者はコンピューターサイエンス分野は全くの素人で あるが,まもなく,我々の生活のあらゆる場面で人工知 能(A.I.)が活躍し始めると言われている。A.I.に頼れ ば,100個の製品の属性を精査して,品質と価格のバラ ンスが最適な製品を選び出すことなど一瞬の作業であろ う。性能が数値化しやすい家電やコンピューター周辺機 器などはもちろんのこと,食品や衣類などでも,各人の 体質や体形,嗜好に合わせて,A.I.が商品を選んでくれ るようにさえなるだろう。そうなると,ブランドの品質 シグナル機能,ヒューリスティックを提供することで面 倒な意思決定プロセスを簡便化するという認知的機能は,

今後は意味を失っていくだろうと思われる。

A.I.ほどの影響力ではないとしても,現在すでに主流 となっているECサイトのレコメンデーション機能や,

大手口コミサイトの検索機能は,消費者が自分好みの製 品にたどり着くまでの過程を十分に簡便化できている。

したがって,認知ベースの意思決定においては,ブラン ドの重要性はすでに低くなりつつあると言えるだろう。

ブランドに対する自己ベース感情と他者ベース感情 他 方で,ブランドの感情的機能はどうであろう。たとえば,

ある人気ブランドに対して「おしゃれだ」「ステイタスが 高い」という好意的イメージを持ち,それを所有したり 身に着けたりすることで,我々は「誇らしい」「嬉しい」

といった快感情を経験する。このような感情経験は,情 報化によって影響を受けているだろうか。

ここで例に挙げた「おしゃれだ」「誇らしい」というブ ランドイメージや感情は,周囲の消費者が皆,そのブラ ンドに対して同じような好意的評価を持っていることが 前提となっている点に着目したい。つまり,自分一人だ けがあるブランドを「おしゃれ」だと思っていても,周 りのみんなから「それはダサい」と言われてしまえば,

もはやそのブランドを誇らしくは感じられなくなる,と いうことである。我々が主にマスコミ媒体を通じてマー ケティング情報を入手していた頃は,消費者は同じCM や雑誌記事等に触れてブランドイメージを構築していた。

消費者の間には「ブランドイメージをみんなで共有して いる」という感覚が今よりも強く存在していたのではな いだろうか。実際に共有できていたかどうかは,ここで は問題ではない。「みんな同じ情報を見ている」という認 識があることが,「共有感」を生むということが焦点であ る。ブランドイメージの「共有感」があることが,「お しゃれだ」「誇らしい」というブランドに対する感情を支 えていたのではないか。

一方で,SNSやオンライン・口コミに日常的に接触し ている現在では,多くの人が同じ情報を目にすることは 少なくなった。たとえ,みんなが見ているサイトがあっ たとしても,ネット情報は日夜更新されていくので,常 にみんなが同じ情報を目にするわけではない。そうなる と,ブランドイメージを他者と「共有している」という 感覚は持ちにくくなるのではないか。筆者が所属先の学 生15名に一人ずつ「いまキャンパスで何が流行ってい るか」「それを知ったきっかけは何か」を尋ねたところ,

流行っていると回答されたブランドも,知ったきっかけ も多様であった。日常的に接触する情報が多様化するこ とで,「流行」の合意が形成されにくくなっている可能性 がある。したがって,「おしゃれさ」のような周囲の合意 を前提とする他者志向的なブランド評価は,情報化が進 むほどに,脆弱で移ろいやすいものなっていくと考察で きる。Sugitani(2018)では,ブランドのプレステージや

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ファッション性の評価は,ネット記事によって影響を受 けやすく,購買意図を予測する力は弱いことが指摘され ている。

しかしながら,ブランドへの感情は複雑な次元を持つ。

「おしゃれだ」「誇らしい」といった他者志向的なブラン ド評価と対比して,自己志向的なブランド感情,すなわ ち,ブランドへの愛着感情(brand attachment)について 考えてみたい。

ブランド愛着とは,自己とブランドとの間の感情的つ ながり(Park, MacInnis, Priester, Eisingerich, & Iacobucci, 2010)のことであり,ブランドを自分らしいと感じた り,あたかも家族・友人のように親しみを覚えることを 指す。ブランド愛着は自己とブランドと間の個人的なつ ながりに由来するため,周囲の意見に影響を受けにくい という強みがある(Sugitani, 2016)。自分が愛着を持って いるブランドが,口コミで他人から悪く言われていたと しても,自分がそのブランドから温かさを感じている経 験がゆるぎない事実である以上,影響を受けることがな い。実験研究でも,ブランド愛着は悪い口コミを参照し ても変化しにくいこと(Sugitani, 2016),ブランド愛着が 高い場合には悪い口コミを参照するとむしろ購買意図が 上昇することが示されている(Wilson, Giebelhause, &

