日本の母子世帯は就労率が高いにもかかわらず貧困率も高い就労貧困の特徴を有している。本研究 では,1992年から2007年までの「就業構造基本調査」の匿名データを用い,就労形態別,世帯属性別 の貧困率を推計することにより,母子世帯の就労貧困の特徴を分析した。その結果,母子世帯の就労 収入のみで推計した就労貧困率は70%を超える水準であった。また,非正規雇用,労働時間が短い, 教育歴が短い,末子年齢が低いことは母子世帯の就労貧困率を高める要因となっていた。 さらに,母子世帯の就労貧困に対する最低賃金引き上げの影響をみるために,地域最低賃金の上昇 率と都道府県別雇用率の変化分との相関関係を分析した。その結果,シングルマザー,カップルマザ ーともに,最低賃金と雇用率との間に負の相関はみられず,最低賃金の引き上げが雇用の減少をもた らしていなかった。これは,近年の最低賃金の引き上げが母子世帯の就労貧困リスクを低減させる可 能性を示唆している。 キーワード 母子世帯 就労貧困 貧困率 最低賃金 雇用率
1
はじめに
日本において,子どものいる世帯のうち,とく にひとり親世帯の相対的貧困率が高く,その経済 的貧困は深刻な水準にある。『国民生活基礎調査』 による2015年度所得での「子どもがいる現役世帯 のうち,大人が一人の世帯の貧困率」は50.8%と, 子どもの貧困率13.9%を大きく上回っている(図 1)。くわえて,世帯主であるシングルマザーの 就労率が高いにもかかわらず貧困率が高いという 特徴がある。母子世帯は低賃金であるがゆえに就 労貧困に陥っているのか,あるいは,短時間しか 働けないことで就労していても貧困から抜け出す ことができないのだろうか。本稿では,まず,母 子世帯の就労貧困の態様について,1990年代から 2000年代後半までの動向を分析する。次に本研究 では,就労貧困を防止するための政策の一つであ る最低賃金に着目する。最低賃金の引き上げは, 女性や若者の雇用を減らし,また,貧困対策とし ての効果が低いことがこれまでの研究で指摘され ている。しかしながら,貧困世帯のなかでも母子 世帯に焦点をあてて最低賃金との関係を分析した 研究は少ない。そこで本稿では,最低賃金引き上 げが母子世帯の就労に与える影響を検討する。2
母子世帯の就労貧困
シングルマザーはその約8割が就業しており, 者は全体の半数に及ぶ(表1)。他方で,夫婦世 帯の母で週35時間以上就業しているのは約2割に とどまり,約3割が非労働力化している。子ども のいる女性が仕事に就いていなかったり,短時間 の就業にとどまるのに対し,シングルマザーはそ母子世帯の貧困と低賃金に対する
政策効果についての分析
田宮 遊子
特集
■所得政策の現在
の多くがフルタイムで働いている。ただし,厚生 労働省「平成28年全国ひとり親世帯等調査」によ れば,シングルマザーの雇用形態は,パート,ア ルバイトなどの非正規雇用が48%を占め,正社員 の割合(44%)を上回っている。同調査より平均 年間就労収入をみると,正規雇用のシングルマザ ーでは305万円であるが,非正規の場合には133万 円と正規の半分に満たない。非正規雇用での賃金 の低さが母子世帯の低所得の一因となっている。 本来ならば,就労することは貧困から免れる有 効な手段であるはずだ。OECD [2008]によれば, ひとり親世帯で親が就労している場合,ひとり親 の貧困リスクを約6割低下させていた(OECD 平均値)。ところが,日本ではこの傾向に反し, 親が就労している場合と無業の場合とで貧困率の 差が小さく,就労していても高い貧困率にとどま っていた。村上・岩井[2010],村上[2015;2016] では,女性や若年でワーキングプアが集中してみ られること,非正規雇用や低学歴はワーキングプ アに陥る確率を高めるが,なかでも,母子世帯で 図1 相対的貧困率の推移(子どものいる世帯) (%) 1985 10 20 30 40 50 60 1988 1991 1994 1997 子どもがいる現役世帯のうち, 大人が一人の世帯の貧困率 全人口の貧困率 子どもの貧困率 2000 2003 2006 2009 2012 2015(年) 54.5 51.4 50.153.5 63.1 58.2 58.7 54.3 50.8 54.6 50.8 12.0 13.2 13.5 13.8 14.6 15.3 14.9 15.7 16.0 16.3(子ども) 15.8 10.9 12.9 12.8 12.2 13.4 14.4 13.7 14.2 15.7 16.1(全人口)13.9 (注)1:相対的貧困率は,等価可処分所得の中央値の50%未満の者の割合。 2 :大人とは18歳以上の者,子どもとは17歳以下の者をいい,現役世帯とは世帯主が18歳以 上65歳未満の世帯をいう。 (出所) 厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況」「表10 貧困率の年次推移」より作成。 表1 シングルマザーと夫婦世帯の母の就業状態(2016年) (%) 雇用者 (週35時間以上) 雇用者 (週35時間未満) 自営業者 失業者 非労働力 総数 シングルマザー 50.0 29.2 4.2 4.2 9.7 100.0 夫婦世帯の母 21.1 40.4 3.5 1.3 34.0 100.0 (注) シングルマザーとは,母親と20歳未満の未婚の子どものみから成る世帯の母,夫婦世帯の母とは,夫婦と子どもから成る世帯 のうち,18歳未満の未婚の子どものいる世帯の妻。 (出所) 総務省「労働力調査」より作成。
あることは顕著にワーキングプア率を高めること が示されている⑴。 このように,日本の母子世帯の多くが,就労し ていても収入が乏しい状態におかれている。母子 世帯はなぜ就労貧困に陥っているのか。本稿第4 節では,非正規雇用による影響,労働時間の影響, 育児による制約,シングルマザーの人的資源の問 題に着目し,貧困率を推計することで母子世帯の 就労貧困の要因を検討する。
