Effect of Experimental Traumatic Occlusion on Temporomandibular Joint Comparison between Treated Side and Untreated Side of TMJ

Jpn. J. Oral Biol., 45: 407-417, 2003.

原

著

実験 的外傷 性咬合 による顎 関節 の変化 について

―左 右 顎 関 節 の 比 較 ― 豊 島 靖 子* 飯 塚 正** 會 田 英 紀* 向 後 隆 男** 大 畑 昇* *北 海 道 大 学 大 学 院 歯 学 研 究 科 歯 科 口腔 機 能 学 講 座(主 任:大 畑 昇 教 授) **北 海 道 大 学 大 学 院 歯 学研 究 科 口腔 病 態 学 講 座(主 任:向 後 隆 男 教 授) 〔受 付:平 成15年2月3日,受 理:平 成15年7月24日 〕

Effect of Experimental

Traumatic

Occlusion on Temporomandibular

Joint

-Comparison

between Treated Side and Untreated Side of

TMJ-Seiko Toyoshima*, Tadashi Iizuka**, Hideki Aita*, Takao Kohgo** and Noboru Ohata*

*Crown and Bridge Prosthodontics

, Department of Oral Functional Science, Hokkaido University Graduate School of Dental Medicine

(Chief: Prof. Noboru Ohata) **Department of Oral Pathobiological Science

, Hokkaido University Graduate School of Dental Medicine

(Chief: Prof. Takao Kohgo) *,**Nishi 7

, Kita 13, Kita-ku, Sapporo 060-8586, Japan 〔Received on February 3, 2003; Accepted on July 24, 2003〕

Key words: traumatic occlusion/temporomandibular joint/periodontium/rat

Abstract: This study was designed to investigate the effects of experimental traumatic occlusion on the temporomandibular joint (TMJ) in rats. Composite resin 2mm thick was built up on the occlusal surface of the maxillary left first molar (experimental group) and then traumatic occlusion was induced in 7-week-old Wistar rats. Untreated rats were used as the control. Rats in each group were sacrificed at 3, 7, 14, 28, 42, and 56 days after the induction of traumatic occlusion. For the histopathological analysis the sections were stained with hematoxylin and eosin. The cell proliferative activity in the condylar cartilage was identified by immunohistochemistry after injection of 5-bromo-2'-deoxyuridines (BrdU) and examined histopathologically and histometrically. At both sides in the experiment group, the thickness of condylar cartilage and the number of labelled cells with BrdU in the cartilage decreased at 7 days, but increased at 14 days. At 28 days, the thickness of condylar cartilage and the number of labelled cells with BrdU in the cartilage in the experimental group decreased to the same level as that in the control group. Thus, the results indicate that the histological and cytological responses of both sides of TMJ are influenced by the induction of traumatic occlusion of only one tooth.

