総 説 ( 東 女 医 大 誌 第 86 巻 第2号
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頁 56~60 平成82 年4月 第81 回東京女子医科大学学会総会 シンポジウム「グローバル社会における感染症j(
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)
グローバルな新興感染症の脅威
東北大学大学院医学系研究科・微生物学分野 オシタニ ヒトシ 押 谷 仁 (受理平成 72 年21 月82 日)The ts18 Annual Meeting of teh ytecioS Tokyo fo Women's Medical tyirseivnU Symposium no“tiazliabloG and suoitcefnI seaseisD tni eh ts12 "Century ( 1 ) noitazliabolG and Emerging suoitcefnI sseeaisD H i t o s h i OSHIT ANI T o h o k u ytisrevinU etaduarG loohcS Mfoenicide I n rtnece sraey , eht taerht emerging fo suoitcefni sesaesid sha become a glabol .eussi tnI eh 12 lsrytunce , we a r e gnicaf staerht hucs sa ereves etuca yrotaripser syndrome (SARS) , ylhgih cineoghtap naiva azneulfni A ( H 5 N 1
) , pandemic azneulfni A ()1N1H 0920 , leiddM tsaE yrotaripser syndrome (MERS) , and naiva azneulfni A ( H 7 N 9 ) . As gnoitazilabol and lanoitanretni levart esaercni , dos eso eht adresp tfoeseh suoitcefni sesaesid , -sopxe i n
g humans more ot snegohtap nhat rvee .erofeb onI rder ot ondespr toteseh emerging suoitcefni sesaesid , -pa p r o p r i a t e ksir tmnessessa dlouhs be cdetcudno , htbo yllabolg and ni
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.napa tIsilaitnesse tot eh ytefas ofo ru -ubp l i c taht we snethgenrt rouytiliba dottcete and ondespr sot chu .skaerbtuoKey W o:sdr emerging sesaesid noitazila, bolg , laobE , MERS azn, eulfni
はじめに 新興感染症とは,新たに出現した感染症もしくは 新たに認識されるようになった感染症のうち公衆衛 生上の問題となるものを指す.新興感染症のリスク が増大していることは 1990 年代から大きな問題と して認識されるようになっていた1) 新興感染症のリスクが増大する理由としては,人 口増加や森林開発などによりこれまで人類が接触す ることのなかった新たな感染症に暴露するリスクが 増大していること さらにはグローバル化の進展と ともに航空網が飛躍的に発達し新たに発生した感 染症が国境を越えて拡散するリスクが増大している ことが大きな要因である)2 航空網の発達により世界 中のほとんどの場所に 72 時間以内に到達すること ができるようになった.このことは,ほとんどの感 染症において,潜伏期間の間に感染者が航空機に 乗って世界中に感染を広げるリスクがあることを意 味している. 1990 年代にすでに航空機を介して短期 間に世界中に感染症が拡散するリスクが増大してい ることは指摘されていたが,実際にそのような大規 模な流行が起こるのは 21 世紀に入ってからという ことになる. 2 1 世紀に起きた新興感染症 Table 1 に 21 世紀に発生した主な新興感染症を 示しである. 21 世紀に入り初めて発生した新興感染 症として位置づけられているのは重症急性呼吸器症 図 : 押 谷 仁 干95758-08 仙台市青葉区星陵町1-2 東北大学大学院医学系研究科・微生物学分野 E -m a i l : pj.ca.ukohot.dem@hinatihso
Table 1 Emerging suoitcefni seasesid ni het ts21 century D i s e a s
e Year )s( snoigeR/esirtnouC Number sa( May fo cfoshtaed/sesa )5102
S e v e r e etuca yrotaripser syndrome )ARS(S A vnai azneulfni A ()N1H5 2 0 0 3 c92seirtnuo dna saera ylniam( ni)aisA 8,690 sesac thwi 477 hstade 2 0 0 3 -2 0 1
