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非拘束自由行動マウスからの神経活動記録法の確立

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Academic year: 2021

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デュアルチャネルファイバーフォトメトリーシステ ムの独自開発 FP 法とは,遺伝学的に特定の細胞種のみに Ca2+インジ ケーターを発現させ,自由に動くマウスの脳の奥深くにあ る特定の細胞集団のリアルタイムダイナミクスを,脳内 に植え込んだ光ファイバーから検出する手法である1)4)5) 我々はこれまで,シングルチャネルで G-CaMP6 蛍光変化 を検出し,オレキシン6)8)およびドーパミン3),セロトニ ン9),ノルアドレナリン9)など様々な神経の活動を記録す ることに成功している.最近では,デュアルチャネルに システムをアップグレードし,1 色(赤色チャネル)をリ ファレンスとして使用することにより,もう 1 色(緑色 チャネル)で検出される GCaMP6 由来蛍光変化を補正す ることが可能となった.FP はその性質上,動物の動きや 光ファイバーのねじれが蛍光強度に影響を与えることがあ るため,シングルチャネルで問題となっていた神経活動 由来の蛍光変化とノイズとの区別の難しさを劇的に改善 することができた.FP は上記に記したノイズの問題の他 に,シグナルの弱さに苦労することもよくあり,これまで の論文では,時間相関カウントシステム,ロックインアン プ,平均化,レシオメトリック測定などのさまざまな方法 で蛍光シグナルを効率的に抽出しようと試みがされてき た1)4)7)10).我々はこの問題に独自の対処を行なった.それ は,蛍光検出デバイスから脳の蛍光検出領域直上まで 1 本 のファイバーで完結させることである.光ファイバーを 用いた光遺伝学的手法でよく用いられるフェルール接続 は,その接続部分で少しのロスが生じる.本システムはこ のような接合部を排除することで,取得できる蛍光強度を 上げることができた.このように我々は,容易に自由に動 いている動物の神経活動と自律応答を高い時間分解能で記 録し,解析することが可能なシステムの開発に成功した (図 1). ● 第 72 回日本自律神経学会総会 / シンポジウム 6 / 自律神経研究へアプローチする新しい方法論 司会:山下 哲・桑木共之

非拘束自由行動マウスからの神経活動記録法の確立

山下 哲

キーワード:ストレス,オレキシン,ストレス防衛反応,ファイバーフォトメトリー  stress,orexin,stress-inducedautonomicresponse,fiberphotometry 抄録:一般に,動物が急激なストレスに晒されると,心拍・呼吸・血圧の上昇,鎮痛作用などが引き起こされる が,これはストレス防衛反応と呼ばれている.交感神経系の賦活化により引き起こされるこれらの反応は,例え ば天敵に遭遇した場合などに動物個体の生存確率を上げるために必要不可欠な反応である.以前の研究で,オレ キシン欠損マウスにおいて,ストレスによる心拍・血圧上昇が減弱することが知られていることから,視床下部 オレキシン神経は,このストレス防衛反応に深く関わっていることが推察される.しかし,このような働きをも つオレキシン神経が,ストレスが負荷された瞬間およびその前後においてどのようなタイムコースで活動してい るのか,その詳細は明らかとなっていない.ストレス誘発自律応答に関わる脳内回路を同定するためには,無麻 酔・非拘束状態のマウスを用いて実験を行う必要がある.また,視床下部には多くの異なる種類のペプチドニュー ロンが混在しており,これらの中からオレキシン神経細胞のみの活動を抽出する必要がある.細胞外記録などの 従来の電気生理学的方法を使用して,覚醒ラットのオレキシンニューロンの活動を記録し,その後,免疫組織化 学手法により記録されたニューロンを特定する方法や,記録電極を細胞にパッチする単一細胞記録技術によって も記録できるが,マウスの脳には約 2,000 〜 3,000 個のオレキシンニューロンがあるので,一度に 1 つまたは 2 つ の神経活動しか記録できないこれらの手法では,サンプリングバイアスを考慮する必要がでてくる.これらのこ とをふまえると,本実験には,ファイバーフォトメトリー(FP)法が最適であると判断した. (自律神経,58:116–120,2021) 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科統合分子生理学分野 〒 890-8544 鹿児島県鹿児島市桜ヶ丘 8-35-1