抄 録:一 歯の み に外 傷性 咬 合 を引 き起 こした ときの顎 関節 の組織 変化 につい て明 らか にす る こ とを目的 に,次 の実験 を行 った。7週 齢 の 雄性Wistar系 ラ ッ トを用 い,上 顎 左側第 一 臼歯 の咬合 面 に レジ ンを2mm築 盛 し,外 傷性 咬 合 を付与 した。 レジ ンを築盛 した群 を実験群 と し,左 側 を処 置側,右 側 を無処 置側 と し,無 処置 の群 を対 照 群 とした。実験 期間 は外傷 性咬 合付与 後3日 か ら56日 で,通 法 に従 い前頭 断連 続切 片標 本 を作 製 し,顎 関節 の 変 化 につ いて,組 織 学的 な らび に組織 計 量学 的 に比 較検討 した。下 顎頭 で は実験側,無 処 置側 と もに7日 後 に軟 骨 層 で萎縮 性 の変化 が み られ たが,そ の後BrdU陽 性細 胞数 の増加 や軟 骨層 の肥 厚 がみ られ,こ れ らの値 は対照 群 と比 較 して高 値 で,14日 目に は最 大値 を示 し,28日 後 で は対 照群 と同様 の組 織 像 を示 した。 以上 の所 見 よ り, 一 歯 の みの外傷 性咬 合 の場 合 ,下 顎 頭 の変化 に は両側 で 同様 の組織 学的変 化 が生 じる ことが明 らか に なっ た。 緒 言 顎 関 節 症 の 発 症 は,さ ま ざ ま な 因 子 が 複 雑 に か らみ あ っ て 起 こる と い う多 因 子 説 が 基 本 的 な考 え 方 に な って い る。 咬 合 もそ の な か の一 つ の 因 子 と して考 え られ て お り1-5),今 ま で に,咬 合 異 常 が 顎 関 節 に及 ぼ す影 響 に つ い て の研 究 は数 多 くな され て い るが,そ れ らは,実 験 動 物 を 用 い て 下 顎 を近 心 また は遠 心 に偏 位 さ せ た 場 合6),片 側 また は両 側 の 歯 の 抜 去 や 削 合7-12),両 側 また は片 側 臼 歯 部 咬 合 面 に修 復 材 料 を築 盛 す る こ とに よ り咬 合 を変 化 させ て,咬 合 異 常 を引 き起 こ した 場 合13-19)の顎 関節 の 組 織 変 化 を検 索 した 研 究 で あ る。 しか し,一 歯 の み の 咬 合 挙 上 に よ っ て外 傷 性 咬 合 を 引 き起 こ した とき の顎 関 節 へ の影 響 に つ い て は明 らか に され て い な い。 そ こで,本 研 究 で は1歯 の み の 外傷 性 咬 合 に よ る顎 関 節 の 変 化 を明 らか にす る こ と を 目的 とし,ラ ッ ト上 顎 左 側 第 一 臼 歯 の み に レ ジ ン を築 盛 す る こ と に よ っ て,ラ ッ トに 実 験 的 外 傷 性 咬 合 を付 与 し,そ の 後 の 歯 周 組 織 の 変 化 と顎 関 節 の組 織 変 化 に つ い て,病 理 組 織 学 的,免 疫 組 織 化 学 的 お よ び組 織 計 量 学 的 検 索 を行 った 。 材 料 と方 法 1. 実 験 動 物 本 研 究 の 実 験 動 物 に は,生 後 約7週 齢,体 重170∼180 gのWistar系 雄 性 ラ ッ トを 用 い,対 照 群 と実 験 群 に わ け た 。 実 験 群 の ラ ッ トで は,上 顎 左 側 第 一 臼歯 部 に高 さ2 mmの レ ジ ン に よ る咬 合 挙 上 を行 い,ラ ッ トに実 験 的 な 咬 合 性 外 傷 を 引 き起 こ し,左 側 の 下 顎 頭 を処 置 側,右 側 の 下 顎 頭 を無 処 置 側 と した。 咬 合 挙 上 を行 わ な い ラ ッ ト を対 照 群 と して使 用 した。 実験 期 間 中 は チ ッ プ を敷 い た プ ラ ス チ ック ケ ー ジ に入 れ,固 形 飼 料 と十 分 な 水 道 水 を 与 え て 飼 育 した 。 な お,動 物 実験 は 「北 海 道 大 学 大 学 院 歯 学 研 究 科 動 物 実 験 に 関 す る指 針1994」 に基 づ き 行 っ た。 2. 実 験 方 法 実 験 群 の ラ ッ トに対 して は,塩 酸 ケ タ ミン(動 物 用 ケ タ ラ ー ル50R三 共 製)お よ び キ シ ラ ジ ン塩 酸 塩(セ ラ ク ター ルR2%注 射 液,バ イ エ ル 製)の 腹 腔 内 注 射(0.1ml/ 100g体 重)に よ る全 身 麻 酔 下 で体 を実 験 台 に 固定 し,上 顎 左 側 第 一 臼 歯 を十 分 に 防 湿 し た後,歯 面 改 質(ク リア フ ィ ルLBプ ラ イ マ ーR),ボ ン デ ィ ン グ(ク リア フ ィ ル フ ォ トボ ン ドR)を 施 し,コ ンポ ジ ッ トレ ジ ン(ク リア フ ィル ラ イ ナ ー ボ ン ドIIR,ク ラ レ製)を2mm の 高 さ に な る よ う に咬 合 面 に築 盛 した 。 対 照 群 お よび 実 験 群 は試 料 を採 取 す る1時 間 前 に,5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU; SIGMA製)を25mg/ kgの 割 合 で腹 腔 内 に1回 投 与 した 。実 験 群 で は 咬 合 性 外 傷 付 与3, 7, 14, 28, 42, 56日 後 に,対 照 群 は1時 間 後 (便宜 的 に0日 と した)と3, 7, 14, 28, 42, 56日 後 に ジエ チ ル エ ー テ ル の 大 量 吸 引 に よ り安 楽 死 を行 った 。 な お,BrdU投 与 時 間 と安 楽 死 を行 う時 間 は各 動 物 にお い て 一 定 と した 。 安 楽 死 後,両 側 下 顎 頭 と上 顎 骨 を周 囲 組 織 と と もに摘 出 し,10%中 性 ホ ル マ リン に て 浸 漬 固 定 後, 10%EDTA溶 液(pH=7.4)で 約7週 間 常 温(約20℃) で 脱 灰 し,通 法 に 従 いパ ラ フ ィ ン包 埋 を行 っ た 。 厚 さ4 μmの 正 中 前 頭 断 連 続 切 片 を作 製 し,両 側 下 顎 頭 を検 索 した 。 ま た上 顎 骨 で は,両 側 第 一 臼 歯 口蓋 根 頬 側 部 の歯 周 組 織 に つ い て検 索 を行 った 。 3. 検 索 方 法 1) 病 理 組 織 学 的 検 索 通 法 に従 っ て,脱 パ ラ フ ィ ン を行 った 後,下 顎 頭 で は ヘ マ トキ シ リ ン ・エ オ ジ ン染 色(HE染 色)お よ び ア ル シ ャ ン ・ブ ル ー 染 色,ア ザ ン ・マ ロ リー染 色 を施 し,下 顎 頭 に お け る経 時 的 な変 化 に つ い て 病 理 組 織 学 的 に検 索 した 。 ま た,上 顎 骨 で はHE染 色 を施 し,歯 周 組 織,特 に歯 根 膜 と歯 槽 骨 に お け る外 傷 性 咬 合 に対 す る変 化 に つ い て 病 理 組 織 学 的 に検 索 し た。 2) 免 疫 組 織 化 学 的検 索 咬 合 性 外 傷 を受 け た 後 の 下顎 頭 軟 骨 の 細 胞 動 態 に与 え る影 響 お よび 歯 周 組 織 の 外 傷 性 咬 合 に対 す る変 化 を明 ら

