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チタンの補綴装置としての可能性を再考する

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Academic year: 2021

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はじめに 1970年代から始まったチタンの歯科利用は 1990 年代 には補綴装置として臨床応用できるようになった 1∼3) しかしながら,チタン鋳造は普及しなかった.それは 1 つの誤解から始まる.開発当初には,チタンが高温時に 鋳型と反応しやすく,表面に硬い層が形成され研磨に多 くの時間を要した.これから,硬く扱いにくい材料と評 価された.その後,反応が低い埋没材が開発されると 思ったよりも強度がないと評価された.この矛盾が臨床 家に戸惑いを感じさせた.鋳造が難しかったことに相 俟って,操作性の良い 12%金銀パラジウム合金や義歯 用金属として良好な機械的性質を持つ Co-Cr 合金を凌 駕する特性を見いだせなかった.本報では改めてチタン の鋳造特性を再考し,その特性を生かした補綴装置に関 して展望する. 内部欠陥に関する考察 内部欠陥は鋳造体の耐久性を著しく減ずる.実験的形 態に関する検討は多くあるが,実践的なものとして部分 床義歯の臨床形態で検討を加えた. 鋳造機には加圧吸引型を用いて鋳型の加熱条件や鋳造 条件はメーカー指定として検討した 3) 条件 1 は 2 本の 4 mm のスプルーを耐火模型に対して 水平に設定した(図 1).するとリンガルバーに大きな 欠陥が発生した. 条件2ではスプルーの太さ・位置は条件1と同一とし, 植立方向を垂直とした(図 2).条件 1 と比べリンガル バーにある欠陥が減少した. 条件 3 では 2 mm のスプルーを 5 カ所・方向は垂直と した(図 3).リンガルバーに存在する内部欠陥は減少 するものの床維持部に欠陥が散在した.

チタンの補綴装置としての可能性を再考する

黒 岩 昭 弘

Reconsidering the potential of titanium as a prosthetic device

Akihiro KUROIWA

Keywords:Titanium, Casting, Complete denture, Removable partial denture, Implant superstructure, Spruing,

Internal defects

Titanium cast crowns have become covered by Japanese insurance. We are delighted that this provides an opportunity to expand the dental applications of titanium. The insurance coverage is the result of the efforts of researchers who have conducted extensive studies at the Japanese Society for Dental Science and Engineering. In this report, we review the casting characteristics of titanium and examined prostheses that make use of these characteristics. キーワード:チタン,鋳造,全部床義歯,部分床義歯,インプラント上部構造,スプルーイング,内部欠陥 今回,チタンの鋳造冠が保険収載された.これはチタンの歯科利用の拡大から考えてもチャンスであり,喜 ばしいことである.これまで歯科理工学会で数多くの検討を積まれてきた研究者の努力の結晶である.本報告 ではチタンの鋳造特性の再考,その特性を生かした補綴装置に関しても展望した. 日本歯科理工学会誌 Vol. 40 No. 1 64-68(2021) 松本歯科大学歯科理工学講座(〒399-0781 長野県塩尻市広丘郷原 1780)

Matsumoto Dental University Department of Dental materials Science(1780 Hirookagobara, Shiojiri-shi, Nagano 399-0781)

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条件 4 では 4.0 と 2.5 mm のスプルー・方向を垂直と した(図 4).他の条件よりも内部欠陥の少ない鋳造体 となった. この様にチタンの内部欠陥の発生は突発的で規則性が ない.基本的には,スプルーとワックスパターンとの ジョイントを金属溶湯の乱流を起こさないように移行的 に行う.鋳型とスプルーの関係は鋳型に直行させ一旦, 流入速度を遅くすることに留意した.この点について は,渡辺ら 4)が,チタンの内部欠陥の原因を解決するに は,溶湯の流れを考える必要があると述べている.スプ ルー内は管内流である (図 5 B).板状の空間では,板に 垂直にスプルーを付けるとこの流れに近くなる.この 時,溶湯は空洞内のガスを押し出しながら進みガスの巻 き込みは小さい.もう一つは,開水路の流れで,流れ側 面の一部が常に自由表面としてガスに接しながら流れ る.この流れは小さな断面積の管から,広い断面積の空 間に流入した際に生じる(図 5 F).この流れはガスの巻 き込みを避けるのは難しいと説明している.これらのこ とが要因として前述の結果が得られたと思われる.内部 欠陥の量として,鋳造冠での検討 5)であるが,欠陥は鋳 造機の加圧方式,埋没材の通気性,スプルー径の影響を 受け,欠陥はスプルー径が 1.5 mm の場合に最も多く, 太さが 2.0 mm になると有意に減少する.欠陥は円形を 呈し,0.01∼0.1 mm2の大きさの欠陥が最も多く,次い で 0.1∼1.0 mm2の欠陥が多い.欠陥は軸面よりも 合 面に多く,スプルー植立近傍に分布する傾向があると報 告している.鋳造冠では冠の厚さから考えても内部欠陥 の存在が補綴装置の機械的性質を著しく低下させる可能 性は低い.しかしながら,クラスプでは繰返し応力が加 わるので無視できない.渡邉 6)が内部欠陥を内包したク ラスプを模したモデルで有限要素解析を行ったところ, 欠陥の直径が 0.3∼0.7 mm では鋳造体の機械的性質に及 ぼす影響は少なく,直径が 1.2 mm 以上になると疲労破 壊が生じ,欠陥が鉤脚から鉤肩部への移行部に存在する と機械的性質が低下する.特に欠陥が鋳造体の外側に偏 位もしくは外側につながると内側に欠陥が生じたものに 比べ機械的性質が低下すると報告している.この検討が 構造力学的な検討で疲労試験を伴っていないので,この 数値が安全域を示すものではないが,内部欠陥に対する 指標となる.さて, 疲労試験に関しては Vallittu ら 7) スプルー:4mm, 植立方向:水平 スプルー取り付け位置 図 1 臨床形態の鋳込み (条件 1) (文献 3 より改変引用) スプルー:2mm 植立方向:垂直 スプルー取り付け位置 図 3 臨床形態の鋳込み (条件 3) (文献 3 より改変引用) スプルー:4mm 植立方向:垂直 スプルー取り付け位置 図 2 臨床形態の鋳込み (条件 2) (文献 3 より改変引用) 2.5 mm 4mm 4mm スプルー取り付け位置 スプルー:4.0,2.5mm 植立方向:垂直 図 4 臨床形態の鋳込み (条件 4) (文献 3 より改変引用) 図 5  鋳型内の金属溶湯の流れ (文献 4 より 改変引用)

