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博 士 ( 環 境 科 学 ) 西 川 慶 祐

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Academic year: 2021

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 西 川 慶 祐

     学 位 論 文 題 名

Total synthesis of 10 ― isocyano ― 4 ― cadinene     (10 ― イ ソ シ ア ノ ー 4 ― カ ジ ネ ン の 全 合 成 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  生物が生産する多環性テルベン類の中には,非常に強い生物活性を示すものが数多く知られて おり,効率的な全合成が強く望まれている,しかし,これらの天然有機化合物は,入り組んだ炭 素骨格に官能基が多くあり,その合成は非常に困難である.当研究室では,二ヨウ化サマリウム によるバーピアー型カップリング反応により,様々な多環系を効率よく形成できることを見出し ている,本博士論文では,上記に述べた背景に基づき,二ヨウ化サマリウムによる立体選択的環 化反応の研究を第2章に,着生阻害活性物質10―イソシアノ‑4−カジネンの全合成研究を第3章に ま.とめ,緒言を述べた第1章を加えた構成となっている,

  第1.章では,全体的な背景と研究概要について述べている.

  第2章では,二ヨウ化サマリウ厶(SruI2)による立体選択的バーピアー型環化反応についてまと めた.当研究室では,SmI2によるカップリング反応が水酸基の隣接基関与により,立体制御でき ることを見出している,今回の研究で,パーピアー型環化反応が水酸基の隣接基関与により立体 制御でき,一般に構築することの難しい七員環や八員環を高収率で環化できることを見出した.

またアセトキシル基の隣接基関与によっても立体制御でき,しかも水酸基制御の環化反応の場合 と立体選択性が逆転した.

  第3章 では具 体的に,SmI2を用いたバーピアー型環化反応を鍵反応として,海洋産セスキテル ベンである10ーイソシアノ―4−カジネンの全合成についてまとめた.船底,漁網,導水管への貝や 海藻の付 着を防 止するた めの船底 塗料に ,古くは 毒性の強いトリブチルスズ(TBT)などの有機 スズ化合物が使われ,海洋環境の汚染問題となった.有機スズ化合物は極めて微量で巻貝をオス 化させる環境ホルモン様物質を含み,日本では1997年から船底塗料などとしての使用が禁止され た.国際 海事機 構(IMO)は ,有機スズ化合物の使用を2008年で禁止する船底防汚塗料国際条約を 採択しており, 環境にやさしい新規防汚剤 の開発が待たれている.沖野らの研究により,鹿児 島県の近海等で採取されたPhyllidiidae科のウミウシから,イソシアノ基を有する10ーイソシア ノ−4―カジネンが単離され,強カな着生阻害活性が見られた.しかしウミウシからは極微量しか得 られず,有機合成的手法による供給が望まれる.また,絶対配置が未決定である.以上の背景に     ‑ 82―

(2)

より,10―イソシアノ―4−カジネンの不斉全合成を行った,

  初めに,10―イソシアノー4―カジネンの左のシクロヘキセン環を,分子間ディールズ・アルダー 反応により構築した.既知 のイミドより,E体選択的に ジエンを合成し,アクリル酸ヌチルとの ディールズ・アルダー反応 を行い,4種類のジアステレ オマー混合物を得た.この混合物の分離 は困難であり,天然物と三つの不斉点に関して同じ相対立体化学をもつ環化物を分離することは,

本全合成で重要なキーポイ ントとなった.まず,混合物をメタノール中ナトリウムメトキシドで 処 理す ると ,6員環 上の2つの 側鎖 がト ラン スとなる2種類のジ アステレオマーに平衡化できる ことが分かった,さらに平 衡混合物に希塩酸を加えたところ,目的のジアステレオマーのヌチル エステルのみが選択的に加 水分解できることを見出した.2つのジアステレオマーを容易にシリ カゲルカラムクロマトグラフイーで分離できた..ディールズ・アルダー反応をキシレン中,メチ ルアルミこウムジクロライ ドをルイス酸として用いて行い,メタノール中でナトルウムメトキシ ド に よ る 平 衡 化 後 , 加 水 分 解 す るこ とで 天然 型の カル ポ ン酸 が主 生成 物と して 得ら れた .   次に10ーイソシアノ―4一カジネンの右の環の構築を行った,置換基をカルボン酸からアルデヒド に 導き ,SmI2に よる環化反応により,デカリン骨格を形成した ,最後に,10位のメチル基とイ ソニトリル基の導入を行っ た.先程の環化物から三工程で1炭素増炭して合成したアルデヒドに,

