トンレサップ湖流域における
GPCP の特徴と
その利用による水文・水理モデルの改善
米田一路
1・藤井秀人
2・藤原洋一
3Improvement of Hydrological and Hydraulic Model
Applying GPCP and Its Characteristics in the Tonle Sap Lake
Ichiro Yoneda
1, Hideto Fujii
2and Yoichi Fujihara
3Abstract: The Tonle Sap Lake in Cambodia is the largest fresh water lake in Southeast Asia. Hydrological and hydraulic models are powerful tools to understand water flow in the lake basin. However, due to poor measuring density of
gauge-based precipitation in Cambodia, it is difficult to develop accurate models. In this study,Global Precipitation
Cli-matology Project (GPCP)was used as satellite-based precipitation, and as a result of examining its characteristics, we found that GPCP tends to be larger values than gauge-based precipitation in the lake basin. Therefore, the hydro-logical and hydraulic model used GPCP after adjustment to improve model accuracy. The accuracy of the simulation of the hydrological and hydraulic model was evaluated by NSE. As a result, by using the adjusted GPCP for the hydro-logical and hydraulic model instead of gauge-based precipitation, the average NSE of the runoff discharge from seven watersheds, which is the simulation result of the hydrological model, was improved from 0.39 to 0.49, the NSE of the water level at Kg. Luong, which is the simulation result of the hydrological and hydraulic model, was improved from 0.93 to 0.97.
Keywords: Satellite-based precipitation; GPCP; Hydrological and hydraulic model; Tonle Sap lake basin 1 はじめに メコン川流域のトンレサップ湖は東南アジア最大の淡水湖 である.トンレサップ湖ではメコン川との水位差により,例年 9月下旬から5月上旬は湖からメコン川へ流下するが,5月 下旬から9月上旬はメコン川から湖へ水が逆流し,湖の水 位と面積は大きく変動する.乾季の最小値は約1.32 mと約 2,215 km2であるが,雨季の最大値は約9.17 mと約13,260 km2にまで拡大する(Kummu et al., 2014).トンレサップ湖 の水位と面積の季節変動は,湖とその氾濫域に多様な生 態系をもたらし(Rainboth, 1996),この地域で獲れる魚や 農作物はカンボジア国民の食料となっている. しかしながら,近年,気候変動やメコン川上流でのダム 開発の影響により,トンレサップ湖とその流域の流況や土 砂流動が変化し(Västilä et al., 2010; Lauri et al., 2012; Suif et al., 2017),湖の氾濫域の植生や生態系の変化が懸念さ れている(Arias et al., 2014).このことから現在及び将来の 生態系保全のために,湖と流域の流況の正確な把握が重 要となっている. 水文・水理モデルは,流域,湖及び河川の流況を把握 するためのツールであるが,計算には多くの水文,水理, 気象のデータが必要である.このうち気象データの降雨量 に つ い て , 世 界 気 象 機 関 ( World Meteorological Organisation, 2008)は,平地で600~900 km2,山地で100 ~250 km2に1か所の降雨観測点の設置を推奨している.ト ンレサップ湖流域は大半が平地であることから,少なくとも 90地点の降雨観測点が必要であるが,1998年から2002年 は41地点,2010年から2015年は5地点である(表1).どちら の期間についても,明らかに降雨観測点数は不足してい るが,1998年から2002年よりも2010年から2015年の方が顕 著に少ない.このように降雨データを十分に得ることができ ないため,水文モデルの流出量の再現精度(特に2010年 から2015年)は十分ではなく,現在及び将来の流況の再 現性には限界がある. 近年,衛星観測による降雨量(以下,衛星降雨量)は水 文モデルの計算に利用されることも多い(Biemans et al., 2009; Getirana et al., 2011; Fujihara et al., 2014).衛星降 雨量は,降雨観測点が少ない地域で,水文モデルの再現 性の改善に有効であると報告されており,トンレサップ湖流 域も該当すると考えられる.
