区間力学系に対する L i ‑ Y o r k e の定理について
教科・領域教育専攻 自然系コース(数学) 鈴 木 真 匡
はじめに
カオスに関連した研究としては, 19世紀末か ら20世紀にかけての 3つの天体の運動に関する ポアンカレの研究がある。現在のカオス研究に 直接つながっている,という意味での実質的な カオスの発見は 1960年代から 70年代にかけて 行われた。カオスの発見にまつわる全体的な状 況については,研究者たちの興奮や当惑,さら に当時の周りの人々の反応などがあって面白い。
気象学,物理学,生物学などの各モデル式から 解のある領域で軌道が不規則にふるまうことが 示されている。
L i ‑ Y o r k e
は r3周期が存在する ならばカオスであるjということを証明した。こ のことはカオスの概念を決定する上で重要となっ ている。本研究ではこのL i ‑ Y o r k e
の定理につい てくわしく紹介しようと思う。1 3
周期はカオスを導くここでは,定理を証明するために必要な補題 の証明を行う。
ψ
:Xー →
Xを,区間X上で定 義された連続写像とする。以下このψ
をX 上の 区間力学系と呼ぶ。補題1.1
( i )閉区間1CXでψ(1)
c
1あるいはψ(1)コ
Iならば, 1内に固定点が存在する。
(益)閉区間
1
,JcX
においてψ
が上への写 像でかつψ(1)コ
Jならば,閉区間F c 1で,ψ ( F ) =
Jとなるものが存在する。区間力学系
ψ
が(拡張された)3周期条件を みたすとは,X内の 4点d: : ; α
く Cく bで, ψ(α)=
c,ψ(c)=
b,ψ(b)=
dが成り立っとき指導教官 村 田 博
をいうo
b y=x
補題1.2
閉区間 JoとJ1において,
ψ
(Jo)コ
JoU J1 かっψ
(J1)コ
Joを仮定し ,JoとJ1の共通集 合が 3周期点C
からなり,ψ( c )
は Jo,ψ 2
(c) はJ1の端点であるとする。このとき記号力学 系~~から X への写像宙で ψn宙 (x) ε JWn(:z;)'x=(
ωn(x))二
lをみたすものが存在する。2 周期点の存在
区間力学系
ψ
が3周期条件をみたすとき,Jo
=
[c, b], J1= α [
,c ]
に対して補題1.1,1.2で 証明した事柄を用いれば次の定理を得る。定理1.1
区間力学系
ψ
が3周期条件をみたせば,全て の周期の周期点が存在するo3 スクランブル集合
L i ‑Y o r k e
は,力学系の軌道の不規則な動き そのものを記述するものとして,スクランプル‑ 346一
集合を定義した。次に述べる定理がそのもう 1 つの重要な主張である。
定義2.1
距離空間 (X,d)上の連続な力学系
ψ
におい て部分集合8 c Xがスクランプ、ル集合とは, 8 が次の条件を満たすときにいうo( i )任意の異なる 2点 x,yE
8
に対して limsupd( ψ η
(x), ψ η
(y))> 0 ,
n ‑ + o 。
liminf d (
ψ
n (x), ψ η
(y))= 0 . n ‑ + o o
(証)任意の周期点pεXと任意のzεSに対 して limsupd
( ψ η
(x), η ψ
(p)) ,>o .
n ‑ + o 。
定理2.1
区間力学系
ψ
が3周期条件をみたせば非可算 濃度のスクランプ、ノレ集合が存在するoここではスクランプ、ル集合Sの構成法につい て述べる。 J1又はJoの部分区間から成る無限列 {ん}で
ととれば, 8は定義2.1におけるスクランプ、ル集 合となっている。すなわち定理2.1が成り立つこ
とを, 3つの部分に分けて順に示す。
補題2.1
任意の異なる 2点x,y εSに対して limsupd
( ψ η
(x), ψ η
(y))> 0
nー~o。
が成立する。
この証明のアイデアを述べよう。
x,y ε8, x =1= yに対して,
8
の作り方から x=
Xr, Y =
Xr' r>
r'>
~と仮定できる。このとき
ψ
η
2 (x)ε
J1, η ψ
2 (y)ε
Joをみたす整数 nが無限に多く存在する。この区 間力学系
ψ
に対する仮定よりψ n 2 + 1
(x)εJo ,ψ η 2 + 2 ( X )
εJo となっていることに注意すれば,ヨ 8>0ψπ
2( X )
くc‑8
が成り立ち,
limsupd
( ψ η ( x ) , η ψ ( y ) )
三8>0 n ‑ + o 。
I n =
J1
又はI n
c JO,かつψ ( I n ) コ I n + 1( * )
を得る。I n =
J1
なら nは平方数で ,I n + 1
,I n + 2 c
JO をみたすもの全体をZで表す。{ん}εZに対して ,
P ( { I n }
,m)で ん =J1を みたす n(l三n三m)の個数を表す。このとき,各T
ε(
か)に対してlim P({広}
,
n2L =
n→∞ n
をみたすような Z の元 {I~} が選べる。また,こ の区間列{立}に対して,補題1.2より
ψη (xr) ε I~ n
= 1 , 2 , .
をみたすxrε Xがとれることに注意しよう。
以上の考察のもとで
8 =
{Xr : rε( か)}
補題2.2
任意の異なる 2点x,yεSに対して liminf d (
ψ η ( x )
,ψ η
(y))= 0
nー~o。
が成立する。
この証明においては,区間列
{ I n }
のとり方 (*)に更なる工夫をする。補題2.3
任意の周期点pεXとZ巴Sに対して limsupd
ψ (
n (x), ψ η
(p))> 0
n ‑ + o o
が成立する。
以上より定理2.1が証明された。
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