研究速報
ランダム化臨床試験におけるケースオンリー解析
-治療効果予測マーカーの検出力評価-Case-only Approach in Randomized Clinical Trials
-Evaluation of Power to Detect a Treatment
Effect Predictive
Marker-上野健太郎 *1・大前勝弘 *2・田中司朗 *3 Kentaro Ueno*1, Katsuhiro Omae*2, Shiro Tanaka*3*1京都大学大学院医学系研究科社会健康医学系専攻臨床統計家育成コース *2国立循環器病研究センターデータサイエンス部臨床統計室
*3京都大学大学院医学研究科臨床統計学
*1Clinical Biostatistics Course, Kyoto University School of Public Health *2Department of Data Science, National Cerebral and Cardiovascular Center *3Department of Clinical Biostatistics, Graduate School of Medicine, Kyoto University
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The case-onlyapproach is widelyknown as a resource-efficient approach to identify biomarkers that interact with a treatment. It measures stored baseline samples from trial participants who experience the outcome. The previouslyproposed case-only approach for binaryoutcomes is most commonlyused in early-stage, retrospective profiling experiments for selecting biomarkers. In this article, we compare power and alpha error for assessment of interaction between a treatment and a baseline marker from the case-onlyapproach to those from the full-cohort approach in which all the baseline samples are measured. We calculated power and alpha error based on a test for interaction in the case-onlyapproach and then compared the power and alpha error of the test for interaction in the case-onlyapproach and the full-cohort approach. We showed that the case-onlyapproach can get 80 % statistical power under the scenarios of the risk ratio = 0. 5, probabilityof outcome event = 0. 5-0.7, marker expression probability= 0.3-0.7 and case sample size>300. We could get enough power in full-cohort approach in the RR = 0.5-0.7, while the case-onlyapproach gave less than 80 % power. We revealed that the case-onlyapproach can get 80 % power and situations that the case-onlyapproach or the full-cohort approach should be used.
1.は じ め に 今日の医薬品開発は,個別化医療という考え方に基づいて,治療が有効な集団に焦点を当てて 行われるようになりつつある.個別化医療に使用される治療選択の指標は,治療効果予測マー カーや,あるいは単にバイオマーカーと呼ばれる(本論文ではバイオマーカーと表記する).測定 したバイオマーカーを参考に個人に特化した治療を選ぶことで,疾患からの回復が早く見込めた り,効果が望めない患者を特定し負担費用を軽減したりすることができる.日本でコンパニオン 診断薬が承認されたバイオマーカーとして,KRAS・NRAS 変異(対応する医薬品はセツキシマ ブ,パニツズマブ),ALK タンパク質・融合遺伝子(アレクチニブ,クリゾチニブ,セリチニブ), BRAF 変異(ベムラフェニブ,ダブラフェニブ,トラメチニブ)がある.コンパニオン診断薬及 び関連する医薬品に関する技術的ガイダンスでは,バイオマーカーに関連した医薬品の有効性評 価には,患者を治療群へランダムに割り付けるランダム化臨床試験(Randomized Clinical Trial: RCT)が原則として求められる(医薬品医療機器総合機構,2013).そして,バイオマーカーが発 現している患者には治療効果が増強される,といった交互作用を示さなければならない.
実際の臨床開発では,観察研究,探索的試験,過去の RCT で採取した検体の後ろ向き解析など を組み合わせて,バイオマーカーの探索がなされる(Simon et al., 2009).たとえば,切除不能進 行・再発大腸がんへのセツキシマブの有効性を検証した CO.17 試験では,検体の再解析が行われ, KRAS 遺伝子とセツキシマブの交互作用が示された(Karapetis et al., 2008).このアプローチは, イベントが発生した参加者の検体(ケースサンプル)とイベントが発生していない参加者の検体 (コントロールサンプル)を比較するフルコホート解析である.しかし,ケースサンプルとコント ロールサンプルを全数解析するアプローチでは,検体再解析の費用や時間がかかるため効率的で はない.そこで,より効率的に研究を行う方法としてケースオンリー解析が提案されている. ケースオンリー解析では,バイオマーカーを探索するために RCT の参加者のうちイベントが 発生したものの検体のみが解析される.また,試験のデザインやアウトカムの種類によって様々 なケースオンリー解析の手法が提案されている(Vittinghoff and Bauer, 2006;Dai et al., 2012;Dai et al., 2016;Dai et al., 2018).もともとケースオンリー解析は,観察研究において遺伝子と環境要 因の交互作用を推定する方法として提案された(Piegorsch et al., 1994).このように,アウトカ ムに基づいて一部の対象者をサンプリングする方法は,検体の取得が困難な場合や解析に費用が かかったりする場合に特に有効である.しかし,バイオマーカー候補となる遺伝子と環境要因が 独立で,疾患の発症が稀という仮定が必要となる.したがって,観察研究では遺伝子と環境要因 の独立性が成り立っているかが問題になる(Albert et al., 2001).一方,RCT では遺伝子と治療の 独立性が保証されており,ケースオンリー解析の適用が可能である(Vittinghoff and Bauer, 2006).