3
最低賃金引き上げの影響
デフレ期においても引き上げがつづいてきた最 低賃金であるが,2007年11月の法改正により,最 低賃金の額は生活保護との整合性に配慮すること が法文化された。これにより大幅な引き上げが実 施された結果,2014年最低賃金での就労が生活扶 助基準を下回る「逆転現象」が解消された。さら に,「働き方改革実行計画」(2017年3月28日働き 方改革実現会議決定)において,年率3%程度を 目途として,名目 GDP 成長率にも配慮しつつ引 き上げ,全国加重平均が1000円になることを目指 すことが示され,賃上げの一手段として最低賃金 が引き上げられている。 最低賃金が生活保護と関連づけられることにつ いて,桜井[2014]は,就労インセンティブの阻 害やモラルハザードに着目する「インセンティブ 論」と,最低賃金がナショナル・ミニマムを満た す水準であるかどうかに着目する「ナショナル・ ミニマム論」とに整理している。例えば後者の立 場から,母子世帯が貧困から脱却するための最低 賃金の水準について藤原[2017]では,母子3人 世帯(母30歳,子4歳,2歳)の母親が,フルタ イム勤務・週休2日・残業無し・年間1800時間労 働で生活扶助基準額に達するために必要な最低賃 金額は生活保護の1級地 ―1で1405円以上,3級 地 ―2で1183円以上という水準を提示している。 このように,貧困対策としての最低賃金の役割 が議論されているなか,これまでの先行研究では, 最低賃金が貧困削減に必ずしも有効ではないこと が指摘されている。例えば,Card et al. [1995] によれば,多くの貧困世帯では働いている者がい ないことから,1990年のアメリカの最低賃金の引 き上げは,貧困率に影響を及ぼしておらず,また, 就労している者に限ってみても,最低賃金の引き 上げが貧困率に有意な影響を与えていないとして いる。また,Neumark et al. [2008]では,最低 賃金の引き上げは低所得世帯の貧困削減に効果が ないとしている。 日本に関する研究では,最低賃金労働者の約半 数が世帯主ではなく,女性や若年労働者であり [Kawaguchi et al., 2009;川口ほか, 2009], 最 低賃金の引き上げは女性や若者の雇用を減少させ ることが指摘されている [Kawaguchi et al., 2007;川口ほか,2009;2013;Kawaguchi et al., 2009]。また,1994年から2003年までの最低賃金 の引き上げの影響を分析した Kambayashi et al. [2013]では,最低賃金の引き上げにより中壮年 女性の賃金格差が縮小した一方で,女性の雇用を 減少させていることが明らかにされている。ただ し,橘木ほか[2006]では,最低賃金が20代女性 の雇用率に有意な影響を与えておらず,最低賃金 の引き上げが雇用の喪失をもたらすと結論づける ことはできないとしている。 先行研究では,最低賃金の引き上げが女性の雇 用に負の影響を及ぼすことが指摘されているが, 母子世帯に限定した場合,同様の結果となるだろ うか。母子世帯を焦点にあてて分析したものとし て, Burkhauser et al. [2007], Sabia [2008] で は,アメリカにおける1990年前後から2000年代前 半の最低賃金上昇がシングルマザーに与えた影響 を推計している。それによれば,就労しているシ ングルマザーの多くがすでに最低賃金を上回る賃 金で就労していることから,最低賃金の引き上げ はシングルマザーの貧困率を引き下げていないこ と,教育歴の短いシングルマザーに関しては,最 低賃金の引き上げにより就業率の低下,および, 労働時間の減少が観察されている。 このように,最低賃金の引き上げは,貧困世帯 を効率的にターゲットとしていないことから,貧 困削減策としては有効ではないとする先行研究は 多く,母子世帯に関しても,アメリカでの実証研 ■究によれば,最低賃金の引き上げは貧困削減策と しては有効ではないとされている。ただし,日本 の母子世帯と最低賃金の関係は未だ十分に分析さ れておらず,本研究では第5節でこの点について 検討する。
4
母子世帯の就労貧困の量的把握
本節ではまず,就労貧困にある母子世帯を把握 し,さらに,母子世帯の就労貧困の要因を検討す るために,就労構造の違い(雇用形態,労働時 間),世帯属性の違い(末子年齢,教育歴)に着 目し,貧困率を推計する。 (1)データ 本節の分析には,「就業構造基本調査」(以下, 就調と略記)を用いる。就調では,世帯主や世帯 員の就労関連の状況が詳しく捕捉されており,就 労貧困について分析する本研究に適した大規模デ ータであるといえる⑵。 本稿の分析では,1992年,1997年,2002年, 2007年の匿名データを使用する。就調は,就業に 関する事項について,15歳以上の世帯員を対象と して5年ごとに実施されているサンプル調査であ り,今回分析する匿名データのサンプルは,公表 データから8割が無作為抽出されている。また, 世帯人員8人以上の世帯,三つ子以上がいる世帯 は削除されている。回答者の年齢は,5歳階級の 階級値に換算されているが,同居する15歳未満の 子どもについては,1歳刻みで年齢が識別できる。 ただし就調では,所得データに制約がある。就 調の世帯所得は,世帯主,世帯主の配偶者及びそ の他の親族世帯員が通常得ている過去1年間の収 入(税込額)の合計であり,通常得ている収入に は,賃金,事業収入等のほか,年金や生活保護な どの社会保障給付が含まれている。ただし,各世 帯の税や社会保険料負担についての情報が得られ ない。このため,可処分所得を算出することがで きない。貧困率の推計にあたっては,税・社会保 険料負担前の総所得を用いて算出することになる。 また,就調での所得額は,階級値でのみ把握さ れているという制約がある。