豊 島靖 子 ほか:実 験 的外傷 性咬 合 によ る顎 関節 の変化 につ いて 409 か に す る た め,各 群 と も抗BrdUモ ノ ク ロ ー ナ ル抗 体 を 用 い た免 疫 組 織 化 学 的 検 索 を行 っ た 。 標 本 は前 処 置 と し て0.1%ト リプ シ ン処 理 を37℃,10分 間 行 い,続 い て3 N-HCl処 理 を37℃,10分 間 行 った 後,一 次 抗 体 と して 抗BrdUモ ノ ク ロー ナ ル抗 体(1:100, DAKO製)を 室 温,湿 箱 中 で1時 間 反 応 させ た。 二 次 抗 体 は抗 マ ウス ビ オ チ ン化 免 疫 グ ロ ブ リン ヤ ギ血 清(1:100, DAKO製) を室 温,湿 箱 中 で40分 反 応 させ た 。次 に ア ビヂ ンー ビォ チ ンペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 複 合 体(DAKO製)を 室 温,湿 箱 中 で30分 間反 応 させ,3,3'-diaminobenzidine (DAB: SIGMA製)30mg/100mlを0.1%PBS(pH=7 _.4)で 呈 色 し,ヘ マ トキ シ リン に て核 染 色 を行 い,BrdU陽 性 細 胞 の分 布 につ い て検 索 した 。 3) 組 織 計 量 学 的検 索 (1) 歯 周組 織 (1)BrdU陽 性 細 胞 数 の検 索 免 疫 組 織 化 学 的 検 索 を 行 っ た連 続 切 片 各 群20枚 を用 い,歯 根 膜 領 域 に 標 識 さ れ たBrdU陽 性細 胞 を光 学 顕 微 鏡 下 に お い て 計 測 し,そ の 値 と歯 根 膜 腔 の 面 積 を も とに 単 位 面 積 あ た りのBrdU陽 性 細 胞 数 を算 出 した 。歯 根 膜 腔 の 面 積 の 測 定 は,画 像 解 析 装 置(IBAS V2.0, Carl Zeiss Vision製)に て 測 定 し た。 測 定 部 位 は 口蓋 根 中隔 側 歯 根 膜 腔 と し,そ れ ぞ れ 根 分 岐 部 の 歯 槽 骨 頂 を結 んだ 線 を上 限,そ れ に平 行 で根 尖 を通 る線 を下 限 と し,歯 根 と歯 槽 骨 で 囲 まれ た領 域 の 面 積 を測 定 した 。 (2) 下 顎 頭 (1) 軟 骨 層 の 厚 さ 下 顎 頭 の連 続 切 片 で ア ル シ ャ ン ・ブ ル ー染 色 した 標 本 各 群100枚 を 用 い,軟 骨 層 の 厚 さ を画 像 解 析 装 置 に て 測 定 した 。測 定 部 位 は上 層(線 維 層 お よ び増 殖 層)(Fig. 1a) と下 層(成 熟 層 お よ び肥 大 層)(Fig. 1b)に 分 け,中 央 部 を基 準 に5カ 所 の 厚 さ を測 定 した 。 (2)BrdU陽 性 細 胞 数 の検 索 免 疫 組 織 化 学 的 検 索 を行 っ た連 続 切 片 各 群100枚 を用 い,接 眼 マ イ ク ロ メ ー タ ー に て,軟 骨 層 中 央 部 の 枠 内 (500×500μm)に 標 識 され たBrdU陽 性 細 胞 数 を 計 測 し,そ の 平 均 値 を求 め た(Fig. 1c)。 な お,組 織 計 量 学 的 検 索 に よ り得 られ た 測 定 値 に つ い て は,同 一 実 験 期 間 内 で の 各 群 間 に対 してpost hoc test と してFisherのPLSD法 を用 い た統 計 解 析 を行 っ た 。

結 果

1. 病 理 組 織 学 的 所 見

歯 周 組 織 は 無 処 置 の左 側 を対 照 群,レ ジ ン築 盛 を行 っ

Fig. 1 The method of measuring the area.