観察研究におけるケースオンリー解析の有効性についてはこれまで多くの議論がなされている (Yang et al., 1997;Tchetgen Tchetgen and Robins, 2010;Albert et al., 2001).例えば,Yang et al. (1997)はケースオンリー解析を用いて遺伝子と環境要因の交互作用を検出する際のサンプルサ イズ計算方法を提案し,ケースオンリー解析ではケースコントロール解析と比べてより少ないサ ンプルサイズで交互作用を検出できると報告している.また,Tchetgen Tchetgen and Robins
(2010)はモデルの主効果を誤特定していても交互作用項の推定にバイアスの入らないケースオ ンリー解析のセミパラメトリック推定量を提案している.しかし,Albert et al.(2001)は遺伝子 と環境要因の交互作用を特定する研究において,遺伝子と環境要因の独立性が成り立たない場合 では交互作用項の推定にバイアスが入ることを報告しており,観察研究におけるケースオンリー 解析の推定量の妥当性は遺伝子と環境要因の独立性の仮定に依存している. RCT におけるケースオンリー解析は,観察研究におけるケースオンリー解析の拡張として提 案された(Vittinghoff and Bauer, 2006;Dai et al., 2012).RCT では試験開始時点において採取さ れた遺伝子と治療の独立性はランダム化によって保障されている.この独立性を利用して, Vittinghoff and Bauer(2006)はアウトカムが稀な疾患である試験において遺伝子と治療の交互 作用項を推定する場合,バイアスと α エラーはフルコホート解析と比べてもケースオンリー解析 は十分な性能であると報告している.その他,RCT におけるケースオンリー解析はアウトカム が生存時間や 2 値である場合に利用できる手法が提案されている(Dai et al., 2016;Dai et al., 2018) が,推定量の性能評価は十分に行われていない.本研究では,RCT における 2 値アウトカムの ケースオンリー解析に着目する. Dai et al.(2018)は,2 値アウトカム・2 群比較試験のためのケースオンリー解析について論じ た.この方法では,イベントを発生した参加者の治療とバイオマーカーのデータを用いて,治療 のオッズに対してロジスティック回帰モデルを当てはめる.ロジスティック回帰モデルで治療と バイオマーカーの交互作用項の検定を行うことで,バイオマーカーが治療効果予測マーカーかど うか判定する.この方法には,疾患の発症が稀という仮定が必要ないこと,推定したオッズから イベント発生のリスク比を推測できること,バイオマーカーの主効果をモデリングする必要がな いため主効果を誤特定する危険性がないなどの利点がある.しかし,先行研究で残されている課 題として,提案された交互作用の検定がどの程度の検出力を持っているか明らかとなっていない ことが挙げられる.また,検体を再解析してバイオマーカーを測定する際に,全検体を用いるべ きか,ケースオンリー解析を採用してケースのみの検体を用いるべきか,十分な判断材料はない. これらの議論は,基礎研究でバイオマーカー候補が既に絞られている状況において,研究デザイ ンを立てる際に重要である. 本研究の目的は,過去に行われた 2 値アウトカムのランダム化臨床試験に基づく後ろ向き研究 において,治療効果予測マーカーを検証する際の検出力を,ケースオンリー解析とフルコホート 解析とで比較することである.治療と交互作用をもつ単一のバイオマーカーに対して,ケースの みを解析した場合とケースとコントロールを含む全体のデータセットを解析した場合(フルコ ホート解析)での検出力と α エラーの比較を行い,ケースオンリー解析を使用することが有益な 状況を明らかにする. 2.方 法 2.1 ケースオンリー解析を用いた交互作用の検定 ケースオンリー解析を用いた先行研究(Dai et al., 2018)では,ロジスティック回帰モデルなど の一般化線形回帰モデルによりバイオマーカーと治療の交互作用を評価している.この方法で