世帯所得が100万円, 個人所得が50万円の幅の階級値となっており,最 小値は世帯所得で100万円未満,個人所得で50万 円未満となっている。本研究は,同データを使用 した先行研究[村上・岩井,2010;村上,2015; 2016;四方・駒村,2011]と同様に,階級値の所 得について,一様分布を仮定して乱数を生成し, 所得を割り当てた。 (2)分析方法 本研究では,シングルマザーの就労形態や属性 ごとの相対的貧困率を推計する。母子世帯の特徴 をつかむために,子どものいる夫婦世帯と比較す る⑶。 本稿の相対的貧困率は,世帯所得を世帯人数の 平方根で除して等価した等価所得の各年の中央値 の50%を貧困線におき,貧困線を下回る人数の割 合で示す。 所得については,世帯の総所得を世帯人数の平 方根で等価したものと,世帯主の就労収入⑷のみを 同様に等価した2種類の等価所得をもとに,それ ぞれ,貧困率を推計する。前者の場合,世帯主以 外の世帯員の就労収入や,世帯員が受給した社会 保障給付も含まれる。後者については,個人所得 の数値を用いる。以下の分析で示す表中で前者は 「貧困率」と表記し,後者は「世帯主収入での貧 困率」と表記する。 ここで,母子世帯の貧困率の分析に入る前に, 政府統計から算出されている貧困率と本研究での 貧困率の推計値とを比較する。図2では,国民生 活基礎調査,全国消費実態調査,ならびに,本研 究で用いる就調匿名データでの相対的貧困率,表 2は各調査の各年の貧困線を示している。国民生 活基礎調査,全国消費実態調査は等価可処分所得 での貧困率であるが,就調は税・社会保険料負担 前の総所得であるため,前二者と比較して各年の 貧困線は高めの水準となっている。貧困率につい ては,国民生活基礎調査と全国消費実態調査との 間の数値の差が大きく,就調は国民生活基礎調査 の結果と近い数値となっている。また,就調の貧 困率が1990年代から2000年代後半にかけてゆるやかに上昇しているのは,他の2調査と同様の傾向 となっている。 (3)結 果 ⒜有業・無業別貧困率 まず,有業・無業別に貧困率を推計する。稼働 世代にある者にとって,失業は貧困に結びつきや すい。表3によれば,夫婦と子の世帯の場合, 1992年から2007年にかけて,世帯主が無業の世帯 の割合は1∼2%と少数であるが,その貧困率は 62∼65%となっている。母子世帯では,シングル マザーの13∼17%が無業であり,その場合の貧困 率は86∼89%と高い水準にある。 一方で,有業であるにもかかわらず,貧困であ 図2 各種調査による相対的貧困率の推移 20.0 15.0 10.0 5.0 2015 2010 2005 2000 1995 1990 1991, 13.5 1994, 13.8 1996, 13.1 2004, 9.5 1999, 9.1 2009, 10.1 2014, 9.9 2001, 14.8 2000, 15.3 2003, 14.92006, 15.7 2009, 16.0 2012, 16.1 2015, 15.6 2006, 15.1 1997, 14.6 1991, 12.6 1985 (年) (%) 総世帯(国民生活基礎調査) 総世帯(就業構造基本調査・匿名データ) 総世帯(全国消費実態調査) (出所) 国民生活基礎調査,全国消費実態調査にもとづく貧困率は,厚生労働省「国民生活 基礎調査」,総務省「平成26年全国消費実態調査所得分布」での公表値より作成。就業 構造基本調査にもとづく貧困率は,「就業構造基本調査・匿名データ」より推計した。 表2 各種調査による貧困線 (単位:万円) 年 1991 1994 1996 1997 1999 2000 2001 2003 2004 2006 2009 2012 2014 2015 国民生活基礎調査 135 144 149 137 130 127 125 122 122 全国消費実態調査 156 145 135 132 就業構造基本調査・匿名データ 170 180 164 158 (出所) 図2に同じ。 ■
る状態が就労貧困となる。1992年から2007年にか けて世帯主が就労しているにもかかわらず貧困線 を下回る割合は,夫婦と子の世帯で10%から8% と低下しているのに対し,母子世帯の就労貧困は, 65%から67%と,夫婦と子世帯の貧困率を大幅に 上回る水準で高止まりしている。 ⒝就労形態別,労働時間別貧困率 働いていても貧困である原因のひとつに,非正 規雇用による低賃金が考えられる。そこで,世帯 主が有業である世帯に限定し,世帯主の就労形態 別の貧困率を推計した。ここでは,常勤雇用でか つ勤め先の呼称が正規の職員・従業員である場合 に「正規雇用」とし,臨時雇用あるいは日雇で勤 め先の呼称がパート,アルバイト,派遣,契約社 員,嘱託,その他の場合に「非正規雇用」とした。 また,自営業主,自営業の手伝い,内職を「自営 業・その他」としている。 まず,世帯主の就労形態別に貧困率をみていく。 表4⑴は,世帯所得から貧困率を推計している。 夫婦と子世帯,母子世帯ともに,世帯主が非正規 の場合に貧困率はもっとも高く,自営業が次いで 高く,正規の場合にもっとも低位にとどまる傾向 がみられる。 母子世帯では,貧困率の最も高い非正規雇用の シェアが1992年の33%から2007年には55%へ拡大 し,この間の貧困率は85∼87%と8割を超える高 い水準となっている。母子世帯が正規雇用であっ ても,その貧困率は40∼53%と依然として高い水 準にある。ただし,正規雇用での貧困率は,1992 年から2007年にかけて低下傾向にあり,貧困率が 高止まりしている非正規雇用と対照的に改善傾向 にある。 表4⑵では,世帯主の就労収入のみで貧困率を 推計している。世帯所得での貧困率と比べると, 夫婦と子世帯では約6%ポイント,母子世帯では 約8∼10%ポイント上昇している。夫婦と子の世 帯で世帯主が非正規の場合には,就労貧困の割合 が53∼59%となり,世帯所得でみた貧困率よりも 約20∼26%ポイント高くなる。