衛星降雨量はメコン川流域においても水文モデルに利 用 さ れ て い る (Lauri et al., 2014; Wang et al., 2016; Mohammed et al., 2018; Nguyen et al., 2018).柿澤ら(2011) は地上降雨量と複数の衛星降雨量をそれぞれ比較し,衛 星降雨量の一つであるGlobal Precipitation Climatology Project(GPCP)のバージョン1.1が洪水計算時に有用であ ると結論付けている.またKotsuki and Tanaka(2013)は,地 上降雨量と複数の衛星降雨量を水文モデルに適用し, GPCPのバージョン1.2の有効性を報告している(GPCPの 詳細は後述する).しかしながら,柿澤ら(2011)がGPCPの 有効性の評価を実施した降雨観測点の中に,トンレサップ 湖流域の地点は含まれておらず,Kotsuki and Tanaka Journal of Rainwater Catchment Systems Vol.25/No.1/pp.23-31
Journal of
Rainwater Catchment Systems
1山形大学大学院農学研究科修士課程,Master’s Course Student,
Graduate School of Agriculture, Yamagata University, 1-23 Waka-bamachi, Tsuruoka, Yamagata 997- 0037, Japan (Corresponding Author) E-mail:[email protected]
2山形大学農学部教授,Professor, Faculty of Agriculture, Yamagata
University, 1-23 Wakabamachi, Tsuruoka, Yamagata 997- 0037, Japan
3石川県立大学生物資源環境学部准教授,Associate Professor,
Fac-ulty of Bio-resources and Environmental Science, Ishikawa Prefectural University, 1-308 Suematsu, Nonoichi, Ishikawa 921- 8836, Japan
表 1: トンレサップ湖の支川流域ごとの降雨観測点(●は降 雨量が観測されていたことを意味する) (2013)はメコン川流域全域の大きな規模で評価を行って いる.このように,メコン川の一支流であるトンレサップ湖流 域を主な対象とし,GPCPの有効性を検証した研究例はこ れまでに報告されていない. 本研究では,衛星降雨量の一つであるGPCPを,トンレ サップ湖流域を対象に水文モデルと水理モデルに適用し, 地上降雨量と衛星降雨量を用いた流出量と流況の再現性 の比較から,衛星降雨量の有効性を検証することを目的と する. 2 研究対象地区と計算期間 対象地区はメコン川流域のトンレサップ湖流域とする(図1 上).トンレサップ川はプノンペンでメコン川本流と合流し, そこでバサック川とメコン川に分流する.トンレサップ湖に は12の支流河川が流入しており,流域面積を表2に示す. 最大流域面積は約83,030 km2であるが,湖面積の季節 変動に伴い支流河川の流域面積は変動する.湖水位 (Kg.Luong地点)の平均水位となる5.38 mの時(1998~ 2002年平均)の流域面積は78,600 km2となる.また,湖の 図 1: トンレサップ湖流域とその周辺の概要(上図)とトン レサップ湖流域の標高(下図)(白線は流域の境界) 表 2: トンレサップ湖の12支流河川の流域面積.最大流 域面積は乾季の最大の流域面積,平均流域面積は 湖のKg.Luong水位が5.38 m(1998年から2002年の 期間の平均水位)の時の流域面積,観測流域面積 は支流河川の水位観測所より上流の流域面積. 面積変動の影響を受けない地点にある水位観測点の流域 面積は48,700 km2である. トンレサップ湖流域の標高は,流域の南西に位置するカ 流域名 観測点名 キャリブレーション バリデー ション 98 99 00 01 02 10-15 Chinit Baray ● ● ● ● ● Taing Kok ● ● ● ● Taing Krasaing ● ● ● ● Sen Kg.Thom ● ● ● ● ● ● Oudong ● ● ● ● ● Prasat Balaing ● ● Prasat Sambo ● ● Prey Prous ● ● ● ● ●
Staung Kandal ChrassStaung ● ●● ●