た 個 体 を実 験 群 と し,そ の うち 左 側 を処 置 側,右 側 を無 処 置 側 とした 。 な お,実 験 期 間 を通 じ て,レ ジ ンの脱 落 や 咬耗 はみ られ な か っ た。 1) 歯 周 組 織 (1) 対 照 群 本 実 験 の 検 索 部 位 で あ る第 一 臼 歯 口蓋 根 中隔 側 の 歯根 膜 にお い て は,実 験 期 間 を通 じて 歯 根 膜 線 維 は ほ ぼ 均 一 に 分布 し,機 能 的 配 列 を示 して い た 。 また,歯 根 膜 線 維 の 走 行 に一 致 して 線 維 芽 細 胞 が 規 則 的 に分 布 し て い た (Fig. 2a, 3a)。

(2) 実験 群 処 置 側 で は,3日 後,歯 根 膜 線 維 の 断 裂 や 走 行 の乱 れ が み られ た(Fig. 2b)。7日 後 で は,歯 根 膜 線 維 の走 行 の 乱 れ が み られ,線 維 の 太 さ も細 く,歯 槽 骨 に接 して い る歯 根 膜 線 維 は鬆 疎 で あ っ た(Fig. 3b)。28日 後 で は対 照 群 と同様 の所 見 が み られ,歯 根 膜 は修 復 し て い た 。 無 処 置 側 で は,実 験 期 間 を 通 じて 対 照 群 と同様 の 所 見

Fig. 2 HE staining of the periodontal ligament at 3 days. (×140)

Fig. 3 HE staining of the periodontal ligament at 7 days _{. (×140)}

が み られ た(Fig. 2c, 3c)。 2) 下 顎 頭 対 照群 の 下 顎 頭 に お い て は左 右 に差 が な い こ と を前 提 に,左 側 の 下 顎 頭 を検 索 の対 象 と した 。 実 験 群 で は,左 側 を処 置 側,右 側 を無 処 置 側 と した 。 (1) 対 照 群 実 験 開 始 か ら14日 後 に か けて,軟 骨 層 上 層 お よ び下 層 は や や 肥 厚 が み られ た が(Fig. 4a),軟 骨 層 に お け る

豊 島靖子 ほか:実 験 的 外傷性 咬合 によ る顎 関節 の変化 につ いて 411

Fig. 4 HE staining of the condylar cartilage at 14 days. (×140)

Fig. 5 BrdU staining of the condylar cartilage at 14 days. (×280)

BrdU陽 性 細 胞 は実 験 開 始 か ら14日 後 ま で は あ ま り変 化 が み られ な か った(Fig. 5a)。28日 後 以 降,軟 骨 層上 層 お よ び 下 層 は菲 薄 化 す る 傾 向 が み られ(Fig. 6a), BrdU陽 性 細 胞 も28日 後 で は減 少 が 認 め られ,そ の後 は あ ま り変 化 が み られ な か った 。 (2) 実 験 群 処 置 側 で は対 照 群 と比 較 し て,3日 後 に は肥 大 層 の細 胞 の わ ず か な減 少 と軟 骨 細 胞 の萎 縮 が み られ た 。 また増 殖 層 に はBrdU陽 性 細 胞 が わ ず か に み られ た 。7日 後 に は軟 骨 層 上 層 お よび 下 層 の厚 さの 減 少 が み られ た。14日 後 に は軟 骨 層 上 層 お よ び下 層 の 厚 さ の肥 厚(Fig. 4b)と 増 殖 層 に は多 数 のBrdU陽 性 細 胞 が み られ た(Fig. 5b)。 28日 後 に は軟 骨 層 上 層 の厚 さ の減 少 が み られ た(Fig. 6b)。 56日 後 に軟 骨 層 上 層 の 厚 さ は 減 少 し て い る が 下 層 に は 肥 厚 が 認 め られ た 。 無 処 置 側 で も,処 置 側 と同 様 に14日 後 に は軟 骨 層 上 層 お よび 下 層 の 厚 さ の肥 厚(Fig. 4c)と 増 殖 層 に は 多 数 の BrdU陽 性 細 胞 が み られ(Fig. 5c),28日 後 に は軟 骨 層 上 層 の 厚 さの 減 少 が み られ た(Fig. 6c). 2. 組 織 計 量 学 的 所 見 1) 歯 周 組 織 (1) BrdU陽 性 細 胞 数(Fig. 7) (1) 対 照 群 歯 根 膜 に お け るBrdU陽 性 細 胞 数 は3日 目 で 急 激 に 減 少 し,7日 目以 降 は徐 々 に減 少 す る傾 向 に あ っ た。

Fig. 6 HE staining of the condylar cartilage at 28 days. (×140)

Fig. 7 Time-dependent change of number of labeled cell with BrdU in the periodontal ligament _.