これは,世帯主が 非正規の場合,世帯主の就労収入以外の収入が貧 困の回避に貢献していることを示している。母子 世帯では,シングルマザーが非正規雇用の場合に 貧困率は90%を超えており,非正規雇用での就労 収入だけではほぼ確実に就労貧困に陥っているこ とがみてとれる。 このように,世帯主が非正規雇用であるとき, 二人目の稼得者や就労収入以外の収入が無ければ 就労貧困に陥るリスクが高まるのに対し,正規雇 用につくことは,貧困に陥るリスクを小さくする。 しかしながら,この間,シングルマザーの正規雇 用のシェアは縮小しており,貧困から抜け出る雇 用機会が狭まっている。 次に,労働時間と就労貧困の関係をみていく。 1週間の就業時間(残業含む)を35時間未満,35 時間以上42時間以内,43時間以上48時間以内,49 時間以上の4カテゴリーに分けて貧困率を推計す 表3 有業・無業別貧困率:19歳以下の子を持つ世帯主 (カッコ内シェア:%) 年 有 業 無 業 計 夫婦と子 世帯 1992 9.7(99.0) 64.8( 1.0) 10.3(100.0) 1997 9.4(98.7) 62.4( 1.3) 10.1(100.0) 2002 9.4(97.8) 63.4( 2.2) 10.6(100.0) 2007 8.1(98.5) 62.5( 1.5) 9.0(100.0) 母子世帯 1992 65.4(86.9) 85.5(13.1) 68.0(100.0) 1997 66.8(86.8) 87.5(13.2) 69.6(100.0) 2002 65.6(82.8) 89.0(17.2) 69.6(100.0) 2007 66.8(84.6) 85.5(15.4) 69.7(100.0) (注) 等価世帯所得の各年中央値の50%を貧困線とした。夫婦と子世帯,母子世帯ともに同 居する子どもは19歳以下のみの世帯としている。 (出所) 「就業構造基本調査」匿名データより筆者作成。
表4 就労形態別貧困率:19歳以下の子を持つ世帯主 (カッコ内シェア:%) ⑴世帯所得 年 正規雇用 非正規雇用 自営業・その他 計 夫婦と子 世帯 1992 7.2(86.4) 33.0( 1.7) 22.6(11.9) 9.4(100.0) 1997 6.9(88.1) 35.0( 1.9) 22.1(10.0) 9.0(100.0) 2002 6.2(87.8) 34.2( 3.6) 25.2( 8.6) 8.9(100.0) 2007 5.3(88.1) 28.6( 4.2) 23.4( 7.7) 7.7(100.0) 母子世帯 1992 53.2(56.5) 84.9(33.1) 60.7(10.3) 64.5(100.0) 1997 50.0(52.0) 87.4(41.4) 63.5( 6.6) 66.4(100.0) 2002 39.9(43.4) 85.6(52.0) 61.2( 4.6) 64.7(100.0) 2007 40.8(40.3) 84.5(55.3) 66.7( 4.4) 66.1(100.0) ⑵世帯主収入のみ 年 正規雇用 非正規雇用 自営業・その他 計 夫婦と子 世帯 1992 11.9(86.5) 58.5( 1.7) 39.0(11.9) 15.9(100.0) 1997 11.3(88.4) 54.5( 1.9) 37.6( 9.7) 14.6(100.0) 2002 10.3(87.8) 55.6( 3.6) 43.1( 8.6) 14.7(100.0) 2007 9.7(88.1) 52.7( 4.2) 41.9( 7.7) 13.9(100.0) 母子世帯 1992 61.5(56.5) 95.9(33.1) 69.5(10.3) 73.7(100.0) 1997 58.0(52.1) 96.7(41.5) 75.2(6.4) 75.2(100.0) 2002 50.3(43.4) 94.7(51.9) 72.0(4.6) 74.3(100.0) 2007 47.6(40.2) 92.4(55.3) 79.8(4.5) 73.8(100.0) (注) ⑴は表3に同じ。⑵は等価世帯所得の各年中央値の50%を貧困線とし,等価化した世帯主の就労収入が貧困 線を下回る割合を示している。 (出所) 表3に同じ。 表5 週労働時間別貧困率:19歳以下の子を持つ世帯主 (カッコ内シェア:%) ⑴世帯所得 年 35時間未満 35∼42時間 43∼48時間 49時間以上 計 夫婦と子 世帯 1992 21.0( 1.8) 5.3(21.1) 9.2(34.2) 10.1(42.9) 9.0(100.0) 1997 21.8( 1.6) 5.8(29.0) 9.8(30.1) 9.4(39.3) 8.7(100.0) 2002 25.9( 1.8) 6.2(22.7) 8.7(26.4) 9.1(49.0) 8.6(100.0) 2007 22.0( 2.4) 7.2(20.9) 7.7(26.7) 6.9(50.0) 7.5(100.0) 母子世帯 1992 82.7(20.1) 61.1(31.1) 59.3(31.4) 55.8(17.4) 63.9(100.0) 1997 88.5(23.8) 61.2(42.7) 58.4(22.3) 49.5(11.2) 65.8(100.0) 2002 83.6(31.1) 56.5(37.9) 55.5(19.0) 51.2(12.0) 64.1(100.0) 2007 85.0(29.8) 63.1(40.4) 53.0(16.8) 44.1(13.0) 65.5(100.0) ⑵世帯主収入のみ 年 35時間未満 35∼42時間 43∼48時間 49時間以上 計 夫婦と子 世帯 1992 35.8( 1.8) 9.3(21.1) 15.5(34.2) 17.2(42.9) 15.3(100.0) 1997 35.8( 1.5) 10.1(29.1) 