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よって検討が行われ,Co-Cr 合金, 純チタン, Ti-6Al-4V合金,金合金(タイプ 4)の疲労試験を行ったところ, 疲労による破壊は,Co-Cr 合金で約 25,000 回,純チタ ンで 4,500 回,チタン合金で 20,000 回,金合金 21,000 回で発生したと報告している.これから鋳造クラスプへ の応用は少なくともチタン合金を用い,繰返し応力が加 わる鉤腕の内部欠陥の存在について対策を講ずる必要が ある. 全部床義歯への応用(図 6) 全部床にとって金属床とするか否かは,顎堤の形態安 定性などが先んずるので,臨床では必ずしも金属床が第 一選択とはならない.歯科鋳造後のチタンの引張強さは 第 2 種で 540 MPa(最大, 微細な鋳造欠陥の影響も含 む) 8),それに対してタイプ 4 金合金は軟化熱処理後で 520∼630 MPa, 硬化熱処理後で 780∼890 MPa である 9) このようにチタンの物性はタイプ 4 金合金の軟化熱処理 後の物性に近似している.ヤング率が 2 倍ある Co-Cr 合金並みにするには補強を加える必要があり薄くできな い.素材自身の熱伝導率が低い点も含めて,熱が伝わり やすいことをメリットとする金属床にチタンを使う利点 は減ずる.金属床にチタンを使用する場合,金合金に比 べて軽いこと,金属としてアレルギーの可能性が低いこ と,これらをどう考えるかである. 部分床義歯への応用 機械的性質が軟化処理したタイプ 4 金合金に近似する ので設計はこれまでの成書が参考にできる.特に複雑な 形態にすると乱流が生じ,内部欠陥が発生するので,単 純な形態が良い.これは予防歯学的な配慮からも好都合 である.前述したように構成要素の肝心なところに内部 欠陥が発生していないことを確認して使う.金属疲労の 点からはチタン合金を使うのが望ましい. チタンの適応症─発展形(図 7∼11) 1.コ-ヌス義歯への可能性10∼1 2) この義歯は部分床義歯の中でも支台装置が構造的に壊 れにくく,高分子材料を交換しながら長期(10 年以上, 長いものでは 20 年を超える)に使用されることが多い. 装着初期には十分維持力が確保されているが,長期的な 使用で支台歯の喪失が生じたときには義歯の重量が問題 になることがある,チタンの低比重な特性を生かすこと を考えると,上顎のコーヌス義歯に応用することがよ い.内部欠陥が発生しないことは大切な要件であるが, クラウン形状である本支台装置での微細な内部欠陥は大 きな問題にならないので,適合が解消できれば応用への ハードルは高くない. 図 7  臨床形態の鋳込み(コーヌス義歯) 矢印は鋳造欠陥を予防するための湯溜り. 図 6 金属床かレジン床か 金合金やパラジウム合金に比べ,純チタン・チタン合 金は軽く低価格である. 図 8  部分欠損に対する純チタン製コーヌス義歯の応用 適合などに問題ない. 維持力の調整はパラジウム合金に比べると容易であ るが,金合金ほど粘らない.