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常時よりも心拍上昇が減弱された.以上の結果より,オレ キシン神経活動と心拍数増加の間には因果関係がある,す なわちオレキシン神経活動が心拍数の増加を直接引き起こ している可能性が考えられた. ストレスの負の感情的要素がオレキシンニューロン を活性化し,心拍数を増加させる. 感覚入力は通常,感情の種類に関係なく,動物の警戒レ ベルを高める.私たちが観察したオレキシン神経の活動変 化は,注意力の増加に伴う意識の増加によるものである可 能性も考えられる.すなわち,ストレスによるオレキシン ニューロン活動の増加とそれに続く自律応答が,感覚入力 のみによる警戒レベルの増加によるものなのか,感覚入力 に伴う「感情的変化」によるものなのかを区別できていな い.そこで我々は,恐怖条件付けパラダイムを応用して, それらを区別することを試みた.具体的には,ニュートラ ルな音刺激と電気ショックを用い,音刺激と電気ショック を条件付けした群と条件付けされてない群を比較した.こ の結果より,ニュートラルな音が,嫌悪感情と関連付けさ れていた場合にのみ,オレキシン神経活動と心拍数応答の ストレス誘発自律応答とオレキシン神経活動変化 このシステムを用いて,心拍数変化を指標としたストレ ス誘発自律応答変化とオレキシン神経活動変化を,自由行 動マウスから測定し解析した.ストレスがオレキシン神経 を直接活性化する場合,感覚モダリティに応じて異なる反 応がある可能性があると想定されたため,本研究では 3 種 類の嫌悪ストレスを用いて実験を行なった.しかし結果と しては,3 つのストレスタイプすべてが同様に心拍上昇と オレキシン神経活動を引き起こした(図 2).したがって オレキシン神経の活性化は,異なるモダリティの感覚入力 が嫌悪感情として統合された後に引き起こされている可能 性が考えられる.また,これら生理指標の変化について, オレキシン神経活動の増加の開始点と心拍数の増加の開始 点の違いに着目し解析すると,オレキシン神経活動の増加 の開始は常に心拍数の変化開始に先行していることがわ かった.さらに,薬理遺伝学的手法を用いて,オレキシン 神経活動を選択的に抑制できるような動物を作成し,スト レス誘発自律応答を観察した実験においては,オレキシン 神経活動を抑制した状態でストレスが負荷された場合,通 図 1 2ch ファイバーフォトメトリーシステムの概要. 図 2 ストレス誘発自律応答とオレキシン神経活動記録の典型例.

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も引き起こされることが明らかとなった.本研究の結果か ら私は,脳内でのストレス処理は,2 つの要素によって決 定されると仮説を立てた.1 つめは,痛みなど末梢感覚器 官から伝達されるストレス負荷の強さや場所などを定義す る「感覚的識別要素」であり,もう 1 つは,不安,恐怖, 嫌悪などストレス性の感覚的負荷に伴う嫌な感情によって 定義される「感情的要素」である.感覚的な要素は,その 感覚器官への負荷と同期して活動することが予想される が,感情的要素については,初期ではストレス負荷と同期 して活動を引き起こすが,後には実際の感覚入力がなくて も,キーとなる刺激に触れただけで活動が引き起こされて いるようである.我々の結果では,オレキシン神経は感情 的な要素だけでも駆動され自律応答を誘発している可能性 を示唆している.嫌悪感は,動物にさまざまな危険を知ら せ続けるための警告システムとして非常に重要な機能を果 たす.残念ながら,現代社会の多くの場合,急性ストレス への繰り返しの曝露は避けられない.たとえば,そりの合 わない会社に勤めるサラリーマンは嫌悪感に繰り返し苦し むことがあり,最終的にうつ病などの病気の原因となる可 能性がある.このような状況では,ストレッサーから完全 に逃れることは難しいかもしれないが,ストレスによる嫌 悪感,すなわちストレスの感情的要素だけでも軽減できる 即時の増加が観察された(図 3).一方,音が電気ショッ クに関連していない限り,神経活動増加・心拍上昇ととも にすくみ行動も生じないことから,ニュートラルな音単独 では,嫌悪的な感情変化を引き起こさないことが確認でき る.これは,オレキシンと恐怖行動との関係を示す以前の 報告と一致した2)11).これらの事実を考えると,本研究で 観察されたオレキシン神経活動の変化は,個々の感覚刺激 自体ではなく,動物の感情の変化に依存していた可能性が あると考えられる. 結 論 本研究は,我々が独自開発したデュアルチャネルファイ バーフォトメトリーシステムにより,動物が活発に行動し ている場合でも,容易に神経活動を検出できることを可能 にした.このシステムは,ECG,EEG,EMG 記録,ビデ オトラッキングなどと組み合わせることができ,脳深部の 神経活動と,記録されたすべての生理学的データを同時に モニタリングでき,高い時間分解能で前後関係を解析する ことが可能となる.ストレスとオレキン神経の関係はこれ までも示唆されていたが,本研究によってはじめて,オレ キシン神経の活性化は,ストレスからの感覚入力だけでは なく,自律神経出力を駆動するような感情的変化によって 図 3 条件付けによる中性音に対する自律応答とオレキシン神経活動変化.