Chikreng Kg Kdei ● ● Siem Reap Banteay Srey ● Dam Dek ● ● ● ● Phnom Krom ● ● Prasat Bakong ● ● ● ● Sasar Sdam ● ● SiemReap ● ● ● Sreng Angkor Chum ● ● ● Kralanh ● ● ● ● ● Srey Snam ● ● Sisophon Sisophon ● M.K. Borey Komping pouy ● Otaky ● Rattanak Mondol ● Thmar Kol ● ● ● ● ● Toul Samrong ● ● Sangker Battambang ● Banan ● ● Chamlong Kouy ● ● Cheang MeanChey ● ● Samlot ●
Dauntri Maung Russey ● ● ● ● ●
Talo ● ●
Pursat PeamPursat ● ● ● ● ●● ●
Boribo Bamnak ● ● ● Boeung Leach ● Kg.Chhnang ● ● ● ● ● Kg Tralach ● ● ● ● Krakor ● ● ● ● Ponley ● ● Sum 16 16 14 38 28 5 流域名 面積[km最大流域2] 面積[km平均流域2] 面積[km観測流域2] Chinit 8,240 7,550 4,130 Sen 16,360 15,960 14,000 Staung 4,360 3,880 1,900 Chikreng 2,710 2,290 1,920 SiemReap 3,620 3,320 670 Sreng 9,990 8,990 8,180 Sisophone 4,310 4,310 4,310 M.K.Borey 10,570 10,390 4,170 Sangker 6,050 6,000 3,230 Dauntri 3,700 3,300 830 Pursat 5,970 5,720 4,480 Baribo 7,150 6,890 870 合計 83,030 78,600 48,700
図 2: 1次元水理モデル(MIKE11)の河道網,河川断面お よび境界条件 ルダモン山脈のアオラル山で最高1,813 mであるが,それ 以外のほとんどの流域は200 m以下で平坦な土地である (図1下). 降雨及び水文・水理モデルの計算は1998~2002年(5 年間)をキャリブレーション期間,2010~2015年(6年間)を バリデーション期間として行う. 3 研究手法 3.1 水理モデル 1次元水理モデルは,先行研究においても利用されている (Fujii et al., 2003; Thompson et al., 2004; 手計ら,2006), デ ン マ ー ク 水 理 環 境 研 究 所 が 開 発 し た 商 用 モ デ ル MIKE11を用いる(DHI, 2016).MIKE11の河道計算は連 続式((1)式)と不定流式のサン・ヴナン式((2)式)を,水位 と流量の計算点を交互に配置するスタッガート法で差分化 し,陰解法6点アボットスキームによって解く. ∂A ∂t + ∂Q ∂x = q ∂Q ∂t + ∂ QA2 ∂x + gA ∂h ∂x + n2gQ|Q| AR43 = 0 ここで,t:時間,x:距離,A:通水断面積(m2),Q:流量 (m3/s),q:単位長さ当たりの横流入流量(m2/s),h:水位 (m),g:重力加速度(m/s2),n:マニングの粗度係数,R: 径深(m)である. 図2にFujii et al.(2003)により構築されたMIKE11の河道 網と河川断面を示す.トンレサップ湖および氾濫原は平面 2次元の広がりを持つため,氾濫原を含む幅の広い河川 断面と,氾濫原内に詳細な河道網を構築することで,1次 元水理モデルで計算する. 水理モデルの上流境界は,トンレサップ湖の12支流河 川からの流出量(後述する水文モデルの計算値)とメコン 川本流のKratieの水位とし,下流境界はメコン川本流の Tanchau,バサック川のChaudoc,Tannchau東側の氾濫原3 地点とChaudoc西側の氾濫原1地点,の計6地点の水位と す る .Kratieの 水位はカンボ ジア王国水資源気象省, TanchauとChaudocの水位はメコン川委員会より取得した. 