(2) 実 験 群 処 置 側 で は,3日 目 で対 照 群 と同様 に減 少 を示 した が, 7日 目で は 急 激 に増 加 し,対 照 群 と比 較 して 有 意 差 が 認 め られ た。14日 目で は,急 激 に減 少 し,そ の 後 は 顕 著 な 変 化 を示 さ ず,対 照 群 と も有 意 差 を示 さ なか っ た 。 無 処 置 側 で は対 照 群 と同 様 の所 見 が 認 め られ た 。

豊島 靖子 ほか:実 験 的外傷 性咬 合 に よる顎 関節 の変化 につい て 413

Fig. 8 Time-dependent change of thickness in upper layer of the condylar cartilage.

2) 下顎 頭 (1) 軟 骨 層 上 層 の 厚 さ(Fig. 8) (1) 対 照 群 14日 後 に上 層 の 厚 さ に わ ず か な値 の 増 加 が み られ る が,そ の 後 は徐 々 に減 少 が認 め られ た。 これ は成 長 に と もな う正 常 な変 化 と思 わ れ る。 (2) 実 験 群 処 置 側 で は,7日 後 に厚 さ が減 少 した もの の,14日 後 に は 急激 な増 加 が み られ,こ れ ら は対 照 群 と比 較 して 有 意 差 が認 め られ た 。 しか しな が ら,28日 後 で は著 し く減 少 し,42日 後,56日 後 で も徐 々 に減 少 が み られ た。 また,無 処 置 側 で も処 置 側 と同様 の変 化 を示 し て い た。 (2)軟 骨 層 下 層 の 厚 さ(Fig. 9) (1) 対 照 群 3日 後,7日 後 に 変 化 は み られ なか っ た が,14日 後 に 下 層 の 厚 さ に わ ず か に 値 の 増 加 が み ら れ る が,そ の 後 は 徐 々 に減 少 す る傾 向 が 認 め られ た 。 (2) 実 験 群 処 置 側 で は7日 後 に 厚 さが 減 少 した もの の,14日 後 に は 急 激 な増 加 が み られ た 。 両 時 期 で は対 照 群 との有 意 差 は認 め られ た が,28日 で は減 少 を示 し,対 照 群 とほ ぼ 等 しい 値 を示 した 。 無 処 置 側 で も処 置 側 と同 じ よ うな傾 向 が み られ,対 照 群 と比 較 して 有 意 差 が 認 め られ た。 (3) BrdU陽 性 細 胞 数(Fig. 10) (1) 対 照 群 対 照群 の 軟 骨 層 に お け るBrdU陽 性 細 胞 数 は,実 験 開 始 後 わ ず か に増 加 傾 向 を示 し,14日 後 で ピー ク を 示 し た 。しか し なが ら28日 後 で は減 少 を示 し,42日 後,56日 後 で は大 き な変 動 は認 め られ な か った 。 (2) 実 験 群 処 置側 で はBrdU陽 性 細 胞 数 は3日 後 で は減 少 し,対 照群 の 約 半 数 とな り,対 照 群 と比 較 し て有 意 差 を認 め た が,7日 後 に は増 加 を 示 し,有 意 差 は認 め られ な くな っ た 。14日 後 で は さ らに 急激 に増 加 し対 照 群 の約1.5倍 と な り,対 照 群 と比 較 して有 意 差 を認 めた が,28日 後 に は 急 激 な減 少 を示 し,有 意 差 は認 め られ な くな っ た 。 無 処 置 側 で も処 置 側 と同 じ様 な傾 向 が み られ,対 照 群 と比 較 して有 意 差 が認 め られ た 。

Fig. 9 Time-dependent change of thickness in lower layer of the condylar cartilage.