16.2(30.1) 15.0(39.3) 14.3(100.0) 2002 42.6( 1.8) 11.3(22.7) 15.1(26.4) 14.7(49.0) 14.5(100.0) 2007 40.8( 2.4) 13.4(20.9) 14.3(26.7) 12.5(50.0) 13.9(100.0) 母子世帯 1992 93.5(20.1) 72.2(31.1) 66.7(31.4) 62.5(17.4) 73.0(100.0) 1997 96.7(23.7) 71.2(42.7) 66.2(22.3) 55.5(11.2) 74.4(100.0) 2002 93.3(31.1) 66.9(37.9) 63.3(19.0) 60.9(12.0) 73.7(100.0) 2007 93.9(29.8) 70.0(40.4) 60.3(16.8) 52.7(13.0) 73.2(100.0) (注) ⑴は表3に同じ。⑵は表4⑵に同じ。 ■
る。世帯所得で貧困率を推計した結果を表5⑴, 世帯主の就労収入のみで推計した貧困率を表5⑵ に示している。 母子世帯では,世帯主の就労収入のみでみた貧 困率は週35時間未満で93∼97%ときわめて高い水 準にあり,短時間労働の就労で貧困から免れるこ とができないことがみてとれる。世帯所得でみる と,35時間未満の母子世帯の貧困率は,83∼89% に低下するものの,依然として高水準にとどまっ ている。もちろん,労働時間が長くなることで, 貧困率は低下する傾向がみられるが,週49時間以 上の労働時間であっても,世帯主の就労収入でみ た貧困率は53∼63%,世帯所得でみた貧困率は44 ∼56%と低くはない水準にある。長時間働くこと で貧困リスクが十分に低下するとはいえない状況 にあることがみてとれる。 夫婦と子世帯についても,週35時間未満の労働 時間の場合に貧困率が高くなっており,母子世帯 と共通の傾向がみられる。ただし35時間以上のデ ータに注目すると,夫婦世帯では労働時間が長く なるほどに貧困率が低下しておらず,週労働時間 が35∼42時間の場合に貧困率が最も低くなってい る。母子世帯と同様に労働時間を増やすことで貧 困リスクを下げている夫婦世帯がある一方で,長 時間労働をしなくとも貧困線以上の収入を得られ る世帯が,母子世帯よりも夫婦世帯に顕著な傾向 としてみられる。 ⒞末子年齢,教育歴の違いによる貧困率 次に,末子年齢,教育歴に着目して就労貧困の 特徴をみていく。ここでは,世帯主が就業してい る世帯に限定し,世帯主の就労収入による貧困率 を推計する。 末子年齢別の貧困率を示した表6では,末子の 年齢が低いほど貧困率は高い傾向がみられる。夫 婦と子世帯では4歳までの子どもがいる場合に貧 困率は1992年から2007年にかけて17∼19%と比較 的高いが,5∼9歳の子どもがいる場合には13∼ 17%に低下する。母子世帯についても,4歳まで の子どもがいる場合に79∼84%と貧困率が高いが, 顕著に低下するのは10歳以降のタイミングとなる 点が異なる。2007年は4歳未満で79%,5∼9歳 で78%であるのが,10∼14歳で74%,15歳以上で 64%に低下する。末子年齢が低いほど就労貧困の 割合が高いのは,育児制約や,親の年齢が若いた めに他の年齢層と比べて賃金が低位にとどまるこ とがその理由として考えられる。また,夫婦世帯 では,就学前の子どもがいることが就労貧困につ ながりやすいのに対し,母子世帯では子どもが小 学校低学年になるまでの比較的長期間にわたり労 働への制約があると推察される。 次に,シングルマザー,ならびに夫婦世帯の世 帯主の教育歴と貧困の関係をみるために,教育歴 別に貧困率を推計する。表7に示すように,夫婦 と子世帯の世帯主では,2007年調査で大卒が4割 のシェアを占めるに至っている。シングルマザー の場合,高卒が全体の半数を超え大卒は7%にと どまる一方,中卒が11%と,教育歴の短さが目立 つ。 表6 末子年齢別世帯主収入での貧困率:19歳以下の子を持つ世帯主 (カッコ内シェア:%) 年 0∼4歳 5∼9歳 10∼14歳 15∼19歳 計 夫婦と子 世帯 1992 19.0(29.6) 17.0(23.8) 14.6(27.9) 13.1(18.6) 16.2(100.0) 1997 18.0(39.8) 14.0(23.0) 12.8(21.2) 12.6(15.9) 15.1(100.0) 2002 17.8(43.8) 14.3(24.1) 12.9(20.1) 13.1(12.0) 15.4(100.0) 2007 16.8(42.7) 13.4(25.9) 11.9(20.4) 12.8(11.0) 14.5(100.0) 母子世帯 1992 82.2( 8.4) 81.6(25.0) 73.8(43.3) 65.5(23.3) 74.5(100.0) 1997 84.0(16.7) 80.8(29.3) 73.8(35.2) 64.5(18.8) 75.8(100.0) 2002 83.6(18.8) 78.9(35.4) 69.9(33.1) 65.5(12.7) 75.1(100.0) 2007 79.1(15.2) 77.5(33.8) 73.5(38.4) 64.0(12.6) 74.5(100.0) (注) 表4⑵に同じ。 (出所) 表3に同じ。
夫婦と子世帯の世帯主が中学校卒業までの教育 歴の場合貧困率は34∼38%と高いが,高校卒業で 18∼20%に,大学卒業の場合には6%まで低下す る。母子世帯についても教育歴が長くなるほど貧 困率が低下し,シングルマザーが中卒の場合87∼ 91%,高卒で75∼82%,短大・高専卒で60∼64%, 大卒で42∼47%となる。 教育歴が長いほど貧困リスクを低下させる傾向 が顕著にみてとれるなかで,母子世帯の場合,夫 婦世帯よりも高学歴化が進んでいないことは,就 労貧困の割合を高めている一因と考えられる。
5