Brady, 2017)。

以上の研究知見からは,他者の意見が可視化されやす い情報化時代においては,ブランドのプレステージのよ うな他者志向的な感情よりも,愛着や温かさのような自 己志向的な感情を重視したブランドマネジメントが有効 であることが示唆されるだろう。

2.これからのブランド研究

Sunaga(2018)は,情報化時代の消費者の意思決定で は感情のような主観的な要素の影響は乏しくなり,ネッ トから得られる客観的で合理的な要素(品質やスペック な ど ) で 意 思 決 定 が さ れ る よ う に な る と 主 張 し た Simonson and Rosen(2014)に異議を唱え,むしろ消費 者が安心して主観的で感情的な判断ができるのが現代で ある,と述べている。栄養素カプセルを飲めば効率よく 健康的に必要エネルギーを補給できると頭ではわかって いるけれど,料理を味わい,人と会話をしながら食事を

楽しむということがやめられない,「そうした人間的な部 分に目を向けることが,マーケターや消費者行動研究者 にとって重要なことである」(Sunaga, 2018, p. 181)と論 じている。

情報化時代のブランド・マネジメントも,同様ではな いだろうか。すでに論じたとおり,ICTやA.I.によって,

ブランドの品質シグナリング機能は意味を失っていく。

マスメディアの影響力の縮小によって,流行はSNS等の 仲間内に閉じられた狭い範囲でしか存在しなくなり,世 間一般におけるブランドイメージの「共有感」は希薄化 するだろう。ラグジュアリーブランドは,今ほどのステ イタス感や顕示的意味合いを消費者に与えることが出来 なくなるかもしれない。しかし,人はしばしば,なぜか わからないけれど,特定のブランドに強い思い入れを持っ たり,ストーリーを見出したりする。自分に心地よい フィーリングを与えてくれるブランドを愛することに,

ロジックは存在しない。今後いかにマーケティング環境 が変わっても,ブランド愛着は,ブランドが愛される理 由として機能し続けるのではないだろうか。

したがって今後のブランド研究は,論理を伴った熟慮 型の意思決定ではなく,直感的・主観的な判断に焦点を あてるべきと言えるだろう。消費者がブランドや製品に 好意的感情を抱くプロセスについては,まだ解明されて いないテーマがたくさんある。A.I.が予測できない「意 外な」購買行動こそが興味深い研究対象となるだろう。

IV.ブランド環境の変化1)(青山学院大学 教授 久 保田進彦)

人々の心理や行動は,周囲の環境から影響を受ける。

これは消費者とブランドの関係においても同じである。

彼らがブランドをどのように感じ,どのような行動をと るかは,彼ら自身をとりまく環境から少なからぬ影響を 受けている。このためブランド環境(正確にはブランド の外部環境)は,ブランド研究において無視できない存 在となる。

消費者のブランド行動がブランド環境から影響を受け るということは,ブランド環境が変わることで,ブラン

(10)

ド行動も変化することを意味している。たとえば最近で は,モバイル端末の普及によって意志決定のスビードが 増したり衝動的な購買が増えたこと,またそれによって 消費者はロイヤルティを形成しないばかりか,ブランド を記憶さえしなくなってきたという指摘がある(Batra &

Keller, 2016)。社会環境の変化やデジタル化の急激な進 展により,消費者のブランド行動も大きく変化しつつあ るといえるだろう。そこで本稿ではこうした動向を踏ま えつつ,Bardhi and Eckhardt(2017)によって提示され た「リキッド消費」(liquid consumption)という概念を鍵 として,これからのブランド環境について考えていく。

1.リキッド消費

著名な社会学者であるBauman(2000)は現代社会の 特徴として,社会全体が安定的でなく,また長期的でも なく,それゆえ人々の行動の準拠枠として十分に機能し ていないことを指摘した。そして,こうした流動的な状 態にある社会を「リキッド・モダニティ」(液状化する社 会)と命名した。