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2.チタン製インプラント上部構造について(図 12) もう一つの臨床応用としてはチタン製上部構造の製作 である 13).インプラントの上部構造をチタン製にするこ とでインプラント体と上部構造の金属が統一でき,金属 の溶出は最小限に押さえられる.このことから,さらに 生体安全性の優れた予知性が高い治療が行える.装着し たインプラントの予知性を高く保つためにも金属の統一 は必須である. おわりに わが国のチタン鋳造に関する研究は目覚ましいものが あった.ところがその臨床応用は遅れた.それには金合 金の代用として 12%金含有銀パラジウム合金が健康保 険の材料として多用されていた背景があった.すでに材 料の高騰によって代用としての役目は終焉を迎えつつあ る.確率の問題はあるが元素としてアレルギーになりや すい 14)ことを知りつつ使用することは避けるべきであ る.この点でチタンはこの合金を凌駕する性質を有して いる.また,適合の点でもチタンのクラウン・ブリッジ に十分使えるレベルである 15, 16).レジンとの相性も良く 前装による問題もない.若干残った内部欠陥と研磨の問 題は使用頻度が増すにつれ解決すると思われるし,チタ ン鋳造の開発当初に言われた問題点は確実に減少してい る.代用金属としてではなく優れた素材としてのチタン を臨床に展開する時代がやっと到来した. 図 9 部分欠損に対する純チタン製コーヌス義歯の応用 矢印はレーザーによる溶接部分. 熱伝導率が低いので溶接は行いやすく,レーザー溶 接で応用範囲は広がる.ただし溶接に伴う変形に注 意. 図 10 部分欠損に対する純チタン製コーヌス義歯の応用 前装は硬質レジン.パラファンクションによって同 じ素材同士でも摩耗が著しい. 図 11  部分欠損に対する純チタン製コーヌス義歯の応用 (右は SEM 像) 装着後早期に破折したケース. 矢印破折部分:これは製作時の設計ミス.大きな ケースでは繊細なデザインは破折を誘発する.上顎 は下顎に突き上げられアーチが外に開くように変形 するので厚めに製作する.あるいは後パラタルバー が必要.

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図 12 純チタン製上部構造 1.チタン製メタルフレーム(1 ピース) 2.前装は硬質レジン 3.口腔内装着(仮着セメント固定)

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文   献 1) 金 聖泰,小田 豊,住井俊夫.歯科チタン鋳造システ ムの評価に関する研究 鋳造性と鋳造体の機械的性質に ついて.歯科学報 1994;94:845-858. 2) 玉置幸道,宮崎 隆.チタン鋳造の問題点.日補綴会誌 1998;42:528-539. 3) 黒岩昭弘,五十嵐順正.金属床義歯へのチタンの応用. 日補綴会誌 1998;42:547-558. 4) 渡辺孝一,大川成剛,金谷 貢,宮川 修.チタン歯科 鋳造の現状─鋳造機の特徴と利用技術─.新潟歯学誌 2001;31:129-139. 5) 尾崎康子,草刈 玄,宮川 修.チタン鋳造冠の内部欠 陥に関する研究.日補綴会誌 1996;40:738-748. 6) 渡邉 誠,欠陥を内包したチタン製鋳造クラスプの機械 的性質に関する研究.松本歯学 2009;35:150-164. 7) Vallittu PK, Kokkonen M. Deflection fatigue of

cobalt-chromium, titanium, and gold alloy cast denture clasp. J Prosthet Dent 1995;74:412-419.

8) Watanabe I, Watkins JH, Nakajima H, Atsuta M, Okabe T. Effect of pressure difference on the quality of titanium casting. J Dent Res 1997;76:773-779.

9) 渡邊郁哉.歯科用合金.中嶌 裕,宮  隆,米山隆之.ス タンダード歯科理工学 第7版:学建書院;2019.p. 175-189. 10) 杉藤庄平,黒岩昭弘.チタンにおけるキャストオンテク ニック.歯材器 1996;15:306-316. 11) 黒岩昭弘, 田 健, 田村利政, 八川昌人, 関口祐司, 五 十嵐順正.チタン鋳造の最前線キャスト・オン・テク ニックの臨床応用に向けて.ザ・クインテッセンス 1997;16(7):165-167. 12) 関口祐司,黒岩昭弘.純チタン製コーヌステレスコープ に関する研究:キャストオンテクニックにおけるコーヌ ス角度と高径が維持力に及ぼす影響.歯材器 2003; 22:271-282. 13) 黒岩昭弘, 海田健彦, 宇田 剛, 黒岩博子, 高井智之, 井 上義久,酒匂充夫.優れた生体親和性の材料を用いたイ ンプラント上部構造.日顎誌 2004;24:270-275. 14) 秋葉陽介, 渡邉 恵, 峯 篤史, 池戸泉美, 二川浩樹.歯 科金属アレルギーの現状と展望 補綴主導の歯科金属ア レルギー診療ガイドライン策定,日補綴会誌 2016;8: 327-339. 15) 小田 豊,沈 武,住井俊夫.チタン鋳造体の適合性に 関する研究─鋳造システムの比較について─.歯科学報 1994;94:641-646. 16) 荒川仁志,黒岩昭弘.鋳造冠の厚さが適合性に及ぼす影 響.歯材器 1996;15:467-478.

参照

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