博士論文審査結果の要旨
学位申請者
早 田 洋 樹
主論文 1編
Lowered extracellular pH is involved in the pathogenesis of skeletal muscle insulin resistance. Biochemical and Biophysical Research Communications 445: 170-174, 2014
審 査 結 果 の 要 旨
インスリン抵抗性は 2 型糖尿病の基礎となる病態であり,高血圧,脂質異常症,肥満といった生 活習慣病とも密接に関連しており,これらは全て心血管疾患の重要なリスクファクターである.骨 格筋におけるインスリン抵抗性の病態は,insulin の骨格筋への作用が不十分となり,骨格筋細胞内 への glucose 取込が低下するというものである.しかし,インスリン抵抗性の成因については大部 分が未解明である. 近年,2 型糖尿病モデルラット(OLETF ラット)を用いた研究により,インスリン抵抗性の初期の 段階で細胞外液 pH の低下が引き起されていることを見出した.また,2 型糖尿病患者において細胞 外液 pH の低下を示唆する疫学データが複数報告されている.そこで申請者は,細胞外液 pH の低下 がインスリン抵抗性の病態に関与しているという仮説を立て,ラット骨格筋由来培養細胞を用い, 細胞外液 pH 低下時の insulin への応答の変化について検討を行った. 各実験において,ラット骨格筋由来培養細胞株である L6 細胞を筋管細胞へ分化させて用いた. 細胞外液の pH を 7.4, 7.2, 7.0, 6.8 に調整して insulin 刺激を加え,この時の insulin に対する各応答に ついて解析した.Insulin が insulin receptor と結合すると,insulin receptor および下流のシグナルである Akt がそれぞ れリン酸化され活性化状態となる.これらのリン酸化レベルを Western blotting 法により解析した. 細胞外液 pH 低下時には,insulin receptor および Akt のリン酸化レベルがいずれも低下し,活性化が 抑制された.Insulin receptor の細胞膜上発現レベルについて,細胞膜タンパク質ビオチン標識法を 用いて解析を行ったが,細胞外液 pH を変化させても細胞膜上発現レベルは変化しなかった.Insulin と insulin receptor の結合性について,放射線ラベル標識された insulin を用いて binding assay を行っ たところ,細胞外液 pH 低下時には細胞に結合した insulin が減少することがわかった.骨格筋細胞 への glucose 取込について,放射線ラベル標識された 2-deoxyglucose (2DG, glucose 誘導体) を用いて 実験を行ったところ,細胞外液 pH を低下させると,insulin 刺激による 2DG 取込増加量が減少する ことがわかった. 以上のことから本研究は,骨格筋細胞において細胞外液 pH が低下すると insulin 刺激に対するシグナルが減弱し,glucose の骨格筋への取込が不十分となる,ということを示した. 以上が本論文の要旨であるが,インスリン抵抗性の成因に細胞外液 pH 低下が関与するという新 たな知見を加えた点で,医学上価値ある研究と認める. 平成 26 年 11 月 20 日 審査委員 教授