下流境界となる氾濫原の4地点の水位は継続的に観測 されていないため,TanchauとChaudocの水位,および氾濫 原の下流境界地点との距離から次式で推定する. WLi= (WLTancau - WLChaudok)Xi XTC + WLTanchau ここで,Xi:Tanchau と各下流境界地点 i との距離(m), XTC:Tanchau と Chaudoc 間の距離(m), WLi:各下流 境界地点i の水位(m),WLTanchau:Tanchau の水位(m), WLChaudoc:Chaudok の水位(m)である. 3.2 水文モデル 水文モデルとして,集中型水文流出モデルであるNedbor-Afstromnings Model(NAM)を用いる(DHI, 2016). NAM は,地表面タンク,浸透流タンク,基底流タンクの3種類の タンクで構成され,合計9つのパラメータを有する.流出量 は,9つのパラメータ,降雨量,可能蒸発散量,流域面積を 用いて,流域単位で計算される.降雨量は各支流河川流 域での面積平均値,可能蒸発散量はFujii et al.(2003)と 同様に全流域で月別の一定値を利用する. NAMのパラメータの値は,計算期間の流量誤差の平均 ((4)式)と計算期間の二乗平均誤差((5)式)を目的関数と して,(4)式と(5)式がそれぞれ最小値をとるように((6)式), パラメータごとに多目的最適化を用いて決定する(Madsen, 2000). F1(θ) = 1 [Qobs,i- Qsim,i(θ)] N i=1 F2(θ) = 1 Qobs,i- Qsim,i(θ) N i=1 1 2 min{F1(θ), F2(θ)}, θ ∈ Θ ここで,θ:最適化対象のモデルパラメータ,Θ:θの取り得る パラメータの範囲,F1(θ),F2(θ):θについての目的関数,
i:時間,Qobs,i:実測流出量(m3/s),Qsim,i:計算流出量(m3/s)
である.
多 目 的 最 適 化 は , 大 域 的 探 索 法 で あ るShuffled Complex Evolution(SCE)アルゴリズム(Duan et al., 1992) を用い,目的関数間の重みは1とする.このアルゴリズムの 詳細と検証についてはMadsen(2000)に詳述されているた めここでは省略する. 前述の通り,1次元水理モデルは,NAMで計算された 流出量を上流境界として利用する.しかしトンレサップ湖は 季節的に湖面積が大きく変化するため,湖と支流河川の 接続地点も変化する.このため,NAMで計算された流出 量は,湖水位(Kg.Luong地点)が1.34 mの時(1998~2002 年の年最低水位の平均値)の湖と支流河川との接続地点 に最も近い水理モデルの河道網に,定点として入力する (図2).また水理モデルと水文モデルはそれぞれ独立して 計算する. 3.3 地上降雨量 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
図 3: 逆距離加重法により0.01度グリッド単位の面データに内挿補間した地上降雨量(左),補正前GPCP(中央),補正後 GPCP(右)の平均年降雨量の分布(上段はキャリブレーション期間,下段はバリデーション期間である.補正前 GPCPは1度グリッドの平均値,地上降雨量と補正後GPCPは0.1度グリッドの平均値である.) 地上降雨量はカンボジア王国水資源気象省より取得した (表1).取得できた降雨観測点の数はキャリブレーション期 間では合計41地点であるがその数は年によって異なる. 1998年と1999年は16地点,2000年は最も少なく14地点, 2001年は最も多く38地点,2002年は28地点である. 一方バリデーション期間は,Kg.Thom(Sen川流域), SiemReap(SiemReap川流域),Battambang(Sangker川流 域),Pursat(Pursat川流域),Kg.Chhnang(Boribo川流域) の5地点のみである. 3.4 GPCP
衛星降雨量にはGlobal Precipitation Climatology Project (GPCP)one-degree daily(Huffman et al., 2001)のバージョ ン1.1 ~ 1.3 や Global Satellite Mapping of Precipitation (GSMaP) ( Okamoto et al., 2005; Kubota et al., 2007; Aonashi et al., 2009; Ushio et al., 2009)などがある.本研究 では,Kotsuki and Tanaka(2013)同様,GPCPのバージョン 1.2を利用する. GPCPは世界気象機関が公開しており,衛星により測定 されたマイクロ波,赤外線,音響データを地上雨量計解析 データと組合わせて日降雨量を算出し提供している.空間 解像度は1度,時間解像度は1日,データ提供期間は1996 年1月~2015年10月までである. 