Bardhi and Eckhardt(2017)の議論は,このBauman の考えを現代の消費にあてはめるかたちで展開したもの である。彼女らは,今日増えつつある,短命で,アクセ ス・ベースで,脱物質的ないしは非物質的な消費を「リ キッド消費」という概念で捉えるとともに,これまでの 伝統的な消費を,永続的で,所有ベースで,物質的な「ソ リッド消費」と位置づけ,両者を対比的に説明した。リ キッド消費の特徴とされる,短命性(ephemerality),ア クセス・ベース(access-based),脱物質ないしは非物質

(dematerialization)について,Bardhi and Eckhardt(2017)

を参考にして,簡単に説明する。

短命性 Bardhi and Eckhardt(2017)は「リキッド消費 では特定の文脈においてのみ消費者に価値がもたらされ,

しかもこの価値の有効期限はますます短くなっている」

(p. 4)と述べている。価値が文脈特定的となることで,

その寿命も短くなるというわけである。価値の短命化の 背景には,社会構造の変化がより速くなっていること,

技術の進歩によって製品ライフサイクルが短くなってい ること,そして現代の消費システムの中に製品の陳腐化

を知覚させる仕組みが組み込まれていることなどがある。

こうした短命性は非所有型の消費において顕著である。

また製品そのものだけでなく,小売店におけるポップアッ プ・ショップや,さまざまなイベントが増加しているこ とにも見ることができる。消費の短命化は,次に述べる アクセス・ベースおよび脱物質とも深く関連している。

アクセス・ベース リキッド消費の第2の特徴は,アク セス・ベースの傾向が強いことである。アクセス・ベー スの消費とは「市場が介入できるものの,所有権の移転 が生じない取引」(Bardhi & Eckhardt, 2012, p. 881)によっ て構成されるものであり,レンタル,リース,シェアな どによって実現される。こうした消費は,物質的な消費 か,非物質的な消費かを問わず生じうるものである。

アクセス・ベースの消費は,十分な経済的手段を持た ない消費者が,そうでなければ手の届かないブランドを,

一時的にではあるが消費することを可能とする。また消 費者を,財を所有することの負担から解放することとな り,結果的に消費者のライフスタイルの流動性を高める こととなる。さらにそれは,バラエティー・シーキング を促すことにもなる。たとえば一台のクルマを所有しつ づける場合よりも,カー・シェアリングを利用する場合 の方が,さまざまなタイプのブランドや車種を選択する ことになる。

ここで重要なことは,アクセスへの動機づけは,所有 への動機づけと異なることが多いということである。ま た消費者は所有よりもアクセスする場合の方が,その対 象を特異化(singularize)させない傾向があるため,対 象を自分のものと感じにくく,対象との間に関係性を構 築しにくいことも指摘されている。

脱物質 脱物質とは,同じ水準の機能を得るために,物 質をより少なくしか(あるいはまったく)使用しないこ とである。消費における脱物質化は,たとえば有形財が サービス財に置き換えられたり,デジタル製品や情報製 品(ソフトウェアなど)が普及したりといった具合に,

非物質的な財(サービス財や情報財)が増加したことと,

消費者自身がモノよりも経験を重視する傾向が強まった ことで加速されている。

(11)

リキッド消費が脱物質という特徴を持つということは,

そこにおいてより少ない所有が望まれる傾向があること と結びつく。Bardhi and Eckhardt(2017)はこうした傾 向について,経験は所有よりも自己と密接に関連するた め,人をより幸せにする傾向があるという研究を示して いる(Carter & Gilovich, 2012)。さらにモノよりも経験 の方が,ラグジュアリーとして価値があると認識される ようになってきたことや,(後述するように,脱物質はデ ジタル空間での消費と深く結びついているために)消費 者が複数のアイデンティティの間を自由に移動すること を可能とすると指摘している。

2.ブランド消費の変化

リキッド消費が主導的な状況において,ブランド消費 はどのように変化するのであろうか。Bardhi and Eckhardt

(2017)の主張を参考にすると,少なくとも2つの変化 が想定できる。第1は,より実用的で手段的なブランド 消費が主流となるということである。彼女らはこうした 変化について,消費者は象徴価値よりも使用価値を重視 するようになると説明している。第2は,ブランドに対 する愛着が弱いものとなり,また愛着の性質も流動的な ものとなるということである。

それぞれについて説明する。まず実用的ないしは手段 的なブランド消費を志向するということは,その時々の 問題解決のために,費用対効果的な視点から複数のブラ ンドを使い分けることにつながる。こうした使い分けは,