pブト キシ カリ ウム の存 在 下ヨ ウ化 メタ ンを作用させたところ ,天然物とは10位の立体化学が 反 対と なる ,エ カトリアル選択的にメチル基が導入されたアル デヒドが得られた,そこで10位 の 立体 化学 を逆 にす る手 法を 考案 した .先 程のアルデヒドからPMB基で保護したヒドロキシル メチル基をエカトリアル選 択的に導入した.アルデヒドのウォルフ・キッシュナー還元により,

ア キ シア ルメ チル とし て, さ らにPMB基の 脱保 護, 酸化 を 経て ,10位の 立体 化学 が逆 のア ル デヒドが得られた.酸化に よルカルポン酸とし,クルチウス転位でイソシアネートとした後,還 元,脱水反応によって10ーイソシアノ−4一カジネンの不斉全合成を達成した,合成された10―イソ シアノ−4−カジネンのiH一及び13C―NMRは天然のものと一致した.また比旋光度の測定により,

未 解 明 で あ っ た10― イ ソ シ ア ノ ―4一 カ ジ ネ ン の 絶 対 立 体 化 学を 決定 する こと がで きた ,     また,天然型の10―エピマー及びその鏡像異性体,そして天然型のジ−1.6ーエピマー及びその 鏡像異性体も合成した.そ れぞれの阻害物質のタテジマフジッボに対する着生阻害活性を検討し た.興味深いことに,今回合成した(+)−,(→ー10―イソシアノ‑4―カジネンの着生阻害活性(EC 50値)は,天然物ではO. 14ルg/mLであるのに対し,合成品では天然物が0.06ルg/mL,鏡像体が 0. 08Hg/mLで,三つのサンプルともほば同等の強カな活性が見られた.この実験結果より,10― イソシアノ一4−カジネンのタテジマフジッポに対する着生阻害活性は,絶対立体化学に影響を受け ないことが示唆される,さ らにその他のジアステレオマーにも天然体よりわずかに低い着生阻害 活性があることが分かった .これらの実験結果は,化学構造と着生阻害活性の活性相関研究や,

よ り 構 造 が 簡 単 で 合 成 容 易 な 新 規 阻 害 物 質 探 索 の 一 助 に な る も の と 期 待 さ れ る .     ‑ 83−

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 准教授 助教

松 田 冬彦 坂 入 信夫 沖 野 龍文 梅 澤 大樹

     学位論文題名

Total synthesis of 10 ―isocyano 一4 ―cadinene     (10 −イソシアノ―4 ―カジネンの全合成)

  地球環境の中では様々な生命現象が営まれており,生物の生産する多様な物質が関わっている,

このような物 質の中で低分子量の有機化合物(天然有機化合物)が重要な役割を担っている場合 が少なくない ,たとえば;化学防御物質や他感作用物質などの天然有機化合物を介して生物が相 互に影響し, 生態系が保たれている場合が数多く知られている.天然物化学は天然有機化合物を 研究対象とす る学問で,地球環境における生物間相互作用を理解する上でも重要な研究分野であ る.天然物化 学の中で天然有機化合物の人工合成(全合成)は重要な領域の1つである,全合成 により自然界 からは微量しか得られない化合物が大量に供給できること,あるいは自然界からは 得られない人 工類縁体を合成できるようになることなどから,対象とした化合物の生命現象に果 たす役割を解 析できることがその理由である.申請者はPhyllidiidae科のウミウシから単離され たセスキテルベン、イソシアノ―4―カジネンの全合成を行った.船底,漁網,導水管への貝や海藻 の付着を防止 するための船底塗料に,古くは毒性の強いトリプチルスズ(TBT)などの有機スズ化 合物が使われ ,海洋環境の汚染問題となった.有機スズ化合物は極めて微量で巻貝をオス化させ る環境ホルモ ン様物質を含み,日本では1997年から船底塗料などとしての使用が禁止された.国 際海事機構(IMO)は,有機スズ化合物の使用を2008年で禁止する船底 防汚塗料国際条約を採択 し てお り, 環 境に やさ し い新 規防 汚剤 の 開発 が待たれてレゝる ,沖野らの研究により,

Phyllidiidae科のウミウシから,強カな着生阻害活性を示す10ーイソシアノ−4一カジネンが単離さ れた,しかし ,ウミウシからは極微量しか得られず,有機合成的手法による供給が望まれる,ま た,絶対配置が未決定である.以上の背景により,10―イソシアノー4ーカジネンの全合成を行った.