最低賃金がシングルマザーとカップ
ルマザーの雇用率へ与える影響
次に,就労貧困に対する最低賃金の引き上げの 影響を検討する。非正規雇用のシェアが高い女性 労働者にとって,最低賃金の引き上げは,雇用を 減らすマイナスの影響と,就労収入を増加させる プラスの影響とが考えられる。本稿では最低賃金 がシングルマザーとカップルマザー(夫婦と子世 帯の女親)の雇用率へ与える影響について,都道 府県別の『国勢調査』の集計結果を用いて分析す る。 (1)分析方法 本分析では,1995年,2000年,2005年,2010年, 2015年の『国勢調査』の都道府県別公表データを 使用する。ここでのシングルマザーとは,20歳未 満の未婚の子どもをもつ,未婚,あるいは夫と死 別又は離別した女親とする。カップルマザーとは, 18歳未満の子どもをもつ夫婦世帯の女親とする⑸。 シングルマザーについては1995 ― 2000年,2000 ― 2005年,2005 ― 2010年,2010 ― 2015年の4期間, カップルマザーについては2005 ― 2010年,2010 ― 2015年の2期間について⑹分析する。公表データの 制約により,末子年齢と分析可能な年次が異なっ ているものの,カップルマザーとの比較によって シングルマザーの特徴が相対化でき,最低賃金の 影響がより明確になると考えられることから,両 者を分析の対象とする。 ここでは,国勢調査から得られる複数年分の都 道府県別雇用率と地域別の最低賃金額をパネル化 し,最低賃金の上昇率と雇用率の変化分との相関 をみる。都道府県別の就業状態から,雇用率(雇 用者÷当該人口⑺)を算出し,2時点の雇用率の差 を変化分とする。最低賃金については,都道府県 別の地域最低賃金額について,各期間の変化率を 算出する。 (2)結 果 表8は,各年の雇用率(全国平均)と地域最低 賃金額(加重平均)を示している。最低賃金の変 化率は,1995∼2000年にかけて8%前後である一 方,2000∼2005年にかけては,1∼2%と伸びが 小さい。2005∼2010年および2010∼2015年にかけ ての最低賃金の上昇率は9%前後と大きく,また, 都道府県間の分散も大きい。この間,シングルマ 表7 世帯主の最終学歴別世帯主収入での貧困率:19歳以下の子を持つ世帯主 (カッコ内シェア:%) 年 小学・中学 高校 短大・高専 大学・大学院 計 夫婦と子 世帯 1992 33.6(15.1) 17.6(48.4) 15.4( 5.6) 6.0(31.0) 16.3(100.0) 1997 33.7(10.5) 18.5(46.4) 14.0( 7.5) 5.7(35.7) 15.2(100.0) 2002 37.2( 8.3) 19.7(43.6) 16.8( 9.5) 5.8(38.6) 15.5(100.0) 2007 37.7( 5.6) 19.4(38.2) 17.8(14.8) 5.7(41.4) 14.6(100.0) 母子世帯 1992 86.8(22.2) 75.0(60.4) 59.9(13.9) 45.9( 3.6) 74.5(100.0) 1997 88.4(15.6) 78.7(60.9) 64.4(17.9) 45.3( 5.7) 75.8(100.0) 2002 90.7(12.9) 80.0(59.4) 61.5(21.6) 42.3( 6.1) 75.1(100.0) 2007 89.0(10.7) 81.6(54.5) 61.6(27.7) 46.7( 7.0) 74.4(100.0) (注) 表4⑵に同じ。 (出所) 表3に同じ。 ■表8 地域別最低賃金と雇用率の推移 年 地域別最低賃金 雇用率(%) 全国加重平均(円) 変化率(%) シングルマザー カップルマザー 1995 611 75.7 2000 659 7.86 76.6 2005 668 1.37 77.1 47.1 2010 730 9.28 77.3 50.7 2015 798 9.32 80.2 62.0 図3 最低賃金の変化率と雇用率の変化 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 最低賃金の変化率 シングルマザー 2010-2015年 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 最低賃金の変化率 シングルマザー 2005-2010年 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0 最低賃金の変化率 シングルマザー 2000-2005年 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 最低賃金の変化率 シングルマザー 1995-2000年 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 最低賃金の変化率 カップルマザー 2010-2015年 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 最低賃金の変化率 カップルマザー 2005-2010年 雇 用 率 の 変 化 分 雇 用 率 の 変 化 分 雇 用 率 の 変 化 分 雇 用 率 の 変 化 分 雇 用 率 の 変 化 分 雇 用 率 の 変 化 分 0.04 0.06 0.08 0.1 0 0.02 0.04 0.06 0.1 0 0.02 0.04 0.1 0.16 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 R2=0.018 b=‒0.16(0.18) R2=0.035 b=‒0.11 (0.08) R2=0.008 b=0.52(0.86) R2=0.001 b=‒0.16(0.70) R2=0.0453 b=0.43(0.30) R2=0.0517 b=0.22(0.14) 0.02 0.08 0.06 0.08 0.12 0.14 (注) 『国勢調査』各年の集計データによる分析。R2:決定係数,b:回帰係数,括弧内標準誤差。