豊島靖 子 ほか:実 験 的外傷 性咬 合 に よる顎 関節 の変化 に つい て 415 考 察 1. 実 験 方 法 に つ い て 1) 外 傷 性 咬 合 の 付 与 方 法 に つ い て 本 実 験 と 同 じ よ う に ラ ッ ト を 用 い た 咬 合 挙 上 の 研 究16,18,19)を参 考 に,作 業 時 間 が 比 較 的 短 く,操 作 が簡 便 で,歯 質 との接着 性 が あ り,実 験 期 間 中 に脱 離 し に くい と思 わ れ る光 重 合 型 コ ン ポ ジ ッ トレ ジ ン を,上 顎 左 側 第 一 臼 歯 の 咬 合 面 に2mm築 盛 す る こ とに よ って,外 傷 性 咬 合 を付 与 した 。な お,築 盛 後56日 で は,破 折 や 脱 離 し な い こ とが 著 者 らの 以 前 の 実 験20)で確 認 して い る。 2) 検 索 部 位 につ い て (1) 歯 周 組 織 本 実 験 で は,上 顎 左 側 第 一臼 歯 口蓋 根 中 隔側 の 歯 周 組 織 を観 察 した。 予 備 実 験 に よ り,頬 側 根 と口蓋 根 を定 量 的 に検 索 した結 果,口 蓋 根 で 外 傷 性 咬 合 に よ る影 響 が 強 い こ とが 明 らか に な っ た。 また イ ヌ や サ ル を用 い た 実 験 の報 告21-24)から,実 験 的 な 外 傷 性 咬 合 に よ る歯 周 組織 の 変 化 は根 分 岐 部 で 著 明 で あ る といわ れ て お り,以 上 の こ とか ら,本 実 験 で は 口蓋 根 中 隔 側 を検 索 部 位 と した 。 (2) 下 顎 頭 下 顎 頭 の層 区 分 に関 して は多 くの研 究 者 に よ って 分 類 され て い るが 統 一 性 に か け て い る。 本 研 究 で は,Bloom ら25)の軟 骨 細 胞 の 示 す種 々 の 細 胞 形 態 学 的 変 化 に対 応 す る層 区 分 を も とに,関 節 腔 側 よ り線 維 層(fibrous zone), 増 殖 層(proliferative zone),成 熟 層(maturative zone), 肥 大 層(hypertrophic zone)の4層 に分 け た森 田26)の分 類 に基 づ い て分 類 した 。 また,今 村6)は最 表 層 は細 胞 の新 陳 代 謝 や 外 的 刺 激 か ら軟 骨 を保 護 す る 役 目 を果 た して お り,増 殖 層 で は下 顎 の 成 長 を細 胞 増 殖 に よ りコ ン トロー ル し て い る と述 べ て い る。さ らに,成 熟 層 は基 質 形 成 面 で重 要 な 働 き を示 し, 肥 大 層 は 基 質 の 石 灰 化 やPrimary spongiosaの 形 成 に 重 要 な意 義 が あ る と推 察 し て い る。この こ と をふ ま え て, 本 研 究 で は軟 骨 の 成 長 や 機 能 に 関与 して い る線 維 層 と増 殖 層 を上 層,基 質 の形 成 に関 与 して い る成 熟 層 と肥 大 層 を下 層 と分 類 し,そ れ ぞ れ の 観 察 を行 った 。 3) 実 験 期 間 につ い て ラ ッ トの 臼歯 部 で の 咬 合 関 係 の確 立 は,森 田26)によ る と第 一 臼 歯 が20日 齢 頃 に,第3臼 歯 が35日 齢 頃 に,ま た,三 木27)によ る と 臼 歯 部 全 体 は50日 齢 頃 と さ れ て い る。 よ っ て,口 腔 機 能 を営 む の に十 分 な程 度 まで 咬 合 が 完 成 して い る時 期 を想 定 して,7週 齢 の ラ ッ トを用 い た 。 ま た,本 実 験 で の 実験 期 間 は56日 間 で あ るが,外 傷 性 咬 合 を引 き起 こ し顎 関 節 を観 察 した 過 去 の報 告 で は さ ら に長 期 間観 察 し て い る もの もあ る14-16)。