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労使紛争解決システムとしての不当労働行為制度

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Academic year: 2021

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博 士 ( 法 学 ) 林    良 栄

学 位 論 文 題 名

労使紛争解決システムとしての不当労働行為制度

ー 日本と 台湾 (改 正案 を含む)の比較一

学位論文内容の要旨

    本論 文 の出 発点 は、 変わ りつ っあ る社 会情 勢の 中で 、使 用者の不当労働行為から の権 利救 済 を目 指す 不当 労働 行為 制度 にっ き、 制度 を「 再考 」する視点をどこに置く か、 さら に 当該 制度 のオ ルタ ナデ ィブ のア プロ ーチ をど う「 再構築」するかという問 題意 識で あ る。

  1940年 代 後半 、日 本に おい て不 当労 働行 為制 度を 完成 した 労働組合法を支える法理 は、 当時 の 労働 条件 は非 常に 厳し く、 生存 のた めに 団結 せざ るを得ない状態が存在し たの で、 労働法の規範原理としての「生存権」、「 団結権」は多くの労働者にとって魅 力的 であ っ た。 また 戦後 初期 の労 働社 会は 「力 」中 心の 労使 関係観によって全面的に 支配 され て いた ため 、不 当労 働行 為の 規範 原理 とし ての 団結 権の保障・救済が労働法 学界 にお い て重 視さ れる よう にな った 。し かし 、今 日で は、 労働運動が停滞し、組合 員数 が減 り 続け てい る傾 向が ある 。ま た現 在社 会で は、 権利 意識の高くなった労働者 に 様 々 な 紛 争 解 決 の り ー ガ ル サ ー ビ ス を 提 供 す る と い っ た 要 請 も 少 な く な い 。     本論 文 では 、労 働委 員会 の紛 争解 決と いう 機能 論に 立脚 し、不当労働行為制度を 一 種 のADR制 度 で あ る と 考 え た 。 不 当 労 働 行 為 制 度 と は 、 基本 的に は社 会的 政策 と し て の ー つ の 紛 争 解 決 制 度 と 看 倣 す こ と が 出 来 、 さ ら に 労働 委員 会 は、 行政 型ADR の準 司法 機 関と して 職権 で紛 争を 「裁 く」 が、 実際 には 、多 くの場合、調整で紛争を 解決 する と いっ た行 政的 救済 制度 と考 えら れる 。そ こで 、当 該制度の研究方法で近年 日 本 法 社 会 学 の 分 野 で 注 目 さ れ て い る 裁 判 外 紛 争 解 決 理 論、 或い はADR理論 を分 析 的 な 視 座 と し つ つ 、 今 日 の 社 会 の 中 で 不 当 労 働 行 為 制 度 自身 のADR性及 び労 使紛 争 解決 のADRシス テム の中 の位 置付 け等 の 問題 を論 じた 。

    労働 委 員会 は行 政機 関で ある ため 、不 当労 働行 為救 済制 度は、救済主体の観点か らす れば 一種の公法上の行政制度、っまり私人間紛 争に対する行政的解決制度である。

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こうした行政制度による「救済」手段(労働委員会の命令)は、公法或いは行政法理に より「私法関係を形成する行政行為」であると考えられる。本論文では、こうした不 当労働行為の「救済制度」のニつの特徴を指摘した。一っは、行政機関としての労働 委員会にみられる「公」的性格、もうーっは、労働委員会がもつ、裁判所とは異なる 紛争解決手続の「ADR」的性格である。「公」的性格というのは、社会的システムと しての労働委員会は、本来は準=行政的機関であるため、当然一定程度の「公益」或 いは「公共性」を持っていることを指す。また、「ADR」的性格というのは、不当労 働行為の「救済」手続の実施過程とその解決結果から、「調整的」な手段としての和解 手続が行われ、単純な行政処分ではなく、行政高権に後押しされて当事者間の和解手 続が行われるといったADR性を有する紛争解決手続であると考えられるためである。

  そして、本論文では、ADRの観点から、労働委員会による調整的和解手続を含めた 行政的「救済」は、前述のように労使間の対話関係が形成されるのであれぱ、対立的 労使関係を「修復」し、将来的に新しい労使関係を構築する可能性を持っものである と考えた。そのうえで、不当労働行為制度は、労使の対話関係を促進するための(労使 関係の)「修復性的」紛争解決制度であると看倣した。

    「行政」と「ADR」というニつの性格は互いに独立して存在するものではない。

紛争解決を望む利用者にとっては、その選択の戦略上、当該紛争解決制度における「行 政性」と「ADR性」の補完的な関係が重要となるのであり、「第三人的地位」として の労 働委員が 、権威性 のある「行 政権」を背後にADR的手段を通じて労使当事者間 のコミュニケーションを可能とする土台(べース)を作り、「対話」を促進するという処 理過程を可能にするのである。