ザーの雇用率は1995年の76%から2015年には80% と微増傾向にあったが,カップルマザーでは2005 年の47%から2015年には62%と大幅に増加した。 図3は横軸に都道府県別の最低賃金の変化率を とり,縦軸に同期間の都道府県別の雇用率の変化 分をとったものである。上段・中段の4つの図は シングルマザー,下段の2つの図はカップルマザ ーの雇用率と最低賃金の関係をみたものである。 シングルマザーについて,最低賃金の変化率と 雇用率の変化分の相関をみると,1995∼2000年に かけては回帰係数が−0.16と負の相関があったが, 2000∼2005年では,回帰係数が0.52と正の相関に なっている。ただし,いずれの係数も有意ではな く決定係数も0に近く非常に小さい。最低賃金が 大幅に引き上げられた2005年以降の各都道府県の シングルマザーの雇用率の変化分は,2005∼2010 年では−0.04から0.02の間であり,2010∼2015年 にかけては0.01から0.06の間と1995∼2000年の変 化 (−0.02∼0.04) や2000∼2005年の変化 (− 0.03∼0.03)と大きな差はない。最低賃金の変化 率と雇用率の変化は,−0.11(2005年から2010 年),−0.16(2010年から2015年)と,いずれも 負の相関となっているが,回帰係数は有意ではな く決定係数も小さい。したがって,この間の最低 賃金の上昇はシングルマザーの雇用率の変化にほ とんど影響を与えていないと考えられる。 一方,最低賃金が大きく上昇した2005∼2010年 および2010∼2015年にかけてのカップルマザーの 雇用率は,いずれの都道府県でも上昇傾向にある。 シングルマザーと比較しても大きく雇用率が上昇 しており,その変化分は2005∼2010年では0.03か ら0.10の間であり,2010∼2015年にかけては0.07 から0.11の間となっている。カップルマザーの場 合,最低賃金の変化率と雇用率の変化分の相関は, シングルマザーとは異なり2005∼2010年および 2010∼2015年のいずれも正の相関を示している。 回帰係数は0.22,0.43と有意ではないものの,最 低賃金が大幅に上昇した都道府県ほど雇用率も大 きく伸びる傾向がみてとれる。すなわち,最低賃 金の上昇が雇用率を引き下げるとはいえない結果 となっている。 このように,シングルマザー,カップルマザー ともに,最低賃金と雇用との間の相関関係はみら れず,最低賃金の引き上げは雇用に対してマイナ スの影響を及ぼさなかった可能性が示唆される。 これは主要な先行研究とは異なる結果を示してい る。ただし,本研究の分析は先行研究と異なり, 近年の有配偶女性の就労率と地域最低賃金が大幅 に上昇した期間を扱っている点が先行研究と異な っている。
6
おわりに
本研究では,母子世帯の就労貧困の態様につい て検証し,次のような結果が得られた。1992∼ 2007年にかけて,母子世帯の就労貧困率はシング ルマザーの就労収入のみでみた場合70%を超え, 社会保障給付等を加えた総所得でみても60%を超 えていた。非正規雇用であること,労働時間が短 いこと,教育歴が短いことが貧困率を高めること は,夫婦世帯と母子世帯で共通してみられる就労 貧困の特徴であった。母子世帯は,そうした就労 貧困のリスクを高める働き方をする者,人的資源 に乏しい者の占める割合が夫婦世帯よりも高いこ とから,就労収入が低位にとどまり,高い水準の 貧困率を高めていると考えられる。ただし,正規 雇用,長時間労働,高学歴の場合であっても母子 世帯の貧困率は30%を下回ることはなく,母子世 帯の貧困の広がりが深刻であることを示す結果と なった。 また,夫婦世帯では4歳未満の子どもの有無で 貧困率の差が大きいことから,乳幼児がいる場合 に育児による労働制約が強いことが推察された。 一方で,母子世帯については末子の年齢が就学年 齢に達したとしても貧困率が高い水準にとどまっ ており,育児や家事を夫婦で分担できない母子世 帯では,育児負担による就労への影響が長期間に わたる可能性が示唆された。 シングルマザーが非正規雇用の場合に,就労収 入のみでは貧困率が90%を上回っており,就労収 入だけでは貧困リスクから免れない状況に対して, 最低賃金の引き上げが貧困リスクの低減につなが ■る可能性がある。本研究の分析からは,2007年以 降の大幅な最低賃金の引き上げは,シングルマザ ー,カップルマザーともに雇用の減少をもたらし ていない可能性が示唆された。この結果をふまえ れば,シングルマザーに対して最低賃金の引き上 げは,雇用を減らすことなく,最低賃金労働者の 所得を引き上げるプラスの効果をもたらしている 可能性がある。ただし,最低賃金の引き上げがシ ングルマザーの賃金,労働時間に与える影響につ いては,本稿では分析できておらず,今後の課題 としたい。 貧困削減のための政策としては,先行研究では, 最低賃金の引き上げよりも,たとえばアメリカで は EITC がより効果的であることが指摘されてい る [Neumark et al., 2011]。 最低賃金の引き上 げが非熟練労働者の雇用を減らすのに対し, EITC は低所得世帯を直接のターゲットとしてお り,また,就労インセンティブを高めることから, 貧困対策としてより効果的であるという。日本の 母子世帯に関して,田宮[2017]では,2000年代 半ば以降に税・社会保障による貧困削減効果が高 まっており,児童手当の拡充や生活保護受給世帯 の増加が影響している可能性が示唆されている。 就労貧困という特徴をもつ母子世帯の貧困削減に 対して,労働政策と所得保障がどのようなインパ クトをもち,どのような政策手段がもっとも効果 的であるのか,さらなる検証については今後の課 題としたい。 