• 検索結果がありません。

〈著書紹介〉 窪薗晴夫 著『数字とことばの不思議な話』

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "〈著書紹介〉 窪薗晴夫 著『数字とことばの不思議な話』"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

国立国語研究所学術情報リポジトリ

〈著書紹介〉 窪薗晴夫 著『数字とことばの不思議

な話』

著者

窪薗 晴夫

雑誌名

国語研プロジェクトレビュー

3

1

ページ

49-50

発行年

2012-07

URL

http://doi.org/10.15084/00000702

(2)

49

国語研プロジェクトレビュー Vol.3 No.1 2012

NINJAL Project Review Vol.3 No.1 pp.49―50(July 2012) 国語研プロジェクトレビュー  〈著書紹介〉 窪薗晴夫 著 『数字とことばの不思議な話』 岩波ジュニア新書 684 2011 年 6 月 岩波書店 新書判 222 ページ 820 円+税

窪薗 晴夫

本書は数字(数詞)の発音を例に,ことばの仕組みを高校生や小中高校の教師向けに解説 したものである。数字は普通のことばとは違うようにも見えるが,発音された瞬間に「こと ば」になり,独自の発音やアクセントを持つ。数字はまた,たんに「ことば」であるだけで はなく,ことばの中でも私たちの日常生活にもっとも身近な存在である。物の数を数えたり, 時間や時刻を伝えたり,お金を数えたりと,私たちは毎日,数字ということばを使っており, 私たちの生活に不可欠なものとなっている。 このように私たちが普段何気なく使っている数字の読み方には,面白い「ことばの法則」 がいくつも隠されている。その法則の中には日本語だけに通用する法則もあれば,英語や他 の言語にも共通に観察される法則もある。またことばの法則と思えたものが,実はことばを 超えた人間社会の法則や自然界の法則であることも珍しくない。本書はそのような法則を章 ごとに解説している。 たとえば第 2 章では 4 という数字の読み替えを出発点にして,忌みことばの現象を論じて いる。1 から 10 まで順に数字を読んだ後で 10 から 1 まで逆に読んでみると,4 と 7 の発音 が変わることに気がつく。1 から読んだときは「し」「しち」と発音されることが多いのに, 10 からカウントダウンするときは「よん」「なな」と読まれる。同様の発音の変化が掛け算 の発音にも見られる。4×7=28 の式を九九で読むと「ししち・にじゅうはち」と発音するが, 式にして丁寧に読むと「よん・かける・ななは,にじゅうはち」となる。これらの現象の中 で 4 が「し」という音読みから「よ(ん)」という訓読みに変わるところに忌みことばの原 理が働いている。 4 の読み方を支配している「忌みことば」の原理は,ことばを読み替えることによって, 嫌なことや縁起でもないことは避けるという人間の言語に共通した法則である。日本語が 「死」と同音の「4(し)」という読み方を避けるのと同じように,英語でも死(death)に関 係することばは避けられる。たとえばハリー・ポッターの小説の中で,闇の魔法使いヴォル デモート卿(Lord Voldemort)が Voldemort という名前ではなく,You-Know-Who(例のあの人) あるいは He-Who-Must-Not-Be-Named(名前を呼んではいけないあの人)という別称で呼ば れるのも,忌みことばの原理による。死に関することだけでなく,日本語で「便所」を「ト イレ」や「お手洗い」と言い換えたり,「下痢をする」と言わずに「お腹をこわす」と言っ たりする背後にも,あるいは英語で toilet を bathroom,rest room,powder room などと言い換

(3)

窪薗 晴夫

50

国語研プロジェクトレビュー Vol.3 No.1 2012 える背後にも同じ原理が働いている。 忌みことばの原理はことばの世界を超えて,私たちの日常生活でも働いている。病院の病 室に 204 号室や 304 号室などの 4 号室がないのは,「し」という縁起の悪い音を持つ数字を 避けようとする力のためであり,キリスト教の世界で「13 日の金曜日」を避けようとする のも同じ理由による。 このように考えると,数字のカウントダウン,掛け算の九九,ヴォルデモート卿の別称, 便所を表すことば,病院の病室と,一見無関係に思えることがすべて一つの糸で結ばれてい ることがわかる。世の中の現象は,そのような見えない糸でつながっており,その糸の結び 目にあるのが法則や原理である。逆の見方をすると,法則を発見することによって,これま で無関係だと思われてきた多くの現象が有機的に結びつく。そのような法則,原理を見つけ だすのが言語研究を含む学問,科学の世界である。 本書では数字の読み方に関して,このような法則・原理がいくつも紹介されている。第 1 章では「ひとつ,ふたつ,みっつ…」に隠されている語形成やアクセントの法則,第 3 章で は「一人,二人,三人…」などの読み方に潜んでいるホップ,ステップ,ジャンプの法則, 第 4 章では「じゅうよっか(14 日)」という読み方を支配しているミスマッチの原理等々。 これらの章を読むと,数字という身近なことばの中に,意外な法則が眠っていることに気づ くであろう。 本書にはまたいくつかの独立したコラムが収められている。1 日=24 時間というのは古今 東西,時間と空間を超えて正しい等式であるが,実際にことばを使う場面では,この等式が 成り立たない場合もある(コラム 1)。「1 日おきに薬を飲む」のと「24 時間おきに薬を飲む」 のがどうして同義でないのか考えてみるのも楽しい。

窪薗 晴夫

(くぼぞの・はるお) 国立国語研究所理論・構造研究系教授。Ph.D.(言語学)(エジンバラ大学)。南山大学助教授,大阪外国語大学助教授, 神戸大学教授を経て,2010 年 4 月より現職。

主な著書・論文:The organization of Japanese prosody (くろしお出版,1993),『語形成と音韻構造』(くろしお出版, 1995),『アクセントの法則』(岩波科学ライブラリー 118,岩波書店,2006),Japanese Accent (The Oxford handbook

of Japanese linguistics. Oxford University Press, 2008),Accentuation of alphabetic acronyms in varieties of Japanese (Lingua 120, 2010),Word-level vs. sentence-level prosody in Koshikijima Japanese (The Linguistic Review 29, 2012).

受賞:市河賞(財団法人語学教育研究所,1995),金田一京助博士記念賞(金田一京助博士記念会,1997). 社会活動:日本言語学会常任委員・評議員,日本音声学会評議員,日本学術会議連携会員.

参照

関連したドキュメント

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

長期入院されている方など、病院という枠組みにいること自体が適切な治療とはいえないと思う。福祉サービスが整備されていれば

と判示している︒更に︑最後に︑﹁本件が同法の範囲内にないとすれば︑

遮音壁の色については工夫する余地 があると思うが、一般的な工業製品

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

 活動回数は毎年増加傾向にあるが,今年度も同じ大学 の他の学科からの依頼が増え,同じ大学に 2 回, 3 回と 通うことが多くなっている (表 1 ・図 1

18 虐待まではいかないが、不適切なケアがあると思う はい いいえ 19 感じた疑問を同僚や上司と話し合える状況である はい いいえ 20