は,解析したバイオマーカーの情報を用いて帰無仮説:交互作用項=0 の検定を行い,バイオマー カーと治療の交互作用の有無を検討する. 本研究では新たにバイオマーカー候補が同定され,改めて過去に行われた RCT の検体を再解 析する状況を想定している.また,議論を単純化するため,バイオマーカー非発現の参加者には 試験治療が有効でないと想定されている状況を考える.イベント発生確率は 2 値を取る治療 (Z),バイオマーカー(M)とアウトカムイベント(D)を用いて,PD=1|Z,M =exp β+βMZ で表されるとする.本研究では治療への割り付け確率を 0.5 と仮定し,バイオマーカーが与えら れた下での治療に関する対数リスク比は,バイオマーカーの発現状況が M であるケース(D =1) が試験治療(Z =1)または標準治療(Z =0)を受ける確率である P Z|M ,D=1 を用いて, log
P Z=1|M ,D=1P Z=0|M ,D=1
=βM (1) と表すことができる(付録を参照).(1)式より,治療をアウトカムとしたロジスティック回帰モ デルを用いて M の主効果に対する検定を行うことにより,ケースサンプルのみからバイオマー カーと治療のイベント発生確率に対する交互作用項の係数である βの検定を行うことが出来る. 本研究では,ケースオンリー解析は試験の参加者の中からイベントが発生した全てのケースの データを使用して行う.フルコホート解析はケースとコントロールのデータを全て使用して行 う.ま た,フ ル コ ホ ー ト 解 析 に は 対 数 線 形 モ デ ル を 当 て は め,真 の モ デ ル log (P D=1|Z,M )=β+βMZ を用いる.なお,exp (β) は標準治療を割り当てられたバイオ マーカーが発現していない参加者のイベント発生確率,exp (β) はバイオマーカーが発現してい る参加者の治療に関するリスク比と解釈することができる. 2.2 検出力評価の方法 本研究では,モンテカルロシミュレーションにより検出力を評価する.検出力評価の方法につ いて,多くの試験で適用できるようにパラメータの値を大きくふった設定で検討を行った後,実 際の臨床試験で報告された値をパラメータに設定した検討を行う.解析するデータセットは参加 者ごとに治療(Z),バイオマーカー(M)とアウトカムイベント(D)を有し,それぞれ 2 値を取 ると仮定する. RCT の参加者は無作為に試験治療(Z=1)または標準治療(Z=0)に割り付けられる.バイオ マーカーとなる遺伝子の発現を M =1, 非発現を M =0 とする.本研究では単一のバイオマー カーのみを想定する.また,試験開始時点の検体はすべての参加者について保管されていると仮 定する.試験でイベントが発生すれば D =1, 発生しなければ D =0 とする. 次に,データセットを生成するためのパラメータ設定を以下に示す.シミュレーションで考慮 するパラメータは,サンプルサイズ(N),マーカー発現確率(PM),イベント発生確率(P)に影 響する回帰係数 β, βの 4 つである. サンプルサイズ(N)は 1 つのデータセットあたりの試験に参加した患者の人数であり,サイ ズ N0のケースサンプルとサイズ N1のコントロールサンプルからなる(N=N0+N1).マーカー発現確率(PM)は,集団全体においてバイオマーカーとなる遺伝子が発現する確率である.治療 と バ イ オ マ ー カ ー が 与 え ら れ た 下 で,ア ウ ト カ ム イ ベ ン ト D は,イ ベ ン ト 発 生 確 率 PD=1|Z,M =exp β+βMZ の Bernoulli 分布に従うと仮定する. 治療と交互作用を持つバイオマーカーに対してケースオンリー解析を使用した際の検出力とフ ルコホート解析を使用した際の検出力を評価する.シミュレーションのパラメータ設定は,表 1 の通りである. 発生させるデータセットのサンプルサイズは 100, 300, 500, 1000 の試験を想定する.マーカー 発現確率は,低い場合(0.1)から高い場合(0.9)までのいずれの状況も検討する.バイオマーカー が発現していない参加者が標準治療でイベントが発生する確率(=exp (β))は 0.3, 0.5, 0.7 の疾 患を想定する.バイオマーカーが発現している参加者の治療のリスク比(=exp (β))は 0.5, 0.7, 0.9 の治療を仮定する.この設定の下で,前述の交互作用の検定の検出力評価を行う.一般に,研 究を行うかどうかの判断の目安として検出力 80 % 以上が使用されるので,本研究でも検出力が 80 % 以上得られた場合を研究に使用できる状況と判断する. 