消費者自身によって行われることもあれば,消費者とブ ランドの間に介在するプラットフォーマーが最適と考え られるブランドを逐次提示することによっても実現され るが,いずれの場合でも特定のブランドへのロイヤルティ は低くなると考えられる。

次に,現代社会の特徴とされる個人化(individual- ization)や生活の断片化(fragmentation)は,伝統的で 安定的な社会制度の中で暮らしていた時代と比べて,人々 にいくつもの自分を使い分けながら生活を営むことを求 めることになる。さらにデジタル空間では,複数のアイ デンティティを切り替えながら対応することが容易で あ るため,この傾向はさらに促進されることになる

(Bauman, 2000; Bardhi, Eckhardt, & Arnould, 2012; Bardhi

& Eckhardt, 2017)。この結果,消費者は特定のブランド との間に深い心理的結びつきを形成するよりも,それぞ れのコンテクストにおいて,それぞれのブランドに,一 時的に愛着を抱く傾向が強まる(Bardhi & Eckhardt, 2017)。いいかえれば,ある場面でブランドに愛着を感 じていたとしても,場面が変われば他のブランドに愛着 を感じることになる。ブランドとの関係において消費者 が複数の自己を持つということは,マーケティング領域 において以前から指摘されてきたことだが(Aaker, 1999),こうした多元的な自己の傾向が強まることで,

特定のブランドへの傾倒は減少する可能性がある。

3.リキッド消費時代のブランド戦略

リキッド消費の広がりについて,ブランド・マネジャー はどのように対応したらよいのだろうか。この問題につ いて,実務家からは「利便性」(utility)と「経験」

(experience)が鍵となるという指摘がでている(Correia, 2016)2)

利便性を追求したブランドとなるには,消費者が最小 限の努力でそのブランドを消費できるようにする必要が あるため,ブランド選択や購買行動を省力化したり,自 動化するための仕組みづくりが重要になる。具体的には,

サブスクリプション方式での販売や,強力なプラット フォームとのアライアンスといった戦術に加えて,ブラ ンドそれ自体の存在感(セイリエンス)高めることも有 効であろう(Kubota, 2019)。

経験価値を感じるブランドとなるには,消費者にどの ような場面で魅力的な体験をしてもらうかを検討する必 要がある。どのような生活コンテクストにおいて,ブラ ンドに魅力や愛着を感じてもらうかということある。ま た最近の研究では,消費者はAIアシスタントの「Alexa」

のように能動的に感じられるもの(active object)に対し て愛着を形成しやすいという指摘がされている(Hoffman

& Novak, 2018)。消費者とブランドの間に活発な相互作 用を展開することで,より豊かなブランド経験の提供を 目論む戦略は,今後さらに増えていく可能性がある。

利便性と体験に加え,もう1つ考えうる戦略は,プ ラットフォーム・ブランドを目指すというものである。

これはリキッド消費が進むにつれて,消費者が「価値へ

(12)

のアクセスを提供するブランド」に愛着を抱くようにな ると考えられるからである。たとえば,どの車に乗って も,電子キーがその人のパーソナル・セッティングを覚 えているカーシェアリング・システムの場合,ドライバー にはいずれの車も均一的で,似ているように感じる一方 で,快適な運転という価値へのアクセスを提供するカー シェアリング・ブランドに対して強い愛着の感覚を抱き うる(Bardhi & Eckhardt, 2017; Gruen, 2017)。さらに述 べれば,消費者はバラエティ(多様性)とモビリティ(移 動可能性)を備えたプラットフォーム・ブランドに,強 い魅力を感じると考えられる。いつでも,どこでも,そ の場に応じて,最適な価値を提供してくれる基盤である ことが,プラットフォーム・ブランドとしての魅力を高 めるというわけである。

当然のことながら,これら利便性,豊かな経験,価値 提供のプラットフォームという3つの戦略は,あくまで も現時点において考えうるものにすぎない。また利便性 の高いプラットフォームや,豊かな経験を提供するプラッ トフォームという組み合わせが考えうるように,それぞ れは完全に独立したものでもない。しかしリキッド消費 の台頭という環境の中で,ブランドがとりうる方向性や ポジションを示唆するという意味において,これらには 高い価値があるといえるだろう。

注1) 本稿は科学研究費助成事業(18K01885)の助成を受けたも

のである。

2) utilityの本来の意味は「実用性」であるが,Correiaの主張

する意味内容と照らし合わせたうえで,邦訳書でも用いら れている「利便性」という訳語をあてはめた。

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