降雨量の内挿補間によく利用される逆距離加重法 (Lauri et al., 2014; Getirana et al., 2011)により,0.01度 グ リ ッ ド 単 位 の 面 デ ー タ に 補 間 し た 地 上 降 雨 量 と GPCPのキャリブレーション期間における平均年降雨量の 流域内の分布を図3に示す.平均年降雨量の最小値と最 大値は, 地上降雨量は980 mmと1,750 mmであったが(図 3左),GPCPは1,630 mmと2,330 mmであった(図3中央). 前述の通り,既往研究(柿澤ら, 2011; Kotsuki and Tanaka, 2013)は,メコン川流域において,GPCPの水文モデルへ の有効性(精度と信頼性が高いこと)を報告している.しか し,これらはトンレサップ湖流域よりも,かなり大きな規模で の結果である.湖流域に限定すると,GPCPは地上降雨量 より過大な傾向が示されたため,その補正を行うこととする. 3.5 GPCPの補正 補正は,比較的降雨観測点数が多いキャリブレーショ ン期間の地上降雨量とGPCPの平均値の比を補正係数 とし((7)式),補正係数を日単位のGPCPに乗じる((8) 式)方法とする.Ashouri et al.(2015)も衛星降雨量を同 様の方法で補正しており,この方法では,キャリブレーショ ン期間における補正後のGPCPと地上観測降雨量の平均 降雨量が一致する. 補正単位として,年,季(雨期と乾季),月等が考え られる.そこで年,季,月の3種類の補正単位について 比 較 を 行 っ た が , 補 正 単位 の 違 い に よ る 補 正 後 の GPCP値の差はほとんど認められなかった.しかし雨 季と乾季では降雨量の差が大きいため,本研究では季 単位で補正を行うこととする. Ci,j= 1 5 ∑5t=1obsi,j 1 5 ∑5t=1GPCPi,j , = , × , ここで,i, j:緯度,経度方向の0.01度単位のグリッド番号,
Ci,j:補正係数,t:年数,obsi,j:季平均地上降雨量(mm/季),
GPCPi,j:季平均補正前のGPCP(mm/季),AGPCPi,j:日単
位の補正後のGPCP(mm/日),OGPCPi,j:日単位の補正 前のGPCP(mm/日)である. 地上降雨量は逆距離加重法により0.01度グリッド単位に 補間した値を用いる.また,補正前のGPCPの空間解像度 は1度グリッド単位であるが,少し粗いため,補正は0.01度 (7) (8)
表 3: 4地点における補正前後のGPCP月降雨量のNSEとRMSE(mm) グリッドで行う.この時,0.01度グリッドで補間された地上降 雨量が,グリッドが細かすぎるために,補正後のGPCPの値 に悪影響を与えることはほとんどないと考えられる.なぜな ら,補間する際のグリッド単位がある程度よりも細かくなると, 補間の精度も上昇しにくくなるが,それによる誤差が増加 するとは考えにくいためである(Chaplot et al., 2006).キャリ ブレーション期間に計算された補正係数は,グリッドと季ご とに決まり,同一の値をバリデーション期間の補正にも利 用する. 3.6 評価関数 評価関数として(9)式のNash-Sutcliffe efficiency(NSE)と, (10)式のRMSE(Root Mean Square Error)を用いる(Nash and Sutcliffe, 1970)
NSE = 1 - ∑ Xobs,t-Xsim,t 2 T t=1 ∑ Xobs,t-Xobs 2 T t=1 (-∞ < NSE ≤ 1) RMSE = 1 T∑ Xsim,t-Xobs,t 2 t=1 ここで,t:時間,Xobs,t:実測値,Xobs:実測値の平均値, Xsim,t:計算値である. NSEとRMSEによる評価は,①降雨量,②トンレサップ湖 の支流河川からの流出量,③トンレサップ湖Kg.Luong地 点の水位の三段階で行う.①ではGPCP補正の効果,②で は流出量の改善,③では水文・水理モデルによる水位の 改善を評価する. 4 結果と考察 4.1 補正前GPCPの特徴 図3より,地上降雨量(左),補正前GPCP(中央)ともに流 域北西部は他の領域に比べ平均年降雨量が少ない傾向 があった.しかし前述したようにトンレサップ湖流域全域で 補正前GPCPは地上降雨量よりもかなり過大であった. 両者の月降雨量を比較するため,キャリブレーション, バリデーションの両期間で観測されていたKg.Chhnang, Kg.Thom,Pursat,SiemReapの4地点の月降雨量を図4に 示す.地上降雨量と補正前GPCPはともに,雨季は100 mm 以上,雨季と乾季の境界月(11月と4月)は約60 mm~約 100 mm,12月~3月は50 mm以下であった.