検出力は,推定した交互作用項の係数について検定を行い算出する.交互作用の検定の有意水 準(α)は両側 5 % とする.また,本研究では検出力を「帰無仮説:β=0 の Wald 検定が有意と なった数 / 繰り返し回数」で計算する.シミュレーションの繰り返し回数は 2000 回とする.繰 り返しごとに,ケースオンリー解析とフルコホート解析で交互作用の検定を行い,検出力を求め 比較する.また,βの値が 0 の際に発生する第一種の過誤(α エラー)についても確認する.α エ ラーの確認は繰り返し回数 10000 回で行う. 続いて,過去に行われた臨床試験の実例を用いてケースオンリー解析の検出力評価を行う. CO.17 試験は切除不能進行・再発大腸がんへのセツキシマブの有効性を検証した第Ⅲ相ランダム 化臨床試験である.572 人の参加者が試験治療群(セツキシマブ+サポーティブケア)もしくは 標準治療群(サポーティブケア)に割り付けられた.572 名の参加者のうち 394 名の検体が解析 され,KRAS の変異は試験治療群で 40.9 %, 標準治療群で 42.3 % であったことから KRAS 遺伝子 wild type の発現確率は 0.6 と仮定する.試験の結果は,6ヶ月時点の標準治療群の全生存確率が 0.34, KRAS 遺伝子 wild type 群の治療のリスク比が 0.47 であった(Karapetis et al., 2008).これ を真の状況と考えて,ケースオンリー解析を用いて KRAS 遺伝子とセツキシマブの交互作用の 検証を行うときの検出力をシミュレーションで算出する.
3.結 果 バイオマーカーが発現していない参加者が標準治療でイベントが発生する確率(=exp (β)) の値とバイオマーカーが発現している参加者の治療のリスク比(=exp (β))の値ごとに,ケース オンリー解析とフルコホート解析の検出力を比較した結果をサンプルサイズごとに図 1 から図 4 に示す.それぞれのグラフについて,縦軸は検出力を,横軸はマーカー発現確率を示している. また,白丸はケースオンリー解析の検出力を,黒丸はフルコホート解析の検出力を示す. 図 1 はサンプルサイズが 1000 の場合である.フルコホート解析はすべての設定においてケー スオンリー解析より検出力が高い.また,exp (β) に注目すると,ケースオンリー解析とフルコ ホート解析ともに値が大きくなるにしたがって検出力が高くなる傾向がある.同様に,exp (β) が小さくなるにしたがってどちらも検出力が高くなる傾向がある.次に,個々のグラフに注目す る.ケースオンリー解析はマーカー発現確率が 0.5 の時に検出力が最大となり発現確率が 0 また は 1 に近づくにつれて検出力が低下した.しかし,フルコホート解析ではマーカー発現確率が高 くなるにつれて検出力が高くなった.これらの傾向はサンプルサイズが低くなっても同様の傾向 を示した(図 2-図 4). ケ ー ス オ ン リ ー 解 析 の 検 出 力 に 注 目 す る と,サ ン プ ル サ イ ズ が 1000 の 場 合 で は 0.5≤exp β≤0.7 かつ exp β=0.5 の時に検出力が 80 % を超える場合があった.サンプルサイ ズが 500 の場合では exp β=0.7 かつ exp β=0.5 でマーカー発現確率が 0.5 の時のみ検出力が 80 % 以上であった.サンプルサイズが 300 以下では検出力 80 % を超える条件はなかった. フルコホート解析の検出力に注目すると,0.3≤exp β≤0.7 かつ exp β=0.5 の場合はサンプ ルサイズが 300 以上であれば検出力が 80 % 以上得られる場合があった.exp β=0.7 の場合,サ 図 1.ケースオンリー解析(CO)とフルコホート解析(FC)の検出力比較(N = 1000)
図 2. ケースオンリー解析(CO)とフルコホート解析(FC)の検出力比較(N = 500)
図 5. ケースオンリー解析とフルコホート解析のαエラー評価