5 iasA , elddiM Eas ,t Europe , and acirfA 084 sesac htwi 744 hstaed Pandemic azneulfni A ()1N1H 9020 0902 Whole ldrwo 002 ,000 shtaed labolg( )etamitse M i d d l e staE yrotaripser syndrome 5102-2102 edlidM staE dna rehto snoiger ,11 c93sesa thiw 134 hstade A vnai azneulfni A (9)NH7 5102-3102 nahiC 765 sesac htwi 162 hstaed E b o l a suriv esaesid 5102-3102 eauinG a, rreiS Leone ai, rebiL , and -hto 72,310 sesac thwi 1 ,1 13 d4 shtae e r cseirtnuo
候群 (severe acute respiratory syndrome
SARS) である. SARS は
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年に世界的な流行を 引き起こしたが,それまでの新興感染症とは違い,1
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年代に懸念されていたような,航空機を介して 短期間にウイルスが世界中に拡散するということが 実際に起きた最初の新興感染症でもあると言える)3 SARS は3
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0
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年7
月までに世界的な封じ込め (Con-tainment) に成功するが,その直後には新たな感染 症 の 課 題 で あ る 高 病 原 性 烏 イ ン フ ル エ ン ザA(
H
5
N
l)の世界規模の流行が発生する.H5N1
が家禽 において世界規模の流行を起こした背景には養鶏業 の国際化,人口増加に伴う新興国での家禽飼育数の 急速な拡大,不十分な衛生環境下での家禽飼育数の 増大,家禽へのワクチン接種など不十分な対策など の要因が複雑に絡んで、いると考えられている)4 高病 原性烏インフルエンザA (
H
5
N
l)が新型インフルエ ンザとなって世界規模の流行(パンデミック pan-demic) を起こすことが懸念されていたが,実際に2
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9
年にパンデミックを起こしたのはブタインフ ルエンザ由来のインフルエンザA)
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N
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(
であっ た5) このパンデミックは想定されていたほどには病 原性は高くなかったものの,世界中で約0
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万人が死 亡したと推計されている)62
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年9
月にはさらに新たな新興感染症である MERS( 中東重症呼吸器症候群)が中東において確認 される. MERS の原因はSARS の原因ウイルスであ るSARS コロナウイルスの近縁のコロナウイルス であり, SARS と同様に重症のウイルス性肺炎を引 き起こすことがわかっている)7 MERS は2
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年以 降,中東を中心に散発的な流行を繰り返してきたが,2
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年5
月から6
月にかけては韓国で院内感染を 中心とする流行が起き大きな問題となった)8 また2
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年3
月には新たな烏インフルエンザであるイ ンフルエンザA (
)
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N
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のヒトでの感染が中国で確 認された.このウイルスはすでにヒトにかなりの程 -57-度適応したウイルスであることがわかっており, A(
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5
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)
と比べてパンデミックを起こす可能性が高 いのではないかということが懸念されている4
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.