  ところで、この「対話」は、労使当事者の自律性と解決内容の正当性を共に重視し、

当事者にとって「納得」(自律性十正当性)できるよう紛争を解決する方向を推進するも のである。同時に、「行政」と「ADR」の性格を持っために、労使自治の促進・強化 及び労使当事者の自己学習(或いは労働委員会の教育的役割)というニつの機能が現れ る可能性がある。勿論これらの、「労使対話」による機能は、紛争収束後の新しい労使 関係を構築することに対して有益になると考えられる。  今日のグローバル経済時代 にあって、国家が労使に介入する必要性が増加している。そのためャ労使・紛争解決 政策を志向する行政的機関の重要性も高まっている。また、日本の法文化伝統から見 ると、行政型ADRは裁判所と民間的紛争解決機関の間で連結的(リンク)な役割を果た して いること は明確で あり、労働 分野における行政型ADRの重要性は継続的に増加     ‑ 11−

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している。それと同時に、戦後から長く不当労働行為事件を司る労働委員会が、基本 的には前記した「公」的な性格(或いは「位置」)を保持していることからして、従来 の労働委員会の機能の再確認と調整、及ぴ他の労使紛争の解決ルートといかに有効に 相 互 に 連 携 す る か 等 は 、 今 後 も 注 目 さ れ る 課 題 と な る で あ ろ う 。   また本論文では、台湾の不当労働行為における行政的紛争処理の法制、運営の現状 および現時点の不当労働行為制度改正の方向とその問題点を指摘した。さらに、不当 労働行為に対する紛争解決制度について日本と台湾の比較を行い、ADR理論により不 当労働行為の行政的な紛争解決に対し、日本が抱えている問題点の分析を行い、この 分析によって、将来の台湾の不当労働行為制度における労働改革に対する方向と課題 とが明らかとなった。

  第二次大戦後、冷戦体制の中の開発国家(developmentalstate)としての台湾は、

1980年代までに内国の経済的「開発」を目指して政府が権威主義的に介入する国家で あったといえる。こうした開発国家の性格により、当時の与党政府(国民党政府)は、

労働組合や労使紛争のほかに、個別的な労働関係にも積極的に全面に介入して、2000 年5月以後、台湾の大統領選挙に勝った民進党政府は、台湾の所謂労働三法(労働組合 法、団体協約法、労働関係調整法)の積極的な改正を推進していった。そのうち、最も 注 目 さ れ て い る の は 不 当 労 働 行 為 制 度 の 再 構 築 で あ る と い え る 。   日本の不当労働行為制度に関する法理論、実務の経験を、比較法的手法を用いて研 究 した結果、紛争解決学或いはADR理論というアプローチが、現在の日本と、将来 を目指す台湾との不当労働制度を支えることが明らかになった。そして、日台両国に おける不当労働行為制度においては、将来このように発展する傾向に着目すれば、日 本における労働法上の不当労働行為制度に関する法理論、とりわけ法社会学分野での 紛 争解決学及びADRに関する論説は、台湾の新不当労働行為制度の立法及びその後 の運用に多くの示唆を与えることであろう。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

労使紛争解決システムとしての不当労働行為制度

ー日本と台湾(改正案を含む)の比較―

  不当労働行為制度は,集団的労使関係形成のために最も基本的な手段であり、不当労働 行為救済の判断を通じて,集団的労使関係において労使が遵守すべき一般的・基本的なル ールを形成するという機能を果たすものである。日本の不当労働行為制度の特徴として、

使用者の不当労働行為だけが規制されていること、行政委員会たる労働委員会と裁判所が ともに不 当労働 行為の救 済機関 となって いるこ と、労働委員会において7―8割の事案が 和解によって処理されていること等があげられる。最近は、組合活動の退潮にともない労 働委員会への申立件数が減少し、労働委員会の救済命令の取消件数が増加していることか らシ ス テ ム全 体 の 見直 し ( た とえ ば 、2004年の 労 働 組合 法 改 正) も なさ れてい る。

  本論文 は、労働 委員会の紛争解決という機能に着目し、不当労働行為制度を一種のADR 制度であるととらえる。行政庁の準司法機関として職権で紛争を「判定する」側面と、実 際に調整で紛争を解決する側面の双方に留意し、法社会学の分野で注目されている裁判外 紛争 解 決 理論 、 或 いはADR理論 を 基 盤と し て 、労 働 委 員会 に お けるADR的 性格を労 使 紛争解決,の観点から多面的に論じたものである。

  具体的には、不当労働行為の「救済制度」としての特徴を、行政委員会としての労働委 員会にみ られる 「公」的 性格と 裁判所と は異な る紛争解 決手続の 「ADR」的性格ととら えた。そして、労働委員会は、行政的機関であるため、当然一定程度の「公益」或いは「公 共性」を持っており、救済権能との関連においてもその側面があることを指摘し、「ADR」 的性格として、不当労働行為の「救済」手続の実施過程とその解決結果から、「調整的」