ンプルサイズが 1000 では 0.3≤exp (β)≤0.7 のいずれでも検出力が 80 % 以上得られたが,サン プルサイズが小さくなるにつれ exp (β) が大きくなければ検出力は 80 % 以下となり,サンプル サイズが 100 になると検出力 80 % は得られなかった. 図 5 にケースオンリー解析とフルコホート解析の α エラーを示す.フルコホート解析では exp β=0.7 かつサンプルサイズが 1000, 500, 300 の場合や exp β=0.3 かつサンプルサイズが 100 の場合にマーカー発現確率が 0.1 だと α エラーが 6 % を超える.その他の設定ではケースオ ンリー解析,フルコホート解析共に α エラーは 5 % に近かった. 前述の CO.17 試験について,ケースオンリー解析を用いて KRAS 遺伝子とセツキシマブの交 互作用を検証する際の検出力をシミュレーション実験により算出した結果,検出力は 77.2 % で あった. 4.考 察 本研究では,2 値アウトカムに注目し,単一の治療効果予測マーカーをケースオンリー解析で 検証する際の検出力とフルコホート解析で検証する際の検出力の比較により,ケースオンリー解 析でも十分検出力が得られる状況と,ケースオンリー解析では不十分だがフルコホート解析では 十分検出力が得られる状況,ケースオンリー解析とフルコホート解析共に十分検出力が得られな い状況をそれぞれ示した.バイオマーカー発現時に治療が十分に有効で,集団内でバイオマー カーが発現している確率が 0.3 から 0.7, かつケースサンプルサイズが 300 以上であればケースオ ンリー解析で 80 % 以上の検出力が得られることが明らかになった.また,ケースサンプルサイ ズが 300 以下でも治療がある程度有効であればフルコホート解析で 80 % 以上の検出力が得られ る.よって,バイオマーカー発現時の治療効果が十分にあると想定される試験でサンプルサイズ が 500 から 1000 と大きい場合ではケースのみの解析で検出力 80 % 以上を見込めること,検体を 選択的に測定することによるコスト削減効果は大きなサンプルサイズの試験でより高まるといっ た理由でケースオンリー解析が選択肢になり得る.ケースオンリー解析とフルコホート解析の検 出力の比較は,web アプリケーションを通じて実施できる(https://kentaroueno.shinyapps. io/Power/). CO.17 試験では,ケースオンリー解析を用いて KRAS 遺伝子とセツキシマブの交互作用の検証 を行うときの検出力を計算すると 77.2 % となった.CO.17 試験では全体の 68.9 % にあたる 394 例の検体のみが解析されており,欠測がなくケースサンプルサイズが十分に得られていた場合は 検出力 80 % を達成できていたと推測される. シミュレーションの結果によると,exp (β) を固定した場合は exp (β) が大きくなるほど検出 力が高くなる傾向がみられた.これは,exp (β) の値がイベント発生確率に影響し,ケースのサ ンプルサイズが大きくなるためである.次に,ケースオンリー解析でマーカー発現確率が 0.5 で 検出力が最大となり,フルコホート解析でマーカー発現確率が高くなるほど検出力が高くなるこ とは,ケースオンリー解析は治療をアウトカムとし,フルコホート解析はイベント発生をアウト カムとしたことを含む統計モデルの違いが影響を与えているものと考えられる.フルコホート解 析では,バイオマーカーが発現していてかつ試験治療に割り付けられた集団とそれ以外の集団の
比較が行われる.よって,治療への割り付け確率が 0.5 である仮定の下ではバイオマーカーの発 現確率が高くなるほど 2 つの集団の人数比が等しくなりフルコホート解析の検出力は高くなる. ケースオンリー解析とフルコホート解析ともに検出力が 80 % 以上得られた条件において,研 究デザインの選択には α エラーやサンプルサイズも考慮する必要がある.ともに検出力が 80 % 以上得られた条件では α エラーはケースオンリー解析とフルコホート解析共に 5 % 程度であっ た.よって,2 つの解析を選択する際に交互作用を誤特定する確率である α エラーを考慮する必 要はないと考えられる.次に,上記の条件におけるサンプルサイズに注目する.サンプルサイズ が 1000 の試験においてケースオンリー解析を用いると解析に使用するサンプルサイズは 4 割か ら 6 割で十分であり,サンプルサイズが 500 の試験では解析するサンプルサイズは 6 割で十分で ある.よって,既定の検出力を見込める状況ではコスト削減の観点からケースオンリー解析を選 択肢として考慮しても良いと考える. 