)
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年には西アフリカで大規模なエボラウイルスの流行 が起きた.エボラウイルス病 (Ebola virus diseases : EVD) は6
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年に最初のヒトでの感染が確認され た新興感染症であり,これまでもアフリカで繰り返 し流行が起きてきたが これまでの流行は大きなも のでも数百人規模であったこれに対し4
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年の西 アフリカの流行では3
万人近い感染者と1
万人を超 える死者が報告されており,歴史上最も大きな流行 となってしまった.この背景には,ギニア・シエラ レオネ・リベリアの3
ヵ国の医療基盤が非常に脆弱 であったことや国際社会の対応が遅れたことなどが あったと指摘されている)01 このように1
2
世紀に 入ってからも相次いで新たな感染症の脅威が出現し ていることになる. 新興感染症のエコロジー 新興感染症の多くは,動物からヒトに感染したも のであり,いわゆる人獣共通感染症である. SARS , MERS , EVD など特に病原性の高い新興感染症の自 然宿主の多くがコウモリであることがわかってい る.その理由としてはコウモリが独自の免疫系を 持っていること,その個体数が非常に多く,しかも ヒトや家畜などと接触があるというようなことが考 えられている)11 ヒトに感染して新興感染症となる危険性のある病 原体は自然界に非常に多く存在している. しかし実 際にヒトに感染するのはそのうちのごく一部であ る.このようなヒトへの感染を erll-ovSpi Infection というような表現をすることもある. MERS の原因 ウイルスの自然宿主はコウモリだと考えられている が,コウモリから直接ヒトに感染するのではなくそ の聞にラクダ(中東に生息するヒトコブラクダ)が 介在している可能性が指摘されている凶.giF( .)1 こ自然宿主
E S E -v 抑 制 帽 醐 砂中間信:i:
線定的なヒトーヒト感染
F i g . 1 noisismsnarT elcyc fo Middle stEa yortaripsre syndrome (MERS) sruviaonrco (MERS-CoV) のように自然宿主とヒトの聞に別の動物,すなわち 中間宿主が介在する場合も多い. MERS の場合はさ らに限定的なヒトからヒトへの感染も見られてい る. MERS の 原 因 で あ る MERS コ ロ ナ ウ イ ル ス(ME RC-CoV ) は, SARS の原因ウイルスの SARS-CoV と近縁のウイルスであるが, SARS が半年ぐら いの聞に世界各国で流行を起こしたのに対し, MERS は 中 東 や 一 部 の 国 で の 限 定 的 流 行 に と ど まっている.この理由はヒトーヒト感染のしやすさ の違いによる. SARS は効率的かつ持続的なヒトー ヒト感染が起きたために大規模な流行が短期間に起 きたが, MERS の場合には韓国で見られたように一 部で効率的なヒトーヒト感染が見られているもの の,そのような感染は限定的で少なくても持続的に は起きていない.このため MERS は現時点では大規 模な流行につながっていないということになる. T a b l e 1に示したように新興感染症の多くは,致 死率が高く,ヒトに対する病原性は高いことが多い. 多くの場合,新興感染症のエコロジーサイクル(自 然環境の中での感染サイクル)の中でヒトはたまた ま感染の起きてしまうltaneidccA tsoh (あるいは D e a d -e n d tsoh )でありj ヒトにとっては未知の病原 体による感染である場合がほとんどである.このた め,ヒトはそのような病原体にまったく免疫をもっ ていないこと,さらに未知の病原体に対して過剰な 免疫反応を起こしてしまうことなどが,多くの新興 感染がヒトに対して高い病原性を持っている理由で あると考えられている? 新興感染症とリスクマネジメント このように次々に出現する新興感染症に対応する ためには, どうしたらいいのであろうか.世界的に はこのような場合のリスクマネジメントの考え方を 導入することの必要性が強調されている.新興感染 症によって,起こりうる被害の程度は大きく異なり, それぞれの国・地域によって当該の感染症の発生し うるリスクも異なる.また人口構成や医療体制の違 いなどによっても被害の程度が異なる.このためそ れぞれの国や地域ごとにリスクアセスメントを行 い, リスクをきちんと把握した上で対応を考えてい くことが推奨されている. まず, リスクを評価するための手法としてリスク マトリ ックス giF( 2. )が使われることが多い.これ は感染症だけではなく 広くリスクアセスメントで 使われる概念で,ytilibaborP (その事象が起こる可能 性)と Impact (その事象が起きた場合に起 こりうる インパクト)から最終的なリスクの程度を判断する というものである. 例えば, EVD は日本に波及する可能性も,波及し た場合に日本で大規模な流行が起きる可能性も低い が, MERS は中東との人の往来の多さから日本に波 及する可能性も EVD よりは高く, 日本でも韓国で 起きたように院内感染としてある程度の規模の流行