注 ⑴ 村上・岩井[2010],村上[2015;2016]では, ワーキングプアの定義を3か月以上労働市場で活動 したが世帯所得が生活保護基準を下回る個人として いる。 ⑵ 本節の分析に用いた匿名データのサンプルサイズ は以下の通りである。 年 総数 夫婦と子 母子世帯 1992 823,658 167,619 4,228 1997 795,933 141,921 4,058 2002 752,068 125,770 4,538 2007 759,933 120,148 5,079 ⑶ 母子世帯の定義は,20歳未満の子どもと配偶者の ない母のみからなる世帯としており,夫婦世帯の定 義は夫婦と20歳未満の子どものみからなる世帯とし ている。したがって,20歳以上の子どもがいる世帯, 子どもからみた祖父母と同居する三世代世帯は除か れている。 ⑷ 世帯主の就労収入は,就調の個人所得を用いる。 個人所得は,「本業から通常得ている年間所得(税 込み額)」と定義され,雇用者の場合,「賃金,給料, 手間賃,諸手当,ボーナスなど過去1年間に得た税 込みの給与総額」をいい,「過去1年間に仕事を変 えた者や新たに仕事に就いた者については,新たに 仕事に就いたときから現在までの収入を基に,1年 間働いた場合の収入額の見積り」額となる。自営業 主の所得は,「過去1年間に事業から得た収益,す なわち,売上総額からそれに必要な経費を差し引い たもの」となる。 ⑸ シングルマザーは「母子世帯」の「労働力状態」, カップルマザーは「夫婦のいる一般世帯数」の「妻 の就業・非就業」より作成した。 ⑹ 就業しているカップルマザーが雇用者であるかど うかを識別できるのが2005年以降になるため,分析 期間は2期間に限定される。 ⑺ 労働力状態が「不詳」は当該人口から除いている。 [謝辞] 『就業構造基本調査』の匿名データは,神戸 大学ミクロデータセンターを通じて,独立行政法人 統計センターから提供を受けた。本研究で示した分 析結果は,提供を受けた匿名データを基に,筆者が 独自に作成・加工した統計であり,総務省が作成・ 公表している『就業構造基本調査』の結果とは異な るものである。 引用文献
Burkhauser, R. V., and Sabia, J. J., 2007, The Ef-fectiveness of Minimum―Wage Increases in
Re-ducing Poverty : Past, Present, and Future, , 25(2) : 262―281.
Card, D., and Krueger, A. B., 1995, Princeton University Press.
藤原千沙,2017,「新自由主義への抵抗軸としての反 貧困とフェミニズム」松本伊智朗編『「子どもの貧 困」を問いなおす』法律文化社。
Kambayashi, Ryo, Daiji Kawaguchi, and Ken Ya-mada, 2013, Minimum wage in a deflationary economy : The Japanese experience, 1994―2003,
Kawaguchi, Daiji, and Yuko Mori, 2009, Is Mini-mum Wage An Effective Anti―Poverty Policy In
JAPAN ?, , 14(4):532― 554. 川口大司・森悠子,2009,「最低賃金労働者の属性と 最低賃金引き上げの雇用への影響」『日本労働研究 雑誌』51(12):41―54。 ―,2013,「最低賃金と若年雇用」大竹文雄他編 『最低賃金改革』日本評論社。
Kawaguchi, Daiji, and Ken Yamada, 2007, The im-pact of the minimum wage on female employ-ment in Japan, 25(1):107―118. 村上雅俊,2015,「『就業構造基本調査』を用いたワー キングプアの規定因の検討」『統計学』109号:13― 23。 ―,2016,「若年層の失業・不安定就業・貧困と その支援策の課題についての一考察」『社会保障研 究』1(2):418―430。 村上雅俊・岩井浩,2010,「ワーキングプアの規定と 推計」『統計学』第98号:13―24。
Neumark, David, and William L. Wascher, 2007, Minimum wages and employment.
3. 1―2:1―182. ―, 2008, Minimum Wages Cambridge, MA :
MIT Press.
―, 2011, Does a higher minimum wage
en-hance the effectiveness of the Earned Income Tax Credit ?, , 64(4):712―746. OECD, 2008, OECD, Paris. 大竹文雄,2013,「最低賃金と貧困対策」大竹文雄他 編『最低賃金改革』日本評論社。
Sabia, J. J., 2008, Minimum wages and the eco-nomic well―being of single mothers,
, 27(4):848―866. 桜井啓太,2014,「最低賃金と生活保護の逆転現象発 生のメカニズムとその効果」『大原社会問題研究所 雑誌』663号:1―16。 四方理人・駒村康平,2011,「中年齢層男性の貧困リ スク―失業者の貧困率の推計」『日本労働研究雑 誌』53(11):46―58。 橘木俊詔・浦川邦夫,2006,『日本の貧困研究』東京 大学出版会。 田宮遊子,2017,「親の配偶関係別にみたひとり親世 帯の子どもの貧困率」『社会保障研究』2(1): 19― 31。 (たみや ゆうこ:神戸学院大学) ■