しか し,近 藤16) の研 究 に よ る と,2mm挙 上 した 場 合 に お い て2∼4週 に か け て認 め られ た 歯 周 組 織 の外 傷 性 変 化 が8週 で は認 め られ な くな る こ とか ら,そ の間 に 修 復 機 転 が 働 い た もの と推 測 して い る。 また,著 者 らの以 前 の 実 験20)にお い て も,歯 周 組 織 に お い て は7日 後 で は変 化 が 現 れ,14日 目 以 降 に は修 復 され る傾 向 に あ り,56日 後 で は ほ ぼ対 照 群 と同 じ く らい まで 修 復 され て い る と推 測 され た 。 よ っ て 本 実 験 の 目的 に あ る よ う に,外 傷 性 咬 合 に よ って 影 響 を うけ て い る顎 関節 を観 察 す る た め,実 験 期 間 を歯 周 組 織 が 修 復 さ れ る まで の56日 間 に設 定 した 。 2. 歯 周 組 織 の 変 化 に つ い て 外 傷 性 咬 合 を 惹 起 した と きの 歯 周 組 織 の 変 化 に つ い て,サ ル の下 顎 臼歯 に 金 属 冠 を装 着 して,そ れ らの 歯 の 歯 周 組 織 を組 織 学 的 に検 索 した 実 験 で は21-24),歯 根 膜 の 壊 死,歯 槽 骨 の吸 収,セ メ ン ト質 の 吸 収 な どが み られ, これ らの変 化 は根 分 岐 部 で も っ と も著 明 で あ る と報 告 さ れ て お り,本 研 究 の処 置 側 にお い て も,3日 後 か ら14日 後 にか け て は歯 根 膜 線 維 の 断 裂 や 走 行 の乱 れ,歯 槽 骨 の 吸 収 が み られ た が,28日 以 降 で は歯 根 膜 線 維 の再 配 列 や 歯 槽 骨 の平 坦 化 が認 め られ,正 常 な機 能 的 構 造 に 回 復 し て いた 。また処 置側 で は,3日 以 降 に歯 根膜 中 にBrdU陽 性細 胞 数 の増 加 が認 め られ,14日 後 に か け て増 殖 が み ら れ,7日 後 に最 大 値 を示 した 。歯 根 膜 中 のBrdU陽 性 細 胞 の 増 加 に つ い て,Linら28)は ラ ッ ト臼 歯 の抜 歯 窩 に お け る治 癒 過 程 で,抜 歯 後16時 間 後 まで は増 殖 活 性 は低 い も の の,1日 後 に は劇 的 な増 加 を示 し,こ の増 殖 は ほ とん ど が 歯 根 膜 線 維 芽 細 胞 に 由来 す る と報 告 し て い る。 また 山 本29)は,脱 臼性 外 傷 付 与 後 に咬 合 機 能 喪 失 した ラ ッ トの 歯 周 組 織 で は3日 後 に は 急激 な 増 加 を みせ,こ の 変 化 は 受傷 した 歯 根 膜 線 維 の修 復 の た め 線 維 芽 細 胞 の増 殖 が 起 きて い る もの と考 察 して い る。 これ らの こ とか ら,本 研 究 で の 歯 根 膜 中 のBrdU陽 性 細 胞 数 の 増 加 は,外 傷 性 咬 合 に よ り受 傷 した歯 根 膜 線 維 の 修 復 の た め線 維 芽 細 胞 の 増 殖 が 起 き て い る もの と推 測 され る。 処 置 側 で は 歯 根 膜 組 織 中 のBrdU陽 性 細 胞 は 多 数 み られ た が,14日 以 降 は減 少 し,28日 後 に は歯 根 膜 組 織 は 修 復 し,外 傷 性 咬 合 に適 応 し て い る こ とを 示 唆 す る もの と考 え られ た。 また 無 処 置 側 で は,実 験 期 間 を とお して 対 照 群 とほ ぼ 同様 の 所 見 が み られ た が,こ の こ とに よ り咬 合 挙 上 して い な い 側 で も機 能 圧 が 加 わ っ て い る こ とが 推 測 さ れ た 。