  初めに,10−イソシアノ−4―カジネンの左のシクロヘキセン環を,分子間ディールズ・アルダー 反応により構 築した.既知のイミドより,トランス選択的にジェンを合成し,アクリル酸メチル とのディール ズ・アルダー反応を行しゝ,4種類のジアステレオマー混合物を得た,混合物をメ夕     一84―

(4)

ノール中 ナトリウ ムメト キシドで 処理す ると,6員環上 の2つの側鎖 がトランスとなる2種類の ジアステ レオマー に平衡化できた.この2つのジアステレオマーの分離が大変困難で,本全合成 で重要なキーポイントとなった,目的のジアステレオマーのメチルエステル部分のみが選択的に 加水分解 できる反 応条件を見出し,2つのジアステレオマーを容易にシリカゲルカラムクロマト グラフイーで分離できた,

  次に,10ーイソシアノ−4―カジネンの右のシク口ヘキサン環の構築を行った.置換基をカルポン 酸からア ルデヒド に導き ,二ヨウ 化サマ リウム(SmI2)によるパーピアー型環化反応により,デ カリン骨格を形成した.なお,申請者はSmIzによるパーピアー型環化反応が水酸基やアセチル基 の隣接基関与により立体制御でき,一般に構築することの難しい中員環を高収率かつ高立体選択 的に環化できることを別途見出している.

  最後に,10位のヌチル基とイソニト1」ル基の導入を行った.先程の環化物から3工程で1炭素 増炭して合成したアルデヒドに,t一プトキシカ1」ウムを塩基として用いてPMB基で保護したヒド 口キシルメチル基をエカトリアル選択的に導入した,ウォルフ・キッシュナー還元により,アル デヒド基をアキシアルメチル基として,さらに,PMB基の脱保護と酸化によルカルポ,ン酸とした,

クルチウス転位でイソシアネートとした後,還元,脱水反応によって10ーイソシアノ−4―カジネン の両鏡像体の不斉全合成を達成した.

  合成された10−イソシアノ−4ーカジネンのIH−および13C―NMRは天然物のそれらに完全に一致した.

また,比旋光度の比較により,未解明であった10ーイソシアノー4−カジネンの絶対立体化学を決定 することができた,合成した(十)−,←)‑10−イソシアノー4―カジネンのタテジ々フジッポに対する 着生阻害 活性を検 討した ところ, 天然物 ではECso値が0.14Ug/mLであるのに対し,合成品では 天然型の(+)ー体ではECso値が0,06ルg/mL,鏡像体の(―)ー体ではEC50値が0,08ルg/mLで,3つ のサンプルともほぽ同等の強カな着生阻害活性が見られた,10ーイソシアノ−4―カジネンの着生阻 害活性は絶対立体化学に影響を受けなしゝことが示唆される,また,10―工ピマーおよびジ〜1,6− エピマーについての各々両鏡像体を合成し,それぞれの着生阻害活性を検討した.何れのジアス テレオマーにも天然体よりわずかに低い着生阻害活性があることが分かった,また,着生阻害活 性はジアステレオマーの絶対立体化学に影響されないことも分かった.

  以上,申請者拡, 環境にやさしい新規防汚剤,,のりード化合物として期待されている10−イソ シアノー4―カジネンの世界初の不斉全合成に成功した,この全合成により未決定であったその絶対 立体化学が明らかになった.本合成は天然からは極微量しか得られない10−イソシアノ―4−カジネ ンの供給に道を拓くものであり,また,本合成を通じて化学構造と着生阻害活性の活性相関に関 しても重要な知見も見出されており,本研究は10―イソシアノ−4―カジネンを1」ード化合物とした 新規防汚剤の開発の一助になるものと期待される,

  審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また,研究者として誠実かつ熱心であり,大学 院博士課程における研鑽や修得単位などともあわせ,申請者が博士(環境科学)の学位を受ける のに充分の資格を有するものと判定した.

    ー85―

参照

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