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2014;157:1535-1551.

 5)Guo Q, Zhou J, Feng Q, et al. Multi-channel fiber photometry for population neuronal activity recording. BiomedOptExpress2015;6:3919.  6)InutsukaA,YamashitaA,SrikantaC,etal.Theintegrative roleoforexin/hypocretinneuronsinnociceptiveperception andanalgesicregulation.SciRep2016;6:29480.  7)IsosakaT,MatsuoT,YamaguchiT,etal.Htr2a-expressing cellsinthecentralamygdalacontrolthehierarchybetween innateandlearnedfear.Cell2015;163:1153-1164.  8)MoriyaS,YamashitaA,KawashimaS,etal.Acuteaversive stimuli rapidly increase the activity of ventral tegmental areadopamineneuronsinawakemice.Neurosci2018;386: 16-23.

 9)Moriya S, Yamashita A, Nishi R, et al. Acute nociceptive stimuli rapidly induce the activity of serotonin and noradrenalin neurons in the brain stem of awake mice. IBROReports2015;7:1.

10)Natsubori A, Kimura-Tsutsui I, Nishida H, et al. Ventrolateral striatal medium spiny neurons positively regulate food-incentive, goal-directed behavior independentlyofD1andD2selectivity.JNeurosci2017;37: 2723-2733. 11)SoyaS,TakahashiTM,McHughTJ,etal.Orexinmodulates behavioralfearexpressionthroughthelocuscoeruleus.Nat Commun2017;8:1606z. ことができれば,精神疾患の発症を抑えることができるか もしれない.本研究の感情的要素を分離するという試み が,その解決の一助となればよいと考えている.また,オ レキシン神経を標的として繰り返される急性ストレスに起 因する過度な自律応答を制御することで,後に発症する自 律神経失調症やそれに起因する精神障害の「予防」ができ る可能性があることも示唆している. 利益相反について:すべての著者は開示すべき利益相反は ない. 引用文献  1)CuiG,JunSB,JinX,etal.Deepbrainopticalmeasurements of cell type–specific neural activity in behaving mice. Nat Protoc2014;9:1213-1228.

 2)FloresÁ,SaraviaR,MaldonadoR,etal.,Orexinsandfear: implications for the treatment of anxiety disorders. Trend Neurosci2015;38:550-559.

 3)FutatsukiT,YamashitaA,IkbarKN,etal.Involvementof orexin neurons in fasting- and central adenosine-induced hypothermia.SciRep2018;8:2717.

 4)Gunaydin LA., Grosenick L, Finkelstein JC, et al. Natural neuralprojectiondynamicsunderlyingsocialbehavior.Cell

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Abstract

Establishment of a neural activity recording method for unrestrained free-behavior mice

AkiraYamashita

DepartmentofPhysiology,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,KagoshimaUniversity, Kagoshima890-8544,Japan

Whenananimalisexposedtostress,itprovokesanautonomicresponse,suchasincreasedheartrate,respiration, blood pressure, or analgesia, called a stress defense response. Previous studies have shown that these responses are attenuatedinorexinknockoutmice,suggestingthatorexinneuronsareanessentialfactorinstress-inducedautonomic responses.However,howorexinisinvolvedinthestress-inducedautonomicnervousresponse,especiallywhetherthe orexinnerveisactiveduringstressloading,isstillunclear.Therefore,inordertoinvestigatetherelationshipbetween orexinneuronalactivityandthestress-inducedautonomicresponse,weestablishedafiberphotometrysystem,which can be used as a neuronal activity recording method for unrestrained/free-moving mice. In this method, a highly sensitive calcium probe (GCaMP6) is expressed only in specific cell types of genetically modified animals and adeno-associatedvirus(AAV),andasinglefiberisplacedinthedeepbrainofconsciouslyfree-movinganimals.Thismethod is particularly useful for elucidating the neural circuits in the brain that control phenomena such as stress-induced autonomic responses, and physical responses that are observed only when the nervous system of the whole body includingperipheralnervesisactive.Inthisstudy,wegeneratedmicethatspecificallyexpressedG-CaMP6inorexin neurons,andattemptedtosimultaneouslyrecordheartratevariabilityandorexinneuralactivityinreal-time.Inthis paper,weintroducethe2chfiberphotometrysystemwehavecreatedandconsidertherelationshipbetweenorexin neuronalactivityandautonomicresponsesusingtheresultsobtainedbythissystem.

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