本研究の課題として,治療の主効果がなく,興味のあるバイオマーカーは単一であり,バイオ マーカー以外の要因と治療との交互作用もない,という単純化した状況で検証を行っている点が 挙げられる.治療の主効果がない単純化したモデルの検討を行った理由として,治療の主効果が 認められない事例は実臨床においてもしばしば想定され,本研究ではこのような事例について ケースオンリー解析の検出力の検討を行った.また,興味のあるバイオマーカーが単一である状 況や,過去に行われた RCT の検体の再解析も実臨床ではよく想定される.本研究で検討した状 況の実臨床での例として,前述の CO.17 試験では KRAS 遺伝子変異群におけるセツキシマブの 効果はコントロールと差が見られないが,KRAS 遺伝子 wild type 群にはセツキシマブの治療効 果があることが示されたように,特定のマーカーを持つ一部の集団にのみ治療効果がある,とい う状況はあり得ると考える.また,CO.17 試験では KRAS 遺伝子の変異の有無で分けたときに患 者背景因子に差がないことから,本研究で検討しているようなバイオマーカー以外の要因と治療 の交互作用がない状況は想定され得ると考えられる.最も単純化した状況においてケースオン リー解析が十分な性能を持つことが明らかになったことで,治療の主効果を加えたモデルなど, より一般化したモデルの検討も本研究と同様にして行うことができるため,今後の課題としたい. 単純化したモデルに限れば,交互作用項の係数の指数はオッズ比と一致するため,2×2 表より計 算した結果と一致する.共変量が存在するときなど,より複雑な状況に応用する場合はロジス ティック回帰によるモデル化が必要となるが,本研究では検討を行っていない.なお,本研究で はオッズに対するモデルを用いて治療とバイオマーカーの交互作用を検討したが,推定したオッ ズは治療への割り付け確率が 0.5 である仮定を用いるとリスク比として解釈することができる. 最後に,バイオマーカーを用いた臨床試験のデザインについて考察する.本研究では単一のバ イオマーカーに着目している.バイオマーカーが真に治療選択に有用であるかを判断するために は,バイオマーカー特定を目的とした臨床試験を行う必要があり,バイオマーカー非発現の参加 者を除外し発現している参加者のみを対象とした強化デザインや,バイオマーカー非発現の参加 者には標準治療を割り付けるハイブリットデザインが使用される(Mandrekar et al., 2009).実臨 床では KRAS 遺伝子や BRCA 遺伝子など単一のバイオマーカーが使用され(Robson et al., 2017; Amado et al., 2008),単一のバイオマーカー特定を目的とした臨床試験が行われるのが現状であ
るが,疾患が症状として現れるまでに複数の遺伝子が働くメカニズムも想定されるため,複数の バイオマーカーが交互作用を持つ場合など,より複雑な状況での検出力の検討も今後の課題とな る. 5.研究資金及び利益相反 本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の生物統計家育成支援事業(2019 年度の助成金(19lk0201061t0004)によって実施した.利益相反はない. 6.謝 辞 本稿の作成にあたり,貴重なご意見をいただきました佐藤俊哉先生・土居正明先生・今井徹先 生,丁寧に論文をご確認いただきました査読者及び編集者の先生方に感謝いたします. 参考文献
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付録 ケースオンリー解析のモデル導出 バイオマーカーが与えられた下での治療のリスク比は, P (D=1|Z=1,M ) P (D=1|Z=0,M ) と表されるが,ケースサンプルのみから推定することはできない. そこで,ベイズの定理とランダム化によるバイオマーカーと治療の独立性を用いて, P D=1|Z=1,M P D=1|Z=0,M =P Z=1|M ,D=1P Z=0|M ,D=1 ∙1−ππ と表す.治療への割り付け確率は π と表記する. 左辺はイベント発生確率 PD=1|Z,M =exp β+βMZ を用いて, P (D=1|Z=1,M ) P (D=1|Z=0,M ) =exp (βM ) と表すことができる. 上記 2 式から, log