またほぼ全て の降雨観測点で,どの月も補正前GPCPは地上降雨量より 大きな値を示した. 以上の通り,トンレサップ湖流域において,補正前GPCP が地上降雨量よりも過大であったが,その理由は明確では ないため,今後,より精査する必要がある. 4.2 GPCPの補正結果 図 4: 補正前GPCPと地上降雨量の月平均降雨量の比較 補正後のGPCP(以下,補正後GPCP)と地上降雨量の平 均年降雨量の分布を図3に示す.補正後GPCPと地上降雨 量の平均年降雨量は同程度となり,GPCPの過大傾向は 解消された.また,補正後GPCPと地上降雨量の分布は, キャリブレーション期間はほぼ同一であったが,バリデーシ ョン期間は異なった傾向を示した.バリデーション期間は, 地上降雨量の観測点が5地点と少ないため地域的な分布 を捕捉できていない可能性がある.一方,補正後GPCPは, キャリブレーション期間と同様に流域の北西部が他の領域 に比べて少ない傾向があった. 次にGPCP補正の妥当性を月降雨量で評価するため, 観測点 キャリブレーション バリデーション 補正前GPCP 補正後GPCP 補正前GPCP 補正後GPCP
NSE RMSE NSE RMSE NSE RMSE NSE RMSE
Kg.Chhnang 0.07 114.3 0.63 72.2 0.43 82.9 0.66 64.5 Kg.Thom 0.33 99.6 0.69 67.7 0.04 100.7 0.73 53.9 Pursat 0.18 95.4 0.72 55.7 -0.05 99.5 0.54 65.9 SiemReap 0.90 37.5 0.88 41.0 0.81 56.3 0.78 59.5 平均 0.37 86.7 0.73 59.1 0.32 84.1 0.66 61.9 (9) (10) 0 100 200 300 400 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 月平均降雨量 [m m /月 ]
Kg.Chhnang
補正前GPCP 地上降雨量 0 100 200 300 400 5 月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 1月 2月 3月 4月 月平均降雨量 [m m /月 ]Kg.Thom
補正前GPCP 地上降雨量 0 100 200 300 400 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 月 平均降雨量 [m m /月 ]Pursat
補正前GPCP 地上降雨量 0 100 200 300 400 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 月平均降雨量 [m m /月 ]SiemReap
補正前GPCP 地上降雨量図 5: 補正前後のGPCPと地上降雨量の月降雨量の比較(左:キャリブレーション期間,右:バリデーション期間) 補正前後のGPCPと地上降雨量の月降雨量を図5に示す. 全期間を通して補正前GPCPの過大傾向は解消された. 表3に補正前後のGPCPと地上降雨量の間で計算した 月降雨量のNSEとRMSEを観測点ごとに示す.地点ごとに かなりバラツキがあるがNSEの平均で見ると,キャリブレー ション期間では0.37が0.73に改善,バリデーション期間でも 0.32が0.66に改善された.地点ごとに見るとSiemReapを除 く3地点ではNSEの改善が認められた.SiemReapでは補正 によるNSEの改善が見られなかったが,補正前GPCPが地 上降雨量に対して過大傾向が小さかったこと(図4),補正 に利用できた地上降雨量の期間が2年分と少ないこと(表 1),NSEがキャリブレーション期間は0.90,バリデーション 期間は0.81と良かったことが要因になっていると思われる. またRMSEについても,全期間,全観測点でNSEと同 様の傾向が得られた. 補正には,キャリブレーション期間の地上降雨量を 用いたが,世界気象機関の推奨値(World Meteorological Organisation, 2008)と比較すると,この期間の観測点数 も十分ではない.そのため,他の衛生降雨量等と比較 することや,必要ならばそれらを用いて補正すること が求められる. 4.3 流出量 地上降雨量と補正後GPCPを水文モデル(NAM)の入力と し,求めた計算流出量と実測流出量を観測水位のある7流