3. 下 顎 頭 の 変 化 に つ い て 第 一 臼 歯 に外 傷 性 咬 合 を付 与 した 場 合,本 研 究 に お い て は,処 置 側 お よび 無 処 置 側 で は7日 後 まで,下 顎 頭 の 軟 骨 層 の 厚 さ の 減 少 が み られ,軟 骨 層 に萎 縮 性 の 変 化 が 生 じ る こ とが 明 らか に な っ た 。 軟 骨 層 の厚 さの 減 少 につ い て は,ラ ッ トの 上 下 顎 の 臼歯 を抜 歯 した 場 合8)や ラ ッ トの 片 側 臼歯 の 抜 歯 と同 側 切 歯 の 削 除 を行 っ た場 合9), あ る い は ラ ッ トの 片側 臼 歯 部 に咬 合 挙 上 板 を装 着 した場 合16)などの 実 験 で観 察 され て お り,い ず れ も咬 合 時 の下 顎 頭 に加 わ る機 械 的 刺 激 の 減 弱 に よ る もの と推 測 して い る。 本 研 究 で み られ た 軟 骨 層 の萎 縮 性 変 化 は,外 傷 性 咬 合 の付 与 に よ り,下 顎 頭 に加 わ る機 械 的 刺 激 が 減 弱 した こ と を示 唆 す る もの と思 わ れ る。 さ ら に,7日 後 以 降BrdU陽 性 細 胞 数 の 増 加 や 軟 骨 層 の厚 さ は肥 厚 が み られ,対 照群 と比 較 して高 値 で,14日 目 に は最 大 値 を示 し,28日 後 で は対 照 群 と同様 の組 織 像 を 示 した 。 これ は下 顎 頭 の機 能 的 構 造 を維 持 す るた め, 7日 後 か ら14日 後 に か けて,萎 縮 性 変 化 の代 償 と して, 軟 骨 層 の細 胞 増 殖 活 性 が 高 ま り,軟 骨 層 が 厚 くな る こ と を示 唆 す る もの と思 わ れ た 。 さ ら に,28日 目以 降 にお い て は,外 傷 性 咬 合 に対 して 歯 周 組 織 が 適 応 し,安 定 す る た め,肥 厚 した 軟 骨 層 が 減 少 し対 照 群 とほ ぼ 同 様 の 厚 さ に な り,下 顎 頭 の機 能 的 構 造 を維 持 す る もの と考 え られ た 。 これ らの こ とか ら,一 歯 の み の咬 合 挙 上 で あ っ て も, 片 側 また は両 側 臼歯 部 で の 咬 合 挙 上 した場 合 あ る い は片 側 臼歯 部 の 抜 歯 を した場 合 と同 じ よ うな 変 化 が 下 顎 頭 に 現 れ る が,変 化 が観 察 され る期 間 は これ らの 場 合 と比 較 し て短 く,下 顎 頭 の 機 械 的 刺 激 に対 す る適 応 は す み や か に生 じ る こ とが 示 唆 され た 。 歯 周 組 織 で は咬 合 挙 上 を行 っ た処 置 側 の み に変 化 が現 れ て い る に もか か わ らず,下 顎 頭 軟 骨 層 で は無 処 置 側 に お い て も処 置 側 と同 様 の 変 化 が認 め られ た 。 この よ うな 所 見 は,咬 合 挙 上 が 片 側 の1歯 の み で あ っ て も,実 際 の 咬 合 時 に は両 側 の軟 骨 層 に加 わ る機械 的 刺 激 が正 常 よ り も減 弱 した た め生 じた もの と推 測 で き る。 しか し,今 回 の 実 験 で は前 頭 断 の み で の 検 索 で あ るた め,一 歯 の み の咬 合 挙 上 を行 っ た と き の下 顎 骨 や下 顎 頭 の 移 動 方 向 な どの詳 細 は不 明 で あ り,今 後 さ らに検 索 す る必 要 が あ る。 結 論 ラ ッ ト臼 歯 に外 傷 性 咬 合 を付 与 した 場 合,顎 関 節 に ど の よ うに 影 響 を及 ぼ す か を検 討 し,以 下 の結 論 を得 た 。 1. 咬 合 性 外 傷 を 付 与 し た 臼 歯 の,歯 周 組 織 で は 3∼14日 後 に か け て 歯 根 膜 線 維 の 不 規 則 な 配 列 や 歯 槽 骨 の 吸 収,多 数 のBrdU陽 性 細 胞 が 認 め ら れ た が,28日 後 に は 修 復 し 適 応 が み ら れ,無 処 置 側 で は 対 照 群 と 同 様 の 所 見 が み ら れ た 。 2. 咬 合 性 外 傷 を 付 与 し た 場 合,両 側 下 顎 頭 で は7日 後 に 軟 骨 層 で 萎 縮 性 の 変 化 が み ら れ た が,そ の 後BrdU 陽 性細 胞 数 の 増 加 や 軟 骨 層 の 厚 さ は 肥 厚 が み ら れ,対 照 群 と比 較 し て 高 値 で,14日 目 に は 最 大 値 を 示 し,28日 後 で は 対 照 群 と 同 様 な 組 織 像 を 示 し た 。 3. 以 上 片 側 一 歯 の み の 外 傷 性 咬 合 で も,両 側 の 顎 関 節 に 影 響 を 及 ぼ す こ とが 明 ら か に な っ た 。 文 献 1) 中 村 允 也:顎 関 節 症 の 臨 床 的 研 究.口 病 誌26: 986-1012, 1959. 2) 岡 達:顎 関 節 症 の 研 究― 成 因 お よ び 臨 床 像 を 中 心 に―.口 科 誌16: 116-123, 1967. 3) 関 秀 孝:顎 関 節 症 の 補 綴 学 的 研 究.口 病 誌35: 213-227, 1968. 4) 鬼 塚 謙 治:顎 関 節 症 に関 す る 臨 床 的 研 究.九 州 歯 会 誌 30: 662-708, 1977. 5) 藍 稔,上 村 修 三 郎,大 西 正 俊,川 本 達 雄,小 林 義 典,渕 端 孟,山 田 建 二 郎,吉 澤 信 夫,渡 辺 誠:顎 関 節 症 の 診 断 と治 療.日 歯 医 師 会 誌50:56-58, 1997. 6) 今 村 正 史:下 顎 を 偏 位 さ せ た ラ ッ ト下 顎 頭 軟 骨 の 反 応.口 病 誌40: 457-475, 1973.

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