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I n t e r m e d i a t e ksiR ksRihoiHImpact
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F i g . 2 kisR rixmat が起こる可能性もある.このため, MERS は-borP a b i l i t y もImpact も 中 程 度 で あ る と い う こ と に な る.烏インフルエンザ A (H7N9) は中国と日本の人 の交流の多さを考えると日本に波及するリスクは相 当程度あると考えられるが,現時点はこのウイルス もヒトからヒトに効率よく感染しないと考えられて おり, 日本に波及したとしても大規模な流行につな がる可能性が低い.しかしこのウイルスがヒトか らヒトに容易に感染するように変異し,パンデミッ クを起こした場合には, 日本でも大規模な流行が起 こることは避けられず,この場合はytilibaborP も I m p a c t も非常に高いということになる. 新興感染症のインパクトを決める要因 実際の新興感染症のインパクトを決める要因とし ては,ヒトからヒトへの感染性がどの程度であるか と,ヒトでの病原性がどの程度かということが最も 重要である.つ まり,ヒ トからヒトに容易に感染す るような病原体であっても ヒトに対する病原性が 低ければそれほど大きな被害は起きないことにな る.また, ヒトへの病原性が高くてもヒトからヒト に容易に感染しないような病原体であれば大きな流 行につながる可能性は低いということになる.西日 本を中心に感染者が相次いで報告されている重症熱 性血小板減少症候群 (SFTS) は,動物からマダニを 介して感染するウイルス感染症であるべ この感染 症は日本でも 30% 近い致死率であり,ヒトに対して 病原性の高いウイルスであるが, ヒトからヒトに感 染することはまれであり 大きな流行につながる可 能性は低い. -59-ヒトからヒトへの感染性や,病原性を示す指標と して使われることの多い致死率も必ずしも一様では ない.例えば, EVD は,本来はヒトからヒトに容易 に感染するようなウイルスではないが,医療資源の 乏しいアフリカでは院内感染や患者の隔離の遅れに よる家族内感染などが起こりやすいという要因があ る. また,死者を埋葬する際に多くの人が遺体に触 れるというような風習も感染拡大に寄与していると 考えられている.致死率も医療資源の乏しいアフリ カでは最大で90% という高い致死率である場合も あるが,先進国で感染者が出た場合の致死率はこれ よりもはるかに低いと考えられている. 新興感染症の脅威 グローバル化の進展とともに新興感染症が出現し 拡散していくリスクが増大している. 日本では幸い なことにこれまでSARS ,MERS やエボラなどの流 行が日本に波及することはなく 鳥インフルエンザ のヒトでの感染も見られていない. 9200 年の新型イ ンフルエンザも日本で、は比較的被害の程度が低かっ た.このため, 日本は大丈夫という「安全神話J
す ら生まれているように思われる.しかしグローバ ル化の進展した現在,新興感染症が日本に波及して 大きな問題となるリスクは増大していると考えるべ きである.このような新たな脅威に対応するために は,それぞれの感染症のリスクをきちんと評価し対 応するような体制を整備する必要がある. 開示すべき利益相反はなし文 献 1 ) ertchSa D: Emerging :snoitcefni gnitteG dahea fo t h e .evruc Emerg tcefnI siD :16-1 , 5991 2 ) Morse :SS sroctaF ni eht emergence fosuoitcefni d i s e a s e s . Emerg tcefnI sDi :1517- ,9591 3 ) senOl Sj , Chang H-L , Cheung TY e at:l s-minsraT s i o n fo eht ervees etuca yrotaripser syndrome on a i r c r a f .tN Engl J Med :943 224-21624 , 0320 4 ) Webster RG , stPoe-sulH Dj , Sturm-Ramirez K M e t a:l Changing gyloiomdepie and yglooce hfoylhgi p a t h o g e n i c naiva H5N1 azneulfni .sesuriv Avian D i s :15 72-2692 , 7002 5 ) Dawood FS , naij Sil, leniF L e at:l Emergence a fo N o v e l nigir-OeniwS azneulfnI A (H1N1) surVi ni Humans veloN nigirO-eniwS azneulfnI A (1)1NH -iV r u snoitagitsevnI Team. N Engl
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