な手段としての「和解手続」が採用されていることと把握した。

  それを ふまえてADR性の 観点か ら、労働 委員会 による調 整的和 解手続を 含めた行政的

「救済」は、労使間の対話関係自体が形成されることとと、対立的労使関係を「修復」し、

将来的に新しい労使関係を構築する目的を持っものであると考えている。同時に、行政機 関としての公益性からの和解内容等のチェックの必要性を立論している。っまり、全体と しては、 「第三 人的地位 」としての労働委員会が、権威性のある「行政権」を背後にADR

,的手段を通じて労使当事者間のコミュニケーションを可能とする土台(べース)を作り、

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「 対 話 」 を 促 進 す る と い う プ ロ セ ス を 実 現 す る と い う 構 造 を と 把 握 し て い る 。   さらに、以上の問題関心から、台湾における不当労働行為制度の成立過程を以下のよう に検討し ている。第二次大戦後、冷戦体制下の開発国家(developmental state)としての 台湾は、1980年代ま でに内国 の経済 的「開発」を目指して政府が権威主義的に介入する 国家であ ったが、2000年5月以後、 台湾の 大統領選 挙に勝 った民進党政府は、台湾の所 謂労働三法(労働組合法、団体協約法、労働関係調整法)の積極的な改正を推進していっ た。そのうち、最も注目されているのは不当労働行為制度の再構築であるとして立法化を めぐる具 体的動き (特に 、2007年改 正法案にみられる、行政救済と司法救済の連動の仕 組 み ) を 紹 介 し 、 紛 争 解 決 シ ス テ ム の 特 質 と 将 来 展 望 を 論 じ て い る 。   なお、全 体の構成としては、1章では、紛争解決の視点から不当労働行為制度を研究す ると い う 問題 視 角 を、2章 では 、 紛争・ 法的解決 ・ADRの 概念を 論じてい る。3、‑4章 では、労使紛争解決システムの立場から不当労働行為の行政的「救済」の特質を詳細に考 察し、こ こが論文 の中心 となって いる。5、6章では、台湾における不当労働行為制度の 立法・形 成過程をADRに 着目して 検討し ている。 終章で は、不当 労働行為制度の行政的 ADRの観点からの再構築を試みている。

評価

  わが国 において 労働委 員会制度 の運営 にっき多 くの問題があり、2004年改正が労働委 員会手続のあり方にっき一定の職権主義の導入、労働委員会手続上の和解のあり方の整備、

審査の促進、中労委と地方の労働委員会との役割分担が図られた。同時に司法救済にっき 紛争が増加するとともに団結権の法的構造が正面から争われる事案もみられるようになっ た。

  本論文 は、労働 委員会 の公益性 とADR性の両面 の調整 から労働 委員会制 度のあり方を 法社会学の知見をふまえて論じたものであり、労働委員会や不当労働行為制度の位置づけ を新た な角度か らとら え、特に 、「行 政」「救 済」の意 義を、ADR論の 観点か ら明らか にしたことが評価される。特に法社会学の知見にもとづぃて広い視点からの論議がなされ ている点が注目される。

  同時に、救済機能だけではなく、労働委員会による事件処理の教育的側面や労使関係の 修復的機能をも論じており、その意味でも注目すべき内容となっている。さらに、不当労 働行為制度についての台湾法の立法動向にみられるアイデァ(たとえぱ、行政救済の私法 的な実施システム)はわが国労働委員会の運営について示唆的な内容になっている。全体 として、混沌としているわが国の不当労働行為制度論にっき一石を投じようとする熱意は 感じられた。

  他 方 、 次 の よ う な 問 題 点 も あ り 、 今 後 よ り 深 め た 検 討 が 必 要 と 思 わ れ る 。   そのー は、労働 委員会 のADR性 が不当 労働行為 事件の 処理の特 徴とどの ように関連し ているかの論述にっき深みに欠ける。たとえぱ、不当労働行為の実体的法理がどうなって いるか、また労働組合相互間詮らびに組合内部問題紛争についての紛争処理システムの必 要性、等についてはほとんど正面から論じられていなぃ。また、労働委員会の具体的な手 続との関連におけるADR性についても論述がやや平板である。

  そのニは、日本の学説の紹介が必ずしも正確でなぃ部分がある。それぞれの学説は、特 定の時代状況において、特定の問題関心から記述されているにもかかわらず、その点への     ― 14―

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配慮に欠ける点がみられ る。

  以上のような問題もあ るが、今後の研鑽によってより精緻な研究が完成されるものとし て、審査委員全員一致で 学位論文に値するものと判断した。

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