域 (Chinit , Sen , Staung , Chikreng, SiemReap, Pursat , Boribo)について図6に比較する.なお,実測流出量は水 位と流出量の関係式(Kummu et al., 2014)を用いて算出し た.地上降雨量および補正後GPCPを水文モデルに利用 した計算値と実測値の季節ごとの流出パターンと全体の水 収支はほぼ同じであった.しかし,どちらの計算値も,洪水 ピークを過小評価し,低水部を過大評価する傾向があった. 次に,モデル計算値と実測値の間で計算した7流域に おけるNSEとRMSEを表4に示す.キャリブレーション期間 は ,Chinit,Sen ,Staung,Chikrengの4流域では補正後 GPCPを利用した場合の方が,NSEが改善したが,他の3 流域ではNSEが低下していた.ここで,キャリブレーション 期間の降雨観測点の密度を流域ごとに計算した.その結 果,NSEが改善した4流域とPursatは約2,100 km2~3,300 km2に1か所,NSEが低下したSiemReapとBoriboはそれぞ れ約600 km2と約1,200 km2に1か所であった.このように SiemReapとBoriboは,降雨観測点の密度が世界気象機関 の推奨値(600~900km2に1か所)と同程度であったため, 地上降雨量のNSEは良かったと思われる.しかし,7流域 のNSEを平均すると地上降雨量は0.53,補正後GPCPは 0.56と少し改善が認められた. 一方,バリデーション期間のNSEは,SiemReap流域以 外の流域で,補正後GPCPを水文モデルに入力した方が, 地上降雨量を入力した場合よりも改善した.7流域のNSE の平均は地上降雨量が0.39,補正後GPCPが0.49となり 0 200 400 600 1998 1999 2000 2001 2002 月降雨量 [m m /月 ]
Kg.Chhnang
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 2010 2011 2012 2013 2014 2015 月降雨量 [m m /月 ]Kg.Chhnang
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 1998 1999 2000 2001 2002 月降雨量 [m m /月 ]Kg.Thom
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 2010 2011 2012 2013 2014 2015 月降雨量 [m m /月 ]Kg.Thom
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 1998 1999 2000 2001 2002 月降雨量 [m m /月 ]Pursat
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 2010 2011 2012 2013 2014 2015 月降雨量 [m m /月 ]Pursat
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 1998 1999 2000 2001 2002 月降雨量 [m m /月 ]SiemReap
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP 0 200 400 600 2010 2011 2012 2013 2014 2015 月降雨量 [m m /月 ]SiemReap
地上降雨量 補正前GPCP 補正後GPCP表 4: 7流域における流出量のNSEとRMSE(m3/s)の比較 図 6: バリデーション期間の補正後GPCPと地上降雨量を 利用した水文モデルの流出量計算値の比較 0.10の改善が見られた.地域的な降雨量分布を,地上降 雨量は観測点の密度が低いため捕捉できていなかったが (図3左),補正後GPCPは捕捉できていたため(図3右), NSEが改善したと考えられる.しかしながら,SiemReap流 域で,水文モデルの再現性が改善しなかった理由は,今 後検討する必要がある.またRMSEについても,全期間, 全流域でNSEと同様の傾向が得られた. これらのことから,降雨観測点の密度が低い場合,地上 降雨量の代わりに衛星降雨量(補正後GPCP)を水文モデ ルに用いることで,モデル計算の再現性を改善できると言 える. 4.4 水位 補正後GPCPと地上降雨量を比較するため,水文モデルと 水 理 モ デ ル (NAM , MIKE11 ) を 統 合 し て 計 算 し た Kg.Luong水位について両計算値と実測値を図7に示す. またそれぞれのNSEとRMSEを図内に示す.NSEはモデル 計算値と実測値を用いて求めた.全期間を通して,補正後 GPCPと地上降雨量ともに,計算値は実測値にほぼ一致し た.NSEはキャリブレーション期間とバリデーション期間そ れぞれで,補正後GPCPが0.98と0.97,地上降雨量が0.97 と0.93で,0.01及び0.04と,補正後GPCPにより改善が認め られた.このことから,補正後GPCPを水文・水理モデルに 利用することで,モデルの再現性が改善されたと言える.し かしながら,NSEの改善幅が最大で0.04(バリデーション期 間)と小さかった理由は次のように考えられる.Kummu et al.,(2014)によると,トンレサップ湖への水の流入割合は, 53.5 %がメコン川からの逆流,34 %が支流河川からの流入, 12.5 %が降雨量であると報告されている.このように,湖へ の水の流入において,降雨量が占める割合が小さいため, 水文・水理モデルに,補正後GPCPを利用した場合と地上 降雨量を利用した場合の,モデル計算の再現性の改善幅 が小さかったと考えられる.またRMSEについても,全期間 を通してNSEと同様の傾向が得られた. 5 結論 本研究では,降雨観測点が少ないトンレサップ湖流域を対 象に,衛星降雨量の一つであるGPCPを地上降雨量の代 わりに利用することで,水文・水理モデル(MIKE11,NAM) の再現性の改善を調べることで衛星降雨量の有効性を明 らかにした.本研究で得られた知見を以下にまとめる. 1) トンレサップ湖流域において,GPCPは地上降雨量に 対して過大傾向が認められた. 2) 補正後のGPCPを水文モデルに用いることで,地上観 測降雨量を用いた場合よりも,トンレサップ湖の7つの 流域名 キャリブレーション バリデーション 地上降雨量 補正後GPCP 地上降雨量 補正後GPCP
NSE RMSE NSE RMSE NSE RMSE NSE RMSE
Chinit 0.71 38.6 0.83 29.1 0.52 44.0 0.70 35.0 Sen 0.62 203.1 0.78 155.6 0.71 206.4 0.75 190.8 Staung 0.37 41.6 0.44 39.2 0.48 39.1 0.55 36.5 Chikreng 0.21 26.7 0.30 25.0 0.13 41.7 0.24 39.0 SiemReap 0.59 13.7 0.54 14.5 0.45 27.4 0.40 28.6 Pursat 0.62 69.3 0.52 77.9 0.12 94.2 0.41 77.3 Boribo 0.63 16.6 0.53 18.8 0.31 21.7 0.38 20.6 平均 0.53 58.5 0.56 51.4 0.39 67.8 0.49 61.1 0 100 200 300 400 500 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 500 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 200 400 600 800 1,000 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 200 400 600 800 1,000 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 0 100 200 300 400 2010 2012 2014 流出量 [m 3/s ] 1,000 2,000 0 1,000 2,000 0 実測値 計算値 地上降雨量 補正後GPCP Chinit Sen Staung Chikreng SiemReap Pursat Boribo Chinit Sen Staung Chikreng SiemReap Pursat Boribo
図7: 補正後GPCPと地上降雨量を利用した水文・水理モ デルの湖水位(Kg.Luong)計算値の比較(a,c:キャ リブレーション期間,b,d:バリデーション期間) 支流域のNSEが0.39から0.49へ改善した.改善幅は, 降雨観測点の密度が低い場合で大きかった. 3) 補正後のGPCPを水文・水理モデルに用いることで, 地上降雨量を用いた場合よりもNSEが0.93から0.97へ 改善した. 謝辞 本研究は,JST-SATREPS 「トンレサップ湖における環境 保全基盤の構築(グラント番号:JPMSSA1503)」の支援を 受けて行われた. 引用文献
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この論文の公開の質疑または討議は2020年6月30日